気分はまるで晴れなかった。
それはまさしく今の幻想郷の天気と同じぐらい。
どんよりとした黒い雲が空を覆いつくし、雨がザーザーと降り注ぐ。
梅雨時、いつもこうだとはわかっていても気分は晴れない。
「おなかすいたわぁー」
ただ、言っておきたい。
別にこの少女は空が曇っていて雨が降っているから気分が晴れないわけではない。
極論すればそうなるのだが、今呟いたのが最大の本音である。
現在、博麗霊夢はお腹を空かせていた。
ついさっきまで、台所周りや茶の間を必死に漁っていたのだが、
本人も驚く事に、カビの生えたみかんの一つも出てこない。
いや、カビの生えたみかんを見つけてもどうしようもないのだが。
流石に霊夢もそこまで落ちぶれては居ない。
と、周りの人間は信じている。
「そうだよな、まさかそんな事しないよな?」と、とても心配そうに聞いてきた親友の魔法使いの姿が霊夢の脳裏に思い出されてきた。
人を何だと思ってるんだろう。
当然だが本人はそんな事しない。
「おなかすいたぁー」
にしても霊夢は、そんなことを口走りながら何もしようとしない。
もうこの雨を見て何をするのも怠惰になってきているのかもしれない。
本当は今日の霊夢はとても忙しかったのだ。
しかしこの雨によって、彼女の今日の仕事は殆ど無くなってしまった。
特にその中でも、食料を貰いにいける行動の二つが制限された。
一つは人間の里の子供たちと遊ぶ代わりに慧音から村で取れた野菜を貰うという行動。
そしてもう一つは魔理沙の仕事を手伝うことで森のキノコを貰うという行動である。
キノコも重要な食料であると霊夢は思っている。
だが、こんな天気では外に出ることもできない。
どうせ人間の里の子供たちも家の中にいるだろうし、魔理沙も研究で家に篭っているだろう。
そんな日に外に出て何のメリットがあるのだ。
服が濡れるだけじゃないか。
もはや溜息すら出ない。
溜息が面倒になっている。
仕方がないから茶の間で足をめいっぱい伸ばして座っていた。
「おなかすいたぁーわー」
だがその言葉だけは出るものだ。
よほどお腹が空いているのだろう。
もはや霊夢の視線は雨の降る世界のどこかよくわからないところに向けられていた。
焦点が合ってない、というのはこういうことを言うのだろう。
それほどまでに今の霊夢はやる気がなかった。
ばたん、と仰向けに倒れる。
天井が目に入った。
ずいぶん年期の入った天井だが、正直どうでも良いなって思った。
まぁ、霊夢にとっては今更気になるようなものでもない。
今まで十年以上も見てきている天井なのだ。
生まれたときから全く変わっていない天井。
変わってたら変わってたでどうしようとは思うのだけど。
雨は終わる事無く未だ降り続けている。
気分をより落とさせるかもしれないけれど、今の霊夢には関係なかった。
最低まで落ちた気分など、これ以上落ちようがない。
もはや外に出れない、雨が終わらない程度で今更動くような安い女じゃないのよ!
