紅魔館は今日も霧。透明で不透明な乳色が絹の褥の様に、屋根を庭をくるみこむ。
霧の晴れぬ湖の中にぽかりと建つ、鬼の巣。相和して太極をなす陰陽両気のうち、陰の気ばかりがたゆたって居る。最近に成って少しばかり掻き乱されたが、早や元に復し、穏やかな静寂を囁いて居る。
美鈴も又た紅魔館の玄関に泰然と佇み、静寂を聞いて居た。此処に立つ様に成ってもうどの位が経ったのかは、当人にもどうでも良く成って居る。確かなのは、此の一幅の画の中に、完全に溶け込めるまでに成って居る事だ。快い調和。
理論上、こう陰気ばかりでは心身に良く無い筈なのだが、そんな様子は更々無い。或は美鈴自身、すでに両極を必要とし無い、陰気ばかりのモノに化して仕舞ったのかも知れ無い。此の館の主の様に。
其う言えば、と美鈴は、霧の褥を銀幕にして、此の間の不意の客を思い返した。彼女等が持ち込んだ久方振りの陽気は、質の良い花椒の様に美味だった。お嬢様方にも楽しんでいただけた様で、良かったと思う。
しかし其の所為で、陰気が少しばかり、外に流れ出す様に成って仕舞った。外遊びを覚えたお嬢様が其の流路を、獣道を踏み固める様にして確かなものにしつつ在る。一応、咲夜に進言してはみた。答えは予想通り、「なんとかなさい」の一言。
「申し」
彼方の霧の奥から声が降って来た。物思いから返り、振り仰ぐ。
「誰何」
「こんにちは。八雲運輸からお届け物です」
又た紫が、式鬼で妙な遊びを始めたらしい。
「出でませい」
「応」
降りて来たのはすきま妖怪の壱の式鬼、藍。優雅に掲げた蓮の葉の傘に艶やかな金毛の九尾は収まらず、しかし霧に濡らして気にする様子も無い。二人して、立礼を交わす。
「何を興がっておられるやら、未だに時折判らぬ」
気不味い様子で眉を顰めて見せる藍に、美鈴は同情の苦笑を返した。
「其のお帽子も?」
「嗚呼」
箱を担いだ仔熊の絵柄に、なんとか宅配便云々。収まり悪げに帽子を直し、藍は短く溜息をついて気分を入れ替えた。
「さて、用事を済ませて仕舞おう。望みの物が手に入ったのでな。早速届けに参上した」
「伏して謝します。毎度野暮用をお頼み申し上げお手を煩わせて仕舞い……」
美鈴が掌拳を合わせた腕の中に納まるほど頭を下げるのを、藍は鷹揚に留めて。
「気にするな。紫様は楽しんでおられた故」
主から借りたと思しき隙間を何処やらともなく引っ張り出すと、縦に裂き横に広げる。中は徒に覗かぬが身の為。
「そちらをもう少し広げて呉れ」
「大物ですね」
「うむ。出すぞ」
右手に結んだ刀印を鮮やかに五度六度と翻し、最後は湖のヌシでも釣り上げる様に大きく振り薙ぐ。
するや否や、隙間から大きな長い鉄の箱がずるりずるりと現れた。大きさは小屋二つ三つにも成ろうか。全体に真っ赤だが、かなり使い込まれた風情。広い窓を多く備え、前後に車に成った脚が付いて居る。
「此れは……あぁ、火車ですか」
「然り。此れが当世風だ。尤も、古びて捨てらるるのを拝借した故、いささか時代遅れでは在ろう」
「……外は様変わりした様ですね」
「其うよな。行く川の流れと雖も、泡沫浮かぶ淀みなぞもう幾らも在るまい。滝の様だよ、何処も」
「其うですか」
其の間に、美鈴は凡その所の検分を済ませて居た。
「存外鉄が少ないですね」
「嗚呼。其れでも、此れが一番多い様でな」
「金気は金気、で通じる……かな?」
片手でほとんど音も立てずに横様に転がし、冷やりとした腹蔵に触れて経穴を詳しく見定める。
「……っと、気が利かずに。お茶でもお召しに」
「構わぬよ。では、そいつは置いてゆくぞ」
「は、かたじけなく。今日もお忙しく?」
