「いってきま~す!」
朝一番で橙が家を文字通り飛び出していく形で飛び出していった。
「危険なところには行っちゃダメですよぉ」
藍は遠くで「はぁい!」と聞こえたのを確認して、家の中へ入り、紫の朝食の準備を始める。
橙は朝遊びに外へ出、晩御飯の時間になるまで帰っては来ない。
「紫様、朝ですよ。起きて下さい」
朝食の準備も整い、あとは紫を起こすだけになった藍は、熟睡中の紫の体を左右に揺すった。
「むにゃむにゃ、もう食べられ…………」
すると紫はバサッと起き上がり、とても不安な表情を浮かべて藍の方を向いた。
「わたし今、物凄く平凡で常套句の中の常套句を口走ったりしなかった?」
「いえ、言い掛けたというのが正確ですね」
紫は大きく息を吐き、手を胸に当てて不安な表情を崩して安堵したようだった。
「危なかったわ。わたしのような叡智と淵謀の傑物が常套語を口にしようものならその価値は金輪奈落に落ちたも同然よ」
「よくそこまで自分を立たせることができますね……」
藍が軽蔑の眼差しを向けていることなどお構いなしに、紫はのっそりしたテンポで立ち上がり、食卓まで歩いていった。
朝食の席で紫は藍に言付けとその注意を促した。
その言付けとは、博麗神社に行って、包みを渡して、寄り道などせず日の沈む前には帰ってくるというものだった。
「藍、前々から言ってるけど、わたしの命令は絶対よ。分かってるわね? 破ることは許されないわ」
「わかっています。大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないから言ってるのよ」
ご飯を幽雅に掻き込むという器用な技を使い、とっとと食べ終え、境界の狭間へと姿を消した。
その食傾たるや、まさしく字の如くであった。
藍も食事を済ませ、後片付けを終える。
そして昼の握り飯をこしらえ、たまたま残しておいた藺草(いぐさ)にそれらを包(くる)んだ。
届けるように頼まれた紫苑色の袱紗(ふくさ)に包まれたものと、握り飯を持って家をあとにした。
「えっと……これを博麗神社に届ける?」
それなら自身で境界を使って届ければいいのにと思った。
「あら、何か用?」
博麗の巫女は愛想の全く無い元々色白な顔を更に淡白にして藍を流し目で見る。
「お届けものです」
持ってきた包みを手渡す。
「中身は何? 毒入り饅頭か何か?」
「だったら是非食べてほしいもんですね」
「貰ったものは食べるわよ。もったいないからね」
「そうですか。貧乏性の治る薬でも混ぜてあるんでしょうかねぇ」
「それは困るわね。わたしから貧乏性を取ったら神社が余計に貧乏になるわ」
「まさに毒ですね」
居にくい空気が生ぬるく漂った。
「で、用はこれだけ?」
「そうですけど」
「ふぅん」
腑に落ちない表情を浮かべながら湯飲みを口に運ぶ霊夢に藍は不審感を抱いた。
「なんなんですか?」
「何か企んでない?」
「私がですか?」
「あんたと紫」
「失敬な! 何故そんな疑心を持つんですか!」
紫のことを悪く言ったことに少し頭に来た藍は、ついつい責め立て口調で言い放ってしまった。
「だって、こんな包みなら、自分でスキマ使ってメモと一緒に置いておけばいいじゃない」
「…………確かに」
的を射た回答に心底納得させられてしまったので、つい気の抜けた相槌を打つ。
「あなたはそう思わなかったわけ?」
「いえ、思いましたけど、既にそのときには紫様はいらっしゃらなかったので」
「ふぅん。で、何も企んでないわけ?」
「少なくともわたしは企んでません」
「あら、式神でも前言は撤回するのね」
「…………」
「そんなことは別にどうでもいいんだけど、お腹の一つでも痛くなったら懲らしめに行く。それだけよ」
「…………」
藍は考え込むようにして俯き、おぼつかない足取りで歩き出した。
境内を出て、長い階段を一段一段ゆっくり下りながら思惟に耽った。
紫の意図するところは、紫が今回のことで何かを試しているのかなど、湧いてくる疑問や不安はやがて溢れ出し収拾がつかなくなった。
階段を下りきった頃には、何も考えられずにいて、ただ只管茫然とした気持ちで歩いていた。
