Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷の風を感じて

2007/10/25 06:20:56
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風神録のネタバレがあります。





























「うう……頭が痛い……」
 布団から上半身を起こして、早苗は2、3度頭を振った。まるで鈍器で殴られたような衝撃が走った。間違いない、二日酔いである。
 頭痛薬、などという外の世界の薬などとっくに底を尽きてしまったので、仕方なく水でも飲もうと思い、気だるい身体に鞭打って立ち上がる。
「う~あ~……もう。連日連夜の宴会につき合わさせる身にもなってくださいよ、神奈子様」
 覚束ない足取りで井戸へ行こうとして、ポツリと呟いた。文句を言ったくらいでこの習慣が変わるとは思えないが、早苗とて人間。文句の1つくらい言わないとやってられないのだ。
 ぐわんぐわん脳が掻き乱される状態の中、なんとか根性で踏ん張り井戸の水で喉を潤わせ、ついでに顔を洗う。外の世界では蛇口を捻れば終わっていたことだったが、この幻想郷ではそうはいかない。水の調達1つとってもそれなりの時間と手間が掛かる。
「う~ん。まだちょっと気分が悪い」
 幾分気分が落ち着いたが、そう簡単に直らないのが二日酔いである。ましてや早苗は酒に強いほうではない。
「そういえば神奈子様はどこに……」
 幾分楽になってきたので、早苗は神奈子を探すことにした。神奈子は何事も無ければ、早苗が起きる頃にはすでに活動している。神なのだから別に睡眠をとる必要は無い、とのことらしいが、実際には四六時中起きていてもすることが無いので、人間と同様に眠っている。深夜に神を崇める者がいない、というのもひとつの理由だろう。
 しかし、宴会の後は勝手が違う。酒が入れば酔いがくる。酔いが回れば自然と身体は睡眠を求める。それは神とて例外ではないらしい。
 早苗が広間で見つけたのは、酒瓶だらけの床で豪快にひっくり返って寝ている神奈子の姿だった。
「…………はあ」
 溜息しか出ない光景だった。自分はこの神に仕えているのか、と思わず思ってしまうほど。
 早苗の僅かに残っている記憶だと、確か昨夜は天狗と宴会を行っていたのだが、途中から射命丸文が連れてきた特に酒に強い天狗と神奈子の飲み比べが始まったのだ。
 その時点で嫌な予感がした早苗はそうそうに逃げ出そうとしたのだが、速さにかけては幻想郷で右に出るものはいない、と豪語する文にあっさりと捕まってしまい、主たる神奈子が飲んでいるのに巫女たるあなたが飲まないでどうするんですか、と半ば強引に酒瓶を突っ込まれたのだ。
 そこから先の記憶はない。酔いつぶれて眠ってしまったのだろう。
 しかしそうすると、どうして自分はきちんと布団で眠っていたのだろう、という疑問が浮かんでくるが、深くは考えなかった。神奈子かあるいは諏訪子が運んでくれたのだろう。毎度毎度の宴会で毎回のように潰されている早苗は、たびたび今回のように布団まで運ばれることがあったからだ。
 仕える神に布団まで運んでもらう、というのは傍から見れば滑稽な話に思えるが、神奈子達が気にするなと言ってくれているので、変にそれ以上考えることはしなかった。
 だいたい早苗が酒に強くないことは2人とも重々承知のはずだ。それなのに毎回のように宴会に同伴させて、自分達と同じように飲ませるのだから、潰れて当然である。せめてもの罪滅ぼしとして介抱をしているのだろう、と早苗は思っていた。
 とはいえ、こんなことに毎日付き合っていては身が持たない。以前神奈子が、私はなんともないよ、と笑いながら言っていたが、神と人間なのだから耐性に差があるのは当然だ。
 と、マイナスな思考ばかりが頭に過ぎって来るので、早苗はとりあえず一日のスタートとして朝食の準備をすることにした。広間の片付けはその後に行おう、という結論にして。
「神奈子様が手伝ってくれたりは……するわけないか」
 最後にもう一度、深い溜息をついた。




 幻想郷では食事を作るのも一手間である。外の世界から来た早苗は特にそのことを実感していた。
 まず、台所に通常なら常備されている器具の類が一切仕えない。炊飯器やガスコンロといったものは当然として、現在の守矢の神社には水道がひかれていなかった。
 以前博麗神社へ行ったときには、しっかりと水道があった。霊夢に聞いたら、知り合いに付けてもらった、とのことだった。早苗は是非ともその知り合いという人物に会いたいと切に願ったほどだ。
 それはさておき、無い物強請りをしても仕方がないので、早苗は比較的手間の掛からない食事を用意することにした。二日酔いがまだ残っていて体を動かすのが億劫な上、その影響で食欲がそれほど無い為だ。
 結局、白米と味噌汁に漬物という、簡素な和食ですますことにした。いただきます、と両手を合わせる。
「あ~あ~、早苗、もっと食べないと成長しないよ」
 突然頭上から声が聞こえた。首を傾けて上を向くと、そこには諏訪子がぷかぷかと浮かんでいた。空中で起用に頬杖を付いてこちらを見下ろしている。
「諏訪子様、おはようございます」
「おはよう」
 すたっと降り立って挨拶をする。
「諏訪子様も朝食を食べますか?」
「そだね。もらえる?」
「はい。少々お待ちを」
 言って、席を立つ。ものの1分ほどで早苗は戻ってきた。
「簡素なものですけど」
「別にいいよ」
 さして気にしない、といった感じで諏訪子は言う。そして早苗同様、いただきます、といって両手を合わせ食べ始めた。
「そういえば神奈子は?」
「広間にいますよ」
「酔いつぶれて、でしょ?」
「……良くご存知で」
 ここに来る前に見てきたのか、あるいは見るまでもない、ということなのかはわからないが、とにかく諏訪子の言うとおりなので頷いておいた。念の為神奈子の分の朝食も用意してあるのだが、この分だと必要なさそうだ。
「う~んやっぱり白米にはこれだね」
 諏訪子は味噌汁を白米の上にかけていた。俗に言う、汁かけご飯だ。
「諏訪子様、それはあまり行儀良くありませんよ」
「ご飯なんて本人が美味しく食べられればいいじゃん」
 どこ吹く風で答える諏訪子。早苗もその意見を否定するわけではないが、やはり納得できないところもある。
「で、早苗。さっきの質問の答えは?」
「質問、というと?」
「だからあ、少しは成長した?」
「意味がわかりません」
「もう。動物性蛋白とかしっかり取らないと成長しないよ。早苗はまだまだ将来が見込めるんだから」
「どうでしょうかね。私は諏訪子様の子孫ですし」
「……それ、どういう意味?」
「言葉通りです」
 素知らぬ顔で言ってのける早苗に、ぷぅっと頬を膨らませる諏訪子。そして、早苗の馬鹿、と軽口を叩いて汁かけご飯を掻きこんだ。




