事の発端は魔理沙のこの一言から始まった。
「なあ。香霖って強いのか?」
霖之助と霊夢の視線が一斉に魔理沙に集まる。
「君はいつも唐突だね」
「いつもじゃないぜ。時々だぜ」
「それでも十分多いわよ」
「それで何だって?」
「香霖は強いのかって話だぜ」
霖之助は読みかけの本にしおりを挟み、本を閉じる。
「強いって、何の強さを聞いてるんだい?」
「当然、弾幕ごっこに決まってるぜ」
「あら、それなら私もちょっと気になるわ。霖之助さんってどれくらいの実力を持ってるの?」
霊夢も興味を引かれたのか話に入ってきた。
霖之助はあごに手を添え、思案する。
「どれぐらいっていわれてもねぇ・・・一寸分からないな」
二人は拍子抜けの顔をする。
「分からないって、なんだか一番つまらない答えだぜ」
「そうね。自分のことなのに分からないって・・・」
「仕方ないだろ。弾幕ごっこなんて一度もやったことないんだから」
次に二人は意外な顔をした。
「やったことないの?弾幕ごっこ」
「マジか?香霖」
「さも当然のように意外そうな顔をしないでくれ。僕はそういったものに興味がないんだ」
確かに霖之助の性格を考えたらそういう事は一切やりそうにない。そんなことに労力を使うくらいなら未知の道具の使用法を模索するに決まっている。
「さて、この話は終わりだ。いいね」
さっさと話を切り上げて、霖之助は読書を再開した。
しかし、それで引き下がる二人ではない。
「よし、だったら私たちと勝負しろ香霖」
「そうね。分からないんだったら私たちが実力を測ってあげるわ」
「断る」
即答だった。
「なんでよ。自分の実力がわかるいい機会じゃない」
「それを知ったところで僕には何の得もならないじゃないか」
「私たちが得するぜ?」
「それじゃ意味がないだろう」
「むぅ・・・」
「うぅ・・・」
どうやら霖之助は本当にやる気がないらしく、まったく聞く耳がない。
すると魔理沙がこんなことを言い出した。
「なあ、香霖。もしかして・・・負けるのが怖いんじゃないか?」
その言葉に霖之助がわずかに反応した。
「え?そうなの?」
「だってそうとしか考えられないぜ。香霖は負けて私たちに馬鹿にされるのが怖いんだ。だから勝負をしない。でも安心しろ。香霖が私たちに勝てるなんてこれぽっちも思ってないから安心して負けてかまわないぜ」
とたん、バタンッ!という大きな音が店内に響いた。
霖之助が手にしていた本を閉じたせいである。
「さすがに・・・ここまで馬鹿にされたらいくら温厚な僕でも黙っているわけにはいかないな。いいだろう。弾幕でも何でも受けて立つよ」
魔理沙が小さくガッツポーズしているのを霊夢は見逃さなかった。どうやらさっきのは霖之助を動かすための挑発だったようだ。
「ただし、一つ条件がある」
「何だ?条件って」
「賭けをしよう」
「賭け?」
「そう賭けだ。もし僕が勝ったら今までのツケを全部払ってもうよ」
「ああいいぜ。今までのツケ耳そろえてニコニコ現金払いしてやるぜ」
「ち、ちょっと魔理沙!あんたなんてことを!」
魔理沙は反論しようとする霊夢の腕をひっぱり部屋の隅へと連れて行く。
「馬鹿。こうでもしないとあいつは動かないだろう!」
霖之助には聞こえないようにぼそぼそした声で話す。
「それはそうだけど、でも負けたらどうするのよ?私今までのツケ払えるくらいのお金なんてないわよ?」
「大丈夫だって。私たち二人が相手をするんだぜ?この幻想卿の二大最強がペアを組んだら鬼に酒。水を得た河童だぜ」
「微妙に聞いたことないことわざね」
「とにかくだ、香霖には万に一つとして勝ち目はないってことだ」
