Coolier - 新生・東方創想話

妹紅のとある一日

2007/10/07 16:49:19
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午前7時

「ん……んん~………」
目を覚まして体を伸ばす。
さて、布団から出て外でも見てみようか。

ガラッ………

ん~……今日も良い天気だ。
さて、まずは顔でも洗ってこようかね。


目が覚めたところで腹が減ってきたな……何かあったかな………っと。
ん~……まぁ、軽い朝食くらいは作れるね。
少し食料も減ってきたし、今日はちょいと里にでも顔を出そうかね。
さ、まずは朝食を食って腹を満たすとしようか。



午前8時

朝食も済んで洗い物も終了。
次は洗濯かな?
今日は天気も良いし、里に行ってる間に乾かしておくのが無難だな。
さて、それじゃあ、ちょいと溜まりつつあった洗濯物を片してしまうかな。
ついでに、終わったら掃除もするか。
前、慧音を家に入れたら色々言われたしな………



午前10時

良し、掃除洗濯終了。
この天気なら洗濯物も良い感じに乾くだろう。
さてと……昼間ではまだ時間があるな………何かしようかしら?
ん?何か上から近づいてくるな………
あれは確か………
「おはようございま~す。文々。新聞で~す」
「なんだ、鴉か」
「鴉じゃありません。鴉天狗です」
これはまた騒がしいのが来たな………
「で?一体何の用?悪いけど、ここにはあんたが好きそうなネタは無いよ。それともまた山火事の事を蒸し返す積もりかね?」
「いや~……流石に焼き鳥にはされたくありませんから」
賢明だな。
「今回は、最近人間の手助けをするようになった貴女の事を取材に来たんですよ」
「私を?」
「ええ。貴女は人間の手助けをしたりしますが、実際、人間は貴女の事についてあまり知らないとの事ですから、今日の所はそこを少し聞いてみたいと思いまして………ああ、勿論、あまり突っ込んだ事まで聞くつもりはありませんよ?」
突っ込んだ事を聞かれても話すつもりは無いけどね。
けど、まぁ、確かに私は人間を手助けしたりはするが、その際に相手の話を聞く事はあってもこちらの事を話した事は無い。
話すような事でもないし、恐らく聞いても相手にとって楽しくないだろうしね。
「必要以上に突っ込んだ事じゃなきゃ構わないけどね。で、何でまたそんな事を思いついたのさ?」
「いや~、新聞みたいに情報の掲載されている物を必要とするのって、大概人間なんですよ」
まぁ、確かに妖怪の大半はそう言うのに興味が無さそうだな。
「それで、その人間が知りたい情報と言うのを集めて載せれば興味を持たれるんじゃないかと」
「それが何で私の所に来るのさ」
「慧音さんに次いで、何かと手助けをしてくれる貴女の事を知りたがっている人間は多いんですよ」
そりゃ初耳だ。
「でも、貴女は自身の事は語らないし、聞こうにも普通の人間には話しかけ辛い雰囲気なんでしょうね、貴女は」
「そうかね?まぁ、話しやすい人間ではないとは思っているが」
「と、言う訳で……話を伺っても宜しいでしょうか?」
「話せる範囲内でなら、ね」
「では………普段は何をしてるんですか?」
「ん~……特に何も。腹が減ったら飯を食って、眠くなったら寝る」
「では、ご飯と睡眠以外では?」
「天気が良いときは辺りを散歩したり、食料が無ければ里に買出し。後は、依頼があれば永遠亭まで護衛とかしてるね」
「護衛と言えば、貴女と永遠亭の方は仲が悪いと思いましたが?」
「ああ、はっきり言って悪いよ。けど、体が悪いから永琳に診て貰いたいと言う奴を見て見ぬ振りするのも気分が悪いだろう?あいつは腕は確かだしな」
「そうですね。彼女のお陰で病に苦しむ人が減ったと聞いてますからね」
「けど、この竹林は非常に迷いやすく、妖怪まで居る。普通の人間じゃほぼ間違いなく永遠亭に着く前に死ぬね」
「でしょうね」
「だから、護衛をする。里の人間の為であるから、この時ばかりは永遠亭との関係はなかった事にしている。お互いにね」
じゃないと護衛してる人間が私達の戦闘に巻き込まれて死んじゃうからね。
「ふむ……しかし、何故急に里の人間に肩入れするようになったのですか?」
「別段肩入れしてるって程じゃあないが、まぁ、暇だしね」
