向日葵畑~現在~
「冷酷非情な…じゃなくて、そう誤解されている貴方と、人間の少女との心温まる交流、これはいい話ですねぇ。ええ、もう大好評間違いなしです!」
大げさな身振り手振りで記者が言う。向日葵達がうるさそうに目をそらしているのに気付かないのかしら?もう。
やはり、さっきウツボカズラの養分になってもらうべきだったわね。手加減してやるんじゃなかったわ。
「いい話台無しねぇ」
興奮気味に話す記者へと冷水を浴びせた。しっとりとした雰囲気もなにもかも、天狗の暴風に吹き飛ばされてしまったわ。本当に野暮なんだから…
「お気に入りの高下駄を駄目にしただけの事はありました。これはいい、これは特ダネの匂いがぷんぷんしていますよ!」
「聞く気ないわね、新聞記者はこんなのばかりなのかしら?」
皮肉りつつ、記者の足元を見る。
ウツボカズラに溶かされたのか、高下駄が低下駄(?)になっていた。魔界産の大型種であるからして、その溶解力は強力だ。
…全部溶かされてしまえばよかったのに。
「というかですね、私自身が貴方のそんな行動に驚きました」
少し、真面目な顔。急な変化に少しだけ戸惑う。
「そうかしら?」
疑問をぶつける記者へ、答える。彼女の表情が少し緩む。
「ええ、貴方は他者と…特に人間とは交流がなくて、あまり話したがらないという印象がありましたので。こんな話を伺えたというのは、二重の意味で驚きました」
「そう…でもあの子と話したのは向日葵だったからよ?それと、花たちを大切にみてくれていたから…」
「ふむ、ふむ…無理矢理ですねぇ。フラワーマスターは素直じゃない、でも、懐に飛び込んでいけば、なんだかんだ理由をつけて、ちゃんと仲良くなれると。これはいい記事になりそうですね。ええ、フラワーマスターの意外な一面に、幻想郷の皆さんも大喜びするに決まっています!ああ、これで我が新聞も大手新聞社の仲間入りです」
さっき失言と一緒にウツボカズラに飲み込まれた新聞記者は、陽気にしゃべり続ける。本当、この記者は過去から学ぶという言葉を知らないのかしら?
この記者は、あの少女ととても似ていて、そして正反対だ。その性格も、考え方も、そして幻想郷における立場も。最も近くて、最も遠い。
まぁ、だからこそ、話そうという気になったかもしれないわね。
「ああ、これでもう文々。新聞をゴシップ紙扱いしたり、新聞紙とか言ったりする輩も減るはずです。やはり新聞というものは読者の興味を惹きつけて…」
私は、未だ勝手にしゃべり続けている新聞記者の背後に、密かにハエトリソウを展開させる。幸せな未来を語り続ける彼女は、その気配に気付く様子もない。
ハエトリソウ、そのやかましい記者の後方に占位しなさい。変に騒がれない内に、一気に方をつけるわよ。
「これはもう是非にでも洗いざらい聞き出して、特集を組むしかないですね。タイトルは何にしましょう?フラワーマスターの真実、実は子どもに弱かった!?…駄目ですね、インパクトのかけらもありません。うーん…フラワーマスター、太陽の畑に咲いた愛の花。偶然であった少女との蜜月の日々を本紙独占取材!そう!これでいきましょう。新聞にはある程度の誇張は必須です、読者を惹きつけなければならないですし…ええ、いっそ悲恋物にしちゃいましょう、読者はそういうものに弱いですし…あ、そうそうもちろん少女は不治の病を患っていて、愛する人の手を握りながら息絶える。そして、フラワーマスターは彼女との思い出の畑を、今も一人守り続けている…よし!これです!!いけます!凄い!バラ色の未来が見えますよ!?」
そうしている間にも、記者は勝手な妄想を脳内で創り続ける。話の原型がないじゃないの…勝手に恋の話にしないでもらいたいわ。見方によっては惜しいところをついているのが悔しいけど。
…まぁいいわ、とっとと黙らせましょう。このまま放っておくと、その内、手に手を取って駆け落ちさせられたりしそうだし。
「ううん、でも最後の一押しが少し弱いですね。そうだ!ここで、しかしもう一人でいるに疲れ切ったフラワーマスターは、少女に逢う為、自ら命を絶った…とかになったらもう感動巨編の誕生です!風見さん!お願いなのでちょっと死んでいただけませんか?」
駆け落ちどころか心中?いや、この場合後追い自殺か…想像の斜め上をいく発想ね。でも、どっちにしろ私はそんな事で死ぬつもりはないわ。だから…
「貴女が死になさい」
ハエトリソウ、攻撃位置に展開、突撃準備態勢作れ、完了し次第直ちに攻撃開始。
「や、私が死んでも記事にはあまり…え?やきゃっ!?」
いやいやと手を振る記者が、何かを察して振り向く。その視線の先には巨大な『口』が見えていることでしょう。
驚愕の表情を見せる間もなく、彼女はハエトリソウに捕獲された。
「ごめんなさい、調子にのってました。ついバラ色の未来が…いえ、何でもありません。ちゃんと事実のみを記事に致しますのでどうか続きを聞かせて下さい。あと、出来れば出して…」
ハエトリソウに挟まれた記者が、必死に頼み込む。ハエトリソウに挟まれながら土下座というのはなかなか面白かったので、そのまま消化させるのは許してあげたけど、本当に懲りるという言葉を知らないのかしら?
「しばらくはそこで頭を冷やしていなさい。全く…こんなワンパターン天狗じゃ新聞のレベルも知れているわ」
そう言いながらも私は次に何を話すか考える。何故かしら?ここまで話したのだから最後まで話したいという気持ちが湧いてきた…?
私らしくない、でもまぁいい。そう、たまにはこうやって過去を話して、あの少女を思い出してあげるのもいい。
そう、過去を思い出すのは、過ぎた時間への何よりの手向けとなるのだから。
「では、続きを話しましょう」
少しの時間をおいて、頭の中で次に話す内容をまとめた。
ハエトリソウから顔だけだして、それでも尚メモを出す記者へと、私は語りかける。今と同じ太陽の下、昔ここであった物語を。
向日葵畑~過去~
明るい太陽は向日葵達を照らし、向日葵達もそれに負けじと光をはねかえす。
二つの太陽の間には、青い空と白い雲、そして聞こえる蝉の声。そんな夏の景色の中で、何よりも夏らしい向日葵達は大輪の花を咲かせていた。
そして、その中にはもう一つの向日葵の花。絵筆を持った向日葵が、太陽の代わりに私を見つめる。
「お姉ちゃん、もうちょっとだから動いちゃ駄目だよ?」
「どうしようかしら」
真面目な表情で私に静止を呼びかける少女へ、いたずらな笑みを返す。
「もー意地悪」
「ふふふ…」
拗ねたような表情と、膨らんだ頬が面白い。
あの雨の日から数日、少女は毎日絵筆を持ってここへと来ていた。このやりとりもいつものこと、放っておけばすぐに笑顔に戻って、絵を描き始める。
向日葵の葉陰に腰掛けて、私と向日葵達を描く。飽きれば側によって来て、断りもせずに膝に頭をのせて、すやすやと眠る。
起きればなんの脈絡もない話をして、向日葵畑を駆け回ったり、向日葵と背比べをして渋い顔をしていたりする。そんな気ままな日々。
これはこれで案外楽しい、からかうと、愉快な反応を返してくれるのもまた面白かった。
あら?また向日葵と背比べかしら?
「またやっているの?」
いつの間にか絵筆を放り出して、向日葵を睨んでいる少女へと声をかけた。そうしたら、彼女は、真面目な顔で振り返ってこう言った。
「ねぇお姉ちゃん、何で私も向日葵なのにこんなに差が出るの?」
納得出来なさそうにこちらを見る少女、本気?
「…え?」
思わずまじまじと少女の顔を見つめた。
「どうしたの?お姉ちゃん?」
きょとんとした表情、まっすぐな瞳で私を見ている。
そう、とてもまっすぐな瞳で…
必死に抑制する。駄目だ、駄目なのはわかってる。でも…
「ねぇ、どうしたの?」
真面目な声、駄目、もう駄目だ…止めをさされたっ!
「限界っ!あ…あははははははははははっ!!!」
おなかを抱えて笑い出す。もう駄目だ、この子もう駄目、面白すぎるわ!
「あ、酷いっ!何で笑うのっ!?」
でも、そんな私に、笑われたのを心外そうに頬を膨らませてくる少女。貴女私を笑い死にさせるつもり!?
