Coolier - 新生・東方創想話

だけど、馬鹿が大好きだった。

2007/07/09 06:40:51
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山中で周りの景色が緩やかに流れていく、
息が上手にできないほど、私は走って走って走って。
ひたすら走って追いかけるのは、透明色の氷で出来た羽で軽やかに低空を飛ぶ背中。
薄青色の後ろ髪が風に梳かされ、私を一人にするため逃げていく。
―――バカ、待ってよ。速いって。
追いかける背中が茂みに消えて、私は足に力を入れて間を詰める。
しかし、彼女はその努力に答えてはくれなかった。
一回り大きな樹を左に曲がると。

「…ぇ~?」

嘘でしょ。呟きと溜め息が同時に洩れる。
今日はどの遊びでも一回も勝っていない。
残ったのは足の疲れに頬を伝う汗の煩わしさ。
自然、私の膝は限界に達したと地面へ。

「どこ行ったのよ、あのバカ」

震える泣き声に答えは返ってこない。
バカでバカバカ。思うのは子供独特の我が侭な文句。
どんなに見苦しいことか、泣くことが耐え難く、絶対に泣いたら負けだという思い込み。
悔しい。
そう思うと、涙が溢れ出そうになっていく。
だから、私は涙じゃなくて声を張り上げる。
バカと罵るコトバを何度も何度も。
そしたら、

「あーー!!うるさいうるさいうるさい、バカって言ったアンタがバカなのよ!」

―――ほら、すぐ来てくれる。










蛙を凍らせるのは楽しい。
あのごあっごあっと鳴いている瞬間に凍らせると、鳴き声も一緒に止まるからだ。
しかし、季節は夏。蝉が五月蝿く負けじに叫び返しても、鳴き声は止まない。
蛙にとって良い時期とは言い難い。
同時に、それはチルノにも同じことであった。
大きな木の下影の下。そこでうつ伏せに寝転び、涼んでいると

「っわ」

背中に重さを感じ、肺から空気が戻ってしまう。
「ぐぅっえ」まるで蛙みたいな声を上げた。
嗚呼、なんか踏んだわ。と、上に立つ誰かが言い、チルノは地に這ったまま横に転がる。
足場が急に傾くのだ。
当然、上に立つ者もバランスを崩し、倒れる。
ハんッ、ざまぁみろ。
チルノがそう思った瞬間

「あ、やばっ」

転がり、開いた脇腹に衝撃が走った。上の奴が転び、その肘が入ったのだ。
今度こそ、ピクピクと泡を吹きながらチルノは意識を話し手放しにしそうになった。

「死んだの?あー、まぁいっか」

ぼやける視界の端で、ゆっくりと遠ざかっていく。

「ちょ、っま」

静止の声も枯れ果てひび割れた音にしかならない。
―――やば、息できな?

思考がバラバラに砕ける。何も考えられない。
いや、ひとつだけはっきりと分かる。
誰が逃がすか。
「あー、めんどう」
誰かが言った。
そして、足音が近づいてきた。

「生きてる?って、アレ?へぇー、氷精久々に見たわ」
―――はっ、当たり前。人間なんかとは比べ物じゃないのよ!

思考だけが言葉を成す。音は苦しげな呼吸音しか成さない。
だから、心中で精一杯自慢する。

「ま、別にどうでもいー」
「…っ」
どうでもいいって、なによ?
相変わらず言葉は出ない。チルノは代わりに思いっきり睨み付ける。
「…はぁ、分かったわ。しばらく居てあげるからゆっくり休んでね」
何が分かったのだろう?
勝手な自己完結。だけど、チルノは受け入れた。
待ってくれるのだ。倒すのは後でも出来る。
安心したようにチルノは目を閉じる。
木々の緑とか、青い空と白い雲。舞う蝶に飛ぶ蜂。
全てが黒に染まって、意識も染まっていく。
その前に、チルノは尋ねる。

