朝。
深緑にきらきらと映える朝露の、その一粒一粒が少しずつ重なって大きな雫となる。
やがてそれは自らの重さに耐え切れず、ぽたりと落下した。
「う」
もごもごと口を動かして、のっそりと起き上がるのは、紅色の髪をした女性。
大きく伸びをしながら辺りを見回した後、顔中を口にしてあくびを一つ。
「ああ、もう朝ですか」
こきこきと首を鳴らして両目をしばらく擦っていた彼女は、突然立ち上がり、先ほどとは似ても似つかぬ素早さで周囲を警戒し始めた。
右、左。
やがて誰もいないことを悟ると、安心して大きく深呼吸をする。
「はぁ…よかった」
「何が、いいのかしら?」
「うひゃあうっ!!」
頭上から降って来た声に彼女は飛び上がって驚き、慌てて両腕をぶんぶんと振りながら声の主へ弁明した。
「さっ、ささ咲夜さんっ、ち、違いますよ?これはそのあの」
「別にいいわよ」
「ごめんなさ…え?」
思いもよらぬ発言に、彼女はしばし呆然と佇む。
その行動が気に入らないのか、彼女の頭上に静止した十六夜咲夜は、切れ長で美しい瞳をすっと細めた。
「何かしら?」
「…は、え、あ…いや」
「それなら」
咲夜は片手に持ったバスケットを、彼女の真下でいまだに間抜けな顔を晒している紅美鈴へ投げ落とす。
美鈴はそれを反射的に受け取り、中から放たれる香ばしい匂いにふわりと微笑んだ。
「おはようございます、咲夜さん。いつもありがとうございます」
「…っ、おは、よう」
ぼそぼそと歯切れの悪い挨拶を返す咲夜。
ふいと顔を背け、腕組みをして去ろうとする彼女を見ながら、美鈴は整った眉を歪ませて悲しそうに俯いた。
「咲夜さん、どうしたんだろう。私また、怒らせるようなことしたのかなぁ」
その、見当違いにも程がある悩みに深く深く溜息をつくと、美鈴はその場に腰を下ろした。
長くすらりと伸びた指をまっすぐに合わせて、誰にともなくぺこりと一礼。
「いただきます」
バスケットに掛かった彼女の服と同じ色の布を取ると、ほんのりと香るパンの暖かな匂いが風に乗って流れる。
それを合図に小鳥たちが、我先にと彼女の膝を占領し始める。
「今日のパンも美味しそうですねー、えへへ」
小麦色のコッペパンを細かくちぎって小鳥たちに分け与えながら、自分もひと口。
「うん、やっぱり美味しい」
にっこりと微笑む美鈴に同意するように、小鳥たちはせわしなくパンのかけらをついばんでいる。
それを愛しげに見つめながら、美鈴は少し以前のことを思い出していた。
◆
「今日からこの紅魔館で働くことになった…そうね、十六夜咲夜よ」
「十六夜咲夜です。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた少女に、美鈴は信じられないという思いを隠せなかった。
きれいな女性(ひと)…。まるで、お人形みたい。
銀色に輝く髪はさらりと肩を流れ、伏し目がちな瞳は、真夜中の湖畔のように静かな群青の色。
すらりとした顔立ちと、雪原のように白く美しい素肌を纏う華奢な手足。
美鈴はしばしその美貌に呆然としていたが、ふとあることに気付く。
「この子……っお嬢様!?」
「ええ。人間よ」
驚きに目を剥いた美鈴の顔を愉快そうに見つめながら、外見の幼さからは信じられないような妖美な笑みを浮かべる少女。
それは、彼女の主であり、紅魔館の当主でもあるレミリア・スカーレット。
「そういうことだから。よろしくね、美鈴」
「よろ…、ってちょっと、お嬢様っ」
白昼でもどこか薄暗い吸血鬼の館、紅魔館。
その、どこまでも続くような長い廊下に、ただ二人で取り残される。
「あの、ええと…」
「美鈴さん」
「はいいっ!?」
「仕事を説明してくれませんか?」
「あ…、ええと、は、はい」
「えーと…ま、こんなところですかね」
館内の清掃、食事の用意と配膳、洗濯etc。
これまで美鈴がほぼ全て一人でこなしていたものを一から丁寧に説明し終わると、既に太陽は沈みかけていた。
夕日の穏やかな光が、辺りを柔らかな紅に溶かしてゆく。
ふと美鈴が目を向けると、咲夜はこちらをぼんやりと見ながら佇んでいる。
それまで常にどこかとげとげしく冷たいような印象が彼女にあったために、美鈴は内心少し驚きながら声を掛けた。
「咲夜、さん?」
「………」
返事はない。
今度は少し大きな声で呼んでみた。
「は……っ!!?」
まるで驚いた子犬のような顔で大きく飛び上がる咲夜に、思わず美鈴は微笑んでしまう。
「くっ…」
恥ずかしそうに俯く咲夜。その思いがけぬ少女らしさに、美鈴は不思議な愛おしさを感じて仕方がなかった。
「これで、説明は終わりです。それでですね、あの」
「……何?」
まだ恥ずかしさが抜けないのか、どこか横柄な態度の咲夜に美鈴は再び噴出しそうになるのを堪えて、にっこりと微笑む。
「少し、お話しませんか?」
薄明かりの燈った番小屋の中で、二対のティーカップから立ち昇る湯気が踊っている。
淡い乳色をしたそのカップの片方を、美鈴は咲夜に手渡した。
「これは…?」
珈琲でも、紅茶でもない。咲夜にとって初めて目にする飲み物だった。
しかし、穏やかな茶色のそれはふわりと香ばしく、不思議な安らぎを感じさせる。
そうして、ひと口。
「……ぁ」
丸くて、とても優しい味。毛布にくるまれたような暖かさが、咲夜の全身の疲れと緊張を少しずつ溶かしてゆく。
ほのかに効いた苦味と渋みが深みを増して、のどの奥を心地良く刺激する。
「どうでしょう?」
ふと、声を掛けられて顔を上げると、そこにはカップを両手に持ったまま、咲夜の表情を満足げに見つめている美鈴の姿があった。
そこではじめて自分がどんな表情をしていたのか気付くと、咲夜は慌てて緩みきった顔を生真面目そうに直そうと必死になった。
「ぅ、お、美味しいわ…です」
くすっ。
小刻みに肩を震えさせて、美鈴が明後日の方向に顔を向けている。
「ふ、い、いやごめんなさい…何でも、くふふ」
「っっ!」
熱い。
顔中に火がついたかのようだ。
「~~~~っ」
わなわなと全身を震わせて、咲夜はきっと美鈴をにらんだ。だが、どう見てもそこに迫力は微塵もない。
あるのはただ、歳相応の少女の可愛らしさだけだった。
思えば、それからだったのだろう。
彼女を知り、彼女と共に過ごしていくうち、次第に彼女の存在に魅入られていったのは。
◆◆
「…くや、咲夜っ」
はっと顔を上げたその先には、むくれた顔でこちらを見上げる主の姿。
「貴女らしくもないわね。この私に二度も名前を呼ばせるなんて」
「っ…申し訳ございません」
「いいわ。それより紅茶の」
「スターボウブレーイク!!」
広々とした部屋は一瞬にして雷撃のような閃光と爆音に包まれる。
