朝からとても気分の良い空だった。
程よく散らばる白い雲も、太陽をさえぎる事なく広がる青空を飾っている。
カーテンを開けた窓の向こう、鬱蒼とした木々の隙間から覗く爽やかな空。
「いいなぁ」
窓を開けてみれば涼やかな風が魔法使いの身体を巻いて、それから部屋の中を躍らせていく。
テーブルの上で開かれた魔導書がページを、淹れたばかりの緑茶が湯気を静かに揺らし、床の上では本の山の間、溜まってきた埃が音なく走っていく。
「良い空に良い風」
ちょっと外へ出よう。
そう思った魔法使いは空の青を見つめたまま窓を閉じ、開きっぱなしの本はそのままに、熱い緑茶を一息に飲み干すと足早に玄関へ。脇に立てかけておいた箒とドアノブを同時に掴む。
扉が開くと同時に走り出した足はすぐに地面を離れて大空へ。
もう始まり出した冬の気配に空はきりりと冷えていたけれど、舌の火傷にはちょうどいいか、と少女は笑った。
そこは青空が一片も覗かない場所だった。
薄暗く明かりが照らすのは大きな空間に大きな本棚たち。そして一角で本を読む少女とテーブルに積まれた本の山と残り少ない紅茶。
読書も一段落、ティーカップを上げて中身を空にして戻す。
いつの間にかポットを抱えたメイド長が一人、脇に立っていた。
彼女は手に持ったポットをそっと上げ、首をちょっと曲げて伺う。
「おかわり、いりますか?」
「もらうわ」
本に栞を挟んだ魔女はカップをソーサーごと横へ、ポットの方へ音を立てずにずらしていく。
再びカップに満たされていく紅茶はどんどんと湯気を昇らせていく。
正面に戻された紅茶を両手で持ち上げながら魔女は言う。
「大分寒くなってきたわね」
いつの間にか冷えていた指先を温めながら手の中の香りを味わう。
「そうですね。でも今日は良く晴れているので、昼ごろには少し暖かくなっているかもしれません」
図書館の中は館の中でも特別寒くて、メイドの彼女もポットを両の手の平で包んで温もりを確かめる。
「そう。……そういえばしばらく外に出ていなかったわ」
「とても良い空ですよ。どこまでも昇れそうなほど高く、澄んだ空です」
魔女は久しぶりの青空を想像して少しだけ微笑んだ。メイドもついさっき窓の向こうに見た青空を思い出して同じ顔。お互いの表情を見て、何故だろう、などと思いながら。
魔女はすっと立ち上がると、持っていた紅茶を一気に飲み干してソーサーにのせた。薄い陶器がカチャリと鳴る。
「その格好では少し寒いですよ?」
メイドは一瞬の後にポットの代わりに淡い空色のロングカーディガンを持ち、まるで娘か妹に着せるように微笑みながら広げていた。
若干の恥ずかしさを感じながら背を向けて、羽織らせてもらいながらテーブルを見ると、中身の無いカップがまだ少し湯気を残していた。
久しぶりの空は肌寒くて、けれども息を吸い込んだ気管も肺も調子は良かった。
冷たい風で舌の火傷も治るかな、と魔女は長く時間をかけて空気を吸い込んだ。
その時計は朝が少し進んだ事を示していて、彼女はそれを見て姉の眠りもそろそろ深くなってきただろうと思った。
微笑みを浮かべる幼い吸血鬼が大きな柱時計から目を離すと、時計の刻むリズムが狂い出していく。
「最近は魔理沙も来てくれないし、暇でしょうがないわ」
真っ暗な空間を、それでも少女は扉の方へ真っ直ぐ歩いていく。少女の足音は弾むようにリズムを立てて、狂っていく時計の音はその途中で途切れた。
「だからしょうがないのよね。もうお姉さまは寝ているし、メイドもみんな私を止められない。だからしょうがないの」
クスクスと笑いながら呟いていると、いつの間にか大きな扉の目の前へたどり着いていた。少女は冷たい扉に触れ、上を見上げる。
少し前までは絶対に見ることの出来なかった青空が向こうにある。
