たとえ夜の住人である妖怪でも、晴れ間には気分が浮かれるものね。
私は日中でも暗いからよく分からないけど。
――とある妖怪の言葉――
■●■
闇。
時刻は深夜、その日の日付が役割を終え、次を行く者に役を委ねる頃。
陽の光なき世界は妖怪が跋扈する時間である。
天を占めるのは新月のもたらす静かな闇、ではない。
風の唸りを纏い、水の気を孕んだ雲が墨の様に流れている。
白月の視線は分厚い緞帳に阻まれて地には届かない。
音。
風の鳴動の中に混じる音がある。
夜空を舞う雫が風を切る音。
水滴が落ち、弾ける音。
地に、川に、木に、岩に。
当たっては弾け、弾けては降る。
数え切れない音群は、それらが集まる事で雨という多重奏を織り上げる。
強い、雨だ。
深い水の底の様な闇の中に、小さく明かりがあった。
どことも知れぬ山の中、古びた一軒家がある。
人里から離れた山の中であり、妖がその身を晒す時間である。
明かりを灯すその家の家人とて、人の時間に生きる者ではない事は想像に難くない。
少女の声が漏れ聴こえるが、雨という奏曲に溶け、誰に届く事無く消えていく。
■●■
そこは狭い部屋であった。
行灯の明かりが隙間風に揺れる室内。
擦り切れた畳で六畳ほどの広さの部屋は、部屋の主である少女の周囲を紙が覆い尽くしている。
机に向かう少女は、何事かを書き、そして唸る。
「う~ん、これもイマイチ……」
机の上に広げられた写真を眺めて溜息を吐くのは、幻想ブン屋、鴉天狗の射命丸文。
ちなにみ、下着姿である。
机の上には写真の他に、メモ書きやら原稿用紙なども散乱しており、乗りきらない物が部屋中に撒き散らかされていた。
このささやかな建物は文の本邸ではない。
作業用にいろいろと荷物をまとめてある仕事用の別宅のようなものだ。
もちろん本邸にも作業用の部屋はあるが、そこは賑やかな天狗の里の事、ふらりと誰かが訪れる事もある。
商売敵であると同時に酒飲み友達でもある近所の連中は、一人で作業がしたい時には邪魔となる事もあるのだ。
とりあえず今日は作業の日と決めているので、文はこの別邸に篭っている。
椅子の上に胡坐をかき、ガリガリと書く。
手が止まる。
唸る。
手は再び動き出すが、文字を綴る事無く、今向かっていた文章に縦線を重ねる。
左手の届くギリギリの位置にある湯飲みを掻っ攫い、中身を呷る。
そして溜息。
どれほど前からこの調子なのか。文の背後、椅子を囲む白い床は、全て文字と縦線で埋められた紙である。
別の方向に左手を伸ばすと瓶がある。やはり手の届くギリギリの先にあった。
いや、瓶までの間を全て紙が埋め尽くしている。次第に置く場所をずらして行くうちに、左手の届く範囲で一番遠い場所になったに過ぎない。
机の上にある湯飲みの中身は酒であるが、この程度のアルコールでは天狗には水同然である。
少女らしい瑞々しさを湛えた頬はほんのりと赤らんでいるものの、当人は素面同然であり、適度な酒分補給はむしろ脳の活性化に必要であると文は考えている。
椅子の上で伸びる。
「ぬぁ、はぁ~~……っ~~!?」
記事が進まない事に飽いた呻き、だらしのない溜息と伸びが一纏めになり、最後に強張っていた背筋が吊った。
文の新聞製作は趣味であるが、それは事件を伝える為に書いているのであって、読ませる為に書いている訳ではない。
確かに身内の部数競争はあるが、単純に書いていて楽しいという向きがある。
自分の見知った事を纏めあげ、他人に知らしめる。
新聞を読んだ者がその知識を得る事で、何がしかの変容を受ける。
いい事件であれば喜び、悲惨な事件であれば悲嘆に暮れることもあるだろう。
世界に声を放ち、それを受けた世界が変わっていく。
大袈裟な言い方をすれば、天狗の新聞は世界を侵食している事になる。
もっとも、其れによる影響も当然ある。
模倣犯などと言う、しょうもない輩を生むのも新聞という情報源があればこそだし、もっと地味な所で言えば、天気予報などは読者のその日の予定を左右することもある。
閻魔の説教を受ける前から漠然と感じていた事だが、事実を事実のままに伝える事は、新聞という形式を取る以上は不可能なのである。
分かっていた事だけに、直接された説教は耳が痛かった。
しかし、それが分かっていようと、新聞を書くことを止めようとは思わない。
ネタがあれば書くし、記事を纏めたら皆に読ませる。
これは文が欠かさず行ってきた事であり、自身のアイデンティティでもある。
文が新聞を書くことをやめない限り、事実は曲がり続ける、
「だからといってねぇ……」
曲がらないままでいる事は出来るのだろうか。
噂話一つ、ささいな勘違いでも変容は起こりうる。避けられない。
曲がる前の現実が正しいかなど、既に誰かが測る事も出来ないのだ。
そもそも正しいとかそういう見方からして、曲がっていると言える。
どうあっても世界は変化していくし、だからこそ飽きが来ない。
どうせ変わるのなら、面白おかしい方がいいじゃないか。
無論、この「面白おかしい」も自分の視点で、客観ではない事も判っている。
何をしても曲がると言うのなら、曲げてやろう。
記事が真実を曲げる力を持つというのなら、曲がった先の現実をさらに曲げて、方向を変える事も出来るだろう。
そして曲げた事で起こる変化を見て、その結果を受け止めていこう。
説法を真面目に受けるつもりもあまり無いが、風は留まる事無く流れる方が心地良いのだ。
だがそんな、開き直りとも取れる壮大な覚悟も、新聞が出せてこその話だ。
文の目の前には書いては潰し、消しては綴った記事――言うなれば新聞の卵が山を成している。
このままではこの子らは無駄死にだ。
趣味で書いている新聞は、発行ペースが一定ではないという欠点を持つ。
ネタの無い時はどうしても間が開いてしまう。そしてあまり間が空くと勝手に廃刊扱いされてしまうのだ。
存在そのものが抹消されるのを防ぐ為には、ある程度の頻度で発刊する事が必要であり、ペースを守るという事は、即ち締め切りが発生する事と同義であった。
文としては、新聞を作ること自体は好きなので、ネタさえあればじゃんじゃん作りたいのだが。
「これも……ん~~、」
ばりばりと頭を掻く。がじがじと万年筆の尾をかじる。
三十分ほど掛けてまとめたネタが、五時間くらい前にボツにした記事と関連がある気がしてきた。
確認しようと思ったが、ボツ原稿は意外と遠いところに落ちている。
「そぉ……れ……」
遠かったので足を使った。椅子を回し、足を伸ばす。床に落ちている該当原稿をつまみ上げる。
健康的に引き締まった太ももがスラリと伸び、足の指の緊張に合わせてつるりとした皮膚の下の筋肉が僅かに動く。
原稿を拾い上げ、椅子の上でそのまま胡坐をかく。
見る者が居ないとはいえ、女の子がしていい仕草でなかった。
「む~~……」
ここ幾日か雨が続き、人妖ともに外出を控えた為に、唯でさえ少ないネタが更に少なくなっている。
雨の中でこそ本領を発揮するような妖怪も居るが、そういった手合いの記事は梅雨の頃に使い過ぎたので新鮮味に欠ける。
ネタの宝庫である博麗の巫女も、雨が続けば家に篭るしかない。
一応彼女の協力による「食べられるカビ」のコーナーの記事はあるが、そろそろ限界だろう。
内容的にも巫女の腹具合的にも。
自分的には出さねばならない気がする。しかし小ネタしかない。
これが、先程から文が唸りっぱなしになっている原因である。
神社の賽銭事情ほどお寒くはないが、中身の寂しいネタ帖は、夏頃から数えても数頁しか進んでいない。
新聞を作る上でネタの少なさは致命的、死活問題である。
雨を理由に発行を抑えていたが、その間に集まると思っていたネタがさっぱりだった。
小ネタはある。しかし一面を飾るに相応しい事件とは言い難いものばかりだ。
現在のストックの中でまともな記事は、いいとこ里の防災活動の詳細程度である。
陣頭指揮をとる慧音の姿は、割かし凛々しく写真映えするが、未然に防がれた災害は読み物としてはパンチに欠ける。
「堤防の一つでも潰せばよかったですかねぇ」
誰も聞いていないのをいい事に物騒な事を呟く。
