「きけぃ鈴仙!! 実は私は地球人では無いのよっ!!」
「はぁ……、さいですか師匠」
「あ、あら? 反応が淡白ねぇ……」
「確かに師匠は東方の師匠です。それは認めますよ、ええ。
しかしですね師匠。東方は東方でも東方違いです。流派ではありません。
それに師匠は月の民。地球人ではないですよね。
更にも一つ加えると、師匠は宇宙人ネタなんて分かる読者は極僅かだと思います」
「コアなファンなら分かる筈よ」
「……さいでっか」
こんなやり取りが永遠亭であったそうな。
本編とは全く関係ないのだが。
月が天の頂で燦々と輝く時刻。宵も深まり、夜も本番。
一部を除いた人間達は皆眠りにつき、代わりに活動を始めるの妖怪達。
一部の人間達が誰かを指しているのかは読者の諸君なら容易に想像がつく筈なので特に追求はしない。
「咲夜ー。紅茶ー」
紅魔館の主・レミリアも例に漏れず夜中に活動する少し困ったちゃんなのであるが、吸血鬼は夜行性なので問題は無いだろう。
気紛れで昼間に活動する事もあるのだがそれはそれこれはこれ。妖怪とはかくも自由奔放なのである。
「咲夜ー? さーくやー?」
何度も呼びかけてみるが一向に気配は見せず。
部屋を一通り見回すと、ふと目に留まるとある物。机の上に置かれた写真たて。中に納まっているのは一枚の写真。周りに何か置物と人形が置かれている。
「……そうか、そうだったわ」
写真たてを手に取り、何故咲夜が此処に居ないのかを思い出す。
当たり前の様に付き添い、当たり前のように同じ時間を過ごしてきた二人。
片方は妖。片方は人。当然の如く別れは来るもので。
人の命は短い。故に取り残されるのは妖に属する者。
「割り切ったと思ったんだけどね」
口ではそう述べているが割り切れないのが事実なのだろう。
未だにそれを信じる事が出来なくて、さも当然のように咲夜を呼びつけてはすぐに現実を突きつけられる。
咲夜はもう居ないのだと。
――――ま。――――さま。
柄にも無く感傷に浸っているそんな折、とうとう幻聴まで聞こえ出したのか。自分を呼ぶ懐かしい声。
手に取った写真たてがかたりと音を立てて一揺れ。と、思いきや否や光りだす。
写真から放たれる光は徐々に強くなり、部屋全体を照らし始めた。
「うおっ、まぶしっ」
思わず目を瞑り、数秒の後閉じていた瞼を恐る恐る開けると先程の光は収まり元の薄暗い部屋へと戻っていた。何故か陰陽玉が思い浮かんだのはこの際どうでも良い事だろう。
「お嬢様」
「ひゃうっ!!」
突然背後から声をかけられ驚き飛びのくレミリア。
何とも可愛らしい声をあげるものだ。きゃんと叫ぶ死神とどちらが可愛いのか是非比べてみたい。
あたい対決よりも盛り上がるに違いない。多分。
「あ、あら咲夜。どうしたの?」
「どうしたの、じゃ御座いません」
振り返ってみると銀の髪を靡かせた瀟洒な佇まいのメイドが一人。
言うまでも無く紅魔館のメイド長・十六夜咲夜である。
え? 先程の話は何だったんだって?