後は、あいつに影響されたかな?
「なるほど。ん~……しかし、これだけではまだ面白みにかけますね………おや?」
ん?鴉天狗の奴、何か見つけたのか?
私は鴉天狗の視線を追う。
するとそこには………
「これは……妹紅さんの洗濯物…下着ですね?ははぁ……なるほど、こう言うのを着けてらしたんですか」
待て、コラ。
何を書き記してるんだ、この鴉は。
「ふむふむ………これなら行けそうですね」
何がだ。
「おい、鴉」
「む?ですから、私は鴉天狗であって鴉でな……い……と……………」
振り向いた鴉天狗の表情が固まる。
そりゃそうだろうね。
なんせ、私の背後には不死鳥が居るんだから。
「丁度昼を何にしようか迷ってたんだ。焼き鳥なんてどうだろうな?」
「いや~………昼から焼き鳥はどうかと思いますよ?」
「そうか?偶には良いと思うがね。それに私は砂肝が大好きなんだ。鴉の砂肝は美味いのか?」
「ど、どうでしょうね~?す、少なくとも私に砂肝はありませんよ?」
「ああ、そういやそうかもね」
「ええ、ですから、その炎をしまって頂けません?」
「どうしようかね~?」
「わ、解りました。この内容は破棄しますから………」
そう言って鴉天狗は今書いてたであろうメモをビリビリと破り捨てた。
「解れば良いさ」
それを見て私も不死鳥をしまう。
「しかし、考えてみれば、お前は砂肝じゃないのか………」
「それはそうですよ。砂肝って何の役割を持っているかご存知なんですか?」
「そりゃ知ってるさ。鳥には歯が無い。だから、食べた物はそのまま体内に形を残したまま入る」
「ええ、ですから、消化し易くする為にも、食べた物を細かくする必要があります」
「それが砂肝の役目だろう?体内に取り込んだその砂が、食べた物をすり潰し、消化を助ける」
「その通りです。私にはご覧の通り歯がありますから、砂肝ではなく胃液ですよ」
「そうだね。それに、お前の大きさなら「砂」肝じゃ無くて、胃石になるだろうね」
「あったとしたらそうでしょうね」
「しっかし、お前達鴉天狗ってのは妙だねぇ」
「妙?」
「ああ、見た目は人間みたいだし、消化器官もそれに似てるようだ。なのに、卵生だろう?」
そう、鴉天狗は胎生ではなく卵生なんだよね。
「ええ、まぁ………」
「ふ~ん………」
「な、何ですか?人の顔をジロジロと……」
「いや、お前見たいのが卵から生まれてくるのを想像すると、ちょっとね」
「失礼ですね~」
「と言う事は、お前もいずれ卵を産むということか?それとも既に出産経験済み?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか!!」
お、顔を真っ赤にして反論した。
こいつのこういう顔は珍しいな。
「お、そうだ。お前、人の事ばかり記事にしてるが、自分の事を記事にしてみたらどうだ?」
「自分の事を?」
「そうそう。私と同じように、鴉天狗の生態みたいなもんを知りたがってるのも居るんじゃないか?載せたら結構売れると思うぞ」
「嫌ですよ。大体、そんな事したら仲間内から何されるか解ったもんじゃありませんよ」
「やっぱ、嫌うもんなのかね?」
「じゃなきゃ妖怪の山に住むなんてしてませんよ」
「それもそうか」
あそこは閉鎖的だからねぇ。
「う~ん……しかし、思ったより記事になりませんね~………」
「ま、私の話だけじゃあね。他の奴らのも集めて一緒に載せたらどうだ?」
「そうですねぇ……状況によってはそれも有りですね」
「さて、私はちょいと買い物に行きたいんで、そろそろ良いか?」
「あ、はい。ご協力ありがとうございました。作ったらお見せしに来ますね」
「ま、気長に待ってるよ」
「む……そんなに作るの遅くないですよ」
「そうか?まぁ、適当に待ってるさ」
「もっと期待して欲しいんですけど………」
「過去の実績が物を言ってるんだよ」
「うぐ………いつかその認識を改めさせてあげますよ」
「ま、気長に待つさ」
私の命は永いからね。
「うぐぅ………と、兎に角、今日の所はこれで失礼します。それでは」
そう言うと、鴉天狗は飛び去ってしまった。
しかし、相変わらず速いな……あっという間に見えなくなった。
さて、それじゃあ昼飯がてら買出しにでも行こうかね。
金なら護衛で稼いであるからそれなりにあるしね。



