今日は朝から雨だった。
蓬莱山輝夜は朝目覚め朝食を取った後すぐに部屋の雨戸を開き、
湿気で少し湿り気を帯びた畳に座布団も敷かず座り、単調に降り注ぐ雨を漫然と眺めていた。
「あの…。」
畳を踏みしめる音と共に輝夜の背後に少し戸惑いを感じさせる声が投げかけられた。
輝夜はそっと振り返り、少し首をかしげ声の主に微笑みかける。
「どうしたのイナバ。」
心の底から篭絡されてしまうような美しい微笑。同性の心すら奪う心地良い毒。
ウドンゲはその笑顔に中てられない様に下を向き、輝夜から視線を外した。
「あら。私が嫌い?イナバ。」
「意地悪ですね。私が肯定しないと解っていてそんな質問をなさるなんて。」
そう言ってウドンゲは少し俯いたまま苦笑した。輝夜はもう一度微笑を浮かべると、
雨の降る外の景色にまた視線を移した。輝夜の艶やかな髪が彼女の着物と触れ合い
さらりと僅かな衣擦れの音を立てる。
「綺麗ね…外。」
「確かにこの竹林は美しいとは思いますが。」
そう言って少し理解できない表情を浮かべるウドンゲに、輝夜は座るように促した。
ウドンゲは輝夜から少し離れた場所に正座した。
「もっとこっち…。ほら。」
そう言って輝夜は自分のすぐ隣の畳を触った。ウドンゲは大人しく輝夜のすぐ隣に座り直した。
着物越しに伝わる輝夜の体温は、鮮明にウドンゲの肌にその暖かさを感じさせた。
それと同時にウドンゲは降り注ぐ雨の日の肌寒さを感じていた。
「姫。何時からこうして外を?」
「朝ごはんを食べてからずっとかしら。」
「随分と長くご覧になっているのですね。もう正午を過ぎてしまいました。」
「あら、じゃあ昼食を知らせに来たのかしら?」
ウドンゲは頷く。輝夜は人差し指を立て、下唇に当てると顔を外に向けたまま、
視線だけをウドンゲに向けた。
「ねぇイナバ。貴方はこの竹林を美しいと言った時、どうして少し戸惑ったのかしら?」
「見慣れているからでしょうか。」
「そうね。見慣れてしまったものを心から美しいと感じることは難しいわ。」
少し居心地が悪そうに正座をしている太ももを揺らすウドンゲ。
輝夜は視線を彼女に向けたまま下唇に当てていた人差し指の先端をペロリと舐めた。
その所作がまたウドンゲの心の平静を掻き乱した。ふいと輝夜の視線から逃げるかのように俯いたウドンゲ。
そんな彼女から視線を外し、輝夜は外の景色に目を向けた。
目の前に広がるのは静かに降り注ぐ雨と、その雨を受けひたひたと雫を落とす濡れた竹の群れ。
地面に出来た水溜りに落ちる雨が作る無数の波紋。その全てが輝夜には美しく映った。
「でも綺麗な物を素直に綺麗と思えない事はちょっとだけ悲しいわ。」
「風流がないもので…。」
「あらそう悲観することは無いわ。感じる心に風流は必要無いもの。」
そう言って輝夜はウドンゲにそっと寄りかかる。
輝夜髪の感触が、体温が、吐息の音がウドンゲの五感をより一層刺激した。
ウドンゲは自分の心臓の鼓動が少し早くなっていくのを感じた。
そして少し肌寒いはずの天気にもかかわらず彼女の肌は少し熱さを感じていた。
「ねぇイナバ。私の体温を感じるでしょ?」
ウドンゲは何も言わずに頷いた。
「私も貴方の体温を同じように感じているわ。何かを感じる心に風流は必要ないでしょ?
必要なのは何かを感じようとする意思よ。」
「良く…解りません。」
そう言いながら輝夜と視線を合わせないようにウドンゲは俯き続けた。
輝夜はクスリと笑った。そして寄りかかるのを止めまた外に視線を移した。
「まだまだ子供ねイナバは。」
「はい。」
「でも素直だわ。貴方にもきっと理解できる日が来るわ。」
「はい。」
輝夜はそっとウドンゲの頭に手を当て、優しく撫でた。ウドンゲは逆らうことなく大人しくされるがままになっていた。
輝夜は昼食をこの雨を見ながら食べることにした。永琳に持って来させた昼食を食べながら
彼女は降りしきる雨を見続ける。その姿をすぐ傍で座って眺めていた永琳は不意に口を開いた。
「余りウドンゲを苛めてあげないで下さい。彼女はまだ未熟です。」
輝夜は箸と椀を置き、クスリと笑った。
「あら、ウサギは寂しいと死んでしまうのよ。構ってあげないと。」
そう言って微笑を浮かべた輝夜は視線を永琳に向ける。永琳はその視線を受けて苦笑した。
「そうですね。ですが…」
永琳も外の雨を眺め、その雨音に耳を傾けた。
「本当に今日は美しい雨ですね。」
輝夜は焼き魚を解しながら頷いた。
「ええ、本当に今日の雨は綺麗ね。それより永琳、この魚は何かしら?」
「秋刀魚です。」
「ふぅん。」
そう言って輝夜は秋刀魚の塩焼きをじっと見詰めた。
「秋刀魚の塩焼きと今日のような美しい風景は同じね。」
「どう言う事ですか?」
永琳の問いかけに輝夜はにっこり笑って答えた。
その笑みはウドンゲには向けなかった子供の幼さを感じさせる笑顔だ。
「どちらも『みないと』楽しめないわ。」
「成程。」
永琳はクスリと笑った。