それはすぐに分かる事だ。
「お嬢様。勝手に人を殺さないで下さい」
「あら、だって出かけるまで時間を持て余して暇だったもの」
暇なら従者を亡き者にした遊びでもやるのかと疑問に思うのだが、妖怪―――それも高位に属する吸血鬼の暇つぶしなどこの様なものなのである。
「まあ……それは百万歩譲ったとしても」
「それって譲る気無いじゃないのよ、昨夜」
「揚げ足を取らないでください。
しかしながらお嬢様」
「どうしたの?」
咲夜の視線の先には机の上にある置き物。
置き物、と言うか人の形を模した造形物とでも言えばよいのだろうか。
「写真だけでは飽き足らず、ガイキングの超合金まで飾るのは止めてください」
「咲夜はガンバスターの方が良かったのね」
「私はどちらかと言うとゲッターロボの方が好きですね」
「チェンゲね」
「いいえ、新ゲです……ってそういう問題では御座いません」
「じゃあどういう問題よ」
「このガイキングの超合金、パチモンじゃないですか。」
ホントどうでも良かった。
ちなみにパチモンガイキングの背中に彫られた名前はバイキングだった。
正式名称は『驚天漫才バイキング』。巷でお騒がせの熱血漫才格闘アニメである。
近所の豆腐屋に嫁と娘を寝取られた主人公(サラリーマン35歳)が失意のどん底に落ちていた時、ヤゴコロン大元帥率いる悪の秘密漫才結社『重鐘闇脳(オモイカネダークブレイン)』に攫われ、改造人間・バイキンガーとして生まれ変わってしまう。だが左胸に仕込まれた漫才回路が不完全な為、中途半端な漫才に目覚めてしまい脱出を決行。その後彼は完全な漫才回路と大いなる突っ込みを会得する為に悪と戦う事を決意する。悪と戦う彼はフードファイトから指相撲まで様々な対決をして行き、昼ドラも裸足で逃げ出すほどの泥沼の人間関係を築きながらも逞しく成長してゆく笑いあり涙あり感動ありの壮大で破天荒な物語なのである。
バイキングは次回予告だけに出てくるロボで本編には一切登場しない、格好がまんまガイキングであると言う点も色んな意味で世間を騒がせている。
余談だがレミリアとフランドールは何故かこの番組がお気に入りで超合金から抱き枕まで持っていたりする。
「お嬢様」
「何よ」
「今気が付いたのですが。何ですかこの写真は」
写真たてを手に取り、写真をずずいっとレミリアに突き付ける咲夜。
そこには永琳印・試作10号『チヂマールZX(ゼクロス)』を飲まされ幼女化した美鈴とエイリアンを髣髴させる涎を垂れ流し、今まさに性的な意味で頂きますと言わんばかりに襲いかかろうとしている咲夜の姿が写されていた。
この『チヂマールシリーズ』は身体だけを幼女にまで戻してしまう一部の変態達にとっては正に夢の薬で、同じく永遠亭に住む変態薬師の八意永琳が、前作の試作9号『チヂマール・スーパー1』で問題だった副作用を取り除く事に成功した最新作の薬品である。
ご丁寧に美鈴は全裸で黒ニーソだけの目も当てられない格好だ。この姿はマニアには堪らないだろう。何のマニアかは敢えて追及はしない。深く追求しようものならいろんな意味で作者が白い目で見られるのは一目瞭然なのだから。
脱がされた美鈴は半泣き――――いやマジ泣きで必死に抵抗しようとしている。勿論脱がしたのは咲夜だ。態々時を止めて美鈴が抵抗する暇もなく。
「このような写真だと、まるで私が変態であると読者の皆様が勘違いを起してしまうではないですか」
「変態の様に見える、じゃなくて変態じゃない。
それに読者って何の話よ?」
「此方の話です。お気にめさらずに」
きっぱりと言い張り溜息をつくレミリア。
変態と断言されても顔色一つ変えずにレミリアを見つめる咲夜。流石は瀟洒と言う所か。
「良いですか、お嬢様。
『全裸でニーソを穿いている幼女は幻想郷の宝である』と、かの有名なアラン・スミシーが後世に残した格言ですわ。
つまり、私の行動は何ら問題は無いと言うことっ!!」
「嘘付け。んな問題があってやむなしに降格した映画監督の代わりに使う偽名の映画監督がそんな事言うかい」
「彼はこうも仰っておりましたわ」
「人の話はスルーッ!?」
「幻想郷にロリコンがいるとすればそれは人の心だ、とも。
人とは即ち私。つまり私は何処も賢もおかしくは無いと結論が出る訳です」
「……ああもう何処から突っ込んで良いのやら」
