※このお話は博麗さんちの霊夢さんが勘違い甚だしい被害妄想を炸裂させていますが気にせんといてください。
「霊夢ー、わざわざマヨヒガから遊びに来てあげたわよー」
「紫様、別に呼ばれていないでしょうに」
「……」
「博麗霊夢、里まで来てもらえないだろうか」
「……」
「霊夢、姫様の弾幕ごっこの相手になってもらえないかしら」
「……」
「映姫様から逃げてるんだ、ちょっと匿ってくれ」
「……」
「あれ紅白? 紅魔館に何の用?」
「……」
「あら霊夢じゃない。妖夢がおつかいに出てて退屈だったのよー。遊びましょ」
「……」
「よう霊夢、おはよーさんだぜ……って、どうした。なんで私のある一点を見つめる」
「魔理沙ー! やっぱりあんただけは私の本当の友達よー!」
「ど、どうした!?」
「だって、だってだってどこもかしこもメロンだらけ」
「主語を話せ主語を」
「私、十代、成長、必至。否、現実、我、平坦」
「あー、つまり自分は発育が悪いと言いたいのか」
「Exactly(その通りでございます)」
「Yes Yes Yes, Oh my god」
URYYYEEEEEと叫びながら無数の札を展開し、自称素敵な巫女は座ったまま跳んだ。なお、魔理沙が「なっ!? 座ったままの姿勢! 膝だけであんな跳躍を! つーかキャラが違うぞ」と思ったかどうかは定かではない。
「こうなったら私よりも色々と大きい奴らを狩って狩って狩りまくって……」
「待て待て、幻想郷を○つ墓村にする気か。それにスプラッタ巫女なんてどこの誰にも需要ないと思うぞ」
「THE・シ○プルでゲーム化とか」
「お○チャ○バラという先達がすでにいるわけだが」
「あーもう、じゃあ何? 胸に「E:スイカ」ってなってる奴らをこれからも嫉妬しつつハンケチをかみかみして枕を濡らせってこと?」
「何気にスケールアップしている点は置いといて、それは違うぞ霊夢。いいか、ある伝説の少女Aはこう言った!」
魔理沙が目を見開き、自身の胸に手を当て、不適に叫んだ。
『 貧 乳 は ス テ ー タ ス だ !
希 少 価 値 だ! 』
かかっ。
魔理沙の背後にスクリーントーンのような雷のエフェクトがかかる。その無駄に凄い迫力を受け、霊夢は「おおう」と洩らした。
「とな。昨今は無駄にでかいオプションを多く見掛けるが、そんな中、自分をありのまま受け入れる自然体こそが真の勝者といえよう。現に私を見ろ、いくらちっさくても強く生きているだろうが!」
(自覚あったのか……)
「今、自覚あったのかって思ったんだろうがまあいい。とにかく、あいつらはあいつら、私たちは私たちだ。幻想郷はすべてを受け入れる。ならばその住人である私たちも自分自身を受け入れるぐらいのことはやってのけようぜ!」
「―――あんたでっけえ、でっけえよ……!」
感涙に咽び、一転魔理沙を尊敬の眼差しで見詰める霊夢。「照れるぜ」と魔理沙は鼻の頭を掻いた。
「さあ霊夢! 最早私たちに怖いものはない!」
「ええ!」
「だから安心して私のために朝食を作るんだ!」
「自分で作って食え。食材は好きに使っていいから」
「うむ、それでこそ霊夢。台所借りるぞ」
ちゃんかちゃんかちゃん。
しかし現実は、えてして誤解と軋轢を生むこととなる。
「へー、珍しい種類が採れたのね。それにしてもちっちゃいわね」
「まあまだ生育途中だからな。これから観察も兼ねて大きくしていく予定だぜ。応用出来る範囲が広いから、成功したら研究もぐっと楽になるってもんさ」
とある日のこと、魔理沙の家に招かれたアリスは珍しいキノコを見せられた。魔法薬を作るに辺り必要で、段階を踏まないと作れない成分をあらかじめ含んでいる珍しいものだ。
「でもたった二個かぁ。もっと生えてなかったの?」
「私が探した限り二十はあった。けど、発生に必要な環境が分からないし、生えていてもそれを解き明かさなきゃな」
「ガサツなくせに意外なところでマメね、あんた」
「うるさいな」
ここまでなら普段通りの会話なのだが、問題はこの直後に静かに発生する。
そう、静かに、静かに。
「あれ、魔理沙の符じゃない」
朝食を平らげに来た姦しい友人と適度に会話し、彼女が去った後は静かに一人茶を啜っていた霊夢は、縁側に自分のものではない符を見つけた。見てみると「魔符」と書いてあるので、間違いなく魔理沙のものだろう。
「うっかり屋だなぁ、あいつも」
仕方ないな、と思い、親切にも届けることにした。
「確かこの辺ね、……お、あったあった。相変わらず薄暗い森ねー」
ほとんど来たことが無い場所なので地理には明るくないが、飛べるのであまり関係ない。霊夢はゆっくり地上に降り立った。
扉に近付くと、魔理沙の声と別の声が交互に聞こえてきた。
「……誰かいるのかしら?」
まあ十中八九アリスだろう。ならば遠慮する必要はない。堂々と入っていけばいい。
『それにしてもちっちゃいわね』
ぴく。
ノブを握った瞬間、アリスのそんな声が鼓膜を揺さぶった。
(ちっちゃい? 何が?)
