Coolier - 新生・東方創想話

現かの鬼の夢

2007/07/20 05:53:52
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萃香は何故か人里にいた。
目の前には何故か巨大なゴミの山。
人里中のゴミが目の前に集められているのだ。
「うーっし。やるかあ!」
気合を入れてスペルカードを宣言する。
「鬼符『追儺返しブラックホール』!
 あーらよっと。」
萃香が小さな弾を1個投げる。
ゴミの山にぶつかると小型の黒い穴が出現し、
ゴミ山を萃めて一気に飲み込み、消滅した。
萃香は満足げに腰に手を当て、一息ついた。
「わー! すげえ!」
「萃香ちゃんすごーい!」
萃香の後ろから、子供たちの歓声が聞こえる。
萃香は後ろを振り向くとない胸を張って威張るポーズをする。
「って、子ども扱いするな!
 私はこれでも何百年も生きた鬼なんだぞ!」
「わー、萃香ちゃんが怒ったー!」
「逃げろ逃げろー!」
子供たちが笑いながら散っていく。
萃香も笑いながら追いかける。
その姿を見て、様子を見守っていた慧音はそっと微笑んだ。



なぜ萃香がこのような関係をもてたのか。
話は少し前に遡る。



「ふぁー……。平和で良いねぇ。
 景色もいいし、酒も美味い。
 言う事ないねー。」
その日も萃香は酒を飲んでいた。
普段は博麗神社に居を構えさせてもらっているが、
たまにこうして出歩いて景色を見ながら酒を飲む事を趣味としていた。
「今日はミスティアの店にでも行こうかなー。
 ……ん?」
ふと萃香の目端にこのあたりでは見かけない姿が入った。
人間の子供である。
辺りはそろそろ夕暮れ時であり、ここは人里からは離れた森の中である。
萃香は興味本位でその人間の子供に近づいた。
人間の子供は、萃香の姿を見ると震えた。
「あんた、何でこんなところにいるの?」
「み、道に迷ったの……。」
人間の子供は震えながらも答える。
怯えと恐れが交じり合った瞳を萃香に向けている。
「道に迷ったのか。」
萃香は瓢箪の酒をあおる。
「送ってやろうか?」
萃香は気まぐれでこの子供を人里に送ってやろうと思った。
「……食べないの?」
子供の返答は至極真っ当だった。
こんな時間に人里から離れた森にいる事は、すなわち妖怪の餌になる事に等しい。
萃香はその返答を鼻で笑って一蹴した。
「はっ。私はそこらにいる妖怪とは違う、鬼だからね。
 人間は好きだから、こうやって聞いてる。
 私としてはこのままほって置いてもいいんだがね。」
「やだ!」
子供が震えながらも萃香の服をつかむ。
萃香はその様子をみて、にっこりと笑った。
「そうやって生きようとする人間が、私は好きなんだ。」
萃香は子供の頭を撫でて軽くあやしてやった。
泣きつかれたときに萃香は微妙な違和感を感じたが、
酔っている時にはよくある感覚だったので忘れる事にした。


「何であんなところにいたんだ?」
萃香は子供と手を繋いで森を進む。
ところどころ魑魅魍魎が子供に狙いを定めているのが分かったが、
胴体の一部を疎の状態にして打ち払っていく。
「かくれんぼして、見つからないように森に隠れたら……。
 いつの間にか、迷って出れなくなったの……。」
子供は萃香に対して安心したのか、震える事はなくなっていた。
辺りはすっかりと暗くなり、視界も悪くなっている。
「まぁ、次からは遊ぶ場所は選ぶんだね。
 今回はたまたま私が送ってやれるけど、次こうなれる保障はないんだからな。」
「うん……。」
子供はしっかりと萃香の手を握ってついていく。

しばらく歩いてから、子供にとっては見慣れた明かりが見え始めた。
「どうやら人里が見えてきたようだね。もう少しだ。」
「う、うん……。」
そのとき、どこからか歌声が聞こえてきた。
『かっもねぎひっとねぎゆうやみおろし~♪』
「あー……。めんどくさいのが。」
萃香が歌声の方を見上げると、ミスティアがいた。
ミスティアの方も、萃香を見つけたのか近づいてくる。
「常連の萃香じゃない。珍しくヒトネギを連れてるの?」
子供は萃香の後ろに隠れて震えている。
ミスティアは夜雀という妖怪であり、人を喰らう。
「別に食べるわけに連れてるわけじゃない。
 これから人里に送り届けるところ。
 というわけで通してくれる?」
ミスティアは少し飛び上がると、笑顔を浮かべた。
「だめよ~。せっかくのヒトネギだもの。
 食べさせてもらうわ~。」
そういうと、萃香の視界が狭まる。
「夜雀如きが鬼に勝負を挑むか。
 愚かさも極まれりだな。身の程を知れ!」
「それでもあなたは鳥目になった~♪
 夜唄『真夜中のコーラスマスター』!」
「脆弱な小鳥如きが私を阻めると思うな!
 疎符『六里霧中』!」
そうして、子供をかけた弾幕勝負が展開された。

