「美鈴、入るわよ」
おかしい。返事がない。
いつもならこちらが声を掛ける前に美鈴のほうから招き入れるというのに。
となると寝ているか部屋にいないかのどちらかにはなるのだが、時計を見ると午後の7時少し前。
門番隊の引継ぎが終わった直後なので寝ていることはないだろう。
となると外出という事になるのだが行き先に心当たりがあるわけでもなく、どうしたものかと部屋の扉の前で考え込んでいると、丁度良い所にと言わんばかりに通りかかったのは門番隊に勤める美鈴の部下。
「あれぇー?メイド長じゃないですかぁー。
美鈴隊長の部屋の前で何をしているんですかぁー?」
ウェーブのかかった桃色の髪、語尾を伸ばす特徴的な話し方をする彼女は門番隊の副隊長。美鈴の補佐役も兼ね、門番隊……いや紅魔館全メイドの中でも相当の古株に当たる人物なのだ。
彼女が言うには頭の回転が早すぎて、他人にあわせるとなるとどうしてもこの話し方になってしまうのだと言う。正直そのようには見えず天然と思いたいのだが、有事の時には鋭く的確な指示を出す辺り嘘ではないのだろう。
少し気が短い人ならばその癖に苛々とさせられるだろうが、何故か美鈴はえらくお気に入りのようで。
おっとりのんびりした者同士気が合うのかもしれない。
「ん、ちょっとね。
そうそう、その美鈴隊長さんなんだけども」
「はいー?」
「何処に行ったのかわからない?」
「隊長ですかぁー?
今の時間なら図書館だと思いますがぁー」
「図書館……ね。
ありがと、そっちにでも探してみるわ」
とまあ聞き出したのは良いが、紅魔館の図書館と言えばあの場所しかないだろう。
レミリアが起きる時間は日付けが変わる時間帯に近いので時間の余裕はある。
仕事や必要な物の準備も────この場合はレミリアの身の回りの生活用品や紅茶の葉等である────昼の間に済ませておいた。
それなら急ぐ必要もないかと、焦らず騒がずゆっくりと図書館に向けて歩き出した。
(美鈴が図書館……ねぇ)
「そう言えば……」
先程門番隊の部下に聞いたところ、ここ最近は毎日のように図書館へ通い詰めているらしい。
彼女は一人の時の暇つぶしとして本を読む事も少なくはない。
が、毎日通い詰めるとなるとどうにも腑に落ちない。
幾つか思う事あるのだが所詮推測は推測。どうせなら本人に直接聞いたほうが早い。
ホールを抜け、階段を下りるとそこに見えるのは巨大で無駄に豪華な扉。
ドアノブをゆっくりと引き、重低音の音を響かせながら扉を開ける。
紅魔館の外観からは想像もつかないだろが図書館はとても広い。
部屋全体が薄暗いせいもあり天井は見えなく、また反対側の壁も見えない。
本棚を取り除いたら地平線が見えそうな程の広さと言えば良いのだろうか。
これは咲夜の能力で空間を弄りまわした結果こうなったのだが、元はといえばこの図書館の主パチュリーの本の収集癖が原因だ。
まあよくも我ながらここまで広げたものだと少し感心しながらも目的の場所へ歩を進める。
扉を潜ると目に付くのは一つの大きな長方形のテーブルがあり、その上にはいくつもの重ねられた書物と人影が一つ。
あの見慣れた紅い髪は間違いなく彼女、紅美鈴のもの。
紅い髪なら司書の小悪魔も候補に上げられるのだが、彼女は頭に翼が生えており影もそれを映しているはずなのだ。
「めいり……」
とそこで言葉を詰まらせてしまう。
何か違う。
ここからじゃ薄暗くてよく分からないが違和感のようなものを感じた。
「美鈴……よね?」
「あれぇ?咲夜さんじゃないですか?
どうかしたんですか?」
咲夜の呼びかけにいつもと変わらない様子に少しぬけた口調で振り返る美鈴。
振り返った美鈴を見た咲夜はしばし硬直。
確かにいつもの美鈴だ。服装と髪型以外は。
「美鈴」
「はい、何でしょうか?」
「その格好は……どうしたの?」
「これですか?」
「それですよ」
『これ』や『それ』と散々な言われ方をした美鈴の服装はいつもの緑と白で彩られた大陸風の服とは全く違っていた。
白いワイシャツに黒のタイトなスカートの下には黒いストッキング。
スカートには軽くスリットが切り込まれており、髪の毛は少し大き目のバレッタで纏めている。
特徴的な三つ編みのもみ上げおさげはほどいており絵にして見ようものなら『誰てめぇ?』状態だ。
だが少し待って欲しい。例え美鈴のこの服装が誰だてめぇ状態だとしても君達、具体的には読者諸君にはもうs、いや想像できるのではないか?
出来るはずだ、やってやれないことは無い。さあやりたまえ。
アリだーーッ!!
OK。君達は今までにない悟りの境地に辿りついた筈だ。
おそらく今君達の心には言葉に出来ない何かが満ち溢れている事だろう。
よし、それでは続けようか。
「百万歩譲ってその格好は良いとしても……
何故に眼鏡まで?」
「え?可笑しいですか?
