Coolier - 新生・東方創想話

秋と鍋火と妹紅の死体

2007/10/23 05:51:54
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 それはある秋の日の昼下がり、お日様が優しく輝いて、青空に雲が流れてる、そんな優しいある日の昼下がり。
 暇で暇でしょうがない、月のお姫様が読書中、秋空でカラスが鳴いていた、そんなある日の物語。





 すすすっと小さな音がして、部屋の空気に流れが出来た。
 開かれた障子の向こうから竹の香りが吹きこんで、読みかけの絵巻を転がす。それはころころ転がって、鮮やか小道
を延ばしてく。まだ見ぬ先のお話は、すっかり畳に広がって、風にはたはた揺れていた。

 「もう……」

 ため息ひとつに苦笑い。私はゆっくり立ち上がり、のんびり後ろを振り向いた。

 「どうしたの?」

 言った私の胸元に笑顔のイナバが駆けてきて、とんと小さくぶつかった。暖かな感触が伝わって、思わず頭を撫でて
しまう。イナバは耳をほわっと垂らしたら、幸せそうにこう言った。

 「えへへ……こんなに晴れてるのに、家に閉じこもってるなんて身体に毒ですよ」

 幸せイナバは笑ってた。幸せ楽しげ笑ってた。抱きつくイナバを撫でながら、私はのんびり外を見る。半分開いた障
子から青空がひょいと顔を覗かせる。涼しい風が部屋に来て、髪を静かに揺らしていった。暑くもなくて寒くもない、
何もかもが幸せそうな秋の日は、確かに家にいるのはもったいない。よし今日は外に出ましょうか。

 思考までもが幸せに、吹きこむ風は優しげに、イナバの耳は嬉しげで、今日はとても楽しそう。

 「永琳は?」
 「鈴仙が呼びに行ってます♪」

 小さな疑問に明るい返事。それなら悩むことは何もない、今日は皆で外に行こう。せっかくの日和を楽しもう。

 「ええ、じゃあそうしましょうか」
 「はい!」

 垂れた耳を再び立てて、イナバは笑顔でそう言った。その時コトリと絵巻が音を立て、壁にぶつかり歩みを止める。

 「後回し後回し♪」

 伸ばした手は止められた、視線の先にはイナバの笑顔。

 「ま……いっか……」

 袖引くイナバにせかされて、私はぺろりと舌を出す。ゆっくり一歩を踏み出せば、イナバはもっと進んでる。

 「早く早くっ!姫様っ!!」

 振り向くイナバは楽しげ笑顔、秋なのに向日葵が咲いている。

 「はいはい」

 はしゃぐイナバに言葉を返し、私は速度を上げて歩き出す。
 歩く向こうのその先に、竹林がゆらゆら揺れていた。

 「たまにはこういうのもいいわね……」

 私は両手を腰に当てて呟く。

 目の前にある敷石はすぐに途切れて、竹林の中の道無き道へと続いている。たまに風が吹き、竹林が揺れると、細い
葉が幾枚か飛んでくる。なんとものどかな景色だった。吹き来る風は暑くもなく寒くもなく、太陽は心地よい日射しを
くれる。寒すぎもせず暑すぎもせず、秋というのは、皆で出かけるには最適の季節なのだろう。

 さて、イナバに呼ばれて四半刻も過ぎない内に、私達は永遠亭の玄関へと集合していた。普段は皆好き勝手に過ごし
ているけど、なぜかこういう時には行動が早いのが我が永遠亭だ。家事の時、速やかに逃げ散るのと同じ位の素早さ。

 永琳は研究室に立て籠もり、てイナバは竹林へとかけてゆく。鈴仙イナバは偽装網を被って軒下へと潜み、視界には
誰一人としていなくなる。

 姫が家事をするって何かおかしくないかしら?

 尚、私の両手には重箱がぶらさがっていたりする。さっき、少々永遠と須臾を操って調理した姫特製の懐石料理だ。
五段が二つ、三人が喜ぶ顔が目に浮かぶ。従者を喜ばせるのも姫の役目よね。

 「……」

 やっぱりおかしい気もするけど、無理矢理捕まえたイナバに任せるとお小遣いを請求されるし、鈴仙イナバに任せる
と、あらぬものが入った『戦闘糧食』になるし、永琳の調理実験の産物を食べるなんて論外だ。こないだなんて、鈴仙
には「揚げると美味しいんですよ」とGを食べさせられた。美味しいと思った自分が嫌になった。なんでも、外の世界
でも『大後悔時代』には貴重な食べ物だったらしい。きっとアレを食べさせられて後悔した人がつけた名前なのだろ
う、うまい名前をつけたものだと思う。

 ……そして、その鈴仙がやたらと大きな背嚢を背負っているのが気になる。変な事しないといいのだけど……。

 ちなみに、永琳に至っては言うまでもない。こないだ永琳の作ったご飯を食べたら寝込んで、気がついたら隣に私が
いた、いや、どうやら頭が二つになったらしい。

 ……本当に困ったものね、やはり私がやるしかないじゃない♪ いえ、別に頼られて嬉しいなんてことはないけれど、
まぁ下々の者が困った時には主が頑張らないといけないものね。

 あ、だし巻き卵はもう少し濃いめの味にすればよかったかしら……お弁当だし。

 ちなみに、私の目の前にはイナバが二匹と永琳が一人、なんかこう言うと永琳が複数いるようだけど、ひとまず今は
一人しかいない。たまに怪しげな薬で二人三人と増えたりするけど、気がつくと一人になっているから別に問題はない
わね。いなくなると困るけど、ひとまず増えて困るという事は……ある。実験の被害がどんどん増えていく。

 今度、永琳に自分を増やすのはやめるように言っておきましょう。あとそもそも実験を……。

 そう、ここじゃ月みたいに研究設備が整ってるわけじゃないから、高レベル永琳製廃棄物の処理は困難なのだ。この
前、筍と引き替えに紅魔館へ処理をお願いしたのだけど、地下処理施設が大変なことになったらしく、以後受け入れを
拒否されてしまった。なんでも『イモウトサマ』という物質と化学反応を起こしたらしい。向こうにもマッドサイエン
ティストがいるらしい。物騒な話だ。

 里に頼もうとしたら、反対運動でおじゃんになった、ホント、どうしたものかしら?
 永琳の研究室の風下では、なぜかたまに竹林が立ち枯れてたりするし、竹なのに竹じゃないようなのになってたりす
るし……ちょっと怖い。私と違ってイナバは不死身じゃないしね。

 それに、竹が歩いているのはちょっと不気味だ、最近慣れたけど。

 「姫、ご準備は?」
 「ええ、いいわよ」

 そんなことを考えていたら、その永琳に話しかけられた。思考が軽やかに遮断された……わざとじゃないでしょうね?
 無論、既に準備は完了している。時を操る私の能力は、こういうときに便利だった。

 「じゃあ行きましょうか」

 私は陽気に言う、実際少し浮かれていた。この地に来てから数え切れないほどの季節を過ごし、そしてイナバ達と出
逢ってからも、長い月日を過ごしてきた。でも、どこかに出かける……そんな事は本当に久しぶり、ずっとずっと隠れ
てきた私にとっては、本当に久しぶりだった。

 いえ……それどころか初めてかしら?

 「姫様ー? 何笑ってるんですかっ?」
 「え、いえ、何でもないわよ」

 危ない危ない、顔に出てしまっていたらしい。
 てゐなイナバ……もうてゐでいいわよね、彼女が不思議そうに私を見上げている。

 それにしても、月にいた頃も、そして追放されてからも、入れられた籠が違うだけで、どうやら私の立場はあまり変
わらなかったような気がする。と、すると……籠から放たれるのはこれが最初かしら?

 「姫様ー」

 今度は少し不機嫌そうにてゐが見上げてきた、考え事をしているのが気にくわないらしい。仕方がない、考えるのは
いつでも出来る、今はイナバや永琳と過ごす刻を考えましょう。

 そう考えた私は、彼女に笑いかけながらこう言った。

 「はいはい、で、どこに行くの?」
 「――え?」

 時が止まった。てゐは黙っている。他の二人もあらぬ方向を向いて、永琳に至っては口笛を吹いていたりしている。
もしや……。

 「誰も行き先考えていなかった……なんてオチはないわよね」

 ゆっくりと……ゆっくりと言葉を紡ぐ、全員が黙り込んだ。竹林だけが騒がしい、今日は運動会かしら?

 「ちょ、てゐ! 言い出しっぺはあんたじゃない!!」
 「鈴仙が楽しそうだねって言い出すから!」

 そして沈黙に続いて騒ぐイナバカ二人、もう……面白そうね。

 「ばかてゐっ!」
 「れーせんのあほー!!」

 耳をつかんだり走り回ったり……二人ともまるで仲のいい姉妹みたいだ。あ、お互い捕まえた……耳を。

 「てゐ! 放しなさい!!」
 「やだ、鈴仙こそ放してよっ!!」

 鈴仙のへにゃへにゃ耳はへにゃ分一つなく伸びきって、てゐのふわふわ耳もすっかり長くなっている。
 うぎぎとにらみ合うイナバ二人をよそに、私は傍らの永琳へと視線を向けた。

 「どうしましょうか?」
 「そうですねぇ、もう季節は秋、山で紅葉狩りなどは如何でしょうか?」
 「そうね…」

 永琳の言葉に、私はふむと考える。

 秋の色に染まった木々を眺めてまわる……派手さはないけれど、うん、風流ね。大切な家族と共に楽しむのはいいか
もしれない。

 「そうしましょう。行くわよ二人とも」
 「ふにゃ!?」
 「はにゃい?」

 そして妙な答えを返す地面でごろごろと転がっているイナバ二人。間の抜けた顔と、そして返事が笑いを誘う。口を
引っ張りあって、ごろごろ転がりまわったのか全身竹の葉まみれ。イナバの竹の葉添えね。

 「山に行きましょう」

 言葉を重ねる。竹の葉が少しざわめいて、イナバカ二人がはね起きる。動きが全く一緒じゃない、仲がいいんだか悪
いんだか。

 「山ですか? いいですね、獲物には事欠きません」

 得意げに言う鈴仙イナバ、でもひとまず銃の安全装置を外すのはやめなさい。狩りは狩りでも目的は紅葉狩りよ?

