この話は「慧音先生の出張教育」の後の話になります。
単純に設定を説明しますと、
慧音はフランの家庭教師で、共に仲が良い。
レミリアとフランもわだかまりが解け、仲が良い。
レミリアは姉馬鹿。
そんな所です。
では、以上を踏まえた上で、お読みください。
午後8時
「お嬢様、起床の時間です」
意識の外から声が聞こえてくる。
聞きなれた声。
「ん~……もうそんな時間?」
私は意識を呼び戻す。
「はい。起きてくださいませ」
私の寝床の横に居る従者、咲夜がそう促す。
「ふ…あぁぁぁぁ………」
まだ眠いわね……でも、咲夜の事だから、二度寝はさせてくれないでしょうね。
「おはようございます、お嬢様」
「ええ、おはよう、咲夜」
夜なのに「おはよう」なのか?と言う突っ込みは却下するわ。
「お着替えは既にそこに置いてあります。今、紅茶をお持ちいたしますわ」
そう言って咲夜は部屋から出て行った。
ん~……まぁ、起きた事だし、さっさと着替えましょうかね。
着替えを終えるとほぼ同時に部屋がノックされる。
「咲夜だったら入って良いわよ」
まぁ、私の部屋を訪れるなんて十中八九咲夜しか居ないのだけど。
あっと、今は偶にフランも来るわね。
パチェは自分で来ないで小悪魔に来させるのよね。
あれだけ出不精で良く太らないものだわ。
「失礼いたします」
入ってきたのは案の定、咲夜だった。
まぁ、さっき紅茶入れてくるって言ってたくらいだものね。
「お待たせいたしました」
「ん」
別に待っては居ないけど、これは一種のお決まりのようなものだ。
私が紅茶を味わっている間に咲夜は私の髪を梳かす。
「フランは起きているのかしら?」
ワーハクタクに教育を任せてから、フランは大分精神が安定し始めた。
その為、今は地下室から私たちと同じ館内に部屋を設けてある。
最も、まだ許可無く外出はさせないけど。
「いえ、まだお休み中でした。起こしてまいりましょうか?」
「そうね…今日はワーハクタクが来る日でしょう?そろそろ起こしておいて」
「かしこまりました」
「ああ、それから私はパチェの所に行ってるから、探さなくて良いわよ」
「はい」
そう返事をすると、咲夜は恭しく礼をして部屋を出て行った。
さて、紅茶も飲んで目も覚めて来たことだし、親友の所に顔でも出しましょうかね。
午後8時30分 紅魔館・大図書館
「入るわよ、パチェ」
ドアをノックするという事はしない。
ノックしてまともな返事が返って来た事は無いわ。
小悪魔は大抵書庫の整理で駆け回ってて、パチェは気付いても無視する。
まったく、我が親友ながら、流石にどうかと思うわ。
「あら?いらっしゃい、レミィ」
パチェは読んでいる本から視線を上げて、私を見て言う。
これが他の者なら視線も上げずに返答する。
この辺りが凡百の者と親友たる私との差かしらね。
「退屈だから来たわ。何か面白い本でも……」
私はパチェに近づきながら話しかけた。
「レミィ、止まって」
すると、パチェがそんな事を言う。
パチェに言われて私は止まる。
普段と口調が違ったから止まった。
まぁ、殆ど聞き分けつかないだろうけど、その辺りは親友だから解るのよ。
「パチェ、まさかまた新しい罠作ったの?」
パチェは最近、対霧雨魔理沙用に大図書館に罠を設けている。
中には「殺す気か?」と言うような罠も含まれていて、お陰で私も悠々と歩けない。
「ええ、毎回同じ罠、同じ配置じゃ芸が無いでしょ?」
確かに芸は無いけど、それじゃ通常来客者の安全性も無いわよ。
「今度は何しかけたのよ?」
「前にレミィに言われた事を厳守する物よ」
私が前に言った事とは、「館内に傷をつけるな」と言う事。
矢や槍が飛んでくるトラップを作られた時は、館内に無数の穴が開いたものね。
ついでに、咲夜の胃にも穴が開いたらしいわ。
妖精メイドは役に立たないから、補修、修繕系は大抵咲夜なのよね。
暇な時は中国にもやらせてるみたいだけど。
「それで、どんなの?一応、主として見ておきたいわ」
場合によっては、一応、咲夜に報告したほうが良いわね。
何故かパチェが起こした事なのに、主と言う事で私まで咲夜に怒られるのよ。
「丁度、レミィは罠の目の前に居るから、手を前に出してみれば解るわ」
「手を?」
私は言われたとおり、右手を前に出してみた。
すると
ボゴゥ!!!
「うわっちゃぁぁぁ!!!!」
ゆ、床から炎が吹き上げたわ!!
って言うか、熱い!右手が焼けたわよ!!