私は本を読むときはいつも眼鏡着用なんですよ」
「……まあいいわ」
それを言った後に『この変態作者が』と心で付け加えて思ったが口には出さなかった。
口に出した所で「作者って誰ですか?」と美鈴から突っ込みを受けるだけなのだから。
うん、少し待とうか。またかなんて突っ込みはノーセンキュー。
ここまで来たのなら当然の如くオプションとして眼鏡を着用させなければいけないだろう。
それが作者の使命であり宿命なのだから。
私は宿命に従い、魂の赴くままに書き綴ったの過ぎないのだ。決して疚しい心で書いたのではないのだぞ。
そこだけでも分かっていただければいいのさ。
だから変態などと罵るのはやめてください。
「で、何でそんな格好をしているのかしら?」
「えとですね……、ここに来るならこの格好をして来なさいと仰られまして」
「誰が?」
「パチュリー様が」
「パチュリー様が?」
「はい」
「……成る程ね」
「……?」
「今回のコンセプトは女教師、か」
「へ?」
「こちらの話よ」
「はぁ……」
1を聞いて10を理解する。これぞ完璧で瀟洒たる所以。あんまり関係ない気がするが。
美鈴のこの服装────『女教師めーりん』とでも名付けようか────とパチュリーの指示。
点と点が繋がり線となる。謎は全て解けた。じっちゃんの名にかけて。
ん?何か違うな。まあいいやな。
となると、こちらは準備が足りない。準備、と言うよりもとある物が一つ足りないのだけなのだが。
まあいい、足りない物は時を止めて調達すれば問題はない。何より美鈴に悟られずに事を進める事が大事なので、今は慎重かつ大胆に物事を運ぶべきである。
「もしかしてパチュリー様はまた何か良からぬ事でも考えているんでしょうか?」
「そんなことないわよ」
「でもこの格好可笑しいですよね?」
「そんなこと……ないわよ」
可笑しいと言えば可笑しいのだが……
それは美鈴の普段の服装から考えればの話であり、今現在の服装はそれはそれで有りなのではないかと咲夜は思う。
美鈴は女性としては背も高い方でスタイルに関してもすらっとしたしなやかな四肢、それでいて出る所はしっかりと出ている、といった女性にとって理想の体型。
キャリアウーマンのような、仕事ができるかっこいいお姉さん的服装がとても似合うのだ。
比べて凹凸の少ない自分の二つの山を見下ろすと少しばかりの嫉妬ととてつもない絶望感に襲われる。
別に自分の体型に不満があるわけではない。が、やはり自分にないもの----この場合は胸の大きさ----を持っている者に対して憧れと少しばかりの嫉妬があるのも仕方のないこと。
っと、ここで落ち込んで一人の世界に塞ぎこむわけにもいかないので持ち前の精神力で立て直し冷静を保つ。
「美鈴、貴方はここに来る前は仕事だったのでしょう?」
「はぁ、そうですが」
「パチュリー様は汗まみれの匂いが苦手なのよ。
だから先にシャワーして汚れと汗臭い匂いを落としてから来なさいって事じゃないのかしら?」
「あー、そうでしたかー」
「身体だけ綺麗になったとしても汗や埃のついた服で来こられても意味ないでしょうから」
「確かにそうですねぇ……」
パチュリーが綺麗好きかどうかは分からないが、それでも汚れた格好で人前に出るのは忍びない事だろう。
場所が場所なだけにあまり説得力はないのだが、矛先を逸らすにはこれぐらいで十分だった。
ここまで美鈴と話をしてすっかり忘れていたことを思い出しす。
当初は美鈴が何故図書館に篭っているのか、また何の本を読んでいるのだろうか。
疑問はこの二点。
先程も思ったのだがあれこれと考えていても仕方がない。どうせ聞くのだから直球ど真ん中で聞いてみよう。
「所で、美鈴」
「はい」
「何の本を読んでいるのかしら?」
「あ、これですか?」
「それですよ」
これそれと指差されて手に取ってのは中国武術の解説書。
かなり年季の入ったものらしく所々痛んではいるが保存状態が良かったのか読む事に関しては特に問題はなかった。
一つの疑問が消えたかと思えば再び浮上する疑問。
何故に武術のしかも中国武術なのだろうか。
「私の型は中国武術を基本に後は我流で修行していたのですが……」
「ですが?」
「最近我流じゃどうも限界が来たのかなと思いまして」
「思いまして?」
「基本に立ち返り修行しなおそうかな、と」
「で、本を読み漁っていると」
「はい。ここだと色々と勉強が出来ますし、基本以外の部分も本で補えますので。
