水の中、月が孤独に揺らめいていた。
藤原妹紅は私だと、水中の月を見ていて気付いた。
私が月であるならば、妹紅はこの、水に映った月であった。
否――影は、私の方だ。
現に、妹紅から距離を置いた今、
私は自分が誰であったかを証明することが出来ないではないか。
私は妹紅の前から姿を消した。
今でも理由はよく分かって居ない。
今でこそ、弱っている姿を見られたくなかったんだ、等と理由付けしている。
でも……ただ、会いたくなかった。
だから、逃げた。
八意永琳は私だったと、ここに来て気付いた。
昔、永遠亭と呼ばれていた廃屋に。
永琳がイナバを弟子として見始めたときからこうなることは判っていた。
……いや、イナバを飼い始めた時からかもしれない。
私も永琳も、幾度となく経験したことだったから。
だから私は籠もって居たはずだった。
それでもイナバ達を飼い始めたのは……私も寂しかったから。
私も、永琳も、同じだった。
だから永琳を非難はしない。
尤も、したくてももう出来ないが。
弟子のイナバが死んだとき、永琳は
蘇らせてみせる、と言い自分の研究室に籠もるようになった。
屋敷の主二人が籠もっているのだ。
当然のようにイナバ達は、一人、また一人と姿を消していった。
しばらくして、永琳が私の部屋に飛び込んできた。
イナバを蘇らせる課程で偶然にも蓬莱の薬の効果を打ち消す薬を作ったらしい。
私には分かっていた。
永琳が元からそのつもりだった事を。
死んだ者が蘇ることと、永遠に生きること。
何処に違いが有るというのか……。
彼女は、蘇生薬は作らない。
永遠の時を過ごす辛さは、私たちが一番良く知っているから。
私の分の薬を残し、永琳は逝った。
一緒に、という言葉を拒否したのは多分まだ妹紅が残っていたから。
もう一つの自分を残し、逝くことは出来なかった。
兎に角、八意永琳という存在はこの世から姿を消したのだ。
そして、私もまた、妹紅の前から姿を消した。
今でも理由はよく分かって居ない。
今でこそ、弱っている姿を見られたくなかったんだ、等と理由付けしている。
でも……ただ、会いたくなかった。
だから、逃げた。
そういえば私は藤原妹紅だったなと、彼女を見て思い出した。
以前、八意永琳が私を訪ねてきた事があった。
どうせ輝夜がまた何か言い出したんだろうと思っていたが、
彼女は私に薬を渡して言った。
姫を頼む――と。
私が居るから、あいつは逝かなかったらしい。
そうまでして、私を殺したかったか。
それとも……。
慧音が死んだ後、この薬をすぐに使わなかったのはそのためだ。
折角、私を殺すために残ってくれたんだ。
せめて、私の手で殺してやるのが筋ってもんだろう?
――なのに、蓬莱山輝夜は、私の前から姿を消した。
あいつが居なくなってから、私は何をする気にもなれなかった。
何故だろうか……あんなにも憎しみ合っていたはずなのに。
ただ、探す、何てことは考えもしなかった。
だから、今日此処へ来たのは只の気まぐれだ。
永遠亭を訪れたのは。
だから、輝夜に会うなんて思っても居なかった。
いつも、薬は持ち歩いている。
私は蓬莱山輝夜だったと、彼女を見て思い出した。
今日、此処に来たのは只の気まぐれだった。
誣いて言うなら、月が綺麗だったから。
だから、妹紅に会うなんて思っても居なかった。
薬は、いつも持ち歩いている。
さあ――私ヲ殺シテクレ
水の中、ただ夜の闇が広がっていた。
藤原妹紅は私だと、水中の月を見ていて気付いた。
私が月であるならば、妹紅はこの、水に映った月であった。
否――影は、私の方だ。
現に、妹紅から距離を置いた今、
私は自分が誰であったかを証明することが出来ないではないか。
私は妹紅の前から姿を消した。
今でも理由はよく分かって居ない。
今でこそ、弱っている姿を見られたくなかったんだ、等と理由付けしている。
でも……ただ、会いたくなかった。
だから、逃げた。
八意永琳は私だったと、ここに来て気付いた。
昔、永遠亭と呼ばれていた廃屋に。
永琳がイナバを弟子として見始めたときからこうなることは判っていた。
……いや、イナバを飼い始めた時からかもしれない。
私も永琳も、幾度となく経験したことだったから。
だから私は籠もって居たはずだった。
それでもイナバ達を飼い始めたのは……私も寂しかったから。
私も、永琳も、同じだった。
だから永琳を非難はしない。
尤も、したくてももう出来ないが。
弟子のイナバが死んだとき、永琳は
蘇らせてみせる、と言い自分の研究室に籠もるようになった。
屋敷の主二人が籠もっているのだ。
当然のようにイナバ達は、一人、また一人と姿を消していった。
しばらくして、永琳が私の部屋に飛び込んできた。
イナバを蘇らせる課程で偶然にも蓬莱の薬の効果を打ち消す薬を作ったらしい。
私には分かっていた。
永琳が元からそのつもりだった事を。
死んだ者が蘇ることと、永遠に生きること。
何処に違いが有るというのか……。
彼女は、蘇生薬は作らない。
永遠の時を過ごす辛さは、私たちが一番良く知っているから。
私の分の薬を残し、永琳は逝った。
一緒に、という言葉を拒否したのは多分まだ妹紅が残っていたから。
もう一つの自分を残し、逝くことは出来なかった。
兎に角、八意永琳という存在はこの世から姿を消したのだ。
そして、私もまた、妹紅の前から姿を消した。
今でも理由はよく分かって居ない。
今でこそ、弱っている姿を見られたくなかったんだ、等と理由付けしている。
でも……ただ、会いたくなかった。
だから、逃げた。
そういえば私は藤原妹紅だったなと、彼女を見て思い出した。
以前、八意永琳が私を訪ねてきた事があった。
どうせ輝夜がまた何か言い出したんだろうと思っていたが、
彼女は私に薬を渡して言った。
姫を頼む――と。
私が居るから、あいつは逝かなかったらしい。
そうまでして、私を殺したかったか。
それとも……。
慧音が死んだ後、この薬をすぐに使わなかったのはそのためだ。
折角、私を殺すために残ってくれたんだ。
せめて、私の手で殺してやるのが筋ってもんだろう?
――なのに、蓬莱山輝夜は、私の前から姿を消した。
あいつが居なくなってから、私は何をする気にもなれなかった。
何故だろうか……あんなにも憎しみ合っていたはずなのに。
ただ、探す、何てことは考えもしなかった。
だから、今日此処へ来たのは只の気まぐれだ。
永遠亭を訪れたのは。
だから、輝夜に会うなんて思っても居なかった。
いつも、薬は持ち歩いている。
私は蓬莱山輝夜だったと、彼女を見て思い出した。
今日、此処に来たのは只の気まぐれだった。
誣いて言うなら、月が綺麗だったから。
だから、妹紅に会うなんて思っても居なかった。
薬は、いつも持ち歩いている。
さあ――私ヲ殺シテクレ
水の中、ただ夜の闇が広がっていた。