この作品には若干のオリジナル設定と微グロが含まれております。
そういったものが苦手な方はお戻りください。
それでも構わない方はどうぞお進みください。
花そして花そうして花。
向日葵そして向日葵そうして向日葵。
見渡す限りの花が咲いている。
見渡す限りの向日葵が咲いている。
美を誇るように
命を誇るように
己を誇るように
そんな向日葵畑の中を歩いていく一つの影。
足取り軽く、花達を愛でながら意中の人を探す。
ちょっとしたことで知り合って、あっという間に好きになってしまった相手。
鬼さん ど~ちら
ちょっと軽く口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼は私、隠るるはあなた。
鬼さん ど~ちら
またまた軽く口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼の私は風見・幽香、隠るるあなたはリグル・ナイトバグ。
鬼さん ど~ちら
嬉しくなって口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼の私はあなたを探し、隠るるあなたも私を探す。
多分あなたはそこに居る。
多分あなたはここに居る。
そしてあなたはどこに居る?
そうして見つけた、あなたの背中。
気付かれない様、そっと近づき。驚かす様、ギュっと抱きつく。
「リグル見~つけたっ!」
「わあ!びっくりしたぁ・・・・・・もう、驚かさないでよ幽香。いきなり抱きつかれると本当にびっくりするんだからさ」
「ふふ、いいじゃない別に。私は抱きつきたいから抱きつくの。口答えは無し」
「あらあら、噂には聞いてたけど、それ以上のラブラブぶりねぇ、ゆかりん赤面しちゃう!
見てるこっちが恥ずかしいわ。ねえ、てゐ?」
「そうね、まさかあの幽香がこんなにメロメロになってるなんてね」
「メロメロって古いわよ。死語よ死語」
「五月蝿いわよ、あなただってラブラブなんて死語使ってるじゃない」
「それもそうねぇ、うふふふ」
「そうだよ、そうだよ、あははは」
「マスタースパァァァァク!!」
花と兎とスキマと蟲と
「なんで、あなた達が居るのよ!紫!てゐ!」
マスタースパークをスキマに飲み込まれたあとに、声を荒げる幽香。
今日は、リグルと二人で過ごすつもりだったのだ。
「え~、久し振りに会った友人にそれは酷いわぁ!ゆかりん泣いちゃいそう・・・よよよ」
「あ~幽香が紫を泣かせたぁ!!紫かわいそうに・・・・・・お~よしよし、このてゐ様が慰めてあげるから元気出して!」
「てゐ、あなた・・・・・・」
「心配しないで、紫。私が傍に居るからね」
「ああ!てゐ!」
「紫ぃ!」
がしっ!と熱い抱擁を交わす二人。
ああ、沈み行く夕日が美しい・・・
「あなた達いい加減にしてくれない?」
二人の三文芝居に対し幽香が言う。
少々顔が引きつっていた。
ああ、偏頭痛が。
取り合えず、抱き合っている二人は無視して、事の顛末をリグルに尋ねる幽香。
「ねえ、何でこいつ等と一緒に居たの?」
「う~ん、此処で幽香を待ってたら、突然スキマから出てきた。そんだけだよ」
「ああ、そう」
未だに抱き合っている二人を眺める。
この暑い中よくやる・・・・・・と、思ったら離れた。やっぱり暑いらしい。
「それで、なんの用?これからリグルと花を見て回りたいんだけど」
「あらぁ?二人でデート?羨ましいわぁ。ああ、私もいつかは霊夢と!!」
「・・・・・・マスタースパーク、ダブルで撃つわよ。しかも最大出力で」
「ん~、特に用は無いわ、あなた達の恋人ぶりを観察して、誇張とユーモアとロシアンジョークを交えつつ烏天狗に言うだけ」
「・・・・・・取り合えず死なす!」
「幽香、落ち着いてぇ!そんなもの撃ったらこの辺り吹っ飛んじゃうって!!」
「放しなさいリグル!このスキマは今此処で滅ぼすべきなのよ!!」
「きゃ~、ゆかりん怖~い!」
少女暴走中
「で、本当に何の用なのよ」
ぜえぜえと息を切らせながら幽香が訊いた。
息も絶え絶えだ。
スキマに引っ込んだ紫に代わって、てゐが話をすることになった。
大方、紫もどっかで聞いているだろう。
「久し振りに三人で集まろうと思ってね。あ、蟲も居るから今日は四人になるか」
「蟲じゃなくて、私にはリグル・ナイトバグってちゃんとした名前があるんだけど・・・・・・」
「三人で飲む?嫌よ。言ったでしょう?これからリグルと花を見るって。あなた達には構ってられないの!」
「別にあんた達の邪魔はしないわよ、ただ一緒に行くだけでいいし・・・・・・私も紫も単純にあんたと話をしたいだけだよ」
「・・・・・・ねえ、幽香。一緒に行ってもいいんじゃない?邪魔はしないって言ってるんだしさ」
「で、でもリグル・・・今日は二人でって・・・・・・」
「久しぶりなんでしょ?偶には大勢で行くのも面白いと思うよ?」
「うぅ・・・そうなんだけどさ」
「どうかしたの?」
「・・・・・・わ、私はリグルと二人でいたいのっ!」
「幽香・・・・・・ありがと」
そこで二人とも頬を赤く染めた。幽香にいたっては顔全体が真っ赤だ。
しかし、ここでリグルが声を落として幽香だけに聞こえるよう話す。
「―――だけどさ、もちろん私だって二人で行きたいよ?・・・でも、相手はあの八雲紫なんだよ?
説得したって無駄だと思うし、放っておいたら酷いことになりそうな気がする・・・・・・一緒に行くのが一番被害が少ないんじゃないかな」
「う、あう・・・確かに・・・・・・」
「二人で行くのはまた今度にしようよ、明日も会えるんだしさ」
「そ、そうね・・・」
幽香が答える。そして、そこからてゐに向きなおって口を開いた。
「特別よ、特別!本当に特別に今日だけならいいわ!提案したリグルに感謝することね!」
幽香からの許可が下りて、てゐの表情がぱぁっと明るくなった。まるで遊びの許しを得た子供のようだ。
「ありがとねリグル。そういえば、きちんとした紹介がまだだったわね。因幡てゐ。永遠亭の裏のボスとは私のことよ!」
「嘘吐くな、この腹黒!こいつを信じちゃ駄目よリグル。こいつは手に負えない三流詐欺兎なんだから。
それとてゐ、許しを出したのは私よ。私にも感謝の意を示しなさい?」
「へいへい、ありがとうごぜえましたっと、これでよろしい?」
「心底嫌そうにお辞儀をするのね、相変わらず腹が立つ奴」
幽香がてゐに文句を言っていると、スキマから紫が這い出てきた
「さてと、話もまとまった事だし、早速行きましょうか。さあレッツゴー!」
紫の腕が元気良く振り上げられた。
年考えろよ・・・・・・思っても口に出してはいけない事をてゐが口走った。
向日葵の群れの中を歩く四つの影。勿論、先ほどの四人だ。
一人、原形を留めていないくらいボコボコにされた者も居るが・・・・・・
「ねえ」
リグルが尋ねる。
「幽香と八雲紫が知り合いっていうのは、まあ分かるんだけど。
何で、てゐと幽香達は仲いいの?」
「別に仲は良くないわ。ただの腐れ縁よ」
吐き捨てるように幽香が答える。
「腐れ縁?」
「そう、腐れ縁」
「詳しく聞かせてよ、幽香」
幽香が口を開こうとしたところに、横から紫が割り込んできた。
「はいはい、私が幽香の代わりに答えてあげちゃうわね。
大昔に、私達が月に戦争し掛けたのは知ってるわよね?
その戦争での、戦友なのよ、私達は」
「へえ・・・・・・あれ?でも、てゐはその戦争を生き残ったんだよね?
その割には全然強そうじゃないよ。それに、力もそんなに無さそうだし・・・・・・」
「見た目に騙されちゃ駄目。てゐはね、かの有名な因幡の白兎なんだから!それにね、この子ったら自分の力を必要最低限のギリギリまで抑えて、姿を変えてるのよ」
「どうして?」
「健康のためよ」
紫が口を開く前に、てゐが答えた。先ほど殴られたところはもう大丈夫らしい。
「健康?」
「そう、力を使えばそれだけ疲れるでしょ?健康の秘訣はね、良いものを食べて、よく寝て、無理をしないこと!他にも色々あるけど、これが原則よ。
だから、力は使わないようにしてるの」
そんなものなのだろうか、とリグルは考える。そもそも長生きだの、健康だのというのは妖怪には馴染みの無い話だ。
そのような色々と、取り留めの無いことをリグルが考えていると、不意に幽香がてゐに口を開いた。
「それはよいのだけれど、いい加減その子供の姿を止めてくれないかしら?