それに今自分に何が足りてないのかが再認識できます。
後は……」
「後は?」
「最近ちょっと自分自身が弛んでいるのかも知れませんので戒めの為、です」
咲夜は顎に手を添えしばし考え込む。
美鈴の仕事ぶりにしても彼女の力にしても、果たしてそこまで弛んでいるのかと問われれば素直に頷けない。
そもそも仕事が弛んでいるのなら真っ先に咲夜が何かしらの処罰を与えるのだが、別段そのような事もあった訳ではなく。
だがやはり本人がそのように言っているのだから何かあったのだろう。
(もしかして……)
一つ心当たりがあった。
ここの所美鈴は魔理沙相手に負け越していると聞いたことがある。
しかしそれは気にするほどでも無いのではないかと咲夜は思う。
ある意味彼女は人としては規格外の存在であり、紅魔館の領主であり咲夜の主であるレミリアに弾幕ごっことは言え勝利しているのだ。
それに彼女はパチュリーやレミリアの妹フランドールにとって貴重な友人であり客人でもある。
パチュリーは図書館の本を強奪する癖は如何にかして欲しいものだと思ってはいるのだが、彼女がここで時間を潰している間、小悪魔が魔理沙の家へとガサ入れを慣行し、約3割の確率で目的の本を持ち帰ってくるのでまあさほど問題にはしていないのだ。
約3割の成功率が果たして良いのか悪いのかはこの際放置しておこう。パチュリーはそれで納得しているようなのだから。
故に門番隊には彼女は客人扱いで通しても良いと伝えているのだが……
魔理沙曰く
「それじゃあ面白くないじゃないか」
との事らしい。
魔理沙にとっては張り合いがなくてつまらないかもしれないが、美鈴達門番隊にとってははた迷惑な話でしかなく。
とは言っても、紅霧事変の時のようにお互いが完全な敵対同士という立場ではないので、全力で弾幕合戦をして下手に自分の部下を傷つけるわけにもいかない。結局の所美鈴が一人で魔理沙の相手をする嵌めになるのだ。
これは彼女にとっては本当の意味での遊び感覚なものなので勝っても負けても魔理沙は紅魔館に入るし、美鈴も勝敗は気にしていないものだと思っていたのだが……
勿論彼女はそれ以外の門番としての仕事はきっちりとこなしているし、魔理沙以外の侵入者が訪れる事も無いからこちらからは特に何も口出しする事はなかった。
(一応聞いてみるか……)
「美鈴」
「はい?」
「自分が弛んでいるかもしれないって思うのは魔理沙との対戦成績の事?」
「はい、そうですね。」
「……気にする事でもないんじゃないの?
魔理沙は客人扱いで良いって、そう前に貴方達に伝えてあるでしょう?
それにあの子は本当に遊び感覚、若しくは腕試しみたいなものなのだし」
「いえ、そうではないんですよ」
「他に理由でも?」
「気にならないと言えば嘘になります。
だけどあの時から全く変わらない自分がいて。それに対して日々研究し努力して自分の力を高める魔理沙さんがいて。
最近はこの差がはっきりと出てきたと思うんですよね。
その間自分は何をしていたんだと、やれる事は沢山あったのに何もしてこなかったと。
これが自分の思う弛みです」
「……んー、確かにそうかもしれないわね。
それで心身共に基本に立ち返り1から自分を鍛えなおしてみようと、そういう訳ね」
「そうですね」
「で、首尾は?」
「まあそれなりに」
そこで美鈴は一冊の書物を手に取り咲夜に手渡す。
表紙に書かれだ文字は『心意六合』
軽く流しながら読んでみると基本の型から頸の運び、はたまた起源まで書き連ねられている。
「今現在の型は心意六合拳の基本部分を参考にしたものなので突き詰めるとすればこれが一番合っているのかなと思いまして」
「基本を参考に……ねぇ
今のままでも十分だとは思うのだけどね……
んー、そう言えば太極拳だっけ?それ毎朝やっているじゃない」
「あー……あれですか」
「あれは違うの?」
「あれもそうなんですけども、朝の準備運動みたいなものでして。
自分に馴染んだ型となると違うんですよね」
「あ、そうなの」
「ちなみに美容効果もあったりするんですよ」
「へぇ……本当?」
「本当ですよー」
これは初耳だ。今度美鈴に教えてもらおうか。
そんなこんなで二人が話をしている中、本棚の上で何かが怪しくぎらりと光る。
種明かしをすると目に豆電球をあててピカピカ光らせているだけなのだが。
「待てぇいぃぃぃぃぃっ!!!!!
