幻想郷の夏、緊張の夏。
自ら死地へ赴く哀・戦士の如く、生を奪い続ける砂漠をひたすら這うだけの蟲の如く、炎天下に意識を失いかけながら力仕事を続ける大工の如く、ユキは幻想郷を、満身創痍の身体に鞭打ちながらも歩き続けていた。
ぺちぺち。
「あ゛ーーーー死ぬーーーー。ゼウスをこれほど恨んだことはないわ……」
喋ったら喋っただけ舌が乾いていく。枯れそうな思考回路を頑張って動かした結果、もう喋らないようにしようと結論付けた。
ぺちぺち。
空を飛んだら涼しいかと思ったら、大して速く飛べないので、そうでもなかった。むしろ太陽が近い気がして嫌だった。ただでさえ暑いのに、暗い色の服が陽光を吸い込んで炎天下サウナで我慢大会状態だなんて……これは自分のせいですね。ポロリはないよ。
ぺちぺち。
「……」
ぺちぺち。
もうすぐ倒れそうなユキの後ろをとてとてついていくのは相方のマイ。表情ひとつ変えずに、ユキの背中に鞭打ちながら行軍す。鬼軍曹である。
ぺちぺち。
「……心なしか背中が痛いのは日差しのせいかなー?」
さっきの思考は暑さに吹き飛ばされ、結局喋りだすユキ。明らかに脳みそまで茹だっている。ぐつぐつにゃーにゃー。
「ねぇ、ユキ」
手を止めて、マイが呼ぶ。
「なにー」
「猫耳つけて」
「なんで!?」
振り返らずにはいられなかった。
この日差しの中で足を止めれば余計暑いけど、そんなことも構ってはいられなかった。
無口なマイは、ほんと、何を考えているかわからない。無口だから、が理由になっているのかはともかく。相方のユキでさえわからないのだから、たぶん誰にもわからない。
「きっとかわいい」
「いや、つけないつけない……。そんなの付けて遊んでるのなんて、夢子さんだけだよ」
「……ざんねん」
なんだかユキも妙なこと言っているが、たぶん暑さのせいだよ! たぶん!
魔界の平均気温は低め。場所にも寄るが、ユキたちが普段住んでいる場所は、年中冷たい風が吹く氷結ワールドであった。だがここ幻想郷はといえばこれだ。冬は極寒、夏は灼熱。弱い弱いと見下していた人間たちが、この気候に耐えているのかと思うと、少しばかり見直してしまうというもの。
んで、何故私たちがこんな辺鄙なところに来ているかといえば、ちょっと前に来たアリスからの手紙であった。
『vipで死ね』
あ、間違ったこれじゃない。
『前略 魔界の皆様へ
8月17日の夜、何故か私の家でパーティをすることになりました。孤独じゃないもん。
ご馳走を用意いたしますので、魔界の皆さんもぜひ来てくださいね。地図を同封してあります。
アリスより』
孤独じゃないもんってお前……。これを読んだユキは呟いたという。
残念ながら、予定が空いてたのはユキたちだけだった。大人はみんな多忙である。しょうがないので(神綺さまに話すと怒られそうなので、内緒で民間ツアーに紛れ込み)二人で幻想郷まで遠征、今に至る、というわけである。
ちなみに、地図はけっこう適当だったが、いやまぁ、それはソレとして。
「あ゛ーーーづーーーい゛ーーーーーしーーーーーぬーーーーーーー」
幻想郷の夏は暑いと聞いていたけど、ちょっと予想を超えていた。
「……死ねば涼しくなるかもね」
冥界よいとこ一度はおいで……ウフフ。(by ゆゆさま)
幽霊は暑さを感じない……らしい。らしい。
「もうちょっと生きる。それより、何であんたは平然としてるのよー」
ユキが見る限り、マイは汗ひとつ流さずに涼しい顔をしている。実は服の下だけぐっしょりだとか、もともと汗をかかない体質でしたーとか、翠星石は自らの老廃物で体を汚したりしないのですぅとか、そういうのがないならばにわかに信じられない、だってこの暑さだよ? 脳みそ茹だって仕方ないこの暑さだよ?
