百十九季 水無月
久しぶりに逢ったあの日以来、魔理沙はちょくちょく家に来るようになった。まだまだ幼さの残る顔で生意気にも大
きな口を叩いて、私にお茶を出せだの、本を貸せだの、なんだか嫌になる。パッと見た感じ、お人形にして黙らせてみ
たらきっと可愛らしいのだけれど、それ以上に性格が不味い。霊夢ぐらい大人しければ……と思ってみても、あれも結
構曲者だし、それはそれで嫌かもしれない。霊夢は、ちょっとつかみ所が無さ過ぎる。
もう少し大人しくしてくれるなら、魔理沙も歓迎なのだけれど。何せあまり話し相手も居ないし、魔術やらの専門的
知識は、それこそ特定の人間としか語れない。マニアックなのね、私。
百十九季 水無月
今日も魔理沙が来た。どうやら図書館の魔女から本をくすねて来たらしい。笑いながらちょろいぜ、なんて言ってい
た。自分も被害にあっている者として、図書館の魔女には少々同情する。それにしても、今日はその子の話ばかり。
パチュリーノーレッジ。紫の髪が特徴的で、きっと着やせだ。と、魔理沙が言っていた。
今度一緒に行こうと誘われたので、私は適当に相槌を打つ。本当に自分勝手な子ね。
百十九季 水無月
結局、今日は無理矢理図書館へ連れて行かれてしまった。いつぞやのメイドにナイフを投げられたり散々であったけ
れど、図書館の蔵書量には流石に驚かされてしまった。これだけあれば自律人形の資料もきっとあるに違いない。
主にまた来ても良いかと訪ねたら、小声で構わないと言われる。大人しくて可愛いけれど、百歳らしい。
今日の魔理沙はずっとパチュリーと話し込んでいた。私に目をくれる事も無く、ここがああだこうだと一方的に喋っ
て、パチュリーはそれに頷くだけ。話ベタなのかもしれない。けれどどうも、嫌そうではなかった。
……私そっちのけっていうのも、ちょっと傷つく。
百十九季 文月
どこの誰が魔法の森に迷い込んできたのかと顔を出せば、魔理沙だった。行き成りマスタースパークって、ちょっと
冗談にならない。ホント勝手よね。
百十九季 文月
今日の魔理沙は、何時もより元気がなかった。宴会疲れかと思ったけれど、話を聞いてみれば霊夢と喧嘩したらしい。
霊夢、あの子結構ずばっと言ったり言わなかったりするから、きっとそれが原因だと思う。少ししおらしくなってし
まった魔理沙は、ちょっと可愛かった。不謹慎だけれど。
百十九季 葉月
月が可笑しかった。原因究明と言ってあまり自分から何かする方ではないけれど、こう月が可笑しいと体調まで崩れ
てしまう。私は魔理沙を連れ立って妖気を感じる方向へと向かう事にした。
人手が足りていたらあんたなんて連れ出さない、なぁんていってみたけれど、どうせ私の友人なんて限られるし、霊
夢はスキマに連れて行かれていたし、パチュリーはアレだし、ね。魔理沙しかいない。
なんだか散々な目にあったけれど、初めて魔理沙と共同作業するのは、少し楽しかった。ちょっと驚く程強くなった
気がしたし。思っていた以上に、相性が良いのかもしれない。
今後は、その辺りをちょっと考えてみよう。
百十九季 葉月
……大変な事をしてしまった。今日は人里でお祭りがある、と云うので、魔理沙に連れられて外へ出た。人形劇でお
小遣いも溜められたし、異常な月が明けてからというもの、皆活気が溢れていて、実にお祭りらしいお祭りで、満足し
た、まではいいのだけれど。
そのまま博麗神社に流れ込み、お酒を飲んだ後の記憶がなかった。翌朝起きてみれば、私とぴったりくっついた魔理
沙が隣に寝ていて、私は素っ頓狂な声をあげた挙句、五月蝿いと霊夢に引っ叩かれ、そのまま……具体的に記すのはや
めようと思う。きっと後で読んだら鬱になりそうだ。でも、嫌じゃなかった。
百十九季 長月
ココ最近魔理沙があまり現れない。今日久しぶりに現れたと思ったら、霊夢が霊夢がと散々愚痴った挙句に、お酒を
飲んで帰っていった。なんか悔しい。
百十九季 長月
珍しく霊夢が来た。気持ちの悪い家ね、と嫌味を言って淡々とお茶を飲む。何事かと思って話を聞けば、魔理沙が魔
理沙がとそればっかり。結局お酒をいれて、帰っていった。なんだか悔しい。
百十九季 長月
肝試しはもういらない。
百十九季 長月
すっかり仲直りしたのか、魔理沙は機嫌が良かった。一緒にお菓子作りなどして、ちょっと今までにない付き合い方
が新鮮でもあった。作ったお菓子をどうするのか、と聞けば、霊夢と香霖堂さんに持っていくらしい。なんか悔しい。
悔しい続きだったので、私も霊夢にお菓子でも持っていこうかなと言うと、真顔でそれはどうだろう、などと言われ
た。結構悔しい。
百十九季 師走
最近急に冷え込みがキツイ。その所為か、体調を崩してしまった。今日は薬を処方してもらおうと永遠亭に赴いたの
だけれど、そこで八意永琳に新薬を勧められた。ここのところ悔しい続きだから、何か良い夢でも見れれば良いなと思
って購入。夢の中の魔理沙はとても優しかった。でもやっぱりイジワルするけど、最後はちゃんと慰めてくれる。現実
でもこうなら良いのに。それにしても心地通い。
百十九季 師走
クスリの使い心地が素晴らしい、と報告したら、即刻止めさせられた。何よ、副作用ないって言ったくせに。
危なく中毒患者になる所だった。
嗚呼、あの夢はもっと見ていたかった。現実に立ち戻れば単なる変態だけれど……いいじゃない別に。他人に迷惑か
けるわけじゃないのだし。ああ、もう。名残惜しい。
百十九季 睦月
博麗神社へ大晦日と初詣。何時もの流れで飲み会。私はある程度人形劇を演じて、それからは飲む振りだけして皆を
観察した。魔理沙はちょっと飲みすぎだと思う。けれど、その方が都合がいい。
べろんべろんになっている所で、私は幾つか気になっている事を質問する。霊夢やその他との人間関係などなど。
腹黒いなと自分でも思うけれど、探究心は魔女の原動力であるから、仕方ない。仕方ないとする。
私の事はどう思っているのか、と聞いたら、お茶くみ小僧といわれた。頭に来たので、悪戯ついでに唇を奪ってみた
ら、そのまま逆に押し倒された。楽しければ何でも良いらしい。少し残念。
百十九季 如月
前々から、いや、結構前から思っていたけれど、私はやっぱり何処か可笑しいのだと思う。基本的に、あまり人間関
係を持っていないにしても、魔女だからにしても、少し可笑しい。香霖堂さんなどは、少し頼りなさそうで偏屈だけれ
ど、いい男だとは思う。なのだけれど、こう、女性としての食指が動かない。
そもそも、性的な欲求自体あまり大きくは無いし、誰かとくっつこう、と進んで思った事は、ない。
けれど、魔理沙はちょっと違う。人の話は聞かないし、好き勝手しているけれど、なんだかそこが可愛らしくて、む
かつくけど、嫌じゃなくて……駄目だ、纏まらない。寝て明日書いてみよう。
百十九季 如月
突然、魔理沙が私に泣きついてきた。何があったと聞けば、不可侵を装っていた霊夢が香霖堂さんにアピールしたと
かしていないとか。勘違いっぽいわね。霊夢、そんな風に見えないし。でも一応霊夢には感謝しておく。こんな可愛ら
しい魔理沙、そうそう見れるものじゃない。
……私は、ここぞとばかりに、これ見よがしに、優しくしてあげる。ずるいかもしれないけれど、人に付け入れなく
て何が魔女だっていうのかしら。魔理沙は、素直に私の気持ちを受け取ってくれた。
……それにしても、一体どっちに嫉妬したのかしら。
どちらにせよ、私に靡いてくれればな、なんて思う。そんな心配絶対させないのに。
言いたい。好きなのって言いたい。むかつくけど、やかましいけれど、人のモノ持っていっちゃうけれど、そんなの
も全部ひっくるめて、この子が好き。
私を少しでも頼りにしてくれるのは、貴女だけだもの。
百十九季 如月
何時の間にか魔理沙人形を作っていた事が、ある意味では本心を表しているのかもしれない。あまつさえ、それをベ
ッドに持ち込んで一緒に寝ている辺り、もう色々と引き返せないのかもしれない。
