Coolier - 新生・東方創想話

レミリアのとある一日2

2007/09/26 15:02:40
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この話は「レミリアのとある一日」の続きです。
先にそちらを読んでから見る事をお勧めします。
































「お嬢様…お嬢様……」
何時もの目覚ましの声が私の耳に響く。
「ん……んん………」
目を覚まして視界に入るのは、何時もどおり、従者の咲夜の顔。
「おはようございます、お嬢様」
「ええ、おはよう」
「お目覚めの紅茶の準備をして参ります」
「お願いするわ」
咲夜が出て行った後、私は着替えを済ませる。
そして、暫くしてからタイミングを見計らったようにドアがノックされた。
「咲夜でしょ?入って良いわよ」
「失礼いたします」
咲夜が室内に入り、テーブルの上に紅茶のセットを置き、カップに紅茶を注ぐ。
「咲夜、今日は月人の所に行くわよ」
紅茶を一口飲んで、私は咲夜に言う。
「永遠亭にですか?」
「ええ」
「どうしてまた、あそこに?」
まぁ、確かに私はあそこに自分から出向いた事なんて無かったしね。
永夜異変の時を除いて。
「ちょっとあそこの薬師に用があるのよ」
「そうですか。何かご用意する物は?」
「手ぶらも何だから、何か適当に土産になりそうなの見繕っておいて頂戴」
「畏まりました。では、早速準備をして参ります」
こういうのは咲夜に任せれば間違いないものね。
私は、相手が何を貰ったら喜ぶかなんて考えるのは苦手なのよ。
それにしても、日光を無効化できる薬……か。
幾らどんな薬を作れると言っても、出来る物なのかしらね?
それが出来れば吸血鬼の弱点が減るのよ?
しかも、かなり致命的な弱点が。
流石に、今回の私の注文ばかりは、あの天才薬師でも無理かしらね?
まぁ、ダメ元よね。
ダメならダメで、フランをあのワーハクタクの所に送らなくて済むしね。


一時間後

「お嬢様、準備が整いましたわ」
「そう。それじゃあ行きましょう」
私は咲夜を連れて紅魔館を出る。
「あ、お嬢様に咲夜さん。お出掛けですか?」
門番の中国が話しかけてきた。
「ええ、ちょっとした散歩よ」
「そうですか、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「無用な心配ね」
「それもそうですね」
笑いながら中国は言う。
本当、この娘は良い笑顔するわね。
ちょっと羨ましいわ。
あっと、出かける前にこいつにも頼みごと、と言うか命令しておかないと。
「中国」
「あ、はい、なんでしょうか?」
最近は中国と言っても反論しなくなったわね。
昔はすぐに「中国って言わないで下さいよ~」って講義してたのに。
張り合いが無くなって、なんか詰まらないわ。
それはともかく。
「私達が居ない間、フランの相手しておいて貰えるかしら?」
最近のフランは紅魔館の敷地内限定で好きな事をさせている。
勿論、粗相をしたら怒ったり叱ったりするわ。
そして、その監視をしてるのは大抵私か咲夜、そしてパチェ。
でも、パチェはあくまでフランが外に出そうになった時の歯止め役。
基本は私か咲夜が監視及び相手をしている。
で、今日は私と咲夜が出かけるから、中国にその役目を任せる事にするわ。
今のフランなら無闇に暴れる事も無いから問題はないでしょう。
それに、この娘も何か子供の扱い上手なのよね………
不思議だわ。
「しかし、門番は……?」
「良いわよ、別に」
「えぇ!?私の仕事をそんな簡単に掃き捨てるように言わないで下さいよ!!」
「しょうがないでしょ?最近じゃウチに攻めてくる度胸のある妖怪なんて居ないし、来る奴と言えばあんたじゃ手に負えない霧雨魔理沙くらい」
「あうぅぅ…………」
「それに、この時間じゃあいつも来ないし、仮に他のが来てもフランに遊ばせてあげなさい」
別に弾幕ごっこに興味がなくなったわけじゃないから喜んで戦うわよ、あの子。
大体、不法侵入者に一々温情かける必要ないもの。
「わ、解りました………」
「それじゃあ行ってくるわね」
「あ、はい。いってらっしゃいませ~」
紅魔館を出た私と咲夜は一直線に竹林を目指した。


