Coolier - 新生・東方創想話

セラギネラ 第三話

2007/07/27 04:11:22
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  こうしてざりがには死に
  極上のからすあげ羽が二羽死に
  内緒のはなしだこんどは
  ニューヨークの裏町の
  川のある植物園へでもいってみようか
  わからないのだよ
  花ということが

                                      (野守/長谷部奈美江)




                       セラギネラ 3




・その1

 桜が完全に散ってしまい、代わりにイチョウがその枝に小さな緑色の扇を沢山つけ始める
頃、紅魔館からほど近い所にある湖では、真剣な表情の紅美鈴が昼間っから釣り糸を垂れ
ていた。釣れなければ彼女の昼食はないのである。

 ここ暫くというものの、霧雨魔理沙に対する彼女の戦績は芳しくない。辛うじて3割程度の
勝率を確保していたものがそろそろ2割にまで落ち込みそうな気配なのである。魔理沙が3日
に1度紅魔館に来ると仮定すれば1ヶ月に8回は館への、ありていに言えば図書館への侵入
を許しているようなものである。
「あの大うるさいのにもいい加減慣れたわ」皮肉を込めてパチュリー・ノーレッジがそう言うの
を聞くのは美鈴にとってあまり気持ちの良い事ではない。更に言えば罰と称して日勤なら夜
食、夜勤なら昼食が抜かれてしまうのはまったくもって気持ちの良い事ではない。

 別にその気になれば1ヶ月くらいは飲まず食わずでも行動に支障はないのだが、空腹感
はどうにもならない。その辺の人間を襲って食う事も考えたが、主のレミリア・スカーレット
が禁じられて出来ない事を従者の自分が好き放題やるのはまずかろうと思い、こうして釣竿
と魚籠を持って数日おきに湖まで来るのが半ば習慣となってしまっている。

「・・・駄目だ。今日はまるでかからない」竿を跳ね上げて釣り糸を掴むと美鈴はため息をついた。
釣りは待つことが肝心だが、昼食の時間は待ってくれない。諦めてこの間食料庫からかっぱ
らってきたラスクでも囓って終わりにしようかと思ったその時、遙か彼方の方からうひゃあ、と
いう間の抜けた悲鳴が聞こえてきた。
「おやおや、何事かしらん」釣り竿を置いて立ち上がると、美鈴はたっ、と地面を蹴って宙へ
と飛び上がり悲鳴の聞こえた方へと向かった。


 地面には釣り道具が置き捨てられ、湖岸には釣果の入った小さな籠網も放置されていた。
そんな中とりわけ目をひいたのは頭にこぶを作ってのびているルーミアの姿だった。
「うう、いーだーい゛ーー」
「・・・何だ、釣りに来た人間でも襲った奴がいたかと思えばお前か」美鈴はルーミアを起こす
と頭に手を当て、気を使って痛みを和らげた。

 籠網の中にはヤマメが数匹入っていた。といっても美鈴もルーミアも魚の種類には詳しく
なかったので、多分食べられる魚なんだろう位のことしか分からなかったが。
(※通例ヤマメは小さいものは内臓を取って唐揚げにしたり酢漬けにしたりする。大きいもの
は塩で身を締めてから塩焼きその他にする。癖のない味なので大抵の料理に向くが、寄生
虫がいることがあるので生のままで食べるのには向かない)
「丁度いい、こいつを頂いていくか」思わぬ幸運にほくそ笑みながら、美鈴は取ってきた魚籠
に魚を移し替えるとルーミアの方を向いた。彼女は木陰に座ってまだ頭をさすっていた。余程
勢いよくぶつかったらしい。ぶつかられた人間(?)の方を心配するべきかもしれないと思った
が、居ないものは仕方がない。
「お前も魚食べる?他に何もないけど」美鈴の言葉にルーミアは即座に「食べる」と答えた。
昼食の時間も残り少ないため、二人は急いで紅魔館の庭にある作業小屋まで飛んで帰った。


 美鈴は指で魚の頭をむしり取り、腹を割いて内臓を抜いたところに塩を擦りこみ、木串に
刺して火をおこした七輪の上に適当にのせた。ルーミアには外に積んであったまだ割って
いない薪を小屋の中で代わりに割らせた。手斧などを使わなくても両手で片方の端を掴んで
左右に引けばめきめきと音を立てて二つに裂けるあたり彼女の腕力が窺い知れる。
「できたよ。これでいい?」
「上出来上出来。こっちもそろそろ良い頃合いだな」積み上がった薪の山を脇にどけ、板の
間の縁に腰掛けて二人はヤマメの塩焼きを頬張った。
「おいしいね」宵闇の妖怪は焼き魚を骨までぼりぼりと食べて、指に付いた脂を舐め取って
から二本目の串に手を伸ばした。
「確かに美味しいけどちょっと物足りないな」門番はご飯かトーストが欲しいところだったが、
残念ながら他には何もなかった。せいぜい茶くらいである。

 二杯目の鉄観音を飲み終えた後、美鈴はうぅーん、と伸びをしてから立ち上がり、土間を
横切って水瓶からひしゃくで水を汲んで口をすすぐと、園芸ばさみと木桶を持って花畑へと
向かった。今日はバラの収穫をするため、午後からの門番の仕事はお休みなのである。
「宮仕えも楽じゃないねー」腹がふくれたルーミアは板の間にごろんと寝ころんで手だけを
振ってお見送りした。
「寝るなら布団敷いて寝なさい」別にお見送りされても嬉しくも何ともなかった。


 日本はバラの自生地として世界的に知られており、古くは万葉集にも茨を詠んだ歌がある。
幻想郷においてもこれは同様で、紅魔館でも外来種と在来種の両方が美鈴の手で育てられ
ている。
 今日収穫するのはその名もずばり『Lady Remilia(レディ・レミリア)』という品種で、以前レミ
リアに「美鈴、私の名を冠した最高のバラを作りなさい」と命じられたため10年ほどかけて
作ったものである。直後に『Lady Frandle(レディ・フランドール)』も作る羽目になった事は言う
までもない。
「こんな事ならマルメゾンで園丁でも攫ってくればよかったのよ」暢気なことを言いながら園芸
ばさみを動かしてぱちん、ぱちんと茎を切っていく。『Lady Remilia』は背の高い一輪咲きの
深紅のバラで、香りが強くおまけに棘も多い。普通の人間なら軍手をしても指は傷だらけに
なるところだが、妖怪の美鈴は特に気にすることもなく指で茎をつまんではさみを入れる。

「あれ、午後は庭仕事なんだな」後ろから魔理沙が声をかけてきた。美鈴が背後を振り返る
と、案の定本を何冊も持った彼女が木桶を覗き込んでいた。
 払暁にやってきた魔理沙に、そろそろ夜勤が終わると思って気が緩んでいた美鈴はあっさ
りとやられてしまったのである。そのおかげで今日は昼食を自力で調達する羽目になったの
だった。本を抱えているということはパチュリーもやられたに相違ない。

「いいバラだな。うちに飾るから一本くれないか」魔法使いの要求に庭師は顔をしかめた。
「これは駄目。その辺の他のやつにして」と言うと魔理沙が、見たところこれが一番綺麗そう
じゃないか、と言い返したので美鈴は微苦笑した。
「お前にバラを見る目があるとは思わなかったよ。でも駄目。これはお嬢様の為の特別な花
なの。お前であれ誰であれ渡すわけにはいかない」
「はは、そう言われるとますます欲しくなるのが魔理沙さんの性分でね。なんなら本日二回戦
目をやってもいいぜ」
「強欲だな。パチュリー様ともやったんだろう?流石のお前でも消耗してる時は分が悪いよ」
お人好し(お妖怪好し?)の美鈴にそう言われて魔理沙はむっとした。
「朝は私にこてんぱんにされたくせに余計なお世話だぜ。やるのかやらないのかどっちだ」
そこまで言われてはやらない訳にもいかないか、と美鈴が懐の符を確認しようとした時、魔
理沙のさらに後ろから十六夜咲夜がやってきた。

「おや咲夜さん、おやつの時間にはまだ早いですよ」一触即発の状況においても普段と特に
変わらないとぼけた口調で美鈴は言った。
「そろそろバラの収穫が終わったかと思って来たんだけど」呆れたように咲夜が言い返す。
彼女は魔理沙を見つめると、
「お帰りはあちらよ。花畑の肥料にされる前に消えなさい」と門の方を指さしていった。
「あんまり食べるところもなさそうだし肥料にも向かないと思いますよ」美鈴が茶々を入れる。
魔理沙はぷっと吹き出して、二人ともひどいぜ、と言った。
「美鈴、そのバラを持って館に戻りなさい。魔理沙の相手は私がするわ」
「じゃあ飾り付けは代わりにしておきます。バラ畑の上ではナイフを投げないでくださいね」
「手間が増えた。こりゃおやつも頂いて帰らないと割に合わないな」木桶を持って館に戻って
いく美鈴をよそに、魔理沙と咲夜は空中へと飛び上がった。



・その2

 バラの植えてある辺りを避けるために霧雨魔理沙と十六夜咲夜の二人は移動した。眼下
には赤を筆頭に色とりどりの花が整然と咲き並び、門番の仕事とはうってかわって園丁の
それにおいては紅美鈴が優秀であることがうかがえた。
 花畑の管理を任されている彼女の働きの御陰で、紅魔館の庭は幻想郷で最も手入れの
行き届いたものの一つであると何処でも自信を持って言えるのである。貴族であるレミリア・
スカーレットの審美眼にかない、そのプライドを満足させるのにも一役買っている。
「綺麗だな」
「そうね」
「弾幕勝負なんてさせないで庭仕事だけやらせておけば良いんじゃないか?」
「お嬢様が『強さと美しさを兼ね備えてこそ紅魔館の弾幕よ』って仰ったのよ」魔理沙の問い
に苦々しい表情で答える咲夜。弾幕のカラフルな美しさでは彼女は美鈴の敵ではない。
「そりゃあ欲張りだな。私のモットーは『弾幕はパワー』だぜ」咲夜は弾幕は力と技だと思って
いたのでその意見には半分賛成だったが、公然と主への反対意見を述べるのは躊躇われ
たのでノーコメントとした。

