あの時の魔理沙の問い、可能性としてはありえなくも無い。
彼女が私と同じようにその時の事を忘れていると考えれば、ツジツマは合うのだ。
仮にそうであったとしたら、私はどうするべきなのだ?
『あれ、お姉さん。以前に私と会ったことあるよね』
あの言葉が妙に引っかかる。
私に何か非があったのなら謝りたい、しかし……そもそもまだ思い出せない。
そんな事を考えながら後片付けをしていると、ノックの音が転がった。
「(誰にも会えない気分なのに……もう何よ、どちら様)」
どうせ忘れ物でもした魔理沙だろうと思いながら、私は扉を開けた。
薄い紫色の長髪をつむじ辺りでピョンと束ねた髪の女、魔理沙では無かった。
「随分探したのよ、アリスちゃんこんな所にいたのね」
誰……だっけ。
「まったく、急に家を飛び出したっきり音沙汰が無いものだから、お母さん心配してたのよ。
とりあえず上がらせてもらうわね」
呆気にとられている私を尻目に、その女は私の家に入っていった。
「ちょっと待ってよ、貴方……誰なの?」
今の言葉は半分合っているが、半分間違っている。
正確には私はこの女を知っている、しかし知らない。いや、知らない事にしなければいけない。
そんな気がした。
「貴方、もしかして『マーガトロイド』?
あはははは、なるほど道理でおかしいと思ったわ」
「何を言っているの、私は『アリス・マーガトロイド』よ」
「その様子だと、『アリス』ちゃんはいないみたいね。まあとにかく座って話しましょうよ」
母である彼女は、もちろん私の幼い頃についても良く知っていた。
そして私は、知りたくてたまらなかった事を知る事となる。
「覚えてる?貴方がが人形作りを始めたきっかけ」
「覚えてないわよ」
「あら、忘れちゃったかしら?」
「目的は何、それが聞きたかっただけなら早く帰って」
「『アリス』ちゃん、怖がらずに思い出しなさい」
私は思い出すのが怖い、思い出したら何もかもが壊れてしまいそうで。
「あの日の事、覚えているでしょう?」
嫌だ、思い出したく無い。やめて……やめて。
『よしっ、貴方の名前はメディよ。よろしくね、メディ♪』
嬉しそうに人形に話しかける少女を、紫色の髪を持つ女性は眺めていた。
その表情は険しい。
『神綺様、いかがいたしましょう』
『時が来れば事は進むわ、具体的に言うと明日の夜かしら。賢い貴方ならこの意味が分かるわよね』
『かしこまりました』
そう言い残すと、その女は少女の部屋から去っていった。
『また明日、ね。おやすみなさいメディ』
女の従者らしき人物も、そう言い残しその場を後にした。
日の落ちた暗い部屋の中で、遊び疲れた少女と人形がすやすやと寝息を立てている。
可愛いものだ、とても将来有望な魔法使いとは思えない。
二人の寝顔を覗いている人影は思った。
『(神綺様も酷な事をなされるものだな)』
一瞬の閃光と爆音が辺りを包み込み、人影は姿を消した。
突然の出来事に、少女は飛び起きる。
メディ?