痛む頭を抱えて机に突っ伏すレミリア。何でこんな変態を雇ったのだろうと激しく後悔するが、如何せんこの変態で瀟洒なメイドは優秀なのだ。優秀なのに変態、変態なのに優秀と二つの葛藤。咲夜の能力も家事に事務に身の回りの世話にと紅魔館にとっても、レミリア自身にとっても必要不可欠な存在である故そうそう解雇する訳にもいかない。
それに咲夜を解雇する事に関してはパチュリーがまず許さないだろう。彼女には増え続ける本や魔道書の為にも、まだまだ図書館を拡張してもらわないといけないのだ。
「それよりも咲夜。貴女は今日は休みを与えた筈よ。
それなのに何で此処に居る?」
「お嬢様がお呼びになられたからですわ」
「あー……まあそうだけど」
「お嬢様、その点については安心してくださいませ。
此方には写真を通して精神だけを呼び寄せ実体化しています。所謂ふざけた存在。
故に今の私は完全で瀟洒なメイドではなく瀟洒なサイコメイド十六夜咲夜、ですわ」
「ヘーソウナンダー。サクヤッテバスゴーイ」
思いっきり棒読みのレミリア。流石にこの展開は予定外。
休暇を与えたメイドがどこぞの弾丸リベロの父親よろしく写真の中から実体化した上、ふざけた存在と自分で言い張るとはこれっぽちも考えていなかった様だ。
レミリアの梅干大の脳味噌にそこまで考える能力があると問われるのならば、即答で御座いませんと答えられるのだが、まあこの事態は普通の人も予測出来ない事だろう。
「ねえ咲夜、何となく馬鹿にされた気がするわ」
「お嬢様は少々馬鹿な位が丁度良いのですよ」
「咲夜、アンタも失礼な事をさらっと言うわね」
「そんな褒める事じゃ御座いませんわ」
「褒めてねぇーーー!!」
このまま主従漫才を続けていればレミリアも良い暇つぶしになるのではないか。それはそれで良いかもしれないのだが、主従漫才だけと何の面白味も無いままに終わってしまう恐れがある。流石にそれは拙いのでやらないが。
兎も角、主従漫才も終われば暇になる。
さあどのようにして持て余している時間を潰そうかと思い耽る。
寝ようとしても、先程起きたばかりなので眠気など全く無い。かと言って主従漫才を続ける気はさらさら無い。パチュリーは魔道書の執筆で忙しく図書館に引篭もったまま出てくる気配が無い。出て来れないと言い直した方が正しいか。小悪魔もパチュリーの手伝いと図書館の管理があるのでとてもじゃないが呼び出せる訳でもなく。美鈴は門番の仕事があるから無理だろう。今の時間なら引き継いで休んでいるのかもしれないが、無理矢理に付き合わせるのも気が引ける。
咲夜は言うまでも無く却下。自分で休みを与えておいて付き添わせるなどもっての他だ。今現在此処に居るのはふざけた存在なのだが余計な突っ込みは無用。
「お嬢様、暇つぶしには持って来いのゲームが御座いますが」
「ん? そんなものあるの? 何々?」
興味深々のレミリア。暇が潰せればなんだって良い。
「大局将棋ですわ」
「…………」
「あら? どうなされました?」
「それって駒の動きを覚えるだけで半日が過ぎそうな気がするのよ。
よって却下。もっと簡単なものにしなさい。チェスとか普通の将棋とか」
物事には限度と言うものがある。之ならば確かに暇を潰せる。が、駒の動きだけ覚えてはいお終い、では納得がいかないだろう。咲夜も此処で大局将棋を持ち出す辺り悪意があるのか天然なのか判断に困る所だ。
因みに大局将棋は縦横36マスの将棋盤、駒の数が209種類あり駒の動きを把握するだけで本当に半日かかりそうな最大級の将棋なのである。
「簡単なもの、ですか。
それならば連想ゲームはどうでしょうか?」
「れんそうげぇむぅ?」
しかめっ面で答えるレミリア。途轍もなく嫌そうだ。
それをさらりと笑顔で受け流す咲夜。伊達や酔狂で瀟洒なサイコメイドをしている訳じゃない。
「あら、お嬢様は御存じないのですか?」
「何をよ」
「祖は紀元前。時は古代エジプト王国の時代。最強の戦士を選び出す為に己を誇りと名誉をかけて繰り広げられた神聖なる決闘。
それが死の連想ゲームッ!!」
「嘘付け」
素晴らしく冷めた目と冷静な突っ込み。何時も騙されている梅干大の脳味噌でも之ばかりは騙される事は無いようだ。
レミリアの冷ややかで痛い視線にも動じない咲夜。この時ばかりは瀟洒なサイコメイドが少しばかり憎かった。
少しはうろたえる素振りを見せろっての。
「他にやる事が無いのでしょう?