迷いの竹林


この竹林は普通の者が入り込めば簡単に迷ってしまう。
同じような風景がひたすらに続き、自分がどの方向に進んでいるのか解らなくなってしまう。
加えて、迷いやすいように結界まで敷かれているのだから性質が悪い。
まぁ、私達くらいの力なら遠くの相手の位置を感じ取れるから問題にはならないわ。
その方向に向かって進めば良いだけだもの。
「うん?」
あら?何か聞き覚えのある声が………
「貴女達は……上白沢慧音、それに藤原妹紅だったかしら?」
咲夜が声のした方を向くと同時に、見つけた二人の名前を尋ねる。
「ああ、そうだよ。あんたらは確か、レミリアに咲夜……だっけか?」
「あら?覚えていてくれるとは光栄ね、藤原妹紅」
ちょっと、私にも喋らせなさいよ、咲夜。
もしかして、さっき中国の所で喋らせなかった仕返し?
「妹紅でいいさ。で、あんたらこんな所で何してるのさ」
「ちょっと月人の薬師に用があるのよ」
やっと喋れたわ。
まぁ、流石に咲夜も主の用件を勝手に口にするほど出すぎた事はしないか。
「永琳に?」
「ええ。貴女達こそ何の………」
言いかけて止めた。
そう言えば聞いた事がある。
この藤原妹紅と永遠亭の姫君、蓬莱山輝夜は殺し合う仲だとか何とか。
大方、今夜もその理由で来たんでしょうね。
「察したようだね。その通りだよ」
「そっちのワーハクタクは何で一緒に居るのよ」
「私か?私は妹紅達がやり過ぎないか監視してるだけだ」
あんた、本当貧乏くじ引きまくってるわね。
「やりすぎるって…悪いけど、貴女じゃ二人の戦いを止められないんじゃないの?」
あ、咲夜の言うとおりだわ。
こいつも弱いわけじゃないけど、あの蓬莱人二人の戦いはかなり血生臭いものね。
お互い死なないし、スペルカードルールに則る必要なんて無いから、本当、純粋な殺し合い。
いえ、死なないのだから壊し合い、かしらね?
そんな中に突っ込んでいけるのは、幻想郷広と言えども、限られてくるわ。
当然、私は平気よ?
何の義理も無いからそんな事するつもりは毛頭無いけど。
「ああ、確かに私じゃ止められんな。が、私が止めるのは戦いの方じゃないよ」
「じゃあ何?」
「前に文の新聞に載ったことが無かったか?山火事の事が」
「ちょっ!?慧音!?」
山火事?
大体、あの鴉天狗の新聞自体殆ど読んでないわ。
「確か、小火が起きて、妹紅と月の姫君で止めたと言う内容だったかしら?」
あら?そんな事があったの?と言うか咲夜、何時の間にあの新聞読んでたわけ?
「ああ、そうだ。が、実際は……まぁ、妹紅の弾幕を知ってれば解るだろう?」
この蓬莱人の弾幕は火を纏っている事が多い。
つまりはそう言う事ね。
「本人同士が合意の上で戦い合うのに一々口出しはせんが……周りに被害を出すとなれば話は別だ」
殺し合いに合意もくそもないと思うけどね。
まぁ、でも確かに、ウチの方にとばっちり来たりしたら流石にタダじゃおかないわね。
「ご苦労な事ね」
「ああ、私もそう思うぞ」
咲夜の言葉にワーハクタクが頷く。
「うぅぅぅ………」
蓬莱人が唸っちゃってるわ。
それにしても………
「ねぇ、蓬莱人にワーハクタク」
「ちゃんと名前で呼べ。私達の名前を知らんわけじゃないだろう」
一々うるさいワーハクタクねぇ………
「所で………この、目の前に広がってる物騒なのは何?」
ある程度進んだところで、突然目の前に罠が張り巡らされていた。
けど、造りは粗く、罠である事がバレバレだし、作動する場所も丸見えだ。
「さぁな」
「さぁな、って貴女達しょっちゅうここに来てるんでしょ?」
知らないって言うの?
「私達もこんな物は初めて見るぞ」
う~ん……このワーハクタクが言うならそうなんでしょうね。
こいつはめったな事じゃ嘘吐かないし。
まぁ、嘘吐いても直ぐバレそうだけど。
「迂回しても良いんだけどねぇ………」
蓬莱人が辺りを見回しながら呟く。
まぁ、確かに、罠が見え見えだから迂回するのは楽だけど………
結構広範囲に仕掛けられてるから、迂回すると結構面倒ね。
「突っ切りますか?お嬢様」
「そうしましょうか。面倒だし」
「ま、見た所引っかかっても大した事無さそうだしね」
「油断は禁物だが……まぁ、気を付けながら行けば平気だろう」
そう結論付け、私達は突っ切ろうとした。
「待ちなさい」
けど、誰かに呼び止められた。
聞き覚えがある声ね………えっと、誰だっけ?
「あら?鈴仙」
そう、その名前だわ、咲夜。
「お久しぶりですね、メイド長、もとい、十六夜咲夜」
「あら?メイド長と呼んで良いのよ?」
「もう貴女の所のメイドではないから、そう呼ぶ気は無いわ」
「そう、残念ね。貴女達は優秀だったからあのまま居て欲しかったのだけど」
これは本音でしょうね。
なんせ、ウチのメイド達と来たら数居るだけで殆ど役に立たない。
まぁ、人手が必要な時は脅してでも働かせれば役に立つけど、普段は全然だものね。
咲夜が人材を欲しがるのも良く解るわ。
ただ、問題は誰も来てくれないって事なのよね………何でかしら?
こんなにも素晴らしい主が居るって言うのに。
「ほう、面白い。今夜はお前が相手か?」
蓬莱人ったら、早速戦闘態勢だわ。
「本当に、貴女はどうして直ぐそうなの?もしそうなら声も掛けずに攻撃してるわ」
呆れた様に鈴仙が言う。
「じゃあ、何だ?」
聞きながらも戦闘態勢は崩さないのね。
「姫様から頼まれたのよ。貴女達を連れて来なさいってね。まぁ、悪魔のお嬢様とその従者が居るのは想定外だったけど」
まぁ、そりゃそうでしょうね。
「輝夜が?どういう風の吹き回しだ?」
「さぁ?私は命令されたから来ただけよ」
「役に立たん使いっ走りだな」
「だったら自分達だけでここを突破してみる?言っておくけど、奥に行くほど洒落にならない罠が設置されてるわよ?」
「洒落にならないって?」
どんなのよ。
「足を引っ掛けたら音速で飛んでくる鉄球とか、目に見えない斬鋼線とか、まぁ、色々ね」
死ぬわね、普通の人間なら。
「貴女やレミリアなら兎も角、上白沢さんや十六夜咲夜は死ぬんじゃないかしら?」
確かに、時を止めても、見えない斬鋼線に首を引っ掛けたらお終いだものね………
「何だってそんな事をしてるんだ?何かまた良からぬ事でも企んでるのか?」
ワーハクタクが怪訝な顔で鈴仙に尋ねる。
「まぁ、その辺りは道すがら話すわ。ああ、でも、企みってのは無いわね。あったら招き入れる筈ないし」
それはそうね。
「やれやれ……どうする?妹紅」
「どうするもこうするも、私一人なら兎も角、慧音を連れてそんな道は突っ切れないよ」
「すまないな」
「気にしなくて良いよ。悪いのはこんな下らない事を考える輝夜だからね」
別にあそこのお姫様が考えた訳じゃないでしょうに。
「決まりね。貴女達は?」
「私達?一応、真っ当な用があって出向いてるから、罠に掛けられるのは御免ね」
咲夜を失うのも、ね。
「じゃあ、付いて来て。安全な道を教えるから」
そうして私達は鈴仙の後を付いて行った。