水浸しになった里の写真はさぞや見応えがあるだろうが、さすがに記事の為にそこまではしたくない。
それに、そこまでの非常事態となれば、慧音による何らかの歴史隠蔽による防御策が執られる可能性もある。
何より、記事の為に事件を捏造するなど三流以下のする事だ。敏腕記者としての矜持がそんな事を許さない。
「むうぅ~~」
背もたれのロックを解除し、思いっ切り後ろに倒す。
「な~にか、起きてくれませ~んかねぇ~」
背伸びをして仰向けになれば、天井の木目が目に入った。
一週間以上続いた雨は安普請の屋根を脅かし、何箇所か雨水の侵攻を受けて変色しているのが見える。
……今回のを出したら、家の掃除をしないといけませんねぇ。
仕事で飛び回っている間は、どうにも家事が疎かになりがちだ。
最低限の洗濯はしているが、そろそろ着る物にも気を付けなければならなくなって来ている。
現に今は服が乾くのを待っているわけで、何も好き好んで下着姿で居るわけではないのだ。
雨の中の取材は何かと汚れるから、洗濯物も出やすい。
横目に見える洗濯籠には、■日前からの衣服が――
「あー、見えません、見えません」
そろそろ魔理沙の家の荒れっぷりを笑えなくなってきた。
ドロワ茸(ダケ)を記事にした時の霧雨邸の荒廃ぶりは、他のモノグサどもに自己の生活を省みさせる結果となり、その時の新聞は有識者達から評価されたりもした。
他人事ならば笑い話にも出来るが、自分の家が同じような状況になろうとしているならば話は変わってくる。
先ほどタンスを開けた時は、見た事もない虫が飛び出してきて随分慌てもしたし、部屋の隅に広がる惨状からは、いつ新種の茸が発見されてもおかしくない状態だった。
……カラステングダケなど笑い話にもならない。
文の脳裏に、嬉々として茸を採取しに来る魔理沙の笑顔が浮かんで消えた。
台所で洗い忘れたまま放置されている飯炊きの釜の中も、カビの跳梁を許しているので笑えるくらいにカラフルになっている。そろそろ苗床になる養分を食い尽くして何も生えてこなくなるはずだった。
前回、自棄になって観察日記をつけていたから間違いない。
……そろそろまともなご飯も食べたいです。
メニューの拡充がされた屋台は格段に便利になったが、それ故に客の自炊能力の低下を招きかねない。
この問題は記事になるか。いや、今はそれどころではない。
台所の惨状に危機感を覚えるも、仕事にひと区切りをつけなければ、家の事をする気にはなれなかった。
ただでさえネタが乏しいのだ、家事と並列にしてしまえばそれこそ手が止まりかねない。
だがこの状況をどうにかしないと、いつまで経っても心安らかに原稿に取り組む事が出来なさそうだ。
ならば。
文の表情に決意とも覚悟とも取れる色が浮かんだ。
昨日までの分を軽く纏めて、明後日あたり出す次号の為にネタ集めでもしに行こう。
窓の外は相変わらず闇一色に見えるが実は違う。
先程天気予報の情報をと空の高い所にも行ったが、明日あたりから晴れるようだった。
ここ数日しつこく降り続いた雨とも、ようやく縁が切れたらしい。
雨が止んでしまえば新聞を出さない理由は霧消する。つまりは締め切りであり、晴れ間の到来は原稿の完了を以って迎えねばならない。
逃げてしまおうか。
自分さえ目を瞑れば、新聞の発効日が二、三日遅れたところで問題は無い……
そんな弱気な意見が意識を掠め、文の表情に焦りとも恐怖とも取れる色が浮かんだ。
窓の外に風の音が聴こえる。
風を纏えば、例え矢を射掛けられても逸らすことの出来る文は、雨の中でも普通に飛ぶ事が出来る。
だが、自然の風を切り裂き飛ぶ感覚は、何物にも代えがたい喜悦がある。天狗は風と共にある種族なのだから尚更だ。
まだ完全に晴れてはいないから、この時間から空を行こうという者は居ないだろう。
無人の夜空に思いを馳せると、煮詰まった作業と書きかけの新聞の優先度が一気に下がった。
「まぁ、気分転換にはなるかしら」
言い訳を口にして、一時間だけ休憩、と心の中に言い聞かせる。
文は湯飲みに残っていた酒を流し込むと、生乾きのブラウスに袖を通した。
■●■
草木も眠る丑三つ時。
静謐なる冥界の夜。
生者の居ない地。
その中の半分だけの例外、庭師、魂魄妖夢。
降り注ぐ銀光を浴びて、魂魄妖夢は構えている。
構えるは二刀。
師である祖父から受け継いだ楼観、白楼。
右の楼観剣を背負うように、切っ先を垂直に下へ。
左の白楼剣は腕を胴の前を通し、右脇へ水平に。
浅く自分の身体を抱くような姿勢で、闇の中に立つ。
妖夢は瞑目している。
あどけなさの残る顔立ちは、今は緊の一文字に結ばれており、長い睫毛が月明かりに僅かに震えている。
切り揃えられた銀の髪は、生無き世界を渡る夜の風に微かに揺れている。
時が経つにつれ、僅かな動きも抜けていく。
どれほどそうしていたのだろう。
妖夢の身体から余分な力が去り、一つの岩の如くに気配が希薄になっていく。
一切の動を絶った妖夢は、しかし己の内に力が満ちるのを待っている。
静の中にあり、しかし、渦巻く二重の力が体躯の中で螺旋を描く。
背に構えた二刀が、月光を受け、漲らせていく。
間近の木から、一枚、葉が落ちた。
刮目。
あるのは銀弧がただ二閃。
音すらも無く、まるで幻のように振りぬかれた両の剣は、刹那、十字を描く。
月の光を享けた二刀は、その力を奔らせ、駆け抜けた。
妖夢の眼前を落ち行く葉が、ふつり、と断たれた。
二つに、四つに、十と六つに。
数えられたのはそこまでで、次の瞬間には葉は砕片へと斬られ、潰され、塵芥と化す。
同時。
周囲に音が生まれた。
それは幽かな音であり、やはり断たれ、潰される音であった。
囁くような小さな音で庭が啼く。
二百由旬にも及ぶと言われる西行寺の庭。
その木全ての枝葉が、月の光の刃を受けていた。
葉が散り、枝が飛ぶ。
しかし、それらは地に落ちる前に塵芥と化し消え果てる。
残身のままでいた妖夢は虚空を見据えていたが、庭の囁きが収まると、ふう、と一つ息を吐いた。
額にうっすらと汗が浮かんでいる。
二刀を鞘に戻せば、手の平に妙な痺れが残っている。
ただの一刀とはいえ、極意とも云える秘剣を放ったのだ。
消耗していない方がおかしいとも言える。
どこからか妖夢の半分がやってくる。手拭いが乗っていた。
どうやって絞ったのかは知れないが、適度に絞られた濡れ手拭は、半霊の温度によって心地よく冷えていた。
「ふう……」
顔を拭い、手を拭うと、妖夢はひと心地ついた。
ふと足元と見ると、妖夢を中心に五間ほどの範囲が浅く窪んでいる。
重心移動だけで踏み込みのない一閃だったが、これだけの威力が刃に乗らず漏れていたらしい。
「……」
妖夢は「未熟だ」と一言を零す。手拭を半霊に掛けると、そのまま歩き出した。
■●■
冥界。
白玉楼の巨大庭園は、夏を終えた木々が育ち放題伸び放題であった。
おおよそまともに生きている木などないくせに、と、健全に生育していく庭の木々を妖夢は恨めしげに見やる。
やれ納涼だ、花火だと屋外での宴会の多いこの時期。
何かと準備に借り出されて忙しい妖夢は、月が出ているのをいい事に待宵反射衛星斬での伐採を行った。
丁寧に剪定している暇があればそれでもいいのだが、ここ何日か放っておいた庭はそろそろ見苦しくなってきていたし、こういった機会でもなければ待宵反射衛星斬など放つ事が無いのも承知している。
余分な仕事は少ないに越した事はない。
妖夢は自分を騙す事にした。
いろいろと敵の多かったと聞く、かつての西行寺家。
その盾たる魂魄一門に伝わる秘剣であるこの技は、月の力を借り、どこまでもその刃を届かせる。
一対多を想定した技のようであったが、師である妖忌はこれを庭の剪定に用いていた。
自分はまだ、あの背には届かない。
風のように二刀を振るうと、それだけで庭が整う。
それはまるで夢でも見ているようだったと記憶している。
師である祖父は、孫を持つに至るまでの時を経てあれだけの業前を持つに至った。
ならば、自分には決定的に時間が足りないのだろうか。
……足りないのは時間だけか?