 少しして花畑が途切れ、紅魔館では雑草扱いのコスモスがまばらに生えている辺りに辿り
着いた。
「さて、そろそろいいかな。先に聞いとくけど今日のおやつは何だい?」
「焼きプディングのクリームソースとラズベリーソースがけよ。あんたの口に入ることはないけど」


BGM:オリエンタルダークフライト
Border of duel appears
Curtain Fire Play
Start


 先手を取った魔理沙が咲夜の後ろをとり、背後からの一撃を加えた。咲夜は身を翻して
これをかわしつつ魔理沙目がけて連続でナイフを投げつけた。2本2本4本4本8本と次第に
本数を増やしていくメイド長のナイフを避けて、魔法使いは急上昇した。
「あんたは相変わらず工夫が足りないわね」咲夜の懐中時計の針が尋常ならざる早さで時
を刻み、あっという間に彼女は魔理沙のさらに上空に占位した。
「何をぅ。そういうことは何処まで付いてこれるか試してから言いな」正面から飛んできたナ
イフを小刻みな回避で抜き、魔理沙は咲夜を追い越して上昇を続けた。咲夜はため息をつ
いて、おめでたいわね、と言いつつもこれに付き合うことにした。



 一方その頃紅魔館の厨房では、美鈴が流しを占拠してたくさんの花瓶に水を汲んでいた。
 美鈴が取ってきたバラは結構な量で、とても一つの花瓶に入りきるような本数ではない。
彼女は今からこのバラを微妙な茎の長さやつぼみの開き具合でより分けて、これは一輪挿し
用、これはまとめて大きな花瓶用、というように水を汲んだ花瓶に生けていくのである。なお
余談だがこの時点では殆どのバラは花が開き始めた頃で、満開になって散るまでには季節
にもよるが1~2週間ほどかかる。それまでに次の分を用意しておくのである。

「おや美鈴さん、外で戦ってるのはあなただと思ったら違ったんですね」背後から司書の小
悪魔が声をかけてきた。
「咲夜さんが代わりに引き受けてくれたのさ。パチュリー様の様子はどう?」背後の彼女を
振り向き、美鈴は逆に聞いた。
「ああ、お気遣い無く。パチュリー様はかすり傷程度です。まあ私はその分ひどくやられま
したが」小悪魔が背中をさする仕草を見せたので、美鈴は作業を一時中断して彼女の背
に手を当て、気を使って痛みを和らげた。
「いや催促したようで申し訳ない。どうぞお仕事の続きを」にこにこと機嫌のよい表情で去っ
ていく小悪魔を見送り、美鈴は作業を再開した。


 紅魔館におけるヒエラルキーは一見単純なようで実は微妙なところがある。美鈴に門番
だの庭師だのの仕事を命じたのは他ならぬレミリアで、美鈴はそれらの仕事の責任を彼女
に対してのみ負っている。別に咲夜やパチュリーに仕事に関することで口出しをされる謂わ
れはない。
 だが、建前と現実は異なる。咲夜はレミリアの信任厚いメイド長でありパチュリーはレミリア
の友人である。どちらも立場的・実力的に美鈴より上であり、彼女に二人の言葉を無視する
事は出来ない。
 先ほどの小悪魔にしても同様で、彼女の妖力たるやその辺の妖精に毛が生えた程度の
もので、美鈴から見てさえ弱いものである。ただ彼女を直接使役しているのはパチュリーで
あるから、美鈴も咲夜もそこまで無碍に扱うことはできないのである。


 全てのバラをそれぞれの花瓶に生けると、美鈴は今度はその辺の手空きのメイドを呼び
集めて飾り付けを始めた。
 紅魔館には屋内庭園もあるが、『Lady Remilia』はレミリア本人とは違い陽の光にめっぽう
強いため、その事を面白がった彼女の命で外の花畑にしか植えていない。飾り付けの際は
主にレミリアのプライベートな空間に重点的に配置している。
 昼間でレミリアがまだ目覚めていないため彼女の寝室に飾る分は後回しとし、レミリア専用
の居間やそこへと続く廊下に重点的に花瓶を配置していった。
 屋敷の外の気をうかがうと、どうやら咲夜と魔理沙はまだ戦っているようだった。
「あのちっこい身体のどこにそんなタフさが備わってるのかねえ」妙な感心の仕方をしながら、
美鈴は二人の戦う姿を思い浮かべた。



 時間はやや前後する。
 急上昇を続ける魔理沙と時間を操ってそれを追い越す咲夜が揃って雲を抜けると、春の
終わりの太陽が容赦なくこちらを照らしてきた。
「おお、結構上ったな」二人はしばし戦いを忘れて辺りを見回した。遙か彼方に桜の花びら
が集まっているのは、冥界へと続く桜花結界であろう。
「見ろよ。地上の花見は終わったけど、今度は白玉楼で続きができそうだぜ」
「あらほんとね。でもあそこの庭は広いからどこからの眺めが一番綺麗かで悩みそうだわ」
「あー?そういう時こそあの門番の出番じゃないのか?」魔法使いの言葉にメイド長は、
確かに場所取りさせるには丁度良さそうね、と同意した。

「さて、そろそろ第二ラウンドといこうかい」
「そうね。いくら美鈴でももう片付いたでしょうし」魔理沙が箒の柄を下へと向けて今度は
急降下にうつる。これは何か狙ってるのかしら、と咲夜は独り言を言い、先ほどまでの
ように相手の前に出るのをやめて背後にぴったりとつけた。
 狙いすましたナイフの切っ先を右へ左へと小刻みに避けながら、魔理沙は更に速度を
上げてダイブを続けた。時間を微妙に調節しながら背後に占位し続ける咲夜に対し、彼女
はそろそろしかけ時か、と判断した。

 咲夜の視界から突如魔理沙の姿が消えた。あら、と辺りに姿を隠せる様な雲がないか
探す咲夜の背後で、実は急制動をかけて彼女を先に行かせただけの魔理沙が八卦炉を
構えた。
「・・・ははあん、そういうわけね。少しは工夫したじゃない」咲夜は慌てる事無く自分も符
に手をかけた。

Power of Spiritual Border wake up
恋符「マスタースパーク」
Set Spell Card
Attack

Power of Spiritual Border wake up
奇術「ミスディレクション」
Set Spell Card
Attack

 極太の魔法レーザーが咲夜の背中目がけて撃ち込まれたが、魔理沙の目の前で彼女
は魔法円とスペクトルムを残して消え去った。と同時に大量のナイフとクナイ型の気弾が
魔理沙に向かって飛んできたがこちらはレーザーに当たって消え果てた。
「ちっ、ひっかからなかったか」
「残念ね。でも発想は悪くなかったわよ」魔理沙の左側面に現れた咲夜が狙いすました一撃
を放った。ナイフは魔理沙の頭にのっている帽子に突き刺さり、帽子は魔理沙の代わりに
墜落していった。
「ごきげんよう。縁があれば宴の席で」
「分かった分かった。お嬢様によろしくな」


Border disappears


 咲夜が館に戻るとバラの飾り付けはほぼ済んでいた。レミリアの寝室だけはまだだった
がこれは夜着替えを持って行くときにでも一緒に運び込めば良いだろうと判断し、代わりに
美鈴には別な仕事を与えることにした。
「美鈴、ちょっと冥界まで花見の場所取りに行ってきて頂戴」


・その3

 ふたたび時間は前後する。
 レミリア・スカーレットの寝室を除いた規定の位置に『Lady Remilia』を生けた花瓶を飾り
終えた紅美鈴は、紅魔館の厨房で手伝いのメイド達と一緒に間食をとっていた。塩茹で
した空豆と粉チーズをかけて軽く炙ったクラッカーをロシアンティー(紅茶に温めたジャムを
入れたもの)と一緒に頂いていると、いつの間にか後ろに十六夜咲夜が立っていた。
「ただいま」
「おやおかえりなさい。白黒は帰ったんですね」美鈴は少し冷ました紅茶に冷たいままの
ミックスジャムを入れて軽くかき混ぜると咲夜にカップを渡した。
「ありがと。花瓶はあとはお嬢様の寝室だけ?」メイドが空けてくれた適当な席に腰掛けて
咲夜は流しの方を見た。寝室に飾る花瓶は居間の分に次いで数が多くまた大きい。
「ええ。お嬢様のお目覚めの際に着替えと一緒にお持ちするのが良いかと思いまして」
「そうね、それはこっちでやっておくわ」『こっちでやっておく』というメイド長の言い方に門番
は嫌な予感がした。

「美鈴、ちょっと冥界まで花見の場所取りに行ってきて頂戴」少し間をおいて咲夜が話を切り
出した。美鈴は内心、ほーら来た、と思った。
「はて、お嬢様が冥界くんだりまで花見に行きたいと仰ったんですか?」とぼけた口調で美鈴
が聞くと咲夜は、これからお嬢様に提案するわ、といけしゃあしゃあと言い放った。
「それならお嬢様に話してお嬢様が「行きたい」と言ってからでも遅くないでしょう」
「甘いわね。白玉楼の広い庭の中でも一番桜が綺麗に見える場所を確保するのよ。早い者
勝ちじゃない」
「またそんな無茶苦茶な。桜の見立てなんて私の専門外ですよ。だいいち一番綺麗な場所
なんてあそこの住人達が独占するに決まってるじゃないですか」
「そうなる前にあなたを送るんでしょ。いいこと、万難を排して最高の場所を確保するのよ」