午前11時・竹林

里に向けて歩いていると見知った姿を見つけた。
「ウドンゲか」
「ああ、藤原妹紅」
永遠亭の永琳の弟子、名前は…………長いからウドンゲで良いな。
「里に薬売りか?」
「ええ。貴女は何をしに?」
「買出しさ。後は偶には外で昼飯でもと思ってね」
「なるほど」
こいつもあの輝夜の一味である事に代わりは無いが、個人的にはそれほど敵対心は無い。
まぁ、一つはこいつ自身とは別段確執が無いと言うのと。
もう一つは、いざ戦ってもこいつに負ける要素が一つも無いからだ。
その所為もあってか、あまりこいつに敵対心をむき出す事は無い。
まぁ、輝夜の手先として私に戦いを挑んでくる時は別だが。
「しかし、こうやって並んで歩いてて、輝夜は何も言わないのか?」
あいつとはお互いに憎しみあってるからな。
「別に何も。私だって貴女と仲良くしてるわけでも情報や物資の提供してるわけでもないもの。ただ、行く場所が同じだから一緒に歩いてるだけ。それでとやかく言うほど姫も師匠も小さな器じゃないわ」
「そんなもんか」
「そんなもんよ」
ま、確かに目的地が同じだから一緒に歩いてるが、違う場所ならさっさと別れてるだろう。
「しかし、永琳が売らせている薬だが………大丈夫なのか?妖怪用なら兎も角、人間用は作っても試用できんだろう?」
まさか、試用もせずに売っているのか?
「貴女、師匠がなんて呼ばれてるか知らないの?」
「怪しい薬剤師」
これは博麗の巫女や霧雨魔理沙が言ってた事だがな。
「違うわよ。師匠は「天才」と呼ばれてるのよ?試用なんてしなくても、ほぼ完璧に薬を作るわ」
「ほぼ、って事は確実じゃないんだろう?」
「ま、そうだけどね。その辺りも抜かりは無いわよ。これ以上は言えないけど」
「ふ~ん……ま、あいつが関係ない奴にみだりに妙な事するような奴じゃあないとは思ってるがな」
私もそうだが、永琳も輝夜も意味も無く関係のない者を巻き込んだりはしない。
それは、永き時を生きる者の争いに限られた時を生きる者を巻き込みたくないというだけだ。
まぁ、輝夜の奴は一度博麗の巫女達を私に仕向けたがな。
「そう言えば……」
「何?」
「お前、ウドンゲって言われて反応しなくなってきたな」
昔は必死に違うと訴えてたのにねぇ。
「言ったらちゃんと呼んでくれる訳?」
「いや、メンドイし、こっちの呼び方の方が既に定着してるからな」
「でしょう?だから言わないのよ。言っても無駄なの解ってるから」
「詰まらんね~」
「お生憎様。何時までも貴女に遊ばれてるわけじゃないのよ」
「まぁ、元はと言えば、お前の師匠がお前をウドンゲと呼んでるからそう呼んだんだ。文句なら師匠にでも言いな」
「もう何回言ったか忘れたわよ」
成る程、ちゃんと抗議はしてたのか。
「まったく……お陰で色んな奴からウドンゲウドンゲ言われてるわ」
溜息吐いたな。
何やらこいつにも苦労が滲んで見えるな………まるで慧音みたいだ。
「お前の事をちゃんと呼んでくれる奴なんて居るのか?」
「失礼ね。ちゃんと居るわよ」
「へぇ、誰?」
「てゐは言うまでも無いとして、貴女も良く知ってる上白沢さんでしょ?妖夢に八雲藍。それから美鈴に閻魔様かしら?」
何だ?
何か、詐欺兎以外の面々に共通点がありそうな気が………
「何?」
「ああ、いや……随分、他の所の奴の名前が出てくるな、と思ってね」
「薬売りで歩き回ってるからね。何気に顔見知りは多いわ」
「なるほどね…っと、里が見えてきたな」
「ええ、そうね。それじゃあ私は民家を回るから、これで」
「ああ、じゃあな」
簡単に挨拶をして私達は別れた。
まぁ、何のかのと言っても、敵対して居る者同士だ。
こんなものだろう。
しかし、あいつ最近雰囲気変わったなぁ………



午後0時・里

さてと……腹も減ってきたし、まずは腹ごしらえと行くか。
私の行きつけの場所で。


「邪魔するよ~」
「帰れ」
「つれないね~慧音」
「昼飯時にたかりに来るなと何度言わせる」
そう、私の行きつけの場所とは慧音の家だ。
「今日で17、いや18だっけ?」
「32回目だ、馬鹿者」
相変わらず律儀だねぇ………
「まぁ、良いじゃないか。それより飯にしよう」
「なんでお前が仕切っているんだ。ここは私の家だぞ」
「硬い事言いっこなしなし」
「まったく………」
なんだかんだと言っても慧音はちゃんと昼飯を出してくれる。
更に言うなら、ちゃんと二人前用意している所がなんとも。
私が来なかったらどうしてるんだ?
まぁ、突っ込むとまた何か言われそうだから止めておこう。

