Coolier - 新生・東方創想話

千本桜

2007/09/30 12:28:37
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「妖夢、春度を集めてらっしゃい」
唐突に、幽々子は妖夢にそう命じた。
「春度を?何故ですか?まさか……また西行妖を!?」
「妖夢、私は集めて来いと言ったのよ?」
幽々子は答えず、いつもの暢気な表情とは違う冷たい顔でそう言い放つ。
「………解りました」
聞いても答えてくれない。
そう判断した妖夢は、そう返事を返した。
幽々子様の事だから、意味の無い事はしない。
そう信じて。



博麗神社

季節は春へと移り変わる時期。
だが、幻想郷は、未だ雪に覆われていた。
「うぅぅ………なんでこんなに寒いのよぉ…………もう春よ?」
昼の境内で、体を震わせながら霊夢は呟く。
「まったくだな。一体何なんだこれは?」
隣に居る魔理沙も空を仰ぎながらそう言う。
「まさか、また幽々子が春度集めてるんじゃないでしょうね?」
「まさか……いくらなんでも、そう何度も同じ事はしないだろう」
二人は、以前の春雪異変の事を思い出しながら言った。
「残念ながら、そのまさかの様よ」
と、神社の鳥居を潜りながら、声を掛けて来た者が居た。
「レミリア?どういう事?」
霊夢はやって来たレミリアに尋ねた。
勿論、隣には咲夜が控えている。
因みに、レミリアが昼間動けるのは、以前、永琳に貰った「ヒヨケルミンS」のお陰だ。
この薬を服用すると、8時間は日光が効かなくなる。
が、戦闘能力が半減してしまうと言うデメリットもある。
「昨日の夜、偶然パチェが空を飛んでるあのお姫様の従者を見かけたのよ」
「お姫様の従者………妖夢か!」
「ええ。普段は夜は屋敷に居るあいつが夜中に飛び回る……どう考えてもおかしいでしょ?」
「けど、それで幽々子の所為って言うのは短絡的じゃないの?」
「そうは言うけど、あいつ、前科持ちでしょ?」
「前科持ちならあんたもよ」
「春の件に関してよ。解ってて言ってるでしょ?」
「あら?バレちゃった?」
「おいおい、ふざけあってる場合じゃないだろう?」
魔理沙が霊夢とレミリアに割って入ってくる。
「それもそうね。で、どうするのかしら?「博麗の巫女」さん?」
「いやらしい言い方ね……言われなくても確かめに行くわよ」
「そうこなくっちゃね」
「何?もしかしてあんたも付いてくるわけ?」
「暇なのよ」
「帰って寝てなさいよ」
「折角、日中表に出れる薬飲んできたんだから、偶には日の光の下で行動してみたいのよ」
「好きになさい。邪魔したら吹っ飛ばすけど」
「邪魔なんてしないわよ。私だってそろそろ夜桜眺めながら宴会とか開きたいもの」
「その考えには激しく同意だわ」
「まぁ、戦うのは主に咲夜だけどね」
「あんたも大変ねぇ………」
霊夢は咲夜を見て言う。
「別に、お嬢様の願いなら大変な事など何も無いわ」
「は~……従者の鑑だぜ」
魔理沙は感心したように言う。
「さて、それじゃあ確認を取る為に冥界に行きましょうか」
「はぁ……面倒な事になりそうな予感がするぜ」
「奇遇ね、霧雨魔理沙。私も同感だわ」
悪い予感に溜息をつく魔理沙と、それに共感する咲夜だった。