瀟洒な家具類は紙切れのように吹き飛び、突如出現した巨大な穴が壁の意味を一切の無に変えた。
爆煙の中を楽しげに飛び出したのは、フランドール・スカーレット。
冷静に結界の中で読書に勤しんでいた少女は、パチュリー・ノーレッジはいかにも重そうな本から目を離し、実妹を叱りつける主に代わって咲夜に用事を言いつける。
「紅茶のお替りをお願い。それからフランの分のカップも」
「かしこまりました、パチュリー様」
優雅に一礼した後、時を止めて一瞬で厨房まで移動すると、懐中時計を片手に手馴れた仕草で紅茶を準備し始める。
芸術的なまでに計算されたその手順は、あっという間に高級な香りを辺りに漂わせ始めた。
踊るような仕草で茶器を取り出して盆に並べると、咲夜はすぐに部屋へと踵を返す。
「お待たせいたしました」
「流石ね。やっぱり」
「当たり前じゃない。咲夜のことで私が知らないことなんてないんだから」
レミリアとパチュリーの奇妙な会話に、咲夜は首を傾げる。
「…あの、一体…?」
その疑問に答えたのは、予想外の人物であった。
「さくや、さくや」
「…はい、何ですか? 妹様」
「ヤカンなんか持って来て、どうしたの?」
「え? はっ…あ、ああああっ」
片手には、たぽたぽと音を立てるヤカン。
完全で瀟洒な従者としてはありえない失態。その、あまりに強すぎるショックに、思わずその場に膝を折る咲夜。
「さくやー?どうしたの?」
「妹様、そっとしてあげてください」
純粋な笑顔と、嗜虐趣味丸出しの笑みが咲夜を見つめている。
死にたい。
ああ死にたい。
今にも荒縄に首を括らんばかりの表情の咲夜に、レミリアは柔らかな微笑を浮かべて声を掛けた。
「咲夜、貴女何か悩んでいるでしょう?」
「なっ何も悩んでなどっ」
「そう、例えば…恋、とか?」
「ひっ…こ、ここ」
「さしずめ相手はそうねえ…ちゅうご」
「おおお嬢様っっ!おちゃお茶請けにケーキなどはいかがでしょうっっ」
必死になって言葉を遮ろうとする咲夜をにんまりと眺めながら、レミリアは頷いた。
「あら、それは素敵ね。忘れてきた紅茶も頼むわよ?」
「しっっ失礼いたしますっ」
お世辞にも瀟洒とは言いがたい勢いで部屋を出てゆく咲夜。
レミリアとパチュリーはその姿をにやにやと満足げに見つめ、その中でフランだけが状況を理解できずに不満そうな顔だった。
◆◆◆
穏やかな夜の紅魔館。
それ自体が既に館を守る番人であるような、威圧的で巨大な門扉の前に陣取っているのはすらりと背筋の伸びた紅髪の女性。
「今日は誰も来ませんねえ」
強弱関係なく多くの侵入者が狙う紅魔館であるが、稀にこうした日もある。
戦う相手がいない事は彼女にとって喜ばしいことではあるが、退屈を感じざるを得ないのもまた事実であった。
「ふぁ…」
伸びをしながら欠伸をひとつ。
「それにしても、今日は本当にいい天」
「レーヴァテイーン!!」
突然、門扉のすぐ側の壁が真紅の光線に貫かれて消し飛ぶ。
巻き上がる土煙の中から、無邪気に笑う小さな影が飛び出して美鈴の背中を直撃した。
「おぶっ…い、妹様ぁ」
「めーりーん!!あそぼー!?」
「いいですけど、いきなりどうなさったのですか?」
「お姉様とパチェはつまんない話しててつまんないんだもん」
「パチュリー様が…?」
「なんかね、さくやがお茶じゃなくてヤカンを持って来て、恋、なんだって」
美鈴はびきりと固まったまま、ネジの壊れた人形のようなぎこちなさでフランを見る。
フランは訳がわからないという風に、美鈴を見たまま首を傾げる。
「あの、最後の」
「なーに?」
「さ咲夜さんが、こっ…ここっこ」
「?」
「い…いえ、なん何でもないんです、あはは」
「むー、みんなそう言うのねっ、もういいよ」
そう言ったか言わないかのうちに、フランは飛び去って見えなくなった。
取り残された美鈴は、門扉に背をもたれたままずるずるとその場にへたり込む。
「さ、咲夜さんが…そん、な」
その顔は青く、今にも怪物に襲われんとしている少女にも勝るほどの絶望に歪んでいた。
◆◆◆◆
夜は瞬く間に過ぎゆき、やがて東から群青の空が涼しげに白んでいく。
十六夜咲夜が目覚めるのは常にこの時間である。
起き抜けにも拘らず、普段とまるで一切の違いのない振る舞いは流石といったところか。
広大な屋敷の中を、一人分の靴音が楚々とした響きを奏でている。
それはまるで朝を告げる聖歌のように規則正しく、美しいリズムで刻まれていく。
その靴音が、不意に止まった。
年季の入ったバスケット。その中には湯気の立った焼き立てのパンが数個と、缶入りのスープ。
深い緑色の布をかけられたそれは、彼女の美しい腕にぶら下がって運ばれてゆく。
彼女がここで生活を始めてから、一日たりとも欠かしたことのない日課。
「すぅ…」
高鳴り続ける心臓を抑えるために、深く朝霧を吸い込む。
これもまた、欠かしたことのない彼女の日課。
巨大な門の隣に作られた小さな扉を開ければ、あの人がそこで待っている。
咲夜は今や普段の瀟洒なメイドではなく、単なる一人の恋する少女になっていた。
「美鈴?入るわよ……っっ!?」
木戸を押し開けたその先の光景を見て、咲夜は言葉を失った。そしてそのまま状況を把握できずに棒立ちになる。
そこにあったのは、膝を抱えたまま死んでいるのではないかと思うほど微動だにせずに俯く美鈴の姿であった。
彼女はこちらに気付いたのか、頭をゆっくりと引き上げた。
「あ、さくやさ…、う」
優しそうな瞳は痛々しく充血し、形のいい眉を情けなくひん曲げている。
美鈴はやっとそれだけ口にすると、唇をわなわなと震わせて黙りこんでしまった。
「その…、ど、どうかしたの?」
「…ぃえ…何でもないんです、すみません」
ぐしぐしと乱暴に目を擦って、美鈴はいつものように笑ってみせる。
でもどこかそれは不自然で、やはりすぐに崩れてしまった。
「すみません…すみません」
美鈴はただ、そう繰り返すだけだった。理由は分からない。どうしたらいいかも分からない。
ただ咲夜はこれまでに感じることのなかった、灼けるような胸の痛みに戸惑いを隠せなかった。
その、呼吸すら危うく、内側から身体が破裂しそうな痛みを必死で堪える。
「ここに、置いておくから…バスケット」
それだけ言うのが精一杯で、咲夜はそこから逃げるように走り去っていった。
「待ちなさい、咲夜」
「っ…、パチュリー様」
細腕に分厚い本を抱えて珍しく眼鏡をかけた姿のパチュリーは、薄紫の長い髪をかきあげて、走り去ろうとする咲夜を呼び止めた。
余談だが、彼女が館内をただ移動している場面を見た人物はいない。