ならお試しに10問程私が出す単語で思い浮かぶ言葉を仰って下さい」
「……仕方が無いわね」
「それではいきます」
「ドンと来なさい」
何だかんだで結構やる気のレミリア。
「絶対無敵」
「そう来ればライジンオーしかないわよ」
「元気爆発」
「ガンバルガーね」
「熱血最強」
「ゴウザウラー……」
「完全勝利」
「ダイテイオーだけど……。
咲夜、ちょっとストップ。どぅーゆぅーしゅとーーっぷ?」
「お嬢様、その英語の使い方はどの様に解釈いたしましてもおかしいと思われるのですが」
「そんな事は咲夜の胸並にどうでも良い事なのよ」
「何 か 仰 い ま し た か ?」
「イエ、ナンデモゴザイマセン。ダカラソノナイフヲシマイマショウネ……。
ネエサクヤ、ソンナブッソウナモノヲコッチニムケチャイヤン……。
イッタァーーーーッ!!」
スココココーンと気持ちの良い音を立ててレミリアの額に突き刺さる無数のナイフ。
顔は笑っているが目は据わっており真紅に染まっていた。加えてこめかみにはっきりと浮かびあがる青筋。
拙い、これは本気で怒っている証拠だ。この状態になるともう誰も止められない。と、言う訳で暫くの間お仕置きの時間なので悪しからずご了承ください。
~~~~~~少女お仕置中~~~~~~
「あぅぅ……、無限殺人ドールとか反則じゃない……」
「ガッツが続く限り撃てるスペルカード。それが無限殺人ドールですわ」
「チクショウ、プリン頭の糞蟲君からパクった技の分際で!! 分際でぇっ!!」
「どうやらもう一度喰らいたいようですね、お嬢様」
「スミマセンデシタァーーーーーッ!!」
床に額を擦りつけ土下座で誤るレミリア。音速を超える速度で額を絨毯に擦りつけるので絨毯が焦げてしまった。之はレミリア48のヘタレ技の一つ『マッハ土下座』である。そのまんまなネーミングはこの際考慮してもらいたい。この時点で主の威厳やカリスマは間違い無く底辺を突っ走る事だろう。以前から底辺じゃないのかとお考えもあるだろうが、何気にする事はない。
「さて、それでは続けましょうか」
「お仕置きは嫌よ……」
「連想ゲームの事なのですが」
「あ、ああ、それね。うんそうねそうね。じゃあ続けましょうそうしましょう」
「それでは……」
「帯ひろ志」
「彼の描くヤエちゃんって妙にエロイわよね」
「ラスト5秒の逆転ファイター」
「炎のキン肉マンね」
「ダウンタウン熱血行進曲それゆけ大運動会」
「冷峰の取り合いで大喧嘩」
「若さって何だ?」
「振り向かないことさ」
「荒野」
「口笛と戦車と渡り鳥と賞金首」
「紅い悪魔」
「それも私だ。
って、アイッタァァァァーーーーーーーっ!!
な、何でナイフを刺すのよッ!!」
状況が飲み込めない。紅い悪魔と言えばレミリアの事を指しているのは無いのか。
少なくとも幻想郷では紅い彗s―――ゲフンゲフン、紅い悪魔の二つ名で恐れられている筈だ。
実態は血を吸う時に洋服を真っ赤に汚してしまうのでそう名付けられたものなのだが。
「お嬢様!! うぬは何も分かっておらぬわッ!!」
「な、何がよ!? 紅い悪魔は私の二つ名よ!! 間違いないじゃない!?
それに何でいきなりラオウ口調!?」
「そもそもそれが間違いだと言うのですっ!!」
空気を切り裂く音が聞こえんばかりに鋭くレミリアを指差す咲夜。音速を超えたため周りにソニックブームを撒き散らし、勢い余ってレミリアの鼻の穴に人差し指を突っ込んでしまったのは言うまでも無いだろう。
「ふががががが、ひゃくひゃっ!! いひゃいいひゃい!!」
「あら、申し訳御座いませんお嬢様」
「ふが……、全くもう……。
で、何が間違いなのよ」
音速を超え凶器と化した指が鼻の穴に突っ込まれた筈なのに、これといった傷が付いていないレミリアの鼻の穴。
戦車野郎憧れの地と同様の名を持つ鉄の穴(アイアンホール)は伊達ではない。
「そう、紅い悪魔がお嬢様であると言う事が間違いなのです。
良いですか、お嬢様? 彼は攫われた恋人を探すために、恋人を攫い村の者を皆殺しにした者に復讐を果たす為に数多くの賞金首をその手で打ち倒し、彼の駆る真紅の戦車は不動明王の如き強さを見せ、その強さを目の当たりにしたハンター達が憧れと恐れを称えて名付けたのが紅い悪魔の称号。そう、紅い悪魔と言えば孤高の狼である彼の事を指すのですッ!!
しかしながら彼は機銃を選ぶ目が無かったようですが、それでも彼は強かったッ!!