「で、なんだってこんな事になってるのよ?」
歩き出して少ししてから私は鈴仙に尋ねた。
「ああ、その事なら、ちょっと前の事になるんだけど………」


数日前

永遠亭の一室に、妖怪兎達が集められていた。
部屋には演説台の様な物があり、その横には永琳、鈴仙、てゐが控えていた。
そして、そこへ輝夜が姿を現し、演説台の前に立つ。
「皆……私は罠が好きよ。皆……私は罠が好きよ。皆……私は罠が大好きよ」
そして、そう切り出した。
「地雷が好きよ 落とし穴が好きよ シビレ罠が好きよ グラストラップが好きよ
平原で 街道で 森林で 竹林で 室内で この地上で行われるありとあらゆる罠が大好きよ
勢いよく突進してくる者を天高く吊り上げるのが好きよ
空中に吊り上げられた侵入者が必死になってもがく様は心が躍る
慎重に進んでいるものを落とし穴に落とすのが好きよ
匍匐全身をしている者が頭から穴に落ちる時など胸がすくような気持ちだったわ
隊列をそろえて進軍してきた者をグラストラップに嵌めるのが好きよ
横一列にいっせいに転げる様など感動すら覚える
決死の覚悟で特攻してくる者を丸太で吹っ飛ばすときなどはもうたまらないわ
雄叫びを上げる者たちがまとめて吹っ飛ぶ様も最高だわ