蓬莱山輝夜は朝目覚め朝食を取った後すぐに部屋の雨戸を開き、
湿気で少し湿り気を帯びた畳に座布団も敷かず座り、単調に降り注ぐ雨を漫然と眺めていた。
「あの…。」
畳を踏みしめる音と共に輝夜の背後に少し戸惑いを感じさせる声が投げかけられた。
輝夜はそっと振り返り、少し首をかしげ声の主に微笑みかける。
「どうしたのイナバ。」
心の底から篭絡されてしまうような美しい微笑。同性の心すら奪う心地良い毒。
ウドンゲはその笑顔に中てられない様に下を向き、輝夜から視線を外した。
「あら。私が嫌い?イナバ。」
「意地悪ですね。私が肯定しないと解っていてそんな質問をなさるなんて。」
そう言ってウドンゲは少し俯いたまま苦笑した。輝夜はもう一度微笑を浮かべると、
雨の降る外の景色にまた視線を移した。輝夜の艶やかな髪が彼女の着物と触れ合い
さらりと僅かな衣擦れの音を立てる。
「綺麗ね…外。」
「確かにこの竹林は美しいとは思いますが。」
そう言って少し理解できない表情を浮かべるウドンゲに、輝夜は座るように促した。
ウドンゲは輝夜から少し離れた場所に正座した。
「もっとこっち…。ほら。」
そう言って輝夜は自分のすぐ隣の畳を触った。ウドンゲは大人しく輝夜のすぐ隣に座り直した。
着物越しに伝わる輝夜の体温は、鮮明にウドンゲの肌にその暖かさを感じさせた。
それと同時にウドンゲは降り注ぐ雨の日の肌寒さを感じていた。
「姫。何時からこうして外を?」
「朝ごはんを食べてからずっとかしら。」
「随分と長くご覧になっているのですね。もう正午を過ぎてしまいました。」
「あら、じゃあ昼食を知らせに来たのかしら?」
ウドンゲは頷く。輝夜は人差し指を立て、下唇に当てると顔を外に向けたまま、
視線だけをウドンゲに向けた。
「ねぇイナバ。貴方はこの竹林を美しいと言った時、どうして少し戸惑ったのかしら?」
「見慣れているからでしょうか。」
「そうね。見慣れてしまったものを心から美しいと感じることは難しいわ。」
少し居心地が悪そうに正座をしている太ももを揺らすウドンゲ。
輝夜は視線を彼女に向けたまま下唇に当てていた人差し指の先端をペロリと舐めた。
その所作がまたウドンゲの心の平静を掻き乱した。ふいと輝夜の視線から逃げるかのように俯いたウドンゲ。
そんな彼女から視線を外し、輝夜は外の景色に目を向けた。
目の前に広がるのは静かに降り注ぐ雨と、その雨を受けひたひたと雫を落とす濡れた竹の群れ。
地面に出来た水溜りに落ちる雨が作る無数の波紋。その全てが輝夜には美しく映った。
「でも綺麗な物を素直に綺麗と思えない事はちょっとだけ悲しいわ。」
「風流がないもので…。」
「あらそう悲観することは無いわ。感じる心に風流は必要無いもの。」
そう言って輝夜はウドンゲにそっと寄りかかる。
輝夜髪の感触が、体温が、吐息の音がウドンゲの五感をより一層刺激した。
ウドンゲは自分の心臓の鼓動が少し早くなっていくのを感じた。
そして少し肌寒いはずの天気にもかかわらず彼女の肌は少し熱さを感じていた。
「ねぇイナバ。私の体温を感じるでしょ?」
ウドンゲは何も言わずに頷いた。
「私も貴方の体温を同じように感じているわ。何かを感じる心に風流は必要ないでしょ?
必要なのは何かを感じようとする意思よ。」
「良く…解りません。」
そう言いながら輝夜と視線を合わせないようにウドンゲは俯き続けた。
輝夜はクスリと笑った。そして寄りかかるのを止めまた外に視線を移した。
「まだまだ子供ねイナバは。」
「はい。」
「でも素直だわ。貴方にもきっと理解できる日が来るわ。」
「はい。」
輝夜はそっとウドンゲの頭に手を当て、優しく撫でた。ウドンゲは逆らうことなく大人しくされるがままになっていた。
輝夜は昼食をこの雨を見ながら食べることにした。永琳に持って来させた昼食を食べながら
彼女は降りしきる雨を見続ける。その姿をすぐ傍で座って眺めていた永琳は不意に口を開いた。
「余りウドンゲを苛めてあげないで下さい。彼女はまだ未熟です。」
輝夜は箸と椀を置き、クスリと笑った。
「あら、ウサギは寂しいと死んでしまうのよ。構ってあげないと。」
そう言って微笑を浮かべた輝夜は視線を永琳に向ける。永琳はその視線を受けて苦笑した。
「そうですね。ですが…」
永琳も外の雨を眺め、その雨音に耳を傾けた。
「本当に今日は美しい雨ですね。」
輝夜は焼き魚を解しながら頷いた。
「ええ、本当に今日の雨は綺麗ね。それより永琳、この魚は何かしら?」
「秋刀魚です。」
「ふぅん。」
そう言って輝夜は秋刀魚の塩焼きをじっと見詰めた。
「秋刀魚の塩焼きと今日のような美しい風景は同じね。」
「どう言う事ですか?」
永琳の問いかけに輝夜はにっこり笑って答えた。
その笑みはウドンゲには向けなかった子供の幼さを感じさせる笑顔だ。
「どちらも『みないと』楽しめないわ。」
「成程。」
永琳はクスリと笑った。
素敵な一幕でした
ウドンゲって姫様大好きだと思うんよ