Coolier - 新生・東方創想話

遠い昔の竹取飛翔

2007/10/04 14:43:20
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 罪深き姫カグヤ。

 死ぬこと無き、永遠の体を持つ姫カグヤ。

 地上に落され、賤しき民と暮らす姫カグヤ。


 そして、翁とその妻に育てられた少女の輝夜。


 ―――いったい私はどちらでありたいのだろうか。



「おじいさま、食事の準備ができました」
「かぐや! そういう事はわしらがやると言っておるのに…ばあさんはなにをしているんだ」
「いえ、おばあさまには私から言ってあります。たまにはいいじゃないですか」

 私の言葉に、おじいさまは困ったような顔で笑った。きっと納得してくれたのだと思う。
 おじいさまもおばあさまも、とてもいい人たちだ。
ちょっと迷惑な人たちも多いけど、それでもここでの生活を苦しいと思った事は無い。
それもきっと、この2人のお陰なのだろう。



「おぉ!! やはりかぐやの作った料理はうまいのぉ。ほっぺたが落ちそうじゃ!」
「さっきまで反対していたおじいさんはどこにいったのだろうねぇ、まったく」
「うふふふ。ありがとうございます」

 月ではわがままに育った私だけど、ここでの生活でそれはかなり覆った。
料理もできるし、掃除もできる。全部おばあさまの教えだけれど、おばあさまもよくできていると褒めてくれる。
例えそれがお世辞だとしても、私自身は昔に比べてよくできるようになったと思える。だからどちらでもいいのだ。



「それじゃあかぐや、おやすみ」
「おやすみさない、おじいさま。おばあさま」

 夜も更けて、2人にあいさつをすると私は寝床についた。
 ……私に与えられた部屋からは、月がよく見える。真っ暗な空の中に光る、1つの輝き。
おじいさまにもおばあさまにも非は無いのだけれど。それでもここで寝ようとすると自然と月が眼についてしまうのは精神上よくない。
私は月を背にして眠る事にした。

 一体、どれだけの時間を私は地上で暮らしてきたのだろうか。
あまり覚えていないのは、永遠の命を持ってしまったゆえだろうか。
 月が恋しくないと言えばウソになる。
地上と月では、すべてにおいて差がある。地上での生活には苦労させられてばかりだ。

 それでも。それでも今の私がここでの生活を気に入っているのも事実だ。
おじいさまやおばあさまには恩もあるし、なにより実の両親のようにさえ思える愛情を注いでもらえた。
それを同じくらいの愛情も、私はもちあわせている。当然だ。
 だから、月が恋しくないと言えばウソになるのだけれども。
でも私の本心は、帰りたくないと言っている。ここでの生活を続けたいと言っている。

 ……自然と、涙がこぼれてきた。嗚咽混じりの涙が。
 何を泣いているのだろうか私は。このところ、私は自然と夜1人で月を眺めると涙が流れるようになってしまった。

 きっと、私自身が気づいているのだろう。
 この生活が終わるのが近い事に。

 恐らく、あと数日で―――……月からの使者が、私を迎えに来る。




「今日のご飯もかぐやの手製か。最近多いな」
「……おじいさまとおばあさまに、どうしても話しておきたい事がありますので、今日の料理は特に力を入れています」

 そして、その『数日』が経った日の晩。私はおばあさまとおじいさまに真実を話す決心をきめた。
 大きな庭が見える居間で、私とおばあさま、おじいさまが向かい合って座っている。机にならぶ料理は、どれもおばあさまから教えてもらったものばかりだ。
 私は、深々と頭を下げる。