「そうかしら?」
「そうだぜ。それに香霖と戦えるなんてまたとない機会だぜ?これを逃したらもう二度とないかもしれないんだぜ?それでもいいのか?」
「うう・・・」
珍しく霊夢が渋っている。どんな大妖怪でも問答無用で叩きのめす彼女が今一歩踏み切れない様子である。
「どうしたんだ?お前らしくもない」
「何かね。いやな予感がするの」
「何だ?またお前の勘か?」
「・・・たぶん。なんとなく負ける気がするの」
「負けるってそれじゃあ何か?香霖は私たちより強いって事か?」
そうなると霖之助の力は八雲紫や四季映姫と同等、もしくは超える力を持っていることになる。
「それこそ有り得ないぜ」
「そうなのよねえ」
霊夢も自分で言って自信がない様子である。
「なあ霊夢。お前の勘は絶対当たるのか?」
「そりゃ、たまに外すけど・・・」
「ならその勘は外れじゃないのか?」
「そう・・・なのかな?」
「そうに決まってるぜ。お前の思い過ごしだって」
「・・・そっか」
やはり自分の思い過ごしだということで霊夢も納得した。
「なら、お前もやるよな?」
「ええ、いいわ」
「相談はもういいかな?」
霖之助が声をかける。
「ああ。それと聞き忘れたがこっちが勝ったら何をしてくれるんだ?」
「そうだねぇ・・・なら君たちの言うことを何でも一つ聞いてあげるよ」
「本当か!?」
「本当!?」
「ああ、ただし僕に可能なものに限るけどね」
何でも言うことを聞く。これはさらにまたとないチャンスだ。
二人の頭の中に早速願い候補が流れる。
借金帳消し、未知のアイテムの進呈、家事手伝い・・・・etc,etc。願いは尽きない。
「よし!それじゃ香霖の気が変わらないうちにさっさと始めようぜ」
「ええ、善は急げよ」
俄然やる気の出た二人は早々と店の外へと走っていった。
「ふふ・・・」
故にこの霖之助の不適な笑みに気づくことは出来なかった。
「それじゃあ、ルールを説明するわね」
霊夢が説明を始める。
今回は霖之助がスペルカードを持っていないため従来とは少し異なるルールが起用されることになった。
内容はこうだ。
魔理沙と霊夢が交互にスペルカードを放つから霖之助はただ避け続ける。
すべてのスペルカードを撃ち尽くすまで躱し切ったら霖之助の勝利。定められた回数分被弾したら二人の勝利とする。
「わかった?」
「ああ、僕は避けることに集中すればいいんだね」
「そうだぜ」
「次に被弾数だけど・・・いつも通り二回で」
「いや五回でいいぜ」
魔理沙が割ってはいった。
「ちょっと、それは多すぎない?」
「これくらい無いと香霖はすぐに落ちちゃうからな。ちょっとしたハンデだぜ」
「いくらなんでもそれは馬鹿にしすぎじゃない?」
「いや、僕にはそれくらいがちょうどいいよ」
馬鹿にされているにもかかわらず霖之助は案外あっさりと承諾した。
霊夢はそれに違和感を感じたが気にするほどじゃないと流した。
「次にスペルカードの枚数だけど・・・」
「当然全部だぜ」
「じゃあ十四枚ね。こんなもんかしら」
霊夢が最終確認する。
「準備はいいか?」
「ええいいわ」
「僕もいつでもいいよ」
三人がゆっくりと飛び立ち、そして、距離をとる。
「それじゃはじめるぜ。香霖。即効で落ちて失望させないでくれよ?」
「お手柔らかに頼むよ」
「善処するわ」
「まずは私が相手だぜ」
魔理沙前に出る。
「いくぜ!まずは魔符「ミルキーウェイ」!」
大量の星弾が文字通り弾幕となって降り注ぐ。
霖之助はその弾幕をスルスルと苦もなく躱していく。
「やるじゃないか香霖。案外才能があるかもしれないぜ」
「それはどうも」
Spell Break!!
