Coolier - 新生・東方創想話

抱擁毒は愛と苦痛とウサギを回す <最終波長>

2007/09/07 07:51:44
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「う・・・うーん・・・」


ぱちくりと目を開く


「あらま、ようやくお目覚め?」

「・・・幽々子様・・・」


もぐもぐとだんごを頬張りながらこちらをみている自分の主人

布団の上で寝ている自分

妖夢は先ほどまでのことを思い出そうとする


「全く、あなたが気絶しちゃうから空腹をどうやって解消しようか大変だったわ」


みれば彼女の脇には大量のたんごの皿が見える

ああ、そうだ。確か幽々子様のものすごい圧迫抱擁で気絶して・・・


ズザザザッ


そこまで思い出して妖夢は幽々子様から思いっきり距離を取る


「あはーもう大丈夫よ、抱きついたりしないわ」


にこにこと幽々子はいつもの口調で妖夢を招く

その雰囲気に少し緊張が解け、おそ~るおそる近づいていく


「なんちゃってがおー!」

「うわああああああああ!!」

「冗談よ、冗談~♪」


またしても羽交い絞めにされかけ、心臓が飛び出る思いをする


「うー・・・」

「わぁ、なにも泣かなくても」


半泣きになった妖夢に流石にやりすぎたと感じ、幽々子は頭を軽くなでてやる


「怖くないよー怖くないー」

「もう幽々子様知りません・・・」

「あーん、そんなこといわないでー」


袖先でちょちょっと涙を拭いてやり、言葉を続ける


「さっきのアレは多分誰かさんがまた面白半分で考えたいたずらの影響よ」

「・・・?意味がよくわからないのですが・・・」

「まぁ、心配しなくてももうすぐ今回の事件は解決するってこと」

「はぁ・・・」


きょとんとした妖夢を尻目に、またぱくりとだんごを頬張る


「さ、妖夢。事件が解決するまでは私の空腹を満たすことを最前線に考えないとまた襲っちゃうわよ♪」

「えぇぇ~・・・」

「わかったらご飯の仕度よろしくね~」

「まだ食べるんですか・・・」


結局妖夢が苦労することに変わりはなかったりするのだった












「はぁ・・・はぁ・・・」

「あら、もうおしまい?思ったよりあっけなかったわぁ」


ボロボロのうどんげと、まだまだ余裕が見える紫

実力の差は歴然だった


「私の幻視がほとんど通用しないなんて・・・」

「あなたの術はパターンを組みやすい物が多すぎるわ。精進なさい」


クスクスと紫は笑う

そしてまた一枚スペルカードを取り出す


「そろそろ決着をつけさせてもらおうかしら」


スペルカード『結界「生と死の境界」』が怪しく光り、術が始まる

恐ろしい量の弾が壁のように飛んでくる

もはや避ける気力もないうどんげはその赤い目を瞑り、覚悟を決めた

が、その閉じたまぶたの上から七色の輝きが透けて見えてきた


「夢想、封印っ!」


突如、凛々しい声と激しい爆音


「・・・え」


目を開けるとそこには弾幕はなく、代わりに巫女の背中が見えた


「あ、あなた・・・」

「ふぅ、なぁんとか間に合った」


巫女の肩からなにかがぴょこんと出てきた


「やっほー、うどんげ助けにきたよ!ボロボロにやられちゃってまぁ」

「て、てゐ!?」


あれほどついてくるなと行っておいたはずのてゐだった


「な、なんできたのよ!危ないじゃない!」

「なにいってんの、うどんげ一人じゃ頼りなさすぎ」


うぐぅ、と言葉に詰まるうどんげ。確かに今の自分では説得力がない


「あらあら、いきなり勢ぞろい?」


ちょっとびっくりしていた紫も、状況を把握してまた余裕の態度を取り始める


「やーっぱあんただったのね紫、あまりにドンピシャでむしろ清清しいわ」


びしっとお払い棒を突きつける


「でもここに来るまでは散々道に迷って大変だったけどね」

「言うんじゃないの!!」


ぺしーっ!とてゐの頭を叩く


「まぁ、いずれは来ると思ってたわ霊夢。ようこそ~歓迎するわよ」

「残念だけど、とっとと済ませて私はお茶を飲みに帰るわ」

「そうつれないこといわずに♪お茶も出すわ」

「あんたの出すお茶なんて死んでも飲むか」


すっかり紫の対象が霊夢に変わり、うどんげはしばし呆けてしまう

が、目的であった装置の破壊を思い出し、ボロボロの体を立ち上がらせる


「うどんげ、まだ動かないほうがいいって」