 ごちそうさまでした、と2人で会釈をする。早苗は食器を片付けた後、何とはなしに空中に浮かんでいる諏訪子に尋ねた。
「今日は諏訪子様はどうするつもりですか?」
「さあね。特にすることもないし。気が向いたら山で天狗の話し相手にでもなろうかな。そういう早苗は?」
「もし迷惑でなければ、今日はちょっと遠出をしようと思っているのです」
「遠出? それって山を降りるってこと?」
「はい」
 守矢の神社の巫女である早苗は、これまでそうそう神社から離れることは無かった。神奈子の守護、というのが第一目的であるのには変わりないが、この幻想郷で生活していくには必要なものがある。
「……つまり、外の世界から持ち込んだ食材やら生活用品やらが切れそうってこと?」
「そうです。なので、幻想郷における店や市場を見つけておかないといけないので」
「そりゃ確かに死活問題だね。でも何か情報はあるの?」
「正直な所、全く。なのでとりあえず霊夢さんを尋ねてみようと」
「大丈夫かな。あの巫女、風の噂だと食料と金銭に関してはこの上なくシビアだって聞くけど」
「最悪、人里の行き方を教えてもらえれば、後は何とかしますよ」
 幻想郷とて普通の人間も暮らしている。外の世界のように利便化がなされていないだけで、それ以外は何ら変わりは無い。
 それに早苗は知りたかった。妖怪達とはすぐに打ち解けてたが、まだ人間とはほとんど会っていない。幻想郷に暮らす人々は、如何な生活を送っているのか。そして、それに満足しているのか、を。




「それでは行って来ます。夕方までには戻ると思いますので」
「お~、いってらっしゃいな」
 フワリと飛んで山を下っていく早苗。それを見送ると、諏訪子はやっぱり退屈になった。
 境内にいてもすることなど無いので、とりあえず自分の居場所である本殿に戻ろうとした時、ぽん、と肩を叩かれた。
「は~い、諏訪子」
「あ、神奈子、起きたの?」
「充電完了ってところね」
 広間で爆睡していた神奈子がいつの間にかそこにいた。そして諏訪子の手を取り、有無を言わせず続けた。
「さあ、行くわよ」
「行くって、どこへ?」








「というわけでお願いします」
「は?」
「だから、幻想郷を案内して欲しいんですよ」
 博麗神社にて、早苗は暇そうに箒で掃除をしていた霊夢に言った。
 早苗はつい最近までは外の世界に住んでいた人間である。信仰のなくなった世界に見切りをつけ、幻想郷に移住してきたのだ。
 その為、幻想郷の知識や事情、地理についてはお世辞でもあるとはいえない。とはいえ、今後暮らしていく世界を知らないわけにもいかない。と、なれば早いうちにいろいろ見聞を広めていく必要がある。
(あわよくば、人里での情報収集を兼ねて、山の妖怪達以外の信仰も得られれば言うことなしなんだけど)
 と、これは伏せておく。霊夢を前にしてそんなことを言おうものなら、提案を拒否されるのは目に見えている。
 そして当の霊夢はというと、箒を杖にして押し黙っている。その表情からは明らかにめんどくさい、というのが見て取れる。
「そういや、あんたのとこの……え~と、何とか神社」
「守矢の神社」
「そうそれ。巫女のあんたがいなくていいの? 周りは妖怪だらけなんでしょ」
「神奈子様も諏訪子様もいらっしゃいますから。神奈子様達と山の妖怪達はもうすっかり打ち解けています。今では連日連夜で飲み比べをしたりしていますから」
「そりゃまた豪快なことで。で、あんたも巻き込まれてるわけ?」
「……まあ、巫女としてほどほどに。本来、お酒は嗜む程度でいいんですけどね」
 二日酔い、という事実は伏せておく。白状しても話のネタにされるだけだ。
 しかし、自分で言いながら思う。このまま大酒飲みの天狗たちの宴会などにまともに参加しては、二日酔いどころか急性アルコール中毒になりかねない。今後は本気で最初の乾杯だけ同伴させてもらって、後はのらりくらりとやり過ごすようにしないと、と決意を新たにした。
「それはともかく。まだあの山とせいぜいこの博麗神社くらいしか行き来してません。幻想郷はもっといろいろなところがあるはずですから、それを今後のためにも見ておきたいのです」
「めんどいなあ。1人で行けば?」
「困った人を助けるのも巫女の役目ですよ」
「それは絶対違うと思う」
 支離滅裂な説明にはきっちりツッコミを入れることを忘れない。そうでなければ本当にありとあらゆる厄介ごとを押し付けられかねないからだ。
 だいたい霊夢にしてみれば、この申し出には利点が何一つない。もともと早苗は博麗神社を乗っ取ろうとしていた、言わば敵のようなものだ。もちろん、今となってはそんなことは全く考えてはいないが。
 しかし、だからといってほいほいと頼みを聞くのも面白くない。霊夢とて、幻想郷の信仰心を全て持っていかれてしまっては困るのだ。この早苗という人物は変に真面目なところがあるから、放っておくと本当に幻想郷全てに信仰を広めに行きかねない。
「ならせめて人里への行き方だけでも教えてもらいたいです」
「ま、それくらいなら。というより、生活品の調達が出来る場所ってことでしょ?」
「そうですね。お店があるのなら、そこを案内してくれるとありがたいです」
「いいわよ。ちょうど私も用事があることだし」
 霊夢は適当に行っていた掃除を切り上げて、中に入っていった。ちょっと待ってて、という言葉を残して。
 言われたとおり、早苗は境内で待つことにした。じっとしているのも退屈なので、少し歩いてみる。
(……趣があり、風情もある。いい神社であるのは認めるけれど……)
 これで何故参拝客が全くいないのか、早苗にはさっぱりわからない。守矢の神社に比べて他の人たちにも知られているだろうし、そう遠いということもないだろう。
 ということは、やはり巫女である霊夢にその責任があるのでは、と勘繰ってしまうのも無理はない。実際先ほどの霊夢の態度にしても、他人から好かれるものとは思えない。
「あ、あれは……」
 と、境内の隅っこで小さな建物を見つけた。小型の神社のように見える。
「ああ、それ? あんたのとこの神様の為の分社よ。神社内神社」
「へえ。そんなものを作っている、ということは、神奈子様のことを神として崇めることにしたということですか?」
「まさか。ただ、確かに信仰心を取り戻したいのは事実だから。まあ、何もしないよりはやってみた方がってとこね」
「私としては嬉しいですけど」
「んじゃお互い理解が得られた、ということで、行きましょうか」
 霊夢に促されるまま、早苗は霊夢を追った。