先程の地面のひび割れのように、意識の中に亀裂を感じる。
いろいろと足りていない自覚はある。
だが、今の冥界、西行寺家に敵があるとは思えない。
幻想郷と云う隔離された世界の、そのまた扉一枚向こうの世界だ。
たまに土足で入ってくるナマモノも居るが、概ね平和極まりない日常と言っていい。
そんなものは言い訳だ。
無表情の妖夢は、そのまま歩く。
皆伝認可を授かり、西行寺幽々子を主と定めて早幾年。
未だ流派の秘奥は極め尽くせずにいる。
それは事実であり、西行寺家に敵が無いと断じる事は妖夢には出来ない。
春集めの一件のような。
偽りの満月のような。
主の意向一つで己が身を、剣と、盾とせねばならない事件がいつ何時起こらないとも限らない。
その時になってからでは遅いのだ。
ふよ……、と半霊がまとわり付く。
その冷たい尻尾で首筋を撫でられ、妖夢は物言わぬ半身に頷き返す。
焦っても届かぬものはあるのだ。
近年、顕界の者と交流を持つようになったが、幾名かの妖怪と人間に遅れを取りもした。
未熟ゆえ、と躍起になって剣を振るった事もあったが、今はとりあえずゆとりを持つ事を覚えた。
なにせ主があの様子である。
陽気、無邪気といえば聞こえはよいかもしれないが、少々大らか過ぎるきらいがある。
時折覗かせる深慮にこそ主の本質があると承知している妖夢はともかくとして、宴会などでしか顔を合わせないような奴等からは、「食いしん亡」「脳天気幽霊」「飢餓の女王」など、誠に不名誉な称号を受けている。
屋敷に向か歩く妖夢の視線と肩が下がっていく。
無礼千万と知りつつも、他所様と比較したくもなる。
紅い洋館の主。
その幼さの影に潜む凶暴性と威厳、そこに傅く臣下。とりわけ銀髪の従者の完全瀟洒ぶり。
竹林の奥の永遠の姫。
底の見得ぬ得体の知れなさ。漂う狂気。腹心の永琳には自身も世話になったが、格の違い所か次元が違う。
他にも実力者とその従者には、自分にはない貫禄というか凄味がある。
親交ある八雲様。姉貴分として慕う、天狐の藍。
三途の川の渡し守。さぼり魔の死神すらも、やる時はやる人だ。
己が主に不足は無い。
よく分からない物言いで人を煙に巻くが、気が付くと丸く収まっている事は、過去に幾度と無くあった。
主に不足は無い。ただ、顕界の者と速度のズレがあるだけだ。これも冥界の主であるならば考慮する問題でもない。
我らは死者の国、冥界は白玉楼に住まう者なのだから。
足りない部分は自分にこそある。
この際、半人半霊という個性は言い訳にしかならない。
妖夢はため息をつこうとして止めた。
結局の所、問題の焦点は自分の未熟さと、それをぐちぐちと気にする己の女々しさにある。
ここ最近は三日と置かず出てくる悩みだ。
これが標準になるまでは、この胃痛とも付き合っていかねばなるまい。
判りきった答えに辿りつき、妖夢はようやく思考の迷路を斬り捨てた。
朝っぱらから滅入っていたら、その日を乗り切る事など出来ないのだ。
妖夢は気を取り直して顔を上げると、台所へと足を向けた。
朝餉の支度の前に済ませておきたい事がある。
早朝とも呼べないような時間だが、魂魄妖夢の休息時間は蝉の恋よりも短く、蜻蛉のように儚い。
「日々是精進……!」
二回ほど頬を叩くと、妖夢は眉を少し立てて自らの戦場へと赴くのであった。
■●■
未明の白玉楼に、妖夢の悲鳴交じりの怒号が響いた。
■●■
何故だ、という腹の底からの叫びが出て行っても、妖夢は立ち尽くしていた。
無い。
下ごしらえをしておいた栗が無い。
皮を剥き、アクを抜いた総重量数百キロにも及ぼうかという栗の山が忽然と姿を消していた。
予想外の事態に、妖夢は厨房で呆然とする。
半霊すらも完全な球体となって、空間に固定されたかのようになっていた。
妖夢がそれほど大量の栗を保有しているのには、ちょっとした理由がある。
白玉楼の台所番の腕前は一部の間では確かな噂になっており、その腕前を見込まれて素材の提供を協力するかわりに、一部を貰い受けるという料理代行めいた取引が稀にある。
もともと、里の八百屋などでオマケをしてもらった後などは、その返礼として料理のお裾分けなどをしていた妖夢だが、事の発端は新聞の特集で、「妖怪グルメ紀行」とかいう企画だったと記憶している。
妖夢は不意打ち同然に現れた文の取材に、その日の晩御飯に作っていた肉じゃがを供出する事になった。
料理は普通の品、お持て成しの一品という訳ではなかったが、実際に食べた文がそれを絶賛し、記事を読んだ他勢力が対抗意識を無駄に燃やし、幻想郷料理対決になり、気が付けば妖夢の腕前は広く知れ渡る事となっていた。
料理の腕前を見れば他にも横綱大関格はいるのだが、とかく里との繋がりがあり、頼みやすく、また仕事が実直となれば、妖夢に依頼が集まるのは自然なことである。
例えば八雲藍や十六夜咲夜などは年がら年中忙しいので、そういった話を持ちかけても応じられる事はまずない。
妖夢とて前者に劣らぬ忙しい身の上ではあるのだが、根が真面目な上に頼まれ事にまみれた日常を送っている妖夢は、天性の「断れないっ娘」である。
ついでに言えば、妖怪である藍や、独特の雰囲気を纏っている咲夜と比較すると、妖夢はお使いに来た子程度にしか見られておらず、里の者からもあまり危険視されていないのである。
当人からすれば甚だ不本意な事ではあるが、里の者からすれば「しっかり者の妖夢ちゃん」でしかないのだ。
この際、妖夢の実年齢は大した問題ではなかった。
そんなわけで、妖夢の持ち場である台所には必要以上の栗が山を成していて、今日の妖夢の主戦場であったはずなのである。
犯人は捜すまでも無かった。
いかに驚き呆然としていようと、其処に転がっている薄空色の着物の姿を見逃すほど、妖夢の目は節穴ではない。
口の横に栗の欠片をつけたまま眠りこけている主の姿を、黙ったまま見つめる妖夢。
半霊も静かに漂っているが、その色が良くない。紅とか黒とかがマーブル模様になって渦巻いているのだ。
凝然と見下ろす妖夢に成り代わり、半霊がするすると犯人に近付く。
半霊は、すうすうと静かに寝息を立てる幽々子に音も無く巻きつくと、上半身を拘束。おもむろに鼻と口を塞いだ。
■●■
「どうしてあれだけあった栗を一晩で平らげてしまうのですか! あれほどつまみ食いはダメだと申しておきましたのに!」
亡霊でも呼吸が出来ないと苦しいのか、半霊による締め技で飛び起きた幽々子はそのまま逃走を図ったが、巻きついている半霊に阻止され、地べたに墜落した。
目を覚ましてみれば目の前には憤怒の妖夢。後方には自分が食い尽くした栗の残滓。
これだけ状況が揃っていては、流石にしらばっくれるわけにはいかなかった。
「栗ご飯以外にも、羊羹とか金団とか作る予定はいっぱいあったんですよ!?」
そもそも味付けすらされていない栗を、よくもまあひたすらに食べ続ける事が出来たものだ。
胸焼けとかそれ以前に、台所を埋め尽くしていた白黄色の山が、どうしたら目の前の人物の胃袋に収まるのだろうか。
どれほどの消化力なのか。
どれほどの容量なのか。
妖夢は、主の(胃袋の)底の知れなさに戦慄した。
「妖夢……失われたものは、決して戻ってこないわ」
「悲しそうなお顔をしてもだめです! お菓子とか、紫様の所にもお裾分けする約束だったんですよ!?」
ぎゃんぎゃんと叫ぶ妖夢。
皮を剥くだけでも大騒ぎだったのに、まさか三日がかりの作業を深夜から明け方までの二、三時間で無かった事にされるとは思わなかった。
日々研鑽を胸に掲げる妖夢であっても、この賽の河原の石積みの如き仕打ちに少しばかり熱くなっていた。
「そうだったの……」
「そうですよ! 幽々子様はご自身のおやつを失っただけではなく、八雲さん家の団欒にまで影を落としたのです!」
叫ぶ妖夢に、幽々子は目を伏せると静やかに詠う。
「心亡く 舌に残るは 罪の味 二度とは逢えぬ 秋の恵みか……」
「そんな歌を詠んでもダメなものダメです! だいいち食べた事憶えてるじゃないですか!!」
激昂する妖夢の隣で半霊も丸くなったり鋭くなったりしている。
あれはあれで怒っている表現なんだろうか、と目の前で顔を真っ赤にして怒っている従者の姿に、幽々子は目を細める。
そのまま音も無く歩み寄り、抱きすくめる。
人ならぬ人の身。
半分のみの生。
妖夢の低い体温は、亡霊である幽々子からしてもぬるい程度の温度だが、それでも。
「――」
妖夢から見えない場所で、幽々子の典雅な眉がしなった。
溜息をつきそうになるのを誤魔化し、小さく咳払いなどしてみる。
「妖夢……今日の仕事は免除します、顕界に降りて羽を伸ばしてらっしゃいな」
「……」
あまりの脈絡のなさに、妖夢の攻撃が停止した。
しかし、西行寺幽々子という人物を少しでも知っているなら、このタイミングで出される休暇が正しく休暇であるはずの無い事ぐらい容易く看破できるのだ。
朝な夕なからかわれている妖夢がそんな餌に釣られるはずも無く、
「お心遣いありがとうございます、幽々子さま……!」
ここに、看破出来ない子が居た。
あれだけの剣幕で捲くし立てていたはずの妖夢は、主の気遣い(仮)に瞳を潤ませ感動している。
あまりにも唐突な妖夢の変化に、むしろ幽々子が面食らった。
これは新手の切り返しかしら? 妖夢、腕を上げたわね。
いやいや。
それにしてもこの子、見知らぬ人からでもお菓子貰ったりしたら、容易く付いていってしまうんじゃないかしら。
素直すぎる自分の従者に、さすがの幽々子も心配になった。
幽々子が僅かに隙を見せた間に、妖夢は三歩下った所に立っていた。
「では、先を急ぎますので!」
「え、はい、いってらっしゃい?」
一礼すると、妖夢は【修羅の血】ばりの速度で駆けて行った。
もう見えない。
風が朝の空気をわずかに乱すが、白玉楼の広さはその程度の風など、直ぐに飲み込んでしまう。
明け始めた空の下、当たり前のように静寂が戻ってきた。
「……まったく。あの子の仕事癖は誰に似たのかしら」
何かしていないと落ち着かない、と言っていた壮年の剣士の背中を思い出す。
妖忌が暇を持て余すようになるまでに、どれだけ掛かったかを思い出し、幽々子は今度こそ溜息をついた。
その珍しい光景に、近くを通りかかった霊魂が、不思議そうに幽々子の周りを回りだす。
それを笑顔で見ていた幽々子だったが、鳴きだした雀の声に応えるように、その腹がくぅと鳴った。
山ほどの栗を平らげたばかりであるはずの冥界の姫(の胃)は、それでもなお朝食を要求した。
しかし、それを受け持つ妖夢はたった今外出の許可を与えたばかりだ。
「まぁいいでしょう。急ぐみたいだし」
うっすらと微笑んだままの幽々子は、朝日を浴び僅かに透き通った裾を翻す。
「妖夢。おやつは別腹なのよ?」
空腹は最高の調味料。
それを心得る幽々子は嫣然と微笑むと、妖夢の隠しおやつ庫へと向かうのであった。
■●■
一方。
妖夢は神速で庭を走り抜けると、顕界に飛び出すべく大階段へと走っていた。