白玉楼

「もう少し……もう少しなのよ」
幽々子は白玉楼のとある部屋の前で呟いた。
この、幽々子の目の前にある部屋。
この部屋は幽々子以外の立ち入りを厳しく禁じられていた。
例え、あの紫であっても入る事は許されていない。
その間の名前は「紫陽花の間」
妖夢が間の名前の由来を尋ねても、幽々子は決して教えなかった。
「幽々子様、これは一体どういう事ですか?」
不意に、幽々子の背後から声が掛かった。
「あら?藍。久しぶりね」
そこに居たのは、幽々子の親友の紫の式である、八雲藍だった。
「ええ、ご無沙汰しておりました。で、これは一体どういう事ですか?」
藍はもう一度尋ねた。
「これって何の事かしら?」
「あの異常を誤魔化せるとお思いですか?」
「それもそうよね」
幽々子は軽く笑ってそう返す。
「もう一度聞きます。これは一体どういう事ですか?」
藍が聞いているのは、無論、春度を集めている事だ。
「ねぇ、藍。紫はまだ冬眠中かしら?」
「………ええ、外があのような状態な所為か、まだ目を覚ましておりません」
藍は、一瞬反論しようかと思ったが、取りあえず幽々子の質問に答えた。
「そう、それは良かったわ。紫に起きられると困るから」
「幽々子様……貴女はまさか………!!」
藍は、幽々子が再び西行妖を咲かせようとしているのではないかと考えた。
「違うわよ。西行妖は関係ないわ」
が、幽々子もそれを察して、そう答えた。
「では、何であると?」
「ん~………藍になら教えても良いかしら?」
幽々子は少し考えてからそう呟く。
「その前に、もう一度聞くわ。紫はまだ起きていないのね?」
「ええ、ここに来る前に確認いたしましたので、間違いありません」
「そう………なら、教えてあげるわ」



冥界・入り口

「しかし、あんたまで来るとはね」
「異常気象は里にも迷惑だ。早急に解決する必要があるからな」
霊夢達が冥界に向かって飛んでいると、偶然、別方向からも飛んでくる影を見つけた。
それは、里の守護者とも呼ばれている半獣、上白沢慧音だった。
「もう少しで冥界か……しかし、今回は邪魔が殆ど無かったな」
魔理沙が後ろを振り返りながら言う。
「そりゃ、これだけ実力者が揃ってれば邪魔する気も失せるだろうさ」
慧音の言うとおりであろう。
霊夢、魔理沙、レミリア、咲夜、加えて慧音。
どれも上級の実力者だ。
この集団に喧嘩を売ろうとする者が居るとすれば、ただの馬鹿か、
風見幽花、伊吹萃香、西行寺幽々子、そして八雲紫くらいのものだろう。
射命丸文も候補に入るほどの実力者だが、如何せん、彼女は本気を出すと言う事が無い。
これは天狗の殆どに見られる傾向で、必要以上に実力を見せようとしないのだ。
「まぁ、邪魔してきた氷精も居たがな」
そして、ただの馬鹿はちゃんと居た様だ。
「けど、喋ってる最中に撃ち落とすのは可哀想だったんじゃないの?」
咲夜が霊夢に言う。
「一々妖精の戯言に構ってらんないわよ」
哀れ、氷精チルノ。
彼女が最強の称号を手にするのはいつの事か………
妖精なら最強だが。
「さてと、漸く冥界に入れるわね」
冥界の結界が張ってある場所まで霊夢達は辿り着いた。
「止まりなさい!!」
が、突然、目の前に何者かが現れた。
「お前は……橙?」
慧音が現れた者の名を呼ぶ。
「うぁ……慧音さんが居る………」
橙は慧音を見てそう呟いた。
「ちょっと、そこの野良猫。邪魔するのは吹っ飛ばすわよ?」
霊夢が払い棒を突き付けて言う。
「ふ~んだ!やってみなさいよ!!」
橙はあっかんべ~をしながら返した。
「上等じゃない、吹っ飛ばしてあげ……何よ、慧音」
霊夢の行動は慧音に遮られた。
「よく考えろ、霊夢。この橙は藍の式が憑いている」
藍の式が憑いていない時の橙は野性味が強い。
式が憑いている時、憑いていない時のどちらも良く知っている慧音は素早く見抜いたのだろう。
何故知っているかは、橙が里に来た時、偶に何かの拍子で式が剥がれる事があるからだ。
「そうだな……あの狐の式神が憑いているって事は………」
「当然、あの狐も居るって事ね」
魔理沙とレミリアが慧音の言わんとした事を言う。
「だから何よ?一気に吹っ飛ばせば問題ないでしょ?」
「落ち着きなさい、霊夢。あの狐が居るという事は、最悪、あの隙間も出てくるのよ?」
今度は咲夜が制する。
「紫か………」
霊夢も紫の力はよく知っている。
もし、紫が出てくるとなると、相当苦戦するだろう。
「だから、橙の相手は私に任せてお前達は先に行け」
「あなたが?」
レミリアが慧音に尋ねる。
「正直、この中では私が一番弱いだろう。が、それでも橙の相手くらいは出来るさ」
「確かに、妖夢だって確実に居るだろうしな。力の消耗は避けるのが吉だぜ」
「そうね……お願いするわ、慧音」
「ああ、任せておけ」
霊夢は慧音にそう言うと、橙を超えて冥界へと向かい、魔理沙達も同様に向かっていった。
「あ、ちょっと!!」
橙はそれを妨害しようとするが
「何処を見ている!」
「わひゃあっ!!」
慧音に弾幕を展開されて、動きを止められた。
「お前達が何を考えているか解らんが、異常気象は止めてもらわねば困るのでな」
「うぅ……慧音さんとは戦いたくないなぁ………」
里で慧音に良くして貰っている橙はそう呟く。
「私も出来ればお前とは戦いたくないよ。だが……お前も引けないのだろう?」
「う…うん……藍様の、命令だから……!!」
「ならば……悪いが、力ずくでまかり通るまでだ!!」
結界の手前で、慧音と橙が弾幕を展開した。



