Coolier - 新生・東方創想話

甘い匂い探険隊

2007/09/09 09:27:33
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「森でとても甘い匂いがしたんだ」
 家に帰った木こりの男が家族にそう話すと、それを聞いた女の子が目を輝かせた。
「えっ、それってどの辺?」
 好奇心満載の瞳で聞くが、男は森に行かれては困ると思い、あいまいに答えた。
 女の子はつまらなそうに唇を尖らせ、もう寝る時間よ、と母親に促されて渋々床に就いた。


 次の日。初夏の日差しは少し汗ばむものの、遊ぶには丁度いい気候だ。
 女の子は外に出ると大きく伸びをし、大きな声で行ってきますと叫び走り出す。その背中に母親は気を付けるのよと声をかける。
 畑のあぜ道を縫って、いつもの広場に走る。
途中畑仕事をしているおじいさんにぶつかりそうになり、慌ててよけ、足を止めずにごめんなさいと大きな声で謝る。
 程なくして広場が見えてくると、すでに3人の人影が見える。
「おっそーい!」
 女の子の姿を発見した背の高い子が、手を振りながら笑顔で叫ぶ。
「ごめーん」
 広場に着いた女の子は、手を膝についてはーはーと息をつく。
 出迎えたのは、女の子と同じくらいの男の子と、その兄の少年。そして一番年上で背の高いお姉さん的存在の少女。いつも遊んでいる3人だ。
 上白沢の寺子屋に居るときも一緒で、4人の兄妹みたいなものだ。
「で、今日は何して遊ぶ?」
 日焼けした肌が健康そうな少年がたずねる。
「昨日はかくれんぼでしょ? 今日は鬼ごっこがいいな」
 しゃがんでアリを見ていた男の子が、立ち上がりながら言う。
「あ、待って。今日は森に行かない?」
 息を整えた少女が森を指差す。
「昨日ね、お父さんが森でとっても甘い匂いがしたんだって言ってたの。そこに行ってみたいな」
 女の子は嬉々として話すと、『甘い匂い』に少女の目が輝きだす。
 しかし、対照的に少年は顔を曇らせる。
「だめだ。森には近づいちゃいけないって大人から言われてるだろ」
 男の子もうんうんと小さく頷く。
「えー大丈夫だよ。お父さんと森に入った事あるけど、何も怖いこと無かったよ?」
 それでも少年はうーんと唸る。
「それに、お父さん達も森で仕事してるんだから、何かあったら助けてもらえばいいんだよ。今どの辺りで木を切ってるかもわかるし」
 女の子の必死のアピールに、少年も長い沈黙の後に、じゃあ午前中だけな、と条件を付け、『甘い匂い探検隊』が組まれることになった。


 魔法の森とは違う普通の森。主に里の人間達が、生活のために木材を仕入れたり山の幸を求めたりする、ごくごく一般的な森だ。
 ただこの幻想郷ではそこらに妖怪が潜んでいる。ただの森とて油断はならないのだが、男女4人の『甘い匂い探検隊』は、ピクニックにでも来たかのような気楽さで森を歩いていた。
 ちゃんと人が歩く道があり、お日様は明るく、斧を木に打ち付ける音がどこかから聞こえて、4人を安心させていた。
「ね、何も怖いことなんてないでしょ?」
 女の子は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「でも、甘い匂いなんてしないじゃないか」
 少年は辺りを見回す。
「しない」
 男の子も少年にならって見渡す。
「もうちょっと奥の方なんじゃない?」
 少女が期待に満ちた瞳で森の奥を指差す。
「そうかもね!」
 女の子も同意し、2人でさっさと奥に歩いていく。それに慌てて男子2人がついて行った。


