Coolier - 新生・東方創想話

秋のきのこはやばいぜ!

2007/10/27 20:43:04
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「おい、霊夢、あい変わらず暇そうだな」
「ん~…?」

 小春日和に身を任せ縁側で転寝をしていた霊夢は、眠い目をこすりながら声のする方に振り向く。すると、そこには、いつに無く上機嫌な魔理沙の姿があった。

「…あら。どうしたの?」
「霊夢! 月並だが秋といったらなんだ?」
「なによ? 新手の謎掛け?」
「いいから答えてみろよ」
「んー…そうね…やっぱ稔りの秋って言うくらいなんだから果物とかそこらへんなんじゃないの?」

 霊夢は彼女の質問にいかにも適当に答える。

「うーん、惜しいな! いいセンは行ってるんだが」
「もう、回りくどいからさっさと答え教えてよ」

 すると魔理沙は手に持っていた手下げカゴを彼女の前に差し出す。

「これだよ。これ」

 霊夢は差し出されたカゴの中を覗いてみる。その中には、森の妖精とも例えられる存在―そう、きのこが沢山詰まっていた。

「あ、なるほどね。そういえば魔理沙、きのこ好きだもんね」
「おう、秋といったらやっぱきのこだろ? 言っておくが採りたてだぜ」
「へー。んで、これどうするのよ?」
「決まってるだろ。山の恵みは新鮮なうちに、ありがたく頂くに限る!」
「ちょっと待って…これ全部?」
「勿論だぜ! さっそく一緒にきのこ鍋にでもして食おう!」
「ちょっと待って!」

 霊夢が躊躇したのは、それらのきのこの中には、かなり怪しい色をしたモノや奇抜な形のモノもあったからだ。

「ねぇ…私さぁ、きのこはよく知らないんだけど、これとか食べても大丈夫なの…?」

 彼女は、その奇抜な形のきのこを思わず手にとってみる。

「食える! 間違いないぜ! …多分」
「イマイチ頼りない返事ね…。あのさ…私は、年中毒きのこにあたってるあんたとは違うんだけど…」
「失礼な。私だって好きであたってるわけじゃないさ。これも研究の一環なんだ」
「研究って…何の研究よ…?」
「決まってるだろ。魔法だぜ」
「魔法と毒きのこは関係ない気がするけど…」
「甘い! それがあるんだよ。密接且つユーモラスな関係が…いいか? そもそも…」

 それから暫く魔理沙の【魔法と毒きのこ因果関係】に関する熱弁が繰り広げられる。しかし、当然、霊夢にはそんな話興味なく、耳を素通りしていく。

(はぁ…そういえば栗きんとんの美味しい季節ねぇ…)

 彼女は呑気にお茶をすすりながら、魔理沙の熱弁が終わるのを待っていた。


           ・
           ・
           ・


「…で、なんで私の所に来るのよ? しかも二人そろって」

 突然の訪問者に一週間少女は迷惑そうな顔をする。

「あぁ、すまないパチュリー。調べて欲しいものがあるんだ」
「…一体、今日は何?」
「これなの」

 霊夢はテーブルの上にきのこが詰まったカゴを置く。それを見たパチュリーは怪訝そうな表情で魔理沙の方を見る。

「…これってあなたの得意分野じゃ…」
「いや、霊夢の奴がさ…。いくら言っても納得してくれないんだよ」
「当たり前じゃない! あんたの言う事をいちいち信じてたら、命がいくらあっても足りないわよ!」
「失礼な。それじゃまるで、私が嘘つきの権化のような言い方じゃないか!」
「実際、そうでしょうが!」

 二人の喧騒に、たまらずパチュリーは頭を抱える。

「もぅ…調べてあげるから、お願いだから私の図書館で騒がないで」
「お、助かるぜ! 流石、神様仏様パチュリー様!」
「お手数かけて、ごめんなさいね」
「そのかわり終わったら、さっさと出て行ってよ?」