冥界・白玉楼へと続く階段

「相っ変わらず長い階段ねぇ………」
階段の上を飛行しながら霊夢は呟く。
「歩いて上ってるんじゃないだから良いじゃないの」
レミリアが霊夢にそう言う。
「飽きるのよ、景色が」
「それは同感だぜ」
「景色に飽きたか。ならば戻れば良い」
階段の上から声が響く。
まだ幼さが残る声が
「妖夢……お前が春度を集めてるってのは本当なのか?」
魔理沙が問い掛ける。
「答える必要はない」
が、妖夢はそう返した。
「馬鹿ねぇ……否定しないという事は肯定しているのと同じじゃない」
レミリアがクスクスと笑いながら言う。
「答えなさい、妖夢。なんで春度を集めているの?」
今度は霊夢が妖夢に問い掛ける。
「答える必要はない」
が、再び妖夢はそう返した。
「ふぅ………じゃあ、力ずくかしらね?」
「だったら私に任せなさい。霊夢」
咲夜が霊夢にそう言った。
「そうね……まだあの狐も出てないし、そうしようかしら」
霊夢はまだ後ろに控えているであろう、藍、幽々子、そして紫の事を考えてそう言った。
「ええ、そうして頂戴」
咲夜もそう言って霊夢と魔理沙を先に行かせた。
妖夢は事の外、二人に手出しせずに通した。
「あら?良いのかしら?通しちゃって」
咲夜は妖夢に問い掛ける。
「私の後ろには藍さんが居る。あの方をそう簡単に抜ける筈は無い」
「そう?でも、私も合流したら解らないんじゃない?」
咲夜はナイフを取り出しながらそう言った。
「合流する?お前が博麗の巫女達とか?笑えない冗談だ!!」
妖夢も楼観剣と白楼剣を抜き放つ。
「咲夜、私は観戦してるからね」
「はい。お嬢様はごゆっくりなさってて下さい」
レミリアは咲夜にそう告げて、少し下がった所で腰を下ろした。
「行くぞ!十六夜咲夜!!」
「来なさい!魂魄妖夢!!」
白玉楼の階段に、刃の光が激しく煌いた。



