午前5時・白玉楼
まどろみの中から私は目を覚ます。
まだ少しまぶたが重いけど、起きなくては。
起きたら、まずは洗面所に行き、顔を洗って目を覚ます。
次に、寝室に戻って布団を畳んで、稽古着に着替える。
その後は、日課の剣の稽古。
と言っても、特に打ち合う相手もいないので、素振りだけ。
一しきり汗を掻いた後は、汗を流してから服を着替え、今度は朝食の準備に取り掛かる。
ご飯も炊け、時間も七時と頃合になったので、幽々子様を起こしに行く。
「幽々子様、お目覚めでしょうか?」
幽々子様の寝室の前に行き、部屋を開ける前にまずは確認。
尤も、これで返事が返ってくるのは一年に数回あるかないかだ。
当然の如く、今朝も幽々子様の返事は無い。
「失礼します」
断りを入れてから、私は幽々子様の寝室の戸を開く。
案の定、幽々子様はぐっすりと眠っておられる。
私は幽々子様の枕元まで行き、正座をする。
「幽々子様。朝ですよ。起きてください」
「ん~…………」
幽々子様は私の声に少し反応したが、寝返りを打って横を向いた。
そして
グ~…………
幽々子様のお腹が鳴った。
おかしい。
普通、胃と言うのは脳の後に目を覚ますはずだ。
なのに、幽々子様の場合は、脳、つまり、頭より先に胃が目を覚ましている。
別段、断食とかをしている訳でもないのに、だ。
「幽々子様、起きてください。朝ですよ」
私は再度幽々子様に声を掛ける。
「ん~………妖夢ぅ?……朝ご飯まだ~?」
漸く起きた………
と思うのは素人だ。
凄まじく紛らわしいのだが、これは寝言だったりする。
本当に食に関しては貪欲と言うか強欲と言うか………
「幽々子様!起きてください!!朝ですよ!!」
流石に私の語彙も強くなる。
「ん~………妖夢ぅ……?」
「はい、私です」
「ん~……………ご飯、おかわり~」
「幽々子様!!」
私は幽々子様の布団をバサッ!とめくり上げる。
毎回毎回、最初からこうしたいと思う。
けど、最初から主に対してそこまで手荒な真似は出来ない。
願わくば、強硬手段に出る前に起きてください、幽々子様………
「う~……何するのよ~妖夢ぅ………」
「朝です、起きてください」
「まだ眠いわ~」
「ダメです」
「妖夢のケチぃ………」
何がケチなんですか。
「解りました。では、朝ご飯は私の方で全て片付けて置きますので」
後で文句言っても知りませんからね。
………………あれ?
おかしいな……これなら絶対、幽々子様を釣れると思ったんだけど………
考えが甘かったかな?
私はそう思って振り返った。
しかし、そこに幽々子様の姿は無かった。
「あ、あれ?」
ど、何処へ行かれたのだ?
と思っていると、遠くから何やら音が聞こえてきた。
チン…チン…チン…チン……………
この音は、そしてこの方角は…………
私は急いでこの音がする方へと向かった。
そう………食卓へ。
「ごっはん♪ごっはん♪わったしのわったしのあっさごはん♪妖夢、早く準備して頂戴♪」
さっきまで、確かに私の背後でくすぶっていた幽々子様が、茶碗をお箸でチンチン鳴らしながら歌う様に言われた。
しかも、寝巻きだった筈なのに、しっかりと着替えられていた。
幽々子様……貴女は十六夜咲夜のように時間を操れるとでも言うのですか?
それとも縮地でも使えるんですか?
っと、それよりも………
「幽々子様。お箸でお茶碗を鳴らすのはお行儀が悪いのでお止めください」
西行寺家のお嬢様ともあろうお方が………
「ごっはん♪ごっはん♪おっいしいおっいしいあっさごはん♪」
聞いてないし………
どうせ今この場で言い合っても時間の無駄になるし、まずは朝食を作ってしまおう。
お説教は食事の時にでもしよう。
どうせ右から左なんでしょうけど………
はぁ……………
午前8時
朝食を済ませ、私は食器洗いをしている。
食事中、案の定、幽々子様は話を聞いて下さらなかった。
のらりくらりとかわされ、最後は何故か私の方が言いくるめられてしまう。
紫様といい、幽々子様といい………どうしてその素晴らしい頭脳をもっとよい事に使ってくれないのですか?
あぁ………藍さんも同じような苦労を、きっと背負ってるんだろうなぁ………
しかも私よりも長い期間………か。
私もこの程度でへこたれる訳にはいかない。
もっと、幽々子様を言いくるめられるくらいに精進しないと!
…………何年、いや何十年後になるかは解らないけど………
っと、気が付いたら食器を洗い終わっていた。
次は洗濯をしないと………
午前10時
洗濯物も干し終わり、今は庭の掃除をしている。
元々私は庭師だから、これが本業と言えばそうかもしれない。
因みに、幽々子様は縁側でお茶を飲みながらのんびりなされている。
何か考えているかもしれないし、何も考えていないかもしれない。
お祖父様……いや、師匠なら解っていたのだろうか?
ダメだな……こんな事を考えている事自体が未熟の証だ。
もっと自分で考えて答えを出さないと。
ただし、藍さんが言ったように、焦らず、ゆっくりと。
ん!?
不意に突然の気配を感じて振り返る。
ただし、それはとても良く知ってる気配だったから、危険は感じなかったけど。
「あら?良く気付いたわね、妖夢」
やはり紫様だった。
「いらっしゃい、紫」
「ええ、お邪魔するわ。幽々子」
この方は、いつも隙間を開いて唐突に現れる。
別に、少し離れた場所に現れて歩いて姿を見せてくれても良いのに………
「それにしても、妖夢。よく私が来た事に気付いたわね」
言われてみれば………
「いえ、何となく、だったんですが……背後に気配を感じたので」
「へ~……紫の気配を感じ取れるなんて、少しは妖忌に近づいたのかしらぁ?」
そうなのかな?
でも、幽々子様が言って下さるならそうなのかも知れない。
なんだか、少し嬉しい。
「あら?その位で妖忌に少しとは言え近づいたなんて、それは妖忌に失礼よ?」
うぐ……流石に紫様ははっきり仰られる………
「それよりも紫様、本日はどの様な御用向きで?」
「あら?親友の所に遊びに来ただけよ」
「そうでしたか。今、お茶と茶菓子をお持ちいたします」
「あ、妖夢~私のもお願いね~」
「心得ております」
私は掃除を中断して、お茶と茶菓子を探しに行った。
お茶は簡単に見つかった。
が、茶菓子が見当たらない………
おかしいな……昨晩確認した時は確かにあったのに………
はぁ……またか………
しょうがない、非常用の茶菓子を出しに行こう。
非常用とは、急な来客の時に茶菓子がない時に出せるようにする為の保険のような物だ。
買出しに行って買って来た物は、まずはこの非常用に保管し、先に入っていた物を順次通常用として出していく。
でないと、腐ってしまうから………
さて、お茶と茶菓子も用意できたし、幽々子様達の所に行かないと。
「お待たせいたしました」
「妖夢おっそ~い」
開口一番、幽々子様が文句を言われる。
しかし……
「すみません。なにぶん、通常用の茶菓子が切れてましたもので………昨晩はありましたのに」
私はそう言いつつ、ジト目で幽々子様を見る。
この屋敷で物を食べる者は私と幽々子様のみ。
当然、私は食べてない。
なら、答えは解りきっている。
「へぇ……おかしな事もあるのねぇ………お菓子だけに♪」
幽々子様、寒いですよ。
「私が食べてない以上、どなたが食べたかなど明白なのですが?」
私はお茶を注ぎながら幽々子様に言う。
「証拠も無いのに決め付けるのは良くないわぁ、妖夢~」
「そうね、幽々子が食べたと言う証拠でもあるのかしら?妖夢」
ぐ……紫様が幽々子様側に付いた………
このお二人相手に論戦で勝てるものなど、永遠亭のお姫様と従者コンビくらいではなかろうか?
当然、私が勝てる訳は無い………
が、一応、反論はする。
「証拠はありません。が、消去法で行けば幽々子様だけです」
「あら?侵入者という事も考えられるわ?」
「紫様。いくら私でも、白玉楼の館内にまで入られれば気付きますよ」
そこまで未熟じゃありません。
「私でも?」
「………紫様が食べられたのですか?」
確かに、その線もあった。
「まさか。幽々子のお菓子を勝手に食べたら幽々子に何されるか解ったもんじゃないわ」
ですよねぇ………
食い物の恨みは恐ろしい。
この言葉を幽々子様が行うと、本当に恐ろしい。
博麗の巫女なんて比べ物にならないくらい………
「でも、その言い方だと、やはり幽々子様が犯人と言っているのでは?」
でなければ、今頃幽々子様は…………止めよう、考えると震えてきてしまう。
「もう処刑済み……という考えは無いのかしら~?妖夢」
処刑済みですか………
確か、前に処刑された妖怪の成れの果ては…………
止めよう、思い出すと寒気がする………
「まぁ、どんな理由にせよ、お菓子が切れてるのは事実みたいだから、今日の内に買ってきておいてね~妖夢」
「あ、はい。解りました」
言われなくてもそのつもりだったから、別段問題は無い。
さて、お茶と茶菓子も出した事だし、掃除を再開しないと。
「あ、それで幽々子、この間の事なんだけど………」
「あ、それがそうなの?へぇ………」
何やらお二人が話をしているようだが、主の友人との会話に聞き耳を立てるのは無礼極まりない。
私は気にせず掃除を再開した。
それから五分ほど経っただろうか?
「ねぇ、妖夢」
突如紫様が声を掛けられた。
「何でしょう?」
「今日はメイド服じゃないの?」
私は幽々子様の命により3日に一度はメイド服を着る事になっている。
まぁ、そのあたりの話は長いので省くが………
しかし、その事を紫様が知っているのは別段不思議でも何でもない。
良く幽々子様の所に遊びに来ているゆかり様だ。
幽々子様から聞いていても不思議じゃない。
「今日はその日じゃありませんので」
「そうなの?残念だわ」
正直、あの姿は人に見られたくない………
ましてや、紫様に見られようものなら何を言われるか……否、何をされるか………
「ところで妖夢」
「はい?」
再び紫様が声を掛けられた。
「足元注意よ?」
「へ?」
午後0時・白玉楼
うぅぅ…………酷い目にあった
まさか、あんな目に遭うとは………
これだから紫様は…………
とは言え、紫様は幽々子様のご親友で、大切な客人である事に代わりは無い。
時間もお昼になったので、紫様の分も用意して昼食を居間へと持っていった。
「あら~良い匂いねぇ………」
が、そこに居られたのは幽々子様一人だった。
「あれ?紫様は?」
「紫ならお昼だから帰ったわよ~」
う~ん……この前は帰るだろうと思って用意しなかったら私の分を食べてしまわれた。
で、今日は今日とで用意したら帰られてしまわれた。
相変わらず掴めない方だなぁ…………
藍さんの苦労を察してしまう。
まぁ、幸いにしてこの昼食が無駄になる事は無いけど。
「それじゃあ紫の分は私が貰うわねぇ」
「ええ、お願いいたします」
私では正直二人前は食べれない。
「んぐんぐ……妖夢、お昼食べたらお買い物お願いね~」
さしもの幽々子様も、口に物が入ったまま喋ると言うお行儀の悪い真似はしない。
仮に喋らざるを得ない状況でもしっかりと口を隠されてから喋る。
その辺りを守っていただけるのは不幸中の幸いだ。
流石に、そこまでお行儀が悪いと泣けてきてしまう。
「何を買ってまいりましょうか?」
まぁ、お茶菓子は当然として。
「貴女に任せるわぁ」
う~ん……これまた何時もどおりの返答。
まぁ、無理難題を課せられるよりは良いけど。
「ああ、後、一つだけ」
何だろう?
「急いで帰ってこなくても良いわ。偶にはゆっくりしてらっしゃいな」
「はぁ…しかし………」
ゆっくりと言われても………
「じゃあ、命令。ゆっくりしてきなさい」
「わ、解りました………」
幽々子様なりに私の事を気遣ってくれてるのだろう。
だが、生憎と、私は外にゆっくり出来る場所に思い辺りが無い。
う~ん………まぁ、折角だからそこら辺をぶらぶらしようかな?
