今までの要約
スーパーサイヤ霊夢。殺意の波動に目覚めた妖夢。
ふたりはブラキュン(ブラッドでキュンキュン)(電波的な意味で)
↓以下、作者が頑張ります。
「―――誰に聞いた? とは、言わないわ」
それはいつの事だったか。
紅い霧が出て、私と霊夢が出張ったあの事件だ。発生源と思われるばかにでかい屋敷に辿り着き、図書館で紫もやしを撃墜し、進んだ先には外観に似合った無駄に広い大広間。そこで、そいつに出会ってしまったのだ。
『お嬢様』をお守りする銀色のメイドは掃除が進まないと不満を垂らし、ぎらり。無機質に光るナイフを武器に弾幕を形成する厄介な相手だ。
十六夜咲夜と名乗ったそいつは、私と抜群に相性が悪かった。何せ、撃ったところにはおらず、『いないはずの』場所からナイフがレーザーのように飛んでくるのだ。弾幕はパワー、が信条の霧雨魔理沙だが、まさに暖簾に腕押しだった。
忠誠心、実力、そして才能―――。狗として、これ以上の人材を見つけるなんて、大河の一滴に等しい。
「知った以上、あなたの時間はここで私の物となる。古風な魔女に、勝ち目は、無い」
おいおい、忙しいんじゃなかったのか? 私としては素直に首を縦に振ってもらいたかったんだが、どうにも無理な相談のようで。
(まぁ、当たり前か……仕方ない!)
前には銀髪の殺人ドール。後ろからはやがて来る紅白の災厄。だが、前に進まねば、勝利は無い。
ぱん。頬を張った。
「あの、咲夜さん。話は終わったんですか?」
美鈴は私たちの間に走る緊張を感じ取ったのか、おそるおそる両手を耳から離す。
「ええ、終わったわ。交渉は決裂。これから、ここは赤色と月光が彩る架空庭園になる。
美鈴、門が壊れてはいけないわ。腕が折れようが縦に裂けようが、あなたは門番。死を賭して守りなさい」
「は、はいっ!」
『何が起こるのか?』。察したらしい美鈴は素早く門の近くまで移動し、自身の能力で障壁を展開していく。あいつの能力は私自身、強いことを知っている。強化されたあの門は余程の事が無い限り、皹一つ入らないだろう。
そう、『余程の事』が無い限り。
「待たせたわね黒光り。何の目的があってその用事を持ってきたのか、もうどうでもいいわ。
ここで、お前は行き止まり。
息止まり」
「息を止めるのは得意だぜ。もっとも、他人の手を借りるまでもないが。私が勝ったら言う通りにしてもらうぞ」
「……大した自信だけど」
ふん。咲夜の私を見る眼が、絶対零度を纏った。
「知っているかしら。私は時のメイド。時間を操り、空間を操る。全ての時間は私に平伏すしかないわ」
おん。
―――右、おおよそ二メートルほどの距離。空間が啼いた。
「貴女の血は不味そうだけど、倉庫の肥やしぐらいにはしてあげる」
意思を持たない殺気の塊が具現化した。
「そうかい。そいつはありがたいが、実現出来そうには無いな」
箒に跨って、そのまま上空へと飛んだ。そして直後、掠めるように大量のナイフが左へと流れていく。
「だって、勝つのは私だぜ?」
「勝手にほざいてなさい」
上下、左右、前後、斜め。成る程、容赦はしないか。
さあて、お立会いお立会い。霧雨魔理沙一世一代の大勝負だ。負けたら最後、『下ろされちまう』からな。目を離すなよ。
「そっちが容赦なしなら、こっちも突っ切らせてもらうぜ!」
研ぎ澄まし、予測し、魔力を練る。
なあ、私よ。踊っているだけかい? No!
じゃあ、私よ。どうするんだい? Yes!