魔理沙が霊夢の話をしていると、イライラする。
魔理沙がパチュリーの話をしていると、イライラする。
魔理沙が香霖堂さんの話をしていると、イライラする。
魔理沙がたまに話す十六夜咲夜の事を語っていると、イライラする。
魔理沙が紅魔館の悪魔の妹の話をしていると、イライラする。
魔理沙が私と話してくれていると、安心する。
魔理沙が私を気遣ってくれたりすると、凄く幸せになる。
魔理沙が私の気に食わない事をすると、イライラするけれど、しょうがないなぁと思う。
魔理沙が私の家の物を持っていったりすると悔しいけれど、魔理沙が持っていてくれるなら、と思う。
魔理沙が私の家にお泊りして行く日は、多分人生で一番嬉しい日。
もう魔理沙しか見えていないのかもしれない。何故なんだろうと考えても、答えは出てこない。
今日魔理沙はこなかった。今日はどこで何をしているのだろう。
百十九季 弥生
今日は魔理沙の家に行った。相変わらず汚い。片付けられない女だ。確かそれって病気だったような気もするけれど、
気にしない。私だって病気みたいなものだ。私が片付けてあげると言うと、魔理沙が渋ったので、これだけ汚れていた
ら今まで忘れていた珍品も見つかるかも、なんて事を理由付けする。すると魔理沙は承諾してくれた。
片付けている間は暇だろうから何処かへ行っていたら、なんて進言もする。魔理沙は素直に頷いて、どこかへと消え
てしまった。
……いやらしい女だと思う。でも、このドキドキは堪らない。魔理沙の家。魔理沙の匂いがする。脱ぎ散らかされた
服なんて見つけて、歓喜してしまう。
そういえば、蒐集癖のある私を一人家に残すなんて何考えているのかしら、と思ったら。
しっかり見られていた。出入り禁止は、悲しすぎる。
百十九季 弥生
そりゃあね、自分の服の匂い嗅いで喜んでる変態なんて、家に入れたくないわよね。畜生。
百二十季 卯月
あれから大分経つけれど、もう暫く魔理沙と話していない。お花見に行ってもソッポを向かれるし、霊夢とくっつい
たまま動かない。
百二十季 卯月
今日も話していない。
百二十季 卯月
今日も話していない。
百二十季 卯月
今日も話していない。
百二十季 卯月
今日も話していない。
百二十季 卯月
(ペンをぐしゃぐしゃと走らせた後がある)
百二十季 卯月
(断片的に霊夢や魔理沙といった単語が見受けられるが、文章として成り立っていない)
百二十季 卯月
花が咲いている。考察するに、花は恐らく関係無く、ただ霊が依代にしているだけ。
嗚呼そうだ、マリーゴールドなんか摘んで、博麗神社にばら撒くのも良いかもしれない。花言葉なんて知らないわよね、
あの売女。
百二十季 卯月
魔理沙が来た。私は不機嫌な振りをして、適当にあしらう。何を怒っているんだと言われた。本当は怒るべきは、魔
理沙であるような気もするし、忘れるのもどうかと思うけれど、都合が良いので水に流した。
……嬉しすぎる。取り敢えず、一番良いお茶とお菓子で持て成してあげる。
有難うと言われた。死んでも良いと思えた。
百二十季 皐月
もう離すまいと思う。魔理沙が居ない時間ときたら、これほど無駄なものは無いように思えた。研究にも身は入らな
いし、考えも纏まらない。頭の中が魔理沙だらけだ。
けれど、この歪んだ気持ちを告白しても、きっと一蹴されるに違いない。私は単に友達だと思われているのだろうし、
前科もあるし。憂鬱で仕方ない。
(以下は魔理沙の名前が数十行に渡ってみっしりと延々綴られている)
百二十季 水無月
魔理沙に今日はどんな日だったか、と聞いてみる。知るわけないっか。けれど、家に居る事は間違いないので、少し
豪華な夕飯を用意した。今日は何の日だったか、誕生日か、違うか。そんな事をぼやいていたけれど、結局思い出せな
かったらしい。いや、元から覚えていないのかもしれない。
久しぶりに再会した日なのだけれど。まぁ、仕方ないわ。
百二十季 水無月
今日は暇だって言ったのに。霊夢と宴会だって。私は……ついて行けば良いのに、意地を張った。
百二十季 水無月
もどかしい。もどかしい。この気持ちがもどかしい。全て全部打ち明けてしまいたい。何時も逢っているのに何が不
満かって。そんなの、決まってる。友達以上のお付き合いがしたいからに決まってる。
でもきっと魔理沙にはそのケはないだろうし。もどかしい。もどかしい。もどかしい。
百二十季 葉月
……やっぱり病気なのだと思う。永琳に相談して見ることにした。寄越されたのは精神安定剤だけど。
……しばらく、考えるのをやめようと思う。きっとどうにもなら無い事だから。
伝えられない恋心なんて、抱くだけ無駄。無駄無駄。
日記もこれで終わりにしよう。
読んだらきっと、思い出してしまうから。
(ここから暫く空白が続く)
百二十二季 弥生
改めて読むと、酷い有様だと思う。でも結局開いてしまった。もう一年以上開いていなかったのに。
結局は、諦めきれない。どうしても、魔理沙が欲しい。魔理沙と一緒にいたい。魔理沙に優しくされたい。色々な人
に逢ったけれど、やっぱり魔理沙しか見れなかった。今まで抑えて入れた自分を褒めたいくらいだ。
百二十二季 弥生
どうすれば良いかと悩む。どうしたら魔理沙が手に入るかと考える。年もたって、少しずつ大人びていく魔理沙は、
前よりもっと魅力的になった。でも、あの子は人間だ。このままじゃあ、もし捨食の術を得られなかったら、年老いて
死んでしまう。
そうなってしまったら困る。魔理沙が居ない生なんて考えられない。だから考えなきゃいけない。魔理沙を、私の愛
する魔理沙で留めておける方法を。
百二十二季 弥生
魔理沙の行動観察を続けて、もう大分経った。そりゃあ再会した日からしているのだから、当然だ。
彼女は、大体一定の法則に従って生きている。ぽんぽんあちら此方飛び回っているように見えて、意外と単純な子だ。
紅魔館、博麗神社、香霖堂、私の家が大半。たまに人里であったり、他の妖怪や妖精と戯れる事はあっても、特に親し
くしている人間や妖怪は前記の四箇所にしかいない。
何を恐れているのか。何を考えて行動しているのか。把握する必要性がある。
百二十二季 卯月
良いお酒が手に入った。そう伝えたら、魔理沙は嬉しそうに私の家で飲む事を快諾してくれる。
吐かせるにはお酒が一番だ。魔理沙ほど飲めないので、小分けにして、私の分は水で薄めておく。飲まないと飲まな
いで五月蝿いし。
一定の行動原理と行動範囲を有する魔理沙の本心。これこそが魔理沙を掌握する鍵であると思う。
私の質問に、魔理沙はゲラゲラ笑いながら答えていて、どこまで本当だかは解らないけれど……大まかには掴めた。
自由を謳歌したいのだそうだ。
自由。曖昧な言葉だ。人間である限りは、自由など手に入る筈がないのに。
百二十二季 卯月
フリー。フリーダム。リベラル。実際、そういった単語では割り切れないものだと、言える。言うなれば霧雨魔理沙
至上主義思想。唯我独尊だ。自分の責任になる事象を成るべく避け、やれるところではやり、やれぬところではやらな
い。大事を嫌い、小事に細心の注意を払っている。矛盾ともとれるこの行動だけれど……そう。まるで生きる為の自由
の隙間を縫うように、生きている。
魔理沙が懐くヒトもまた、それに従って束縛しないヒト。霊夢は自分からは動かない。香霖堂さんは干渉しない。私
も一応、それは心がけているし、パチュリーもそのように見える。
ある意味、私を含めその全員が、その法則に振り回されていると言って良い。
では、特定の対象者に霧雨魔理沙が縛られるとしたら、どのようなことか。
ある程度、答えは見えてきた。
百二十二季 卯月
(ここから字が酷く歪になっている)
腕が無くなった。左手は書き辛いけれど、そんな事はどうでも良い。
私は、嬉しいから。
百二十二季 卯月
魔理沙が、ずっと私と一緒に居てくれる。その言葉が聞きたかった。その言葉を待っていた。魔理沙と、夢にまで見
た魔理沙と、一緒に、ずっとずっと一緒に居られる!!!!