「あんた、誰?」

「あー、私?私はね魅魔っていうわ」
これが彼女との出会いだった。








ごくたまに魅魔が人間の子供を連れる光景を見かける
遠くからだから、よくわからないけれど。黒と白の異装の少女だったと思う。

あたしは見るだけで声はかけない。
なぜなら痛いことされるかもしれないからだ。

―――あれは、この前の光景だった。
チルノとは反対の、向こう側の茂みから変な牛が突然飛び出してきたのだ。

「魔理沙、よく見ておきなさい」

余裕など、油断さえない。あんな真剣な声音をチノルは聞いた覚えはなかった。

「星符 ドラゴンメテオ」

閃光ひとつ。
何がおきたのか分からない。
前後の差異はひとつ。
”変な牛”の姿が跡形もなく消えたことだ。
とまぁ、それ以降はアイツが誰かを連れてるときには近寄らないでいる。
近寄らないでいるのに、何故かチルノは襲われていた。
茂みも山道も、無関係にただ走り逃げる。
魅魔じゃない。もし、そうだったら話しかける。
だけど、相手は魅魔の連れである魔理沙とか呼ばれてた少女だった。

「っぅー!!なんで当たらないのよ」

背後から悔しげな、苛立った叫びと滅茶苦茶に飛び交う星型の弾幕が追いかけてきた。
今、過ぎ去った樹の枝が吹き飛ぶ。
威力は十二分だ、当たれば痛いだろう。

「……なーんかねぇ」

当たれば、の話。
先ほどから、チルノの斜め前方左右にばかり着弾していて、しかも弾数が少なく疎らに飛んでくる。
はっきりいって、余裕で勝てるとチルノは思った。
でも、逃げる。
理由は、なんとなくだ。攻撃を仕掛けたら多分、魅魔が来る。
魅魔が来て、そして……。
そこで思考が止まる。

「来て、どーなるんだろう?」

じぃり。
砂を食むような、異音。同時に、低空で飛んでいる体が地面に落ちる。
飛んでいた勢いのまま、砂埃を上げチルノは茂みに突っ込んだ。
突然の不調に、後ろを振り向くと六枚ある内の一つ。氷の羽に大きな穴が開いていた。

「あーー!あたしの羽が!?」

気付けば、深い森の中でかなり薄暗く、今しがた叫んだ言葉がやまびこのように何度も復唱された。
辺りの静寂に耳を済ませる……。
チルノはしばらく無言で時を過ごした。
結果、分かったことが二つ。
一つは、あの魔理沙という生意気なヤツが消えたこと。
そして、もう一つは。

「ここ、何処よ?」

チルノの呟きには、戸惑いと好奇心で上ずった響きがあった。
幻想郷は広く、だけど殆どの場所は飛び回っていたと思っていた。
しかし、現に知らない場所が有ることに笑みが浮かんでしまう。

「よーし、今日は冒険で決まりね」

鼻息荒く、意気込み陽の光さえ届かない森の中へ踏み出した。
ふと、鋭い気配が向けられる。
チルノが進む方向の左からだ。気配のする方を見ると、そこだけ一層、夜のように暗く見えた。
闇の中、光るものがあった。眼だ。険しい目付きで、きっと野犬に違いない。
ならば、それぐらいならば大丈夫。
楽勝ね。そう確信した。
絶対的な自信から、チルノは言葉が通じないと考えもせずに野犬へ声をかける。

「ふっふ!あたしは最強なのよ、さっさとかかってきな」

手のひらを返し、へいへいと誘うように挑発する。
しかし、物音一つしない。鋭い目付きは動きもせずにただ見つめているだけだ。
思っているのと様子が違う。
野犬じゃない?なら、あれは何?

