「享楽の手段については、人間の右に出る種族はいないわね」
「うふふ、今日の宴会芸は私達の独壇場よぉ。妖夢、見てる~?」
真夏の夜の宴。
程よく酔いが回りだした頃、誰かが言いだすまでもなく始まる宴会芸のお披露目は、紫と
幽々子の番となった時、場は騒然とした。
いったい何処で覚えてきたのか、二人が連れ立って演じた芸は「花火」。
彼女らは人間のように火と薬を使うのではなく、自らが闇の彼方へと飛び上がり、弾幕と
スキマを用いて輝く芸術を夜空に炸裂させた。
どこかの花火会場と繋いだらしく、スキマからは玉の破裂音と衝撃がひっきりなしに轟き、
それに合わせて二人は弾幕を次々と展開する。小弾・中弾・大弾、楔弾に鱗弾、光線に反魂
蝶まで…無数の形状や色彩の組み合わせを経て、夜空の黒に輝く大輪を咲かせては散りゆく。
菊や牡丹のみならず、枠仕掛けやナイアガラ、スターマインに噴水、時には50連発など、
凝りに凝った趣向の数々。
幻想郷の住人は皆、華開く毎にその美しさに息を呑み、惜しみない賞賛を送った。
「さて、そろそろ仕上げとしましょうか。幽々子、アレを持ってくるから避難するわよ」
「了解~」
下の連中のボルテージが最大限に高まったのを見計らって、紫は幽々子と示し合わす。足
下に現れたスキマに二人は飛び込み、瞬時に宴会の席へと飛び出した。
二人は拍手喝采で迎えられたが、紫はそれを制する。
「お待ちなさい。まだ芸は終わっていなくてよ」
さぁご覧あれ、と幽々子が扇子で夜空を指し示す。
その時、ぽっかりと中空に残っていたスキマから何かが飛び上がり、それは次の瞬間、数
多を消し飛ばすような爆轟と共に、直径が800mにも及ぶ超巨大な焔の花を咲かせた。光
は昼間のと変わらないほどの明るさで辺りを照らし出し、しかし十数秒経つ頃には消えた。
「世界最大の花火、『四尺玉』でした~。これで、私達の出し物はオシマイよぉ」
紫と幽々子は手を取り合い、全て上手く行ったことを子供のように喜びあう。
だが周囲は、四尺玉のインパクトがよほど強烈だったのか、まるで時が止まっているかの
ように──もちろん咲夜が止めているわけではない──誰一人、ぴくりとも動かなかった。
「みんな、気絶してるわね…ちょっと近過ぎたかしら」
紫は空を見上げる。四尺玉が爆発したのは、なんとか焔こそ届かない距離であったものの、
安全とするにはあまり離れていなかった。
「妖夢~、起きて~、お酌してよ~。妖夢~」
立ったまま瞳が反転した従者へ、頬をペチペチ叩きながら幽々子は呼び掛けたが、気絶者
が目を覚ましたのは、妖夢の頬が普段の2倍ほどに腫れ上がった頃だった。
一方の人間界では、打ち上げたはずの四尺玉が爆発すること無く忽然と消えてしまったこ
とについて、不発弾の捜索とか、大一番をしくじった(と、思っている)花火師のプライド
とか、ちょっとした事件やいざこざになっていたが、それはまた別のお話。
「うふふ、今日の宴会芸は私達の独壇場よぉ。妖夢、見てる~?」
真夏の夜の宴。
程よく酔いが回りだした頃、誰かが言いだすまでもなく始まる宴会芸のお披露目は、紫と
幽々子の番となった時、場は騒然とした。
いったい何処で覚えてきたのか、二人が連れ立って演じた芸は「花火」。
彼女らは人間のように火と薬を使うのではなく、自らが闇の彼方へと飛び上がり、弾幕と
スキマを用いて輝く芸術を夜空に炸裂させた。
どこかの花火会場と繋いだらしく、スキマからは玉の破裂音と衝撃がひっきりなしに轟き、
それに合わせて二人は弾幕を次々と展開する。小弾・中弾・大弾、楔弾に鱗弾、光線に反魂
蝶まで…無数の形状や色彩の組み合わせを経て、夜空の黒に輝く大輪を咲かせては散りゆく。
菊や牡丹のみならず、枠仕掛けやナイアガラ、スターマインに噴水、時には50連発など、
凝りに凝った趣向の数々。
幻想郷の住人は皆、華開く毎にその美しさに息を呑み、惜しみない賞賛を送った。
「さて、そろそろ仕上げとしましょうか。幽々子、アレを持ってくるから避難するわよ」
「了解~」
下の連中のボルテージが最大限に高まったのを見計らって、紫は幽々子と示し合わす。足
下に現れたスキマに二人は飛び込み、瞬時に宴会の席へと飛び出した。
二人は拍手喝采で迎えられたが、紫はそれを制する。
「お待ちなさい。まだ芸は終わっていなくてよ」
さぁご覧あれ、と幽々子が扇子で夜空を指し示す。
その時、ぽっかりと中空に残っていたスキマから何かが飛び上がり、それは次の瞬間、数
多を消し飛ばすような爆轟と共に、直径が800mにも及ぶ超巨大な焔の花を咲かせた。光
は昼間のと変わらないほどの明るさで辺りを照らし出し、しかし十数秒経つ頃には消えた。
「世界最大の花火、『四尺玉』でした~。これで、私達の出し物はオシマイよぉ」
紫と幽々子は手を取り合い、全て上手く行ったことを子供のように喜びあう。
だが周囲は、四尺玉のインパクトがよほど強烈だったのか、まるで時が止まっているかの
ように──もちろん咲夜が止めているわけではない──誰一人、ぴくりとも動かなかった。
「みんな、気絶してるわね…ちょっと近過ぎたかしら」
紫は空を見上げる。四尺玉が爆発したのは、なんとか焔こそ届かない距離であったものの、
安全とするにはあまり離れていなかった。
「妖夢~、起きて~、お酌してよ~。妖夢~」
立ったまま瞳が反転した従者へ、頬をペチペチ叩きながら幽々子は呼び掛けたが、気絶者
が目を覚ましたのは、妖夢の頬が普段の2倍ほどに腫れ上がった頃だった。
一方の人間界では、打ち上げたはずの四尺玉が爆発すること無く忽然と消えてしまったこ
とについて、不発弾の捜索とか、大一番をしくじった(と、思っている)花火師のプライド
とか、ちょっとした事件やいざこざになっていたが、それはまた別のお話。