早く、元の姿に戻りなさい」
「え~・・・この体が一番妖力の消耗少ないんだよ。あんたも知ってるでしょ?疲れるから嫌!」
「目線を下げるのが面倒なのよ!それと、私はその姿が嫌いなの。とっとと戻れ!!」
「・・・・・・怒らなくてもいいじゃない。カルシウム足りてない?あんまし怒ってばっかいると禿げるよ?」
「ご心配なく、あなたが姿を変えてくれれば全て解決するのよ」
「まったく、幽香は我侭なんだから・・・・・・」
やれやれとてゐが答え、胸にあるニンジン型のペンダントを握りしめた。
そして、強烈な光がペンダントから発せられる。
その眩しさに、思わず目を閉じるリグル。
一度広がった光はすぐに小さくなっていき、そうしてすぐさま消えた。
光が収まり、徐々にリグルの瞳が機能を再開し始める。
そして、その視界にてゐを捉えた時、彼女はぽかんと口を開けるしかなかった。
リグルとそうは変わらなかった身長は、今や幽香を越えるほどであり、肩に掛かる程度だった癖のある髪も背中の辺りで広がりを見せている。
すらりと伸びた手足と、女性らしさを強調する胸。ゆったりとした体のライン。
いつの間にか衣服のサイズも変わっており、服が小さくなるといった状態を回避していた。
そして、その顔には最早幼さは無く、柔和な笑みと、どこまでも深い凄みがあった。
八雲紫には劣るかもしれないが、胡散臭さも増している。
ちなみに、兎の耳はそのままであった。
「まったく、相変わらずの変化っぷりね。色んな意味で詐欺じゃない」
幽香が呟く。
「どういたしまして。あ~でも、久し振りだから肩が凝る」
首を左右に曲げる。グキグキ、ベキベキと景気よく音が鳴った。
そんなてゐの様子を、呆然としながら眺めるリグル。
今まで、自分とそうは変わらないと思っていた相手が、一気に紫達の様な大妖怪並―――いや大妖怪へと変貌したのだ。
ルーミアがリボンを解いた時くらい無茶苦茶なものがある。
「どう?面白いでしょう?てゐは頭も切れるけどね、それだけじゃあないの。おつむだけじゃ生き残れないのよ」
胡散臭い笑みを浮かべながら紫が話しかけた。
リグルはただ、こくこくと頷くだけだった。
「さてと、どう?久し振りに元に戻ったんだから、肩慣らしにヤらない?」
幽香がくすくすと笑みを浮かべながら尋ねる。
「あ~、あれ?久し振りにやってあんたに勝てるわけ無いじゃない」
「嘘。衰えてるつもりなんて毛の先ほども思ってないくせに」
「随分と好戦的だね、さっきまでそんな気無かったんじゃないの?」
「疼くのよ・・・・・・その妖気といい、その姿といい、私の体が欲しているの、あなたをね・・・・・・最近、運動不足だし」
「私も随分と愛されてるわね。ま、私も色々と溜まってるからね。いいよ、ヤってあげる」
「ふん、あなたなんか別に愛してないわ。よろしいこと?私が愛しているのはね・・・・・・!」
「愛しているのは?」
「な、なんでもないわよ!!」
そう言うと、幽香が空へと上がり、てゐがそれに続いていった。
「リ、リグル!紫、花たちを守りなさいよ!」
上から幽香が声をかけてきてそのまま上っていってしまった。
どことなく上ずった声で。
「弾幕ごっこか・・・・・・幽香も好きだなぁ」
リグルが何となしに呟く。すると、紫が口を挟んできた。
「あら、あの二人は弾幕ごっこなんかしないわよ」
「へ?だってやるとかって言ってたじゃない。やると言ったら弾幕ごっこじゃないの?」
「ふふふ、まあ見てなさい。弾幕ごっこよりも、もっと面白いのが見れるわよ」
扇子で口元を隠しながら紫が言う。
リグルは、その瞳に何か薄ら寒いものを見た気がした。
向日葵畑の上空。
地上のリグル達の表情がどうにか判別できる位の高度で、幽香とてゐは対峙する。
「ねえ、さっき何て言ったの~?」
「うるさいわね!何でもないって言ってるでしょ!!」
まだ少し顔が赤い幽香に対し、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるてゐ。
しばらくの間、軽口を叩き合っていく二人。
しかし、段々とその口数が少なくなっていく。
それにつれ、二人の顔が剣呑なものになっていく。
真っ赤な顔も、嫌な笑みも消え去っていき、やがて辺りにぴりぴりとした空気が張り詰め始めた。
二人から妖気があふれでる。
対峙そして沈黙。
沈黙そして静寂。
いくらかして、てゐが口を開いた。
「どんくらいぶりだっけ?こうしてあんたとヤりあうのは・・・・・・」
「さあね、覚えてないわ」
「久し振りなんだから、手加減してよね」
「あら、常に全力でヤりあう・・・・・・そう約束したじゃない」
「優しくしてほしいなぁ」
「いつかしてあげるわ。さあ、始めましょうか!!」
幽香の声が合図となって、二人の弾幕が空を埋めるように広がっていった。
* * * *
「なんだ、結局ただの弾幕ごっこじゃない」
地上の向日葵畑でリグルが呟く。
紫が含みのある言い方をしたので、何か凄まじいことが起きるのかと思えば、始まったのは普段通りの弾幕ごっこだ。
「ねえ、コレのどこが面白いものなの?そりゃあ、あの二人くらいになれば弾幕ごっこも迫力あるけどさ」
「ふふふ、あなたもまだまだねぇ。二人の様子をよく見てなさい。それに、まだ序の口にすら至ってないのよ。まあ、そのうち分かるわ」
さっきから扇子で口元を隠したまま、不気味で胡散臭い視線を投げかける神隠しの主犯。
見ていれば分かる。まだ序の口にすら至っていない・・・・・・どういうことだろう?
既に弾幕ごっこは始まっている。二人は弾を掠りながら、相手に対し狙いを付けている。
流石にまだ始まったばかりなのでスペルカードは使用されてないが、それでも凄まじい程の弾幕の応酬が繰り広げられているのだ。
いったい何があるというのだろう・・・
そう思いながら空を見上げる。
「あっ!!」
思わず声が出た。
* * * *
右腕が吹き飛んだ。
しかし、気にするほどの事ではない。
妖力を集め一瞬で再生させる。
てゐの左足が吹き飛んだ。
しかし、それだけだ。
その左足が一瞬で再生した。
日傘で胸を貫いてやった。
てゐの胸に大穴が開く。
だが、怯まない。
手刀で腹を引き裂かれた。
てゐの腕が腹に捩りこまれる。
生温い感触。
頭を潰す。
肩ごと腕を持ってかれる。
弾が直撃する。
腹に大穴が開いた。
弾をぶつけてやった。
右の脇腹が抉れていた。
傘が空を切り裂く。
蹴りが空を撃ち抜く。
お互いの弾幕が花開いた。
頭が消し飛んだ。
半身を吹き飛ばした。
右手が消え去った。
胸に穴を開けた。
両足が吹き飛んだ。
臓物を消し飛ばした。
レーザーで貫く。
レーザーで切断される。
笑いながら弾を放つ。
笑いながら弾を放つ。
楽しい楽しい殺し合い
ごっこ遊びじゃ、物足りない
もっと多くの、弾をくれ
もっと多くの、痛みをおくれ
楽しい楽しい殺し合い
ごっこ遊びじゃ、物足りない
もっと多くの、血を散らせ
もっと多くの、臓物散らせ
楽しい楽しい殺し合い
ごっこ遊びじゃ、物足りない
もっと多くの、思いをおくれ
もっと多くの、思いを散らせ
「ふふふふ、どう?てゐ、楽しい?」
「ええ、楽しいよ、幽香」
「弾幕ごっこじゃ、ここまで楽しめないわよね」
「そうかな?私は弾幕ごっこでも楽しめるよ」
「あらそう、意外ね」
「そうかな?」
「そうよ。どこまで平和ボケしようとも、私達は妖怪だもの」
「互いに殺し合い、人を喰らい、人に退治される者ってこと?」
「ええ、そう」
「私は健康に長生きしたいから、パス。肉も嫌いだし」
「ふふ、あなたらしいわね。妖怪らしくない」
「それが私の生き方だからね」
二人の前には弾幕―――全てを打ち倒さんとする、弾の集まり。
それだけが二人の前に広がっている。
足がもげる―――そして再生。
腕が吹き飛ぶ―――そして再生。
半身が焼け焦げる―――そして再生。
この場で興ぜらるは楽しい楽しい殺し合い・・・・・・
ごっこ遊びじゃ物足りない。
* * * *
「何・・・これ?」
「見ての通り、死合いね」
呆然と呟くリグルに、さも当然と紫が答えた。
「だって、弾幕ごっこじゃないの!?」
「違うわ、死合い―――殺し合いね。弾幕ごっこの昔の形よ。」
「そんな!蓬莱人じゃないんだから!!」
「大丈夫よ、本当にやばくなったら、私がどうにかするから」
呑気、さもいつも通りといったように答えが返ってきた。
「でも、あんな事やってたら本当に死んじゃうよ!」
「死にはしないわ、あの二人の実力ならね」
「そんなの分らないじゃない!」
「あら、そんなに心配?」
「当たり前でしょうっ!!」
リグルは叫んでいた。
「もし・・・・・・もし、幽香に何かあったらどうしてくれんのよ!!」
「だから、大丈夫って言っているじゃない。私はね、嘘は吐くけど約束と絆だけは守るようにしているのよ、出来うる限りだけどね。
あの二人が死ぬことはないわ」
「幽香が怪我するのが嫌なのよ!!」
瞳に涙を浮かべながら、リグルは叫んだ。
紫が溜息を吐く。
「まったく・・・・・・言ってる事、訳分らないわよ?