「いっただっきま~す」
「いただきます」
慧音は律儀に手を合わせてから食事に手をつける。
「ん、美味い!」
お世辞でなく慧音は料理が上手い。
「もう少し落ち着いて食べろ。私は横取りなどしやしない」
「いや~、美味い飯だと箸が良く進むんだよ」
「何だ?おだてても何も出んぞ?」
いや、もうご飯出てるけどね。
それは兎も角。
「別におだててる訳じゃないよ。慧音の料理は本当に美味いからさ」
「そう言ってもらえるは有難いがな。だからと言ってたかりに来るのはどうかと思うぞ?」
「たかりに来てる訳じゃないさ」
「じゃあ、何だ?」
「慧音に家にある余りある食材を消化しに来てるんだよ」
慧音の家には里の者から送られてくる食材がわんさかとある。
別に慧音が頼んでるのでなく、単に人徳の問題だ。
「欲しいなら分けてやるから言え」
「いや~、料理するの面倒じゃない?」
「それをたかりに来ると言うんだ」
「お、この漬物美味いね」
「話を逸らすな、妹紅」
お小言は嫌だもんね~
「時に妹紅。やはり里には住まんのか?」
唐突に慧音が切り出してきた。
「ん~……止めておくよ」
「何でだ?お前なら問題なく里に馴染めると思うぞ?」
それはどうか解らないけど。
「私は輝夜としょっちゅう殺し合いしてるからね………」
その結果、時には常人なら目を逸らしたくなるくらいボロボロになって帰ってくる事もある。
「むぅ………」
「そんな姿、見られたくないし、見せたくない。かと言って輝夜と殺し合いするな、なんて無理だからね」
そんな簡単に止められるなら1000年以上もやり合ってないさ。
「そうか……無理強いはすまい。最近妹紅も里の人間と馴染んできたから、これを期に、と思ったんだがな」
「悪いね。けどまぁ、何かあったら呼んでくれれば手助けはするよ」
ま、一応、元人間って事もあるしね。
「ああ、有事の際には頼りにさせてもらうぞ」
「任しといて。まぁ、飯を食わせてもらってる礼ってとこかな?」
「ほう?では、大分食わせているからな………些細な事でこき使っても問題無さそうだな?」
う……慧音が意地の悪い笑みを浮かべている………
藪蛇だったか………
「いや、ほら…私、細かいのとか苦手だし」
「なら力仕事の時に遠慮なく呼ばせてもらおう」
「あうぅ………慧音の鬼ぃ………」
「タダ飯食らいが何を抜かす」
その後は、暫くお茶を飲みながらまったりと慧音の家で過ごした。



午後3時

さて、そろそろ買出しにでも行こうかね。
慧音の家で十分にゆっくり出来たしね。
さってと、足りなかったのは……っと………
ん~……醤油が切れてたんだが………何処で売ってるんだ?
しかも、出来るだけ安く済ませたいからなぁ………
しまったなぁ…慧音に聞いておくんだった。
おや?
店を探してたら見知った顔を見つけた。
あの特異な服装に、何よりも目立つ黄金の九つの尻尾。
確か………
「あんたも買い物かい?八雲藍……で良かったよね?」
「ん?ああ、藤原妹紅か」
「苗字まで言う必要はないよ」
「そうか。なら私も藍で良い。で、妹紅も買い物か?」
「ああ、ちょいと色々切れかけててね」
「そっちも同じか」
そう言って藍は軽く笑う。
こいつはなんて言うか、私よりよっぽど人間くさいんじゃないか?
「ただねぇ……醤油を探してたんだが、何処で売ってるか解らないし、出来れば安く済ませたいんだ」
「ほう……良ければ一緒に見て回るか?これでも私はこの辺りには詳しいんだ。店に関しては、だがな」
う~ん……こいつも苦労してるんだねぇ………
さて、渡りに船とはこの事だし、案内してもらうとしようかな。
こいつは下手な人間よりも信用できる奴だしね。
「悪いね、そうさせてもらうよ。私はこの辺りはさっぱりなんだ」
「ふふ……種族と立場がまるで逆だな」
「私は「元」人間だよ。殆どあんた達と変わらない存在さ」
いや、死なないのだから妖怪よりも化け物じみてるかもね。
「そうか…まぁ、それは兎も角、早速見て回るとしよう」