白玉楼・門前

「やっぱり居たのね、狐」
「八雲藍だ。何度か顔をあわせてるんだ。名前くらい覚えろ」
藍は霊夢にそう言う。
「で、お前は知っているのか?幽々子が何をしようとしているのか」
ここまでくれば、今回の騒動の主犯は幽々子であると当たりを付けられる。
紫が主犯なら、妖夢を使うような事は無いだろうし、何よりもっと上手くやるだろう。
「それはお前達が知る事ではない」
「つまり、あんたも知らないって訳?」
「さぁな……知りたければ力ずくで口を割らせてみたらどうだ?」
藍が袖から腕を出す。
いつも腕を組んで互いの袖の中に腕を入れているが、藍がその姿勢を止めた。
恐らくは、本気で戦うという意思表示だろう。
その証拠に
「っ!!……なんて妖気だ!!」
「流石に……洒落にならない妖気ね………」
藍の発する妖気に霊夢も魔理沙もたじろいでいる。
「今回は故あって前回のように遊んでやらん………全力で行くぞ」
藍の妖気が更に凄い物になる。
「ちょっ………こいつ、こんなに凄かった訳?」
「反則だぜ、これは………」
今の藍を相手にすれば、霊夢も魔理沙も、二人掛りで全力を出さざるを得ない。
この後に控えている幽々子や紫の事を考えて温存、等と言う生易しい事をすれば、間違いなく負ける。
「行くぞ!霊夢!!魔理沙!!」
藍が二人に襲い掛かってきた。


ボゴゥッ!!


「ぐあっ!?」
が、突如、藍が炎に包まれた。
「な、何だ!?」
藍は辺りを見回した。
霊夢も魔理沙も炎を扱う事は無い。
つまり、これは第三者の攻撃。
「事情は慧音から聞いたよ。こいつは私が相手をするから、あんた達は先に行きなよ」
「妹紅!?」
現れたのは、不死身の蓬莱人、藤原妹紅だった。
「妹紅……邪魔をするのか?」
「あんたの事は嫌いじゃないよ。けど、異変を起こしてるのはそっちみたいだからね。悪いが、邪魔するよ」
「霊夢!今の内に行くぞ!」
「解ってるわ!!」
藍が妹紅に気を取られた隙を突いて、霊夢と魔理沙が藍の脇を通り抜けていった。
「しまった!!行かせるか!!」
「お前もな!!」
藍が霊夢と魔理沙を追おうとした瞬間、妹紅が藍に攻撃を仕掛けた。
「くっ!!」
「あんたの相手は私だよ。藍」
「今から追っても間に合わないか……良いだろう………不死のお前が相手なら不足は無い。八雲紫が式、八雲藍の力!とくと見るが良い!!」
白玉楼の門前で、常軌を逸した光景が展開された。