ゴホッ!!ゲホッ!!ゴーホゴホッ!!」
待ってましたといわんばかりの勢いで本棚の上から腕を組み仁王立ちでこちらを見下ろす一つの影。
普段慣れていない、というかまずそこまで出さないだろう音量で叫んだために予想通りに咽て咳き込む紫もやし。基いパチュリー。
二人の視線を独り占めしながら咳き込む姿はなんとも情けないものである。
更に話の流れをぶった切るおまけ付き、ときたもんだ。
これでもし咳き込み咽ていなかったらきっとノリの分かる咲夜から『誰だ!!』と言われ、返す言葉で
「このパチュリー・ノーレッジ、貴様らに名乗る名前などないっ!!」
と我らがロム兄さんばりの決め台詞で締めることが出来たに違いない。
……思いっきり名乗ってますやん、パチュリー様。こりゃダメだわ、どっちに転んでも情けない結論が出てしまった。
「大丈夫ですか?パチュリー様」
「ゴホゴホッ……コーホー……コーホー……コー……ホー……
だ、大丈夫……コー……よ……ホー」
「呼吸音がウォーズマンになっているじゃないですか……」
「う、うるひゃいわね!!」
((……かんだ))
本人はかっこよく登場、悩める美鈴にアドバイスの流れを作りたかったのだろうが、結果はご覧の通り。
二人の話を見事に真っ二つにぶった切っておきながら自分は軽い発作で苦しんで心配される始末。
ウォーズマン発動の後はかみ言葉。
もう目も当てられ無いぐらい情けかった。
例えるなら、ボンバーマンで友人との対戦で開始直後にその場に爆弾を置いてしまい、にっちもさっちのいかずに5秒で自爆して負けるぐらいに情けなかった。
だがしかしここは紅魔館。
それぐらいでへこんだり取り乱したりするほどやわな精神は持ち合わせてはいない。
まあ今思いっきり取り乱しているのが若干一名いるのだが、それはそれで問題ないだろう。
無問題というやつだ。読み仮名つけりゃモウマンタイ。
さて、話を戻そうか。
「二人とも話は聞かせてもらったわ。
要は今すぐ美鈴が強くなればいいのよね」
「話って……
パチュリー様、一体どこから話を聞いてらしたのですか?」
「『めいり……』からよ」
始めからかい。
「始めから聞いていたのなら別に隠れる必要なかったのでは?」
「う、うるしゃいわね!!」
((……またかんだ))
二人は『もうダメだこの人』と思ったがこれ以上話をややこしくしたくはないので、口には出さずぐっとこらえる。
本棚の影ではそんな主人の情けない姿を見て涙を流しながらハンカチをかみ締める小悪魔の姿があった。恐らく飛雄馬の姉ちゃん役のつもりなのだろう。
なにやら小声で『パチュリー様、ファイトです!!』と叫んでいるが二人は聞こえない振りをしようと決め込んだ。
心の中では『小声といいながら叫ぶとかどっちやねん』としっかり突っ込みを入れているのだが。
「パチュリー様、落ち着きましたか?」
「え、ええ。もう大丈夫よ」
「さっきも同じやり取りをしたような気がするのですけども……」
溜息混じりに咲夜がそう言えば
「う、うりゅさいわね!!」
先程と全く同じ言葉で返すパチュリー。
二度あることは三度あると言うがこうも見事にやらかしてくれるとは。
パチュリー様、お見事です。もう何も言う事はありません。そのままヘタレ街道を突っ走っていってください。
「それはそうとへチュリー様、何か用があってきたのでは?」
「そうだったわ……、って何よへチュリーって!?」
「ヘタレなパチュリー様、略してへチュリー様ですわ。
何かご不満でも?」
「な、何でそんなヘタレなあだ名を付けられないといけないのよ!?」
先のやり取りを見てりゃ誰がどう見てもヘタレだと思うだろう。
あ、本棚の陰に隠れてこっちの様子を伺っている小悪魔が顔を真っ赤にしてプルプルと全身を震えさせている。多分彼女の笑いのツボにクリーンヒットしたのだろう。
今にもブフゥと吹き出しそうなのを必死に堪えている。
自分に直接被害が及ぶ事が無いと分かっているからだろうか。気楽なものだ。先程の涙は何処へやら。
「まあ宜しいではないですか、ヘモチュリー様」
「何か一文字増えてるじゃない!?」
「ヘタレもやしのパチュリー様、略してヘモチュリー様です」
「い、嫌よ!!絶対嫌よ!!そんなあだ名は!!」
パチュリー超必死。少し涙目。そらそんなあだ名は誰だって嫌がるだろう。
好き好んで名前にヘタレもやしなど付けられたくはない。
「まあまあ……、それで私に用があったのではないのですか?」
「そうだったわね……
先のごたごたですっかり忘れる所だったわよ」
あんたが一人で咽てかんでただけじゃないか。あだ名は咲夜が付けたものだけども。
小悪魔もそろそろ限界が来ているようだ。本棚に拳を押し付けて必死に笑いを押し殺している。
背翼が尋常じゃなくぶるぶると震えているではないか。こりゃあもう一押しすれば盛大に吹いてくれること間違いなし。
「兎も角、美鈴を強くすれば良いのよね?」
「要約するとそうなりますね」
「じゃあこれを使ってみなさい。
大丈夫、毒じゃないから」
服の中をごそごそとまさぐりとある物を取り出す。
この時点で嫌な予感が十二分にしたのだが、無下に断るわけにもいかず仕方なしにそれを受け取った。
受け取ったとは言っても半ば強引に手渡されたのだが。
渡された物はそれほど大きくなく手の平にすっぽりと収まるほどの大きさ。これが三つ。
これが鉛のように重たいのかと言えばそうではなく至極まっとうな見た目通りの重さ。ていうか軽い。
何故か握っていたのは赤青黄の三色絵の具だった。
「……絵の具?え?え?何で?え?これが何か意味でもあるのですか?」
美鈴大混乱。そらそうだ。強くなるのに何故絵の具?
これで絵でも描いて絵を現実に召還しろってか?
そんなことが出来るようになる為には戦闘コマンドにスケッチが入っていないと駄目じゃないか。
美鈴の身内には犬を飼っている忍者なんていないだろう。と思いたいのだが、いそうな気がするのは何故だろうか。
「落ち着きなさい美鈴」
絶賛混乱中の美鈴を落ち着かせまたもや溜息をつく咲夜。
「ヘモチュリー様、この一見どうでもよくてかつ全く使えそうになく更にゴミにしか見えない絵の具をどうやって使うのでしょうか?」
酷い言われようであるが否定できないのが悲しい所。しかもあだ名を変えるつもりはないらしい。
この人本当に従者なのだろうか?
