Coolier - 新生・東方創想話

紅魔館の主は誰だ 前編

2007/08/28 06:45:10
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紅魔館の主は誰だ








お姉様……のことを私はあいつと呼んでいる。
特にすごい女だとも思えないし、
私よりも弱いし。

で、あいつが病気になった。
たいした病気じゃないらしい。

ただ、そのとき、紅魔館で噂が流れたのである。
もし、レミリアお嬢様が死んだら、
この紅魔館は、どうなってしまうのだろうか。
跡を継ぐものは、誰なのか。

私は今日も館の中を散歩していた。
みんな恐れて私に近づかない。
気持ちがいい。
誰よりも強い私は、誰よりも素敵なのだ。
しかし、誰もそのことを認めようとはしなかった。
廊下を歩いていると、曲がり角に隠れたところから、
メイド妖精たちの声が聞こえる。
「お嬢様が死んだら、どうなるんだろうねえ」
「そりゃ、咲夜様が継ぐことになるんじゃない?」
「でも人間じゃん」
「人間とか、そういうの、関係ないよ。だって、咲夜様以外誰が考えられるの?」
「うーん」
 妖精は考えるそぶりをする。
「そりゃ、いないなあ。パチュリー様は、もう、別の館主やっちゃってるし。器は大きいけど、やりたがらないだろうねえ。面倒だからって」
「パチュリー様じゃなけりゃ、やっぱ咲夜様でしょう?」
「そうだよねえ」
「美鈴さんは、なんかそういう柄じゃないし」
私は気配を消して、聞いていた。
なぜ私の名が出てこないんだろう。
私でしょう?
お嬢様の血を引いているのは私でしょう?
「フランドール様は?」
「!」
慌ててフランドールは耳を傾ける。
やっと思い出したか、私のことを。
一番最初に思い出しなさいよ。
ドキドキしながら、そんなことを思う。
「フランドール様? あのキチガイがー?」
「キチガイって、まずいって! 誰かに聞かれてるかもしれないじゃん!」
「誰も聞いていないって。聞かれたところで困ることあるの? 周知の事実じゃないの」
私の頭に強い衝撃が走った。
血の気が引くのが分かる。
怒りと不安が、私を苛める。
私は、キチガイ、だって?
「フランドール様って、気が狂っているというか、ほんと、近寄りたくないよね。なんか、気持ち悪いんだよ」
「そ、そこまでいう?」
「いい奴ぶるなよ。あんただって本当はそう思ってるでしょ」
「……うん、ま、まあ」
「ね? あんな化け物がいるから、嫌なの、ここ。お嬢様の我侭はかわいいけどさ、アレは半端ないよね」
アレ。
アレって、私のこと。
「あはははっ」
「フランドール様!?」
「何を話してたのかしら? 私にも教えてー?」
「ええと、あの」
「私のこと、アレっていっていたよね」
「いえ、違います! アレだなんて、そんな」
「ね? ね? ね? ね? ね? ね?」
消し飛ばしてやった。
もう一匹の方も、壊してやった。
「あーあ」
自分の声の語尾が必要以上に強くなっているのが分かる。
その辺の壁を蹴ってやったら、ぽっこりと穴が空いた。
体全体が熱い。レーヴァンテインのように燃えている。
この熱は、自室に篭もってもしばらく冷えやしなかった。









私って本当に可哀想な女よねえ。
つくづくそう思うよ。
なんでこんなに嫌われなければならないのか。
しなびたようなため息が出た。
疲れている。
疲れているがまだ、頭は熱い。
次期館主が咲夜だって?
人間ごときになんでこの館をまかせなくちゃならないの?
ありえないね。
あいつに、聞いてこよう。
あいつは、きっとこう答えるだろう。
『もちろん私の後継ぎはフランに任せるに決まっているでしょう?
 なんていったって、血筋もそうだし、
 力も圧倒的に貴方は高いんだから』
って、こういうふうにゆうに違いない。