「ちょっ!パチェ!!紅魔館を丸焼けにするつもり!?」
こんな火炎が床から吹き上げたら、あっという間に火が回るわよ。
ここって本も多いから、尚更。
「落ち着きなさい、レミィ。どこか焼けてる部分ある?」
「私の腕」
焼けた私の腕をパチェに見せる。
まぁ、既に再生を開始してるから、もう完治する所だけど。
「レミィの腕以外よ」
「私の腕以外?」
言われて辺りを見回す。
そう言えば……あれだけの火炎なのに、何処も焼けてないわ。
と言うか、吹き上げてきた床すら焦げてないわ。
「それは幻術よ」
「幻術って……現に、私の腕は焼けたわよ?」
幻術なら焼ける訳は無いわ。
「そりゃそうよ。そう言う幻術だもの」
「説明、良いかしら?」
パチェは自分で解ってる事には必要以上に説明しようとしない。
解らない人にはちゃんと解説してほしいわね。
「レミィは知ってるかしら?強烈に思い描く事は実現すると言う事を」
「聞いた事はあるわね」
何でも、自分が体験した事のある事に限り、その感覚を強烈に思い描くと、実際は何も起きてないのに体に変化が起きるとか。
「その罠はそれを強制的に促す奴なの。大抵の者は「火は熱い」と言う事は知ってるでしょ?」
「まぁ、生きてれば、大抵経験するわね」
「そう、だからあれだけ強烈な炎と「熱い」と言う感覚の二つの幻を同時に見せる」
「なるほどね、それで私は「火傷した」と思い込んで、本当に火傷したわけね」
「そう言うことよ。これなら館に被害は無いでしょ?物体は感覚を認識しないから燃えたりする事は無いもの」
「でも、私に被害はあったわよ?」
別段気にしては居ないけど、一応意地悪く言ってみる。
「それは失礼したわ。小悪魔」
パチェは指をパチンッと鳴らす。
何でそう言う事だけは出来るのかしら?
「はいはい~、何ですかパチュリー様」
奥の闇から小悪魔が現れたわ。
音が聞ける距離に居たのかしらね?
「お茶とお菓子を用意して頂戴」
「かしこまりました~」
そう言って、再び小悪魔は闇の中に戻っていった。
「じゃあ、レミィ、私の言うとおりに動いてね」
「ええ、罠には掛かりたくないもの」
私はパチェの言うとおりに動き、罠を避けて歩く。
カチッ
カチッ?
何かしら?今の音は。
まるで、何かのスイッチを押したような……
「あ…」
パチェが何か思い出したように呟く。
なるほど、そう言う事ね。
つまり、パチェはここにトラップがあった事を忘れて、私はそれを踏んだと?
至極簡単な答えだわ。
と言う事は、次の瞬間、罠が飛んでくるわね?
いいわ、華麗に避けてあげるわよ(ここまでの思考、0.5秒)
ガチャンッ!!
ガチャン?
何かしら今の音?
何か足に当たったような………?
あら?足に何かはまってるわ。
これは鉄の足枷ね。
鎖もついてるわ。
どんなトラップかと思えば、これで動きを封じたつもりかしらね?
甘いわ、パチェ。
こんなの吸血鬼の私に掛かれば紙の枷同然よ?(ここまで更に0.5秒)
あ、あらら……
な、なんか、足が凄い勢いで引っ張られ……
「わきゃああぁぁぁぁ!!!」
突然、周りの景色が流れ始めたわ。
え?何?何時からこの図書館、動くようになったの?
え?違う?動いてるのは私?
あ、あら?目の前に壁が………
ドガッ!!!
「へぷちっ!!」
…………………
い……いったぁぁぁぁぁ…………!!!
が、顔面からモロに壁に叩きつけられたわよ!!
痛いわ!!涙も出てきたわよ!!!
「大丈夫?レミィ」
あまり心配してないような声でパチェが聞いてくる。
「い、いだい………」
うぅ…痛みで上手く発音できないわ。
「注意力散漫ね」
ちょっと!言う事それだけ!?
「パ、パチェ…貴女ねぇ………」
涙目でパチェを睨む。
「レミィならあの程度、罠に掛かってからでも余裕で避けられると思ったのよ」
「安全な道歩かされてると思ってるんだから、反応遅れるに決まってるじゃないの」
「甘いわ、レミィ。生きて行く上では様々な罠が潜んでるわ。安全な道など無いのよ」
「いや、ここは昔は安全だった図書館じゃないの」
「昔は昔、今は今よ。文句なら勝手に本を取っていく黒い悪魔と、簡単に通す門番に言って欲しいわね」
パチェお得意の責任転嫁が出たわね。
パチェと論争して勝てる訳もないし、大人しく引き下がっておくしかないわね。
うぅ、まだ鼻が痛いわ。
気付けば、足枷は投げられる瞬間に綺麗に外されてたようね。
本当、こういう計算は凄いのよね、パチェは。
「まぁ、お陰でここまで最短距離でこれたから良いじゃない」
「出来れば、痛みを感じる事無く来たかったわね」
「レミィったら、我侭ね」
「その言葉、そっくり返すわよ」
罠の設置費に本館の費用を持って行ってるんだから。
「そんな事より、お茶が来たわよ」
パチェの言うとおり、小悪魔がお茶とお菓子を持って戻ってきたわ。
「お待たせいたしました~」
あら?そのお菓子……私の大好物じゃない。
「これで機嫌直してもらえるかしら?」
パチェは私にそんな事を言う。
「しょうがないわね……でも、今度からは気をつけてよ」
「ええ、気をつけるわ」
本当かしらね?
暫くの間、お茶と本を楽しんでいた。
でも、そろそろお暇しましょうかしらね。
「さて、そろそろ戻るわね」
「そう?それじゃあトラップを解除するわね」
「は?」
パチェはそう言うと、何やら呪文を唱えた。
「後ろのさっきの幻術の罠は解除したわ。これで扉まで最短距離を行けるわよ」
「ちょっと」
「どうしたの?」
「なんで、さっきはそうしなかったの?」
「ついさっき、解除と再設置の効率の良い方法を思いついたのよ」
「別に、今は夜だから普通に解除しても、あいつは来ないでしょ?」
「今までのやり方での再設置の際の、面倒な手順と道具の費用をそちらで負担してくれるなら構わなかったけど?」
「う………」
パチェの魔法トラップの材料費は半端じゃないのよねぇ………
そんなの再請求されたくないわ。
「しょ、しょうがないわね………でも、今度来た時は、ちゃんと安全な道教えてよ?」
「ええ、気をつけるわ」
「お願いね」
パチェにそう告げて、私は大図書館を出た。
午前0時 テラス
さて、次は何をしましょうかね?
