迷いの竹林の夜は暗い。
魔法の森と違い、月明かりが差さぬわけではない。しかし方向感覚も平衡感覚も狂わすこの場所では、明るい月すら、足元を照らす光ではなく、何処かおどろおどろしく見えるのだ――少なくとも尋常の者にとっては。
妖怪も棲み付き、決して足を踏み入れたくない場所の一つである筈の危険区域に、しかし人影があった。下弦の月の下を躓きながらも懸命に走るのは、齢、十を数えて間もないであろう少年の姿である。質素な佇まいは妖怪退治を生業とする者のそれではなく、里に住む普通の人間であることが見てとれた。
里の人間が此処に足を踏み入れる理由は、二つしか存在しない。
一つは、熟練の職人による筍採り。もう一つは、永遠亭なる屋敷に行くことである。その屋敷には、如何なる難病も快癒させると評判の尋常ならざる薬師がいる。俄かには信じがたい話だが、幸運にも危険な竹林を抜け、実際に命を永らえた里の者もいるとの話だった。
「母さん、待ってろ……」
己を叱咤するように呟きながら走る少年もまた、病に伏した母のため特効薬を求めて迷いの竹林を訪れたのである。暗闇の中、野を駆けた足は無数の擦り傷を作っていたが、意に介す様子は無い。その表情と足取りはまさに必死と表現として然るべきものであり、妖怪の存在すら忘れているかのようであった。
しかし、妖怪の方が、獲物を忘れるわけではない。
「!? わっ!」
光一つない暗闇は突然であった。行く手を遮っていた無数の竹も、朧に獣道を照らしていた月光も、何もかもが消え去った。驚きのあまり立ち止まろうとした少年は、見えない石に躓いて転倒し、漸く、自分が何も見えなくなっていることに気付いた。その代わり、何か騒がしい音が遠くから近付いて来る。それも、上から――。
「I want to eat a human, because I AM NIGHT BIRD !!」
それは歌、だった。少女のように清冽な声なのに、大音声で叫ぶように紡がれる、およそ少年の知るどの歌とも似ていない激しい歌である。時折休符のように入る“ちん、ちん”という澄んだ声音に、少年は総毛だった。
ミスティア・ローレライ――里でも有名な夜雀の妖怪である。人を盲目にする力を持ち、翼で自在に空を駆け、不吉な鳥たちを統べる気紛れな歌姫。
そのことを思い出していると、ふと、歌が止んだ。何処かへ行ってくれたのか――
「人間発見!」
少年の肩が跳ねる。声は、逆にすぐ目の前で聞こえた。獲物を見定め、近付いてきたのだ。
「怖がってる怖がってる。人間そうでなくっちゃねえ。あー、お腹空いていたんだ。あんたは今日のメインディッシュよ!」
絶望的な宣告。どう足掻いても自分が勝てる存在ではない。冷や汗が流れ、頭の中が「どうしよう」で一杯になる。
「何か言ったら? 別に言わなくてもいいけど~。一応聞いておくけど弾幕ごっこできる? できないわよね。それじゃ私の勝ちぃ~!」
手が近付いて来るのを空気の動きで察知し、うわあ、とか、何とか叫び、踵を返して少年は逃げた。母の薬を貰うどころか、自分が食べられるかどうかの危機に瀕して、足は何とか動いてくれた。何も見えず、硬いものを踏み、竹にぶつかりながら、こけつまろびつ、逃げ出した。文字通りの必死だった。
それなのに。
「人間て遅いね」
夜雀は前にいた。当然だ。相手は飛べるのだから。自分を追い越すなんて難なくできる。絶望のあまり、少年は座り込んでしまった。
「お願い……母さんが病気なんだ。薬貰わなきゃいけないんだ。見逃してよ!」
「知らな~い」
必死の懇願にも、妖怪はにべもない。少年は、余りにも唐突で理不尽で、ある意味当然の結末に、涙を堪えることができなかった。自分はまだいい。でも母親を守れない己を呪った。
その時だった。