巫女と魔法使いなんて妙な組み合わせの二人が館にやって来てからたまに、ほんのたまに外へ出しては貰えたけれど、それも夜ばかりでつまらない。満天の星空も悪くはないけれど、やっぱり青空というものも見てみたい。
「咲夜とパチェも出てくるでしょうけど、パチェが気づいて雨を降らす前に咲夜をどうにかしちゃえば問題なしよね」
扉を破ってからの行動を頭で確かめながら冷えてきた指先に力を込める。強力な封印も分厚い鉄も一瞬で壊す。
きっと今日は素晴らしい空が見れるだろう。綺麗な青空の下を巫女や魔法使いや、大勢の妖怪、妖精が飛び回っているだろう。
「絶対行くから……待っててね!!」
数少ない知り合いと、見たことの無い朝の空を想像する吸血鬼は満面の笑みだった。
紅いカーペットを照らす日差しの中にメイド長が立っていた。
向かい合う吸血鬼の妹は日に当たらない位置で、それでも眩しそうに目を細めて、同じように唇もきゅっと引き締めている。
窓の無い廊下にはぽっかりと大穴が空いていて、等間隔で壁に並ぶランプの光より遥かに強い光を注いでいた。
「こんな天気の中を外に出ようなんて……」
「だって!」
陽だまりで作られる呆れた表情と、日陰に浮かぶ必死な表情。
目が合ったのはほんの数秒で、その後には呆れの顔は笑みに変わっていて。
「まぁ、いい天気ですものね」
陽光の中、その柔らかな微笑みは背後に開いた外を振り返った。
「え?」
幼い顔と体が戸惑って、微笑みを追うように眩しい空へ視線が移る。目の眩む光の中には見たことの無い青い天井と、そこを流れていく白い何か。ぬいぐるみの中身をちぎったような雲の流れを目で追ったのは幾秒か。
視線をメイド長に戻せば、彼女は何かを抱えていた。衣類に見えるそれはコートや帽子だろうか、疑問に歪む顔でメイドと目を合わせる。
「何?それ」
「昔お嬢様が我が侭を言ったときに用意したものです。……重いとか暑いとか怪しいとかですぐに帰ってきて脱ぎましたけど」
あなたはどうですか?と悪戯っぽい笑みが吸血鬼の彼女には何故かとても嬉しくて、つい陽だまりの中へ駆け出しそうになって、一瞬の後に吸血鬼はメイドに抱えられて大きな鏡のある一室へと移動していた。
「ちょっとお着替えしましょうか。フランドール様には日傘じゃ役者不足でしょうから」
初めての空は本来よりも暗く見えたけれど、それでも彼女には十分だった。
吸い込む空気は布越しで重いけれど、彼女にはとても美味しいものに思えた。
風は感じられないし羽は動かしづらいし身体は少し暑いけれど、どうしてだろうか、幸せだった。
「うぅ、ちょっと寒くなってきたぜ」
箒の上で魔法使いが身震いする。
どこかにお邪魔して熱いお茶でも頂こうか、なんて思いつつ眼下を見回す。大分高い位置からは広く郷が見えていた。
「……あわよくば、昼飯も」
そういえばそろそろ昼頃かな、なんて左手でお腹をさすりつつ右手でひさしを作って上へと首を巡らせる。
太陽はまだ少し低いけれども、冬も始まる今頃では昼前と言っていいかもしれない。
どこへ行こうか、と箒ごと身体を一周させて全方位を確かめる。
「ここからだと、紅魔館が一番かな。レミリアが寝てるからご馳走は無さそうだけど」
よし、と箒を握る手に力を込める。穂先から溢れる星が激しさを増して昼前の空に散っていく。
前進する力を無理矢理抑えながらも箒に込める魔力をどんどん増やして、さぁ青空に流れ星でも作ってやろう、とキラリ笑顔を浮かべる。
「いっく、ぜぇぇぇってうわぁっ!!!」
流星がそのラインを数センチ描いた所で急に止まる。
魔法使いの代わりに流星を描いたのは太陽のように眩く熱い光の球。箒の先を掠めていったそれは斜め下から上空へ。まばらな白い雲の一つを貫き散らし、その遥か向こうへ飛んでいった。
「何だ!?」