この私、八雲紫が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なの!
それとも、私ってばそんな信用がない?」
「・・・・・・っ!」
紫を睨みつけるリグル。
ふざけるな、とでも言いたげな目つき。
必死とも言える形相を浮かべたリグルを、さも面倒くさいという表情で紫は見つめていた。
しばらく、その状態が続いた。その間も、空では幽香達は舞い続けている。
突然、リグルがふわりと浮いた。
「ちょっと、何するつもり?」
「二人を止める!」
「止めなさい。あの二人ならともかく、あなただと確実に死ぬわよ」
「やってみないと解らないよ!!」
「流れ弾に巻き込まれたら、一瞬で死ぬわ。これはごっこ遊びじゃないの」
「巻き込まれなければいいのよ!」
紫を睨めつけながら、リグルが言う。
そうして上に行こうとしたところで、紫が声を上げた。
「・・・・・・ったく、あぁもう!仕様が無いわねぇ。分かったわよ。止めてきてあげる。だから行くのを止めなさい」
ぶつぶつと文句を言いながらスキマが開かれ、そこにぞぷりと入っていく神隠しの主犯。
スキマに消えていく紫の背中を、リグルはずっと睨んでいた。
* * * *
「マスタースパーク」
「エンシェントデューパー」
幽香が傘を構え、そして打ち放つ。
てゐがスペルを唱え、そして発動させる。
幽香の傘が放ちたるはただただ純粋なエネルギー―――破壊の光。
目前にあるもの全てを飲み込む超弩級の白光。光と破壊の巨大な大渦。
てゐの両手が放ちたるは幾千、幾万、幾億もの弾幕。
そして、相手を貫く二つの光。全てを穿つ点と線。
渦に飲まれる点と線。
弾は消え去り、光は飲まれ、それでも渦は濁流に・・・
弾は消え去り、光は貫く、それでも渦は濁流に・・・
弾は射抜いて、光は貫く、それでも渦は濁流に・・・
弾は射抜いて、光は穿つ、そして渦は消え去って・・・
全てを穿つ点と線、光の渦をも貫いて・・・
やがて渦は光を失い、点と線も輝き失う。
「マスタースパークと相殺ね・・・・・・どこぞの白黒が知ったらショックかしらね」
「流石本家。魔法使いのやつより強力だわ。いけると思ったんだけどなぁ」
「「でも、まだまだ。お楽しみはこれから!」」
共に放つは同じ言葉。
そして始まる第二撃。
幽香が傘を、そして構える―――その数二人。
てゐがカードを、そして唱える―――その数二枚。
「ダブルマスタースパァァァク!!」
「ダブルエンシェントデューパァァァァ!!」
二人の幽香から放たれる二条の激光。
それを迎え撃つてゐの弾幕と4条のレーザー。
全てを飲み込む光の渦と、全てを穿つ点と線。
それらが交わり、消え去り、互いを消し合っていった。
「弐条四重結界」
二つの轟音をかき消すように、凛とした声が静かに響く。
閃光そして収縮そして消滅。
幽香の放ったダブルスパークが、てゐの放ったダブルエンシェントデューパーが、七色の光に包まれそして消え去った。
後に残るは静寂と二つの影。
「・・・・・・なんのつもり?紫」
「そうよ。せっかくいいところだったのにさぁ」
二人の殺気だった瞳が何もない空間を写す。
みしみしと音を立てながらそこの空間に亀裂が走り、亀裂の淵に白い手が掛けられた。
手から肩、肩から胸、胸から背中・・・・・・やがて全身がスキマから現れる。
やってられないという無気力さを、全身から発しながら八雲紫が口を開いた。
「五月蝿いわね。私だってこんなことやりたくないわよ。あの結界面倒なのよ?」
「御託はいいの。さっさと邪魔した理由を教えなさい?」
低い調子で幽香が喋る。その声はひたすら冷たく、ひたすら鋭く、ひたすらどす黒い。
「あなたの恋人にせがまれたのよ、思いっきり睨まれてね。あなた達のあれは、ちょっと刺激が強すぎたみたい」
「リグルが?」
「ええ、文句があるならあの子に言いなさいな」
幽香がまだ何かを言おうとした所で、てゐが口を挟む。
「もう止めましょうか、ヤるのはまたにしましょう。幽香」
「ちょっと、てゐ!」
「下を見てみなよ」
「下?」
下―――リグルがいる所に目を向ける幽香。
「う、怒ってる・・・・・・」
「あんなんじゃあ、いつ邪魔に入ってくるか分かったもんじゃない。
だから止めにするわよ」
「・・・・・・わかったわよ」
幽香が納得したところで紫がスキマを開いた。
「はい、着替えは持ってきたわよ、スキマの中で着替えなさいな
話はそれからね」
* * * *
向日葵畑に戻った幽香の前に、リグルが立っている。しかし、その表情は見ることが出来ない。
俯いたその顔が、緑の髪に隠れているからだ。
「リグル・・・・・・?」
幽香が声を掛けた。
なんで怒ったのかしら?別に変なことはやってないのに・・・・・・
だけど、あんなに怒った顔は始めて見た。
「・・・・・・怒ってる?」
ぶんぶん――――首が横に振られた。
緑の髪が揺れる、だけど顔は見えない。
「でもさ、さっきは怒ってたわよね?」
弱弱しく尋ねてみた。
こくり―――― 一度だけ頷いた。
「何で・・・・・・怒ってたの?」
つい、とリグルの顔が上がる。
そうしてようやく、表情を見ることができた
顔をくしゃくしゃにして、涙をぼろぼろと流している。
「な!?リ、リグル!?」
「幽香のバカぁ!!」
「はえ!?」
「あんなに危ないことやらないでよぉ!!本当に怖かったんだからぁ!!」
そのまま、ふええんと泣き出してしまった。
取り合えず、訳も分からぬまま彼女の小さな体を抱きしめる幽香。
身長が違うので、必然的にしゃがんで抱きしめる形になる。
危ないこと?
そんなことやったっけ?