 「そうそう、さすが姫さま、鈴仙とはちがっストップ! 銃口向けないで!」
 「一言余計なのよあんたは!」
 「それじゃあ私が作った言葉が少なくなる薬をあげるわ」
 「……前それで一日中話せなくなったんですけど?」
 「ま、まぁあれは若干の計算ミスがあって……」
 「師匠の薬でまともに出来たのっていくつあるんですか?」
 「ウドンゲ。私の二つ名を知っているでしょう? 月の頭脳、ありとあらゆる薬を作ることができる天才……」
 「マッドサイエンティストの天災薬師ってもっぱらの噂ですけど?」
 「ウドンゲ、あなたは誰の味方なの?」
 「もちろんお師匠様ですよ♪」
 「目が笑ってない?」
 「笑ってません♪」
 「笑って怒って泣いて……あれ? って狂気の瞳使わないっ!!」
 「もー永琳さま、鈴仙! どうでもいいから行きましょうよー」

 わいわいがやがや、議論は進まずただ騒いでいるのみ。ここらへんでダメな流れを遮断しなければいけない。話の流
れを山に向けよう、このままじゃ逆流して大蝦蟇の池あたりに水害を発生させそうだ。具体的には永琳製廃棄物による
水質汚濁とか。

 大蝦蟇が巨大怪獣になって永遠亭を襲いに来てはかなわない。ただでさえ、最近出費が多いというのに……。

 まぁ、実際問題、里のほうから「地下にしみ込んでいる『何か』のせいで地下水が汚染されて作物が……」とか苦情
が来てるしね。あながち冗談じゃないかもしれない。

 「はいはい、行きましょうか」
 「へにゃ!?」
 「はひゃい?」

 私の声にやっぱり変な顔した二人が振り向く。四つの耳が楽しげに揺れた。

 まったくもう……本当に仲がいいわね、羨ましいわ。指をくわえて二人を見ているほどに……永琳が。
 まぁこのままあの三人にかまっていては日が暮れてしまう。そろそろ出発しないとね、私は皆を向き、言う。

 「じゃあ行きましょう、どこかの山へ」
 
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 「今日はお出かけですか?」
 「ええ、天気がよいのでちょっと山まで」

 竹林を歩く竹と挨拶を交わし、先を目指す。こんな状況に慣れてしまった自分が嫌になる、永琳には実験廃液をちゃ
んと処理するように言っておかないとダメね。
 
 公害対策を考えながら私は先を進む。永琳と私が先頭に、続いてイナバ達がなんのかんのと騒ぎながら後をついてく
る。これじゃあまるで引率の先生だ。

 「……姫、ずいぶんと張り切られたようですね」
 「別に張り切ったわけじゃないけど、やるからには手を抜かないわ」

 お重の重さに笑う永琳、そんな彼女に、私は澄ました顔でそう答えた。ちなみに、お重は永琳に持って貰っている。
私はか弱いのだ。

 「そうですか」

 澄ました顔で返された。何見透かしたような顔をしているのかしら?
 永琳はいつも間が抜けたような顔をしていたり、イナバ達と遊んで……というかイナバ達に遊ばれていたりする。
 ただ、私と二人でいるときは変に大人びているように思う。何故かしら?



 でも、そんなささやかな疑問はどうでもいい。今はやわらかな地面を踏みしめて、漏れ来る日射しを浴びながら、秋
色の山へと向かいましょう。

 「で、山ってどっちなの?」
 「わからないで歩いてたんですか?」
 「こっちです、姫様」
 「こういうところでは頼りになるわね、てゐ」
 「案内賃百円になりまーす♪」
 「ちゃっかりしてるんだから」
 「姫様~あげないで下さいよー」
 「そうです、そんなお金があるんなら実験予算を……」
 「嫌よ」
 「反対」
 「断固拒否っ!」

 他愛のない会話をしながら先を目指す。あまり出歩かない私にとって、野外で騒ぐというのはなかなか新鮮で楽しい。

 ざわざわと竹が騒ぐだけの竹林なのに、この周囲だけは会話が溢れている。永遠亭からお出かけというよりも、永遠
亭がそのまま出かけているような、そんな雰囲気。延々続く竹の間を、楽しげな声が通り抜けていく。

 枯葉踏む足も軽やかに、私は先を目指す。今度、積もり積もった竹の葉で焼き芋でも作りましょうか……。

 「ようやく出られたわね」

 広い空間で背を伸ばし、独語した。永琳やイナバ達も、広い空の下で思い思いに身体を伸ばしていた。

 竹林の間を歩くこと半刻ばかり、竹の匂いに秋草の匂いが混じり、そして視界が広がった。目の前はススキが波打つ
草原、緩く輝く太陽が頭上に輝き、遠くの山は不思議な色に染まっている。大きな桶から染料を振りまいて、無秩序に
染めていったような、そんな不思議な色。誰かが空から木の葉を染めて歩いたのかしら? ずいぶんと手間のかかる事
をしたものだけど……。

 一瞬馬鹿げた思考が脳内を駆け回って、しばらくしてからようやくまともな結論に行き着いた。

 本来なら、考えるまでもなくすぐに辿り着くはずの結論、そこに入る余計な思考が、多分私が過ごしてきた長い時間
なのだと思う。

 「ねぇ、みん……」

 私は振り返る、大切な家族達へと……と?

 「れーせん!? 何出してるの!?」
 「え、向こうに鴨がたくさん飛んでるから、撃ち落として鴨鍋にしようと思って……。ほら見て、師匠が新型の狙撃
銃作ってくれたの♪ 鴨なんて命中したら跡形もなくなるわ」
 「跡形もなくなったらお鍋にできなくなくない?」
 「は!?」
 「だめじゃん…」
 「あ、ちなみにウドンゲ、それ二発しか撃てないわよ」
 「え? 何でですか師匠?」
 「腕は二本しかないでしょう?」
 「つまり一発撃つごとに関節が一つ外れると…」
 「ほら、黒いの撃退用に射程と精度が欲しいって言ってたでしょウドンゲ。そっち重視したらちょっとだけ反動がお
っきくなっちゃって……あ、大丈夫よ? 身体が半分なくなっても私がすぐ治してあげ……ねぇウドンゲ、何で引き金
に手をかけつつ私に銃口を向けているのかしら?」
 「予定変更、鴨鍋じゃなくて蓬莱鍋にします」
 「ストップウドンゲ! 銃を人に向けてはダメって習わなかったの!?」
 「そうですね、至近距離では心臓を狙わず腹を撃てと言われました。心臓を撃てば反射的に自分も撃たれると……」
 「いやいや撃つ場所の問題じゃなくてね……ってあなたどういう教育受けたのよ!?」
 「軍事教育です」
 「しまったっ!? てゐ! このデンジャラスな弟子を止めて……って何一人で逃げてるのよっ!」
 「長生きの一番の秘訣は、君子危うきに近寄らずなんですよっ!」
 「まてゐっ!」
 「ふふふ……装填よし! この金属の感触思い出すわぁ……」
 「ウドンゲ、私死ななくても痛いのは痛いのよ、だから……」
 「ふふふふふ……今から貴方と私はバディよ。一緒にあのバカ師匠を殺ってしまいましょう……必死尽忠、永遠亭の
財政難の為に、例え我が腕を犠牲にしてでも……」
 「ウドンゲ! 目が! 目が座ってるわよっ!?」

 「やめんかバカどもっ!!」

 兎狩り、じゃなくて兎が人を狩ろうとしていたのを一喝し、ため息を一つ。ちょっと目を離すとすぐこれなんだから。

 呆れる私の視線の向こう。正気に戻ったのか、はたまた最初から冗談のつもりだったのか、鈴仙はいそいそと銃をし
まい、永琳は澄ました顔で景色を眺める。てゐは何事もなかったかのように元に戻ってきた。なんか私ばかり苦労して
いる気がしてきたわ。
 
 「へんな子達ねぇ」

 視線を戻せば、相変わらずススキの海は凪いでいる。その向こうには淡い色の青空が広がっている。薄茶の海と、淡
い空、間には鮮烈な紅葉が見える。どれくらいぶりに見たのかわからない、とても広々とした景色。思わず泳いでみた
い誘惑に駆られた。ススキの穂を漕ぎながら、どこまでもどこまでも……。

 もちろん、従者の目があるから自重するけど、いつか一人の時にはやってみたい。子どもの頃にかえったように、姫
でなければできるはずだった経験をしてみたい。

 そんな事を考えていると、ここを越えればどんな景色が広がっているのか、そんな好奇心がほわほわと浮かんでくる。
長く生きてきた私は、様々な机上の知識を得て、それと反比例して体験という知識を失ってきた。

 でも、これからはきっと色々な事を体験していけると思う。本物の海を見るのは無理かも知れないけど。

 息を吸い込み、もう一度、皆を見る。すっかり落ち着いている従者と、また騒いでいるイナバ達、そして当然のよう
にお重を持って歩き去るライバルの姿。このメンバーなら、きっとどこまでも行けるでしょう。今日はどこまでもは行
かないけれど、ススキの海を越え、色鮮やかな山へと登り、皆でお弁当を食べましょう。
 
 「よぉ。永遠亭の皆さん、お日柄も宜しゅう」

 ――そんな、朗らかな気持ちに水をさすような声。これから滅多にない遠足だというのに。それは私達の目の前に現
れて行く手を阻んだ。あの女とて日本人でしょう? 情緒とかないのかしら。炎は出せても空気読む程度の能力は持ち
合わせてはいないのね。