小高い丘に差し掛かったとき、座るのに丁度よい岩があったのでそこで昼食にすることにした。
その岩に腰を下ろし、握り飯を頬張るも、無味にすら感じられなかった。
文字通り味気ない昼食を終わらせ、少し休憩を挟もうと芝生の上に場所を移し、寝転がった。
「なんで紫様はあんなに意地悪なんだろ…………」
「あら、そうかしら?」
思わず体を起こし振り返ってみると、華胥の亡霊がにこやかな顔を扇子で覆いながら立っていた。
「え……いつの間に……」
「さっきからずっとよ」
「気付かなかった…………」
「何かに集中して考えていたからじゃないかしら?」
「えと……あ、はい……そうです」
この人なら紫のことを何でも話せそうだと何か温和な感覚に藍は陥った。
「あの……」と控えめに切り出し、それに幽々子は穏やかな気色で「なに?」と言って屈んだ。
「紫様のことなんですけど……」
「あら。じゃあ、歩きながらいきましょうか。もし話が長引くと帰るのが遅くなってしまうわ」
それを受けて、藍は腰を上げて、幽々子も立ち上がった。
二人は安穏な風が吹く丘陵を行き始めた。
「それで、紫がどうしたのかしら?」
「はい。紫様はときどき抜き打ちテストみたいなものをされます。テストである以上、わたしはそれに答えなければなりません。
でも、その殆どが不正解です。そしてこっぴどく叱られます。今日は遣いの命を受けたのですが、どうもテストのような気がします。
このまま帰るのは少し不安で……。今回は叱られないように帰りたいんです」
「ふふ、抜き打ちテストね。それでさっき、紫は意地悪って言っていたのね」
藍は頬を赤く染め、唇をきゅっと締めて下を向いた。
「じゃあ、今回のそのお遣いの内容を一から説明してちょうだい」
藍は今日の朝からお昼を食べて幽々子に出会うまでを順を追って説明した。
懸命に説明する藍に、幽々子はほほえみを以て真摯に聞いていた。
説明をし終わると、幽々子が扇子をパチンと鳴らして閉じた。
「なるほどね。それじゃあ、ここで問題を一つ出すわ」
藍は軽く首を傾げた。
「そのテストっていうのは答えるものなのか、応えるものなのか」
まだ首を傾げているので続けてこう言った。
「つまり、解答するのか、期待に添うのか、ということよ。さて、さっきあなたはどっちの『こたえる』だったでしょう」
藍は口を閉ざしてしまった。
「そういうことなのよ。」
「でもわたしは……」
「分かっているわ。あなたはとっても献身的。だから見えない部分が出てくるのよ」
そうねぇと言って幽々子は軽く空を仰ぐ。
「いつもはどうして叱られるのかしら?」
「大抵は寄り道をして、それがバレて叱られます。偶に、許可なくスペルを発動したりするのですが、そのときは体罰物です」
「どうしてスペルを発動するのかしら?」
「喧嘩を売られるんです。結構強引に……。とんがり帽子の魔法使いとか……」
「あらあら、困ったものね。寄り道の方はどうして?」
幽々子はゆっくりと、しかし簡潔な質問を繰り返した。
「そのときによります。お恥ずかしながら、大抵は興味を引くものがあって、それに釣られて道を外してしまいます」
「そう。なら今回は大丈夫じゃないかしら」
「本当ですか!?」
「ええ。話を聞く限り越度はないわ」
藍は嬉しそうにしていたが、不図、訝しげな表情を浮かべて口を閉ざした。
「どうしたの?」
「見えない部分っていうのは……」
「ふふっ、慧眼の持ち主ね」
幽々子はとてもおかしそうに笑みをこぼした。
「それはね、今はまだ分からなくてもいいのよ。分かっていないのはあなただけではないから」
藍は愕然と懐疑の念でいっぱいになった。
「親の心子知らず。でもね、親だって徳の高いのばかりじゃないの。昔ね、子は親の位置に立ちて初めて親の意を知り、その意をその子に教うるは、その子の親の位置に立ちてこそ験(げん)ある。しかるに親になりて斯く教うること初にして難なり。親子(しんし)互(かたみ)に相磨き過ごすべし。さの輪廻を解して親に尽くすは、これ親孝行なり。っていうようなことを言っている人がいたわ」
