「約束して妖夢、私が言うことを聞けばあの子には手を出さないと」
「ええ、わかってますよ。もとはと言えばあなたの躾がなってないせいなんですから」
「やめて! お願いだから! 悪いのは私、鈴仙は関係ないの!」
それは、とある深夜の一室で行われている。
一匹の兎は両手両足を縛られ、ベットに転がされている。もう一匹の兎は柱に縛り付けられ、やはり身動きを出来ないでいる。そしてそれを見下ろすもう一つの影。
「ねぇ聞いて! 悪いのは全部私なんだって! だから、鈴仙だけには手を出さないで!」
「ううん、いいのよてゐ。私が我慢すれば済むんだから」
「そんな……なんで? なんで鈴仙が……私にはわかんないよぅ」
「ふふ、目まぐるしい友情ですね。兎は仲間意識が強いと聞いていましたが、ここまでとは」
妖夢の手が鈴仙に伸びる。それをただ見ているだけしか出来ない己の無力さに涙を流すてゐ。
「なに、そんなに手荒な真似はしませんよ。慣れてくれば自分から求めてくるくらいですから」
「やめて……やめてあげて、お願い……だから……」
「大丈夫よ、てゐ。私耐えるから、耐えて見せるから」
「兎の肉はどんな味がするのか楽しみですが、まずはじっくり下準備をしませんと……本当に、楽しみですよ」
この後、朝までこの一室から兎の嬌声とそれを嘲笑う声、そしてその端でひたすら泣き続ける兎の声が響いた。
以上、『庭師と兎 第一章 ~狩る者と狩られる者~』より。
小悪魔が出たばかりの新刊、『庭師と兎』を読んでいる時にそれは起きた。
「読書中にごめんなさい、この本の続きを探してるのだけど」
咲夜がある本の続きを探しに図書館へとやって来る。
「ああ、メイド長。構いませんよ、えーと、この本の続きです……ね?」
その本のタイトルを目にしたとたん小悪魔は金縛りに遭ったかのごとく硬直し、全身から汗が噴出す。
「あ、あの、つかぬ事をお聞きしますが、この本……読みました?」
動かぬ体を無理やり動かし、出来ることならしたくない質問を口にする小悪魔。
「ええ、読んだから続きを借りに来たのだけど」
小悪魔の体は硬直から解き放たれると同時にガタガタと震えだす。汗は噴出しすぎてもはや脱水症状寸前である。
「い、いや、違うんですよ!? 私は止めたんですけどパチュリー様がそんなの関係無ぇって言って止めなかったんです! ですからナイフだけは! 剣山だけはお許しをー!」
その場にしゃがみこみ、頭を抱えてひたすら許しを請う小悪魔に咲夜は声をかける。
「何を勘違いしてるか知らないけど、私はただこの本の続きを借りに来ただけよ」
「ああ、きっと止まった時の中で何が起きたのかもわからず剣山に――って、メ、メイド長、怒って無いんですか?」
頭の中で『これだけのナイフ、かわしきれるかー!』と叫ぶ咲夜を想像していた小悪魔にとってあまりにも予想外の言葉を口にする咲夜。
「怒るって、何でよ?」
「え、だ、だってこの本の内容は!」
「その程度で怒ったりはしないわよ。まぁ私に黙って、と言うのはどうかと思うけど」
「アリスさんは怒りましたよ、記憶喪失になる直前まで殴られました。そういえばあの時のアリスさん、新刊を没収するとか言ってたけど結局しませんでしたねぇ。なぜでしょうか?」
それは小悪魔が泣いてアリスにすがったからであるがそれを憶えていないあたり、一度永遠亭で検査を受けた方がいいかもしれない。
「とにかく、私は怒る気は無いわ。それより早くしてくれないかしら。仕事も残ってるし、なにより美鈴の盗撮写真を整理して、美鈴の使用済みの下着を盗み出して、今日は美鈴にどんなスキンシップをしようか考えながら美鈴に差し入れを持っていかなきゃいけないの」
この場合のスキンシップとはセクハラとも言う。
「そうですか、それは大変ですね」
小悪魔はなるべく今のを聞かなかったことにして話を進める。
「そうなの、だから早くしてくれると助かるわ」
「でわ、ちょっと持ってくださいね。すぐ持ってきますので」
そう言うと、小悪魔は本の山へと飛んで行く。
「それにしてもよくあんな本の山から見つけ出せるわね」