「あんた本当に妖精?まぁ、どっちでも…倒せば同じ、ね」

闇から憔悴しきった声が届く。
ゆっくりと歩む音が次第にはっきりと聞こえてきた。
深い闇から現れたのは、そんな声に反して小さな人間の少女だった。
紺色の着物は所々に穴や継ぎ接ぎがある。
容姿が滅茶苦茶で、伸びて適当に放置されていると思われる髪が狼のようだ。
姿だけでなく、気配も獣染みている、こんな人間は見たことが無い。
チルノは少女に素性を尋ねる。
その間も少女は地を擦りながら近づいてくる。

「なによ、やるってのならやるけど。あんたって何?妖怪っぽいね」

尋ねる声には脅えの色が無い。
少女が少しだけ不思議そうに首を傾げた。

「”妖怪”?……私がどんな存在か分かるでしょ?少しは雑魚らしく脅えて怯えて、助けてって言いなさいよ」

ざっ。
少女がチルノの眼前で立ち止まる。
チルノの方が背が大きいので自然、少女は覗き込むように見上げて睨み付けた。
少女の威圧感は凄い。
何がすごいって、水中に居るみたく息苦しくて身動きが取りづらいのだ。
だけど、チルノはソレが分かるようで分からない。苦しいのと悲しいのが混ざったようなと変な気持ち。そう表現するしかなかった。

「うざいわ」

言い放たれる言葉。
少女の機嫌は一層悪くなったらしい。
何故、少女が危なくて、そして可哀想と思ったのかは興味が無かった。
だけど、少女に対しては興味がある。
だから、チルノは告げた。満面の笑みで、さも当然のように。

「よし!あたしと遊ばない?」












バカだ。


私がこの妖精に抱いた第一印象だ。
妖怪は人間に倒される。これは基本的なこの世界のルール。
全て結果が決まった物語。
ただただ繰り返される虚しいだけの、義務行為。
それが全てだ。

「よし!あたしと遊ばない?」
―――遊ぶ?

それがどんな行為を指して、どういう得があるのだろうか?
疑問が浮かぶ。
私は遊ぶという言葉を初めて聴いた気がした。
もちろんそんなことはない。神社に行くと遊んでる子供を見かける。
端から見ると、”遊ぶ”は子供達がぐるぐると同じところを走り回って追いかけている。
それだけのことであった。
しかし、子供達は皆、楽しそうだった。
走るなら、私の方が早く走れる。捕まえるだけなら罠を仕掛ければ余裕だ。
「嗚呼」
そこでふと私は気付いたのだ。

―――だから、私は遊べないのか。

子供達は持てる力を走る行為に費やしている。効率も無く、ただ我武者羅に。
それは『もっとこうすれば』と考える思想と知識が少ないからだ。
しかし、私にはある。妖魔を屈服させる程度の能力が。
それほどの力を使えば、子供達を超えてしまう。
超える。それは同じにはなれないということだ。
つまり、混じって遊べない。
だって、そうでしょ?
私は『子供』とはまた別の生き物なんだから。
だけど、この妖精ならば―――?
心臓が逸る。遊ぶ。そんな言葉に心が揺れたのが分かった。
気付けば、私は妖精にこう尋ねていた。




「遊ぶって何をするの?」









川辺に一つ、大きな岩がある。
じゃがいもを大きくしたような、座るには丁度良い具合の。二人はそこに腰掛けている。
私は足をぷらぷらさせて、時間を過ごしていた。
退屈ではない。
先ほどから、川の表面を滑る紅葉の枚数を数えていた。
そんな私の隣でチルノは器用にも岩から落ちないで気持ちよさそうに寝ていた。

「ぅ~」

寝言を漏らしながら寝返りをうつ。
大岩とはいえ、子供が三人すわれるかどうか程度の広さしかないのに。
奇跡的な安定感に感嘆してしまう。
落ちたらケガをしてしまうに違いない。
起きてもいいから、私はチルノの体を岩の真ん中、私の方へ引き寄せる。