「あはははははっ!!苦しいっ!息がっ!!」
追い打ちとなった言葉に、とうとう立っていられなくなり、うずくまって笑い続ける。
ああ、もうこんなに派手に笑うのはどれくらいぶりかしら?いえ、間違いないわ、こんな経験はしたことがないもの、生まれてはじめてだわ。
向日葵達も可笑しそうにざわざわとゆらめく。ああ、愉快、こんなに心の底から笑えるなんて…
ああ、もうこの向日葵は面白すぎるわ!
「お姉ちゃん酷いよー」
目の前で、少女はじとっとばかりにこちらを睨む。怒っているようだけど迫力は全くなかった。
ばかーだのいじわるーだのとぽかぽか叩かれて、ようやく笑いを止めるまでに相当時間が経ってしまった。
「ごめんごめん…ふふっ…」
頬を膨らませる少女へと謝るが、どうしても笑いが漏れ出てしまう。
「あっまた笑った!私のこと向日葵って言ってくれたのお姉ちゃんじゃない…もう」
それを見てまた少女がこちらを睨む、やっぱり迫力はないけど。
それにしても、怒ってもここまで迫力がないというのは考えものね。今度笑い方を教えてあげましょう、見る者全てが怯えるような黒い笑いを。
「むー」
相変わらずこちらを睨んでいる少女、仕方がないので強引に話題転換をすることにした。
「ごめんなさいったら…それで、絵はどうしたの?」
そう言って笑いかける。あまりに無理矢理な話題転換、普通ならこんなのには誤魔化されないとは思うのだけど…
「え、絵?うん、できたよ、見せてあげる」
あっさり誤魔化されるのよね、この子。将来が心配だわ。
少女はごそごそと紙を取り出す、すっかり笑顔だ。
「ね、どう、お姉ちゃん?結構可愛く描けたでしょう?」
どうかな?どうかな?とでも言いたげに見せる少女へと、私はこう答えた。
「まぁまぁね」
「むーまたぁ?」
不本意そうに少女が頬を膨らませた。どうやら、この答えでは満足できないらしい。
でも今のは嘘。まぁまぁどころじゃない、とてもよくできている。
大輪の花を咲かせている向日葵達の前で、傘をさしてこちらを向き、微笑む私の姿。
それは、信じられないくらい優しい笑顔をしていて、こちらを見つめている。この少女は一体だれなのか?外見は私に似ているみたいだけど、私はこんなに優しい笑顔はできない。きっと別人だ…
でも、以前の絵にそう言ったら、彼女はこう言った。
「えーお姉ちゃん、凄く優しい顔してるよ?…たまにちょっと不気味になるけど」
後半部分にはあえて触れない。気になって、不気味な時の姿を絵にしてもらったことがあったような気はしないでもないけど、まぁ記憶違いだろう。
多分、それは空に散った和紙のように、とっとと脳内から消し去るべき曖昧な記憶。…いくらなんでも、私はあんなに凶悪そうじゃないったら。
何はともあれ、私の笑顔は優しいらしい。優しいなんて言われたのは生まれて初めてのような気がするので、少しだけ嬉しかった。少しだけね。
それにしても、いつもいじめているからとはいえ、妖精だの妖怪だのは、こんな可憐な私を悪鬼羅刹の類のように呼んでいるのだ。今度、そんな連中にあの絵を見せてやることにしましょう。
外を出歩いていたら問答無用でとっつかまえて、少女の絵にそいつの顔を押しつけながら、笑顔でこう言うのだ。
「私、可愛い?」
完璧だ。きっと、私に対する妙なイメージも消え去ることでしょう。
もちろん、ないとは思うけど、そこで可愛くないなんて答えた輩がいたら、顔だけだして向日葵畑に埋めてしまいましょう。悔い改めるまで。
「よしっ!今度こそお姉ちゃんを唸らせる絵を描いてやるんだから!」
気がつけば、目の前では少女がなにやら闘志を燃やしていた。きっと、これで私をもっと可愛く描いてくれるでしょう。
「ええ、お願いね」
「うんっ!」
静かな言葉に少女は満面の笑みで答えて、そして側に来る。
私がゆっくりと地面に座ると、慣れた動きで膝の頭をのせてきた。暗黙の約束、毎日描いてくれる絵の報酬…
「絵は可愛く描くから、疲れたら枕になって。お姉ちゃんの膝の上は安心だから♪」
「わかったわ、本当はモデル代が欲しいくらいなんだけど」
「むー」
あの雨の日の翌日、私と少女が交わした小さな約束だ。
「んにゃ…」
訳の分からない寝言で現実に引き戻された。無防備な寝顔に思わず頬が緩む。あれだけ騒いでいたのだから、その反動かしら?とても寝付きがいい。
やわらかい頬をつついて遊ぶ。起こさないように、静かに。安心しきった寝顔が少し変化する。危ない危ない、でも、こんなスリルも面白い。
そして苦笑い、私の膝の上が安心か…これでも結構怖がられているんだけどなぁ…それとも、この子と話している私が丸くなったのかしら?
頭上を見れば、空はいつもと同じ青空で、ゆらゆらと向日葵の海は揺れている。
ああ、とても落ち着く。とても気持ちがいい。
いつも一人で花を眺めていたのだけど、こんな夏の過ごし方もいいかもしれない。少しにぎやかな花と、夏を楽しむのもいいかもしれない。
人間と妖怪、きっと別れは来る。でも、その日までこうやって遊ぶのもまた一興だ。でも、その為には妖怪とばれないようにしないとね。
そこまで考えて、そんな自分の思考に驚いた。こんな事…昔の自分だったら考えられないわ。そう、人間の子どもに執心するだなんて…
苦笑いしながら、そっと少女の髪を撫でた。もしかすると、今の表情が彼女が描いている優しい笑顔なのかしらと思いながら…
私の可愛い向日葵、叶わぬ願いとは知っているけど、いつまでも笑顔で側にいてね。
そんな私達を、夏の雲が優しく見つめていた。
向日葵畑~現在~
「うう…いい話ですねぇ」
少しばかり溶けている文花帖にメモをしながら、天狗が言う。そうそう、ひとの話はそうやっておとなしく聞くべきものよ?
ハエトリソウから出してやった時、次になんかやったらモウセンゴケの養分にしてあげるわよ、と言ってあったおかげか、記者も今度はおとなしかった。残念、そろそろ何か餌をあげようと思っていたのに…
「やはり貴方も人の子…ではありませんが、感情のある生き物だったのですね。少し認識が変わりました」
感慨深げに何か失礼な事を言われた気がするが、気にせず言葉を返す。
「変えなくていいわよ?それに、多分貴女が最初に思っていた方の印象が正しいでしょうし…」
そう、あれはちょっとした気紛れ…長い長い気紛れだ。私は今も昔も変わらない、そして将来も。
「またまた、案外変わりたいと思っていたんじゃないですか?今でしたら当紙で風見幽香優しさアピール大特集なんていうのを組んで、友達作りに協力してさしあげ…いえ、何でもありません」
馬鹿な事を言い出した新聞記者へと、笑顔でモウセンゴケを展開させ、黙らせる。
別に私は今のままでいい、あの時はあの時、今は今。それに、誰とでも無差別に親しくなろうだなんて思わないわ。
「こほん」
取り繕うように天狗は咳をする、少し表情が変わる。
「なにはともあれ記事にする云々を抜きにしても興味深い話が聞けました。天狗というのは好奇心が旺盛なのです、いえ、それが全てと言っても過言ではありません。そんな私達にとって、意外性のある話というのは何よりの娯楽…いえ、生きる糧なのですよ。だから新聞を作っているわけですし…その為には危険を冒すことも恐れません」
突然こんな事を話し出した意図が読めない。しかも、表情にあまりふざけた雰囲気を感じない、ここからどう繋げるつもり?
少し、身構えた。
「何が言いたいの?」
突然、よく分からないことを言い出した天狗を睨む。
雲行きが怪しくなってきた。真剣にこちらを見つめる彼女に、表情を変えず、問い返す。
「一つだけ聞かせて下さいな、その少女と最後に別れた時、貴方は何を感じましたか?」
小さな間の後、天狗は言った。
今までのおちゃらけた表情ではない、真っ直ぐな瞳。そう、あの時の少女みたいな、そんな瞳。
死という単語を使わないのは、無意識に一方の答えを求めているからかしら?