ゆえに、パチュリーは単に彼女が廊下を走っているなどという珍しい場面に興味を惹かれて声を掛けたのであって、特に呼び止める理由は無かった。
しかし振り返る咲夜の顔を見て、パチュリーは新たな興味の対象に気付く。
あら、珍しい。早起きして得したわ。
「朝からそんなに慌ただしいなんて貴女らしくないわよ?」
「…申し訳、ございません」
少し困ったような声色を作りながら、大人びた笑みを湛えるパチュリー。
彼女がこのような笑みを見せるときは決まっている。それは興味深い研究対象に出会ったときか、いい“暇潰し”を思いついたときだ。
「後で図書館に紅茶をお願い。私の分と、貴女の分」
「いえ、私は…」
「いいの。レミィはどうせ寝てるし、何なら小悪魔にでも向かわせるわよ」
「…かしこまりました、今すぐ」
そう言うと、咲夜は一礼してその場から消える。
先程まで彼女がいた空間に目をやりながら、ぼそりとパチュリーはひとりごちた。
「さっきの眼…あの子がああなるなんて久しぶりね。何か楽しい事になりそうだわ」
「で」
何の音も聞こえない、時間が静止したような錯覚を覚える場所。
ずらりと並んだ図書はそれこそ無限に連なり、あまりに広大な部屋の中で彼らの主の訪れをただじっと待つ。その最奥部に位置する小さな机の上に置かれたカップから昇る湯気だけが、なんとも幽玄に踊っていた。
紅魔の大図書館の主、知識と日陰の少女は華奢な脚を優雅に組んで口を開く。
「何かあったのでしょう? 貴女さえ良ければ相談に乗ってもいいのよ」
「………」
「…まあ、予想はつくけど」
両手でささげ持つようにカップを持って、パチュリーは彼女の顔を覗き見る。
殊勝な面持ちでじっと俯いたまま、咲夜は先程から黙りこくっている。
パチュリーは大きめの眼鏡をついと持ち上げて、少し困ったように溜息をついた。
「美鈴のこと、かしら?」
「っっ!!」
慌てて弁解しようとする咲夜の唇をきゅっと押さえて、パチュリーは微笑む。
「さしずめ、またあの子の下らない勘違い、ってとこね?」
「くだら…」
「貴女、美鈴のことをどう思っているの?」
弁論の余地のない、直球に過ぎる質問。それに対して、咲夜はただ息を呑んで口を閉ざすことしかできない。
また、溜息。
しかし今度はよりあからさまに、芝居がかった様子である。
「ごめんなさい、ちょっと意地悪だったわね」
「パチュリー様…」
「咲夜。貴女が悩んでいるそれはね、本当にたいしたことのない話なのよ?」
その言葉の真意が図りかねる様子で、咲夜はただパチュリーの言葉を無言で促す。
「そうね、よくわからないならいっそ…ふふ」
楽しそうに含み笑いをするパチュリー。
しかし、咲夜としてはとてつもない不安を感じずにはいられない。
そしてそれは、やはり的中するのだった。
「貴女、美鈴に告白しなさい」
「……は…ぇ、ええええ?」
「どうしたの咲夜? 顔が真っ赤よ、うふふふふ」
やはり、流石はあのレミリアの親友といったところか。
咲夜は心底楽しそうに微笑むパチュリーに対して、沸騰したように熱い顔を両手で隠しながら恨みがましい目をするしかなかった。
「ここ、告…白、なんて出来るわけないわ…で、でも」
こつこつとせわしない靴音を響かせながら、咲夜は真っ赤になったまま戻らない自分の顔に辟易していた。
このままレミリアやフランドール、まして美鈴の前になど出られるはずもなく、館の住人から逃げるようにこそこそと業務を続ける。
食事の給仕やお茶の用意はパチュリーが気を利かせてか小悪魔に全て言いつけていたために、珍しく空いた時間を不毛な思索に没頭しながら、咲夜は内心身悶えしていた。
「そう、少し様子を…そうよ、これは仕事よ、咲夜」
既に数十回目となる自分への激励を繰り返しつつ、咲夜は正門へと歩を進める。
「大丈夫…大丈夫」
そう言いながらも徐々に小さくなっている歩幅と気力に気付かぬふりをしながら、咲夜は近づいていく正門に不安げな目を向ける。
美鈴は、今どうしているだろうか。
いやおうもなく、咲夜の脳裏では今朝の出来事が思い返されていた。
「……っ!?」
扉を開こうとして、外から漏れる会話に咲夜は思わず立ち止まる。
「この声って…」
「ねえ、めーりん?」
「はい、妹様」
「めーりんはさくやが、好き?」
「っっ…!」
その質問に、咲夜は思わず目を見開く。フランの真意を理解できないまま、咲夜は息を呑んで会話の続きを待った。
「…知っておいででしょうか、妹様?」
「ん?」
「私、朝が大好きなんです」
「朝…?」
「そう。夜が明けて、また新しい一日が始まる時間。太陽に照らされ、段々と明るくなっていくと共に、新しい空気に世界が包まれていく時間」
「むー、わたしは朝って好きじゃない。太陽、苦手だから」
「ふふ、そうですね」
美鈴は優しげにフランの髪を手で梳かしながら、にこりと微笑む。
「毎朝いただける焼きたてのパンが楽しみで。こう、バスケットに入ってまして、そうそう付け合せのスープもまた絶品で」
「ふーん? わたしも食べてみたいなぁ」
「えへへ、それなら早起きしなくちゃ、ですねー?」
あはは、と笑う美鈴。
扉に寄りかかったまま、咲夜はただ黙って二人の会話を聞いていた。少し俯いた、なめらかな銀髪に隠れたその素顔はよく見えない。
「妹様?」
「うん?」
「その私の朝ごはん、咲夜さんの手作りなんです」
「さくやの?」
「はい。毎朝毎朝、きれいな布をかけたかわいいバスケットに入れて。毎朝ですよ? とても早起きして、えへへ、それは何かのついでなのかもしれませんけど」
「……ちがうよ?」
「え?」
「さくやは、きっとめーりんの為に毎朝がんばってるんだよ」
「妹様…」
「めーりん」
「はい?」
「さくやのこと、好き?」
とくん。
咲夜の心臓が、少しずつ高鳴っていく。
ぎゅっと目をつぶったまま、咲夜は静かにそこを離れた。
「………はい、大好きです」
そう答えた美鈴の顔はとても晴れやかで、少し恥ずかしそうで。
それを見たフランはにっこりと笑うと、美鈴に精一杯腕を伸ばして抱きしめた。
「パチェがね、教えてくれたの」
「え…?」
「好きな人がいるひとは、とっても綺麗な笑顔ができるんだって」
「…妹様…」
「今のめーりんは、すごく綺麗」
フランは甘えるように美鈴の胸に顔を埋める。
美鈴は少し驚いて、それから満面の笑みで頷いた。
「……ありがとうございます、妹様」
◆◆◆◆◆
生地をこねる手が、ふと止まる。咲夜の脳裏には、先程の声が響き続けていた。
「っ…馬鹿、みたい」
突然、だんと響く音。
無残にへこんだパン生地に、拳がめりこんだまま震える。
「美鈴……」
生地を寝かせる戸棚に置いたところで、ようやく咲夜は厨房の出入り口に佇むレミリアに気付いた。