「嗚呼。まったく」
其の嬉しげな苦笑の意味は、美鈴も吾が事として良く知る所のものだ。だから美鈴は、一礼して藍を送り出す。
「其れでは。お構いも出来ず失礼を致しましたが、お運びに預かりまして」
「うむ。ではな」
藍は隙間に消え、霧の中に美鈴と鉄の箱が残された。早速仕事に取り掛かる。
腹から気を一巡りさすると、霧は直接美鈴にまといつくのを止めた。身体に触れる寸前に弾け飛ぶ。
デコピン一発で済ませられ其うで在ったが、修錬の積もりで手を抜かぬ事にする。一投足で玉砂利の上に足場を構え、流水の如く途切れぬ動きで一呼気、掌底。一滴の気が現世幽世を貫いてつぶらな波紋を広げ。
ばらり、がらり。
鉄の箱は原型を留めつつも、部品部品の結びを解かれ、鉄屑の山と化した。粉々に割れた硝子が、霧滴に混じって幽かな煌めきを残す。
「わん!」
「あ、有難う御座います。咲夜さん」
背後の声に其う返し、返した後で違和感を思ゆる。
今の、確信に満ちた説得力の有る気配は、確かに、お嬢様方の身辺をお世話して居る侍女、咲夜の物のはずだ。事に臨んで動ずる事無く、吾が勤めと見定めた事を迷い無く貫く、其んな圧力。そして、美鈴の仕事に満足した時に独特のトーン。
「えーと……?」
振り向けば、仔犬。
其の仔犬はやけに凛々しかった。霧に濡れて灰色にしょぼ暮れては居たが、美鈴を迷い無く真っ直ぐに見詰めて居る。
其の様はやけに、初めて会った時の咲夜を思い起こさせた。歩いた傍から踏み板の落ちてゆく橋を渡って来た様な、此れからも渡って行く覚悟を決めた様な、其の眼差し。
はたと気付く。此の仔犬、確かに帰りの橋は無い。何んと成れば、此処は紅魔館だからだ。湖の中の一軒屋と向うの岸を渡す橋も舟も在りはし無い。
思わず歩み寄って目線を合わすれば、尾を一つぽたりと打って、
「わん!」
何がしたいのかは良く判ら無いが、気迫は充分に伝わってきた。此処が自分の居場所なのだと。
思わず手を差し伸べて、胸に抱き取って居た。ずぶ濡れに染みたが、沁みたのは其れだけでは無い。其れは、産まれて間も無い命の灯。小さな生き物に特有の、早鐘を打つ様な鼓動に伴って響いてくる、輝き溢れる陽の気と、静かに煌めく陰の気。
其れを此の肌に感じて居たのは、どの位前だったろうか。美鈴は自分の中に其れを探そうとして、怖くなって止めた。ただ仔犬の鼓動に、全身で耳を傾けて居た。
* *
「美鈴!」
其の声に射抜かれれば、嫌でも目が覚める。自分なら多分、死んだ後でも飛び起きるだろうと思う。
玄関からだ。其う言えば、仔犬に負けた所為で鉄屑の山が放りっ放しだ。
「只今!」
と、言うが早いか飛び出す所だが、今日はこっそり裏切った。止って仕舞って居た針を二目動かし始末して、其れから馳せ参ずる。仔犬はその背を、ぬくぬくの古布の山の中から見送った。
……そして、美鈴の夜なべの成果に、たしたしと歩み寄った。
「此の無粋な代物について説明なさい」
「えー、先ずは作業が長引いた点について」
「其処では有りません」
「は。先立って申し上げた気の崩れを治すための道具でして」
咲夜の眉が瀟洒な弧を描いて片側だけ釣り上がる。美鈴は密かに、此れを咲夜十景の一つに数えて楽しみにして居るのだが、一つ間違うとナイフが飛んで来る。拝む為のリスクは高い。
説明を終えると、咲夜は遠慮無しに溜息をついた。
「では此れは、後は片付けるだけなのね? 貴女なら直ぐでしょうに、何故、拠りに拠って玄関先に放ってなど」
「あー。其れはですね」
「わん!」