 「もこたんinしたお♪」

 永琳が言った。

 「えちょ、セリフ盗らないでよ永琳」
 「ススキ野原のど真ん中で、空気も読まず取り敢えず颯爽と現れましたなんて雰囲気かもし出す御馬鹿の考えている
事なんて、手にとるように解るわ、妹紅」
 「え、そんな事言おうとしたの? 相変わらずヴァカねぇ妹紅は」
 「むっか。誰が馬鹿だ。それにしたって、今日は引きこもりじゃあないんだな」
 「そうよ。というか引きこもってない。今日はたまたま遠出するのよ。妹紅に構っては居られないわ」
 「師匠、なんでしたらこの狙撃銃の的になってもらうってのはどうでしょうか。お弁当+鳥鍋なんて風流です」
 「承認」
 「イヤッハー!!」
 「ま、まともじゃねー!! こいつらまともじゃねー!!」

 ガキョンガキョンと鈴仙の狙撃銃のギミックが唸り、銃身が伸びる。液体液晶のスコープ画面には、既に妹紅がロッ
クオンされていた。情緒も風流もあったもんじゃない。とはいえ、降りかかる文字通りの火の粉は払いのけられるが常。
鈴仙の試し撃ちにされるのも道理。

 「ペッ!! やるってんだったらいいさっ、やってや……」「その綺麗な顔をふっとばしてやるっ」「うわらばっ」

 合掌。妹紅が数キロ先まで開脚後転して飛んでいく。

 「あら、思った以上にスプラッタな事にはならないわね。少し残念」
 「ごめんなさい姫様。劣化ウラン弾じゃなくて、訓練用特殊ゴム弾を装填していたみたいで」

 あ、でも関節は外れるのね。あ、でも一人で治せるのね。さすが軍人、ある意味私より気持ち悪いわ。

 「ウドンゲ、しっかりして頂戴よ。次はちゃんと殺るのよ?」
 「はぁい」

 ゴム弾でもそんな大口径の銃で、しかもその速度で発射されたら頭ぐらいふっ飛びそうだけれど。そのあたりはやは
り、現実と幻想の境界なのかしら。もしかしたらあまり気にしてはいけないのかもしれない。

 「まぁ、妹紅は退けたから良いわ。さっさと目的地に向かいましょう」

 りざれくしょーん――……。

 遠くから何か聞こえる。そうよね、あれだけのモノ食らって、やっぱり只じゃすまないものね。ビジュアル考慮のオ
ブラート的表現よね。

 ……なんて哀れんで居たら、妹紅は物凄い勢いで私の視線の先から土煙を上げて走ってくる。

 「はぁ……はぁ……はぁ……むちゃくちゃだ……むちゃくちゃだ……」
 「元気ね」
 「五月蝿い馬鹿っ!! お前のところの兎はホント真っ当じゃあないなっ!! というかお前も永琳もみんな真っ当
じゃあないっ!! つまり永遠亭は真っ当じゃない!! 故に永遠亭は今度からエリア51だっ!!」

 打ち所が悪かったのかしら。言っている意味が解らないし、しかも面白くない。

 「はぁ。もこたん死ねば良いのに」
 「さり気無くそういうこと言うなよっ!! というかしょっちゅう死んでるだろ!?」
 「みんな死ねばいいのに……」
 「永琳お前!! お前が言うとなんか、地球生命そのものの命の価値が下がるからやめろっ!!」
 「師匠、もういっかい撃っても」
 「承認」
 「イヤッハーッ!!」
 「永久ループ怖いよっ!!」
 「嘘ウサ」
 「あ、嘘なんだ……」

 ノリノリの妹紅はそこでやっと一段落つける。なんだかんだ楽しそうなのよねこの子。普段から殺しあっているとは
いえ、地上に来てからそれなりに長い間一緒に居る訳だし、部外者というには違うような気もする。家族かといえば、
それは断固否定したいのだけれど。

 「それで、妹紅は何しにきたの?」
 「え? あ、いや、べ、ヴェツニィ?」
 「ははぁ。まさか私たちが出かけたのを知って、先回りしてたとか」
 「何故解る!!」
 「妹紅……姫様は寛大よ。仲間に入れて欲しかったら最初からそういえば良いのに。ええと、地球語でなんというの
かしら、ウドンゲ?」
 「ツンデレですツンデレ」
 「DETHSデレじゃあなかった?」
 「じゃあそれで」

 私の知識から言っても、それは絶対に違うと思うのだけれど、まぁ当人達が満足ならそれでいい気もする。属性なん
て最近じゃあ分かれに分かれて、大本の属性から様々な進化を遂げているし、大きな括りにしたらそれもその派生の一
つかもしれないし。

 まぁそれは良いとして、妹紅も可愛いところはあると思う。きっと友達なんて里の半獣しかいないだろうし、大勢と
外に出かけるなんて事は、元貴族の子である妹紅も、幼少の記憶にはないだろうし。あ、それ考えるとちょっと哀愁漂
うわね。

 一緒に行こうと誘ってあげても構わないけれど、捻くれ者の妹紅の事だ、そう簡単に頭を縦には振らないだろうし。
だから普通には誘わない。

 「そうよね。妹紅がまさか私たちを追いかけるなんて死んでもないわ。みんな、さっさとこの下賎なグズ人間を置き
去りにして山へ紅葉狩りに行きましょう。きっと紅葉を見ながらのお弁当は格別に違いないわ」

 罵りと説明を含めて口に出す。予想通り、妹紅は気に食わない、という顔で此方を見ている。でもまだ足らないらし
い。このままだと本当にただ置いて行くだけになってしまうので、もう一押しする。

 「永遠亭に居ると何時妹紅が襲ってくるかも解らなくって、意外とゆっくり出来ないのよね。でも外に出て、家族団
欒していれば、いっっっっくら空気の読めない妹紅だって自重するわよね。ああ、妹紅が襲ってこない一時はさぞかし
甘美なのでしょう。ねぇ永琳、その通りだと思わない?」
 「姫様、私というものがありながらそんなに妹紅が好きなんですか?」
 「ぐふっ」

 永琳が空気読めてないっ!! 全然読めてないっ!! そこは『ええ勿論です』と頷いておけばいいのよっ!! な
んでそうなるのよっ!! 誰が裏を読めといったの、誰が!! というかその結論も間違ってるわよっ!! ついでに
いえばアンタというものは無いわよ!!

 「そんな……か、輝夜……」

 なんでお前が顔赤らめるんだよっ!! もじもじすんなこのモンペッ!

 「な、ちょ。イナバ二匹、なんか言ってやりなさい……って、貴女達何メモ取ってるの?」
 「次の紅魔館主催のオンリーイベントは、もこてる本かなぁって」
 「鈴仙、フルカラー24Pは高くつきすぎるわ。そもそもそんなに捌けないわよ」
 「大手のパッチュ先生と有栖先生に1Pずつ依頼したらどうかな」
 「鈴仙ったら私より狡いわ。でも修羅場続きで最近は栄養ドリンクジャンキーだって。むずかしいわぁ」
 「交渉だけしてみようかな……」
 「わっけわかんないわよ!! ああもう、はぁ……」

 駄目だわ。コイツ等に共闘を持ちかけようというのが、間違いね。自分の事しか考えて居なさそうだし……あいや、
これは私も同じだけれど。それにしたってこのままじゃ話が前に進まないわ。

 「妹紅」
 「な、何?」
 「暴れないならついてきてもいいわ」
 「だ、誰がついていくか、ばーか」
 「あら、そう」
 「ま、まぁ? どうしてもって言うならついていかなくもないんだけどね?」

 素直じゃなさ過ぎる。というか永琳腹かかえて爆笑してるし。

 「はぁ。もういい。お願いだからついてきて」
 「え、えぇぇ? しょ、しょ~~がないなぁ……これっきりだよ?」

 最初からこうしておけばよかった。ああだこうだ言うから混乱するのよ。取り敢えず、山火事だけは気をつけさえす
れば、問題無いわよね。

 「あ、鈴仙、鴨飛んでるよー」
 「チャァァァンスッ」

 鈴仙は懐からバレッタを引き抜いて、ハンドガンとは思えぬ精密射撃を繰り返す。鉛弾は見事に鴨を貫き、今夜の夕飯
を決定付けた。

 抜けるような青空に響く銃声。落ちる鴨。もじもじする妹紅。まだ腹を抱えて爆笑している永琳。
 紅葉狩りなのに、なんか前途多難だった。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 「ふぅ……見事なものね」
 「えぇ。そうですね姫様」

 紅葉の絨毯に紅葉の天蓋。どこを見渡しても赤や黄で彩色された木の葉で一杯だった。秋の妖精がそこかしこでクス
クスと談笑し、顔を見せたかと思えば引っ込み、何処かへと飛び去って行く。椛を一枚拾い上げて、それを空の色と比
べてみる。今は蒼を湛える空だけれど、この椛の色は夕焼けの空と同じ。言うなれば、この山は今夕焼けなんだ……な
んて口にしようとしたけれど、妹紅が何やらニヤニヤしているので止めた。コイツには恥かしい言葉など吐けない。