 美鈴はため息をついた。
 白玉楼で花見の続きが出来ると知れば、レミリアは十中八九その話に飛びつくだろう。彼
女に知らせないという選択肢はこの場合無いのでほぼ確実と言って良い。
 だが、収穫したバラの出来映えについてレミリアから批評を受ける間もなく冥界まで飛んで
花見の場所取りをしろというのはいささか意地の悪い話である。おまけに『万難を排して』
ということはつまり、仮に場所の取り合いが生じれば実力を行使しろということである。美鈴
は自分の実力のほどはよく御存知なので、そのような役は御免蒙りたいのが本音であった。

 辺りを見回せば既にメイド達の姿はなかった。場の不穏なムードを嫌ったのだろう。
「私じゃなくて誰か他の人を行かせるわけにはいかないんですか?」
「こういう場合にあなた以外に誰がいるのよ?私の代わりに花見のご馳走を用意して、冥界
まで遺漏無くお嬢様をお連れできるの?」こうまで言われれば返す言葉もなかった。「宮仕え
も楽じゃないねー」というルーミアの言葉はどこまでも真である。


 自室で身支度をととのえている美鈴に、咲夜が食べ物の包みと水筒を持ってきた。流石に
手ぶらで行かせるのは薄情だと思ったらしい。
「あそこの庭師は結構使えるわよ。うちの庭師と比べたらどっちが上かしらね」この手の台詞
で闘争心を煽ろうとしても美鈴にはあまり効果をもたらさないが、咲夜は一応の期待をこめて
言った。
「考えるまでもないでしょう。あちらの方が私より数段上回りますよ」当たり前のことのように
美鈴は返した。何故このひとは時折こういう皮肉なことを言うのだろう、と美鈴が思うのは、
自分に向けられた期待に彼女が鈍感だからである。今回もその例に漏れなかった。
「あら、戦う前から負けを認めるつもり?」
「いえいえそんな。勝つも負けるもまずは戦ってみなくては、ということですよ」負ける戦いは
避けなければいけないというのは賢者の教えであるが、美鈴はあまり賢くなかった。彼女が
ルーミアやチルノといった連中と仲良くできる所以である。彼女がレミリアに用いられる所以
でも。


 陽が傾き始めた頃に美鈴は紅魔館を出立した。人間の花見は昼間が多いが妖怪のそれ
は夜が本番である。いわんや吸血鬼であるレミリア・スカーレットをやである。
「これで雨が降って中止になったらお笑いだな」美鈴は半ばそうなればいいものをと思いつつ
高く飛び上がった。勿論そんなことにはならないし、ましてや白玉楼に他の人妖が一人も現れ
ないなどという事もないのではあるが、運命を操ることの出来ない彼女には自らの淡い期待
に微苦笑することしかできなかった。

 雲を抜けると遙か遠くに桜花結界が見えた。が、より間近に見えたものに素早く視点を合
わせて美鈴はぎょっとした。
 八雲藍である。
「おや、吸血鬼の所の庭番じゃないの。お前のところも花見に来るのかな?」気を消して雲
に隠れる間もなく、こちらの姿をみとめた藍が声をかけてきた。
「はい。その、私は場所取りに来さされまして」つとめて平静を装って美鈴はそう答えた。
 八雲藍と言えばあの大妖九尾の狐である。紅美鈴の名前なぞ幻想郷では知っている者
の方が珍しいくらいだが、この妖怪の名を知らない者はほぼ皆無と言ってよい。吹けば飛ぶ
ような木っ端妖怪の美鈴とは格が違いすぎて、世が世なら近づく事はおろか遠くから拝む
事すら叶わない程の相手である。

「ははは、そう硬くならなくてもいいぞ。最近は分をわきまえない奴ばっかりで私も慣れてしま
ったよ。歳月というのは酷薄なものだなあ」見れば藍は両手に風呂敷に包んだ四段重箱や
角樽を持っていた。どうやらこちらは場所取りだけではないようだった。
「あの、持ちましょうかそれ?」急に下僕根性がわき上がってきたのはやはり美鈴も他者に
仕えるようになって長い事の現れだろう。(万難を排するどころではないかもしれないが)
「お、済まないねえ。本当は橙に、橙って言うのは私の式なんだけど、荷物持ちをさせようと
思ったら取り込んだ布団の上で丸くなって寝てしまってねえ。全然起きないのさ」いや困った
もんだ、と言いながらも藍の表情はあまり困っているようには見えなかった。

 桜花結界の前まで辿り着くと、結界の外から内に向かって沢山の桜の花びら(春度)が
吹き込んでいくのが見えた。が、結界の前には誰もいなかった。
「さてどうしたものでしょう。見たところ番人もいないようですが」美鈴の問いに藍は、お前
達の所では構わず押し通っていくのが流儀じゃないの?と意地悪く聞き返した。
 彼女の主である八雲紫の深慮遠謀(ただの気まぐれという線も捨てがたいが)により、
顕界と冥界を隔てている桜花結界の力は弱められている。このため二つの世界の行き来
が容易に出来る有様である。
「いやいやまさか。仮にも門番を務める身として余所様の門を破ったりはしませんよ」
「あっははははははは!律儀だなあ。今時の妖怪にしては珍しいわね」藍が大笑した。次
に彼女は結界の内に向けて大声で、たのもう、八雲紫様の式、八雲藍だ、と呼びかけた。
すると、結界の上からひょいっ、とルナサ・プリズムリバーが顔を見せた。

「おや、藍さんに・・・いつぞやの紅魔館の使いの」
「紅美鈴ですほ・ん・め・い・り・ん。お久しぶりですルナサ様。その節はどうも」
「様付けで呼ばれるのも久しぶりだわ。そちらも演奏でお呼ばれなのかしら?」
「まさか。私の月琴に興味を示す人なんてそう居ませんよ。ただの場所取りです」美鈴が
そう答えるとルナサは心底残念そうだった。
「ほほう、お前は月琴が弾けるのかい。かれこれ百年ばかり聴いてないよ」
「いえいえ、ほんのお遊び程度です。とても他人様に聴かせられるようなものではありません」
「折角聴けると思ったのに・・・」鬱々とした表情でこちらを睨みつける騒霊を見返して、門番
は早速万難の一番目がやって来たかと内心鬱々とした気持ちになった。
「どれ、今度は私が荷物を持ってやろう。骨は拾ってあげるからどーんと死んでらっしゃい」
有り難いのか有り難くないのか分からない藍のお言葉を頂戴し、美鈴は彼女に荷物を預け
ると結界の上に立ちはだかるルナサに向かって飛び上がっていった。


BGM:幽霊楽団 ~ Phantom Ensemble (Phantasmagoria of Flower View Arr. )
Border of duel appears
Curtain Fire Play
Start


 長々と戦いたくない美鈴は短期決戦を狙うことにした。ルナサの速度は咲夜と大差なく、
容易に背後に回り込んだ。
「む、早いわね」ルナサは素早く反転すると大弾を交差弾道で放ちつつ後退する。美鈴は
後転してこれをかわすと減速、更に迫る小弾も回避して気弾を浴びせた。そこから飛び蹴り
に持ち込もうとした矢先に、気弾をやりすごしたルナサが符に手をかけるのが見えた。

Power of Spiritual Border wake up
弦奏「グァルネリ・デル・ジェス」
Set Spell Card
Attack

 右側から赤い音弾、左側から青い音弾が迫ってくる。と、赤い方は途中で分裂して楔形弾
に、青い方は同じく分裂して丸形弾になって四方八方から美鈴に向かって飛んできた。
「忙しいなあ」容易に近づくことができないとみた美鈴は小刻みな動きで弾をかわしながら
も休むことなく気弾を撃ち込んだ。



 美鈴とルナサが弾幕勝負を繰り広げている頃、白玉楼の厨房では割烹着姿の魂魄妖夢が
司厨人の幽霊達に混じって花見に供する膳部を調えていた。彼女の主である西行寺幽々子
は(色々な意味で)食べることを愛しており、殊に宴席においては少々行儀が悪いのではない
かと感じてしまうほどの食べっぷりを見せることがままある。
 ここ1、2年ほど冥界と顕界の境界が薄くなったままであるせいなのか、生きた人間がこの
白玉楼の庭までやって来て花見をする姿がちらほらと見受けられる。妖夢としては普段は
ともかくこういう時は幽々子様にも行儀よくしていただきたい、と思っていた。もっともつい先
程湯浴みを終えたばかりの幽々子が上気した肌に長襦袢だけの姿で厨房に現れ、ぎょっと
した妖夢を尻目に彼女が切っていた厚焼き玉子(貴重なエビのすり身入り)をひょいぱくっ、
と食べて、物凄く嬉しそうな顔をして部屋に戻って行くのを見送ったばかりである。あまり期待
は出来なかった。

「・・・まあ、あの笑顔を見る限りでは良い出来みたいだけど」漆塗りに蒔絵の重箱に菜箸で
厚焼き玉子を盛り付けながら妖夢はそう言って僅かに自分を慰めた。幽霊達もふるふると
同意した。
「今日はお客様が少ないといいな」妖夢はそう思いつつ今度はこれまた貴重品の蒲鉾の盛り
付けに取りかかった。普段は屋敷の中で花見をすることが多いのだが、今日は野点の気分
ねえ、と幽々子が急にハイカラな事を言い出したため、彼女にはこの後場所取りと座敷の用意
の仕事まで待っているのである。
(※野点とは野外で自然の風物に接しながら茶を点てる事をいう。決まった道具や作法がない
ので、茶道として逆に難しいとか本当の作法があるのだとか言われている)
 既に花見客はぞろぞろやってきているし、それどころか桜花結界の前では早くも夜に向け
て席取り目当ての中華風の妖怪が騒霊相手に戦っているのではあるが、これまた運命を操る
ことの出来ない彼女には西行の歌を思い出して微苦笑することしかできなかった。

『花見んと群れつつ人の来るのみぞあたら桜のとがにはありける』
(花を見ようとたくさんの人が群れ来るのは桜の罪であろうか?)