前傾姿勢になり、爪先だけで石畳を蹴り付ける。
妖夢の目には、鼻先の石畳がまるで壁のように見え、そして高速で流れていく。まるで垂直に近い壁を脚力だけで駆け上っていくような錯覚を得る。
健脚を自負する妖夢は、自分は飛ぶよりも走る方が速いと信じている。
その信念を踏み込みに変えて走る。
石畳が途切れた。階段である。
「はあっ!」
勢いはそのままに飛び降りると、五百段ほどが足下を流れ去った。
膝を抱えて一回転、反動を下方への加速と変え、門を目指し重力も味方につけて更に加速する。
石段の角を蹴るように駆け下りる途中、どこからか勇ましい曲が聞こえてきた。
激走する妖夢の気配を察したか、三姉妹が出撃のテーマを奏でているらしい。
急ぐ様子を見て取ったか、アップテンポの勇ましい曲だ。。
朝っぱらから人の家の庭で、どんちゃんやってる彼女らの行動は別段驚く事でもなく、白玉楼では日常の光景である。
トランペットが高鳴ると、妖夢の心まで昂ぶってくる。
門が見えてきた。
妖夢の足運びは、鳴り響く三重奏の上を跳ねるようにスタッカートを刻む。
三つの音色が重なる瞬間、一際強く踏み込み大跳躍をした。
進路はクリア。
階段の傾斜から離陸した妖夢を迎えるように、巨大な門がそびえている。
妖夢が門を飛び越える所で、曲が最高潮に達した。
タイミングを合わせてきた三姉妹に、鍔をひとつ鳴らすことで挨拶。
宣誓する。
「魂魄妖夢、参る!!」
幽冥の境をとなる扉を越えた。
一瞬の虚無を挟み、世界が一変した。
一気に風が生気に満ち、妖夢の視界は朱と黄金で埋め尽くされる。
低い位置に太陽の茜光があり、今日の始まりを告げる輝きが朝焼けという形で空を彩っている。
金の霞の中に妖夢は踊り込んだ。
風を割る。
大気の壁に妖夢の黒いリボンタイがはためく。
雲を飛沫かせ天翔ける姿は、大空を貫く矢の如し。
しかし共に空を疾駆する半霊には、竹を編んだ籠が背負われていた。
温度の違う大気に髪を弄らせつつ、内心に呟く。
……休暇、ね。
戦速で空を往く妖夢の頭には、今日の予定に休暇の二文字はない。
この朝日は失われた栗を、山の幸を、その手に取り戻す為の戦いの幕開けに他ならない。
主が何と言おうと、これは自分の仕事であり、委託されている以上は果たさなければならない約束でもあるのだ。
休めという主命に背く事に、妖夢の胸が微かに痛んだ。
しかし、元はと言えば原因は幽々子様にこそある。
そう断ずる事で、妖夢は任務へと意識を切り替えた。
雲の切れ間から明け色に洗われる幻想郷が見渡せた。
「ああ、晴れたのね」
好天を喜ぶ妖夢の声は風に砕かれて誰にも届かない。
庭師は身を一度揺らすと、更に加速し、落ちるように降下していった。
■●■
午前。
軽く見上げれば陽の光に目を細める事が出来る程度の時間。
蒼穹の王は、魔の潜む森にも等しく光を投げかける。
薄暗い森は、捻じ曲がった木々が好き勝手に枝葉を伸ばし、互いが互いを縛るように広がる樹海。
絡み合う枝が天井を作り上げ、森の中は昼であっても暗い。
妖怪以外にも危険な動植物が潜み、不用意に踏み込む者には容赦の無い運命が待っている。
文字通り「魔」が法となる地、幻想郷の路地裏こと魔法の森である。
しかし、そんな森に居を構える物好きも居る。
捩くれた木々が僅かに除けるように開けた空き地。そこに建っている小洒落た一軒家。
森に住む魔法使いにして人形遣い、アリス=マーガトロイドの居宅である。
煉瓦造りの家は一階の窓がひとつ開いており、そこから少女の声が聞こえる。
「……組成変換に問題発生!」
「魔力反転! 対象からの逆流確認、このままだと暴走するわ!」
「事故対応(セーフティ)スペルは?」
「反応なし……相手側が干渉を拒絶しているわ」
「信号逆流、なおも増大! 魔理沙!」
「存在因果が術式を侵食しきる前に、抑え込むんだ! パチュリー!」
「防疫術式が弾かれてる……向こうの組み換えの方が早いの……?」
「駄目よ! 安定域を超えたわ!」
「一番から五番までの伝達をカット! 七番を軸に余剰出力で抑え込む!」
「……崩壊と乱散の方が早いわ……! 無理に抑え込むと暴発してかえって危険よ」
「ここまで上手くいってたんだ、もう少しだけおとなしくしてくれ……!」
聞こえてくるのは、悲痛な報告と少女の祈るような声。それと、虫の羽音のような低く唸る音。
「危険域に突入したわ! これ以上は無理よ!」
一人が悲鳴をあげた。それと同時に何か張り詰めた物にヒビが入るような、一輪の花が無為に摘まれるような、儚い断末魔の音。
「練成陣、反応消失……変異を開始したわ、ここまでね」
「くそう、またダメなのか……!」
「もういいでしょう、諦めましょう?」
「何を言う! それでも錬金の徒か!」
「……魔理沙」
その部屋は台所であるのだが、今そこに広げられているのは、調理器具だけではなく、練成術の機材やら薬品やらがテーブルを占拠していて、料理をしているのか実験をしているのか傍目には判断が付きにくかった。
アリスの家のさほど広くない台所には数人の影ある。
家主であるアリス、悪友でありライバルである魔理沙。同じくパチュリー。
そして、もう一名。
今日の魔女の巣には、いつもの三人組の他にもう一人の姿があった。
四人目の人物は上白沢慧音である。
台所の片隅に所在無さ気に座っているが、ただの客というわけではない。
慧音の立場はゲストというよりは、むしろメインイベンターに近かった。
慧音が呼ばれた理由は、文書に残されていない歴史の裏付け役である。
一歩間違うと便利な辞書扱いではあるが、慧音も積極的に議論に参加しているために、当人にその意識はなかった。
寺子屋での授業とは違い、かなり専門的な部分にまで話題が及ぶので、慧音自身、あまり得意なジャンルでは無かったが積極的に議論に参加していた。
その後は、慧音の持つ歴史を視覚化する力を、寺子屋の授業に組み込めないかという建設的な意見から、いつの間にか歴史ドラマ鑑賞会になっていた。
常々、授業が堅苦しいという評に頭を悩ませていた慧音は、自分の能力を転用したこの娯楽で大盛り上がりを見せる三人に気を良くして、徹夜をするまでのサービスを見せた。
基本的に人の役に立つ事に喜びを覚えるタイプの人間なので、子供のようにはしゃぐ三人の姿は慧音の大きな励みになった。
なるほど観て判る情報というのは、理解度を高める上で有効らしい。
試験的に引用した歴史は、幻想郷が出来る遥か以前の歴史で、日本が倭を名乗っていた頃の話である。
世界を覆いつくそうとしていた邪悪な魔王に挑む勇者と、その息子の物語。
倭での一幕は、その一大感動巨編のほんの一部であったが、それでも見応えは充分だった。
倭に立ち寄った勇者一行は、為政者に成りすましていた邪悪な竜と戦い、苦しめられていた民衆を救い出した。
その光景は、まさに御伽噺の中の出来事。
慧音自身、あまり古い歴史を覗く事が無かったが、過去の英雄に学ぶ所は多かった。
立ち向かう邪竜への恐怖と、それを乗り越える仲間達との厚い信頼関係。
勇者と生贄の巫女との叶わぬ恋。
愛と勇気と正義への献身。不屈の闘志。そして激闘の果てに手にした勝利。
更なる旅を続けるべく船出する勇者を見送った時には、四人とも感動のあまり大泣きしていた。
そんな事があったのが、昨日の夜遅くである。
「確かにこのままではまずいぜ」
腕組みをして唸る魔理沙を慧音は見つめる。
夜通しで遊んだ為に昼夜逆転の日程であり、つい先ほどの食事が朝食であって朝食ではないというモノであった。
少なくとも、慧音の食生活では朝からローストビーフは出てこないし、どんちゃん騒ぎにならなかったとはいえ、朝っぱらからワインの瓶が四 本も五本も空になったりはしない。勇者に乾杯などと言って、慧音も結構呑んだが。
なんだか、とても悪い事をしている気がしてきた慧音は、こっそりと胃のある辺りをさすってみたりする。
今が朝であろうとも、食後のデザートを欲するのがこの会の通例であり、揺ぎ無い掟でもある。
しかし、ちょっとした手違いによってデザートの用意が忘れられており、止む無くこれから作ろうという運びになった所までが、一時間ほど前の流れである。
慧音も含めて、アリスの作るスイーツを期待していたのだが、魔理沙が茸から練成してみようと言い出し、誰も止めないままに実験が始まってしまった。
なんでも「あらゆるものをケーキに変える程度の能力」を持った魔女が国を救った、という伝説が記された本を読んだらしい。
次々と襲い来る危険なモンスターを等身大のケーキに変え、高台から蹴り落として葬り去る救国の魔女のアグレッシブさは、何故だかこの三魔女に好評だった。
しかし、茸からモンブランは作れない。コレは厳然たる事実らしい。
おとなしく栗を使えばいいじゃないかという慧音の提言は、三回目の実験までに両の指で余る回数行われたが、いずれも採択される事は無かった。
慧音の視線の向く先、テーブルの片隅にはこれまでの失敗作がある。
見た目はケーキそのものだが、食感が茸のままだったり、その逆のパターンもあった。
第六番目の失敗作は真っ赤な結晶体になっている茸。
窓から差し込む光にきらめく外見は、なかなかに美しい。
傘の部分などの細かさは、まるで繊細なガラス細工のようで、香霖堂あたりでインテリアとして買い取ってくれそうだが、作り方に問題があるのでどんなブラックボックスを抱えているか知れたものではない。
突然爆発して毒胞子を撒き散らさないとも限らないのだ。
七番目は見た目や香りなど、かなり本物っぽく出来たのだが、原材料が悪かったらしく、試しに齧った魔理沙が泡を吹いて昏倒し、そのまま呼吸が止まったりもした。
「魔理沙!?」
「大変! 脈が弱いわ!」
「呼吸もよ!」
「「今すぐ蘇生を!!」」
「なにいってんのよ! 人工呼吸は肺活量が大事なのよ! アンタみたいな虚弱モヤシの息じゃ魔理沙の可憐な肺は膨らまないのよ!」
「なに内臓にまで夢を抱いてるのよ。心臓マッサージをしないと血流が止まって、魔理沙の愛らしい脳に酸素がいかなくなるじゃない!」
「なによ!」
「やろうっていうのかしら?」
重体患者が黄泉路に旅立とうとしている脇で、心肺蘇生の権利を巡った醜い争いも起きたが、慧音の独断により二人の野望は潰え、魔理沙は一命を取り留めた。
魔女二名は、仲良くゲンコツを貰い、頭にたんこぶが出来ている。
そして今しがた失敗した試作ナンバー8は、茸に手足が生え一対一で終わり無き殴り合いを繰り広げている。
挙動のクセを見ているとアリスとパチュリーっぽい気がしてならないが、その事に気付かない振りをする礼儀は慧音にもあった。
四肢がいい加減な形状なので複雑な動作こそないが、首を絞めたり腕を引き抜こうとしたりと、けっこうエゲツない。
というか、モンブランを作ろうとしているはずなのに、どうやったらこのような結果になるのだろう?