「ここまで来て引き下がれないわ。あんな馬鹿げた装置壊さないと」


ぴくっと霊夢が反応する


「装置?あそこにあるよくわからない形のあれのこと?」

「んふふ、そうよ~これが私が作った『幸せ波動発生器』♪」

「うわ・・・何その胡散臭さが詰まってそうな名前・・・」


てゐが心底呆れた表情で突っ込む


「失礼ねぇ、これを使えばみんな抱き合い、平和平和~なのよ」

「ちっとも平和じゃないわよ・・・っていうか余計に殺伐としたわ!」


霊夢が切れ気味に怒鳴る


「慣れるまでの辛抱よ~。そ・れ・に」


チッチッチと紫は指を振る


「コレを使えば、神社復興なんて楽に出来るくらいお金も儲かるわよ~」

「「!!」」


霊夢とてゐが過剰に反応する


「なんせ欲望を消す効果を持ってるのよ~、どんながめつい奴でもいちころで金を出させられるわ」


二人の表情がみるみる輝いていく

が、その瞬間


―――― ピピキィーッン ――――


「ああ!」

「し、しまった・・・!」


金銭欲に眩んだ二人はものの見事に抱擁波動に引っかかってしまった


「ちょ、ちょっと!てゐ、霊夢!?」


突然ガッチリと抱き合ってしまった二人にうどんげは唖然とする


「ふふ・・・あははは、ちょろいもんねぇ」


紫が最高に楽しそうな顔を浮かべる


「やっぱ、私がやらなきゃならないわね・・・」


よろよろと立ち上がるうどんげ


「無駄よ」


突如として周りに大量の弾が現れる


「奥義『弾幕結界』」


四方八方を完全に取り囲まれた


「可愛そうだけど逃げ道のパターンは組んでいないわ、まとめてそろそろ終わりにしてあげる」


さらりと非情な一言が告げられる

だがうどんげの視線は全く揺らいではいない


「最初から避けようとなんて思ってない」


右手で鉄砲の形を構え、紫に向けてパワーを貯める


「あら勇ましい、一撃で私を落とそうというのね。だけど」


紫の右手が上がる


「それは無数の弾幕にかき消されておしまいよ!」


勢いよく手が下げられる

同時に周りを取り囲む弾幕がうどんげ達に襲い掛かる


「はぁああああああ!!」


ドォオオッンという破裂音と共に、うどんげの残された全力パワーの一撃が放たれる

それは無数の弾の壁を貫き、一直線に目標へと飛んでいく


「ほう・・・悪あがきにしては上出来ね。でも」


紫の周りにさらに結界が現れる


「もはや威力のなくなった弾にこの結界は越えられないわ」


余裕の完全勝利を確信する


「残念だけどその弾は・・・あなたに向けたものじゃない!」

「・・・え」


突如として視界から弾丸が消える

実はこの弾も幻視だったのである


「本物は・・・そっちよ!」

「なっ!?」


うどんげが指差す方角は装置のあった場所のはず

紫が気づいたときにはすでに遅かった


ズドォオオオオ・・・ン


うどんげの渾身の一発が見事なまでに装置を貫いていた


「なんてことを!」


紫が慌てる


「や、やりましたよ・・・師匠・・・・」


力が抜ける

しかしいまだ弾幕結界がうどんげ達めがけて飛んできている。絶体絶命だ

だがその時、


「封魔陣っ!」


足元が光り輝き、飛んできた弾を全て無効化させる結界が現れる


「よくやったわ、うどんげ!」

「・・・あなた、本当おいしいとこ持ってくわね」


ようやく波動の支配から解放された霊夢とてゐだった


「やーやるときゃやるねぇ、うどんげも~」

「あんたは何しにきたのよ・・・」


たははーとてゐが笑う


「さーこれで形勢逆転ね、紫」


ふふん、と霊夢は鼻を鳴らす


「あなた達、とんでもないことしてくれたわ・・・」

「とんでもないことやってたのはあんたでしょ」


そんな突っ込みにも紫は反応しない


「あの装置は特殊なスキマを制御するために作ったものだったのよ、このままじゃ・・・」


そう言った次の瞬間、爆音が轟く

そして部屋の空気の流れが突如装置のほうへと向かう

あの装置が吸い込んでいるのだ。それもものすごい勢いで


「な、なにこれ!」

「す、吸い込まれる!!」

「さっきの衝撃でスキマが暴走してる!あなた達伏せなさい!」


ブラックホール化したスキマに次々と部屋のものが飛び込んでいく


「う、うわっ」

「うどんげ!?」


さっきの戦闘で力を使い果たしたうどんげが踏ん張れず徐々に吸い込まれてゆく