訳が分からないと悩んでいた幽香に、溜息を吐きつつ紫が説明した。
「言ったでしょう?刺激が強すぎたって。その子はね、あなたが死ぬんじゃないかと思ったらしいのよ」
「死ぬ?この私が?そんなこと―――」
「ありえない。と言ったわよ私もね。あなたの実力、てゐの実力、いざって時の私のフォロー・・・・・・余程のことが無い限り死ぬなんてこと はありえない。そしたら、こう言われたわ。幽香が怪我するのが嫌なんだ!って」
「何それ?」
「そのまんまの意味じゃないの?本人に聞きなさいな」
「そんなこと言ったって・・・・・・」
話を聞こうにも、その本人が大泣きしているのだ。しばらくたって、落ち着くのを待つしかない。
そう思ったところに、てゐの声が響いた。
「まったく、もう・・・・・・鈍いわねぇ。幽香はともかく、紫はどういう意味か分かってるんでしょ?色々と誤魔化そうとするのは、あんたの 悪い癖だよ」
「あら?なんのことかしら?ゆかりんわかんなあい」
「誤魔化すな年増」
「人のこと言えるのかしら?幼女モドキ」
「今の私はちっこくないから幼女じゃないわよ~だ!」
「年を誤魔化してるのは変わらないじゃない」
「あんたもそうじゃないの」
「私は誤魔化してなんか無いわ。年齢不詳なだけよ。ほら、ミステリアスな女は魅力的って言うじゃない」
「あんたの場合、ミステリアスが過ぎて胡散臭いの」
「ああ、そんなこと言われるとゆかりん泣いちゃいそう・・・・・・よよよ」
紫がしなりと倒れこむ。
ああ、また小芝居が始まりそうだ。
リグルをギュッと抱きしめたまま、幽香が話に釘を刺す。
「余計なことしてないで、早く話を聞かせてもらいたいんだけど。
で、てゐ。リグルは何を言いたかったの?」
「簡単よ。あんたが傷つくのを見たくない。それだけだよ」
「それじゃあ、言葉のまんまじゃない。だいたい、普通に生活するだけでも傷くらい付くわ」
「まあ、そうだね。でもさ、この場合は傷の意味が違ってくるのよ。リグルの中ではね」
「意味が違ってくる?」
「そう―――――訳が分らないうちに、あんたと私が殺し合っててさ、それを見てるだけってのが悔しいのよ、その子の中ではね」
「・・・・・・よく分らないんだけど」
「あらそう?それじゃあさ・・・・・・例えば、リグルと白黒が本気で弾幕りあっててさ、どっちかが死ぬまで終わりそうにない。
それで、あんたはそれを見ていることしかできない。こんな時、あんたはどう思う?」
「リグルが心配になって、なんとしてでも助けに行こうとするわね」
「だけど、あなたはそれを見てることしかできないのよ。さあ、どう思う?」
「・・・・・・わかんない」
眉を顰めながら、幽香が唸る。
てゐは呆れたといった表情で溜息を吐いた。
と、そこにリグルから声が掛けられる。
「ゆ、幽香・・・そろそろ苦しいよ!私は、もう大丈夫だから・・・・・・」
「あ、あら、ごめんなさい」
慌ててリグルを放す幽香。
そうした後、取り合えず事情を訊くことになった。
「ねえ、リグル。どうして、さっきは怒ってたの?」
「・・・・・・悔しかったから」
「悔しい?」
「自分に、腹が立ってたんだ。幽香が危ないことをして傷ついてるのにさ、自分にはそれを止められなくて・・・・・・自分の弱さに腹が立っ て、それで悔しかった。あとさ、幽香がもし居なくなったらって考えたら、何も考えられなくなって・・・・・・思わず怒鳴ってた」
「危ないことって、死合いのことでしょ?別に危なくないわよ」
「危ないよ!だって殺し合いじゃない!! 幾ら幽香達が強くて、八雲紫が居るって言ってもさ、最悪死んじゃうことだってあるんでしょ!?」
「ま、まあそうだけどさ・・・・・・でもごっこ遊びじゃ盛り上がらないのよ。血が騒がないと言うか・・・・・・」
「もしも、死んだらどうすんの!」
「よっぽどのことが無い限り大丈夫だって」
「そのよっぽどのことが起きちゃったら?」
「そ、それは・・・・・・で、でもさ、ホントに低い確率よ?」
「だから、そのホントに低い確率でそれが起きちゃったら?」
「あぅ・・・・・・それはぁ、そのぉ・・・う゛~」
「唸ってもダメ」
「・・・・・・ぐすん・・・ひっくっ」
「嘘泣きしても誤魔化されないよ」
「む゛~」
「ほっぺ膨らませてもダメ!」
「ケチ!」
「何がケチなのさ!私はね、幽香が危ないことしなければそれでいいの。だからあんなことは止めて!」
「大げさよ。大体、普通に生活してても、危ないことなんて沢山あるじゃない」
「それはそうだけど、あんな殺し合いするよりも安全だよ。大体、幽香は簡単に死なないじゃない」
「だから、簡単に死なないんだから死合いをやるのよ・・・・・・大体、リグルだって弾幕ごっこやるじゃない!それと同じなのよ!」
「弾幕ごっこで死ぬことは無いもん。どんなに当たり所が悪くても、最悪二~三日くらい動けなくなるだけだし」
「ごっこ遊びじゃつまらないの!相手が弱いし、ぎりぎりの感じが出ないのよ!」
「ごっこ遊びでもさ、紅白とかとヤればいいじゃない!白黒でもいいからさ。どっちも強いし、それにさ紅白には勝ったことないんでしょ?」
「そ、それは・・・・・・あ、あの二人が私の勝負を受けるわけないでしょ?」
「紅白はともかく、白黒は喧嘩を買う人間だよ。紅白はいざとなったら、物で釣ればいいじゃない」
「うぅ、言い返せない・・・・・・」
「とにかく、危ないことはしないでよ、幽香が怪我したりするのは見てられないんだから。
私はいつも幽香が心配なんだよ?」
「リグル・・・・・・」
「私の一番大切なものはね、幽香。君なんだよ・・・・・・他の虫達や、チルノ達ももちろん大切だけどさ、それよりも何よりも君が大切なんだ。
大切な君が傷つくのは見てられない!」
「ま、真顔で恥ずかしいことを言うのは止めなさい・・・・・・」
赤くなった頬を隠すように、幽香がそっぽを向いた。
そんな二人に置いてかれた紫とてゐ。
双方、なんとも言えない表情をしている。
「ねえ、紫?」
「何?」
「バカップルって腹立つね」
「そういうものよ」
「そうなんだけどさ・・・・・・」
「本人たちが幸せならそれでいいじゃない、滅多に見れない幽香も見れたんだしさ」
「まあね、ホントにウブで乙女なんだから幽香・・・・・・」
「そういえば、てゐ。永遠亭はどう?」
「何?いきなり」
「何となくよ。そういえば、あなたが月人と一緒に居る理由を聞いてなかったなぁって思ってね」
「楽しいよ、レイセンはからかい甲斐があるし、姫や永琳様は良くしてくれてる、子分のイナバ達も可愛いしね」
「幸せそうね。で、どうして月人と?」
「急かさないでよ。姫たちと居るのはね、楽しいし、楽だからよ」
「へえ、月の民にあんな目に遭わされたのに?」
「昔の話よ、過去に拘ってたら長生きできないもの」
「逞しいわね・・・・・・でももし、あの二人が同胞の仇だとしたら?」
「姫達を殺しても・・・・・・って殺せないけど、そんなことしても、あいつらは帰ってこないもん。だったら、昔を忘れて今一番生きやすい場 所を選ぶだけだよ」
「切り替えが早いのね、羨ましい・・・・・・」
「詐欺師だからね」
「もう一つ質問、どうして月人達にその力を見せないのかしら?」
「・・・・・・分かってるくせに。本性出したら侵入者退治の仕事増えるじゃない
それに、レイセンが委縮しちゃって遊べなくなるもの・・・・・・本気で相手してくれるからこそ、からかい甲斐があるもんだよ?」
「そらそうよね・・・・・・それじゃあ、最後の質問」
「くどいわね」
「まあ、そう言わないでよ。もし、永遠亭に居るのに都合が悪くなったら?」
「子分たち連れてとっとと逃げる」
「ふふ、あなたらしいわ」
「詐欺師だからね」
紫がくすくすと笑みを浮かべ、それっきり会話は無くなった
* * * *
花そして花そうして花。
向日葵そして向日葵そうして向日葵。
見渡す限りの花が咲いている。
見渡す限りの向日葵が咲いている。
美を誇るように
命を誇るように
己を誇るように
そんな向日葵畑の中を歩いていく一つの影。
足取り軽く、花達を愛でながら意中の人を探す。
ちょっとしたことで知り合って、あっという間に好きになってしまった相手。
鬼さん ど~ちら
ちょっと軽く口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼は私、隠るるはあなた。
鬼さん ど~ちら
またまた軽く口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼の私は風見・幽香、隠るるあなたはリグル・ナイトバグ。
鬼さん ど~ちら
嬉しくなって口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼の私はあなたを探し、隠るるあなたも私を探す。
多分あなたはそこに居る。
多分あなたはここに居る。
そしてあなたはどこに居る?
そうして見つけた、あなたの背中。
気付かれない様、そっと近づき。驚かす様、ギュっと抱きつく。
「リグル見~つけたっ!」
「わあ!・・・・・・もう、昨日と同じ事やらないでよ」
「いいじゃない、昨日は邪魔が入ったんだからさ。今日はリグルといっぱい遊びたいのよ」
「幽香って甘えん坊だよね」
「あなただけによ。私はあなたの大切なものだもの」
「じゃあ、幽香にとって私は?」
「教えてあげない」
「私は言ったのに・・・・・・意地悪」
「ふふ、言わなくても分かってるくせに」
「まあ、そうなんだけどさ」
「だったらいいじゃない」
「それでも聞きたいもの」
「だーめ、言わないわよ」
「けち」
「おお、聞きしに勝るバカップルぶり。紫さんネタの提供ありがとうございます!」
「いいのよ別に。ただ、面白い記事をお願いね」
「そりゃあ、もちろん!」
「でも、あなたもマメねぇ・・・・・・私が話したことを書けばよかったのに」
「いえいえ、やっぱり自分で見聞きしたものじゃないと面白い記事は書けませんしね。それにきちんと事実に基づくものを書くっていうのが私のポリシーですから!」
「ふふ、期待してるわよ」
「はい、任せてください!というわけで、幽香さん、リグルさん。一日密着取材をするんでお願いします」
「そんなに畏まる必要は無いわ、私が許可したんだし」
「それじゃあ、必要ないですね。あははは」
「そうそう、必要ないのよ。ふふふふ」
「ダブルマスタースパァァァァク!!」
花と兎とスキマと蟲と烏と?
