Coolier - 新生・東方創想話

悪魔の薬

2007/07/06 10:17:12
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この話は東方妖怪小町in紅魔館の話と少し関連してます。
大雑把に説明しますと
以前、妖夢と鈴仙は10日ほど紅魔館でメイドとして働き
そして紆余曲折を経て、咲夜に近いほどの瀟洒さと
眠らせてた力を得た。
と言ったところです。
この作品を読んで頂ける方は、以上の事情があったとご理解のうえ、お読みください。
























まだ陽の高い時間。
竹林の中で争う影が二つ。

「どうした!?もうバテたのか!?輝夜!!」
「冗談でしょ?息上がってるのは貴女の方じゃない?妹紅」

不死の二人が激しくぶつかり合う。
それ自体は、この竹林では珍しい光景ではない。
が、この二人がぶつかり合うのは主に夜だ、
それを考えると、この光景は珍しいと言える。
加えて、周りでは永琳、鈴仙を始めとした永遠亭の者達まで戦闘を繰り広げている。
無論、侵入者たちと、だ。

「さて、何時までも貴女一人にかまけても居られないのよ」

輝夜が攻撃の手を止めて語りかける。
「はっ!だったら私を倒してみるんだな!!」
妹紅が言うと同時に攻撃を仕掛ける。
輝夜はそれを最低限の動きで避け、

「言われなくてもそのつもりよ」

そう言って力を高め始めた。
「っと……どうやら本気みたいだな」
その力に妹紅も警戒する。
「行くわよ、妹紅」
妹紅を睨みながら輝夜はそう言う。
「来い、輝夜!!」
妹紅のその言葉に呼応するように輝夜は力を解き放つ。



「ラストスペル!!!」






ここで時間は前日に遡る。
何故、こんな戦いが巻き起こっているのか?
それは、ひょんな事から永琳が作り出したある薬が原因だった。

「こ、これは……この薬は………」
永琳は完成した薬を前に苦い顔をする。
「永琳、居る?」
そして、そこにタイミング悪く永遠亭の主である輝夜が顔を出した。
「ひ、姫!?」
「どうしたの?そんなに驚いて……あら?その薬は………?」
永琳が咄嗟に隠した薬に輝夜は興味を持つ。
「え?い、いえ、なんでもありません。只の失敗作です」
永琳はそう言うが、只の失敗作なら慌てて隠す筈は無い。
怪しいと思った輝夜はそれを追求する事にした。
「永琳。今隠した薬、何かしら?」
笑顔を貼り付ける、という言葉がまさに当てはまる表情で輝夜は問う。
「ですから、只の失敗作です」
あくまで冷静に永琳は返す。
「あら?貴女が失敗するなんて珍しいわね。折角だから、その珍しい代物を見せて貰えるかしら?」
が、退屈していた所に面白そうな事が起きている輝夜には通じない。
「見ても面白い物ではありませんよ?」
「面白い、面白くないは私が決めるわ」
そこで輝夜は思い至る。
永琳は「只の失敗作」を作ったのではなく、「只では済まない失敗作」を作ったのではないかと。
「永琳」
「ですから……」
「見せなさい」
表情を一転させて、厳しい顔つきでの命令。
流石に永琳も覚悟を決めて、その「失敗作」を見せた。
そして、そのラベルを見て輝夜の顔がサッと青ざめる。
「永琳…………貴女、それ……」
「作ろうと思ったわけではありません!偶然に、本当に偶然に出来てしまったのです!!」
その薬はまだ試用はしていないが、薬の成分等から永琳にはその薬の効能がわかっていた。
だから、封印する前に後で解り易い様、名前を付けたのだが……それが裏目に出てしまった。
「そうだとしても…………なんて物を作ってしまったの……貴女は」
「も、申し訳ございません」
「謝罪は良いわ。これは悪魔の薬よ。早く封印し……」