「~、なによぉ。まだもうちょっとー」

寝ぼけた眼が若干開いて私を見たがすぐに閉じた。
すぐに健やかな寝息が聞こえる。

「……」

夏が終わった。
秋は静かな印象がある。妖怪もこの時期はあまり目立った動きを見せない。
私にとって好ましいことで、そのお陰で私も妖怪退治の代わりにこうしてゆったりと時間を過ごせる。
何気ない時間の大切さが実感できた。

チルノを見る。

出会ってから二ヶ月、しかし共に行動することが多かった。
こんな日常も良いと思った。
以前は修行と偽っての妖怪退治。私の親を殺した妖怪への復讐だ。
しかし、仇は居ない。
ならばと妖怪ばかりを退治している日々。
あの時、チルノが遊ぼうと誘ってくれなければ今の私は居ない。
私にとってチルノはバカだ。だけど、友達である。
かけがえのない、何か物凄く大事なものを手に入れた気がした。
私は万感の思いを込めて呟く。
「…ありがと」
夕日が山に落ちかけていた。












チルノは細めた眼で少女を見上げる。

「…ありがと」

赤く照らされた表情から呟かれた言葉に驚く。
以前は怖かった。殺すとかそんな言葉ばかり。
それが感謝の言葉。
違う。
そうじゃなくて、泣きたいと思った。
少女が夕陽に溶けて消える。そんな幻想が見えた。
嫌な予感がした。
胸にじわり、染みていく黒い圧力で上手に寝てるフリがしにくかった。










さよなら。
別れを告げる。

暗くなった森の中、チルノは羽を鳴らして飛び立っていった。
彼女が飛ぶと、蝶の燐粉みたいな氷の小さな欠片が舞って、闇の中でさえ煌いて綺麗なのだ。
青い背中が見えなくなって、私は帰路につく。

「と、その前に―――」

周囲を見渡し、数える。
ずうっと不快だった。かなりの大人数、ただならない物騒な気配の群れ。
鼻をつく獣の匂い。
はっ、嘲笑が込み上げる。堪え難いほどに、それは面白かった。
妖怪が人間みたいに群れを成して襲ってくるのだ。
あの妖怪様が、だ。
滑稽だ、群れを成さなければ私を襲えない。
単体じゃ襲えないぐらいに怖いなら闇夜に引っ込んでて。

「何がおかしい?」

真っ直ぐの方向から野太い声。
声は震えていて、恐怖か怒りか?……おそらく怒りだと思う。

「ふん。まぁ良い。だが、わからんな。なんでお前はそんなに余裕なんだ?」

人をからかうような含みを持たせた質問に、その意味が分からない。

「なぜって、……はぁ。それはあんた等如きに負けないぐらい私が強いからよ」

「ふーん?そうだな、お前は強いよ?さすが後継者って感じ」
……。

私を囲んで、周りからくすくすと笑い声が聞こえた。
集団で馬鹿にされて苛立ちが増す。
いつもと何か様子が違うことが不気味に思え、ふと気付く。

「まさか…?」

チルノが危ない?
一斉に忍んだ笑いがゲラゲラと品のない嘲笑に変貌した。
それがなによりの証だった。
「―――っ!!」
もうダメだ。
よし殺そう。さっさと殺して、向かおう。
一瞬で目標を定め、符を出す。

足を踏み出し、前方の糞を殺そうと力を込めて飛んだ。
はずが、足が何かに捕られ地面に転ぶ。

「ちっ」
無意識に舌打ちする。
時間がない。
こうしてる間にもチルノが危ない。
攻撃を食らって、いやもう殺される直前なのかもしれない。
もし、そうなったら。

嫌な想像に体が冷たく硬直した、私は叫んだ。
頭からクダラナイ妄想を振り払うために。
しかし、頭の内側にこびりついた様に妄想が消えない。
斧を持った二本足で立つ牛が茂みから駆け出して迫ってきた。