とか思ったかどうかは誰も知らない。
「おなかー」
もはや空いた、と言うのも億劫らしい。
お腹で何を表現したいのかまるでわからない。へそが出ていることでも自慢したいのだろうか。
巫女と言うのは言葉で物を表現する職業ではないようだ。
ここまで来ると既に女と言うものを捨てているような気がするが、そもそも女ではなく少女であった。
女と少女は別物である。
――雨は、一層強さを増していた。
意志がぶつかり合うような強い音が、神社の屋根から鳴り、社の中に響く。
梅雨とはいえ、ここまで強い雨は結構久しぶりかもしれない。
霊夢は、空腹しか考えてない脳みそで少しはそう思う。
でもまぁ。
「すいたー」
結局、ここに落ち着くらしい。
まぁもう最終的に主語まで抜かしているから訳が解らなくなっているが。
本人も実は何を言ってるのか解らないのかもしれない。
空腹の彼女に差し伸べられる手はない。
この雨の中にやってくるものは誰も居ない。
「ゆかりー」
一人、名前を呼んでみた。
普段からしょっちゅう隙間を通して社の中に来るんだから、呼べば来てくれるだろう。
という、正直当てにならない希望にも手を伸ばしてみた。
けれど、そんな希望にもとりあえずすがってから怠けたかった。
呼んでから数秒後、隙間が出現した。
あー、ようやく来たよ、とか思いながらも天井を見てだれる霊夢。
そして隙間が開いた。
が、隙間から出てきたのは一本の腕とその手に握られた一枚の紙。
霊夢にしっかりと見えるようにその紙を動かす。
『ごめん、久しぶりの家族サービス中だから呼ばないで』
「まじかよ」
家族サービスとか、普段の紫からは有り得ない言葉聞いたんですけど。
なんだ、今日は珍しく天狗の住む山かどっかにピクニックか、ちくしょう。
それとも幽々子とかも誘って豪華な食事食べに行ってるとか。
私も誘えよ。
「ちくしょー」
女を捨てた、と言うか今度はもはや少女であることも捨てた言葉を吐き出す。
ごろん、と今度は仰向け状態から横にローリングして顔を畳に埋めるように寝た。
少し楽しかったのか、そのまま左右にローリングを繰り返す。
ゴッ、とちゃぶ台に右足の脛をぶつけた。
「いてぇ」
口だけそう言うが、全くそういう素振りを見せない。
死んだ魚の目で、一部が破れた障子を見ていた。
少しばかりその目に涙は浮かんでいたが。
そういえば今年の正月にあの障子を直そうと思ってたんだっけかー、と思う。
そして、どうでも良いかな、とも思う。
だが、お腹も空いているので。
「すいかー、あやー、ありすー、えいきー」
神出鬼没そうな連中の名前をとりあえず呼んでみた。
しかしこの中でしょっちゅうやってくるのは萃香だけだし、こんな雨の時にやってきた記憶がない。
もしここで全裸になれば文が来るだろうか、というやましい事を考えてしまったが
そんなことをしたら空腹を捨てる代わりに何か大事なものを失ってしまいそうな気がするし、
何より面倒だったからやめた。
「あー、なんかもう」
結局こんなに空腹でだれきっているのに、差し伸べる手はなく。
いらない時にばかり来るうるさい連中達。一部除く。
自分本位かもしれないけど、正直そういうのってないんじゃないのかな、って思ってみたりする。
霊夢はそんな現状を、こんな風に憂いた。
「神も仏もないなぁ」
それはまさしく今の幻想郷の天気と同じぐらい。
どんよりとした黒い雲が空を覆いつくし、雨がザーザーと降り注ぐ。
梅雨時、いつもこうだとはわかっていても気分は晴れない。
「おなかすいたわぁー」
ただ、言っておきたい。
別にこの少女は空が曇っていて雨が降っているから気分が晴れないわけではない。
極論すればそうなるのだが、今呟いたのが最大の本音である。
現在、博麗霊夢はお腹を空かせていた。
ついさっきまで、台所周りや茶の間を必死に漁っていたのだが、
本人も驚く事に、カビの生えたみかんの一つも出てこない。
いや、カビの生えたみかんを見つけてもどうしようもないのだが。
流石に霊夢もそこまで落ちぶれては居ない。
と、周りの人間は信じている。
「そうだよな、まさかそんな事しないよな?」と、とても心配そうに聞いてきた親友の魔法使いの姿が霊夢の脳裏に思い出されてきた。
人を何だと思ってるんだろう。
当然だが本人はそんな事しない。
「おなかすいたぁー」
にしても霊夢は、そんなことを口走りながら何もしようとしない。
もうこの雨を見て何をするのも怠惰になってきているのかもしれない。
本当は今日の霊夢はとても忙しかったのだ。
しかしこの雨によって、彼女の今日の仕事は殆ど無くなってしまった。
特にその中でも、食料を貰いにいける行動の二つが制限された。
一つは人間の里の子供たちと遊ぶ代わりに慧音から村で取れた野菜を貰うという行動。
そしてもう一つは魔理沙の仕事を手伝うことで森のキノコを貰うという行動である。
キノコも重要な食料であると霊夢は思っている。
だが、こんな天気では外に出ることもできない。
どうせ人間の里の子供たちも家の中にいるだろうし、魔理沙も研究で家に篭っているだろう。
そんな日に外に出て何のメリットがあるのだ。
服が濡れるだけじゃないか。
もはや溜息すら出ない。
溜息が面倒になっている。
仕方がないから茶の間で足をめいっぱい伸ばして座っていた。
「おなかすいたぁーわー」
だがその言葉だけは出るものだ。
よほどお腹が空いているのだろう。
もはや霊夢の視線は雨の降る世界のどこかよくわからないところに向けられていた。
焦点が合ってない、というのはこういうことを言うのだろう。
それほどまでに今の霊夢はやる気がなかった。
ばたん、と仰向けに倒れる。
天井が目に入った。
ずいぶん年期の入った天井だが、正直どうでも良いなって思った。
まぁ、霊夢にとっては今更気になるようなものでもない。
今まで十年以上も見てきている天井なのだ。
生まれたときから全く変わっていない天井。
変わってたら変わってたでどうしようとは思うのだけど。
雨は終わる事無く未だ降り続けている。
気分をより落とさせるかもしれないけれど、今の霊夢には関係なかった。
最低まで落ちた気分など、これ以上落ちようがない。
もはや外に出れない、雨が終わらない程度で今更動くような安い女じゃないのよ!