「ねえ、神奈子。なんで私たちこっそりついてってるの?」
「何となく、よ。何かここで姿を見せるよりこっそり付いていったほうが面白いものが見れそうだもの」
「そういうものかな」
「そういうものよ」
 上空から霊夢と早苗を見つめる神2人。一応姿は消している。霊夢はともかく早苗にはあまり効果は無いが、保険のためだ。
「にしても」
「?」
 突然の諏訪子の言葉に神奈子が振り向く。
「何かデバガメ精神があの天狗に似てきたね、神奈子……ってぶったあ!」
「殴るわよ」
「殴ってから言わないでよ。あ、2人がどこか行くよ」
「よ~し、それじゃ追跡スタート」
「……これってやっぱりあの天狗と大差ないような気が……」
 諏訪子の呟きは誰にも聞いてもらえず、虚空に消えていった。




「ああ、だからその神社を伝ってあの神様結構家に来てるわよ。退屈凌ぎって本人は言ってるけど」
 道中、早苗は霊夢からいろいろな話を聞くことにした。その中で、博麗神社に頻繁に神奈子が出入りしていると聞かされて少々驚いた。私の見ていない間にいつの間に、と。
 確かに夜は天狗と宴会をしていることは多いが、昼はあまりすることがないらしい。昼間から誰かが来るのは今のところほとんどない。
「だから、ああ、もう名前で呼ぶわよ。早苗のこととか結構話題にしてるわよ」
「え、私ですか? どんな風に……」
「真面目すぎ、とか純情一直線とか。褒めてるのか貶してるのかわからないけど」
 あっけらかん、と、霊夢。早苗にしてみれば複雑だ。
「そう言われても、今までそういうものと思って生きてきたから……」
 早苗の率直な感想。効率性とか利便性とか、そういったものを優先するのであれば、必然的にそういうスタイルになってしまう。
「だから、難しく考えなければいいのよ。肩に力入りっぱなしなんて疲れるだけよ。そんな生き方してるのなんて、私の知り合いでも数えるほどしかいないわよ。もったいないと思うけどね」
 霊夢のアドバイスを聞いて、早苗は考える。
(難しく考えるな、か……)
 同じ巫女である霊夢に言われた言葉を反芻しながら、早苗は霊夢について行った。
 と、突然霊夢が動きを止めた。慌てて早苗もブレーキをかける。どうしたのですか、と早苗が口を開こうとする前に、霊夢が聞いてきた。
「ねえ、早苗。何か感じない?」
「何ですか、突然?」
「……気のせいかしら」
 そう言いつつも、霊夢の視線は中空に向けられている。自分の頭の中で警鐘が鳴っているのだ。近くに誰かがいて、自分達を見ている、と。
(まあ、変な気配は感じないから放っておいても大丈夫そうだけど……)




「う~ん、もしかしてあの博麗の巫女にはバレたかも」
「だから言ったじゃない。その無意味に大きい注連縄外したほうがいいって」
「無意味とは何よ! 諏訪子こそ、その不気味極まりない目玉付き帽子を脱ぎなさいよ」
「う~、私のトレードマークにそういうこと言う!?」
 気配を消しながら小競り合いをするという、無意味に高度な争いをする2人だった。