二人とも、少々ぎょっとして視線を足元に落とした。美鈴は勿論、此れから外堀を丁寧に埋めて説き伏せるまで隠して置きたかった、当犬がいきなり出て来て仕舞ったから。咲夜の方は、何と言うか、不意に鏡を突きつけられた様な気分に襲われたから。
「此れは如何言う事かしら」
「はい。恐らくは何を思ってか泳いで来たものと思われ、放って置け無かったのです」
「如何言う、事かしら」
「ご覧いただいて居る通り、中々凛々しく賢げな仔犬では在るのですが、やはり寒かろうと思え忍びなく」
「……直接指摘し無ければ成らないのね?」
「餌を出せば可哀相になる位、端からがつがつと」
咲夜は仔犬と一瞬視線を交わし、おもむろに襟首を掴み上げると美鈴の顔に仔犬を貼り付けた。
「他人の空似は問うても詮無いでしょう。しかし、此の犬が
私そっくりのメイド服
まで着て居るのは、如何言う事かしら」
「余りに寒そうだったのでつい」
銀光七閃。一瞬の後、良く研ぎ澄まされたナイフが美鈴の左手に三つ、右手に四つ。
「他意は無いと?」
「えぇ勿論」
美鈴は目を逸らし勝ちだったが、器用に向きを変えて美鈴の肩に乗っかった仔犬は、つぶらな瞳を真っ直ぐ咲夜に向けて居た。
「……まぁ良いでしょう。お嬢様と私を煩わせなければ」
「やったー! 有難う御座います。咲夜さん!」
「わん!」
「良かったねぇ、さくやわん」
銀光十一閃。左手四つ、右手四つ、口に銜えて一つ。
残り二つは、さくやわんのお手柄で有った。
* *
其れから直ぐ、鉄屑は湖の中に盛大にバラ撒かれた。
陰陽五行に於いては、金生水と言う。又た古伝には、雨を乞うには竜神の嫌う金物を、竜神の棲まう淵に投げて怒らせろと言う。
どちらが効いたのかは定かで無いが、湖は四日ほど雨に包まれた。
美鈴は退屈したお嬢様から少々ハードな試練を課せられたものの、目減りした陰気は充分に補充されたので有った。
どっとはらい。
霧の晴れぬ湖の中にぽかりと建つ、鬼の巣。相和して太極をなす陰陽両気のうち、陰の気ばかりがたゆたって居る。最近に成って少しばかり掻き乱されたが、早や元に復し、穏やかな静寂を囁いて居る。
美鈴も又た紅魔館の玄関に泰然と佇み、静寂を聞いて居た。此処に立つ様に成ってもうどの位が経ったのかは、当人にもどうでも良く成って居る。確かなのは、此の一幅の画の中に、完全に溶け込めるまでに成って居る事だ。快い調和。
理論上、こう陰気ばかりでは心身に良く無い筈なのだが、そんな様子は更々無い。或は美鈴自身、すでに両極を必要とし無い、陰気ばかりのモノに化して仕舞ったのかも知れ無い。此の館の主の様に。
其う言えば、と美鈴は、霧の褥を銀幕にして、此の間の不意の客を思い返した。彼女等が持ち込んだ久方振りの陽気は、質の良い花椒の様に美味だった。お嬢様方にも楽しんでいただけた様で、良かったと思う。
しかし其の所為で、陰気が少しばかり、外に流れ出す様に成って仕舞った。外遊びを覚えたお嬢様が其の流路を、獣道を踏み固める様にして確かなものにしつつ在る。一応、咲夜に進言してはみた。答えは予想通り、「なんとかなさい」の一言。
「申し」
彼方の霧の奥から声が降って来た。物思いから返り、振り仰ぐ。
「誰何」
「こんにちは。八雲運輸からお届け物です」
又た紫が、式鬼で妙な遊びを始めたらしい。
「出でませい」
「応」
降りて来たのはすきま妖怪の壱の式鬼、藍。優雅に掲げた蓮の葉の傘に艶やかな金毛の九尾は収まらず、しかし霧に濡らして気にする様子も無い。二人して、立礼を交わす。
「何を興がっておられるやら、未だに時折判らぬ」
気不味い様子で眉を顰めて見せる藍に、美鈴は同情の苦笑を返した。
「其のお帽子も?」
「嗚呼」