咲夜は一番近くにある椅子に腰を下ろし、すでに読み終えた本の表紙を眺める。
「でも、これでやっと続きが読めるわ」
果たして、これから読む本にはどんな続きが待っているのか、想像しただけで待ちきれなくなる咲夜だった。
「持って参りました。こちらですね」
「ありがとう。随分速いのね」
ものの五分程度で見つけ出し、咲夜に本を手渡す小悪魔。あの本の山を見た者にとっては信じられない速さだろう。
「それじゃ、私は行くわ。さっきも言った通り忙しいから」
「そうですか。でも以外ですね、その本のこと知ったら私とパチュリー様、揃って十七分割にでもされるかと思いましたよ」
「そんなわけ無いじゃない。こんないい話を……」
この時の咲夜の目はもの凄く淫妖で怪しげだと小悪魔は思った。
「読み終わったらまた続きを借りに来るから」
そう言って扉へと向かう咲夜。
「あ、そうそう」
咲夜は扉へ手をかけたところで振り返る。
「あなた、お嬢さまが呼んでたわよ。今すぐ私の部屋に来ないと八つ裂きにするって」
そう言い残し、扉から出て行く咲夜。その手に握られた本の表紙には『従者と門番 第二章 ~奪われる思い~』と書かれていた。
「へ? そ、そういうことは先に言って下さいよーー!」
「も、申し訳ありませんお嬢さま! 小悪魔、只今出頭しました!」
「出頭って……軍じゃないんだから、まぁいいけど」
咲夜の言葉を聞き、レミリアの自室まですっ飛んで来た小悪魔。その場にはレミリア以外にパチュリーもいた。二人はテーブルに腰掛け紅茶を楽しんでいる。
「それで、お嬢さま。私に何用でしょうか?」
「とりあえず、突っ立てないであなたも座りなさい」
「でわ、お言葉に甘えて」
言われたとおり、椅子に据わる小悪魔。
「それじゃ本題に入るけど、まずはあなた、この本に見覚えはあるわね?」
そう言って三冊の本をテーブルの上に出すレミリア。
この時、小悪魔はなぜ、一日に二回も死の覚悟をしなければいけないのだろう、と思った。
「そ、その本はー!」
三冊の本、その表紙にはそれぞれ『従者と門番 第三章 ~堕ちていく二人~』『白黒と七色の魔法使い 第一章 ~操られる人形遣い~』そして『吸血姉妹と魔女 第一章 ~始まりの宴~』と書かれている。
「やっぱり知ってるようね。所で私は今、凄く頭に来てる事があるの」
「うう、信じてはもらえないでしょうけど、私は生涯を此処、紅魔館で過ごせたことを幸せに、そして誇りに思っていました。時々でいいですから私と言う存在が居た事を思い出してくれればそれ幸いです」
「この世とのお別れは後にしてくれないかしら、まだ話は終わってないし」
放っておくとこのまま辞世の句を歌い始めかねない小悪魔に声をかけるレミリア。
「え? 話って私はてっきり勝手にこんな本書いてた私たちをグングニルで貫くために呼ばれたのかと」
「……今時あなたくらいよ、私をそんなに恐れてくれるの。最近じゃ咲夜も私のことそっちのけで美鈴のことばっかだし、美鈴も美鈴よ、何で侵入者と普通に門の前で世間話してんのよ」
きっと悩みとか相談してたんだろうなぁ、ストーカーとかの。と、小悪魔は思いながらも口には出さないのは誰への配慮なのだろうか。
「レミィ、話がずれてきてるわ、そろそろ用件を聞きたいのだけれど」
「ああ、ごめんなさい。話を戻すわ。この本、身内はともかく部外者まで題材にしてるわよね。そこが気に入らないの」
「はぁ、つまり人様の名前を勝手に使ってこんなのを書くのは紅魔館の看板に泥を塗る、って事でしょうか?」
レミリアの出す少ないヒントから自分なりの答えを出す小悪魔だが、レミリアは首を横に振る。
「違う。全然違う。まるで違う。わかってないわ。私が言ってるのはこの手の本を書く書かないじゃなくて、この本の内容よ!」
「やっぱり、妹様の身代わりとしてお嬢さまを蹂躙するのは不味かったでしょうか?」
しかも、それを差し向けた黒幕がフランドールだったりする。
「別にそんなことで怒ったりはしないわ。そんなのは所詮本の中の話しだし。読み物としてはまぁまぁ面白かったし」