白玉楼・庭

「漸くここまで付いたぜ………」
「思えば色んな犠牲があったわ……」
「いやいやいや…勝手に殺すな、霊夢」
「冗談よ」
「酷い冗談だぜ。さて、黒幕のお出ましのようだぜ」
黒幕といっても、どこかの「黒幕~」の事ではない。
「やっぱり来たわね……霊夢、魔理沙」
幽々子の登場だ。
「幽々子。あんた一体何考えてる訳?まさか、また西行妖を咲かせるつもり?」
「いえ、西行妖は関係ないわ」
「じゃあ何よ?」
「貴女には関係ない事よ。それに、必要な春度はもう直ぐ溜まる。溜まったら直ぐに返すから、帰ってくれないかしら?」
「生憎、私は直ぐに返してもらいたいのよ」
「せっかちね」
「寒いの、嫌いなの」
「あら?懐がいつも寒いからかしら?」
「余計なお世話よ」
「そうね。それで、帰ってくれないのかしら?」
「貴女が春を返さない限りはね」
「だから、もう直ぐ溜まるし、溜まったら返すって言ってるじゃないの」
「私は今すぐ返してもらいたいって言ったでしょ?」
「平行線ね」
「じゃあ、どうする?」
「一々聞く事かしら?」
「そうね!夢想封印!!」
「続くぜ!!ミルキーウェイ!!」
「今回は負けられないのよ!!絶対に!!ゴーストバタフライ!!!」
色鮮やかな球、七色の星、そして蝶の弾幕が飛び交う。
「抵抗するな!さっさとやられろ!!」
「貴女達こそさっさと帰りなさい!!」
三者共に弾幕を避けながら叫ぶ。
「訳があるならちゃんと説明しやがれ!!」
「貴女達には関係ないと言っているでしょう!!」
「西行妖が関係ないなら、なんで春度を集めるのよ!!」
「何度も言わせないで頂戴!貴女達には関係ないわ!!」
「だったら力ずくで聞き出してやるわよ!!夢想封印・集!!」
「こいつも食らえ!ノンディクショナルレーザー!!」
「言っているでしょう!!負けられないのよ!!リポジトリ・オブ・ヒロカワ!!」
三者の上級のスペルカードが飛び乱れる。
「しつこいわね!!陰陽玉!!」
「行くぜ!ブレイジングスター!!」
「この程度で……!!完全なる墨染の桜!!」
白玉楼の庭で凄絶な光景が繰り広げられる。
「本当に何なのよ!!」
「貴女達には関係ないって言っているでしょう!?良いから帰って頂戴!!」
今の幽々子は明らかにいつもとは違っていた。
前回の春雪異変の時よりも、更に真剣さが上だ。
だから、霊夢も魔理沙も不思議がっていた。
一体、幽々子にとって、ここまで必死になる事とは何なのだろうか?と。
少なくとも、彼女等に思い当たる事はない。
だが、さしもの幽々子もこの二人の全力を相手にしては流石にきつい。
徐々に押され始めた。
「う……くぅ………!!」
「さぁ、観念なさい!!」
「年貢の納め時だぜ!!」
二人の攻撃も激しさを増す。
「負けられないの……絶対に負けられないのよ!!反魂蝶!!!」
幽々子が姿を消し、同時に光線と弾幕の嵐が二人を襲う。
春雪異変の時の倍はあろうかと言うほどの激しさだ。
それほどまでに幽々子は必死だという事だろう。
「な、なんなのよ!!」
「なんだって……こんな!!」
霊夢と魔理沙も、その幽々子の様子に戸惑っていた。
普段ボケ~ッとしている彼女をここまで駆り立てる理由とは?
だが、幽々子も既に相当力を使っていたらしく、やがて力尽き、弾幕は解除された。
「ぐ……はぁ…はぁ…はぁ…………」
「終わりよ、幽々子」
「さぁ、説明してもらうぜ。なんで春度を集めていたんだ?」
霊夢と魔理沙が幽々子の前に立ち、尋ねる。
「教えないわ………」
「あんたねぇ………」
「じゃあ、一つだけ……」
「何よ?」
「言わないんじゃなくて、言えないの……これで察して頂戴」
「さっぱり解んないぜ?」
「つまり、私に聞かれたくないという事ね?幽々子」
突如として第三者の声が響く。
「紫!?」
霊夢が突如現れた紫の名を呼ぶ。
「ええ、私よ」
「紫……?起きてたの?」
「いいえ、起きてたんじゃなくて、今起きたの。あんまりドンパチドンパチと騒がしいからね」
「あら?それはごめんなさいね………」
「別に良いわ。それで、霊夢に魔理沙。なんで幽々子をここまでしてるのかしら?返答によってはただじゃ置かないわよ?」
笑顔で言うが、その奥には殺意が秘められている。
「そりゃこっちが聞きたいのよ。急に春度を集め始めて、理由を聞いても教えてくれないし」
が、霊夢は臆す事もなく答えた。
「春度を?」
「西行妖は関係ないわよ、紫」
紫が尋ねてきそうな事に先に釘を刺す幽々子。
「じゃあ、何で?」
「紫も起きちゃったし、そろそろ頃合かしらね………」
幽々子は質問には答えずにそう言った。
「ねぇ、紫。貴女の所の藍にも協力してもらってたから、呼び戻してもらえるかしら?」
「藍も?解ったわ」
それから数十分ほど経って、霊夢達の所に皆が集まった。