彼に比べるとお嬢様は精々腰抜けハンターが良い所ですっ!!」
物凄い勢いで捲くし立て話す咲夜。
何故に此処まで気合が入っているのだろうか。全く持って謎である。
「ねえ咲夜……」
「紅い悪魔は……、っとお嬢様どうなされました?」
「うん、それは分かったつもり。
でも、紅い悪魔って狼だけじゃなくて狐もいると思うのよね」
「うふふ、お嬢様ぁーーーー?」
「ひぃっ!? わ、私何か拙い事言ったかしら?」
ナイフを構え再び目が真っ赤に染まる咲夜。
気のせいか先程よりもナイフの数が増えている。レミリアご愁傷様。
~~~~~少女折檻中~~~~~~
「あだだだだだッ!! 痛い!! 咲夜それホントに洒落になってないからっ!!」
「だまらっしぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!!」
「あいったぁぁぁぁぁぁッ!!」
後にレミリアはこう語る。『あの時ほど自分が吸血鬼である事を恨んだ事は無いわ』と。
純粋な人の身であるのなら簡単に三途の川へと逝っているだろう。しかしながらレミリアは吸血鬼。カテゴリーは悪魔やら鬼に分類される種族。故にそう簡単に逝く事が出来る訳でもなく、弱点の銀のナイフを突き刺され、耐え難い苦痛を味わなければいけないのだ。
例えるなら脹脛を攣った時の痛みが半永久的に続くようなものだ。下手すれば死ぬかもしれない。でも死なない。
「あいたたた……。容赦ないわね……咲夜。
これがギャグじゃなくシリアスな話だったら私は間違いなく昇天していたわよ」
「ギャグとかシリアスとか何を仰っておられるのですか」
「いや、此方の話よ。気にしないで……」
「取り合えずですね、狐は認めません。ええ認めませんとも。
あんな誤爆まがいの攻撃で腕を切り落とした挙句、ごめんちゃい的なノリで謝る様な狐は!!
アンタそれでも最強の賞金首かぁ!! 反省する気ねぇだろうッ!! こんのダラズがッ!!
てめぇにはドラム缶がお似合いなのよ!! 紅い悪魔よりも赤いドラム缶がお似合いだわッ!! ビバドラム缶ッ!!」
「ちょ、咲夜落ち着いて。あーゆぅーひーとあーっぷ。おぅけぃ?」
其の英語だと咲夜は更に興奮して手が付けられないだろうに。
しかしまあ想像して頂きたい。四肢が取り付けられた異様な寸胴体系の赤いドラム缶が高速で迫ってくる様を。流石にこれは恐怖以外の何者でもないだろう。武器はポール牧から極意を受け継いだ何でも真っ二つにしてしまう指ぱっちんだ。戦車だろうがマジンガーZだろうがいとも容易く真っ二つにしてしまう。
『手伝ってやろうか? ただし真っ二つだぞ!!』は彼の有名な決め台詞である。素晴らしきドラム缶とでも名付ければ良いだろう。
恐らく未来永劫誰も倒せそうに無く、伝説の賞金首にでもなりそうだ。
「フシュルルル……」
「さ、咲夜? 落ち着いて? ほら元素記号でも言って落ち着きなさい」
普通は素数じゃないのか。
「すいへーりーべーどってんかいめい!! そおいっ!!」
「咲夜それ違う!! 元素記号違うアルネッ!! 途中から太陽系の惑星に変わってるヨ!!」
冥王星は太陽系の惑星から外れた気がするのだが。兎も角アーメン。
「ハォォォォ……」
「ひ、ひぇぇぇぇ……」
人ならざる者の呼吸音が聞こえる。もうとっても怖かった。恐怖のあまり2・3滴程ちびった。それ程怖かったのだ。
何が怖いのかって?
勿論咲夜の顔と呼吸音だ。例えるなら阿修羅のごとき形相に怨念の王のごとき呼吸音。
その場から逃げ出したかったが逃げたら何されるか分かったものではない。
だからといってこの場にいるのも身の危険を感じて止まないのだが。
「ここは最終手段に出るしかないわね……」
このままでは進退極まりチェックメイト若しくは王手飛車取り。それだけは避けたい所だ。
覚悟を決めるレミリア。まずは深呼吸を一つ。
「あーーーー!! あんな所に全裸黒ニーソ姿の幼女美鈴が変態薬師に襲われようとしているーーーー!!」
「なぁーーーーんですってぇっ!!」
一瞬、時間にしてコンマ数秒。だがその一瞬をレミリアは見逃さない。
「今だ!! カモシカのように柔軟な筋肉と己の体重を乗せて天高く打ち抜くべしっ!!」
フックの角度に拳を構えると、大きくダッキングし伸び上がりの速度と自身の体重を乗せたパンチを咲夜の顎を目掛けて打ち抜く。
「ぐっふぅ……。お嬢様……」