「ありゃ?おわっちまった」
「それじゃ今度は私の番ね。」
今度は霊夢が前に出る。
「霊符「二重結界」!」
戦いは始まったばかり、思いのほか長引きそうだなと心の中で霖之助はため息をついた。
時は流れて。
Spell Break!!
「すごいぜ香霖。もう半分なのに一発も当たってないじゃないかじゃないか」
「私も驚いたわ。絶対最初のほうで落ちると思ってたのに」
「君たちはどれほど僕を過小評価していたんだい?」
「だが、まだまだこれからだぜ香霖!恋風「スターライトタイフーン」!」
さらに時は流れて
Spell Break!!
霊夢たちの顔から笑顔が消え、絶望の色が見え始めていた。
「どうしたんだい?次は霊夢の番だよ」
しかし、霖之助は最初と変わらない涼しい顔でそこに存在した。
ちなみに、霖之助はまだ一回も被弾していない。
「え?あ、うん。そ、それじゃあいくわよ。大結界「博麗弾幕結界」!」
Spell Break!!
「大丈夫かい?顔色が優れないようだけど」
霖之助の言葉通り、霊夢たちの顔は真っ青だった。
まさか霖之助がここまでやるなんて欠片も思ってなかった。
「もう少しで終わりだ。もちろん約束は覚えてるよね?」
霖之助は満面の笑みで告げた。
二人は背中に冷や汗が出た。
「ちょっとタイム!」
魔理沙が両手でT字を作る。
そして、後ろを向いて霊夢と肩を寄せ合わせた。
「ちょっと!このままじゃ負けちゃうわよ!」
「ああ。まさか香霖がここまでやるとは思わなかったぜ。大誤算もいいところだ。このままじゃニコニコ現金コース一直線だぜ」
「どうすんのよ?さっきも言ったけど、私借金返せるだけのお金なんて無いわよ」
「私だってないぜ。だからやばいんだ」
二人は頭を抱えた。
「こうなったら・・・あれしかないぜ」
魔理沙がつぶやいた。
「あれ?」
「ちょっと耳貸せ」
ぼそぼそぼそ・・・
「ちょ、ちょっとそれを本気でやるの!?」
「ああ。こうでもしないとあいつには勝てないぜ」
「でも・・・流石にそれは・・・卑怯じゃない魔理沙?」
流石の霊夢もためらった。
「わかってる。だがこれは私たちの未来が掛かった戦いだ。多少のズルは目を瞑ってもらわないと。それにお前だって水だけの生活を送りたいくはないだろ?」
霊夢はあごに手をあて、少し思案する。しかし、結論はすぐに出たようだ。
「・・・そうね。これくらいのことしないと勝てそうにないものね」
「おしっ!それじゃいくぜ」
「相談は終わったかな?」
霖之助が二人に声をかける。
二人がゆっくりと振り返る。
さっきまでゲームを楽しんでいた二人の姿はそこにはなく、そこにいたのは『博麗の巫女』博麗霊夢と『黒魔術師』霧雨魔理沙の姿だった。
「香霖。正直驚いたぜ。お前がまさかここまでできるなんて思ってみなかったぜ」
「私もよ。霖之助さん。私、強さにはこだわらない人間だけど、ここまですごいと普通に尊敬するわ」
「二人からそんな言葉が聞けるとは思いもよらなかったよ」
「だけど、香霖。一つだけ謝らせてくれ。すまんな。私たちはお前に勝つためにこれから一つだけズルをする。それでも続けるか?」
「ふふ。愚問だね。ここまで来て、少しくらいのズルくらいで引き下がるような弱い男じゃないよ僕は。それにどんなズルをするのか見ものだしね」
「・・・そうか。それを聞いて安心したぜ」
二人がカードを構える。
「いくぜ!」
「いくわよ!」
『ダブルスペル』
無題「空を飛ぶ不思議な巫女」
星符「ドラゴンメテオ」
Spell Break!!