部屋の中には、泣き崩れる幼い金髪の少女と地面に横たわった人形があった。
そして、紫色の髪を持つ女性も。
なにやら少女に話しているようだ。
『あーあ、やっぱりこうなったわね』
泣き続ける少女に向かって、冷たく言い放つ。
『可哀想に、この人形。貴方がやったのよ。
言ったでしょう、貴方は殺す事しか出来ない。誰かと仲良くしようと思っても無駄なの。
貴方の存在価値は誰かを殺す事、何かを壊す事、それだけよ』
『ち、違う。私は……私じゃないもん!!』
『これは現実なの、早く現実を受け入れなさい』
『嘘だっ、お母様の嘘つきっ!!絶対に私はっ』
『いい加減にしなさい』
その女が少女の顔に手をかざすと、少女はガクリとその場に倒れこんだ。
やれやれと云った表情を浮かべる女に誰かが問う。
『神綺様、この人形はいかがいたしましょうか』
神綺と呼ばれたその女は、なにやらブツブツと呟いているようだ。
しばらくして
『あの辺の鈴蘭畑にでも捨ててきなさい。時を経れば思い出と共に土に還るでしょう。
私はマーガトロイドの方を何とかするから、お願いしておくわね』
『かしこまりました』
動かなくなった人形を抱き上げ、従者は言う。
『見事な自律人形でしたね……私などでは、こんな完全な物を作るのは無理ですよ』
『まだまだ私の教育が足りてなかったのかもね。
心のどこかに残っていた誰かと仲良くしたいって思いが、遊び相手を創り出した。
最も、アリスちゃんの中に残っていたその思いが完全に分かれて
マーガトロイドになってくれたのは、不幸中の幸いだけど。
私が創る神なら、この子には壊す神になってもらわないとね』
少女と人形はそれぞれが抱えられ、別々の方向へと運ばれていった。
『(神綺様、あなたの娘様は立派に「創る」力をお持ちです。
一介の従者に過ぎない私は何も申し上げませんが、本当にこれでよろしかったのですか)』
頭を抱えている私の元に、トコトコと人形が近寄ってきた。
手にしていた紅茶を差し出しながら
「ありすー、もうねるの?」
「いえ、まだ寝ないわ」
「わかったー」
「ねえ、痛いのと痛くないの。どっちがいい」
「んー?」
かざした手から放たれた光の塊が人形を直撃した。
盛大に吹き飛んだ人形は、壁に叩きつけられてその場に崩れ落ちた。
「ははははは、そうかお前は人形だから痛みなんて感じないんだったねえ。
無駄な事を聞いて悪かったわ」
「…………」
コナゴナに砕け散ったティーカップの中で、人形は二度と動き出す事は無かった。
「それで、私は誰を殺せばいいの?」
「マーガトロイドが親身にしていたあの人形、まだ生きてるらしいじゃない。
気に食わないと思わない?『アリス』ちゃん、あなたが殺し損なったって事よ」
知ってしまえばどうと云う事は無い、あの時果たせなかった事を果たせば良いだけの事だ。
山奥の鈴蘭畑、そこにたたずむアリスとメディスン。
「ねえメディスン、今日は大切な話があるの」
「アリス、どうしたの?何かいつもと雰囲気が違うけど」
「私ね、思い出したんだ。人形を作ろうと思った理由」
メディスンの顔が明るくなる、まるでこの時を待っていたかのように。
「えっ、本当に!?早速おしえてよー」
「それはね」
アリスは不気味な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「殺すためよ」
メディスンは悟った。
目の前にいる相手は私の知っているアリス・マーガトロイドでもなければ、マーガトロイドでもない。
そして、もう目の前の相手から逃げる事は不可能であるとも。
目を血走らせ、巨大な光の塊を作り出しているアリスに向かって叫ぶ。
「私、貴方と友達になれて……貴方に作ってもらえて幸せだった。ありがとう、『アリス』!!」
メディスンの脇を通り過ぎていった光の塊が、彼女の目に溜まっている毒の液体を吹き飛ばす。
はるか後方の爆発音を聞きながら、メディスンはまだ自分が生きている事を悟る。
「アリ……ス?」
「外れちゃったね」
メディスンはアリスの目を見ると、その場に崩れ落ちた。
「ごめんなさい、今すぐ楽にしてあげるね」
彼女の目は変わらず血走った、殺戮者の目であった。
彼女の手によって弾けとんだ人形は、鈴蘭畑に毒の雨を降らせる。
「あはははは、中々綺麗な最後だったじゃない」
鈴蘭の咲き乱れるその場所に、彼女はもういない。
時期を同じくして、森の中にある一人の人形師の家には笑い声がこだまする様になったという。
メディスンに日を改めて渡すつもりであったミニアリス人形は、今もそのまま家の中に置かれている。
もう、渡す必要が無いのだから。
彼女が私と同じようにその時の事を忘れていると考えれば、ツジツマは合うのだ。
仮にそうであったとしたら、私はどうするべきなのだ?