振りかぶり、斧を天高くまで持ち上げる。
あと一秒後に避けなければ脳天から割られる。
右足に力を込め、大きく離れた。

すると、落とされた斧が何かを裂いた。
さっき密かに私の背後から迫ってきてた虫の妖怪だ。
左肩から袈裟斬りに上半身と下半身を斜めに断った。
一匹退治。
思うより早く、視線が次の敵を捉える。
目玉で体が出来て、外見の凹凸が激しい妖怪。

「夢符っ!?」

視界が上下に回った。足首に鈍い痛み。
見ると木のつるみたいな物が撒きついて、私を上空にぶら下げた。
つるを切る暇もなく、私は背中に強い衝撃を覚えた。
地面に叩きつけられたのだ。
薄れつつある意識の中、あーヘマしたなぁと思った。

アイツは、チルノは平気だろうか?

それだけが気がかりだった。












自分達の囲んだ中心で呻く人間の少女を見て、一気に歓声が湧く。

やったのだ、と。

妖怪達は喜ぶ、この人間は危険だった。
近い将来に自分達では手にも負えない存在になる。
それはつまり、好き勝手ができなくなるということ。
今ならば、やれる。
そう思い、痩身の青年に化けた蜘蛛の妖怪はこうして同士を募ったのだ。
それが実った。
端から見れば、まるで人間のような行い。
普段ならそれは恥じる行為だが、妖怪のままでは倒せない。やり方を変える必要があったのだ。
皆、心の底では気付いていた。
これは恥だ。
しかし、それでもこの少女にはそこまでする価値があると思う。

ぱちぱち。

不意に通りが良い拍手が聞こえる。
音もなく、少女の傍にそれは闇から浮き上がってきた。

「あはは、まるで人間のように小ざかしい。醜悪な妖怪が小奇麗な人間の真似事。これはどこの演劇?嗚呼、馬鹿みたいね」

明るい緑色のマントと帽子の女性は、妖怪たちの今しがたまで無視してた劣等感を突いた。
一人の妖怪が襲い掛かる。
「アステロベイト」
天蓋で幾つか星が光った。
光って、それは落ちてきた。的確に。

「あう?」

襲い掛かった妖怪の真上に星が落ちる。
爆音。地面が揺れて、妖怪の在った場所には大きく凹んだ穴しか残っていない。
「なっ?」
誰かが呟いた。
しかし、それもすぐに掻き消える。
幾つも落ちてきた星の弾幕によって。
一瞬だった。
十五いた妖怪が一気に五匹に減ったのだ。
星の着地点が歪な円を描いていた。
恐ろしいことにその場所にいた妖怪達の姿は無い。
圧倒的で、さすがに劣勢を感じる。
残った妖怪が逃げていく、そんな中、人間の型をした蜘蛛の妖怪だけが姿を現した。

「どうしたの?貴方は逃げないの?」

「嗚呼、馬鹿が!気付かねぇのかよ!?これが、見えないのか?」
げらげら。
口まで裂けた人間は笑う。胸に抱いた少女を見せ付けて。
「あっははは、これでどうだ?手出しできるか?できないだろうが!ひゃははは」

「どうって、……」
女性は腕を組んで、あははと苦笑する。

「ホントどうしようもないわね。貴方達がなぜ徒党を組んだのか。その理由も忘れたの?」


―――空白。

「は?」
上空をくるくると何かが舞った。
木の枝みたいな、それは人間の手だった。

「う、うわぁあぁ!?」

少女が蜘蛛の顔面を強打し、腹部を蹴って距離をとる。
何が起きたのか、分からない。
ただ一瞬だけ、なにか光ってそしたら

「俺の手が!!」

醜悪な叫び声。余裕が微塵も感じられない。

「コロス!絶対ころ、す?」

少女に飛び掛ろうと蜘蛛が動いた、しかし動かない。
動けなかったのだ。
まるで石のように硬く、氷のように冷たい感触。
後ろを向くこともかなわぬまま、蜘蛛は最後に声を聞いた。


