Coolier - 新生・東方創想話

秋静葉は無口カワイイ

2007/10/30 03:22:38
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『寂しさと終焉の象徴』 と呼ばれるだけあるのだ、 我が姉は。
と、 私はお供え物の毬つきの栗を見ながら考えていた。



先日の十三夜の時の話である。
十五夜の宴会よりも騒ぐ事なく――しかし、 それでも宴会なのだから騒がしい――皆が思い思いに酒を呑んでいる中。
私は宴会場のとある一角が異様な静けさに包まれている事に気がついた。
姉の静葉と外から来た巫女という取り合わせで何やら話をしているようだった。
とりあえず会話の内容を聞いてからちょっかいを掛けるか否かを判断しよう。 そう思った私は、 そこの一角に近い――しかし出来るだけ気付かれないような――場所に腰を下ろした。

会話と呼ぶよりも、 先日外から来たばかりの青い巫女が一方的に話しているだけだった。
曰く、 外では十三夜はここまで盛大にやらないとか。 十日夜も宴会をやるんですか?とか。
しかし、 静葉は青巫女の話に何一つ答える素振りがない。
頷いたり首を傾げたり何だりしてるが、 黙々と紅葉豆腐を食べているだけだ。 何してるんだお前、 答えてやれよ。
あと、 その紅葉豆腐は豆腐小僧に返してあげなさい。 隅で崩れてるから。
というか青巫女……酔ってるわね? 普通だったら 『何か言って下さい!』 ぐらいは言うだろうに。

このままではにっちもさっちもいかないと感じたので、 青巫女の疑問に答えるべく一角に混じることにした。


十五夜は大陸から来た風習であるが、 今回行っている十三夜というのは、 栗や豆を月にお供えして月見を行う日本独自の風習だ。
十三夜の他に 『栗名月』 『豆名月』 と言う呼び名がある。 十五夜の 『芋名月』 になぞらえたのかもしれない。
いやまぁ、 単純に収穫順で呼んでるだけだと思うけど。
この風習の起こりは、 どこかいつかの時代の人間が 『十五夜の月だけじゃなくて、 十三夜の月もイイネ!』 とか言い出したのが切っ掛けと聞いた。
そして、 いつの間にか十五夜の月だけを見るのは 『片見月』 と呼ばれてあまり好まれなくなった。

――もっともその風習を伝える人間は少なくなったようであるが。
外から来た巫女が 『盛大にやらない』 と言った時点で推して知るべし、 だ。
幻想郷の外で 『十三夜を盛大にやらない』 のなら、 幻想郷では 『十三夜を盛大にやる』 ことになるだけ。
単純に呑む口実が欲しいだけかもしれないが……まぁ、 いつの間にか流行って廃れるのは人間の世らしくて面白いとは思う。

なお十日夜はこの幻想郷において、 自分が敬われる日でもある。 何せ田の神が山に帰る神事だし。
田の神と秋の実りを授ける神は微妙に違うような気がするが、 まぁ気にしてはいけない。
秋の最後の宴になるから、 また皆で宴会をするわよ。


と言うようなことを、 神酒を片手に喋った……のだが。

青巫女はいつの間にか倒れ伏していた。 やはり酔っていた。
静葉はいつの間にか紅葉豆腐を完食していた。 やはり泣いていた。 豆腐小僧が。

……お前ら。

苛立ちと怒りで色々と沸点間近だ。 しかし、 そんな私の怒気を感じたのか……静葉が急に立ち上がった。

「…………」

が、 何も言わぬまますぐに座った。


なにかいえよ。


大体……こいつはいつもそうだ。
紅の葉を司るだけの存在で、 物静かさが売りなだけの神様だ。 言の葉を用いてどうのこうのと言わない。
人に交わり、 人とたわむれ、 人と酒を酌み交わすよりも、 山々の色づいた木々の間をふわふわとただよう方を良しとする。
そんな風だから、 人や妖怪から得られる信仰が僅かなのだ。
秋のほんの僅かな期間に、 やっとこ信仰を得られる神なんて――神としてどうよ?
それに神と名乗るのなら、 もう少しそれらしい格好をすべきじゃないか。
紅葉で作った服じゃなくて、 もっと他の素材で出来た服があるだろうに。
あんたの髪飾りはカニに見えるんだよとか。 もっと喋れ、 言葉を惜しむなとか。
いや、 それ以前に今のモーションは何だったんだ。
ああもう、 言いたいことが多いというのも問題だ。