「さすがお嬢さま。大物ですね、器が大きいです」
「……あなた、私のこと大物と呼んでくれるの? いい子なのね、あなた。最近じゃメイド達だって私の言うこと聞いてくれないのに……。この間だって私の皿にはピーマンは入れるなって言ったのに、その日の晩に青椒肉絲作ってくるし……馬鹿だからって私の言ったことまですぐ忘れないで欲しいわ」
それ確実に嫌がらせですよ、と言いかけて言わなかったのは、小悪魔自身の為なのかメイド達の為なのかレミリアの為なのか。
「レミィ、このペースだといつ話が終わるかわからないから、早い所用件を言ってくれないかしら?」
「ああ、ごめんなさい。つい日頃の悩みが……。まぁそれはともかく、私が言いたいのは――」
お嬢さまと美鈴様が一度ゆっくり相談しあえば二人の悩みが同時に解決しそうな気がします、と小悪魔はあえて心の中でアドバイスを送り、レミリアの次の言葉を待つ。
「なぜこれだけの本があって! 霊夢の出てる本が一冊も無いのよ!」
ごめんなさいお嬢さま、私もお嬢さまを見る目が変わりそうです、と再び心の中で呟く小悪魔だった。
「なぜ無いと聞かれたら、書いてないからとしか答えられないわね」
「なんで書いてないのよ! 私や咲夜を陵辱してる暇があったら霊夢を書きなさいよ!」
「私はあなたや咲夜を陵辱したかったのよ」
「私を陵辱するのは後でもいいでしょう! 先に霊夢を陵辱しなさいよ!」
「それはダメよ、霊夢は真性の攻めだから」
「そうです! 霊夢さんは悩むまでも無く攻めです!」
「なら、むしろ霊夢が私を陵辱すればいいじゃない!」
「それもダメよ、あなたは私が陵辱するから」
この後、ニ時間に渡り誰が攻めか受けか、誰が誰を陵辱するのかについて熱く討論された。ちなみにこの二時間で陵辱という言葉は百八回使われた。
ほかにも蹂躙という言葉は九十二回、調教は五十四回使われた。
「つまり、お嬢さまは霊夢さんが出るシリーズを書けと言うのですね」
「ええ、そうよ。内容は貴方達のセンスに任すから」
「いいんですか? 私たちが書くと霊夢さんは攻めですよ?」
「構わないわ。この私を陵辱し、調教仕上げたパチェならきっといい物を書いてくれると思うから」
第三者が聞いたら何事かと思われる会話である。ちなみに今ので陵辱は百九回、調教は五十五回に増えた。
「まぁ、あなたの頼みなら書くけど、多分、時間かかるわよ」
「どれ位かかるかしら?」
「わからないわ、事情はどうあれ書くからには妥協せず、ちゃんとしたものを書きたいの」
「構わないわ、待つわよ。それぐらい気合入れて貰わないと、なんせ題材は霊夢だし」
「パチュリー様、頑張りましょう。私も出来る限りのことはしますから」
「ええ、小悪魔。今回はあなたにも色々相談に乗ってもらうと思うわ」
今此処に作家と読者、そして編集者という本を出すのに必要な三つがそろった。だから何だと言う訳では無いが。
「それでパチュリーはずっと机に噛り付いて白紙の本と睨めっこしているのね」
「ええ、まぁ机に噛り付いてるのはいつもの事ですけど」
既にパチュリーが執筆に取り掛かって一週間が過ぎた。この日はアリスが出たばかりの新刊『庭師と兎』を借りに来ていた。
「でも、パチュリー様、全然ペンが進んでないんですよ。やっぱり自分から書こうとしたものじゃないから勝手が違うんですかねぇ」
「私としては新シリーズもいいけど他のシリーズの新刊も読みたい所なのよねぇ」
いかにも古株の読者な意見である。
「それは私としても同じ意見なんですけど、これがお嬢さまに認められれば今迄みたいにこそこそせずに書けますし、場合によっては増刷してこの図書館で販売するかも知れません」
「あら、それはいいわね。いちいち返すの手間だったし」
「ええ、ですからパチュリー様には頑張って貰いたいのですが……」
だが実際は白紙の一ページ目との睨めっこが一週間。当初言っていた小悪魔への相談も何もないままである。
「そう、大変ね。力にはなってあげれそうに無いけど、一読者として応援はしてるわ」