箱を担いだ仔熊の絵柄に、なんとか宅配便云々。収まり悪げに帽子を直し、藍は短く溜息をついて気分を入れ替えた。
「さて、用事を済ませて仕舞おう。望みの物が手に入ったのでな。早速届けに参上した」
「伏して謝します。毎度野暮用をお頼み申し上げお手を煩わせて仕舞い……」
美鈴が掌拳を合わせた腕の中に納まるほど頭を下げるのを、藍は鷹揚に留めて。
「気にするな。紫様は楽しんでおられた故」
主から借りたと思しき隙間を何処やらともなく引っ張り出すと、縦に裂き横に広げる。中は徒に覗かぬが身の為。
「そちらをもう少し広げて呉れ」
「大物ですね」
「うむ。出すぞ」
右手に結んだ刀印を鮮やかに五度六度と翻し、最後は湖のヌシでも釣り上げる様に大きく振り薙ぐ。
するや否や、隙間から大きな長い鉄の箱がずるりずるりと現れた。大きさは小屋二つ三つにも成ろうか。全体に真っ赤だが、かなり使い込まれた風情。広い窓を多く備え、前後に車に成った脚が付いて居る。
「此れは……あぁ、火車ですか」
「然り。此れが当世風だ。尤も、古びて捨てらるるのを拝借した故、いささか時代遅れでは在ろう」
「……外は様変わりした様ですね」
「其うよな。行く川の流れと雖も、泡沫浮かぶ淀みなぞもう幾らも在るまい。滝の様だよ、何処も」
「其うですか」
其の間に、美鈴は凡その所の検分を済ませて居た。
「存外鉄が少ないですね」
「嗚呼。其れでも、此れが一番多い様でな」
「金気は金気、で通じる……かな?」
片手でほとんど音も立てずに横様に転がし、冷やりとした腹蔵に触れて経穴を詳しく見定める。
「……っと、気が利かずに。お茶でもお召しに」
「構わぬよ。では、そいつは置いてゆくぞ」
「は、かたじけなく。今日もお忙しく?」
「嗚呼。まったく」
其の嬉しげな苦笑の意味は、美鈴も吾が事として良く知る所のものだ。だから美鈴は、一礼して藍を送り出す。
「其れでは。お構いも出来ず失礼を致しましたが、お運びに預かりまして」
「うむ。ではな」
藍は隙間に消え、霧の中に美鈴と鉄の箱が残された。早速仕事に取り掛かる。
腹から気を一巡りさすると、霧は直接美鈴にまといつくのを止めた。身体に触れる寸前に弾け飛ぶ。
デコピン一発で済ませられ其うで在ったが、修錬の積もりで手を抜かぬ事にする。一投足で玉砂利の上に足場を構え、流水の如く途切れぬ動きで一呼気、掌底。一滴の気が現世幽世を貫いてつぶらな波紋を広げ。
ばらり、がらり。
鉄の箱は原型を留めつつも、部品部品の結びを解かれ、鉄屑の山と化した。粉々に割れた硝子が、霧滴に混じって幽かな煌めきを残す。
「わん!」
「あ、有難う御座います。咲夜さん」
背後の声に其う返し、返した後で違和感を思ゆる。
今の、確信に満ちた説得力の有る気配は、確かに、お嬢様方の身辺をお世話して居る侍女、咲夜の物のはずだ。事に臨んで動ずる事無く、吾が勤めと見定めた事を迷い無く貫く、其んな圧力。そして、美鈴の仕事に満足した時に独特のトーン。
「えーと……?」
振り向けば、仔犬。
其の仔犬はやけに凛々しかった。霧に濡れて灰色にしょぼ暮れては居たが、美鈴を迷い無く真っ直ぐに見詰めて居る。
其の様はやけに、初めて会った時の咲夜を思い起こさせた。歩いた傍から踏み板の落ちてゆく橋を渡って来た様な、此れからも渡って行く覚悟を決めた様な、其の眼差し。
はたと気付く。此の仔犬、確かに帰りの橋は無い。何んと成れば、此処は紅魔館だからだ。湖の中の一軒屋と向うの岸を渡す橋も舟も在りはし無い。
思わず歩み寄って目線を合わすれば、尾を一つぽたりと打って、
「わん!」