「ねえお姉様」
あいつに声をかける。
きっと私は笑顔だっただろう。
可愛い笑顔だったに違いない。
「ん?」
あいつは私を見てきた。
あいつの目は、とても紅くて、きれいだった。
でも、私はそれをはるかに超えるほど美しいだろう。
能力からして、
圧倒的に私のほうが、あいつより上である。
あいつが言った。
「なに?」と。
面倒そうな、見下すような目つきで、見てくる。
私は、怒りと、そして強い粘っこい不安を感じた。
私より格下の癖になんでそういう目で見る?
喉に唾が溜まる。
ごくり、と飲み込む。
今から自分がいうことに、かなり緊張をする。
「ねえお姉様」
「何よ」
「もし、もしさあ、お姉様がいなくなっちゃったら、この館を継ぐのは誰になるのかな?」
「なんでそんなこと聞くの?」
怪訝そうにあいつは私を睨んだ。
「そんなに私に消えて欲しいのかしら?」
「ち、違うよ!」
「まあいいわ、答えてあげる」
あいつは、ぞっとするような笑みを浮かべた。
嫌な予感がした。
「次の館主は、そうね、咲夜ね。パチュリーもいいけど。やっぱり咲夜かな。総合的に見て」
私は、自分のアイデンティティが一瞬に崩れるのを感じた。
何かに力を吸い込まれたかのように私は動けなくなった。
喉が、固い。
唾を飲み込みたいのに、動かない。
私の目は、何処を見ている。
見ているのは、私の存在というものが壊されていく灰色のイメージ。
「ふふふ。フラン、まさか貴方、自分がなれるとでも思ってたのかしらね。うぬぼれるのも大概にね? 館主は、咲夜か、さもなくばパチェ。貴方なわけがないじゃない、何を期待していたのかしら?」
「え? えっ? あれ?」
「貴方の考えなんてお見通しよ。だって、あまりにも幼稚なんだもの。私の幼稚より、ずっとずっと幼稚な赤ちゃん。周りのことが何にも、見えていない。自分の世界に引きこもって、いっつも自分が傷つかないようにしてる。誰の都合も考えていない。気に入らない者、図星をいってくる者は、容赦なく壊してしまう。ね? そうよね」
私は、あいつの首を絞めていた。
床にあいつの頭を何度も打ち付けてやった。
それでもあいつは、哂いながら、見てくる。
「ねえ、フラン。私も壊してしまうの? それで? どうするのかしら? 私を殺して館主になるのかしら。私を殺したら咲夜を殺してパチェを殺して、館主になるのかしら? そうなったとしても、だれも貴方についてきてくれる優しいひとはいないわ。いくら優しい中国でも愛想をつかして、故郷に帰るでしょう」
私は、あいつの頬を殴りつけた。
でも、あいつは全然平気なのだ。
「早く、壊したいなら壊しなさいよ。もう、私は疲れたのよ、フラン。もう、貴方のお守りは疲れるの」
「うわああああ! お姉様ああああ」
私は、目に水が溜まって、あいつの顔がぼやけてきた。
あつい、あつい、頭があつい。
沸騰して燃えている。意味が分からない。
私の存在理由はどこへ行った。
あいつを殺したい。
でも、殺せない……壊したいけど壊せない。
こんなことは初めてだった。
壊したかったら、全て壊してきた私なのに。
あいつを、壊すことがどうしてもできない。
私は、あいつの部屋から抜け出した。
全速力で部屋へ飛ぶ。
途中、掃除しているメイドたちを粉々に壊して、私は部屋に戻ったのだ。
部屋に、篭もる。
自分の中に、篭もる……。