「つまり紫様がそれにあたると?」
「無論あなたもよ。あなたは前回の失敗を生かすことを覚えなさい。きっと毎回同じようなことで叱られているんでしょう?」
「…………おっしゃる通りです」
「それだと紫に迷惑や心配をかけてしまうでしょ? だったら、ちゃんと約束は守らなきゃだめじゃない?」
「は……はぃ……」
藍はとっても面映ゆい気持ちになって、幽々子と目を合わせられなかった。
そして反芻した。
約束を守るというのは、理屈じゃないと。
我が身を危険に曝さなければ問題はないと。
そんな自分が慙愧に堪えなかった。
目を合わせられなかったのはこれだけではない。
普段では絶対にありえない抱擁感溢れる言霊の数々。
これは実に新鮮で、この二つが心中を拮抗状態に陥れていた。
そんな所懐に浸っていたため、顔を赤らめて視線を落としていた。
そんな藍に、幽々子が背後から覆いかぶさるように優しく腕で包んでくれた。
「大丈夫よ」
温かく、それでいて重くもあるその言葉に、藍は心底救われた気がした。
「あの……。ありがとうございます……」
幽かな声で、しかも早口で言った。
鼓動が早まるのがよく分かる。
藍は悠久の時間を過ごしているような、そんな気分になった。
もう少しこうしていたいと思ったのも束の間、幽々子は背からやおら離れて言った。
「さぁ、帰りましょ」
そして二人はしばらく、なだらかな丘を行った。
登りきったところで、一面を黄色い花が飾っていた。
「あ、女郎花(おみなえし)だ!」
無邪気にも、道を外れて脇目も振らず花畑の中へ駆けていった。
「見て下さい幽々子様! こんなに沢山!」
と藍が振り返ったときには、今の今まで一緒にいた幽々子の姿が消え去っていた。
「幽々子様……」
少し寂しい気持ちに襲われた藍であったが、幽々子の数々の言葉を思い出し、肝に銘じた。
すると、自然と元気が自分の奥底から泉のように溢れ出てきた。
「よしっ。早く帰ろ」
きびすを返し、花畑を後にしようとしたが、少し立ち止まった。
「そうだ。これ紫様に持っていったら喜ぶんじゃないかな」
二、三本の女郎花を摘んで花畑を後にした。
既に足元の影が伸び始め、いよいよ空が緋に染まらんとしていた。
「遅かったわね。どこを徘徊していたのかしら?」
卓袱台(ちゃぶだい)に向かってお茶を嗜んでいた紫の瞳が、鋭い流し目で藍に向けられる。
「博麗神社へお届け物を……」
先の出来事が白昼夢であったかのような感覚に藍は陥った。
「じゃあ、その手に持っているのは何かしら?」
「これは……紫様に差し上げようと……」
「道から外れて摘んできた、かしら?」
次々に訊いてほしくない、言ってほしくないことを飛ばされる。
紫は大きな溜息を一つついて、視線を藍の反対側へやった。
「最近は自分の立場をどうも弁えていないようね。あなたはわたしの式神、そしてわたしの指示に従わなければならないの。分かるかしら?」
「……はい」
「所詮は式神。式神の分際で主の命令を正しく遂行できないようじゃ存在する価値がないわ」
「…………」
女郎花を両手で持ったまま立ち竦んでしまった。
藍は俯いていて見ることはなかったが、このとき紫の目は泳いでいた。
「そうねぇ。もう何回言っても聞かないってんだから、こっちにも手があるわ」
「えっ……な、なにがですか?」
「あなたの中に鬼を創るわ」
「鬼……ですか?」
藍は意外な回答に戸惑いを覚えた。
「そうよ。鬼っていうのは飲んだくれのあの娘を指してるんじゃないわ。鬼とは恐怖の権化。精神的なダメージを人間が上手く具現化したもの。古来より伝わる鬼の伝説は虚構の寓話が多いわ。それは人間が戒めを守らせる為に恐怖を利用したからなの。今ではすっかり廃れちゃってるけど」
「向こうで廃れちゃってるのでこっちで使える……と?」
「そういうこと」
すると不気味な笑みと眼差しを向けられ、背筋が凍りつくような違和感を覚えた。
「さ、お腹がすいたわ。早くお昼にしましょ」
突然今まで何も話していなかったかのような、口調と表情に戻っていた。
藍には逆にそれが恐ろしく見えた。
台所に立つ。