「ふぅ………」
思いのほか疲れたな………
まぁ、お陰で色々買えたけど。
「大丈夫か?妹紅」
「あ、ああ……大丈夫さ……しかし、凄かったな、さっきのは………」
私の方はあらかた買い物をし終わり、最後に新鮮な魚類でも買おうかと魚屋に向かった。
着いた時は別段何事も無く、藍に色々教えてもらいながら魚を選んでいた。
しかし、10分ほど経った頃だろうか?
突然、安売りが始まって、店内は戦場と化し、修羅場となった。
慣れていない私は、何事かと思う暇も無く店外へと弾き出された。
一方、藍はややしてから店内から出てきた。
しっかりと戦利品を手にして。
「しかしまぁ、良くあんな修羅場を掻い潜れるもんね」
「ああ言う場合は迷ったら負けだ。素早く、的確に獲物を選び抜き、そして奪い取る。それが出来なければあそこでは生き残れない」
凄い世界だねぇ………
「まぁ、あの世界で生き抜けるようになるには最低でも数年の修行が必要だな」
どんな修行さ。
「妹紅にはまだまだ無理そうだな。そら」
そう言って藍は私に袋を手渡した。
「何これ?」
「さっきの安売りで売られてた秋刀魚だ。旬だから美味いぞ」
「悪いね。ちょっと待ってくれ。今金を出すよ」
「ああ、構わんよ。安かったからそれくらいは驕るさ」
「良いのか?何から何まで悪いね」
「何、偶には誰かと一緒に買い物するのも楽しいもんだと教えてもらった礼さ」
「ははは。だが、それはこっちも同じだよ」
「そうか」
「しっかし、今日は珍しく顔見知りに会うな………」
「そうなのか?」
「ああ。鴉天狗に始まってウドンゲ、そして藍だ。普通ならまず会わない奴らなんだがな」
ウドンゲも戦闘以外じゃそうそう顔を遇わせるわけじゃない。
「まぁ、そんな日もあるさ。そう言う時は、そう言う一日を楽しむと良いぞ」
「楽しむ?」
「ああ。永く生きていると日常のちょっとした変化でも面白いと思えるようになった方が良い。ただでさえ同じような毎日が続くからな、私達みたいなのは」
言われてみればそうだねぇ………
毎日が割りと同じ事の繰り返し。
「日々のちょっとした変化でも楽しいと思えるようになると、存外、生きているのも悪くないと思えるぞ」
なるほどね………永遠ではなくとも、同じように永く生きるような者の言葉か………
あながち的外れでもないね。
「確かにその通りかもね。ま、折角だからこんな一日を楽しんでみるとしようかね」
「ああ、そうしろ。その方がきっとお前にとっても良い筈だ」
「ま、それは解らないけど、敢えて開き直ってみるよ」
「そうだな。っと、私はまだ買う物があったんだった」
「あ、そうなの?私はそろそろ帰るとするよ」
「ああ、解った」
「今日は色々ありがとね。この礼はいつかするよ」
「気にしないで良いさ」
「借りっぱなしってのは性にあわないのよ」
「そうか。なら、楽しみに待たせてもらおう」
「ああ、そうしといてよ。じゃあ、またね」
「ああ、また」
そうして私は藍と別れた。
また………か……自然に出た言葉だったが、あまり言わなくなっていた言葉だったな………
偶には……こんなのも悪くないか。