 「……何笑っているのよ、妹紅」
 「いやぁ? 椛なんて手にして、どーせ乙女チックな事でも考えてるんじゃないだろうかなぁと思って。千数百歳に
もなって木の葉達の儚さを語るのは、説得力ってないよなー」
 「思考読まないでよ、キモチワルイ」
 「いいじゃない、妹紅。幾つになっても少女で居られるなんて、そう無い事よ。貴女も元貴族の娘なら詩の一つでも
詠んだらいいんじゃないかしら」
 「あのね永琳。あいにく私は情操教育によろしくない出生の持ち主でね、元からひん曲がってるんだよ」
 「秋深く 落つる木乃葉の 儚さよ まだ観ぬ冬に 遠く及ばじ」
 「なんて意味さ」
 「なんとなく思いついた言葉を何となくくっ付けただけだから何の意味もないわ」
 「深読みすれば。お前はココで死んでおけ、この先に良い事なんかないぜ。って意味ね」
 「永琳……実はその通りなの」
 「お前等ホントわけわかんない……もう少し普通に解釈すればいいじゃないか。木の葉を人と置き換えて、冬を未来
とすれば自ずと見えてくるだろう。人の身には限界がある。見えぬ未来はあれどそれが良いかは解らない。だったら今
この時を甘んじて受け入れなさいって皮肉、じゃあないのか?」
 「なんだかんだいって、色々考えてるのね、妹紅」
 「馬鹿扱いしおってからにもぉ……」

 取り敢えず秋っぽい雰囲気を味わいながら、紅葉のトンネルを三人と二匹で練り歩く。普段歩かないからちょっと足
は疲れてきたけれど、変化が無いように見えてその実様々な光景があるこの山は、何とも飽きが来ない。妹紅も不機嫌
そうに装ってはいるようだけれど、何か発見する度に「おっ」などと声をあげているからつまらなくは無いみたい。

 イナバ二人はさっきから、立ち止まっては木陰で何やらを収集して、面白おかしそうに笑っている。喧嘩はすれど仲
は良し。微笑ましいといえば実に微笑ましいが、手にしているものは毒々しい色をしているので、実際のところは微笑
ましくも何とも無くて、私すら引くほどの狂気に充ちているのかもしれない。

 「姫様、疲れませんか?」
 「……はぁ。大分歩いたものね。普段飛んだりしてる分、肉体が弱って仕方ないわ」
 「そうでしょうね。ウドンゲ、ちょっと空に上がって、休憩できる場所を探して頂戴」
 「イエッサー」
 「なんだなんだ、だらしないな姫様は」
 「……姫だもの。普通なら空を飛ぶか牛車よ……はぁ……」
 「元だろ元。パンピーならもう少し体力つけないと、暮らしていけないぞ?」
 「……パンピーって貴女ね。姫じゃなくても高級遊民よ。はぁ……基本、働かないのが仕事なの……」
 「たいそーなご身分で。遊民は遊民らしく文学にでも勤しめば良いのに」
 「……そうしてるわよ。何? 本気で外界から、はぁ……パソコンでも持ってきてると思ったの?」
 「え、違うの?」
 「実はその通りなのよ……」
 「じゃあ否定するなよっ!!」
 「あと……軍事とか兵法とかも嗜んでるわ……はぁ……その内立派な武将が助力を求めてきたりするのよ」
 「待て、これは輝夜の罠だ……なんてあるかボケ。どこの諸葛亮だ。そういえばアレも無職っちゃ無職だったか」
 「そ。無職だからって無能って事は無いのよ。歴史が語るわ……はぁ……ふぅ……」
 「つ、つらそうだな」
 「ししょー、二百メートル程度先に、開けた場所がありますー」
 「決まりね。そこでお弁当にしましょうか」

 等々、詭弁を立て並べて妹紅を往なした私は、鈴仙が先導する後をそそくさと付いて行く。これ以上突っつかれると
ボロが出るので、逃げとも言える。まぁ何と言われようとも、私は姫様だもの。いいのよ。居るのが仕事なの。

 「ふぅ……あー……あの岩場かしら?」
 「はい」

 足場の悪い山道をよいこらせと、年寄り(何を規準に年寄りと言ってよいか解らない体ではあるけれど)のような緩
慢な動きで登る。妹紅に後ろから押されながら、と云うのが非常に情けないけれど、今は助かるので言及しない。

 「ついたぁ……」
 「お前、やっぱりもう少し動いたほうがいいよ。不死身だって体力ぐらい落ちるだろう」
 「ふ……積極的に動いたら、負けだと思ってるわ……」
 「そういうの頑固なのな……」
 「あー、それにしても、いい眺めねぇー。幻想郷が一望だわぁ」

 岩場は周りに大きな木が生えておらず、丁度里の方が良く見えるようになっている。青空の下には手付かずの自然に、
こぢんまりとした人里、稲刈りが終わった田んぼに色づいた木々草々。普段空から見下げているのとは、また違った趣
がある。

 「そうだな。空から見下げてる筈なのに」
 「苦労するからね。苦労した後のご褒美って、やっぱり嬉しいものだし、同じモノでも別モノのように思えるもの」
 「苦労知らずが良く言う」
 「ほらほら、二人でねっちょりくっついていないで、お弁当にしましょう」
 「師匠、おなかすき過ぎて耳が萎れました」
 (イナバのあれは空腹度を表していたのかしら……)
 「永琳様、おなかがすき過ぎて耳がでっかくなりました」
 「あらてゐ奇遇ね、私もなのよ」
 「えぇ!?」

 と、餌に餓えたウサギが何やらグダグダやっている。
 永琳は花柄のシートを広げて早速重箱を開け始めた。

 「うお、美味しそうだな。これ永琳が作ったのか?」
 「違うわ」
 「んじゃ鈴仙?」
 「違うわよ」
 「え、じゃあてゐ?」
 「いいえー」
 「おっかしいな……じゃあ誰が作るんだ」
 「なんで私って選択肢がはぶられてるのよ」
 「ハハハ、姫様ご冗談を、ハハハ。どうみても慧音のメシより美味そうじゃないか」
 「比較対照が慧音なのは、自分が料理出来ないから? 一体何年生きてるのよ」
 「千数百とちょい」
 「……」

 まぁ、それを言うと永琳もだけどさ。千数百年も生きていて料理の一つも出来ないって何かしら。ギャグ? 結構リ
アルに笑えないわ。

 「ま、まぁ。私も大した物は出来ないけれど、月並みよ」
 「上手いこと言ったつもりだろうがおもしろくはないなぁ」

 やかましい、と妹紅の頭を引っ叩く。私は箸を手に取り、重箱から私の自信作を摘んで、妹紅の口に突っ込んだ。見
た目は単なる鶏の唐揚げ。けれど一重に唐揚げといっても、その奥は深い。衣につける味の工夫、部位で異なる挙げ加
減、そして何より、お弁当という事を考慮した、冷えても美味しい仕様だ。これを不味いと吐かれたのなら、私は妹紅
を形容し難い形で虐殺しかねない。

 「んがぐぐ……なんだ、本当に美味しい……いや、なんだ、この冷めても広がる味わいは……まるで舌の上でシャッ
キリポンだ……」
 「いや、シャッキリポンとするような歯ごたえも舌ざわりもないと思うけど、美味しいでしょ?」
 「なんだ、また飯をご馳走になる所が増えたなぁ」
 (食べにくるのかよ……)

 どうやら気に入ってもらえたらしい。あたりまえだから、べ、別に嬉しくはないけど。

 「さ、ほら。みんなも食べましょう」
 「頂きます」
 「唐揚げ唐揚げ」
 「妹紅、一つのものばっかり偏食しないでよ……ってあら、イナバ二匹は?」

 騒がしい食事が始まったのはいいけれど、兎が見当たらない。と、思ったら岩陰から何やら煙が上がっているのが見
える。まさか山火事はやめて欲しい、と思った私は席を外し、大岩の陰まで足を運ぶ。

 「……てゐ、大丈夫なのこれ?」
 「たんなるキノコ鍋だもの、普通よ普通」
 「何処からそんな材料……は、山にあるか。でも何で鍋……」
 「あ、姫様。実はですね、新鮮な食材をその場で味わおうと画策して、今こうして鍋を」
 「……ま、まぁ。火の元だけは注意して頂戴ね」
 「はーい」

 鍋だ。何処から持って来たのかしれないけれど、鍋だった。
 キノコの種類については、あまり詳しくないので突っ込みのいれようは無い。でも、兎が食べられるとして煮込んで
いるのだろうから、別に咎める必要もないとは思う。

 「おい輝夜、あの二人は何してた?」
 「何故か鍋を作ってたわ」
 「へぇ。山で取れたの突っ込んだのか。新鮮闇鍋だな」
 「不吉な事言わないでよ」
 「どーせドクキノコが入ってても私たち死なないし、逆にその毒が美味いかもしれない」
 「え、永琳、そういうのどうかしらね」
 「そうですね。私は毒も薬も大して効きませんし。以外な珍味を発見できるかもしれませんわ」
 「不死身が不死身に言うのも滑稽だけれど、あんた達楽天的ね……いえ、あの鍋に毒が入ってる、なんて言ってる訳
じゃないのよ?」
 「部下を信用しないなんて、酷いお館様だな、なぁ永琳」
 「永琳にそんな事聞かないでよ。それより妹紅……アンタ野菜も食べなさい野菜も」
 「鶏だって安くないんだ。食い貯めだよ」
 「卑しい子ねぇ」

 席に戻り、自分の作ったお重を改めてつまみ始める。唐揚げの味が濃かったから、出汁巻き卵は薄味でよかったわね。
芋の煮っ転がしも、即席とはいえ中々の味わい。山菜の和え物も完璧。自分で言うのもなんだけれど、流石私様ね。

 「お茶を持って来たんですけれど、飲みます?」
 「気が利くわね……って、永琳そんなのもって……」
 「ありますわ、ここに」

 突如胸元を開き、何をするのかと思えば、谷間からポットが出てきた。妹紅は口に含んだ芋を噴出しかけ、私は鼻か
らゼンマイがちょろんと露出する。美少女に有るまじき行為、自重よ自重。