「大人しく屋台を開いてろ!
 酔神『鬼縛りの術』!」
萃香は分銅つきの鎖でミスティアを縛り上げると、
振り回してから屋台の方角へと投げ飛ばした。
「はらほろひれはれえぇ~♪」
歌がドップラー効果を残し、やがて聞こえなくなった。
歌が聞こえなくなると、萃香の視界も元に戻った。
子供も同様のようだ。
「さ、行こう。」
「だ、大丈夫……?」
「私は鬼だ。これぐらいはかすり傷、なんでもない。」
萃香は若干傷を負っていたが、満身創痍というわけでもなかった。
そうして少したつと、目の前に明るい光がたくさん見えてきた。
人里である。


「萃香!」
まず一番に飛び出してきたのは慧音だった。
慧音の後ろには、村人たちが沢山いる。
「ん。迷子のお届けだ。」
萃香は慧音に子供を引き渡す。
と、同時に萃香の額が少し焼け付くような痛みに襲われた。
足元を見ると、炒った大豆が転がっている。
「この……鬼め!」
どこからか声がした。
それを皮切りに、萃香に次々と炒った大豆がぶつけられる。
「鬼め! 子供に何をした!」
「連れ去ったのはお前だろう!」
次々と罵声が萃香に浴びせられる。
萃香は甘んじてそれを受け続けた。
古来より、人は鬼を恐れた。
幻想郷より鬼は消えたとされていても、
人里には伝承として少しだけ残っていた。
萃香に浴びせられる罵声も、大豆も、
全ては幻想郷に鬼がかつては存在したという裏返しだった。
そして、人々がまだ鬼を恐れているという証拠だった。
萃香は口を歪め、僅かに涙した。
「やめ……!」
子供はすぐに口をふさがれた。
慧音はその様子を見て、少し呆然としたがすぐに我に返った。
「やめないか!!」
村人たちは慧音の一喝に、村人たちは罵声や大豆を投げる事をやめた。
罵声は時々飛び交うが、慧音の一睨みですぐに沈黙に変わった。
「いいんだよ。」
萃香は慧音を押しよけて、村人たちの中心に立った。
「人間よ、忘れるな。
 常にお前たちの影には鬼はいる!
 私がその証となろう!
 私の名を忘れるな!
 我は、伊吹の鬼! 伊吹萃香だ!!」
萃香はあらんばかりの声を張り上げた。
萃香の全身は、ミスティアとの弾幕勝負でついた傷だけではなく、
炒った大豆でできた蚯蚓腫れや、火傷のような痕が大量についていた。
村人たちは萃香に圧倒されていた。
萃香はゆっくりと、来た場所から人里を出ようとする。
「お、おい……。」
「騒がせたね。」
そういうと、萃香は体を霧状にして、人里を離れていった。


「いでででででで!!」
萃香は翌日、神社で霊夢に治療を受けていた。
「無茶するわねー、あんたも。
 ほらほらこれぐらい我慢しなさい。」
霊夢は萃香の傷に霊薬を塗りこんでいく。
「しみるしみる! 痛いって!」
萃香は涙目になっている。
「あんたはただでさえ鬼っていう特別な存在なんだから。
 人間や妖怪みたいに消毒液で終わりって言うわけにもいかないの。
 はい、おしまい。」
霊夢は包帯を巻いておく。
治療が終わると、萃香は酒をあおった。
「ぷはー! 生き返る!」
「怪我してるときぐらいお酒はやめなさいよ。」
「いいじゃん。酒は百薬の長って言うし。」
「飲みすぎると百薬も害にしかならないわよ。」
霊夢は救急箱を片付けて、お茶をすする。