なんとなく様子を窺うことにし、気付かれないように扉を開いて、隙間から中を見やる。
『まあまだ生育途中だからな』
(生育途中? どういうことかしら……)
そして直後、霊夢の視線はある一点で停止した。
二人は霊夢に背を向けていて、アリスは右斜め、魔理沙はやや左斜めになっている。ということは、腕がどの位置にあるかはある程度予測がつくということ。
(……魔理沙、胸に手を置いてる?)
正しくはキノコを持っているのだが、霊夢からは見えるわけもなく、
『これから観察も兼ねて大きくしていく予定だぜ』
(!!?)
『応用出来る範囲が広いから、成功したら研究もぐっと楽になるってもんさ』
(お、応用!? 範囲!? 研究!?)
この直後「キノコ」だとすぐにわかるフレーズが飛び交うのだが、嗚呼、もはや霊夢の耳には届かない。
(私にはあれだけ偉そうに演説かましておいて、自分は大きくするですって……!)
勘が鋭いことで知られる博麗さんちの霊夢ちゃんだが、自身の勘違いには気付かないようだ。そして瞬時に博麗アミュレットを展開し、
(あの日以来、あるがままの自分を受け入れようと努力してきた私を裏切るというのね、魔理沙!)
ぷつん。
霊夢の中で、何かもう色々とプッツンした。
霧雨邸の扉が粉々に破壊されたのは、それからわずか一秒後のことであった。
突然の爆音に心底驚いた魔理沙とアリスは、しかし瞬時に身を翻し、砂煙の中にひとつの人影を確認した。
「な、なんだ!? JAS(ピー)CかN(ピー)Kの集金か(ピー)日ないしは(ピー)会の勧誘か!?」
「あんた敵多いのね」
冷静なアリスのツッコミに「うるさいな」と再び返した直後、見覚えのある大きめの玉が二つ、自分目掛けて飛んでくるのが見えた。
(これは霊夢のアミュレット!? つーことは……)
ぎりぎりかわすと、アミュレットは持ち主へと帰っていく。
「……マリザァー! オンドゥルルラギッタンディスカー!」
砂煙が晴れた瞬間、禍々しいオーラ(紫色)を背負った博麗の巫女が咆哮する。別星系の言語で。
「な、何するんだよ霊夢。いきなりご挨拶じゃないか」
「ケヒヒケヒヒ、モルスァモルスァ」
「ええい、ここは幻想郷、日本語で喋れ!」
魔理沙がそう言うと、霊夢は顔を上げた。そこには後光が差して見えるほど眩しい笑顔を湛えた紅白の巫女がおり、魔界出身のアリスはその神々しさにあてられたのか、「たくましいなw宇宙へ!」と謎の言葉を残して気絶してしまった。
そして、霊夢が一言。
「私の使命は魔理沙―――いいえ。
私より色々と大きい異教徒共をその血の一片まで絶滅させること」
「『AMEN』」
(宗派つーか発祥地域すらちげえええ!)