何か目新しい発見でもあるかもしれないし。
無いかもしれないけど。
「まぁ、それは兎も角、ご馳走様~美味しかったわよぉ」
「お粗末さまです」
二人前を食べてるはずなのに、私より食べ終わるのが早い。
私が遅いのか、幽々子様が早いのか………多分、後者なんだろうなぁ…………
それはさて置き、私も早く食べ終えて買い物に行かないと。
午後1時・中有の道
どうせだから、出店とかが出てにぎやかだと言う中有の道へ来た。
噂どおり多くの出店が並んでいる。
ん~……良い匂いもしてくる。
お昼を食べ終わった後でなければ、ついつい買い食いをしてしまうかもしれない。
今度幽々子様と…………来るのは止めておこう。
財布の紐が緩むどころの話ではない。
財布から札束が某鴉天狗の如く飛んでいくであろう。
大体、この出店は地獄の財政難の為の苦肉の策であるとも聞いている。
そりゃ、冥界と地獄が繋がりが無いわけではないけど、だからと言って湯水の如く財政寄付をする義理も無い。
いや、まぁ………幽々子様の幽霊の管理の杜撰(ずさん)さから見れば、少し位したほうが良いのかも知れないけど………
前にも閻魔様に言われたしなぁ………
あ、閻魔様と言えば、前に部下の死神の事で愚痴ってたなぁ………
三途の川はこの先だし、ちょっと見に行ってみようかな。
三途の川
う~ん……中有の道と違って凄く静かだ。
音と言う物が世界から奪われたかのようだ。
まぁ、生きてる者がここに来る事自体稀だし、ここに来る幽霊も魂だから喋る事も出来ない。
静かなのも道理か。
さて、その死神の人は……っと………
何度か見たから、流石に覚えている。
女性にしては背が高めで、胸も大きかったなぁ…………羨ましい。
ん~っと………あ、居た。
って、思いっきり寝てる…………
うわぁ…私が近くに寄ってもまったく起きる気配なし。
私に敵意が無いからかな?
しかし、堂々と寝てるなぁ……仕事中の筈だけど………
こう言うのを大物と言うのだろうか?
ちょっと話してみたかったんだけどなぁ……
「しかし、まぁ……これなら閻魔様も苦労するわけだ」
うん、納得。
と、私が感想を口に出した瞬間。
「ね、寝てません!寝てませんよ!?四季様!!」
いきなり飛び起きた。
流石に私も驚いた。
「……あ、あれ?…おっかしぃなぁ………今、何か四季様の事を呼ぶ声が聞こえた気が………」
「おはようございます、死神さん」
「ん?あれ?あんたは冥界のところのお嬢ちゃんじゃないか」
「魂魄妖夢、です。小野塚小町さん、でしたよね?」
確かそのはずだ。
「ああ、あたいは小町だよ。で、あんたはどうしてここに?」
「以前、閻魔様とお話した時に貴女の事が話しにあがったので、一回どんな方か見てみようと思いまして」
「あんたも暇だね~」
「ええ、暇なので来ました」
これは本当の事だし。
「しかし、まぁ……四季様があたいの話を………ねぇ」
視線をそらして頬をポリポリと掻いている。
「お察しの通り、良い話ではありません」
「う……いや、まぁ、ほら……あたいもね、ちゃんと仕事してるんだけどさ。四季様が偶々気を抜いてる時に来ると言うか………」
「一月に24回」
「へ?」
「最低一月に24回、貴女の不真面目場面を見ているそうです。ただ、閻魔様も自分の仕事の関係で注意しに行けない時があるだけと言っていましたよ」
「げ………」
「今もどこかで見てるかもしれませんねぇ」
「ちょ、ちょっと!怖い事言わないどくれよ………」
辺りをキョロキョロと見回しながら言う。
そう言う態度が既に後ろめたい事がある証拠だと思うんですが………
「いや、ほら、死神の仕事って言うのも疲れるんだよ」
「そうなんですか?」
そう言えば、詳しい状況までは知らない。
「そりゃそうさ。ほら、この三途の川。運ばれる者によって長さが代わるんだけどさ、長い時はあたいはずっと舟を漕ぎっ放しな訳」
それは大変そうだ。
「で、日に何人も来るだろう?さしものあたいも疲れちゃってね。少しは居眠りでもして休憩したくなるのさ」
う~ん………それはそうかも。
「それは確かに大変そうですね」
「そうそう。だから、少しくらい休んでも罰は当たらないのさ」
う~ん……本人気付いてないみたいだなぁ。
どうやらこの人は大物ではないようだ。
「じゃあ、貴女が居眠りしてしまうのは当然の事だと?」
「まぁね。言わば労働との等価交換と言う奴かい?何にせよ、働きすぎなのさ、あたい達死神は」
「成る程。と言う訳だそうですよ?閻魔様」
真後ろに閻魔様が素敵な笑顔で立っていたのに。
「え!?」
私の言葉に小町さんが驚いて振り向く。
そこへ
バシッ!!
「きゃん!!」
閻魔様の悔悟の棒が頭に炸裂した。
「こ~ま~ち~~~~~?」
「し、四季様!!!」
うわぁ……凄い笑顔。
笑顔なのに凄い迫力だ………幽々子様の処刑の時の顔を思い出す…………
強い人ってみんなこんな笑顔が出来るのかな?
「どうやら教育が足りていなかったようですね?」
「え?いやいやいや!!もう、全然!足りまくってますって!本当に!!」
「遠慮をする必要はありませんよ?丁度八雲紫から面白い技を伝授していただきましてね。それを試そうかと思ってたんですよ」
「わ、技?」
何の技だろう?
「いつもはこの棒で叩いてましたが、こう、突くのですよ」
「つ、突くって……その棒でですか!?」
刺さりますね、思いっきり。
「ええ、折角ですから、貴女に最初の一撃をお見舞いして差し上げましょう」
「ちょ……あ、あたい、死んじゃいますよ!?」
「安心なさい。死んだら私が貴女の事を裁いて差し上げましょう。それはもう、徹底的に」
そう言って閻魔様は小町さんの服の後ろ襟を掴んだ。
「いや、ちょっ!は、話せば解りますよ四季様!!」
「話して解らないからこうなっているのでしょう。覚悟を決めなさい」
「いや~!!離して~!!」
「我慢なさい、私も苦しいんですよ。主に胃が」
うわぁ……それは大変そうだ。
「あっと、魂魄妖夢。お見苦しい所をお見せしましたね」
「え、いえいえ。ご苦労様です」
「ええ、まったくです」
閻魔様は深く溜息を吐いた。
「今度、鈴仙さんに頼んで胃薬届けてもらうように頼んでおきましょうか?」
「はぁ……お願いしましょうかねぇ………」
閻魔様は口元に悔悟の棒を持ってきながらそう呟いた。
「では、私は部下の躾があるので」
「はい、頑張って下さい」
「それでは、御機嫌よう。朋友」
「ええ、またお会いしましょう、朋友」
「いや~!!刺されるのはいや~!!」
「黙りなさい小町。それとも………後ろの穴に差し込んで上げましょうか?」
「そ、それはもっといや~!!!」
閻魔様は小町さんを引き摺って去っていった。
そうそう、朋友(ポンヨウ)の事だが………
ついこの前、偶然発足した「苦労人同盟」
私達はお互いに敬意と親愛、そして同情の念をこめて「朋友」と呼び合う事にした。
提案したのは美鈴さんで、なんでも外の世界の言葉だそうだ。
露骨にお互いに「友よ」見たいに呼び合うのもアレなので、こういう風にしたのだ。
そして、それに対し、誰も反論することなくすんなり受け入れられたのは、やはり、皆お互いに同じ境遇だと感じていたからだろう。
午後3時・人の里
流石に三途の川からは距離があったのでちょっと時間が掛かってしまった。
とは言え、ゆっくりして帰ってくるなら、まだ買い物には早いかな?
う~ん……もう少し時間を潰せればよかったなぁ………
しかし、この場所に特に知り合いは………
「ん?妖夢か?」
あ、居た。
「こんにちわ、慧音さん」
彼女とは前までは顔見知り程度だったが、件の同盟を期に彼女とも朋友となった。
「ああ、こんにちわ。買い出しか?」
「ええ、そうなんですが……」
「どうした?」
「いえ、幽々子様にはゆっくりして来いって言われたので今買出しを済ませてしまうと……」
「なるほど、それでは用事が直ぐに済んでしまうな」
「そうなんですよ」
「なら、私の家に来るか?」
「え?良いんですか?」
「ああ、私も暇で出てきたくらいだからな」
「では、お言葉に甘えさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「勿論だ。さ、行こうか」
「はい」
慧音宅前
「ここが慧音さんの家ですか」
「ああ、汚いだろうかもしれんが、適当にくつろいでくれて構わんよ」
そうは言うが、慧音さんの事だ。
家の中はしっかり片付いてるに違いない。
「あ、丁度良い所に」
家に入ろうかとした所で声を掛けられた。
この声は……
「ああ、鈴仙。薬売りか?」
「ええ。あら?妖夢も居たの?」
「ええ、お久しぶりです」
「ええ、久しぶり。さて、上白沢さん。入用な薬はある?」
「そういえば、少し薬が少なくなってたな……確認もしたいし、鈴仙も家に上がっていかないか?」
「良いの?ちょっと歩き疲れてたから助かるわ」
「そうか。なら、二人とも上がると良い」
「お邪魔します」
「お邪魔するわね」
私と鈴仙さんは慧音さんの家へと上がった。
「散らかっててすまないが、適当に座っててくれ」
慧音さんはそう言うと居間から台所へと向かった。
「散らかってる?」
「何処が?」
はっきり言って全然散らかっていない。
そりゃ、居間の机の上に多少紙が乗っているけど、ちゃんとまとめて置かれている。
「これを散らかっていると言ったら師匠の部屋なんて修羅場よ?」
「そうですよねぇ……薬剤師の方の部屋なら色々置いてありそうですし」
「これを見て散らかってるって言う奴を見てみたいわ」
「まったくですね」
改めて辺りを見回すが、やはりちゃんと整理整頓がなされている。
住んでる人の性格が良く表れている家だ。
「待たせたな。粗茶で悪いが、菓子も用意した」
そう言って慧音さんはお茶と茶菓子を置いた。
「それじゃ、まずはお仕事済ませちゃいましょうか。入用な薬は何かしら?」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
慧音さんは近くの棚から薬箱を出した。
「ふ~ん………これとこれとこれ………それからこれって所かしら?」
鈴仙さんはその薬箱を覗いてから、自分の薬箱から薬を出した。
「ああ、そうだな。流石だな、少し見ただけで解るとは」
「一般家庭用の薬箱なら入ってる物は何処も似てるから見れば大体解るわ」
う~ん………私は解らない。
「じゃあ、これが御代だ」
「はい、毎度」
あ、そう言えば…薬を見てて思い出したことがあった。
「鈴仙さん、胃薬ってあります?」
「胃薬?何?妖夢、貴女ついにあのお姫様の我侭で胃に穴開いちゃったの?」
「開いてませんよ」
偶に開くんじゃないか?って思うけど………
「今日閻魔様に会ったんですが………」
私はさっきの事を簡単に話した。
「あ~………あの人も大変ねぇ………」
「普段の仕事だけでも大変だろうにな…………」
「解ったわ。今度持って行って見るわ」
「ええ、そうしてあげて下さい」
閻魔様が胃潰瘍で倒れました、なんて大問題だろうし………
絶対にあの鴉天狗の新聞に載せられる………
「でも、何だって貴女、三途の川になんて行ってたの?」
「え?あ~っと……その、今日は幽々子様にゆっくりして来いって命令されたもので………」
「ゆっくりして来いって言う命令も珍しいわね」
「まぁ、妖夢の場合生真面目だから、ゆっくりして来いって普通に言っても直ぐに帰ってくるからだろう」
「それもそうね」
う~ん……そんなに堅いかなぁ…私は。
「あら?妖夢」
今度は何だろう?
「貴女、今日はドロワーズじゃないの?」
「っ!?!?!?!?!?」
ハッとなって足を見る。
けど、別段スカートから足がはみ出してるとかじゃない。
「な、な、なな、なななん………」
動揺で上手く発音できない………
「だって、ドロワーズ履いてればもっとスカートの腿の辺りが膨れ上がるもの」
う……確かに………
「ふむ、妖夢もそろそろそう言うのに気を使うようになって来たのか」
うんうん、と年長者らしい対応を取る慧音さん。
「いや、そうじゃなくて、これは、その…………」
私は仕方なく、今日紫様にされた事を話した。
「はぁ………貴女、相変わらずおもちゃにされてるわね~」
「うぅぅぅぅ…………」
「偶には流したらどうだ?一々反応するから余計にされるんだぞ?いじめをする奴と同じだな」
「そりゃ普通のなら私だって流しますよ?でも、相手はあの幽々子様と紫様ですよ?」
普通の事をする訳がない。
「う…………」
「むぅ…………」
二人とも黙ってしまった。
流石に、あの二人の事はあまり会って無くても何となく解るのだろう。
「そう言えば、鈴仙さんも師匠に酷い事をされてるとか………」
そんな事を前に言っていたような気が………
「………まぁ、新薬の実験ね」
うわぁ………それは怖いな。
「だ、大丈夫なのか?」
「聞いてよ!前なんて酷いのよ!?胡蝶夢丸の改良型が出来たから飲んでくれって言われたのよ!!で、飲んだわけ。そしたら!!」
そ、そしたら?