笑いが止まらない。勿論、顔には出さないよう努力するけれど、魔理沙の寝顔を見ながら、私は歓喜してしまう。魔
理沙がこんなに近くに居る。ずっと居てくれる。私の世話をしてくれる。それが責任感や罪悪感から来るものだって問
題ない。一緒にさえいれれば、きっとチャンスは訪れるもの。私の気持ちを全部受け止めてもらえる日が、必ず来るも
の。嬉しい。嬉しい。私は嬉しくて仕方が無い。可愛い寝顔に、何度も何度もキスする。魔理沙魔理沙魔理沙。
魔理沙、大好き。
(ここから先は、感情的に書きなぐったようで、上手く読めない。他の国の字まで混ざっている)
後は、あの女だ。はっきり言ってしまえば、ここまで来たらもう香霖堂さんは数えに入らない。パチュリーも同様。
問題は、博麗霊夢。
百二十二季 卯月
あの醜女が現れた。相当ムキになっているらしくて、剣幕は凄かったけれど、魔理沙が護ってくれた。
あの魔理沙が私を護ってくれる。胡蝶夢丸で見た夢と同じだ。
腕は無くしたけれど、得たものはもっともっと尊いものだった。
百二十二季 卯月
パチュリーが来た。今更、どうでも良い。それより問題は、あの醜女だ。頭に来る。今の私は腕も無いし、腕があっ
たとしても、太刀打ち出来ないし。亡き者には出来そうにないわね。じゃあ、どうするか。
百二十二季 卯月
思い返せば、必ずアイツがいた。魔理沙の傍には、あれがいた。魔理沙は私だけみていれば良い。何か霊夢に暴言を
吐いた事を悔やんでいるようだけれど、魔理沙はそんな事を気にする必要はない。
もう魔理沙に心労を背負わせない為にも、もうひとつ手を打つ。左様なら霊夢。
百二十二季 卯月
霊夢は相当ショックを受けたらしい。けれど、これくらいで引き下がる程淡白な女でもないと思う。上海を監視につ
けておけば、ある程度の行動は把握出来る。あれは幸運なだけで、妖精の悪戯にはかからないけれど、そもそも悪戯さ
れている事に気が付いていないのよね。そう。危機感ならもっとも欠けているのが、あの女。
何かスキがあれば、私は必ず付け入れる。付け入って、魔理沙にみせてあげるの。あの女がそれだけ卑しい人なのか。
さて、ね。
家を空ける日は、鍵を開けて置こうかしら。
家を空ける日は、日記帳の鍵も、開けておこうかしら。
――――――ねぇ霊夢。読んでくれているかしら?
「い、や……」
霊夢は……日記帳を、力なく手放した。瞬間辺りを見回せば、直ぐ傍には、無表情の上海人形。動転する気を収める
事もなく、霊夢は力任せに上海を吹き飛ばす。
「なんだ、誰か居るのか……?」
……そして、謀ったかのようなタイミングで現れたのは、事件の中心。恐れを知らぬ博麗霊夢は、今において、単な
る少女に他ならなかった。知らぬ間に泥沼へ脚を突っ込んでいた挙句、その汚泥の下から、何者かが引っ張っていたの
だから。これほど不気味な事も、霊夢は経験した事がない。
「え……あ、ま、魔理沙……」
「――おい、霊夢。お前……くそ。本気で見損なったぞ」
「ち、違うの。魔理沙、これ、これを読んで頂戴よ!」
「日記帳? お前、人の日記を覗き見るなんて良い趣味してるんだな」
「くっ……今更ぶっちゃって……普段なら自分でも読むくせに……」
「やっていない事をやるくせにと言われてもな。もう良い。出てけよ。二度と顔を出すな、霊夢」
「――そうやって騙されているが良いわ。自分が魔女の術中にはまっている事に気が付かず、ボロボロになるまでア
リスと一緒に居れば良い」
「騙すだって? 一体アリスが何を騙したって言うんだ」
「ふん。だから読めって言ってるのよ。もう知るもんか」
「……」
「ああそうだ。永琳がね、腕の修復が完了したってさ。良かったわね、さよなら」
もう何も語るまい。霊夢はそうして家を出る。出口に居たのは……魔女本人。その顔からは、感情を窺い知る事は出
来ない。楽しくも悲しくもない。無機質な顔だった。
「外道」
「何とでも言うが良いわ。負け犬」
「アンタと争った覚えはないわ」
「私はずっと戦ってきたもの」
……右腕に霊力が集中する。このまま本気で殴りつけて、黙らせて仕舞えば解決するのではないのか、などという安
直な考えが浮かぶが……完全に心を囚われている魔理沙がそれを見たら、悲しむであろうし、怒るであろうし、拠り所
を無くした彼女本人の精神に異常を来たす可能性さえ否定出来ない。
抑える。抑えるが、他の解決策は見当たらない。
やり場を失った霊力の塊を、森の奥に向かってぶっ放す。数本樹木をなぎ倒して、それは収まった。霊夢は一度だけ
アリスを、少女とは言えぬ嫌悪と怨嗟に充ちた表情で睨み、空へと飛び去った。
「もう駄目ね」
諦観の言葉を紡ぐ。これ一つで、何もかもが億劫になった。二度と戻らぬ親友を想う心は、この時点で霧散した。
※※※
今回の出来事は、ショッキングであった。何時かは謝ろうなどと思っていた相手が、無断侵入の上上海人形を撃墜、
しかも日記まで覗き見だ。人の家に勝手に上がり込む辺りは、強盗の代名詞たる霧雨魔理沙の否定出来るものではなか
ったが、如何せん、霊夢と魔理沙の関係状況が悪すぎた。
最初は空気が読めない女なのかとも思ったが、違う。あの表情は真剣そのもので、しかも何者にも脅える事なく立ち
向かう博麗霊夢が、見えない何かを恐れていた。
それでも、と思う。やはり、自分は間違っていないし、間違っているのは霊夢だ。
霧雨魔理沙の心の中に言い知れぬ闇が宿っていようと、そもそもあまり問題ではない。その闇こそもまた、本性であ
り、正気なのかもしれないのだから。
「……魔理沙、そんなに辛そうな顔をしないで」
薄暗い室内に、湯気の立つ紅茶。ソファーにもたれかかり中空を見上げていた魔理沙に、アリスが声をかける。メラ
ンコリックな空気が漂い、この空間はまず、暫く現状から抜け出す事はないだろう。
「アリス――」
アリスは魔理沙を抱きしめると、子をあやすように頭を撫で付け、慈しむ。歪みきった愛情の魔性は、もはや魔術の
域まで達していたが、それは本人も魔理沙も、気がついていない。
アリスの腕の中、行き場の無い気持ちが収束して行く。乱反射する感情が、次第に一点へと集束する。もうアリスし
か見えなかった。いや、アリス以外を見てはいけなかった。疑いが無い訳ではない。それこそ黒も黒、真っ黒な程に疑
わしい。だが、今の魔理沙は、この少女から逃げられない。逃げてはいけない。
「魔理沙……キス、しても良い?」
「んっ」
背徳が紡がれ、やがて交わり、同化の一途を辿る。儀式の起動は、全てアリスの思うが侭に実行された。
私だけを信じれば良い。私だけを見ていれば良い。私は裏切らないし、見捨てない。何があろうと私は貴女と一緒で、
離れる事無く、朽ち果てるまでずっと一緒。
アリスの心の中で並べられる呪にも似た希望。それが直接、魔理沙の唇を通じて流れ込んで行く。
アリスは腐れていると思った。魔理沙もまた、異常であると思った。だが、けれど、しかし。それを腐れていると指
摘するものは最早排除された。それを異常であると忠告してくれるものは最早排除された。
「……女同士なのに、変だぜ」
「そうかしら。私は、嬉しい」
「……霊夢は、一体お前の何を見たんだろう。お前の何を知って、騙されていると言ったんだろう」
「あれ、読んだの?」
「いいや。もしそこに、お前の本心が全て書かれているとして、それを私が見たら、どうおもうだろうかとは、考え
たけど、どうあろうと、私はお前の面倒を見て、お前を幸せにする為に、生きていかなきゃいけないと思う」
「……ねぇ魔理沙。私、貴女の事が好き。大好き」
「……薄々は、気が付いてた。でも、女同士だし。なんか、可笑しいし」
「私も大分悩んだけれど、こうして一緒にいて、もっと強く想うようになったの。魔理沙、貴女を愛しているの」
「私は……その、お前の事、親友だと思ってる。親友のままじゃ、一緒に居れないだろうか。お前の言う愛の無いま
ま、人生の最後まで走り切れは、しないだろうか」
「……駄目なのかしら。やっぱり。貴女は、私の本心を受け取ってはくれないのかしら。私は、私はね、魔理沙。貴
女の為なら何でもするわ。貴女が欲しいって言うなら腕の一本や二本簡単にあげられる。命が欲しいって言うなら構わ
