この話は、「藍のとある一日2」の翌日の話になります。
上記の作品を読んでから読まれる事を推奨いたします。
マヨヒガ・昼
ズズズズズ………
ふぅ……
やっぱり食後のお茶は良いわね。
そして、この食後のまったり感。
思わず眠りたくなるけど、今日は我慢しないとね。
なんせ、重要な用事がこの後あるのだから。
「あれ?珍しいですね、紫様」
居間でまったりしてると、私の式神の藍が声を掛けてきた。
「そう?」
「ええ、何時もは洗い物を終えると、大抵寝てるか出掛けてるかじゃないですか」
それもそうね。
「偶にはボーッとしたくもなるのよ」
「左様ですか」
「貴女はこの後どうするの?」
「食料の買出しですよ。先日、一気に一月分の食料を持って行かれましたからね」
藍はジト目で私を見る。
まぁ、買出しに行った当日に、その食料全部を食べ尽くされれば当然かもしれないわね。
でもね、藍。
あれは貴女が悪いのよ?
「そんな事もあったわね~…じゃあ、気を付けて行ってらっしゃいね」
「無用な心配です」
あら?今回はそうでもないのよ?
「それでは、行ってまいります」
「いってらっしゃい」
私は居間から出て行く藍を見送った。
そして、暫くして、藍がマヨヒガから出て行ったのを見計らってから隙間を開く。
「お邪魔するわねぇ、紫」
出て来たのは私の大親友の幽々子。
「楽にして良いわよ、幽々子」
まぁ、幽々子の場合、言わなくてもそうするのは解ってるわ。
「あら?まだ私だけ?」
「もう少ししたら彼女達も呼ぶわ」
その前に少し幽々子と話がしたいしね。
「あ、そうだ。紫」
「何かしら?」
「昨日は妖夢がお世話になったみたいねぇ」
流石と言うかなんと言うか。
私が話そうとしていた事を先に切り出してくれたわ。
「別に私は何もしてないわよ」
「藍は紫の式でしょ?だから、紫にも言って置かないとと思ってねぇ。あ、勿論、藍には後で言うわよ~?」
律儀ねぇ……
ま、それは兎も角。
「これで幽々子も暫くは馬鹿食いする必要なくなったわね」
「そうね~」
幽々子の異常食欲には理由があるわ。
普通に考えれば、幽々子は亡霊。
幽霊の一種、即ち、食料なんて必要ないわ。
でも、幽々子は食べる。
幽々子は亡霊だが、味覚は残っているから。
人間の時の名残か、「食べる」時の味覚が忘れられないのでしょう。
でも、お腹は膨れない。
それは当然。
何せ、幽体なのだから、物体を取り込んでも無意味。
幽々子は食べ物を口に入れ、飲み込んで喉を通す時に、意識してかしないでか「死を操る能力」で、その食物を「殺す」。
元々、命のあるものなら、その能力で殺されても肉体は残る。
ただの肉の塊として。
でも、食物は、言ってみれば既に死んでいるわ。
魚とかがそうであるように。
それをもう一度「殺す」事で、その物体は消滅する。
これが幽々子がいくらでも食べれる理由。
入った先から消えていくのだから、ブラックホールなんてレベルじゃないわ。
だから、幽々子が「満腹」と言う時は、味わう事に満足したと言う事なの。
だったら一月分もの食料を三日で食べるのには何の訳がと言うと………
「妖夢ったら、全然私の考えに気付いてくれないんだもん~」
「そうねぇ……まぁ、少し解り難かったかもしれないけど、あの子もまだまだねぇ」
幽々子とて最初から一月分の食料を三日で食べてた訳じゃないわ。
最初は偶に大食いをして、食料の底を尽かせると言う事をしていた。
何でそんな事をしたのか?
