Coolier - 新生・東方創想話

抱擁毒は愛と苦痛とウサギを回す <第一波長>

2007/09/05 11:26:38
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「妖夢~よ~う~む~、どこにいるの~?」


長い縁側の廊下を歩く亡霊の姫


「こっちですよ幽々子様」


自慢の二刀で植木の手入れをしていた庭師がそちらにふり返りながら答える


「そろそろお腹が空いたわ~。ご飯の用意をして頂戴な」

「もう少し待っててください、植木の手入れを終らせてしまうので」


その返答に明らかに幽々子は眉をしかめる


「手入れなんて後でも出来るでしょ。先にご飯よご飯」

「そっちこそ後でもいいじゃないですか・・・幽霊なわけですし」

「だめよ、もし空腹で私が消滅でもしたらどうするの」


びしっと、持っていた扇子で妖夢を指す


「そんな前例は聞いたことありません」


呆れ顔を浮かべながら慣れた手つきで作業を再開する


「全く今日の妖夢は反抗的ね~。あ~お腹空いた空いた空いた・・・」


こちらは念仏よろしく空腹を連呼する。

と、その時


―――― ピキィーッン ――――


「っ!」


突如、幽々子の動きが止まる

背を向けていたので妖夢はその変化には気がつかなかった

少しの間じっとしていた幽々子だったが、また急にゆぅらりと動き出す


「妖夢・・・」

「なんですか、どんな理由があっても手入れが終わるまでは待ってもら・・・」



がばっ!