向日葵畑が静かになる。風がやんで、蝉の声も聞こえない。そんな中、じわじわと降る日射しが、音を立てているように感じた。
黙り込んだ私へと、彼女は言葉を続ける。
「貴女が他の種族…それも何の力もない人間と心を交わした、それは非常に興味深い。ですが、それは本当に彼女を大切に思っていたのか、それともただ面白がっていただけなのか…私はそれが知りたい。だから教えて頂けませんか?彼女と最後に別れた時、どう感じたか、貴方の気持ちを…」
不思議に思う。天狗という種族は、何故こうも他者の事を知りたがるのか?そして、他者へとそれを伝えたがるのか…でも、それもまた幻想郷にとって必要なのかも知れない。
ここは、私のように他者に関心が無い人妖が多いのだから。
傘を揺らし、記者を見る。相変わらず、こちらを見ている。視線を外す気はないらしい。あからさまに展開させたモウセンゴケ達にも反応する様子はない。
好奇心の為に命の危険を惜しまない、それは、こんな所までいつも一人で遊びに来ていたあの子と一緒だった。
「はぁ…」
ため息を一つ、緊張感が緩んだ。そして少しの時間…
「それには答えられないわ」
単刀直入に回答を届けた。
「………そう、ですか」
私の簡潔な答えに、記者は静かに応じる。
落胆したような、しかし予期していたような、そんな反応を見せる記者へと、言葉を重ねる。
「勘違いしないで、答えないのではなく答えられない。それにしても先を気にしすぎよ、貴女。まだ話は終わっていない、少女と別れたと決まったわけではない、なのに話すわけにはいかないじゃない」
「あ、あははは…そうですね、いや、失礼しました。いやぁ、新聞記者という職業柄、少々事を急ぎすぎたようでして…」
照れたように頭をかく記者、すっかり元の雰囲気に戻っている…ように装っている。
「そうね、花を咲かすのには辛抱が肝心よ。貴女には向かないわね」
「あ、いえ、そうかもしれませんが…それより、ということは最後にはちゃんと答えてくれるということですね?」
ずずいと顔を近づけてきた記者を傘でつついて押し戻すと、私は答えた。
「いいえ、多分その必要はないだろうから…」
「は?」
首を傾げる記者へと私は笑みを見せ、言った。
「さぁ、次が最後、だから黙って聞いていなさい…」
ゆっくりと、ゆっくりと話す。記者にも、もう羽目を外す様子はない。結構、それでいいわ。
私はふと目を瞑り、深呼吸した。向日葵畑の空気が身体中に行き渡る。ここの空気は、あの時と変わらない。
さてと、どう話したものかしら…あの時のことを…
そう、そろそろ物語は終盤にさしかかる。あの夏の物語、向日葵畑の物語はもうすぐ終わる。
「いえ…」
自分で自分の考えを否定した。
物語が終わる、ではなくて、物語の第一幕が終わる、ね。
あの夏の物語は今も続いている。そして、私が生き続けている限り、ずっとずっと続いていく…続かせる。
よし、言うべき事はまとまった、どう話を終わらせるか。そして続かせるか…
もう一度深呼吸して夏の空気を身体に取り込む。傘を下ろし、日射しを浴びる。身体中で季節を感じた。
そして私は話し出そうとして…ふと空を見た。
夏の日射しはあの時と変わらず、流れる雲も変わらない。一瞬、あの少女が顔を出してくるような錯覚にとらわれた。
でも、それはあり得ない。あの少女がここに現れることはもうないのだから。
そこまで考えて、ふと小さな違和感に気付く。相変わらず、向日葵畑はとても静かだ。静かすぎる…ふと、周囲に視線を向ける。
空を見て、ゆったりと揺れているはずの向日葵が皆私を見ている。気ままに空を飛び、地面で寝ころんでいるはずの妖精達も皆、私の方を向いていた。
向日葵達が、私を見ている?
さっきから無性に話したかった理由がよくわかった。続きを聞きたいという向日葵達の願い、それが、私へと伝わってきていたのだろう。
私はフラワーマスター、花たちの願いは私の願い。
太陽から視線をはずし、こちらを見ている向日葵を見返す。
そう、自分の仲間と、生みの親の物語、貴女達も聞きたいのね。わかったわ、貴女達も聞いていなさい、私の昔語りを…
私はゆっくりと口を開き、話し始める。今なお続く、私達の物語を。
向日葵畑~過去~
「お姉ちゃん、この絵はどうかな?」
「まだまだねぇ…私はもっと美人よ?」
「むー」
頬を膨らませる少女の頭を撫でて、ご機嫌をとる。小さな頭を優しく撫でる、そんな行為に、私はすっかり慣れてしまっていた。少女の表情がほにゃほにゃと緩み、甘えきった様子でゆっくりよりかかってくる。私は彼女のなすがまま、その行動を受け入れた。
普段の私を知る者がこんな所を見たら、まず偽物だと疑うか、もしくは何の罠かと周囲を警戒してまわるに違いない。
もっとも、そんな失礼極まりない事をしてくれた場合、速やかに花たちの養分になってもらおうかと思うけど。
向日葵畑は今日も晴れ、青い空に白い雲、蝉の声に向日葵畑、かんかん照りの太陽が、黄色い海へと強い日射しを降らせている。まさしく夏景色の模範解答、向日葵達にはぴったりの世界。
その世界の中で、私達は寄り添って、向日葵を見る。どうしてだろう?不思議な位幸せだった。
毎日毎日がのんびりと過ぎていく、争うようなこともなく、ただ平穏に。今まで生きてきた中で、一番穏やかで、一番騒がしい夏が、ゆっくりと過ぎていく。
そんな日々が幸せだった。
少女がうーんと伸びをした、私はそれを見つめている。花が伸びていくのと同じように、元気一杯な様子…
そんな様子を見ていたら、少女が私の視線に気付いて明るく言った。
「夏だねー」
「そうね」
「あっついねー」
「そうね」
「明日も晴れるといいねー」
「そうね」
「きれいな空だねー」
「そうね」
「むー」
…なぜ睨まれるのかしら?
ちゃんと受け答えをしたはずなのに、何故か少女の顔つきが険しい。おなかでも痛いの?
「はぁ…」
悩んでいると今度は呆れられた、いよいよもってよくわからない。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、それじゃあお話が続かないよ…」
尋ねてみると、しょうがないなぁ…みたいに両手をひらひらとされる、なんか…腹が立つわね。
「もう、そうだね、ばっかりじゃお話が止まっちゃうよ。空がきれいだねーって言ったら、君の方がきれいだよ?とか言ってくれないと♪」
気が利かないなぁとか言われる、私をなんだと思っているのよ。おのれ…
「こんなんじゃあお姉ちゃんずっとひとりぼっ…うわ、何するのっ!やめてっうきゃー」
無言で頭をぐりぐりする。
少女は悲鳴を上げながら、なぜか笑顔でじたばたと暴れている。向日葵達の呆れたような視線が、不思議と面白い。
「やめない、こうしてやるっ♪」
こちょこちょこちょこちょと…くすぐりながら二人して地面を転がる。土の匂い草の匂い向日葵の匂い…全部まざって夏の匂い。
「あははっばかーいじわるーっ!!」
地面を転がりながら私をののしる少女を追って、私も転がる。
ごろごろ…ごろごろと…普段の『弾幕ごっこ』とは全く違う戦いだけど、これはこれで面白い。
一瞬、仰向けになった時、とても大きな向日葵達と、信じられない位広い青空が見えた。目を奪われる。
視点をずらすだけで、向日葵達はまた別の輝き方をしていた。ああ、これからはここに大の字になって向日葵達を楽しむのもいいかもしれない、また一つ、夏の楽しみ方を見つけた。
「てやっ♪」
「げほっ!?こほっ!!」
その時聞こえた悪魔の声、口の中に土の味が広がって、思わずむせた。しまった、今は…
「えへへ…」
勝ち誇った、楽しげな笑い声が聞こえた。むむむ…
「えへへじゃなーいっ!!」
いたずらな笑顔で笑う少女へと、私はつかみかかる。戦闘再開、思い知らせてやるんだからっ!
~少女乱闘中~
「もー」
「貴女が悪いんだからね?」
「うー」
「自業自得よ?」
「むー」
「はぁ…わかった、わかったから笑顔になりなさい。不機嫌な向日葵なんて絵にならないわ」
じとっとばかりにこちらを見る少女にため息一つ、やれやれとばかりに両手を上げた。誰かに見られていなきゃいいけど…こんな所を見られていたら末代までの恥だ。
それにそうなると実に面倒くさい、見た奴を全員亡き者にしないと駄目になってしまうじゃない。手間がかかるわ。
「えへへ…じゃあ罰として絵のモデルになってね、動いちゃ駄目だよ?」
最初からこれが目的だったのだろう、ころりと表情を変えた少女は、いつの間にか手にしていた絵筆と紙を構えて、私を見る。
「この格好?さすがにやめて欲しいのだけど…」
自分の様子を見て、思わず言ってしまった。
ちなみに、今の私の格好は、少女とおそろいの土まみれルック。そりゃああんだけ土の上を転がればこうなるわよねぇ…
「やだ♪」
笑顔で返された。なんか少し黒くなってる…外も中も。一昨日、黒い微笑み方を丸一日かけて教えてあげたのは失敗だったのかしら?