それは
「私はもっと妖夢に色んな者と接して、色々な事を経験して欲しいのよね~」
と言う、幽々子の気遣いね。
食料が底を尽けば、当然、妖夢は買出しに行く。
その際に、必然的に人の里に降りる事になる。
幽々子としては、この時に、妖夢に色々な人間と接して欲しかったのでしょう。
様々な存在と接する事で得られる事は多いわ。
それは、私自身、体験で身を以って知っている。
だけど、生真面目な妖夢は、買出しだけをさっさと済ませて帰ってしまう。
「最近のあの娘、大分悩んでたわよねぇ」
「そういう時こそ、誰かに打ち明けるとかをして欲しいのよねぇ……私以外にも…ね」
けど、今まで人の里で殆どの者と接点の無かった妖夢は、結局、誰にも打ち明けられずに抱え込んでしまった。
それを、先日、藍が軽くしてあげたと言うわけね。
わざと馬鹿食いをして、妖夢を悩ませて、追い詰め、そして誰かに打ち明けるように仕向ける。
結果、妖夢は人と接する事の重要さを知る。
これこそが、幽々子の馬鹿食いの本当の理由。
妖夢自身はそれを悩みの種としていたのでしょうけど、本当は、それこそが妖夢を思っての行動。
それが解らないとは、やっぱり、あの娘はまだまだ半人前ねぇ………
「前に紅魔館に出向かせたのも、それを狙ってたんでしょ?」
「妖夢の可愛い服見たかったのも本音だけどね~」
まぁ、そうでしょうけどね。
その後、暫く幽々子と雑談を交わした。
内容は主にお互いの従者の事。
本当、あの子達は話題に事欠かないのよねぇ。
「さて、そろそろ呼びましょうか」
「そうね~」
小一時間程話をしてから、私は切り出した。
そして、まずは小さく隙間を開いて向こうの様子を拝見………
ん、大丈夫そうね。
そして、今度は大きめの隙間を開いて彼女達をこちらに招き入れる。
因みに、今日呼ぶ事は既に話してあるわ。
「そう言えば、ここに来るのって初めてだったわね」
「姫は幻想郷の大半の場所が「初めて」になりませんか?」
「否定しないわ」
まずは、月のお姫様とその従者。
「いらっしゃい、蓬莱山輝夜に八意永琳」
「お邪魔するわよ」
「もう邪魔してますけどね」
そして
「これは空間制御の一種かしら?空間を隔離できるなんて、便利ね」
紅魔館の動かない大図書館のご来場。
「私の能力の一端だから、考えても解らないわよ」
解ると言う事は私と同様の事を出来ると言う事だもの。
「そう。まぁ、いいわ」
「あら?紅魔館の魔法使いだったかしら?」
お姫様が尋ねる。
「パチュリー・ノーレッジよ。覚えるかどうかは好きにすれば良いわ」
「そう。ああ、私達は……」
「レミィから聞いてるわ。引き篭りのお姫様に危険な薬剤師でしょ?」
「名前は聞いていないのかしら?」
その別称に否定はしないのかしら?危険な薬剤師さん。
「蓬莱山輝夜に八意永琳で良いのよね?」
「知ってるならそっちの名前を言いなさいよ」
「そうね。次からそうするわ」
何か、良い性格してる者が集まったわねぇ………
面白くて良いんだけど♪
「それにしても、この娘にも参加させる事にしたの?」
「ええ、普段から面白そうな事してるから、こっち側に引き入れたほうが面白くなりそうだと思ったの」
「別に面白い事してるわけじゃないわ。害虫駆除のために仕方なく、よ」
その割には貴女が罠考えたりしてる時の顔って楽しそうにしてたわよ?