私と慧音さんは息を飲んで次を待つ。
「ごめんなさい鈴仙。それ、脱毛薬だったわ」
「って言うのよ!?」
うわぁ……それは酷い………
「しかも下の方の!!」
更に酷い………
「で、増毛薬もあるから飲んで戻しておきなさいって言うから飲んだら………」
再び私達は息を飲む。
「あ、ごめんなさい鈴仙。それ、性転換薬だったわ」
「って!!」
「ちょっ!?それはまずいんじゃ!?」
「お前、まさか………」
「それでその後!!」
「ふふ……冗談よ」
「笑えないっての!!!」
うん、笑えない。
「お前も良いように遊ばれてるんだなぁ………」
「師匠は本当に何でも薬を作れるから……それらの薬を作れると考えると、とても流せないわよ………」
「そ、それは確かに………」
「怖いな、かなり」
「上白沢さんは何かそう言うの無いの?」
落ち着きを取り戻した鈴仙さんが尋ねる。
「私か?私はそう言うのは無いが………」
「「無いが?」」
私と鈴仙さんは同時に尋ねた。
「良く村の者に相談事を持ちかけられるな。他愛も無い物から重い話まで」
「お、重い話?」
「いや、その……恋愛ごとの相談事とかをされるのだが……正直困るんだ」
「「あ~」」
「何だ二人して、その「あ~」って言うのは」
ムッとした表情で慧音さんが言う。
「だって貴女、色恋沙汰すっごく疎そうだもの」
「ぐ………ひ、否定できん………だから、困るんだよ…………」
う~ん……私も解らない。
「はぁ………周りから言われてるように、そろそろ身を固めたほうが良いのかなぁ…………」
言われてるんですか。
「ま、好きにすれば良いんじゃない?周りに流されて適当に相手を選んだんじゃなければね」
「まったくだな。まぁ……まだ長く生きる身だ。焦らず行くか」
「そうしたら?ま、結婚は縁って言うしね。ポッと出てくるかもしれないわよ?」
「ははは、そうかもな」
「しかし、やっぱり皆苦労してるんですね………」
私だけじゃなかった……ちょっとホッとする。
「そうね。伊達に朋友じゃないわ」
「そうだな。朋友、まさにその言葉がしっくり来る。」
そんなこんなと、愚痴を交えつつ談話して過ごした。
午後4時30分・人の里
「よし、こんな物かな?」
慧音さんの家で一しきり話をした後、私は買い物へ、鈴仙さんは残ってる場所へと薬売りへ向かった。
そして、私は一通り買い物を終える事が出来た。
「後は帰るだけ、か」
十分ゆっくりしたし、そろそろ良いだろう。
「おや?妖夢」
あ、この声は…
「藍さん」
「妖夢も買い出しか」
「ええ」
見ると、藍さんも買い物袋を下げている。
「一しきり買い終えて、今から帰ろうかと言うところです。」
「そうか、私もだ」
「まぁ、また近い内に来るかもしれませんが………」
はぁ…と私は溜息を吐く。
だって、また幽々子様が摘み食いとかするかもしれないし………
「幽々子様の事か?」
「ええ……どうにかして摘み食いを防げないものかと………」
「むぅ……難しいな…あの方もなんだかんだと言ってかなり強力な力をお持ちの方……その能力を無駄な方向に使われると………」
ええ、その無駄な方向に使いまくりなんですよ、幽々子様は。
なんで摘み食いをするのに真剣に能力使うんですか……普段は全然真剣じゃないのに………
「そうだ。巫女に相談したらどうだ?」
「巫女?博麗の巫女ですか?」
まぁ、他に巫女なんて居ないけど。
「ああ、彼女の妖怪退治には幽霊亡霊も含まれているだろう。退治とは言わんが、何か有効な手を教えてくるかも知れんぞ」
「なるほど、それは確かに」
「賽銭と茶菓子でも持っていけば快く応じてくれるだろう」
「そんな現金な巫女もどうかと思いますがね」
「まぁな」
「茶菓子なら丁度買ってありますし、尋ねてみる事にします」
「ああ。私は帰る事にするよ」
「はい。ありがとうございました」
「礼を言われるほどの事じゃないさ」
そうして私と藍さんはそれぞれの道へと別れた。
それにしても、やはり藍さんは頼りになる。
午後5時・博麗神社麓
あれ?神社から降りてくる人影が……珍しいな、この神社に参拝客とは。
ん?あの顔はどこかで見た覚えが………
「あれ?貴女は藤原妹紅?」
「よう、みょんだったか?」
「妖夢です!魂魄妖夢!!」
まったく、何でみょんなんだ。
「で、一体どうしたんですか?貴女がこんな所に居るなんて珍しいですね」
普段は竹林からあまり出てこないと聞いてるのに。
あ、でも最近はそうでもなくなったって慧音さんが言ってたな。
「それを言うならお前もじゃないか?幽々子とならいざ知らず、一人で足繁く通ってるとは思えんが?」
そりゃまぁ、用も無くこんな所に来はしない。
「私はまぁ……ちょっと用事がありまして………」
「なるほどね。因みに私はただの気まぐれ」
特に用事を詮索されるような事は無かった。
単に無関心なのか、気が利く性格なのか………
「暇ですねぇ」
「そりゃ暇さ。私を誰だと思っている?」
ああ、そうか。
彼女はこう見えて1000年以上も生きている。
大抵の事はやりつくしている事だろう。
「それもそうでしたね」
そこで私は彼女が手から下げて居る物に気が付いた。
「しかし、貴女も買い物ですか?」
「ああ、お前もか」
「ええ………」
あれ?返答しただけなのに、何故か溜息が………
はぁ……なんか、溜息が癖になって来ている気がする………
すると、突然の突風。
溜息の事で思考を巡らせていた私は気付くのが遅れた。
ス、スカートがめくれ上がる!?
「きゃあっ!!」
あ、危なかった………危うく醜態を晒す羽目に………
「どうした?流石に思いっきりめくれそうになるなら解るが、あの程度の風で何でそんなに慌てるんだ?」
う……しまった………藤原妹紅が疑わしげな目で私を見ている………
今の行動は迂闊だったか……でも、醜態を晒す訳には………
「え?い、いえ………ほ、ほら、ドロワーズとは言え、やっぱり人様に見せてしまうのははしたないじゃないですか」
く、苦しいか?
「ふぅん………」
く……疑っている。
「まさか、履いてないのか?」
そ、そんな訳無いでしょうが!!
「し、失礼な!!ちゃんと履いてますよ!!ちゃんと………」
ぐ……しかし、本当の事は言えない………!!
「まぁいいか」
あ、あれ?
予想に反してあっさり引いてくれた。
紫様や幽々子様だと絶対に引いてくれないのに。
「え、ええ。気にするような事じゃありませんから」
まぁ、引いてくれるのは有難い事だ。
ここらで話を切っておこう。
「さて、私はそろそろ帰るから、これでな」
相手もそう言ってくれたので、私もここらで別れる事にする。
「ええ、失礼します」
ふぅ………
それにしても、突風には気を付けないと……買い物袋持ってるから、行動が遅れてしまうな。
博麗神社
神社の鳥居を潜り、境内へと入る。
すると、神社の縁側でお茶を飲んでる巫女と魔理沙を発見した。
この時間なら掃除などもあらかた終わり、ゆっくりしているといった所か。
巫女に近づいていくと、巫女も私に気が付いた。
「あら?今日は千客万来ね」
どうやら、私以外にも多くの者がこの神社を尋ねていたようだ。
「そうなんですか?」
「ええ、今日は珍しいのも含めて結構来たわよ」
「それは珍しいですね」
この神社は普段はあまり人妖含めて来ないのだが。
特定の人物を除いては。
「まぁ、お前もその珍しい顔なんだろうが」
その特定の人物、魔理沙が私に言う。
「そうですね。私も用が無ければ来ないでしょうから」
「と言う事は、用があると言う事よね?何かしら?」
「偶に来てるのにタダで頼むのもなんなので、まずはこれを」
そう言って、私は茶菓子を巫女に差し出した。
会話の途中で駆け引きのように使っても良かったが、何か巫女を侮辱してるような気がするので止めた。
「わお、ドラ焼き!?」
「ああ、ついでに後でお賽銭も入れますよ」
「で、用事って何?この霊夢さんに任せなさい!」
急に積極的になった。
本当に現金だなぁ………
ま、いいか。
「ええ、幽々子様の事でちょっと………」
「何だ?みょん。ついに下克上を起こすのか?」
「そんな事するか!それからみょんって言うな!!」
まったく、何で幽々子様に反旗を翻さなきゃいけないんだ!!
それから、みょんって言うな……最初に私が「みょん」と言ったのが始まりとは言え………
代名詞にされるのは困る。
「幽々子様の摘み食いの事です」
「あ~……やっぱやってるのか」
魔理沙が納得したようにうんうん、と首を縦に振る。
「何度ダメだと言っても聞かなくて……それで、幽霊や亡霊に詳しい貴女に相談に来たと言うわけです」
「それは勿論、成仏させたりするのはダメよね?」
「当たり前です」
なんて事言うんですか。
「ん~………なら、良いのがあるわ」
そう言って巫女は神社の中へと入っていった。
そして直ぐに戻ってきた。
「はい、これ」
手渡されたのは一枚のお札。
そこに書かれていたのは
「悪霊退散」
「幽々子様は悪霊じゃない!!!」
なんて失礼な!!
「そう?悪食の亡霊って意味なら「悪霊」じゃない?」
あぐ!?
は、反論できない………
「ああ、そう言う意味なら間違いなく悪霊だな」
く、魔理沙まで………
「何にせよ、私も力を込めてる奴だから結構効く筈よ?」
う~ん……この巫女、普段はグータラしてるけど、力は本物だしなぁ………
一応、使ってみようかな。
「ありがとうございます。取り敢えず、使ってみます」
「こんなの大した事じゃないわ。ああ、ついでだから貴女もお茶飲んで言ったら?その荷物持って歩いてたら疲れてるでしょ?」
「そうですね……まだ歩きますし、少し休憩させて頂きましょうか」
「じゃあ、お茶持ってくるからちょっと待ってて」
そう言って再び巫女は神社の奥へと入っていった。
私は荷物を置くと魔理沙の隣へ腰掛けた。
「相変わらず物に弱いな、霊夢は」
「ええ、びっくりですよ」
まさか、あそこまで態度を変えるとは。
「あれ?魔理沙。その手に持ってる本は魔道書ですか?」
私は魔理沙が持っている本を見つけて尋ねた。
「ん?ああ、パチュリーから借りてきた奴だ」
借りてきた………ねぇ。
向こうは絶対そうは思ってないでしょうね。
「お前も読んでみるか?」
「私には魔道の知識はありませんから読めませんよ」
魔道書を見るには魔道に関する知識の他に、力そのものも要る場合もある。
力が未熟の場合、その本の「カギ」を見つけられず、読む事が出来ないと聞いたことがある。
「いや、これは誰にでも読める魔道書みたいだ」
誰にでも読める魔道書?
確かに、あの図書館には一般の者でも読める本があるとは聞いている。
が、一般の者でも読める魔道書があるとは聞いた事が無い。
と言うか、魔道書はそれを媒体に魔法を使う事も出来たりする物だ。
それが誰にでも読めるのは相当問題ではなかろうか?