紫曰く、既に藍の中には鬼を宿した、と。
藍自身、特に紫に何かされたわけでもないので実感がなかった。
大根、油揚げ、豆腐をリズミカルに切っているときも、鍋を火にかけるときも、鬼のことや幽々子のことが頭の中を駆け巡っていた。
「幽々子様ならこんなとき何て言うかなぁ……。鬼になんて恐れることはないわって抱いて下さるかな」
頭がかーっと熱くなり、頬を赤らめた。
自然と手の動きが早まった藍は、不図、幽々子の「親の心子知らず」という言葉を思い出した。
しかし、藍には鬼を宿すことが親心であるのか疑問であった。
「幽々子様は温かいのに、紫様は……」
それ以上は言えなかった。
従者として失言であったからというわけではなく、意中のもやもやしたわだかまりがその言葉の続きを遮ったのだ。
藍はもどかしかった。
忠義を捧げてきた人に迷いを持ってしまった己。
自責したところで解決するはずもなく、唯々、未熟であるを嘆くのみであった。
「いつまで鍋掻き回してるつもりなの?」
後ろから、待つことに飽きた者の低い声が投げつけられた。
藍がはっと気付いた頃には、味噌汁はこれでもかと言わんばかりの泡沫を吐き出していた。
「す、すみません! すぐにお持ちします!」
各々の碗に湯気を立たせる銀舎利(ぎんしゃり)と味噌汁を配膳した。
配膳してから藍が気付いた。
「あれ? 橙ってまだ帰ってきてませんよね?」
「本当ね。うっかりだったわ」
「おかしい……。この時間に帰ってきてないなんて……。きっと何かあったに違いありません! 紫様、わたしちょっと見てきます!」
「駄目よ」
勢いよく立ち上がった藍を一声で制止させた。
「何故です!?」
「わたしが行ってくるわ。あなたは留守番をしていなさい」
紫がすっと立ち上がる。
「わたしの質問に答えて下さい!」
藍の叫びも空しく、紫は境界の中へと姿を消した。
「どうして……なんです……」
唯々立ち尽くして目頭を押さえた。
時計の音だけが、胸が一杯の心に無味な音を響かせる。
そんな中、橙が寂しくて泣いている姿を想うと、段々居ても立ってもいられなくなった。
「紫様、幽々子様、ごめんなさい。留守番という約束は守れません」
誰に言うでもなく、しかし堂々と言った。
立ち尽くしていた藍は、罪悪感を多少なりとも残しながら、それを振り切って歩き出し、玄関を出て行った。
卓袱台の上では、女郎花が藍の背中を見つめていた。
「きっと橙はあそこまでの道のりのどこかのはず……」
藍には既に見当が付いていた。
夜の暗い小道を、草をなびかせる勢い。
それでも目をしっかりと見開いて、見落とすことなく探していく。
しかし、罪悪感を捨て切れていないこともあって、時々注意散漫になった。
それを考え出すと、鬼や、体罰のことが頭から離れなかった。
嫌な汗が頬を伝う。
「もう! そんなことは橙を無事に家に戻してから考えろ!」
叱咤して気を確かに持った。
あるところで、倒れている何かを遠目で発見した。
まさかと思って、すぐさま近寄ってみると、まさしく橙だった。
傷だらけの橙を急いで抱え起こす。
「どうしたの!?」
体を震わせながら藍が問うに対し、橙は衰弱した声でゆっくりと話す。
「藍さま……。えへへ……、ちょっと……行っちゃいけないところに……行っちゃいました……」
「もう……。駄目じゃないの! 心配したじゃない……」
藍は涙ぐみながらに訴えた。
「ごめんなさい……」
力の抜けたかすれた声で言ったのを、藍は首を横に振って応えた。
しかし内心は、安堵至りであった。
安心ばかりしていられないと、橙を道の脇の芝生に横にして藍は立ち上った。
近くの草むらから薬草をむしりとってきて、橙の傷口に塗った。
「いたっ! いたいですよぉ……」
「良薬よ。痛いに決まってるじゃない」
体中傷だらけの橙には堪えたようだ。
藍は応急処置を終えると、橙を背負って帰途についた。
「橙、大丈夫?」
「藍さまの塗った薬が染みて大丈夫じゃないです……」
少しふてくされた橙に、藍は、ははっと笑い飛ばした。
この笑いは橙を見つけた安心から発せられたものであることは言うまでもない。