「彼女の参加は不満かしら?お姫様」
「別に不満は無いわ。賢者の石作れるくらいだもの、能力不足という事は無いでしょう」
それもそうね。
「あら?そう言えば、あの狐はどうしたの?」
「藍の事?買い物に行ってるわ」
「それは知られたくないと言う事?」
「そうねぇ……藍が誰かに言う事はまず有り得ないのだけど、口煩く言って来るのが面倒だから外に行ってて貰ったわ」
だから、昨日急遽幽々子を呼んで食材を片付けてもらったって訳。
本当だったらあの位の食材の量なら、昨日でなく今日買出しに行くと踏んでたんだけど………
藍も心配性なのかしらねぇ……まさか、昨日の内に買出しに行くなんてね。
でもまぁ、お陰で妖夢と話せて幽々子の思惑も良い方向に進んだわけだし………
本当、人生万事塞翁ヶ馬って奴ね。
「けど、買い物程度なら直ぐに帰ってくるんじゃないの?貴女、洗濯物取り込む気なさそうだし」
貴女だってそういう事しないでしょうに、お姫様。
「その点は抜かりないわ。「あの子」にお願いするし」
「あの子?」
そうねぇ……もう「来ている」みたいだし、ついでだから顔合わせさせておこうかしら。
「紫、会わせてあげたら?」
本当、貴女とは考えが合うわね、幽々子。
さて、それじゃあ境界を弄ってっと………
「んぁ?」
「貴女は………」
ああ、そう言えば、この魔女っ子ちゃんは前に会った事があったわね。
「あんれ~?あ、紫、また境界弄ったね?」
その通りよ、萃香。
「誰?この娘……その角は………?」
「恐らく鬼かと思われます、姫。名前は確か……伊吹萃香…だったかしら?」
あら?よく知ってるわね。
「あれ?会った事あったっけ?まぁ、私はあんた達の事は知ってるけど」
「いえ、会うのは初めてよ。前に暇つぶしに読んだ鴉天狗の新聞に載ってたのを思い出したわ」
「あ~…そう言えば取材された事あったね~」
言いつつお酒を飲む萃香。
まぁ、何時もの事ね。
「この萃香の能力は「密度を操る程度の能力」よ」
「密度……?ああ、なるほど。それで見えなかったのね」
本当、引き篭ってる割には頭の回転早いのよねぇ、このお姫様。
「そして、貴女は彼女の能力を利用して自分の式神の帰宅を妨害するわけね?」
「てっきり私にやらせると思ったわ」
能力聞いただけで私のやろうとした事も読む所は、流石、と言っておきましょうかね。
「でも、紫。今の時間だと橙も居るんじゃないの?」
「そうね。だから萃香、最初は人の里の方から弱めに降らせてもらえるかしら?」
「はいは~い」
萃香は能力を使い「雨雲」を幻想郷全体に集め始める。
勿論、私の隙間を介して。
そして、人の里の方にやや多めに雨雲を集め、小雨をぱらつかせ始める。
これで、橙も濡れる前にどこかに雨宿りできるでしょ。
「頃合を見計らって、幻想郷全体に一気に降らせてくれるかしら?」
「あいよ~」
小雨をぱらつかせる程度から始めると、藍の足だと帰ってくる恐れがあるのよね。
「そう言えば、永琳。イナバも里に行ってなかったかしら?」
イナバって一括りにされても誰か解らないわ。
まぁ、里に行くと言ったら、あのうどん娘の事でしょうけど。
「問題ありません。うどんげの持っている薬箱は完全防水性ですから」
「あら、なら問題ないわね」
うどん娘の心配は一切無いのね。
「あ、妖夢も里に降りてたんだったわ」
「妖夢も?何でまた?」
まさか、あの後、白玉楼の食料も食い尽くしたんじゃないでしょうね?
「何でも、藍にお礼がしたから、何か買って来たいって言ってたわ」
なるほど、主従そろって律儀ねぇ。
「ちょっと見てみるわね……」
隙間を開けて妖夢の様子を見る。
「……大丈夫ね。心配ないわ」
「そう?良かったわ~」
雨脚は強まったが、既に藍も妖夢も雨宿りをしていたわ。
「さて、それじゃあそろそろ本題に入りましょうか」
そう、今回彼女達を呼んだ理由。
私の一大計画を実現させる第一歩。
「草案は既に出来てるわ」
そう言ってお姫様は薬剤師の分もまとめて草案を提出し、公開する。
「お姫様のは………あら、随分過激なのね」
「ふふふ……ちょっと昔の血が騒いだのよ………」
「地雷夜、再びですね」
じらいや?
確か、昔、忍者にそう言う名前のが居た気がするわ。
「それで、薬剤師のは~………あら~…随分変わった事が出来るのねぇ」
幽々子は先に薬剤師の方を見ていた。
確かに、これはまた、変則的ね………
「月の科学力を応用した物でね、こういう事が出来るのよ」
「良いわね。とても面白そうだわ」
本当に。
良い物持ってるじゃない、月人。
「私はこんな所かしら?まぁ、普通のだから期待しないほうが良いわよ」
こらこらこら、そこの魔女っ子。
どこが普通なのよ。
思いっきり面白そうじゃないの♪
「へぇ……良いじゃない、シンプルそうだけど、逆にそこが良いわ」
「そうですね。これはこれで面白いかと」
お姫様と薬剤師も気に入ったようだわ。
「じゃ、次は私ね~」
さてさて、幽々子のは…………?