「もう…」
ため息をついた時には、既に私の様子が描かれだしている。
少女は、慣れた手つきで絵筆を滑らせる。さらさらと…さらさらと…
「…仕方ないわね」
そんな様子を見て呟くように言った私は、諦めてのんびりと夏を楽しむことにした。
毎日変わらないようで、だけど日々同じなのは何一つとしてない向日葵畑。おおざっぱな心しかない連中には何もわからないかもしれないけど、ここは毎日毎日変化して、私達を楽しませてくれる。
ゆらゆら揺れる向日葵達の向こうには、森が見えて山が見える。その上にあるのは青い空、白い雲と太陽が寄り添って、その景色は刻々と変化している。
その様子をぼんやりと眺める。
日射しはまだ強いけれど、聞こえてくる蝉の声はいくぶん少なくなっていた。もうすぐ秋…秋になると、こんな楽しみ方もできなくなるのかしら?
少女を見る。
真剣な顔つきで絵を描いている。さらさら、さらさら…
私が見ているのに気付いて、一瞬不思議そうな顔をしたけど、黙っていたらそのまま続きを描き出した。
さらさら…さらさら…
ゆっくりと時が過ぎる、少女が筆を進める音が聞こえている、何故かそれが心地よい。
風が吹く、向日葵が揺れる、傘が飛んだ。少女はまだ絵を描いている。傘はころころと転がって、小石にひっかかって止まった。彼女は気にせず描き続ける。
力作らしい、大方、こんな私を描けるなんて滅多にないとでも思っているのでしょう。
私も、別に気にすることなく日射しを浴びながら完成を待つ。空は、少しづつ茜色に染まっていく。
「できたっ!」
どれくらいそうして過ごしていただろう?
突然少女が言って、立ち上がる。向日葵達が驚いたように風に揺れる、風は少し涼しかった。
気がつけばずいぶんと時間が過ぎていた。空はすっかり茜色で、沈み行く太陽の代わりに月が輝きだしている。夜は近い。
「長かったわね、いいのができたのかしら?」
えへへ…とばかりにうつむく少女へと、私は言う。
「うん、頑張ったから♪」
満面の笑み、どうやら、相当な自信作らしい。確かにずいぶん熱中していたみたいだしね。でも…
「頑張るのはいいけど…」
空を見上げた。見事な位赤く染まった空が、日暮れを告げている。迂闊だった…
ここから里まではかなりの距離がある。
途中、そこまで危険な場所はないとはいえ、かといって安全かと聞かれればそうではないと答えざるを得ない。
まして小さな人間の子ども。日中一人で里を出るのすらそれなりに危険だというのに、もうすぐ夜だ。
あまり頑張っていたからと、声をかけなずにいたことを悔やむ。
「あ…」
少女も気付いたらしい、不安な表情で空を見る。
一瞬の沈黙、その間にも、空は急速に変わり続ける。雲は刻々とその色を変え、太陽の残光はたちまち衰えていく。昼は、追い立てられるようにして夜へと変わっていく。
昼間のゆったりした時の流れが嘘みたいだった。
「じゃあ帰るねお姉ちゃん。残念だけど今日はここまで、絵はお家に帰ってからもっときれいに仕上げるよ。もうまぁまぁね、なんて言わせないんだから」
びしっと、自信ありげに私に指を向け、少女は笑った。
「わかったわ、でも自信はあるみたいだけどどうかしらねぇ?」
「もう、今度こそはうーん参ったって言わせてやるんだから!」
からかうように言った私に、少女は頬を膨らませて、答えた。
もう少しこうして時を過ごしていたい…でも、もう限界だ。
「ええ、楽しみにしてるわ」
寂しい気持ちが出ないよう、いつもの表情で少女を見送る。
「しててねっ!また明日来るからねっ!!」
少女は力強く答え、くるりとまわる。おかっぱ頭が軽やかに踊った。
「途中で襲われて死んじゃったりしたら、骨はここに埋めてね?ずっといるなら、ここがいいもん♪」
そして何気ない冗談、そのはずなのに、思わず不安がよぎる。
「冗談…だよ?そんな難しい顔しないで、お姉ちゃん」
励ますような、少し驚いたような視線がこちらを向いている。不安がばれていたのかしら?慌てて場を取り繕う。
「わかってるわよ、一瞬不安になっただけ。本当に気を付けなさいよ?」
「うん♪」
再び笑顔、私は思わず送っていきましょうか?と言いかけて言葉を止めた。
里には、私の事を知っている連中が結構いるのだ。
ただでさえ、里の外で一人でふらふら歩き回っているこの子は不思議がられているだろう。
その上、妖怪と共に時間を過ごしているなどと知られてしまっては、ほぼ間違いなく外出を止められる。
向日葵畑を守るつもりで言った『この花畑の事は内緒よ』の言葉が、今思えば幸いなことに、ここでの出来事を秘密にしておいてくれたのに…
まして、私の評判ははなはだよろしくない。
人間にはそんなに酷いことをした覚えはないのだけど、いじめていた他の連中から、根も葉も…ちょっとしかない噂が、さんざん流れ込んでいるらしい。
今度、ちょっとしめておいた方がいいかもしれない。私が怖くないということを、その身体にしっかりと教えてやらないと…
なにはともあれ、向日葵畑で私なんかと遊んでいると知られたら、この子は来られなくなる。
この子と遊べなくなる…それは絶対嫌だった。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
気付けば、不思議そうな目をして、少女がこちらを見ていた。彼女の頬が夕陽で染まり、時を告げる、それは私を焦らせる。
「なんでもないわ、気を付けて帰るのよ」
「うん!」
何度目かの念押しに、元気一杯の返事が聞こえた。
私は、その間に周囲の気配を探った。花たちを通じて、この辺りに妖怪がいないか様子をうかがう。
…大丈夫、少なくとも、私の感知しうる範囲には妖怪はいない。里までの進路には、妖怪は現れない。私からこの子を奪うような輩は現れない。
「おねーちゃん?」
「え?」
不思議そうに尋ねる声がして、我に返った。
「えって…さっきから難しい顔してたから…」
「あ、何でもないの、本当に気を付けて帰るのよ?」
ますます首を傾げる少女を、慌てて誤魔化して、そして急かす。
「妖怪が現れない内に、急いで帰りなさい。私は、夏の間いつでもここにいるから…」
「うん、また明日来るからっ!絵、楽しみにしててね!」
自分でも意外だったけど、懇願するような声を出してしまった。少女は、そんなことは気にせず、陽気に言って駆け出した。
情けない、私がこんな少女に?でも…あの向日葵みたいな笑顔には、それだけの価値があると思った。
少女は駆けてゆく、いつもより速い。向日葵達の間を、慣れた足取りで駆けていく。
たちまち背の高い向日葵達に囲まれて、少女の姿が消える。夕焼けの中に消えていく。
ふと、そのまま消えてしまいそうな気がして、手を伸ばした。もちろん、その手が届くことはない。
「何故かしら?」
少女が視界から消えてしばらくして、自問した。
何故、人間の少女に、ここまで執着してしまったのだろう。
それは、答えがでない疑問。でも、執着してしまったのは事実だった。
まぁ別にいいわ、私が変わったのはあの子と過ごす時間だけ。それ以外は、昔通りの風見幽香なのだから。
過ごす時間も本質的には変わっていないはず、花畑で、季節の花を愛でる。今までと同じ事に、少しだけおまけがついただけ…
難しい事は考えず、今まで通り花を愛でていきましょう。そう、元気な向日葵達を…
「…え?」
その時、かすかに悲鳴が聞こえた気がした。
空を走る、必死に走る。
眼下の黄色い波が揺れて、花びらが舞った。
全力…それなのに、黄色い海の果ては見えない。普段ならあっという間に感じる距離、それが、果てのないものに感じられた…
速度が出ないのがもどかしい、私は地の妖怪、フラワーマスター。空を飛び、高速で移動するのには向いていない。そんな自分が酷く悔しい。
「何で?」
飛びながら必死に自問する。
妖怪の気配は感じなかった…今も感じない。だけど、不思議な位嫌な予感がしていた。
向日葵達が叫ぶ、仲間が危ない。
何で、何で?何が危ないの?