「霖之助さ~ん、いる~?」
 店の扉を開けてから中に向かって一言。いつもの霊夢のスタイルだが、初めて来る早苗にとっては、お店にこんな入り方をしていいんだろうか、と思ってしまう。
 とはいえ、外の世界でも常連の店とかならこういうのもあったことだし、何より幻想郷という点においては霊夢はあらゆる面で早苗よりも知識人だ。これが幻想郷でのスタイルだ、と割り切ってしまえばいいと思い、これ以上考えるのを止めた。
「れ、霊夢!?」
「あれ、レミリア、と咲夜?」
 中からの声は目当ての霖之助ではなく、何故か店の中にいたレミリアと咲夜だった。咲夜はいつものように泰然自若としているが、レミリアはどこか不審者のように咲夜の陰に隠れた。
 口をモゴモゴさせている。霊夢は半眼になって言った。
「何食べてるの、あんた」
「ち、ちふぁうのよ霊夢。……んぐ。ただ外の世界のしょーとけーきなる物が入荷したっていうから、紅魔館の主たるものあらゆる食材を食してそのエレガントでファンタスティックでマーベラスな味わいをしっかり脳裏に刻み込むという崇高な目的が……」
「とどのつまり、美味しいお菓子が入荷したと聞いて、赴いて購入したはいいけど、家まで帰るまで待ちきれなくてここで食べてた、と」
「う……」
 あやふやになるような理論武装で誤魔化そうとしたが、あっさり霊夢に看破されてしまい、スカーレットの名に相応しいくらい真っ赤になるレミリア。もちろん、別の意味でだが。
「ところで、霊夢の隣にいるのは?」
 俯くレミリアに代わって咲夜が尋ねてきた。
「ああ、この子は巫女をしてる……」
「東風谷早苗といいます。よろしくお願いします」
「霊夢、この人って」
「そう、人間よ」
 少し意外そうな顔をして、咲夜。
 幻想郷にももちろん人間は数多く住んでいるが、能力者、となるとその数は相当限られる。咲夜の知る限り自分を含めればそんな能力を持っているのは霊夢と魔理沙くらいなものだ。
 だが、眼前にいる少女からは間違いなく能力者特有の気配が感じられた。端的に言うならば、自分と同じような匂いが。
「私は十六夜咲夜。紅魔館でメイドをしています」
 きちんと頭を下げて挨拶をする。完全で瀟洒なメイド、という言葉は伊達ではない。
「ええと、メイドさん、ですか。ということはこっちのちっちゃなお嬢ちゃん専属のメイドってことですか」
「ちっちゃな?」
 ぴく、とレミリアが反応する。
「ああ早苗は知らないものね。レミリアは紅魔館の主よ。一応は」
「え、え?」
 霊夢に言われて、再度レミリアを見る早苗。どう見ても子供にしか見えない。
「一応って霊夢、酷いわ」
「だって切り盛りしてるのってほとんど咲夜じゃない」
「主は働かないものよ」
「どこの格言よ」
 疲れきったように、霊夢。そんなこと言ってると、どこかのお姫様みたいになるわよ、と言ってやろうと思ったが、その前に笑い声が聞こえてきた。
 声の主は早苗だった。
「やだなあ、霊夢さん。こんなクリームを頬っぺたに付けたままの子供が館の主って、そんなことあるわけないじゃないですか」
 冗談が上手ですね、と早苗は全く信じてないように言う。確かによく見ると先ほどのショートケーキのクリームがちょっとだけ顔に付着していた。これでは威厳もへったくれもない。
「あ~……だってさ、レミリア」
 説明するのもめんどいと思ったのか、早苗の言動を霊夢はそのままレミリアにスルーした。振り向くともう顔にクリームはついていなかった。恐らく咲夜が時間を止めて綺麗に拭き取ったのだろう。
 だが、問題はそこではない。威厳を傷つけられたことの方が問題なのだ。レミリアはすかさず咲夜に目配せをした。咲夜もそれでレミリアの意思を読み取った。
 瞬時に早苗に近づく咲夜。手には銀に輝くナイフが一振り。
「え……」
「ちょ、咲夜!」
「問答無用」
 無論、ナイフを取り出したのは警告という意味での行動だが、まだ幻想郷に来て日の浅い早苗から見れば、それはまさに予想外の行動。
 呆然としている早苗に、いち早く危険を察した霊夢が待ったとかけようとしたが、致命的に遅い。早苗に向かってナイフが振り下ろされ―――
「待ちなさい!」
 威勢のいい声と共に、どばん! と景気良く扉が開いた。自然と全員の視線がそちらに集まる。
「私の子孫に何する気……じゃない。どんな事件もすわっと解決! ケロちゃん仮面、ここに参上!」
 時間が止まったわよ、と後に霊夢は言う。
 びしいっ、とポーズまでつけて出てきたのは諏訪子だった。帽子を目深にかぶっているだけで、後は何一つ普段の格好と変わっていない。強いて言うのなら、視界確保のためか帽子に少しだけ穴が開いている程度だ。とはいえ、見たことのあるものが見れば一目瞭然なことには変わりない。
 後ろでは神奈子が、ああやっちゃった、とばかりに手を額に乗せて溜息をついていた。諏訪子を必死で止めようとしたが、遅かった、といったところだろう。
 そんな光景を見せられた霊夢は溜息混じりに呟いた。
「あれでいいの、あんたのとこの神様、っていうかご先祖」
「…………私にあんな先祖はいませんよ」
 目を合わせることなく、辛辣に切り捨てる早苗。霊夢としても自分が同じ立場なら同様のことを言うだろう。だからあえてそれ以上突っ込むのは止めておいた。ちなみにすっかりテンションのあがっている諏訪子には聞こえなかったようだ。その点は不幸中の幸いといえる。
 咲夜は訝しげにその光景を見ていたが、すっと真顔に戻ると、静かに告げた。
「……何者か知らないけど、こんな手段で時間を止めるなんて、私に対する挑戦と受け取っていいのかしら?」
 いつの間にやら両手にナイフを持ち、威嚇するように言い放つ咲夜。
「ああ、なるほどね。さっきから感じていた変な気配はあの2人だったわけだ」
 うんうん、と納得する霊夢。
「神奈子様。どうしてここへ?」
「ん? いや、ちょっと早苗が心配だったからね。ほら、幻想郷はまだまだ私たちが知らないことだらけでしょう。何が起こるかわかったものじゃないから諏訪子と2人で見守ってたんだけど」
 まさか面白そうだから覗き見してました、とは言えない。神奈子は適当に理由付けして誤魔化した。
「ま、でも諏訪子を軽蔑しないでやってね。格好やネーミングはともかく、早苗を心配しての行動だから。諏訪子の反応が一瞬遅かったら、代わりに私が出て行ったことだし」
「もちろんそんなことはしませんけど」
 困ったように早苗が言う。霊夢は神奈子が飛び出てきたら、それはそれで面白そうだったのに、などと思っていた。
「ところで、さ」
 今まで沈黙を保っていた霖之助が口を開いた。全員の視線が集まる中、霖之助は静かに告げた。
「ここ、店の中なんだけど」