夜雀の息を呑む音と、「見えない筈の目に、闇を切り裂く炎が映った」のは。
紅い、紅い炎。巨大な猛禽を思わせる形のそれ。息を呑むほどの美しさと、突然の展開に対する驚きで、眼が見えないのに見えるものがある、という矛盾には最初気付かなかった。
「その辺にしなよ」
次に飛び込んできたのは、言葉。少し低めの少女の声。夜雀の舌打ちが重なる。
「ちょっと……邪魔しないでよ!! 今、久々にいい食材に出会ってんのよ」
「その食材に用があるのよ」
「なら、力づくで奪うことだわ!」
戦いの火蓋は切られた。夜雀が絶叫に続き、強大な魔力を秘めた歌を紡ぎ上げる。途端に竹林中がざわめき、無数の羽音と鳴き声が空間を埋め尽くした。――炎以外は依然見えない少年には知る術が無いが、竹林中の鳥たちが、ミスティアの魔力によって動いているのだ。鳥類の急降下は、種によっては時速300kmを越えることすらあり、その破壊力は人間が武器を使った際のそれを軽く凌駕する。夜盲になる能力と合わせれば、回避不可能の状態に、鳥という名の弾丸を思う存分叩き込めることになる。まさに、能力を絶妙に組み合わせた必殺の布陣。――スペルカード、夜雀『真夜中のコーラスマスター』。
「先手必勝! GUN-HO!!」
鳥類が殺到し、肉が貫かれる嫌な音が途切れることなく響き渡る。目の前の存在が繰り広げるのは「弾幕ごっこ」――人攫いと妖怪退治を模した競技だが、格闘技と同じで死に至る可能性もある。ましてや、夜雀は手加減などできるタイプではないのは明白。少年は、思わず見えていない目を瞑り、耳を塞いだ。それでも、人が倒れる音が、聞こえてしまった。
「お呼びじゃないってのよ! 死んだら食べてあげるわよ。人間なら」
勝ち誇り呵呵大笑するミスティア・ローレライ――
だが少年は聞いた。
倒れた筈の闖入者の、小さな、しかし不敵な笑い声を聞いた。
「これじゃ、死んではあげられないね」
響いた声は明瞭にして清澄。今しがた体を貫かれたもののそれではない。少年は目を開けた。未だ何も見えない中、より一層赤々と燃え盛る炎だけがはっきりと脳裏に焼きついた。
「不死『火の鳥 -鳳翼天翔-』」
「な、なんだって!? そんなのインチキよ!」
「こういう体質だからね。悪く思わないでよ」
そして火炎の猛禽は、爆発的に巨大化する。そう言えば少年は聞いたことがあった。火の鳥という神獣は、炎の中で何度でも再誕し、決して滅びないのだと。死の概念そのものを焼き尽くす浄化の炎。
そんなものを操る怪物に、まだ戦意を見せるだけ、夜雀もたいしたものと言えるだろう。
「火の鳥だろうと、鳥なら私のものよ!」
「残念ながら、あんたの支配力程度なら、こいつは燃やし尽くすよ」
響いた歌声にも、火の鳥は全く動じない。
「なら、何回でもぶっ飛ばしてあげるわよ! 行けー!!」
命じる歌に、再び無数の鳥たちが羽ばたき、突撃を敢行する。
だが、遅すぎた。
「そろそろこっちの番。順番、守りなさいよ」
言葉と同時に、巨大な火の鳥が羽ばたいた。その一打ちで、嘴持つ弾丸たちが蹴散らされる。
「な!」
「今夜の弾幕は、お嬢さんのトラウマになるよ」
その手から放たれた火炎の鳥は、煌めく火の粉を燐粉のように撒きながら、ミスティア目掛け直進した。概念すら焼く炎には、いくら盲目にした所で意味が無い。その力ごと焼き尽くされているのだから。
「こっの……」
「無駄無駄!」
咄嗟に無数の鳥で壁を作るも、薄紙を破るよりも容易く吹き飛ばされ――
「あ、あんた……何者!?」
「ただの、健康マニアの焼き鳥屋だ」
火の鳥がミスティアを直撃した。
夜雀が空を裂き、叫び声とともに遥か彼方まで吹っ飛んでいくのを聞きながら、少年は呆然とするほかなかった。
自分を助けてくれた? でも、何故?