 あっけなく符の効果時間が過ぎて攻撃が途切れた隙を見計らって、今度こそ、と飛び蹴り
を放った美鈴の目の前で、ルナサは臆することなく再度符に手をかけた。

SPELL ATTACK:『光彩陸離』
騒符「ルナサ・ソロライブ」
WARNING:Spell Card Attack begin immediately after!
Class Dragon Level 02

 ルナサの符から彼女の幻影が現れ、本体と一緒になって攻撃を始めた。美鈴は慌てて
飛び蹴りを中断したが既に遅く、二人分の弾幕に押し潰されて墜落し、藍に捕まえられた。
「次来るときは楽器持参で来なさい」
「ああ、そうするといい。余興が多ければそれだけ紫様もお喜びになる」
「・・・そんなに何度も来さされてたまるか」


Border disappears


 結界の前で藍と共に待つことしばし、ルナサに呼ばれた妖夢が姿を現した頃には既に陽
は沈みつつあった。早い者勝ちという観点からすればもう負けている気もしないではない。



・その4

「おや、藍さんと・・・どなた様でしたっけ?」魂魄妖夢が言う。先ほど全く同じやりとりをした
ばかりなので、紅美鈴は内心またか、と思いつつも先ほどと同様のことを述べた。
「紅魔館で門番を務める紅美鈴という者です。私共のお嬢様がこちらで花見をしたいと申し
まして、予め場所を確保させて頂くべく参りました。何卒よろしく中に入れてください」こちら
はつまらない物ですが、と言って八雲藍から返して貰った荷物の中から蜂蜜飴の小瓶を取り
出し妖夢に手渡す。蜂蜜飴は紅魔館の花畑で採取した蜂蜜から美鈴が密造した物で、主に
チルノのようなやかましい連中を少しの間黙らせておきたい時に弾幕の代わりに口の中に
放り込むことで効果を発揮する彼女の秘密兵器である。

「あ、これはどうもご丁寧にありがとうございます。お嬢様もお喜びになります」綺麗な琥珀色
の飴玉が詰まった瓶を大事そうに受け取って、妖夢は美鈴にぺこりとお辞儀した。紅魔館と
言えば真っ先に思い浮かぶのはメイド長の十六夜咲夜(過去にあまり良い思い出はない)
だったが、どうやら目の前の長身赤毛の妖怪はもう少し物分かりが良さそうだった。
「あまり大きな声では言えませんが結界の上から出入りできます。どうぞそちらからお入り
ください」半分幻の庭師に導かれ、紅魔館の門番と八雲紫の式神は桜花結界を抜けた。

 靄の立ちこめる階段を白玉楼へと向けてえっちらおっちらと上り始める。いそいそと帰り
支度をしている親子連れや、階段に寝っ転がって瓢箪を枕にいびきをかいている伊吹萃香の
脇を通り過ぎる美鈴達の頭上に、しばらくお別れしていた桜の花びらが降り注いだ。
 半幽霊をつれた二本差しの少女と九尾の狐と中華風の民族衣装の大女という組み合わせ
がよほど目を引くのか、階段を上る間中ずっと人間やら妖怪やらの視線が三人に注がれた。
目立つだけなら物凄く目立つ組み合わせなのだろう。
「そう言えばお二人はお知り合いなのですか?」妖夢が美鈴と藍の方を振り返って聞いた。
「いやそんな畏れ多い。たまたま結界の側で行き会わせただけですよ」
「ああ、さっきそこで会ったばかりだよ。紅魔館の庭番だと記憶していたけど、こんなところ
までお遣いに来るのは珍しいんじゃないのかな?」
「ええ、まあ。色々便利に使われております」自分が大した役には立っていないという自覚
はあったが、他に答えようもなかった。

 美鈴は妖夢の歩く姿を見て、なるほどこれは勝ち目は薄いな、と直感的に理解した。彼我
の実力差が懸絶しているのでなければ、相手の立ち居振る舞いを見ればおおよその力量は
分かってしまうものである。恐らく妖夢は霧雨魔理沙に迫る強力な術者であろう。(藍の強さ
は美鈴には計り知れなかった)
 一方の妖夢は美鈴の大人しい態度を見て、少なくとも何か騒ぎを起こす目的で来たわけ
ではないと判断して安心していた。妖力がそれほど高いわけでもなく、自分の案内に諾々と
従うあたりも無害そうだった。メイド長の相手をするよりどれ程気が楽か、とさえ思った。

 階段を上りきり、幅二百由旬と言われる白玉楼の庭が視界に飛び込んできた。どこまでも
続く桜の海の中、人間も妖怪も幽霊も思い思いの場所に佇んでいた。
「やあ、盛況だ。数年前なら考えられない事ね」
「あ、あのぅ、結界の修復の件はどうなっているのでしょうか・・・?」
「いやそれがねえ、紫様が指針を示して下さらないのさ。聞いてもはぐらかされてしまうし」
藍と妖夢の会話をよそに、美鈴は広大な庭とそこに集う者達の姿を眺めていた。桜以外に
もアジサイやツツジの植え込み、藤棚などが配され、どれもよく手入れが行き届いていた。

「美鈴さん、どうかされましたか?」
「ああいや、ここの庭はよい庭師を見つけたな、と思いまして」妖夢の問いに美鈴がそう
答えると、彼女は不思議そうな表情をした。
「庭のことが分かるのですか?」
「まあ一応、紅魔館の花畑の管理も任されておりまして」紅魔館の庭師の言葉に白玉楼の
庭師はようやく合点がいったようだった。
「あそこのヤマユリはあまり背が高くないですね。植えてから4~5年くらいかな?」
「あ、やっぱり分かりますか。去年ようやく花が咲きました。鱗茎が食用になるからという
のでお嬢様が紫様におねだりされまして。いや失言」
「ああ、そう言えばそんな事もあったなあ。何を隠そう紫様の命でそのヤマユリの種を山で
採ってきたのはこの私だ」
「みょん」

「それでは、宴の準備の続きがありますので私は失礼いたします。念のため申し上げますが
屋敷の中にはお入りになりませんようお願いします」
「おやおや、紫様に成り代わり幽々子様に御礼申し上げようと思ったんだけど」
「あうぅ、も、申し訳ありません。しばらくお待ちいただけますか?」藍の言葉に慌てる妖夢。
有り様は彼女の主西行寺幽々子の現在の服装に関する不安が払拭されていないためで
あり、別に美鈴や藍が狼藉をはたらくなどとは露ほどにも思っていない。

 妖夢が急いで白玉楼に戻っていくのを見送り、美鈴はあらためて庭を眺めた。これだけ広
大な敷地、しかも既に大勢の花見客がいる中で最も見栄えのする場所を探して確保しろと
いうのは骨の折れる仕事である。彼女にすぐに思いつくのはせいぜい『満開の大きな木の
下、テーブルが置ける平らな地面、近くに余所の人妖が居ないこと』程度だったがそれだけ
でも達成は困難そうだった。
「それでは私はここで失礼致します。早いとこ場所を確保しないとお嬢様に叱られますので」
「ああ、良い場所に巡り会える事を祈っているよ。そちらのお嬢様によろしく」
「ありがとうございます。きっと申し伝えます」藍にお辞儀するとくるりと踵を返して美鈴は歩
き出した。


 場面は白玉楼中に移る。
 藍が幽々子に目通りを乞うたため、妖夢は白玉楼に戻り幽々子の座敷前で正座した。
「申し上げます」
「あらなあに?」顔を上げると幽々子はまだ長襦袢一丁だった。布団に寝そべり絵物語か
何かを読みつつ煎餅(海苔が貴重品なので代わりに醤油ダレに漬けたシソの葉を巻いて
いる)を囓っていた。
「・・・八雲藍様がお見えです。主の紫様に代わって御礼を申し上げたいとの事です。いかが
なさいますか?」
「(ばりっ)うぅん、ちょっと待ちなさい。今いいところなのよ」見れば廊下には幽々子の着物
を用意した幽霊が数名控えていた。これまた長いこと待たされているに相違ない。
「あの、幽々子様、せめてそろそろお召し物を。湯冷めしてしまいますよ」亡霊も湯冷めする
らしい。ちなみに妖夢ももちろん湯冷めする。まだ身体が小さく熱が逃げやすいため、冬場
は特に辛い。
「妖夢はせっかちねえ(ばりぼり)」
「幽々子様はのんびりし過ぎです」埒があかない、と思った妖夢はついでに紅い館からの
来客についても報告することにした。

「今日は紅魔館の方々も花見に訪れる模様です。先ほど場所取りに来た紅美鈴という方
から聞きました」こちらはお土産だそうです、と懐の飴の小瓶を幽々子に差し出した。
「あらあら気が利くのね。ちょうど甘いものが欲しかったところよ」喜色満面といった面持ち
で小瓶にほおずりしている華胥の亡霊と、つい先ほどまで彼女が食べていた煎餅のお盆と
を見比べて、半分幻の庭師は複雑な気持ちで一杯だった。
 きっと私はまだまだ修行が足りないのだろうと自らに言い聞かせると、妖夢は幽々子の
前を辞し、外で待つ藍の元に戻った。行きと違ってその歩みは遅かった。

「おかえり。その様子だとお目通りはかなわないみたいね」
「申し訳ありません。その、色々と準備が滞っておりまして」苦しい言い訳をする妖夢に対し
て、藍は殊更明るい声でからからと笑った。
「はっはっは、気にしない気にしない。何事につけ間というものはある」紫の式神である彼女
もまた幽々子とは長い付き合いであり、おおよその予想はついた。
「後ほど紫様ともども改めて御挨拶に参ることにしよう。そら、お前さんもまだし残しの仕事
があるんじゃないのかな?」
「は、はい。そうなんです。まだお膳を調えたり、そうだ、今日は庭にお座敷を作らなきゃいけ
ないのにその準備もしてない」
「うんうん、忙しいのに済まなかったね。頑張っておくれ」妖怪も長く生きると滅多な事では
腹も立たなくなる。かつては三国にわたり恐怖とともにその名を呼ばれた九尾の狐も、既に
数千年の歳月を生きて大分性格が丸くなっていた。