「っっお嬢様!?」
「あら、随分じゃない。いつから貴女の主はパチェになったのかしら?」
「……聞いていらしたのですね」
「それより…あら、もう大丈夫みたいね」
「ええ。本当に、ご迷惑おかけいたしました」
そう言ってお辞儀をする咲夜の姿は、以前の通りの完全で瀟洒な従者だった。その姿にレミリアは少し不満そうな顔で口を開く。
「あーあ、咲夜のことは私が一番知ってるつもりだったのに。こんな時においてきぼりなんて少し残念」
「レミリア様…」
「冗談。私は完璧な貴女が好きなの。だから、ねえ咲夜」
「はい」
「さっさと決着つけちゃいなさい。言っておくけど、失敗なんか認めないわよ?」
「…はい、お嬢様」
「ん」
微笑むレミリアの後に付いて、咲夜は厨房を出た。
小さな背中。
その背中が、少し震える。
「ねぇ、咲夜」
「はい」
「今日は、私の部屋で寝なさい」
毅然とした態度に合わない、とても小さなか弱い声。
立ち止まったままけして振り向こうとしないレミリアを、咲夜は優しく抱き上げる。
「仰せの通りに。レミリアお嬢様」
紅魔館の夜は更けてゆく。
いくつもの想いとともに彼女たちの物語もまた、最高潮の時を迎えようとしていた。
◆◆◆◆◆◆
朝。
涼やかな風が軽快に身体をすり抜けていくのを感じながら、美鈴はふと瞳を閉じた。
「ん…」
新鮮な空気を肺の奥に満たすと、心地良く微笑む美鈴。
こんこん。
小気味いいノックの音が美鈴の耳を叩く。
「………」
両手にバスケットを持って俯く、最愛の人の姿。
少し憂いを帯びた表情で目をそらしたまま、彼女は一歩も動こうとしない。
「咲夜、さん」
「美鈴…? その、…っあの、私、私ね…?」
一生懸命に言葉を紡いでいく彼女の姿に、美鈴の胸はきりきりと悲鳴を上げる。
灼けついた塊が咽喉の奥を競り上がっていくような感覚に思わず泣き出したくなるのを必死で堪え、美鈴は両拳を感覚がなくなるほど強く握り締めた。
「咲夜さん…っ、お話が、あります」
「………」
胸が、痛い。
これ以上話したら、内側から砕けてしまいそうだ。
胸が苦しすぎて息が出来ない。出来ることなら、今すぐここから逃げ出してしまいたい。
「…咲夜さん…その…っ…」
そこで言葉を切ると、美鈴は大きく息を吸い込んだ。
「…っ…その、~~っ」
「美鈴」
苦しそうに呻く美鈴とは対照的な、穏やかな声で咲夜は先を促す。
しかし内心は咲夜もまた同じように苦しんでいた。
自分の気持ちは、もはや疑いようがない。
彼女の気持ちもまた…、きっと同じであるはず。
でも、もし…それが自分の思い上がりなら…。
そんな湧き上がるどうしようもない不安を抑えられずに、咲夜は知らず両腕をきつくかき抱く。全身の震えを悟られぬように、咲夜は精一杯毅然とした表情を作ってみせる。
「……っ…き、です」
「っっ!!」
「好きです。大好きです、貴女が…咲夜さんが、大好きです。」
言えた。
やっと、口にできた。一度喋ってしまうと、それまでの想いが濁流となって口からとめどなく溢れて止まらない。無論、美鈴は止めるつもりなどない。
「大好きなんです…ずっと…ずっと言いたかった…ずっと貴女に、気付いて欲しかった」
頬をつたうものを拭うこともせず、ただひたすらに、美鈴は繰り返し続ける。
「貴女が、誰を好きでもいいんです…それが私じゃないことなんて、ずっと前から覚悟していましたから…。それでも、私は…」
「ちょ、ちょ…ちょっと待って?」
戸惑うような咲夜の声。桜色を超えて真紅に上気した顔を隠すこともせず、慌てた様子で両腕をばたばたと動かす。
「え? …あれ? どういうこと?」
「…っですから私は、咲夜さんに誰か好きな人がいても、好きって気持ちを…」
そこまで聞いて、咲夜はようやく合点がいった。要するに、彼女は…。
「っっ…こ、の…バカ中国っっ!!」
「ふええ!?」
「アンタはなんでいつも…いつも…」
ぷるぷると震える両拳に、一粒の涙が零れ落ちる。
「っバカじゃないの? もうっ…」
「咲夜さん…」
きっと睨んだ両目は涙でうるうるとゆらぎ、真っ赤になったまま必死になって怒ったように顔を歪ませている。
「私だって…す、き…よ」
「え?」
「っ……好きよっっ!! アンタがっっ!! どうしようもないくらいに大好きよっっ!! ふ、ふんだ、何よ…自分だって私の気持ちに気付けなかったくせにっ…」
「…さっ、え? …えええ!?」
「馬鹿みたいじゃない…ずっと、私だってずっと…あなたが好きだったのに」
いじけたような視線を送りながら、徐々にしおれていく咲夜。どうやら自分がなんて間抜けな告白をしてしまったのかと後悔しつつあるらしく、真っ赤になったまま縮こまるようにその場にへたりこんでしまった。
対する美鈴はもう何がなにやら全く分からない様子で、呆然とその場に突っ立ったままである。
二人はそのまましばらく全く動かずに見つめあい、そして突然、美鈴がゆっくりと咲夜の前に腰を下ろした。
「っっ!!」
美鈴の腕の中で、石のように固まる咲夜。二人の身長差のせいで、ちょうど胸の中に顔を埋める形になってしまっている。
「なんだ…なら、初めから両想いだったんですね」
咲夜の耳のすぐ側で、美鈴はそう呟く。
吐息まで聞こえる位置で聞く彼女の声は、とても嬉しそうで、恥ずかしそうで。
「咲夜さん」
首筋に走るなんともいえないくすぐったさが、咲夜をゆっくりととろけさせる。
「んぅ…」
暖かな幸福感が全身を包み込んで離さない。甘えるような目線で、顔を上げて美鈴を見る。
優しそうに、嬉しそうに微笑む美鈴の顔。それが、信じられないほど近くにある。
「…美鈴」
「大好きです…咲夜さん」
どちらからともなく、吸い寄せられるように唇が重なる。
それを優しく祝福するかのように、朝の太陽は柔らかく二人を照らしていた。
深緑にきらきらと映える朝露の、その一粒一粒が少しずつ重なって大きな雫となる。
やがてそれは自らの重さに耐え切れず、ぽたりと落下した。
「う」
もごもごと口を動かして、のっそりと起き上がるのは、紅色の髪をした女性。
大きく伸びをしながら辺りを見回した後、顔中を口にしてあくびを一つ。
「ああ、もう朝ですか」
こきこきと首を鳴らして両目をしばらく擦っていた彼女は、突然立ち上がり、先ほどとは似ても似つかぬ素早さで周囲を警戒し始めた。
右、左。
やがて誰もいないことを悟ると、安心して大きく深呼吸をする。
「はぁ…よかった」
「何が、いいのかしら?」
「うひゃあうっ!!」
頭上から降って来た声に彼女は飛び上がって驚き、慌てて両腕をぶんぶんと振りながら声の主へ弁明した。
「さっ、ささ咲夜さんっ、ち、違いますよ?これはそのあの」
「別にいいわよ」