驚く少女が火の玉が飛んできた方へ顔を向けてみると、青白い手で眩しそうに日を遮りながらこちらを睨む魔女がそこにいた。
「ってパチュリーか。珍しいじゃないかお前が外に居るなんて」
よく知った顔に魔法使いは笑いかける。再度の攻撃に備えつつも、出来れば雑談で済ませたいなぁ。こんなに青空で、こんなに気分が良いのだし、と願う。
「魔理沙」
箒に乗った少女と同じ高さまですいすいと昇ってくる魔女。上昇を終えた二人の距離は近く、彼女達は弾幕を広げる距離にはなかった。
「うん?」
「夕べ、貴女は何をしてた?」
聞かれ、魔法使いは首を傾げる。傾いた視界には空の青と山の緑と雲の白、そして魔女の綺麗な紫の髪があった。ついでに怒った表情も。
「普通に夕飯作って食べて風呂入ってたぜ?」
「その前後は?」
「普通に読書」
それがどうしたんだ?と表情にだしつつ答えていると、向かい合う顔がどんどんと怒りに染まっていく。
「約束、してたわよね?」
限界寸前の怒りを感じて、魔法使いを乗せた箒がゆっくりと後退していく。合わせて前進してくるのは百年物の本物の魔女。
「うん、覚えてる。覚えてるからそんなに怒るなよっ」
「……そう」
限界を超えて尚魔女は怒りを増していく。まだ抑える事ができるのは久方ぶりの青空の下だからだろうか、折角気分良く図書館を出てきたのだから、出来れば穏便に済ませたい。
多分次の問いかけの答えがどうであろうと爆発してしまうだろうが。
「じゃあ何で夕べ、図書館に来なかったのかしら?」
本気の弾幕勝負をしたのは一ヶ月ほど前。勝った魔女が負けた魔法使いに持っていった魔導書等を返すように言い、その期限だったのが昨日の夕方。
魔理沙の事だから多少遅れてくるかもしれない、と待ち続けて結局徹夜をしてしまった。途中からは彼女も読書に没頭するあまり忘れてしまって、こうして太陽の下を気分良く散歩していたのだが。
「いや、私も結構必死に読んでたんだけどな?……その、間に合わなくってさ。読むの」
ははは、と笑いながら言う魔法使いの言葉に嘘はなかったけれど、やはり魔女の怒りは収まらなかったようで、彼女の強い魔力がなにやら物騒な気配を形にしていく。
「読んだ分だけでも持ってくるとか……謝罪しに顔を見せるとか……駄目なら駄目で、ねぇ?それなりの、ねぇ?」
現れようとしている魔法は近距離ではかわすのが困難なもので、魔法使いはどう抜けるべきか考えながら箒をぎりりと握り締めた。
「礼儀ってもんがあるでしょうっ!?」
喘息の魔女は叫びと同時に完成していた魔法を解き放つ。折角の良い天気も、待ち惚けた分の時間で吹き飛んでしまいそうだった。
「今日は調子もいいようで何よりだぜ……」
魔法使いの箒は待ちくたびれたように先程阻害されたロケットスタートを決める。
魔女の下をくぐって距離をとりつつ箒ごと振り向くのは人間の魔法使い。
流星が足元を掠めたのを確認して次の魔法を展開しつつ振り向くのは正真正銘の魔女。
少し遠くの空、大きめの雲が突然爆散するのと同時に二人は弾幕ごっこを始めた。
「気持ち良い~!!」
姉に合わせて作られた羽を覆うカバーはぶかぶかで、でもそんなの知った事かと少女は羽を振り回すように羽ばたかせながら空を行く。
「この位で青空を諦めるなんて、お姉さまは贅沢すぎよ」
我が侭なんか言わずに日傘の下でまったりやっていればいい。私は姉のようにそんな優雅でトロくさいことはやってられない。
ぐるりと身を回せば長いコートと首にしっかり巻いたマフラーの端がふわりと後を追う。
「次は……あれに決めた!」
僅か遠く、今までで一番大きな雲を見止めると、彼女は一目散に飛んでいく。
風を感じられないのは残念だけれど、地下室はおろか紅魔館など比にならないほど広い空は、こうして飛ぶだけで何か素晴らしい事をしているように思えてしまう。