皆 私は罠を 悪夢のような罠を望んでいるわ
皆 私に付き従う永遠亭妖怪兎達 貴女達は一体何を望んでいるの?
更なる罠を望むのかしら? 情け容赦のない 鬼のような罠を望むのかしら?
傍若無人の限りを尽くし 三全世界の妖怪を嵌める 嵐の様な罠を望むのかしら?」
そこまで一気に輝夜は演説した。
「罠(トラップ)!!罠(トラップ)!!罠(トラップ)!!」
妖怪兎達が一斉に叫ぶ。
「良いわ。ならば罠(トラップ)よ!!」
その後も輝夜の演説は続いた。



「と言う様な事が………」
「あんたん所の姫様って本当、訳解らないわね………」
「私も偶に解らなくなるわ………」
従者にそう思われるのってどうなのよ?
ねぇ、咲夜。
「で、妖怪兎達はその影響を受けてトラップを作ったと?」
「ええ」
ワーハクタクの言葉に頷く鈴仙。
成る程、道理で作りが粗い訳ね。
流行に乗るような形で罠を仕掛け始めたのね。
そりゃ素人丸出しな訳だわ。
鈴仙の話を聞いている間に、何時の間にか永遠亭へと辿り着いた。
「着いたわね。ここから先は罠は無いわけ?」
一応聞いておかないとね。
「ええ、無いわよ。と言うか、さっき言ったような物騒な罠なんて本当は無いし」
「何!?」
ちょっ!?騙した訳!?
そりゃ私だって蓬莱人だって怒るわよ!!
「一般人も迷い込む事もある場所にそんなの仕掛ける訳無いじゃない」
しれっと言ってるわ、この娘………
「ああ、でも姫様が呼んでるのは本当よ?ああでも言わないと素直に付いて来ないでしょう?貴女達」
く………なんか、咲夜に似てるわ、この感じ。
「やってくれるじゃないか、ウドンゲ………」
「でも、お陰で面倒な道を回避できたのは本当でしょう?感謝される事はあっても恨み言を言われる筋合いは無いわ」
むぅぅ………本当に、なんか瀟洒な感じがするわ………
「瀟洒に鍛えすぎたかしら?」
その様よ、咲夜。
「まぁ、良いじゃないか、妹紅。お陰で早く着いたのは事実だ」
ワーハクタクが取りあえず、蓬莱人をなだめる。
「ふん………で、当の輝夜はどこだ?」
「そうね。案内するわ、こっちよ」
鈴仙はそう言って屋敷の中へと入っていく。
「けど、お姫様の影響で罠を作り始めたのは解ったけど、正直、稚拙ね」
咲夜が道すがら鈴仙に言う。
「まぁね。あの子達は殆ど素人だしね」
「貴女は違うの?」
咲夜が尋ねる。
「これでも一応、戦争してた場所に居たからね」
「逃げ出したけど、な?」
「妹紅」
嫌味な突込みを入れた蓬莱人をワーハクタクが嗜める。
「そう……ね」
やっぱり気にはしてるようね。
まぁ、同胞を置いて逃げてきたとなれば当然かしらね?
「気にする必要は無いわ。あそこの者達は貴女の能力を利用しようとしていただけ。命を道具扱いするような者の下に居る義理は無いでしょう?」
突然、別の声が現れた。
「師匠………」
「案内ご苦労様、鈴仙」
「永琳か。輝夜は何処だ?私に用があって呼んだのだろう?」
現れた薬師に、さっそく蓬莱人が噛み付く。
本当、こいつら相手になると凄まじく好戦的ね、こいつ。
「ええ、ここからは私が案内するわ。鈴仙、貴女は下がってなさい」
「あ、はい」
弟子の心情を察しての行動ね。
何だかんだ言って、この薬師も弟子には甘いみたいね。
っと、その前に。
「ちょっと待って。私は貴女に用があって来たのだけど?」
「あら、そうなの?でも、ちょっと待ってもらえるかしら?先にこちらの用件を済ませたいのよ」
「面倒ごとは御免よ?蓬莱人同士が殺し合いなんて始めても、時間掛かるだろうし」
その戦いに巻き込まれるなんて面倒な事は御免こうむりたいわ。
「大丈夫よ。今日は血なまぐさい事にはならないわ。良かったら貴女達も見ていったら?」
「見て行くって、何をよ?」
「それは見てのお楽しみね。どうせその用件が済まないと私も手が空かないし、どうかしら?」
ふむ………
まぁ、ただボケーっと待ってるのも退屈よね………
「良いわ。暇潰しくらいにはなるでしょ」
「そうね。退屈はさせないわ」
思いっきり含みのある笑いね。
「じゃあ、改めて案内するわ。付いて来て」
今度は薬師に案内され、私達は屋敷内を奥へと進んだ。