擬似的とはいえ茸に命が宿す方が、よっぽど難しい術ではないのだろうか?
慧音は、自身の魔術の知識が乏しいからだと思い込むことによって、精神の平衡を保っていた。
神の定めた摂理に逆らおうと足掻いていた魔女たちであったが、9番目の実験を前にして躊躇いを見せた。
疲れてきた慧音は、デザートはもうどうでもよくなって来ていたのだが、退く事を知らないと思われた蛮勇魔法少女隊の見せる意外な逡巡にむしろ戸惑いを覚えた。
「う~ん……いつもね、9番目で大失敗するのよ」
「呪いでもかかってるのかもな、たまーに大成功もするんだが、なあ?」
「……貴方も祈っておくといいわ。ケーキごとこの家が消し飛んでもおかしくないから」
ここで実験を中止してしまったら、彼らの犠牲は無駄になるのではないのか?
茸だったモノ達を見ながらの慧音の質問は、しかし歯切れの悪い言葉で返ってきた。
そこまでしてもなお、禁断のナンバー9に挑もうとする魔女達に、慧音は命懸けの冒険に旅立つ挑戦者の覚悟を見た。
本当だろうか。
ああ、私も徹夜で疲れているのかの知れないな。
被りっぱなしの帽子の下、熱を持っている頭を自覚しつつ、慧音は無駄にいい顔をしている魔女たちの挑戦を温かく見守る事にした。
■●■
第九次モンブラン練成実験は、全工程の九割までをパスした所で、突如として変移中のキノコが暴走。制御を完全に失った。
非常事態であると認めたアリスによって、シグナルレッドが発令されたが時既に遅く、キノコとモンブランの中間存在は形象崩壊を起こし、直後、大爆発を起こした。
それは、見事なキノコ雲だった。
■●■
魔法の森にひとつのクレーターが誕生し、立ち昇ったキノコ雲は遠く神社からでも見る事が出来た。
しかし、霊夢はいつもの事か、と欠伸をひとつしただけで、特に様子を見に行くという事もしなかった。
爆発の方角は魔法の森であり、魔理沙もアリスも神社に来ていない事から考えるに、どちらかーーあるいは両方――が、実験か何かで失敗をしたのだろう。
ひょっとしたらあの爆発は成功の証なのかもしれないが、そんな事は霊夢にとってはどうでもよかった。
ふわぁ、ともうひとつ欠伸をすると、すぐ隣でも欠伸が漏れた。
「霊夢……見に行かなくて大丈夫なんですの?」
「紫、判りきった事は訊かないでちょうだい」
昼下がりの博麗神社には、だらけきった巫女以外にも人影があった。
ようやくの晴れ間を迎え、溜まりに溜まった洗濯物を退治した霊夢が勝利の惰眠を貪っているところへ、紫が訪れたのだ。
気紛れで早起きした紫は、朝食は神社で摂る事を決めたらしい。
「なにもウチじゃなくていいじゃない」
「いいじゃないの、霊夢だってお昼の支度が面倒で転がっていたのでしょう?」
「確かにそれは認めるけど。でも、あんたが日の高い内からうろついてると、何だか悪い事の前触れの気がするのよ」
「凶兆はうちの猫だけで充分ですわ」
「その猫の親分の親分がよく言うわ」
寝不足で機嫌の悪い霊夢が邪険にしても、紫はにこにこと受け流して帰らない。
二人が適当に喋っている間にも、働き者の式は飯を炊き、味噌汁をこさえ、魚を焼き上げた。
出て来た食事はご飯に味噌汁、焼き魚とおひたしと言うシンプルなメニューではあったが、素材の良さを最大限に生かす藍の腕前は、霊夢を幸せ地獄に堕とした。
霊夢とて炊事洗濯を一通りこなすだけの器量はあり、料理の腕前も標準以上ではある。
しかし、主婦暦が幾世紀にも及ぼうかという天狐のキャリアの前には流石に敵わなかった。
昼ごはんを済ませた霊夢は、食後のお茶という至福のひと時を存分に味わっていた。
自炊が前提の生活では、こういった「偶にあるお休み」は極上の甘露である。
仕事である妖怪退治とは別に、家事全般は毎日しなくてはならない。すでに慣れているので苦ではないが、しなくて済むならそれに越した事は無いのだ。
妖怪連中は夜に来る事が多いので、お昼時に家事をしないでいられるのは珍しい。
朝からの洗濯でくたびれていた霊夢は、紫の気紛れに内心で感謝していた。
「ほーら、怠け者たち。食後のデザートだぞー」
藍が大皿に葡萄を乗せ、台所から姿を現した。
長い袖をたすき掛けにしているのは、水仕事をしている時の姿で、藍のほどよく締まった二の腕までが覗いている。
大皿をちゃぶ台に置くと、藍も座った。
黒々と輝く葡萄の実は水滴がきらめき、一粒一粒が大きく丸々と熟していた。見るからに甘そうだった。
「う~わぁ~~っ!」
それを目にした霊夢は、先ほどの森の騒動をあっさり忘れ去った。
目をキラキラさせ、皿に乗っている葡萄の房を熱っぽく見つめる。
「昨日までの雨にやられて少し痛んでいる物もあったけど、売り物にするわけじゃないから大丈夫だろう」
「そうねぇ、山側の土砂崩れとかも心配よね」
葡萄に浮かれていた霊夢も、山から流れてくる川が茶色く濁っている事に気を掛けていた。
自然災害は巫女の管轄外だが、里に注意を促す事くらいなら出来る。
「暇なんだったら、堤防の測量とか手伝ってあげればいいのに」
「前にそういったら、慧音に自分たちでどうにかするって断られたよ」
苦笑する藍。
慧音が雨の中で堤防補強の陣頭指揮を執っていたのは、ここに居る三人ともが知っている。
「あの頑固者め……」
「だが、上流の川底にちょっと細工をしておいたから、そうそう溢れる事もあるまい」
呆れる霊夢に藍が付け加えた。
「なによ、随分サービスがいいのね」
「私だって、里の豆腐屋が水浸しになったりしたら悲しいの」
しれっと答える藍。
「たいへん! 豆腐屋の若旦那をたぶらかす悪い妖怪を見つけたわ!」
苦笑いする藍を見て、霊夢は大げさに驚いてみせた。
自分の店に足繁く通う美人を意識しない男などいるのだろうか。
まあ、相手が人間ではないから間違いはそうそう起こらないだろうが、ようやく子供が歩けるようになったくらいの家庭がいきなり崩壊するような事になったら、新聞屋は喜ぶかも知れないが、霊夢としては悲しい。
霊夢もあの豆腐屋は好きだ。オカラとかオマケに付けてくれるし。
胡乱な視線を向ければ、藍は葡萄の実の皮をひとつずつ剥いて、紫に食べさせていた。
それを見た霊夢は、狐が食べる葡萄って甘いのかしら、とかどうでもいい事を考えてみる。
頬張れば、口いっぱいに甘さと酸味が絶妙に同居する果汁があふれ出す。
ああ、秋の実り万歳。
「ねえ藍、私のために毎朝お味噌汁を作ってくれないかしら」
「寝言は寝てから言うものだぞ」
「ひどい物言いね、紫じゃあるまいし」
「なんですって」
「お前が紫様に適うものか。おもに睡眠時間で」
「なんですって!?」
「そうね。少なくとも私は冬でも起きているしね」
「そうか、その方が有り難いかも知れないな」
藍はぽんと手を打ち
「春の起き抜けの紫様の姿といったら……」
と唸る。
「藍!」
「ならばもう少しどうにかして下さい。熊や蛙の冬眠の方がまだ風情があります」
「……そんなに酷いの?」
若干引き気味の霊夢は、はたと思い出す。
宴会所になる事の多い神社は、なし崩しで泊まっていく輩も多いので他人に寝姿を見られる事は避けられないが、言われてみれば紫が泊まっていく場面は記憶に無かった。
移動に時間のかからない紫は、必ず自宅へと引き上げるのだ。
「なんなら次の春にでも来てみるか? あるいは己の生活態度を革めるきっかけになるやも知れんしな」
「やめてっ! 霊夢にはあんな姿は見せられないわっ!」
「自覚があるなら改善してくださいと、何回申し上げた事か! いっそ射命丸でも呼びますか!?」
「いやあん、写真なんか撮られたら、ゆかりん魂抜かれちゃう~」
「「……」」
紫の一言で、茶の間の空気が一挙に重くなった。
居た堪れなくなった二人は静かに泣き出す。
「ごめんなさい。反省してます」
身じろぎもせずに涙を流す二人に、紫は素直に頭を下げた。
「つくづくあんたが分からないわ……」
「お前はまだいい。私なんか一年の四分の三を付き合うのだぞ」
霊夢が溜息をつき、藍が渋い顔をする。
「霊夢ぅ、藍が反抗的なの~」
よよよと泣き真似をする紫。
自覚はあれども反省の意気は無し。八雲紫の生活習慣は、そうそう改められる物でもないらしい。
葡萄も食べ終わり、紫と藍の漫才を適当に眺めていた霊夢であったが、のっそりと起き上がった。
「ゆかり~、ちょっと藍貸してもらっていい?」
「私を道具のように言うな」
「だって式神って道具なんでしょ?」
「なぁに~? 今度は晩御飯でも作らせようっていうのかしらぁ」
藍の膝枕で寛いでいる紫は起き上がりもせず半目で応える。
言葉尻が蕩けているのは、食後で眠いからなのかもしれない。
「んー」
目を細めて眉根を寄せる霊夢。
何かを言いたいのだが、明確な言葉にならない、そんな感じを受ける。
首の後ろをさすりながら「ぬー」と唸る霊夢の様子に、紫の片眉があがる。
何かの兆しか。
紫はごろりと藍から離れ、服が皺になるのも構わずに霊夢へと転がる。そのまま畳から霊夢を見上げる。
「なによ」
見下ろす霊夢は、腹を見せて転がる猫にするように紫の腹を撫でる。
上物の布地の手触りと、薄布の向こうに感じる紫の体温が心地よい。
紫は撫でられながら霊夢の顔を仰ぎ見た。
見て取れる相からは不穏な卦は感じない。どうやら危険な変事というわけでもなさそうだ。
「ま、いいわ。藍、霊夢の手伝いをなさいな」
やれやれ仕方ない、という様子で承認した紫だったが、藍から見れば、紫は鼻の下伸びっぱなしも同然。孫に小遣いをやるおばあちゃんとなんら変わりの無い表情を浮かべている。
あーあー、音に聞こえし大妖怪、八雲紫ともあろうものが。と、藍は見えない角度で苦笑する。
「うへーい」
藍は、かったるさを隠そうともせず、ごろりと横になる。
現状の命令から解放されたので、次のオーダーが入るまで特にする事がないからだ。
「なによ二人して。いい大人がごろごろして、恥ずかしいと思わないの?」
子は親に似るというが、式も主に似るのだろうか?