ちょっ……幽々子…これは…………
「こ、これは………」
「なんと………」
「迂闊……こんな狡猾な罠があったなんて………」
これは…凄いわね……
まるで無駄が無いわ。
「どれどれ~?……うわ、こりゃ酷いねぇ………幽々子って悪魔じゃない?」
私も一瞬そう思ったわ、萃香。
「そぉ?妖夢をいぢめる事を普段から考えてると、結構思いついちゃうのよね~」
くれぐれも妖夢に仕掛けるのは止めなさいね、幽々子。
あの子、間違いなく泣くわよ?
「なんか、妖夢が可哀想になって来たよ、私」
まぁ、大丈夫よ、萃香。
これは幽々子の愛情表現だから。
歪んでるかも知れないけどね♪
「さて、それじゃあ後は貴女達ね」
お姫様が私と萃香に向けて言う。
「ああ、言い忘れたけど、萃香は人寄せをするだけど、こちらには関与しないわ」
「あら?そうなの?」
「ま~ね~…私の場合は小細工するよりガツンッ!とやる方が性にあってるしね~」
鬼らしいと言えば、らしいわね。
けどまぁ、前に貴女が起こした宴会騒ぎの時は思いっきり小細工だった気がするけどね。
「じゃあ、お楽しみの八雲紫のを見せてもらおうかしら?」
含み笑いをしながらお姫様は言う。
勿体ぶってもあれだし、見せてあげましょうかしらね。
「これよ」
そう言って私は私の草案を見せる。
「……………流石、八雲紫ね」
お褒めに預かり、光栄だわ、お姫様。
「これは酷いわね……相手が可哀想だわ」
何言ってるのよ、薬剤師。
そうじゃなきゃ意味が無いし♪
「亡霊のお姫様も酷いと思ったけど……これはそれ以上ね………」
ありがとう、魔女っ子ちゃん♪
「流石紫ね~…私ももっと煮詰めないといけないかしら?」
それも良いわよ、幽々子。
「やっぱり紫は敵に回したくないね~」
そうでしょうとも♪
「ところで、薬剤師。一つ気になったんだけど………」
「何かしら?」
「貴女のこれ、致命的な弱点があるわよね?」
「ええ。だから、私のフロアは上の方にして貰おうかと考えてるんだけど」
「それについてだけど、一つ、良い案があるのよ」
「良い案?」
私は新たな草案を提出する。
「………なるほど、これなら確かに…」
薬剤師も納得する内容だったようね。
まぁ、私が考えた事なんだから当然だけど。
「でも、「あの子」をどうやって呼ぶの?」
「その辺は任せて頂戴」
「ふ~ん………まぁ、いいわ。貴女がそう言うなら大丈夫でしょう」
あら?信用してくれるのね、お姫様。
「本当、よくよく思いつくもんだよね~紫は」
「あら?だって紫だもの」
そう言う事よ、萃香。
「それで、決行は何時にするのかしら?準備期間とかもあるから出来れば明確に知りたいんだけど?」
魔女っ子ちゃんの言う通りね。
まぁ、それも考えてあるのだけれど。
「決行は来年の桜が散った頃でどうかしら?私はもうすぐ冬眠に入っちゃうしね」
冬眠明けの春先はゆっくりお花見したいしね。
「解ったわ。それだけあれば準備は問題ないもの」
「そうね、私も問題ないわ。永琳は?」
「私も問題ありません」
「私も良いわよ~お花見終わってからの方が私も都合が良いしねぇ」
満場一致で可決ね。
「それじゃあ、そろそろお開きにしましょうか」
「そうね」
「詳細は私が冬眠から覚めてから機を見計らって追って知らせるわ」
「それまでに準備を済ませておけ、って事ね?」
「そう言う事よ、薬剤師」
「さ、それじゃあ隙間を開いてあげるから、お開きにしましょう」
「じゃあ、そろそろ雨止めておくよ~」
「ええ、お願いね」
そうして皆、各々の場所に帰って行った。
さて、企画は殆ど整ったわ。
後は、実行に移すだけね………
ふふふ………今から楽しみだわ。
-了-
上記の作品を読んでから読まれる事を推奨いたします。
マヨヒガ・昼
ズズズズズ………
ふぅ……
やっぱり食後のお茶は良いわね。
そして、この食後のまったり感。
思わず眠りたくなるけど、今日は我慢しないとね。
なんせ、重要な用事がこの後あるのだから。
「あれ?珍しいですね、紫様」
居間でまったりしてると、私の式神の藍が声を掛けてきた。
「そう?」
「ええ、何時もは洗い物を終えると、大抵寝てるか出掛けてるかじゃないですか」
それもそうね。
「偶にはボーッとしたくもなるのよ」
「左様ですか」
「貴女はこの後どうするの?」
「食料の買出しですよ。先日、一気に一月分の食料を持って行かれましたからね」
藍はジト目で私を見る。
まぁ、買出しに行った当日に、その食料全部を食べ尽くされれば当然かもしれないわね。
でもね、藍。
あれは貴女が悪いのよ?