 初夏の日はさんさんと地面を照らし、セミの鳴き声や鳥の鳴き声が心地いい。4人は目的を半分失い、ただただ気持ちのいいピクニック気分で歩いていた。
 森が開け、小川が見えた辺りで、男の子のお腹がクーと鳴った。それに続いて3人のお腹もそれぞれ音を鳴らす。
「そろそろお昼か……」
 少年が太陽を見上げる。
「よし、帰ろうか」
 少し残念そうな顔をしながら呟く。
「えー」
 それに不満の声を漏らす女の子。
「だってまだ甘い匂いの元、見つけてないよ?」
「午前中の約束だろ?」
 きっぱり言って背中を向けるが、他の2人もその場に座り込む。
「待ってよ。帰るのはいいけど、せめてここで何か食べていこうよ」
 少女がお腹を押さえる。
「そんな事言ってたら、帰りが夕方に……」
 その時少年のお腹から今日最大級の腹の虫が鳴った。
「……ま、まあ、昼飯くらいなら……」
 そう言って、少年は小川に向かう。
 3人は顔を見合わせて微笑み、それぞれが自分の仕事に向かう。
 女子2人は森で小枝や食べられそうな木の実を採る。男子2人は川で魚を釣る。
 少女から拝借した髪を数本よじって釣り糸にし、それを枝に結び石の下から虫を見つけそれを反対側に結ぶ。ゆっくり川に垂らすと、程なく魚が釣れた。
 それから少し太い枝に石で小さく穴を穿ち、小枝を差込みその周りに乾いた枯葉を敷き詰める。少年が木をこすり合わせ、男の子が火打石を打つ。その間に女子2人は獲った魚に枝を通していく。
 やがて火がつき、焚き火を作るとその周りに魚をさした枝を地面に刺していく。
「塩はないから少し薄味かもね」
 女の子はパチパチと焼けていく魚を眺め、くるくると均等に焼けるように枝を回す。
「なんだ、木苺だけか」
 女子の収穫物を見て、少年は言う。
「だって、山菜はおなべが無いから食べられないし……」
 少女が少しふてくされる。
 そんな会話をしているうちに魚が焼けると、4人で手を合わせ動植物に感謝してかぶりつく。
「うん。塩気が足りないけど、以外においしいかも」
 少女が笑顔で2本目に手を伸ばす。
「あ、ちょっとその大きいの私の~」
 女の子も負けじと2本目に手を出し、そのあと木苺をほおばった。
 食事が終わり人心地つくと、歩き通しの体に眠気が襲ってきた。
「あ~……眠いかも~」
 女の子は言いながらもすでに横になり、すぐに寝息を立て始めた。
 それに続いて少女も眠り始め、少年も少しぐらいならいいか、とみんな横になり眠ってしまった。