危ない、危ない、助けてあげて…
妖怪はいない、このあたりには崖や川はない、危ないはずなんてないじゃない!
危ない、危ない、急いで。
何で?何が危ないの?あの子はどうなっているの…?
危ない、危ない、急いで…殺されてしまう!
「っ!?」
傘を投げ捨てた、傘はくるくると舞って、向日葵達の頭上に落ちた。ごめんなさい、後で治してあげるから…
でも向日葵達の悲鳴は聞こえない、ただ、急いで、急いでという気持ちだけが伝わってくる。わかってる、言われなくても急いでいるわ!
もうあとのことなんて考えられなかった。必死に速度を上げ、黄色い波間を行く。その、切れ目が見えた…
とても綺麗な景色だった。
向日葵畑と草原の境目、そこは、茜色に染まっていた。
一日の中で、最も赤い時間。太陽が沈むその刹那、それは、最後の力で地上の全てを赤く染める。
植物や、空気や、水、その他多くのものが、自分の持っている色を失って、夕陽の色に染められる。たった一色の世界…
向日葵も、赤く染まっていた。
ゆっくりと、遠くを見る、黒いいくつかの影が遠ざかっていく。野犬…私の気配を察し、逃げたのだろう。
妖怪がいない…だけど、それがあの少女にとっての安全を保障するものではなかった。本当に迂闊だった。悔やみきれなかった。
野犬たちを追う気力はなかった、ただ謝ろうと思った。
意識してそらしていた視線を下げる。赤い世界の中でも、そこは特に赤く染まっている。
そこに見慣れたものがあった。絵筆と、紙、それを支える為の板…
そして、それらを持ったままの小さな腕が、赤く染まって転がっていた…
静かに近づき、ゆっくりと、ゆっくりと少女の手を取る、とても軽かった。
ぽたぽたと赤い水滴が落ちた…私は構わず胸に抱いた。抱きしめた。
少女の名を呼ぼうとして、それを知らなかった事に気がついた。あれほど共に時間を過ごしたのに、名前すら知らなかった…その事実が悲しかった。
その時、小さな手のひらからひらりと紙が舞う。あの子の…絵だ。
逃さないようにしっかりと捕まえた。そして…
「あ…あぁ…」
どんどんと涙が出てきた。少女と過ごした時間を思い出して、どんどんと涙が溢れてきた…
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
今まで、心から言ったことがなかった言葉を連呼する。涙が止まらない、止まらない…
何でちゃんと送ってあげられなかったのだろう…何で、途中で早く帰るように言ってあげられなかったのだろう…我が儘な自分が、この時ばかりは嫌いだった。
後悔が、一気に押し寄せてくる。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
だんだんと暖かさを失っていく腕へと、必死に謝った。謝れば、それが暖かくいてくれるかのように思った。
「ごめんなさ…」
絵を見て、声が止まる。
揃って土まみれになった私と少女が、向日葵の前で笑っている。
青空の下で、明るく…信じられない程明るく…
そして、向日葵は、そんな私達を楽しげに見つめている。
それはさっきまであった光景。とても幸せだった、私達の時間だった。
「参った…」
涙を拭いて、少女へと敗北宣言を出した。言いたかったけど言えなかった、一つの言葉。
間違いない、服は土まみれで、顔も同じような状態だけど、この私は間違いなく今までで一番輝いている。向日葵畑によく似合う、最高の美少女だ。
「ごめんなさい…本当にいい絵ね。だからこれはそのお礼…」
胸の中の少女へと言って、力を込める。あなたの願いを叶えてあげる。
私はフラワーマスター、花畑の主。
私は約束通りここにいるわ、だから貴女も一緒にいましょう。
私の魔力を集めて、花たちからも力を借りて、カタチにする。
光が集まって、ひとのカタチになった。彼女は、幸せそうに私の腕の中で眠る。
「いつも笑って、楽しく過ごしなさい、向日葵畑の妖精さん。これからずっと…貴女は私とともにいましょう」
生まれたばかりの妖精へ、私は言った。
向日葵畑~現在~
向日葵畑はまだ静かだった。向日葵も、妖精達も、そして記者も…皆黙ってこちらを見ていた。
気付けば、少しだけ日射しはやわらかくなって、青空は、あの時のような夕空へと向かっていく。
少女の事を思い出して、少しだけ切なくなった。
「これが私達の向日葵畑の物語。さっきの質問の答えは、まだ必要?」
目の前の新聞記者へと、尋ねる。記者はゆっくり首を振った。
「いいえ、ありがとうございました」
頭を下げる、誠意が見て取れた。新聞記者の礼というのも、捨てたものではないわね。
「風見さん…」
「何かしら?」
しばしの沈黙の後、記者が言った。私はそれに応じる。何かを言いかねているような、そんな口調、黙って次の言葉を待つ。
彼女は、少し悩んで、しかし何かを決めたかのように私をまっすぐ見て、口を開いた。
「これは…記事にしていいのですか?」
「記者がそれを聞くの?」
笑って問い返す。
一瞬、誇らしげな表情が見えた。そして、彼女は言葉を続ける。
「文々。新聞は、購読者獲得の為に、手当たり次第に記事にするような新聞ではありません。天狗は好奇心で生きています、だからこそ、その対象には敬意を払うのです」
「そう?やたら不正確な記事が多いと思ったのだけど?」
「軽々しく扱ってよいものと、そうじゃないものがあるということです。これは、明らかに後者です」
静かに天狗の瞳を見つめる。それはあの子と同じように、とても真っ直ぐだった…
「貴女が望むなら記事にしなさい、だけど、一つだけ条件があるわ」
私の言葉に、記者は視線を外さない、次の発言を待っている。
少し息を吸って、はっきりと言う。
「その記事の最後に、こう付け加えて。風見幽香は、そんな出来事があった太陽の畑をとても大切に思っている。だから、ここを荒らす者には容赦しない…と」
飛んでいく天狗を見送る。
黒い羽根が、いつかのカラスを思い出させる。夕焼けの中を、すいすいと飛んでいくカラス…
小さな影はたちまち高度を上げ、消えていく。あの時、私にもあれだけの速力があったならあの子も…
青い空へと、彼女の姿は霞んでいく。
あの時に比べて格段に広くなった向日葵畑も、彼女にとってはごくごく小さな場所に過ぎないのだろう。
そう考えた時には、夏空のどこを見ても、新聞記者の姿は見えなかった。
来訪者を見送ったあと、ゆっくりと周囲を見回した。
向日葵畑は相変わらず静かだ、向日葵はこちらを向いたまま、そして妖精達もまだこちらを見ている。まだ、話は終わっていないとでも言いたげに…
「何?まだ何か聞きたいの?」
くるくると傘を回しながら言った。
「ええ、物語の続きを…」
声が聞こえた。どこかで聞いたような声が…
向日葵達の中に、人影が見える。
私は、葉陰に佇む彼女へと微笑み、言った。
「そう、ならば続けましょう。向日葵畑の物語を…」
向日葵畑~過去~
空が黒く染まっていく、だんだんと明るさが消えていく。赤く染まった地面からも、すぐに鮮やかさが失われていく。
そんな世界で、私はただぼんやりと佇んでいた。
蝉の声は聞こえない。だけど、秋の虫達が寂しげに鳴いているのが聞こえてきた。
何をしようという気も起きない。自分がこんな気持ちになるだなんて、今まで思ったこともなかった…
心がからっぽになった、そうとしか言えない…そんな気持ち。
ただすやすやと眠る妖精を見つめる。あの少女のような、無防備な寝顔が胸を締め付ける。
急いで急いで…
向日葵達にそう言われた時、なぜもっと速く飛べなかったのだろう…
急いで急いで…
なぜあの子を助けられなかったんだろう…
気付いて気付いて…
あの子を、どうして送ってやれなかったのだろう。
自分の気持ちばかり優先した結果がこれだ。あの子といる時間を長くしたい…そんな気持ちが、全てを失わせた。失わせてしまった…私と、そして彼女の時間を…
気付いて、早くしないと死んでしまう!
「え!?」
向日葵の声で我に返り、慌てて周囲を見る。
声のした方、視線の先、暗闇に染まりつつある向日葵畑に、小さくまるまった人影が見えた…あの子はっ!?
地を蹴って、駆け寄る。妖精を向日葵に預けて、彼女を抱いた。片腕を無くし、意識はない…
でも、まだ生きてる!息をしている!!小さな鼓動が聞こえる、まだ間に合う!
全力で彼女に生命力を注ぎ込む。
花を咲かせ、植物を育てる私の力…人間にはそこまで効くかわからないけれど、やらないで後悔するよりも、出来ることは全部やってしまってから泣きましょう。
片腕がない少女を抱きしめて、そのぬくもりを守るために、私の力を注ぎ込む。
そう、この向日葵は枯らせない、絶対にまた咲かせてみせるっ!