「はっ、まさかお前、マイのコスプレをした翠星石だな!?」
「……ユキが狂ったー」
脳みそ茹だって仕方ない。
「うん、あとでねじ探しておい……」
言いかけた途端である。
それは、何の脈絡もなかった。
「て……?」
あんまり重くなさそうな音とともに、マイの力がすっと抜け、倒れた。
いつも振り回される側なのは確かなんだ、私は。ユキは冷静になってから、最初にそう思った。突然の出来事に、ただ唖然としてしまい(脳みそが茹だっているせいで反応が遅れたということもあるが)、マイの白い肢体が草茂る大地に投げ出されるのを、ただ黙って見ているしかなかった。
だって、まったく意味がわからなかったんだもん。なんかのネタにしても唐突すぎるせいで反応に困った。ただ、いつものポーカーフェイスのまま眠っているマイ。ユキの目は点だった。さっきまで自分と普通に話していたマイ。突然寝る特技でも身に付けたのだろうか。何にせよ、肝心のマイが当たり前のように寝ているので、真相はよくわからなかった。
「おーい、マイー? 寝てると置いてくよ?」
反応は、ない。寝てる。マジ寝。ビバ寝。バリ寝。
「マイー! 寝るな、突然! 起きろ!」
これ見よがしにばしばし背中を叩いたりしてみたものの、ガチョ寝。ブピョ寝。ドピュ寝。
一向に起きる気配がない。それどころか、顔が少し高潮している。なんだか息も荒い。
「……えーと、発情?」
そんなわけないと自分で思いつつ、未だ目覚めぬマイを抱き上げてみる。身体は、かなり熱く感じた。
* * *
宴会は何だかんだといっても楽しいものだ。アリスはそう考えていた。
生まれ故郷の魔界では、真面目な人が多いのか、あまりそうどんちゃん騒ぐことはなかった。最初はあまり好きではなかった宴会だが、いや、今でも胸張って好きとは言わないが、魔理沙に連れられて通うたび、いつのまにかそれは当たり前で何でもない日常のひとつになっていた。
他人と馴れ合うのを好まない魔法使いでも、人が笑っているのも見るのは悪い気はしない。
だが、だが! なぜ突然、少人数とはいえ、我が家でパーティなど開くことになってしまったのだろうか! きもい草木卑猥なキノコ他諸々蔓延る魔法の森で、巫女と魔法使いが愛を語らいにやってくる! 愛は語らわないか!
不自然な多数決とはいえ、決まってしまったものは仕方ないとしても、アリスは困った、すごく困った。とりあえず掃除しないと。魔理沙には、よく見られてしまっているのでしょうがないが、霊夢がうちに来て引かない程度には。っていうか他の誰でも来て「うわっ、きもっ」とか呟かれたら私泣いちゃう。女の子だもん。アリスの妄想癖は、激しかった。
んで、実際掃除してそこそこ装飾もしてみれば、あれ、これ可愛くね? 普通の女の子の部屋じゃね? っていうかここ住みたい。いや私のうちだよ? となったので一安心。パーティ四日前のことであった。
そこで世界一頭のいいアリスちゃんは考えた。誰か誘っちゃおう。たまには卑屈にならずに、オープンな私全開で行きましょう。少なくとも、「うっわ、きもっ」は避けられるはずだから! 今度は無駄に自信を持ったアリス、感情の起伏が激しいのは情緒不安定なのかもしれません。温かく見守ってあげましょう。
というわけでいざ、誰か誘いに行こうと思ったものの、その誰かって誰よ? ってことになり、一時間ぐらいああでもないこうでもないと考えた結果、あ、魔界のみんながいるじゃん! と突然閃いたので、じゃあ招待状でも書こうと決心し、筆を取ったのがパーティ三日前。
手紙なんてあまり書かないので、正直どう書けばいいのかわからなかった。最初に拝啓、最後に……なんだっけ。あー、最初に前略にしとけばいいや。で、魔界の皆さん、暑い日が続いておりますが、如何お過ごしでしょうか……。いや待て、向こうも暑いのかな? よく憶えてない。んー、あー、没。ああでもない、こうでもない……。
そうして夜中にできたのが、孤独じゃないもんの手紙であった。これは素晴らしい出来だ!!
簡単な地図と一緒に封筒に入れる、あとは帰りにでもスキマ郵便局さんに配達してもらえば、一日もかからず向こうに届くだろう。
が、それを忘れた。
魔理沙がやたら酒を勧めてきたせいで、NOと言えない内気なアリスちゃん、割と泥酔してしまいましたとさ。
翌日探しても、手紙は手元にはなく。
落とした!!