あら、庭に居るあの二人は……
ワーハクタクとフランね。
あの子はずっと閉じ込めてた所為か、外での授業の方がお気に入りみたいね。
この時間だと、青空教室と言うより夜空教室かしら?
あのワーハクタク、今日は何を教えてるのかしらね?
暫くこのテラスから二人を観察していましょうか。
そう思い立った私は、パチンッと指を鳴らした。
「お待たせいたしました、お嬢様」
その音に反応して、咲夜が紅茶を持ってきた。
当然淹れたての。
相変わらず、私の行動を呼んでいるかのごとき動きね。
まぁ、実際は時間を止めて持ってきてるんでしょうけど。
「ありがとう。ついでに何か摘める物お願いね」
「かしこまりました」
そう言うと、やはり恭しく礼をして下がる。
紅茶を楽しみながら二人を見る。
フランが何かを見つけてはワーハクタクに尋ねている。
本当、微笑ましいわ。
褒められて頭をなでられている時のフランといったら、もう………
ああ、いけないわ。
鼻から何か出そうになってるわ。
少し頭を上に上げて後頭部をトントンと叩く。
ふぅ……我が妹ながら、恐ろしい破壊力の笑顔だこと。
あらあら…うふふ……フランったら本当にはしゃいじゃって。
はしゃぐ余りあのワーハクタクに抱きついたりしてるわ。
あらあら…うふふ……!!
そこは引き剥がす所じゃないかしら?ワーハクタク。
何を微笑みながら頭をなでてるのかしら?
ああ、なるほど。
私に引き剥がせと言ってるのね?
そうね?
ええ、そうに決まってるわ。
任せなさい。
それなら全力で引き剥がしてあげる。
具体的に言うと、この世とあの世とで引き剥がしてあげるわ。
貴女の運命ごと貫かれなさい!ワーハクタク!!グング……
ズドドドンッ!!!
「ふぐぅ!?」
が…はぁ………!!
な、何!?
突然、腹部に鈍痛が………!!
し、しかも一撃じゃないわ!!
さ、三連撃!?
「お菓子をお持ちいたしました、お嬢様」
さ、咲夜……!
また貴女なの!?
痛いのよ!?これ!!
しかも、時間停止している間に三連撃って……!!
時が動き出したら三倍の衝撃来るのよ!?
ちょっ……シャレにならなく痛いわ!!
痛いと言うより、むしろ苦しいわ!!
「どうかなさいましたか?お嬢様」
こ、この従者……!!
自分でやっておいてどうも何もないでしょ!!
「ざ…ざぐやぁぁぁ……」
うぅ…上手く発音できないわ。
「お言葉ですが、お嬢様。あのまま攻撃されていたら、間違いなく妹様に嫌われてましたよ?」
「ぐ…うぅぅ………」
「妹様は彼女を大層気に入っておりますから、攻撃などしようものなら、間違いなく嫌われます」
く…悔しいけど、反論できないわ。
と言うかね、咲夜。
「あんた……平気で主に手を上げるわよね?」
「お嬢様の為を思えばこそ、私の拳もまた、お嬢様以上に痛いのですよ」
いや、絶対私の方が痛いわ。
だってまだ苦しいもの。
まぁ、でも、確かに咲夜の行動に間違いはないのだから咎めはしないのだけど。
もうちょっと別の方法で止めなさいよね………
と言うか、私に手を貸す様子もなく佇んでるし。
本当、この娘はその辺りの分別がはっきりしてるわね………
ああ、苦しい。
幾分楽にはなったけど。
「あら?今日はもう終わりのようですね」
咲夜がそう言うので、私も庭を見てみる。
すると、確かに片づけを始めているワーハクタクが居た。
フランも手伝ってるわ。
癪ではあるけど、あのワーハクタクのお陰でフランは安定してきた。
お陰でこうして普通に外に出したりしてあげられる。
本当はもっと早くに外に出してあげるつもりだった。
でも、私にそれは出来なかった。
「ねぇ、咲夜」
「何でしょうか?」
「495年……フランを閉じ込めていたのは間違っていたのかしら?」
こういう事は自分で決める事だと解っていても
あんな姿を見ては、誰かに聞きたくなってしまう。
「いいえ、私はそうは思いませんわ」
「どうして?」
「残念ですが、以前の妹様では、お嬢様の言う事は「命令」としか受け取ってなかったと思います」
命令……か、確かにそうね。
「ですから、彼女のような者が現れるまで「保護」しておいたお嬢様の判断は正しいと思われます」
「そう………」
保護……か。
咲夜なりに気を使った言い回しだろう。
実際は、どんな理由をつけようが、フランにとってはただの「監禁」だったのだから。
「ですが、今更ではないですか?もう妹様はお嬢様を嫌ってはおりません。きっとお嬢様の意を理解してくださったのだと思います。」
「恐らく、あのワーハクタクが説明したんでしょうけどね」
そうじゃなきゃあの子が簡単にその答えに辿り着く筈はない。
本当、お節介な人獣だこと。
「今、お嬢様に出来る事は、妹様と姉として接してあげる事かと存じます」
「言われなくても解ってるわよ」
午前1時
「お姉様!」
授業が終わったフランが駆け寄ってくるわ。
そしてそのまま抱きついてくる。
もう、そんなに嬉しそうな顔で抱きついてきたら、鼻から紅茶が出ちゃうじゃないの。
「お勉強は終わったみたいね、フラン」
「うん!だから、遊ぼう!お姉さま!!」
フランは勉強が終わると遊ぶと言うサイクルになっている。