 幅二百由旬をうたうだけあり、白玉楼の庭はおっそろしく広かった。
「これじゃあ場所を確保してもお嬢様に見つけてもらえないんじゃないかしら」あながち冗談
とも言い切れない自分の言葉に内心ぞっとしつつ、また一方で庭の端に向かうにつれて
次第に濃くなる死の気配を美鈴は敏感に察知していた。
「・・・西行妖とやらが近いのかな。お嬢様はともかくこれじゃ咲夜さんは長居できないなあ」
彼女はその場で回れ右をして元来た道を引き返すことにした。

 一本の枝垂れ桜の下で立ち止まると、美鈴はしげしげと眺めた。その桜は背の低いレミリア・
スカーレットでも飛び上がる事無く花を間近で見ることが出来るほど枝が垂れていた。幹は
適度に細く、太い根が地面を割って長々と出ているということもなかった。
 美鈴は辺りの桜の根元を見回した。幽霊以外には人妖の姿もなく、それでいてそれらの桜
も申し分なく花を咲かせていた。
「・・・ふむ」美鈴は荷物の中から折りたたんだ紅魔館の小旗を取り出し、その枝垂れ桜の枝
にひょいっ、と引っかけた。


 少しして藍が姿を見せた。
「おや、こちらのお嬢様にご面会では?」咲夜が持たせてくれた食べ物の包みを開こうとして
いた美鈴は手を止めて彼女に向き直った。
「はははは、それがどうにも都合が良くないらしくてね。まあ色々あるんでしょう」藍は枝垂れ
桜の周りをとことこと歩き回り、ふんふんと頷いた。
「いい木を見つけたね。これくらい枝が低ければうちの橙でも飛ばずに間近で花が観察でき
そうだ」考えることは同じらしかった。
「あ、あのう、甚だ失礼とは思いますが、場所取りの際はできるだけ遠くに場所を見繕っては
もらえないでしょうか」まさか九尾の狐を相手に『万難を排して』などと要求される事になるとは
出立前には考えもしなかった。実力の底が見えない相手に実力を行使しろというのは自殺
行為である。
「ああ、心得た。なあにこれだけ広いんだ。探せば同じくらい見目良き場所もあるだろう」藍
の寛容に美鈴は心から感謝した。これが例えば相手が魔理沙だったなら(魔理沙も背は大分
低い)、間違いなくこの場で弾幕勝負である。余所様の庭で騒ぎは起こしたくなかった。



 時間はやや前後する。
 陽が没した頃にレミリアは目を覚ました。この日は彼女の妹フランドール・スカーレットは
館の地下にある自分の部屋で寝ていたため、ベッドには彼女一人だけである。
 暫くして寝室の扉がノックされた。
「入りなさい」
「失礼いたします」咲夜以下十数名のメイド達が静かに入室してきた。咲夜はいつもの様に
手に着替えを持ち、後に控えるメイド達はタオルやらお湯の入った水瓶やらたらいやらに
加え、今日はいくつもの花瓶を持ってきていた。

 清拭と着替えを済ませた頃には、寝室の定位置に新しいバラを生けた花瓶が鎮座ましまし
ていた。レミリアはサイドボードに置かれた花瓶を一目見て、今日は美鈴がバラを生けたの
ね、と誰ともなしに言うとその花瓶から無造作に一輪抜き取り、目を閉じて香りを確かめた。
「うん、良い出来だ」満足そうに頷くと、彼女は目を開けてバラを花瓶へと戻した。
「美鈴は確か今夜は空いてたわね。呼んできなさい」
「申し訳ありませんお嬢様、美鈴には現在冥界でお花見の場所を確保させております」咲夜
はレミリアに昼間の出来事を報告した。美鈴の庭仕事中に魔理沙が『Lady Remilia』を彼女
から奪おうとしたこと、美鈴の代わりに自分が魔理沙と戦ったこと、その際桜花結界の中に
大量の春度が集まりつつあったことなどである。

 レミリアは意地の悪い笑みを咲夜に向けた。
「あなたに美鈴に対する支配権を与えた覚えはないわよ、いけない子」
「はい、私が軽率でした。以後慎みます」いつも通りの澄ました表情で従者は主に謝罪した。
紅魔館ではよくあるやりとりである。
 悪魔であるレミリアは、自分にとって不利益にならない小悪はむしろ奨励しさえする。今回
のことも別に本気で怒っているわけではなく、ただ形ばかり言っただけのことである。
「さて、そういうことならフランが感づく前に早く行きましょう。咲夜のことだから既に用意万端
整っているのでしょう?」
「勿論でございます。さっ、参りましょう」咲夜の両手に日傘とバスケットが現れた。これまた
紅魔館ではよく見る光景である。


・その5

 紅美鈴が食べ物の包みを開くと中にはローストビーフと野菜それにチーズのサンドイッチ、
血入りソーセージと蒸したジャガイモがきちんと小分けされて入っていた。デザートの容器には
苺と、更には焼きプディングまで入っていた。本来なら主のレミリア・スカーレットやフランドール・
スカーレットの三時のおやつに供される筈のものである。
「奮発してくれたなあ」しみじみと言いながら彼女が水筒の栓を開くと、こちらはいつも通りの
ぬるい紅茶が入っていた。
 美鈴はそれらの食べ物を前に正座して手を合わせいただきます、と言うと、邪魔が入らない
前にとばかりに黙々と食べ始めた。思えば昼は焼いたヤマメを食べ、おやつの時間には空豆
とクラッカーを食べただけである。朝方には霧雨魔理沙と戦ったため朝食も碌なものにありつけ
なかった事を考えれば、本日初めてのまっとうな食事である。


 食事を終えた美鈴が枝垂れ桜にもたれて食休みをしていると、遠く白玉楼の方で丸めた
敷物を抱えた魂魄妖夢がよたよたと歩いているのが見えた。後ろには大きな日傘だの座
布団だのを器用に積載した彼女の半幽霊が漂いながらついて来ている。
「こりゃまた大変そうだ」親切心をおこした美鈴はすっと立ち上がると大股な足取りで妖夢の
方へと歩いていった。

 背の低い妖夢が自分より背の高い敷物に難儀していると、前から美鈴がやって来てひょ
いっ、と彼女の手から敷物を取り上げた。
「今から場所取りですか?」妖夢より頭一つ分少々背の高い美鈴が顔を近づけて聞く。
「はい、そうなんです。・・・あの、ご客人にそこまでして頂くわけには」
「いいんですいいんです。私はただの場所取りですからお気遣いなく」屈託の無い表情でそう
言われて、妖夢はそれではお願いいたします、と頭を下げてから自分は半幽霊に持たせて
いた日傘を両手で抱えた。
「でっかい日傘ですねえ」朱塗りの傘をしげしげと見つめて美鈴は言った。
「ええ、なんでも野点傘とかいうものらしいです。外でお茶を飲む時用の傘なのだそうです」
妖夢も詳しくは知らなかった。そもそも茶道に詳しくなかった。この類の小道具大道具は大抵
は彼女の主西行寺幽々子のおねだりで八雲紫がどこからか手に入れてくるのである。更に
言えばそれらの道具についての情報を持ってくるのも大抵は彼女である。

「毎日お庭の手入れをされている訳ですし、既にどこか目当ての場所があるのでは?」
「はい。もう少し行ったところに幹の細い枝垂れ桜がありまして、そこにしようかと」妖夢の何
気ない返事を聞いて美鈴は思わずげっ、と思った。庭師どうし目のつけどころには近いもの
があったと言うべきだろうか。或いはまたあらためて見るまでもなく妖夢の背もかなり低い事
を考慮すべきだったろうか。(どのみち子供は何だって間近でじろじろと見たがるものだが)
 はたして紅魔館の小旗が掛けられた枝垂れ桜の前で妖夢は立ち止まり、美鈴と同じよう
な表情になった。

「あああっとその、どこかに『西行寺家御座敷予定地』とか高札は立ててありましたっけ!?」
わざとらしくきょろきょろと辺りを見回す美鈴に対し、妖夢は小声で、申し訳ありません、忙し
くて、などと士道不覚悟な言い訳をした。むろん高札など無いことは最初に確認済みである。
 ここまで穏便に来たにもかかわらず、突然『万難を排して』の事態に直面したことは紅魔館
の門番にとってまさに予想外であった。しかも相手は白玉楼の主の剣術指南役である。正面
から事を構えるには分が悪かった。

 美鈴はとりあえず敷物を桜の根元に置いた。
「分かりました、ではこうしましょう。此処はそちらに明け渡します。そのかわり今すぐ此処と
同じくらい綺麗で人のいない場所を教えてください。もちろんあの西行妖から遠いところで」
彼女は即座に妥協した。お互いの顔に泥を塗らずに済む無難な解決策である。
「そ、そうですね!その手がありました。少々お待ちください、すぐにご用意いたします!」
「あら駄目よそんなの。私はもうお花見を始めたいもの」駆け出そうとした妖夢の言葉を遮る
ように、日傘を差したレミリアとバスケットを持った十六夜咲夜が現れた。

 レミリアは小旗の掛けられた枝垂れ桜に近寄ると、しげしげと桜の花を見つめた。彼女は
それから周囲をくるりと見回し、満足そうに、気に入ったわ、と言った。
「美鈴を送って正解だったわね咲夜。さっきの事は許してあげる」
「かたじけのうございますお嬢様。・・・美鈴、お手柄よ」二人がいい笑顔であるのに対し、
美鈴は自分の目論見があっさりご破算になって青ざめていた。彼女の背後で未だ状況を
把握しかねている妖夢に対し、咲夜はあっさりと、そういうわけだから余所をあたって頂戴、
と言い放った。