「ここよ」
暫く進んでから、とある部屋の前で薬師が止まった。
そして戸を開けて室内に入る。
「良く来たわね」
……………………え~っと……あれ、お姫様よね?
「咲夜」
「ええ、彼女は蓬莱山輝夜だと思われます」
そうよね。
あまりにも姿が違うから一瞬誰かと思ったわ。
「その格好は何だ、輝夜」
呆れが入った感じで蓬莱人が尋ねる。
「その格好」とは……なんて言ったかしら、あれ?
そう、確か忍装束だわ。
茶色っぽい忍装束に、髪を結って……ポニーテールだったかしら?
そんな格好のお姫様が部屋の奥の高台に腕組をして立っていた。
「見て解らない?忍装束よ」
「私が言いたいのは、何でそんな格好をしているのかって事だよ」
私も聞きたいわ。
「何でって、私が昔忍者をしていたからに決まってるじゃない」
はい?
「お前、頭大丈夫か?」
「失礼ね。妹紅よりはまともよ」
本当かしら?
「昔、偶然永遠亭を見つけた忍者が居てね。そいつを捕獲して色んな手を使って色々と吐かせたのよ」
色んな手……ねぇ………
薬とか使ったんでしょうね、きっと。
「で、そいつから忍者の事やらなにやら色々聞きだして、丁度暇だったから、習ってみたのよ」
忍者って暇潰しでやるものなのかしら?
まぁ、蓬莱人のお姫様の考える事は解らないわ。
「でも、習った事って試したくなるじゃない?それで、わざと外の忍者をそれとなく招き入れて、遊んでたのよ」
「初耳だな」
「それはそうでしょう。あくまで私が遊んでたのは人間相手。貴女とやってたのは殺し合い」
「ふん、それにしても、遊びで人を殺すとは、悪質だな」
「そう?私は、この永遠亭にお宝があるって噂をそう言う奴等に流してたの。で、彼等は来た訳よ」
この主を殺してでも、そのお宝を奪うために、という事ね。
「お宝の為なら人の命なんて知った事じゃない、って奴等に一々慈悲を掛ける必要なんて無いじゃない?」
「自分でおびき寄せておいて、よくも言う」
「でも、彼等が欲に目が眩んだりしなければ、そうはならなかった。結局、自業自得よ」
「ただの正当化だな」
「かもしれないわね。まぁ、人殺し同士が殺しあう。別に構わないでしょ?善良な市民を殺してた訳じゃなし」
「死なない奴が何を」
「あら?彼等が本当に突破できれば、ご褒美にお宝の一つ二つあげようって考えてたのよ?ただ、彼らは突破出来なかっただけ」
「で、この部屋に、その時の罠が満載されてるって訳?」
ふぅ…漸く蓬莱人とお姫様の会話に割って入れたわ。
「そう言う事。じゃあ、私の言いたい事は解るわよね?」
「つまり、私がここを突破出来れば、今回は私の勝ちだと言いたいのか?」
「ええ、そうよ、妹紅。でも、こっちも一つだけ制限を掛けさせてもらうわ」
「制限?」
「だって、貴女不死身じゃない。そんなのが罠で止まる訳無いでしょ?」
そう言えば、そうね。
まぁ、捕獲系の罠なら解らないけど。
「だから、こちらからの条件は一つ。5回、地雷に引っ掛かったら、貴女の負けという事にして貰うわ」
「地雷だと?」
「そう。この部屋には多くの地雷が埋まっているわ。貴女がそれに5回引っ掛かったら貴女の負け」
地雷って……物騒ね。
「5回引っ掛かる前にお前の下に辿り着ければ私の勝ち、か」
「その通りよ。偶にはこういう勝負も悪くないでしょ?」
「ふん……直ぐに吠え面かかせてやる!!」
そう言って蓬莱人が入り口から飛び出そうとする。
「待て!妹紅!!」
「な、何だよ慧音……」
が、制止されて止まる。
「迂闊に飛び出すな。地雷なんて本来床に埋まってる物だ」
そうね。
だから、飛んだらあっという間にクリア、だわ。
普通ならね。
「解ってるよ。恐らく、空中にも罠が仕掛けられてるって言いたいんだろう?そんな物、私には関係ないね」
まぁ、不死身だしね。
そう言って、蓬莱人は飛び出した。
「妹紅!!」
ワーハクタクは叫んだ。
が、遅かった。
突然、蓬莱人の背面、斜め上方から球が打ち出された。
恐らく、空中に罠を起動する為の見え辛い糸でも張り巡らせてあるんでしょう。
蓬莱人はそれに引っ掛かったって訳ね。
勿論、そんな事に気付いてない蓬莱人は反応できる訳は無い。

ドガッ!!