「まず、これまで私に無類の愛情を注いで育てていただいて、ありがとうございました」
「かぐや……」
「……」

 私の言葉で察しがついたのか、おじいさまとおばあさまの顔が暗くなる。

「……夜流していた涙は、そのせいだったのかい」
「おばあさま……知っていたのですか?」
「甘く見るんじゃないよ。私を誰だと思っているんだい?」

 お前をここまで大きく育てた母親だよ。
 おばあさまはとてもいい笑顔でそう言った。
おじいさまもそれにつられて笑った。

 ……帰りたくない。私は、この2人をおいて月なんかに、帰りたくない。

 自然と、私は泣いていた。毎晩月を見て流したように、静々と。
 おばあさまは優しい顔で私の頭を撫でてくれた。おじいさまは、向かいに座ったまま静かに泣いていた。


「……私は、月の民です。今日の夜。月が一番輝く時に月からの使者が来ます」
「今日の夜中か……早いねぇ」
「だけど、そうじゃないと決心がにぶるじゃないか。かぐやの事は、立派に送り出してあげようじゃないか」

 おじいさまはそう言うと、私の今までの集大成とも言える料理を口にして、一言おいしいと言ってくれた。
おばあさまも続けて口にして、教えた甲斐が有ったと。そう言ってくれた。
その言葉に、私もまた笑顔で答えた。ありがとうございます。と。



 その時、庭をおおきな光が包み、そしてそこに月からの使者が立っていた。
 お迎えがきたみたいだ。

「(あら? あれは……)」

 数人の使者の中で、見知った顔が1人いるのに気がついた。
 私が蓬莱の薬を作るのを頼んだ、天才薬師の八意××だった。
 ××も私の視線に気づいたみたいだった。だけど、××の顔は浮かないというか、申し訳なさそうな色でいっぱいだ。
 あなたが気にすることではないのに。これは全部、私が起こした事だと言うのに……。

「カグヤ様。お迎えにあがりました」
「……ええ」
「かぐや……」

 おじいさまとおばあさまの声が聞こえる。
 ……私は座ったままで使者たちの方を見る。

 もう、決心はついたのだ。


「迎えは結構。帰っていいわ。と、言ったら、私はどうなるのかしら?」

 私の言葉が意外だったのか、使者たちの間にざわめきが起きた。
××も目を見開いて驚いている。
恐らく、おじいさまとおばあさまもだろう。

 おじいさまとおばあさまとは別れたくないけれど、これでも月の姫である。
罪が晴れたとなっては月に帰るのが普通なのだろう。
 でも、私は知ってしまったのだ。
 地上での生活が、月での生活と違う事に。
月での常識が通じない地上の生活や、この2人のような親切な地上の民がいることも。
 蓬莱の薬には興味本位で手を出す私なんだ。この数年の生活で、こんどの興味は地上に移っていてもおかしくはない。


 長いざわめきの後、先頭に立っていた使者がずいと1歩前に出た。
 彼女らの中で答えが出たのだろう。
 彼女が口を開こうとした瞬間――――


                    パスッ


 胸から、1本の矢が生えた。
 いや、これは生えたんじゃない。後ろから、射られたんだ。

 前のめりに倒れる使者。再びざわめく残りの使者。
 そしてのその真ん中で、無表情で弓を引きながら立つ××は、私を見ていた。

「……今の言葉は、本意ととってよろしいですか?」
「……えぇ」

 私の返事を聞くや否や。
残りの使者たちに、××は無慈悲に矢を放つ。的確に。正確に。そして、静かに。

 もしかしたら、これが彼女なりの謝罪なのかもしれない。
 ここに残りたいと願う私の手伝いをする。
月でも有数の天才薬師の一族の1人である八意の人間が下す判断ではないとは思うが、それはお互い様か。

「……これで、よろしいでしょうか」
「ずいぶんと派手にやったわね。でも、まぁ、これでいいわ」

 うっすらと笑うと、××は1つの壺を取り出し、持ってきた。
 そしてそれを、後ろで訳がわからなくなってるおじいさまとおばあさまに差し出す。

「これは、不死になる薬です。いままで姫がお世話になったお礼と―――この件の、口止め料として納めてください」

 おじいさまのおばあさまは訳の分らないまま壺を受け取った。
 ……2人には可哀そうなことをしたのだろうか。
目の前で実の娘のように可愛がっていた者が使者の1人に皆殺しの命を下して、そして口止め料まで出す姿を、どう思ってみているのだろうか。