トントン………

輝夜が最後まで言い終える前に、控えめに戸が叩かれた。
「誰?」
永琳が問い返す。
「私です」
答えたのは永琳の弟子の鈴仙。
「何の用かしら?今、ちょっと立て込んでるの」
「先日取材の約束をした文さんが参られ………あれ?」
戸の向こうから鈴仙の戸惑いの声が聞こえる。
「どうしたの?」
「いえ…連れて参りましたので、先程までこちらに居たのですが………」
その言葉に永琳、輝夜共にバンッ!!と戸を開ける。
「うわっ!?」
急に戸が開けられて鈴仙は驚く。
「今、来てたの!?あの天狗が!?」
永琳が鈴仙に問い詰める。
「え、ええ。ほら、先日、胡蝶夢丸の売れ行きの取材をしたいと言って来たじゃないですか」
因みに、その時は永琳の手が離せなかったので、別の日に、という事になり、
そして、その別の日の約束をしたのが今日だったのだ。
「まさか……いえ、間違いないわね」
輝夜は確信を込めて呟く。
「あれ?姫も居たんですか?珍しいですね」
事情が飲み込めていない鈴仙は暢気にそう言う。
「そんな事より、うどんげ」
「あ、はい」
「総員第一次戦闘配備よ」
「え、えぇ!?」
急に永琳にそう告げられて驚く鈴仙。
「恐らく、早ければ明日には敵が来るわ」
「て、敵?」
「そう、敵………恐らくは、幻想郷の大半がそれに当たるわね」
「えぇ!?な、何でですか!?」
事情が解らない鈴仙は只々驚くばかりだ。
「説明は後よ、イナバ。早く、てゐを始めとしたイナバ達全員に通達しなさい」
「あ、は、はい!」
何時に無く真剣な二人の表情を前に、鈴仙も只事ではないと知り、走っていった。

そして翌日

永琳の予想通り、多くの妖怪達が永遠亭へと詰め寄せて来た。


「師匠!本当に来ましたよ!!」
鈴仙が居間に居る永琳に報告をする。
「やっぱりか………」
溜息を吐きながら永琳は言う。
「あの時から解っていた事よ、永琳。今は対処を考えましょ」
「そうですね………」
妖怪達が詰め寄せて来た理由。
それは今朝の事がきっかけだった

今朝配られた新聞が………




文々。新聞

先日、永遠亭を訪れ取材を行おうとした際に、室内より不穏な発言を確認。
詳しくは聞き取れなかったが、聞こえた内容は以下の通りだ。
とんでもない薬を作り上げ、それを「悪魔の薬」と呼称していた。
作れない薬は無いと言われる、あの「天才」ならば、確かに「悪魔の薬」とやらも作れてしまうかもしれない。
残念だが、現段階ではそれ以上の情報入手は不可能だった。
引き続き調査を進める予定だが、相手が相手だけに慎重に行いたい。
その「悪魔の薬」が幻想郷に影響を及ぼす物でない事を祈るばかりだ。

と言う内容の物だった。



先日、偶々永琳と輝夜の会話の片鱗を聞いた文は、それをネタに新聞を書き上げ、配ってしまっていた。
真実を追究するという彼女らしからぬ、大半が推測による文面だが、それほどネタに困っていたのかもしれない。
何にせよ、これにより永遠亭は幻想郷の多くの者を敵に回してしまった。
最も、元来天狗の新聞と言うのはそこまで信用されておらず、全員が全員押しかけて来てる訳ではない。
とは言えども、結構な数が来ている事には変わりは無い。
「数はどれくらい?」
永琳が鈴仙に尋ねる。
「およそ300前後かと」
「大物は居るかしら?」
「え~っと、斥侯から「あたいったら最強ね!」と言う言葉が聞こえたとか」
「⑨ね……それ以外は?」
「いえ、それ以外は特に特徴のある者は居なかったようです」
「そう。なら、てゐ率いるイナバ部隊で応戦させなさい」
「はい」
「ああ、先に言っておくけど、くれぐれもこちらから手を出さないようにね。あくまで防戦に徹しなさい」
「え?何故ですか?」
「後で解るわ。今はただ、そう伝えておきなさい。それから、貴女も前線で待機しておいて」
「わ、解りました!」
永琳の指令を受けて、鈴仙は走っていく。

暫くして、遠くから戦闘の音が聞こえてきた。
「最初は小物の集団………か」
「大方、あの天狗の新聞を鵜呑みにした知能の低い妖怪、妖精達でしょう」
永琳は新聞の事は知らないが、今、このタイミングで妖怪達が攻めて来るなど、それ以外に考えられなかった。
因みに、この妖怪達の中でかなりの力を持つと思われる⑨ことチルノだが、
出会い頭にてゐに
「9-1は!?」
と問われ、以降、ずっと頭を悩ませて考えていた。
「さて、それじゃあ…」
「ええ、次は恐らく面白半分で………」
永琳が言い掛けた瞬間
「師匠!第二波来ました!!」
居間にある通信機に鈴仙の声が飛び込んできた。
余談だが、永遠亭には月の技術を利用した高度な文明の代物が結構ある。
「相手は?」
今度は輝夜が尋ねる。
「モノクロとカラーの魔法使いコンビです!!」
モノクロ=白黒
カラー=多彩な色
詰まるところ、魔理沙とアリスだ。
「流石にイナバ部隊じゃ抑えられないわね」
「ですね。うどんげ、聞こえる?」
「はい、聞こえます!」
「貴女、今、門の所に居るわよね?」
「はい」
「なら、その門の裏に箱が置いてないかしら?」
「あ。ありました。」
「では、命令するわ。その箱に入っている物に着替えてモノクロとカラーを迎撃しなさい」
「わ、解りました!」
鈴仙の返事と共に通信がプツンッと切れる。
「何を用意したの?永琳」
「今に解りますよ」
思わせぶりな笑みで永琳は返す。
それから少しして