ない。幸せな今の気持ちのまま、奪ってくれて構わない。むしろ、これ以上私が受け入れられないのなら、私を殺して」
狂気だった。魔理沙を抱きしめる腕の力が強くなる。だが、魔理沙には為す術がない。殺せる筈もないし、捨てる訳
にもいかない。そんな事をしたら、自分を戒めて尚、相手を殺してでも自分を守った事になってしまう。それはエゴを
通り越して、人以下、妖怪以下、バケモノ以下の行ないになると……なってしまうと、魔理沙は思っている。
アリスの思う壺だ。
霧雨魔理沙と云う人物は、責任逃れで出来ている。それは無責任であるからではなく、一度問題が起これば、とこと
ん抱え込む故に、責任を背負う事実から逃げているのだ。アリスにとってのネックとはまさにここで、この自由人を戒
める事こそが、最大の束縛となりえるものであった。
口喧嘩をして手を出すのは稀だったが、物事は上手く運んだ。弾幕ごっこでは両成敗になってしまうので、それは意
味が無い。霧雨魔理沙自身が起して、霧雨魔理沙が絶対に逃げられない既成事実を作る事こそが目的であった。
クラッカー程度にしか爆発しない魔力結晶を投げられた瞬間、同時に自分の腕を弾き飛ばした。魔力で編んだ糸に力
を流し込んで、自ずから腕と失わせたのだ。
もしかすると、八意永琳は傷跡を見て知っていたかも知れない。だが、運良くそれも免れた。
魔理沙は責任感と罪悪感の虜となり、アリスに尽くす事を誓った。人形師の腕は人生そのもの。アリスマーガトロイ
ドという人物に多少知識があれば、それは当然周知の事実であっただろう。
そして、それと同等の謝罪となれば、自らの人生も終らせるしかなくなる。責任感は強いが、自己保身が一番の魔理
沙だ、自決する事は想像出来ない。
もう、あとはレールが敷かれていたかの如く、思うように進んだ。
自由人霧雨魔理沙を縛り付ける事に、アリスは成功したのだ。
「こ、殺せる筈ないだろう。アリス、顔を上げてくれよ。別に、嫌いじゃないんだって。ただ、私ほら……その、こ
ういうの初めてというか、そもそも男とすら付き合った事なんて無いし……複雑なんだよ……」
……だが。
結局、根本的な部分で、どうにもこうにも、魔理沙はアリスのものにはならない。あと一歩が足らない。
性癖など、そうそう捻じ曲がるものではない。では、どうするか。
思いつく方法など、限られる。
「幸せにしてよ……魔理沙。嘘でも良いから愛してるって言って欲しいの……私を、幸せにしてくれるんじゃあない
の? あの言葉は嘘なの? 私はもう、自由に人形を扱う事も出来ないのに。私は自由を奪われたのに……」
思いつく限り、恐らくこの世で最低最悪の脅しだった。外道も極まる。自ら腕を失わせ、その罪を着せた相手を、そ
の罪悪感と責任感に付け入り脅すなど、どこのクズがやる事か。
自分で背負い込むリスクが大きく、正攻法でなく、更に要求するのは不道徳。もはや愛も何も無い。
アリスマーガトロイドの自慰に他ならなかった。
「私がどれだけ貴女を愛しているか、教えてあげる」
くるくる変わるアリスの表情。不安定な言動。退廃的な行動。アリスは、自分の為にしか、自分の思うと通りにしか
動いていない。そこには魔理沙を気遣う余裕など見受けられなかった。何処までも必死で、取り逃がすまいと、実に痛
々しい。
感情に任せて魔理沙を押し倒す。魔理沙は……もう、抵抗する術すら、持たなかった。否定する感情も薄れ、得意の
弾幕も、トラウマと一緒に引きこもったまま。ともなると、強力で邪悪な感情を打ち破る、心の支えさえない。
「アリス……私は……」
「他の人なんて信じられないわ。あの女も所詮汚い女だったの。男はもっと。でも私は裏切らない。私は貴女をずっ
と愛し続ける――もう、ほら、嫌な事なんて、忘れましょう。溶かしてあげるわ。腕が足らなくて、ちょっと梃子摺る
かもしれないけれど、ね? 可愛いわ、魔理沙。魔理沙、魔理沙。ずっとずっと、一緒に居ましょう。ね?」
正気とは誰が保障してくれるものでもない。全ては社会的な通念や常識で戒められている。人によっては家訓、お国
の道徳、独特な集合体の倫理。そういったものが自制心を作り上げる。そしてその理性こそが正気であると保障する。
では、もとからそれが欠けている人物は、殊更、誰が保障するのだろうか。
彼女達には家訓もお国の道徳も、倫理もない。正気と狂気の境界など、それこそ曖昧だった。
だが一つだけ、そういった智慧や習慣に左右されない判断基準がある。
「好きよ……大好き……魔理沙……魔理沙……ふふ……まりさ……。その可愛らしくて生意気な顔も、綺麗な瞳も、
ぷっくりした唇も、細い身体も、それに何より、今にも消え入りそうな、その心が――」
魔理沙の上に、アリスが被さる。唇を奪われ、次第に不器用な左手が、少女の肢体へと伸びる。
「アリス……お前は……悲しい奴だ……」
霧雨魔理沙の最後の防御壁。
その燃えるような瞳を、魔理沙の本能は、狂気と判断した。
※※※
「永琳……腕の修復、出来たらしいぜ」
「そう……どうしましょうか」
「どうって、当然直してもらうのが良いだろう」
「ほら見て。私の腕ね、ある程度修復が始まっているの。この状態で元の腕をつけるには、無理がある。一度この治
りかけた部分をこそぎ落とすか何かしなきゃ」
「……負担は重そうだけど、お前は妖怪だろう? それに永琳は天才だ。出来るんじゃないか?」
「もう、痛いのは嫌だわ」
「……」
アリスは、魔理沙の胸に顔を埋め、ニヤリと笑う。今更腕を取り戻して魔理沙に離れられたらたまったものではない。
完全完璧に魔理沙を己が傀儡とせしめるまでは、義手を作る事すらアリスは拒むだろう。
魔理沙は、次第に考える事すら諦める自らの思考回路を必死に働かせ、何が正しいか、何が間違っているのか、考え
る。自分は、アリスマーガトロイドという魔女を捨てては置けない。そして、嫌いではない。
しかし、失ったものは大きく、先も見えることはない。
そして、アリスは狂気に魅入られている。
幸福度とは、各個の規準に従い決まる。今の魔理沙は、きっと幸せではないだろう。自由をなくし、未来をなくし、
今まで捉えていた価値観を破棄し、大事な友人を切り捨てた。魔法は撃てず、抵抗する気力も無い。
諦めは幸せだろうか?
本当に?
人間なのに?
自問自答が脳内と心を蹂躙する。手を伸ばした先にあるのは、蹲り、偽る少女。魔理沙は、この偽りが見抜けない。
だから、本当に悲しんでいるのだと勘違いしてしまう。
自由を自ら捨てて、けれどそれによって幸せを得た少女と。
自由を奪われて、けれどそれによって……定まらぬ感情に懊悩する少女と。
終わりすら死んだような永久の螺旋図が、魔理沙を塗り潰して行く。
自分は――霧雨魔理沙は、アリスマーガトロイドと一緒にいて、幸せなのだろうか。
辛くは、ないのだ。アリスは、嫌いではないし、幸せにしてあげなければいけないと感じている。そして温もりも知
ってしまった。どれほど愛されているかも、身をもって。
捨てられない。逃げれない。きっと逃げたら、この少女は壊れてしまう。
自由とは何だったか。
己の定義する自由とは、なんだったか。
それは――飛び込んだ環境において、自由を謳歌する事。
幻想郷にいるなれば、幻想郷の自由になれるスキマを縫って生きる事。
アリスの手中にいるのなれば……アリスの手中で自由になれるスキマを縫って生きる事……。
諦めが前提である。しかし、捨てた自由が大きすぎる。一度野を生きる快楽を知った鳥が、不自由な鳥篭にまた収ま
りたいと思うであろうか――?
――否。
霧雨魔理沙は、己の自由を掴み取る為に霧雨家を出たのではなかったか。そしてそれを良しとして生きて来たのでは
なかったのか。今この時になって、一定の者に縛られるなど……御免被る話である。
戒めさえなければ、と思う。だが、霧雨魔理沙は、アリスマーガトロイドの真意を知らない。そして、唯一のヒント
たる日記を、魔理沙は読む事を拒んだ。それは……諦めの肯定ではなかっただろうか?
「うぅ……うぅ……」
「……魔理沙?」
魔理沙の責任と罪悪。アリスの狂愛と妄執。
これを打破するべき選択肢は、あっただろうか?