 妖夢の表情が見る見るうちに剣呑なものに変わった。対する咲夜の表情は余裕そのもの
だった。(両者に挟まれる位置にいる美鈴のそれは上述の通りである)
「了承できません。他に場所は用意します、即刻この場を立ち退いてください」
「あら、あなたの了承を取り付ける必要が私たちにあると思って?」
「此処は西行寺家の庭です。あなた方の好き勝手にはさせません!」
「ふん。誰に対して口をきいてるのか分かってないみたいね」恐怖心も同情心もない二個の
戦闘機械の板挟みになって、人間よりも人間くさい妖怪は今すぐこの場から逃げ出したい
と切に切に思った。はるか遠くを見れば、九尾の狐が面白いものを見るような目付きでこちら
を見ていた。既に花見の準備を完全に整え、主の来着を悠々と待っている様子だった。

 妖夢が腰の白楼剣の鯉口をきる。応じて咲夜の両手に投げナイフが音も無く現れた。
 と、それまで黙っていたレミリアが突然口を開いた。
「待って咲夜。美鈴に場所取りを命じたのでしょう?務めを全うさせなさい」彼女の言葉にその
場にいた全員が驚いた。とりわけ美鈴は狼狽した。
「えええええっ!」
「お嬢様、それはだいぶ分の悪い賭けですわ。この場は私にお任せくださいな」
「だーめ。昼もそうやって代わりに魔理沙と戦ったんでしょう?勝つのが分かりきってる戦い
なんて退屈なだけじゃないの」レミリアのセリフに妖夢の目付きが一段と険しくなった。
「あわわわわわわ、お、お嬢様いけません。今は予定調和を楽しむべき時ですよ」美鈴は
自分でも言っている事がよく分からなかった。とかく現実は彼女に辛くあたるものらしい。

「ねえ美鈴」レミリアはにっこりと微笑んで美鈴を見上げた。
「はっはいお嬢様!」対する美鈴は緊張する事しきりであった。
「今日のバラの出来はとても良かったわ」
「勿体無いお言葉ですお嬢様」
「それに此処の眺めも素敵よ」
「恐縮ですお嬢様」
「今日はとても機嫌がいいから、あなたには何かご褒美をあげようかしら」レミリアの御言葉
に美鈴の心はざわざわと波立った。と言っても『ご褒美』などという言葉に釣られたわけでは
ない。むしろ今機嫌を害したらとんでもない事になると思ったのである。
「承知いたしましたお嬢様、不肖この美鈴にお任せください。・・・妖夢さん、此処では花見に
来た皆さんに失礼になります。外に出ましょう」


 夜の白玉楼階段には幽霊達が篝火を焚いて待っていた。(余談だが伊吹萃香はまだ階段
に寝っ転がっていびきをかいていた)
 美鈴は帽子とベストを脱ぐと咲夜に預けた。更に首からリボンタイを取り外すと、その長髪
と両脇の三つ編みを後ろで纏めて縛った。
「ああは言ったけど、本当に大丈夫なの?」心配そうに咲夜が聞いてくる。美鈴は流石に非難
がましい目付きになった。
「咲夜さんは私と彼女を戦わせたかったんじゃないですか?今更何を言ってるんです」
「悪かったわね。あれはあなたにいまいちやる気が感じられなかったからよ」咲夜の言い分
を美鈴は鼻で笑った。
「やる気、やる気ねぇ。やる気」
「・・・何よ」メイド長が拗ねた表情になる。門番はこれ以上彼女を苛めても詮無い事だと判断
し、思考を切り換えた。
「それでは私のやる気をご覧に入れましょう。当然にして完全なる勝利をレミリア様の下に」
「レミリア様の下に」紅魔館戦勝の誓いを交わし、美鈴は妖夢の方へと向き直った。

 妖夢は左手で白楼剣を抜き、更に半幽霊に楼観剣を抜かせると右手に構えた。
 美鈴の意外な態度には少しばかり驚いたが、対手が咲夜から彼女に変わっただけの事だ
と思い直すと気を引き締めた。
「覚悟は良いですか美鈴さん。相手があなたでも手加減はしませんよ」
「結構です。私も全力で参ります」両者は同時にたっと石畳を蹴り、夜の冥界の空へと飛び
上がった。


BGM:東方妖々夢 ~ Ancient Temple (Ghostly Field Club Arr. )
Border of duel appears
Curtain Fire Play
Start


 妖夢は素晴らしい上昇力で美鈴のはるか頭上に占位すると、そこから稲妻のような勢いで
急襲してきた。一撃で勝負を決めて準備に戻るつもりだった。
 美鈴はしかし、まったく臆する事無く迫り来る妖夢を見据えた。そして楼観剣が彼女を袈裟
懸けに斬りおろす一瞬前にけろりとかわすと、無防備な背中めがけて気弾を斉射した。驚い
たのは妖夢の方で、彼女は慌てて反転すると気弾を斬り払った。
「何てことだ。あなた戦い慣れてるんじゃないですか」
「あなたこそ弾幕まで斬れるんですか。また厄介な」お互い相手に対する認識を改める必要
があるようだった。

 美鈴は特に魔理沙との度重なる弾幕勝負の結果、自分より速度で勝る相手との戦いの経験
を多く積んでいる。皮肉にも望まない戦いが彼女を戦い慣れさせていた。
 だが、魔理沙は弾幕を斬ったりは出来ない。こちらの攻撃を打ち消そうと思えば彼女は八卦
炉に手をかけるしかないのである。
「・・・いや待てよ、森羅結界という手もあるか」美鈴が自分の考えを正している間に、妖夢は
再び彼女の頭上に翔け上がっていた。今度は半幽霊に背後から援護射撃をさせてこちらの
回避を封じつつ、先程に勝るとも劣らない勢いで降ってきた。
「そうそう何度も同じ手は通じないッ!」美鈴は素早く懐の符に手をかけた。

Power of Spiritual Border wake up
虹符「彩虹の風鈴」
Set Spell Card
Attack

 美鈴を中心に虹色の弾が渦を巻いた。妖夢の急降下は途中で停止を余儀なくされ、精密な
回避を苦手とする彼女は横殴りの弾雨をひたすら斬り払わなければならなくなった。半幽霊
も被弾を防ぐために弾幕を張り続けたが、その弾数は風鈴の比ではなく空しく打ち消される
ばかりだった。
 そして遂に斬撃が間に合わずに虹弾が妖夢を捉え、彼女はやむを得ず森羅結界を発動
させた。

Supernatural Border rising
Spiritual Short Bomb
Break

 結界から解き放たれた桜吹雪が全ての弾を吹き飛ばし、風鈴の音が途絶えた。妖夢は
美鈴目掛けて突き進み、彼女の目の前で横転した。一瞬反撃のタイミングをずらされた
美鈴の目の前に半幽霊が霊弾を放ちながら突っ込んで来、更には素早く背後に回った
妖夢が無防備な背中を狙った一撃を放ってきた。美鈴はひらり、ととんぼをきって妖夢の
更に背後に回り、彼女を盾にして半幽霊の攻撃を防ぐと同時に気弾を浴びせた。素早く
反転した妖夢が気弾を斬り捨て、両者は向かい合ったまま空中で対峙した。序盤の攻防
はまあ互角といったところであった。



 一方その頃、八雲藍は主の紫と共にあらためて幽々子に挨拶を述べるべく屋敷の扉
をくぐっていた。屋敷の中では幽霊達が慌しく働いていたが、座敷ではようやく着替えを
しただけの幽々子が口に蜂蜜飴を放り込んで頬をもごもごさせていた。
「ねえ紫、妖夢の姿が見えないんだけどあなた知らない?」こちらが何も言わない前から
突然幽々子からそう尋ねられ、紫は己の式神の方を向いた。
「藍、あなたは見かけたかしら?」
「はい紫様。紫様がこちらに来られる少々前に紅魔館の連中と場所取りのことで諍いを
起こしておりました。お屋敷から少し離れた所にある幹の細い枝垂れ桜のところです」
「あらあら元気ねえ。・・・幽々子、そういう事だそうよ」
「もう、仕方の無い子」頬に手を当ててほう、とため息をつくと、幽々子は紫に蜂蜜飴の小
瓶をぽんと手渡して座敷を出て行ってしまった。
「残念だわ。今日は幽々子を夜通し付き合わせるつもりだったのに」紫は飴を一粒取り出し
て口に放り込むと今度は藍に小瓶を手渡した。藍はそれを丁重に押し頂き、食べるかわり
に月明かりに透かして見た。琥珀色の飴玉が一つ瓶の中で転がり軽く音を立てた。


 月光が桜を仄かに白く浮かびあがらせる頃、白玉楼の庭には妖怪と幽霊が思い思いの場
所で宴に興じていた。既に殆どの人間は帰った後であり、残っているのは博麗の巫女とか
普通の魔法使いとか竹林の不死人達とか稗田家の九代目阿礼乙女くらいのものであった。
 レミリアは美鈴が片をつけるまで準備を始めるわけにもいかず、かわりに枝垂れ桜をじっと
見ていた。差したままの日傘の上に桜の花びらがはらはらと落ちて来、彼女の足元僅か離れ
た場所に降り注いだ。
 白玉楼の階段で行われている戦いの状況は咲夜の目を通して刻々と伝えられてくる。美鈴
は善戦しているようだった。(レミリアに言わせれば勝って当然の相手だったが)

「あらあら、こんな所に一人だけ?」隣に幽々子がやって来た。彼女は置きっぱなしの敷物と
座布団と野点傘を見て、妖夢はどこに行っちゃったのかしら、とのんびりした口調で言った。
「うちの門番と外で戦ってるわ」
「まあ、やっぱりあなた達何かしたのね」
「したよ」レミリアが枝に掛かった紅魔館の小旗を指差す。幽々子はそれを見ても別に咎める
ようなことはせず、かわりに自分で敷物を地面に敷いて野点傘を立て、敷物の上に座布団を
敷いてレミリアを手招きした。そして幽霊が持ってきた茶道具を優雅な手つきで並べていき、
茶釜で湯を沸かし始めた。

