Coolier - 新生・東方創想話

三月精のとある一日

2007/07/29 07:54:44
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「ふ…ああぁ………」
サニーが目覚めた。
相変わらず起きるの遅いわね。
「起きるの遅いわよ、サニー」
取り敢えず、お約束の言葉をサニーに投げる。
「私はお日様が完全に顔を出さないと力がまったく出ないのよ」
嘘吐くな。
日が沈んでも元気なくせに。
まぁ、力が弱まるのは本当だけど。
「そんな事より、ほら、早く準備をしましょう」
スターもスターでマイペースよねぇ……
「準備?何の?」
まだ寝ぼけてるのかしら?サニーは。
「ほら、今日は「里の日」でしょ?」
昨日言った事をもう一度言わせないでよね。
「あ~……たしかに」
「ほらほら、木の実とコーヒーも用意したから、早く朝食済ませて」
スターったら何時の間に用意したのかしら?
「スター、コーヒー私のもお願いできる?」
コーヒーの匂いを嗅いだら急に飲みたくなったわ。
「はいはい、ちょっと待っててね」
さて、それじゃ私は新聞でも読みながら待ちましょうかね。
「ルナったら、また何時のか解らない新聞読んでるし」
「読んでるのが好きなのよ」
まぁ、サニーには解らないでしょうけどね。
あの子、読書とか苦手そうだし。
「ルナ、コーヒー出来たわよ」
「ありがと」
ん~……やっぱり、新聞はコーヒーを飲みながら見るのが一番ね。
「さて、それじゃあさっさと食べちゃいましょうかね」
そうして欲しいわ。
後、食べてないの貴女だけだし。


サニーの朝食も終わり、私達は家を出た。
今日は「里の日」
里の日とは、里で悪戯をする日の事。
因みに昨日は「神社の日」だった。
あそこの巫女は勘がいやに鋭くて、気付かれる事多いのよねぇ………
勘の鋭い相手への悪戯は止めようって言ってるのに、二人とも聞きやしないし。
私は能力ゆえにしんがりを務めさせられるから、一番捕まりやすい。
だからこそ、危険は避けたいって言うのに………
まぁ、里の人間たちはそんなに危険性の高い奴は居ないし、結構安全に遊べるのが良い所ね。
「よし!着いたわ!!」
サニーが往来の真ん中で仁王立ちしながら叫ぶ。
まぁ、私の「音を消す程度の能力」のお陰で誰にも聞こえてないんだけど。
加えるて、サニーの「光を屈折させる程度の能力」で私達の姿を見えなくしてるから、人間は誰も気付かない。
「さて、それじゃあ何から始めましょうかしら?」
スターが辺りを見回す。
このスター・サファイアは、何時もは「動く物の気配を探る程度の能力」で近づいてくる者の警戒を担当してるんだけど
今回の里のように、生物が多い場所では結構役に立たない。
「やっぱり、悪戯は派手に行かないと!」
派手に行き過ぎたらバレると何時も言ってるでしょう、サニー。
「と言う事は、大きな家が良いかしら?」
「そうね」
とは言え、私も悪戯は大好きだから止める等と言う野暮な真似はしないわ。
私が制止を掛けるのは、勘の鋭い相手と私達の能力が効かない相手だけ。
まぁ、私達の能力が効かない相手なんてそんなに居ないんだけどね。
あの神社の巫女、霊夢も勘が鋭いだけで私達の能力を看破してる訳じゃないし。
「あ、あの家なんてどう?」
スターがそう言って指差したのは、確かに、この里では立派に入る部類の建物だ。
「良いわね。じゃ、あそこに行きましょう!」
サニーが我先にと飛び立つ。
「「はいなー!」」
私達もそれに続いていく。