午後4時・博麗神社

さて、何故こんな所に居るのかと言うと。
藍に言われたとおり、ちょいとこの一日を楽しもうと思ってね。
今まで珍しい顔に会って来たから、今度はこっちが珍しい顔になろうかと思った訳。
ま、用は暇って事だけどね。
「あら?随分と珍しい顔が来たわね」
「本当だぜ」
「ああ、そうだろうね」
神社の境内には博麗の巫女と霧雨魔理沙が居た。
「一体何の用?普段ここに来てる訳じゃないでしょ?」
「まぁね。今日は珍しい顔に良く会うもんだから、今度は私が珍しい顔になろうと思ってね」
「暇人だな」
「あんた達は違うの?」
「私はお茶を飲むのとのんびりするのに忙しいわ」
何だその、のんびりするのに忙しいと言うのは………
「私は霊夢のお茶をご馳走になるのに忙しいぜ」
「要は二人とも暇って事じゃないか」
「そうとも言うわ」
「そうとしか言わないと思うね」
ま、私も人の事を言えたものじゃないけどね。
「で、本当に何の用?冷やかしならお断りよ?」
「ここで何を冷やかすのかは知らないけど、賽銭入れに来たんだが……帰れと言うなら仕方がないかしら?」
「ちょっと待ってて。今お茶を出すわ」
巫女はそう言うと、神社の奥へと引っ込んでいった。
現金な巫女だねぇ………
「で、本当に何の用なんだ?」
「ん?別にこれと言って用は無いよ。ぶらっと来ただけさ」
「物好きだな」
「あんたは違うの?」
「同じだな」
「物好きねぇ」
「物好きだぜ」
しかし、この神社……神格と言うか、神気と言うか、そう言うのが欠けてる気がするねぇ………
「はい、お茶」
「お、悪いね」
私は戻って来た巫女から受け取ったお茶を貰って飲む。
ん~………
貰っておいてなんだが、このお茶、あまり良くないな。
普段慧音の家で飲んでるお茶が良いのかな?
いや、慧音もあれは別段普通のだって言ってたしね………
しょうがない。
「おい、博麗の巫女」
「何よ、ふじわらのもこ」
「何だ、その「ふじわらのもこ」って」
「あんたが人の名前を呼ばずに博麗の巫女って言うから同じように返しただけよ」
「待て待て待て。「博麗の巫女」は称号とか呼び名とかそう言うものだろう?それに対し「ふじわらのもこ」ってどう見てもそれらに当たらないんじゃない?」
「良いじゃない、別に」
「良くない」
「なら、ちゃんと名前で呼びなさいよ」
「解った解った。で、霊夢」
「何?妹紅」
「賽銭ついでだ。これをやろう」
そう言って私は自分用に買っておいた茶葉を渡す。
「え?良いの?」
「余分に買っておいたから構わないよ。それよりも客人に出す茶ぐらいちゃんとしたのを出しな」
「ああ、それは言えてるぜ」
「しょうがないでしょ。実入りが少ないんだから」
「前の料理対決の時に結構入らなかったか?」
そう言えば、あの時霊夢が賽銭の事で狂喜乱舞してたとか聞いたな。
「神社の補修と後は生活費に当ててるのよ」
「生活費に当ててこれなのか?」
私も魔理沙の言葉に同感ね。
「あのね、実入りが少ないって言ったでしょ?今だけ豪勢な生活したら後で後悔するのが目に見えてるのよ」
なるほどね……霊夢なりにちゃんと考えてる訳か。
その後、暫く霊夢と魔理沙と会話をした後、私は神社を後にした。
ああ、勿論、立ち去る前にちゃんと賽銭は入れておいたよ。



午後5時・博麗神社麓

神社を降り、帰ろうかと言うところで、またまた珍しい顔にあった。
やれやれ……そいつの言葉を借りるなら、本当に今日は「みょん」な一日だね。
「あれ?貴女は藤原妹紅?」
「よう、みょんだったか?」
「妖夢です!魂魄妖夢!!」
う~ん……期待通りの反応。
幽々子や紫がこいつをいじめるのもよく解る。
「で、一体どうしたんですか?貴女がこんな所に居るなんて珍しいですね」
「それを言うならお前もじゃないか?幽々子とならいざ知らず、一人で足繁く通ってるとは思えんが?」
「私はまぁ……ちょっと用事がありまして………」
歯切れが悪いね……まぁ、深く突っ込んで聞くのもアレだけどね。
「なるほどね。因みに私はただの気まぐれ」
「暇ですねぇ」
「そりゃ暇さ。私を誰だと思っている?」
「それもそうでしたね」
そう、1000年以上も生きる蓬莱人。
だから、暇な事が多いのさ。
ふむ、なるほど。
藍の言う通り、暇な毎日が多いならこういう一日は楽しむのが正解かもね。
「しかし、貴女も買い物ですか?」
みょん、もとい、妖夢が私の荷物を見ながら言う。
「ああ、お前もか」
「ええ………」
あ、溜息。
こいつも苦労してるんだな………
すると、突然の突風。
まぁ、私はもんぺだし、妖夢に至ってもここは往来でもないし、下にドロワーズを履いているだろうから心配ないけどね。
「きゃあっ!!」
あれ?
私の予想に反して、妖夢は必死にスカートを抑えていた。
「どうした?流石に思いっきりめくれそうになるなら解るが、あの程度の風で何でそんなに慌てるんだ?」
「え?い、いえ………ほ、ほら、ドロワーズとは言え、やっぱり人様に見せてしまうのははしたないじゃないですか」
「ふぅん………」
絶対に違うね。
と言うか、この娘……嘘吐くの下手ね。
「まさか、履いてないのか?」
「し、失礼な!!ちゃんと履いてますよ!!ちゃんと………」
あ、何か近い当たりを突いたっぽいね。
顔が赤い。
こういうのを見るといじめたくなる気もするけど、まぁ、止めておいてやろう。
「まぁいいか」
「え、ええ。気にするような事じゃありませんから」
気にはなるけど、キリがなくなるから止めておこう。
それに、そろそろ帰って洗濯物しまわないと………折角の洗濯物が湿ってしまう。
って、今更遅いかも。
「さて、私はそろそろ帰るから、これでな」
「ええ、失礼します」
私は妖夢と別れて帰路に着いた。