「決まってる!」
ミニ八卦炉へと自身の力を流していく、心地よい消耗。狙いは、けして『外さない』。
「そっちが数で来るなら、私は私を貫いてみせる!」
有言実行、あるのみだ。
ナイフの雨を掻い潜り、私は風神となる。
「恋に焦がれて落ち続けろ! 恋符!」
「っ!」
咲夜の表情が苦々しく歪み、私を睨めつける。
だがそんなことで止まるわけもないだろう! 果たして発射口から、十分に練られた魔力の塊が爆ぜる。
「『マスター、スパァァァク!』」
霧雨魔理沙、最大の切り札が開始五分で早くも火を噴いた。
本日二度目の最大出力。一度目は大地を薙ぎ払い、二度目は空気を灼いた。
「―――へへっ」
「……その笑みは、勝利の笑みかしら。それとも諦観?」
すぐ背後から、狗の声。後ろを取られたようだ。帽子を突付くナイフの感触がやけに鋭い。
「勿論、楽しいから笑ってるんだよ」
右手を素早く箒から放し、そこに一発分だけ込めていたマジックミサイルの魔力を、咲夜に向けて解放する。
「しっ!」
ミサイルはあっさり斬られてしまったようだ。しかし同時に距離をとったらしく、後頭部から感触は消えた。
「小細工をするようになったのね。それは成長かしら。それとも、自分の放棄?」
「へっ、知るか」
こっちは霊夢と戦って結構消耗している。短期決戦が望ましいが、相手が相手だ。裏の裏の裏の斜めの内面の裏ぐらいかかなきゃ無理か。
「どうやらここに来る前に結構魔力を消費したみたいね。でも、それは言訳にならない」
「当たり前だ。でも悲しいかな、
『十六夜咲夜は満身創痍の霧雨魔理沙にベストコンディションで挑んで負けました』って見出しは必至だぜ」
「口は絶好調のようだけど、悲しいかな、
『霧雨魔理沙は調子に乗って十六夜咲夜に挑んだものの下ろされました』で決定よ」
確かに、このまま戦いが長引けば、悔しいがそうなってしまうだろう。が、そうは問屋が卸さないってもんだ。
(まだ、私には『鬼札』がある―――!)
「ああ、掃除が終わらない終わらない。お嬢様に叱られるわ。だから魔理沙、そこで止まってなさい。
一秒もかからずに―――いえ、何が起こったのかすら分からないよう、屠ってあげる」
「百回生まれ変わってもごめんだぜ。でも掃除が途中ならここで長引かせるのは悪いな」
私がミニ八卦炉を構えると、咲夜は空にナイフを纏わせていく。
来る。
咲夜の能力と、ナイフの切れ味を最高潮まで使い切るスペルが来る。
『お前が負けて、終わり!』
箒が奔り、冷え始めた幻想郷の空気を斬り裂いていく。
星屑を撒き散らしながら突進する―――シンプルだからこそ破り難い、霧雨魔理沙最高の流れ星。
「ぶっ飛べ! 『スターダストレヴァリエ』!」
初速は十分だ。さあ、来い咲夜。私は見せたぞ。ならばお前も、自信が持つ最高のナイフを見せてみろ。
「力に力で対抗するのは、馬鹿のすることよ。覚えておきなさい」
しかし、奴はあくまでも冷静さを失わない。気付けば、ナイフの壁が音もなく段々と消えていくのが見えた。
そして最後の艶やかに光る暴力が消えた時、彼女を十六夜咲夜たらしめる、揺るぎない自信の化身が現れた。
「終わりが無いのが、終わり」
それは無間の無限地獄。芸術的に、論理的に、そして圧倒的に相手を屈服させる為の絶対的な手段。破る手段は、ない。
「『デフレーションワールド』」
透き通った咲夜の声が、始まりを告げた。
夥しい数のナイフの雨霰。無いはずの場所から、無限に発生する。
もう少しだ。もう少しで、私の流れ星は願いを叶えるのだ。
ああ、だのに。
「遠いなあ」
箒から転落しながら、気楽に感想を述べてみた。
―――だが。
―――転んでもタダでは起き上がらないのが、私、霧雨魔理沙だ!
箒は咲夜を通り過ぎ、私自身は地面に向かって自由落下。
スペルは解除されたのか、ナイフは影も形も見えず。咲夜が何かを言っているが、風の音で聞き取れない。だが目を見れば分かる。私を助ける気は無いようだ。
おいおい、薄情だな。それでも血が通った人間か?
「ま、もっとも」
―――それが、お前の敗因だ。
「なっ―――」
驚きの声を上げるのは正しい反応だ。狂っていない証拠とも言える。
咲夜の後方で音もなく反転した箒は音速で奔り、地面に衝突寸前だった主人を拾い上げた。
その瞬間、私の鬼札が完成する。
「知ってるか? 圧倒的に不利な場合は、技で勝つのが定石なんだぜ?」
ほぼ垂直の軌道。先程とは比べ物にならない速度と、無数の星屑。
これこそが霧雨魔理沙、最速のスペル―――!
「貫け!」
『ブレイジングスター』―――!
「こ、のっ……!」
「遅い!」
時間操作をするには、霊力をそれ用に変換する少しの時間が必要と、以前咲夜は言っていた。
その少しの時間こそ、私の勝利を導く―――!