それじゃ、と言い残しアリスが図書館を去ろうとしたその時である。バタン! と勢いよく本が閉じる音にアリスは立ち止まる。
アリスと小悪魔が音のした方へと振り向くと、そこには先ほどまで白紙のページと睨めっこしていたパチュリー。先ほどと違うのは開かれていた本が閉じている所である。
わずかな沈黙の後、パチュリーがゆっくりと口を開く。
「二人に質問があるわ」
パチュリーが誰かに知恵を借りるのは非常に珍しい光景だろう。
「何かしら?」
「相談にはいつでも乗るつもりですよ」
「助かるわ。それじゃ一つ目、愛はどうやったら芽生えるのかしら?」
「芽生えようとして芽生える物じゃありませんよ」
「そうね、気が付いたら芽生えてる、だから摘むことも出来ないんじゃないかしら」
「二つ目、愛は暴走する物だと思う?」
「ええ、愛はとても強いですから」
「あまり強く押さえつけていたらいずれは暴れだすわ」
「最後に三つめ、暴走した愛は愛だと思う?」
「愛です」
「ええ、愛よ」
「そう、ありがとう」
パチュリーは礼を述べると、ペンを握り締め表紙に走らせた。そして表紙をめくり、白紙の一ページ目にもペンを走らせ続ける。
「もう、心配は要らないみたいね」
「はい。新シリーズ、楽しみにしていてください」
「ええ、そうするわ。でも、他のシリーズも忘れないようにって言っといてね」
「わかりました。伝えておきます」
そして、今度こそ図書館を去るアリス。それを見送る小悪魔、その後ろでひたすらペンを走らせ続けるパチュリー。作品とは書く者、読む者、それらを繋げる者がいて初めて完成するのだ。だからそれぞれはそれぞれに敬意を表して『作家』『読者』『編集者』と呼ぶのだ。
だから何だという訳では無いが。
さらにそれから三日後、ついに完成した『紅白と蒼白の巫女 一章 ~混じり合う赤と青~』はレミリアに太鼓判を押され、近々パチュリーシリーズは増刷予定である。
「咲夜さん、最近私の下着が盗まれてるみたいなんですよ」
「そう、大変ね美鈴。あなたは魅力的だから気をつけなさい」
「気をつけてはいるんですけどね。私に悟られずに下着を盗むなんて時を止めでもしない限り無理だと思うんですよねぇ」
「……そうねぇ」
「それでもし犯人を見つけたら、全身の骨が砕けるまでサンドバックにしてやろうと思うんです」
「……それは過激ね」
「でも、もし素直に謝るんなら許そうかと思います」
「ごめんなさい」
「そういえば販売するにしても私以外の誰が買うのよ? メイド達かしら、紫とか幽々子は好みそうだけど」
「ようアリス、何してんだ?」
「あら魔理沙、いらっしゃい」
「そろそろ、いらっしゃいじゃなくてお帰りって言って欲しいぜ」
「え、ええ!? ま、まぁいいわよ。 お、お帰りなさい魔理沙」
「おう、ただいまだぜ。ってどうしたんだ? 顔が真っ赤だぜ」
「な、なんでも無いわよ……それよりどうしたのよ、急に」
「用事が無きゃここに来ちゃダメか?」
「べ、別にそう言う訳じゃ……」
「まぁ、理由を付けるとすればお前の顔が見たくなった」
「な! ななな、何を言って――」
「じゃあ、お前の声を聞きたくなった」
「まま、魔理沙!?」
「お前に触りたくなった、お前を味わいたくなった、お前を――感じたくなった」
「だ、だめよ! こんな時間から、ああ、そんな強引に、ああぁぁぁぁ」
「ええ、わかってますよ。もとはと言えばあなたの躾がなってないせいなんですから」
「やめて! お願いだから! 悪いのは私、鈴仙は関係ないの!」
それは、とある深夜の一室で行われている。
一匹の兎は両手両足を縛られ、ベットに転がされている。もう一匹の兎は柱に縛り付けられ、やはり身動きを出来ないでいる。そしてそれを見下ろすもう一つの影。
「ねぇ聞いて! 悪いのは全部私なんだって! だから、鈴仙だけには手を出さないで!」
「ううん、いいのよてゐ。私が我慢すれば済むんだから」
「そんな……なんで? なんで鈴仙が……私にはわかんないよぅ」
「ふふ、目まぐるしい友情ですね。兎は仲間意識が強いと聞いていましたが、ここまでとは」