「良いわよ、今日は何をしたいのかしら?」
あれからフランには色々と遊びを教えたわ。
トランプなどの簡単なものから、隠れん坊、鬼ごっこなどなど。
「ん~っとね、え~っとね………」
フランは何して遊ぼうかと必死に思考を巡らせている。
本当に子供っぽくて可愛いわ。
「じゃあ、隠れん坊!」
「解ったわ。でも、それだと人数は多いほうが楽しそうね」
「じゃあ、皆集めよう!」
「ダメよ。仕事してるのも居るんだから。でも、可能な限り集めて見ましょうか」
まぁ、あの妖精メイドたちがちゃんと仕事してるかは疑わしいのだけれど。
「うん!」
私は早く遊びたくて仕方がないといったフランを連れて、手の空いてる者を探した。
無論、咲夜はほぼ強制的に参加だけど。
因みに、この隠れん坊だが、館内を場にすると果てしなく難しくなるので、庭限定となっている。
とは言え、ウチの庭は広い。
その上、参加者全員が空を飛べるので、木の上とかも普通に隠れ場所になる。
前は竹筒を使って水中に隠れている強者妖精も居たわね。
更にその前は、どうやって作ったのか、岩の張りぼてを作って、その中に隠れる妖精とか。
お前たちは忍者か!と突っ込みたくなったわね、あれは。
因みに、大抵大人数でやるので、見つかったものは鬼と協力して隠れている者を探すのだ。
最後まで見つからなかったものは、ご褒美にお菓子をもらえる事になっている。
無論、フランには障害物の破壊は禁止させてるし、咲夜の時間停止も禁止している。
それを禁止しないと流石にシャレにならない。
午前4時
50人近くでやった隠れん坊は時間は掛かったが、中々楽しかった。
今回の鬼は妖精の一人だった。
一人、二人と見つかるに連れて、段々人手が増えるので見つかりやすくなっていく。
結局最後まで残ったのは咲夜だった。
時間を止めてるんじゃないか?と言うほど見つからなかったが、答えは結構単純だった。
妖精は頭が悪いので、一度探したら、もうここには居ない、と決め付けてしまう。
だから、妖精たちが一度探した場所に身を潜めていたのだ。
お陰で私が探すまで随分手間取ったものだ。
そろそろ陽も昇り始めるので、館内に戻ることにした。
「あ~面白かった!」
そう言うフランは本当に満足そうだ。
「良かったわね、フラン」
「うん!」
満面の笑みで返すフラン。
ああ、本当に可愛いわ。
私の部屋にお持ち帰りしたいくらい。
「お嬢様」
そんな私に咲夜が声を掛ける。
「何かしら?」
「お腹は空いてませんでしょうか?」
「そういえば、お腹が減ったわね……用意をお願いね」
「かしこまりました」
相変わらず良く気の利くこと。
「ねぇねぇ、お姉様?」
「何かしら?フラン」
フランは上目遣いで見上げてくる。
フランったら……どこでそんなテクニック覚えたのかしら?
「今度、お姉様と一緒にお出掛けしたいんだけど………ダメ?」
そんな顔で言われたらダメって言えないじゃないの。
言う気もないけど。
「ええ、良いわよ。何処に行きたいのかしら?」
「えっとね!慧音先生の所に行ってみたいの!」
ピキッ!
あんのワーハクタクめ………
私の可愛いフランに何か余計な事でも言ってないでしょうね?
もし、誘ってたのだとしたら、タダじゃ置かないわよ。
「って、もしかして、昼の内に行きたいの?」
夜は流石にあいつも用がなければ寝てるだろうし。
「うん」
「ん~……」
昼間か……
私は咲夜に日傘を差させれば問題ないんだけど………
フランのその役目の奴が居ないわね。
中国…?
ダメね。
フランの奔放さに振り回されて、追いつけないわ。
となると……
「解ったわ、何か手を考えておくわね」
「本当!?」
「ええ」
「やったー!お姉様大好き!!」
そう言ってフランは胸に飛び込んできたわ。
ああ、いけないわ、フラン。
このまま愛で回したいわ。
「お嬢様」
ま、また貴女なの?咲夜。
「何かしら?」
「お食事の用意が整いました」
「は、早くない?」
あれから何分だと思ってるの?
「こんな事もあろうかと、既に準備の方はさせておきましたので」
く、流石は完全で瀟洒な従者。
抜かりは無いわね。
「わ~い!ごっはん!ごっはん!」
あ!
フランが私からご飯へと興味の対象を変えてしまった………
もうちょっと遅く来なさい、咲夜。
「それじゃ、私も頂こうかしらね」
まぁ、お腹空いたし、今はご飯を食べましょうかね。
しかし、日中にフランと行く方法ねぇ………
まぁ、あの薬師に頼んで見ましょうかね。
何か手土産でも持って。
んん……それにしても、ちょっと眠くもなってきたわね………
ご飯食べたら寝ましょうかしら?
まぁ、偶には早く寝るのも悪くないわね。
さて、折角だから、早寝早起きして今夜は竹林に向かうとしましょうかしらね。
それじゃあ、睡眠前にお腹膨らまして起きましょう。
今朝のご飯は何かしらね~っと。
午前5時
ん~…良い感じに眠くなってきたわ。
しかし、まぁ
こんな風に日常が変わったのも、あのワーハクタクのお陰、か。
フランと一緒に行く時に何か持ってこうかしら。
次起きるのが楽しみになるなんて、何時以来かしら?