 そう言って彼女がテーブルの上に用意したのは『世界きのこ図鑑~MUSHROOM』という本だった。

「すごいな…そんな本あるのか…」
「本当、なんでもあるのね。この図書館…」

 思わず感嘆の声を上げる二人。

「さてと、それじゃ…」

 そして彼女は薄紙のシートをテーブルに敷くと、その上にきのこを、どさっとばら撒く。それを見た魔理沙が思わず注文をつける。

「おいおい、手荒に扱わないでくれよ。 今夜のおかずなんだぜ」
「むー…悪かったわね。こういうモノの扱いは慣れてないのよ」

 パチュリーは、いかにもばつが悪そうに指で頬を掻いた。

「…で、どれから調べるの?」
「そんじゃ…このいかにも美味そうな色をした奴から頼むぜ」
「…それ、私には『私は毒の塊です』て主張してるようにしか見えないんだけど…」
「ま、そんなの調べればわかる事よ…」

 パチュリーはそう言って、ぱらぱらと本をめくっていく。とは言っても、実際は手でめくっているのではなく、彼女は魔法で本を空中に浮かし自動的にめくっていた。ふと、ページをめくる動きが止まる。どうやら調べ物が見つかったらしい。

「…これね。タマゴダケ。食べられるわ。汁物や鍋物にするといいらしい…」
「タマゴダケ? こいつはそんな名前だったのか」
「ちょっとちょっと! あんた名前すら知らなかったの!?」
「あぁ、私は名前とかには、あまり拘らない主義なんでな。とりあえず、ダンダラハデハデモヨウダケと呼んでたぜ!」
「…もう、呆れて言葉も出ないわね。何、そのスベスベマンジュウガニみたいな名前は」
「普通だぜ」
「何が普通なのよ!」
「まぁ、わりかし特徴は捉えてるとは思うけど…」

 これはパチュリーの言葉だった。

「そりゃ光栄だ」
「褒めてるつもりは全然ないわ」

 パチュリーは魔理沙にそっけなく言うと次のきのこを調べ始める。

「それはそうと、霊夢。私の言ってる事は正しかっただろ? このきのこはちゃんと食えるんだぜ」
「そんなの偶然じゃないの? 他のきのこは全部毒かもしれないし」
「んなはずはない! 断じて! 絶対!」
「あんたの絶対ほど信じられるものは無いわよ!」
「…もー、だから、二人とも騒がないでって言ってるでしょ! うるさくするなら、今すぐ追い出すよ?」

 パチュリーの言葉思わず大人しくなる二人。彼女の検索作業は淡々と進んでいった。

「…これはシモコシ…優秀な食菌だわ。それでこれが…ヘビキノコモドキ…残念ながら有毒ね。腹痛起こして幻覚見るわよ…。
これはオオキヌハダトマヤタケかしら? 呼吸困難になるらしいわ」
「ほーら、毒きのこばっかり。やっぱり魔理沙は嘘つきじゃない」
「いや、これはまぐれだよ。まぐれ。よく言うだろ? ゴボウにも筆の誤りって」
「…まぐれの使い方間違ってる。それにゴボウじゃなくて弘法」

 どうやら鑑定を終えたらしいパチュリーの冷静なツッコミが炸裂する。

「…で、一体どれくらい怪しいきのこがあるの?」

 霊夢の質問にパチュリーが答える。

「そうね。ざっと調べてみたけど、ほとんどが怪しいわ。食用種が2割、有毒種が6割、不明種が2割ってとこね。ただ、区別できないのもあるからはっきりとは言えないけど」
「はぁ…やっぱりね…」

 その答えを聞いて彼女は思わずため息をつくと、横で信じられなさそうにしている魔理沙をジト目で見遣った。

「ほら、ウソつき魔理沙! このきのこは責任持ってあんたが全部処分しなさいよ」
「ちょっ…待て! まだわからないだろ? 不明種がもしかしたら全部食用かもしれないし」
「ええい、往生際が悪い…!」
「ほらほら、二人とも、用件は済んだんでしょ?」

 二人のやり取りの中にパチュリーが割って入る。彼女はせっせとテーブル上のきのこをカゴの中に戻す作業をしていた。どうやらこのまま「用件は済んだのだからさっさとお引取り願います」という流れになりそうである。

「そうだ! あいつのとこ行こう! あいつならきっとわかるはず!」

 不意に魔理沙が叫ぶ。

「あいつって誰よ…?」
「決まってるだろ! あいつだ!」

            ・
            ・
            ・

 所変わって『香霖堂』
 魔法の森の、その入口近くに構えられた古道具屋である。そこの店主である霖之助は、突然現れた魔女と巫女を、なけなしの紅茶と緑茶でおもてなしをしていた。