「シィィィ」と息を吐き、博麗・アレクサンド・霊夢・アンデルセンは一歩前に踏み出した。何がなんだかわからずパニックになる自身の頭を引っ叩いて、ようやく魔理沙は冷静になった。
「ちょ、ちょっと待とうな霊夢。落ち着いて話し合おう。私が何をしたと?」
「オレァクサムヲムッコロス!」
対話を試みるも、どうやら相手は理性を失った野獣のようだ。取り付く島も無いということか。
「ブゥランドオォォォン!」
霊夢が本能のままに突進してきた。
誰だよ、と心の中でツッコミながら体の向きを変え、魔理沙は奥の部屋へと走る。そこには箒がある。それさえ手に入れれば―――
「もしもし、私霊夢さん。今あなたの後ろにいるの」
「ニギャー!?」
理性を自ら駆逐した生き物は限界なんて知ったこっちゃないらしい。普段運動もしていないだらけ巫女のくせに、両者の距離はもはや二メートルほどしかない。
(私が遅い!? 私がスロゥリィ!?)
「無駄
無駄
無駄
無駄
無駄ァ」
(やつは1upを目の前にした残機0のプレイヤーのように奇声をあげながら
正確にあと1秒位でこの私のところに突っ込んでくるだろうッ!
そこで問題だ!
箒が無いこの状況でどうやってあの野獣から逃げるか?
3択-ひとつだけ選びなさい
答え①普通の魔法使い霧雨魔理沙は突如反撃のアイデアがひらめく
答え②仲間がきて助けてくれる
答え③かわせない 現実は非情である)
「あははーあははーバルサミコ酢ー……」
答え③答え③答え③現実は甘くねーぜあばよとかっこつけようとした矢先、アリスが呻いた。この瞬間、魔理沙の心の中の手札から速攻魔法発動!
「ほ、ほら霊夢! 後ろで未来のメロン候補が呑気に寝てるぞ!」
「URRRRYYYYEEEEEEE!」
なんというサクリファイスエスケープ。魔理沙がそう言うやいなや、暴君は後ろに跳躍した。
正に外道の為せる業。気絶したままのアリスを餌にし、その隙に魔理沙は箒を手に取って窓を突き破った。Live Like Rocket!
自分の家から「ウボァー」という断末魔が響いてこようが、聞こえないフリで突っ切っていった。
「で、うちに逃げてきたと」
「ああ、まったく生きた心地がしなかったぜ」
安息を求め、力の限り空を駆け抜けた魔理沙の消耗は激しく、やっとの思いでマヨヒガに辿り着いた。しかし遠慮なく出された茶菓子を頬張っているその姿は疲れているようには見えないので、藍の鋭利な視線が魔理沙を容赦なく突く。しかし当の本人はまったく意に介さない。
「それで、どうするのかしら? まさか私に出張れとは言わないでしょうね」
「お前に借りは作りたくないしな、自分でなんとかするさ」
とは言いつつも、今の霊夢に言葉は通じないし、もしかしたら最大出力のマスタースパークすら障害にならない可能性がある。勢いだけであらゆるものを消し飛ばしてしまいそうだ。
(しかし、なんでいきなり霊夢は豹変したんだ? 私が原因っぽいことを言ってたけど、はて)
『泣ぐ子はいねえがああああああああああ』
魔理沙が推理を始めようとした矢先、裂帛の咆哮がマヨヒガを揺らした。鼓膜が潰れそうなほど強烈な振動が魔理沙の脳髄を刺激し、彼女は思わず身構えた。
「や、奴が来た! なんでここが分かったんだ!?」
「マヨヒガが壊されるのは勘弁してちょうだいね」
「おまっ、認識が甘すぎるぞ! そんな甘っちょろい方法が通じる相手じゃないんだぞ!」
「何言ってるのよ。相手って霊夢でしょ? なら魔理沙とどっこいじゃないの」
(駄目だこいつ……早く何とかしないと)
「何よ、その駄目人間を見る目は。……はぁ、しょうがないわねぇ、何にびびってるのか知らないけど、私がやってあげるわよ」
「……どうなっても知らないぞ」
「あら、まさかこの八雲紫が後れを取るとでも?」
「いやー……あっはっは」
今の霊夢ならやってのけそうで怖い。霧雨邸で犬○家スタイルにされてそうな仲が悪い友人Aのことを思い、魔理沙は乾いた笑い声をあげた。
藍の「もうすぐご飯ですからねー」に見送られて表に出ると、ナマハゲ霊夢が体をくねくねさせていた。
「……今日はまた別の意味であらゆるものの宙に浮いてるわね」
ぴた。
紫が喋った途端、霊夢の動きが止まった。
「霊夢、何に怒ってるのかは知らないけど、ここでの破壊活動は許されないわよ。即刻立ち去りなさい」
「ゆ、紫っ! 不用意に近付くな! やつにはお前の知らない隠された能力があるッ!」
「平気よ。頭が冷えるまで霊夢をスキマに放り込んでおけば万事解決でしょう?」
あ、そうか。魔理沙は手を叩き、期待で胸を膨らませた。いくら霊夢でも、幻想郷最強を謳う妖怪の能力を破るなんて、とても出来ないだろう。いくら身体能力が向上しても、スキマの前では意味が無いのだ。
「それじゃ早速、そーれ」
ちゃらっちゃらっちゃーん。みーよよよよよん。
霊夢の足元にスキマが現れ、彼女をボッシュートしていく。そしてあっさりその姿は消えた。
「さすが紫ッ! 私に出来ないことを平然とやってのけるッ! そこにしびれないッ! あこがれないィ!」
「何気に反発してるわね。……まぁいいわ。終わったことだし、ご飯に―――」
―――たーちあがーれーけだーかくまーえー
『え?』
―――さだーめーをうーけーたせーんーしよー
「え、え、な、なんで霊夢の声が聞こえてくるの!? スキマからは私が出さない限り何も出てこれないのに!?」
―――……ちちをもげー!