画期的ではあるかもしれないが。
「ほら、これだ」
そう言って魔理沙が私に見せた魔道書の題名は
「できる!属性魔法!!」
そんな馬鹿な………
そんな間単にそんな事が出来てたまるものか………
「まぁ、読んでみろって」
「貴女は読んだんですか?」
「いや、まだだぜ?その前に、本当に一般人でも読めるのか知りたかったしな」
「巫女は?」
「興味ないわ。で、片付けられたぜ」
「彼女らしいですね」
まぁ、騙されたと思って読んでみましょうか。
「あら?何見てるの?」
読み始めて直ぐに巫女がお茶を持って戻ってきた。
「魔理沙が「借りて」来た本を読ませて貰ってるんです」
「ああ、あれね。胡散臭いから見てないわ」
あ、本当の理由はそっちですか。
「好奇心は成長に必要な要素だぜ?」
「過ぎれば時にそれで身を滅ぼすわよ?」
「危険も無しに良い結果は手に入らないぜ」
まぁ、魔理沙が言ってる事も尤もだ。
私は取り敢えず、お茶を貰いながらパラパラと本をめくる。
ふ…む……驚いた。
基礎的な事から親切に教えてくれている。
古い時代に外の人間が書いた幼稚な思考の満載された物かと思ったが、これは違う。
基礎的な原理なら魔法使いの対応とした習った事はある。
それらを基に説明がちゃんとなされている。
これを読めば本当に使える様になる………かも。
「お、結構真剣に読んでるな」
「え、あ、意外にもまともな内容で、原理なども解り易く書いてあるので」
「へぇ、私もあんまり信じてなかったんだが、本物だったか」
私は続きを飛ばし飛ばし、ペラペラと読む。
途中には属性魔法の使い方なども色々載っているようだ。
「う~ん………本当にこれで使えるように?」
なるとしたら……ちょっと覚えてみたいかも。
戦略の幅が広がるし。
「ん?」
ページを最後まで読み終え、あとがきに入っていた。
「え~っと……なになに?」
あとがき
この本の手順通りにやれば誰でも簡単に属性魔法を使えるようになります。
まったく魔道の知識の無かった貴方でも。
属性魔法に手を付けていなかった貴方でも。
ただし、魔法は尻から出る。
著 パチュリー・ノーレッジ
「ふざけるな!!!」
私は思わず本を思いっきり投げ飛ばした
「わっ!?な、何するんだ!!」
魔理沙が慌てて拾いに行く。
「一番最後のあとがきを良く見ろ!!!」
「あとがき?」
魔理沙もあとがきを読む。
「………パチュリーめ」
「明らかに貴女用に仕向けた本に思えますが?」
「危なかったぜ……まさか、借りてきた本自体がトラップとはな………」
「そのトラップに私が嵌りそうになったんですがね」
尻から魔法が出るなんて………冗談じゃない。
「っと、そろそろ日も暮れ始めてるのでそろそろ帰りますね」
「あらそう?気を付けて帰りなさいね」
「心配無用ですね」
「まぁ、そうでしょうけど」
一応形式として巫女は言ってくれたのだろう。
私は帰る前に約束どおり賽銭を入れると、博麗神社を後にした。
午後6時・帰り道
さて、好い加減日も暮れ始めているし、そろそろ帰らないと。
と、思っていると、頭上から羽音が。
夜雀かな?
いや、彼女は私が幽々子様の従者だと知ってるから近づいてこないだろう。
私と一対一であっても力の差は圧倒的だし。
となると………
「こんにちわ~。そろそろこんばんわですかね?」
新聞記者の鴉天狗、射命丸文さんか。
「ええ、こんばんわ。どうかされましたか?」
彼女は意味も無く敵対するような者ではないので、あまり警戒する気は無い。
「いえ、今日一日色んな人に面白いネタは無いかと聞いて回ってまして」
「そうですか。ありませんよ」
私はスッパリと切り捨てた。
「うわ、そんないきなり切り捨てないで下さいよ」
「いや、そう言われても無いものは無いとしか言えませんし………」
身内でならありそうだけど、正直新聞に取り上げられたくなんか無い。
と、その時
ビュオゥ!!
突風が吹いた。
思案を巡らせていた上に荷物も持っているので捲れ上がるスカートを抑えられなかった………
パシャパシャパシャパシャ!!!
い、今の音は………
「おお!こんな所に思わぬネタが!!」
と、撮られた……思いっきり………
く……!!あの時紫様があんな事をしなければ………!!!
時間は戻って、午前10時・白玉楼
「足元注意よ?」
「へ?」
何の事かと足元を見ようとした瞬間
「ふわぁ!?」
じ、地面が消えた!?
いや、地面はある!
現に私は地面にしがみついている!
……………しがみついている?
地面に?
「こ……これは………!!」
自分の状況を把握して直ぐに察した。
「だから言ったのに♪」
言ったのに♪じゃありませんよ!!
いきなり足元に隙間開けられて避けられる訳無いじゃないですか!!
因みに今の私は地面から上半身だけを生やして、地面にしがみついている状態だ。
第三者が見れば、さぞ不気味かつ不恰好であろう。
「まったく……なんだってこんな事を………!!」
私は直ぐに隙間から這い上がろうとした。
が
ガシッ!!
「いっ!?」
足を何かに掴まれた!
何に!?
し、しかも凄い力だ………いくら私が軽量とは言え……か、体が持ち上げられない!!
「あらあら、ダメよ妖夢。大人しくしてなきゃ」
見ると紫様が自分の前にも隙間を開けて、そこに片手を突っ込んでいた。
「何するんですか!紫様!!」
なんだってこんな事を!!
し、しかし……紫様はここまで力が強かったのか!?
片手で、まるで風船でも持っているかのような感じで私の体を這い上がらせずにいる。
確かに、妖怪は力、腕力も強いとは知っていたが………紫様がここまで怪力とは!!!
「ん~………ダメねぇ、妖夢。こんなもの履いてちゃ」
な、何を開いた隙間から人のスカートの中を覗いてるんですか!!!
「まずは……っと」
ん?力が抜けた?
見ると紫様が手を離していた。
今の内だ!!
「えいっ!」
だが、時既に遅かった。
紫様は素早く再び隙間の中に、今度は両腕を突っ込んだ。
そして
「…………!?!?!?ひああぁぁぁぁ!!!」
ド、ドロワーズをずり下げ、いや、脱がされた!?
「幽々子、頂戴」
「はい、これね」
そして、素早く幽々子様から何かを受け取ると、今度は
「せいっ♪」
「ひゃぅん!!」
な、何かヒヤッとした物がドロワーズの代わりに履かされた。
「はい、お着替え完了よ」
漸く引っ張られる力から解放され、何とか隙間から這い出る。
「はぁ…はぁ…はぁ………な、何をするんですか!!紫様!!!」
私は羞恥と怒り、両方で真っ赤になった顔で怒鳴った。
「何って、見てみれば解るわよ」
一体何を………
私は紫様と幽々子様に背を向けてから、スカートをたくし上げて履かされた物を確認する。
こ、これは………!!!
時間と場所は戻る。
「いや~、あの堅物なイメージある妖夢さんがこんなヒラヒラフリフリの可愛らしい下着を付けられていたとは」
紫様に無理矢理付けられたんですよ!!
「これは良いネタですね。「魂魄妖夢、お堅い表面に隠された真実!?」いや、これだと地味かな?「魂魄妖夢、実はお洒落さん!?」。うん、これが良いかも知れませんね」
文さんはしきりにメモを書きながら独り言を呟いている。
お陰で私に気付いていない。
「いや~、ネタのご提供ありがとうございます!って、あれ?」
文さんは顔を上げるが、そこに私は居ない。
あるのは私が買った荷物だけ。
そして次の瞬間。
ピタッ………
「………………」
文さんの表情は見えないが、恐らく冷や汗でも掻いているだろう。
「この白楼剣と楼観剣に斬れない物などあんまりない………貴女が斬れない物に分類されるかどうか、試されますか?」
私は背後から二振りの刀の刃を文さんの首筋に当てている。
「は、話し合いましょう。話せば解ります」
「話し合うことはありません。あるとすれば、貴女が一つの行動を起こす。ただそれだけです」
「も、もしその行動を間違えたら?」
「この白楼剣と楼観剣を持ってしても貴女の首が削げ落ちない事を願うだけですね」
まぁ………ほぼ間違いなく落ちるでしょうが。
「わ、解りました!今のネガは捨てますから!!」
そう言って文さんはカメラからネガなる物を取り出し、そしてビーッ!と引っ張った。
「ネガはこうして強い光に当てると使い物にならなくなるんですよ!!嘘だと思ったら八雲紫さんにでも聞いてみてください!!」
この様子から察するに本当のようだ。
仮に嘘だったら、全力で斬りに行こう。
私は刀を文さんから離した。
「………はぁ……」
文さんはホッと溜息をついた。
「まったく……人の醜態は晒すなんて事はまったく褒められませんよ?」
私は刀を納めつつ言う。
「まぁ、そうですよねぇ………ただ、ちょっと最近ネタに困ってまして」
「困ってるからって人を晒さないで下さい」
「あぅ……反省してます………」
まぁ、この人は言えば解る人だから大丈夫か。
「さて、それでは私は帰らせて頂きますよ」
「はい。あ、でも何かネタ掴んだら教えてくださいね!」
「ええまぁ…掴みましたら、ですけど………」
「約束ですよ!?それでは!!」
そう言って文さんは飛び去っていった。
転んでもタダでは起きないとはこの事か………
さて、私も好い加減帰ろう。
午後11時・白玉楼
私は幽々子様が寝静まられたのを確認してから白玉楼の廊下を歩く。
はぁ……それにしても、今日は色んな事があったなぁ………
流石に少し疲れた。
ん?
見上げてみれば、今日は綺麗な三日月だ。
見回りを終えたら、寝る前に少しだけ月見酒でもしようかな。
毎日毎日幽々子様に振り回されてる気がするけど………
お陰で私には退屈と言う言葉は無い。
案外、幽々子様はその辺りも気遣ってくれてるのかもしれない。
………単にご自身の暇潰しかも知れないけど。
魔理沙が下克上とか言ってたけど、私にはそんなつもりは微塵も無い。
お役目とか家柄とかそんな事じゃない。
私は幽々子様が好きだからだ。
どんなに私で遊ぼうと、最終的には私を労わってくれる幽々子様が好きだから。
だから、明日からもがんばらないと!!
妖夢Side・END
後日
妖夢の張った悪霊退散の札の事で幽々子に大層怒られた。
「妖夢~?これはどういう事かしらぁ?」
「いや、だって幽々子様は摘み食いが過ぎるので………」
「それにしても悪霊は無いわよねぇ?妖夢ぅ」
「と言うか、それ効かなかったんですか!?」
「いえ、効いたわよ~」
「あ、効いちゃったんですか」
やはり「悪霊」に分類されるのだろうか?
「紫に剥がして貰ったから♪」
「ついで能力も無効化しておいたわ♪」
どこからとも無く紫が現れて言う。
「ゆ、紫様!?なんでそんな事を………」
これで摘み食いが減ると思ったのに……そう思っていた妖夢だった。
「何でって、親友が困ってるんだもの。助けないとダメじゃない?」
「流石紫よねぇ~。それに引き換え、主を悪霊呼ばわりするなんて………お仕置きが必要ねぇ?妖夢~?」
「いや、でも、幽々子様の摘み食い………」
「黙りなさい、妖夢。主を悪霊呼ばわりした罪は重いわよ」
「じゃあ、こんなのどうかしら?」
紫は指をパチンッ!と鳴らすと、部屋に大量の服が落ちてきた。
全部可愛い系の物だ。
「そうね~。じゃあ、まずはこれからいってみましょうかしらぁ?」
「え?ちょっ………」
妖夢は逃げようとする。
が、しかし
ガシッ!!