「これぞフロイド・パターソンのフィニッシュブロー、ガゼルパンチよ」
「……お見事、です」
精神だけのふざけた存在に何故レミリアのパンチが効くのかとお思いなのだろうが心配する事は無い。
今の咲夜は精神を此方に持ってきて実体化するふざけた存在なので物理的な攻撃もきっちりと効くのだ。ご都合主義万歳。
「……あ、あれ? 此処は?」
「お目覚めかしら? 咲夜」
「はい」
「ヒートアップした頭も少しは冷めたかしら?」
「お陰さまで。お見苦しいところを見せてしまい申し訳御座いません。
思考回路もすっかりヒートエンドですわ」
どうやら落ち着きを取り戻したようだ。一時はどうなる事やらと心配していたレミリアであったがこれならば大丈夫だろう。
何時また暴走するか分からないの恐怖は拭い切れていないのだが。
「ねえ咲夜。如何して其処まで狐を目の敵にするのよ?」
先程の暴走は紅い悪魔は狐か狼か、どうでも良い人には本当にどうでも良い事なのだが、ともあれ咲夜は狼は認めても狐は認めていない。
レミリアにとっては少なからず其の事が気になる。
「時は世紀末、世界は核の―――――」
「世紀末救世主伝説は関係ないじゃない」
「いいえ、大有りです」
「関係あるの!?」
「後に大破壊と呼ばれる世界規模での荒廃ですわ」
「……それって本当に此処の話?」
「いえ、此処に来る前の話ですわ」
「外の世界が荒廃したなんて聞いた事無いわよ」
「実はですね、私は次元を超えて此処に来たのです」
咲夜の衝撃の過去が今明かされる。口をあんぐりとあけて唯々呆然としているレミリア。
余りの急展開に梅干大の脳味噌もオーバーヒート寸前。
「……どうやって?」
「気合ですわ」
「…………」
「お嬢様。気合があれば空を飛べ時を止め精神コマンドを無効化し次元跳躍すら可能なのです」
「精神コマンドって何よ……」
「分かる人には分かる話ですので、どうかお気になさらずに」
「アッソウ……」
気合で何でも出来る。嘘の様で真の話。
咲夜は実際に時を止め空を飛び空間を弄くっているのだから無理矢理にでも納得させるしかなかろう。
納得できるのか?
「その世界は荒野と戦車とお尋ね者の――――」
「ごめん、咲夜。もうその話はいいわ……。
頭が痛くなってきたわよ」
「知恵熱ですか?」
「うっさい違うわボケ」
「あら、高貴なる吸血鬼がそのような粗暴な言葉使いは宜しくないですよ」
「あーもー、ああ言えばこう言う。この屁理屈変態ダメイドめが」
「あらあら、梅干しでも喰らいますか?」
「スミマセンデシタ。ワタシガワルウゴザイマシタ」
梅干しとは握り拳をこめかみにあてて力の限りぐりぐりと痛めつける技である。喰らうと半端なく痛い。
再び土下座をし音速で額を真っ赤な絨毯にこすりつけるレミリア。絨毯はすっかりと焦げ付き穴が開いてしまった。
磨き上げられた床のひんやりとした感触が額に染み渡る。この光景を見ると心なしか主と従者の立場が入れ替わっているように思える。
「お姉さまー」
重く歯切れの悪い音が不意に部屋に響き渡り、レミリアを呼ぶ。誰かが扉を開けて入ってきたのだ。
とは言え、ノックもしないで勝手にレミリアの部屋に入る人物は限られているので誰であるのかは安易に予想が付く。
「あら、フランじゃない。どうかしたの?」
扉が開いてからフランドールが入ってくるまで僅かコンマ数秒。
レミリアはその僅かな時間に土下座の体勢から何時も通りのカリスマ溢れんばかりの格好で無駄に豪華な椅子に座り込んでいた。
これで姉としての威厳は失う事は無いだろう。
(お姉さま、おでこが真っ赤になってるの気が付いてないのかな……。
また咲夜を怒らせて土下座でもしていたんだろうなぁ)
バレバレでした。敢えて口に出さない所がフランドールなりの思いやりなのだろう。
泣かせる話ではないか。嗚呼美しきかな姉妹愛。
「んとね、遊んで貰おうと思ってめーりんの部屋に行ったんだ」
途端に咲夜の頬から汗が一筋と共に表情が強張った。今まで動揺や焦りなど微塵にも出さなかった彼女だったがこの時ばかりは違った。
明らかに動揺している。
「そしたらね、めーりんがちっちゃくなってて、部屋の隅で泣きながら震えてたんだ」
「……おぅけぃフラン。其処までで良いわよ」
「え?」
何が原因か。そんなのすぐに分かる。
面に咲夜の反応で。
「フラン、遊び相手が欲しいのよね?」
「うん。お姉さま遊んでくれるの?」