「…で、それで僕のところに来たというわけか」

 彼女らから、これまでのいきさつを聞いた霖之助はテーブルの上に広げられたきのこを一つつまみ、それをしげしげと眺めている。

「もう香霖だけが頼みなんだ! 頼むぜ!」
「…でも霖之助さんて、きのこも視れるの?」
「いや、僕はあくまで物の鑑定しか出来ないよ」
「え、それじゃ…」
「それでも、きのこは長い間食べてるし、それなりに詳しいつもりさ」

 そう言うと、彼は立ち上がり、奥の部屋からアルバムのような分厚い本を取り出してくる。

「それは…図鑑か?」
「まぁ、そうだけど…ただの図鑑じゃないよ」

 彼の言葉に魔理沙は、その本をぱらっと開いてみる。すると、きのこや山野草、それに木の実などの写真が沢山張られ、更にそれらに関する詳しい記述等が手書き文字で、びっしりと埋め尽くされていた。

「なんだこりゃ!」

 思わず彼女が驚きの声を上げる。

「これは僕が作った資料集のようなものさ。今までみたことのある山菜やきのこを、この本に記したんだ」
「ふーん、つまり手作りの図鑑ね」
「その通り」
「よーするに、こんなのを作れるくらい暇って事なんだろ?」
「あ、それは言えるかも」
「…さて、それじゃ始めようか。君達は、そこにあるお茶菓子でも食べて待っていてくれ」

 霖之助は、彼女らの言葉を聞かなかったようにして作業に取り掛かる。二人は、霖之助に言われたとおり、お茶菓子に手を付け出した。

「…ふーむ、しかし魔理沙はすごいな。よくもこれだけの種類のきのこを一人で集められたものだよ…」

 作業をしながら、ふと彼が呟く。

「普通だぜ。そこらへんにいっぱい生えてるしな」

 彼の言葉に魔理沙は、茶菓子のビスケットをほお張りつつ答えた。

「そうね。あんたの家の周りは、湿気が多いもんね。いっつもじめじめしてるし…」

 一方の霊夢は、緑茶をまったりと味わっている。いつもながらの事だが、彼女は実に美味しそうにお茶を飲むものだ。

「ま、粘菌の宝庫と呼んでくれ」
「…それって、あまり誇れない呼び方だと思うけどね…」

 誇らしげに言う魔理沙に対して霊夢のツッコミが入れられた。

「…ふーむ。しかし、その大半が毒きのこというのが…魔理沙らしいというか何と言うか…」
「別にいいだろ。毒きのこだって食えない事はないんだぜ。ちょっと具合悪くなるだけで」
「具合が悪くなる時点で既に食えないわよ!」
「…さて、二人とも。こっちの机に来てくれるかい?」

 彼の作業机上では、きのこが綺麗に振り分けられていた。しかし極端に片方のグループが少ない。割合的に八対二といったところだ。魔理沙はその二割の方を指差し、霖之助に言う。

「もちろん、こっちが毒きのこなんだろ?」
「残念だが、そっちは食えない事もないきのこさ」
「…ということは、こっちの大勢の方が毒きのこってことね」
「うん、そう言う事になるね」
「そんなバカな!」
「もう、いい加減、わかったでしょ!」
「…そうだ…わかったぞ! これは誰かの陰謀だ!」
「はぁ…? …何の陰謀なのよ。」

 霊夢はすっかり呆れ果ててしまってる様子だ。

「そうだな…秋の恵みの神様とか…そこらへんだ!」
「んなわけないでしょ! さぁ、現実逃避はそれくらいにして観念しなさい!」
「まぁ、まぁ二人とも。たしかに毒きのこは食べられないかもしれないけど、決して利用価値が無いわけじゃないんだよ。
それに逆に食用と言われていたきのこだって実は毒だったって事もあるし…」
「そりゃ、どういうことだ?」
「例えば、このきのこだが…」