「あ、あの、師匠?」
鈴仙から再び通信が入る。
「準備は良いかしら?うどんげ」
「いえ、あの………なんで、この服なんですか?」
「質問は受け付けないわ。準備が出来たのなら、門の所にあるスイッチを押しなさい」
「スイッチ……?あ、ありました」
「なら、押しなさい。ミュージックスタートと共に出撃よ!」
「ミュ、ミュージック?ま、まぁ、取り敢えず押します………」
そして、鈴仙がスイッチを押すと




ズーンズーンズーンズーンダッダ
ズーンズーンズーンズーンダッダ


新世紀な音楽が流れ始めた。











「汎用人型決戦兵器!ウドンゲリオン初号機!!発進!!!」




「突っ込み所が一杯過ぎて突っ込めませんよ!!師匠!!!」
鈴仙の悲鳴が響いた。
「誰かと思えば、うどんげじゃないか」
永琳に非難の声を上げながらも、鈴仙は魔理沙達の前に立ちふさがっていた。
「うどんげ言うな!!」
「と言うか、何よ?その格好」
アリスに格好の事を突っ込まれる。
鈴仙の格好、それは………



「何でメイド服?しかも、あの従者並みにスカート短くない?」


そう、以前紅魔館で働いた時の物だった。
当然、その下に履いているショーツも過激な物だ。
「うぅ……これは師匠の命令で仕方なく…………」
「まぁ、前から短いスカートだったし、あまり変わらないかしら?どっちにしろ、はしたないわね」
アリスの「はしたない」と言う言葉に鈴仙は反応した。
「はしたない………?完全で瀟洒な訓練を受けた私にはしたないと言ったの?貴女」
鈴仙が表情を変えてアリスを睨む。
「気をつけろ、アリス。理由は良く解らんが、こいつは前より遥かに厄介になってるぞ」
「……そうみたいね。魔力の量が以前と段違いだわ」
「はしたないかどうか………貴女自身の目で確かめなさい!!!」
台詞と同時に弾幕を放つ。
「その程度!」
「気を付けろ、アリス!!」
「え?な………?何処に行ったの!?」
弾幕を避け終えたアリスの視界には、既に鈴仙の姿は無かった。
「相変わらず厄介な………」
「ちょっと、あの兎は?」
「多分、その辺りに居るぜ」
「何処よ?」
「さてな……それが解れば苦労しないぜ」
「一体何なの?」
「お喋りしてるなんて余裕ね」
突如、アリスの耳元で鈴仙の声が聞こえた。
「っ!!」
振り向きざまに弾幕を放つ。

「馬鹿!そっちじゃない!!」
振り向いた場所に鈴仙が居ないどころか、真横から弾幕が迫っていた。
「なっ!?」
寸での所でアリスは回避する。
「流石にあの程度じゃ無理か………」
四方八方遠近様々な距離で鈴仙の声が聞こえてくる。
正直、頭が変になりそうな状況である。
「何なの、あの兎………」
「どうやら、あいつは気の波長を操るようだぜ」
「気の波長?」
魔理沙は、以前やられた後に阿求の幻想郷縁起を読み、鈴仙の能力を知った。
そして、それをアリスに説明する。
「ったく、幻覚の様なものね……」
「かなり厄介だがな」
「締まっていかないと不味そうね」
「ああ、気合を入れていくぜ!!」
「来なさい!返り討ちにしてあげるわ!!」

「鈴仙とあの二人も戦闘に入ったみたいね」
「はい。しかし、そろそろ第三波が来る頃かと………」
その言葉を待っていたかのように通信が入る。
「永琳様!輝夜様!!奴等が来ました!!」
てゐからそう告げられた。
誰が来たのかは二人とも察している。
「ですが、一人ではなく、あのワーハクタクも一緒です!!」
やはり、二人ともそれも予想済みだった。
ワーハクタク、つまり、上白沢慧音が一緒と言う事は、もう一人は言うまでも無く、藤原妹紅だ。
永遠亭が問題を起こせば、因縁のある妹紅が真っ先に仕掛けてくるのは目に見えていた。
が、妹紅は新聞など普段見ないだろうから、情報入手及び永遠亭への突撃が他の者より遅れた。
慧音も半信半疑ではあるが、念の為、と言う事で妹紅に付いて来ていた。
「ワーハクタクが来ている……か」
永琳が呟く。
「それがどうかしたの?永琳」
想定内の事なのに、という表情で輝夜が尋ねる。
「てゐ」
「はい」