「御免なさいねフラン。私はもうすぐ出かけるからまた今度遊んであげる」
「そうなんだ……」
「お、お嬢様。私は休暇中ですのでこの辺で失礼致します。それではアディオーース!!」
「あ、咲夜が縮小コピーで逃げていく!!」
「逃がすかゴラァッ!!」
縮小コピーを巧みに使い、写真の中に逃げ込もうとする咲夜を寸での所で捕まえる。
そうは問屋が卸さないと言わんばかりにしっかりと両腕を咲夜の腰にまわしこみホールド。幾ら変態で瀟洒なサイコメイドの咲夜でも一応人間。吸血鬼のレミリアと比べると生き物としての基本スペックが違う。ガッチリと自身の腰にまわし組まれた両腕は全く動く事無く、自身の力で振りほどくには無駄な抵抗だと悟るのにそう時間はかからない。
「どっっっせぇぇぇぇぇぃっ!!」
レミリアの豪快な掛け声と共に仕掛けられるジャーマンスープレックス。美しき弧と華麗なブリッジを描き醸し出す様はまさに芸術の一言に尽きる。
ジャーマンスープレックスをまともに喰らい、受け身も取れず後頭部から床に叩きつけられた咲夜は後頭部を抑えて悶絶している。
よくもまあ気絶しないものだと思うが、ふざけた存在は耐久力が高いのがお約束なのである。
咲夜が悶絶している間に逃げられないように縄で締め上げるレミリア。
二人のやり取りに今一付いていけないフランドールはぽかーんとアホの子の様に口を開けてその光景を見ているだけだった。
「お、お嬢様」
「何よ咲夜」
後頭部の痛みがある程度収まったが全身を縄で締め上げられ苦しそうにしている。
少々きつく締め上げすぎたか。ならば少し緩めようかと思った矢先。
「もっときt「五月蝿い黙れ」く」
全然堪えていません。
「さて、と。フラン、今日はこの変態基咲夜と遊びなさいな」
「え? いいの!?」
顔を輝かせ喜びを露にするフランドール。笑顔に負けて鼻血が出そうになったがぐっと堪える。
「遊び相手がいないのでしょう?
丁度咲夜も暇している所だしくにおくんから弾幕ごっこまで何でも付き合ってくれるわよ」
「ほんとに!? でも咲夜は冷峰ばっか取るから……」
「お互いに冷峰を取らなければいいじゃないの。
それと弾幕ごっこするのならね―――――」
「手加減しないと駄目なんでしょ? 大丈夫だよお姉さま」
「いいえ、手加減抜きの全力でやっていいわよ」
「いいの? ほんとにいいの?」
「勿論よ。今の咲夜はふざけた存在だからちょっとやそっとでは死なないから遠慮なくやっちゃいなさい」
「うわーい!! じゃあ咲夜!! 遊ぼう!!」
がっしりと咲夜を縛っていた縄の端を掴むフランドール。当然の如く咲夜に拒否権はありません。
さあ、もう逃げられない。
「お嬢様……」
「何よ」
「私は冷峰以外だとやる気が起きません!!」
そっちかい。
「咲夜咲夜!! 私の部屋に行こう!!
お姉さま、また今度遊んでね!!」
「ええ、分かっているわよ。それじゃあねフラン」
ばぁんと勢いよく扉を開け咲夜を引きずりながら全快飛行で自分の部屋へと向かっていった。
嵐のように去っていく妹の後姿を見て苦笑するレミリア。まだまだ危なっかしい所もあるのだが、以前と比べると力をある程度自分で制御できるようになったお陰で紅魔館内だけなら自由に出歩ける。
尤もフランドールの遊び相手や弾幕ごっことなると相手できるのはパチュリーか咲夜若しくは美鈴の三人に限られてくるのだが。
「さて、と」
時計を見る。針は午前1時を指していた。
机の引き出しからパンダのアップリケが縫い付けられたピンク色のがまぐちを取り出し、部屋を出る。
本来なら財政管理は咲夜に任せているので必要ないのだが、この時だけは例外。
目的の場所は紅魔館の主としてではなく一人の客として訪ねるのだから当然お代は必要になる。ツケで飲み食いするなど持っての他、何処ぞの博麗の巫女とは違うのだ。
「レミリア様ー」
廊下を歩いていると背後から声をかけられる。
此処紅魔館でおっとりのんびりとした特徴的な口調の持ち主はレミリアが知る限り二人。その内の一人は幼女の姿で部屋の片隅でがたがた震えている。よって残り一人に絞られる。
「あら、小悪魔じゃない。魔道書の編集は終わったの?」
「もう少しですねぇ。きりの良い所まで終わらせたので休憩も兼ねて紅茶とお菓子でも用意しようかと思いまして。
レミリア様はお出かけですかー?」
「ええ、少しね。小悪魔、もしかしたら館が激しく揺れると思うからパチェにそう伝えて置いて」
「あーもしかして」