何がしたいのかは良く判ら無いが、気迫は充分に伝わってきた。此処が自分の居場所なのだと。
思わず手を差し伸べて、胸に抱き取って居た。ずぶ濡れに染みたが、沁みたのは其れだけでは無い。其れは、産まれて間も無い命の灯。小さな生き物に特有の、早鐘を打つ様な鼓動に伴って響いてくる、輝き溢れる陽の気と、静かに煌めく陰の気。
其れを此の肌に感じて居たのは、どの位前だったろうか。美鈴は自分の中に其れを探そうとして、怖くなって止めた。ただ仔犬の鼓動に、全身で耳を傾けて居た。
* *
「美鈴!」
其の声に射抜かれれば、嫌でも目が覚める。自分なら多分、死んだ後でも飛び起きるだろうと思う。
玄関からだ。其う言えば、仔犬に負けた所為で鉄屑の山が放りっ放しだ。
「只今!」
と、言うが早いか飛び出す所だが、今日はこっそり裏切った。止って仕舞って居た針を二目動かし始末して、其れから馳せ参ずる。仔犬はその背を、ぬくぬくの古布の山の中から見送った。
……そして、美鈴の夜なべの成果に、たしたしと歩み寄った。
「此の無粋な代物について説明なさい」
「えー、先ずは作業が長引いた点について」
「其処では有りません」
「は。先立って申し上げた気の崩れを治すための道具でして」
咲夜の眉が瀟洒な弧を描いて片側だけ釣り上がる。美鈴は密かに、此れを咲夜十景の一つに数えて楽しみにして居るのだが、一つ間違うとナイフが飛んで来る。拝む為のリスクは高い。
説明を終えると、咲夜は遠慮無しに溜息をついた。
「では此れは、後は片付けるだけなのね? 貴女なら直ぐでしょうに、何故、拠りに拠って玄関先に放ってなど」
「あー。其れはですね」
「わん!」
二人とも、少々ぎょっとして視線を足元に落とした。美鈴は勿論、此れから外堀を丁寧に埋めて説き伏せるまで隠して置きたかった、当犬がいきなり出て来て仕舞ったから。咲夜の方は、何と言うか、不意に鏡を突きつけられた様な気分に襲われたから。
「此れは如何言う事かしら」
「はい。恐らくは何を思ってか泳いで来たものと思われ、放って置け無かったのです」
「如何言う、事かしら」
「ご覧いただいて居る通り、中々凛々しく賢げな仔犬では在るのですが、やはり寒かろうと思え忍びなく」
「……直接指摘し無ければ成らないのね?」
「餌を出せば可哀相になる位、端からがつがつと」
咲夜は仔犬と一瞬視線を交わし、おもむろに襟首を掴み上げると美鈴の顔に仔犬を貼り付けた。
「他人の空似は問うても詮無いでしょう。しかし、此の犬が
私そっくりのメイド服
まで着て居るのは、如何言う事かしら」
「余りに寒そうだったのでつい」
銀光七閃。一瞬の後、良く研ぎ澄まされたナイフが美鈴の左手に三つ、右手に四つ。
「他意は無いと?」
「えぇ勿論」
美鈴は目を逸らし勝ちだったが、器用に向きを変えて美鈴の肩に乗っかった仔犬は、つぶらな瞳を真っ直ぐ咲夜に向けて居た。
「……まぁ良いでしょう。お嬢様と私を煩わせなければ」
「やったー! 有難う御座います。咲夜さん!」
「わん!」
「良かったねぇ、さくやわん」
銀光十一閃。左手四つ、右手四つ、口に銜えて一つ。
残り二つは、さくやわんのお手柄で有った。
* *
其れから直ぐ、鉄屑は湖の中に盛大にバラ撒かれた。
陰陽五行に於いては、金生水と言う。又た古伝には、雨を乞うには竜神の嫌う金物を、竜神の棲まう淵に投げて怒らせろと言う。
どちらが効いたのかは定かで無いが、湖は四日ほど雨に包まれた。
美鈴は退屈したお嬢様から少々ハードな試練を課せられたものの、目減りした陰気は充分に補充されたので有った。
どっとはらい。
俺の家にもさくやわん来てくれー!!