「お姉ちゃん…」
「え…」
声が聞こえた…聞き慣れた声が。気付けば、私は何かやわらかなものの上にのっていた…
「ありがと、助けてくれたんだね」
頭を撫でられた。ゆっくりと、ゆっくりと…
夢を見ているみたいだった。とても幸せな夢を…
「向日葵さんも、守ってくれたんだよね…」
静かな、優しげな声が聞こえる。ずっとずっとこのままでいたい…そんな気持ちだった。
「えへへ、まさか腕がもげちゃうなんて思わなかったけど♪」
陽気に言うようなことじゃないと思うんだけど…少女の声に、思わず心の中で突っ込みを入れる。
「だけどお姉ちゃんが助けてくれて嬉しかったよ」
そんなことはないわ。もうちょっと早く、貴女を助けることができていれば…
「だからもう笑って、泣いている向日葵なんか、似合わないよ?」
目を開けた。どうやら、力を使いすぎて寝てしまったらしい…星空が視界に広がる…空は明るい…今日は満月なのかしら?
向日葵達は、太陽の代わりに月を見て輝く、薄闇に浮かぶように。
そしてもう一つの向日葵が…
「おはよう、お姉ちゃん。もう夜だよ?」
笑顔で言った。
「そうね、寝坊しちゃったわ」
ゆっくりと身体を起こす、やわらかかったのは少女の膝だった。夜風が涼しい。
満天の星空、薄暗い地上には、所々に向日葵達が黄色く浮かぶ。夜の向日葵畑が、私達を見守っている。
太陽を見る向日葵達はとても綺麗だけど、月を見る向日葵達というのもまた、なかなかに綺麗な姿だった。空の太陽は沈んでも、地の太陽は沈まない。宵闇に、しっかりと輝いていた。
「大丈夫?」
声をかけると、少女は困ったような顔をする。
「大丈夫なのかなぁ…」
少女はそう言って、無くなった左腕を見た。傷口からもう血は出ていない、でも、無くなった腕を再生することはできなかった。
「片手で絵を描くのは大変そう…」
心底不安そうに呟く。
「…そんなことを心配できるのなら大丈夫ね」
「むー」
そんな少女に、ため息で応じた。聞き慣れた、抗議の声が聞こえてきた。
本当はここで謝るべきなのかもしれない、慰めるべきなのかもしれない。でも、少女は言ったのだ、泣いている向日葵なんて似合わない…と。
だから私は笑顔で言った。
「大丈夫、私に『参った』って言わせた貴女なら、きっとすぐに慣れるわ」
そして、さっき拾った絵を差し出した。
「え!え!?ちょっと私聞いてないよっ!いつ言ったの!?」
少女はじたばたと騒ぎ出す。もう、元気を与えすぎたかしら?
「あら残念ね、私に『参った』って言わせられるなんてそうそうないわよ?聞き逃すなんて惜しいことしたわねぇ」
「ばかーいじわるっ!もう一度言ってよ!!」
しれっとした私の言葉に、ばたばたと騒ぐ少女。
少しだけ時間をおく、周囲の向日葵をまた見て、心の中でお礼を言う。ありがとう、貴女達のおかげで、私にも、そしてこの子にも『もう一度』の機会ができたのだ。本当にありがとう。
向日葵が揺れた、よかったね、どういたしまして、また遊びましょう…色々な声が聞こえた。
私は、少女を向き直り、言った。
「また…あんな絵を描いてくれたらね」
「あ…うんっ!」
夜の向日葵畑に大輪の花が咲く、元気一杯の声が辺りに響く。とても幸せだった。
また戻ってきた。幸せな時が戻ってきた…もう絶対に手放さない。この大切な向日葵を…
私は、そう思って少女を見つめた。少女がそれに気付いて、微笑みをくれた。
月の下、少女を背負い、夜道を歩く。背中からは、かすかな寝息が聞こえていた。
秋の虫たちが、涼しげな声をたてて、季節を告げる。夏の終わり、秋の始まり…
向日葵達の季節はもうすぐ終わる。でも、また夏が来れば咲き誇る。季節は巡るのだから…
その時、空を流れ星がかけていった。私は、思わず願った。
「どうかこの子といつまでも共にいられますように…」
生まれて初めての、流れ星へのお願い、心からの願い。私は、真剣に、消えゆく流れ星へと願った。いつまでもこの子と一緒にいられるようにと…それが叶わずとも、せめて一秒でも多くこの子といられますように…と。
「ん…お姉ちゃん…」
願いをかけ終えた時、背中からもにょもにょとした声が聞こえた。
「なぁに?」
問い返す。またむにゃむにゃと声が聞こえる。
「お姉ちゃんも向日葵畑も大好きだから…また来るね、絶対」
「ええ、いつでもいらっしゃい。私はいつもそこにいるわ」
「ん~」
返事は聞こえない。
今のは寝言だったのか、はたまた恥ずかしいから寝言に見せかけたのか…どちらにしろ、この子の本心。私が妖怪であっても、何であっても気にしない。きっと、止められても必ず来てくれるだろう。
それなら、私も待っている。危なくないように、この辺りに妖怪も野犬も集まらないように、そして貴女が安心して遊びにこられるように、そうやって待っている。
だから、いつでもいらっしゃい。私の可愛い向日葵さん…
あなたの分身と共に、私はいつまでも待っているから…
向日葵畑~現在~
空は赤く染まりだしている。さっきまでの青空は、少しずつ色を変え、しみ一つなかった白い雲も、同じような色へと染まりつつあった。いつかと同じような、夕焼け…
でも、今日は不安を感じない。もう、不安を感じる事はない…
そして、私は、向日葵の影にいる少女へと言葉をかけた。
「今日は千客万来ね、阿求ちゃん?」
影が動いた。向日葵と一緒に…そして、その影はやがて鮮明な像を結び、日の光の中へとやってきた。
「ちゃんはやめて下さい…」
腹立たしげにそう言いながら、おかっぱの少女が現れる。あの少女にそっくりの…いえ、あの少女が。私は、目を細めた。
「私は転生の度に、幻想郷縁起に関する記憶以外のものはほとんどを失ってしまうんです。ですから、あの少女とは別人と言えるでしょう。何しろ、今の私には、あなたに関する記憶は『ほとんど』残っていません」
だけど、困ったように、少女は言う。
でも、屁理屈をこねる彼女へと、私は言った。
「そう、ならどうしてここに来たの?何の力もない貴女が、護衛も無しにここに来たのは…安全だと確信したからじゃないの?それに、続きがあるのを知っていたのはなぜかしら?」
「むー」
「その口癖まで一緒ね」
「む」
口を結んで唸る少女へ、とどめの一撃。構えていた表情が崩れた…呆れたような、諦めたような表情になって、私の側へと寄る。
「はぁ…貴方は人の神経を逆撫でするのが趣味なんですか?」
「そうよ?悪い?」
呆れたように尋ねた少女へと、あっさり答え、反問する。
「…まぁ私もやっているので悪くはないですが、しかし自分がやられるのはあまり気持ちのいいものではありません」
やってるんだ…
「我が儘ね」
「貴方と一緒ですよ?」
「今代の御阿礼の子はかわいげがない気がするわ…色々と黒い。五カ年計画で、私の黒い笑みを完全マスターさせたのがまずかったのかしら?」
そう、変な連中にからまれたりしても、素敵な微笑みで追い払えるように、向日葵畑で頑張って教えてあげたのだ。
ちなみに、練習後半には、妖精達が周囲に寄ってこなかったし、向日葵達も素知らぬ顔で空を見るようになったので、それなりの効果はあったと思う。
「って、そんなこと教えていたんですか?おかげでみんなから笑顔が黒いだの、腹に一物も二物も隠し持っているだの言われるようになってしまったじゃないですか!」
「知らないわ、元々素質があったんじゃないかしら?腹黒の」
「そんな資質はありません!」
「あるわよ?」
「ありません!」
にらみ合いながら、時間が過ぎる。雲が流れて、太陽が隠れ、再び顔を出す。向日葵はのんびりと赤く染まっていく。
その時、少女は真面目な表情に戻って、言った。
「先祖の…その少女が描いた絵は、蔵に何枚も残っています。その中で、貴方はいつも優しげに笑っている」
でしょうね、そうじゃない絵が一枚だけあったけど、空の旅に出てもらったし。
「里での評判も悪くない。礼儀正しい、綺麗な方だというのがもっぱらの噂です」
どちらも否定しないわ、里の連中も、案外見る目があるじゃない。
そして、満足げに頷いている私を、少女がまっすぐ見つめ、尋ねた。