即座に理解し相槌をうつ小悪魔。おっとりとした外見や口調からは想像付き難いが結構頭の回転が速い。
当然か。彼女はパチュリーの使い魔なのだから。
「もしかしなくてもそうよ。今夜はフランが全力で遊ぶわ。咲夜相手に」
「咲夜さん大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、ふざけた存在だから」
「はぇ?」
「此方の話よ。それじゃあ貴女達も頑張りなさい」
「え、あ、はい」
手をひらひらと振り、小悪魔と別れた後静まり返ったホールを抜け、門を抜ける。
見上げると黒い空に星の輝きに混じり弱々しくもはっきりと映る三日月。
翼を広げ夜空の散歩を堪能した後、とある森へと進路を変える。森に近づくにつれて聞こえてくる夜雀の歌声。目指すはミスティアが経営する八目鰻の屋台だ。
此処では鬼であろうとスキマ妖怪であろうと宵闇の妖怪であろうと一介の客に過ぎない。客同士無礼講に酒を飲み鰻を食い、話をして盛り上がる。何時も開く宴会とはまた違った雰囲気を醸し出し、レミリアはそれが気に入っている。
「お、レミリアさんいらっしゃい。今日は良い鰻があるよー」
「あらそう、ならそれを頂こうかしら」
「血は無いんでそこら辺は我慢しておくれよ」
「分かっているわよ」
ミスティアの歌うあずさ2号を肴に酒を飲みちびちびと鰻を摘む。
偶にはこのようなのも悪くは無い。
夜明けまで時間はある。他の客もぼちぼちと集まってきたようでこれから賑やかになるだろう。
またそれも一興。夜は始まったばかりだ。
「う~、咲夜また冷峰取ったーーー」
「妹様。勝てば官軍と言います。つまり勝てば良いのです勝てば。
そもそもくにおくんは相手をボコして何ぼです」
「いいもん!! 咲夜がその気なら私はオクラホマ使うから!!」
「それならば時代劇でもしましょう。これなら二人で協力プレイができます」
「咲夜はすぐにこがねむし使うから嫌い!!」
プチなどの短編ならそれもありだけど、こちらで元ネタを知らないと楽しめないようなネタSSはちょっと厳しいかと。
レミリア様のひらがな英語。かわいい、かわいいよ。
くにおくん、キャラによって豪く使い勝手に差がありますわあれ
そこから先は音を上げてしまったので、感想を云うべきではないと云う意見もありましょうが、一応、こちらに書かせて頂きます。
元ネタが解らないものが多く始終首を傾げっぱなしでしたが、やはり漫才が多すぎると感じたのは↓の方々と同じく。
某かのストーリーに付随する形で、パロディを入れた方がいいかと。
若しくは、緩急をつけると云う意味でシリアスとコメディを混ぜてみると、よりメリハリのある作品になるのでは。
最後になりますが、「何処も賢も」に代表される誤変換にお気をつけて。
新のことか、新のことか――!!
「荒野」
「口笛と戦車と渡り鳥と賞金首」
ゲームが二つほど混ぜこぜになってませんか。
皆さんは着いていけるかな~。(年バレ??
「じゃあな、ボウズ……つ い て た な…………」
たっぷり笑わせて頂きました!!
ネタとしては読者を置き去りにしているところがありましたがこんなノリも嫌いじゃありません。
そして仲間内での名言(迷言)
『運動会で冷峰に、新記録でオクラホマに、時代劇でこがねむしに頼る奴はもはや甘ちゃんでしかない』
…私は基本的に熱血派、やっぱくにおくんを動かして何ぼだよねー。いちじょう弱いけど
もっこファイアー!がががーっ!!!
ネタがわかる奴にとってはこの手のノリはご馳走だと思うんだぜ
ドクターミンチを今度は話に
>穿いているの幼女は
のが余計だと思います
>鼻の穴に人差し指を突っ込んでしまったのは言うまでも無いだろう。
言うまでもあるよ!?めっちゃ特筆すべき異常事態だよ!?
>変態基咲夜
基は要らないのでは?何かちゃんと意味があるのなら申し訳ありません
若い人には厳しい中身でしたかね。
もうすこしネタを一般向け→マニア向け→一般向け→マニア向け……と交互に繰り返す形で書いたほうがネタが分からない人(俺とか)がダレずに済んだかも。
が、解らないネタの部分はちょっと辛かったですね。
自分もやってるのであまり偉そうな事はいえませんが、もう少し万人に解り易いネタだと良かったかもしれませんね。
個人的にはリベ武ネタで爆笑させてもらいました^^
しかしこんな漫才が好きな俺
…元ネタあってるよね?(ぇ