霧雨魔理沙を本当の意味で、自分の気持ちを自覚させる事こそが、最大の突破口。その先に待ち受けているものが、
諦めの肯定か、諦めの否定かは、あまり問題では無いのかも知れない。
その自覚こそ、霧雨魔理沙の真意であるのだから。
「……」
「……魔理沙……どうしたの?」
ベッドから起き上がり、自分の服を探り、ポケットから一つの小瓶を取り出す。
そして――魔理沙はその小瓶を、ゴミ箱に投げ捨てた。
「今のは?」
「自分の本心を形にするマジックアイテムだってさ。さて、ご飯、作るよ」
「あ、う、うん……」
そう告げて、魔理沙は台所へと消える。アリスからみて、魔理沙の様子は、可笑しかった。
「……アリス、ちょっと来てくれ」
声がかかる。
アリスは……その言葉に応じる事を躊躇った。理由はない。ただ、本能がそう言う。先ほどの、あの目。
現実を見ているとはとても思えない、精神が混濁しているような瞳。
だが、アリスは動いた。不自由そうに体を起こし、シーツを羽織って、その声に応じた。
「魔理……さ?」
台所に入った所で、魔理沙にぶつかられる。
「……」
その行動に、後悔が見受けられない。アリスを見つめる瞳は、何も見ていない。ただ濁ったような物体が、眼球とし
て据えられているだけのようだ。言わば、目が死んでいる。
シーツが次第に紅に染まり、対象は力なく倒れる。
魔理沙は――『自由』を選んだ。狂気に狂気で対抗した。
己の本心も知ろうとせず、話もせず、語ろうともせず、アリスを言及するでもなく、霊夢を蹴飛ばし、パチュリーの
厚意を踏みにじり、自分を選んだ。
「うそ……でしょ? ……げほっ……うっ」
「私は自由でありたい。私は自分の思った通りに生きてきたんだ。道を踏み外す事なく、法則に従って、大事を起さ
ず、自由に出来る空間を見つけて、そこで生きて来たんだ。家を捨てて、友達を頼りながら、これからも自由に生きる
筈だったんだ。私は、私は私で、自由を掴むんだ」
「そんな……のって……エゴよ……げほっ……いっ……ぐ……げほっ……自己愛の、塊じゃない……」
「お前の押し付ける愛は、自己愛じゃないのか………愛してもらいたいが為に愛してるなんて呟くんだ」
「それは……げほっ……」
「……ごめん、アリス。無責任で、ごめん」
ガラン、と、鋭く尖った包丁が転がる。
悶え苦しむアリスを素通りし、自分の服に着替え、箒を手に取り、魔理沙は外へと出る。
「……」
気がつけば、自分の手はアリスの血液で真っ赤だった。これが、どのような行ないでついたものなのか……つい数十
秒前の出来事を回想する。
血液でべた付く手を、何度も何度も服で擦り、爪の間に挟まったものが取れない取れないと嘆く。
「……あ……あぁ……」
取れないから悲しい訳じゃない。拭いきれないから悲しい訳じゃない。
ただ、襲い来る虚無感と喪失感が、悲しかった。
アリスを刺して、一体どうすると言うのか。逃げ出すのか。 逃げ出してどうにかなるものなのか。こんな狭い幻想
郷で殺人犯など、生きる場所はない。妖怪であるならばいざ知らず、霧雨魔理沙は理性ある人間であり、自分を戒める
者が沢山居る環境に生きている。
そんな罪悪感を一人抱えて、誰にも接さず暮らして行くのか。行けるのか。
何か疑う要素があったとしても、他人の自由を、殺害と云う形で奪って良い物なのか。そこに護るべき大義はあった
だろうか。そこに護るべき人は居ただろうか。独善的で、身勝手な行動ではなかったのか。
例えアリスが狂気であっても、それに狂気で対抗しては――自分も同じ穴の狢ではないのか。
まずはアリスと話し合うべきでは、なかったのだろうか。どんなにアリスの愛が重かろうが、自分がその愛に応えて
やれなかろうが、まずは話し合って、考えるべきだったのではないだろうか。アリスに話が通じないと誰が決めた。ア
リスが話を聞かないと誰が決め付けた。
誰でもない。それは魔理沙本人だ。
「あ、アリス……ッ」
踵を返し、すぐさま家の中へと戻る。なまじ妖怪である為か、アリスの意識はまだあった。広がる血液の上で悶えた
所為か、辺りには手形が残り、物々しさを増している。アリスは玄関に向かい、必死にもがいていた。
「アリス……私は……何てことを……」
「まりさ……は、魔理沙……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「い、いいから喋るな。何も謝る事なんてない……私が悪いんだ。何でもかんでも責任を逃れようとして、自分の都
合しか考えなくて、お前の気持ちも悟ってやれなくて……挙句これじゃあ……私は……」
「違うの……全部、ぜんぶ私が悪いから……どうしても、魔理沙が……欲しくて……げほっゲホッ!!」
「くそ……アリス……アリスッ」
「日記……みてね……私が、どれだけ卑しく汚い女か……解るから……そうすれば……」
「い、今、今永遠亭連れてくからな、もう喋るな……頼むから……」
「ごめんなさい……魔理沙……身勝手な愛で……ごめん……」
息が小さくなる。
鼓動が減る。
目の焦点は、もはや何処にもあっていない。
「私は――何てことを……何てことを―――――――――――――――何てことをっ!!!!!」
……全ては身勝手の上に出来た、どうにもならない後悔であった。人とは全てやり終えてから己の間違いに気がつく。
そしてそれを修正しながら、次の時の為に生かして行く。
霧雨魔理沙は、人間である。例えそれが犯してはならない間違いだったとしても、人間である限りは、逃れられない。
※※※
往診に訪れた八意永琳が見たものは、久しぶりに見る狂気の集合体のような現場だった。思えば、あの時、明らかに
爆発で吹っ飛んだとは思えない腕を見た時に、何かしら助言をしておけば良かったのかも知れないと思う。人間と妖怪
の私情に口を挟むのも憚られた為何も言わなかったが、何となく予想は出来ていた。
一時期胡蝶夢丸中毒者となりかけていたアリスマーガトロイドを止めた時のように、何かしらの手を差し伸べるべき
だったのだと、多少後悔する。
永遠の刻を生きる民からすれば瑣末な事――怠慢とは恐ろしいものだ。
泣き縋り錯乱する魔理沙を引き剥がし、アリスの状態を診て、もう無理だとは思ったが、必死にどうにかしてくれと
喚く魔理沙の熱意と、多少の後悔が永琳を後押しした。
存外に強い人外の生命力も手伝ってか、輸血と縫合は大事無く進み、事なきを得たが……それで済まさないのがこの
月人であった。
「う、腕をくっつけるって?」
「当たり前じゃない。何の為に時間とお金をかけて再生したのよ」
「で、でもアリスはいやだって……」
「本当に何も知らないのね……兎も角、つけるわ。絶対。それに大げさなのよ。あれくらいで妖怪は死なない。まぁ、
魔法使いは弱い部類だけどね」
「で、でも」
「デモもテロもストライキもクリークもジハードもないわ。貴女はこのまま腕の無いアリスの面倒を見続けるの?
騙されているのに?」
「……殺すなよ?」
「殺人未遂犯すような人には言われたくないわよ。それじゃ、今晩は泊まっていきなさいね。イナバ、お部屋を」
「……なんでそんなに軽いんだ、お前は」
「軽いわよ。誰だと思ってるの」
「敵わないぜ、アンタには」
それから、永琳は手術室に篭りきり、次の日の朝にも出てこなかった。天才といえど、難しいものだったのだろう。
魔理沙は、手術が終るまでただ考えた。アリスが日々綴った日記を読みながら。
三年分の日記は、ある意味で狂気に充ちていた。自分の名前が出てこない日が殆どない。魔理沙はああした、魔理沙
はこうした、魔理沙はああ思って、私はこう思った。魔理沙が憎い、魔理沙が愛しい、魔理沙が欲しいと、通常の人間
が読んだら投げ捨ててしまいそうになる内容である。
だが、心当たりがあり、しかもそれが自分への純粋な愛情であったと気が付いた時、涙が零れた。アリスマーガトロ
イドは、普通の少女であった。ただ性癖が多少歪んでいただけであり、そんな人間は世の中五万といる。
問題は何だったかといえば、自分だった。霧雨魔理沙と云う少女は、アリスが気に止めているにも関わらず、それに
一切触れようとしなかった。それならばまだ良かろうが、それを知っていて、何度も何度も家に押しかけ、接し続けて
来たのだから、アリスもたまったものではない。
好きだと打ち明けたい、でも叶わないと煩悶する少女の家に出入りするのだ。とんだ阿呆である。鈍感であったのな
ら罪もないだろうが、解っていて気を引くような真似をした自分が、憎かった。
想いは次第に愛となり、愛は憎しみとなって、狂気へと変貌した。自分の例をとってみれば解る。つい昨日、前後不
覚に陥った挙句、衝動的にアリスを刺した前例。アリスが本当に生まれながらの妖怪なら解釈も違ったであろうが、ア
リスの場合は人間よりの部分が強い。追い詰れば、思いもしない行動に出てしまうのである。
精神とは斯くも脆い。自由を奪われた時、思い通りにならなかった時、失敗してしまった時、近しい人が死んだ時、
絶望に打ちひしがれた時。精神は直ぐに異常を来たして混乱する。
それが抑えきれない時、ヒトは暴走するのだ。
「アイツも悪い……私も悪い……か」
原因は魔理沙の軽率な行動。そして何時までも想いを留め様とした妙な我慢強さのあるアリス。
その結果は散々たるものであった。
しかし、アリスが魔理沙を陥れた事実は変わらず、魔理沙がアリスを刺した事実も消せない。この因果は一生付き纏
うものであり、互いに発生するものは飽くなき謝罪だ。
アリスは魔理沙の心を殺そうとし、魔理沙はアリスの体を殺そうとした。恐らくは、同等の罪である。
「終ったわ」
「永琳……どうだった」
「ふふん……天才に……不可能は……ないのよ……」
といって、天才は倒れた。
すぐさまイナバ達が駆け寄り、えっさほいさと胴上げの如く運ばれて行く。続けて現れた鈴仙も疲れた顔で、大きく
溜息を吐いて魔理沙の横へと腰掛けた。
「……もう二度としたくない手術だったわ」
「お疲れさん」
「多分一生かかっても払いきれないような治療費吹っかけられるけれど、大丈夫よね」
「無免許医師め」
「……痴話喧嘩でヒトを刺すなんて、貴女達、狂気の瞳に囚われずとも狂気だわ」
「はいはい」
「……イナバ、ニンジンジュース用意しておいて。栄養剤入りで……えぇっとね、師匠が居ないから私から話すわ。
手術は成功。永遠亭の粋を凝らした技術で、そりゃあもう完全完璧にくっついたわ。リハビリすれば、半年で完全に回
復する筈よ。刺されたお腹の方も、問題無い。出血多量でショック死しても可笑しくなかったんだけど……何かしらね、