『あれ、お姉さん。以前に私と会ったことあるよね』
あの言葉が妙に引っかかる。
私に何か非があったのなら謝りたい、しかし……そもそもまだ思い出せない。
そんな事を考えながら後片付けをしていると、ノックの音が転がった。
「(誰にも会えない気分なのに……もう何よ、どちら様)」
どうせ忘れ物でもした魔理沙だろうと思いながら、私は扉を開けた。
薄い紫色の長髪をつむじ辺りでピョンと束ねた髪の女、魔理沙では無かった。
「随分探したのよ、アリスちゃんこんな所にいたのね」
誰……だっけ。
「まったく、急に家を飛び出したっきり音沙汰が無いものだから、お母さん心配してたのよ。
とりあえず上がらせてもらうわね」
呆気にとられている私を尻目に、その女は私の家に入っていった。
「ちょっと待ってよ、貴方……誰なの?」
今の言葉は半分合っているが、半分間違っている。
正確には私はこの女を知っている、しかし知らない。いや、知らない事にしなければいけない。
そんな気がした。
「貴方、もしかして『マーガトロイド』?
あはははは、なるほど道理でおかしいと思ったわ」
「何を言っているの、私は『アリス・マーガトロイド』よ」
「その様子だと、『アリス』ちゃんはいないみたいね。まあとにかく座って話しましょうよ」
母である彼女は、もちろん私の幼い頃についても良く知っていた。
そして私は、知りたくてたまらなかった事を知る事となる。
「覚えてる?貴方がが人形作りを始めたきっかけ」
「覚えてないわよ」
「あら、忘れちゃったかしら?」
「目的は何、それが聞きたかっただけなら早く帰って」
「『アリス』ちゃん、怖がらずに思い出しなさい」
私は思い出すのが怖い、思い出したら何もかもが壊れてしまいそうで。
「あの日の事、覚えているでしょう?」
嫌だ、思い出したく無い。やめて……やめて。
『よしっ、貴方の名前はメディよ。よろしくね、メディ♪』
嬉しそうに人形に話しかける少女を、紫色の髪を持つ女性は眺めていた。
その表情は険しい。
『神綺様、いかがいたしましょう』
『時が来れば事は進むわ、具体的に言うと明日の夜かしら。賢い貴方ならこの意味が分かるわよね』
『かしこまりました』
そう言い残すと、その女は少女の部屋から去っていった。
『また明日、ね。おやすみなさいメディ』
女の従者らしき人物も、そう言い残しその場を後にした。
日の落ちた暗い部屋の中で、遊び疲れた少女と人形がすやすやと寝息を立てている。
可愛いものだ、とても将来有望な魔法使いとは思えない。
二人の寝顔を覗いている人影は思った。
『(神綺様も酷な事をなされるものだな)』
一瞬の閃光と爆音が辺りを包み込み、人影は姿を消した。
突然の出来事に、少女は飛び起きる。
メディ?
部屋の中には、泣き崩れる幼い金髪の少女と地面に横たわった人形があった。
そして、紫色の髪を持つ女性も。
なにやら少女に話しているようだ。
『あーあ、やっぱりこうなったわね』
泣き続ける少女に向かって、冷たく言い放つ。
『可哀想に、この人形。貴方がやったのよ。
言ったでしょう、貴方は殺す事しか出来ない。誰かと仲良くしようと思っても無駄なの。
貴方の存在価値は誰かを殺す事、何かを壊す事、それだけよ』
『ち、違う。私は……私じゃないもん!!』
『これは現実なの、早く現実を受け入れなさい』
『嘘だっ、お母様の嘘つきっ!!絶対に私はっ』
『いい加減にしなさい』
その女が少女の顔に手をかざすと、少女はガクリとその場に倒れこんだ。
やれやれと云った表情を浮かべる女に誰かが問う。
『神綺様、この人形はいかがいたしましょうか』
神綺と呼ばれたその女は、なにやらブツブツと呟いているようだ。
しばらくして
『あの辺の鈴蘭畑にでも捨ててきなさい。時を経れば思い出と共に土に還るでしょう。
私はマーガトロイドの方を何とかするから、お願いしておくわね』
『かしこまりました』
動かなくなった人形を抱き上げ、従者は言う。
『見事な自律人形でしたね……私などでは、こんな完全な物を作るのは無理ですよ』