「だぁってぇ、お腹いっぱいになったら眠くなっちゃ……ふあぁぁ~~」
「昼間っから人の家でごろごろ出来るなんて、滅多にないから……くあぁぁ~」
「……」
霊夢の前には、二人の八雲が寝そべる形となった。怠惰界の顕現である。
紫と藍、どちらも大妖怪であり、掛け値抜きに人間離れした美人である。
薔薇の花びらでも撒き散らしたベッドの上なら絵にもなるのだろうが、神社のくたびれた畳の上でだらしなく転がっているという光景は、どう見ても風情が無かった。
「ごろごろするなら自分の家ですればいいじゃない。あ、藍はダメよ?」
「いいじゃない、藍を貸してあげたんだし、ちょっとお昼寝させて頂戴な」
「あんたが寝たら次の日まで起きないじゃないのよ」
仰向けで転がっている紫は、霊夢の膝を狙っていた。じりじりと移動し、間合いを詰める。
「えいっ」
膝枕。
「重いわ紫。私、やる事あるんだからどいてよ」
「い~や。そんなのは藍に任せて、私の枕になって頂戴。あ、添い寝でもいいわよ」
言う間にも紫は占領地を確保し、霊夢の太股の上を占位する。横目に見上げれば、ジト目の霊夢と目が合った。
「ほぅら、もう動けません」
にっこりと笑い、居住まいを直す紫。頬に霊夢の体温を感じ、そのまま目を閉じる。
「もう……」
仕方ない、という溜息が聞こえ、片手で髪を梳かれた。
紫の髪は極上の絹糸のように滑らかで、霊夢の指の間を水のように逃げていく。
霊夢の手が紫の肩に乗る。
目を閉じたままの紫は、服を通して感じる霊夢の手に、意識を向ける。
肩を軽く撫でていた手は、そのまま二の腕から肘へ。
そこを往復するくすぐったさに、紫の口元が緩む。
うっとりとまどろむ紫は、霊夢の真意に気付けなかった。
目隠しで手を引かれている道の先が、実は崖っぷちであるという事に。
霊夢の手が音もなく伸びた。
「いっ!?」
往復の動きが途切れたと思った瞬間、霊夢の指は弛緩した紫の脇腹へと到達していた。
紫苑のドレス。それは紫の肢体をうっすらと透けさせる薄さで、素肌の上に一枚あるだけである。
摘むのではなく、掴まれた。
「うっ……く……はぁ……」
「霊夢、そのまま脂肪の揉み出しマッサージでもしてやってくれないか」
「いやよ面倒臭い。終わらない仕事は庭の掃除だけで十分なんだから」
霊夢は大妖怪の弱点を掴みながら平然と答える。
霊夢の意図を見抜いておきながら警告を発しなかった藍は、間違いなく共犯者だった。
紫が身を捩って逃げようとする。
「ああーーっ!」
途端に握る力が増し、それだけで紫は動けなくなった。
容赦なく食い込む霊夢の細指に、封印されていた忌まわしい記憶が鮮やかに甦った。
八百九十頁という、烙印の数字が紫の脳裏を焦がす。
「や……ぁ、ぅううう~……」
過去の記憶と現在の仕打ちに、紫はとうとう泣き出した。
「紫……」
「霊夢……」
霊夢は、左の手はそのままに、右手でその頬を伝う涙を拭う。そして、甘える大妖に鞭打ちの如き一言を放った。
「……このまま冬眠すると、来年、この服着られなくなるわよ?」
「――ヒ!?」
爆発するような勢いで飛び上がった紫は、次の瞬間には藍の尻尾の中で震えていた。ご丁寧に省エネモード(幼女フォーム)に化けている。
「……自覚があるなら改善してくださいと、何回申し上げた事か……いっそ射命丸でも呼びますか……?」
「ああ……世界は敵意に満ちているわ……」
尻尾に包まれたまま、涙混じりの溜息をつく紫。
「霊夢と藍が冷たいから、帰って寝ることにするわ……」
しょんぼりとスキマに消える紫を見送る二人。
だが油断してはいけない。ここで甘やかすとつけ上がるのだ。
二人はその事を良く知っているので、黙ったまま見送る。
スキマが閉じると、霊夢は首をコキリと鳴らす。
今しがた一人の少女の心を踏み躙ったにも関わらず、何事も無かったかのような仕草。
腕力や妖力といったものとは質の違う強さを感じ、天狐は背筋が寒くなるのを感じた。
「んじゃ、働いてもらうわよ」
「心得た。で、私は何をすればいい?」
「……」
「霊夢?」
返答のない霊夢を覗き込む。
しばし沈黙した少女は、何事かを決意した表情で告げる。その様に、藍は僅かだが気圧される。
「戦いの、準備よ」
「準備?」
戦いではないのか。それにしては霊夢の険しい顔の説明がつかない。
何も告げぬまま霊夢は跳躍し、ひと跳びで茶の間を飛び出した。
白い袖を逆光になびかせ、縁側備え付けのサンダルの上に寸分の狂いも無く着地する。
力強く踏み出す一歩。
向かう先には、古びた蔵がある。
■●■
湖岸の紅き洋館。
スカーレットデビルの居城も、何日か雨が続いた後の大快晴を享受していた。
悪魔の館とて、中に住まう連中は日光が恋しい者も居る。
主に洗濯係だ。
そんなわけで、中庭には一度に洗濯されたシーツなどのリネン類が風に遊んでいる。
夏の盛りを過ぎたとはいえ、まだまだ気温は高い。
このまま晴れるなら気持ちよく乾き、太陽の香りをいっぱいに吸い込んだ洗い立てのシーツは、心地よい眠りを提供する事だろう。
闇。
窓の無い一室がある。
時計の音すらない静寂、濃密な闇の中に蠢く影あり。
「……」
目が覚めた。
そりゃあもう気持ちよく。
眠気を切り落とされたかのような寝覚めは、悪夢で醒めるよりも余程厄介だった。
レミリア=スカーレットは、どうにか眠りの底に戻れないかと、もぞりと寝返りを打つ。
そこで気付いた。ああ、腕が痺れているわ。右腕が無いみたい。
「……神社の布団は狭いわ」
我ながら意味不明だった。
いつか実践する日もあるだろうかと、腕枕の練習をして寝たのがよくなかったのか。
自分で自分に腕枕をするのは、思ったよりも難しいという事が分かっただけだった。
ただでさえ低い体温の我が身だが、それよりもなお冷たく感じる二の腕がなんだかおかしくて、独りくすくすと笑う。
血流が戻って腕がくすぐったいのではない、断じて。
「あ、ダメ! しびれ……っ」
のたうつこと三分。
すっかり消え去った眠気に今更の別れを告げ、私はのそりと起き上がる。
さらりと素肌の上をシーツの流れる音が聞こえる。
闇の中であっても何ら困る事はないが、それでも明かりの一つも欲しい。こういうのは雰囲気だ。
ぱちりと指を鳴らすと、部屋の隅の燭台に紅い灯が灯った。
時間の感覚は無いが、眠りの感触から今が普段寝ている時間であろう事ぐらいは見当がつく。
昨夜まで雨を理由に神社に滞在していたレミリアだったが、夜中過ぎに雨が止んでしまい、妖怪の生活サイクルに付きあわされて眠さ全開の霊夢に帰宅を言い渡された。
追い出される形になったレミリアは、帰って来てそのままベッドに直行、フテ寝を決め込んだのだ。
もっとも一週間近くも生活時間帯が正逆の存在と暮らせば、普通の人間ならば寝不足などで不機嫌にもなるだろう。
ましてやレミリアは夜の女王。並の人間であれば近くにいるだけで相当なストレスになるというものだ。
とはいってもレミリアも我儘放題だったわけでもない。
神社に居座ったのは霊夢に会う為であり、煎餅布団で寝起きする為ではないのだ。
数百年変わることの無かった生活サイクルを捻じ曲げ、本来寝ている時間に起きていたりもしている。
寝ている間に噛んでしまおうかなどと不埒な考えも無くはなかったが、いざ同じ部屋で寝る段になると、レミリアはまるで生娘のように大人しくなり、夜の気配を怖がる幼子が母の温もりを求めるように、霊夢の胸の内で眠った。
結果一週間、レミリアは霊夢を噛むどころか、毛筋ほどの傷をつけることなく過ごしたのである。
日の出ている時間に目を覚ますとは。
神社での生活で、体にそういうクセでもついたのか。
神社という単語に霊夢の温もりと寝息を思い出し、意識が動いた。
起きよう。
「さくやー」
ベッドに座ったまま欠伸混じりの声で呼ぶ。
部屋の隅まで届くかも怪しい音量だが、アレは必ず聞きつける。
「……」
来ない。
どうした事だろう。
館の中に居れば、どれだけ離れていても聞きつけ駆けつけるはずの咲夜が、十秒経過しても現れない。
どうした事だろう。メイド長の怠慢だろうか。
こきりと首を鳴らす。