そういったものが苦手な方はお戻りください。
それでも構わない方はどうぞお進みください。
花そして花そうして花。
向日葵そして向日葵そうして向日葵。
見渡す限りの花が咲いている。
見渡す限りの向日葵が咲いている。
美を誇るように
命を誇るように
己を誇るように
そんな向日葵畑の中を歩いていく一つの影。
足取り軽く、花達を愛でながら意中の人を探す。
ちょっとしたことで知り合って、あっという間に好きになってしまった相手。
鬼さん ど~ちら
ちょっと軽く口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼は私、隠るるはあなた。
鬼さん ど~ちら
またまた軽く口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼の私は風見・幽香、隠るるあなたはリグル・ナイトバグ。
鬼さん ど~ちら
嬉しくなって口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼の私はあなたを探し、隠るるあなたも私を探す。
多分あなたはそこに居る。
多分あなたはここに居る。
そしてあなたはどこに居る?
そうして見つけた、あなたの背中。
気付かれない様、そっと近づき。驚かす様、ギュっと抱きつく。
「リグル見~つけたっ!」
「わあ!びっくりしたぁ・・・・・・もう、驚かさないでよ幽香。いきなり抱きつかれると本当にびっくりするんだからさ」
「ふふ、いいじゃない別に。私は抱きつきたいから抱きつくの。口答えは無し」
「あらあら、噂には聞いてたけど、それ以上のラブラブぶりねぇ、ゆかりん赤面しちゃう!
見てるこっちが恥ずかしいわ。ねえ、てゐ?」
「そうね、まさかあの幽香がこんなにメロメロになってるなんてね」
「メロメロって古いわよ。死語よ死語」
「五月蝿いわよ、あなただってラブラブなんて死語使ってるじゃない」
「それもそうねぇ、うふふふ」
「そうだよ、そうだよ、あははは」
「マスタースパァァァァク!!」
花と兎とスキマと蟲と
「なんで、あなた達が居るのよ!紫!てゐ!」
マスタースパークをスキマに飲み込まれたあとに、声を荒げる幽香。
今日は、リグルと二人で過ごすつもりだったのだ。
「え~、久し振りに会った友人にそれは酷いわぁ!ゆかりん泣いちゃいそう・・・よよよ」
「あ~幽香が紫を泣かせたぁ!!紫かわいそうに・・・・・・お~よしよし、このてゐ様が慰めてあげるから元気出して!」
「てゐ、あなた・・・・・・」
「心配しないで、紫。私が傍に居るからね」
「ああ!てゐ!」
「紫ぃ!」
がしっ!と熱い抱擁を交わす二人。
ああ、沈み行く夕日が美しい・・・
「あなた達いい加減にしてくれない?」
二人の三文芝居に対し幽香が言う。
少々顔が引きつっていた。
ああ、偏頭痛が。
取り合えず、抱き合っている二人は無視して、事の顛末をリグルに尋ねる幽香。
「ねえ、何でこいつ等と一緒に居たの?」
「う~ん、此処で幽香を待ってたら、突然スキマから出てきた。そんだけだよ」
「ああ、そう」
未だに抱き合っている二人を眺める。
この暑い中よくやる・・・・・・と、思ったら離れた。やっぱり暑いらしい。
「それで、なんの用?これからリグルと花を見て回りたいんだけど」
「あらぁ?二人でデート?羨ましいわぁ。ああ、私もいつかは霊夢と!!」
「・・・・・・マスタースパーク、ダブルで撃つわよ。しかも最大出力で」
「ん~、特に用は無いわ、あなた達の恋人ぶりを観察して、誇張とユーモアとロシアンジョークを交えつつ烏天狗に言うだけ」
「・・・・・・取り合えず死なす!」
「幽香、落ち着いてぇ!そんなもの撃ったらこの辺り吹っ飛んじゃうって!!」
「放しなさいリグル!このスキマは今此処で滅ぼすべきなのよ!!」
「きゃ~、ゆかりん怖~い!」
少女暴走中
「で、本当に何の用なのよ」
ぜえぜえと息を切らせながら幽香が訊いた。
息も絶え絶えだ。
スキマに引っ込んだ紫に代わって、てゐが話をすることになった。
大方、紫もどっかで聞いているだろう。
「久し振りに三人で集まろうと思ってね。あ、蟲も居るから今日は四人になるか」
「蟲じゃなくて、私にはリグル・ナイトバグってちゃんとした名前があるんだけど・・・・・・」
「三人で飲む?嫌よ。言ったでしょう?これからリグルと花を見るって。あなた達には構ってられないの!」
「別にあんた達の邪魔はしないわよ、ただ一緒に行くだけでいいし・・・・・・私も紫も単純にあんたと話をしたいだけだよ」
「・・・・・・ねえ、幽香。一緒に行ってもいいんじゃない?邪魔はしないって言ってるんだしさ」
「で、でもリグル・・・今日は二人でって・・・・・・」
「久しぶりなんでしょ?偶には大勢で行くのも面白いと思うよ?」
「うぅ・・・そうなんだけどさ」
「どうかしたの?」
「・・・・・・わ、私はリグルと二人でいたいのっ!」
「幽香・・・・・・ありがと」
そこで二人とも頬を赤く染めた。幽香にいたっては顔全体が真っ赤だ。
しかし、ここでリグルが声を落として幽香だけに聞こえるよう話す。
「―――だけどさ、もちろん私だって二人で行きたいよ?・・・でも、相手はあの八雲紫なんだよ?
説得したって無駄だと思うし、放っておいたら酷いことになりそうな気がする・・・・・・一緒に行くのが一番被害が少ないんじゃないかな」
「う、あう・・・確かに・・・・・・」
「二人で行くのはまた今度にしようよ、明日も会えるんだしさ」
「そ、そうね・・・」
幽香が答える。そして、そこからてゐに向きなおって口を開いた。
「特別よ、特別!本当に特別に今日だけならいいわ!提案したリグルに感謝することね!」
幽香からの許可が下りて、てゐの表情がぱぁっと明るくなった。まるで遊びの許しを得た子供のようだ。
「ありがとねリグル。そういえば、きちんとした紹介がまだだったわね。因幡てゐ。永遠亭の裏のボスとは私のことよ!」
「嘘吐くな、この腹黒!こいつを信じちゃ駄目よリグル。こいつは手に負えない三流詐欺兎なんだから。
それとてゐ、許しを出したのは私よ。私にも感謝の意を示しなさい?」
「へいへい、ありがとうごぜえましたっと、これでよろしい?」
「心底嫌そうにお辞儀をするのね、相変わらず腹が立つ奴」
幽香がてゐに文句を言っていると、スキマから紫が這い出てきた
「さてと、話もまとまった事だし、早速行きましょうか。さあレッツゴー!」
紫の腕が元気良く振り上げられた。
年考えろよ・・・・・・思っても口に出してはいけない事をてゐが口走った。
向日葵の群れの中を歩く四つの影。勿論、先ほどの四人だ。
一人、原形を留めていないくらいボコボコにされた者も居るが・・・・・・
「ねえ」
リグルが尋ねる。
「幽香と八雲紫が知り合いっていうのは、まあ分かるんだけど。
何で、てゐと幽香達は仲いいの?」
「別に仲は良くないわ。ただの腐れ縁よ」
吐き捨てるように幽香が答える。
「腐れ縁?」
「そう、腐れ縁」
「詳しく聞かせてよ、幽香」
幽香が口を開こうとしたところに、横から紫が割り込んできた。
「はいはい、私が幽香の代わりに答えてあげちゃうわね。
大昔に、私達が月に戦争し掛けたのは知ってるわよね?
その戦争での、戦友なのよ、私達は」
「へえ・・・・・・あれ?でも、てゐはその戦争を生き残ったんだよね?
その割には全然強そうじゃないよ。それに、力もそんなに無さそうだし・・・・・・」
「見た目に騙されちゃ駄目。てゐはね、かの有名な因幡の白兎なんだから!それにね、この子ったら自分の力を必要最低限のギリギリまで抑えて、姿を変えてるのよ」
「どうして?」
「健康のためよ」
紫が口を開く前に、てゐが答えた。先ほど殴られたところはもう大丈夫らしい。
「健康?」
「そう、力を使えばそれだけ疲れるでしょ?健康の秘訣はね、良いものを食べて、よく寝て、無理をしないこと!他にも色々あるけど、これが原則よ。
だから、力は使わないようにしてるの」
そんなものなのだろうか、とリグルは考える。そもそも長生きだの、健康だのというのは妖怪には馴染みの無い話だ。
そのような色々と、取り留めの無いことをリグルが考えていると、不意に幽香がてゐに口を開いた。
「それはよいのだけれど、いい加減その子供の姿を止めてくれないかしら?
