青い湖の畔には、緑の木々に囲まれた赤く紅い洋館があります。
洋館の中は見た目よりも広く、地下には大きな図書館と、とあるお部屋があります。
そのお部屋は、洋館の幼い主人の妹に与えられたお部屋です。
ただし、妹――フランドールは屋敷の外に出る事を禁じられています。
日光と雨に弱い吸血鬼であるから、という理由だからだそうです。
でも、出られない事は気になりません。
フランドールは何不自由なく暮らせます。
たとえ屋敷から出なくても、
食べたい物はメイドが運んでくれますし、遊ぶ玩具もメイドが調達してくれます。
むしろ部屋から出なくても大丈夫。
最近は遊ぶだけじゃなく、お勉強も熱心です。
同じく地下にある図書館から週に何度か魔女が家庭教師として部屋に訪れます。
「ねぇ、今日はどんなことを教えてくれるの?」
知る楽しみを知ったフランドールは嬉しそうに魔女に問います。
「そうですね……、今日は実験をしましょうか」
「実験!」
「今日は妹様には普通の人間をもっと良く知ってもらいます」
§ § §
びちゃり、と赤が飛び散る。
金切り声の悲鳴をあげて、片腕を落とした男が逃げ出そうと走り出して、転ぶ。
その様子を見てフランドールは声を上げて笑う。
「あはははっ、ほらほら、逃げないの?」
「妹様、楽しいのはわかりますがこれは勉強ですよ」
「はーい」
魔女の窘めに素直に従ったフランドールは鉛筆を握って紙になにやら書き記す。
その間に男はどうにか立ち上がる。
「では次」
魔女が腕を振ると、立ち上がった男の片足が千切れ飛ぶ。
獣の咆哮の如き泣き声をあげて、男が倒れこむ。
そこにフランドールは声を掛ける。
「早く逃げないと全部なくなっちゃうよー」
男は狂ったように残った手足を動かして、必死に扉へと這いずる。
「ふむふむ……」
またもやフランドールは紙に書き記す。
「いいですか?」
「うん」
返事を聞くと共に魔女の手が振られ、残った腕がぶちぶちと押しつぶされる。
男は絶叫し、大きく仰け反り悶えるが、その悲鳴はもはや声にならなかった。
「もう少しで扉だよ?」
フランドールが声を掛けると、男は半狂乱になって怯えて僅かばかり後ずさる。
「それでは最後です」
フランドールが書き記したのを確認して、魔女が手を振る。
すると、残っていた足がまるで腐ったかのように崩れ落ちる。
男はもう泣き叫ぶ事すらできなくなったのか、まったく動くそぶりを見せない。
ときおり痙攣するので辛うじて生きている事は確かだった。
「ほら、もうあと数歩で扉なのよ? 早く逃げて見せなさいよ!」
そんなフランドールの声に男は答えられるはずも無かった。
そして、今度も紙に書き記す。
「……それでは宜しいですか?」
「うん、できたー」
紙を受け取った魔女はフランドールの書き記した内容に目を通します。
普通の人間は
片腕を切り落として逃げろと言うと、逃げ出そうとして転ぶ。
片足を切り落として逃げろと言うと、這いずる。
両腕を切り落として逃げろと言うと、狂ったように怯えて後ずさる。
両足を切り落として逃げろと言うと、動かない。
両手両足を切り落とすとどうやら耳が聞こえなくなるようだ。
「妹様、最後が違ってます」
魔女が
「なんで? 動かなかったよ」
「それは手足が無いからです。
両手両足を失うまで追い詰めても普通の人間は泣き叫ぶだけです」
「でもさ、空を飛んで逃げればいいでしょ?
腕や足をもう一度生やせば逃げられるじゃないの」
フランドールの指摘に魔女は微笑みます。
「そうです。でもそれが出来ないのが普通の人間です。
だからこの場合は、『空も飛ばず、手足の再生も行わない。この男はどうやら普通の人間のようだ』が正しいのです」
「そっか……、あ、それじゃあ霊夢や魔理沙、咲夜は普通じゃないって事?」
「えぇ、普通じゃないです」
きっぱりと言い切った魔女の背後に突然メイドが現れる。
「あら、普通じゃないなんて惨いですわ」
しかしメイドの出現に魔女は驚きもせず、当然抗議も受け付けない。
それどころか勝手に話を進めてしまう。
「あら丁度いい妹様、本日最後の問題です」
「うん、なにかしら?」
「この動かないのはこの後どうなるでしょうか?」
と魔女は男だったモノを指差す。
フランドールは自信満々に答える。
「それは簡単。紅茶とケーキよ」
その答えに、先ほど現れたメイドが異を唱える。
「妹様、少し違いますわ」
「え、どこが違うって言うの? もしかしてクッキーだったかしら?」
「美味しい紅茶と美味しいケーキになるのですわ」
§ § §
赤く紅い洋館の地下で、フランドールはまた一つ賢くなりました。
人間には4種類居る事を知りました。
巫女の霊夢と、
魔法使いの魔理沙と、
メイドの咲夜と、
空も飛べず、傷も再生しないけれどケーキになる普通の人間。
ノ
ああ、なんて猟奇な紅魔館。
とりあえず咲夜さんは普通じゃないです。
妹様や咲夜さん達から見たら、俺たちはそういう存在なんだろうなぁ・・・・・・
ふと、解剖される蛙の気持ちが分ったような気がします。
俺にはちと、刺激が強かった・・・・・・
人肉をケーキにするのは咲夜さんだろうか…
!!
「誰も手を上げるやつなんかいねぇ、と思っていたら真っ先に自分が手を上げていた。」
な・・・何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何を言っているのかがわからねえ。
頭が(略
咲夜さんは食べてくれるかなあ
吸血鬼相手じゃそう言うわけにもいかん。
……管理が割と面倒だな。
ところでみんなそろって死亡フラグ立てすぎだwww
俺を見習え。
怖いな。でもそこがいい。
タイトルに騙されました。吸血鬼と人間の価値観の違いがひしひしと伝わってきました。