* * *
やけに暗くて、不自然に涼しい、魔法の力が流れるこの森は、土管から花が出てきたり、キノコが滑り歩いていたりしていて気味が悪かった。これこそが魔法の森であり、アリスの家がある場所であり、パーティ会場である、はず、なのだが。とてもそうは見えない……。
「やれやれ。自然に生まれた魔力っていうのは、どうしてこう気味が悪い方向に発展するのかしらね」
ユキは、自分の背中で未だ眠っているマイに、返事も期待せず問いかけた。
痛いほど突き刺さる日差しも、ここでは全て遮られる。うだるような高い気温も、大量の幽霊に下げられる。魔力に中てられたりさえしなければ、あといろいろ危険なものに襲われなければ、避暑にうってつけの場所といえるだろう。
ここが目的地でよかった、ユキは安堵した。十中八九、マイは日射病で倒れたのだから。
「次、夏に幻想郷へ来るときは、あんたも帽子かぶっといたほうがいいね」
ふう、ちょっと休憩。そこまで言って、マイを木の根元にもたれかかるように降ろす。見れば、先程よりは顔色もよい。この調子ならすぐに目を覚ますだろう。
「まったく、脅かしやがって……」
ユキはほっと一息つくと、その場にどさっと座り込んだ。
この森の魔力は少し不自然な気がするものの(魔法使いが荒らしてるのかも。アリスとかアリスとか)、魔法使いである二人には心地よいものであった。疲れを癒すにはちょうどいい。一見気味の悪いここにアリスが住んでいるというのも、そういう理由からなのかもしれない。マイの安らかな寝顔を見ていると、間違いではなさそうだと、ユキは考えていた。
きっと、目的地はすぐそこだ。マイが目覚めたら、すぐにでも出発できるだろう。それまでにできるだけ体力を回復させて、病み上がりのマイをサポートしなくちゃ。
そんなことに思考を巡らせながら、つい自分も、うとうととしてしまった矢先であった。
噛まれた。
花っぽいのに。
赤地に白のぶち模様の顔した花っぽいのが土管から伸びてきて。
痛かった。
「まんまみーや」
ユキは叫んだ。めいっぱいの裏声で叫んだ。マイは寝ている。ユキの声は届かなかった。まい、マイ、生き、いきてじゃない起きて! ユキは懸命にもがき叫ぶ、マイは寝ている。幸せそうな寝顔がまるで天使みたい。起きろ! 立て! 立つんだじょー! だじょー! だじょー!! マイは寝ている!
視界が霞む、マイはたぶん寝ている、もう期待しない、とにかく右足に喰らいついて離れない植物? 植物なのかこれ? 牙生えてるし、ものすごい自由に動いてるけど、なんか花? 花らしきものを振り解かんと必死で足を振る。しかし花の牙? は足を喰い千切らんと深く喰い込んでいる、ちょっと振ったぐらいで解ける代物ではないようだ。即効性の毒でも持っているのか、意識がどんどん薄れていく。死ぬんじゃないかというぐらい血が流れて一瞬絶望しかけるも、懸命に思考を巡らし、辿り着いた答えは、あ、そういえば私魔法使いじゃん! 幸い魔力ならば満ち溢れている、詠唱の短い魔法ならば間に合うかもしれない、いくぜテクマクマカヨ……あー違う! テコマカ……どぁー! もう!
ユキのパニくった詠唱より早く、鋭いつららがユキの背後から飛び出し、花? の頭? みたいな? の? を貫く。
一発、二発。勢いよく突き刺さる氷の刃を前に、さすがの花? もユキを離さざるを得なかったようで、ついに解放されることになる。怯む花に、とどめとばかりに三発目のつららをお見舞いする。英語で言えばアイシクル。
花は動かなくなった。きゅきゅきゅという言葉にしがたい音とともに小さくなって消え、青コイン(普通のコイン五枚分)に変化する。このエフェクトに何の意味があるのかはわからない。コラプスとかそういう。
そのあいだ、ユキが何をしたかといえば、詠唱を途中で止めて、ただぼうっとしていた。どうやら、唐突な展開には弱いらしい。例によって目が点であった。
「ユキ」
命の恩人は聞き覚えのある声をしていた。というか相方の声そのものであった。というか相方だった。
「ああ、マイ……」
なんと言ってよいものか、嬉しいやら、安心したやら、恥ずかしいやら悔しいやら。
ともかく、助けてもらったのだからお礼を言うのが人付き合いの基本だ。
「あ、あの、ありが……」
「これだから足手まといは」
「なんだとう!?」
やれやれ、としたり顔で戦力外通告のマイ。てめぇ!