これはお仕置きが必要だろうか。だが最近は咲夜も耐性が付いてきて、少しくらいでは効き目が薄い。
……ここは久しぶりに巻尺プレイでもするか。
邪悪な笑みに牙が覗く。
パチュリー特製のミスリル繊維を編みこんだ決して伸びない巻尺は、百分の一ミリまでの極めて正確な計測が可能なスグレモノだ。魔力を通せば対象にぴたりと張り付き、その寸法を暴き出す程度の能力を持っている。
レミリアは、声高く数値を読み上げた時の咲夜の顔を思い出す。
少し昔。
軽い仕置きのつもりで測った事があったが、咲夜の精神は想像以上の精神的ダメージを受けたらしい。
咲 夜は心神を喪失、暴走状態に陥りソウルスカルプチュアと殺人ドールを乱射しながら館内を激走し、館内メイドの八割を行動不能にした後、 自閉状態になって三日ほどプライベートスクエアから出てこなかった。
時と空間を従える半裸の全自動首刈り機を押し留めるのに、紅魔館の住人が総出となったあの騒動は、今では楽しい記憶でしかない。
咲夜も私も若かった。
懐かしい記憶に胸の内が温かくなったが、そこでふと気が付く。
今この時間は、私は本来寝ている時間。
咲夜は仕事している時間か。あるいは出かけているのかもしれない。
仕事をしている者を咎めるのは、主として筋違いか。少し残念だが巻尺プレイはお預けだ。
目をこすりつつ、ふわ、と伸びをする。背中の羽も伸びる。
寝起きの紅茶が飲めないのは残念だが、咲夜にも仕事はある。外出だってするだろう。
「さしあたってする事は喉を潤すことね」
誰に言うでもなく宣言すると、天蓋つきベッドのベールを開けた。
着替えようかと思ったが、咲夜の仕事を奪うのも悪いと思う。羽を出す都合で背中側に合わせのある服は、ひとりで着るには些か面倒だった。
寝巻きのままで出歩くのもたまにはいいだろう。
ネグリジェを羽織りスリッパをひっかけると、私は扉をくぐった。
館の中をうろついていると声がかかった。
「あらお嬢様、夜更かしですか?」
「シルフェか」
館内担当の割と上級職のメイドだ。
咲夜が来る以前から居る古参のメイドの一人で、種族はウェアウルフ。蒼銀の毛並が美しいのを覚えている。
風の名を冠する彼女は、その戦いぶりから『暴風メイド長』の字名を長らく轟かせていた。
「今はお昼じゃないの」
「普段寝ている時間に起きている事に変わりはありませんよ」
「いいじゃない、私の城なんだし」
「咲夜さんに見つかったら、またお小言ですよー?」
「規則正しい生活をしている悪魔なんて聞いた事ないわよ」
「はいはい」
主を前に不敬とも言える態度だが、私を相手にこの応対が出来るメイドは少ない。
咲夜が来てからは他のメイド連中も随分と角がとれたが、やはり夜魔の女王と面と向かって口をきくのは本能的しんどいらしい。
種族的な盲信というのも構わないが、たまにはこういうやりとりも悪くない。
そういう意味では、私も甘くなったのだろうか。
「お嬢様?」
少し物思いに耽っていたか。シルフェが黙り込んでいた私の顔を覗き込む。
「で、咲夜は?」
「咲夜さんですか? 用事があるとかで昼の間に外出の予定が入っています。他にも一部の者が山菜狩りに」
「ふぅん」
やはり外出か。勤勉な悪魔の犬は今日も忙しいのだろう。
「咲夜さんが直接行く用事ですから、お嬢様に関係或る事かも知れませんね」
「ま、いいわ。喉が渇いたの、なにか頂戴」
「まぁ、お珍しい」
わざとらしく驚いて見せるシルフェ。
「家庭の味ってやつが懐かしくなったのよ」
「あらあら。メイド長の紅茶に勝てるとは思いませんけど」
四百年来の付き合いのメイドは、なかなかに凄絶で素敵な笑みを浮かべる。
「では、「搾りたて」などいかがでしょう?」
喉を潤した私は、図書館へ向かうことにする。
目が覚めたはいいが、暇である事には変わりない。
むしろ早起きであるだけ性質が悪いとも言える。
普段のドレスと違い裾が軽い。締めていない分、素肌に廊下の冷えた空気を感じるのが、そこはかとなく楽しい。
スリッパをぺたぺた鳴らして歩いていき、魔理沙よけの魔力障壁を紙のように破ってドアを開ける。
図書館。
カビ臭い空気は、私が歩いた分だけかき回される。
静かだ。
ここは輪をかけて静かだ。
「パチェ~、いる~?」
声を挙げて探すと、答える声は案外近くから聞こえた。
「あ、お嬢様。どうなさったんです? そんな格好で」
「お前か。パチェいる?」
図書館に住み着いている魔族の娘。
名前を持たないんだが名乗らないんだかで、司書とか小悪魔とか、適当に呼ばせている変わり者だ。
「パチュリー様は昨日からお出かけです。急ぎの御用件でないのでしたら、わたくしが承っておきますが……」
「そうなの? なら別にいいわ、暇だからチェスでもと思っただけだから」
「将棋でよろしければ私がお相手を」
「いい、お前とやるとすぐ千日手になるから」
羽でしっしと追い払う。
こう見えてコイツは将棋が滅法強く、「図書館の受け師」の噂は一部では既に伝説となっている。
計算妖怪八雲藍を破った辺りからその名が広まり始め、最近では勝負を挑みに、はるばるやってくる命知らずの人間も居ると聞く。
「残念です」
苦笑する赤毛の悪魔。
「お前、戦闘以外は優秀なんだがねぇ」
「恐縮です」
一礼する事務服が馴染みきった姿を見て、内心で嘆息する。
雑用に特化した悪魔というのもどうかと思うが、殺すしか能のない奴らよりはまだ使い道もあるだろう。
パチェも気に入って使っているようだし、何より育ち過ぎたヴワルはこの小娘抜きでは単なる迷宮でしかなくなる。
別に館の中に名所が増えるのは構わないが、久しぶりに親友に会いに行ったら干物が読書していた、などというのは願い下げだ。
図書館を出て当ても無く歩いていると、すぐ近くの部屋から耳慣れない大音響がこだました。
「……な、なによ、驚かしてくれたわね」
不意を衝かれてちょっと、いや結構びっくりしたレミリアは負け惜しみを呟く。
メイド詰め所から、連絡器のけたたましいベルの音が聞こえてくる。
覗き込むと、無人の詰め所の隅に、装備すれば確実に呪われそうな髑髏の意匠の本体に、フリルのついたピンクの可愛らしい布カバーが着けられているソレが見えた。
ジリリ、ジリリ、と鳴っている。
……誰のセンスだろうか。
素敵な違和感の源を凝然と睨んでいる間にも、それは激しく鳴り響いている。
言葉は無いが、早く出ろと轟き叫んでいる。
服を着せられた小型犬の如き哀れさをかもし出しているイビルホンの、恨めしそうな眼窩と目が合った。
「ねぇー、鳴ってるわよー、誰かでないのー?」
入り口から廊下に向けて声を飛ばしてみる。
のー のー…… とエコーのみが聞こえる。うちってこんなに広かったっけ? と首を傾げる。
詰め所がもぬけの空、というのは昼食時だからか。
「もう」
がちゃり
「あー! ようやく出たわね! 大至急メイド長呼んで! 大変なのよ!」
出るや否や怒鳴り声が飛んできた。
通話の向こうの相手は誰だろう、うちのメイドである事には間違いないのだろうが、それにしても優雅さに欠ける。
「ちょっと、何があったかくらい説明しなさい」
「奴らよ! ウサギどもがいるのよ! ああもう! やつら多すぎるのよ! 小隊一つじゃ太刀打ちできない!」
怒声の向こうに戦闘の音が聞こえる。
『生きてるか!? ああ、なんとかな! 上か来るぞ! 気をつけろ!』とか聞こえてきた。
兎……永遠亭か。
自分でも目つきが険しくなるのが分かる。
「増援が必要なのね?」
「そうよ! だから早く咲夜さん呼んできて! このままじゃ、みんなの夕飯が!」
察するに、先程聞いた秋の味覚収穫に赴いた一隊と思われる。
「わかったわ、必ず援軍は送るから貴方はそこを死守しなさい、これは命令よ」
「は!? あんた何言ってんのよ! なんでもいいから早」
言葉はそこで途切れ、爆音を最後に通信は途絶した。
レミリアは耳障りな音をたてている受話器を手にしばし呆然とする。
秋の味覚にはそれほどの魅力があったのか。
去年、霊夢の所で食べた炊き込みご飯の味を思い出し、食後の果物の芳醇な味わいを思い出す。
よだれが出て来た。