「ぐぁ!?」
背後からの突然の衝撃に、蓬莱人はバランスを崩して地面に手を着きそうになる。
が、寸での所で止まる。
それはそうね。
地面に手を着いたら、そこに地雷があるかもしれないし。
しかし、ホッとする暇も無いわ。
すぐさま、今度は横から矢が飛んできた。
「…っ!!」
一瞬、受け止めようかと考えたようだけど、避けたわ。
賢明ね。
矢なら何か塗られててもおかしくないものね。
しかして、まぁ、本当に良く考えてるわね。
避けたと思ったら、今度は、避けた先の床から煙が吹き出したわ。
「ぐっ!?こ…れは………」
蓬莱人の意識が朦朧としている。
催眠ガスか何かかしら?
「も、妹紅!」
ワーハクタクが叫んだ。
そりゃそうね。
蓬莱人はそのまま地面に倒れ伏していったのだから。
そして、倒れこむと同時に、当然のごとく………


カチッ……



ドゴォォォォォォンッ!!!



「うぐぁ!?」
やっぱり地雷ね。
あ~あ~…垂直に吹っ飛んでるわ。
丁度、お腹の真下にあった見たいね。
「まず、一回」
「…っぐ!!」
衝撃で目を覚ました様ね。
その後は酷かったわ。
恐らく、打ち上げられた先にも罠があったんでしょう。
空中で姿勢制御した蓬莱人にまたまた罠が襲い掛かり、
避けたと思ってもその先にまた罠。
ならば、今度は受けてやる、と飛び出してきた球を受け止めたら、受け止めた球が破裂し、またもや睡眠ガス。
そして、眠りに落ちて、倒れた所に地雷。
今度は、吹っ飛ばされた時の角度の問題で、壁のほうに吹っ飛び、壁に足をつけて着地(?)したら、
今度は、その壁に地雷があって、また爆破。
破れかぶれに蓬莱人が特攻を掛けたら、まるで、お見通しとばかりに、特攻を妨害するような罠の嵐。
蓬莱人はあっという間に5回地雷に引っ掛かってしまったわ。

「う……ぐぅ………」
地面に倒れ付して呻く蓬莱人。
「勝負あり、ね。妹紅」
「く…そぉ………」
しっかしまぁ……恐ろしいほどコーメイな、もとい、巧妙な罠ね。
人間(?)心理を的確に突いた罠の連続だったわ。
恐ろしいったらありゃしない。
「地雷夜、健在ですね」
「ふふふ……懐かしい響きだわ」
じらいや?
「何だ?その地雷夜と言うのは?」
ワーハクタクも気になったのか、薬師に尋ねる。
「姫様の忍者時代の字(あざな)よ」
「ありとあらゆる罠を駆使し、しかし、最後は必ず地雷で仕留める」
「そしてついた呼び名が、地雷の輝夜。略して地雷夜。数多の忍者に恐れられていたものですね」
ご丁寧にお姫様と薬師が説明してくれる。
まぁ、確かに、今見た限り、見事な罠の置き方だったわ。
今回は威力の調整してたみたいだけど、本物の威力だったら、恐らく簡単に人を殺せるでしょうね。
そりゃ恐れられもするわね。
「さて、それじゃあ妹紅はお返ししようかしら」
そう言って、お姫様は投げナイフのような物、クナイだったかしら?それをあらぬ方向に投げた。
すると

ガコッ!!

「うわ!?」
「妹紅!?」
突然、蓬莱人が倒れていた床が開いた。
「輝夜、貴様!既に勝負はついただろう!!」
ワーハクタクが食って掛かる。
「落ち着きなさい」
が、お姫様は冷静に返す。
そして、

バカンッ!!

「ふあ!?」

ドサッ!!