妖夢の手が鈴仙に伸びる。それをただ見ているだけしか出来ない己の無力さに涙を流すてゐ。
「なに、そんなに手荒な真似はしませんよ。慣れてくれば自分から求めてくるくらいですから」
「やめて……やめてあげて、お願い……だから……」
「大丈夫よ、てゐ。私耐えるから、耐えて見せるから」
「兎の肉はどんな味がするのか楽しみですが、まずはじっくり下準備をしませんと……本当に、楽しみですよ」
この後、朝までこの一室から兎の嬌声とそれを嘲笑う声、そしてその端でひたすら泣き続ける兎の声が響いた。
以上、『庭師と兎 第一章 ~狩る者と狩られる者~』より。
小悪魔が出たばかりの新刊、『庭師と兎』を読んでいる時にそれは起きた。
「読書中にごめんなさい、この本の続きを探してるのだけど」
咲夜がある本の続きを探しに図書館へとやって来る。
「ああ、メイド長。構いませんよ、えーと、この本の続きです……ね?」
その本のタイトルを目にしたとたん小悪魔は金縛りに遭ったかのごとく硬直し、全身から汗が噴出す。
「あ、あの、つかぬ事をお聞きしますが、この本……読みました?」
動かぬ体を無理やり動かし、出来ることならしたくない質問を口にする小悪魔。
「ええ、読んだから続きを借りに来たのだけど」
小悪魔の体は硬直から解き放たれると同時にガタガタと震えだす。汗は噴出しすぎてもはや脱水症状寸前である。
「い、いや、違うんですよ!? 私は止めたんですけどパチュリー様がそんなの関係無ぇって言って止めなかったんです! ですからナイフだけは! 剣山だけはお許しをー!」
その場にしゃがみこみ、頭を抱えてひたすら許しを請う小悪魔に咲夜は声をかける。
「何を勘違いしてるか知らないけど、私はただこの本の続きを借りに来ただけよ」
「ああ、きっと止まった時の中で何が起きたのかもわからず剣山に――って、メ、メイド長、怒って無いんですか?」
頭の中で『これだけのナイフ、かわしきれるかー!』と叫ぶ咲夜を想像していた小悪魔にとってあまりにも予想外の言葉を口にする咲夜。
「怒るって、何でよ?」
「え、だ、だってこの本の内容は!」
「その程度で怒ったりはしないわよ。まぁ私に黙って、と言うのはどうかと思うけど」
「アリスさんは怒りましたよ、記憶喪失になる直前まで殴られました。そういえばあの時のアリスさん、新刊を没収するとか言ってたけど結局しませんでしたねぇ。なぜでしょうか?」
それは小悪魔が泣いてアリスにすがったからであるがそれを憶えていないあたり、一度永遠亭で検査を受けた方がいいかもしれない。
「とにかく、私は怒る気は無いわ。それより早くしてくれないかしら。仕事も残ってるし、なにより美鈴の盗撮写真を整理して、美鈴の使用済みの下着を盗み出して、今日は美鈴にどんなスキンシップをしようか考えながら美鈴に差し入れを持っていかなきゃいけないの」
この場合のスキンシップとはセクハラとも言う。
「そうですか、それは大変ですね」
小悪魔はなるべく今のを聞かなかったことにして話を進める。
「そうなの、だから早くしてくれると助かるわ」
「でわ、ちょっと持ってくださいね。すぐ持ってきますので」
そう言うと、小悪魔は本の山へと飛んで行く。
「それにしてもよくあんな本の山から見つけ出せるわね」
咲夜は一番近くにある椅子に腰を下ろし、すでに読み終えた本の表紙を眺める。
「でも、これでやっと続きが読めるわ」
果たして、これから読む本にはどんな続きが待っているのか、想像しただけで待ちきれなくなる咲夜だった。
「持って参りました。こちらですね」
「ありがとう。随分速いのね」
ものの五分程度で見つけ出し、咲夜に本を手渡す小悪魔。あの本の山を見た者にとっては信じられない速さだろう。
「それじゃ、私は行くわ。さっきも言った通り忙しいから」
「そうですか。でも以外ですね、その本のこと知ったら私とパチュリー様、揃って十七分割にでもされるかと思いましたよ」
「そんなわけ無いじゃない。こんないい話を……」