「とりゃっ」
勢いそのまま掛け声ひとつ。吸血鬼の少女は大きく真っ白な雲の中へ飛び込んでいく。
そのまま少し経って、
「どかーん!」
白い雲が派手に破壊された。その中心に現れたのは四肢を大きく伸ばした少女。
散り散りになっては大気に溶けて風に流れていくその様をみて、少女はとても楽しそうに嬉しそうに笑った。
出掛けに無闇な破壊は控えるように言われて、そんな事はとっくに分かっているのにと頬を膨らませた少女。そうしてぶーぶー言いながら日除けの衣服を纏っていく彼女にメイド長はこうも言った。
「雲ならいくらでも壊していいですよ」
と、そう言ってメイドの指先は窓の向こうを流れる白い綿のような雲を指した。
「最近まで雨ばかりでうんざりしてたんです」
まるで冗談を言うような顔で。
「あははっ」
笑いながら少女は辺りを見回す。誰も巻き込まなかったか、次はどの雲をどんな風に散らそうか。
そうして首と身体を巡らせる彼女のサングラスごしの視界に見覚えのある弾幕が二つ、競り合っているのが見えた。
「むむ」
これは良くない、と少女はまた頬を膨らませ、腰に手袋つきの手を当てた。
「こんな晴れた日に喧嘩なんて、良くない!」
戯れに弾幕ごっこなんて良くある筈なのに、あらゆるものを破壊する少女は本気で良くないっ、と息を吐いた。
雲を裂いて回転するレーザーを鬱陶しく思いながら回避して、魔法使いも反撃のレーザーを放つ。どこまでも真っ直ぐな光線だ。
怒っている魔女を相手に、パロディというかオマージュというか、有り体に言えば彼女からパクったスペルカードは使えない。だから魔力を力強く束ねて細く真っ直ぐ飛ばす。
ポケットのスペルカードを探る手はノンディレクショナルレーザーをよけて、十八番であり切り札のマスタースパークを掴む。
「さっさと当たりなさいよ」
レーザーを消し、代わりに全方位に弾を撃ち出しつつスペルを唱え始める魔女。
「さっさと当ててみろよ」
箒の魔法使いは後退して時間を稼ぎつつ片手にスペルカードを、もう片方の手に威力を挙げるためのミニ八卦炉を持って、迫る弾と相手のスペル完成のタイミングを計る。
お互いの視線と意思が重なる。
「いくわよ!」
「いくぜ!」
言葉は同時で、互いの元へ奔る魔法も同時。
「……ぅりゃぁぁぁぁあああ!」
少し遅れてやってきたのは幼くも力強い声と空の青に映える大きく紅い剣だった。
自分達の弾幕を全て、余すところ無く破壊したそれは見たことのある剣で、それをこちらに突きつけて叫ぶ声もよく知った声だった。
「いや、えー……え?」
しかし、姿は見たことも無いもので。
子供のように小柄な体形はいいとして、頭をすっぽりと覆う帽子と耳を隠して余りある耳当て。更にはサングラス、鼻まで隠れるマスクと、首に巻かれたマフラーは顎の先にまでかかっていて、その相貌は全て隠されている。
「…………んん?」
膝下まで伸びたコートと多分膝近くまであるだろうブーツ、背中には大きく羽をかたどった何かをつけている。
「こんな素晴らしい天気なんだから、魔理沙もパチェも、喧嘩しちゃダメ!」
大きなマスクがもごもご動く。
こんな格好を香霖辺りがやったら完全な犯罪者だよなぁ、などと魔法使いが見つめる横でおずおずと、確かめるような、自信なさげな声があがる。
「もしかして……妹様?」
問いかけられた方は対照的に、紅い剣をしまった両手をどこか自慢げに腰に当てて大きく頷いた。
「うん。最近魔理沙も誰も来てくれなくて、暇だから出てきたの!」
「いや、出てきたの!って……何もこんな時間に」
「レミィは?咲夜とか美鈴はどうしたの?」
驚き戸惑う魔法使いと、驚きながらも質問を投げる魔女。
紅魔館に住まう吸血鬼姉妹の片割れは昼の空に全身を広げて質問に答える。表情は分からないが、声は限りなく楽しさに満ちていた。