白玉楼・館内

霊夢達は幽々子に案内されて館内を歩いている。
「で、なんだって春度を集めてた訳?」
霊夢は幽々子に尋ねる。
「それは直ぐに解るわ」
霊夢達は、幽々子が必要な春度が集まったので、用が済み次第直ぐ返すと言うので、
とりあえず、何をしようとしていたのかを見届ける事にした。
「で、藍。貴女は知っていたのよね?」
紫は藍に尋ねる。
「はい」
「それは私にも教えられない事?」
「はい」
「どうしても?」
「はい。後でどのような仕置きをされようとも、答える事は出来ません」
「そう」
紫はそれで黙ってしまった。
因みに、橙は現在藍におんぶされている。
流石に、慧音との戦いで消耗しすぎたようだ。
他の面々も少なからずボロボロではある。
レミリアを除いて。
「着いたわ」
そう言って、幽々子はとある部屋の前で止まった。
「この間は………」
妖夢がその部屋の名前が書いてある札を見上げながら呟く。
「紫陽花の間………私ですら入るなって言ってた場所よね?」
紫が幽々子に尋ねる。
「ええ。でも、それも今日まで」
幽々子はそう言うと、浮き上がって、部屋の名前が彫られている札の所へと浮遊する。
そして、札の真ん中の部分をパカッとはずした。
「紫陽花の間」の「陽花の」の部分だけが、パカッと外れたのだ。
そして、その下から出て来たのは



「紫 ノ 間」


「紫の間?紫ってこの紫よね?」
霊夢が紫を見ながら言う。
「ええ、ここは紫の為に作った部屋なのよ」
「私の為に?」
紫が不思議そうな顔で尋ねる。
「ええ。それじゃあ入りましょう」
そう言って、幽々子が紫の間の戸を開いた。
その先には





「何だこりゃ?」
魔理沙が開口一番、そう言った。
明らかに呆れの入った口調だ。
「何?この凄まじく殺風景な部屋は………と言うか、屋外じゃない」
その部屋は、正確には部屋ではなく、庭の様になっていた。
ただ、問題は……
「土と枯れ木しかないじゃないか」
慧音の言うとおり、土と枯れ木だけが乱雑に並んでいた。
「しかも、なんだ?この木の配置は………滅茶苦茶じゃないか」
その様子を見て妹紅が言う。
「幽々子、これって何かの嫌がらせ?」
霊夢が幽々子に尋ねる。
「失礼ね。そんな訳ないでしょ。妖夢、向こうから春度を撒いて来て頂戴」
「あ、はい」
妖夢は幽々子から春度を渡された。
「そうそう、ついでだから貴女達も手伝ってくれる?本当は今日の所は紫以外入れる気なかったけど、特別に入れてあげたんだから、それくらいは良いでしょう?」
「面倒ね………」
「ま、それで今回の騒動が終わるならさっさと済ませようぜ」
「それもそうだな」
幽々子に言われ、紫と幽々子を除いた面々が春度を撒きに行く。
因みに、レミリアも行ったが、春度を撒く様子はない。
「さ、紫。私達は特等席に行きましょう」
幽々子はそう言うと、空へと上がり始めた。
紫もそれに続いて上がる。
上空から見下ろしてみるが、やはり、殺風景だ。
枯れ木の色も土の色と一体化して、ただの茶色い空間にしか見えない。
「何が始まるの?幽々子」
「良いから良いから♪」
暫くして、妖夢達が、一番奥の木から春度を撒き始めた。
「この木々はね」
同時に幽々子が語り始めた。
「今から約千年前に、一年に一本ずつ植えてきたの」
そして、木が春度の影響で花を咲かせ始める。
美しい、桜の花を。
「それでね、記念すべき千本目がついに花を咲かせられるほど成長したから、それを紫に見せたかったのよ」
果たして、紫はその言葉が耳に入っていたのだろうか?
もしかしたら、入っていなかったかもしれない。
なぜなら……
枯れている間は解らなかったが、花が咲き始めて次第に「それ」がなんなのか解っていく。
大地と言う名のキャンパスに描かれていく「桜の文字」
すべてが咲いた時、そこには、奥から縦書きでこう書かれていた。