「そんな事もあったわね~…じゃあ、気を付けて行ってらっしゃいね」
「無用な心配です」
あら?今回はそうでもないのよ?
「それでは、行ってまいります」
「いってらっしゃい」
私は居間から出て行く藍を見送った。
そして、暫くして、藍がマヨヒガから出て行ったのを見計らってから隙間を開く。
「お邪魔するわねぇ、紫」
出て来たのは私の大親友の幽々子。
「楽にして良いわよ、幽々子」
まぁ、幽々子の場合、言わなくてもそうするのは解ってるわ。
「あら?まだ私だけ?」
「もう少ししたら彼女達も呼ぶわ」
その前に少し幽々子と話がしたいしね。
「あ、そうだ。紫」
「何かしら?」
「昨日は妖夢がお世話になったみたいねぇ」
流石と言うかなんと言うか。
私が話そうとしていた事を先に切り出してくれたわ。
「別に私は何もしてないわよ」
「藍は紫の式でしょ?だから、紫にも言って置かないとと思ってねぇ。あ、勿論、藍には後で言うわよ~?」
律儀ねぇ……
ま、それは兎も角。
「これで幽々子も暫くは馬鹿食いする必要なくなったわね」
「そうね~」
幽々子の異常食欲には理由があるわ。
普通に考えれば、幽々子は亡霊。
幽霊の一種、即ち、食料なんて必要ないわ。
でも、幽々子は食べる。
幽々子は亡霊だが、味覚は残っているから。
人間の時の名残か、「食べる」時の味覚が忘れられないのでしょう。
でも、お腹は膨れない。
それは当然。
何せ、幽体なのだから、物体を取り込んでも無意味。
幽々子は食べ物を口に入れ、飲み込んで喉を通す時に、意識してかしないでか「死を操る能力」で、その食物を「殺す」。
元々、命のあるものなら、その能力で殺されても肉体は残る。
ただの肉の塊として。
でも、食物は、言ってみれば既に死んでいるわ。
魚とかがそうであるように。
それをもう一度「殺す」事で、その物体は消滅する。
これが幽々子がいくらでも食べれる理由。
入った先から消えていくのだから、ブラックホールなんてレベルじゃないわ。
だから、幽々子が「満腹」と言う時は、味わう事に満足したと言う事なの。
だったら一月分もの食料を三日で食べるのには何の訳がと言うと………
「妖夢ったら、全然私の考えに気付いてくれないんだもん~」
「そうねぇ……まぁ、少し解り難かったかもしれないけど、あの子もまだまだねぇ」
幽々子とて最初から一月分の食料を三日で食べてた訳じゃないわ。
最初は偶に大食いをして、食料の底を尽かせると言う事をしていた。
何でそんな事をしたのか?