 カラスの声で少年が目を覚ます。
「ん……」
 眠い目をこすり辺りを見ると、すっかり夕方になっていた。
「やばい! おい、みんな起きろ」
 3人を揺り起こすと、みな辺りを見て驚いた。
「え、もう夕方!」
「そうだ、やばいぞ。急いで帰ろう」
 わたわたと森の中に入っていく。
 来るときは明るく陽気だった森の中も、そろそろ夜の帳が下りてくる時間になり、暗く不気味な雰囲気に包まれていた。空気もひんやりとして、今にも何かが飛び出してきそうだ。
「怖い……」
 不安をぶつけるように女の子が少女の手をぐっと握る。
「だ、大丈夫よ。来るときも何にも無かったんだし。一本道なんだし」
 握られた手にじっとりと汗をかき、それでも少女は気丈に振舞う。
「よし、急ごう」
 少年も男の子の手をしっかり握り、反対の手で少女の手を握る。
 来たときのピクニック気分もどこかへ飛んでいき、何かに追われるように早足で森を抜けていく。
 ガサガサと草が鳴るたび、ホーホーとフクロウが鳴くたびに、女の子と少女はびくりとし、お互いの手を地獄で見つけたクモの糸のようにギュッと握り締める。
 空には大きな月が浮かび、虫が草の陰で鳴いている。
 早足で歩いていた女の子が、ふとおかしな声を耳にする。
 それは聞いたことのないきれいな声だが、はっきりとは聞こえない。
 やがてそれが歌声であることに気付くと、女の子は足を止めた。
「ん、どうしたの?」
 少女は繋いだ手から重みを感じ、女の子に声をかける。
「……聞こえない? 誰かの歌声……」
 その歌声に聞きほれるように目を閉じる。
 女の子に言われ、3人も耳を澄ますと、何故今まで聞こえなかったのかという程の歌声が耳に入ってきた。
「きれいな歌声……」
 少女がうっとりした表情で呟く。男の子も無言で頷くが、少年だけがガタガタと体を震わせていた。
「や、やばいぞ。これは夜雀だ」
「夜雀?」
「そうだ。歌声で人間を夜目にして迷わし、襲って食べてしまう妖怪だ!」
 少年が自分の耳をふさぎ、歯をガチガチ鳴らしながら説明する。
「みんな耳をふさげ」
 言われてみんな慌てて耳をふさぐ。
「走るぞ!」
 突然走り出した少年を、待ってよと3人は慌てて追いかける。
 女の子は少年の背中を必死で追っていたが、次第に周りが暗くなり始めた。
 それは目のふちから黒い液体をかけられた様に、徐々に見える範囲が狭くなり、ついに女の子の目は何も見えなくなってしまった。
「な、何……、見えない……目が見えない。ねえ、助けて!」
 女の子の叫びも、耳をふさいで走っていた3人には聞こえなかった。
 やがて足音が消え、取り残された事がわかると、女の子は怖くなってその場にしゃがみこんでしまう。
「怖いよぉ……怖いよぉ……」
 見えなくなった目から涙がこぼれ、ついには声を上げて泣き出した。
 フクロウと虫の鳴き声。女の子の泣き声が森に響く。
 どれほど泣いていただろう。ふと気付くと、周りから音が消えていた。
 女の子は顔を上げてみる。やっぱり何も見えない、と辺りを見渡すと、チカリと光るものが見えた気がした。
 暗闇の恐怖から少しでも逃れたい一心で、見間違いでもいいと光った方向に歩き出した。
 足元はおろか、目の前すら塗りつぶされた様に真っ暗。でもこれは暗い景色を見ているんだと女の子は思った。
 自分の手足や体まで見えず、もしかして目玉以外無くなってしまったんじゃないかと疑ってしまう。しかし、足の裏から地面の感触を受け、足があるんだと安堵する。
 森の中を歩いているのだから木にぶつかってしまうのでは、と手を前に出して慎重に進んでいたが、不思議と一度も木に触れることなく、先ほど光った辺りに着いた。
 キョロキョロ見渡すと、今度はぼんやりと赤い光が見える。
「あっ……甘い、匂い……とウナギ?」
 いつの間にかほんのり甘い匂いが漂っていた。同時にウナギの蒲焼の匂いがかすかに香る。
 どこから出ているのかはわからなかったが、女の子はとりあえず唯一見える光の方へ歩く。
 光に近づくにつれ、甘い匂いと蒲焼の匂いも強くなり、あの光ってる所から漂っているんだと女の子は確信した。
 やがて赤い光が、赤い提灯の光とわかると、目の前に突如屋台が現れた。と同時に女の子の目が見えるようになり、黒々とした木々が連なる森の中にいる事がわかった。
「屋台……?」
 こんな所に屋台があるということに、女の子は目を白黒させる。