まぁ、良いわ。
今宵もまた、私とあの子にとって良い一日でありますように、と。
おしまい
単純に設定を説明しますと、
慧音はフランの家庭教師で、共に仲が良い。
レミリアとフランもわだかまりが解け、仲が良い。
レミリアは姉馬鹿。
そんな所です。
では、以上を踏まえた上で、お読みください。
午後8時
「お嬢様、起床の時間です」
意識の外から声が聞こえてくる。
聞きなれた声。
「ん~……もうそんな時間?」
私は意識を呼び戻す。
「はい。起きてくださいませ」
私の寝床の横に居る従者、咲夜がそう促す。
「ふ…あぁぁぁぁ………」
まだ眠いわね……でも、咲夜の事だから、二度寝はさせてくれないでしょうね。
「おはようございます、お嬢様」
「ええ、おはよう、咲夜」
夜なのに「おはよう」なのか?と言う突っ込みは却下するわ。
「お着替えは既にそこに置いてあります。今、紅茶をお持ちいたしますわ」
そう言って咲夜は部屋から出て行った。
ん~……まぁ、起きた事だし、さっさと着替えましょうかね。
着替えを終えるとほぼ同時に部屋がノックされる。
「咲夜だったら入って良いわよ」
まぁ、私の部屋を訪れるなんて十中八九咲夜しか居ないのだけど。
あっと、今は偶にフランも来るわね。
パチェは自分で来ないで小悪魔に来させるのよね。
あれだけ出不精で良く太らないものだわ。
「失礼いたします」
入ってきたのは案の定、咲夜だった。
まぁ、さっき紅茶入れてくるって言ってたくらいだものね。
「お待たせいたしました」
「ん」
別に待っては居ないけど、これは一種のお決まりのようなものだ。
私が紅茶を味わっている間に咲夜は私の髪を梳かす。
「フランは起きているのかしら?」
ワーハクタクに教育を任せてから、フランは大分精神が安定し始めた。
その為、今は地下室から私たちと同じ館内に部屋を設けてある。
最も、まだ許可無く外出はさせないけど。
「いえ、まだお休み中でした。起こしてまいりましょうか?」
「そうね…今日はワーハクタクが来る日でしょう?そろそろ起こしておいて」
「かしこまりました」
「ああ、それから私はパチェの所に行ってるから、探さなくて良いわよ」
「はい」
そう返事をすると、咲夜は恭しく礼をして部屋を出て行った。
さて、紅茶も飲んで目も覚めて来たことだし、親友の所に顔でも出しましょうかね。
午後8時30分 紅魔館・大図書館
「入るわよ、パチェ」
ドアをノックするという事はしない。
ノックしてまともな返事が返って来た事は無いわ。
小悪魔は大抵書庫の整理で駆け回ってて、パチェは気付いても無視する。
まったく、我が親友ながら、流石にどうかと思うわ。
「あら?いらっしゃい、レミィ」
パチェは読んでいる本から視線を上げて、私を見て言う。
これが他の者なら視線も上げずに返答する。
この辺りが凡百の者と親友たる私との差かしらね。
「退屈だから来たわ。何か面白い本でも……」
私はパチェに近づきながら話しかけた。
「レミィ、止まって」
すると、パチェがそんな事を言う。
パチェに言われて私は止まる。
普段と口調が違ったから止まった。
まぁ、殆ど聞き分けつかないだろうけど、その辺りは親友だから解るのよ。
「パチェ、まさかまた新しい罠作ったの?」
パチェは最近、対霧雨魔理沙用に大図書館に罠を設けている。
中には「殺す気か?」と言うような罠も含まれていて、お陰で私も悠々と歩けない。
「ええ、毎回同じ罠、同じ配置じゃ芸が無いでしょ?」
確かに芸は無いけど、それじゃ通常来客者の安全性も無いわよ。
「今度は何しかけたのよ?」
「前にレミィに言われた事を厳守する物よ」
私が前に言った事とは、「館内に傷をつけるな」と言う事。
矢や槍が飛んでくるトラップを作られた時は、館内に無数の穴が開いたものね。
ついでに、咲夜の胃にも穴が開いたらしいわ。
妖精メイドは役に立たないから、補修、修繕系は大抵咲夜なのよね。
暇な時は中国にもやらせてるみたいだけど。
「それで、どんなの?一応、主として見ておきたいわ」
場合によっては、一応、咲夜に報告したほうが良いわね。
何故かパチェが起こした事なのに、主と言う事で私まで咲夜に怒られるのよ。
「丁度、レミィは罠の目の前に居るから、手を前に出してみれば解るわ」
「手を?」
私は言われたとおり、右手を前に出してみた。
すると
ボゴゥ!!!
「うわっちゃぁぁぁ!!!!」
ゆ、床から炎が吹き上げたわ!!
って言うか、熱い!右手が焼けたわよ!!
「ちょっ!パチェ!!紅魔館を丸焼けにするつもり!?」
こんな火炎が床から吹き上げたら、あっという間に火が回るわよ。
ここって本も多いから、尚更。
「落ち着きなさい、レミィ。どこか焼けてる部分ある?」
「私の腕」
焼けた私の腕をパチェに見せる。
まぁ、既に再生を開始してるから、もう完治する所だけど。
「レミィの腕以外よ」
「私の腕以外?」
言われて辺りを見回す。
そう言えば……あれだけの火炎なのに、何処も焼けてないわ。
と言うか、吹き上げてきた床すら焦げてないわ。
「それは幻術よ」
「幻術って……現に、私の腕は焼けたわよ?」
幻術なら焼ける訳は無いわ。
「そりゃそうよ。そう言う幻術だもの」
「説明、良いかしら?」
パチェは自分で解ってる事には必要以上に説明しようとしない。
解らない人にはちゃんと解説してほしいわね。
「レミィは知ってるかしら?強烈に思い描く事は実現すると言う事を」
「聞いた事はあるわね」
何でも、自分が体験した事のある事に限り、その感覚を強烈に思い描くと、実際は何も起きてないのに体に変化が起きるとか。
「その罠はそれを強制的に促す奴なの。大抵の者は「火は熱い」と言う事は知ってるでしょ?」
「まぁ、生きてれば、大抵経験するわね」
「そう、だからあれだけ強烈な炎と「熱い」と言う感覚の二つの幻を同時に見せる」
「なるほどね、それで私は「火傷した」と思い込んで、本当に火傷したわけね」
「そう言うことよ。これなら館に被害は無いでしょ?物体は感覚を認識しないから燃えたりする事は無いもの」
「でも、私に被害はあったわよ?」
別段気にしては居ないけど、一応意地悪く言ってみる。
「それは失礼したわ。小悪魔」
パチェは指をパチンッと鳴らす。
何でそう言う事だけは出来るのかしら?