「歌違う!?」 ガシャァァァァン
「とう!」
ばりーんとガラスの割れるような音と甲高い声が響き、罅割れたスキマから荒○風タッチの霊夢が飛び出してきた。もはや何でもありか。
「私、参上! 最初からクライマックスよ! 無論あんたらの乳が!」
『意味わかんねー!』 ガビーン
「清めてやるッ! その邪悪なる乳房ッ!」
どっちかというとお前のが邪悪だよ、とは魔理沙の弁。一方紫は自分の力を簡単に返されたことに驚いたものの、すぐに気持ちを切り替えた。しかし「あそこにいるのは霊夢の形をした政治的なアレよ!」と思っている辺り、現実逃避の気がしないでもない。
「魔理沙、私はスキマから不意をつくわ。あなたは足止めを!」
「ああ、任せろ! ……出来るかなぁ」
嫌な予感がしたものの、ここでやらねば人生がゲームオーバーになりそうなので、やるしかない。霊夢に居直り、拳を握る。
「いくぜ、霊夢!」
「来い、遊戯!」
(社長ー!?) ガビーン
「ふぅん」と例の口癖をかまし、霊夢は札の山に手を置いた。そしてにやり。
(いつの間に決闘者になったんだ、こいつ)
「私のターン! ドロー! 札を生贄に、封魔陣を攻撃表示で召喚!」
「通常召喚なしで生贄召喚するなよ」
「封魔陣の特殊効果発動! 魔と名がつくモンスターに対して攻撃力が全速前進DA☆」
「私モンスター扱い!?」
「強靭! 無敵! 最強!」
展開された封魔陣がこころなしか青眼の白竜のように見えなくもない。ここは天空○闘場ではなくマヨヒガなのに、場違いも甚だしい。
「さらに私の特殊能力発動! 自分よりも胸が大きい、もしくは大きくなりそうなやつを可能な限り力ずくで取り除く!」
「特殊能力でも何でもなく、それは単なる我儘だー!」
「これが博麗の巫女だ! ワハハハハー!」
全国百万人の巫女フェチが今の霊夢を見たら幻滅必至だろう。「こんなのが由緒正しい博麗の巫女なのか」と魔理沙が思い、付き合いを考えたのは言うまでもない。
「なんの! リバースマジックオープン! マスタースパーク!」
「何! マスタースパークのスペルカードだと!」
「こいつは私の気分で好きな時に発動出来る! とりあえず力押しで相手を攻撃するぜ!」
どっちもどっちだろ、と紫はツッコミつつ、スキマを開いた。
(足止めは出来ているようだし、この分なら簡単に作戦は遂行できそうね)
「悪いが霊夢、これでおねんねしな!」
最大出力のマスタースパークは山をも吹き飛ばす。それを霊夢に向けて放つのは些かやりすぎかもしれないが、今の魔理沙にそこまで考える余裕は無い。やらなければやられるのだ。
「かーめーはーめー……じゃなくて、マスタースパーク!」
どこから見ても芋夢想のアレはこれです。ありがとうございました。
「流石のお前も最大出力の前じゃあ防御に回るしかないだろうよ!」
無意識のうちに死亡フラグを築き上げていく魔理沙だが、自分自身では気付かないから死亡フラグなのである。
小さいミニ八卦炉から放たれたとは思えないほどのごんぶとレーザーが、霊夢に向かって集束していく。そして程なく、粉塵を巻き上げつつ地表を焼き払った。膨大な量の砂煙が辺りを覆っていく。
「やったか!?」
―――嗚呼、それはもっとも言ってはいけない言葉。やったと思って本当にやったことなんてないのだから。
そして視界が晴れ始めた頃、魔理沙は仁王立ちの人影を見た。立っている事にぎょっとしたが、「まあいくらなんでもダメージは与えただろう」と希望を捨てずに目を凝らしたのだが、
「……まだだ! 私の乳は、こんなものじゃない!」
「ええええ、無傷ー!?」
服の一つも破れていないし、怪我もなさそうだ。某覇王のセリフを改変しているし、ぴんぴんしている。
「さあ霊夢、おいたはここまでよ!」
そして両者が再び激突、と思われた刹那。スキマが霊夢の背後に現われ、紫が勢いよく飛び出した。なるほど、虚をつく絶好の機会として今以上の瞬間は無い。魔理沙の表情がぱっと明るくなった。
だが、話を展開させなければいけないという大人の事情により物理法則すら無視出来る巫女にとっては些細な障害にすらならない。
ぐん!