「あ、あ、ああ・・・!」

「つかまって!!」


てゐが腕を伸ばす


「も、もうちょい・・・」


指と指が触れる


しかしさらにスキマの吸引が強くなる


「きゃあああああ!!」

「う、うどんげ!うどんげぇっ!!」

「てぇぇえええええゐ!!」


そのまま暴走するスキマへとうどんげは飲み込まれてしまう


「うどんげ!うどんげがっ!!」


パニックになったてゐがスキマに飛び込もうとする

寸前で霊夢が腕を掴んで食い止める


「待ちなさい!あんたまで一緒に飛び込んでどうするの!!」

「でもっ!でも・・・!!」


そうこうしてるうちに次第にスキマが塞がっていく


「あ・・・あああ・・・」


そしてついには消滅してしまった

力が抜けて、てゐはその場にぺたりと座り込む


「・・・収まったようね」

「ええ・・・」


霊夢が紫のほうを見る


「紫、うどんげをスキマから戻せる?」

「あのスキマ空間は私でも扱うのが難しい場所なの。私だけでは・・・無理だわ」


それを聞いていたてゐの表情がみるみる青ざめる


「助けられないってことなの・・・?」

「いいえ、可能性はあるわ」


いつになく紫は真剣な表情で語る


「ただ急がないと手遅れになる。あの空間は生物が長時間いられる空間じゃないから」

「わかったわ。私が協力すればいいのね?」

「あなただけでもダメ。もう一人協力者がいるわ」


二人の視線がてゐに向かう


「・・・私が手伝えば、うどんげは助けられるの?」

「ええ、難しいけどね」

「なんでもいい、助けられるなら!」


がばっと立ち上がるてゐ

その強い意志に霊夢は少し驚かされる


「なんだかんだ言っても仲いいのね、あんた達」


霊夢が小さく微笑む


「違うわ、お師匠様に頼まれてるから仕方なくよ!それに・・・」

「それに?」

「利用価値のある奴が減るのは困るわ!」

「上等っ!」




かくしてスキマ救出作戦が決行された











「よし、これで準備はいいわ」


てゐの体にはぐるぐるとロープが巻きつけられている

正確にはこれは霊夢が作り出した念糸である


「ああ、あまりこういう修行はしたことがなかったなぁ」

「ちょ、ちょちょ!途中で切れて私ら二人ともお陀仏は勘弁よっ!?」

「大丈夫よ、霊夢はやるときはやる子だから♪」


そういうと紫はついーっと空をなぞる

するとそこに黒い線のようなものが派生した


「この先がさっきのスキマ空間。今あのうさぎさんの気配を探して軸をあわせるわ」


そういって紫は目を瞑り、なにかを探るようにその黒い線に手をかざす


「この空間は力の消耗が激しいから長くは開けていられない。合図したらすぐに飛び込んで探してきて頂戴」


時間勝負よ、と少々脅しのように注意する

だがてゐは微塵も不安な顔はなく、こくりと頷く


「・・・見つけたわ、うさぎさん」


その言葉に緊張が走る


「じゃ開けるわ、中はかなりの磁場が効いてて方向感覚もなくなる。覚悟はいい?」


ごくっと喉を鳴らし、てゐが言う


「いつでも!」


紫が頷く


「開けるわ!」


ゴゴゴゴ・・・と重い鉄の扉のように空間が開く


「今!」


てゐが勢いよく中へ飛び込む

シュルシュルと伸びていく念糸が切れないように霊夢も全力で集中する

ひとまず潜入は成功である


「うどんげー!」


そのままてゐの姿はスキマの闇に消えていった





















ここは・・・どこだろう・・・



上下左右の概念も存在しない空間でうどんげは漂っていた

体には全く力が入らない

周りには先ほど吸い込んだ雑貨も浮いている

さながら自分も今はそれと変わらない存在のようである


確か・・・スキマの暴走に吸い込まれて・・・


てゐが悲痛な顔で必死に手を伸ばしているのが思いだす

あの子でもあんな顔するとは思わなかった


ああ・・・心配してるのかな今頃・・・


もはや体だけではなく頭も働かなくなってきていた


ただ装置を止めたかっただけなのに、なんでこんなことになっちゃったんだろう・・・


そう頭の中でぽつり呟く


『それはお前が裏切り者だからさ』


突然男とも女ともとれないような声が聞こえた

びくっとうどんげは辺りを見回す


「だ、だれ!?」


だが周りには誰もいない


『月のうさぎであるお前は仲間を見捨てて逃げた』

「!!」