それは
「私はもっと妖夢に色んな者と接して、色々な事を経験して欲しいのよね~」
と言う、幽々子の気遣いね。
食料が底を尽けば、当然、妖夢は買出しに行く。
その際に、必然的に人の里に降りる事になる。
幽々子としては、この時に、妖夢に色々な人間と接して欲しかったのでしょう。
様々な存在と接する事で得られる事は多いわ。
それは、私自身、体験で身を以って知っている。
だけど、生真面目な妖夢は、買出しだけをさっさと済ませて帰ってしまう。
「最近のあの娘、大分悩んでたわよねぇ」
「そういう時こそ、誰かに打ち明けるとかをして欲しいのよねぇ……私以外にも…ね」
けど、今まで人の里で殆どの者と接点の無かった妖夢は、結局、誰にも打ち明けられずに抱え込んでしまった。
それを、先日、藍が軽くしてあげたと言うわけね。
わざと馬鹿食いをして、妖夢を悩ませて、追い詰め、そして誰かに打ち明けるように仕向ける。
結果、妖夢は人と接する事の重要さを知る。
これこそが、幽々子の馬鹿食いの本当の理由。
妖夢自身はそれを悩みの種としていたのでしょうけど、本当は、それこそが妖夢を思っての行動。
それが解らないとは、やっぱり、あの娘はまだまだ半人前ねぇ………
「前に紅魔館に出向かせたのも、それを狙ってたんでしょ?」
「妖夢の可愛い服見たかったのも本音だけどね~」
まぁ、そうでしょうけどね。
その後、暫く幽々子と雑談を交わした。
内容は主にお互いの従者の事。
本当、あの子達は話題に事欠かないのよねぇ。
「さて、そろそろ呼びましょうか」
「そうね~」
小一時間程話をしてから、私は切り出した。
そして、まずは小さく隙間を開いて向こうの様子を拝見………
ん、大丈夫そうね。
そして、今度は大きめの隙間を開いて彼女達をこちらに招き入れる。
因みに、今日呼ぶ事は既に話してあるわ。
「そう言えば、ここに来るのって初めてだったわね」
「姫は幻想郷の大半の場所が「初めて」になりませんか?」
「否定しないわ」
まずは、月のお姫様とその従者。
「いらっしゃい、蓬莱山輝夜に八意永琳」
「お邪魔するわよ」
「もう邪魔してますけどね」
そして
「これは空間制御の一種かしら?空間を隔離できるなんて、便利ね」
紅魔館の動かない大図書館のご来場。
「私の能力の一端だから、考えても解らないわよ」
解ると言う事は私と同様の事を出来ると言う事だもの。
「そう。まぁ、いいわ」
「あら?紅魔館の魔法使いだったかしら?」
お姫様が尋ねる。
「パチュリー・ノーレッジよ。覚えるかどうかは好きにすれば良いわ」
「そう。ああ、私達は……」
「レミィから聞いてるわ。引き篭りのお姫様に危険な薬剤師でしょ?」
「名前は聞いていないのかしら?」
その別称に否定はしないのかしら?危険な薬剤師さん。
「蓬莱山輝夜に八意永琳で良いのよね?」
「知ってるならそっちの名前を言いなさいよ」
「そうね。次からそうするわ」
何か、良い性格してる者が集まったわねぇ………
面白くて良いんだけど♪
「それにしても、この娘にも参加させる事にしたの?」
「ええ、普段から面白そうな事してるから、こっち側に引き入れたほうが面白くなりそうだと思ったの」
「別に面白い事してるわけじゃないわ。害虫駆除のために仕方なく、よ」
その割には貴女が罠考えたりしてる時の顔って楽しそうにしてたわよ?