「すまない。霊夢はいるか?」
しばらくしてから、慧音の声が響いた。
萃香は体力を消耗していたのか、うつぶせで昼寝をしていた。
「はいはい、いるわよ。
 縁側に来て頂戴。」
ちゃりん、と賽銭を入れる音がした。
「出迎える事ぐらいはしてくれたらどうなんだ。」
「先に賽銭入れてくれれば出迎えたわよ。
 で、どうしたの。」
「いや、萃香の居場所を知らないかと思ってな。
 昨日の侘びをしたいんだ。」
霊夢はお茶をすすりながら、お払い棒で萃香の後頭部を叩く。
萃香が跳ね起きた。
「あいたっ! 霊夢それは酷いって!」
「ここにいるわよ。」
霊夢は萃香の訴えを無視して続けた。
「萃香。昨日はすまなかった。」
慧音は深々と頭を下げた。
「あー? いいよいいよ。
 鬼はああやって憎まれて何ぼだしね。」
萃香はからからと笑った。
「それと、もう一人客人がいてな。」
慧音に促されて後ろから出てきたのは、昨日萃香が送り届けた子供だった。
何か包みを持っている。
「んと。昨日はありがとう、萃香ちゃん。
 これ、けーね先生と一緒に選んで、私が買ってきたお酒。」
子供は萃香に包みを渡す。
萃香は呆然としていた。
霊夢は笑いをこらえているようだ。
「萃香ちゃん……、ぶふっ……。」
こらえきれずに噴き出したようだ。
慧音も笑っている。
「笑うな! 子ども扱いもするな!
 私はこれでも何百年も生きてるんだぞ!」
「でも親しみやすいからいいよね?
 萃香ちゃんでも。」
子供はきょとんとしていた。
「だーかーらー!
 子ども扱いするなー!」
萃香が子供を追い掛けようとしたので、子供も笑いながら逃げまわった。
そんな様子を見て、霊夢と慧音はひとしきり笑った。
だが、霊夢の顔はどこか悲しそうでもあった。

「まったく。」
萃香は笑顔でため息をついた。
「楽しそうでいいじゃないか。」
慧音は微笑んだままで言った。
「ん、まぁそうだけど。」
「私は楽しかったよ。」
子供は萃香の隣に座っている。
「まぁ、いいんだけどね。
 さて、どんなお酒を持って来てくれたのかなー。」
萃香の顔が緩む。
霊夢も少し気になっていた様子だ。
銘柄を見て、萃香と霊夢は噴き出した。
「ぎ、吟醸五色姫……。」
慧音と子供はにやりとしている。
「すごい銘酒じゃない……。
 滅多に味わえないわよ……。」
「助けてくれたお礼だから、受け取って。」
「いや、こんな銘酒……いいの?」
「あぁ、ぜひ受け取ってくれ。」
霊夢は台所から、お猪口を持ってきた。
子供には上等なお茶を入れてあげる。
「さすが霊夢。気が利くねー。」
慧音と萃香はお猪口を受け取ると、酒をついでいく。
そして、お猪口と湯のみをあわせた後、一気に飲み干した。
「……。」
「美味い……。」
「言葉もないわね……。
 あら、萃香どうしたの?」
「ん? どうもしないよ。
 美味い酒に感動してただけさ。」
萃香は、その瓶についていた一枚の紙を懐に入れた。


それから、萃香はその子供とよく会うようになった。
その子供は、人里の少し離れにある家に住んでいた。
親は早くに死んだらしく、一人で住んでいた。
その子供は一日、また一日と新しい友達を連れてきた。
見た目が自分たちとあまり変わらない為に、馴染み易いと言うのもあったのかもしれない。
いつの間にか、子供たちの中で萃香は受け入れられたのだった。
それから、萃香は度々人里に近寄る妖怪を追い払うようになった。
最初は、村の大人たちは萃香を快く思わなかった。
だが、慧音に諭され、子供たちも説得する事で萃香は人里から受け入れられるようになった。
いつの間にか、萃香にとってその子供は大切な友達になっていた。


そして時間は進む。
時間とは、この生きる世で最も優しくあり、
そして最も―――――――残酷である。


萃香は今日も人里へと向かった。
もちろん、あの子供に会うためだ。
最初は慣れなかった人里をゆっくりと歩き、あの子供が居る家へとたどり着く。
「よー。また会いにきた……。」
扉を開けたとき、萃香の思考が止まった。
家の中はすっかりと荒れ果てていたのだ。
昨日今日だけではこうは行かないほどに、ボロボロだった。
「……なんだよ、これ。」
萃香は振り向くと、一直線に慧音の家へと向かった。
以前萃香が感じた違和感が、胸の中で膨らんでいく。
徐々にその違和感が確信に変わっていくのを、萃香は頭を振って否定した。