 座布団の上に女の子座りしたレミリアに、幽々子が点てた抹茶が振舞われた。翡翠色の
宋胡録の茶碗に深い緑色が映える。お茶菓子は桜餅だった。
(※桜餅や花見団子は四月の茶菓子である。余談だが五月になると茶菓子がちまきや柏餅
に変わる。もっとも桜餅は単に幽々子の趣味なのかもしれないが)
 レミリアは無論茶道のさの字も知らないが、青磁の茶碗は綺麗だったので飲む前に手に
取ってしげしげと眺めた。
「素朴な美しさね」
「悪くないでしょ」
「たまにはね」レミリアはそのまま茶碗に口をつけて抹茶を口に含んだ。当然だが苦かった。
「にがーい。何よこれ」
「そういうものなのよ」
「お砂糖はないの?」
「ないわねえ。かわりに桜餅をどうぞ。あ、葉っぱは取らなくてもそのまま食べられるわよ」


・その6

 紅魔館のお嬢様と白玉楼のお嬢様が「結構な御点前で」等とやっている頃、双方の庭師の
戦いはまだ続いていた。
 体力で劣る魂魄妖夢は大分呼吸が荒くなっていた。実戦で刀を振り回すことによる肉体的・
精神的疲労は、毎朝毎晩の素振りとは比較にならない程のものである。
 一方の紅美鈴も攻撃に決め手を欠いていた。何せ相手は弾幕を斬ってしまうのである。彼女
の妖力ではそうそう立て続けに濃密な弾幕を形成することもできず、運良く追い詰めてもあと
一押しが足りなかった。
「お嬢様をこれ以上お待たせするわけにはいかないんです!大人しく斬られてください!」
「それはこっちの台詞ですよ!いい加減落とされてください!」お互いの主が茶飲み話に花
を咲かせていると知ったら彼女達はどう思うであろうか。下から彼女らの戦いを真剣な面持ち
で見守る十六夜咲夜もいい面の皮である。
 最早なりふり構っている暇は無い、と判断した妖夢は白楼剣の刃を口にくわえ、懐の符に
手をかけた。
「いひはふ。ほほいひえひうへへいお!(行きます。この一撃受けてみよ!)」

Power of Spiritual Border wake up
人符「現世斬」
Set Spell Card
Attack

 妖夢が楼観剣と白楼剣の刃先を後ろに向け、渾身の一撃を生み出すための『溜め』を作る。
美鈴は先程のように紙一重で避ける事はできないと判断し、相手の正面に位置するのをやめ
て右回りに相手の背後へと回りこもうとした。
 攻撃はまさにその刹那に飛んできた。美鈴の動体視力でも捉えることの出来ない、あたか
も姿が消えたかの如き速度で妖夢が殺到して斬撃を放った。既に攻撃のための気弾を用意
していた美鈴は咄嗟にこれを盾代わりにして逃れたが、切っ先から生じた鎌鼬で僅かに服の
袖が切られた。
「な、避けられた?」
「うわっとっとっと!危ない危ない」妖夢はすぐさま飛び退って第二撃を放ってきた。しかし美鈴
も今度はより大きな気弾を作って待ち構えていた。妖夢の撃剣の凄まじさは霧雨魔理沙の魔
砲にも劣らないだろう。ただ惜しむらくは刃の届く範囲が狭く、また文字通り一刹しか効果が
持続しないのである。美鈴はいち早くその事に気づいた。ようは気弾が切り捨てられる一瞬
の間に自分は回避して次の一撃に備えればいいのである。

 妖夢はもはや疲労が無視できなくなりつつあった。二刀を持つ腕がいやに重く感じられ、これ
以上振り回すのが困難になってきた。必勝を期して放った現世斬までが防がれてしまい、最初
に美鈴に対して抱いた「メイド長の相手をするよりどれ程気が楽か」という認識が誤りであった
事を身をもって思い知らされていた。
「何てことだ、『手加減はしません』なんて言いましたが元からそんな余裕は私には無かった
んですね」
「どうでしょう、私は今『これ以上酷い目に遭う前にさっさと斬られておけば良かった』という気
持ちで一杯ですけど」紅魔館の門番の返事に半分幻の庭師は思わず大声で笑った。大して
妖力も高くない割に中々どうして曲者ではないか、と舌を巻く思いだった。
「あはははははは!そう言われたら何とかしてこれ以上酷い目に遭わせなければいけない
じゃないですか!」妖夢は白楼剣を鞘に納めると再度懐の符に手をかけた。と同時に美鈴も
また符に手を伸ばした。

Power of Spiritual Border wake up
断命剣「冥想斬」
Set Spell Card
Attack

Power of Spiritual Border wake up
光符「華光玉」
Set Spell Card
Attack

 妖夢が両手で構えた楼観剣に膨大な量の霊気が集まり巨大な刃を形成した。同時に美鈴
もまた大気を切り裂くように手刀を繰り出し、彼女の身体よりも大きな気の球体を作り出した。
 このような状況においては闘争者はまったく別の人格に変わってしまう。両者は今やお互い
の距離も構えさえも忘れ、勝敗を決することになる次の一撃に専心した。二人とも自然に笑み
がこぼれていた。弾幕勝負には似つかわしくない、いかにも凄絶でどこか艶やかな笑みだった。
 妖夢は残された全力を振り絞って打ち込みをかけた。美鈴はそこに華光玉をどんっ、と撃ち
込んで自らは即座に妖夢の背後へと回り込み、無防備な背中目がけて飛び蹴りを放った。
妖夢の一撃は華光玉を両断し、彼女は反転しつつ飛び込んできた美鈴に斬りつけた。今度
こそ斬った、と思ったその瞬間、目の前が桜吹雪で見えなくなった。

Supernatural Border rising
Spiritual Short Bomb
Break

 美鈴の足刀から無数の気弾が放たれた。楼観剣を構えなおすよりも先に全身に直撃を受け
て妖夢は墜落し、石畳にぶつかる前に咲夜に捕まえられた。
「見たか、と言いたいところですけどまあこの手は一度きりですよ。次は通じませんね」
「ふ、不覚ーッ!」


Border disappears


「結局最後はごり押しになってしまった。こんな勝ち方ではお嬢様も満足しないだろうなあ」
「あら、ずいぶん余裕ね。私はいつあなたが斬られるかはらはらしながら見てたわ」
「嗚呼、どうしよう。勝負には負けるし準備はできてないし」三者三様の面持ちで枝垂れ桜
の下に戻ってくると、レミリア・スカーレットと西行寺幽々子はとっくに料理を食べ始めていた。

「あら三人とも遅かったのね。こっちは勝手に始めさせてもらったわよ」レミリアは咲夜が持っ
てきたバスケットを開けて、中に入っていた料理を自分で適当によそって食べていた。同様
に幽々子も幽霊に持ってこさせた件の蒔絵の重箱をひろげて、ろくに取り皿も使わずにぱく
ぱくもぐもぐと口と箸を動かしていた。
「まあ、いけませんわお嬢様。ラザニアはメインディッシュなんですから。先にマリネをお出し
する予定でしたのに」
「そんなの咲夜がさっさと戻ってこないからいけないんじゃない。それより早くワインを開けな
さい。ああ、美鈴にもグラスを忘れずにね」咲夜が取り出したワイングラスになみなみと赤
ワインを注ぎ、レミリアと美鈴に手渡した。
「次はもっと華麗な勝ち方が見たいわね。美しさが美鈴の本領でしょう?」
「仰るとおりですお嬢様。以後いっそう研鑽につとめます」二つのグラスがキン、と透明な音
をたてた。

「申し訳ありません幽々子様、軽率な戦いを挑んだ挙句敗北を喫するとは」
「いやいや妖夢、謝るべきはそこじゃないわ。できればもう五品か六品くらいは献立に加えて
ほしかったのに」幽々子の不満は別の所から来るらしかった。具体的には舌やお腹から。
「へえ、そういう事ならうちの料理も食べて御覧。咲夜、用意を」
「かしこまりました。・・・こちらが前菜の鮭とタマネギのマリネです。メインディッシュはひき肉
とジャガイモ、ベーコンとほうれん草のラザニア・デミグラスソース・チーズのせですわ」バス
ケットは魔法で保温・保冷もばっちりであり、熱々のチーズがとろけるラザニアは幽々子の食
欲をそそった。

「あらあら嬉しいわー。さっ、妖夢も一緒に頂きましょう」
「はい。・・・いただきます」幽々子は妖夢に箸を渡し、自分は咲夜から渡されたフォークでせっ
せとラザニアを頬張った。
「うぅん、美味しいわぁ。死んだら是非うちで厨房に立って欲しいわね」
「残念ね、咲夜は地獄行きに決まってるから無理よ」
「まあ、お嬢様ったらひどいですわ。そういう事でしたら地獄に落ちる前にこちらのサクランボ
と蜜柑のジュレは頂きますね。美鈴、あなたにもあげるわ」
「おやどうも。遠慮なく頂きます」いやはや全く美味しいご褒美である。


 空が白み始めるよりも前に美鈴達は帰途についた。妖夢は宴の途中で疲労が限度を超え
て船を漕ぎだし、幽々子に背負われて一足先に自分の部屋に引っ込んでしまったため、見
送りは代わりに大勢の幽霊がしてくれた。(余談だがこの時も伊吹萃香はまだ階段に寝っ転
がっていびきをかいていた。弾幕勝負中も一度も目を覚まさなかった。きっと昼頃まで起きて
こないだろう)
「あー楽しかった。帰ったらフランとパチェに目一杯自慢してやらなきゃ」レミリアのしごく上
機嫌な様子を見て、美鈴はようやく肩の荷が下りたと感じて内心ほっとしていた。
「お嬢様、朝更かしはいけませんわ。ちゃんと寝て頂きませんと」咲夜が釘を刺す。
「咲夜はまるで口うるさい母親ね」
「恐惶謹言、お嬢様の最も忠実にして最も恭順な従者ですわ」
「調子が良いわね。じゃあ美鈴は?」
「それでは私は二番目に忠実で恭順な従者ということにします」二人の従者が涼しい顔で
いけしゃあしゃあと答えたので主は、まあそういうことにしておくわ、と言って肩をすくめた。