もう一度、 静葉を見てみた。
めったに喋らないが、 だからと言って表情が無い訳ではない。 今度は物凄く困ったような顔をした。
本当に喋らないだけで感情表現は豊かなのだ。

私の視線を受けて、 また立ち上がった。

「…………」

おもむろに指を天に向けくるくると回す。
風さえ吹かぬ夜空に赤い葉っぱが一枚舞った。
やがてその葉が一枚から二枚に、 二枚から四枚へと少しずつ増えていく。


そういえば宴の最中だと言うのに静かだ。


そのことに気付いた瞬視。 辺り一面が紅葉に包まれた。

静葉の持つスペルカード 『狂いの落葉』 にも似た紅葉の舞は、 時間が経つにつれて激しさを増していく。
……いや、 舞なんて生温いものではない。 アレはもはや吹雪だ。
秋の到来と終焉を同時に告げるために吹き荒ぶ紅葉吹雪だ。

吹雪く紅は降り止まない。
私の杯に紅葉が入りこんでも、 寝こけている青巫女の口に紅葉が大量に突っ込まれても、 豆腐小僧がうずくまってた一角が紅い葉の山に変わろうとも。
ただただ、 惜しむ事なく告げるように降り続けた。



今年の十三夜の宴会は紅葉吹雪とともに終わった。
酔っぱらった妖怪たちの拍手喝采に、 地面を紅く染める葉っぱたちの片付けをしながら静葉は満足そうだった。
青巫女はどうなったかと探してみれば、 山頂の神らによって背負われていた。

そうか。 最初立ち上がったのは酔っぱらった青巫女の保護者――もとい神――たちを呼んでいたのか。

ちなみに豆腐小僧は米俵の担ぎ方に良く似た担ぎ方で、 どこかの妖怪に連れられていた。



お供え物から視線を外し、 空を見上げた。 青空には、 ちらちらと紅い葉が舞っている。
その青とまばらな紅の中に、 かぼちゃ――顔?のような模様が描かれている――と器を持った静葉の姿が見えた。
何だあのかぼちゃは。 非常に不細工な顔に見えるのだが。

……そういえば、 あの十三夜の宴会の時。
青巫女が外では10月の終わりに妖怪たちのお祭りをする、 と言っていたような気がする。
その祭りに必要なのがかぼちゃで出来た灯籠とお菓子、 と言っていたような気がする。
ということは――灯籠か、 アレ。 とても良い成長をしたかぼちゃだというのに、 またえっらい不細工に加工したものだ。

向こうも私に気付いたらしい。 手を降っているのが見える。
これはアレか。 例の妖怪祭りの事例に倣って、 私からお菓子をねだるつもりなのか。
そもそも私たちは神であって妖怪では無いのだが。
そうこう考えているうちに静葉は近くまでやってきている。
何かを用意する時間もない。 もはや私の取れる行動はただ一つだ。

寄ってくる静葉に向かって、 万感の思いを込めた毬栗を全力で投げつけてやるだけだった。
静葉の持っていた器には既に戦利品と思しきものが入っていた。

毬栗に被弾した静葉の手当てをしながら、 私は尋ねた。
また紅葉豆腐? 飽きないわね、 と。

――その言葉に、 静葉はふるふると首を振ってから応えた。


「いいえ、 ケフィアです」


マジでか。
domino
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コメント



0.660簡易評価
3.50名前が無い程度の能力削除
豆腐小僧か…
まぁいても不思議ではないわな、幻想郷なら
というか、何気に正統派の妖怪って少ないのか?
4.100名前が無い程度の能力削除
とっても静葉が可愛く思えましたが、もうちょっとこう、キュンとするような場面が欲しかったです。
例えば…静葉が赤くなったりするとか。
「無口カワイイ」をうまく使ってみるといいかもしれません。自分、無言で赤くなっている静葉を想像して萌えました。
タイトルにカワイイ、とあるのでもっと可愛さをアピールしてはどーでしょうか?

あ、でもお堅い作品で考えていたのならすいません。
6.80つくし削除
これは良い幻想郷小説。

と思ったら後書きが不意打ち過ぎるwwwwww
11.90名前が無い程度の能力削除
オチが不意打ちすぎるwww
16.70名前が無い程度の能力削除
なるほど無口可愛い