歩いている途中、橙は眠りこけてしまった。
そんな橙に藍は囁いた。
「橙、ありがとうね。おかげでわたし、目が覚めたわ」
月光に照らされて、藍の顔は明るく生きていた。
「藍、言いたいことは分かっているわね」
卓袱台に向かってお茶を嗜んでいた紫の瞳が、鋭い流し目で藍に向けられる。
家に着いて早々のことだった。
「はい」
橙を背負った藍は毅然とした態度で返事をした。
「紫様、わたし分かりました。これからは紫様の命令に逆らうことは絶対にしません」
満面の笑顔で言われたもんだから、紫は逆に戸惑ってしまった。
「あ……あっそう。まぁ、なんでいいわ」
何を言うのか忘れてしまった紫は、藍が何か変わったことをなんとなく感じ取り、今回だけは見逃すことにした。
「早く橙を寝床へやって、ご飯の用意をし直して頂戴。全部冷めてしまったわ」
「はい!」
藍は橙を布団へ寝かし、手際よく作業をこなしていった。
あっという間に紫の前には湯気を立てた夕食が配膳された。
食が進む中で、藍が不図、いくつかの疑問を口にした。
「そういえばどうして紫様はわたしが帰ってきたときには悠々と緒お茶を楽しんでおられたのですか?」
「ん? ああ、わたしが橙を見つけたときにはあんたが背負ってたからとっとと帰っただけよ」
藍はそれだったらスキマで家まで送ってくれればいいのにと思ったが口にはしなかった。
「じゃあ、どうして鬼が発動しないんですか?」
「…………」
これには紫は少し考えてしまった。
「あの……紫様?」
「あんまり言いたくはないんだけどね、もうこの際だから言うわ」
とても投げやりな口調で説明を始めた。
「あんた約束を破ったとき……つまり家を出たときに罪悪感があったでしょ? あれよ」
「え…………」
意外すぎて言葉が喉に詰まった。
「もっと凄いものかと思ったって顔ね」
「それはもう」
「まぁ反省してなかったら本当に本当の恐怖を喰らわせてもよかったんだけどね」
紫はにやりと不気味な笑みを藍に向けたが、
「そうですね。そのときはお願いします」
とさっぱりと受けてたった。
そんな光景を花瓶に生けられた女郎花は静かに見守っていた。
ある朝、白玉楼に紫が訪れた。
「あら、紫じゃない」
「少し話がね」
…………
………
……
…
「ふぅん。言うことをきかない、ねぇ……」
幽々子は完全に上の空である。
「イレギュラー因子かしらね」
「命令に背いたら体罰ばかり与えてるんじゃないの?」
「そうね。十中八九体罰ね」
自信満々に答えるのに対して、幽々子はかくっと項垂れた。
「あなたは原因はそこにあるって考えないのかしら?」
「反省しなければ成長はみられないわ。それに危険も伴う」
「じゃあ、反省するなら体罰は与えないってこと?」
「愚問だわ」
「ならいいんだけど。そうね、偶にははったりをきかせてもいいんじゃない?」
「あの子は少し未知数な部分が多い。バグかもしれないからその都度修正を施していかないといけない」
それを聞いて幽々子は思わず吹いてしまった。
「ふふ。そうね。そうしてあげなさい」
「何がおかしいわけ?」
不服そうにお茶をすする。
「さて、じゃあ、わたしはちょっと出掛けてくるわ」
「あら、故人を置いてどこへいくのかしら?」
「散歩よ」
幽々子は立ち上がり歩いていってしまった。
紫が見えなくなった辺りで小さく囁いた。
「世話のかかる親子ね」
自分の中の藍様はもっとしっかりとしているイメージですので・・・
この話なら橙がお使いに行った方がそれっぽいかなぁ
感想ありがとうございます
確かに、自分でも書いていて少し頼りないかなぁ……とは思いました
なので今回は少しいとけない藍を勝手に題材として書きましたので悪しからず
因みに藍にお遣いをさせたのは、子の位置であり且つ親の位置にいたからなんです
「意地悪なんだろ・・・」では?
頼りない藍ってのも可愛いですね
だが、それがイイ。
あとゆゆ様の底知れなさが凄い。
この幽々子の元での妖夢は多分幸せ者。
いや、自分とこの親子事情はまた別かも知れませんが。
外見年齢もあって、「寄り道がばれて」という部分で違和感が