物凄い執念とか、妄執とか、後悔とか、あったのかしら。まぁまぁ養生が必要ね」
「――良かった」
「師匠曰く、通常入院費はタダなのだけれど、彼女の入院を、永遠亭として拒否」
「な、なんで」
「往診はタダで行くって。でも入院は駄目だって。何でも、手前で刺したんだから手前で看護しろとの事よ」
「なるほど」
「平等には出来ていないのがウチなの。最初の一週間は預かるわ。後は頑張ってね」
「まぁ、当然かな」
「そうね。今回の事は、口外しないでおくそうよ。師匠口軽いのに。珍しい事もあるものね。それじゃあ」
「ああ。ありがとう」
「もう刺しちゃ駄目よ。生粋の妖怪と違って、魔女は弱いのだから。加減して痴話喧嘩してね。良い迷惑よ」
「……なぁ。アリスの顔は、もう見れるか?」
「……まぁ。大丈夫よ。手術室の隣の部屋で寝ているから、騒いじゃ駄目よ」
「ありがと。お疲れ」
「はいはい。私もご飯食べて寝よう……ふぁぁぁ……疲れた……」
鈴仙にお礼を良い、魔理沙は指定された部屋まで赴く。入ろうとした所、丁度中から因幡てゐが顔を見せた。
「今、大丈夫か?」
「駄目」
「えぇ?」
「嘘ウサ。あんまり長くイチャついちゃ駄目だけどね」
「ったく、ドイツもコイツもヒトの気も知らないで……」
「ニシシ。十分だけだよ」
「はいはい」
巫山戯たてゐを適当に流し、中へと入る。六畳程度の部屋の中心に、アリスは横たわっている。隣につけてその顔を
覗き込み、魔理沙は複雑な感情にかられた。
手元の日記帳とアリスを見比べ、この少女が抱き続けて来た想いを再び噛み締める。
今更迷いなどない。もう十分、仕出かしたのだ。これ以上、逃げる事もない。
「アリス、私は――」
左手を手に取り、誓う。
「私は受け入れるよ。一緒に卑屈になって、謝りながら生きて行こうか。お前は私から心を奪おうとした罪を。私は
お前から体を奪おうとした罪を。一緒になって、償おう。なぁ、アリス――」
魔女 アリスマーガトロイドの幸せ
血まみれの日記帳
百二十二季 皐月
毎日、甲斐甲斐しく魔理沙は私の世話をしてくれる。腕を無くした時に見せていた疲れた顔もない。私は後ろめたく
て、もう良いからと言うけれど、頑として受け付けない。どうしてそんなにしてくれるのか、日記も読んだでしょうに
と聞いてみると、魔理沙は、そんな事どうでもいいから早く直せと言う。
百二十二季 皐月
魔理沙が、なんだか違う。嫌な顔一つせず、私を気遣ってくれる。この日記を読んだ筈なのに。騙していた事を知っ
ている筈なのに。どうにもこうにも、その真意が気になって仕方が無い。私は本当の事を教えてくれとせがんだら、仕
方なさそうに答えてくれた。
互いに悪かったのだから、一緒に謝りながら生きて行こう。だと言う。私の事を憎んではいないのかと聞いたら、お
前こそどうなんだと言われた。
答えは一つに決まっている。だって、愛してるもの。憎い筈もない。刺されたのは、自業自得だもの。
百二十二季 皐月
霊夢が来た。物凄く申し訳なさそうに。申し訳ないのは、こっちなのに。私は何回も頭を下げた。霊夢だって大切な
友達なのに。私は一体、何を考えていたんだろう。日記を読み返す限りは、きっと憎かったのだと思うけれど……なん
だか、刺されたのと一緒にそういった感情も死んでしまったみたい。
魔理沙も霊夢に謝って、皆で笑った。嬉しすぎて、なんだか涙が出た。
私の腕の修復には、霊夢のお札も使われたらしい。消えてしまえとまで思った人物が恩人だったなんて、それこそ本
当に、言葉も無い。
だが待って欲しい。仲直りしたからといって魔理沙とイチャつくのはどうか。笑顔で照れあうな。
百二十二季 水無月
腕の調子が良い。今までは左手だけだったけれど、右手でも一体くらいなら人形を扱えるようになった。魔術を刻ん
で半自動に動く人形を、もう少し作っておくべきだったと後悔。でも、この調子なら直ぐだ。魔理沙も居るもの。
百二十二季 水無月
魔理沙が、自分からキスしてくれた。もう死んでもいいんじゃないかと思って口にしたら、自分も死ぬと言われたの
で止まる。嬉しすぎる。もじもじして、恥ずかしそうなのがずるい。食べてしまいたい。でも、腕とお腹に響くのでま
だ自重。
百二十二季 水無月
永琳が来て、もう往診も必要ないだろう、との事だった。お医者様からのお墨付きだ。それと、永琳は自分が気がつ
いていて忠告しなかった事を謝罪していた。あと、莫大な金額の請求書を置いていった。
魔理沙は踏み倒すと意気込み、私も意気込んだ。というか謝罪するくらいならチャラにしてよ。
百二十二季 霜月
大分冷え込んできて、傷に触る。でも魔理沙はそんな私を気遣って、ずっと腕やお腹をさすってくれる。そんな甲斐
甲斐しい魔理沙が可愛すぎたので、キスをする。赤くなられた。もう一回したら、更に赤くなった。ご馳走様。
百二十二季 霜月
パチュリーが来た。これまた、永琳の時と一緒で、謝罪してきた。謝罪するくらいなら強奪した本をチャラにしてく
れと魔理沙が言う。キス一回で、という申し出に、私がキレた。パチュリーはヘンタイだと思います。
それにしても、私達は偉くみんなに迷惑をかけたと思う。全快したら、菓子折りでも持っていこう。
百二十二季 霜月
射命丸文が来た。魔理沙が魔法を撃てないのを良い事に弄り放題。そのお陰で魔理沙は吹っ切れ、弾幕の嵐と相成っ
た。文花帖は焚書。残念でした。
百二十二季 師走
もうすっかり良くなった。永琳が再生した腕は、何故か余計にパワーアップしている気がする。マッドサイエンティ
ストに預けるものじゃあないと痛感した。林檎一握り。握力七十です。どこが乙女だ。でも折角だったのでそれを駆使
して林檎ジュースでも作って見る。魔理沙に引かれた。永琳は、いつか倒そうと決意する。
百二十二季 師走
……魔理沙に、もう世話はいらないと言った。魔理沙は一端家に帰ると告げて、けど結局また戻ってきた。理由を聞
けば、アリスからの謝罪を受け取っていない、と言う。そういえば、そんな話をしていたと思う。私は結局、騙した挙
句世話ばかりさせていた。一応刺されたって事実はあるけれど……でも、私のやった事はそうそう許される事じゃない。
では、私は魔理沙にどう償えば良いのか。全く解らなかったので聞いてみると、自分も良く解らない、と言っていた。
じゃあお夕飯は必ず毎日作ってあげると言ったら、恥ずかしそうに喜ばれた。
肉体的にもお返ししてあげた。なんだか、これじゃあ私だけ幸せみたいで、ずるい。
百二十二季 師走
・
・
・
・
・
「魔理沙、魔理沙」
「ん、あ?」
「……キス、してほしい」
「あ、改まってそんな……わ、解ったから……んっ」
「し、死んでもいい」
「そんな事より、もう腕は良いみたいだな。寒さは堪えないか?」
「心が さ む い ♪」
「具体的にどうしてほしいんだ」
「魔理沙の温もりが……」
パチパチと薪が焚かれる暖炉の前で、二人より沿い、笑いあう。今までの魔理沙なら、仕方ないと言った顔でそれに
付き合っていただろうが、今はそんな面影もない。もはや相互依存とまで言えるほどに、二人は近かった。
「魔理沙は……私の事……憎くないのよね」
「随分今更だな」
「じゃあ……魔理沙は、私の事、どう思うかしら。頭が可笑しい女に、無理に付き合っているとか……」
「お前は正常さ。私はその……」
「沢山キスしたけれど、私、まだ一言も聞いた事がないわ。だから聞かせて欲しいの。不安なの」
「勇気が無いんだ。今更口に出して言うような事とも、感じられなくて……あ、そうだ」
何かしら思い立った魔理沙は、小道具箱を漁り、一つの小瓶を取り出す。
「それ……パチュリーに貰った奴だっけ」
「一回捨てたけど、もしかしたら何かに使うかなと思ってとっておいたんだ」
小瓶の蓋を開けると、中から妖精が出てきた。
エーテルで具現化してくれるのではと思ったのだが。
「あ、そこ……そうそう痒い所を……ってこれ背中かき妖精の小瓶じゃないかっ」
「うわ。使い所を間違ったら収拾がつかなくなる所だったわね……」
思い返せばあの時、きっと使っていたなら別の未来があったのかも知れない。ある意味地獄が見えた。
「うー……」
「これじゃあ、言葉にするしかなくなったわね、魔理沙」
「……は、恥ずかしいぜ……」
真っ赤になる魔理沙を、どうやら我慢できなくなったアリスが捕まえる。逃げに逃げ続けた十数年。とうとう、誰か
に捕まってしまった。
魔理沙は――覚悟を決める。これを口にしたら、アリスの行動が過激になるのではないかと云う考えもあったのだが、
ここまで迫られては逃げ場もない。
本当に、魔理沙からすると恋愛もヘッタクレもない関係ではあったが、アリスに縛られるこの生活は、もはや人生の
一つとして組み込まれている。自由人はもはや自由人ではなく、自由人霧雨魔理沙は、単なる霧雨魔理沙となっていた。
この生活が何処まで続くかは知れないし、どうなるかも解らない―――
「あ、アリス……そ、その……す、……」
「す……?」
「スキ……なのかも、しれない」
「ぐすぐす……」
「な、泣くなっ。解ったから……アリス、す、好きだっ」
「好き好き大好き超愛してるわ魔理沙ッ!! ああもう、絶対離さないんだから、覚悟してね?」
「お前そんな性格だったっけ……」
「今更よ。ああ、なんだか暖炉の所為で熱いわ。脱いじゃおうかしら」
「いや待て待て、頼むから待ってくれ」
「待てないわ」
「あ、ちょ、アリス……アッー……」
――ただ言える事は、魔理沙にとってこの関係は、生活には困らないし、家族は無くとも友人はおり、生きて行く事
に不平不満はあれど、明日があり、夢がある生活。
即ち、霧雨魔理沙の定義する幸せと合致するものである。
一体、何の憂いがあろうか。
そして。
「……魔理沙、どうしたの?」
「あいや……ヒトに必要とされるのも、意外と幸せだなって、思っただけ」
「ふふ……信じてね。私も信じるから。もし逃げたりしたら……次は左腕ぶっ飛ばすんだから♪」
「あ、愛が重い……か、勘弁してほしいぜ……」
霧雨魔理沙は、幸せだった。残念ながら今のところ、その前に「ある意味」が、ついてしまうのだが。
人生は長く、本当の魔女となったらまた更に長いであろう。
――様々な人生、様々な価値観の中に新しい幸せを見つけていけるのもまた、生きるものの特権なのだろう。
end
あなたの文章は読んでいて実に面白いです。
内容がしっかりしているし、頭の良い文章なので。
次も楽しみにしています。
思惑が交錯していく様が鮮やかな展開で素敵。
そして後半の日記は「ある意味で」狂気でしたw
久々に創想話を見に来ていきなりこの作品!感動した!