「なら、どうして貴方は歴代の幻想郷縁起に、あんな書かれ方をされているのですか?」
なぜか悔しそうにそう尋ねる少女を、夕陽が照らす。唇を噛んだ彼女の顔が、赤く染まる。
私が黙っているのに苛立つように、彼女は続けた。
「人間との友好度が最悪、危険度は激高…確かに妖怪や妖精の間では貴方の評判は悪い。でも、私にはあんなに優しい貴方が…里にも被害を与えていない貴方が何故?」
悲しそうにそう言った少女の頭を撫でる。あの子と同じ感触がして、幸せだった。
そう、やはりあのことは忘れていたのね、でも、いつの代でも、言っている事は全く同じ。悔しそうで、悲しそうな表情まで、全く一緒。
性格は全然変わっている。あの子はもっとおとなしくて、いつも笑ってばかりいた。年をとっても、子どもっぽい仕草は変わらなかった。今代の御阿礼の子みたいに、やたらとつっかかってくることはなかった。
でも、あの子も、それ以降の子も、皆私がこの頼み事をした時だけは、全く同じ表情で、同じ事を言ってきた。
性格は変わっても、心の奥までは変わらないのだ…
いつも説得には苦労した、けど、今回はきっとすんなりいくだろう。
彼女の頭を撫でながら、私は言う。
「向日葵畑を守るために…」
「え?」
涙目で、少女が顔を上げる。私は言葉を重ねる。
「私が恐れられれば、妖怪はそうそうここには寄ってこない。人間とも、いらぬ軋轢を生むことはないわ」
そう、向日葵畑を守るために人と争えば、きっとあの子が悲しむ。
「だからって!」
涙を流しながらこちらを向いた少女の頭を撫でる。相変わらずこの子は向日葵畑に来てくれる、それが嬉しい。だけど…
「ほら、笑いなさい」
「え?」
半泣きな少女へ言葉をかけた。少女が首を傾げる、見慣れた仕草で。
そんな少女へと、私は口を開いた…
「もう笑って、泣いている向日葵なんて…」
「「似合わない…」」
言葉が重なって、少しだけ嬉しい。私は、少女を見て、続けた。
「なぜ私があの記者へと昔語りをしたかわかる?」
話が変な方向へといった理由がわからなかったのか、不思議そうな表情をしたあとで、彼女は黙って首をふる。おかっぱが、リズムよく揺れた。その動作一つ一つが懐かしい。
そう、あの少女…貴女と印象が被ったということの他に、もっと大事な理由がある。
「新聞は幻想郷の現在を伝えるもの、つまり、過去を綴る貴方と反対よ?阿求ちゃん」
呼び名に反応することなく、少女は黙って頷いた。私は続ける。
「そろそろ…私も嫌われ者であるのに飽きてきたの。昔々貴方と出会った時からだんだんと…だからね、今は向日葵畑を荒らさない者となら付き合ってもいい、そう思っているわ」
そう、一人で花を見るのと、二人で花を見るのは、あんなにも違って、どちらも楽しいと知ってしまったのだから…
「ここでコンサートを開かせてあげるようになったのもその一環、それでね…」
ゆっくり息を吸った。少しだけ夜が混じった空気が、肺の中へと入り込む。
「過去を綴る幻想郷縁起には、凶悪に書いて。現在を伝える新聞には、少しだけやわらかく書いてもらう…」
少女が少し微笑む。私も微笑みを返す。
「そして、次の幻想郷縁起には、とびきり可愛く描いてちょうだいね?」
私の言葉に、少女の表情がすっと晴れた。そして…
「はい、必ず」
いつか見た笑顔が、向日葵畑にまた咲いた。綺麗な綺麗な、元気な向日葵が。
「風見さん」
「何かしら?」
里の近く、別れ際、呼び止められた。ちなみに、本当はお姉ちゃんと呼んで欲しかったのだけど、全力で拒否されてしまった…様じゃなくさんにしてもらったのが精一杯。
少女は、少し照れくさそうに、言った。
「また…来てもいいですか?この向日葵畑は気に入りました。幻想郷縁起ができたなら…それとは関係なしにここで絵を描きたい」
私は、そんな彼女に微笑みを返し、答える。
「言ったでしょう?私はいつでもここで待っている…って」
私の言葉に、少女は微笑む。
「今度来るときは、幻想郷縁起を持ってきます。貴方の空欄を埋めて…そう、この前、先代の日記に挟まれていた、面白い資料を見つけたんです。ばらばらになっていたのを、丁寧に補修してある絵が…」
「絵?」
首を傾げる私と、微笑む少女…む、笑顔が黒く感じたのは気のせいかしら?
「そう、きっと注文通りの、ご満足頂けるものが出来ると思います。それでは…また今度」
礼儀正しくお辞儀をした少女へ、お辞儀を返す。彼女は、再び軽く礼をして、くるりと向きを変えた。里へと歩き出す。
他人行儀なのが少し物足りないけど、それはまだ仕方がない。これから、少しづつ以前のようになっていきましょう。
そう、あの子も同じ、私と共に夏を過ごした少女と同じ…
転生の時に失われた記憶があったとしても、必ず残っているものがある。だって、私に会いに来てくれたのだから…
それに、思い出はまた作ればいい、あの、少しひねくれた子とは、今までとはまた違った関係が築けそう。それもまた楽しそうだ…
小さく里へと吸い込まれる彼女の姿を、ゆっくりと見送る。
空はいつかと同じ満月で、夜空の星は数多く、時折流星が通り過ぎる。とても綺麗な夜の空、あの子と見上げた夜の空。
気付けば、また秋の虫が鳴いていた。
そうだ…今度、夜の向日葵畑で絵を描いてもらいましょう。何人かのあの子に絵を描いてもらったけど、夜の絵は少ない。
これから、そういう絵も増やしてもらおう…あの時の、土まみれの私達以上のものは、多分でないでしょうけど。
幾たび目かの再会を果たした喜びで、私は少し浮かれている。
少女と出会う前なら、誰かと会って喜ぶなんていうことはなかっただろう。歳を重ねて…丸くなったのかしらね。
まぁいいわ、また幸せな時間が始まる。巡る季節より間隔は長いけれど、またあの子と会える時間が来た。
そして、私はふと気付いた。
あの流れ星が、私の願いを叶えてくれたことに…
『おしまい』
心情描写が多くて情景描写の少ない私からすると、こういう雰囲気を表現出来る才能は羨むばかりです。
多少山場が少なかったので、評価は個人差が出るとは思いますが、私は大好きです。なのでこの点数。ながながと失礼しました。
幽香と文のやりとりで和みました。そして、先代の阿礼の子で更に和みました。
向日葵畑の描写、描かれた絵の描写が素晴らしかったです。
ただ、最後の阿求とのやりとりは少し長いかなあぁと。
でも、読みやすい文体に、雰囲気が感ぜられる描写でぐいぐいと引っ張られました。
本当に、幽香らしい幽香をありがとう!
あながち荒唐無稽とはいえない優しい物語でした。
というかそう繋げるか、と膝を打ちましたよ自分は。
お茶目というかお馬鹿な文が良いスパイスになっていたのも好印象ですね。
………しかし、やはり求聞史記の幽香の笑顔は怖いと思ってしまう自分がいます
風見さんかわいいよ風見さん
ホント、幽香は怖いけど最高に可愛いぜ!
さすがです。ぐぅの音も出ません。浜村氏は子供の描き方が上手いですよね…
というか何処を取ってもかなわないなぁ…こうゆう人に、私もなりたい…
ああ幽香も阿求もかわいいなあ…
それを差し引いても文句の付けようがない素晴らしい作品だと思いました。
幽香さんの新しい一面を垣間見れたような気がします。思考は殺伐としているけれど、とても温かい心を持った、そんなあなたの幽香さんが大好きになりましたw
あぁ、なんだか胸が満たされる…こう、読み終えた後にじわじわと。
それにしても幽香さん。
私が怖くないということを、その身体にしっかりと教えてやらないと…って、そんな事したら余計に怖がられますよ?w
ともあれ、優しい幽香に心が和みました。
以降の作品も期待してます^^
確かに近くて遠いなぁ。いろいろと。
>大新聞社
無理だろうなあw
過去現在の入れ替わりのタイミングは良かったのだけど全体的にもう少し起伏が欲しかったかな、とも。読むのがしんどい、と言うほどではなかったのですがラストに入るまではちょいと流れが平坦すぎる感じも。
最後のあっきゅんとゆうかりんの会話は好き。
あと血の所はもっとこうどぴゅっと……個人的趣味だよっ! 血を見る話大好きだよ!