「パーフェクトフリーズ」








蜘蛛は粉々に砕けた。綺麗さっぱり終わったのだ。

「チルノ!」

少女が叫んだ。
魅魔はその事実に驚いた。
彼女は今まで人形のようだった。
義務で妖怪を狩り、親が死んでからはその傾向がより顕著になっていたのだ。

それがあの氷精のためにあんなに声を張り上げ、駆け寄っていく。

「変わったわね、…だけど」

少女の変化は嬉しい誤算だった。
魔理沙を使って出会わせるようにしたのは自分だけど、まさかここまで良くなるとは考えもしなかった。
だからこそ、今はそれが裏目に出たことが悲しく感じる。

「うそっ!?」

絹を裂いたような絶叫が響く。
気配から、やはりと思ってはいたけれど、実際に目の前にするとチルノの様子は酷かった。
青い服なのに、腹の辺りが赤く染まって、右腕が肘から先が失われていた。

一人で妖怪の群れを突破してきたのか。

額から一筋の血線が引いていた。
目を瞑っていてもわかる弱弱しい気配。
魅魔は少女たちに近寄る。
膝から崩れたチルノを少女が泣きながら抱き支えていた。

「なんでよぉ、さっさと逃げれば良かったのに馬鹿!」

「うるっさいわ、馬鹿はあんたよ…」

薄笑いを浮かべて答えるチルノと泣き喚き、叫ぶように叱る少女。
二人は気付いているに違いない。
別れはいつだって突然だ。
厳かに呟く。

「その妖精はもう駄目だ。助からないな」
「うるさい、ころすわよ」
語りかけるのを止め、沈黙したまま見据える。

「チルノは最強なんでしょ?だったら消えないでよ」

「そうよ、あったりまえ。誰が死ぬ……」

不意に途切れた言葉。
少女が、小さく「うそ」と呟いた。
静かになったチルノの体が薄く発光していく。

「なに、これ?」

「…妖精だからね。自然に還るの。一番摂理に忠実な奴等だから仕方ないわよ」

そう教えると、少女はただ黙って光を抱きしめた。


夜が明けるまで、ずっと私たちは此処に居た。









博霊 霊夢は布団から起き上がる。

…懐かしい夢を見たわ。

「そういえば、あの後どうなったんだっけ?」

ぼんやりと薄く考えながら朝の支度を始める。
すると、外から騒がしい剣幕が聞こえてきた。
廊下を軋ませ、白い障子紙の戸をあける。開けたら、そこは境内だ。

「あー!霊夢、今日何して遊ぶ!?」

嗚呼、そうだった。

満面の笑みと組んだ腕がなんとも偉そうで幼稚な態度に見える。
だけど、あれが私の友達だから仕方が無い。
あの時も何食わぬ顔でいつのまにか現れたのだ。
隣で魅魔が「ありえない」とか、なんとか。
彼女が眼を丸くするぐらいのことだけど、チルノなら平然とそういうことをするのだ。

「妖精だから?いや、一端還ったんなら別の形に…のハズだけど、うーん?」

ぶつぶつと何か呟いていたけどわからない。
理屈じゃないのだ。
チルノは馬鹿だから仕方ない。




――――それでも、霊夢は馬鹿が大好きだった。
幼少霊夢とチルノの組み合わせって良いかもとか、そんな感じで書き始めてから早一ヶ月。
他の人ってどのぐらいの早さなんですかね?
まぁ、置いといて。

えー、話的には霊夢とチルノが遊んで魅魔が見守っていたって話なんですけども。
難しい。やっぱりちょくちょく書くのが一番ですね。
最後の一文が書きたかっただけの話。
楽しんでもらえればこれ幸いです。
設楽秋
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コメント



0.760簡易評価
4.90創製の魔法使い削除
うん、凄く良かったですww
次も楽しみにしています
6.無評価設楽秋削除
その一言がありがたいです
目を通していただけるなら、また来月頃に宜しくお願いします
10.80日中削除
幼少霊夢とチルノっという組み合わせが意外で、面白かった。
題名も良かったかと。次も期待してる。