 屋台には親指大程の黒い塊がきれいに並べられている。なぜかその隣にはウナギの蒲焼も並べられていて、その上に『文々。新聞』と書かれた新聞紙がかけられていた。
 ウナギはすでに焼かれていて、食べる時にもう一度焼くのか、今はウナギを焼く所に火は付いていなかった。その横にお湯の入った鍋が火にかけられていて、鉄で出来た半球の入れ物がお湯の中に入れられていた。その半球の中にドロドロとした黒い液体が入っていて、それが強烈な甘い良い匂いを出していた。
 甘い匂いとウナギのおいしそうな匂いがアンバランスにかもし出されている。
「なんだろう、これ?」
 女の子が黒い塊をつまもうした瞬間。
「いらっしゃいませ!」
「ひゃぁ!」
 元気な少女の声が上から聞こえ、女の子はしりもちをついてしまった。
 自然と視線が上を向き、そこには背中から羽をはやした少女がにこやかに笑みを浮かべていた。
「やあ、これは小さなお客さんだね」
 少女がゆっくりと降りてきて、しりもちをついた女の子を覗き込む。
「あ、ああ、あ……」
 突然現れたどう見ても人間ではない少女に、女の子は少年の言葉を思い出す。
 すなわち、目の前の少女は夜雀で、人間を喰らう妖怪なんだと。
 ガタガタと震える女の子に対して、少女はにこやかな笑みを浮かべている。
「どうしたの?」
 少女が問いかけても、女の子はただ震えるだけだった。
 しばらく震える女の子を無言で見ていた少女は、少し離れると大きく息を吸い込んだ。
「ひぃっ!」
 何かされると思い頭を抱える女の子の耳に、先ほど森で聞こえた歌声が入ってきた。
 それはとてもきれいで、妖怪が出しているとは思えないほど心地よかった。女の子は聞き惚れ、じっと目つめていた。先ほどまでの恐怖心は抜け、歌っているのが妖怪だという事も忘れ、ただ歌に聞き入って目を輝かせる。
 少女が歌い終わると、女の子は無意識に拍手をしていた。
「落ち着いた?」
 女の子の拍手を誇らしげに受け、変わらない笑顔で話しかける。
「あ……う、うん」
「そう。よかった」
 少女が踊るようにクルリと回り、女の子に近付く。
「う、歌上手だね。私あんなにきれいな歌声聴いたの初めて。あ、そうだ、あなたの名前は何ていうの?」
 興奮気味の女の子はまくし立てるように話す。
「ありがとう。私の名前はミスティア・ローレライ。夜雀っていう妖怪よ」
「あ、あ、私の名前は……」
「あ~、いいわ。私あんまり覚えるの得意じゃないから」
 苦笑いを浮かべるミスティア。
「さて、挨拶もすんだし、改めていらっしゃい。こんな小さなお客さんは多分あなたが初めてよ」
 またまたくるりと回転し、軒先に笑顔で立つミスティア。
「この黒い物を売ってるの?」
 お客さんと言われ、女の子は屋台の黒い塊を見る。
「そう。いつもは隣にあるウナギを売ってるんだけどね。たまには違う物も売ってみようと思って」
 その笑顔は儲けようというよりも、売ることが楽しそうで、何だかままごとを思い出し、女の子もつられて笑顔になる。
「それで、これはチョコレートっていうお菓子で、この前……て言ってもいつだか忘れたけど、外から来た人間から教えてもらったの。このドロドロの奴を冷やして固めるんだ」
 ミスティアは黒い液体をかき混ぜる。
 外から来た、とは幻想郷の外という意味だが、女の子には何の事かさっぱりわからない。ただお菓子と聞いて、とたんにお腹の虫が鳴った。
「あっ、お金……持って無い……」
 シュンと下を向く女の子。
「お金無いの? じゃあ何でこんな所に」
「帰る途中で歌が聞こえて……。そしたら急に目が見えなくなって……」
 暗闇を思い出したのか、ますます元気を無くす。
「歌? ああ、そういえば気分が良くて歌ってた気がする」
 ミスティアは歌で人を狂わす。さっきは恐怖心という気持ちを狂わせて、女の子を落ち着かせた。
 気分が良くてと言っているが、ミスティアはどんな時でも歌っている。無自覚で人を迷わす困った妖怪だ。
「なるほど。じゃあ私が迷わせたんだね。ごめんごめん」
 あはははと悪びれも無く笑いながら、クルクルと踊るように回る。
「でもよかったね。気分がいいときの歌で」
「どういう意味?」
「え、だって私が人間を迷わす時は、食べるときだもん」
 変わらない笑顔でさらりと言う。
「えっ!」
 目の前にいる羽を生やした少女が妖怪である事を知らせるセリフに、女の子の心に再び恐怖心が芽生える。
「あ、大丈夫。今日はあんまり食べたい気分じゃないから」