「うぅ…こ、この絵の具はそれぞれの色に特殊な魔力を込めているのよ。
単色でも効果はあるし、色の組み合わせによって更に違った効果も見込めるわ」
「はぁ……、その効果とは?」
どうせろくでもないものなんだろうなぁと諦め気味ではあるが、一応聞いておこう。
本人は説明する気満々なのだから。また噛まなければ良いのだが。
「まず青の絵の具が筋力強化」
「私はこう見えても妖怪ですから人と比べると筋力は高いですよ。
それに操気術で補う事も出来ます、一時的ですけどね」
「黄の絵の具が五感強化」
「自分の周りでの気の変化や大気の流れ等は即座に察知できますし、気の結界を張れば五感は強化されますね」
「あ、赤の絵の具が高速飛行と瞬間移動」
「元々飛べるのに飛行能力は意味ないです。
瞬間移動も縮地法で十分補えますし。
そもそもそこまで遠出することもないので無駄かと思います」
「……赤と青を混ぜて出来る紫は気の操作」
「私の力は気を操る力ですから」
「赤と黄を混ぜて出来る橙は皮膚の硬質化」
「えーと……それも気の能力で出来ますね。
硬気功と言います」
「……青と黄を混ぜる出来る緑は武具形成」
「あ、それは使えそうです」
六つある内使えそうなのはたった一つ。
予想通りというかお約束というか。パチュリーへこんで半泣き。ヘタレ街道まっしぐら。
そんなパチュリーをまたもや放置し、気の力というものはホント色々な事が出来るものだと、咲夜は改めて感じる。
彼女は体内の気だけでなく外気も取り込み自分の力に変えることも出来る。
また空気や大気、狂気や生気などといったものまで扱えるのだという。
つまり気とつくものに彼女が扱えないものは無い、という事になる。
寒気や暖気や勇気も扱えるのかと言われれば疑問符が浮かぶのだが。そこまで考えている人はいるまい。
寒気や暖気まで操れれば人間、もとい妖怪エアコンの完成だ。燃料は食料でほぼ永久機関。電気代も節約どころか全く使わなくて済む優れものです。食費が少し嵩むかもしれませんが。
……どうも話が横道に逸れてしまうので強制的に戻そう。
「使えそうと言っても」
「?」
「貴方は武器扱えるの?」
「武芸十八般一通り習得してますよ。
大陸とこちらじゃ少し違いがあったのですがどちらにでも対応できるように両方共修練してましたねぇ。
結局居合い・抜刀術などの刀剣術関係と今の中国武術に絞ったんですけどね」
「刀剣術ねぇ。
それじゃあ色々な流派の剣術を覚えてきたりしたの?」
「ええ、そうですね。大陸からこちら、色々と歩き渡りましたから。
示現流から飛天御剣流まで習得しています」
「……ちょっと待って。
何か今聞きなれない単語が。って前者は兎も角として後者はおかしくない?
そもそも実在してるのそれって?」
「あはは……飛天御剣流は冗談ですけども、示現流は本当ですよ。
基礎以外の修練はあまりしていないので腕は落ちていますけど」
と、言うことは刀剣術に関してもそこそこの腕前だという事か。妖怪は人間と生きる時間が違うから本人はそこそこだと進言していても人間換算すれば達人の域に達している事もありえなくは無い。
何せ人と違って時間はたっぷりあるのだ。人の数十年は妖怪だと数百年、ということも十二分にありえる。
妖夢と剣で勝負したらよい勝負になるのではないだろうかと考えたが、首を横に振りすぐさま否定する。
修行中で半人前とは言え妖夢の剣の腕前も相当な物。例え修練に費やした時間が同じでも美鈴は既に剣は扱ってない身、かたや現在も修行真っ最中の妖夢とではさすがに話にならないだろう。
妖夢と美鈴、どちらとも手合わせした事のある咲夜だから分かる。
「正直な話」
「はい?」
「美鈴は体術を鍛えなおす手段を探しているのに刀剣術は関係ないんじゃないかしら?」
「あはは……、ですよねぇ」
「全く……
結局全部意味ないと言うことですよね、ヘモチュリー様」
「咲夜さん、もうそのあだ名から変えるつもりはないのですね……」
「当たり前よ美鈴。
ヘタレもやしには丁度いいあだ名だわ」
「咲夜、そんな目で私を見ないで!!そのあだ名はやめて!!