「どうやら。僕の勝ちのようだね」
霖之助が満面の笑みで勝利宣言をする。
そして、敗者である霊夢と魔理沙はというと。隣で両手両膝をついてうなだれていた。(図解:orz)
「なぜだ・・・なぜあれで勝てない・・・」
「ダブルスペルまでやったのに・・・かすりもしないなんて・・・正直かなりショックだわ・・・」
「香霖・・・お前・・・なんでこんなに強いんだ?」
「・・・本当に弾幕やったことないの?」
「ああ、やったことないよ」
「それならおかしいだろ・・・なんで初見であそこまで完璧に避けられるんだ?」
「初見じゃないよ」
その言葉に二人は固まった。
「え?」
「何だって?」
「だから初見じゃないんだって」
初見じゃない?どういうことですか?
ぽかんとしている二人を見る霖之助の顔はこれまでに見たことがないくらいに笑顔だった。
「君たちは何回二人で弾幕ごっこやったか覚えてるかい?」
「えと・・・」
「覚えてるわけないぜ。そんなの」
「うん。覚えてないよね。それくらい君たちはやってるってことだ。そして、君たちはそのたびに何かと僕を立会いに立たせたよね?」
「「あ・・・」」
そこまで来てやっと理解できた。
「そう。僕は君たちのスペルカードをいやというほど見ているって事になる」
「ちょ!ちょっと待て!それじゃ香霖は私たちの手が最初から全部わかってたってことか!?」
「そういうことだ。じゃなければこんな負け試合なんか絶対にやらないよ。だから最後のダブルスペルには流石にあせったよ。まさかあんなことをしてくるとは思いもしなかったから」
唖然とする二人を目に霖之助はさらに言葉を続ける。
「しかし、面白いくらいに上手くいったな」
「え?」
「いやなに、勝負しようといってきたとき、引けば必ず君たちは何かしらやってくると思ってね。そしたら案の定魔理沙。君が挑発をしてきた」
「ま・・・まさか・・・」
「そう。だから僕は挑発に乗ったふりをして、そのあとさりげなくあの条件を出したのさ。だって君たちは本気で僕に勝ち目はないって思ってたからね。そしたら君たちはすんなりあんな条件でも飲んだ。いや実に愉快だったよ」
「・・・そんな・・・それじゃ私たち・・・」
「最初から香霖に踊らされてたってことか・・・」
二人はへなへなと崩れ落ちた。そしてまた、両手両膝を突いて落ち込んだ。(図解:orz)
「さて、それじゃ約束は守ってもらうよ」
「「へ?」」
「へ?じゃないよ。僕が勝ったら今までのツケをニコニコ現金払いの約束だったじゃないか」
二人の顔から滝のような冷や汗が流れる。
「ちょ、ちょっと待って霖之助さん。あれは魔理沙が勝手に決めたことだから、私は関係ないわ」
「ちょ!おい霊夢!なんだよそれ!?」
「どうもこうもないわよ!あんたが勝手に私を巻き込んだんじゃない!」
「お前だって乗り気だったじゃないか!」
「でも私は反対したわ!負けるかもしれないって!」
「自信なかったじゃないか!」
「私だってそういう日くらいあるわよ!」
「それが何で今日なんだ!」
「知らないわよ!」
二人の不毛な争いを横目に霖之助はやはり笑顔でパチパチと算盤をはじいていた。
「なあ。香霖って強いのか?」
霖之助と霊夢の視線が一斉に魔理沙に集まる。
「君はいつも唐突だね」
「いつもじゃないぜ。時々だぜ」
「それでも十分多いわよ」
「それで何だって?」
「香霖は強いのかって話だぜ」
霖之助は読みかけの本にしおりを挟み、本を閉じる。
「強いって、何の強さを聞いてるんだい?」
「当然、弾幕ごっこに決まってるぜ」
「あら、それなら私もちょっと気になるわ。霖之助さんってどれくらいの実力を持ってるの?」