突然話しかけてきたその声はいきなり自分のもっとも弱い過去を突いてきた


「どうしてそれを・・・」

『そしてお前は逃げた末にこうしてのうのうとこちらの世界で生き延びている』

「や、やめて!」


うどんげに話しかける声の正体

それはスキマ自体であった

もともと抱擁波動などという変わった現象が発生する空間

うどんげのように波長を感じれる人物には余計に様々な負荷が掛かるのだ


『今お前がこうしてここにいるのはその報いだ。見捨てられた仲間達の恨みだ』

「うあ、うああ!聞きたくない!!」


必死に耳を塞ぐが、波動として話しかけているものに効果はない


『お前はその償いとして、ここで一人朽ち果てていくのだ』


うどんげは目を見開く

それと同時に絶望が全身に圧し掛かかってくる




死ぬ


一人、こんな暗く、寂しく、なにもない場所で




考えただけで失神してしまいそうなほどの恐怖


「・・・そんなの・・・そんなのって・・・」

『それがお前の運命だ』


すぐに死ぬことはないだろうが、結局は時間の問題

むしろじわじわと弱り、朽ち果てていくというそれは一瞬の死の何倍も恐ろしかった


「・・・助けが・・・きっと助けが来るわよ!」


強気にスキマへ反論してみせるが、声がうわずってしまう


『ここはそう易々と助けが来れる場所ではない』

「それでも・・・!」

『裏切り者のお前は、今度は裏切られる運命だと言っているんだ』

「!!」


自分の中の何かが粉々に砕けた瞬間だった

確かにこんな危険で恐ろしく広い空間の中、自分を助けになど来るだろうか

自分が月から逃げ出した時のことがフラッシュバックする



怖かった・・・もうだめだと思った

死にたくなかった

仲間達は命を捨てて戦っていたが自分にはできなかった

だから逃げた、こちらの世界へと

幻想卿で暮らせるようになってからは一変した平和な日々に感動を覚えた

でもその時も、月の仲間達は何人も倒れていったのだろうと思う

だから今、自分にもその報いが来たのかもしれない

裏切りには裏切りという報いが・・・




でも・・・それでも・・・



「やだ・・・嫌だ・・・死にたくない・・・こんなとこで死にたくないよ・・・」



卑怯で醜い恥さらしといわれたとしても死ぬのは嫌だった

生きてさえいれば・・・そう思い、自分はこの生き方を選んだ

だからこんなところで死ななければならないのは耐えられなかった



頭に様々なイメージが次々浮かんで消える


私を拾ってくれた姫様

いつも温かな笑顔を振りまいてくれる師匠

言うことは聞かないけどかわいいウサギ達

そして口論が絶えないけど良きパートナー、てゐ


いつも他愛ない会話や仕草にみんなで一喜一憂した

多少の困難があってもみんながいたからつらくはなかった



自分はそんなみんなが大好きだ



あの賑やかな我が家に帰りたい、永遠亭に帰りたい

裏切り者である自分の身勝手とわかっていてもこの気持ちは抑えられそうにない

帰りたい、帰りたい、またみんなで一緒に暮らしたい

帰りたい帰りたい帰りたい・・・

こんなところで一人で死ぬのは嫌だ


「・・・・帰りたい・・・帰りたいよぉ・・・」


涙がポロポロと溢れて止まらなくなった





するとまた声が聞こえてきた


『唯一お前にも許されることがある』


スキマが話しかけてくるがもはやうどんげは返答する気力もない


『それは考えるのをやめることだ』


びくり、とした


辛くなるのは絶望という思いにかられるから

だから精神を殺す

つまり生きたまま死ねということ

それはとても酷な話である

しかしこの状況では確かにそれしか救いはなかった



しかし考えるのをやめることは、今までの全てを失ってしまうことに繋がる

月にいたころのことも、幻想卿に来てからのことも、全て・・・

そんなのは死ぬのと同じ、いやそれ以上に嫌だった

だが意思とは関係なくその赤い目はどんどんと生気を失っていく

すでに絶望によって心が限界だった









このまま私はずっとこの空間で一人ぼっち


助けを待っても誰も来ない


ああ・・・・ならもうどうでもいいかもしれない・・・


忘れてしまえば楽になるなら・・・それもいいかもしれない・・・


たとえみんな私がいなくなっても、きっとそんなに困ることもないだろう・・・


こんな卑怯者な私がいなくなっても・・・