「はいはい~、何ですかパチュリー様」
奥の闇から小悪魔が現れたわ。
音が聞ける距離に居たのかしらね?
「お茶とお菓子を用意して頂戴」
「かしこまりました~」
そう言って、再び小悪魔は闇の中に戻っていった。
「じゃあ、レミィ、私の言うとおりに動いてね」
「ええ、罠には掛かりたくないもの」
私はパチェの言うとおりに動き、罠を避けて歩く。
カチッ
カチッ?
何かしら?今の音は。
まるで、何かのスイッチを押したような……
「あ…」
パチェが何か思い出したように呟く。
なるほど、そう言う事ね。
つまり、パチェはここにトラップがあった事を忘れて、私はそれを踏んだと?
至極簡単な答えだわ。
と言う事は、次の瞬間、罠が飛んでくるわね?
いいわ、華麗に避けてあげるわよ(ここまでの思考、0.5秒)
ガチャンッ!!
ガチャン?
何かしら今の音?
何か足に当たったような………?
あら?足に何かはまってるわ。
これは鉄の足枷ね。
鎖もついてるわ。
どんなトラップかと思えば、これで動きを封じたつもりかしらね?
甘いわ、パチェ。
こんなの吸血鬼の私に掛かれば紙の枷同然よ?(ここまで更に0.5秒)
あ、あらら……
な、なんか、足が凄い勢いで引っ張られ……
「わきゃああぁぁぁぁ!!!」
突然、周りの景色が流れ始めたわ。
え?何?何時からこの図書館、動くようになったの?
え?違う?動いてるのは私?
あ、あら?目の前に壁が………
ドガッ!!!
「へぷちっ!!」
…………………
い……いったぁぁぁぁぁ…………!!!
が、顔面からモロに壁に叩きつけられたわよ!!
痛いわ!!涙も出てきたわよ!!!
「大丈夫?レミィ」
あまり心配してないような声でパチェが聞いてくる。
「い、いだい………」
うぅ…痛みで上手く発音できないわ。
「注意力散漫ね」
ちょっと!言う事それだけ!?
「パ、パチェ…貴女ねぇ………」
涙目でパチェを睨む。
「レミィならあの程度、罠に掛かってからでも余裕で避けられると思ったのよ」
「安全な道歩かされてると思ってるんだから、反応遅れるに決まってるじゃないの」
「甘いわ、レミィ。生きて行く上では様々な罠が潜んでるわ。安全な道など無いのよ」
「いや、ここは昔は安全だった図書館じゃないの」
「昔は昔、今は今よ。文句なら勝手に本を取っていく黒い悪魔と、簡単に通す門番に言って欲しいわね」
パチェお得意の責任転嫁が出たわね。
パチェと論争して勝てる訳もないし、大人しく引き下がっておくしかないわね。
うぅ、まだ鼻が痛いわ。
気付けば、足枷は投げられる瞬間に綺麗に外されてたようね。
本当、こういう計算は凄いのよね、パチェは。
「まぁ、お陰でここまで最短距離でこれたから良いじゃない」
「出来れば、痛みを感じる事無く来たかったわね」
「レミィったら、我侭ね」
「その言葉、そっくり返すわよ」
罠の設置費に本館の費用を持って行ってるんだから。
「そんな事より、お茶が来たわよ」
パチェの言うとおり、小悪魔がお茶とお菓子を持って戻ってきたわ。
「お待たせいたしました~」
あら?そのお菓子……私の大好物じゃない。
「これで機嫌直してもらえるかしら?」
パチェは私にそんな事を言う。
「しょうがないわね……でも、今度からは気をつけてよ」
「ええ、気をつけるわ」
本当かしらね?
暫くの間、お茶と本を楽しんでいた。
でも、そろそろお暇しましょうかしらね。
「さて、そろそろ戻るわね」
「そう?それじゃあトラップを解除するわね」
「は?」
パチェはそう言うと、何やら呪文を唱えた。
「後ろのさっきの幻術の罠は解除したわ。これで扉まで最短距離を行けるわよ」
「ちょっと」
「どうしたの?」
「なんで、さっきはそうしなかったの?」
「ついさっき、解除と再設置の効率の良い方法を思いついたのよ」
「別に、今は夜だから普通に解除しても、あいつは来ないでしょ?」
「今までのやり方での再設置の際の、面倒な手順と道具の費用をそちらで負担してくれるなら構わなかったけど?」
「う………」
パチェの魔法トラップの材料費は半端じゃないのよねぇ………
そんなの再請求されたくないわ。
「しょ、しょうがないわね………でも、今度来た時は、ちゃんと安全な道教えてよ?」
「ええ、気をつけるわ」
「お願いね」
パチェにそう告げて、私は大図書館を出た。
午前0時 テラス
さて、次は何をしましょうかね?
あら、庭に居るあの二人は……
ワーハクタクとフランね。
あの子はずっと閉じ込めてた所為か、外での授業の方がお気に入りみたいね。
この時間だと、青空教室と言うより夜空教室かしら?
あのワーハクタク、今日は何を教えてるのかしらね?