パチュリーが、本を読んでいるのを、私は見ていた。
たぶん、私は死んだような顔をしているだろう。
「ねえ、それ、面白いの?」
「それを聞いたところでどうするのかしら?」
パチュリーは静かに言った。
「面白かったら私もやる」
「面白いわ」
大量にある本の中、一冊の紅い本を取り出した。
開いて、数行読んでみる。
頭がむずむずしてきて、私は本を壊した。
「パチュリー、全然面白くないじゃないの!」
なぜパチュリーは嘘を教えるんだろう。
私に価値がないからか。
私に本当のことを教える価値がないからか。
パチュリーは、本を閉じて、私を見てきた。
陰気な目つきだったけど、嫌な目つきとは違っていた。
しかし、その目つきが気に入らない。
「ねえ! 面白くないじゃないの!」
「妹様、面白いというのは、あくまで私にとって面白いということですよ。妹様にとっては面白くない可能性もあります」
「それを早くいいなさいよ!」
パチュリーの鈍さに、私は怒鳴った。
パチュリーは、睨みつけてきた。
なに? 魔女の分際で。
パチュリーは、私の目の前まで歩いてきた。
「何よ、何がしたいの、パチュ、」
いきなり体が動かなくなった。
何が起こったのか分からない。
気づいたら、十字架に縛り付けられていた。
動けない。
周りを流れる水で囲まれている。
「貴方のその他者を見下す目がすごく、気に入らなかったの」
パチュリーは、言った。
流れる水も、この十字架も、パチュリーの魔法だ。
流れる水が、どんどん私に迫ってくる。
私は、恐かった。アレに触ったら死んでしまう。
流れる水が、私に近づいてくる。
どんどん、近づいてくる。
水滴が、私のふとももに飛んできた。
鋭い痛みが走った。
「貴方が周りの人たちにしていることは、こういうことよ」
パチュリーが淡々という。
「助けて、あ!」
私は無我夢中で悲鳴を上げた。
「みっともないわね。ええ?」
パチュリーが哂う。
「なに、いばりくさっちゃってたのに、ひぃーって、情けない」
怒る暇もない。
恐い!
水が痛い! 水しぶきが私にかかる。
肌が焼ける。肌が向ける。
肉がむき出しになる。
腕がちぎれる。
「!?」
パチュリーが、私の口をこじ開けた。
あわてて私は閉じようとしたが、動かない。
パチュリーが私より力があるなんて、在り得ない。
どういうこと?
なんでこんなことになっているのか。
「ほら、貴方の大好きな」
パチュリーが私の口の中にねじ込もうとしているのは、にんにくだった。
私は、恐怖で、失禁してしまった。
でもそんなことはあとから知った事だ。
気づいたら、私はパチュリーと向かい合わせになって、
座っていた。
訳がわからない。
パチュリーが、本ごしに私を見てくる。
相変わらず陰気な目で見てくる。
見てくる。見てくる。
私は、逃げ出そうと思った。
腰を浮かせようとしたそのときに、
「妹様。……私の言いたいことを、分かってくれましたか?」
パチュリーが淡々とした口調で言った。
「……」
私は、椅子から立ち上がり、図書館の出口をぶち破り、
自分の部屋に篭もった。
そして自分の心の中に篭もった。
パチュリーが恐い。
パチュリーは、本当に、怖ろしい。
でもパチュリーは、私を壊さなかった。
何故壊さなかったのか。
パチュリーは私のことを情けないだの、みっともないだのいって、
私のことを痛めつけたのに、
私のことを壊さなかったのは何故なんだろう。
私がいても、パチュリーにはなんのプラスもないのに、
壊さないのは、どうしてだろうか。
ぐるぐると、私は自分の思考に篭もった。