 香霖堂から外に出て、改めて咲夜と諏訪子は対峙した。霖之助を除く他の面々はギャラリーとなって2人を見ている。
 今にも仕掛けそうな咲夜を前に、霊夢は尋ねた。
「ねえ咲夜」
「何よ」
「あの謎の人物……」
「ケロちゃん仮面!」
「めんどいなあ。あのケロちゃん仮面って人物が、実はとっても高貴な御方だって言ったら信じる?」
「あなたの神社に賽銭が入ることくらいありえないわね」
「そうよね……って待てこら!」
 思わず納得してしまったが慌てて否定する。一瞬でも認めてしまった自分がいる為、それ以上強硬手段に出ることはなかったが。
「あ~う~! 人を外見で判断すると痛い目見るんだから!」
「人じゃないでしょ、あんたは」
 霊夢の冷ややかなツッコミは綺麗に無視した。
「人じゃない? じゃあ妖怪の類なの? 服装を見る限り蛙の類だと思うけど」
「素性は秘密! 私はただのケロちゃん仮面よ」
「どこまでもふざけた事を……」
 咲夜が弾幕を散らす。諏訪子はそれを飄々とかわした。
 腕を組んで状況を見ていたレミリアだが、キッと神奈子に視線を向けて言った。
「あれはあなたの従者か何か?」
「いや、その、一応私の友人というか仇敵というか……」
 頬をぽりぽりとかきながら、神奈子。歯切れの悪い神奈子を不審に思うが、敢えてレミリアはそれ以上は突っ込まなかった。
 その代わり、ひとつのことを感じ取っていた。
(アイツ……表面上は馬鹿丸出しだけど、感じられる潜在能力は大した物ね。ともすれば、咲夜より上。一体何者……)
 ついさきほどまで外の世界の菓子を食べて幸せ満面の笑みを浮かべていた人物とはとても同一人物には思えないほど、真剣な眼差しで諏訪子を見る。
 そして神奈子に向かって言い放った。
「なら決まりね。この場は従者同士の戦いということで」
「いや、だから。別にあの子は私の従者というわけじゃ……ま、いいけど」
 何を言っても無駄と悟ってか、神奈子は諦める事にした。ただ、何となくいい気分がしたのも事実である。
「な~んか私たち蚊帳の外って感じなんだけど」
「いいじゃないですか。当人たちに任せておけば」
「一応、事の発端って早苗の所為なんだけど」
「……気にしないで下さい」
 一瞬間があったが、素知らぬ顔でそっぽ向く早苗。責任は感じているが、おいそれと諏訪子に靡くのも抵抗がある、といったところだろう。
 そうこうしている間にも、咲夜と諏訪子の弾幕ごっこは続いている。
「幻世『ザ・ワールド』」
「すごいすごい! あなたは時間を止めているのね! ただの人間にこんな能力があるなんて!」
「お褒めに預かり光栄です。ついでといっては何ですが、この後の仕事もあるので、早々にやられてくれるとなお有難いんですが」
「嫌よ。こんなお祭りそう簡単に終わらせちゃもったいないじゃない!」
 どんどんテンションのあがっていく諏訪子。咲夜は相変わらずの無表情だが、どこか楽しげにも見える。
(楽しげに?)
 諏訪子はともかく、咲夜を見て早苗は思う。何故、戦っているのにそんな風にできるのか、と。
「今度はこっちから行くよ。土着神『ケロちゃん風雨に負けず』」
「素敵なネーミングセンスね」
「あは、この名前の良さが分かるなんて、あなた中々センスいいじゃない」
「……皮肉も通じないのね」
 どこか達観した気持ちで咲夜は呟いた。
「……どうしてかしら。敵のはずなのに、何かアイツから妙な親近感が沸いてくる……」
「そりゃ、理解に苦しむネーミングセンス繋がりでしょうね、きっと」
「どういうことですか?」
「いつかレミリアのスペル見るなり聞くなりしてみれば。すぐに分かると思うから」
 淡々と述べる霊夢にハテナ顔の早苗。知らない、ということは時に幸せでもあるのだ。
「この程度。妹様の星の弓弾の方がよっぽど手ごわいわ」
 雨のように降ってくる弾幕を華麗にかわしながら、咲夜。
「楽しいわ、本当に!」
「まあ、あの子も気の遠くなるくらい神遊びから遠ざかってたからね。ところが幻想郷に来たと思ったら、今度は対等に渡り合える人間とお祭り三昧。浮かれるのも無理ないわ」
 ポツリと言った神奈子の言葉を、レミリアは聞き逃さなかった。
「……今のは聞き捨てならないわね。神遊び?」
「ああ、隠してたわけじゃないけど。まあ、これから長い間幻想郷にいるつもりだから、きっちり自己紹介しようかしら。私は八坂神奈子。山の神です」