ああ、でもこれいいなぁ。古くて硬くて重い文体でありながら、ほんのりとした内容。そのギャップ狙いなんでしょうけど、そのクオリティが高すぎるw
宜しければ、これからも色々書いて欲しいです。
首を長くして、お待ちしておりますw
欲を言えば最後に軽くもう一押し欲しかった気もしますが、
このくらいだからいいのかなぁ。このくらいだからいいんだろうなぁ。
なでくりまわしてぇ
後、おおかみいぬ氏謹製挿(咲夜さんvsさくやわん)
ああ、これはいい絵だ
さくやわんが紅魔館で飼われることが決まるまで、のお話なんですね。
あ~さくやわんの居る日常の話も読みたいよ。
学校で古文漢文古典を習ったろ。これで読みにくいとかわけわからん。
そして気の話とか火車とかいい感じ。さくやわん=咲夜さんだと思ってたから、
別人(別犬)だとわかってちょっと衝撃。
あくまで「僕自身は」、ですが、「"好き嫌い"はOK、"善悪"や"正邪"は取扱注意」という基準を立てています。
「これで読みにくいとか……」というくだりは、「読みづらい」という"好き嫌い"を、"悪"である、"邪"である、と判定する行為である、と感じられました。
自身の好き嫌いを単純に主張することは、基本的には、自分の立場を相手に教え、自分の立場を守ること、棲み分けのための交渉を始めることだと、僕は考えています。それに対して正邪を断ずることとは、自分の立場を拡大し異なる立場を排除することに、容易に繋がり得ると思います。
創想話のような、不特定多数の参加者を受け入れることを前提とした場所では、"好き嫌い"の相違は前提とみる必要があると思います。"正邪"を整理し、人をふるいわけることには、充分慎重であるべきだ、と思います。
もちろん、"好き嫌い"を主張するにしても、書き方次第でいくらでも、相手を排除しようとする力を込めることができます。それもまた、注意して身を慎まねばならない点ではありましょう。
文章に対する評価が、正邪を断じ「お前は間違っている。もう書くな」というのと「あまり自分には合わなかった」というのでは、大変な差がある、と考えています。今回いただいた物は後者であり、表現も充分に穏当だと思います。一意見としてお預かりすることに抵抗はありませんし、ダメージもないのです。そしてこの場所においては、なんら罰せられるよう意見でもないはずのもの、なのだと思っています。
またやや形式ではありますが、「コメントに対するコメントは禁止」というルールをお守りいただけるよう、僕からもお願いいたします。このルールは、サイトのスタンスを保つ上で充分有用であると思います。
以上、長文失礼いたしました。
ここに書かれている言葉遣いが読みにくいと言う感想を良いものと受け止め、なおかつ学校の古典授業的な文章とこの文章では言葉遣いは明らかに違うというのに、同じと勘違いして他者を非難する人を諫めている。
この感想は消されてもいいので、作者様に賞賛の言葉を。
と、思ったり。
独特の雰囲気(言い回し?)がいい感じでした。
ナイフ二本止めるさくやわん凄いなw
それから火車は内燃機関で走る列車とは勉強させていただきました。
自分は読み方は全然問題無かったです。
この書き方は中国の歴史小説にイメージは近いのかな?
しかしこの様な文体を使いこなせるとは、凄い限りです。