 「改めて永琳が恐ろしい……畏怖だ、畏怖を感じる」
 「その胸どうなってるのよ。冗談は大きさだけにしなさいよね、永琳」
 「姫、鼻の穴からゼンマイがごきげんようしていますわ、性的な意味で」
 「どんな意味よ……うぐぐ……ふぬ……はぁ……とりあえずお茶頂戴」
 「はい」

 胸元から今度は湯のみが出てきた。もう驚かない。驚いてたまるか。でもお茶を口に含んで変な気分にはさせられる。

 「うわぁ……このお茶、人肌……」
 「うわぁ……このお茶、ぬくぅい……」
 「八意式保温術、とうとう成った……とうとう……」

 永琳はハラリと落ちる涙を手で拭う。そんな感動は知らん。てかんな術式を編み出すな。というか一体何年かかった
んだ。さらにいえば、暇だなアンタ。我が従者ながら……意味不明だ。どんな原理なのよそれ……。

 「うぅぅん……まるで永琳を飲んでいるようだ……」
 「同意したくない……でも同意せざるを得ないこのお茶の温さ……うう、永琳を飲んでいるようね……」
 「どうかしら。童心に返った?」

 どうしてそうなる。

 「だ、駄目?」
 「いや確かにこれは永琳だけど……永琳なだけで童心には返らないというか、どんな原理でこうなって、どんな理由
で童心に返るよう工夫したのかが知りたい」
 「ああ、喉の奥が永琳に蹂躙されるわ……でも童心には返らないわね。というかどうして童心に返るのかその理由が
気になって仕方なくて今夜は眠れそうにないわ」
 「くっ……まだなのね……まだ駄目なのね……苦節六千年経ても、叡智はまだ手に入らない……」
 「六千年も頑張るなよ……」
 「嫌な叡智……というかその頃ポットあったんだ……」

 計り知れない。計り知れなさ過ぎる。というかこんなもん理解出来る人がいるなら、是非とも永琳をお嫁さんに貰っ
てあげるべきだわ。仲人だってしたげるわよ。

 「うぅぅ……口の中まで永琳でいっぱいだよぉ……」
 「妹紅、お願いだからそんな発言しないで……私だって口の中どころかお腹の中まで永琳でパンパンよ……」
 「ふむ……まぁこれはこれで、予想外の出来、と云う所かしら」
 「……こう、別なものが飲みたいわね……って、あら?」
 「お三方、どうぞそのままで。お鍋のご到着です」

 と、丁度良い所にイナバ二匹が現れる。てゐの手には鍋が抱えられていて、熱そうな湯気をたてていた。見たところ
味噌ベースのキノコ鍋らしく、永琳に蹂躙された口の中を濯ぐにはもってこいだ。

 「完璧なタイミングね。よそって頂戴な」
 「はいはいただいまー」

 何の変哲もないように思える。違和感といえば、紅葉狩りに来てなんで鍋なのか、という一点だけれど、諸事情によ
り今は嬉しいので不問とする。非常に情緒には欠けると思うけど。

 「ところで、何のキノコが入ってるのよ」
 「食べれる(と思われる)もの全般です。流石の私だって、ご主人様達に毒を持ったりしませんわぁ」

 てゐが言うと全部うそ臭く聞こえるのは、日頃の行いの賜物だろう。でもそんなの関係ねぇ。この口の中と食道と胃
を洗い流せるなら多少毒だって構わないわよ。

 「……あ、美味い美味い。なんだ、普通の鍋だな」
 「出汁がきいてるわね……あら、貴女達は食べないの? というか永琳なんで離れて行くの?」

 永琳はお重を持って物陰に隠れる。イナバ二匹もまた同じで、まるで未開の地で珍妙な生物を発見した隊長のように
警戒していた。

 「変なの……。毒も無いみたいだし、美味しいのに……ん? 妹紅?」
 「……輝夜、お前……あれ……? なんだ、そんなに綺麗だったっけ……?」
 「何言ってるのよ。私は万人を魅了する月の姫よ? 綺麗なのは当たり前……だけど、あら? 妹紅、貴女なんだか、
妙に可愛いわね……」

 呆とした顔で此方を見つめる妹紅が、非常に愛くるしく思えてくる。なんだか信じられないけれど、二千年に一度の
恋でもしてしまったかのように、胸がドキドキして、顔が熱くなる。嫌だ、私女なのに……でもその、妹紅って性別の
壁なんか取っ払ってしまうほど、可愛い。

 「てゐ、アンタ何入れたの?」
 「幻想郷特産のユリタケ」
 「くくくっ……計算通りよ、てゐ」
 「ですよねー♪」
 「え? 何、もしかして二人でこんな事企んでたんですか?」
 「普通にやっても警戒して食べないでしょ、鍋なんて」
 「あのお茶わざとなんだ……というかそんなの手伝わされてたんだ……」

 物陰からヒソヒソ聞こえるけど、そんなもんはどうでも良い。ああ妹紅、なんで貴女はそんなに可愛らしいの。可愛
らしすぎて、捕まえて撫でくりまわした挙句甘噛みしてしまいたくなるわ。というか実行してしまおうかしら。人目は
あるけど、このはやる気持ち、抑えきれそうに無いわ。

 「ももももも、妹紅……? そそ、その。ちょっとそっちに寄っても、いい、良いかしら?」
 「え、あ、その、う、うん。どど、どうぞ?」

 器を置いて、顔を真っ赤にしたまま俯く妹紅の隣に腰掛ける。自分の心音が妹紅に聞こえてしまうのではないかと心
配してしまうけれど、顔に出てしまっているから今更感がある。私は隣に置いておくだけでは耐え切れず、伏せられた
手に手を重ねる。瞬間妹紅がビクッと跳ね上がって、恥かしそうに顔をあげた。
 視線と視線がぶつかる。普段殺しあってばかりで、馴れ合う事だってしなかったと云うのに、今日は一体どうしちゃ
ったのかしら。何でそんな熱っぽい目で私を見るのよ。嗚呼、妹紅の香りが私の鼻腔を擽る。山を登った所為でちょっ
と汗が混じっているけれど、それがまた……あ、いや、そんな、私変態みたいじゃない。

 「てゐ、カメラスタンバイ」
 「バッチリです永琳様」
 「ウドンゲ、周辺を警戒して頂戴。不審者は射殺して構わないわ。今この時を邪魔されてたまるもんですか」
 「私も人の事いえませんけど、過激すぎやしませんかね」
 「その新型狙撃銃の的にしてやりなさい」
 「それはうれしー……けど、その、なんでまたこんな事」
 「今はまだ機が熟していない……然るべき時に話すわ」

 嗚呼妹紅可愛いわ妹紅。どど、どうしましょう?

 「か、輝夜? 皆見てるからその……ふ、二人でちょっと、歩かないか?」
 「賛成、賛成よ。そうね、そうよね、私も二人でお話がしたいな、なんて思ってたところよ!!」

 私は席を立ち、妹紅に付き添って三歩後ろを歩く。恥かしいのと、嬉しいので妙に貞淑な感じになってしまう。もう
妹紅しか見えないのが原因ね。このまま添い遂げてしまいそうな勢いだわ……。

 「輝夜、そんなに離れなくとも……」
 「な、並んだ方が良いかしら。でもその、女はやっぱり三歩引いて付いて行く方が……」
 「手、ほら」
 「う、うん……」

 いつもは頭に来る事ばっかりするクセに、凄く優しい。握った手が温かくて、思わずそれを引っ張って、胸の中に治
めてしまいたくなってしまう。でも、でも駄目。妹紅が良いっていうまでは駄目。はしたない女だなんて思われたくな
いわ。妹紅を立ててあげなきゃ。ああ、凄い幸せ。人と触れ合うって、こんな気持ちだったのかしら。久しく忘れてい
たような気がする。傲慢に振舞うのも姫の仕事の内、なんて考えていたけれど、やっぱりそれはタダのエゴだわ。私み
たいな女は、愛する人を立ててこそ、その真価が発揮されるに違いない。

 「その……いつも、ごめん。なんだかお前を観てると、すぐ弾幕りたくなっちゃって……」
 「私こそ……妹紅をみると直ぐ殺りたくなっちゃうのよ……」
 「実は今日ついて来たのも……こういう機会に少しでも打ち解けられればって思って……」
 「妹紅……」

 秋葉降りしきる山の中。妹紅は私を正面にして、手をそっと抱く。この子は私が振った貴族の娘。千年越しの恨みの
先にいた私は、この子を受け止めてよいものか。いがみ合っても何も生まない事なんて、遠の昔から知っている。妹紅
の気が、私を殺す事で晴れるなれば、それでも良いなんて思っていた。又そのいがみ合いは、私の暇潰しにもなったか
ら。でも、と思う。
 もっと別の形で、その恨みと私の気持ちを両立させるものは無いのかと考えた場合……そして、互いにそんな気持ち
を抱いている場合は……そう。こんな形が、あっても良いんじゃないだろうか。

 「輝夜……」

 妹紅の顔が近づく。私はまるで思春期の子供みたいな顔をしているんだろう。思わず目を瞑って、顔を傾ける。嗚呼、
触れてしまう。いけないのに。いけないのに。きっと熱病に違いないのに――。

 ……熱病?