「彼女の参加は不満かしら?お姫様」
「別に不満は無いわ。賢者の石作れるくらいだもの、能力不足という事は無いでしょう」
それもそうね。
「あら?そう言えば、あの狐はどうしたの?」
「藍の事?買い物に行ってるわ」
「それは知られたくないと言う事?」
「そうねぇ……藍が誰かに言う事はまず有り得ないのだけど、口煩く言って来るのが面倒だから外に行ってて貰ったわ」
だから、昨日急遽幽々子を呼んで食材を片付けてもらったって訳。
本当だったらあの位の食材の量なら、昨日でなく今日買出しに行くと踏んでたんだけど………
藍も心配性なのかしらねぇ……まさか、昨日の内に買出しに行くなんてね。
でもまぁ、お陰で妖夢と話せて幽々子の思惑も良い方向に進んだわけだし………
本当、人生万事塞翁ヶ馬って奴ね。
「けど、買い物程度なら直ぐに帰ってくるんじゃないの?貴女、洗濯物取り込む気なさそうだし」
貴女だってそういう事しないでしょうに、お姫様。
「その点は抜かりないわ。「あの子」にお願いするし」
「あの子?」
そうねぇ……もう「来ている」みたいだし、ついでだから顔合わせさせておこうかしら。
「紫、会わせてあげたら?」
本当、貴女とは考えが合うわね、幽々子。
さて、それじゃあ境界を弄ってっと………
「んぁ?」
「貴女は………」
ああ、そう言えば、この魔女っ子ちゃんは前に会った事があったわね。
「あんれ~?あ、紫、また境界弄ったね?」
その通りよ、萃香。
「誰?この娘……その角は………?」
「恐らく鬼かと思われます、姫。名前は確か……伊吹萃香…だったかしら?」
あら?よく知ってるわね。
「あれ?会った事あったっけ?まぁ、私はあんた達の事は知ってるけど」
「いえ、会うのは初めてよ。前に暇つぶしに読んだ鴉天狗の新聞に載ってたのを思い出したわ」
「あ~…そう言えば取材された事あったね~」
言いつつお酒を飲む萃香。
まぁ、何時もの事ね。
「この萃香の能力は「密度を操る程度の能力」よ」
「密度……?ああ、なるほど。それで見えなかったのね」
本当、引き篭ってる割には頭の回転早いのよねぇ、このお姫様。
「そして、貴女は彼女の能力を利用して自分の式神の帰宅を妨害するわけね?」
「てっきり私にやらせると思ったわ」
能力聞いただけで私のやろうとした事も読む所は、流石、と言っておきましょうかね。
「でも、紫。今の時間だと橙も居るんじゃないの?」
「そうね。だから萃香、最初は人の里の方から弱めに降らせてもらえるかしら?」
「はいは~い」
萃香は能力を使い「雨雲」を幻想郷全体に集め始める。
勿論、私の隙間を介して。
そして、人の里の方にやや多めに雨雲を集め、小雨をぱらつかせ始める。
これで、橙も濡れる前にどこかに雨宿りできるでしょ。
「頃合を見計らって、幻想郷全体に一気に降らせてくれるかしら?」
「あいよ~」
小雨をぱらつかせる程度から始めると、藍の足だと帰ってくる恐れがあるのよね。
「そう言えば、永琳。イナバも里に行ってなかったかしら?」
イナバって一括りにされても誰か解らないわ。
まぁ、里に行くと言ったら、あのうどん娘の事でしょうけど。
「問題ありません。うどんげの持っている薬箱は完全防水性ですから」
「あら、なら問題ないわね」
うどん娘の心配は一切無いのね。
「あ、妖夢も里に降りてたんだったわ」
「妖夢も?何でまた?」
まさか、あの後、白玉楼の食料も食い尽くしたんじゃないでしょうね?
「何でも、藍にお礼がしたから、何か買って来たいって言ってたわ」
なるほど、主従そろって律儀ねぇ。
「ちょっと見てみるわね……」
隙間を開けて妖夢の様子を見る。
「……大丈夫ね。心配ないわ」
「そう?良かったわ~」
雨脚は強まったが、既に藍も妖夢も雨宿りをしていたわ。
「さて、それじゃあそろそろ本題に入りましょうか」
そう、今回彼女達を呼んだ理由。
私の一大計画を実現させる第一歩。
「草案は既に出来てるわ」
そう言ってお姫様は薬剤師の分もまとめて草案を提出し、公開する。
「お姫様のは………あら、随分過激なのね」
「ふふふ……ちょっと昔の血が騒いだのよ………」
「地雷夜、再びですね」
じらいや?
確か、昔、忍者にそう言う名前のが居た気がするわ。
「それで、薬剤師のは~………あら~…随分変わった事が出来るのねぇ」
幽々子は先に薬剤師の方を見ていた。
確かに、これはまた、変則的ね………
「月の科学力を応用した物でね、こういう事が出来るのよ」
「良いわね。とても面白そうだわ」
本当に。
良い物持ってるじゃない、月人。
「私はこんな所かしら?まぁ、普通のだから期待しないほうが良いわよ」
こらこらこら、そこの魔女っ子。
どこが普通なのよ。
思いっきり面白そうじゃないの♪
「へぇ……良いじゃない、シンプルそうだけど、逆にそこが良いわ」
「そうですね。これはこれで面白いかと」
お姫様と薬剤師も気に入ったようだわ。
「じゃ、次は私ね~」
さてさて、幽々子のは…………?