「ま、これでおあいこね」
……だなんて、それはそれで正論、一度振り上げた手を下ろしてしまったので、そのまま怒るタイミングを逃してしまった。
いやまぁ、それでもいいと思ったけど。
傷のこと忘れてると痛くないって、本当なんだね。ユキは呟いた。
「ん、傷、見せて」
ひどく純粋な顔でマイは優しく言うのだ。長いこと相方やってるが、ほとんどライバルと化しているためか、あまり、そういうことは、なかった。
「いやいやいやいや」
自分でどうにかするから、と、何にも照れる必要なんてないのに、ユキは目を逸らしていた。
マイは、ほんと、何を考えているかわからない。
ただ、そんな彼女が、自分のことを心配してくれるというのなら。
こんなに照れることはない。いやほんと。
* * *
そこそこ深い傷だったのに。簡単な治癒魔法でも殆ど痛みもなくなるというのは、魔力溢れるこの森ならではなのかもしれない。尤も、傷口が完全に塞がることはなかったが、無理な衝撃でも加えない限りは大丈夫だろうと思う。
ゆっくりであるが、アリスの家に近づいている。途中何度か、動物だか植物だかよくわからないのに襲われたが、それは殆どマイが氷漬けにしてしまって、ユキが手を出すことはあまりなかった。
だがだが、それでもなお、次から次と、魔物たちは容赦なく襲い掛かってくるのDA。一対一ではマイに負ける要素はないが、こうも多ければどうだろう。いつのまにやら、すっかり囲まれてしまっていた。
そもそも病み上がりであるにもかかわらず、まだまだマイは一人で戦い続ける。手負いだからと気遣われるのは屈辱だが、たぶん、そうじゃなくて、自分が経験値を横取りしたいだけなんじゃないかと思う。というか、そうじゃないと、ユキがあまりに悔しい。元はといえば、自分の不注意がいけなかったのだ、と。
いつか、マイを見返してやるんだ。マイの魔法で周囲が凍らされていく。どんな時であっても、さんざん言われたとおりの足手まといにだけは、なりたくない。魔法の森の住人が、草木を巻き込んで凍っていく。
「んー、面倒だなー。ユキ、少しは手伝ってもいいじゃん」
だから、その一言が、ちょっと嬉しかったりした。
「自分で突っ込んでいったくせに。しょうがないなー」
そう言いながらも内心の嬉しさとわくわく感を抑えきれず。マイの背後から忍び寄るハニワの生えた草? いや、草の生えたハニワ? を成敗。ほうっておくと危険だったかもしれない。ハニワ原人全滅だ!
「ん、悪いねー」
マイはいつものポーカーフェイスで謝礼を言う。
「これでまた同点、でしょ?」
ユキはにかっと笑った。
目の前にはボスらしき大きな影。狼かなんかそんな感じの。その姿を同時に見つけた二人は、目標をそれに合わせ。
「やられたらやり返すとな」
マイも微かに笑っていた。
気分がいい。互いの息は完璧に近いほど合っている。新たな合体魔法とか、出来ちゃいそうな予感さえする。
「助けたら助け返す! 来いよりゅうほう!」
同時に呪文を詠唱し、同時にそれを終え、魔法を繰り出す刹那、ふと、過去、こんな変な奴を相方に選んだ理由を思い出した気がした。
「誰がりゅうほうよ、カズヤ」
「ユキだっ」
右手と左手、繋いだふたり。
左手と右手で雪の魔法。
辺り一面、凍てつく世界。
魔法の森を覆いつくさん。
真夏の森に雪が舞い。
暴れすぎたせいで、巫女さんに殴られました。
* * *
霊夢がパラソルの下のパーティ会場に戻ってきたころ、予想通りというか、待ちきれなかった魔理沙が、真紅のワイン片手にアリスを口説いているところだった。少なくとも霊夢にはそう見えた。
この珍しいパーティの発端は彼女だった、「神社ももちろん風情があるが、ワインには少し合わない。たまにはもっと別な場所でパーティといこうじゃないか?」との提案。人間らしい提案だが、とその場にいた妖怪たちは笑ったという。
さすがに神社のように派手な宴会はできない、そんなスペースもないが、魔法の森の開けた場所にあるアリスの家の庭(庭といえるのかは疑問だが)なら、日差しもある程度射し込み、通風性もよい、快適な場所だ。小さなパーティにはうってつけといえた。そんなわけで、アリスはそれ以来部屋の片付けに追われた。怪しい人形とか、ちょっと見られたくない乙女の秘密とかをどこに隠すかで揉めに揉めた。自分の中で。