突然、私達の後ろの床が開いて、蓬莱人が放り出された。
「だ、大丈夫か!?妹紅!!」
「うぅぅ……体が痛い………」
まぁ、あれだけ地雷に吹っ飛ばされればね………
「あの罠の中を突っ切って妹紅を回収なんて出来ないでしょ?だから手荒だけど、送り届けてあげたのよ」
確かに、あの中は突っ切れないわ。
まだ罠は残ってるでしょうし………
というか、どういう仕掛けかしら?今の。
いえ、それ以前に……あのお姫様、あの蓬莱人が最後にあそこで倒れるのを予測していたと言うの?
だとしたら……空恐ろしいわね。
「さ、お帰りはあちらよ。妹紅」
「ぐ……二度とお前とこんな勝負しないからな………」
流石に分が悪すぎるものねぇ………
「あら、残念ね」
「こんなのこっちが不利すぎる………」
「いえ、そういう残念じゃないわ」
「何?」
「貴女は近い内、また、私の罠に挑む事になるわ」
「ふざけるな、二度と御免だ」
「ふふふ……まぁ、何れ解るわ。何れ………ね」
含み笑いをしながらお姫様は言う。
「さて、それじゃあ今度はこちらの用件を良いかしら?八意永琳」
あ、そうだった。
すっかり私達の用事を忘れてたわ。
流石ね、咲夜。
「ええ、良いわよ。じゃあ、場所を変えましょうか」
私達は再び薬師に案内され、屋敷内を歩いた。
因みに、ワーハクタクと蓬莱人は、てゐとか言う兎の案内で先に帰って行った。

今度はちゃんとした客間に通され、私達は座布団の上に座った。
「咲夜、あれを」
「はい」
まずは、手土産を渡す。
「あら?良いお酒じゃない。悪いわね」
「ちょっと頼みたい事があってね。その依頼料みたいなものよ」
「なるほど。それで、頼みって何かしら?」
「貴女、どんな薬でも作れるって話よね?」
「ええ」
不老不死の蓬莱の薬なんて物を作れるのだから、満更嘘でもないのよね。
さて、私の依頼する物は作れるのかしら?
「だったら、貴女、私達吸血鬼が日光の下で活動できるような薬って作れるかしら?」
まぁ、そんな物があったら吸血鬼の天下になっちゃいそうだけどね。
「ええ、あるわよ」
まぁ、やっぱり無理よね………………って、何ですって!?
「あ、ある?既にあると言うの!?」
「ええ。理論上は、だけどね」
「う、嘘でしょ!?」
そんな馬鹿な!
そんな、私達の弱点を消してしまうような物が!?
「理論上は、と言うと?」
咲夜が鋭く突っ込む。
「試してないのよ。当然でしょ?だってそんな薬の効果を試せるような相手なんて少ないし」
それはそうね。
妖怪達の中でも日光は苦手な者は居ても、日光の下で活動くらいは出来るわ。
「副作用は?」
またまた鋭く突っ込む咲夜。
確かに、副作用は気になるわね。
「勿論、あるわ。何の危険も無く弱点を消せる訳は無いでしょう?」
それは確かにそうね。
「まぁ、それでも貴女達にはそれほど気にならない副作用だと思うわ」
「その副作用って何よ?」
「単に、薬の効果中は力が半減するだけよ」
十分、気になりそうだとは思うけど………
「日光に晒されただけで体が崩れていくのに比べれば、なんて事は無い副作用でしょう?」
そうよね。
まったく活動できないのと、力が半減しても、活動できるのとでは大違いだわ。
何より、私達の力が半減したところで、まだ、私達に匹敵するような者なんてそうそう居ないし。
まぁ、流石に半減したら霊夢や魔理沙、それに他の地域のトップクラスには負けるけどね。
真っ向からの力勝負なら、だけど。
「ちょっと待ってて頂戴。今、持って来るわ」
「ああ、ちょっと待って。後、こう言うのあるかしら?」
私は来る前に密かに書いて置いたメモを薬師に渡す。
「……ええ、あるわ。じゃあ、それも含めて持ってくるから、待ってて頂戴」
そう言って薬師は出て行った。
「お嬢様、何を頼まれたのですか?」
「貴女は気にしなくて良いのよ、咲夜」
そう、気にしなくて良いの。
私が勝手にやってる事だから。
暫くしたら薬師が戻ってきたわ。
「まずは、日光から身を守る薬ね」
そう言って薬師は小さな瓶を私達に見せる。
その瓶のラベルにはこう書かれていた。