ちょっ……幽々子…これは…………
「こ、これは………」
「なんと………」
「迂闊……こんな狡猾な罠があったなんて………」
これは…凄いわね……
まるで無駄が無いわ。
「どれどれ~?……うわ、こりゃ酷いねぇ………幽々子って悪魔じゃない?」
私も一瞬そう思ったわ、萃香。
「そぉ?妖夢をいぢめる事を普段から考えてると、結構思いついちゃうのよね~」
くれぐれも妖夢に仕掛けるのは止めなさいね、幽々子。
あの子、間違いなく泣くわよ?
「なんか、妖夢が可哀想になって来たよ、私」
まぁ、大丈夫よ、萃香。
これは幽々子の愛情表現だから。
歪んでるかも知れないけどね♪
「さて、それじゃあ後は貴女達ね」
お姫様が私と萃香に向けて言う。
「ああ、言い忘れたけど、萃香は人寄せをするだけど、こちらには関与しないわ」
「あら?そうなの?」
「ま~ね~…私の場合は小細工するよりガツンッ!とやる方が性にあってるしね~」
鬼らしいと言えば、らしいわね。
けどまぁ、前に貴女が起こした宴会騒ぎの時は思いっきり小細工だった気がするけどね。
「じゃあ、お楽しみの八雲紫のを見せてもらおうかしら?」
含み笑いをしながらお姫様は言う。
勿体ぶってもあれだし、見せてあげましょうかしらね。
「これよ」
そう言って私は私の草案を見せる。
「……………流石、八雲紫ね」
お褒めに預かり、光栄だわ、お姫様。
「これは酷いわね……相手が可哀想だわ」
何言ってるのよ、薬剤師。
そうじゃなきゃ意味が無いし♪
「亡霊のお姫様も酷いと思ったけど……これはそれ以上ね………」
ありがとう、魔女っ子ちゃん♪
「流石紫ね~…私ももっと煮詰めないといけないかしら?」
それも良いわよ、幽々子。
「やっぱり紫は敵に回したくないね~」
そうでしょうとも♪
「ところで、薬剤師。一つ気になったんだけど………」
「何かしら?」
「貴女のこれ、致命的な弱点があるわよね?」
「ええ。だから、私のフロアは上の方にして貰おうかと考えてるんだけど」
「それについてだけど、一つ、良い案があるのよ」
「良い案?」
私は新たな草案を提出する。
「………なるほど、これなら確かに…」
薬剤師も納得する内容だったようね。
まぁ、私が考えた事なんだから当然だけど。
「でも、「あの子」をどうやって呼ぶの?」
「その辺は任せて頂戴」
「ふ~ん………まぁ、いいわ。貴女がそう言うなら大丈夫でしょう」
あら?信用してくれるのね、お姫様。
「本当、よくよく思いつくもんだよね~紫は」
「あら?だって紫だもの」
そう言う事よ、萃香。
「それで、決行は何時にするのかしら?準備期間とかもあるから出来れば明確に知りたいんだけど?」
魔女っ子ちゃんの言う通りね。
まぁ、それも考えてあるのだけれど。
「決行は来年の桜が散った頃でどうかしら?私はもうすぐ冬眠に入っちゃうしね」
冬眠明けの春先はゆっくりお花見したいしね。
「解ったわ。それだけあれば準備は問題ないもの」
「そうね、私も問題ないわ。永琳は?」
「私も問題ありません」
「私も良いわよ~お花見終わってからの方が私も都合が良いしねぇ」
満場一致で可決ね。
「それじゃあ、そろそろお開きにしましょうか」
「そうね」
「詳細は私が冬眠から覚めてから機を見計らって追って知らせるわ」
「それまでに準備を済ませておけ、って事ね?」
「そう言う事よ、薬剤師」
「さ、それじゃあ隙間を開いてあげるから、お開きにしましょう」
「じゃあ、そろそろ雨止めておくよ~」
「ええ、お願いね」
そうして皆、各々の場所に帰って行った。
さて、企画は殆ど整ったわ。
後は、実行に移すだけね………
ふふふ………今から楽しみだわ。
-了-
誤字が。
>妖夢が可哀想になった来たよ
なって来たよ かと。
修正いたしました。
ご指摘ありがとうございます。