 え、つーかまじで体が熱いんですけど。妹紅が隣に居るからとかそういう問題じゃなくて。すげー熱い。
尋常じゃないくらい熱い。ていうか私の体、何か変じゃない? 熱にうなされているのか、目の前の妹紅の顔がゆがみ、
意識が朦朧とする。視界がすぐれないけれども、かろうじて捉えた妹紅の顔も普通でなく赤かったわよ?
 思春期とかそういう理屈で説明できるレベルじゃねえぞ、これ。

 「ところであの二人を百合らせて、私たち何か得するんですか?」
 「……。二人が仲良くなれば、もう妹紅の襲撃に悩まされなくてすむじゃない」

 微かにだが永琳達が遠くで話している声が耳に伝わってくる。声は情報として入ってくるが、頭がぼんやりとかすん
で喋っている内容は何所か亡羊として感じる。
 意識が薄れるなかで、私は懸命に妹紅の姿を求めて手を伸ばすが、うまくその像をつかむことができない。

 「あー、なるほど。良かったです。師匠が単なる興味本位とかその場の思いつきでやってるわけじゃなくて。
  ちゃんとした目的があるんですよね」
 「…………」
 「なんで黙るんですか?」
 「……ビデオ撮っておけば後で強請りのネタに使えるかも」
 「あの姫強請って何が出てくるんですか」
 「……あのさー、ちょっと二人とも」
 「「何?」」
 「あの二人さー、なんかでかくなってない?」

 ふいに視界が開ける。
 だんだんと頭の中のもやが開け、ぼやけていた意識がはっきりしてくる。
 …………。
 へ? なにこれ?
 足元にはミニチュアみたいな木が生い茂り、手のひらに収まるぐらいの小石が幾つかごろごろと転がっている。
 ……もしかしてこれさっきまで立っていた岩場ですか?
 いつのまにか、周りの森より私の方が背が高くなっているんですけど。
 横を見るとやはり模型サイズの木陰に隠れる永琳達のようなものを見つけた。
 すごく、小さいです。私の足首ぐらいまでの背丈しかない。
 あれ、妹紅は?
 あ、目の前にいた。ってうお、こいつもでけえ!

 「……大きくなっているように見えるわ」
 「ねえ、れーせん。ガ○ダムって何メートルぐらい?」
 「20メートルぐらいじゃないかしら」
 「じゃあゴ○ラは?」
 「2メートルか50メートル」
 「おかしいわね。巨大化するような成分は入れてなかったはずだけど。……そう言えばてゐ、調理に使った水どこか
 ら汲んで来た?」
 「んーとね、大蝦蟇の池」
 「!」
 「どうしたんですか、師匠。そのビックリマークはなんですか? ビックリマークは英語ではエクスクラメーション
 マーク、エクスクラメーション! って大声で叫ぶと何か必殺技みたいですよね。って、地図なんて広げて、本当に
 どうしたんですか師匠?」
 「見て。これは地下の水脈を記した地図よ。永遠亭の地下から大蝦蟇の池まで一本の水脈が通っている」
 「ということは……」
 「永遠亭性廃棄物は大蝦蟇の池まで流れ込む……」
 「師匠、巨大化する薬なんて作ったことあるんですか?」
 「……」
 「……だから何で黙るんですか?」
 「テヘ☆」
 「……。(存在がマジで公害だよ、この人) で、どうしたんですか。その廃棄物は?」
 「永遠亭から地下の水脈に流した。失敗だと思ったから」
 「やっぱり……」

 声は小さかったけど、永琳の一連の発言は私の耳にも確かに聞こえた。大蝦蟇の池は本当に汚染されていたのかよ!
 永琳め、本当余計なことしかしないわね。周辺住民に謝罪する私の立場を考えなさいよ。
 永遠亭性廃棄物って、あんただけの廃棄物でしょうが。だいたいテヘ☆ってどうやって読むんだよ、「テヘほし」と
でも発音するって言うのかあ? ふざけやがって。
 それにしても、てゐもわざわざあの池から水を汲んでこなくてもよいだろうに。
 まあ、確かに蝦蟇の池はこの山の近くだけど。
 え? ちょっと待って。ってことはもしかして大蝦蟇は……ちょっと前にした嫌な想像を思い出す。
 ちょうどその時、私の目に、遠く竹林の真ん中から燃え上がる煙が飛び込んできた。
 巨大化して背が高くなったから見えたのだけど、煙の上がっている場所、あれはまさしく永遠亭の方角。
 目を凝らして良くその方角を見てみると、視力もサイズ相応になっているのか、燃えあがっている屋敷が見えた。
 いくつかの小さい粒が舞い上がっている。それは空中に放り投げられた兎達だ。
 その下。居た。恐れていた予感が的中した。毒々しい皮膚が炎の紅に照らされて光沢を放っている。永遠亭は巨大化
した大蝦蟇に襲われて炎上しているのだ。必死で防衛に従事しているものの、巨大な大蝦蟇の長い舌に巻き取られて飲
み込まれる兎たち。音はここまで届かないけど、私の耳にはうめき声が聞こえたような気がした。
 その光景はさながら地獄絵図。ああ……わ、私の屋敷が。
 <bold>
 『ちょ、えーりん!』
 『やっぱりお前の仕業か!!』
 </bold>

 妹紅も自分の状態に気づいて叫ぶ。手のひらなんか見つめてわなわなしているわ。
 事態を引き起こした張本人はと言えば、私達の足元で平然とした顔をしている。
 おまけに腕組みなんかして、妙に態度がふてぶてしいんですけど。
 <bold>
 『ちょっと!! 永遠亭、ガマに襲われちゃってるじゃない!!』
 『あー、こんなデカ女になっちゃったらお嫁に行けないよう! ……ふざけんな、はやくなんとかしろ!!』
 </bold>

 「うわぅ!? 声でかい!」

 そう言って鈴仙がしゃがみこみ、へにゃ耳をぺこんと両手で押さえる。
 そうか、巨大化しているから声も大きくなってるのか。

 「……でも、何で服まで大きくなるのかしら?」

 鈴仙が不思議そうに隣のてゐに尋ねている。

 「……きっと蓬莱人だからじゃない?」
 「なにそのご都合主義」
 「……こうなったら仕方ないわね」

 ん?
 えーりん何を!?
 ごく、ごく、ごくって。
 自分から薬入りの鍋を飲み干しやがった。
 いったい何!?

 「Why!?(なぜ!?)」

 隣で永琳の奇態を見ていた鈴仙がそう叫ぶ。
 鍋をすっかり空にした永琳はと言えば

 「熱づづづづづづうううう!!!」

 いや、そりゃ冷まさないであんな鍋丸のみにしたら喉焼けるに決まっているでしょ。
 それに素手で熱した鉄鍋をつかんでいたし。いったい何を考えているのかしら?
 知識を詰め込み過ぎて脳みそが発酵して、水戸的に納豆になっているのかしら?
 まあ蓬莱人だから脳は無理としても、喉はすぐに回復するんでしょうけど。
 何て考えているうちに、むくむくと巨大化して私たちと同じサイズになる永琳。
 ほんとだ、服も一緒に大きくなるんだ。不思議。じゃなくてさあ……。
 蓬莱人全員巨大化? 意味分かんないんですけど。
 大きくなった永琳は、両手を広げて
 <bold>
 『さあこい!』
 『『いや……』』
 </bold>

 茫然とする私と妹紅。

 「What’s happen!?(なにが起こったとですか?)」
 「I’m fine thank you(どうみても私はげんきです、ありがとうございました)」

 わけが分からず、足元でうろたえる二匹のイナバ。やけに流暢な英国語を話しているのが気になるわ。
 私も説明して欲しいんですけど。ああ、疲れる。
 長年疑問に思っていたけど、マジ永琳の頭の中身ってどうなってんの?


 ※作者より:↓『』とかフォント操作とか、めんどうになってきたので、以降普通に書きます(´・ω・`)

 「来いとか言われたって……」

 妹紅がそう言って眉をしかめる。気持ち、分かる。マジで難易度高い。天才だからって何やったって許されるってわ
けじゃねーぞ。あー、本気で腹立ってきた。

 「妹紅」

 私は深呼吸をした後、静かに声を発し、隣に立っている巨大妹紅に呼び掛ける。

 「なんだ?」
 「考えてみれば、あなたと殺し合ったことはあるけど、一緒に同じ敵と戦ったことなんてなかったわね」
 「!? そういえば……」
 「今、私たちの目の前にいるのは、共通の敵じゃないかしら?」
 「それ、めっちゃナイスなアイディーア」
 「予想外の展開」

 目の前のマッド医師がぽかんと口をあける。いや、至極まっとうな展開でしょ。
 妹紅と共闘。それは腐れ同人作家がよだれ垂れ流して飛びつきそうな題材。自分で言うのもなんだけど、カカロット
とベジータのタッグぐらいインパクトがあるんじゃない?

 「思い返してみれば、私が月を追放されたのも永琳のせいな気がしてきたわ」
 「なに!? ということはすべての元凶はこいつか!」

 お互いにすこし距離を取って、永琳を追い詰めるようににじり寄る私たち二人。背後には山の尾根がある。
 永琳の逃げ道をふさいだ形だ。

 「どうしてもやる気ですか?」

 永琳が鋭い目つきで私たちをにらみ、そう声を発する。いや、あんたさっき、さあ来い、とか高らかに言い放ってい
たじゃない。

 「いまさら命ごいか! 見苦しいぞ、八意永琳。幻想郷最強と噂されるその力、見せてもらおうか!」

 妹紅が仁王立ちになって、永琳をびしっと指さす。
 うおう、決まってるう。なんか今日の妹紅、かっこいいわ。
 盛られた薬の効果かもしれないけれど、妹紅がとても頼もしく見える。
 名ざしされた永琳はと言えば……あれ? なんだか永琳の周りにどす黒いオーラが渦巻いてる。

 「しゃらくせえ、小娘二人がイキガリヤガッテ……」

 うわ、何急にその悪党面。
 千年以上一緒にいるけど、始めてみたわよそんな表情。それに毒々しいセリフ。どう考えても三下のやられキャラが
発するセリフよ、それ。なんか本当に永琳が悪人に見えてきた。そういえば、今までもいろいろと思い当たる節があっ
たかもしれない。

 「本性を現したわね。やっぱり私の姫の座を狙っていたのね、この年増従者が!私を屋敷に閉じ込めていたのも、ど
 うせ何かの謀略だったんでしょ!」
 「いきなりめっちゃこじつけっぽいけど、そういうことにしておこう。不死の焼き鳥の力、見せてやるわ! この悪
 代官め!」

 いや、自分じゃなくて相手を焼けよ。

 「妹紅、あんた意外と学ないわね」
 「生活するのに忙しくて……ってそんなこと関係ないだろう、今は!」
 「しっかし腹立つわ永琳、下賤の身分にすぎなかったあんたを取り立ててやったのは誰だと思ってるの? 恩を忘れ
 て私に毒を持った上、あまつさえ主に牙を向けるとは。この狂犬が!」
 「フン。覚えてますか? この千年間いろんなことがありましたね。あなたが地上に追放されて以来、随分長く同じ
 時を過ごしました。一緒に妖怪兎の治める土地を制圧したり、里まで変装して出かけたり……あなたが月の使者を追
 い返すときにも手伝って……共に苦しみ、共に喜び笑い……私はあなたに尽くしてきました! 夢見る世間知らずの
 お姫様のわがままにさんざん付き合ったのも、それに耐えたことも……全ては貴様を殺す今日のこの日のためッ!!」

 マジでそうでしたか。
 永琳は今まで私に忠誠を誓うフリをして、実は私の命を狙っていた。
 衝撃の真実、すごくショックなんですけど。ぐや、超ショック。
 ていうかハラワタ煮えくりかえるわよ、ガッデム!