 鼻歌を歌いながら、またクルクル回る。
 そもそもミスティアが里の人間を食べる事はまず無い。幻想郷のルールにより、そんな事をすれば博麗の巫女や怖い妖怪から酷い目にあわせられるからだ。イタズラ心で言うのだが、人間はそんな事情など知る由も無い。
 そんなイタズラ心を見抜いたわけではないが、歌いながら踊るミスティを見ていると女の子は無性に楽しくなってくる。それはミスティアがどんなときでも笑顔で楽しそうにしているからだ。
 能天気とも言えるが。
「じゃあチョコレートも買わないんなら、早く帰ったほうがいいよ。私以外の妖怪がお腹を空かせているかもね~」
 キシシと心で笑い、顔はぞっとするほどにこやかだ。
「どど、どうやって帰ればいいの? ここがどこかもわからないの」
「うーん……人間の里がどの辺りにあるのかなんて私も覚えてないしな~……あ、空から見てみればいいんだ!」
 唐突にひらめいた天才的な発案に、女の子もおーっと手を叩く。
「ミスティア頭良いね」
「えっ? えへへへへ……」
 照れ笑いを浮かべるミスティア。
「じゃあさっそく」
 そう言って、女の子を抱えて空へ浮かぶ。
「わっ!……あぁぁ……」
 急に足から地面感覚が消え驚きの声を上げる。そしてすぐに感嘆の声へと変わる。
 森は暗く何も見えないが、木々の上に出れば空一面の星空と明るい月。黒々と山の稜線が遠くに見え、それに続く森の一角が、明るく照らされていた。
「あれが人間の里かな?」
「うん。そうだよきっと」
 女の子が興奮する。
 じゃあ行こう、とミスティアが光に向かって進む。
「きれいだなぁ」
「夜の空もいいけど、昼間の空も気持ちが良いよ」
「へぇ~。見てみたいなぁ」
 2人が空の散歩を楽しんでいると、突然人間が上から降ってきた。
 空を飛んでいるのにさらに上から人が来て、女の子はとても驚く。
 どんな妖怪が来たのかと見ると、その顔は女の子はよく知っている顔で、ミスティアも何故か知っていた。
「ミスティア! 里の人間を襲うんじゃないと言っただろ」
 それは里で寺子屋を開いているワーハクタク、上白沢慧音だった。
「あら、慧音じゃない」
 ミスティアは、怒られているのに能天気に挨拶をする。
 挨拶を交わす2人に女の子は不思議な顔をする。
「慧音先生ミスティアの事知っているの?」
「ああ。この妖怪は人間を食べる悪い妖怪なんだぞ」
 慧音がミスティアを睨みながら答える。
「ち、違うの。ミスティアは私を食べようとしたんじゃなくて……」
「お前も、勝手に森の中に入って!」
 女の子がミスティアを庇おうとするが、皆まで言う前に慧音が女の子の腕を掴む。
「さ、帰るぞ」
 そう言って里の方へ飛ぶ。
「あっ、あ……」
 女の子がミスティアの顔を見ると、ミスティアはにっこり笑ってポンと何かを投げてきた。
「わわっ!」
 慌てて掴んで手の中を見ると、それはチョコレートだった。
「あ、ありがとうミスティア! あと、歌も。とっても楽しかったよ」
 小さくなっていくミスティアに、女の子は大きな声でお礼を言った。
 ミスティアも大きく手を振って応え、歌いだす。
 上から見てもなお暗く不気味な森に、楽しげな歌声が広がっていった。


 少年達は、女の子がついて来ていない事に気付くと、急いで慧音の家に行き事情を話した。慧音はすぐに森に向かい、以前からミスティアが屋台を開いている場所へと向かったのだった。
 無事に里へと帰った4人は、次の日に慧音から頭突きと1時間の説教を受け、さらに家に帰っても延々と説教を受けた。
 3人はもう森はこりごりだと思ったが、女の子はいつかまた森に行ってミスティアに会いに行こうと決めていた。
 その時はチョコレートのお礼にお団子でもを持っていき、ミスティアから歌を教えてもらって、そして今度は名前を覚えてもらおう、と口に広がるとろける様な甘さを感じながら思った。


おわり
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コメント



0.380簡易評価
6.70名前が無い程度の能力削除
話の流れは御伽噺のようですね。
王道な流れですが、読みやすく短く纏まっていて良かったです。
個人的に気になったのは、「突然人間が上から降ってきた」のに、その2行下で「どんな妖怪が来たのかと見ると」と書かれていることです。
まあ半人半獣だから間違ってはいないといえばそうですが、ここは整合性を持たせたほうが良いかと思います。