そう自分をいいきかせる

だから、別れを告げることにした

今まで知り合った自分の仲間達に対しての別れ

月のみんな、幻想卿のみんな、姫様、師匠、ウサギ達・・・


「さよなら・・・みんな・・・さようなら・・・」


悲しみも度をすぎると涙も出てこなかった

そして最後に一番のパートナーだったあいつに別れを告げる


「いじわるばかりされたけど、楽しかったよ、てゐ・・・」




あんなにも口喧嘩ばかりでイライラさせられたのに


あんなにも面白半分でひどい目にあわされたのに


今はいい思い出しか浮かんでこない


あいつの笑顔しか浮かんでこない







でももう会えない








そして最後の「さよなら」を言おうとする






























だけど最後の別れの言葉を告げることはできなかった































なぜなら見てしまったから





























もう見れないと思っていたピンクの衣装に身を包んだうさ耳の少女を










































「うどんげーーーーーーーーーー!!」
















































自分を必死に探すてゐの姿を、見つけてしまったから・・・















「・・・て・・・てゐ・・・」


声が激しく震える

二度と流れないと思った涙が蛇口をひねったようにあふれ出てきた


「うどんげーーーーーーーー!助けにきたぞおおおおおお!!おぉっとと・・・」


てゐは少々危なっかしげにふらふらとこちらに飛んでくる





月から逃げたせいで、向こうの仲間達には常々本当に申し訳ないと思ってきた


だけどもこの幻想卿に来れたことに感謝したい


こんな素晴らしい仲間に恵まれたことに感謝したい


自分なんかのためにここまで体を張ってくれる友が出来たことに本当に感謝したい・・・





「・・・ここだよ・・・てゐ、ここ・・・ここにいるよっ・・・」


かすれて声がほとんど出なかった

涙でてゐがほとんど見えなかった


「探したぞこのやろーーーー!!」


けれどその細い二本の腕で包まれる感触はきっと生涯忘れない


「心配かけさせんなよなー全くっ・・・」


「うん・・・うん・・・ごめん・・・ごめんねっ・・・」


泣きながら、ぎゅうっとお互いの体を強く抱きしめあった






















ズゴゴゴ・・とスキマが閉じていく


「ふぅ・・・・ひとまず一件落着ね」

「はー久々の術は肩こったわぁ」


ごきごきと霊夢は肩を回す


「それにしても、折角の私の発明が台無しだわ~・・・」

「ゆ・か・り」

「ん?」


くいくいっと親指で横を指差す


「抱擁っていうのはね、ああいうものを言うのよ」


そこには心底嬉しそうにてゐを頬擦りしながら抱きしめるうどんげの姿があった


「ちょーおま、やーめろってー」

「いいじゃない、スキンシップよスキンシップ」

「いまさらになってスキンシップって・・・」


呆れ顔のてゐだったが、本当に嫌がってる感じではなかった

あまり見ることのないうどんげの晴れやかな顔に見てるこちらもほんわかとなる


「無理やり感情を入れ替えても、それは本当の意味での欲望解消にはならないの」


つまりあんたのやってたことは的外れ、と紫に投げかける


「・・・ふぅ、まぁしょうがないわね。また別の手段でも考えるわ」


全く懲りてない様子で紫は言う


「やるとしても私にだけは迷惑かけるなよ」

「んふふー、どうでしょうね♪」

「やっぱ先につぶしとこうかしら・・・」






かくして事件はめでたく解決となったのだった






「ただいまもどりまし・・・って、ゆ、紫さま!?この部屋の惨状はどういうことですかっ!!」


「あ、やば。藍帰ってきた・・・」



が、紫にはどうやらお説教タイムが待っていそうだった








<エピローグ>






「妖夢~いないの~?」

「こっちですよー」


白玉楼のいつもの光景


「最近人里で新しいお菓子が流行ってるって聞いたの♪買ってきて~」

「ええ~・・・たまにはご自分で行かれては・・・」

「・・・抱きつくわよ?」

「ひぃっっ!?」