安堵と疑問とが洪水のように溢れ出し、思考をまとめることができない。
「おい、お前」
「はっはい!」
突然呼ばれて顔を上げると、恩人の顔が見えた。気付いていなかったが、夜雀が敗北した時点でその能力は解除されていたのだ。
そして眼を奪われた。
里の者には無い、白い髪と紅い瞳。モンペのポケットに手を突っ込んで無造作に立つ姿は精悍さを感じさせる。
だが何より、人間離れした彼女の姿を、少年は美しい、と思った。時と場合をすべて忘れ、一瞬見入った。
「何か私の顔についてる?」
「えっ!? あ、いえ……」
バツの悪い少年に構わず、恩人の少女はあっそう、と頷くと、
「事情は聞かせてもらったが、一人で来るのは感心しないよ。少なくとも昼間に来るんだね」
「で、でも、母さんが……」
「それであんたまで死んだら元も子もないだろ。気持ちは分かるけど、考えたほうがいいわよ。勇気と無謀は違う」
「……」
しゅんとする少年を見下ろした後、少女は溜息をついて、踵を返した。
「行くわよ」
「え、何処へ?」
突然の言葉に、少年はきょとんとする。少女は振り向きもせず、そのまま歩き出しながら答える。
「永遠亭」
「え! それじゃ、その」
「何かの縁でしょう。送っていくくらいするわよ」
その言葉に、少年はまたきょとんとして、それからゆっくりと理解の色を浮かべた。
「あ……ありがとうございます!」
慌てて立ち上がり後を追う彼は、ふと、抱いた疑問を口にした。
「あの……あなたは、何者なんですか?」
すると少女は立ち止まり、振り向いた。その表情は悪戯めいた笑み。それを見た少年の鼓動が高鳴る中、名は告げられた。
「藤原妹紅。――言ったでしょう、ただの健康マニアの焼き鳥屋よ」
(続く)
魔法の森と違い、月明かりが差さぬわけではない。しかし方向感覚も平衡感覚も狂わすこの場所では、明るい月すら、足元を照らす光ではなく、何処かおどろおどろしく見えるのだ――少なくとも尋常の者にとっては。
妖怪も棲み付き、決して足を踏み入れたくない場所の一つである筈の危険区域に、しかし人影があった。下弦の月の下を躓きながらも懸命に走るのは、齢、十を数えて間もないであろう少年の姿である。質素な佇まいは妖怪退治を生業とする者のそれではなく、里に住む普通の人間であることが見てとれた。
里の人間が此処に足を踏み入れる理由は、二つしか存在しない。
一つは、熟練の職人による筍採り。もう一つは、永遠亭なる屋敷に行くことである。その屋敷には、如何なる難病も快癒させると評判の尋常ならざる薬師がいる。俄かには信じがたい話だが、幸運にも危険な竹林を抜け、実際に命を永らえた里の者もいるとの話だった。
「母さん、待ってろ……」
己を叱咤するように呟きながら走る少年もまた、病に伏した母のため特効薬を求めて迷いの竹林を訪れたのである。暗闇の中、野を駆けた足は無数の擦り傷を作っていたが、意に介す様子は無い。その表情と足取りはまさに必死と表現として然るべきものであり、妖怪の存在すら忘れているかのようであった。
しかし、妖怪の方が、獲物を忘れるわけではない。
「!? わっ!」
光一つない暗闇は突然であった。行く手を遮っていた無数の竹も、朧に獣道を照らしていた月光も、何もかもが消え去った。驚きのあまり立ち止まろうとした少年は、見えない石に躓いて転倒し、漸く、自分が何も見えなくなっていることに気付いた。その代わり、何か騒がしい音が遠くから近付いて来る。それも、上から――。
「I want to eat a human, because I AM NIGHT BIRD !!」
それは歌、だった。少女のように清冽な声なのに、大音声で叫ぶように紡がれる、およそ少年の知るどの歌とも似ていない激しい歌である。時折休符のように入る“ちん、ちん”という澄んだ声音に、少年は総毛だった。