しばらく走ると、慧音の家が見えた。
「慧音! あの子の家が……!」
勢いよく慧音の家の扉を空ける。
そこには、慧音とあの子供、そして死神の小町が居た。
「……なんで小町が居るの?」
萃香は必死に自分を抑えた。
「あたいが居るって言う事は、答えは一つしかないだろう?」
「……慧音もなんか言ってやってよ。」
慧音は黙って目を伏せるだけだった。
目端には涙が見える。
「萃香、あんたの気持ちはよく分かる。
 受け入れたくない気持ちも分かる。
 だが、これは現実なんだ。強い思いがくれたおまけの時間は、もう終わったんだよ。
 これ以上この子が――――――。」
「黙れ!!!」
萃香は小町の言葉を遮った。
「私の友達を連れて行くことは許さない!
 そいつは、私にいろんなことを教えてくれた大切な友達なんだ!」
萃香は肩を震わせて叫ぶ。
「萃香。」
慧音は萃香の両肩に手を置いて、目線を合わせた。
「もう会えなくなる訳じゃない。私たちの寿命は人間のそれより遥かに長い。
 またその子は輪廻を経て、新しい命としてどこかに産まれてくるだろう。
 だが、ここで引き止めてしまえば、あの子は輪廻の輪から外れてしまう。
 あの子を一生苦しめたくなければ、引きとどめてはいけないんだ。
 また、会えるかもしれないんだから。」
慧音の目に見る見る間に涙が浮かぶ。
小町も悲しそうな顔をする。
「そういうわけさ。だからこの子は、四季様の元へ連れて行く。
 このまま輪廻の輪を外れれば、転生できないどころか、妖怪に堕ちる。
 そうなる前に連れて行きたいんだ。
 自縛霊から開放された、今だからこそね。」
「……自縛霊?」
萃香のつぶやきに小町と慧音はゆっくりと頷いた。
「あの子はとても悲しい子だったんだ。
 年頃の子供と遊ぶ事もできず、両親も早くに失い、
 失意のうちに病没してしまった。
 それが未練となってあの家に留まった。
 いつしかあの子は強い力を持って、実体を持った。
 だから私たちにも見えたし、触る事もできた。」
慧音は感情を押さえ込むようにして続けた。
「そしてお前と出会った。
 偶然とはいえ、お前はあの子を助け、人里へと連れてきた。
 そしてあの子と遊んであげた。
 あの子は友達も作っていたが、
 心から楽しそうだったのは萃香と遊んでいたときだった。
 それが未練を晴らしたんだ。」
萃香は俯きながら黙って聞く。
「だから、真にあの子のことを思うなら、私たちはここで黙って見送ってあげなければならない。
 輪廻の輪を外れ、妖怪に堕ちてしまえば、私たちの手であの子を殺す事になりかねない。
 たとえ私たちが手にかけなくても、いずれは妖怪として退治されてしまう。」
萃香は再び肩を震わせた。
「……分かった。」
絞り出すような声だった。
「だけど、一つだけ頼みがある。」
萃香は小町を見た。
「なんだい。」
「私が、その子を無縁塚まで連れて行く。」


萃香はその子供と手を繋ぎ、無縁塚へと向かっていた。
慧音は里の子供たちから、子供の歴史を喰らうために里に残った。
小町は一足先に三途の川の畔に向かっている。
子供の方は、大分力が抜けてきているのか、声を発する事が難しくなっているようだった。
「萃香。」
上空から声がした。
霊夢だった。
「何?」
「やっぱりその子、この世の人じゃなかったのね。」
「そうだね。」
「私もついていっていいかしら。」
「好きにすればいいよ。」
「じゃあついていくわ。」
霊夢もその子供と手を繋ぎ、再び無縁塚へ向けて無言で歩き出した。
無縁塚へはそうかからないが、三人にとってはとても長い距離に感じれた。

無縁塚に流れる三途の川。
その畔では小町が待っていた。
「おや、霊夢じゃないかい。
 萃香の様子を見にきたのか?」
霊夢は無表情を装った。
「それもあるけど、以前来た子の違和感を確かめに。
 確かめるまでも無かったようだけど。」
「そうかい。」
小町は視線を萃香へ向ける。
「お別れはすんだかい?」
萃香は無言で頷く。
「よし、後はこの小町さんにまかしときな。
 特別待遇はできないけど、それでも乗り心地良く連れて行ってやるから。」
「お願い。」
萃香は子供を小町に預ける。
子供は、船に乗る前に萃香に振り向いた。
声こそ出なかったが、口の動きで萃香には伝わった。
『ありがとう、萃香ちゃん。』
それだけを言うと、子供を乗せた船は三途の川を渡っていった。
「萃香。」
「何。」
「別に泣いてもいいと思うわよ。」
「私は鬼だ。泣くわけがない。
 人のためになんて、泣くはずがない。」
「別に人のために泣く鬼がいたっていいじゃない。
 多分人のために泣ける吸血鬼なら居るぐらいだし。」
そう言って霊夢は萃香を抱きしめる。
無縁塚に、悲しい鬼の泣き声が響き渡った。