早く、元の姿に戻りなさい」
「え~・・・この体が一番妖力の消耗少ないんだよ。あんたも知ってるでしょ?疲れるから嫌!」
「目線を下げるのが面倒なのよ!それと、私はその姿が嫌いなの。とっとと戻れ!!」
「・・・・・・怒らなくてもいいじゃない。カルシウム足りてない?あんまし怒ってばっかいると禿げるよ?」
「ご心配なく、あなたが姿を変えてくれれば全て解決するのよ」
「まったく、幽香は我侭なんだから・・・・・・」
やれやれとてゐが答え、胸にあるニンジン型のペンダントを握りしめた。
そして、強烈な光がペンダントから発せられる。
その眩しさに、思わず目を閉じるリグル。
一度広がった光はすぐに小さくなっていき、そうしてすぐさま消えた。
光が収まり、徐々にリグルの瞳が機能を再開し始める。
そして、その視界にてゐを捉えた時、彼女はぽかんと口を開けるしかなかった。
リグルとそうは変わらなかった身長は、今や幽香を越えるほどであり、肩に掛かる程度だった癖のある髪も背中の辺りで広がりを見せている。
すらりと伸びた手足と、女性らしさを強調する胸。ゆったりとした体のライン。
いつの間にか衣服のサイズも変わっており、服が小さくなるといった状態を回避していた。
そして、その顔には最早幼さは無く、柔和な笑みと、どこまでも深い凄みがあった。
八雲紫には劣るかもしれないが、胡散臭さも増している。
ちなみに、兎の耳はそのままであった。
「まったく、相変わらずの変化っぷりね。色んな意味で詐欺じゃない」
幽香が呟く。
「どういたしまして。あ~でも、久し振りだから肩が凝る」
首を左右に曲げる。グキグキ、ベキベキと景気よく音が鳴った。
そんなてゐの様子を、呆然としながら眺めるリグル。
今まで、自分とそうは変わらないと思っていた相手が、一気に紫達の様な大妖怪並―――いや大妖怪へと変貌したのだ。
ルーミアがリボンを解いた時くらい無茶苦茶なものがある。
「どう?面白いでしょう?てゐは頭も切れるけどね、それだけじゃあないの。おつむだけじゃ生き残れないのよ」
胡散臭い笑みを浮かべながら紫が話しかけた。
リグルはただ、こくこくと頷くだけだった。
「さてと、どう?久し振りに元に戻ったんだから、肩慣らしにヤらない?」
幽香がくすくすと笑みを浮かべながら尋ねる。
「あ~、あれ?久し振りにやってあんたに勝てるわけ無いじゃない」
「嘘。衰えてるつもりなんて毛の先ほども思ってないくせに」
「随分と好戦的だね、さっきまでそんな気無かったんじゃないの?」
「疼くのよ・・・・・・その妖気といい、その姿といい、私の体が欲しているの、あなたをね・・・・・・最近、運動不足だし」
「私も随分と愛されてるわね。ま、私も色々と溜まってるからね。いいよ、ヤってあげる」
「ふん、あなたなんか別に愛してないわ。よろしいこと?私が愛しているのはね・・・・・・!」
「愛しているのは?」
「な、なんでもないわよ!!」
そう言うと、幽香が空へと上がり、てゐがそれに続いていった。
「リ、リグル!紫、花たちを守りなさいよ!」
上から幽香が声をかけてきてそのまま上っていってしまった。
どことなく上ずった声で。
「弾幕ごっこか・・・・・・幽香も好きだなぁ」
リグルが何となしに呟く。すると、紫が口を挟んできた。
「あら、あの二人は弾幕ごっこなんかしないわよ」
「へ?だってやるとかって言ってたじゃない。やると言ったら弾幕ごっこじゃないの?」
「ふふふ、まあ見てなさい。弾幕ごっこよりも、もっと面白いのが見れるわよ」
扇子で口元を隠しながら紫が言う。
リグルは、その瞳に何か薄ら寒いものを見た気がした。
向日葵畑の上空。
地上のリグル達の表情がどうにか判別できる位の高度で、幽香とてゐは対峙する。
「ねえ、さっき何て言ったの~?」
「うるさいわね!何でもないって言ってるでしょ!!」
まだ少し顔が赤い幽香に対し、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるてゐ。
しばらくの間、軽口を叩き合っていく二人。
しかし、段々とその口数が少なくなっていく。
それにつれ、二人の顔が剣呑なものになっていく。
真っ赤な顔も、嫌な笑みも消え去っていき、やがて辺りにぴりぴりとした空気が張り詰め始めた。
二人から妖気があふれでる。
対峙そして沈黙。
沈黙そして静寂。
いくらかして、てゐが口を開いた。
「どんくらいぶりだっけ?こうしてあんたとヤりあうのは・・・・・・」
「さあね、覚えてないわ」
「久し振りなんだから、手加減してよね」
「あら、常に全力でヤりあう・・・・・・そう約束したじゃない」
「優しくしてほしいなぁ」
「いつかしてあげるわ。さあ、始めましょうか!!」
幽香の声が合図となって、二人の弾幕が空を埋めるように広がっていった。
* * * *
「なんだ、結局ただの弾幕ごっこじゃない」
地上の向日葵畑でリグルが呟く。
紫が含みのある言い方をしたので、何か凄まじいことが起きるのかと思えば、始まったのは普段通りの弾幕ごっこだ。
「ねえ、コレのどこが面白いものなの?そりゃあ、あの二人くらいになれば弾幕ごっこも迫力あるけどさ」
「ふふふ、あなたもまだまだねぇ。二人の様子をよく見てなさい。それに、まだ序の口にすら至ってないのよ。まあ、そのうち分かるわ」
さっきから扇子で口元を隠したまま、不気味で胡散臭い視線を投げかける神隠しの主犯。
見ていれば分かる。まだ序の口にすら至っていない・・・・・・どういうことだろう?
既に弾幕ごっこは始まっている。二人は弾を掠りながら、相手に対し狙いを付けている。
流石にまだ始まったばかりなのでスペルカードは使用されてないが、それでも凄まじい程の弾幕の応酬が繰り広げられているのだ。
いったい何があるというのだろう・・・
そう思いながら空を見上げる。
「あっ!!」
思わず声が出た。
* * * *
右腕が吹き飛んだ。
しかし、気にするほどの事ではない。
妖力を集め一瞬で再生させる。
てゐの左足が吹き飛んだ。
しかし、それだけだ。
その左足が一瞬で再生した。
日傘で胸を貫いてやった。
てゐの胸に大穴が開く。
だが、怯まない。
手刀で腹を引き裂かれた。
てゐの腕が腹に捩りこまれる。
生温い感触。
頭を潰す。
肩ごと腕を持ってかれる。
弾が直撃する。
腹に大穴が開いた。
弾をぶつけてやった。
右の脇腹が抉れていた。
傘が空を切り裂く。
蹴りが空を撃ち抜く。
お互いの弾幕が花開いた。
頭が消し飛んだ。
半身を吹き飛ばした。
右手が消え去った。
胸に穴を開けた。
両足が吹き飛んだ。
臓物を消し飛ばした。
レーザーで貫く。
レーザーで切断される。
笑いながら弾を放つ。
笑いながら弾を放つ。
楽しい楽しい殺し合い
ごっこ遊びじゃ、物足りない
もっと多くの、弾をくれ
もっと多くの、痛みをおくれ
楽しい楽しい殺し合い
ごっこ遊びじゃ、物足りない
もっと多くの、血を散らせ
もっと多くの、臓物散らせ
楽しい楽しい殺し合い
ごっこ遊びじゃ、物足りない
もっと多くの、思いをおくれ
もっと多くの、思いを散らせ
「ふふふふ、どう?てゐ、楽しい?」
「ええ、楽しいよ、幽香」
「弾幕ごっこじゃ、ここまで楽しめないわよね」
「そうかな?私は弾幕ごっこでも楽しめるよ」
「あらそう、意外ね」
「そうかな?」
「そうよ。どこまで平和ボケしようとも、私達は妖怪だもの」
「互いに殺し合い、人を喰らい、人に退治される者ってこと?」
「ええ、そう」
「私は健康に長生きしたいから、パス。肉も嫌いだし」
「ふふ、あなたらしいわね。妖怪らしくない」
「それが私の生き方だからね」
二人の前には弾幕―――全てを打ち倒さんとする、弾の集まり。
それだけが二人の前に広がっている。
足がもげる―――そして再生。
腕が吹き飛ぶ―――そして再生。
半身が焼け焦げる―――そして再生。
この場で興ぜらるは楽しい楽しい殺し合い・・・・・・
ごっこ遊びじゃ物足りない。
* * * *
「何・・・これ?」
「見ての通り、死合いね」
呆然と呟くリグルに、さも当然と紫が答えた。
「だって、弾幕ごっこじゃないの!?」
「違うわ、死合い―――殺し合いね。弾幕ごっこの昔の形よ。」
「そんな!蓬莱人じゃないんだから!!」
「大丈夫よ、本当にやばくなったら、私がどうにかするから」
呑気、さもいつも通りといったように答えが返ってきた。
「でも、あんな事やってたら本当に死んじゃうよ!」
「死にはしないわ、あの二人の実力ならね」
「そんなの分らないじゃない!」
「あら、そんなに心配?」
「当たり前でしょうっ!!」
リグルは叫んでいた。
「もし・・・・・・もし、幽香に何かあったらどうしてくれんのよ!!」
「だから、大丈夫って言っているじゃない。私はね、嘘は吐くけど約束と絆だけは守るようにしているのよ、出来うる限りだけどね。
あの二人が死ぬことはないわ」
「幽香が怪我するのが嫌なのよ!!」
瞳に涙を浮かべながら、リグルは叫んだ。
紫が溜息を吐く。
「まったく・・・・・・言ってる事、訳分らないわよ?