悪戯っぽく笑う幽々子

しばらくは妖夢のトラウマになりそうである














「咲夜~咲夜はいないの~?」


レミリアがきょろきょろとメイド長の姿を探す

すると一人のメイドが口を開く


「ああ、メイド長なら今日は全身筋肉痛でベットに寝てますよ」

「筋肉痛・・・?」


激しく動くことには慣れてる人物だけにその単語に不信感を覚える


「ええ、なんでも人生最大の鬼ごっこで疲れたとか・・・」

「よくわからないわ・・・」


でもまぁ、たまにはあの子も休暇がいるわね

そう思いレミリアもそれ以上突っ込まなかった

そして一口紅茶をすする


「・・・やっぱ咲夜のいれた紅茶じゃないといまいちね」


やはり早期の復帰を願うお嬢様だった













「必死に事件を解決してきて、帰ってきてみりゃあんたら二人で添い寝してるたぁ仲がよろしいことね」


そういって境内に座りながら霊夢はずずっとお茶をすする


「ち、違うわよ!あれは成り行き上しかたなく・・・」


横でアリスが少々赤面しながら慌てた感じでまくし立てる


「腹が減ってからの記憶がどうもなくてなー。まぁ事件は無事解決したんだろ?」


ぽりぽりと煎餅を頬張る魔理沙


「ええ、色々と余計な事態も起きたけどね」

「ならよかったじゃないかー。なんなら霊夢も一緒に添い寝するか?」

「結っ構!」


なははーと笑い声が響く

するとそこへ黒い羽の少女が飛んでくる


「幻想卿一新鮮な情報をお届け!文々。新聞~」

「まーた面倒なのが増えた」

「失礼ですねー全く」


そう言ってばばっと持っていた号外を3人に投げつける


「ん~なになに・・・大雨による人里付近の堤防の決壊ぃ?」

「これってずいぶん前に聞いた話題よね・・・」


アリスが苦笑気味に突っ込む


「いいじゃないですかー、私達妖怪にとってはまだまだ昨日のようなもんです」


そう言ってにこりと笑う


「じゃ私はさらにこの新聞を配ってこなきゃいけないのでこの辺で!」


ばさっとまたその羽を広げ飛び立つ天狗


「あいつは昨日の大事件を知らずにまたしょーもないネタ探しにいくんだろうなぁ」

「でしょうね」


少々呆れ顔で三人は見えなくなっていく文を見つめる


「おーい!霊夢ー」


また誰かの声が聞こえてきた

上に向けていた視線を鳥居の方へと向ける


「あ、嘘つきウサギ」


それはてゐの姿だった

よく見れば後ろにうどんげの姿も見える


「何しにきたのよ?」

「へへ、お世話になったお礼参り!」


見ればうどんげは大きな器に山盛りのオレンジ色の物体を抱えている


「これ、うちのウサギ達の畑で取れたニンジン!食べて頂戴」

「・・・こんなにニンジンばっかり食べらんないわよ」


引きつり笑いで差し出されたニンジンを見る


「えーすっごいおいしいのに!」

「うまそうじゃないか、もらっとけよ霊夢」

「どうせならお賽銭とかのほうがいいんだけど・・・」











幻想卿は日々少しづつでもなにかしらの変化が起こっている

それは本当に僅かな変化だけのこともある

けれどもそれはとても大事なこと



その月のウサギはずっと自分の過去を責めていた

きっとこれからも自分を責め続けるだろう

もし一人だったなら耐えられないことだったかもしれない

けれど彼女の周りの仲間がいる限りは大丈夫

そして博霊の巫女が幻想卿を見守っている限りは大丈夫



月のウサギは満面の笑みを浮かべる


「本当においしいんだってば~」







幻想卿は今日ものんきで平和な世界である

いかがでしたでしょうか。結局完全にシリアスモードになっちゃいました
でも個人的には書きたいことを書けたので満足
でも文章力がないから他の人には内容が伝えきれたか不安
まぁいいか(´ー`)

ここまで読んでくれた方ありがとうございました~m(_ _)m
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コメント



0.210簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
てゐと鈴仙の友情に目頭が熱くなりました。
>幻想卿一新鮮な
>幻想卿は日々少し
>幻想卿を見守って
>幻想卿は今日も
4.60名前が無い程度の能力削除
『弾幕結界』逃げ道ないのは反則では…
とはいえいい兎でした