「家が大きいだけあって、人も結構居るわね」
サニーの言うとおり、屋敷の大きさに比例して人も多いわ、ここ。
「じゃあ、何から始める?」
再びスターが辺りを見回しながら言う。
因みに、今、私達が居るのは庭だ。
前述の能力で誰にも気付かれていないのは言うまでもないわ。
「あ!あそこで雑巾がけしている奴が居るわ!」
サニーの言うほうを見ると、確かに廊下を雑巾がけしている女が見えた。
「じゃあ、あのバケツを利用して……」
スターの言わんとしている事は理解したわ。
「それじゃ、いきましょ!」
私もワクワクしながら悪戯を仕掛けに行く。
やる事は至って単純。
あの女が雑巾を絞り終え、雑巾がけに戻った後、すぐさまサニーがバケツを見えないようにし、私が音を消す。
そして、そのバケツを女の進路に置いてやるのよ。
準備は直ぐに出来たわ。
「サニー、そろそろ」
「解ってるわよ、スター」
サニーが屈折を戻す。
見えないままバケツにぶつかったら幾らなんでも怪しまれるからね。
女はバケツが移動している事など思う筈もなく、仕掛けられた罠めがけて一直線に雑巾がけをする。
そして

ガッシャーーーーー-ンッ!!

「きゃあぁぁ!?」
「「「いやったぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
私達三人は手をパンッ!と叩き合う。
女はものの見事に引っかかったわ。
ひっくり返って、何が起きたか解らない顔してるのがまた…………
あぁ……可笑しすぎてお腹が痛い…!!
「見て見て!ビショビショよあいつ!!」
「あはははは!!面白い顔!!」
二人もお腹を抱えて笑ってるわ。
「今の音は何ですか?」
障子が開いて、部屋の中から子供が出てきた。
「あ、阿求様!?申し訳ございません、粗相をしてしまいまして………」
「これはまた、随分見事に散らかしましたね………」
本当、あの子供の言うとおり、見事としか言いようがないわ♪
「も、申し訳ございません、言い訳をするつもりはないのですが、何故かバケツが勝手に移動してまして………」
勝手に、じゃなくて私たちが、だけどね♪
「……そうですか、以後気を付けて下さい」
「は、はい。申し訳ございません」
「いえ、貴女自身が、ではなく。悪戯好きの妖精に、ですよ」
「え?」
き、気付かれた!?
「まったく、また来てるようですね、あの三妖精は。本当に困ったものです」
「サ、サニー!?」
「だ、大丈夫よ!私たちの姿は見えてないはずよ!!」
私も音を消す能力を解除しては居ないわ。
「でも、あの子、こっち見てるわよ?」
スターの言うとおり、あの子供はこっちを見ている。
けど、その視線は定まっていないわ。
「あの様子だと、私達の仕業だと気付いてはいても、何処に居るかまでは解らない様ね」
「あんな子供に解ってたまるもんですか!」
まったくだわ。
「でも、子供って勘が鋭いし、大人には見えないものも見えるって言うから気を付けた方が良いわよ?」
それも一理あるわねぇ…その勘って奴が私達の能力の最大の敵といっても良いものねぇ。
「気にし過ぎよ!それより、この家のほかの所に行って見ましょう!」
貴女はもっと気にしなさい。
まぁ、確かに子供に怯えて引き下がるのもなんだけどね。

今度の場所は台所。
「さて、今度はなにしようか?」
サニーがスターに尋ねる。
「ん~…そうねぇ………」
私も面白そうな物を探す。
ん?あれは………
「どうしたの?ルナ」
私は呼びかけるサニーを無視して見つけた物に近づく。
「これは……砂糖?」
その通りよ、スター。
「はっは~ん……貴女の考えてる事がわかったわ、ルナ」
その鋭さを他にも発揮して欲しいわね、サニー。
そう、言わずもがな、私が考えたのは、この砂糖の入れ物と近くにある塩の入れ物の中身をすり替える。
ご丁寧にラベルまで張ってあるから、間違える事間違いないわね。
「スター、誰か来る?」
「いいえ、近くに人は居ないわ」
まだお昼前だものね、用がなければ流石に誰も来ない、か。
「じゃ、今の内にやっちゃいましょ」
サニーがそう言って、砂糖と塩を入れ替えた。
「さてと……それじゃあ、誰か来るのを待って、悪戯の成果をみましょう」
「そうね、スター。誰か来たら教えてね」
「解ってるわ」