ゴホッ!!ゴホゴホッ!!」
パチュリー復活。立ち直ったのはいいが大声を出したものだからまた咳き込んで咽だす。
一体あんたは何がしたいんだと言いたげな冷たい視線が一つ、咳き込んでいるパチュリーに送られていく。
視線お送り主は勿論咲夜。咲夜さん、もう許してあげて。パチュリーが哀れすぎる。
「ゴホゴホ……。美鈴、刀剣術はもういいわ。
体術、とは言っても他に参考なりそうなのはないのかしら?」
「参考ですか……。んー、心意六合以外だと八卦掌とか……」
「ホント色々と覚えてきてるのねぇ」
「覚えて修行して、自分の腕が上がるって事が楽しいのですよ。
あ、後は武機覇拳流や機神拳も習得しました」
「……あんたはロボットで格闘戦でもするつもり?」
「その内爆熱ゴッドフィンガーでも放ちそうな気がするわ」
「あはははは、さすがにそれは無理ですよー」
「そりゃそうよね……」
「私が出来るのは精々シャイニングフィンガーぐらいのものです」
「「出来るのぉっ!?」」
こけた。もうこれまでにないぐらい見事にずっこけた。脇から見ていた小悪魔がブッフゥと吹き出し、満面の笑みを浮かべながら親指を立てている。何だ、グッジョブだとでも言いたいのかコノヤロウ。後で泣きが入るぐらいこき使ってやろうか。新しい魔法の実験体になってもらおうか。24時間耐久マッサージでもやらせようか。
マッサージだとだと自分のほうが気持ち良くなって寝てしまうから却下だ。寝たら本当にやっているのかどうか分からないではないか。
それにマッサージだと美鈴の気功マッサージの方が格段に上手で気持ちが良い。疲れや凝りも綺麗さっぱりととれるのだ。
お仕置きは後で考えよう。まずは起き上がらなければ。
起き上がろうとしてまたこけた。今度は自分の服の裾を踏んで。しかも勢い余って顔からモロに突っ込み地球相手にヘッドバット。ヘタレここに極まる。
そんな君にこの称号を与えたいと思う。クイーンオブへタレ、パチュリー・ノーレッジ。
「何やっているのですか、ヘモチュリー様」
「う、うりゅひゃいわね!!」
「……次はどう付け加えようかしら」
「お、お願い!!それだけはやめて!!お願いだから!!」
パチュリーマジ泣き。繰り返しはギャグの基本とは何処の何方がいったものやら。わざとやっているように見えるが本人は自覚がない。いわば天然だ。天然キャラとなるとそちらの方々に要素的な何かが沸いて来るのかもしれないが、天然へタレだと見事に何も沸いて来ないのは何故だろうか。そもそも要素的な何か、というのがよく分からないのだが。きっと分かる人には分かるのだろう。
恐らく、いや間違いなくパチュリーは次も噛むだろう。
傍らでは本棚をドンドンと叩きつけて笑い続ける小悪魔。ホント楽しそうだなあんた。
「ヘモチュリー様は置いておいて、本当に出来るの?
また冗談でしたーとかじゃないでしょうね?」
「いえいえ、冗談は一度だけです。
そう何度もやりませんってば」
「二度どころか三度も四度も繰り返してるヘタレもいるけどね。
具体的にはそこの紫もやしとか紫もやしとか紫もやしとか紫もやしとか」
「う、うるさかとっ!!」
流石に五度目はなかったようだがそれは何処の方言だ。マジ泣きで余裕が全くないのだろう。
「百聞は一見にしかず。見てみますか?」
「ん、そうね」
「了解しましたー。
台詞は長くて面倒だからこの際省いちゃいますね」
「私のこの手が光って唸る、お前を倒せとナンタラカンタラって台詞でしょう?
別に省かなくてもいいじゃないの。どうせここで見ている人は限られているのだから」
何故か妙に詳しい咲夜さん。隠れファンなのだろうか。
「……恥ずかしいんですよ、あれ言うの」
「ふぅん……。まあ、どちらでも良いわ」
右手は顔の前、左手は右手を支えるように腕を軽く掴み目を閉じ意識を拳に集中させる美鈴。
刹那、右肩口から淡い光を放ち、それは右拳に向かってゆっくりと進みだす。
光は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と七色に変化し拳に近づくほど強い光を放つ。
右手の甲に紋章でも浮かぶのかと少し期待したが、残念な事に紋章は浮かばなかった。
紋章が浮かんでいたら浮かんでいたで門番が出来る立場ではないのだが。
気が拳に集まったらしく、拳が七色の光を放ち放電したかのような音を立てている。
名付けるならばシャイニングフィンガーならぬ美鈴フィンガー。レインボーフィンガーでも良いだろう。
ネーミングセンスがない?安直だ?まあ良いではないか。
美鈴の持つスペルカードで七色の特大気弾を放つ極光「華厳明星」と併せれば華厳明星レインボーフィンガーの出来上がり。
ヒートエンドや成敗の決め台詞でしめるのも夢ではないぞ美鈴。名前に難があるのは認めるが。
「本当に出来るとはね……」
「これも操気術の一種ですから。コツが分かれば簡単ですよ。
でも弾幕戦だと全く使えないですけどね、この技」
「弾幕戦よりも格闘戦寄りよね」
「格闘戦でも使う機会があんまりないです。
溜めの時間が長すぎてどうしても隙が出来てしまうのですよ。
相手の注意を逸らしながら気を練れば使えないこともないですけどもね」
「なら殴りながらでも気を練って溜めたらいいじゃないの。
ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォとか言いながら」
「……咲夜さん、それはまた別の技になっていますよ。
あっと……すみません咲夜さん、今何時でしょうか?」
図書館に時計はあることはあるのだが、司書の席に一つ置き時計がぽつんとあるだけなのでこちらからでは時間の確認が出来ない。パチュリーは魔法で時刻が分かるのでここではさほど必要な物ではないからだ。