「いっ!?」
「あらあら?ダメよ妖夢。お仕置きはちゃんと受けないと………後がもっと怖いわよ?」
妖夢を捉えながら、そんな事を素敵な笑顔で言う紫。
「さぁ、妖夢。覚悟は良いかしらぁ?」
「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
妖夢の悲鳴を聞きながら、隙間の影で泣いてる藍が居たとか居なかったとか。
-了-
まどろみの中から私は目を覚ます。
まだ少しまぶたが重いけど、起きなくては。
起きたら、まずは洗面所に行き、顔を洗って目を覚ます。
次に、寝室に戻って布団を畳んで、稽古着に着替える。
その後は、日課の剣の稽古。
と言っても、特に打ち合う相手もいないので、素振りだけ。
一しきり汗を掻いた後は、汗を流してから服を着替え、今度は朝食の準備に取り掛かる。
ご飯も炊け、時間も七時と頃合になったので、幽々子様を起こしに行く。
「幽々子様、お目覚めでしょうか?」
幽々子様の寝室の前に行き、部屋を開ける前にまずは確認。
尤も、これで返事が返ってくるのは一年に数回あるかないかだ。
当然の如く、今朝も幽々子様の返事は無い。
「失礼します」
断りを入れてから、私は幽々子様の寝室の戸を開く。
案の定、幽々子様はぐっすりと眠っておられる。
私は幽々子様の枕元まで行き、正座をする。
「幽々子様。朝ですよ。起きてください」
「ん~…………」
幽々子様は私の声に少し反応したが、寝返りを打って横を向いた。
そして
グ~…………
幽々子様のお腹が鳴った。
おかしい。
普通、胃と言うのは脳の後に目を覚ますはずだ。
なのに、幽々子様の場合は、脳、つまり、頭より先に胃が目を覚ましている。
別段、断食とかをしている訳でもないのに、だ。
「幽々子様、起きてください。朝ですよ」
私は再度幽々子様に声を掛ける。
「ん~………妖夢ぅ?……朝ご飯まだ~?」
漸く起きた………
と思うのは素人だ。
凄まじく紛らわしいのだが、これは寝言だったりする。
本当に食に関しては貪欲と言うか強欲と言うか………
「幽々子様!起きてください!!朝ですよ!!」
流石に私の語彙も強くなる。
「ん~………妖夢ぅ……?」
「はい、私です」
「ん~……………ご飯、おかわり~」
「幽々子様!!」
私は幽々子様の布団をバサッ!とめくり上げる。
毎回毎回、最初からこうしたいと思う。
けど、最初から主に対してそこまで手荒な真似は出来ない。
願わくば、強硬手段に出る前に起きてください、幽々子様………
「う~……何するのよ~妖夢ぅ………」
「朝です、起きてください」
「まだ眠いわ~」
「ダメです」
「妖夢のケチぃ………」
何がケチなんですか。
「解りました。では、朝ご飯は私の方で全て片付けて置きますので」
後で文句言っても知りませんからね。
………………あれ?
おかしいな……これなら絶対、幽々子様を釣れると思ったんだけど………
考えが甘かったかな?
私はそう思って振り返った。
しかし、そこに幽々子様の姿は無かった。
「あ、あれ?」
ど、何処へ行かれたのだ?
と思っていると、遠くから何やら音が聞こえてきた。
チン…チン…チン…チン……………
この音は、そしてこの方角は…………
私は急いでこの音がする方へと向かった。
そう………食卓へ。
「ごっはん♪ごっはん♪わったしのわったしのあっさごはん♪妖夢、早く準備して頂戴♪」
さっきまで、確かに私の背後でくすぶっていた幽々子様が、茶碗をお箸でチンチン鳴らしながら歌う様に言われた。
しかも、寝巻きだった筈なのに、しっかりと着替えられていた。
幽々子様……貴女は十六夜咲夜のように時間を操れるとでも言うのですか?
それとも縮地でも使えるんですか?
っと、それよりも………
「幽々子様。お箸でお茶碗を鳴らすのはお行儀が悪いのでお止めください」
西行寺家のお嬢様ともあろうお方が………
「ごっはん♪ごっはん♪おっいしいおっいしいあっさごはん♪」
聞いてないし………
どうせ今この場で言い合っても時間の無駄になるし、まずは朝食を作ってしまおう。
お説教は食事の時にでもしよう。
どうせ右から左なんでしょうけど………
はぁ……………
午前8時
朝食を済ませ、私は食器洗いをしている。
食事中、案の定、幽々子様は話を聞いて下さらなかった。
のらりくらりとかわされ、最後は何故か私の方が言いくるめられてしまう。
紫様といい、幽々子様といい………どうしてその素晴らしい頭脳をもっとよい事に使ってくれないのですか?
あぁ………藍さんも同じような苦労を、きっと背負ってるんだろうなぁ………
しかも私よりも長い期間………か。
私もこの程度でへこたれる訳にはいかない。
もっと、幽々子様を言いくるめられるくらいに精進しないと!
…………何年、いや何十年後になるかは解らないけど………
っと、気が付いたら食器を洗い終わっていた。
次は洗濯をしないと………
午前10時
洗濯物も干し終わり、今は庭の掃除をしている。
元々私は庭師だから、これが本業と言えばそうかもしれない。
因みに、幽々子様は縁側でお茶を飲みながらのんびりなされている。
何か考えているかもしれないし、何も考えていないかもしれない。
お祖父様……いや、師匠なら解っていたのだろうか?
ダメだな……こんな事を考えている事自体が未熟の証だ。
もっと自分で考えて答えを出さないと。
ただし、藍さんが言ったように、焦らず、ゆっくりと。
ん!?
不意に突然の気配を感じて振り返る。
ただし、それはとても良く知ってる気配だったから、危険は感じなかったけど。
「あら?良く気付いたわね、妖夢」
やはり紫様だった。
「いらっしゃい、紫」
「ええ、お邪魔するわ。幽々子」
この方は、いつも隙間を開いて唐突に現れる。
別に、少し離れた場所に現れて歩いて姿を見せてくれても良いのに………
「それにしても、妖夢。よく私が来た事に気付いたわね」
言われてみれば………
「いえ、何となく、だったんですが……背後に気配を感じたので」
「へ~……紫の気配を感じ取れるなんて、少しは妖忌に近づいたのかしらぁ?」
そうなのかな?
でも、幽々子様が言って下さるならそうなのかも知れない。
なんだか、少し嬉しい。
「あら?その位で妖忌に少しとは言え近づいたなんて、それは妖忌に失礼よ?」
うぐ……流石に紫様ははっきり仰られる………
「それよりも紫様、本日はどの様な御用向きで?」
「あら?親友の所に遊びに来ただけよ」
「そうでしたか。今、お茶と茶菓子をお持ちいたします」
「あ、妖夢~私のもお願いね~」
「心得ております」
私は掃除を中断して、お茶と茶菓子を探しに行った。
お茶は簡単に見つかった。
が、茶菓子が見当たらない………
おかしいな……昨晩確認した時は確かにあったのに………
はぁ……またか………
しょうがない、非常用の茶菓子を出しに行こう。
非常用とは、急な来客の時に茶菓子がない時に出せるようにする為の保険のような物だ。
買出しに行って買って来た物は、まずはこの非常用に保管し、先に入っていた物を順次通常用として出していく。
でないと、腐ってしまうから………
さて、お茶と茶菓子も用意できたし、幽々子様達の所に行かないと。
「お待たせいたしました」
「妖夢おっそ~い」
開口一番、幽々子様が文句を言われる。
しかし……
「すみません。なにぶん、通常用の茶菓子が切れてましたもので………昨晩はありましたのに」
私はそう言いつつ、ジト目で幽々子様を見る。
この屋敷で物を食べる者は私と幽々子様のみ。
当然、私は食べてない。
なら、答えは解りきっている。
「へぇ……おかしな事もあるのねぇ………お菓子だけに♪」
幽々子様、寒いですよ。
「私が食べてない以上、どなたが食べたかなど明白なのですが?」
私はお茶を注ぎながら幽々子様に言う。
「証拠も無いのに決め付けるのは良くないわぁ、妖夢~」
「そうね、幽々子が食べたと言う証拠でもあるのかしら?妖夢」
ぐ……紫様が幽々子様側に付いた………
このお二人相手に論戦で勝てるものなど、永遠亭のお姫様と従者コンビくらいではなかろうか?
当然、私が勝てる訳は無い………
が、一応、反論はする。
「証拠はありません。が、消去法で行けば幽々子様だけです」
「あら?侵入者という事も考えられるわ?」
「紫様。いくら私でも、白玉楼の館内にまで入られれば気付きますよ」
そこまで未熟じゃありません。
「私でも?」
「………紫様が食べられたのですか?」
確かに、その線もあった。
「まさか。幽々子のお菓子を勝手に食べたら幽々子に何されるか解ったもんじゃないわ」
ですよねぇ………
食い物の恨みは恐ろしい。
この言葉を幽々子様が行うと、本当に恐ろしい。
博麗の巫女なんて比べ物にならないくらい………
「でも、その言い方だと、やはり幽々子様が犯人と言っているのでは?」
でなければ、今頃幽々子様は…………止めよう、考えると震えてきてしまう。
「もう処刑済み……という考えは無いのかしら~?妖夢」
処刑済みですか………
確か、前に処刑された妖怪の成れの果ては…………
止めよう、思い出すと寒気がする………
「まぁ、どんな理由にせよ、お菓子が切れてるのは事実みたいだから、今日の内に買ってきておいてね~妖夢」
「あ、はい。解りました」
言われなくてもそのつもりだったから、別段問題は無い。
さて、お茶と茶菓子も出した事だし、掃除を再開しないと。
「あ、それで幽々子、この間の事なんだけど………」
「あ、それがそうなの?へぇ………」
何やらお二人が話をしているようだが、主の友人との会話に聞き耳を立てるのは無礼極まりない。
私は気にせず掃除を再開した。
それから五分ほど経っただろうか?
「ねぇ、妖夢」
突如紫様が声を掛けられた。
「何でしょう?」
「今日はメイド服じゃないの?」
私は幽々子様の命により3日に一度はメイド服を着る事になっている。
まぁ、そのあたりの話は長いので省くが………
しかし、その事を紫様が知っているのは別段不思議でも何でもない。
良く幽々子様の所に遊びに来ているゆかり様だ。
幽々子様から聞いていても不思議じゃない。
「今日はその日じゃありませんので」
「そうなの?残念だわ」
正直、あの姿は人に見られたくない………
ましてや、紫様に見られようものなら何を言われるか……否、何をされるか………
「ところで妖夢」
「はい?」
再び紫様が声を掛けられた。
「足元注意よ?」
「へ?」
午後0時・白玉楼
うぅぅ…………酷い目にあった
まさか、あんな目に遭うとは………
これだから紫様は…………
とは言え、紫様は幽々子様のご親友で、大切な客人である事に代わりは無い。
時間もお昼になったので、紫様の分も用意して昼食を居間へと持っていった。
「あら~良い匂いねぇ………」
が、そこに居られたのは幽々子様一人だった。
「あれ?紫様は?」
「紫ならお昼だから帰ったわよ~」
う~ん……この前は帰るだろうと思って用意しなかったら私の分を食べてしまわれた。
で、今日は今日とで用意したら帰られてしまわれた。
相変わらず掴めない方だなぁ…………
藍さんの苦労を察してしまう。
まぁ、幸いにしてこの昼食が無駄になる事は無いけど。
「それじゃあ紫の分は私が貰うわねぇ」
「ええ、お願いいたします」
私では正直二人前は食べれない。
「んぐんぐ……妖夢、お昼食べたらお買い物お願いね~」
さしもの幽々子様も、口に物が入ったまま喋ると言うお行儀の悪い真似はしない。
仮に喋らざるを得ない状況でもしっかりと口を隠されてから喋る。
その辺りを守っていただけるのは不幸中の幸いだ。
流石に、そこまでお行儀が悪いと泣けてきてしまう。
「何を買ってまいりましょうか?」
まぁ、お茶菓子は当然として。
「貴女に任せるわぁ」
う~ん……これまた何時もどおりの返答。
まぁ、無理難題を課せられるよりは良いけど。
「ああ、後、一つだけ」
何だろう?
「急いで帰ってこなくても良いわ。偶にはゆっくりしてらっしゃいな」
「はぁ…しかし………」
ゆっくりと言われても………
「じゃあ、命令。ゆっくりしてきなさい」
「わ、解りました………」
幽々子様なりに私の事を気遣ってくれてるのだろう。
だが、生憎と、私は外にゆっくり出来る場所に思い辺りが無い。
う~ん………まぁ、折角だからそこら辺をぶらぶらしようかな?
何か目新しい発見でもあるかもしれないし。
無いかもしれないけど。
「まぁ、それは兎も角、ご馳走様~美味しかったわよぉ」
「お粗末さまです」
二人前を食べてるはずなのに、私より食べ終わるのが早い。
私が遅いのか、幽々子様が早いのか………多分、後者なんだろうなぁ…………
それはさて置き、私も早く食べ終えて買い物に行かないと。
午後1時・中有の道
どうせだから、出店とかが出てにぎやかだと言う中有の道へ来た。
噂どおり多くの出店が並んでいる。
ん~……良い匂いもしてくる。
お昼を食べ終わった後でなければ、ついつい買い食いをしてしまうかもしれない。
今度幽々子様と…………来るのは止めておこう。
財布の紐が緩むどころの話ではない。
財布から札束が某鴉天狗の如く飛んでいくであろう。
大体、この出店は地獄の財政難の為の苦肉の策であるとも聞いている。
そりゃ、冥界と地獄が繋がりが無いわけではないけど、だからと言って湯水の如く財政寄付をする義理も無い。
いや、まぁ………幽々子様の幽霊の管理の杜撰(ずさん)さから見れば、少し位したほうが良いのかも知れないけど………
前にも閻魔様に言われたしなぁ………
あ、閻魔様と言えば、前に部下の死神の事で愚痴ってたなぁ………
三途の川はこの先だし、ちょっと見に行ってみようかな。
三途の川
う~ん……中有の道と違って凄く静かだ。
音と言う物が世界から奪われたかのようだ。
まぁ、生きてる者がここに来る事自体稀だし、ここに来る幽霊も魂だから喋る事も出来ない。
静かなのも道理か。
さて、その死神の人は……っと………
何度か見たから、流石に覚えている。
女性にしては背が高めで、胸も大きかったなぁ…………羨ましい。
ん~っと………あ、居た。
って、思いっきり寝てる…………
うわぁ…私が近くに寄ってもまったく起きる気配なし。
私に敵意が無いからかな?