暫くこのテラスから二人を観察していましょうか。
そう思い立った私は、パチンッと指を鳴らした。
「お待たせいたしました、お嬢様」
その音に反応して、咲夜が紅茶を持ってきた。
当然淹れたての。
相変わらず、私の行動を呼んでいるかのごとき動きね。
まぁ、実際は時間を止めて持ってきてるんでしょうけど。
「ありがとう。ついでに何か摘める物お願いね」
「かしこまりました」
そう言うと、やはり恭しく礼をして下がる。
紅茶を楽しみながら二人を見る。
フランが何かを見つけてはワーハクタクに尋ねている。
本当、微笑ましいわ。
褒められて頭をなでられている時のフランといったら、もう………
ああ、いけないわ。
鼻から何か出そうになってるわ。
少し頭を上に上げて後頭部をトントンと叩く。
ふぅ……我が妹ながら、恐ろしい破壊力の笑顔だこと。
あらあら…うふふ……フランったら本当にはしゃいじゃって。
はしゃぐ余りあのワーハクタクに抱きついたりしてるわ。
あらあら…うふふ……!!
そこは引き剥がす所じゃないかしら?ワーハクタク。
何を微笑みながら頭をなでてるのかしら?
ああ、なるほど。
私に引き剥がせと言ってるのね?
そうね?
ええ、そうに決まってるわ。
任せなさい。
それなら全力で引き剥がしてあげる。
具体的に言うと、この世とあの世とで引き剥がしてあげるわ。
貴女の運命ごと貫かれなさい!ワーハクタク!!グング……
ズドドドンッ!!!
「ふぐぅ!?」
が…はぁ………!!
な、何!?
突然、腹部に鈍痛が………!!
し、しかも一撃じゃないわ!!
さ、三連撃!?
「お菓子をお持ちいたしました、お嬢様」
さ、咲夜……!
また貴女なの!?
痛いのよ!?これ!!
しかも、時間停止している間に三連撃って……!!
時が動き出したら三倍の衝撃来るのよ!?
ちょっ……シャレにならなく痛いわ!!
痛いと言うより、むしろ苦しいわ!!
「どうかなさいましたか?お嬢様」
こ、この従者……!!
自分でやっておいてどうも何もないでしょ!!
「ざ…ざぐやぁぁぁ……」
うぅ…上手く発音できないわ。
「お言葉ですが、お嬢様。あのまま攻撃されていたら、間違いなく妹様に嫌われてましたよ?」
「ぐ…うぅぅ………」
「妹様は彼女を大層気に入っておりますから、攻撃などしようものなら、間違いなく嫌われます」
く…悔しいけど、反論できないわ。
と言うかね、咲夜。
「あんた……平気で主に手を上げるわよね?」
「お嬢様の為を思えばこそ、私の拳もまた、お嬢様以上に痛いのですよ」
いや、絶対私の方が痛いわ。
だってまだ苦しいもの。
まぁ、でも、確かに咲夜の行動に間違いはないのだから咎めはしないのだけど。
もうちょっと別の方法で止めなさいよね………
と言うか、私に手を貸す様子もなく佇んでるし。
本当、この娘はその辺りの分別がはっきりしてるわね………
ああ、苦しい。
幾分楽にはなったけど。
「あら?今日はもう終わりのようですね」
咲夜がそう言うので、私も庭を見てみる。
すると、確かに片づけを始めているワーハクタクが居た。
フランも手伝ってるわ。
癪ではあるけど、あのワーハクタクのお陰でフランは安定してきた。
お陰でこうして普通に外に出したりしてあげられる。
本当はもっと早くに外に出してあげるつもりだった。
でも、私にそれは出来なかった。
「ねぇ、咲夜」
「何でしょうか?」
「495年……フランを閉じ込めていたのは間違っていたのかしら?」
こういう事は自分で決める事だと解っていても
あんな姿を見ては、誰かに聞きたくなってしまう。
「いいえ、私はそうは思いませんわ」
「どうして?」
「残念ですが、以前の妹様では、お嬢様の言う事は「命令」としか受け取ってなかったと思います」
命令……か、確かにそうね。
「ですから、彼女のような者が現れるまで「保護」しておいたお嬢様の判断は正しいと思われます」
「そう………」
保護……か。
咲夜なりに気を使った言い回しだろう。
実際は、どんな理由をつけようが、フランにとってはただの「監禁」だったのだから。
「ですが、今更ではないですか?もう妹様はお嬢様を嫌ってはおりません。きっとお嬢様の意を理解してくださったのだと思います。」
「恐らく、あのワーハクタクが説明したんでしょうけどね」
そうじゃなきゃあの子が簡単にその答えに辿り着く筈はない。
本当、お節介な人獣だこと。
「今、お嬢様に出来る事は、妹様と姉として接してあげる事かと存じます」
「言われなくても解ってるわよ」
午前1時
「お姉様!」
授業が終わったフランが駆け寄ってくるわ。
そしてそのまま抱きついてくる。
もう、そんなに嬉しそうな顔で抱きついてきたら、鼻から紅茶が出ちゃうじゃないの。
「お勉強は終わったみたいね、フラン」
「うん!だから、遊ぼう!お姉さま!!」
フランは勉強が終わると遊ぶと言うサイクルになっている。
「良いわよ、今日は何をしたいのかしら?」
あれからフランには色々と遊びを教えたわ。
トランプなどの簡単なものから、隠れん坊、鬼ごっこなどなど。
「ん~っとね、え~っとね………」
フランは何して遊ぼうかと必死に思考を巡らせている。
本当に子供っぽくて可愛いわ。
「じゃあ、隠れん坊!」
「解ったわ。でも、それだと人数は多いほうが楽しそうね」
「じゃあ、皆集めよう!」
「ダメよ。仕事してるのも居るんだから。でも、可能な限り集めて見ましょうか」
まぁ、あの妖精メイドたちがちゃんと仕事してるかは疑わしいのだけれど。