 そう言って彼は、机の上から淡いレモン色のきのこを取り出す。

「あれ? それって、パチュリーが食えるって言ってたきのこだよな」
「確かシモコシとかいう奴ね」
「そうシモコシ、これは前は安全な食用きのことして珍重されてきたが、最近は軽い毒成分がある事がわかってきたらしい」
「まじかよ…」
「うん、本当なんだ。だから、むやみやたらに知らないきのこを食べるのは自殺行為に等しい。そもそも山の恵みは確かにありがたいが、同時に危険がいっぱいなんだ。これはきっと山の神様の警鐘なんだと思うよ。『自然を甘く見てはいけない』っていうね…。
だが先ほども言ったとおり毒きのこだって利用価値はある。毒は上手く扱えば薬にもなるんだ。
むしろ大抵の薬品は毒から作り出される。しかし逆に言えば薬と言うものは毒のようなもので、常にリスクが付きまとうわけであり…」

 ふとここで彼は、二人の方を振り向くが、既に、二人の姿は無かった。

(…やれやれ、困ったものだ)

 霖之助は、ため息を一つつくと、彼女らに出したお茶や茶菓子の後片付けをし始めた。

     ・
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「…もう、結局はほとんどが毒だったじゃない。…危うく酷い目に遭う所だったわよ」

 帰り道で、霊夢が思わずぼやく。その横には、疲れた表情の魔理沙の姿があった。

「やれやれだぜ…ま、でもいい教訓になったぜ」

 言葉とは裏腹に彼女は笑みを浮かべている。その表情から見て、ちっとも懲りてないと言う事が、誰の目から見ても明らかだった。

「はぁ…で、どうするの? 晩御飯は」
「そうだな…仕方ないから霊夢、お前のとこで食う事にするぜ」
「そうくると思ってたわよ。でも、言っとくけど 今晩はおかず無いわよ?」
「心配するな! そんな事もあろうかと思ってな…」

 そう言うと彼女は懐から何かを取り出す。

「な? こいつがある! 見ろよ。このいかにも純白無垢ですらっとした美しいきのこ! これ食えなかったら世の中何か間違って…」
「んもう…いいかげんにしなさいっ!!」

 得意顔の魔理沙に彼女の今日一番の大声と共に、強烈な裏拳ツッコミが魔理沙のみぞおちに炸裂する。
 
 もう既に日はとっぷりと暮れ、冷たい北風が吹き始めている。それは二人に冬の訪れ、そしてレティの訪れが近い事を感じさせていた。





こんにちは

二回目の投稿です。

よくわからないきのこは食べないのが一番ですね。

明日晴れたら山にきのこ狩りにでも行ってきます。

それでは。
B・G・M
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コメント



0.550簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
きのこを採って食べた事は無いけど、他の山菜はあります。
分かりやすいのだけだけどね
近頃はきのこも山菜も採れる所が減っちゃってさみしいかぎりです
2.80名前が無い程度の能力削除
スベスベマンジュウガニなんてよく知ってるなパチェw
それぞれのキャラの特徴を掴んでいて良かったです。
ただオチが弱かったなあ…
3.60名前が無い程度の能力削除
最後のキノコはドクツルタケの可能性がw
5.80名前が無い程度の能力削除
良い雰囲気でしたね、最後のキノコは毒キノコの可能性がありそうだw
オチも良い感じでした。
10.80名前が無い程度の能力削除
雰囲気は良かったです^^ただ少し弱い感じです。でも、面白かったです。これからもよろしく^^
13.無評価B・G・M削除
皆さん感想ありがとうございました。

>>『きのこを採って食べた事は無いけど~』の方
山菜もいいですよね。ぜんまい、蕨、ヤブレガサにコシアブラ、タラノメ
本当ですね。自然破壊が進んじゃって自分も寂しいです。
感想ありがとうございました。

>>『スベスベマンジュウガニ~』の方
パチェはなんでも知っている…ってわけじゃないだろうけど
小さくてしかも毒を持つカニだから、なんか知ってそうな気がしました(笑
キャラの性格はなるべく違和感ないように注意したので、そのお言葉はすごく嬉しいです。
オチは…確かにもう少し強くした方がよかったですね。
感想ありがとうございました。

>>『最後のキノコ~』の方
大正解です!
世界で最も恐るべき毒キノコの一つですね。
ちなみに食べたら内臓細胞ぶっ壊されるんで死に至ります…。
くれぐれも気をつけてくださいね。

>>『良い雰囲気でしたね~』の方
ありがとうございます。
とても嬉しいです。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

>>『雰囲気は良かったです~』の方
そうですね。
もう少し話にメリハリ付けられれば又変わったんでしょうけど…。
力不足ですね。
ありがとうございます。
こちらこそ今後もよろしくお願いします。