「ごめんなさ…え?」
思いもよらぬ発言に、彼女はしばし呆然と佇む。
その行動が気に入らないのか、彼女の頭上に静止した十六夜咲夜は、切れ長で美しい瞳をすっと細めた。
「何かしら?」
「…は、え、あ…いや」
「それなら」
咲夜は片手に持ったバスケットを、彼女の真下でいまだに間抜けな顔を晒している紅美鈴へ投げ落とす。
美鈴はそれを反射的に受け取り、中から放たれる香ばしい匂いにふわりと微笑んだ。
「おはようございます、咲夜さん。いつもありがとうございます」
「…っ、おは、よう」
ぼそぼそと歯切れの悪い挨拶を返す咲夜。
ふいと顔を背け、腕組みをして去ろうとする彼女を見ながら、美鈴は整った眉を歪ませて悲しそうに俯いた。
「咲夜さん、どうしたんだろう。私また、怒らせるようなことしたのかなぁ」
その、見当違いにも程がある悩みに深く深く溜息をつくと、美鈴はその場に腰を下ろした。
長くすらりと伸びた指をまっすぐに合わせて、誰にともなくぺこりと一礼。
「いただきます」
バスケットに掛かった彼女の服と同じ色の布を取ると、ほんのりと香るパンの暖かな匂いが風に乗って流れる。
それを合図に小鳥たちが、我先にと彼女の膝を占領し始める。
「今日のパンも美味しそうですねー、えへへ」
小麦色のコッペパンを細かくちぎって小鳥たちに分け与えながら、自分もひと口。
「うん、やっぱり美味しい」
にっこりと微笑む美鈴に同意するように、小鳥たちはせわしなくパンのかけらをついばんでいる。
それを愛しげに見つめながら、美鈴は少し以前のことを思い出していた。
◆
「今日からこの紅魔館で働くことになった…そうね、十六夜咲夜よ」
「十六夜咲夜です。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた少女に、美鈴は信じられないという思いを隠せなかった。
きれいな女性(ひと)…。まるで、お人形みたい。
銀色に輝く髪はさらりと肩を流れ、伏し目がちな瞳は、真夜中の湖畔のように静かな群青の色。
すらりとした顔立ちと、雪原のように白く美しい素肌を纏う華奢な手足。
美鈴はしばしその美貌に呆然としていたが、ふとあることに気付く。
「この子……っお嬢様!?」
「ええ。人間よ」
驚きに目を剥いた美鈴の顔を愉快そうに見つめながら、外見の幼さからは信じられないような妖美な笑みを浮かべる少女。
それは、彼女の主であり、紅魔館の当主でもあるレミリア・スカーレット。
「そういうことだから。よろしくね、美鈴」
「よろ…、ってちょっと、お嬢様っ」
白昼でもどこか薄暗い吸血鬼の館、紅魔館。
その、どこまでも続くような長い廊下に、ただ二人で取り残される。
「あの、ええと…」
「美鈴さん」
「はいいっ!?」
「仕事を説明してくれませんか?」
「あ…、ええと、は、はい」
「えーと…ま、こんなところですかね」
館内の清掃、食事の用意と配膳、洗濯etc。
これまで美鈴がほぼ全て一人でこなしていたものを一から丁寧に説明し終わると、既に太陽は沈みかけていた。
夕日の穏やかな光が、辺りを柔らかな紅に溶かしてゆく。
ふと美鈴が目を向けると、咲夜はこちらをぼんやりと見ながら佇んでいる。
それまで常にどこかとげとげしく冷たいような印象が彼女にあったために、美鈴は内心少し驚きながら声を掛けた。
「咲夜、さん?」
「………」
返事はない。
今度は少し大きな声で呼んでみた。
「は……っ!!?」
まるで驚いた子犬のような顔で大きく飛び上がる咲夜に、思わず美鈴は微笑んでしまう。
「くっ…」
恥ずかしそうに俯く咲夜。その思いがけぬ少女らしさに、美鈴は不思議な愛おしさを感じて仕方がなかった。
「これで、説明は終わりです。それでですね、あの」
「……何?」
まだ恥ずかしさが抜けないのか、どこか横柄な態度の咲夜に美鈴は再び噴出しそうになるのを堪えて、にっこりと微笑む。
「少し、お話しませんか?」
薄明かりの燈った番小屋の中で、二対のティーカップから立ち昇る湯気が踊っている。
淡い乳色をしたそのカップの片方を、美鈴は咲夜に手渡した。
「これは…?」
珈琲でも、紅茶でもない。咲夜にとって初めて目にする飲み物だった。
しかし、穏やかな茶色のそれはふわりと香ばしく、不思議な安らぎを感じさせる。
そうして、ひと口。
「……ぁ」
丸くて、とても優しい味。毛布にくるまれたような暖かさが、咲夜の全身の疲れと緊張を少しずつ溶かしてゆく。
ほのかに効いた苦味と渋みが深みを増して、のどの奥を心地良く刺激する。
「どうでしょう?」
ふと、声を掛けられて顔を上げると、そこにはカップを両手に持ったまま、咲夜の表情を満足げに見つめている美鈴の姿があった。
そこではじめて自分がどんな表情をしていたのか気付くと、咲夜は慌てて緩みきった顔を生真面目そうに直そうと必死になった。
「ぅ、お、美味しいわ…です」
くすっ。
小刻みに肩を震えさせて、美鈴が明後日の方向に顔を向けている。
「ふ、い、いやごめんなさい…何でも、くふふ」
「っっ!」
熱い。
顔中に火がついたかのようだ。
「~~~~っ」
わなわなと全身を震わせて、咲夜はきっと美鈴をにらんだ。だが、どう見てもそこに迫力は微塵もない。
あるのはただ、歳相応の少女の可愛らしさだけだった。
思えば、それからだったのだろう。
彼女を知り、彼女と共に過ごしていくうち、次第に彼女の存在に魅入られていったのは。
◆◆
「…くや、咲夜っ」
はっと顔を上げたその先には、むくれた顔でこちらを見上げる主の姿。
「貴女らしくもないわね。この私に二度も名前を呼ばせるなんて」
「っ…申し訳ございません」
「いいわ。それより紅茶の」
「スターボウブレーイク!!」
広々とした部屋は一瞬にして雷撃のような閃光と爆音に包まれる。
瀟洒な家具類は紙切れのように吹き飛び、突如出現した巨大な穴が壁の意味を一切の無に変えた。
爆煙の中を楽しげに飛び出したのは、フランドール・スカーレット。
冷静に結界の中で読書に勤しんでいた少女は、パチュリー・ノーレッジはいかにも重そうな本から目を離し、実妹を叱りつける主に代わって咲夜に用事を言いつける。
「紅茶のお替りをお願い。それからフランの分のカップも」
「かしこまりました、パチュリー様」
優雅に一礼した後、時を止めて一瞬で厨房まで移動すると、懐中時計を片手に手馴れた仕草で紅茶を準備し始める。
芸術的なまでに計算されたその手順は、あっという間に高級な香りを辺りに漂わせ始めた。
踊るような仕草で茶器を取り出して盆に並べると、咲夜はすぐに部屋へと踵を返す。
「お待たせいたしました」
「流石ね。やっぱり」