「神! ということは、同じ波動を感じる今咲夜と戦っているアイツも……」
「ええ。あの子も立派な神ですわよ」
 神奈子の言葉に、レミリアの表情が険しくなる。それと同時に、ひとつ閃くものがあった。
「あはははは! 早苗! 博麗の巫女! 本当に幻想郷の人間は面白いわね! 私とこんなにやりあえる人間がいるなんて!」
「とうとう私たちのこと普通に呼んでるわね。まあ諏訪子だし」
「弾幕ごっこの楽しさに自分の素性のことなんて忘れてるんでしょう。まあ諏訪子様ですし」
 明らかに馬鹿にしているように言う2人。実際馬鹿にしているのだが。
「このままじゃ終わらないわね。仕方がないわ。本気を見せてあげるわ」
「そうこなくちゃ! なら私も全力で……」
「咲夜! ストップ!」
 双方がスペルカードを取り出したところで、割って入るようにレミリアが止めた。これには霊夢も驚いた。
「咲夜、そこまでよ」
「お嬢様?」
「もちろん咲夜が負けるとは思わないけど、相手は神だからね。無傷ですむとは思えない」
「かみ……って神、ですか?」
「そうよ。纏っている威厳……は今は感じないかもしれないけど、隣にいるヤツと同じ波動を感じるし」
 神奈子に視線だけ向けてレミリアは続ける。
「以前あの烏天狗の新聞に書かれていたこと、覚えてる?」
「そういえば、あのパパラッチの記事にそんなことが書かれていたような気もしますが、でもこれが神様?」
「あ~う~! これとは何よ、これとは!」
 地団駄を踏んで、諏訪子。そんなことするから格下というか子供扱いというか、神様と認知してもらえないんじゃない、と思う霊夢と早苗。もちろん口には出さないが。
 ちなみにそれを見て神奈子は笑い転げている。
「まあいいわ。咲夜、今日のところは戻るわよ」
「お嬢様!? ですがここで引き下がっては……」
「2度は言わないわ」
「……かしこまりました」
 主の命令は絶対。咲夜は渋々ながらレミリアの傍に降り立った。いまだ宙にいる諏訪子にレミリアが告げる。
「そこのお前、諏訪子とか呼ばれていたわね。今度会うときはちょっと面白いものを見せてあげるわ。楽しみにしてなさい」
「いつでもいいよ。神と吸血鬼の弾幕祭りも楽しそうだし」
「ふん」
 それ以上言うことはない、とばかりに、レミリアは翼を広げた。それに続こうとする咲夜に諏訪子が待ったをかけた。
「また弾幕祭りやろうね」
「……いずれ、また」
 諏訪子の言葉に、どこか笑みを浮かべて咲夜はレミリアを追った。
「さて、諏訪子様。いったいどういうつもりで……あれ?」
 早苗が詰問しようとすると、いつの間にか神奈子と諏訪子の姿もなかった。レミリアたちが去った後、いなくなったようだ。逃げ出した、とも言うかもしれない。
「全くもう……」
 溜息混じりに、早苗。そんな早苗に霊夢が話しかける。
「な~んかいろいろ立て込んじゃったわね。どうする早苗?」
「……せっかくなのでちょっと店を見させてください。外の世界のものもあるみたいなので」
 そう言って、改めて店内に入る。
「いらっしゃい。ご希望通り、外の世界から流れ着いたものも少なからず置いてあるよ」
 聞こえていたのか、霖之助がカウンターで本を読みながら答えてくれた。
 店の商品を吟味しながら歩いていると、早苗はひとつの物を見つけた。
「あ、これは……」
 棚から早苗が取ったもの。それは外の世界でも使われているものに近いものだ。
「ああ、それか。……なるほどね。何となく君みたいな人には必要そうだね」
「私って、そんな風に見えますか?」
「さっきのやり取りを見てれば、何となくわかるよ。よし、じゃあそれはあげるよ」
「え? しかしそれでは……」
「いいから。これから常連さんになるかもしれない大切なお客様への先行投資ってことで。それにそれは幻想郷で作られたものだから、入手しにくいということもないしね」
「すみません。実はこの手の物も入用だったので」
「それならなおのこと、だ。下手すれば早速今日から使うことになるんじゃ」
「違いないです」
 談笑する早苗と霖之助。そこに霊夢が割って入ってきた。
「あ~! ずるいわよ霖之助さん。早苗にばっかり。私にも何か頂戴」
「霊夢の場合はいつもツケじゃないか」
「それはそれ。これはこれ」
「……霊夢も相変わらずだね」
 わいわいがやがやとやりとりする霊夢と霖之助を笑って見る早苗。霖之助から貰ったものはしっかり懐にしまって。