霊夢も興味を引かれたのか話に入ってきた。
霖之助はあごに手を添え、思案する。
「どれぐらいっていわれてもねぇ・・・一寸分からないな」
二人は拍子抜けの顔をする。
「分からないって、なんだか一番つまらない答えだぜ」
「そうね。自分のことなのに分からないって・・・」
「仕方ないだろ。弾幕ごっこなんて一度もやったことないんだから」
次に二人は意外な顔をした。
「やったことないの?弾幕ごっこ」
「マジか?香霖」
「さも当然のように意外そうな顔をしないでくれ。僕はそういったものに興味がないんだ」
確かに霖之助の性格を考えたらそういう事は一切やりそうにない。そんなことに労力を使うくらいなら未知の道具の使用法を模索するに決まっている。
「さて、この話は終わりだ。いいね」
さっさと話を切り上げて、霖之助は読書を再開した。
しかし、それで引き下がる二人ではない。
「よし、だったら私たちと勝負しろ香霖」
「そうね。分からないんだったら私たちが実力を測ってあげるわ」
「断る」
即答だった。
「なんでよ。自分の実力がわかるいい機会じゃない」
「それを知ったところで僕には何の得もならないじゃないか」
「私たちが得するぜ?」
「それじゃ意味がないだろう」
「むぅ・・・」
「うぅ・・・」
どうやら霖之助は本当にやる気がないらしく、まったく聞く耳がない。
すると魔理沙がこんなことを言い出した。
「なあ、香霖。もしかして・・・負けるのが怖いんじゃないか?」
その言葉に霖之助がわずかに反応した。
「え?そうなの?」
「だってそうとしか考えられないぜ。香霖は負けて私たちに馬鹿にされるのが怖いんだ。だから勝負をしない。でも安心しろ。香霖が私たちに勝てるなんてこれぽっちも思ってないから安心して負けてかまわないぜ」
とたん、バタンッ!という大きな音が店内に響いた。
霖之助が手にしていた本を閉じたせいである。
「さすがに・・・ここまで馬鹿にされたらいくら温厚な僕でも黙っているわけにはいかないな。いいだろう。弾幕でも何でも受けて立つよ」
魔理沙が小さくガッツポーズしているのを霊夢は見逃さなかった。どうやらさっきのは霖之助を動かすための挑発だったようだ。
「ただし、一つ条件がある」
「何だ?条件って」
「賭けをしよう」
「賭け?」
「そう賭けだ。もし僕が勝ったら今までのツケを全部払ってもうよ」
「ああいいぜ。今までのツケ耳そろえてニコニコ現金払いしてやるぜ」
「ち、ちょっと魔理沙!あんたなんてことを!」
魔理沙は反論しようとする霊夢の腕をひっぱり部屋の隅へと連れて行く。
「馬鹿。こうでもしないとあいつは動かないだろう!」
霖之助には聞こえないようにぼそぼそした声で話す。
「それはそうだけど、でも負けたらどうするのよ?私今までのツケ払えるくらいのお金なんてないわよ?」
「大丈夫だって。私たち二人が相手をするんだぜ?この幻想卿の二大最強がペアを組んだら鬼に酒。水を得た河童だぜ」
「微妙に聞いたことないことわざね」
「とにかくだ、香霖には万に一つとして勝ち目はないってことだ」
「そうかしら?」
「そうだぜ。それに香霖と戦えるなんてまたとない機会だぜ?これを逃したらもう二度とないかもしれないんだぜ?それでもいいのか?」
「うう・・・」
珍しく霊夢が渋っている。どんな大妖怪でも問答無用で叩きのめす彼女が今一歩踏み切れない様子である。
「どうしたんだ?お前らしくもない」
「何かね。いやな予感がするの」
「何だ?またお前の勘か?」
「・・・たぶん。なんとなく負ける気がするの」
「負けるってそれじゃあ何か?香霖は私たちより強いって事か?」