故に時計は偶に図書館に足を運ぶ客人用として一つだけ置いている。
咲夜は美鈴に時刻を聞かれ、エプロンドレスのポケットから懐中時計を取り出し、時計を見る。
「そろそろ9時になるわね。
何か用事でもあるの?」
「はい、今日はフラン様との約束がありまして。
パチュリー様、2、3冊本をお借りしても宜しいでしょうか?」
「ええ……よかとよ。……ぐすっ」
「そ、それでは失礼します」
「美鈴、ちょっと待たんとね……
渡すもんばあるとばい。……ひっく」
「は、はぁ……。パチュリー様、まだその言葉使い直らないのですね……」
「まぁヘタレだし。美鈴が気にすることじゃないわよ」
ようやく半泣きまで戻ったパチュリーが指とパチンと鳴らすと魔法陣が浮かび上がる。
最近パチュリーが開発、成功したもので簡単に言うと魔方陣物置。別の次元を開き物をそこに保管できるご都合主義万歳な魔方陣なのである。分からなければスキマの下位互換と考えていただければよい。スキマとの違いは物しか置けない事と入り口しか開けられない事。同時に二つ以上展開できない事だろう。空間自体もそこまで広くはないので小物程度の物しか保管出来ないが、日常生活においてはさほど問題ではないだろう。
浮かび上がった魔方陣物置に腕を突っ込み、中にある何かを探しごそごそと弄り引っこ抜く。
中から出てきたのは紙袋。紙袋は空っぽという訳ではなく何かが入っているようだ。
手渡された紙袋の中を見ると入っているのは白衣が一着。
「えっと……、何故白衣なのでしょうか?」
「その服が汚れないようにする為よ。
どうせ明日もここに来るのでしょう?ここも毎日掃除しているとは言え埃や汚れが全く無くなるわけじゃないから。
それに毎日その服といつもの服を洗うのは億劫でなくて?」
「あー……確かにそうかも知れませんね。
分かりました、これは有難く受け取ります」
「ちゃんと着るのよ?」
「分かっていますよー。それでは失礼します」
パチュリーに念を押され、その言葉の裏の意味を疑うことなく受け入れ、朗らかな笑みを浮かべる美鈴。
その後、ぺこりとお辞儀をして美鈴は図書館から出て行った。
残された二人は、と言うと……
美鈴が図書館から出たのをきっちりと確認した後、ようやく泣き止み立ち直ったパチュリーのアイコンタクトを受けた咲夜が自分とパチュリー以外の時を止める。
時の止まった世界でまずパチュリーがすることは、そこの本棚の陰で吹いている小悪魔の額にマジックで『にく』と書いてやることだ。
漢字の肉ではない、平仮名でにくだ。小悪魔如きにキン肉マンは勿体無い。君はミート君で十分なのだ。
しかもこのマジックはパチュリー自作の特別性。向こう一ヶ月は消えないだろう。
明日にはミート君こぁと皆から呼ばれるに違いない。
せこいお仕置きと言うか嫌がらせを終わらせ、時の止まった空間で椅子に腰を掛ける。
「咲夜」
「はい」
「抜かりはないでしょうね?」
「それはもう、びっちりばっちりとこのカメラに収めておりますわ」
咲夜がエプロンポケットから取り出したのは一つの小型カメラ。
カメラに収められているのは数々の美鈴の写真。勿論あの格好で、だ。
「いつもながら貴方の仕事振りには感心するわ」
「ありがとうございます。しかしながらヘモチュリー様」
「な、何よ」
「ペイントマンは少々マイナーかと思われますが。
どうせ上手くいったら変な名前でも付けようとか思っていたのではないですか?」
「う、うるひゃ、うるさいわね!!」
「ヘタレは死んでも直らないってか……」
ちなみにパチュリーが名付けようとしていた名前は原色小娘ペイントめーりん。
いやいやパチュリー、安直過ぎるにも程があるだろう。二つの名前を足して割っただけじゃないか。
紅魔館の上に立つものはネーミングセンスに難が無いといけないのだろうか。そんなことはないと思いたいのだが。
ともあれ椅子に腰掛けたパチュリーはカメラを受け取り一枚残さず内容をじっくりと確認する。
様々なアングルから撮られ、ピンボケも一切なし。際どいものが幾つかあったのだがまともに見えている物ではないので問題はないだろう。
健全をモットーにだがチラリズムはオーケー。何だか訳の分からない指針だ。
パチュリー曰く大っぴらに見せるよりも、見えそうで見えない微妙かつ絶妙なラインがマニアのつぼを刺激するそうだ。
……何のマニアなのか些か疑問が残るのだが。
「ん、これだけあれば十分ね。
正面はテレカやブロマイド、全身が写っているのはパネルや抱き枕。
後は適当に見繕って湯飲みやお茶碗や急須やその他生活用品や小物に充てればいいわね」
「承知いたしました。すぐに作業に取り掛かかります。
所でヘモチュリー様」
「何よ……、もう本当に勘弁してくれない?そのあだ名」
「どうせまたすぐにヘタレのレッテルを貼られますからこのままで問題なしでしょう」
パチュリー再び半泣き。もう諦めました。
願わくば、このヘタレなあだ名が広まらない事を……
無理だ。明日には紅魔館に住む者全員が知ってそうだ。間違いなく知れ渡っているだろう。それも諦めました。
今なら中国中国と呼ばれ続け、弄られ続けた美鈴の心境がものっそい分かる。
そう言えば美鈴だけは最後まで心配してくれてたなぁ。本棚の陰で隠れて吹き出しているミート君こぁとは違って。
「で、何よ……」
「白衣を渡したと言う事は……次のコンセプトは医者ですか?」
「そう思う?」
「寧ろそれしか思い浮かばないのですが」
「甘い、甘いわね咲夜。甘いは砂糖、佐藤は「はいはいストップストップそこまでです、ヘモチュリー様」わた……
……何故止めるのよ?」
「私とヘモチュリー様以外の時は現在止まったままなのですよ?