「ああ~、疲れた」
 どさっと広間に買ってきた荷物を置いた。あの後近くの人里へ案内してもらい、とりあえず数日分の食材を購入して戻ってきた。ちなみに霊夢が案内料は? などと聞いてきたが早苗は綺麗にスルーしていた。
 それにしても、ちょっと山を降りただけで物凄く疲れた。ちょっとした買出しのつもりだったのに、と軽い気持ちで望んだのに、吸血鬼に出会うわ、メイドとは危うく弾幕ごっこを繰り広げそうになるわ、それに介入した諏訪子の所為で余計な心労が嵩むわ、と心身共にぐったりしている。
「お~、おかえり」
 広間にはすでに神奈子と諏訪子が居座っていた。早苗は何となく恨めしそうに2人を見た。そんな表情を見てか、神奈子が寄ってきた。
「よかったじゃない」
「……何がですか?」
「正直、ちょっと心配だったのよ。この幻想郷という場所において、早苗という存在が」
 唐突に真摯な表情で神奈子が言う。面食らったように早苗は呆然とした。
 神奈子が続ける。
「あなたは私に本当に良く尽くしてくれている。人間という立場でありながら。恐らく、私が思っているよりずっと」
「神奈子様、いきなり何を!?」
 早苗の口を、神奈子が手で塞ぐ。そして続けた。
「私のことを気遣ってくれるのは本当に感謝してるわ。でも、だからといってあなたが四六時中負担を強いられる、というのでは意味がない」
 視線だけキョトンとさせて、早苗。
「時には休み、時に笑い、時に苦楽を共にする。そういった人間としての人生も送って欲しい。いえ、送らなくては駄目」
 神奈子の表情は真剣そのものだ。早苗は何も言えない。
「博麗の巫女にしろ、あのちょっと喧嘩っ早いメイドにしろ、ちっちゃな吸血鬼にしろ、楽しそうだったでしょう。笑っていたでしょう。ここは……幻想郷はそういうところなの」
 早苗を抱き寄せる。そして、母親が子供に教えるように、言う。
「楽しみなさい、ここでの生活を。そして感じなさい。幻想郷で生きる、ということを」
 神奈子は理解している。いや、幻想郷へ来て理解した。あるがままを受け入れて、それを楽しむこと。
 宴会だってそのひとつだ。神と妖怪、時には人間も織り交ざって遊び、騒ぐ。種族間の軋轢など全く無い。お互いに日常を忘れて、ただ楽しむ。そうして信頼感が生まれていく。
 こんな素晴らしい『信仰』があるだろうか。
 外の世界では、もう感じることの出来なかった連帯感。神奈子の理想はここにあった。
 早苗も当然それは感じていた。だからこそ、この日常を少しでも長く、否、永遠に続くように尽力を尽くしていたのだ。敬愛する神奈子のために。
 でも、ここではそれは必ずしも正解ではない。主も自分も、全員が楽しむこと。それが大正解なのだ。
 神奈子から開放された早苗がぽつりと呟く。
「……私はまだまだ未熟です。神奈子様がおっしゃること、頭ではわかっていても、まだ実践できるかどうかはわかりません」
「早苗……」
 不安げに見つめる神奈子。だが、早苗の次の言葉でそんな心配も消えうせた。
「ですが、それが幻想郷の在り方なんですね。今の風を感じて、それに身を任せ、楽しむこと」
 早苗の顔にはもう迷いは見られなかった。もう心配は要らない。神奈子の顔に満面の笑みが広がった。
「じゃあ早速。今日の天狗との宴会では、早苗も心行くまで飲みなさい。いろいろ吹っ切れたでしょうから」
「……そうですね。今日くらいはいいかもしれないです」
 昼間自粛しようと決意したはずだったのに、ついつい雰囲気に流されてしまう早苗。この辺りが早苗らしい。
「よ~し! 舞台は整った!」
 がばっと起き上がり高らかに宣言したのは、それまで沈黙を続けていた諏訪子だった。
「これで3番勝負が出来る!」
「何ですか、勝負って?」
 唐突に出てきた言葉に、聞き返す早苗。諏訪子は胸を張って続ける。
「もちろん、飲み比べに決まってるでしょ! 先鋒、東風谷早苗VS犬走椛。中堅、八坂神奈子VS射命丸文。大将、洩矢諏訪子VS天狗の頭領天魔!」
「ちょ、待ってくださいよ! そんな勝負受けるなんて一言も……」
「待ちなさい諏訪子。それはちょっと聞き捨てならないわね」
「神奈子様の言うとおりですよ、諏訪子様」
 味方がいてくれたことにほっとする早苗。何しろ下っ端天狗とはいえ相手は立派な酒が大好きな妖怪。対してこちらはほとんど飲んだことのない人間。勝負の結果などやる前からわかりきっている。
「あ~う~、この決定に何が不服なの?」
 2人に言われ、まさしく蛙の如く頬を膨らませる諏訪子。
 そして満を持して、神奈子が口を開く。早苗はそんな神奈子を真摯に見つめ―――
「何で私が中堅なのよ! 大将が私。諏訪子が中堅になりなさい」
 開口一番、放たれた言葉に思いっきりずっこけた。ずべしゃあ、とかなり豪快な音が神社に響いた。
「え~、そこは譲れないよ。実力からして」
 その言葉に、神奈子の表情に笑みが浮かぶ。ただし、青筋を浮かべながら。
「あ~ら、久しくやりあってなかったら忘れてしまったのかしら。実力差、という事実を」
 明らかに喧嘩腰になっている神奈子。それを見て諏訪子にもスイッチが入った。
「なんなら久しぶりにやる?」
「望むところ!」
 そうして、神社の外で神奈子VS諏訪子という壮絶な弾幕ごっこが開始されたのだった。
 残された早苗はそんな光景を見て、思った。
(確かにこんな日常は外の世界ではありえなかったからね。これはこれでいいことなのかも)
 幻想郷という世界に於いて、自分のこれからというものを考えると、不安なことは確かにあるが、それ以上に希望ある未来があるような気がする。そんな考えが早苗の脳裏に浮かんだ。
 そしてついでにもうひとつ。
(このまま宴会やら飲み比べやらが有耶無耶になってくれればいいんだけど。ま、それはないかな。買って来た、ううん、貰ったばかりの酔い止めの薬とビタミン剤、足りるかな……)
 懐から取り出した、香霖堂から貰ってきた薬を見て、早苗はくすりと笑った。





