ヒヨケルミンS



う~ん………よくよく、この薬師のネーミングセンスは解らないわ。
「一回一錠で8時間は持つわ」
8時間……まぁ、夏場でも無い限りは十分な効果時間ね。
「で、こっちがさっきのに書かれていたものね。効果の方は保証するわ。既に実証済みだし」
そして、今度は中くらいの箱を差し出してそう言った。
因みに、その「実証」は、やっぱり鈴仙なのかしらね?
「悪いわね、こっちは手土産一つなのに二つも用意してもらって」
「気にしなくて良いわ。さっきも言ったけど、その薬はまだ試験してないのよ」
「ああ、つまり、私で試せるって訳ね」
「ええ。だから、もう一つと貰ったお土産で等価交換よ」
「成る程ね。じゃあ、有難く頂いて行くわ」
「そうして頂戴。ああ、それから、使ったら一応感想を聞かせてもらえると嬉しいわ」
「面倒だから嫌よ。ただ、問題があったら怒鳴り込みに来るわ」
「それはそれで解り易くて良いわね。まぁ、機会があったら教えて頂戴」
「機会があったら、ね」
あるかどうかなんて知らないけど。
「さて、用も済んだし……帰るわよ、咲夜」
「はい」


紅魔館

「ん~………疲れた。咲夜、お茶を用意して」
「はい、畏まりました」
部屋に戻ってきた私は、伸びをしてから咲夜にそう命じた。
それから、貰ってきた瓶を見る。
「これ、本当に効くのかしらね?」
まぁ、効かなかったら本当に怒鳴り込みに行くけど。
瓶を眺めていると、咲夜が戻ってきた。
「それ、お使いになるのですか?」
「まぁ、フランで試す訳には行かないでしょ?」
絶対に。
「ダメだったらダメで怒鳴り込みに行くだけよ」
「左様ですか」
紅茶を注ぎながら咲夜は答える。
「ああ、そうだ。その箱の奴、咲夜にあげるわ」
「え?私にですか?」
紅茶を注ぎ終えて、咲夜が驚いた顔をする。
「別に大したもんじゃないから期待しない方が良いわよ」
本当に大したもんじゃないし。
「開けてもよろしいですか?」
「ええ。期待だけはしないようにね」
私はそう言いながら紅茶を啜る。
「これは………」
私があの薬師に頼んだ物。
それは滋養強壮剤。
咲夜ったら、殆どの事を一人でこなしてるからね。
その内ぶっ倒れないか心配だわ。
「………ありがとうございます、お嬢様」
「ちょっ………べ、別に貴女の為じゃないわよ!私が!貴女が倒れたら私が困るのよ!あくまで私の為よ!!」
だから、そんな嬉しそうな顔でお礼言わないでよ。
恥ずかしいじゃないの。
「それでも、ありがとうございます」
「べ、別に良いって言ってるでしょ!」
恥ずかしくなって思わず顔を背けてしまったわ。
咲夜ったらそんなに嬉しそうな顔して、まったく……………
その代わり、これからもちゃんと私に仕えなさいよ?




因みに、例のヒヨケルミンSはちゃんと薬師の言った通りの効果だったわ。
ま、流石と言っておこうかしらね。







-了-
え~………途中でやっちゃいました。少佐ネタ。
原文はもっと長いんですが、長くなりすぎるので短くしました。
後、ちょっと妹紅と輝夜のやりとりが多くなりすぎちゃいましたかね………
因みに、レミリアはツンデレだと思います。
そう思うのは自分だけですか?そうですか………(´・ω・`)

ともあれ、好評不評問わず、待ってます。
華月
[email protected]
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コメント



0.1070簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
ニートハイル!!(てるよ万歳)
4.70名前が無い程度の能力削除
妹紅と輝夜のとこは妹紅視点だと尚嬉しかったかも。
ちょっとだけ瀟洒になったうどんげに惚れました。ツンデレお嬢様万歳!
7.80イスピン削除
うどんげは称号「なかなかに瀟洒な従者」を手に入れました。(某Tales風に)
8.100時空や空間を翔る程度の能力削除
鈴仙・・・・・成長したな~~。
・・・ふと・・・思い出したのですが・・・
紫さんの「新撰組三組隊長必殺剣」
完成したのかな~~?(古いネタを・・・・
気になる今日頃ごろです。
10.60華月作品を読み漁る程度の能力削除
何でだろう?
華月さんの作品に限らずなんですが、
輝夜VS妹紅のSSだといつも妹紅が酷い目にあってる気が・・・(泣)
20.100名前が無い程度の能力削除
ちょっw 少佐自重ww

一点誤字かな
>昔はすぐに「中国って言わないで下さいよ~」って講義してたのに。
講義ではなく抗議でしょうか
21.80無名し削除
誤字らしきものを発見。

・輝夜の罠に関する演説にて
「三全世界」ではなく「三千世界」なのではないでしょうか?