「お姉さまは寝てるよ。咲夜はねぇ、笑いながらコレ貸してくれたの。日除けだ~って。暑いし重いけど、凄いのよコレ!太陽に当たっても全然ヒリヒリしないの!あ、コレ、サングラスっていうのもね、凄いんだから!太陽の光が眩しくないの!……直接見るとキツいんだけどね?それでそれでこっちの羽のは――」
溢れそうな嬉しさを伝えたくて次から次へと言葉が飛び出す。
対する二人はやはり戸惑いを隠せずに居たが、それでも幼い吸血鬼の声を聞いていると、次第に落ち着きを取り戻していく。
青空なんて特別珍しいものでもないのだけれど、やっぱり今日の空は気分がいい、と魔法使いは今日出てきて良かったと笑った。
たまの散歩がいい天気で、泥棒だけれど親しい友人と顔を合わせたのにさっきは大人気なかったか、と魔女は今日出てきて良かったと笑った。
「えーっと、後はねぇ……えっと……美鈴も笑いながら見送ってくれたよ!」
初めての青空が想像していた以上に綺麗で、その中で大好きな人たちと出会えた事が嬉しくて嬉しくて、495年生きた吸血鬼は今日この日に出てきてよかったと笑い、知らない内に涙を零していた。夜じゃない初めての幻想郷で、あぁ何て世界は素晴らしいのだろう、と。
「そりゃあ良かったな!」
「レミィがうるさそうだけど、彼女も以前同じ事をしてたし、怒りはしないでしょうね」
近づく二人がとびきりの笑顔なだけで、背景が綺麗な山々と青い空なだけで、もうどうしてこんなに嬉しいのか。分からないけれど、フランドール・スカーレットは飛び切りの笑顔で泣いた。
サングラスやマスクのせいで笑みも涙も二人には気づいてもらえなかったけど、二人に思いっきり抱きついて喜びを伝えよう。
厚着の重さなんて感じない程の喜びを、全力で。
「……痛いぜ」
「……むきゅ~」
両手を目一杯に広げてようやく抱きしめた二人は、あの地下よりも暖かかった気がした。
「お帰りなさいませ。……それといらっしゃい」
遠くからでも分かるほどの騒がしい気配を感じ、咲夜は昼食の調理を中断して玄関先へと出向いた。
「ただいま~」
「ただいま」
「ここは私もただいま、と言っておこうか」
今朝珍しく外へ出かけていった主の妹と友人は、珍しくもない客人と共に帰ってきた。
「アンタはお邪魔します、でしょうが」
「邪魔な事はしないぜ。昼飯はいただくが」
言うや否や、魔理沙はさっさと館の中へ歩いていく。勝手知ったる何とやら、その歩みは迷う事無く食堂を目指していた。食事に招いた事など数えるほどしかないのに。
何か言ってやろうか、と振り返る咲夜の横を過ぎ行きながら声が鳴る。
「もう準備はできているの?」
「お腹減ったー」
確認する間もなくパチュリーとフランドールは足早に魔理沙の後について行く。
「どれだけはしゃいで来たんですか?」
呟いた声に呆れはほんの少しだけだった。
そうして笑みを浮かべる咲夜を廊下を行く魔理沙が振り返る。
「早く来いよー!飯食ったらお前も美鈴も一緒に外行くんだからなー!」
帽子もマスクも、重たい日除け全てを脱ぎ散らかしながらフランドールも元気良くこちらを向く。
「誰が一番多く雲を吹き飛ばせるか競争だからねー!」
顔だけをめぐらせてこちらを見るパチュリーも楽しそうな表情でいる。
「たまには悪くないわよ。こういうのも」
咲夜の笑みは一層増して、彼女は心の中でちょっとだけ主に詫びた。
……今日は特別、という事で。
時を止めて厨房に戻る前に、開け放たれた扉から外を見る。
特別でも何でもない青空の下、門の向こうで門番が張り切った様子で両手両足、全身を振り回していた。
彼女の能力は大気や天気も操ったり出来るのだろうかとか、雲を消す競争なんて私が一番不利じゃないかとか、そういえばそんな風に子供っぽく遊ぶなんて初めてかもしれないとか、時間を止めて厨房へ咲夜は戻りつつ、思いを巡らせていた。