この私、八雲紫が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なの!
それとも、私ってばそんな信用がない?」
「・・・・・・っ!」
紫を睨みつけるリグル。
ふざけるな、とでも言いたげな目つき。
必死とも言える形相を浮かべたリグルを、さも面倒くさいという表情で紫は見つめていた。
しばらく、その状態が続いた。その間も、空では幽香達は舞い続けている。
突然、リグルがふわりと浮いた。
「ちょっと、何するつもり?」
「二人を止める!」
「止めなさい。あの二人ならともかく、あなただと確実に死ぬわよ」
「やってみないと解らないよ!!」
「流れ弾に巻き込まれたら、一瞬で死ぬわ。これはごっこ遊びじゃないの」
「巻き込まれなければいいのよ!」
紫を睨めつけながら、リグルが言う。
そうして上に行こうとしたところで、紫が声を上げた。
「・・・・・・ったく、あぁもう!仕様が無いわねぇ。分かったわよ。止めてきてあげる。だから行くのを止めなさい」
ぶつぶつと文句を言いながらスキマが開かれ、そこにぞぷりと入っていく神隠しの主犯。
スキマに消えていく紫の背中を、リグルはずっと睨んでいた。
* * * *
「マスタースパーク」
「エンシェントデューパー」
幽香が傘を構え、そして打ち放つ。
てゐがスペルを唱え、そして発動させる。
幽香の傘が放ちたるはただただ純粋なエネルギー―――破壊の光。
目前にあるもの全てを飲み込む超弩級の白光。光と破壊の巨大な大渦。
てゐの両手が放ちたるは幾千、幾万、幾億もの弾幕。
そして、相手を貫く二つの光。全てを穿つ点と線。
渦に飲まれる点と線。
弾は消え去り、光は飲まれ、それでも渦は濁流に・・・
弾は消え去り、光は貫く、それでも渦は濁流に・・・
弾は射抜いて、光は貫く、それでも渦は濁流に・・・
弾は射抜いて、光は穿つ、そして渦は消え去って・・・
全てを穿つ点と線、光の渦をも貫いて・・・
やがて渦は光を失い、点と線も輝き失う。
「マスタースパークと相殺ね・・・・・・どこぞの白黒が知ったらショックかしらね」
「流石本家。魔法使いのやつより強力だわ。いけると思ったんだけどなぁ」
「「でも、まだまだ。お楽しみはこれから!」」
共に放つは同じ言葉。
そして始まる第二撃。
幽香が傘を、そして構える―――その数二人。
てゐがカードを、そして唱える―――その数二枚。
「ダブルマスタースパァァァク!!」
「ダブルエンシェントデューパァァァァ!!」
二人の幽香から放たれる二条の激光。
それを迎え撃つてゐの弾幕と4条のレーザー。
全てを飲み込む光の渦と、全てを穿つ点と線。
それらが交わり、消え去り、互いを消し合っていった。
「弐条四重結界」
二つの轟音をかき消すように、凛とした声が静かに響く。
閃光そして収縮そして消滅。
幽香の放ったダブルスパークが、てゐの放ったダブルエンシェントデューパーが、七色の光に包まれそして消え去った。
後に残るは静寂と二つの影。
「・・・・・・なんのつもり?紫」
「そうよ。せっかくいいところだったのにさぁ」
二人の殺気だった瞳が何もない空間を写す。
みしみしと音を立てながらそこの空間に亀裂が走り、亀裂の淵に白い手が掛けられた。
手から肩、肩から胸、胸から背中・・・・・・やがて全身がスキマから現れる。
やってられないという無気力さを、全身から発しながら八雲紫が口を開いた。
「五月蝿いわね。私だってこんなことやりたくないわよ。あの結界面倒なのよ?」
「御託はいいの。さっさと邪魔した理由を教えなさい?」
低い調子で幽香が喋る。その声はひたすら冷たく、ひたすら鋭く、ひたすらどす黒い。
「あなたの恋人にせがまれたのよ、思いっきり睨まれてね。あなた達のあれは、ちょっと刺激が強すぎたみたい」
「リグルが?」
「ええ、文句があるならあの子に言いなさいな」
幽香がまだ何かを言おうとした所で、てゐが口を挟む。
「もう止めましょうか、ヤるのはまたにしましょう。幽香」
「ちょっと、てゐ!」
「下を見てみなよ」
「下?」
下―――リグルがいる所に目を向ける幽香。
「う、怒ってる・・・・・・」
「あんなんじゃあ、いつ邪魔に入ってくるか分かったもんじゃない。
だから止めにするわよ」
「・・・・・・わかったわよ」
幽香が納得したところで紫がスキマを開いた。
「はい、着替えは持ってきたわよ、スキマの中で着替えなさいな
話はそれからね」
* * * *
向日葵畑に戻った幽香の前に、リグルが立っている。しかし、その表情は見ることが出来ない。
俯いたその顔が、緑の髪に隠れているからだ。
「リグル・・・・・・?」
幽香が声を掛けた。
なんで怒ったのかしら?別に変なことはやってないのに・・・・・・
だけど、あんなに怒った顔は始めて見た。
「・・・・・・怒ってる?」
ぶんぶん――――首が横に振られた。
緑の髪が揺れる、だけど顔は見えない。
「でもさ、さっきは怒ってたわよね?」
弱弱しく尋ねてみた。
こくり―――― 一度だけ頷いた。
「何で・・・・・・怒ってたの?」
つい、とリグルの顔が上がる。
そうしてようやく、表情を見ることができた
顔をくしゃくしゃにして、涙をぼろぼろと流している。
「な!?リ、リグル!?」
「幽香のバカぁ!!」
「はえ!?」
「あんなに危ないことやらないでよぉ!!本当に怖かったんだからぁ!!」
そのまま、ふええんと泣き出してしまった。
取り合えず、訳も分からぬまま彼女の小さな体を抱きしめる幽香。
身長が違うので、必然的にしゃがんで抱きしめる形になる。
危ないこと?
そんなことやったっけ?
訳が分からないと悩んでいた幽香に、溜息を吐きつつ紫が説明した。
「言ったでしょう?刺激が強すぎたって。その子はね、あなたが死ぬんじゃないかと思ったらしいのよ」
「死ぬ?この私が?そんなこと―――」
「ありえない。と言ったわよ私もね。あなたの実力、てゐの実力、いざって時の私のフォロー・・・・・・余程のことが無い限り死ぬなんてこと はありえない。そしたら、こう言われたわ。幽香が怪我するのが嫌なんだ!って」
「何それ?」
「そのまんまの意味じゃないの?本人に聞きなさいな」
「そんなこと言ったって・・・・・・」
話を聞こうにも、その本人が大泣きしているのだ。しばらくたって、落ち着くのを待つしかない。
そう思ったところに、てゐの声が響いた。
「まったく、もう・・・・・・鈍いわねぇ。幽香はともかく、紫はどういう意味か分かってるんでしょ?色々と誤魔化そうとするのは、あんたの 悪い癖だよ」
「あら?なんのことかしら?ゆかりんわかんなあい」
「誤魔化すな年増」
「人のこと言えるのかしら?幼女モドキ」
「今の私はちっこくないから幼女じゃないわよ~だ!」
「年を誤魔化してるのは変わらないじゃない」
「あんたもそうじゃないの」
「私は誤魔化してなんか無いわ。年齢不詳なだけよ。ほら、ミステリアスな女は魅力的って言うじゃない」
「あんたの場合、ミステリアスが過ぎて胡散臭いの」
「ああ、そんなこと言われるとゆかりん泣いちゃいそう・・・・・・よよよ」
紫がしなりと倒れこむ。
ああ、また小芝居が始まりそうだ。
リグルをギュッと抱きしめたまま、幽香が話に釘を刺す。
「余計なことしてないで、早く話を聞かせてもらいたいんだけど。
で、てゐ。リグルは何を言いたかったの?」
「簡単よ。あんたが傷つくのを見たくない。それだけだよ」
「それじゃあ、言葉のまんまじゃない。だいたい、普通に生活するだけでも傷くらい付くわ」
「まあ、そうだね。でもさ、この場合は傷の意味が違ってくるのよ。リグルの中ではね」
「意味が違ってくる?」
「そう―――――訳が分らないうちに、あんたと私が殺し合っててさ、それを見てるだけってのが悔しいのよ、その子の中ではね」
「・・・・・・よく分らないんだけど」
「あらそう?それじゃあさ・・・・・・例えば、リグルと白黒が本気で弾幕りあっててさ、どっちかが死ぬまで終わりそうにない。
それで、あんたはそれを見ていることしかできない。こんな時、あんたはどう思う?」
「リグルが心配になって、なんとしてでも助けに行こうとするわね」
「だけど、あなたはそれを見てることしかできないのよ。さあ、どう思う?」
「・・・・・・わかんない」
眉を顰めながら、幽香が唸る。
てゐは呆れたといった表情で溜息を吐いた。
と、そこにリグルから声が掛けられる。
