~前回のあらすじ
「遅刻遅刻ー……きゃあっ」
「うわっ!」
どっしーん☆
「いたたた……ちょっと、どこ見て走ってんのよ!」
「にゃにおぅ!? そっちが勝手にぶつかって来たんじゃないか!」
ざわ……ざわ……
「あーっ、あの時の!」
「お、お前はっ!」
きーんこーんかーんこーん
「なんであんたもこっち来るのよ、ついでこないでよ」
「うちもこっちなんだよ。ったく、かわいくねえなぁ」
「……ちょっと、なんであんたが同じ家の前で止まるの?」
「いや、家ここだし」
えー?
「今日から一緒に住むことになった博麗霊夢ちゃんよ。魔理沙、仲良くしなさいよ」
『えーーーっ!?』
↓以降、濃厚なカオスになります。
「そう、アリスまで霊夢の毒牙に……」
「くっ、私の力が足りないばかりに……!」
お前がやったんだよ、と大空でアリスの形をした雲が毒づいたような気がしたが、白玉楼の屋根に遮られているので空は見えないのが悔やまれる。
「しかも紫までやられるとはね」
「ああ、驚いたぜ。まさかあいつが手も足も出ないなんて、想像だに―――いや、まあ、ちょっとは思ったけど」
「それで、なんで霊夢はああなっちゃったのかしら。説明してくれない? ……ああ妖夢、お茶のお代わり、お願いね」
「はい、少々お待ちを(チッ)」
(こわっ)
二杯目のお茶(なぜか赤い)が注がれ、魔理沙は今までの経緯を語った。もっとも、「何故霊夢が豹変したのか」については彼女自身も分かっていないので、説明しようが無かったが。
「胸ねえ。あんまり気にしてなかったけど、まさか霊夢がそんなことで悩んでいたなんて」
「だから前に説教してやったんだよ。その時は涙を流しながら納得してくれたんだけど、何があったんだろうなぁ」
「……その前に、考えることがあるんじゃない?」
「え、何を?」
「ちょっと考えれば分かるでしょう? 霊夢はあなたがマヨヒガにいるのを見つけ出したのよ? ここも例外じゃあないってことよ」
「あ」
思わず両手を上に突き出し、開いてから人生終わった、と叫びそうになる魔理沙だったが、なんとか踏みとどまった。
「それに胸の大きな奴を襲うってことは、私にも危険が及ぶのよね。紫をあっさり退けた奴相手じゃあ分が悪すぎるわ。霊夢が来る前に、怒りの原因をなんとしても突き止めないと」
「ああ、そうすれば活路が開けるかもしれないな」
普段の食い意地が張った覇気のない姿はどこへ行ったのか、魔理沙は西行寺幽々子の凛とした対応を尊敬しつつあった。
「その為には考える力を養わないとね。妖夢ー、おやつ持ってきてー」
こけ。
「一瞬でもシリアスを期待した私が愚かだった。いい、一人で考える」
「ひゃあぁぁぁうまいぃぃぃぃ」
「幽々子様、そんなにがっつかなくても玉子焼きは逃げませんよ(チッ)」
どこに行こうが人は孤独なのかしら?
魔理沙は悟りを開きそうになったが、そんなものを開いている暇があるなら現状を打開すべきことに気付き、頭を左右に振った。
(そういやあいつ、なんでうちに来たんだ? よっぽどのことがない限り、あいつから来るってことは皆無に等しい。つまり、私に何か用があったってことだよな。落ち着け、落ち着くんだ、グレイズを数えて落ち着くんだ。前後の出来事を事細かく思い出せッ!)
ドアが破壊される前はアリスと会話をしていたが、霊夢があの場にいたのならばそれを聞いていてもおかしくない。そこに何か鍵があるはず―――!
ぽくぽくぽく、ちーん。
「……えー?」
そして辿り着いた結論は、『キノコ』であった。わけわかしまづだよ○一。
「うむ、わけわからん」
「妖夢ー、おかわりー」
「はい、ただいま(チッ)」
見事に統一性のかけらも無い面々である。
「なんだか不穏な空気を感じるわね」
幽々子のその一言で、魔理沙は暴れん坊霊夢が近付いていることを悟った。
「魔理沙、解決策は見つかって?」
「ああ、よくわからないけど、これしか考えられない」
「そう、気をつけてね。……そうだ、妖夢。魔理沙についていってやってちょうだい。私は食べすぎで眠いから」
「はい、わかりました(チッ)」
(や、やさぐれてるなぁ妖夢の奴……)
主人がアレでは気苦労が絶えないのだろう。どことなく表情が暗い。
幽々子が寝静まってからその場を離れ、長い階段の辺りでタイミングを図り、魔理沙は妖夢に引き攣った笑いを浮かべて声をかけた。
「い、嫌なら別にいいんだぜ?」
「主人の命は絶対よ。嫌がるわけが無いじゃない。(ギリギリギリ)」
(めっちゃ歯軋りしてるぅうう!)