午後6時・妹紅宅

ふ~……着いた着いた。
さて、洗濯物取り込まないと……って、あれ?
洗濯物が無い?
誰かが取っていった?
有り得ないね………ここが私の家なのは近くに居る妖怪どもも知ってるだろうし、それを知った上で物取りをする命知らずは居まい。
輝夜達という線もあるけど、流石にあいつらも洗濯物を盗むなどと言う馬鹿な事はしないだろう。
と、考えていると、部屋の中にその洗濯物がしまわれていた。
あれ~?
誰が取り込んでおいてくれたんだ?
っと、机の上に書置きがある。

「忘れ物を届けに来たら洗濯物が出しっ放しだったから勝手に取り込んでおいた 慧音」

成る程、慧音か。
相変わらず人が良いね~
って、忘れ物って何だろう?
ん?これは私の髪に付けてるリボン?
あ…………右に付けてるリボンが一個外れてた………
全然気付かなかったよ。
危ない危ない。
今度慧音に会ったら礼を言っておかないとね。
さて、それじゃあ荷物の整理とかして晩御飯の用意でもしようかね。



午後7時

よし、今日は藍に貰った秋刀魚にしよう。
生物だし、旬の魚は美味い時に頂きたいしね。
ご飯も炊けたし、後は庭先で七輪に載せて焼こうかね。


ん~………良い感じに焼けてきた。
やっぱり秋刀魚は隅で焼くに限るね~
因みに、藍は秋刀魚を二尾くれた。
折角なので二尾まとめて焼いている。
この程度なら別に食べれるだろうしね。
ん?
まったく、晩飯時に嫌な気配を察知したねぇ………
しかも、こっちに来るし。
飯が終わってからにして欲しいもんだ。
折角の秋刀魚なのに。
「良い匂いがすると思ったら、妹紅だったの」
「まったく、晩飯時に何の用だ?輝夜」
殺し合いなら飯の後にしとくれよ。
折角の旬の魚なんだ。
「あら?秋刀魚。しかも炭火焼?良いわね」
ふん、お前にはやらないぞ。
っと、普段の私なら言うんだろうな。
「お前も食うか?」
「………珍しいわね…毒でも入ってるのかしら?」
輝夜が心底驚いた顔で尋ねてくる。
とても失礼な事を。
「馬鹿か?私やお前に毒なんか盛ったって大して意味は無いだろうが」
「それもそうね」
一時的には効くがね。
けど、一時的な上に、いずれ抗体が出来るから、今じゃ殆どの毒が効かない体になってる。
昔、永琳の奴に結構盛られたからねぇ………
「けど、一体どういう風の吹き回し?」
「何、今日は妙な一日だったんでな。私も妙な事をしてみようと思ったまでさ」
「なるほどね、良く解るわ」
こいつも藍と似たような考えを持っている訳か………
「飯も炊けてるしな。待ってろ、直ぐに用意してやる」
私は直ぐにご飯を持って来た。
私自身腹が減ってて早く食べたいんだ。
「おろしはあるかしら?」
「当然だ。秋刀魚と言えばおろしだろう」
「あら?気が合うわね」
「まぁ、食い物に関する事くらい気が合っても構わんさ」
「同感ね。それに、美味しい食べ物の前で喧嘩するなんて無粋だものね」
「それも同感だ」
美味い飯は美味く食うに限る。
飯の前で喧嘩などもっての外だ。
「ん、美味しいわ」
「ああ、流石に旬な魚の事だけはある」
私と輝夜は言葉は少なかったが一緒に夕飯を食べた。
「ご馳走様」
「あいよ」
しかし、上品に食べるな、こいつ。
食い終わった皿もとても綺麗だ。
なのに、決して食べる速度は遅くない。
う~ん………不思議だ。
「さて、それじゃあ私からはこれを出そうかしら」
そう言って輝夜は何処からか酒を取り出した。
「なんでそんな物を持ち歩いてるんだ?」
「貴女とやり合う前に月光浴してから月見酒でもと思ってたのよ」
「晩飯は?」
「今日は要らないって永琳に言ってあるわ」
「勝手な奴だな」
「あら?お互い様じゃなくて?」
「さぁな」
私はそう言うと、杯を取りに行った。
そして、互いに杯に酒を入れて飲む。
「お、中々イケるね、これ」
「でしょう?私のお気に入りなのよ」
「こんなの、里で売ってたか?」
「売ってないわよ。永琳に作ってもらってるから」
「これ、売れば結構売れるんじゃないか?」
「かもしれないわね。でも、これは私だけのお楽しみなの」
「せこい奴だな」
「なんとでも」
そう言いつつ輝夜は酒をあおる。
「今日は月が綺麗ね」
「そうだな」
輝夜が月を見上げ、私もそれに倣う。
今夜は綺麗な三日月。
雲も少なく、月が良く見える。
「さて、じゃあそろそろ良いかしら?」
「ああ、馴れ合いはここまでだ」
妙な一日だったが、やっぱり最後はいつも通りだな。
「秋刀魚のお礼に、今日は思いっきり殺してあげるわ」
「こっちこそ、酒のお礼に完膚なきまでに殺してあげるよ」
本当に妙な一日だったけど
「平伏しなさい!妹紅!!」
「燃え尽きなよ!輝夜!!」
偶にはこんな一日も悪くないかもね。