 「おのれーーー、獅子心中の虫、君側の奸め! 懲らしめてやる制裁してやる修正してやるわっ!」
 「ちょ、師匠悪乗りしすぎですよー。姫も落ち着いてください。師匠は冗談でやってるだけなんですから。ですよね?
 師匠?」

 ちびれーせんが私たち三人の間に走ってきて、仲裁しようとする。

 「鈴仙、あなたが永琳のことを思う気持ちはわからないでもないけど、永琳は病気なのよ」
 「え? 病気?」
 「そう、権力欲と言う名の病気。この病気に取り疲れた者には、荒良治しかないの。この月の王族たる私が力をみせ
 つけて、庶民との格の違いと王族としてのカリスマを示してあげて、どちらが支配する側かを思い知らせてあげる以
 外に治療法はないのッ!」
 「アハハハハ、お飾りの王族が大層なことを言うじゃないか!」
 「あのー、もこたんちょっと二人のノリに着いていけてないかな?」

 うーん、もこたんは好きだけど、もう少し空気読んでほしいかな?

 「くらえやー!! 光源符・オモイカネ銀河!!」
 「いきなり? なんて卑劣な! もこたん、まかせた!」
 「えっ!? 急に言われても!?」

 永琳が唐突に発動させたスペルカード、それを避けるためにもこたんの背中を押す私。
 けっして盾にしたわけではない。

 「うわわっ!?」

 あっという間にオモイカネなんたらの弾幕に捕えられる妹紅。

 「なっ!? このスペルは?」
 「こ、これはー!! オモイカネブレイン+壺中の銀河!!」
 「そんなパラダイス銀河みたいな」
 「若い人は知らないから、知らないから」

 足元で空中を見上げる鈴仙とてゐが何かごちゃごちゃと言っている。
 既に目前には、ものすごい速度で回転するエネルギー弾頭の嵐が展開されている。

 「くっ!!」

 伝わってくる衝撃の余波で、一瞬思わず目をつぶる。
 大地が力の共振で揺れている。なんて威力。

 「すごいだろう、フハハ!」
 「なにこのチートスペル!?」

 うわあ、これ避けられるスペルじゃないわ。ガチで殺しのスペル。
 ぎえええ、断末魔の叫びをあげながら壺中の中で回転するオモイカネブレインの弾幕に切り刻まれるもこたん。
まるで摩り下ろしリンゴみたいに、物凄い速度で削れていく。具体的に言うと、肉が。うええ、スプラッタ。
 でも、きれい。例えて言うなら銀河小宇宙の中で回転する紅い鮮血ってところかしら。
 ……。
 いけない、見とれてる場合じゃないわ。適当にボム投げて救出しないと。

 「えい! 蓬莱の樹海!!」
 「くそ、後少しだったのに」

 すごく口惜しそうな永琳の顔。あれは根っからのサドね。
 もこたん、引きずり出してみたけど、かなり重症っていうかあんまり残ってないわ。

 「もこたん、大分ミンチになったけど、まだ行けるわよね?」
 「……ギヴ」
 「そう? OK? さすがもこたん、藤原一族だものね、戦意満点よね!」
 「フジワラカンケイネ……」

 とは言ったものの、こんな状態じゃ妹紅は戦力として期待できそうにない。
 リザレクションするまで、適当に時間を稼がないと。
 こちらから牽制技をしかけるか。

 「いくわよ! 新難題・ミステリウム!」

 私が放った帯状の弾幕は幾重にも永琳を取り巻いて……
 あれ? ってミステリウム、永琳に届く途中で消えちゃったんですけど……なんで!?

 ピー。

 なに、この音。笛みたいな。
 ん? 足元を見たら鈴仙が笛吹いて両手でぺけ印作ってる。だめよ、だめよのサイン。一体なんだ?

 「文化帖技は禁止です!!」
 「へっ、なんでよっ!?」
 「作者が文化帖クリアしていないからです」
 「ハア? そんなん知らないわよ!!」
 「だって見たことも味わったこともない弾幕描写できるわけないじゃないですか」
 「知るかそんなの。この高貴な月姫たるワタクシが、何でそんな凡愚な物書きの都合に合わせなきゃいけないの?!
 文化帖ぐらいさっさとコンプリートしなさいよ! SS書くよりそっちが先でしょ!?」
 「なんと言われても書けないものは書けません!」

 ぐぐぐ、いらつくなあ。
 文化帖技禁止ってことは、使えるスペル4っつも減ったじゃない……

 「どうしました!? 足元がお留守ですよ?」
 「ほぐわっ!?」

 すかさず隙をついてきた永琳の弾が私の膝にヒット。
 まず機動力を奪おうといういやらしい作戦か。
 でもやばいわ、えーりんマジで強い!
 ガチになったえーりんがこれほど強いとは思わなかった。
 いきなり攻撃してくる卑劣さと言い、スペルの威力といい、その実力を認めないわけにはいかないわ。
 エキストラボスの妹紅とタッグを組んでいるというのに、押されっぱなしだし。
 このままではやばい、私もブリリアントドラゴンバレッタを連射して応戦!
 ……くそっ! 当たらない!
 ひらひらと空中を舞って、狙いづらいったりゃありゃしない!

 「どうしたんだい、王族さんよー! 格の違いをみせてくれるんじゃなかったけー?」

 うぎぎ、マジむかつくえーりん。霊撃二発分の名前読めない中ボスぐらいむかつく!

 「くうう、お望み通りみせてあげるわよ、封印されし月の王族の力をっ! 開け、天の聖櫃!」

 唱えたキーワードに反応し、私の全身に呪文の文様が浮かぶ。
 久し振りに使った秘法だけど、ものすごい霊力の波が私の体に流れ込んでくるのがわかる。

 「あれはっ……! <天の岩戸>が……開いた!」
 「えーと、説明してくれるかしら。鈴仙、ナニその取って付けたみたいな固有名詞、初めて聞くんだけど、何それ?」
 「月人の力は地上で用いるには巨大すぎる……特に王族の力は。だから封印されているのよ、普段は」
 「ふーん……。その封印されている力を解放した時のパワーは、当社比で言うと普段の何倍?」
 「月王拳25倍!」
 「うわ、いんちきくさっ」

 呪力増幅回路、<天の岩戸>。
 月の王族が普段は封印している真なる神代の力。これを用いれば、霊力だけでなく肉体の能力も飛躍的に増加するのだ。

 「なにっ!?」

 急激にパワーを増した私の速度に、永琳は反応できない。
 最大速で敵に肉薄し、そのまま裏拳を顎に叩き込むっ!
 当たった! これならいける。
 弾幕なんて無しでも拳だけで永琳を圧倒できるわ!

 「泣け、叫べ! そして死ねっ!!」

 迫撃、連撃、そして追撃でサラマンダーシールドの炎をくれてやるッ!
 面白いように永琳の肉体に打撃が入り、宙を舞う。永琳の体は放物線を描き、そのまま力なく地面に落下。
 私も着地し、ズタボロになった永琳を見下ろす。
 そして捨て台詞を浴びせかける。

 「月を見るたび思い出せっ!!」

 決まった。我ながら美しく決まった。完・璧!
 悠然と立つ私の足元には、無残に横たわる永琳の残骸。
 身の程を知れっての、けっ。唾かけてやる。ぺっ、ぺっ。

 「……くっくっくっ」
 「な、なにを笑っているのよっ!?」

 地面に大の字になって突っ伏した永琳の口元がゆがんでいる。
 永琳め、これほど圧倒的な力を見せつけてやったというのに、笑ってやがる。
 私はなんとなく不気味なものを感じずにはいられなかった。

 「秘められた力を持っているのは、ご自分だけだと思っているのですか?」
 「なんのことよ!」
 「私にもあるんですよ、その力」
 「なっ」

 ぞわっ。
 ふいに身震いするほどの威圧感が背筋を襲った。
 私は思わず永琳が倒れていた場所から飛び退って離れる。
 なんとなく予感が告げたのだ。近くに居ると危険……。
 これは?
 永琳の体から溢れだすこの霊力は……
 そんな……まさか……私と同じ力……!?