その日、あの子供の家は霊夢によって供養された。
その供養には、沢山の村人たちが訪れた。
子供たちも参列した。
慧音は悩んだ末、歴史を喰らうのをやめたらしい。
萃香はそれをすこしだけ嬉しく思った。

供養は夜の帳が下りたころに終わり、最後に家を火葬することとなった。
萃香は懐に入れておいた紙のことを思い出し、広げてみた。
それは、萃香に宛てたあの子供の手紙だった。

『萃香ちゃんへ
 
  いろいろと楽しかったよ。
  追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり。
  私がたとえ居なくなったとしても、
  萃香ちゃんは皆と仲良くしてあげてね。
  萃香ちゃんは鬼だって言ってたけど、
  そんなのは関係なく、私たちは友達だからね。』

萃香は誰にも顔を見られないように、そっと燃え盛る炎の中へと手紙を投げ入れた。
「そうだね、あんたとはずっと友達だ。
 あの子たちとも、ずっと友達だ。
 だから、ゆっくりとおやすみ。」
萃香は送り火として燃えさかる炎を見上げて呟いた。
炎は、萃香に応えたかのように一瞬だけ激しく燃えさかった。



そして時間は今に戻る。

「捕まえたぞー。さあ、次はどいつだー?」
「どいつだー?」
捕まった子供も鬼として追いかける役になる、増え鬼のルールのようだ。
萃香は視界に慧音を捕らえ、近寄る。
「何みてんの?」
慧音は微笑んだ。
「……萃香、お前はやっぱりいい鬼だよ。
 鬼としては優しすぎるが、それがお前の魅力なんだな。」
萃香は苦笑した。
「鬼は人に恐怖を与えなきゃならない。
 だけど……。」
萃香は子供たちの方を見る。
「あいつとの約束、破るわけにもいかない。
 鬼は嘘をつかないから。」
「そうだな。」
二人の下に子供たちが集まってくる。
「けーねせんせー! 一緒にあそぼーよ!」
二人は顔を見合わせた。
「あぁ、遊ぼうか。」
「わーい。けーねせんせーも鬼ね!」
「よーし、捕まえてやるぞ!」
「私も捕まえてやるからなー!」
子供たちはあっという間に散っていく。
萃香と慧音はすこし待ってから、子供たちを追いかけ始めた。


そんな夏の暑い日。
少し優しい鬼が体験した、ちょっと不思議でちょっと悲しい物語。
6度目になります、瞑夜です。

今回は萃香のお話です。

夏もそろそろ本番、最初は怪談調のものを書こうとしていましたが……。
いつの間にか路線がずれてこんなしんみりな感じに仕上がってしまいました。
でも一度は書いてみたかった萃香のお話。
萃香の少しだけ優しい心がうまく表現できていればいいのですが。

あえて子供には名前をつけませんでした。
そのほうが思い入れがしやすいかと思ったのですが……。
やはり難しいですね。

このようなところで失礼いたします。
また次の作品でお会いできれば幸いです。
瞑夜
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コメント



0.760簡易評価
4.60れふぃ軍曹削除
とても切ない、でも心が温かくなる良いお話でした。
構想はとても良いと思うので、後は地の文でキャラの行動を追うだけでなく、
情景描写や感情描写をもっと盛り込んだり、比喩表現などを用いて文体を装飾してやると、さらに深みがまして良くなると思います。
10.90通りすがりの創々話好き削除
やべ、ちょっとうるうるしてしまった。

自然に物語に入り込め、そのまま最後まで読むことができました。
あとがきを読んで「そういやあの子の名前の名前出てなかったな……」と気づいたくらいですがw
個人的には名前が無いほうが思い入れしやすいのかな?と思いますね。どうしてもこういう二次創作だと見たこと無い名前というのは違和感になりやすいですし。
19.100名前が無い程度の能力削除
なんで評価されなかったのか理解に苦しむな……
いや、いい作品です