こうも"壊れた"幸せというのは、非常にプリミティヴで宜しいと思うのです。
終盤キャッキャウフフしてはいるけれど、その実歴然と(色々な意味で)ぶっ壊れているわけで(笑)
……いや、えぐいのもいいですけど、頽落的に生きてみるのもどうですか?
この系列の話、よろしければもそっと読ませていただきたい(笑)
これは新しい…。
よいお話しでした。
あぁ、長年焦がれてきたものに巡り合った気分です。
パチュリーさん何やってんすかwwwwwww
それに文章も上手い。
心理描写が特にツボに……!
台詞回しが少し簡潔すぎて、キャラクターの喋った言葉がちょっと心理描写と釣り合いが取れていないというか……そこがちょっと残念だったかな、と思いました。
この狂気はいい狂気だー。
前半の日記の終わりなんて、まさにど真ん中ストレート。
ありがとうございます。とっても美味しゅうございました。
中盤の狂いっぷりが霞む位のラストのキャッキャウフフっぷりが、また…!
視点が結構コロコロ替わってる様なのに、切り替わりに違和感を感じないのは流石だなーって感じですね。
ご馳走さまです。
確かに鬱系の話は叩かれやすい傾向にありますが、それでも作品の完成度を考えれば
素直にBAD ENDで終わらせておいた方が良かったかな~と思います。
狂気具合がなかなかよく、日記は恐怖感さえ感じれました。
個人的に好きなタイプのお話だったので。
愛しさゆえに狂っていく感じが愛しい(変な文)
後半あたり、セリフも格好良くて好みでした。
人間の狂気の恐ろしさを知りました。
アリスの狂愛を魅せていただきました。えぐいほうも見てみたいかも。
エグい方も待ってます。
日記を見せて狂気を乗り越えて愛を勝ち取るところまでマガトロさんの計画とか、そんなノリで。
ハッピーエンドは好きだけど、ハッピーエンドを装った狂気エンドも大好き。
そんな私見でした。
今回もご自身の殻を破れなかったのか、と少し残念に思います。
安易に日記と言う小道具に頼らず、文章の書き込みによってアリスの狂気を表現して欲しかった。
あなたの技量に感服いたします。
少しずれた感情がそのままずれ続け、最後には大きく変貌してしまうって様子が良くわかりましたよ。
しかし、これだけ凄まじい文章を書けるのなら鬱鬱バッド物語も読んでみてみたい気もします。
で、実は最後の最後までアリス様の思惑通り なんてオチじゃないよね( ´Д`)?
狂気あふれる愛憎劇が好きです
でも、そこからのハッピーエンドが一番好きです
いいお話をありがとうございました
テンポの良い構成に、アイディアも素晴らしいの一言!
アリスの日記も小ネタが入ってたりで、最後はもうニヤニヤしっぱなしだったっ。
良き作品をありがとうっ、次回も楽しみにしてまさぁー!!
個人的に狂気的な話は好きですし、ついでに言えば凄惨な結末を迎える作品もかなり好みだったりしますが、このアリスと魔理沙にだけはそういった終わり方をして欲しくない、そう思わせるものがこの作品にはありました。
前編でも点数入れましたがこちらでも100点入れさせていただきます。この作品にはそれだけの価値があると思いますので。
そのまま突っ走っていってしまったほうが力の感じられる作品になったかも、とも思わないでもないです。
あと日記の占める割合が多かったのが気になりました。もう少し地の文で書き込んでいっても良かったかもしれません。
と、まあこんなことを言いながらも非常に惹きこまれる良い作品だったと思います。
でも何故でしょう?
笑いが止まらねぇ
中盤は怖くてなかなか読めず、終盤はむず痒くてなかなか読めず。
大変良いものを読ませていただきました。
ただ、後編は日記の分量が多く前編と比べて物足りなく感じました。日記の使い方自体はとても巧く思いますがもう少し圧縮して欲しかったかなと。
終盤の収束させ方は見事としか言いようがありません。こうも上手くBAD ENDを回避するとは予想がつきませんでした。
しかし、狂気モノ…ですかね?
最後、魔理沙の諦めが心に残った。
誰もがアリスのようになってしまう可能性があるってことを教えられたような。
2人には幸福に過ごしてほしいものです、本当に。
表向きキャッキャウフフしてるだけに、裏に黒々としたワケの分からないものが渦巻いてる
このラストも十分エグいのではないかと。
後編の大部分を日記で補ったのは、やはり失敗だったかと思います。特に2回目の方。
短い文で淡々と語られるだけでは薄っぺらくなってしまいがちですし。
例えば霊夢への謝罪。アリスが霊夢を嵌めたのは、あくまで殺害が困難だと判断したため。
その事は3人とも知っていたはずなのに、謝り合って笑い合えるようになったのは何故か…
ここはちゃんと描写すべきだったのではないでしょうか。
また、明らかに無理のある論理展開も気になります。
例えば>アリスマーガトロイドは、普通の少女であった。ただ性癖が多少歪んでいただけであり、
そんな人間は世の中五万といる。 の件。
性癖が歪んでいるくらいなら確かにごまんといて普通なのですが、明らかに善くないこと(色々な意味で)を
実行してしまうのはどう考えても普通ではありませんし、罰せられて当然ともいえます。
精神に異常をきたしていた、などというのは全く理由にもなりません。
その他にもおかしなところはあるのですが、一番目立つのはこの点でしょう。
アリスが100%悪いのに、著者が頑張って喧嘩両成敗の方向に誘導しようとしている感が拭えませんし、
やはり後編で無理矢理HAPPYENDにしようとしないで、
素直にBADENDにしちゃった方が綺麗にまとまったんじゃないかなーと思います。
(幻想郷だからとか狂っているから、なんていうのは暴論すぎますしね)
底辺まで下がれば後は上がっていくだけだもんねぇ。
お互いに底の底まで堕ちても元通り以上になれるのはやっぱり幻想狂……じゃなくて郷だからでしょうね。
ごちそうさま。
あそこまでアリス(友人)が突き抜けちゃったら、魔理沙の立場にいたらどうするかな、なんて考えちゃいました。たぶん逃げるか、受け入れるか。
病んでるアリスにどうしようもなく恐怖と魅力を感じたw
まあなんにせよアリスが幸せそうで良かったですw
良く読んで下さる方がいらっしゃるなと感じ、胸が熱くなります。
皆様の様々なご意見ご感想を、私の中で噛み砕きながら、これからもがんばって行きたいと思います。ご評価、ご批評、本当に本当に有難う御座います。
何故か強い抑圧を抱えたアリス。
それに対して、縛られることに臆病であるがゆえに計算高く、それでも一人は寂しい魔理沙、終始理屈家。
日記という形を以ってのみ通ずるアリスの愛
恋の魔法少女に愛が芽吹く
ついでに霊夢は噛ませ犬
アリスの抱えていた抑圧が取り払われたにしろ、そうでないにしろ
最後部に再び日記をもってくるのならもう少し自己解析的な文も挿し挟んだ方が締りがよくなるのでは?