「ゆ、幽香・・・そろそろ苦しいよ!私は、もう大丈夫だから・・・・・・」
「あ、あら、ごめんなさい」
慌ててリグルを放す幽香。
そうした後、取り合えず事情を訊くことになった。
「ねえ、リグル。どうして、さっきは怒ってたの?」
「・・・・・・悔しかったから」
「悔しい?」
「自分に、腹が立ってたんだ。幽香が危ないことをして傷ついてるのにさ、自分にはそれを止められなくて・・・・・・自分の弱さに腹が立っ て、それで悔しかった。あとさ、幽香がもし居なくなったらって考えたら、何も考えられなくなって・・・・・・思わず怒鳴ってた」
「危ないことって、死合いのことでしょ?別に危なくないわよ」
「危ないよ!だって殺し合いじゃない!! 幾ら幽香達が強くて、八雲紫が居るって言ってもさ、最悪死んじゃうことだってあるんでしょ!?」
「ま、まあそうだけどさ・・・・・・でもごっこ遊びじゃ盛り上がらないのよ。血が騒がないと言うか・・・・・・」
「もしも、死んだらどうすんの!」
「よっぽどのことが無い限り大丈夫だって」
「そのよっぽどのことが起きちゃったら?」
「そ、それは・・・・・・で、でもさ、ホントに低い確率よ?」
「だから、そのホントに低い確率でそれが起きちゃったら?」
「あぅ・・・・・・それはぁ、そのぉ・・・う゛~」
「唸ってもダメ」
「・・・・・・ぐすん・・・ひっくっ」
「嘘泣きしても誤魔化されないよ」
「む゛~」
「ほっぺ膨らませてもダメ!」
「ケチ!」
「何がケチなのさ!私はね、幽香が危ないことしなければそれでいいの。だからあんなことは止めて!」
「大げさよ。大体、普通に生活してても、危ないことなんて沢山あるじゃない」
「それはそうだけど、あんな殺し合いするよりも安全だよ。大体、幽香は簡単に死なないじゃない」
「だから、簡単に死なないんだから死合いをやるのよ・・・・・・大体、リグルだって弾幕ごっこやるじゃない!それと同じなのよ!」
「弾幕ごっこで死ぬことは無いもん。どんなに当たり所が悪くても、最悪二~三日くらい動けなくなるだけだし」
「ごっこ遊びじゃつまらないの!相手が弱いし、ぎりぎりの感じが出ないのよ!」
「ごっこ遊びでもさ、紅白とかとヤればいいじゃない!白黒でもいいからさ。どっちも強いし、それにさ紅白には勝ったことないんでしょ?」
「そ、それは・・・・・・あ、あの二人が私の勝負を受けるわけないでしょ?」
「紅白はともかく、白黒は喧嘩を買う人間だよ。紅白はいざとなったら、物で釣ればいいじゃない」
「うぅ、言い返せない・・・・・・」
「とにかく、危ないことはしないでよ、幽香が怪我したりするのは見てられないんだから。
私はいつも幽香が心配なんだよ?」
「リグル・・・・・・」
「私の一番大切なものはね、幽香。君なんだよ・・・・・・他の虫達や、チルノ達ももちろん大切だけどさ、それよりも何よりも君が大切なんだ。
大切な君が傷つくのは見てられない!」
「ま、真顔で恥ずかしいことを言うのは止めなさい・・・・・・」
赤くなった頬を隠すように、幽香がそっぽを向いた。
そんな二人に置いてかれた紫とてゐ。
双方、なんとも言えない表情をしている。
「ねえ、紫?」
「何?」
「バカップルって腹立つね」
「そういうものよ」
「そうなんだけどさ・・・・・・」
「本人たちが幸せならそれでいいじゃない、滅多に見れない幽香も見れたんだしさ」
「まあね、ホントにウブで乙女なんだから幽香・・・・・・」
「そういえば、てゐ。永遠亭はどう?」
「何?いきなり」
「何となくよ。そういえば、あなたが月人と一緒に居る理由を聞いてなかったなぁって思ってね」
「楽しいよ、レイセンはからかい甲斐があるし、姫や永琳様は良くしてくれてる、子分のイナバ達も可愛いしね」
「幸せそうね。で、どうして月人と?」
「急かさないでよ。姫たちと居るのはね、楽しいし、楽だからよ」
「へえ、月の民にあんな目に遭わされたのに?」
「昔の話よ、過去に拘ってたら長生きできないもの」
「逞しいわね・・・・・・でももし、あの二人が同胞の仇だとしたら?」
「姫達を殺しても・・・・・・って殺せないけど、そんなことしても、あいつらは帰ってこないもん。だったら、昔を忘れて今一番生きやすい場 所を選ぶだけだよ」
「切り替えが早いのね、羨ましい・・・・・・」
「詐欺師だからね」
「もう一つ質問、どうして月人達にその力を見せないのかしら?」
「・・・・・・分かってるくせに。本性出したら侵入者退治の仕事増えるじゃない
それに、レイセンが委縮しちゃって遊べなくなるもの・・・・・・本気で相手してくれるからこそ、からかい甲斐があるもんだよ?」
「そらそうよね・・・・・・それじゃあ、最後の質問」
「くどいわね」
「まあ、そう言わないでよ。もし、永遠亭に居るのに都合が悪くなったら?」
「子分たち連れてとっとと逃げる」
「ふふ、あなたらしいわ」
「詐欺師だからね」
紫がくすくすと笑みを浮かべ、それっきり会話は無くなった
* * * *
花そして花そうして花。
向日葵そして向日葵そうして向日葵。
見渡す限りの花が咲いている。
見渡す限りの向日葵が咲いている。
美を誇るように
命を誇るように
己を誇るように
そんな向日葵畑の中を歩いていく一つの影。
足取り軽く、花達を愛でながら意中の人を探す。
ちょっとしたことで知り合って、あっという間に好きになってしまった相手。
鬼さん ど~ちら
ちょっと軽く口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼は私、隠るるはあなた。
鬼さん ど~ちら
またまた軽く口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼の私は風見・幽香、隠るるあなたはリグル・ナイトバグ。
鬼さん ど~ちら
嬉しくなって口ずさむ。
私とあなたのかくれんぼ。
鬼の私はあなたを探し、隠るるあなたも私を探す。
多分あなたはそこに居る。
多分あなたはここに居る。
そしてあなたはどこに居る?
そうして見つけた、あなたの背中。
気付かれない様、そっと近づき。驚かす様、ギュっと抱きつく。
「リグル見~つけたっ!」
「わあ!・・・・・・もう、昨日と同じ事やらないでよ」
「いいじゃない、昨日は邪魔が入ったんだからさ。今日はリグルといっぱい遊びたいのよ」
「幽香って甘えん坊だよね」
「あなただけによ。私はあなたの大切なものだもの」
「じゃあ、幽香にとって私は?」
「教えてあげない」
「私は言ったのに・・・・・・意地悪」
「ふふ、言わなくても分かってるくせに」
「まあ、そうなんだけどさ」
「だったらいいじゃない」
「それでも聞きたいもの」
「だーめ、言わないわよ」
「けち」
「おお、聞きしに勝るバカップルぶり。紫さんネタの提供ありがとうございます!」
「いいのよ別に。ただ、面白い記事をお願いね」
「そりゃあ、もちろん!」
「でも、あなたもマメねぇ・・・・・・私が話したことを書けばよかったのに」
「いえいえ、やっぱり自分で見聞きしたものじゃないと面白い記事は書けませんしね。それにきちんと事実に基づくものを書くっていうのが私のポリシーですから!」
「ふふ、期待してるわよ」
「はい、任せてください!というわけで、幽香さん、リグルさん。一日密着取材をするんでお願いします」
「そんなに畏まる必要は無いわ、私が許可したんだし」
「それじゃあ、必要ないですね。あははは」
「そうそう、必要ないのよ。ふふふふ」
「ダブルマスタースパァァァァク!!」
花と兎とスキマと蟲と烏と?
まあ、そこら辺は人によって感じ方が様々なんでしょうが
紫様が、かっこいい!
基本的には良かったと思います。
とにかくラブラブな幽香×リグルが見れたので満足^^
てゐの設定も面白かったです。
てゐの設定は面白かった。幽香はちょっと大人しすぎに感じた。恋して変わったのか!?w
>永淋様
永琳様
リグルの言動に関しての言い訳させて下さい・・・・・・
作中でも書きましたが、自分の大切な人が危険な事をしていて、心配で何も考えられなくなる―――「恋は盲目」的な感じを書きたかったのですが、作者の力不足で我儘キャラに・・・・・・ごめんね、リグル。
あと、リグルの気持ちが分かる!とレスして下さった方もいて感激です。
このようなことがあると、改めて文章は難しいなぁと感じます。
まぁ、これを糧にさらに精進してまいりますので、生暖かい目で見守って下さい。