この時の咲夜の目はもの凄く淫妖で怪しげだと小悪魔は思った。
「読み終わったらまた続きを借りに来るから」
そう言って扉へと向かう咲夜。
「あ、そうそう」
咲夜は扉へ手をかけたところで振り返る。
「あなた、お嬢さまが呼んでたわよ。今すぐ私の部屋に来ないと八つ裂きにするって」
そう言い残し、扉から出て行く咲夜。その手に握られた本の表紙には『従者と門番 第二章 ~奪われる思い~』と書かれていた。
「へ? そ、そういうことは先に言って下さいよーー!」
「も、申し訳ありませんお嬢さま! 小悪魔、只今出頭しました!」
「出頭って……軍じゃないんだから、まぁいいけど」
咲夜の言葉を聞き、レミリアの自室まですっ飛んで来た小悪魔。その場にはレミリア以外にパチュリーもいた。二人はテーブルに腰掛け紅茶を楽しんでいる。
「それで、お嬢さま。私に何用でしょうか?」
「とりあえず、突っ立てないであなたも座りなさい」
「でわ、お言葉に甘えて」
言われたとおり、椅子に据わる小悪魔。
「それじゃ本題に入るけど、まずはあなた、この本に見覚えはあるわね?」
そう言って三冊の本をテーブルの上に出すレミリア。
この時、小悪魔はなぜ、一日に二回も死の覚悟をしなければいけないのだろう、と思った。
「そ、その本はー!」
三冊の本、その表紙にはそれぞれ『従者と門番 第三章 ~堕ちていく二人~』『白黒と七色の魔法使い 第一章 ~操られる人形遣い~』そして『吸血姉妹と魔女 第一章 ~始まりの宴~』と書かれている。
「やっぱり知ってるようね。所で私は今、凄く頭に来てる事があるの」
「うう、信じてはもらえないでしょうけど、私は生涯を此処、紅魔館で過ごせたことを幸せに、そして誇りに思っていました。時々でいいですから私と言う存在が居た事を思い出してくれればそれ幸いです」
「この世とのお別れは後にしてくれないかしら、まだ話は終わってないし」
放っておくとこのまま辞世の句を歌い始めかねない小悪魔に声をかけるレミリア。
「え? 話って私はてっきり勝手にこんな本書いてた私たちをグングニルで貫くために呼ばれたのかと」
「……今時あなたくらいよ、私をそんなに恐れてくれるの。最近じゃ咲夜も私のことそっちのけで美鈴のことばっかだし、美鈴も美鈴よ、何で侵入者と普通に門の前で世間話してんのよ」
きっと悩みとか相談してたんだろうなぁ、ストーカーとかの。と、小悪魔は思いながらも口には出さないのは誰への配慮なのだろうか。
「レミィ、話がずれてきてるわ、そろそろ用件を聞きたいのだけれど」
「ああ、ごめんなさい。話を戻すわ。この本、身内はともかく部外者まで題材にしてるわよね。そこが気に入らないの」
「はぁ、つまり人様の名前を勝手に使ってこんなのを書くのは紅魔館の看板に泥を塗る、って事でしょうか?」
レミリアの出す少ないヒントから自分なりの答えを出す小悪魔だが、レミリアは首を横に振る。
「違う。全然違う。まるで違う。わかってないわ。私が言ってるのはこの手の本を書く書かないじゃなくて、この本の内容よ!」
「やっぱり、妹様の身代わりとしてお嬢さまを蹂躙するのは不味かったでしょうか?」
しかも、それを差し向けた黒幕がフランドールだったりする。
「別にそんなことで怒ったりはしないわ。そんなのは所詮本の中の話しだし。読み物としてはまぁまぁ面白かったし」
「さすがお嬢さま。大物ですね、器が大きいです」
「……あなた、私のこと大物と呼んでくれるの? いい子なのね、あなた。最近じゃメイド達だって私の言うこと聞いてくれないのに……。この間だって私の皿にはピーマンは入れるなって言ったのに、その日の晩に青椒肉絲作ってくるし……馬鹿だからって私の言ったことまですぐ忘れないで欲しいわ」
それ確実に嫌がらせですよ、と言いかけて言わなかったのは、小悪魔自身の為なのかメイド達の為なのかレミリアの為なのか。
「レミィ、このペースだといつ話が終わるかわからないから、早い所用件を言ってくれないかしら?」
「ああ、ごめんなさい。つい日頃の悩みが……。まぁそれはともかく、私が言いたいのは――」