以下はおまけです。






































「お嬢様。どうして今日はあんな中途半端なところで……」
「咲夜。聞きなさい」
 語りかける咲夜だが、逆にレミリアに切り返された。表情は真剣そのものだが、視線は窓の外を向いたままだ。次の言葉を喋ろうともしない。
 それ以上話しかけるのは無意味と思い、咲夜はただその場に留まることにした。レミリアから次の言葉が漏れるまで。
 そのまま時の立つこと十数秒。自然体で手を開いたままでいたレミリアがぎゅっと両の手を握った。そして振り向いた。
「咲夜。ついに、ついに手に入れたわ」
 不敵な笑みを浮かべて、レミリアは勝ち誇ったように笑う。
「お嬢様、一体何を……」
「わからない? 私はついに神の領域にまで上り詰めたのよ!」
 ともすれば高らかに声を出して笑い出しそうなレミリアを見て、咲夜は思う。
(新しいスペルでも考案したのでしょうか? それならば消化不良とはいえ、あの場で交戦した甲斐があったというものですが)
 半信半疑に咲夜は思う。あの僅かな弾幕ごっこでレミリアは何かを掴んだというのだろうか。言動からすれば、さらにそれを昇華して自らのものにしたという風にも聞こえる。
 そんな咲夜の胸中を感じ取ってか、レミリアが言う。
「目を凝らしてよ~く拝見しなさい! 生まれ変わった奥義を!」
 言われるがままに注視する。固唾を呑んで見守ること3秒後、レミリアの手が動いた。





















「れみりあ~う~!」





















「あ、あの、お嬢様……」
「どう咲夜、決まったでしょ。あの蛙の神を真似てやったのよ。これで吸血鬼プラス神という誰にも成しえることの出来ない境地にたどり着いたわ!」
 意気揚々とはしゃぎまわるレミリア。そんなレミリアを見て、脱力感に身を任せながら咲夜は思う。レミリアにカリスマが戻る日はいつになるのだろうか、と。
 そしてついでに思った。最近の時間の止め方は、こうした方が主流なのかしら、と。
 ちょっとだけ、と想像する。
(……プライベートスクウェあ~う~……)
 完熟トマトの如く赤くなる。脳内で言ってみて、咲夜は死ぬほど後悔した。自分で自分の時間を止めてどうする。首が引きちぎれるのではないか、というくらい全力で頭を振る。忘れなさい、忘れなさい、と自己暗示も忘れずに。


 レミリアの威厳回復、及び咲夜の苦労はまだまだ続きそうだった。
れみりあ~う~!(挨拶)

ほとんどの方には初めまして、と言わなければならないくらい久しぶりに投稿するしがない小説書きのエクレーレと申します。
風神録をプレイして、初めて諏訪子を見て、この口癖を見て、最初に思ったのが冒頭の言葉だったりします。
ついで、咲夜の言葉に発展しました。さらに諏訪子の帽子から深くかぶれば仮面に近いような、とか考え、そして絵的に想像して(以下略
……こんなこと考えてるようじゃ、もう駄目かな、自分……

では、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
エクレーレ
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コメント



0.1920簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
この発想はなかった。れみりあ~う~!
6.100名前が無い程度の能力削除
れみりあ~う~!
神様気楽すぎわろし
11.90削除
神二人が良すぎて主役食っちゃいかけてるw
13.80名前が無い程度の能力削除
プライベートスクウェあ~う~に萌やし殺された俺が通りますよ

メイド長かわいいよメイド長
15.80三文字削除
れみりあ~う~!

下に同じく自分もプライベートスクウェあ~う~に萌え殺されましたっ!
駄目だ、あうあう言っている咲夜さんを妄想してs(パーフェクトスクエぁ~ぅ)
17.100名前が無い程度の能力削除
ケロちゃん仮面にれみりあ~う~
やばい、萌え殺されるw
21.80芝を持って帰る程度の能力削除
タイトルから早苗や二柱の話と思ったら、おまけで完全に持ってかれました(笑)

プレイベートスクウェあ~う~…。
なんて瀟洒な。
24.90名前が無い程度の能力削除
話自体は非常におもしろく楽しめたけれど、
お嬢様のカリスマのなさに泣けました。

れみりあ~う~…(泣)
25.90名前が無い程度の能力削除
早苗が貰った商品はハリセンに違いないと思っていたw
26.90名前が無い程度の能力削除
こんなんありか!?
あ、もちろんいい意味でデスヨ。

早苗の買い物は自作への伏線と判断して宜しいのでしょうか?
個人的に紅魔だけでなく他の連中との絡みも見たいっス。
28.無評価名前が無い程度の能力削除
早苗って諏訪子が先祖だって事、自覚してたっけ?
29.無評価名前が無い程度の能力削除
れみりあ~う~!プライベートスクウェあ~う~!
『読者を萌え殺す程度の能力』があらわれた!
35.80ぐい井戸・御簾田削除
神奈子様はほんとにいいお母さんやでー…
そしてほっぺにクリームつけちゃうレミリアちゃんうふふ
36.90名前が無い程度の能力削除
ああもうケロちゃん仮面可愛いなあこんちくしょうw
43.100名前が無い程度の能力削除
れみりあ~う~!
これはもはやれみりゃさまのためのものですね。
あ、もちろんいい意味ですよw
44.100名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れてた。
48.100名前が無い程度の能力削除
れみりあ~う~!
このツーショットを是非とも絵で見たい!
咲夜さんは年考えt(プライベートスクエあ~う~
49.100名前が無い程度の能力削除
そうか。怪傑ズバットの真の正体はケロちゃんだったのか。
51.80名前が無い程度の能力削除
レミリアの萌えレベルが上がっちゃったじゃないですか。
52.90名前が無い程度の能力削除
れみりあーうー吹いたw
早苗らしい雰囲気で楽しめました
60.70名前が無い程度の能力削除
れみりあ~う~!
プライベートスクウェあ~う~
61.100名前が無い程度の能力削除
れみりあーうー!