なるほど、あれを巡ってなら争いの一つも起きよう。
口許のよだれを拭きつつ納得の頷きをひとつした所で、詰め所にメイド達が入ってきた。
「あ、お嬢様!」
「なにか御用でしょうか?」
「お前たちに命令よ。現在永遠亭の兎どもと交戦中である、秋の味覚収穫隊の援護に向かいなさい」
一同に動揺が走る。
咲夜の指令を上回る命令である以上、これには絶対に逆らえない。
しかし、すでに一個小隊を欠いているハウスメイド班もまた、通常業務をこなすうえでオーバーワークを強いられているのである。
下手を打てば、戻ってきた咲夜に何をされるか知れたものではない。
たとえ当主の命令があったにしても、館内部を統轄しているのはあの冷血ナイフなのだから。
「そうね、貴方たちだけだと後々困りそうだから、門番隊にも働いてもらおうかしら」
そんなメイド達の思惑を見抜いたのか、レミリアは割と的確な指示を出した。
実の所は台所班まで抜けると、せっかく食材が手に入っても調理出来る者が残っていないという事態を招きかねない事に、いち早く気付いたのからだが。
「人選はお前に任せる。館内で一個小隊を選出し戦闘装備で中庭に集合。兎小屋の連中に好き勝手をさせるな!」
叫びと共に受話器を握り潰す。
レミリアの号令にメイドたちは敬礼を返し、直後には風を巻いて詰め所を飛び出していった。
それを見て、レミリアは満足の頷きを一つ。
咲夜め、きちんと教育出来ているじゃないの。
唇の端をつりあげ、そしてレミリアもまた詰め所を悠然と後にした。
門前。
日傘をさして門まで来れば、待っていたのは門番の間抜け面だった。
「お嬢様! どうなさったんですか?」
「今日は貴方が出かけるの、さっさと支度しなさい」
寝巻きのままで出かけるものか。バカめ。
「は?」
居抜きの蹴りで間抜け面を蹴り上げ……ようとしたが、身長差は如何ともし難く、爪先が胸の高さに届くのがやっとだった。
小癪な、と思ったが門番は顔を抑えて蹲っていた。あれ?
「ちょ、ちょっとどうしたのよ」
「オ、オジョウサマ、カサ」
片言の日本語はこの門番の出自を彷彿させ、妙に似合っている気がした。
ああなるほど。差したままだった傘の切っ先が彼女の顔を刺したらしい。
咲夜が見立てたというこの日傘の先端は、パチェが戯れに作り出したヒヒイロカネ製の飾りが付いている。
形はフランの杖の片端と同じデザインにしてある。
「お姉様とおそろいね!」とはしゃぐ妹の笑顔は、紅魔館最大の財産だ。
フランの笑顔とその柔らかい頬の感触を思い出している間にも、門番は足元で血溜りの作製に余念が無かった。
「ほら、いつまで寝てるのよ」
「おじょうさま、ひどいです」
何事も無かったかのように立ち上がる彼女、驚くべき事に額の傷がもう血が止まっていた。
この私でさえ驚くに値する再生能力は、伊達にマスタースパーク浴を日課に鍛えていないという証か。
「門番隊から気合度八十以上の者で二個小隊を出しなさい、今すぐよ」
その言葉に瞬きを三回した美鈴であったが、三回目が開き、その瞳に光が映る頃は気配が一変していた。
「門番隊ッ! 集合ッッ!!!」
号令と共に大地を踏み抜く。
震脚と鈴の音が響き、その衝撃に湖が波打つ。立ち上る七色の気に驚いた妖精たちが散り散りになっていく。
筆頭の只ならぬ様子を嗅ぎつけたか、風の唸りと共に現れたのは紅魔館、門番隊。
頑丈さや屋内戦闘に向かないなどの理由で外勤になっている、屈強の部隊である。
やや優雅さには欠けるが、野山を駆け巡るなら少々お転婆な方が粋というものだ。
時同じくして、思い思いの武装を纏ったはずのメイド達が、中庭に整列していく。
慎み深い乙女達は、表道具を見せることはしないらしい。
「さて」
その一言で居合わせた全員の視線がレミリアに集まる。
整然と並んだ彼女らが陶然見上げるのは、傘を片手に正門の上に立つレミリア。
夜着の薄さは逆光に透け、その幼い肢体が浮かび上がっている。
「おおよそ見当は付いているだろうが、これからお前たちは戦場に赴く。先発した部隊が敵に押されて苦境に立たされているのだ」
それだけの説明にもかかわらず疑問を顔に浮かべるものすら居ない。そうか、それほどまでに……
熱い視線を受けて、レミリアは頷く。
「私がお前達に望むのは勝利だけだ」
見栄を切り、右手を肩の高さに差し出す。
それに合わせたかのように、風が吹く。裾がはためく。
レミリアの感覚の目には、眼下の部隊の気炎が天を焼き尽くさんばかりに立ち上っているのが視えている。いいぞ、戦いを前にしてこの意気の高さ。これでこそだ。
「ゆけ! 行って己の成すべき事を果たせ!」
差し伸べた右手を振りぬき、牙の下知を飛ばす。
水鳥の群れが飛び立つかのように、紅魔館から乙女が舞い上がった。
戦場に向かって駆け出していく。
■●■
その妖兎は永遠亭の一員で、今年で齢、百と十二を数える。
てゐを見習い、努力と根性で人化を成し遂げた姿形は可憐なウサ耳少女。いや、どうせ人化するなら若くて可愛いほうがいいじゃんか、とは誰の意見か。
永遠亭の兎達はこの時期、毎年欠かさず大規模な山歩きを実施する。
紅葉を愛でる、たまには竹林から出たい、山の幸の採取など、いろいろな理由を適当に内包しての遠足にも似た行楽は、楽しみになっている年中行事のひとつ。
今年も例に漏れず開催され、ラインダンスなんかもしながら出かけたのだが、お目当ての場所には先客があった。
茂みに隠れて観察すると、密猟者たちは白と紺のひらひらした服を着ている。
山歩きには向かないと思ったが、家で着る分には可愛いと思った。
交渉か交戦か家に指示を仰いだところ、へにょり耳を筆頭に大軍が送られてきてびっくりした。聞けば、相手は凶悪極まりない悪魔の手下で、大変危険な連中らしい。
永琳様直々に実力をもって排除しろという指令が下ったとの事で、みんなで面白がって悪魔の手下を追い回した。
数で優勢なので、どこに逃げようと先回りできるし。
弾を適当に撃って追い詰めていくと、獲物はひとかたまりになって動きを止めた。
目つきは観念したわけではなさそうだったが、へにょり耳は構わずトドメの号令を下そうと手を上げる。
と、その時。
「大変です! 敵の応援が来ました! 約五十、あと五分くらいで到着します!!」
その報に大半の者が、見えもしないのに振り仰ぐ。
見えるのは紅葉の木々だが、その向こうの空に確かに一群がある。
攻撃色を隠そうともしないその集団は、スズメバチの一群のような気配があった。
小悪魔すげえ
こりゃ続きが楽しみだ
おでんをおなかいっぱい食べたような充足感がすでにこの段階であるとはオソロシヤ。である。
さて、次の講義が始まるまでにひとつ上も読んでおこうか。
>八百九十頁
以前のネタですよね、こっちにもありましたっけ?
そして紅魔館すげええ!
美鈴の集合かけるところが、とても気に入りました。
しかしマスタースパーク浴は体に悪そうだなwww
さあ後半を読みに行こう♪
妖夢がどうなるか気になるなぁ。
> 食べられるカビ
> ドロワ茸(ダケ)
・・・霊夢、・・・魔理沙・・・。
>名前が無い程度の能力さん
半霊はかわいいです。なんだか知りませんが、つい弄りたくなります。
小悪魔。なんかにこにこと盤の前で正座している風景が浮かんだので。
>名前が無い程度の能力さん
おでん、というかジャンクフードというか……
この時点で、全体の1/4程度なんですけどね。講義に間に合いましたか?
>名前が無い程度の能力さん
争乱は序章に過ぎなかった! まあ、続きはあのザマです。
ページ数は前回は出してません。
目安は辞書ですが、あの本は古代の書なのでもう少し紙が厚いかと。
>三文字さん
実はこの部分、求聞史紀が出るよりも前に書いてた物のリサイクルなんで……
変にスパルタンな連中の集まりになっています。
普通に悪魔城。
>名前が無い程度の能力さん
後半どころか……(ゴクリ
美鈴は打たれ強い娘!
あー。妖夢は実は出番が……
>名前がさん
ボリュームだけは。 ええ。
カビはともかく、魔理沙の家には野良キノコが生えてそうな印象です。
普通に胞子が飛んでそうですし。