で、今日は、いいお天気ですね。魔理沙は、綺麗ながらも不気味だったアリス宅が超綺麗になっていて、大層驚いたそうな。超。
「おう霊夢、おかえり」
いつもの調子で魔理沙は挨拶する。アリスは何も言わなかった。少し、頬が赤い気がするのは、たぶんまぁ、過去の話でもされたんじゃないか。
「ただいま。……お酒にはまだ早いわよ」
「まあいいじゃないか……って、これまた、でかい荷物を連れてきたもんだなぁ」
霊夢の脇、和気、腋、両脇には小さな魔法使いが二人。陰陽玉プレス(別名・玉乗られ)で気を失ったユキとマイである。
「重い荷物だったわ。異変の原因になりそうだったから、取っちめに行ってきたの」
適当に無重力結界を作った霊夢は、その中に「荷物」を放り込んだ。重力に縛られない空間で、ふわりと浮かぶ二人の少女。
「びっくりしたぜ、急に飛び出していくから」
「私、何か悪いことしたかな!? しちゃったかな!?」って五月蝿かったんだぜ、アリスが。魔理沙は笑っていた。アリスの顔がさらに赤くなった。
「それはご苦労だったわね」
霊夢も微笑んでいた。
「しかし、何でそいつら連れてきたんだ? 重いならその辺に捨ててくればよかったじゃないか」
「そうしようと思ったんだけどねぇ」
無重力結界の中に、魔法使いとともに浮かぶ、ひとひらの手紙。「孤独じゃないもん」「アリスより」という文字が見えた。
「私が呼んだのよ、せっかくだから」
霊夢がそう続けた。お前かよ、魔理沙は突っ込んだ。それに、あんなところに捨てたら危ないしねえ。霊夢はそれだけ返した。一番びっくりしていたのはアリスだった。
「なんで……?」
何故、落としたはずの手紙が、きちんと魔界に届いたのだろう、と。
「いつも散らかして帰られる苦しみを分かち合ってもらおうと思って、少し頭数増やそうと」
「するな! 私は散らかさないでしょ! あんまり……」
なんで、の意味を食い違えていることが気になったが、突っ込み体質のアリスちゃんは出されたボケに素直に突っ込んでしまいましたとさ。
「誰が散らかしたとか、いちいち憶えてないわよ。それに、結局二人しか来なかったし」
「アリスお前、魔界でもあんまり人脈ないんだな」
「うううるさいわねっ!」
みんな多忙でパーティどころじゃなかった、というのが本当のところなのだが。あと遠いし。
「ま、こんな辺境まで、わざわざよく来てくれたじゃない」
「……そうね。嬉しいわ」
純粋な気持ちで、彼女たちは言った。
「……仲よさそうだな」
魔理沙も呟く。博麗の結界の中、未だふわふわと浮かぶ少女らは、手を握り合ったまま眠っている。少し羨ましく思った。
「さて、日が暮れてきたわね。そろそろみんな来るんじゃないかしら」
妖怪の活動時間は夜である。だから、月夜、楽しそうな場所を見つければ、そこが神社だろうが森だろうが関係ない、きっと、宴会好き妖怪のみんなは嗅ぎつけやってくるのだろう。
「えっ、まだ来るの?」
アリスは内心怯えていた。変なところはないかしら、装飾がどこか壊れたりしていないかしら。もう何度チェックしたかわからないというのに。
「来たわよ、早速」だなんて、霊夢がそういって振り返った目線の先。スキマ妖怪が地面から、いや、スキマから、ひょっこりと顔を出していた。
「どうもー。昼と夜は境界の妖怪、それ以外はスキマ郵便局長の八雲でーす」
やたらフランクだった。ウィンクを向けられても、アリスにはどうしたらいいかわからなかった。
「どっかで聞いたような気がする」
「どっかで聞いたような気がするぜ」
アリスと魔理沙は同時に呟いた。とりあえず。
日も半分ほど隠れてきたころ。
「うーっす、来たぞー」
「真紅のワインでパーティですってね。私たちも混ぜてちょうだい」
「あら、私は白ワイン派ですわ」
とまぁ、こんな感じで、宴会好きの妖怪(人間が混じってるけど)は、宴会さえできるなら、いつどこでやろうと言っても、やっぱりそこそこやってくるもので。
きっともうすぐ、ユキとマイも目を覚ますだろう。それが乾杯の合図。
今夜は涼しく過ごせそう、だなんて、霊夢はちょっぴり喜んでいた。
旧作勢は名前くらいは知ってるけど、やっぱりちょっととっつきにくいかもです。
どうでもいいけど段平自重w
アリスの一人テンパリも非常に良いですね。(笑)