魔理沙は妖夢から今の霊夢と同じ雰囲気を感じ取り、背中から斬られないかなと不安に思ったとかなんとか。
「おーれがやらねばー(ダンダダン)
だーれがやるのかー(ダンダダン)
いーまに見ていろデカチチ王国ー全滅だー」
「成る程、イっちゃってるわね」
「だろ」
果たして霊夢と相対した二人。魔理沙は辟易し、妖夢は現状を知った。
「出たな将来有望株! 死ねぇ!」
半人半霊は成長が人より遅いが、どうやら妖夢もターゲットに変わりないらしい。というか、そうなると女性全員が条件に当て嵌まるのではないだろうか。まさに見境なしのデストロイヤー。
「その前に聞け霊夢! お前が何を勘違いしているのかはわからんが、私とアリスが話していたのはキノコについてだ! いいか、キノコだぞ!」
魔理沙は早速説得にかかる。本来ならば戦って疲弊した相手にこそ説得は通じやすいが、今の霊夢はS○機関を搭載した汎用人型決戦兵器のごとく無限に動きそうなので、そのパターンは期待出来ない。ならば日本語を喋っている今のうちにやるしかない。
「……そう、キノコについて話してたのね」
「ああそうだ! わかってくれたか!」
「そうなんだ~、うふふ、魔理沙ったら……」
「(よし、もう少しだ!)戻って来い霊夢! マイフレンド!」
今まで鋼鉄○ーグの顔になっていた霊夢の表情が、徐々に元に戻っていく。ああ、被害は多少出たけど、これで全部終わる―――
「だから魔理沙、キノコ集めに一生懸命だったのね。いつか来る本番の為に、練習するつもりで」
(語り:霧雨・クイックストライク・魔理沙
母さん、魔理沙です。
家を出てから、もう数年が経ちます。
私と霊夢が主役ってことだったんですが、私はアイコンになっているのでちょっとリードです。
初めのうちは、「だぜ」とか「だからな」とか、男言葉を使うのが恥ずかしかったのですが、今ではすっかり慣れてしまったわけで……。
全国の魔女っ子ファンに愛される為に、頑張っているわけで……)
「いつまでもお母さんと話してないで、真面目に戦えー!」
「ギッチョーン! はっ、こ、ここは誰? 私はドンドコドン?」
真っ白になりそうだった魔理沙だが、妖夢(千○繁ボイス)に柄でしばかれ、正気を取り戻した。
「くっ、何を言っても無駄か」
「魔理沙、あんたそんなことしてたの?」
「するかー! ……とにかく、死ぬ気であいつを止めなきゃならないぞ。やられる前にやれ、だ!」
「そうね、私も謂れのない恨み辛みで封印されたくはないもの」
とは言うものの、説得が失敗した今、具体的な有効策は何一つとしてない。全力でぶつかるしかない。
「いいか妖夢、全力だ。全力で攻撃しろ!」
「全力って……いいの?」
「構わん! もう日頃のストレスとか鬱憤とかもなんでもいい、全部ぶつけろ!」
「……そう。うふ、うふ」
「へ?」
突如、妖夢が顔を俯けた。そしてその口からは不気味な笑い声が漏れている。ぞくり。魔理沙の背筋を嫌な予感が一斉に駆け巡った。
「うふふふふふふふふふふふ」
(ひっ、壊れた!?)
「月曜日に買い物行ってー、一時間後また行かされるー。
テュラテュラテュラテュラテュラテュララー、テュラテュラテュラテューラーラー」
(苦労してんだなぁ、こいつ)
「火曜日はお掃除をしてー、半刻ですぐやり直しー。
テュラテュラテュラテュラテュラテュララー、テュラテュラテュラテューラーラー」
ぴた。
「くけけけけけけけけけけ!」
奇声を上げ、妖夢が二本の刀を抜き放つ。そして音が遅れて聞こえるほどの速さで霊夢に躍りかかった。その俊敏さから見て、容赦はないと断言出来る。
全力で、と言った本人は自分の出番はなさそうだなと思い、その場に腰を下ろした。
(あー、私の周りってこんなんばっかだなー)
共闘するはずの相方は目を吊り上げてトリッキーな動きをしているし、お茶をこよなく愛する友人は斬撃を指で挟んでいなしているわで、まともな思考回路を保っている自分が馬鹿らしく思えてしまう。
もっとも、この光景をさも当然のように受け入れている辺り、魔理沙も少々やられているのかもしれない。
~二人の戦いが長いのでダイジェストでお送りします~
妖夢「よく来たな腋巫女霊夢…待っていたぞ…」
(ギイイイイイイ)
霊夢「こ…ここが白玉楼だったのか…! 感じる…幽々子の食い気を…」
妖夢「霊夢よ…戦う前に一つ言っておくことがある。お前は私を倒すのに『スペルカード』が必要だと思っているようだが…別になくても倒せる」
霊夢「な 何だって!?」
妖夢「そしてお前のサラシは洗濯が終わったので最寄りの神社へ解放しておいた。あとは私を倒すだけだなクックック…」
(ゴゴゴゴ)