その日は朝から晩までとても気分の良い空だった。
程よく散らばる白い雲も、澄み切った青空を飾っていた。
胸の空く様な心地よい風に、どこからともなく少女たちの笑い声が運ばれては消えて。
たまに雲が太陽を遮ればたちどころにその雲がかき消されて、涼やかな幻想郷に光を保つ。
異変かと駆けつけた巫女はいつの間にか風に笑い声を流し、事件かと現れた天狗の記者はカメラを片手にしながらも風を起こし、笑い声と風に誘われた妖怪たちもそこに混じっていく。
すぐに幻想郷の空はそこかしこで光が飛び交い、たくさんの影が空を飛び交い笑い声を上げるお祭り騒ぎに染まる。
その空は青かった。大して珍しくも特別でもないけれど、全力ではしゃぎ回る少女たちにとって、限界を感じさせない最高に素晴らしい大空だった。
その夜は雲一つなく、大きな月と星々は全てが輝きを地上へ落としていた。
「ねぇ咲夜?」
「何でしょうお嬢様」
「私も誘いなさいよ重くても怪しくても良いから日除け用意して誘いなさいよ」
「……気持ちよさそうにお眠りでしたので」
「そこはさぁ……起こしなさいよ心を鬼にしてでも」
「…………」
「…………おこしてよぅ」
「今日はまだ晴れていますね」
「?」
「多分起きているのは私たちだけですが」
「……夜行性の妖怪すら起こされて、疲れるまではしゃいだそうじゃない?私以外の、妖怪みんなで」
その夜は幻想郷中が疲れたように眠りについていて、星たちが寂しそうに輝いていて、
「すみません。代わりと言っては何ですが――」
満月にはまだ少しだけ足りない、欠けた月が照らす影は何一つ動かなかった。
「私で良ければお付き合いしますよ?……素晴らしい星月夜のお祭り騒ぎ」
そんな夜へ飛び出す二つの影は忙しなく飛び回っては星を賑やかし、月明かりを盛り上げていった。
この日の空は何の特別もなかったけれど、吸血鬼を独りにはしなかった。
でもやっぱりふたりだけじゃあそびたりなかったので
れみりあさまはねているみんなをおこしにいきました。
数分後……そこには元気に不夜城レッドを乱発するレミリアの姿が!
咲夜さんが凄いお姉さんだなぁ。
頭の中カラッポにして読むとすごくいい感じに。
気持ち良いSSを有難うございました。オチwww
妹様が楽しそうで、個人的には大満足です。
そんな俺は幽y(ry
ちなみにプロの方でも良く間違えてますが、「役不足」と「役者不足」は気をつけたほうが良いかと。
個人的にオチも良かったですよ。
それはそうと、こういう狂ってない妹様は大好きです。
雲を吹き飛ばす競争やってみたいなぁ・・・
咲夜の瀟洒な働きぶりも素敵ですね。
あの、なんかもう本当に指摘、感想ありがとうございます。
臆病者なので皆様のたくさんの感想、本当に心に染みます。
>「役不足」と「役者不足」
知らなかったのでとても勉強になりました。ありがとうございます。
検索して1、20分読み込んでしまいました
こういった日本語は面白いと思います(間違えた奴が言うなって感じですがw
>オチについて
臆病者のクセに変な根性があってつい…
でも良かったと言ってもらえてホッとしていますw
フランちゃんかわいいよ!
雲吹き飛ばし競争もとても幻想郷らしい。
拗ねたレミリアがたまらないwww
話の役どころは全然違えど、やっぱり似てるなあと思いました。かわいいよ!
たまには思いっきり身体を動かして、童心に帰って遊ぶのもいいですね。
嬉しそうな妹様が見れて幸せです。情景描写も素晴らしいと思いました。
マリ×パチュ+フランな感じですがこれも悪くないですよ^-^
オチも拗ねたれみりゃ様ですが実際やりそうだww
・・・レティは?