トリックの創り方に作家のS・Y氏を彷彿した。
ハッピーエンドでほっとしました。バッドエンドは現実だけで十分。と言いつつバッドエンド版も期待してます。
れいむがもっと効果的に動けたんじゃ無かろうか。
ただ、この展開で霊夢と和解するのは、やはり都合が良すぎる気はします。あれだけ理不尽な悪意、殺意すら向けてきた相手を、簡単にもう一度信用できるものかなぁ。最終的にアリスを受け入れる人間しか出てこないのが、この作品の気持ち悪さの原因なんじゃないかと思います。
……とまぁ文句だらけになってしまいましたが、作品としてのパワーは大いに感じました。個人的にこの手の内容が嫌いだからこそ、思うところも多かったです。ご馳走様でした。
ああもうマリアリ!マリアリ!マリアリ!狂愛大好きですよ!
あー、もー、なーんか幸せだー。一人で一万点くらい入れたいです。
おいらはこういうの好きなのですが、少し強引なところもあったのですが、それはそれでありかなとも思ってしまうところがw
まったく同じ経緯を辿ったわけではないのですが、魔理沙の気持ちの変化が理解できてしまいます。
長文なのにそうと感じさせずに読むことができました。
終盤で、真っ向から敗者復活戦を開始しているようにも見える霊夢にも、
少しときめきました。
BADENDもいいですが、強引過ぎる延長戦も少し見てみたかったり。
アリスの狂気を感じましたが、妖怪なら大なり小なり在るでしょうし、紫や幽香などとは比べるまでもないと思っているので、違和感はありませんでした。
霊夢がアッサリと彼女等と元の関係に戻ったのも、博麗の巫女ゆえなのかと納得していました。楽しませていただきましたし、面白かったです。
一方的な狂気だけでなく、二人の歪んでいく様が見事でした。
そして最後の着地点も意表を突かれましたw
定義された感情が歪んで再度着地点へと向かう描写が、上手く描かれていたと思います。
狂気一周して、という感じですね。
BADエンドと思っていたので、最後のキャッキャウフフがかなり来ました。
甘いのも、大好物です。
これはすばらしい!ゲーム化希望
それにしても博麗霊夢
流石は無重力の巫女
何者にも捕らわれないその存在は他者の狂気にすら捕らわれないとは・・・
霊夢と魔理沙、これまでの関係があったからこそ仲直りができたんだと言うのなら十二分に納得がいくというものです
いやはや良いものでした
が、後半の展開が少々無理矢理な感じがしました。
とは言うものの彼女らは(ある意味)人間じゃないみたいなもんだし該当しないかな.
狂気の流れからシアワセ路線になった流れに多少,不自然さを感じたものの(そう簡単に赦せる,赦されるものか?),後味悪い結果でなくて一安心・・・ですかね.
しかし、その強引さを不自然さと捉えると、最後の章が実に不気味に生きてくるように思えます。
むしろあまりにも最後だけがご都合主義だからこそ不気味で素晴らしい。
つまり「本当にそんなに都合のよいことが起こったの?」という疑問一つでまったく逆の展開が見えてきて中々寒気がします。
単に救いのないバッドエンドにするよりもより深みのあるバッドエンドが描かれているような、そんな気分です。
おそらく作者様の意図とは違った読み方になっているとは思いますが、そういう解釈もまた面白いかと。
霊夢についての描写をもう少し欲しかったですが、
とても面白かったです
でもこう、なんというか魔理沙の感情の動きがリアルで良かった。
しかし、今よく読み直してみると、このHAPPY ENDは "アリスの日記に書かれた" ものなんですよね。上の誰かが言ってた通り、実際に起こった事とは限らない。また、日記の鍵が外されている以上 "アリス以外の誰かが書いた" 可能性もある。それを考えると実はこっちもBAD ENDだったのかもとも思いました。
こちらもEXTRAも両方含めて、心に残る作品になりました。では長文失礼致しました。
なんか最後霊夢が空気な気がしたのですが、
作品はとてもよかったと思います。
それで良いのだろう。堪能させていただきました。
作者さんは愛だと言っていますが、本心はアリスをただ痛めつけてやりたくて書いた。と見えます
途中で狂ってるアリスを正当化しようとしていますが、どうみても異常ですね
アリスを虐める以外にこの作品で伝えたかった魅力を教えて頂きたいです。
魔理沙をモテさせたかった。なら納得できますが違うと思いますし…
だけれど文章にはもう思いっきり引き込まれましたよ
ヤンデレ大好きなので前半や後半の手紙はゾクゾクしましたが、やはり展開に少々無理があったかと。
あそこまで敵対した霊夢が果たしてもう一度アリスを信用するでしょうか……?
あ、文章自体はとても引き込まれるものでした。なのでこの点数を……。
普段なら、作品の投稿から時間が経っていると書き込みを断念してしまうことが多いです。
それにも関わらず、コメントを書き込みたいと思わせるだけの魅力がこの作品にはあると思います。
アリスを刺した後魔理沙が家の中に戻るあたりまで、このままバッドエンドになってしまうのかとずっとドキドキしながら読んでいました。
バッドエンドの作品はバッドエンドのものとして好きなのですが、狂いながらもその底にある魔理沙への想いを1回目の日記から読み取っていたので、それを魔理沙が受け入れてくれたのは私にはとても嬉しかったです。
今まで読んだ中で五指に入るほどゾクゾクさせていただきました。
とてもいいものを読ませていただきました、ありがとうございます。
狂気中のアリスも相当怖かったんですが
出番はそんなに多くなかったはずのブラックジャック・永琳の印象が強烈
天才www
なんですかこの気が狂ったアリスは
何故唐突に魔理沙が好きなことにされなきゃならないんでしょう
何故こんな汚らしい人格にされなきゃならないんでしょう
霊夢の扱いは多少疑問ですが、それでも十分なくらい面白い作品でした。
「ヤンデレ」なんて言えばそれまでですが、丁寧な心理描写に愛を感じましす。勿論魔理沙の情動も丁寧でよかったです。
しかしアリスの心の動きが可愛い。
魔理沙がアリスを刺す展開が強引なのは確かですが、アリスは魔理沙の狂気を受けて冷静さを取り戻し、魔理沙は自分も一時狂気に捕らわれることで、アリスの狂気を理解しようとする。そのことが無ければこの問題は解決しなかったのではないでしょうか。
だからEXTRAはあんなことに・・・ブワッ(涙)
↓
最高のタイミングで罠発動してフィーーーーッシュ!!
↓
調子に乗っていたら相手はメンヘルになって最後はブチ切れ
↓
でも相互相愛でハッピーエンド
普通ならありえん無茶苦茶なストーリーを、素晴しいジャスティス作品に仕上げてしまう職人の才能が凄すぎる
最終的に二人とも幸せになって良かったよかった
パッチェさんどんまいw
そして本編を読みまた衝撃が走りました…最高傑作すぎる……
ほのぼのエンドについてはみんな賛否両論みたいですが、私はやっぱり個人的にあなたの話はハッピーエンドに限ると思います。
ただ、あなたの他の作品(蓬莱阿九など)にくらべて読後感はそこまででもなかったのが残念といえば残念です。
この手の話しはどうせBADENDだと思ってたところに良い意味で不意打ちでしたね
とても面白い作品だと思います
アリスが魔理沙の感情につけ込んで脅すところもお気に入りです、これほどアリスの狂気が伝わってくるシーンもないのではないでしょうか。
ただ後半の展開は気になるところもあります。魔理沙がアリスを刺すところでは、狂気に落ちたからといって自分が悪いと思っている魔理沙がそうそうアリスを刺そうと思うものですかね、魔理沙がアリスを刺すことに論理性などは全くないように思えますし、魔理沙がなぜ狂気に落ちたのかもいまひとつ納得できません、都合良く狂気で行動を説明しているように思えてしまいました。
霊夢とアリスの和解もですが、そもそも霊夢が謝りにくる時点でおかしい気がします、明らかにアリスのほうが色々やらかしてますし、あれだけのことがあったのにそう簡単に和解するのも謎です、むしろ無理に和解はしないでもよかったかもしれません。
愛が重いぜ…
それは人間に限った事ではなく、理性と知性、そして感情がある生き物ならどんな種族でも持っています。
愛は狂気に走らせ、狂気は独占欲を増幅させ、独占欲は実質的に愛した人を支配する糧となる。
これ程までに歪んだアリスを見たのは初めてです。
魔理沙を求めるアリスの心理描写は数えきれないほど見てきましまたがこれ程とは...執念、欲望、独占、そして渇望。
いろんな感情が読み取れました。
マリアリ好きな私としてはこのような狂気に走ったアリスは受け入れられません。
この二人は両想いだからこそ幸せになれるんじゃないかと思っているからです。
恋心は昇華させるべからず。
さもなくば自身も相手をも滅ぼす。
扱いには気をつけなければなりませんね。
ではこれで失礼いたします。
二人の恋する魔法使いに純朴な幸せを。