待つ事数十分

勿論、私達が静かに待つ訳はなく、思いっきりお喋りしてたわ。
どうせ誰にも聞かれないし。
「あ、誰か来たわ」
スターが教えてくれる。
待ってる間にも何人か来たけど、素通りだったり、仕掛けた物を使ってくれなかったりだったわ。
「あ、使うみたいよ!」
サニーの言うとおり、その人間は紅茶を入れ始めた。
そして、予め塩入の砂糖の入れ物を近くに持って来ていた。
「あ、入れたわ!入れたわよ!!」
サニーが叫ぶ。
私もワクワクし始める。
誰に飲ませるのかしら?あの紅茶♪
私達はその人間の後を付けていった。
「あら?ここは………」
「さっきの子供の部屋じゃない」
どうやら、あの紅茶はあの子供が飲むらしい。
それは楽しみだわ♪
使用人が紅茶を置いて部屋から出て行った。
勿論、私達は室内に居る。
「あ、飲むわよ、飲むわよ!」
サニーがこらえ切れないと言った様子で言う。
かく言う私も待ちきれない。
そして、その子供が紅茶を口にし…………

「んぐっ!?」

むせたわ。
ま…まずいわ……お、お腹が………
私は思わずお腹を押さえて床を叩いた。
見ると、スターやサニーも大爆笑してる。
「あ…あはははははは!!!く…苦しい!!」
「んぐっ!?だって!!んぐっ!?あはははははは!!!!」
最高だわ、あの子供♪
「っく……!!!」
あら?苦虫を噛み潰したような顔で口を拭ってるわ。
「少々おいたが過ぎましたね………」
あら?私達に言ってるかしら?
「どうせ解りっこないのに」
サニーの言うとおりだわ。
それに、子供がどうやって仕返しするつもりかしら?
「あら?あの子、おはじきを取り出したわよ」
スターの言うとおり、あの子供、引き出しからおはじきを取り出したわ。
何するつもりかしら?
って、回りながら、おはじきを部屋の中に放り投げ始めたわ。
「何したいのかしら?あの子」
スターの疑問も最もだわ。
「まさか、あれを私達に当てて場所を探るつもりかしら?」
「ルナの言うとおりだとしたら、とんだお馬鹿さんね」
「まったくだわ。そんな事で私達が見つけられるわけないのに」
サニーの言うとおりね。
やがて、あの子のおはじきがこちらにも飛んでくる。
けど、当然、そんな物に当たるほど私達は間抜けじゃないわ。
簡単に避けてあげたわよ。
「一周しちゃったわね」
「本当、あれで当たると思ったのかしら?」
「ま、所詮は子供よね~」
本当、そんな浅知恵で私達を見つけようなんて………
「塩入り紅茶、ありがとうございます」
へ?何言ってるの?あの子。
あ、紅茶のカップをつかんだわ。
「今度は貴女達が味わいなさい!!!」
って……ええぇぇぇぇぇぇぇ!!??
な、なんでこっちに向かって中身をぶちまけるのよ!!!
「か、掛かる!掛かるぅぅ!!!」
よ、避けれっこないわよ!!!


バッシャアァァァ!!!


「熱ぅぅぅぅぅ!!!!」
「熱い熱い!!!!」
「熱っ!!しょっぱ!!!」
な、何でバレたの!?
私もサニーも能力解除してないわよ!!
「所詮は妖精。もっと学習して出直しなさい。それとも………今度はこの墨汁がいいですか?」
ちょっ!?墨汁持ち出したわよ!?
「ルナ!スター!!」
「ええ!」
「勿論!!」
「撤退!!!」
「「はいなー!!」」


「何でバレたのかしら?」
とりあえず、往来まで私たちは逃げてきた。
「ルナ、貴女、能力の解けたんじゃないの?」
「馬鹿言わないでよ、そんなヘマする訳無いじゃないの」
そうよ、能力はずっと使ってたわ。
なのになんで?
「兎に角、あの子供も要注意としておきましょう」
「そうね……最後は完全にこっち見てたしね」
「とんだお子様だわ」
私の意見にサニーもスターも同意する。
「でも、このままやられっ放しってのも癪ね」
「そうね、サニーの言うとおりだわ」
「じゃあ、別の所行きましょうか?」
そうね…あの屋敷に戻って仕返ししても良いけど、今は止めておいた方が良さそうだわ。
きっとまだ警戒してるだろうし。
「じゃあ、今度はあそこなんてどう?」
「何?あの小屋」
あれって確か……寺小屋とか言われてなかったっけ?
なんか、子供が勉強する所だとか。
「良いわね、行って見ましょう」
相変わらず、サニーが我先にと飛び出し、私とスターがそれに続く。