しかし、堂々と寝てるなぁ……仕事中の筈だけど………
こう言うのを大物と言うのだろうか?
ちょっと話してみたかったんだけどなぁ……
「しかし、まぁ……これなら閻魔様も苦労するわけだ」
うん、納得。
と、私が感想を口に出した瞬間。
「ね、寝てません!寝てませんよ!?四季様!!」
いきなり飛び起きた。
流石に私も驚いた。
「……あ、あれ?…おっかしぃなぁ………今、何か四季様の事を呼ぶ声が聞こえた気が………」
「おはようございます、死神さん」
「ん?あれ?あんたは冥界のところのお嬢ちゃんじゃないか」
「魂魄妖夢、です。小野塚小町さん、でしたよね?」
確かそのはずだ。
「ああ、あたいは小町だよ。で、あんたはどうしてここに?」
「以前、閻魔様とお話した時に貴女の事が話しにあがったので、一回どんな方か見てみようと思いまして」
「あんたも暇だね~」
「ええ、暇なので来ました」
これは本当の事だし。
「しかし、まぁ……四季様があたいの話を………ねぇ」
視線をそらして頬をポリポリと掻いている。
「お察しの通り、良い話ではありません」
「う……いや、まぁ、ほら……あたいもね、ちゃんと仕事してるんだけどさ。四季様が偶々気を抜いてる時に来ると言うか………」
「一月に24回」
「へ?」
「最低一月に24回、貴女の不真面目場面を見ているそうです。ただ、閻魔様も自分の仕事の関係で注意しに行けない時があるだけと言っていましたよ」
「げ………」
「今もどこかで見てるかもしれませんねぇ」
「ちょ、ちょっと!怖い事言わないどくれよ………」
辺りをキョロキョロと見回しながら言う。
そう言う態度が既に後ろめたい事がある証拠だと思うんですが………
「いや、ほら、死神の仕事って言うのも疲れるんだよ」
「そうなんですか?」
そう言えば、詳しい状況までは知らない。
「そりゃそうさ。ほら、この三途の川。運ばれる者によって長さが代わるんだけどさ、長い時はあたいはずっと舟を漕ぎっ放しな訳」
それは大変そうだ。
「で、日に何人も来るだろう?さしものあたいも疲れちゃってね。少しは居眠りでもして休憩したくなるのさ」
う~ん………それはそうかも。
「それは確かに大変そうですね」
「そうそう。だから、少しくらい休んでも罰は当たらないのさ」
う~ん……本人気付いてないみたいだなぁ。
どうやらこの人は大物ではないようだ。
「じゃあ、貴女が居眠りしてしまうのは当然の事だと?」
「まぁね。言わば労働との等価交換と言う奴かい?何にせよ、働きすぎなのさ、あたい達死神は」
「成る程。と言う訳だそうですよ?閻魔様」
真後ろに閻魔様が素敵な笑顔で立っていたのに。
「え!?」
私の言葉に小町さんが驚いて振り向く。
そこへ
バシッ!!
「きゃん!!」
閻魔様の悔悟の棒が頭に炸裂した。
「こ~ま~ち~~~~~?」
「し、四季様!!!」
うわぁ……凄い笑顔。
笑顔なのに凄い迫力だ………幽々子様の処刑の時の顔を思い出す…………
強い人ってみんなこんな笑顔が出来るのかな?
「どうやら教育が足りていなかったようですね?」
「え?いやいやいや!!もう、全然!足りまくってますって!本当に!!」
「遠慮をする必要はありませんよ?丁度八雲紫から面白い技を伝授していただきましてね。それを試そうかと思ってたんですよ」
「わ、技?」
何の技だろう?
「いつもはこの棒で叩いてましたが、こう、突くのですよ」
「つ、突くって……その棒でですか!?」
刺さりますね、思いっきり。
「ええ、折角ですから、貴女に最初の一撃をお見舞いして差し上げましょう」
「ちょ……あ、あたい、死んじゃいますよ!?」
「安心なさい。死んだら私が貴女の事を裁いて差し上げましょう。それはもう、徹底的に」
そう言って閻魔様は小町さんの服の後ろ襟を掴んだ。
「いや、ちょっ!は、話せば解りますよ四季様!!」
「話して解らないからこうなっているのでしょう。覚悟を決めなさい」
「いや~!!離して~!!」
「我慢なさい、私も苦しいんですよ。主に胃が」
うわぁ……それは大変そうだ。
「あっと、魂魄妖夢。お見苦しい所をお見せしましたね」
「え、いえいえ。ご苦労様です」
「ええ、まったくです」
閻魔様は深く溜息を吐いた。
「今度、鈴仙さんに頼んで胃薬届けてもらうように頼んでおきましょうか?」
「はぁ……お願いしましょうかねぇ………」
閻魔様は口元に悔悟の棒を持ってきながらそう呟いた。
「では、私は部下の躾があるので」
「はい、頑張って下さい」
「それでは、御機嫌よう。朋友」
「ええ、またお会いしましょう、朋友」
「いや~!!刺されるのはいや~!!」
「黙りなさい小町。それとも………後ろの穴に差し込んで上げましょうか?」
「そ、それはもっといや~!!!」
閻魔様は小町さんを引き摺って去っていった。
そうそう、朋友(ポンヨウ)の事だが………
ついこの前、偶然発足した「苦労人同盟」
私達はお互いに敬意と親愛、そして同情の念をこめて「朋友」と呼び合う事にした。
提案したのは美鈴さんで、なんでも外の世界の言葉だそうだ。
露骨にお互いに「友よ」見たいに呼び合うのもアレなので、こういう風にしたのだ。
そして、それに対し、誰も反論することなくすんなり受け入れられたのは、やはり、皆お互いに同じ境遇だと感じていたからだろう。
午後3時・人の里
流石に三途の川からは距離があったのでちょっと時間が掛かってしまった。
とは言え、ゆっくりして帰ってくるなら、まだ買い物には早いかな?
う~ん……もう少し時間を潰せればよかったなぁ………
しかし、この場所に特に知り合いは………
「ん?妖夢か?」
あ、居た。
「こんにちわ、慧音さん」
彼女とは前までは顔見知り程度だったが、件の同盟を期に彼女とも朋友となった。
「ああ、こんにちわ。買い出しか?」
「ええ、そうなんですが……」
「どうした?」
「いえ、幽々子様にはゆっくりして来いって言われたので今買出しを済ませてしまうと……」
「なるほど、それでは用事が直ぐに済んでしまうな」
「そうなんですよ」
「なら、私の家に来るか?」
「え?良いんですか?」
「ああ、私も暇で出てきたくらいだからな」
「では、お言葉に甘えさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「勿論だ。さ、行こうか」
「はい」
慧音宅前
「ここが慧音さんの家ですか」
「ああ、汚いだろうかもしれんが、適当にくつろいでくれて構わんよ」
そうは言うが、慧音さんの事だ。
家の中はしっかり片付いてるに違いない。
「あ、丁度良い所に」
家に入ろうかとした所で声を掛けられた。
この声は……
「ああ、鈴仙。薬売りか?」
「ええ。あら?妖夢も居たの?」
「ええ、お久しぶりです」
「ええ、久しぶり。さて、上白沢さん。入用な薬はある?」
「そういえば、少し薬が少なくなってたな……確認もしたいし、鈴仙も家に上がっていかないか?」
「良いの?ちょっと歩き疲れてたから助かるわ」
「そうか。なら、二人とも上がると良い」
「お邪魔します」
「お邪魔するわね」
私と鈴仙さんは慧音さんの家へと上がった。
「散らかっててすまないが、適当に座っててくれ」
慧音さんはそう言うと居間から台所へと向かった。
「散らかってる?」
「何処が?」
はっきり言って全然散らかっていない。
そりゃ、居間の机の上に多少紙が乗っているけど、ちゃんとまとめて置かれている。
「これを散らかっていると言ったら師匠の部屋なんて修羅場よ?」
「そうですよねぇ……薬剤師の方の部屋なら色々置いてありそうですし」
「これを見て散らかってるって言う奴を見てみたいわ」
「まったくですね」
改めて辺りを見回すが、やはりちゃんと整理整頓がなされている。
住んでる人の性格が良く表れている家だ。
「待たせたな。粗茶で悪いが、菓子も用意した」
そう言って慧音さんはお茶と茶菓子を置いた。
「それじゃ、まずはお仕事済ませちゃいましょうか。入用な薬は何かしら?」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
慧音さんは近くの棚から薬箱を出した。
「ふ~ん………これとこれとこれ………それからこれって所かしら?」
鈴仙さんはその薬箱を覗いてから、自分の薬箱から薬を出した。
「ああ、そうだな。流石だな、少し見ただけで解るとは」
「一般家庭用の薬箱なら入ってる物は何処も似てるから見れば大体解るわ」
う~ん………私は解らない。
「じゃあ、これが御代だ」
「はい、毎度」
あ、そう言えば…薬を見てて思い出したことがあった。
「鈴仙さん、胃薬ってあります?」
「胃薬?何?妖夢、貴女ついにあのお姫様の我侭で胃に穴開いちゃったの?」
「開いてませんよ」
偶に開くんじゃないか?って思うけど………
「今日閻魔様に会ったんですが………」
私はさっきの事を簡単に話した。
「あ~………あの人も大変ねぇ………」
「普段の仕事だけでも大変だろうにな…………」
「解ったわ。今度持って行って見るわ」
「ええ、そうしてあげて下さい」
閻魔様が胃潰瘍で倒れました、なんて大問題だろうし………
絶対にあの鴉天狗の新聞に載せられる………
「でも、何だって貴女、三途の川になんて行ってたの?」
「え?あ~っと……その、今日は幽々子様にゆっくりして来いって命令されたもので………」
「ゆっくりして来いって言う命令も珍しいわね」
「まぁ、妖夢の場合生真面目だから、ゆっくりして来いって普通に言っても直ぐに帰ってくるからだろう」
「それもそうね」
う~ん……そんなに堅いかなぁ…私は。
「あら?妖夢」
今度は何だろう?
「貴女、今日はドロワーズじゃないの?」
「っ!?!?!?!?!?」
ハッとなって足を見る。
けど、別段スカートから足がはみ出してるとかじゃない。
「な、な、なな、なななん………」
動揺で上手く発音できない………
「だって、ドロワーズ履いてればもっとスカートの腿の辺りが膨れ上がるもの」
う……確かに………
「ふむ、妖夢もそろそろそう言うのに気を使うようになって来たのか」
うんうん、と年長者らしい対応を取る慧音さん。
「いや、そうじゃなくて、これは、その…………」
私は仕方なく、今日紫様にされた事を話した。
「はぁ………貴女、相変わらずおもちゃにされてるわね~」
「うぅぅぅぅ…………」
「偶には流したらどうだ?一々反応するから余計にされるんだぞ?いじめをする奴と同じだな」
「そりゃ普通のなら私だって流しますよ?でも、相手はあの幽々子様と紫様ですよ?」
普通の事をする訳がない。
「う…………」
「むぅ…………」
二人とも黙ってしまった。
流石に、あの二人の事はあまり会って無くても何となく解るのだろう。
「そう言えば、鈴仙さんも師匠に酷い事をされてるとか………」
そんな事を前に言っていたような気が………
「………まぁ、新薬の実験ね」
うわぁ………それは怖いな。
「だ、大丈夫なのか?」
「聞いてよ!前なんて酷いのよ!?胡蝶夢丸の改良型が出来たから飲んでくれって言われたのよ!!で、飲んだわけ。そしたら!!」
そ、そしたら?