「当たり前じゃない。咲夜のことで私が知らないことなんてないんだから」
レミリアとパチュリーの奇妙な会話に、咲夜は首を傾げる。
「…あの、一体…?」
その疑問に答えたのは、予想外の人物であった。
「さくや、さくや」
「…はい、何ですか? 妹様」
「ヤカンなんか持って来て、どうしたの?」
「え? はっ…あ、ああああっ」
片手には、たぽたぽと音を立てるヤカン。
完全で瀟洒な従者としてはありえない失態。その、あまりに強すぎるショックに、思わずその場に膝を折る咲夜。
「さくやー?どうしたの?」
「妹様、そっとしてあげてください」
純粋な笑顔と、嗜虐趣味丸出しの笑みが咲夜を見つめている。
死にたい。
ああ死にたい。
今にも荒縄に首を括らんばかりの表情の咲夜に、レミリアは柔らかな微笑を浮かべて声を掛けた。
「咲夜、貴女何か悩んでいるでしょう?」
「なっ何も悩んでなどっ」
「そう、例えば…恋、とか?」
「ひっ…こ、ここ」
「さしずめ相手はそうねえ…ちゅうご」
「おおお嬢様っっ!おちゃお茶請けにケーキなどはいかがでしょうっっ」
必死になって言葉を遮ろうとする咲夜をにんまりと眺めながら、レミリアは頷いた。
「あら、それは素敵ね。忘れてきた紅茶も頼むわよ?」
「しっっ失礼いたしますっ」
お世辞にも瀟洒とは言いがたい勢いで部屋を出てゆく咲夜。
レミリアとパチュリーはその姿をにやにやと満足げに見つめ、その中でフランだけが状況を理解できずに不満そうな顔だった。
◆◆◆
穏やかな夜の紅魔館。
それ自体が既に館を守る番人であるような、威圧的で巨大な門扉の前に陣取っているのはすらりと背筋の伸びた紅髪の女性。
「今日は誰も来ませんねえ」
強弱関係なく多くの侵入者が狙う紅魔館であるが、稀にこうした日もある。
戦う相手がいない事は彼女にとって喜ばしいことではあるが、退屈を感じざるを得ないのもまた事実であった。
「ふぁ…」
伸びをしながら欠伸をひとつ。
「それにしても、今日は本当にいい天」
「レーヴァテイーン!!」
突然、門扉のすぐ側の壁が真紅の光線に貫かれて消し飛ぶ。
巻き上がる土煙の中から、無邪気に笑う小さな影が飛び出して美鈴の背中を直撃した。
「おぶっ…い、妹様ぁ」
「めーりーん!!あそぼー!?」
「いいですけど、いきなりどうなさったのですか?」
「お姉様とパチェはつまんない話しててつまんないんだもん」
「パチュリー様が…?」
「なんかね、さくやがお茶じゃなくてヤカンを持って来て、恋、なんだって」
美鈴はびきりと固まったまま、ネジの壊れた人形のようなぎこちなさでフランを見る。
フランは訳がわからないという風に、美鈴を見たまま首を傾げる。
「あの、最後の」
「なーに?」
「さ咲夜さんが、こっ…ここっこ」
「?」
「い…いえ、なん何でもないんです、あはは」
「むー、みんなそう言うのねっ、もういいよ」
そう言ったか言わないかのうちに、フランは飛び去って見えなくなった。
取り残された美鈴は、門扉に背をもたれたままずるずるとその場にへたり込む。
「さ、咲夜さんが…そん、な」
その顔は青く、今にも怪物に襲われんとしている少女にも勝るほどの絶望に歪んでいた。
◆◆◆◆
夜は瞬く間に過ぎゆき、やがて東から群青の空が涼しげに白んでいく。
十六夜咲夜が目覚めるのは常にこの時間である。
起き抜けにも拘らず、普段とまるで一切の違いのない振る舞いは流石といったところか。
広大な屋敷の中を、一人分の靴音が楚々とした響きを奏でている。
それはまるで朝を告げる聖歌のように規則正しく、美しいリズムで刻まれていく。
その靴音が、不意に止まった。
年季の入ったバスケット。その中には湯気の立った焼き立てのパンが数個と、缶入りのスープ。
深い緑色の布をかけられたそれは、彼女の美しい腕にぶら下がって運ばれてゆく。
彼女がここで生活を始めてから、一日たりとも欠かしたことのない日課。
「すぅ…」
高鳴り続ける心臓を抑えるために、深く朝霧を吸い込む。
これもまた、欠かしたことのない彼女の日課。
巨大な門の隣に作られた小さな扉を開ければ、あの人がそこで待っている。
咲夜は今や普段の瀟洒なメイドではなく、単なる一人の恋する少女になっていた。
「美鈴?入るわよ……っっ!?」
木戸を押し開けたその先の光景を見て、咲夜は言葉を失った。そしてそのまま状況を把握できずに棒立ちになる。
そこにあったのは、膝を抱えたまま死んでいるのではないかと思うほど微動だにせずに俯く美鈴の姿であった。
彼女はこちらに気付いたのか、頭をゆっくりと引き上げた。
「あ、さくやさ…、う」
優しそうな瞳は痛々しく充血し、形のいい眉を情けなくひん曲げている。
美鈴はやっとそれだけ口にすると、唇をわなわなと震わせて黙りこんでしまった。
「その…、ど、どうかしたの?」
「…ぃえ…何でもないんです、すみません」
ぐしぐしと乱暴に目を擦って、美鈴はいつものように笑ってみせる。
でもどこかそれは不自然で、やはりすぐに崩れてしまった。
「すみません…すみません」
美鈴はただ、そう繰り返すだけだった。理由は分からない。どうしたらいいかも分からない。
ただ咲夜はこれまでに感じることのなかった、灼けるような胸の痛みに戸惑いを隠せなかった。
その、呼吸すら危うく、内側から身体が破裂しそうな痛みを必死で堪える。
「ここに、置いておくから…バスケット」
それだけ言うのが精一杯で、咲夜はそこから逃げるように走り去っていった。
「待ちなさい、咲夜」
「っ…、パチュリー様」
細腕に分厚い本を抱えて珍しく眼鏡をかけた姿のパチュリーは、薄紫の長い髪をかきあげて、走り去ろうとする咲夜を呼び止めた。
余談だが、彼女が館内をただ移動している場面を見た人物はいない。
ゆえに、パチュリーは単に彼女が廊下を走っているなどという珍しい場面に興味を惹かれて声を掛けたのであって、特に呼び止める理由は無かった。
しかし振り返る咲夜の顔を見て、パチュリーは新たな興味の対象に気付く。
あら、珍しい。早起きして得したわ。
「朝からそんなに慌ただしいなんて貴女らしくないわよ?」
「…申し訳、ございません」
少し困ったような声色を作りながら、大人びた笑みを湛えるパチュリー。
彼女がこのような笑みを見せるときは決まっている。それは興味深い研究対象に出会ったときか、いい“暇潰し”を思いついたときだ。
「後で図書館に紅茶をお願い。私の分と、貴女の分」
「いえ、私は…」
「いいの。レミィはどうせ寝てるし、何なら小悪魔にでも向かわせるわよ」
「…かしこまりました、今すぐ」
そう言うと、咲夜は一礼してその場から消える。
先程まで彼女がいた空間に目をやりながら、ぼそりとパチュリーはひとりごちた。