「………と言う様に、古来から人は…………」
小屋の中では、やはり子供たちが勉強をしていたわ。
なんか、前に出てる大人が説明してるけど、良く解らない内容ねぇ………
「なんか、詰まんない話してるわね~」
「人間ってこう言うの、好きなのかしら?」
「さぁ?」
まったくもって理解不能ね。
する気も無いけど。
「さて、何を仕掛ける?」
「そうね、都合よく窓も開いてるしね」
スターの言うとおり、私達が居る、部屋の奥の方の窓は開いていた。
これなら容易く侵入できるわ。
まぁ、私達なら大抵の所には容易く侵入出来るけど。
しっかし、やっぱり子供達も退屈なのかしらね?
私達の居る場所から近くに居る子供達はお喋りしてるわ。
「コラ!そこ!聞いてるのか!?」
あ、教壇に居る大人がチョークを投げたわ。
お、子供は見事に避けたわ。
やるじゃない、子供。
「へっへ~ん!慧音先生のチョークは投げられなれてるもんねー!!」
自慢げに子供が言う。
「ほう?チョークよりも頭突きがお望みなのか?」
「え!?い、いや、そんな事は無いです………」
あら?あっという間に子供から威勢が消えたわ。
「あ!あの大人、たしか半獣だよ!」
スターがそう叫んだ。
「半獣?じゃ、人間じゃないんだ」
「へ~……」
見た目は人間そのものなのにね~
私とサニーは驚く。
「まぁ、しかし、それよりも問題があるから、それを片付けるとしようか」
あら?半獣がこっちに来るわ。
しかも、何故か黒板消しを二つ持って。
「ちょっと、ルナ!また音消し忘れたんじゃないの!?」
「馬鹿言わないでよ!だったら子供達がとっくに気付いてるでしょ!?大体、今のチョークの音だってしなかったじゃない!!」
「あ、そうか。」
同じ理由でサニーも能力を解除してるわけじゃないわ。
「ふむ………」
半獣が投げたチョークを拾い上げて、そして、また地面に落とす、を繰り返している。
落とす場所を変えながら。
何してるのかしら?
「何してるの?この半獣」
「さぁ?」
私とサニーは頭をかしげる。
「やれやれ………」
半獣が呟く。
「慧音先生、何してるの?」
流石に子供も不審がったらしいわ。
「何、ちょっと授業に邪魔な者が居るのでな」
ちょっ!?まさか気付いてるの!?
「気付かれた!?」
「ま、まさか………」
サニーとスターもちょっと引き気味だわ。
私も少し下がっておこうかしら。
「さて、授業の邪魔だ。他の場所へ行け!」
と言うと同時に、あの半獣………
黒板消し同士を叩き合わせ始めたわ!!

バンバンバンバンッ!!!

ちょっ!?け、ケムい!!
「けほっ!けほっ!!」
「ちょっ!?や、止めてよ!!」
私の能力で相手には聞こえないわよ、スター。
「て、撤退!!」
「「はいなー!!」」


「はぁ…はぁ…はぁ……!!きょ、今日は一体何なの!?」
サニーの叫びも最もだわ。
「普段は気付かれる事なんて無いのに………」
「今日は相手が悪かったのかしらね?」
スターの言う通りかも。
「こ、このまま終わるなんて癪だわ………!!」
「どうする気?サニー」
「こうなったら………」
「こうなったら?」
スターが聞き返す。
「「宝探し」よ!!」
「宝探しって……今から?」
宝探しとは、私達が森の中で珍しそうな物を見つけ、その珍しさを競う事。
因みに、価値が解らない時は香霖堂に持っていって識別してもらってるわ。
「違うわ。宝のある場所なら解ってるじゃない!」
「宝のある場所?」
解ってるなら探す必要ないじゃないの。
「あ、もしかして……」
スターは何か気付いたようね。
「その通り、あの古道具屋よ!」
ああ、確かにあそこなら色々珍しい物があるわね。
「この際、この仕返しはあの道具屋に返してあげましょう!!」
あの道具屋は里の人間とあまり関係ないと思うけど………
「それも良いわね♪」
愉しければなんだって良いわ♪