私の中には、復讐の炎が渦巻いている。
なんで私だけつまはじき者なのか。
気に入らない。
私は、キチガイ。
周りのメイドたちが言っていた。
アレはキチガイだと。
アレとは、私。
みんな、私のことを、アレと呼ぶ。
なのに、あいつのことはお嬢様と呼ぶ。
あいつは、お嬢様。私は、アレ。
姉妹なのに、この格差。
「妹様」
「なに」
「妹様は、お嬢様に、負けているんですよ。何もかも」
そういったのは中国。
中国のくせに、生意気を言ってくる。
とても腹が立った。壊してやろうか。
気に入らないし。
壊してしまえ。
いや、駄目だ。壊すな。
いや、壊す。
いや、壊さないよ。
壊す、壊さない。
壊す、と思うと、どうしてもあいつのことが思い浮かぶ。
壊したいのに、あいつのこと、壊せなかった。
私よりも長い間生きているのに弱いあいつ、私は壊せなかった。
「お嬢様に、負けているんです」
あいつの自慢話なんて聞きたくない。
私は踵を返した。
「逃げるんですか」
後ろから中国の声が、私の心臓を抉った。
逃げるって?
「お嬢様は、本当に凄い方です。あの気品のある優雅なしぐさ、この紅魔館を圧倒的な頭脳で操作するカリスマ。この二つが、妹様とお嬢様の決定的な違いなんです」
「……うるさい! 中国の分際で、黙れ、壊すぞ!」
私は中国につかみかかった。
壊す壊す壊す壊す。
壊したい。
壊してみたい。
壊してどうする。
壊すとは何か。
壊して、……何になる。
壊せない……、中国を壊せない。
フラッシュバックする、あいつの顔が。
私を哂うあいつの顔が。
運命などという曖昧なものを操っているふりをしているあいつが。
中国はいう。
「そうやってつかみかかるところが、もう決定的に駄目なんですよ! 貴方は! 貴方は何にもわかっていない、貴方の姉のことが! 何にも見ていない。観察していない、いつも自分がほめられることばかり考えている! なぜお嬢様があんなにも絶対的に信頼されているのか、全然考えようとしないで、我侭ばかり言っている! だから閉じ込められるんですよ! 陰気臭い地下室に!」
地下室。
地下室で、私はいつも一人。
誰もいない。
たまに、咲夜がごはんを持ってくるだけ。
私はそのごはんを食べる。
おいしいかどうかなんてわかりゃしない。
咲夜の料理しか私は知らないから。
おいしいってどういうことか分からない。
「お嬢様に勝ちたいなら! お嬢様の立場をのっとりたいと思うなら! それなりの努力をしてください! 好き勝手して、好き勝手なこと言わないで! 迷惑なんです! 本当に貴方は、迷惑なの! 何の役にも立たない家畜のように要らないの!」
私は、中国をつかんでいる指の力を抜いた。
私は、中国を観察した。
中国は、悲しいような顔をしていた。
お願いしているような泣いているような顔であった。
目が少し濡れていた。
中国を観察する。
中国は、震えていた。
恐怖に震えている。
私が恐いのだ中国もやっぱり。
本当は私のことなんて見たくもないのだろう、
なぜなら私に壊されるのが恐いから。
私は中国を、壊さなかった。
私は、うつむいて、中国に背を向けた。
ふう、最近は心にたくさんダメージを負うなあ。
ずーんと沈んだような気持ちで、私はそう思った。
中国は何も言わなかった。
私は、部屋まで歩いていって、篭もった。
自分の心の中に篭もった。








私は、あいつを超えよう。
あいつを超えて、館主をのっとろう。
そのためには……努力をしなければならない。
あいつに勝る知性、あいつに勝る気品。

続きを、どうぞ。
ライス
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コメント



0.400簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
本気のパチェこわっ!

・・・パチェこぁ!
上のコメントを書いた後にふと思い浮かんで書いてしまいましたすみませんでも反省はしていないごめんなさい
2.無評価ライス削除
いえいえ、
こわ! と思ってくれて嬉しいです。
怒ると怖い彼女を描きたかったので。(笑)
7.60Admiral削除
フラン…どうなってしまうのか?
続きが気になります。