それなのにリオデジャネイロパラダイスの皆さんが来れる筈ないじゃないですか」
「こういうのはね彼らが来なくても最後までやるものなのよ。
それに彼らなら時が止まっていようともお構い無しに来そうな気がするのよね」
在りえないとは言い切れないだけに何とも複雑な気分だ。
折角出したのに、とぶちぶちと愚痴りながら茶色く楕円形の着ぐるみを魔方陣物置の中にしまうパチュリー。
鬱憤晴らしに小悪魔の額に『や』を追加しておいた。
これで貴様はミート君ではなくなったのだ。君はミート君以下なのだよ。ミート君こぁならぬ肉屋こぁの完成である。……可愛くねぇなおい。
なんともみみっちい鬱憤晴らしである。こういった行動がヘタレと呼ばれる原因なのではないだろうか。
まさにクイーンオブへタレ。その内右手の甲に紋章でも浮かび上がってきそうである。
ヘタレの紋章がどのような柄であるのかは些か興味があるので、パチュリーには是非ともヘタレ道を極めてもらいたい。
すぐに見れそうな予感がしたのだが、あくまで予感だ。有り得なくもないが。
「咲夜、このプロジェクトのスポンサーは二つ。これは分かるわよね?」
「はい」
「答えの半分は美鈴の今日の服装。もう半分はスポンサー」
「スポンサー……
マヨヒガと白玉楼と永遠亭……あっ」
「分かったようね」
「新旧ワイシャツ娘の夢のコラボレーション、ですね?」
「ザーッツラーイト。
第4弾のコンセプトは、『保険医と生徒』よ!!」
何とも怪しい響きではあるが如何わしいとこは全くないのでご安心を。
「第3弾の商品の数が揃うまでにはどれぐらい時間がかかりそう?」
「そうですね……一週間もあれば十分かと。
第4次生産ラインまでず全て稼動できますので」
「数の調整は咲夜、貴方に一任するわ」
「お任せください」
「よし、それじゃあいつものあれやるわよ」
「了解ですわ、ヘモチュリー様」
「「ミッション」」
「「コンプリート」」
ハイタッチの後ぶっ殺音頭で〆る二人。パアンッ!!と二つの乾いた音が時の止まった空間で響き渡る。
決めポーズを寸分の狂いもなく見事に決める二人。今回が初めてではないので慣れもあるのだろう。お見事としか言いようがない。
この場面だけに限定するとヘタレに見えなくもないパチュリー。
どうせすぐにボロが出てヘタレ逆戻りなのだが。
次の日、図書館コンビの新しいあだ名『ヘモチュリー』『肉屋こぁ』が紅魔館内に見事に広まったのは言うまでもない。
そもそも何故『美鈴グッズ』を売り出しているのか。
始めは遊び半分で美鈴にOLの格好をさせ、咲夜が面白半分に写真を撮ったのが原因だった。
勿論美鈴に気づかれないように時間を止めて。
更に悪乗りをし冗談半分で商品に加工して売り出したらこれが予想外に売れた。
商品は瞬く間に売り切れになり、当然の如くここまで売れるとは予想していなかったので在庫もすぐに底をついてしまう。
それが逆に希少価値を高めてしまい、馬鹿みたいに高値がつき、手に入れられなかった者達からの再販の声が数多く寄せられた為、追加で数量限定だが受注生産で販売を行う事になった。
不定期ながらも限定生産を行い、満を持して出した第2弾も瞬く間に売り切れ、今回の第3弾に至る事となる。
その売り上げは紅魔館の全財源の半分近くとも7割になると言われているが真偽は定かではない。
余談になるが、後日、休みの日にちょっとした気まぐれであの服装のまま人里に買い物に出かけた美鈴は訳も分からず周りから黄色い声で取り囲まれ、サインや握手を迫られた。如何にかして逃げ出した所慧音と出会い、寺子屋で少し授業をやってみないかと誘われたり、妹紅がシャイニングフィンガーの極意を教えてもらうために美鈴に弟子入りしたのはまた別のお話。
こいつは間違いなく理想郷www
文章のあちらこちらにしこまれた小ネタの数々にくすりとさせられました。
いや、お見事。
ただ、貴方の文章は若干読みづらいので、点数をさっぴいておきます。
貴方の新作に期待しております。
>----
──── の方がカッコいいと思います。
>誰だどう見ても
誰が ですよね?
>子悪魔
小悪魔 かと。
>背翼の震えが尋常じゃなくぶるぶると震えている
震えが震えるってちょっと変じゃありませんか?
その頃紅魔館の主「レミリア・スカーレット」
は何してるのでしょう??
気になる・・・・・