そうなると霖之助の力は八雲紫や四季映姫と同等、もしくは超える力を持っていることになる。
「それこそ有り得ないぜ」
「そうなのよねえ」
霊夢も自分で言って自信がない様子である。
「なあ霊夢。お前の勘は絶対当たるのか?」
「そりゃ、たまに外すけど・・・」
「ならその勘は外れじゃないのか?」
「そう・・・なのかな?」
「そうに決まってるぜ。お前の思い過ごしだって」
「・・・そっか」
やはり自分の思い過ごしだということで霊夢も納得した。
「なら、お前もやるよな?」
「ええ、いいわ」
「相談はもういいかな?」
霖之助が声をかける。
「ああ。それと聞き忘れたがこっちが勝ったら何をしてくれるんだ?」
「そうだねぇ・・・なら君たちの言うことを何でも一つ聞いてあげるよ」
「本当か!?」
「本当!?」
「ああ、ただし僕に可能なものに限るけどね」
何でも言うことを聞く。これはさらにまたとないチャンスだ。
二人の頭の中に早速願い候補が流れる。
借金帳消し、未知のアイテムの進呈、家事手伝い・・・・etc,etc。願いは尽きない。
「よし!それじゃ香霖の気が変わらないうちにさっさと始めようぜ」
「ええ、善は急げよ」
俄然やる気の出た二人は早々と店の外へと走っていった。
「ふふ・・・」
故にこの霖之助の不適な笑みに気づくことは出来なかった。
「それじゃあ、ルールを説明するわね」
霊夢が説明を始める。
今回は霖之助がスペルカードを持っていないため従来とは少し異なるルールが起用されることになった。
内容はこうだ。
魔理沙と霊夢が交互にスペルカードを放つから霖之助はただ避け続ける。
すべてのスペルカードを撃ち尽くすまで躱し切ったら霖之助の勝利。定められた回数分被弾したら二人の勝利とする。
「わかった?」
「ああ、僕は避けることに集中すればいいんだね」
「そうだぜ」
「次に被弾数だけど・・・いつも通り二回で」
「いや五回でいいぜ」
魔理沙が割ってはいった。
「ちょっと、それは多すぎない?」
「これくらい無いと香霖はすぐに落ちちゃうからな。ちょっとしたハンデだぜ」
「いくらなんでもそれは馬鹿にしすぎじゃない?」
「いや、僕にはそれくらいがちょうどいいよ」
馬鹿にされているにもかかわらず霖之助は案外あっさりと承諾した。
霊夢はそれに違和感を感じたが気にするほどじゃないと流した。
「次にスペルカードの枚数だけど・・・」
「当然全部だぜ」
「じゃあ十四枚ね。こんなもんかしら」
霊夢が最終確認する。
「準備はいいか?」
「ええいいわ」
「僕もいつでもいいよ」
三人がゆっくりと飛び立ち、そして、距離をとる。
「それじゃはじめるぜ。香霖。即効で落ちて失望させないでくれよ?」
「お手柔らかに頼むよ」
「善処するわ」
「まずは私が相手だぜ」
魔理沙前に出る。
「いくぜ!まずは魔符「ミルキーウェイ」!」
大量の星弾が文字通り弾幕となって降り注ぐ。
霖之助はその弾幕をスルスルと苦もなく躱していく。
「やるじゃないか香霖。案外才能があるかもしれないぜ」
「それはどうも」
Spell Break!!
「ありゃ?おわっちまった」
「それじゃ今度は私の番ね。」
今度は霊夢が前に出る。
「霊符「二重結界」!」
戦いは始まったばかり、思いのほか長引きそうだなと心の中で霖之助はため息をついた。
時は流れて。
Spell Break!!
「すごいぜ香霖。もう半分なのに一発も当たってないじゃないかじゃないか」
「私も驚いたわ。絶対最初のほうで落ちると思ってたのに」
「君たちはどれほど僕を過小評価していたんだい?」
「だが、まだまだこれからだぜ香霖!恋風「スターライトタイフーン」!」
さらに時は流れて
Spell Break!!