ミスティア・ローレライ――里でも有名な夜雀の妖怪である。人を盲目にする力を持ち、翼で自在に空を駆け、不吉な鳥たちを統べる気紛れな歌姫。
そのことを思い出していると、ふと、歌が止んだ。何処かへ行ってくれたのか――
「人間発見!」
少年の肩が跳ねる。声は、逆にすぐ目の前で聞こえた。獲物を見定め、近付いてきたのだ。
「怖がってる怖がってる。人間そうでなくっちゃねえ。あー、お腹空いていたんだ。あんたは今日のメインディッシュよ!」
絶望的な宣告。どう足掻いても自分が勝てる存在ではない。冷や汗が流れ、頭の中が「どうしよう」で一杯になる。
「何か言ったら? 別に言わなくてもいいけど~。一応聞いておくけど弾幕ごっこできる? できないわよね。それじゃ私の勝ちぃ~!」
手が近付いて来るのを空気の動きで察知し、うわあ、とか、何とか叫び、踵を返して少年は逃げた。母の薬を貰うどころか、自分が食べられるかどうかの危機に瀕して、足は何とか動いてくれた。何も見えず、硬いものを踏み、竹にぶつかりながら、こけつまろびつ、逃げ出した。文字通りの必死だった。
それなのに。
「人間て遅いね」
夜雀は前にいた。当然だ。相手は飛べるのだから。自分を追い越すなんて難なくできる。絶望のあまり、少年は座り込んでしまった。
「お願い……母さんが病気なんだ。薬貰わなきゃいけないんだ。見逃してよ!」
「知らな~い」
必死の懇願にも、妖怪はにべもない。少年は、余りにも唐突で理不尽で、ある意味当然の結末に、涙を堪えることができなかった。自分はまだいい。でも母親を守れない己を呪った。
その時だった。
夜雀の息を呑む音と、「見えない筈の目に、闇を切り裂く炎が映った」のは。
紅い、紅い炎。巨大な猛禽を思わせる形のそれ。息を呑むほどの美しさと、突然の展開に対する驚きで、眼が見えないのに見えるものがある、という矛盾には最初気付かなかった。
「その辺にしなよ」
次に飛び込んできたのは、言葉。少し低めの少女の声。夜雀の舌打ちが重なる。
「ちょっと……邪魔しないでよ!! 今、久々にいい食材に出会ってんのよ」
「その食材に用があるのよ」
「なら、力づくで奪うことだわ!」
戦いの火蓋は切られた。夜雀が絶叫に続き、強大な魔力を秘めた歌を紡ぎ上げる。途端に竹林中がざわめき、無数の羽音と鳴き声が空間を埋め尽くした。――炎以外は依然見えない少年には知る術が無いが、竹林中の鳥たちが、ミスティアの魔力によって動いているのだ。鳥類の急降下は、種によっては時速300kmを越えることすらあり、その破壊力は人間が武器を使った際のそれを軽く凌駕する。夜盲になる能力と合わせれば、回避不可能の状態に、鳥という名の弾丸を思う存分叩き込めることになる。まさに、能力を絶妙に組み合わせた必殺の布陣。――スペルカード、夜雀『真夜中のコーラスマスター』。
「先手必勝! GUN-HO!!」
鳥類が殺到し、肉が貫かれる嫌な音が途切れることなく響き渡る。目の前の存在が繰り広げるのは「弾幕ごっこ」――人攫いと妖怪退治を模した競技だが、格闘技と同じで死に至る可能性もある。ましてや、夜雀は手加減などできるタイプではないのは明白。少年は、思わず見えていない目を瞑り、耳を塞いだ。それでも、人が倒れる音が、聞こえてしまった。
「お呼びじゃないってのよ! 死んだら食べてあげるわよ。人間なら」
勝ち誇り呵呵大笑するミスティア・ローレライ――
だが少年は聞いた。
倒れた筈の闖入者の、小さな、しかし不敵な笑い声を聞いた。
「これじゃ、死んではあげられないね」
