魔法の森の片隅。
香霖堂は、私のような蒐集家にとって、とても居心地がよい。
古いものに囲まれていると、時を忘れられる。
もっとも、人間でない私には、
既に時間の概念など忘却の彼方なのかもしれないけど。
「やあアリス。久々だね」
店主の霖之助さんが声をかけてきた。
「ええ。ここのところ雨続きだったから」
今、季節は夏に移ろうとしていて、
ただでさえ蒸し暑い森は一年で最も蒸し暑くなっている。
今年も例年通り、長雨の季節がやってきていたのだった。
「そうだな。人形は大丈夫だったのか?」
「ええ、おかげさまで」
他愛のない世間話。いつもの情景だ。
彼に対して特に好意を抱いているわけでは勿論ないが、
半人半妖ということもあってか、話しやすい相手だ。
――あくまで「彼女」に次いで、だけど。
話は終わり、いつも通りにそう広くはない店内を見て回る。
外の世界のものがたくさんあるのは、新鮮で面白い。
ここで使えるものではないから、はっきりいってガラクタだけど。
ふと、一つ気になるものを見つけた。
細長い筒だ。
「......なにかしら、これ」
「ああ、万華鏡(カレイド・スコオプ)だな」
霖之助さんがすかさず説明してくれた。
「万華鏡?」
「そう。
望遠鏡のように覗きこむと、鏡の加減で
中のスパンコオルやビーズが無数に見える。
覗いてみたらどうだ?」
聞くより見る方が早いし、と笑いながら、
霖之助さんは万華鏡を渡してきた。
いわれたとおりに覗きこんでみる。
「うわぁ......」
そこには、きらきらと光り輝く世界が広がっていた。
それは、夏の夜空にきらめく天の河のようで。
それは、冬に見た流星群(ながれぼし)のようで。
その美しさに、ただ
「綺麗......」
の一言しかいえなかった。
まだ昼間なのに、私の目には星空が映っているのだ。
――星。
そういえば、彼女も星の形の弾幕を振りまいていた。
それはとても綺麗で、昼間でさえ、星の海を作り出していく。
ああ、それに見惚れていた所為で、最初の勝負で負けてしまったんだっけ。
その後、彼女と親しくなって、
あの星型弾幕が綺麗だと思った理由が、なんとなく分かった。
――彼女が、綺麗だから。
そりゃ、男勝りだしがさつだし、
傍から見れば、綺麗なところなんてない、と思うのも当然かもしれない。
だけど、彼女は人一倍努力していて、
人一倍輝いていて、
人一倍私のことを想ってくれている。
彼女は、きっと星の化身なのかもしれない。
そうとさえ思えてくるから、我ながらとても不思議だ。
「...リス?......アリス?」
ふと我に帰る。霖之助さんが私の名を呼んでいた。
「大丈夫か?
万華鏡をずっと見ていると疲れるぞ?」
「え、ええ。大丈夫よ。
ありがとう」
といって、万華鏡を元の場所においた。
「気にいったなら、お代はいいからもっていったらどうだ」
「えっ? いいの?」
「ああ。
ここにおいておいたところで、白黒魔法使いに持っていかれるだけだ。
それよりは、気にいってくれたお客に差し上げたほうが、
万華鏡も喜ぶだろうよ」
「でも、ただで戴くわけにはいかないわ」
といって、無理やり御代を彼の手に握らせた。
「ありがとうね、霖之助さん」
「ああ、また今度」
そういって、香霖堂をあとにした。
帰ってから、また万華鏡を覗きこんだ。
一瞬の前とは同じ模様には決してなることのない、不思議なきらめく星。
スパンコオルやビーズの織り成す、小さな天の河。
この輝きと、彼女の輝きを重ね合わせて、
少しだけ、胸が弾んだ。
香霖堂は、私のような蒐集家にとって、とても居心地がよい。
古いものに囲まれていると、時を忘れられる。
もっとも、人間でない私には、
既に時間の概念など忘却の彼方なのかもしれないけど。
「やあアリス。久々だね」
店主の霖之助さんが声をかけてきた。
「ええ。ここのところ雨続きだったから」
今、季節は夏に移ろうとしていて、
ただでさえ蒸し暑い森は一年で最も蒸し暑くなっている。
今年も例年通り、長雨の季節がやってきていたのだった。
「そうだな。人形は大丈夫だったのか?」
「ええ、おかげさまで」