霊夢「フ…上等だ…私も一つ言っておくことがある。この私にそれなりの胸があるような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」
妖夢「そうか」
霊夢「ウオオオいくぞオオオ!」
妖夢「さあ来い霊夢!」
魔理沙『霊夢の暴走が幻想郷を滅ぼすと信じて…! ご愛読ありがとうございました!』
「で、全力でぶつかり合った結果、二人の間に強固な友情が生まれてしまったんだが」
「そう、すごいわね、帰っていいわよ」
「ああっ、見捨てないで! えーりんえーりん助けてえーりん!」
霊夢と妖夢の力は互角で、終ぞ決着はつかなかった。が、「お前やるじゃねえか」「お前もな」が発動してしまい、二人はタッグを結成。魔理沙は逃げるだけで精一杯だった。就寝していた幽々子がどうなったかは考えないでおこう。
「それにしても厄介ね。霊夢より小さくても大きくても狙われるなんてタチが悪すぎるわ」
「あの調子で続くと、幻想郷から女がいなくなるぞ」
「うーん……、どこかに霊夢より年上で、尚且つ胸が小さい奴がいればなんとかなりそうだけど」
「おいおい、そんなパーフェクト超人がどこにいるってんだ。ここなんて問題外だし、紅魔館にだっていないと思うぞ。あそこで唯一の人間の咲夜は大きいし」
「レミリアは?」
「駄目だ、あれは永遠に外見が変わらないからな。条件は、自動的に人間限定だぜ」
難易度は地○防○軍3のインフェルノすら超えるかもしれない。一撃貰えばサヨウナラだ。
「……ねえ、魔理沙。さっき、なんて言ったのかしら?」
「え、さっきって?」
何を思いついたのか、永琳の目が鋭利に光る。流石は月の頭脳と呼ばれるだけのことはある。
「ほら、紅魔館の唯一の人間」
「ああ、咲夜か? それがどうかしたのか?」
「……あ、その前に、私が言ったってことは内密にしてくれる?」
「ん? どういうことだ?」
「……まあ、聞けばいやでも内緒にするでしょうけど。あのね、十六夜咲夜なんだけど―――」
『私はこれから紅白が入ってこれないように永遠亭をガードしなきゃいけないわ。だから魔理沙、幻想郷を救えるのはあなたと咲夜だけよ。挫けないでね』
(なんとも嫌な理由で救わなきゃいけないのが人間のつらいところだな。覚悟はいいか? 私は出来ればしたくなかったけどNoと言える立場じゃないから出来てる。これから死ぬかもしれないし)
「おーい美鈴!」
「あら、白黒?」
魔理沙は永遠亭を音速で離脱し、紅魔館へと飛んできた。そしてまだ何も知らない門番に声を掛けてから、地上に降り立った。
「咲夜いるか? ちょっと呼んでほしいんだけど」
「いるけど。何の用? 簡単な事だったら私が受け付けるわよ」
「いや! 咲夜じゃないと駄目なんだ! お前じゃ無理だ! 力量とかじゃなくて身体的な意味で!」
「……よくわからないけど、呼べばいいのね?」
「おお、話が分かるな、頼む」
美鈴は館直通の鈴を鳴らし、「咲夜さん、魔理沙が来ているんですが」とパイプを伝って呼びかけた。
しばらくして、十六夜咲夜が現われた。
「美鈴、私はこう見えても忙しいの。簡単な用はやれって事前に言ってあるでしょ?」
「私もそのつもりだったんですが、こいつが咲夜さんじゃないと無理だと言うもんでして」
「へえ、私じゃないと無理なこと? 何かしら……」
だくだく。
「……ちょ、魔理沙!? なんでそんなに脂汗を流しているの!?」
「いや、まあ、その、なんだ、うん、察してくれ」
「何を!?」
「美鈴、耳を塞いでおいてくれないか。じゃないと絶対に後悔するぞ」
「? こう?」
さて、準備は整った。
これから自分が放つ言葉で、きっと咲夜は殺人鬼と化し、無数のナイフと共に襲い掛かってくるだろう。しかし幻想郷の平和と未来、何より自分自身の為にやらねばならない。汗を拭い、魔理沙は腹を括った。
「なあ咲夜。これからここに霊夢と妖夢が来るんだ」
「あら、そうなの。じゃあお嬢様もお呼びして……」
「いや、その必要はない。つーかやめておけ」
「……どうして?」
「今の二人は究極完全体だからな。紫も一撃でやられたし」
「なんか物騒な雲行きになってきたわね」
「しかし、だ。お前がいれば奴らを止められるはずだ! だから私は協力を仰ぎに来た!」
「なるほど、そういうことね。でもなんで私なのかしら? 腕っ節ならもっと強いのがいるでしょう?」
「あー……実は、本題はそこなんだ」
「?」
すぅー。
はぁー。
きりっ。
「咲夜、頼む! 霊夢の前で胸パッドを外してくれ!」
あれ、まだ続くの?
作者殿が末期である事は分かりました。
え、ちょ、貴方たち、なんで青い服を、なんですかまだやってないじゃ(ry