 ゆっくりと歩きだす××に合わせて、私も歩き出した。
庭に転がる死体は恐らく××がどうにかしてくれるだろう。
 最後に私は振り返り、おじいさまとおばあさまに深く。深く頭を下げた。

「―――今まで、ありがとうございました」




「……姫、泣いているのですか」
「そうね」
「……すみませんでした」
「××が謝る事は無いわ。大丈夫よ」
「……その、××という名前は、止めましょう。地上では普通発音できない音のようですし」
「そう?だったら……永琳なんてどうかしら」
「永琳、ですか」
「意味なんて無いわ。ただ思いついただけ」
「……いえ、ありがとうございます。以後、私の事は八意永琳とお呼びください」

 他愛もない会話を続けながら、私たちは歩いて行く。
目的地はないけれど、どこか山の奥にでも。そこでひっそりと過ごしていこう。

 それにしても、十二単というのは歩きにくいものだなと改めて思った。
道が整理されてない山道だと特にだ。これからはもっと楽な恰好で過ごしたいものだ。

「っと」

 なんて思っていると、十二単のせいなのか涙のせいなのか、案の定転んでしまった。
 永琳は、小さく笑うと私に片手を差し出した。

「……笑ったわね」
「すみません、おもわず」

 永琳も笑っているけど、私も笑っていた。泣き笑いっていうのは初めてやったな。
そして、私は永琳の手を取ろうと、手を伸ばして――――






 虚空を掴んだ。
 …………朝日が眩しい。

「……ずいぶんと、懐かしい夢ね」

 情けなく上がっている手を下ろして、のっそりと布団から出た。
そして朝の気持ちいい空気を吸いながら、一度大きく伸びをする。

 あれからもう数えきれないほどの年月が過ぎている。
それでも、私の中で、かぐやとして生きていたあの数年は忘れないだろう。
こうやって夢に出てくるくらいだから、きっと。恐らく。たぶん。

「姫様、朝食の準備ができていますが」

 襖の向こうから、永琳の声が聞こえた。タイミングがピッタリだったようだ。
 私は、今行くわ。とだけ告げると永琳が去っていく足音を聞きながら、部屋の片隅にある小筒を開けてみた。



 そして、中にある紫を主体にして十二単を見て、すこしだけ夢の余韻に浸ることにした。


 ……着付け方って、まだ覚えてたっけな?
<オマケ・現在のかぐや姫>

輝「イナバ、このボスってどうやって倒すのよ。もう3回目よ3回目」
う「あ、そいつの弱点は火ですよ、火」
輝「うそ!?火の魔法使えるのなんてもこうしかいないじゃない。全然弱いわよこいつ」
う「だからちゃんと考えてないとってあれほど……」
輝「うるさーい!!」

永「(……育て方を間違えたのか、はたまたあの頃の育て方が間違っていたのか……)」
て「ところで姫様が持ってるのなんですか?」
永「さぁ?姫様はわんだ~○わんとか言ってたわね」



 どうも。永遠亭組も好きだけど、紅魔館組も好きな少年です。
オマケに深い追求はしないでください。元ネタとかないんで。

 前回の作品がそれなりに楽しんでいただけたようでなによりです。
そしてつづけるようにまた永遠亭メンバー(というか輝夜)のSSを書いてみました。
 前回もだけど、これもけっこうありがちな展開というか設定というかネタだろうけど、それを自分なりに書いてみたかっただけなので大目に見てください。
輝夜とか永琳性格変じゃね?とかも大目に見てください。お願いします。

 それでは、感想や指摘などがあればぜひ。
今回も最後まで目を通していただきありがとうございました。
少年
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コメント



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6.無評価つきのん削除
作品の中の輝夜と、作者コメントの輝夜のイメージのギャップが。(笑)