お嬢さまと美鈴様が一度ゆっくり相談しあえば二人の悩みが同時に解決しそうな気がします、と小悪魔はあえて心の中でアドバイスを送り、レミリアの次の言葉を待つ。
「なぜこれだけの本があって! 霊夢の出てる本が一冊も無いのよ!」
ごめんなさいお嬢さま、私もお嬢さまを見る目が変わりそうです、と再び心の中で呟く小悪魔だった。
「なぜ無いと聞かれたら、書いてないからとしか答えられないわね」
「なんで書いてないのよ! 私や咲夜を陵辱してる暇があったら霊夢を書きなさいよ!」
「私はあなたや咲夜を陵辱したかったのよ」
「私を陵辱するのは後でもいいでしょう! 先に霊夢を陵辱しなさいよ!」
「それはダメよ、霊夢は真性の攻めだから」
「そうです! 霊夢さんは悩むまでも無く攻めです!」
「なら、むしろ霊夢が私を陵辱すればいいじゃない!」
「それもダメよ、あなたは私が陵辱するから」
この後、ニ時間に渡り誰が攻めか受けか、誰が誰を陵辱するのかについて熱く討論された。ちなみにこの二時間で陵辱という言葉は百八回使われた。
ほかにも蹂躙という言葉は九十二回、調教は五十四回使われた。
「つまり、お嬢さまは霊夢さんが出るシリーズを書けと言うのですね」
「ええ、そうよ。内容は貴方達のセンスに任すから」
「いいんですか? 私たちが書くと霊夢さんは攻めですよ?」
「構わないわ。この私を陵辱し、調教仕上げたパチェならきっといい物を書いてくれると思うから」
第三者が聞いたら何事かと思われる会話である。ちなみに今ので陵辱は百九回、調教は五十五回に増えた。
「まぁ、あなたの頼みなら書くけど、多分、時間かかるわよ」
「どれ位かかるかしら?」
「わからないわ、事情はどうあれ書くからには妥協せず、ちゃんとしたものを書きたいの」
「構わないわ、待つわよ。それぐらい気合入れて貰わないと、なんせ題材は霊夢だし」
「パチュリー様、頑張りましょう。私も出来る限りのことはしますから」
「ええ、小悪魔。今回はあなたにも色々相談に乗ってもらうと思うわ」
今此処に作家と読者、そして編集者という本を出すのに必要な三つがそろった。だから何だと言う訳では無いが。
「それでパチュリーはずっと机に噛り付いて白紙の本と睨めっこしているのね」
「ええ、まぁ机に噛り付いてるのはいつもの事ですけど」
既にパチュリーが執筆に取り掛かって一週間が過ぎた。この日はアリスが出たばかりの新刊『庭師と兎』を借りに来ていた。
「でも、パチュリー様、全然ペンが進んでないんですよ。やっぱり自分から書こうとしたものじゃないから勝手が違うんですかねぇ」
「私としては新シリーズもいいけど他のシリーズの新刊も読みたい所なのよねぇ」
いかにも古株の読者な意見である。
「それは私としても同じ意見なんですけど、これがお嬢さまに認められれば今迄みたいにこそこそせずに書けますし、場合によっては増刷してこの図書館で販売するかも知れません」
「あら、それはいいわね。いちいち返すの手間だったし」
「ええ、ですからパチュリー様には頑張って貰いたいのですが……」
だが実際は白紙の一ページ目との睨めっこが一週間。当初言っていた小悪魔への相談も何もないままである。
「そう、大変ね。力にはなってあげれそうに無いけど、一読者として応援はしてるわ」
それじゃ、と言い残しアリスが図書館を去ろうとしたその時である。バタン! と勢いよく本が閉じる音にアリスは立ち止まる。
アリスと小悪魔が音のした方へと振り向くと、そこには先ほどまで白紙のページと睨めっこしていたパチュリー。先ほどと違うのは開かれていた本が閉じている所である。
わずかな沈黙の後、パチュリーがゆっくりと口を開く。
「二人に質問があるわ」
パチュリーが誰かに知恵を借りるのは非常に珍しい光景だろう。
「何かしら?」
「相談にはいつでも乗るつもりですよ」
「助かるわ。それじゃ一つ目、愛はどうやったら芽生えるのかしら?」
「芽生えようとして芽生える物じゃありませんよ」
「そうね、気が付いたら芽生えてる、だから摘むことも出来ないんじゃないかしら」