衝突の瞬間、魔力と霊力がぶつかり、一帯に目映い光を放った。
「つ、疲れた……」
咲夜が地面に落下したのをすれすれで拾い、地面に降り立つ。そこまで気配りが出来る私を誰か褒めてくれ。
「さ、咲夜さーん! 大丈夫ですかー!」
「気絶してるだけだぜ。起こしてやってくれ」
「……張本人が、偉そうにするなっての」
「気にすんなよ。自衛自衛」
美鈴はぶつくさ言いながらも咲夜に自身の気を流し始めた。成る程、治療にも使えるってわけか。便利だな。
しばらくしてから、悪魔の狗は意識を取り戻した。
「……あー、まったく。二度も負けるなんて、屈辱よ」
「いや、これが初めてだぜ。アレは霊夢一人が勝ったようなもんだろ」
「あら、勝者の余裕?」
「事実を述べたまでだぜ」
これは本心。今回の勝利は運が良かっただけだ。私が作戦を練らずにフルパワーで挑んでいたら負けていたと思う。
「さて、じゃあ私の頼みを聞いてもらうぞ」
「うぐ」
そう、これが本題。もう少しで忘れるところだった。咲夜は苦い顔をしているが、敗者は勝者に従うほかないのである。けけけ。
「そういえば、私に耳を塞がせたわね、白黒。その間、咲夜さんと話していたのがそれ?」
「ああ、そうだ。んで弾幕ごっこで呑むか否か決定したってわけさ」
「交渉は決裂って言ってたような」
「気にすんな。さぁーて咲夜、頷いてもらおうか。つーかしてくれないと幻想郷滅ぶから、マジで、お願いします」
「……どういうこと?」
「あー、それはだな、話せば長くなるんだg『あかーいやかたとー、大きい門番ー(アローハ)』……」
振り向けば、遠くに見えるは独特の巫女装束を纏った博麗霊夢ではないか。その手には何故か五色の枝が。
……死なないんだろうけど、冥福を祈ろう。
妖夢がいないのが気になったが、今はそこまで考慮していられない。
「もうそこまで破壊神が来てるから要点を掻い摘んで言うぞ!
今のあいつは女と見たら容赦なく襲うキラーマシーンだ!
なぜかと言うと、胸が大きい、もしくは大きくなりそうな奴を敵と見なしているからだ!
以上!」
「身も蓋も無いわね。……って、それじゃあ私がいても意味ないじゃない」
「いや、ここで必要なのは『霊夢より年上で、尚且つ霊夢より小さい』人材なんだ。
そこでお前に白羽の矢が立っ……
―――すまん、ナイフを引っ込めてくれないか。震えてるし、頚動脈が切れたら大変だ」
「あ、あ、あんたねえ……! め、美鈴がいる前で……!」
あ。
「……やっちゃったZE!」
「いややっちゃったZEじゃないわよなんでそんな明るいのよー!」
やばい、目が血走ってる。胸パッド、霧雨魔理沙は死ぬ。なんちて。
「あ、あの、取り込み中失礼しますが、咲夜さん。それ、紅魔館ではみんな知ってます」
しーん。
かちゃ。
あ、ナイフ落ちた。
「ど、どういうことかしら美鈴さん」
「え、えーっとですね。申し上げにくいのですが……みんな、優しいってことです」
ぴし。
おー、固まった固まった罅割れた。テンプレ通りの反応だ……じゃなくて。
「えーと、多大なるショックを受けているところ悪いが、これでお前の取っ掛かりはなくなったぞ咲夜。
さあ、神様退治に協力してもらうぜ」
「ふ、ふふ、ふふふ、いいわよ、もう何もかもどうでもいいわ……」
おまけ
「よ、妖夢、落ち着いて話し合いましょう。買い物も掃除も一日一回で済むように努力するから!」
「一つ斬っては父の為ー、二つ斬っては母の為ー」
「いやそれ違うから! それは賽の河原ー! しかも微妙に違う!」
「楼観剣。一振りで妖怪十匹を倒す。幽々子様は死ぬ」
「ひぃっ、私もう死んでるのにまた殺される!?」
「……わかりました。斬るのは勘弁してあげます」
「え、本当!?」
「ええ、流石に気が引けます」
「そ、そう。良かったわ、踏み止まってくれて―――」
「峰でゴンゴン打ち付けます。地面に。逆さ向けにして」
「の、のー! いや! お慈悲!」
「だが断る。この魂魄妖夢の最も好きなことの一つは、安心した相手に向かって『ノー』と思い切り言ってやることだ」
あーれー。
To be continued……(ドドドドドドドド)
格闘ゲーム二作品がまざったような感想ですが、これが一番今の状況を的確に表してるのではないかと