さてっと…都合よく、店主が店番をしてなかったから、あっさり入り込めたわ。
「じゃ、探しましょう」
例のごとく、私とサニーで姿と音を消す。
そして、スターは警戒役。
「何か面白そうなのないかなぁ………」
私達はゴソゴソと店内をあさる。
しっかし、妙な物もあるわねぇ…………
「ん?何これ?」
サニーが何かを見つけたようね。
「ん~……読めないわ」
サニーが持っているのは、長く薄い箱のような物で、表面に白地の紙に何か書かれていた。
「だから、少しは書物読みなさいって言ってるでしょ。ほら、貸して」
私はサニーからそれを受け取る。
それには

「人妻熟女と悦楽の宴」

と書かれていた。
「どういう意味?」
「さぁ?」
「知らないわ」
三人そろって首をかしげた。
「これも同じような物かしら?」
そう言ってスターがそれを見せる。
それには

「洋物ロリ○タ4時間スペシャル」

と書かれていた。
「ロリ○タ?」
「何?○って?」
「知らないわよ」
本当、訳解らない物多いわ、ここ。
「それにしてもゴチャゴチャしてるわねぇ………」
「本当、何があるのかサッパリだわ」
サッパリすぎて、変な妖精とか出てきそうだわ。
なんか、サッパリサッパリ言って踊るだけの妖精が居るとか何とか。
見た事無いから解らないけど。
「ん~……他に何か無いかしら?」
再び私達は漁り始める。
すると、
「あ、戻ってくる!!」
スターが店主の気配を察知した。
「しょうがない、逃げるわよ!」
「「はいなー!!」」


ふぅ……なんとか、店主が来る前に逃げれたわ。
流石に、散らかしてあったりしたら怪しまれるものね。
「しかし、結局何も手に入らなかったわねぇ」
「あまり探せなかったものね」
しょうがないわよねぇ………って、あら?
私ったら、何か握ってたわ。
そう言えば、逃げる時に何か掴んでたわね。
「なんか、こんなの持ってきてたんだけど」
私は二人にそれを見せた。
「お?戦利品!?」
まずサニーが食いついてきた。
「……何かしら?それ」
本当、何かしら?これ。
それは黒い、L字型の物体だった。
しかも、ちょっと重いわ。
「う~ん……出所が出所だから、あの店主に聞く訳に行かないしね~」
そりゃそうね。
盗んでおいて、これなんですか?なんて聞きに行ける訳が無い。
私達がそれを見て考え込んでいると、

「走って!!」

スターが突然叫んだ。
同時に、スターとサニーが駆け出す。
スターが突然そう叫ぶのは、背後に突然何かが現れた証拠。
私も遅れて駆け出す。
二人とも、私をおいて我先に駆け出すなんて酷いわね。
何時もの事とは言え。
というか、ドンドン離されて行くわ。
可笑しいわ、私は二人とそんなに速さ変わらないはず………
って、私はなんか正体不明の重いの持ってたの忘れてたわ!!
「止まりなさい」
声!?
そんな!私が能力使ってるから、声なんて聞こえるわけが無いわ!!
「聞こえなかったのかしら?」
ま、まずいわ………
良く解らないけど、この声はまずい。
まず、能力使用中の私に話しかけるという事は、心に直接話しかけているという事。
これは普通ではありえないわ。
そして、何より声に威圧感が含まれている。
それも、どう足掻こうが、絶対に覆らない実力差を思い知らされるほどの。
取り敢えず、足を止めないと………冗談抜きで殺されるわ。
止めたからと言って助かる保証はないけど。
あ、なんか、前にもこんなこと無かったかしら?
えっと、なんて言うんだっけ?
デ…デ…デ…………


デデデ大O!?