がっ。
突如霊夢が後ろを向かずに左腕を動かし、紫の胸倉を掴んだ。
「え?」
「え?」
紫、魔理沙の両者の口から間の抜けた声が漏れる。
そして霊夢は、「にやり」と笑った。
「Secret Sword Two,グレンカイナー!」
「フタエノキワミアッー!」
爆発と共に謎の断末魔を残し、紫は吹っ飛んだ。それはもう勢いよく。マヨヒガの中へと。
その直後「紫様、いくら食い意地が張ってるからって吹っ飛んで戻ってくることはないでしょう」と式神の落ち着いた声が聞こえてきて、「……ああ、夕食が!」と続く。そして声の主の八雲藍が出てきた。橙がいないが、おそらく危険だと思い、置いてきたのだろう。
「おのれ紅白! よくも夕食を……すいませんごめんなさい勘弁してください」
(はやっ!)
猛る霊夢を見て、一目で「あ、無理無理、これ無理、らめぇ、死んぢゃうううう」と感じたらしい。ああ、主人への忠誠(?)も本能には勝てないのか。藍はおとなしく引っ込もうと―――
したの、だが。
「なんというボンキュボン。一目見て敵と分かってしまった。この式は間違いなく水責めにする。Q・B・K! Q・B・K!」
(ボンキュボンっていつの死語だよ)
「ひぃ、おたすけ!?」
どうやら、視界に入った、自分よりも色々大きい(または大きくなりそうな)奴は片っ端から粉砕玉砕大喝采ぜんめつめつめつするつもりのようだ。唯一幻想郷で法を持つ博麗の者だが、自身が無法者になってしまっては意味が無い。
(だから次は絶対勝つ為に、私ラストワードだけは最後までとっておくー)
紫がやられたことで、魔理沙の思考回路はショート寸前だ。今すぐ(私を助けてくれる誰かに)会いたいよー、と謎の歌を口ずさんでいる。
「私は、勝ぁつ! 私はその時の気分により何回でも攻撃することが出来る!」
「ヘル巫女!?」
「いくぞ! 夢想封印、グォレンダァ!」
霊夢の手から大量の札が、宙へと放たれた。
瞬間、五連打では済まない無数の夢想封印が魔理沙と藍に殺到していく。しかし藍はともかく、マスタースパークを破られた今、魔理沙に打てる手はもはやない。
(当方に迎撃の用意……なし!)
魔理沙が半ば諦めた、その時。
「マヨヒガが喧しいって聞いたから来てみれば、中々楽しいことになってるわね」
ひらりと、番になっている死蝶が魔理沙の前を舞った。
「ゆ、幽々子!?」
「話は後よ、今はここから離れましょう」
その直後夥しい数の蝶が魔理沙を覆い、夢想封印の軌道に対してやや平行になるように固まった。これにより、夢想封印は逸れていった―――
「へ?」
のはいいのだが、その先に、不幸にも藍がいた。
「……ごめんね藍! あなたの犠牲は無駄にしないでごわす!(ぐっ)」
「ゆ、幽々子さmひでぶっ」
幽々子は魔理沙を抱え、後ろを見ないように全速力で離陸していった。普段はぽわぽわしているのに、本気を出せばかなりの速度で飛べるらしい。あっという間にマヨヒガは豆になった。
え、続くの?
そしてすべて理解できた俺はもう駄目だ
面白かったです。
続きがあるのかな?どきどき。