「唯一無二の親友 八雲紫へ
 親愛と敬愛を込めて 幽々子」




「ふふ……凄いでしょ?配置とか考えるの大変だったのよ?」
幽々子は笑顔で紫の方を見る。
そして、紫は



微笑みながら涙を流していた。


「貴女……この為に、春度を?」
「一斉に咲いてくれないと綺麗に見えないじゃない?だから、来年からは無理かもしれないけど、最初の一回だけは紫に綺麗に見て欲しかったのよ」
「馬鹿ね……貴女……私の為なんかに………こんな…………」
「私は紫が一番大切なの。妖夢よりも、幻想郷よりも、誰よりも、何よりも、貴女が大切なの」
幽々子は笑顔でそう言った。
「私も……私もよ………幽々子」
紫は止めようのない涙を流しながら、幽々子にそう返した。






幽々子はその日の内に春度を返し、幻想郷にはいつも通りの春が訪れた。
そして、紫の間は、春の間は二人だけの宴会場所として使われていく事となった。





-了-
風呂に入ってボヘ~っとしている時に思いついて、そのまま書きなぐってみました。
なんで思いついたのかは覚えてません。

自分の作品では妹紅が不遇な目にあっていたので、ちょっとかっこよく登場させてみました。
ちょっとですが………

後、桜が千年も同じ場所に立っていられるのか?という突っ込みはしないでくれると嬉しいです。
そこら辺はアレですよ。なんか特殊な加工とか何とか…………ダメですかね?(´・ω・`)

ともあれ、好評不評問わず、待ってます。
華月
[email protected]
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コメント



0.680簡易評価
1.10名前が無い程度の能力削除
ちょっと無理があると思う。
なんていうか・・・展開も急だし、終わり方が打ち切りみたいだった。
2.10名前が無い程度の能力削除
色々とこじつけみたいな感じが否めないなぁ…
ネタはいいんだけど、なんかオチが先走りしてるっていうか。
次に期待
3.10名前が無い程度の能力削除
ネタ自体は悪くないと思いましたが…
道中のバトルと桜のパートで構成されているのでしょうが、
バトルがあまりにも適当すぎるため、かなりお粗末な物に思えます。
5.30道端から覗く程度の能力削除
>妖夢が払い棒を突き付けて言う。
「霊夢が」では?
6.60華月作品を読み漁る程度の能力削除
戦闘の方はおまけみたいなものと考えれば面白かったです。
ただ幽々子がここまで頑なに春度を集める理由を
周りに隠さなくても・・・と思いました。
博麗の巫女を敵に回してまで・・・
あぁでも西行妖のときも敵に回していましたね。分からなくなってきた(笑)

>「私は紫が一番大切なの。妖夢よりも~
妖夢がちょっと可哀想(笑)

そして妹紅の扱いが良くて泣いた(オイw)
11.無評価名前が無い程度の能力削除
個人的には楽しく読めました。
ただ、最後がぶつ切りのような終り方なので、もう少し余韻の残るようなエピローグなどをつけてもらえればなおよかったと思います。
12.80名前が無い程度の能力削除
↓すみません、点数付け忘れてました::
13.無評価華月削除
勢い任せに書きすぎました。
バトルの描写が苦手なので避けていたら、かなり展開が急になってしまい、状況説明も少ないので、読んでる方が置いていかれる形になってますね……
今後はこのような事の無いよう、よく考えてから書くことにします。

ご指摘ありがとうございました。
23.40名前が無い程度の能力削除
端的に感じたことを申し上げると「展開に対する練り込み(設定?)が足りない(=やっつけ感がある)」でしょうか・・・.
著者様の文章力が申し分ないことを他作品から知っているだけに惜しまれます.
時間が掛かってもそれらの部分を練り上げた著者様の作品を読ませていただきたい.