「それを言うなら、デジャヴ、ね」
心読まれた!?
「読んでないわよ。貴女の表情がそう語ってただけよ」
本当かしら………
「さて、それは置いておいて………また会ったわね」
また?
そう言えば……一度どこかで…………

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

お、思い出したわ………
あれは蛍光灯を手に入れた時の事。
そして、道理でとんでもない威圧感なわけだわ。
だって、この妖怪、幻想郷でもトップレベルの実力者。
境界の妖怪、八雲紫じゃないの!!!
「思い出してくれたかしら?」
ニッコリ笑ってるのに、何で怖いのかしら?
私は無言でコクコクと頷くしかなかった。
「さて、前にも言ったと思うけど、危険な物を面白半分に振り回されると困るのよ」
「……これ、危険な物なんですか?」
「ええ、とっても」
この妖怪が言うのだから、恐らく本当でしょう。
「渡してくれるわよね?」
言外に「渡さなければどうなるか解るわよね?」と言ってるのが良く解る。
勿論、私だってこの妖怪に逆らうほど馬鹿じゃないわ。
素直にそれを渡した。
「ありがとう。それから、貴女のお友達にも少しお説教したいから、捕まえさえてもらったわ」
つ、捕まえた?
サニーとスターを!?
幾ら私の音を消せる能力が欠如してるからって、あの姿を消して気配を察知できる二人がそう簡単に………
「紫様、連れてまいりました」
って、本当に捕まってるーーー!!!
「ははは……お久しぶりね、ルナ」
「あはは…捕まっちゃった」
サニーはともかく、あのスターまで………
「ご苦労様、藍」
あ~……彼女がこの境界の妖怪の式、ね。
そりゃ逃げれないわ。
「生憎と、これでも妖獣だからな。姿と音を消しても匂いで解るよ」
なるほど……
ついでに、その身体能力なら幾らスターの感知能力でも関係ないわ。
幾ら気付いても、逃げ切れなきゃ意味が無いんだから。
「さてと、今回の貴女達はちょっとおいたが過ぎたわね」
境界の妖怪が扇子で口元を隠しながら言う。
なんか、怖いわ。
いや、本当に半端無く強い妖怪だから怖いのは当たり前なんだけど。
「ちょっと、誰よこれ?」
サニィィィィィィ!!!!
あんた、誰に向かって口利いてるのよ!!!
「服のセンス悪いわね」
スタァァァァァァァァ!?!?
あんた達、そんなに死にたいの!?
「あらあら…うふふ………」
か、寛容なのかしら?
怒っては居ないようね……多分だけど。
って、こいつらに教えておかないと……
「あんた達ねぇ!!この方は、あの境界の妖怪よ!?」
言葉遣い気をつけないと死ぬわよ!?いや、本当に!!
「え!?あの!?」
「境界の妖怪って言ったら……あの、別名………」
そうよ、だから言葉遣いを…………