私と慧音さんは息を飲んで次を待つ。
「ごめんなさい鈴仙。それ、脱毛薬だったわ」
「って言うのよ!?」
うわぁ……それは酷い………
「しかも下の方の!!」
更に酷い………
「で、増毛薬もあるから飲んで戻しておきなさいって言うから飲んだら………」
再び私達は息を飲む。
「あ、ごめんなさい鈴仙。それ、性転換薬だったわ」
「って!!」
「ちょっ!?それはまずいんじゃ!?」
「お前、まさか………」
「それでその後!!」
「ふふ……冗談よ」
「笑えないっての!!!」
うん、笑えない。
「お前も良いように遊ばれてるんだなぁ………」
「師匠は本当に何でも薬を作れるから……それらの薬を作れると考えると、とても流せないわよ………」
「そ、それは確かに………」
「怖いな、かなり」
「上白沢さんは何かそう言うの無いの?」
落ち着きを取り戻した鈴仙さんが尋ねる。
「私か?私はそう言うのは無いが………」
「「無いが?」」
私と鈴仙さんは同時に尋ねた。
「良く村の者に相談事を持ちかけられるな。他愛も無い物から重い話まで」
「お、重い話?」
「いや、その……恋愛ごとの相談事とかをされるのだが……正直困るんだ」
「「あ~」」
「何だ二人して、その「あ~」って言うのは」
ムッとした表情で慧音さんが言う。
「だって貴女、色恋沙汰すっごく疎そうだもの」
「ぐ………ひ、否定できん………だから、困るんだよ…………」
う~ん……私も解らない。
「はぁ………周りから言われてるように、そろそろ身を固めたほうが良いのかなぁ…………」
言われてるんですか。
「ま、好きにすれば良いんじゃない?周りに流されて適当に相手を選んだんじゃなければね」
「まったくだな。まぁ……まだ長く生きる身だ。焦らず行くか」
「そうしたら?ま、結婚は縁って言うしね。ポッと出てくるかもしれないわよ?」
「ははは、そうかもな」
「しかし、やっぱり皆苦労してるんですね………」
私だけじゃなかった……ちょっとホッとする。
「そうね。伊達に朋友じゃないわ」
「そうだな。朋友、まさにその言葉がしっくり来る。」
そんなこんなと、愚痴を交えつつ談話して過ごした。
午後4時30分・人の里
「よし、こんな物かな?」
慧音さんの家で一しきり話をした後、私は買い物へ、鈴仙さんは残ってる場所へと薬売りへ向かった。
そして、私は一通り買い物を終える事が出来た。
「後は帰るだけ、か」
十分ゆっくりしたし、そろそろ良いだろう。
「おや?妖夢」
あ、この声は…
「藍さん」
「妖夢も買い出しか」
「ええ」
見ると、藍さんも買い物袋を下げている。
「一しきり買い終えて、今から帰ろうかと言うところです。」
「そうか、私もだ」
「まぁ、また近い内に来るかもしれませんが………」
はぁ…と私は溜息を吐く。
だって、また幽々子様が摘み食いとかするかもしれないし………
「幽々子様の事か?」
「ええ……どうにかして摘み食いを防げないものかと………」
「むぅ……難しいな…あの方もなんだかんだと言ってかなり強力な力をお持ちの方……その能力を無駄な方向に使われると………」
ええ、その無駄な方向に使いまくりなんですよ、幽々子様は。
なんで摘み食いをするのに真剣に能力使うんですか……普段は全然真剣じゃないのに………
「そうだ。巫女に相談したらどうだ?」
「巫女?博麗の巫女ですか?」
まぁ、他に巫女なんて居ないけど。
「ああ、彼女の妖怪退治には幽霊亡霊も含まれているだろう。退治とは言わんが、何か有効な手を教えてくるかも知れんぞ」
「なるほど、それは確かに」
「賽銭と茶菓子でも持っていけば快く応じてくれるだろう」
「そんな現金な巫女もどうかと思いますがね」
「まぁな」
「茶菓子なら丁度買ってありますし、尋ねてみる事にします」
「ああ。私は帰る事にするよ」
「はい。ありがとうございました」
「礼を言われるほどの事じゃないさ」
そうして私と藍さんはそれぞれの道へと別れた。
それにしても、やはり藍さんは頼りになる。
午後5時・博麗神社麓
あれ?神社から降りてくる人影が……珍しいな、この神社に参拝客とは。
ん?あの顔はどこかで見た覚えが………
「あれ?貴女は藤原妹紅?」
「よう、みょんだったか?」
「妖夢です!魂魄妖夢!!」
まったく、何でみょんなんだ。
「で、一体どうしたんですか?貴女がこんな所に居るなんて珍しいですね」
普段は竹林からあまり出てこないと聞いてるのに。
あ、でも最近はそうでもなくなったって慧音さんが言ってたな。
「それを言うならお前もじゃないか?幽々子とならいざ知らず、一人で足繁く通ってるとは思えんが?」
そりゃまぁ、用も無くこんな所に来はしない。
「私はまぁ……ちょっと用事がありまして………」
「なるほどね。因みに私はただの気まぐれ」
特に用事を詮索されるような事は無かった。
単に無関心なのか、気が利く性格なのか………
「暇ですねぇ」
「そりゃ暇さ。私を誰だと思っている?」
ああ、そうか。
彼女はこう見えて1000年以上も生きている。
大抵の事はやりつくしている事だろう。
「それもそうでしたね」
そこで私は彼女が手から下げて居る物に気が付いた。
「しかし、貴女も買い物ですか?」
「ああ、お前もか」
「ええ………」
あれ?返答しただけなのに、何故か溜息が………
はぁ……なんか、溜息が癖になって来ている気がする………
すると、突然の突風。
溜息の事で思考を巡らせていた私は気付くのが遅れた。
ス、スカートがめくれ上がる!?
「きゃあっ!!」
あ、危なかった………危うく醜態を晒す羽目に………
「どうした?流石に思いっきりめくれそうになるなら解るが、あの程度の風で何でそんなに慌てるんだ?」
う……しまった………藤原妹紅が疑わしげな目で私を見ている………
今の行動は迂闊だったか……でも、醜態を晒す訳には………
「え?い、いえ………ほ、ほら、ドロワーズとは言え、やっぱり人様に見せてしまうのははしたないじゃないですか」
く、苦しいか?
「ふぅん………」
く……疑っている。
「まさか、履いてないのか?」
そ、そんな訳無いでしょうが!!
「し、失礼な!!ちゃんと履いてますよ!!ちゃんと………」
ぐ……しかし、本当の事は言えない………!!
「まぁいいか」
あ、あれ?
予想に反してあっさり引いてくれた。
紫様や幽々子様だと絶対に引いてくれないのに。
「え、ええ。気にするような事じゃありませんから」
まぁ、引いてくれるのは有難い事だ。
ここらで話を切っておこう。
「さて、私はそろそろ帰るから、これでな」
相手もそう言ってくれたので、私もここらで別れる事にする。
「ええ、失礼します」
ふぅ………
それにしても、突風には気を付けないと……買い物袋持ってるから、行動が遅れてしまうな。
博麗神社
神社の鳥居を潜り、境内へと入る。
すると、神社の縁側でお茶を飲んでる巫女と魔理沙を発見した。
この時間なら掃除などもあらかた終わり、ゆっくりしているといった所か。
巫女に近づいていくと、巫女も私に気が付いた。
「あら?今日は千客万来ね」
どうやら、私以外にも多くの者がこの神社を尋ねていたようだ。
「そうなんですか?」
「ええ、今日は珍しいのも含めて結構来たわよ」
「それは珍しいですね」
この神社は普段はあまり人妖含めて来ないのだが。
特定の人物を除いては。
「まぁ、お前もその珍しい顔なんだろうが」
その特定の人物、魔理沙が私に言う。
「そうですね。私も用が無ければ来ないでしょうから」
「と言う事は、用があると言う事よね?何かしら?」
「偶に来てるのにタダで頼むのもなんなので、まずはこれを」
そう言って、私は茶菓子を巫女に差し出した。
会話の途中で駆け引きのように使っても良かったが、何か巫女を侮辱してるような気がするので止めた。
「わお、ドラ焼き!?」
「ああ、ついでに後でお賽銭も入れますよ」
「で、用事って何?この霊夢さんに任せなさい!」
急に積極的になった。
本当に現金だなぁ………
ま、いいか。
「ええ、幽々子様の事でちょっと………」
「何だ?みょん。ついに下克上を起こすのか?」
「そんな事するか!それからみょんって言うな!!」
まったく、何で幽々子様に反旗を翻さなきゃいけないんだ!!
それから、みょんって言うな……最初に私が「みょん」と言ったのが始まりとは言え………
代名詞にされるのは困る。
「幽々子様の摘み食いの事です」
「あ~……やっぱやってるのか」
魔理沙が納得したようにうんうん、と首を縦に振る。
「何度ダメだと言っても聞かなくて……それで、幽霊や亡霊に詳しい貴女に相談に来たと言うわけです」
「それは勿論、成仏させたりするのはダメよね?」
「当たり前です」
なんて事言うんですか。
「ん~………なら、良いのがあるわ」
そう言って巫女は神社の中へと入っていった。
そして直ぐに戻ってきた。
「はい、これ」
手渡されたのは一枚のお札。
そこに書かれていたのは
「悪霊退散」
「幽々子様は悪霊じゃない!!!」
なんて失礼な!!
「そう?悪食の亡霊って意味なら「悪霊」じゃない?」
あぐ!?
は、反論できない………
「ああ、そう言う意味なら間違いなく悪霊だな」
く、魔理沙まで………
「何にせよ、私も力を込めてる奴だから結構効く筈よ?」
う~ん……この巫女、普段はグータラしてるけど、力は本物だしなぁ………
一応、使ってみようかな。
「ありがとうございます。取り敢えず、使ってみます」
「こんなの大した事じゃないわ。ああ、ついでだから貴女もお茶飲んで言ったら?その荷物持って歩いてたら疲れてるでしょ?」
「そうですね……まだ歩きますし、少し休憩させて頂きましょうか」
「じゃあ、お茶持ってくるからちょっと待ってて」
そう言って再び巫女は神社の奥へと入っていった。
私は荷物を置くと魔理沙の隣へ腰掛けた。
「相変わらず物に弱いな、霊夢は」
「ええ、びっくりですよ」
まさか、あそこまで態度を変えるとは。
「あれ?魔理沙。その手に持ってる本は魔道書ですか?」
私は魔理沙が持っている本を見つけて尋ねた。
「ん?ああ、パチュリーから借りてきた奴だ」
借りてきた………ねぇ。
向こうは絶対そうは思ってないでしょうね。
「お前も読んでみるか?」
「私には魔道の知識はありませんから読めませんよ」
魔道書を見るには魔道に関する知識の他に、力そのものも要る場合もある。
力が未熟の場合、その本の「カギ」を見つけられず、読む事が出来ないと聞いたことがある。
「いや、これは誰にでも読める魔道書みたいだ」
誰にでも読める魔道書?
確かに、あの図書館には一般の者でも読める本があるとは聞いている。
が、一般の者でも読める魔道書があるとは聞いた事が無い。
と言うか、魔道書はそれを媒体に魔法を使う事も出来たりする物だ。
それが誰にでも読めるのは相当問題ではなかろうか?