 そして翌日、美鈴は今度はフランドール・スカーレットとパチュリー・ノーレッジの二人の為
に再び白玉楼の庭で場所取りをする羽目になっていた。レミリアの自慢話に案の定フラン
ドールが自分も行きたいと言い出し、そういうことならパチュリーも話の種に行っといで、と
レミリアが促したためである。
「いやあ昨日はお前達に幽々子様を取られてしまったばっかりに紫様はご不興であられた
よ。今日は何としても私たちの方に来て頂かねばなあ」八雲藍が何でもない事のようにおっ
かない事を言うので美鈴と妖夢は内心震え上がった。
 昨日と同じように庭には大勢の花見客が集まり、そしてまた昨日と同じように目立つ三人
は仲良く並んで座って蜜豆を食べていた。
「ええええ、いや私は構いませんが、そんな私達が元凶のようなことを言われましても」
「はっはっは、冗談だよ冗談。時にお前さんは今日は月琴を持ってきただろうね?」藍に言わ
れて美鈴は布に包んだ月琴を背中から下ろして見せた。
「嗚呼、懐かしいな。再び聴ける日が来るとは思わなんだ」
「私は初めて見ますよ。三味線ほど首が長くないんですね」九尾の狐と半分幻の庭師が期待
に満ちた眼差しで紅魔館の門番を見つめた。
「ですからそんなに期待しないでくださいよ。ほんのお遊び程度の腕前しか無いんですから」
「演る前からそんなじゃ困る・・・」後ろからルナサ・プリズムリバーがぬっと顔を突き出してきた。

「おやルナサ様、今日もいらしたんですね」
「様付けで呼ばれるのは違和感があるわ」
「お嬢様の客人として招かれた方をさん付けには出来ませんよ」貴族も色々だな、と美鈴は
思った。もっとも幻想郷には今更プリズムリバー家を貴族扱いする者はあまりいないが。
「それじゃ、調律ついでに『昨日とは打って変わって碌な弁当を持たせてくれなかったメイド
長の話』でもやってみますかねえ」黒パンとチーズが無造作に突っ込まれた包みを思い出し
ながら美鈴が言うと、その場の全員が露骨に呆れた表情をした。どうやらルーミアやチルノ
を相手にするようにはいかないようだった。(よい聴衆に恵まれたと言えなくもない)
「・・・もっとマシな内容のはないの?」
「それは後のお楽しみということで」適当に調律しながらとつとつと爪弾く。三味線よりもやや
軽い音色と共に、どうでも良いような内容の語りが辺りに流れ出した。



 フランドールとパチュリーが白玉楼に到着してしばらくして、美鈴は紅魔館へ帰ることにした。
 なんと藍から油揚げと大根の葉の味噌汁をご馳走になった(甘い白味噌が絶品だった)上に
妖夢からはお土産にわらび餅までもらっての帰還である。
「大変美味しく頂きました。おかげで良い土産話ができましたよ」
「お粗末様。また何かの機会があれば味わわせてあげよう」
「どうぞお気をつけて。わらび餅は今日中にお召し上がりくださいね」
「分かりました。それでは」二人に深々とお辞儀をして、美鈴は桜花結界を飛び越えて顕界へ
と戻った。


 もし美鈴が主の寵を求めて他の者と激しく競い合うような性格だったならば、紅魔館はもっと
居心地の悪い場所だったろう。そうならないで済んだのは彼女が人気や名誉といったものに
あまり関心が無く、分相応の扱いで満足できるタイプだったからである。
『三頓飯、數杯茗、何必向塵寰外求真仙佛?(三度の食事、それに数杯の茶があれば、他に
何が要るだろうか)』が美鈴のモットーであり、それが満たされるなら、栄達の見込みもまるで
ないこの稼業が最期まで続いても良いと思っていた。いな、むしろそれを願っていた。たとえ
閻魔が己を小さな幸福に心満たされる欲のない者と見ようが、或いは愚鈍な事なかれ主義者
と見ようが、そんな事には構わずに。


「あら美鈴、早かったじゃない。もっと遅く帰ってくるかと思ったわ」美鈴の姿を見るなり咲夜は
そう言った。厨房は今まさにレミリアの夕食の後片付けの真っ最中だった。
「咲夜さん、私の夕食は?」弁当がお粗末だっただけに、せめて夕食には温かいものを食べ
たいと願って早々に帰ってきた彼女に対し咲夜は、
「もっと遅く帰ってくると思ったって言ったじゃない。用意なんてしてないわよ」薄情にもそう
言い放った。
「ほほう、そうですか。いや残念です。白玉楼でお土産にわらび餅を頂いたので咲夜さん
と一緒に食べようと思ってましたが、それなら全部私の胃袋に納めてもいいですよね」咲夜
の目の前にわらび餅の包みをぶら下げると彼女の態度はあっさり豹変した。
「あらいやだ。そういう事は先に言いなさいよね」美鈴の手からひょいっと包みを掻っ攫うと、
急に上機嫌になった咲夜は食料庫へと向かっていった。ご丁寧に鼻歌まで歌いながら。
「可愛い人だなあ」皮肉を込めてそう言うと美鈴は適当な席に腰掛け、テーブルの上に頬杖
をついて夕食が出てくるまで待つことにした。








 待っていた方がいらっしゃいましたらお待たせいたしました。第三話をお届けいたします。
今回は全て書き上げてから投稿したので、全一話ということになります。全て読んで、美鈴が
妖夢に勝つなんておかしい、と思った方、きっとお嬢様が運命を操りでもしたのでしょう。逆
に美鈴にも勝機はある、と思った方、まああと10回も戦えば対魔理沙戦と大差ない戦績に落
ち着きますよ。多分。
 「セラギネラ」での美鈴は強いのか弱いのか結構微妙ですが、仮にも主役ですのでやられ役
のイメージはできるだけ回避するようにしています。いずれギャグを書くときの為にそういう
イメージはとっておこうと思います。

 次回の予定はまだ立っていませんが、あるいは一度くらいは他のキャラの話を書いてみたり
するかもしれません。

 なお余談ですが本作執筆中の主なBGMは、と書く予定でしたが考えてみれば風神録のそれ
ばかりでしたので割愛いたします。夏が待ち遠しいです。
マムドルチァ
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コメント



0.1430簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
淡々としてていいですねぇ。
美鈴のこのヤル気の無い雰囲気が凄く好きです。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
このぐらいの強さのほうがより美鈴らしいからよいと思います 面白いお話をありがとう
14.無評価マムドルチァ削除
 お読みいただきありがとうございます。このように感想を頂ける事がどれ程
嬉しくまた励みになるか、上手く言い表せません。

>淡々としてていいですねぇ。
原作の持つ飄々とした雰囲気を僅かでも再現できていれば幸いです。

>このぐらいの強さのほうがより美鈴らしいからよいと思います
昔はもっとザコキャラ扱いされていたようです。時間と共に受け手の美鈴に
対する評価が変化したのかもしれません。

 最後に、本文終盤で美鈴と藍と妖夢が並んで座っている場面を絵にして
アップロードしてみました。
th2_6525.jpg  少女花見中
というファイルです。知り合いからは、こういう文章を書く人がこういう絵柄
の絵を描くということが想像できない、と言われます。ご覧になった方がどの
ような感想を抱くか、少し興味があります。
15.90名前が無い程度の能力削除
ネタを楽しむのではなく、東方の世界そのものが楽しめる。こーゆー切り口の作品は大好きです。自分勝手そうに見えて引きどころを弁えているキャラクタ達も小気味良かったです。
20.80名前が無い程度の能力削除
美味しかったです。
21.無評価読み解く程度の能力削除
美鈴が主人公だと最強かギャグになってしまう作品が多いので、こういう作品は新鮮さもあってとても読み応えがありました。
藍の大物度も大変素晴らしかったです。
22.90読み解く程度の能力削除
すいません、点数忘れていました。
25.無評価マムドルチァ削除
申し訳ありません。しばらく見ぬ間にこんなに感想を頂いているとは思いもよりませんでした。

>ネタを楽しむのではなく、東方の世界そのものが楽しめる。
ありがとうございます。私などには勿体ないほめ言葉です。
キャラクターの言行に抑制がきいているのは、あくまでも白玉楼が幽々子様の居所だからということで。
幽々子様がレミリアお嬢様を直々にもてなすと決めれば、誰であれそれを妨げるわけにはいかないのです。
むろんお嬢様もそれを蹴ることはしません。

>美味しかったです。
お粗末様でした。話の中に頻繁に食べ物が出てくるのは、昔からの私の作風です。
幻想郷ではお酒の話題には事欠きませんし、きっと食べ物も美味しいだろうと思います。

>美鈴が主人公だと最強かギャグになってしまう作品が多いので、こういう作品は新鮮さもあってとても読み応えがありました。
そういう作品ももちろん愛して止みません。色々な解釈が成り立つのも美鈴の魅力ですので。
藍様に関しましては、たぶん玉藻前あたりがその正体であろうと勝手に解釈しております。中国・天竺での
活動も合わせれば、疑いなく大物中の大物ということになるでしょう。ついでに傾国の美女でもあるという訳
で、そりゃあ目が離せなくもなるだろうというものです。
26.100名前が無い程度の能力削除
初めて拝見してからも何度か読み返しては味わっています。
29.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしいです。
黙々と読み耽りました
32.無評価kagely削除
6回構成でしたが一気に読むことが出来ました
第三話はなんとなく「美鈴の生き方・考え方について」という気がしました
後やっぱり文を絵にさせる色々な知識が凄いです。萃香の扱いとか、細かい処もよく出来ていると想います
有難う御座いました
36.100名前が無い程度の能力削除
なんというか 僕の中で理想の世界観でした
37.100名前が無い程度の能力削除
なんか爽やかというかなんというか、上手く表せれないけどとても良い感じ
40.100名前が無い程度の能力削除
ああ、幻想少女達は美しい