 「フフフ……」

 ゆっくりと、永琳が立ちあがる。その姿はまるで幽鬼のようだが、身にまとう迫力は本物。

 「そんな……永琳が王族…?」
 「あのー、ていうかそういう後付け設定、だれも知らないからさあ」

 リザレクションしてきた妹紅が茶々を入れてきた。

 「戦闘力のインフレ来たー」
 「つーか姫とえーりんが25倍パワーアップしたら……」
 「妹紅の力はたとえていうなら、宇宙に湧いたゴミ!」

 鈴仙とてゐが適切な解説を入れる。

 「う、うるさいなあ!!」
 「大丈夫よ妹紅。25分の1のあなたでも、囮ぐらいには使えるわ!」
 「あっさりひどいこと言うなっ!」

 <天の岩戸>の力を解放した永琳は、立ちあがった後今のところこちらの様子を見ているようだ。
 先ほど与えたダメージの回復を図っているのかもしれない。
 同じ王族の力を持つ今の私と永琳の力は同等なはず。
 二人で争ってもおそらく決着はつかず、千日手の形になるだろう。
 ということは、二人の力の拮抗を破る鍵を握っているのは――

 「妹紅、あなたにこれを渡しておくわ」
 「何これ? 武器? ずいぶん重いね」
 「神宝『ポジトロンスナイパーライフル』よ。私がえーりんの気を引き、動きを封じる。そしたらそれで私ごと撃って!」
 「そ、そんな!? できないよお」
 「あなたがやらないで誰がやるの! 私は永琳に勝ちたいの」
 「でもさ!」
 「いい、陽電子は地球の重力場の影響を受けて直進しない。誤差修正を忘れないで」
 「……で」
 「返事は!」
 「……わかった」

 「あれは……陽電子砲を使うというの?」
 「バカバカしいけど、一応聞いておく。れーせん、何それ?」
 「高天原の神々が国造りの時に天体の破砕に用いたという神宝……その威力は宇宙戦艦の主砲並!」
 「あー、把握できた。私ら解説役だね。○塾的に言うと富○と虎○」
 
 魁!○塾、紅魔館図書館にて絶賛貸出中!
 ……て何コレ? 宣伝?
 いやそんなことどうでもいいのよ。問題は永琳。

 こちらから仕掛けて、先手を取る!
 作戦開始!

 中央に躍り出た私は、まず目くらましの弾幕を放つ。

 「むっ!?」

 音と光だけは激しい見かけ騙しの弾。
 その爆炎が晴れる頃には、私はもう元の場所にはいない。

 「消えた!? ……上か!?」

 そのまま空を駆って永琳の背後に回り込み、羽交い締めにする。
 これで動けまい!

 「今よ! もこたん、撃って!!」
 「うぐぐぐ、馬鹿な!? 自分も死ぬ気か!?」

  蓬莱人だから死なないけどね。

 「輝夜、お前が開いた唯一の道。そこを外しちゃ女じゃない! やってやるよ、お前の遺志! 私が形にする!」

 視線の先には匍匐して超砲身の狙撃銃を構える妹紅の姿がある。彼女ならきっとやってくれる、私はそう信じる。
 そして妹紅が引き金を引いた。
 甲高い発射音が鳴り響き、閃光が周囲を包む。
 目をつぶる。何も見えなくなる。しばらくして目を開いた時には……
 アレ?

 炸裂音とともに遠くの山が一つ消し飛んだ!

 …………あさっての方向だけど。
 もちろん永琳も私も無傷。

 「な、なんだってー!!」
 「かなりはずれたー!!」

 鈴仙とてゐが叫ぶ。

 「もこ、ばか! へたれ!」
 「だってさー。いきなり渡されても使い方わかるわけないじゃん」

 せっかく共闘しているというのに、妹紅まるでだめじゃん。
 まったく、これじゃあ千年の恋も冷めるわ。
 その時――

 「幻想郷の異変に駆けつける! ハクレイの美少女ミコミコただいま参上、稲田姫様に代っておしおきよ!」
 「ああ、助かった!」
 「早くあの怪獣大決戦を何とかしてください!」

 何か聞こえた気がしたけど気のせいね。
 くそ、妹紅なんかほっといて永琳を何とかしないと。
 もうこのまま引きずり倒してサブミッション戦に持ち込んでやる。

 「うぐぐぐ、このひきょうものー!」
 「うるさい、だまれしねー!」

 うぐぅ、永琳寝技も使えるのか……て、手強い。
 ヤバい、マウント取られそう。
 あぐ、こいつ……今鼻の穴に指入ったわよ?

 あれ?
 何か今、どこからか『むそーふーいん』とか聞こえたような気がしたけど。
 あいた、お尻がちくっとした。
 もう、えーりんぶちのめすのに忙しいんだから、邪魔しないでほしいわ。

 ん?
 てゐ、てゐとか言って永琳のすね辺りを、爪楊枝みたいな棒でたたいているちっこいの、もしかして霊夢?
 なんだか気になって、私も永琳もブレイクしてお互いに離れる。

 「……ふう」

 霊夢だ。小さいけど。
 額に流れる汗をちみっちゃい手でぬぐっている。
 なにかしら、その一仕事したみたいな顔。

 やべ、なんか来た。
 ちびれーむ可愛い。お持ち帰りしたくなってきた。もこたんなんかよりこっちの方が可愛いわ。
 優しくつまんでおーもちかえりぃー☆ なのですー、あうあう。みー、にぱー。
 すいっ。
 あっ。つまもうとしたら、飛んで逃げられた。
 あーん。いかないでー。
 霊夢は鈴仙たちの方へ飛んでいく。

 「ムリぽ☆」
 「うわあああ!」
 「だめだあ、役に立たねえ!」

 霊夢はそのまま遠くへ飛んで行った。
 何しに来たのかしら、あいつ。
 でもおしかったなあ、もう少しで捕まえられたのに。
 はうー、ちびれーむ欲しかったあ。
 しょうがない、もこたんで我慢するか。無いよりはマシね。
 私はそう思って起き上がり、少し離れた場所で伏せている妹紅を見る。

 「お前今、ものすごく失礼なこと考えてなかったか?」

 もこたん、へそ曲げちゃったみたい。なぜかしら。
 
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 スペルカードを撃ちつくした私と永琳はしばらく肉弾戦を続けていた。
 もう一時間は戦っている。いい加減、スタミナが尽きてきた。永琳も同じようで、肩で息をしている。
 もこたんは既に力尽きていて、少し前に永琳の放った天文密葬法に吹っ飛ばされた後は、山肌に顔をめり込ませて頭隠して尻隠さず状態。

 あれ? 霊夢が戻ってきた。
 隣に紫がいる。なんか遠くでちまちまとやってるみたいだけど。
 いったい何をしているのかしら。ちっこくて良く分からないわ。

 !?

 妙な風切り音がしたと思ったら、急に目の前に結界でできた壁が!

 「ふはははは! みたかー、永夜四重結界!」
 「これで被害はこの一帯の外へは拡大しないわ!」

 霊夢と紫がかわるがわる叫んでいる。

 「思う存分檻の中で暴れるがいいわ、大怪獣共め!!」
 「ちょっとー!! 私たちはどうなるの!?」

 鈴仙が泣きながら叫ぶ。霊夢はそれを聞いてきょとんとしている。

 「え? あー、忘れてた……」
 「「そ、そんな殺生な!」」
 「まあ、頑張って。あんたらの主人なんだからさ」

 ぬぬぬ、私たちを閉じ込める作戦か!

 「てめえ、はめやがったな! ギャース!!」
 「「うわあ、こっち来た!」」

 があ、畜生! こじ開けようとしたけど、この結界びくともしねえ!
 
 「隙アリ!!」

 はう!? えーりんのこと忘れてた!
 延髄に蹴りが……それから後のことは覚えていない。



 *


 逃げ惑うイナバ達、燃え上がる山林。
 火の七日間の後(実際は半日ほど)、荒れ狂う巨神兵達(輝夜達)は地に倒れ、山の結界は解き放たれる。
 一帯は焦土と化し、多くの森林が失われた。
 焼け跡には炭と化した三人の蓬莱人の破片が散乱していたが、そのうち再生するだろうと思われ放置された。
 幻想郷は何事もなかったかのように、またいつもの平穏を取り戻していた。

 かくして、幻想郷の民草はご都合主義と予定調和の素晴らしさを改めて認識した、のかもしれない。


 ……?



 完


 怪しい三人組再び登場ですorzえっと…ごめんなさい(湯)
 一生懸命書いたんです。本当です、日夜悩んだ結果なんです。ほのぼのから無理矢理百合にするには、キノコでも使うしかなかったんです。言い訳です。普段言い分けしないけど言い訳です。でも言い訳好きです、おっぱいの次くらいに。おっぱい(雨)
 誰も期待していないのにまたやってしまいました。反省してません。後悔してません。ちびれーむ可愛いようウサウサ(乳)


 このSSは
 ほのぼのパート:東方三液体(湯)
 百合パート:東方三液体(雨)
 バトルパート:東方三液体(乳)

 の提供でお送りしました。

東方三液体
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コメント



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3.60名前が無い程度の能力削除
キノコが出てくる前までが個人的に面白かった。
鈴仙のはっちゃけた思考と永琳の奇抜な行動がかなりツボでした。
これは次も期待しさざる得ない
4.70名前が無い程度の能力削除
なんというクラハドール・・・
9.70名前が無い程度の能力削除
何かよくわかんないけど笑えた
12.無評価名前が無い程度の能力削除
題名見て
転落死した妹紅の死体を輝夜と永琳が隠す話かと思った
蓬莱人は死なないか

ほのぼのがよかったです
13.50名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れorz
14.60名前が無い程度の能力削除
乙一!
15.90名前が無い程度の能力削除
もこてるもこてる
かわいいよぉ。
はうー。
おもちかえりぃ。
16.80名前が無い程度の能力削除
あっはっはっは。
小ネタが利いてました
17.80名前が無い程度の能力削除
もうなんか色々とお腹いっぱい
いいぞもっとやれ
19.70名前が無い程度の能力削除
まったりだなぁ。
20.70名前が無い程度の能力削除
おもしろかった。とりあえず作者乙一!