霊夢たちの顔から笑顔が消え、絶望の色が見え始めていた。
「どうしたんだい?次は霊夢の番だよ」
しかし、霖之助は最初と変わらない涼しい顔でそこに存在した。
ちなみに、霖之助はまだ一回も被弾していない。
「え?あ、うん。そ、それじゃあいくわよ。大結界「博麗弾幕結界」!」
Spell Break!!
「大丈夫かい?顔色が優れないようだけど」
霖之助の言葉通り、霊夢たちの顔は真っ青だった。
まさか霖之助がここまでやるなんて欠片も思ってなかった。
「もう少しで終わりだ。もちろん約束は覚えてるよね?」
霖之助は満面の笑みで告げた。
二人は背中に冷や汗が出た。
「ちょっとタイム!」
魔理沙が両手でT字を作る。
そして、後ろを向いて霊夢と肩を寄せ合わせた。
「ちょっと!このままじゃ負けちゃうわよ!」
「ああ。まさか香霖がここまでやるとは思わなかったぜ。大誤算もいいところだ。このままじゃニコニコ現金コース一直線だぜ」
「どうすんのよ?さっきも言ったけど、私借金返せるだけのお金なんて無いわよ」
「私だってないぜ。だからやばいんだ」
二人は頭を抱えた。
「こうなったら・・・あれしかないぜ」
魔理沙がつぶやいた。
「あれ?」
「ちょっと耳貸せ」
ぼそぼそぼそ・・・
「ちょ、ちょっとそれを本気でやるの!?」
「ああ。こうでもしないとあいつには勝てないぜ」
「でも・・・流石にそれは・・・卑怯じゃない魔理沙?」
流石の霊夢もためらった。
「わかってる。だがこれは私たちの未来が掛かった戦いだ。多少のズルは目を瞑ってもらわないと。それにお前だって水だけの生活を送りたいくはないだろ?」
霊夢はあごに手をあて、少し思案する。しかし、結論はすぐに出たようだ。
「・・・そうね。これくらいのことしないと勝てそうにないものね」
「おしっ!それじゃいくぜ」
「相談は終わったかな?」
霖之助が二人に声をかける。
二人がゆっくりと振り返る。
さっきまでゲームを楽しんでいた二人の姿はそこにはなく、そこにいたのは『博麗の巫女』博麗霊夢と『黒魔術師』霧雨魔理沙の姿だった。
「香霖。正直驚いたぜ。お前がまさかここまでできるなんて思ってみなかったぜ」
「私もよ。霖之助さん。私、強さにはこだわらない人間だけど、ここまですごいと普通に尊敬するわ」
「二人からそんな言葉が聞けるとは思いもよらなかったよ」
「だけど、香霖。一つだけ謝らせてくれ。すまんな。私たちはお前に勝つためにこれから一つだけズルをする。それでも続けるか?」
「ふふ。愚問だね。ここまで来て、少しくらいのズルくらいで引き下がるような弱い男じゃないよ僕は。それにどんなズルをするのか見ものだしね」
「・・・そうか。それを聞いて安心したぜ」
二人がカードを構える。
「いくぜ!」
「いくわよ!」
『ダブルスペル』
無題「空を飛ぶ不思議な巫女」
星符「ドラゴンメテオ」
Spell Break!!
「どうやら。僕の勝ちのようだね」
霖之助が満面の笑みで勝利宣言をする。
そして、敗者である霊夢と魔理沙はというと。隣で両手両膝をついてうなだれていた。(図解:orz)
「なぜだ・・・なぜあれで勝てない・・・」
「ダブルスペルまでやったのに・・・かすりもしないなんて・・・正直かなりショックだわ・・・」
「香霖・・・お前・・・なんでこんなに強いんだ?」
「・・・本当に弾幕やったことないの?」
「ああ、やったことないよ」
「それならおかしいだろ・・・なんで初見であそこまで完璧に避けられるんだ?」
「初見じゃないよ」
その言葉に二人は固まった。
「え?」
「何だって?」
「だから初見じゃないんだって」
初見じゃない?どういうことですか?