「「スマキの妖怪!?」」




コルアァァァァァァァ!!!!
何早速やらかしてんのよぉぉぉ!!!
「簀巻きじゃないでしょ!!隙間よ隙間!!」
むしろあんた達を簀巻きにしたいわよ!!!
「あらあら…うふふ……!!!」
あ……今度は解るわ。
明らかに怒ってらっしゃる。
だって、式が半歩下がったもの。
「簀巻きになりたいのなら簀巻きにして差し上げてもよくってよ?」
再びニッコリ笑って言ったわ。
何でかしら?
笑顔って本来素敵な物よね?
いや、確かにこの笑顔は素敵よ?
素敵に怖すぎるわ。
前に神社の日で霊夢に捕まった時も、霊夢は素敵な笑顔を見せてくれたけど………
これは、その比じゃないわ。
笑顔とは、かくも恐ろしい物なのね………
「ねぇ、藍」
「はい」
「妖精って美味しいかしら?」
食べるのぉ!?
「さぁ?どうでしょう……食べた事はありませんから」
「そうよねぇ……どう食べるのが一番良いかしら?刺身?焼く?揚げる?煮る?」
「活け造りなどどうでしょう?」
ちょっ!?そんな物騒な会話しないでよ!!!
「それとも裸にひん剥いて人間とかに違う意味で「食べ」させましょうかしら?」
「それも一興ですね」
その「食べる」の意味が解らないけど、とてつもなく危険な香りだけはするわ。
サニーとスターも震えて動かなくなってる。
というか、私達三人はお互いに抱き合って震えてるわ。
「さて、貴女達も食べられたくはないわよね?」
三人そろって何度も頭を前後に振る。
「そうよね。じゃあ、一つお願いがあるのだけど、良いかしら?」
再び頭を何度も前後に振る。
断った日にはどうなるか解ったもんじゃないわ。
「今度、ちょっとした催し物を考えてるのよ。貴女達にその協力をしてもらいたいの。良いかしら?」
良いかしら?と言っているが、当然の事ながら私達に拒否権は無いわ。
三度、何度も頭を前後に振る私達。
「ありがとう。それから、今度は命令ね」
再びニッコリ笑って言う。
「金輪際、二度とあの店から物を盗まないように。良いわね?」
またまた頭を前後に振る。
「それじゃ、その時が来たら声をかけるから、よろしくね~」
そう言って、境界の妖怪は隙間を開けて去って行った。
「まぁ、紫様も本気でお前達を殺そうとしたわけじゃないが……紫様の言う事は守ってくれよ」
式もそう言って去って行った。
って言うか、式は歩きで帰りなのね。
ちょっと可愛そう。


「っはぁぁぁぁ………死ぬかと思ったわ」
サニーが家に着くなり、ベッドに大の字に寝て言う。
「あのね、誰のせいで死に掛けたと思ってるのよ?」
「そうよ」
「いや、貴女もよ、スター」
まったく…二人してあの大物妖怪を挑発してくれて………
寿命が大分縮んだわよ。
「でも、あの境界の妖怪の催し物って何かしら?」
「さぁ?」
解る訳無いわよね。
「それにしても、今日は散々だったわね………」
「本当、ついてないわ~」
何でかしら?貴女が言うと凄い現実味があるわ、サニー。
「こんな日は大人しくしてるに限るわね。スター、コーヒー」
「もう、自分で淹れなさいよ」
と言いつつも淹れてくれるのよね、スターは。
「それにしても、あの子供めぇぇぇ、今度はギャフンと言わせてやる!!」
サニーがガバッ!と起き上がり、闘志をむき出しにする。
「じゃあ、これからその作戦を練りましょうか?」
「良いわね!」
スターがコーヒーを持ってきながら言い、サニーがそれに同意する。
私もそれに加わる。
まぁ、幾ら作戦を立てたと言っても、今日の明日で仕掛けに行く訳には行かないけどね。
さてと……それじゃあ、明日はどうしようかしら?
まぁ、またこの三人で悪戯するのは決まってるんだけど♪




おしまい
今更ながら、三月精の本を買って読み、ポンポンとアイデアが沸きました。
凄い能力割りに頭があまり良くないと言うのが凄く気に入りました^^

誰の視点にするのか考えたのですが、なんか貧乏くじっぽいルナを視点にするのが一番面白いかな?と思い、こうしてみました。
後、ご存知とは思いますが、阿求も慧音も音がしないポイントから、三月精の位置に予測をつけてます。

三月精は気に入ったので、今後ちょくちょく出てくるかもしれません。
それでは、好評不評問わず、まってます。
華月
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コメント



0.930簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
なるほど 聞こえないからこそ聞こえるものですか
しかしあの大王 もう幻想郷に知れ渡ってるのかw
8.60イスピン削除
あー、求聞史記にもありましたね、音を出しつづければ云々のくだりが。
しかし、あの大王はまだ幻想入りしていないと思っていたんですけどねぇ…
まさか、魔法の森にはうにっぽい物とリンゴがなっている顔のついた木が生えてたりしませんよね?
9.60名前が無い程度の能力削除
サニー食べ放題会場はこ こ で す か ?

それはいいとして面白かったですよ。ルナ茶視点は良かったと思います
15.60浜村ゆのつ削除
妖精の日常や人間や妖怪との関係、こういうものなのかもしれないなぁ、と思いながら、終始にやにやしながら読めましたw
妖精の考え方って、なんかこんな風っぽいですねぇ。