「さっきの眼…あの子がああなるなんて久しぶりね。何か楽しい事になりそうだわ」
「で」
何の音も聞こえない、時間が静止したような錯覚を覚える場所。
ずらりと並んだ図書はそれこそ無限に連なり、あまりに広大な部屋の中で彼らの主の訪れをただじっと待つ。その最奥部に位置する小さな机の上に置かれたカップから昇る湯気だけが、なんとも幽玄に踊っていた。
紅魔の大図書館の主、知識と日陰の少女は華奢な脚を優雅に組んで口を開く。
「何かあったのでしょう? 貴女さえ良ければ相談に乗ってもいいのよ」
「………」
「…まあ、予想はつくけど」
両手でささげ持つようにカップを持って、パチュリーは彼女の顔を覗き見る。
殊勝な面持ちでじっと俯いたまま、咲夜は先程から黙りこくっている。
パチュリーは大きめの眼鏡をついと持ち上げて、少し困ったように溜息をついた。
「美鈴のこと、かしら?」
「っっ!!」
慌てて弁解しようとする咲夜の唇をきゅっと押さえて、パチュリーは微笑む。
「さしずめ、またあの子の下らない勘違い、ってとこね?」
「くだら…」
「貴女、美鈴のことをどう思っているの?」
弁論の余地のない、直球に過ぎる質問。それに対して、咲夜はただ息を呑んで口を閉ざすことしかできない。
また、溜息。
しかし今度はよりあからさまに、芝居がかった様子である。
「ごめんなさい、ちょっと意地悪だったわね」
「パチュリー様…」
「咲夜。貴女が悩んでいるそれはね、本当にたいしたことのない話なのよ?」
その言葉の真意が図りかねる様子で、咲夜はただパチュリーの言葉を無言で促す。
「そうね、よくわからないならいっそ…ふふ」
楽しそうに含み笑いをするパチュリー。
しかし、咲夜としてはとてつもない不安を感じずにはいられない。
そしてそれは、やはり的中するのだった。
「貴女、美鈴に告白しなさい」
「……は…ぇ、ええええ?」
「どうしたの咲夜? 顔が真っ赤よ、うふふふふ」
やはり、流石はあのレミリアの親友といったところか。
咲夜は心底楽しそうに微笑むパチュリーに対して、沸騰したように熱い顔を両手で隠しながら恨みがましい目をするしかなかった。
「ここ、告…白、なんて出来るわけないわ…で、でも」
こつこつとせわしない靴音を響かせながら、咲夜は真っ赤になったまま戻らない自分の顔に辟易していた。
このままレミリアやフランドール、まして美鈴の前になど出られるはずもなく、館の住人から逃げるようにこそこそと業務を続ける。
食事の給仕やお茶の用意はパチュリーが気を利かせてか小悪魔に全て言いつけていたために、珍しく空いた時間を不毛な思索に没頭しながら、咲夜は内心身悶えしていた。
「そう、少し様子を…そうよ、これは仕事よ、咲夜」
既に数十回目となる自分への激励を繰り返しつつ、咲夜は正門へと歩を進める。
「大丈夫…大丈夫」
そう言いながらも徐々に小さくなっている歩幅と気力に気付かぬふりをしながら、咲夜は近づいていく正門に不安げな目を向ける。
美鈴は、今どうしているだろうか。
いやおうもなく、咲夜の脳裏では今朝の出来事が思い返されていた。
「……っ!?」
扉を開こうとして、外から漏れる会話に咲夜は思わず立ち止まる。
「この声って…」
「ねえ、めーりん?」
「はい、妹様」
「めーりんはさくやが、好き?」
「っっ…!」
その質問に、咲夜は思わず目を見開く。フランの真意を理解できないまま、咲夜は息を呑んで会話の続きを待った。
「…知っておいででしょうか、妹様?」
「ん?」
「私、朝が大好きなんです」
「朝…?」
「そう。夜が明けて、また新しい一日が始まる時間。太陽に照らされ、段々と明るくなっていくと共に、新しい空気に世界が包まれていく時間」
「むー、わたしは朝って好きじゃない。太陽、苦手だから」
「ふふ、そうですね」
美鈴は優しげにフランの髪を手で梳かしながら、にこりと微笑む。
「毎朝いただける焼きたてのパンが楽しみで。こう、バスケットに入ってまして、そうそう付け合せのスープもまた絶品で」
「ふーん? わたしも食べてみたいなぁ」
「えへへ、それなら早起きしなくちゃ、ですねー?」
あはは、と笑う美鈴。
扉に寄りかかったまま、咲夜はただ黙って二人の会話を聞いていた。少し俯いた、なめらかな銀髪に隠れたその素顔はよく見えない。
「妹様?」
「うん?」
「その私の朝ごはん、咲夜さんの手作りなんです」
「さくやの?」
「はい。毎朝毎朝、きれいな布をかけたかわいいバスケットに入れて。毎朝ですよ? とても早起きして、えへへ、それは何かのついでなのかもしれませんけど」
「……ちがうよ?」
「え?」
「さくやは、きっとめーりんの為に毎朝がんばってるんだよ」
「妹様…」
「めーりん」
「はい?」
「さくやのこと、好き?」
とくん。
咲夜の心臓が、少しずつ高鳴っていく。
ぎゅっと目をつぶったまま、咲夜は静かにそこを離れた。
「………はい、大好きです」
そう答えた美鈴の顔はとても晴れやかで、少し恥ずかしそうで。
それを見たフランはにっこりと笑うと、美鈴に精一杯腕を伸ばして抱きしめた。
「パチェがね、教えてくれたの」
「え…?」
「好きな人がいるひとは、とっても綺麗な笑顔ができるんだって」
「…妹様…」
「今のめーりんは、すごく綺麗」
フランは甘えるように美鈴の胸に顔を埋める。
美鈴は少し驚いて、それから満面の笑みで頷いた。
「……ありがとうございます、妹様」
◆◆◆◆◆
生地をこねる手が、ふと止まる。咲夜の脳裏には、先程の声が響き続けていた。
「っ…馬鹿、みたい」
突然、だんと響く音。
無残にへこんだパン生地に、拳がめりこんだまま震える。
「美鈴……」
生地を寝かせる戸棚に置いたところで、ようやく咲夜は厨房の出入り口に佇むレミリアに気付いた。
「っっお嬢様!?」
「あら、随分じゃない。いつから貴女の主はパチェになったのかしら?」
「……聞いていらしたのですね」
「それより…あら、もう大丈夫みたいね」
「ええ。本当に、ご迷惑おかけいたしました」
そう言ってお辞儀をする咲夜の姿は、以前の通りの完全で瀟洒な従者だった。その姿にレミリアは少し不満そうな顔で口を開く。
「あーあ、咲夜のことは私が一番知ってるつもりだったのに。こんな時においてきぼりなんて少し残念」
「レミリア様…」
「冗談。私は完璧な貴女が好きなの。だから、ねえ咲夜」
「はい」
「さっさと決着つけちゃいなさい。言っておくけど、失敗なんか認めないわよ?」
「…はい、お嬢様」
「ん」
微笑むレミリアの後に付いて、咲夜は厨房を出た。
小さな背中。
その背中が、少し震える。
「ねぇ、咲夜」
「はい」
「今日は、私の部屋で寝なさい」