ぽかんとしている二人を見る霖之助の顔はこれまでに見たことがないくらいに笑顔だった。
「君たちは何回二人で弾幕ごっこやったか覚えてるかい?」
「えと・・・」
「覚えてるわけないぜ。そんなの」
「うん。覚えてないよね。それくらい君たちはやってるってことだ。そして、君たちはそのたびに何かと僕を立会いに立たせたよね?」
「「あ・・・」」
そこまで来てやっと理解できた。
「そう。僕は君たちのスペルカードをいやというほど見ているって事になる」
「ちょ!ちょっと待て!それじゃ香霖は私たちの手が最初から全部わかってたってことか!?」
「そういうことだ。じゃなければこんな負け試合なんか絶対にやらないよ。だから最後のダブルスペルには流石にあせったよ。まさかあんなことをしてくるとは思いもしなかったから」
唖然とする二人を目に霖之助はさらに言葉を続ける。
「しかし、面白いくらいに上手くいったな」
「え?」
「いやなに、勝負しようといってきたとき、引けば必ず君たちは何かしらやってくると思ってね。そしたら案の定魔理沙。君が挑発をしてきた」
「ま・・・まさか・・・」
「そう。だから僕は挑発に乗ったふりをして、そのあとさりげなくあの条件を出したのさ。だって君たちは本気で僕に勝ち目はないって思ってたからね。そしたら君たちはすんなりあんな条件でも飲んだ。いや実に愉快だったよ」
「・・・そんな・・・それじゃ私たち・・・」
「最初から香霖に踊らされてたってことか・・・」
二人はへなへなと崩れ落ちた。そしてまた、両手両膝を突いて落ち込んだ。(図解:orz)
「さて、それじゃ約束は守ってもらうよ」
「「へ?」」
「へ?じゃないよ。僕が勝ったら今までのツケをニコニコ現金払いの約束だったじゃないか」
二人の顔から滝のような冷や汗が流れる。
「ちょ、ちょっと待って霖之助さん。あれは魔理沙が勝手に決めたことだから、私は関係ないわ」
「ちょ!おい霊夢!なんだよそれ!?」
「どうもこうもないわよ!あんたが勝手に私を巻き込んだんじゃない!」
「お前だって乗り気だったじゃないか!」
「でも私は反対したわ!負けるかもしれないって!」
「自信なかったじゃないか!」
「私だってそういう日くらいあるわよ!」
「それが何で今日なんだ!」
「知らないわよ!」
二人の不毛な争いを横目に霖之助はやはり笑顔でパチパチと算盤をはじいていた。
まるで孫悟空だな魔理沙
2人に明るい未来が残って・・・・・無いか・・・
面白かったです。
ある意味続きが気になるかも。
いわゆる「こーりん」の扱いがあまりに酷くて可哀想だったもので(笑)
でも実際のところ実力はどの程度なのでしょうかね?
ところで幻想郷って紙幣使えるのかな?
霖之助らしい知略も使ってまさに完全勝利といえますね
でもなんだかんだで逃げられそうですがw
とかく壊れたこーりんをよく目にしますので、こういった余裕ある霖之助がなんともステキに見えますです。
……いや、壊れこーりんも好きなんですが。
ただ、今一つ盛り上がりに欠けるといいますか、全体を通してちょっと単調だったかな、という気はします。
弾幕避けの下りでスペカの種類を絞って、もう少し詳しく描写したら良かったんじゃないかなぁなんて思いました。
あっていたらすいません・・・
どうでもいいが弾幕ごっこで被弾したらどんな感じになるんだろ?
実は強いんじゃないか?と密かに願ってた身としては嬉しい作品だった