他愛のない世間話。いつもの情景だ。
彼に対して特に好意を抱いているわけでは勿論ないが、
半人半妖ということもあってか、話しやすい相手だ。
――あくまで「彼女」に次いで、だけど。
話は終わり、いつも通りにそう広くはない店内を見て回る。
外の世界のものがたくさんあるのは、新鮮で面白い。
ここで使えるものではないから、はっきりいってガラクタだけど。
ふと、一つ気になるものを見つけた。
細長い筒だ。
「......なにかしら、これ」
「ああ、万華鏡(カレイド・スコオプ)だな」
霖之助さんがすかさず説明してくれた。
「万華鏡?」
「そう。
望遠鏡のように覗きこむと、鏡の加減で
中のスパンコオルやビーズが無数に見える。
覗いてみたらどうだ?」
聞くより見る方が早いし、と笑いながら、
霖之助さんは万華鏡を渡してきた。
いわれたとおりに覗きこんでみる。
「うわぁ......」
そこには、きらきらと光り輝く世界が広がっていた。
それは、夏の夜空にきらめく天の河のようで。
それは、冬に見た流星群(ながれぼし)のようで。
その美しさに、ただ
「綺麗......」
の一言しかいえなかった。
まだ昼間なのに、私の目には星空が映っているのだ。
――星。
そういえば、彼女も星の形の弾幕を振りまいていた。
それはとても綺麗で、昼間でさえ、星の海を作り出していく。
ああ、それに見惚れていた所為で、最初の勝負で負けてしまったんだっけ。
その後、彼女と親しくなって、
あの星型弾幕が綺麗だと思った理由が、なんとなく分かった。
――彼女が、綺麗だから。
そりゃ、男勝りだしがさつだし、
傍から見れば、綺麗なところなんてない、と思うのも当然かもしれない。
だけど、彼女は人一倍努力していて、
人一倍輝いていて、
人一倍私のことを想ってくれている。
彼女は、きっと星の化身なのかもしれない。
そうとさえ思えてくるから、我ながらとても不思議だ。
「...リス?......アリス?」
ふと我に帰る。霖之助さんが私の名を呼んでいた。
「大丈夫か?
万華鏡をずっと見ていると疲れるぞ?」
「え、ええ。大丈夫よ。
ありがとう」
といって、万華鏡を元の場所においた。
「気にいったなら、お代はいいからもっていったらどうだ」
「えっ? いいの?」
「ああ。
ここにおいておいたところで、白黒魔法使いに持っていかれるだけだ。
それよりは、気にいってくれたお客に差し上げたほうが、
万華鏡も喜ぶだろうよ」
「でも、ただで戴くわけにはいかないわ」
といって、無理やり御代を彼の手に握らせた。
「ありがとうね、霖之助さん」
「ああ、また今度」
そういって、香霖堂をあとにした。
帰ってから、また万華鏡を覗きこんだ。
一瞬の前とは同じ模様には決してなることのない、不思議なきらめく星。
スパンコオルやビーズの織り成す、小さな天の河。
この輝きと、彼女の輝きを重ね合わせて、
少しだけ、胸が弾んだ。
またこの長さで書くのであればミニで書いたほうが宜しいと思われます。
>創想話とプチ創想話の基準は、あくまで作者の意思によるものであり
>内容や文章量によって差別化しているものではありません。
>ですので、感想レス等でそういう指摘はなさらないようお願いします。
>今後そういった感想レスは削除の対象とします。
そこだけ気をつけてください
>またこの長さで書くのであればミニで書いたほうが宜しいと思われます。
自分のSSがどの程度の評価をもらえるか見たかったので、こちらに投稿しました。
今になって思えば、ミニでも感想はいただけますから、そちらでもよかったかもしれませんね。
>2時間で書いたとかは言い訳にも逃げ道にもなりません。
>次回からはきちんと時間を置いて十分に推敲されてからのほうがよろしいのでは?
おっしゃるとおりです...
今読み返したら突っ込みどころ満載で......orz
身に染みるお言葉ありがとうございます。
これらを踏まえ、次の作品に取り掛かることにしますか。またお会いできれば幸いです。
むかしあったものがふっと頭をもたげるような
そういう、郷愁というのでしょうか……うん、まさに万華鏡をのぞいたように