「二つ目、愛は暴走する物だと思う?」
「ええ、愛はとても強いですから」
「あまり強く押さえつけていたらいずれは暴れだすわ」
「最後に三つめ、暴走した愛は愛だと思う?」
「愛です」
「ええ、愛よ」
「そう、ありがとう」
パチュリーは礼を述べると、ペンを握り締め表紙に走らせた。そして表紙をめくり、白紙の一ページ目にもペンを走らせ続ける。
「もう、心配は要らないみたいね」
「はい。新シリーズ、楽しみにしていてください」
「ええ、そうするわ。でも、他のシリーズも忘れないようにって言っといてね」
「わかりました。伝えておきます」
そして、今度こそ図書館を去るアリス。それを見送る小悪魔、その後ろでひたすらペンを走らせ続けるパチュリー。作品とは書く者、読む者、それらを繋げる者がいて初めて完成するのだ。だからそれぞれはそれぞれに敬意を表して『作家』『読者』『編集者』と呼ぶのだ。
だから何だという訳では無いが。
さらにそれから三日後、ついに完成した『紅白と蒼白の巫女 一章 ~混じり合う赤と青~』はレミリアに太鼓判を押され、近々パチュリーシリーズは増刷予定である。
「咲夜さん、最近私の下着が盗まれてるみたいなんですよ」
「そう、大変ね美鈴。あなたは魅力的だから気をつけなさい」
「気をつけてはいるんですけどね。私に悟られずに下着を盗むなんて時を止めでもしない限り無理だと思うんですよねぇ」
「……そうねぇ」
「それでもし犯人を見つけたら、全身の骨が砕けるまでサンドバックにしてやろうと思うんです」
「……それは過激ね」
「でも、もし素直に謝るんなら許そうかと思います」
「ごめんなさい」
「そういえば販売するにしても私以外の誰が買うのよ? メイド達かしら、紫とか幽々子は好みそうだけど」
「ようアリス、何してんだ?」
「あら魔理沙、いらっしゃい」
「そろそろ、いらっしゃいじゃなくてお帰りって言って欲しいぜ」
「え、ええ!? ま、まぁいいわよ。 お、お帰りなさい魔理沙」
「おう、ただいまだぜ。ってどうしたんだ? 顔が真っ赤だぜ」
「な、なんでも無いわよ……それよりどうしたのよ、急に」
「用事が無きゃここに来ちゃダメか?」
「べ、別にそう言う訳じゃ……」
「まぁ、理由を付けるとすればお前の顔が見たくなった」
「な! ななな、何を言って――」
「じゃあ、お前の声を聞きたくなった」
「まま、魔理沙!?」
「お前に触りたくなった、お前を味わいたくなった、お前を――感じたくなった」
「だ、だめよ! こんな時間から、ああ、そんな強引に、ああぁぁぁぁ」
それはともかく、いやー前作に引き続き面白い
小悪魔が無意識にお嬢様からのかぶ上げてるwって言うか頭は大丈夫ですか!
それはそうと、ネチョゐ話を投稿する場所があったような気がしないでもない
まぁ、面白いからいいか。
誰か、この勇者をえーりんに
でも使う単語ももう少し控えた方が……
それは・・・それはっ!前作今作の登場キャラの内、小悪魔だけ本に登場して無いって事です!!
書いて無い?いえいえ。あのパチュリー先生に限ってそんな事はありえません!
きっとご自分と小悪魔出演作品を執筆済みで、小悪魔にも秘密にしてるんだぁぁああああ!!!
ちょっとさがしてくる
今回は点数を入れときます。
続きはあっちに。
個人的にはレミリアと同じで霊夢をもっと出して下さい~!
早苗×霊夢やレミリア×霊夢とか好きです。
ては次も頑張って下さい
ADVGのテキストじゃないんだから…。
耳が痛い言葉だお…
リクするなと言われても、ここまでやられてレイサナを期待するなというほうが酷ですぜ?
何にせよ、次の作品楽しみに待ってます。
次回は是非普通のネチョく無い作品をw
> ちなみにこの二時間で陵辱という言葉は百八回使われた。
笑い死ぬかと思った。
>「それもダメよ、あなたは私が陵辱するから」
会話がシュールすぎるwwwww
モット書けと言いたいけどー!
ひたすらにGJ!
にいくとあなたの同志がみつかりますよ。
テンポも良く、ギャグとしてとても楽しめました。