「うひゃあああ!?」


突然、後ろから幽々子にがっちりと抱きつかれる


「ゆ、ゆゆゆ幽々子様!!?」


人生で指3本に入るであろう驚きに頭がパニックになる

いったい何事だ


「妖夢・・・」

「ななななんですか!」

「・・・お腹が空いたわ・・・」

「はぁ!?」


言ってることとやってることが全く結びつかない

さらに混乱が深まる


「それは知ってます!なんでその理由で抱きついてくるんですか・・・」

「わかんなぁい。なんかお腹が空けば空くほど抱きつきたくなっちゃったのよ~」


なんともひどい理由だ

とりあえずほとんどいつもの幽々子だったので少し落ち着く


「と、とりあえず離してください・・・ご飯も作りますんで・・・」

「ん~嬉しいんだけど・・・なんだかもうしばらくこうしていたいわ」

「えええええっ」


ご飯を作れといいながらも羽交い絞め状況は解いてくれない

というかどんどん抱きつく力が強くなっている


「ちょっ、幽々子様!く、くるしいで、す・・・!」

「んあ~もうちょっといいでしょ~」

「ちょ、ちょっとっていうか、物凄く、きついん、です、け・・・ど・・・!!」


しかし力が緩むことはなかった






ぎゃああああああああああ・・・・・・・・














「ん?なんか聞こえたような」


博霊神社の巫女はホウキを片手にキョロキョロとする


「気のせいか・・・にしても」


賽銭箱に近づき、中を開ける


「こっちも気のせいであればよかったわ・・・」


空っぽが定番になりつつある中身に多少の落胆を覚える


「ああ~、もっと参拝客、増えないかなぁ・・・」

「そぉりゃ吸血鬼が平気で昼間歩くより無理な話だな」


いつのまにか来ていた魔理沙が、どかっと神社の境内に座り込む


「また来た。というかその例えならまだまだ可能性はあるわ」

「さぁどうだろうな。平気で歩き回る吸血鬼が参拝客みんな食っちまうかもしれんぜ」


全くもって減らず口なやつである


「はぁ~・・・もっとお賽銭がたっぷりな日が来ればいいのに。お賽銭お賽銭おさいせ~ん」


駄々っ子のように愚痴を漏らしたその瞬間、



―――― ピキィーッン ――――



「うっ!?」


何かが頭の中を駆け巡り、霊夢の動きが止まる


「あ~?どうした霊夢」


勝手に置いてあった休憩用の煎餅を口にしながら尋ねる

するとゆら~っと流れるような動きで霊夢が近づいてきた


「な、なんだ?」

「魔理沙・・・」


しゅばっ、とさながら蛇の一撃のごとく霊夢の腕が魔理沙に伸びてくる


「おぉうっ!?」


寸ででその手を交わす


「な、なんだよ!煎餅とられたくらいで怒ったのか!?」

「別に煎餅くらいいいわよ。だからちょっとだけ・・・抱きつかせて!」

「なぁにぃ!?」


ばっ!ばっ!と鬼気迫る雰囲気で腕が伸びてくる

魔理沙はあまりにいきなりなお願いに反射的に避ける

わけがわからないが少なくともこれは抱擁を頼む態度ではない


「ちょ、やめろって!いきなりなんだってんだ」

「い!い!か!ら!抱きつかせろ!!」

「そんな顔で抱きつかれても困る!」


鬼気迫るというかまんま鬼のような表情だった

多分この状況で抱きつかれたら折れる、どっかが


大慌てで鳥居の方へと逃げる


「待てぇえ!」

「そのセリフで待つ奴はいない!!」


そして鳥居のところまできた時に誰かがいるのを見つける


「・・・ん?お、アリス!」

「あら、魔理沙?」

「た、たた助けてくれ、霊夢がおかしく・・・」


そう言って近づいていった瞬間、にこぉっとアリスが微笑む



ぞぉくうう・・・



背筋に悪寒が走る


やばい、これは・・・


そう思った時には遅かった


「魔理沙・・・」

「うおおおおっ」


急に止まることはできなかった

そのままアリスの腕の中でがっちりと収まる

がっちりとしかいいようのない抱擁の洗礼だった


「あ、アリス、お前も・・・」

「うふふふ・・・」


不気味に微笑む。アリスにここまで恐怖を感じた日は初めてである


「まぁりぃさぁ・・・」


後ろから霊夢

対象を完全に捉えた蛇は、ゆっくりと動けないカエルへと近づいてくる


「やば!ちょ、アリス!離せ!!」

「んふふふ・・・だぁめぇ~」


むしろいっそう力をこめてくる


「ちょっと抱きつくくらいで怯えることないじゃない・・・」

「待て!待て!待てええええええ!!」








あああああああああああああ・・・・・・・・・






















竹林の奥地にぽつんと立つ二人



「あら、どっかで断末魔が聞こえたわ」


永遠の命を持つ月の姫が耳を澄ます


「ほう、そりゃ奇遇だな。私もこれからたっぷりとお前から聞けるわけだし」


同じく永遠の命を持つ火鳥術使いがにやりとする


「あら、だとしたらあなたの耳はもう使い物になっていないのね。幻聴だなんて」


聞こえる?と自分の耳を指しながら輝夜はせせら笑う


「余裕だな。そういう態度で負けた時の恥は地獄より苦痛だぞ」


くいっと首を掻っ切る仕草をする妹紅


「いいわ、お望みならその首を一瞬で吹き飛ばしてあげる・・・」

「来い、今日のフェニックスは私以外を焼きつくすことしかできない」


互いの殺意のボルテージが臨界点まで上がっていく


そして


「妹紅ぉおおおっ!」

「輝夜ぁあああっ!」


合図なく双方同時に飛び掛る


「「死ぃねぇえええっ!!」」




―――― ピピキィーッン ――――



「あぅっ!」

「ぐっ!」


なにかが脳を揺らす

だが二人の勢いは止まらない

激しい激突が起こり、辺りには血の雨が・・・降らなかった


「はぇっ!?」

「なぁっ!?」


お互いの状況を確認して思わず奇声を上げる


「・・・ちょ、あなた・・・なんで抱きついてるのよ!!」

「それはこっちのセリフだ!とっとと離れろ!!」


が、意思には関係なく抱擁をやめることができない

しばらく唸りながら離れようと頑張る二人

が、結局1ミリも距離は開かなかった


「はぁはぁ・・・よし、ならいっそこうしようじゃないか」


妹紅が一つの提案を出す


「このままむしろ全力で相手を圧迫して断末魔をあげさせたほうが勝ちだ」

「あら、それはいいわね。あなたにしてはいい案だ、わっ!」

「ぐは!」


言葉と共に輝夜が腕に力を入れる


「ああ・・・そいつはどう、もっ!」

「あぎゃっ!やったわね・・・このぉ!!」


周りから見るとなんとも微笑ましい激戦が続く



その後、結局どちらも断末魔を聞く事はなかった

ほぼ同時に気を失ったからである














バタバタと廊下を駆け巡る音が広いお屋敷に響く



「師匠!師匠ーーーーー!!」


ブレザーを着たウサ耳の少女が叫ぶ

一室の前で止まり、バーンと障子を乱暴に開ける


「師匠、大変です!」


中にいた師匠と呼ばれる女性が顔を上げる

どうやらクスリの調合をしていたようだ


「あら、うどんげ丁度よかった。新しいクスリの効果を・・・どうしたの?」

「大変なんです!なにやら幻想卿中に謎の波動が飛び交っているんです!!」


そこまでいって息をぜぇぜぇとつく

師匠、永琳はその言葉を聴き、うどんげを指差す


「いや、私が聞いてるのはソレ。・・・何かの新しい訓練?」


見ればうどんげの首から肩から大量のウサギ達がぶら下がっていた



「あの・・・それで、できればこいつら取るの手伝ってもらえませんか・・・?」

こんにちわ、小説初投稿です。見ての通りうどんげのお話です(ぇー
パク
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