画期的ではあるかもしれないが。
「ほら、これだ」
そう言って魔理沙が私に見せた魔道書の題名は
「できる!属性魔法!!」
そんな馬鹿な………
そんな間単にそんな事が出来てたまるものか………
「まぁ、読んでみろって」
「貴女は読んだんですか?」
「いや、まだだぜ?その前に、本当に一般人でも読めるのか知りたかったしな」
「巫女は?」
「興味ないわ。で、片付けられたぜ」
「彼女らしいですね」
まぁ、騙されたと思って読んでみましょうか。
「あら?何見てるの?」
読み始めて直ぐに巫女がお茶を持って戻ってきた。
「魔理沙が「借りて」来た本を読ませて貰ってるんです」
「ああ、あれね。胡散臭いから見てないわ」
あ、本当の理由はそっちですか。
「好奇心は成長に必要な要素だぜ?」
「過ぎれば時にそれで身を滅ぼすわよ?」
「危険も無しに良い結果は手に入らないぜ」
まぁ、魔理沙が言ってる事も尤もだ。
私は取り敢えず、お茶を貰いながらパラパラと本をめくる。
ふ…む……驚いた。
基礎的な事から親切に教えてくれている。
古い時代に外の人間が書いた幼稚な思考の満載された物かと思ったが、これは違う。
基礎的な原理なら魔法使いの対応とした習った事はある。
それらを基に説明がちゃんとなされている。
これを読めば本当に使える様になる………かも。
「お、結構真剣に読んでるな」
「え、あ、意外にもまともな内容で、原理なども解り易く書いてあるので」
「へぇ、私もあんまり信じてなかったんだが、本物だったか」
私は続きを飛ばし飛ばし、ペラペラと読む。
途中には属性魔法の使い方なども色々載っているようだ。
「う~ん………本当にこれで使えるように?」
なるとしたら……ちょっと覚えてみたいかも。
戦略の幅が広がるし。
「ん?」
ページを最後まで読み終え、あとがきに入っていた。
「え~っと……なになに?」
あとがき
この本の手順通りにやれば誰でも簡単に属性魔法を使えるようになります。
まったく魔道の知識の無かった貴方でも。
属性魔法に手を付けていなかった貴方でも。
ただし、魔法は尻から出る。
著 パチュリー・ノーレッジ
「ふざけるな!!!」
私は思わず本を思いっきり投げ飛ばした
「わっ!?な、何するんだ!!」
魔理沙が慌てて拾いに行く。
「一番最後のあとがきを良く見ろ!!!」
「あとがき?」
魔理沙もあとがきを読む。
「………パチュリーめ」
「明らかに貴女用に仕向けた本に思えますが?」
「危なかったぜ……まさか、借りてきた本自体がトラップとはな………」
「そのトラップに私が嵌りそうになったんですがね」
尻から魔法が出るなんて………冗談じゃない。
「っと、そろそろ日も暮れ始めてるのでそろそろ帰りますね」
「あらそう?気を付けて帰りなさいね」
「心配無用ですね」
「まぁ、そうでしょうけど」
一応形式として巫女は言ってくれたのだろう。
私は帰る前に約束どおり賽銭を入れると、博麗神社を後にした。
午後6時・帰り道
さて、好い加減日も暮れ始めているし、そろそろ帰らないと。
と、思っていると、頭上から羽音が。
夜雀かな?
いや、彼女は私が幽々子様の従者だと知ってるから近づいてこないだろう。
私と一対一であっても力の差は圧倒的だし。
となると………
「こんにちわ~。そろそろこんばんわですかね?」
新聞記者の鴉天狗、射命丸文さんか。
「ええ、こんばんわ。どうかされましたか?」
彼女は意味も無く敵対するような者ではないので、あまり警戒する気は無い。
「いえ、今日一日色んな人に面白いネタは無いかと聞いて回ってまして」
「そうですか。ありませんよ」
私はスッパリと切り捨てた。
「うわ、そんないきなり切り捨てないで下さいよ」
「いや、そう言われても無いものは無いとしか言えませんし………」
身内でならありそうだけど、正直新聞に取り上げられたくなんか無い。
と、その時
ビュオゥ!!
突風が吹いた。
思案を巡らせていた上に荷物も持っているので捲れ上がるスカートを抑えられなかった………
パシャパシャパシャパシャ!!!
い、今の音は………
「おお!こんな所に思わぬネタが!!」
と、撮られた……思いっきり………
く……!!あの時紫様があんな事をしなければ………!!!
時間は戻って、午前10時・白玉楼
「足元注意よ?」
「へ?」
何の事かと足元を見ようとした瞬間
「ふわぁ!?」
じ、地面が消えた!?
いや、地面はある!
現に私は地面にしがみついている!
……………しがみついている?
地面に?
「こ……これは………!!」
自分の状況を把握して直ぐに察した。
「だから言ったのに♪」
言ったのに♪じゃありませんよ!!
いきなり足元に隙間開けられて避けられる訳無いじゃないですか!!
因みに今の私は地面から上半身だけを生やして、地面にしがみついている状態だ。
第三者が見れば、さぞ不気味かつ不恰好であろう。
「まったく……なんだってこんな事を………!!」
私は直ぐに隙間から這い上がろうとした。
が
ガシッ!!
「いっ!?」
足を何かに掴まれた!
何に!?
し、しかも凄い力だ………いくら私が軽量とは言え……か、体が持ち上げられない!!
「あらあら、ダメよ妖夢。大人しくしてなきゃ」
見ると紫様が自分の前にも隙間を開けて、そこに片手を突っ込んでいた。
「何するんですか!紫様!!」
なんだってこんな事を!!
し、しかし……紫様はここまで力が強かったのか!?
片手で、まるで風船でも持っているかのような感じで私の体を這い上がらせずにいる。
確かに、妖怪は力、腕力も強いとは知っていたが………紫様がここまで怪力とは!!!
「ん~………ダメねぇ、妖夢。こんなもの履いてちゃ」
な、何を開いた隙間から人のスカートの中を覗いてるんですか!!!
「まずは……っと」
ん?力が抜けた?
見ると紫様が手を離していた。
今の内だ!!
「えいっ!」
だが、時既に遅かった。
紫様は素早く再び隙間の中に、今度は両腕を突っ込んだ。
そして
「…………!?!?!?ひああぁぁぁぁ!!!」
ド、ドロワーズをずり下げ、いや、脱がされた!?
「幽々子、頂戴」
「はい、これね」
そして、素早く幽々子様から何かを受け取ると、今度は
「せいっ♪」
「ひゃぅん!!」
な、何かヒヤッとした物がドロワーズの代わりに履かされた。
「はい、お着替え完了よ」
漸く引っ張られる力から解放され、何とか隙間から這い出る。
「はぁ…はぁ…はぁ………な、何をするんですか!!紫様!!!」
私は羞恥と怒り、両方で真っ赤になった顔で怒鳴った。
「何って、見てみれば解るわよ」
一体何を………
私は紫様と幽々子様に背を向けてから、スカートをたくし上げて履かされた物を確認する。
こ、これは………!!!
時間と場所は戻る。
「いや~、あの堅物なイメージある妖夢さんがこんなヒラヒラフリフリの可愛らしい下着を付けられていたとは」
紫様に無理矢理付けられたんですよ!!
「これは良いネタですね。「魂魄妖夢、お堅い表面に隠された真実!?」いや、これだと地味かな?「魂魄妖夢、実はお洒落さん!?」。うん、これが良いかも知れませんね」
文さんはしきりにメモを書きながら独り言を呟いている。
お陰で私に気付いていない。
「いや~、ネタのご提供ありがとうございます!って、あれ?」
文さんは顔を上げるが、そこに私は居ない。
あるのは私が買った荷物だけ。
そして次の瞬間。
ピタッ………
「………………」
文さんの表情は見えないが、恐らく冷や汗でも掻いているだろう。
「この白楼剣と楼観剣に斬れない物などあんまりない………貴女が斬れない物に分類されるかどうか、試されますか?」
私は背後から二振りの刀の刃を文さんの首筋に当てている。
「は、話し合いましょう。話せば解ります」
「話し合うことはありません。あるとすれば、貴女が一つの行動を起こす。ただそれだけです」
「も、もしその行動を間違えたら?」
「この白楼剣と楼観剣を持ってしても貴女の首が削げ落ちない事を願うだけですね」
まぁ………ほぼ間違いなく落ちるでしょうが。
「わ、解りました!今のネガは捨てますから!!」
そう言って文さんはカメラからネガなる物を取り出し、そしてビーッ!と引っ張った。
「ネガはこうして強い光に当てると使い物にならなくなるんですよ!!嘘だと思ったら八雲紫さんにでも聞いてみてください!!」
この様子から察するに本当のようだ。
仮に嘘だったら、全力で斬りに行こう。
私は刀を文さんから離した。
「………はぁ……」
文さんはホッと溜息をついた。
「まったく……人の醜態は晒すなんて事はまったく褒められませんよ?」
私は刀を納めつつ言う。
「まぁ、そうですよねぇ………ただ、ちょっと最近ネタに困ってまして」
「困ってるからって人を晒さないで下さい」
「あぅ……反省してます………」
まぁ、この人は言えば解る人だから大丈夫か。
「さて、それでは私は帰らせて頂きますよ」
「はい。あ、でも何かネタ掴んだら教えてくださいね!」
「ええまぁ…掴みましたら、ですけど………」
「約束ですよ!?それでは!!」
そう言って文さんは飛び去っていった。
転んでもタダでは起きないとはこの事か………
さて、私も好い加減帰ろう。
午後11時・白玉楼
私は幽々子様が寝静まられたのを確認してから白玉楼の廊下を歩く。
はぁ……それにしても、今日は色んな事があったなぁ………
流石に少し疲れた。
ん?
見上げてみれば、今日は綺麗な三日月だ。
見回りを終えたら、寝る前に少しだけ月見酒でもしようかな。
毎日毎日幽々子様に振り回されてる気がするけど………
お陰で私には退屈と言う言葉は無い。
案外、幽々子様はその辺りも気遣ってくれてるのかもしれない。
………単にご自身の暇潰しかも知れないけど。
魔理沙が下克上とか言ってたけど、私にはそんなつもりは微塵も無い。
お役目とか家柄とかそんな事じゃない。
私は幽々子様が好きだからだ。
どんなに私で遊ぼうと、最終的には私を労わってくれる幽々子様が好きだから。
だから、明日からもがんばらないと!!
妖夢Side・END
後日
妖夢の張った悪霊退散の札の事で幽々子に大層怒られた。
「妖夢~?これはどういう事かしらぁ?」
「いや、だって幽々子様は摘み食いが過ぎるので………」
「それにしても悪霊は無いわよねぇ?妖夢ぅ」
「と言うか、それ効かなかったんですか!?」
「いえ、効いたわよ~」
「あ、効いちゃったんですか」
やはり「悪霊」に分類されるのだろうか?
「紫に剥がして貰ったから♪」
「ついで能力も無効化しておいたわ♪」
どこからとも無く紫が現れて言う。
「ゆ、紫様!?なんでそんな事を………」
これで摘み食いが減ると思ったのに……そう思っていた妖夢だった。
「何でって、親友が困ってるんだもの。助けないとダメじゃない?」
「流石紫よねぇ~。それに引き換え、主を悪霊呼ばわりするなんて………お仕置きが必要ねぇ?妖夢~?」
「いや、でも、幽々子様の摘み食い………」
「黙りなさい、妖夢。主を悪霊呼ばわりした罪は重いわよ」
「じゃあ、こんなのどうかしら?」
紫は指をパチンッ!と鳴らすと、部屋に大量の服が落ちてきた。
全部可愛い系の物だ。
「そうね~。じゃあ、まずはこれからいってみましょうかしらぁ?」
「え?ちょっ………」
妖夢は逃げようとする。
が、しかし
ガシッ!!
「いっ!?」
「あらあら?ダメよ妖夢。お仕置きはちゃんと受けないと………後がもっと怖いわよ?」
妖夢を捉えながら、そんな事を素敵な笑顔で言う紫。
「さぁ、妖夢。覚悟は良いかしらぁ?」
「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
妖夢の悲鳴を聞きながら、隙間の影で泣いてる藍が居たとか居なかったとか。
-了-
パチュリー・ノーレッジ恐るべし・・・
>あの方もなんだかんだと言ってかなり強力な力を持ちお方……
『強力な力をお持ちのお方……』ですかね?
>一人で足繁く通ってるとは思えんが?」そりゃまぁ、
改行忘れ?
>成仏させたりするのがダメよね?」
『するのはダメ』でしょうか?
>し、しかい……紫様はここまで力が強かったのか!?
『しかし』ですよね?
すいません。なんだか目ざとくて。
それにしても前回の作品から気になってた妖夢のリアクションの謎が
こんなだったとは……妖夢が可哀そ…じゃなくて可愛そう(笑)
>一人で足繁く通ってるとは思えんが?」そりゃまぁ、
>成仏させたりするのがダメよね?」
>し、しかい……紫様はここまで力が強かったのか!?
誤字脱字及び改行ミス修正いたしました。
ご指摘ありがとうございました。
やるな、パチェリー。
恥らう妖夢にニヤニヤしたのは俺だけじゃないはず!
妖夢が出かけてる間、幽々子が何をしてたのかも気になるところです。
次回作も期待してます!
高い評価をしていただき、ありがとうございます^^
>尻から魔法~
元ネタが解ってくれる方が結構居たようでホッとしてます^^
某動画のコメントみててふと思いついたネタだったりします^^;
>妖忌が~
そうですね~妖忌が居たら大変な事になってたでしょうねw
自分の中では妖忌はジジ馬鹿と言うイメージがあるので・・・・・・
今度そのあたりも書いてみたいですね~
キャラの味が出ていて、とても面白かったです。
それにしても何というグルグルw笑わせてもらいました。