響いた声は明瞭にして清澄。今しがた体を貫かれたもののそれではない。少年は目を開けた。未だ何も見えない中、より一層赤々と燃え盛る炎だけがはっきりと脳裏に焼きついた。
「不死『火の鳥 -鳳翼天翔-』」
「な、なんだって!? そんなのインチキよ!」
「こういう体質だからね。悪く思わないでよ」
そして火炎の猛禽は、爆発的に巨大化する。そう言えば少年は聞いたことがあった。火の鳥という神獣は、炎の中で何度でも再誕し、決して滅びないのだと。死の概念そのものを焼き尽くす浄化の炎。
そんなものを操る怪物に、まだ戦意を見せるだけ、夜雀もたいしたものと言えるだろう。
「火の鳥だろうと、鳥なら私のものよ!」
「残念ながら、あんたの支配力程度なら、こいつは燃やし尽くすよ」
響いた歌声にも、火の鳥は全く動じない。
「なら、何回でもぶっ飛ばしてあげるわよ! 行けー!!」
命じる歌に、再び無数の鳥たちが羽ばたき、突撃を敢行する。
だが、遅すぎた。
「そろそろこっちの番。順番、守りなさいよ」
言葉と同時に、巨大な火の鳥が羽ばたいた。その一打ちで、嘴持つ弾丸たちが蹴散らされる。
「な!」
「今夜の弾幕は、お嬢さんのトラウマになるよ」
その手から放たれた火炎の鳥は、煌めく火の粉を燐粉のように撒きながら、ミスティア目掛け直進した。概念すら焼く炎には、いくら盲目にした所で意味が無い。その力ごと焼き尽くされているのだから。
「こっの……」
「無駄無駄!」
咄嗟に無数の鳥で壁を作るも、薄紙を破るよりも容易く吹き飛ばされ――
「あ、あんた……何者!?」
「ただの、健康マニアの焼き鳥屋だ」
火の鳥がミスティアを直撃した。
夜雀が空を裂き、叫び声とともに遥か彼方まで吹っ飛んでいくのを聞きながら、少年は呆然とするほかなかった。
自分を助けてくれた? でも、何故?
安堵と疑問とが洪水のように溢れ出し、思考をまとめることができない。
「おい、お前」
「はっはい!」
突然呼ばれて顔を上げると、恩人の顔が見えた。気付いていなかったが、夜雀が敗北した時点でその能力は解除されていたのだ。
そして眼を奪われた。
里の者には無い、白い髪と紅い瞳。モンペのポケットに手を突っ込んで無造作に立つ姿は精悍さを感じさせる。
だが何より、人間離れした彼女の姿を、少年は美しい、と思った。時と場合をすべて忘れ、一瞬見入った。
「何か私の顔についてる?」
「えっ!? あ、いえ……」
バツの悪い少年に構わず、恩人の少女はあっそう、と頷くと、
「事情は聞かせてもらったが、一人で来るのは感心しないよ。少なくとも昼間に来るんだね」
「で、でも、母さんが……」
「それであんたまで死んだら元も子もないだろ。気持ちは分かるけど、考えたほうがいいわよ。勇気と無謀は違う」
「……」
しゅんとする少年を見下ろした後、少女は溜息をついて、踵を返した。
「行くわよ」
「え、何処へ?」
突然の言葉に、少年はきょとんとする。少女は振り向きもせず、そのまま歩き出しながら答える。
「永遠亭」
「え! それじゃ、その」
「何かの縁でしょう。送っていくくらいするわよ」
その言葉に、少年はまたきょとんとして、それからゆっくりと理解の色を浮かべた。
「あ……ありがとうございます!」
慌てて立ち上がり後を追う彼は、ふと、抱いた疑問を口にした。
「あの……あなたは、何者なんですか?」
すると少女は立ち止まり、振り向いた。その表情は悪戯めいた笑み。それを見た少年の鼓動が高鳴る中、名は告げられた。
「藤原妹紅。――言ったでしょう、ただの健康マニアの焼き鳥屋よ」
(続く)
みすちぃが英語で叫んで出てくるところがなんか良かったです。
文量もめんどくさがりで読むのがあんまり好きじゃない私にはちょうど良かった。
点数は続きを読ませてもらってからつけさせていただきます。