-了-
とある一日シリーズ(?)妹紅編です。
ふと、慧音は良く出すのに妹紅が今一出てないなぁ・・・と思って書いてみました。
鈴仙の所と最後の輝夜の所は人によっては受け入れがたいかもしれませんね。
その内、今回登場した人物視点での同じ日の一日を書いてみたいと思います。

では、好評不評問わず、待ってます。
華月
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コメント



0.2150簡易評価
3.90脇役削除
いいですね、こうゆう作品
5.80卯月由羽削除
やっぱり、こういう日常風景っていいねぇ……
7.80名前が無い程度の能力削除
輝夜と妹紅の不思議な信頼関係って癒されますねえ
オチが殺し合いなのにまたーりした雰囲気で素敵です
9.80名前が無い程度の能力削除
みょんが何を隠してたのか気になるところだけど、
妹紅にならって気にしないようにしよう。
うん、気になるけど気にしない
11.90名前が無い程度の能力削除
妖夢は何を……
まさか勝負ドロワーz(ry
14.80華月作品を読み漁る程度の能力削除
妖夢の件は次回への布石ですねきっと(ニヤリ
最後の殺し合いに持っていく流れまで自然な気がしました。
でも殺しあって欲しくなかったな。
17.100時空や空間を翔る程度の能力削除
無限の時間にある、ある1日
今日みたな1日も会っても良いよね。
20.90イスピン削除
殺し合いも一種の信頼関係ということでしょうか。
好きの逆は嫌いなれど、好きの反対は無関心とはよく言ったものですね。
23.90名前が無い程度の能力削除
こんな雰囲気が公式設定に一番近いのかもしれませんね
30.60名前が無い程度の能力削除
何気ない日常。いいですね。
幻想郷でも海の魚が手に入るのかと、少々疑問に思ってしまいましたが…
31.無評価華月削除
>ALL
総じて高い評価を頂き、ありがとうございます^^
書いてて、自分はこんな感じの話が好きだなぁと改めて思ったので、今後このシリーズ(?)がメインになるかと思います

>みょんが何を隠してたのか~
>妖夢は何を……
次は妖夢編を書くつもりなので、詳細はその時に^^

>殺しあって欲しくなかったな
>殺し合いも一種の信頼関係~
そうですねぇ……自分もあの二人は殺し合うことが愛情表現の一種じゃないな?と考えてるので、最後はああしました。

>幻想郷でも海の魚が手に入るのかと
しぃまったぁぁぁぁ!!!失念してました……やらない様に気をつけていたのに………今後気をつけますm(__)m
38.100読み解く程度の能力削除
蓬莱人という特殊性ばかり目立つ作品の多い中、こちらの話では何気ない日常を過ごしている妹紅が新鮮に感じられました。普通の生活してますねぇw(輝夜との殺し合いはもう日常かと…。)
ほのぼのとした作品がシリーズ化されるのには期待大です。
ぜひ次の作品も読ませていただきます。
53.80名前が無い程度の能力削除
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