う~む、凄い。素晴らしかったです。
幽香が今まで以上に好きになりました。
求聞史紀(幻想郷縁起)では最強最悪と書かれていますが、本当は悪ではなくあえて『悪役』を名乗っている。
今までの「怖い」イメージを覆した作品だと思います。
でもドSなところは変わらないんDEATHね…w
特に植物を操るシーンが、ゆのつさんの軍隊スキーな部分を窺わせるなあとw
気になる所といえば、自分だけかもしれませんが、ひまわり妖精の扱いが微女少(びみょ~う)かなと感じました
旧作をやっていないと書かれていますが、そんなの関係なく楽しめました。
(あえて旧作設定入れるとしたら、髪は長いという所をw)
長く感想を書いてしまいましたが、いい作品を有難うございました
あ、最後にひとつコレだけは言わせてください
やっぱり黒いよ阿求ちゃんw
少女が生きていたのも私的には高ポイントです。よかった…。
ゆうかりんはかわいいよ!
遅くなりましたがレス返しをさせて頂きます。
>名前が無い程度の能力様
>>浜村氏に珍しく血の出る話ですね。全体的に流れる空気は流石の手腕であります。
多分、作中で血を出したのは初めてだと思います。全体の空気を乱さないか不安だったので、そう言って頂けますと嬉しいです。
三文字様
今回、読みやすさには特にこだわっていたので、そう言って頂けて安心しました。
最後の阿求とのやりとりですが、まとめの意味合いがあり、色々と詰め込んでしまった結果長くなってしまいました…次からは、もう少し短くまとめられるよう、努力したいと思います。
>二人目の名前が無い程度の能力様
よかった、無理矢理な印象になってしまわないかどうか不安でしたので…orz
幽香の笑顔は…ええ、あれは恐ろしいです、ホントw
>三人目の名前が無い程度の能力様
ええ、こんな一面もあっていいんじゃないかと思いましてw
>四人目の名前が無い程度の能力様
泣いて頂けたとは…恐縮です。
>五人目の名前が無い程度の能力様
>>ホント、幽香は怖いけど最高に可愛いぜ!
心よりの同意をw
>デク様
>>浜村氏は子供の描き方が上手いですよね…
そう言って頂けますとw
子どもは大好きなので、書く時にも力が入っていたりするのです(笑)
>六人目の名前が無い程度の能力様
どうしても、幽香にはあまり凶悪な印象がなかったのですが、そこであの絵を見て、想像がほわほわと膨らんできました。
下手なりに精一杯料理いたしましたので、そう言っていただけましたならw
>七人目の名前が無い程度の能力様
文句のつけようがないとはなんと恐れ多いお言葉orz
阿求に関しては、どのあたりまでにおわせるか迷ってしまって…少なめにしたつもりだったのですが、予想されてしまったようで申し訳ないですorz
>八人目の名前が無い程度の能力様
登場人物は優しくて、最後はほんわかと、がモットーだったりするのでそう言って頂けますとw
>>思考は殺伐としているけれど、とても温かい心を持った
花畑を守る、そんな幽香さんは温かな心を持っていると思うのですw
>華月様
わ、そんな嬉しいお言葉…でも私など全然です(平伏)
>>私が怖くないということを、その身体にしっかりと教えてやらないと…
実はあの部分はお気に入りだったりしますw
次回作、ご満足頂けるよう、微力ながら頑張らせて頂きますorz
>鱸様
>>そういえば先代の御阿礼は阿弥(あや)
うわ!?そういえば(こらorz)
意識していた訳ではないのですが、仰るとおり色々と近くて遠いですねw
>固形分様
無理でしょうねぇw
>九人目の名前が無い程度の能力様
わーwごめんなさーい!?
>翔菜様
平坦になってしまったのは私の技量不足ゆえでしてorzどうしても、徐々に徐々にという構成になってしまい、なかなか複数の山を作れません。精進致します。
>>あと血の所はもっとこうどぴゅっと
ちょwそれじゃあ私のお話じゃなくなっちゃうよww
>テト様
ばんざぁぁぁいっ!!
>十人目の名前が無い程度の能力様
色々とありがたいお言葉ですorz
もっともっと好きになって頂けるよう、これからも書いていければな…とw
>十一人目の名前が無い程度の能力様
そう言って頂けますとwでも末代にはつっこまないでーorz
>思想の狼様
求聞史紀(幻想郷縁起)では最強最悪と書かれていますが、本当は悪ではなくあえて『悪役』を名乗っている。
か…書きたかった事を上手くまとめられている(汗)
本当にその通りで、このお話の中にはそういう風見さんもありなのかなーという気持ちがあったりしますw
ひまわり妖精ですが、はい、仰る通りでして(平伏)
正直、このお話の中で、上手く動かせてあげることができなかったかな…と、ひっかかっていた登場人物だったりします。今度は、彼女にも活躍させてあげたいなと…orz
そして、旧作との違和感がなかったと聞いて安心しましたwそれが最大の不安だったりしたので…髪が長かったのですねw
そして最後に一言…だって黒いんですw
ご感想ありがとうございますwちょうどレス返しを書いている所で、決して忘れていた訳では…本当に申し訳ないです(平伏)
実は、最初は阿求にしようかという案もあったのですが、色々と悩んだ末、こうなりましたw
少女については、やはりお話の中ではハッピーエンド、というのが好きだったりするのでw
夏の太陽、青空と共に永久に(とわ
風景が目に浮かびました。
子供の阿求の書き方がとてもいいですね。文章からでも表情がきちんと想像できます。
とてもいい作品でした。
素敵のゆうかりんです
次作も期待してますね!
というよりも旧作に近い方のキャラ故にあまり知らないのが本音ですが^-^;
風見幽香のファンとして・・・ありがとう!
ご先祖あっちゃんは予想してたので、それゆえの涙の別れというのも「来るぞ来るぞ」とワクワクしてたのですが、ラストの方で「そうきたかー」と思いました。
ゆうかりんもあっきゅんもかわいいよ
らしいフラワーマスターの言葉や、心の動きが最高でした。
文との会話も読み進めていく内、良い感じに引き込む要素満載に。
そして、阿礼阿求しかり。
最後の落ちは中々もって予想の上を行くものでした。
補修してある絵を見た幽香さんの顔が思い浮かんで幸せです。
そしてたくさんのご感想ありがとうございました、これを励みに頑張りたいと思います。
>時空や空間を翔る程度の能力様
素敵な文ですね、そのままタイトルにしたい位です♪
>ドライブ様
いえいえ、まだまだ未熟者でして…私にしては頑張れたと思うのですが、もっともっと上手く書けるようになりたいですw
ただ、私がゲームその他から受けた印象を伝える事ができたのでしたら、これほど嬉しいことはありませんw
>十二人目の名前が無い程度の能力様
こちらこそありがとうございますwそう言って頂けますとw
>十三人目の名前が無い程度の能力様
楽しんで頂けたのでしたようで、こちらとしても嬉しいですw
>咒ノ鈴様
のわ、そんな事を言って頂けますと…恐縮です(扉の影から)
次はもっとよく書けるように頑張ろうと思いますw
>十四人目の名前が無い程度の能力様
こちらこそ、そう言って頂けると励みになります。ありがとうございましたw
>DD様
私も旧作をやった事がなく、花映塚と求聞史紀から受けた印象で書いています。その為、ファンの方から「こんなの幽香じゃない!」と言われやしないかと不安だったのですが…そう言って頂けますと嬉しいですw
>deso様
可愛いからですっ!(答えになってないorz)
よかった、私にしては構成を頑張ったつもりなので、そうやって楽しんで頂けたのでしたら幸いですw
>十五人目の名前が無い程度の能力様
ありがとうございます。未熟者ではありますが、かわいく書けたのでしたらよかったですw
>ブラウニー様
よかった。あまりカリスマあるキャラを書くのには慣れていなかったので、そう言って頂けたのでしたらw
>十六人目の名前が無い程度の能力様
か…過分すぎるお言葉orz
こう書けたらな…と思っていた所を全て言われて、恐縮しつつもとても嬉しいですw
>>補修してある絵を見た幽香さんの顔が思い浮かんで幸せです。
その部分は、自分でも気に入っていたりするのですw
登場人物一人一人が生き生きとしていて魅力的でした
こんなゆうかりん、大好きです
もう本当にこの作品大好きです。
この幽香のほうが女性らしいと思います。外から見ると怖いけど内側を覗いてみるとこれぐらい優しさに満ち溢れてるというわけですね。