とか思ったかどうかは誰も知らない。
「おなかー」
もはや空いた、と言うのも億劫らしい。
お腹で何を表現したいのかまるでわからない。へそが出ていることでも自慢したいのだろうか。
巫女と言うのは言葉で物を表現する職業ではないようだ。
ここまで来ると既に女と言うものを捨てているような気がするが、そもそも女ではなく少女であった。
女と少女は別物である。
――雨は、一層強さを増していた。
意志がぶつかり合うような強い音が、神社の屋根から鳴り、社の中に響く。
梅雨とはいえ、ここまで強い雨は結構久しぶりかもしれない。
霊夢は、空腹しか考えてない脳みそで少しはそう思う。
でもまぁ。
「すいたー」
結局、ここに落ち着くらしい。
まぁもう最終的に主語まで抜かしているから訳が解らなくなっているが。
本人も実は何を言ってるのか解らないのかもしれない。
空腹の彼女に差し伸べられる手はない。
この雨の中にやってくるものは誰も居ない。
「ゆかりー」
一人、名前を呼んでみた。
普段からしょっちゅう隙間を通して社の中に来るんだから、呼べば来てくれるだろう。
という、正直当てにならない希望にも手を伸ばしてみた。
けれど、そんな希望にもとりあえずすがってから怠けたかった。
呼んでから数秒後、隙間が出現した。
あー、ようやく来たよ、とか思いながらも天井を見てだれる霊夢。
そして隙間が開いた。
が、隙間から出てきたのは一本の腕とその手に握られた一枚の紙。
霊夢にしっかりと見えるようにその紙を動かす。
『ごめん、久しぶりの家族サービス中だから呼ばないで』
「まじかよ」
家族サービスとか、普段の紫からは有り得ない言葉聞いたんですけど。
なんだ、今日は珍しく天狗の住む山かどっかにピクニックか、ちくしょう。
それとも幽々子とかも誘って豪華な食事食べに行ってるとか。
私も誘えよ。
「ちくしょー」
女を捨てた、と言うか今度はもはや少女であることも捨てた言葉を吐き出す。
ごろん、と今度は仰向け状態から横にローリングして顔を畳に埋めるように寝た。
少し楽しかったのか、そのまま左右にローリングを繰り返す。
ゴッ、とちゃぶ台に右足の脛をぶつけた。
「いてぇ」
口だけそう言うが、全くそういう素振りを見せない。
死んだ魚の目で、一部が破れた障子を見ていた。
少しばかりその目に涙は浮かんでいたが。
そういえば今年の正月にあの障子を直そうと思ってたんだっけかー、と思う。
そして、どうでも良いかな、とも思う。
だが、お腹も空いているので。
「すいかー、あやー、ありすー、えいきー」
神出鬼没そうな連中の名前をとりあえず呼んでみた。
しかしこの中でしょっちゅうやってくるのは萃香だけだし、こんな雨の時にやってきた記憶がない。
もしここで全裸になれば文が来るだろうか、というやましい事を考えてしまったが
そんなことをしたら空腹を捨てる代わりに何か大事なものを失ってしまいそうな気がするし、
何より面倒だったからやめた。
「あー、なんかもう」
結局こんなに空腹でだれきっているのに、差し伸べる手はなく。
いらない時にばかり来るうるさい連中達。一部除く。
自分本位かもしれないけど、正直そういうのってないんじゃないのかな、って思ってみたりする。
霊夢はそんな現状を、こんな風に憂いた。
「神も仏もないなぁ」
しかしどこぞの赤貧魔導探偵を思い出すな・・・