毅然とした態度に合わない、とても小さなか弱い声。
立ち止まったままけして振り向こうとしないレミリアを、咲夜は優しく抱き上げる。
「仰せの通りに。レミリアお嬢様」
紅魔館の夜は更けてゆく。
いくつもの想いとともに彼女たちの物語もまた、最高潮の時を迎えようとしていた。
◆◆◆◆◆◆
朝。
涼やかな風が軽快に身体をすり抜けていくのを感じながら、美鈴はふと瞳を閉じた。
「ん…」
新鮮な空気を肺の奥に満たすと、心地良く微笑む美鈴。
こんこん。
小気味いいノックの音が美鈴の耳を叩く。
「………」
両手にバスケットを持って俯く、最愛の人の姿。
少し憂いを帯びた表情で目をそらしたまま、彼女は一歩も動こうとしない。
「咲夜、さん」
「美鈴…? その、…っあの、私、私ね…?」
一生懸命に言葉を紡いでいく彼女の姿に、美鈴の胸はきりきりと悲鳴を上げる。
灼けついた塊が咽喉の奥を競り上がっていくような感覚に思わず泣き出したくなるのを必死で堪え、美鈴は両拳を感覚がなくなるほど強く握り締めた。
「咲夜さん…っ、お話が、あります」
「………」
胸が、痛い。
これ以上話したら、内側から砕けてしまいそうだ。
胸が苦しすぎて息が出来ない。出来ることなら、今すぐここから逃げ出してしまいたい。
「…咲夜さん…その…っ…」
そこで言葉を切ると、美鈴は大きく息を吸い込んだ。
「…っ…その、~~っ」
「美鈴」
苦しそうに呻く美鈴とは対照的な、穏やかな声で咲夜は先を促す。
しかし内心は咲夜もまた同じように苦しんでいた。
自分の気持ちは、もはや疑いようがない。
彼女の気持ちもまた…、きっと同じであるはず。
でも、もし…それが自分の思い上がりなら…。
そんな湧き上がるどうしようもない不安を抑えられずに、咲夜は知らず両腕をきつくかき抱く。全身の震えを悟られぬように、咲夜は精一杯毅然とした表情を作ってみせる。
「……っ…き、です」
「っっ!!」
「好きです。大好きです、貴女が…咲夜さんが、大好きです。」
言えた。
やっと、口にできた。一度喋ってしまうと、それまでの想いが濁流となって口からとめどなく溢れて止まらない。無論、美鈴は止めるつもりなどない。
「大好きなんです…ずっと…ずっと言いたかった…ずっと貴女に、気付いて欲しかった」
頬をつたうものを拭うこともせず、ただひたすらに、美鈴は繰り返し続ける。
「貴女が、誰を好きでもいいんです…それが私じゃないことなんて、ずっと前から覚悟していましたから…。それでも、私は…」
「ちょ、ちょ…ちょっと待って?」
戸惑うような咲夜の声。桜色を超えて真紅に上気した顔を隠すこともせず、慌てた様子で両腕をばたばたと動かす。
「え? …あれ? どういうこと?」
「…っですから私は、咲夜さんに誰か好きな人がいても、好きって気持ちを…」
そこまで聞いて、咲夜はようやく合点がいった。要するに、彼女は…。
「っっ…こ、の…バカ中国っっ!!」
「ふええ!?」
「アンタはなんでいつも…いつも…」
ぷるぷると震える両拳に、一粒の涙が零れ落ちる。
「っバカじゃないの? もうっ…」
「咲夜さん…」
きっと睨んだ両目は涙でうるうるとゆらぎ、真っ赤になったまま必死になって怒ったように顔を歪ませている。
「私だって…す、き…よ」
「え?」
「っ……好きよっっ!! アンタがっっ!! どうしようもないくらいに大好きよっっ!! ふ、ふんだ、何よ…自分だって私の気持ちに気付けなかったくせにっ…」
「…さっ、え? …えええ!?」
「馬鹿みたいじゃない…ずっと、私だってずっと…あなたが好きだったのに」
いじけたような視線を送りながら、徐々にしおれていく咲夜。どうやら自分がなんて間抜けな告白をしてしまったのかと後悔しつつあるらしく、真っ赤になったまま縮こまるようにその場にへたりこんでしまった。
対する美鈴はもう何がなにやら全く分からない様子で、呆然とその場に突っ立ったままである。
二人はそのまましばらく全く動かずに見つめあい、そして突然、美鈴がゆっくりと咲夜の前に腰を下ろした。
「っっ!!」
美鈴の腕の中で、石のように固まる咲夜。二人の身長差のせいで、ちょうど胸の中に顔を埋める形になってしまっている。
「なんだ…なら、初めから両想いだったんですね」
咲夜の耳のすぐ側で、美鈴はそう呟く。
吐息まで聞こえる位置で聞く彼女の声は、とても嬉しそうで、恥ずかしそうで。
「咲夜さん」
首筋に走るなんともいえないくすぐったさが、咲夜をゆっくりととろけさせる。
「んぅ…」
暖かな幸福感が全身を包み込んで離さない。甘えるような目線で、顔を上げて美鈴を見る。
優しそうに、嬉しそうに微笑む美鈴の顔。それが、信じられないほど近くにある。
「…美鈴」
「大好きです…咲夜さん」
どちらからともなく、吸い寄せられるように唇が重なる。
それを優しく祝福するかのように、朝の太陽は柔らかく二人を照らしていた。
完璧でない咲夜さんはいいなぁ
あと妹様いいキャラだなぁ
感動しました!!!
甘い話だなぁ、うん。うん!
しかし、最後がちと急展開過ぎる気もする。
が、これは100%自分の好みの問題なのでこの点数をつける。
欲を言えば後日談でオチをつけてくれると良かったかもしれない
っつーか続き読ませろ!おながいします( ´Д`)
なんにせよGJGJ(゚∀゚)!
ありがとうございます!本当に感謝です!
コメントして頂いた方、何かもう結婚してください(ぇ
仰るとおり読み返すと、オチが駆け足気味になってますね…。
言われなくちゃわからないことってやっぱりあるな、と改めて思いました。
実はこの話はもっと長くてシリーズにするつもりだったのですが、
グダグダになることを恐れて一話に短縮しました。
その割愛した部分を今、後日談(番外編?)として仕上げている最中でして、
完成した暁には是非読んでいただけたら嬉しいです。
それでは。採点及びコメント、本当にありがとうございました!
さりげに妹様がいいですね。
後日談楽しみにしています。
シリーズにしてくれたらもっと嬉しいですけどw
今度は小悪魔も出してあげてください。
他の方の作品では咲夜さんは完全で瀟洒たろうとし、動揺をある程度隠しているものの隠し切ることができずに周囲に勘付かれるような展開が多いのですが、この咲夜さんは未熟でグダグダになってしまっていますね。そこがちょっと違和感を感じますが、同時にこの作品を非常に魅力的にしていると思います。「だがそれがいい」という奴ですね。
一つの朝を迎えて二つの恋が芽生える。
芽生えた恋が少しずつ成長する事を祈ります。
瀟洒な咲夜さんも好きだけど、初恋?に心乱れる咲夜さんも好きだ。
最高だ!あんたが神だ!