「うん!」
私は早く遊びたくて仕方がないといったフランを連れて、手の空いてる者を探した。
無論、咲夜はほぼ強制的に参加だけど。
因みに、この隠れん坊だが、館内を場にすると果てしなく難しくなるので、庭限定となっている。
とは言え、ウチの庭は広い。
その上、参加者全員が空を飛べるので、木の上とかも普通に隠れ場所になる。
前は竹筒を使って水中に隠れている強者妖精も居たわね。
更にその前は、どうやって作ったのか、岩の張りぼてを作って、その中に隠れる妖精とか。
お前たちは忍者か!と突っ込みたくなったわね、あれは。
因みに、大抵大人数でやるので、見つかったものは鬼と協力して隠れている者を探すのだ。
最後まで見つからなかったものは、ご褒美にお菓子をもらえる事になっている。
無論、フランには障害物の破壊は禁止させてるし、咲夜の時間停止も禁止している。
それを禁止しないと流石にシャレにならない。
午前4時
50人近くでやった隠れん坊は時間は掛かったが、中々楽しかった。
今回の鬼は妖精の一人だった。
一人、二人と見つかるに連れて、段々人手が増えるので見つかりやすくなっていく。
結局最後まで残ったのは咲夜だった。
時間を止めてるんじゃないか?と言うほど見つからなかったが、答えは結構単純だった。
妖精は頭が悪いので、一度探したら、もうここには居ない、と決め付けてしまう。
だから、妖精たちが一度探した場所に身を潜めていたのだ。
お陰で私が探すまで随分手間取ったものだ。
そろそろ陽も昇り始めるので、館内に戻ることにした。
「あ~面白かった!」
そう言うフランは本当に満足そうだ。
「良かったわね、フラン」
「うん!」
満面の笑みで返すフラン。
ああ、本当に可愛いわ。
私の部屋にお持ち帰りしたいくらい。
「お嬢様」
そんな私に咲夜が声を掛ける。
「何かしら?」
「お腹は空いてませんでしょうか?」
「そういえば、お腹が減ったわね……用意をお願いね」
「かしこまりました」
相変わらず良く気の利くこと。
「ねぇねぇ、お姉様?」
「何かしら?フラン」
フランは上目遣いで見上げてくる。
フランったら……どこでそんなテクニック覚えたのかしら?
「今度、お姉様と一緒にお出掛けしたいんだけど………ダメ?」
そんな顔で言われたらダメって言えないじゃないの。
言う気もないけど。
「ええ、良いわよ。何処に行きたいのかしら?」
「えっとね!慧音先生の所に行ってみたいの!」
ピキッ!
あんのワーハクタクめ………
私の可愛いフランに何か余計な事でも言ってないでしょうね?
もし、誘ってたのだとしたら、タダじゃ置かないわよ。
「って、もしかして、昼の内に行きたいの?」
夜は流石にあいつも用がなければ寝てるだろうし。
「うん」
「ん~……」
昼間か……
私は咲夜に日傘を差させれば問題ないんだけど………
フランのその役目の奴が居ないわね。
中国…?
ダメね。
フランの奔放さに振り回されて、追いつけないわ。
となると……
「解ったわ、何か手を考えておくわね」
「本当!?」
「ええ」
「やったー!お姉様大好き!!」
そう言ってフランは胸に飛び込んできたわ。
ああ、いけないわ、フラン。
このまま愛で回したいわ。
「お嬢様」
ま、また貴女なの?咲夜。
「何かしら?」
「お食事の用意が整いました」
「は、早くない?」
あれから何分だと思ってるの?
「こんな事もあろうかと、既に準備の方はさせておきましたので」
く、流石は完全で瀟洒な従者。
抜かりは無いわね。
「わ~い!ごっはん!ごっはん!」
あ!
フランが私からご飯へと興味の対象を変えてしまった………
もうちょっと遅く来なさい、咲夜。
「それじゃ、私も頂こうかしらね」
まぁ、お腹空いたし、今はご飯を食べましょうかね。
しかし、日中にフランと行く方法ねぇ………
まぁ、あの薬師に頼んで見ましょうかね。
何か手土産でも持って。
んん……それにしても、ちょっと眠くもなってきたわね………
ご飯食べたら寝ましょうかしら?
まぁ、偶には早く寝るのも悪くないわね。
さて、折角だから、早寝早起きして今夜は竹林に向かうとしましょうかしらね。
それじゃあ、睡眠前にお腹膨らまして起きましょう。
今朝のご飯は何かしらね~っと。
午前5時
ん~…良い感じに眠くなってきたわ。
しかし、まぁ
こんな風に日常が変わったのも、あのワーハクタクのお陰、か。
フランと一緒に行く時に何か持ってこうかしら。
次起きるのが楽しみになるなんて、何時以来かしら?
まぁ、良いわ。
今宵もまた、私とあの子にとって良い一日でありますように、と。
おしまい
もっと続きを読みたい!と思う作品でした。
少しきになっているのですが、レミリアさま=妹馬鹿では?
こちらが間違っていたら申し訳ありません。
また、お気を悪くさせるような質問であることを、お許しください
姉バカですね。
分からない訳でもないですがね・・・
本当は1話完結の作品のつもりだったんですが、確かに、終わりの方が続きそうな文になってしまってますねぇ
折角なので続編を考えてみたいと思います。
>妹馬鹿~
子煩悩な親の事を「親馬鹿」と言うので、この場合は「姉馬鹿」であってると思っています。
間違ってたらごめんなさい^^;
>間違いなくレミリアは姉バカですね。
ええ、ウチのお嬢様は姉馬鹿です^^
フランちゃんは可愛いし、何より咲夜さんが瀟洒で素敵すぎます。
続編期待してます!
ちょっと姉馬鹿すぎるけれども。
レミリアもかわい過ぎ