『まだまだ私の教育が足りてなかったのかもね。
心のどこかに残っていた誰かと仲良くしたいって思いが、遊び相手を創り出した。
最も、アリスちゃんの中に残っていたその思いが完全に分かれて
マーガトロイドになってくれたのは、不幸中の幸いだけど。
私が創る神なら、この子には壊す神になってもらわないとね』
少女と人形はそれぞれが抱えられ、別々の方向へと運ばれていった。
『(神綺様、あなたの娘様は立派に「創る」力をお持ちです。
一介の従者に過ぎない私は何も申し上げませんが、本当にこれでよろしかったのですか)』
頭を抱えている私の元に、トコトコと人形が近寄ってきた。
手にしていた紅茶を差し出しながら
「ありすー、もうねるの?」
「いえ、まだ寝ないわ」
「わかったー」
「ねえ、痛いのと痛くないの。どっちがいい」
「んー?」
かざした手から放たれた光の塊が人形を直撃した。
盛大に吹き飛んだ人形は、壁に叩きつけられてその場に崩れ落ちた。
「ははははは、そうかお前は人形だから痛みなんて感じないんだったねえ。
無駄な事を聞いて悪かったわ」
「…………」
コナゴナに砕け散ったティーカップの中で、人形は二度と動き出す事は無かった。
「それで、私は誰を殺せばいいの?」
「マーガトロイドが親身にしていたあの人形、まだ生きてるらしいじゃない。
気に食わないと思わない?『アリス』ちゃん、あなたが殺し損なったって事よ」
知ってしまえばどうと云う事は無い、あの時果たせなかった事を果たせば良いだけの事だ。
山奥の鈴蘭畑、そこにたたずむアリスとメディスン。
「ねえメディスン、今日は大切な話があるの」
「アリス、どうしたの?何かいつもと雰囲気が違うけど」
「私ね、思い出したんだ。人形を作ろうと思った理由」
メディスンの顔が明るくなる、まるでこの時を待っていたかのように。
「えっ、本当に!?早速おしえてよー」
「それはね」
アリスは不気味な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「殺すためよ」
メディスンは悟った。
目の前にいる相手は私の知っているアリス・マーガトロイドでもなければ、マーガトロイドでもない。
そして、もう目の前の相手から逃げる事は不可能であるとも。
目を血走らせ、巨大な光の塊を作り出しているアリスに向かって叫ぶ。
「私、貴方と友達になれて……貴方に作ってもらえて幸せだった。ありがとう、『アリス』!!」
メディスンの脇を通り過ぎていった光の塊が、彼女の目に溜まっている毒の液体を吹き飛ばす。
はるか後方の爆発音を聞きながら、メディスンはまだ自分が生きている事を悟る。
「アリ……ス?」
「外れちゃったね」
メディスンはアリスの目を見ると、その場に崩れ落ちた。
「ごめんなさい、今すぐ楽にしてあげるね」
彼女の目は変わらず血走った、殺戮者の目であった。
彼女の手によって弾けとんだ人形は、鈴蘭畑に毒の雨を降らせる。
「あはははは、中々綺麗な最後だったじゃない」
鈴蘭の咲き乱れるその場所に、彼女はもういない。
時期を同じくして、森の中にある一人の人形師の家には笑い声がこだまする様になったという。
メディスンに日を改めて渡すつもりであったミニアリス人形は、今もそのまま家の中に置かれている。
もう、渡す必要が無いのだから。
とっても悔しいのでこの点数を食らえ!
……真面目に感想付けると、ほのぼのアリス&メディから
欝展開への流れが連作ギミック込みで秀逸でした。
狙い通りにやれれたんだろうなあ、俺。
BADENDは嫌いじゃないし、こんな終わりも好きだけれど、唐突すぎて違和感が。
正直蛇足に思えてしまった。
だまされちまったじゃねえか。
何か悔しいのでこの点数。
ほのぼのだと思わせる1話の終わらせ方がすばらしい!
まさに二つの視点から見ているような感じでした。
構想を練り上げるのはかなり大変だったのでは。
けど大どんでん返しと言うにはやや短すぎませんか
後一ひねり加えてやっぱりハッピーエンドの三部作にしたほうがよかった気がします