「月は出ているかしら?」




「はい?」
いきなりの素っ頓狂な質問に、思わず聞き返すてゐ。
「月は出ているのかと聞いているのよ!」
「え~………っと、永琳様?今はお昼前で、月なんて欠片ほども見えませんよ?」
そう、今はまだ昼前だ。
月など出ている訳が無い。
「それに、今日は満月じゃないですから、別に出てても何も変わらないのでは?」
てゐが当然の疑問を口にする。
「ごめんなさいね。ちょっと言ってみたかっただけよ」
通信機の向こうでてゐがズッコケた音がする。
「もう、変な冗談止めてくださいよ………」
「ごめんなさいね、その二人はこっちで受け持つから、貴女達は先発隊を引き続き相手していて頂戴」
「解りました!」
そう言って通信が切れた。
「さてと……それじゃあ、私が行くわね」
「お手を煩わせて申し訳ございません、姫」
「別に良いわよ。偶には運動しないとね。時に永琳、あっちはどうなってるの?」
「ご安心ください。既に手は打ってあります」
「そう。それじゃ、行ってくるわね」
そう言って輝夜は決して急がず、淑やかに部屋を出て行った。

輝夜が出て行ってから暫くして、最後の敵襲報告が入ってきた。
それが誰かは永琳には解っていた。
「やっぱり来たわね……博麗の巫女」
正直、博麗の巫女、霊夢が来るのは五分五分だった。
新聞を鵜呑みにはしないだろうが、異変があれば真っ先に駆けつける巫女だ。
今回の事を異変の前触れか何かと受け取れば、恐らく来るだろうと思っていた。
反面、そう取らなければ恐らく来なかっただろう。
他の誰かに解決を任せて。
しかし、やって来た。
恐らくは、幻想郷に置いて最強のスペルカードプレイヤーが。
永琳は腰を上げた。
正直、自分の力を全力行使すれば、霊夢と対等に戦えよう。
が、永琳は輝夜の手前では決して輝夜以上の力を使おうとしない。
それ故に、己の力量以下の相手に負けることもあるのだ。
とは言え、その勝っている者達は皆、一級品の腕の持ち主であるが。
しかし、今回は霊夢を撃墜するのが目的ではない。
策を講じれば何とか持たす事は出来よう。
永琳は決戦の場に向かいながらも、その天才的頭脳をフル回転させていた。


「また何か面倒起こしたみたいだね、輝夜」
「別に、そんなつもりは無いわ。あの天狗が勝手に有る事無い事言いふらしただけでしょ?」
輝夜と妹紅は竹林の空中で対峙する。
「どうだかな。お前達は何を考えてるか解らん節があるからな」
「あら?何を考えてるか解らないなら、あの隙間妖怪の方が上だと思うわよ?」
「否定はしないけどね、五十歩百歩って奴だよ」
「何言ってるのよ、五十と百じゃ倍も違うわ。大違いじゃない?」
「減らず口を………今、その口を黙らせてやる!!」
「面白いじゃない、やってみなさい」
「慧音!手を出すなよ!!」
妹紅は後ろに控えていた慧音にそう言う。
「ああ、解ってるよ。なるべく早く終わらせてくれよ?」
「瞬殺してやるさ!!」
「出来るかしらね?」
輝夜と妹紅の戦いの火蓋も切って落とされた。


「止まりなさい、博麗の巫女」
永琳が霊夢の前に立ちはだかる。
「断るわ」
「言うと思ったわよ」
はぁ、と溜息を吐きながら永琳は言う。
「なら、聞かなきゃ良いじゃない」
「念の為よ」
「面倒ね。それで、あんた達今度は何しでかしたの?」
お払い棒を突きつけて霊夢が尋ねる。
「何もしてないわよ。あの天狗が勝手に騒いでるだけよ」
「それにしては、いやに厳重に布陣が固められてるじゃない」
「当然でしょ?ゴシップ記事のせいで侵入なんて嫌に決まってるじゃない」
「まぁ、それは確かにそうね」
「解ったなら帰ってくれるかしら?見ての通り、他が取り込んでるのよ」
「そうも行かないわ。ここまで来て手ぶらなんて面白くないじゃない」
「お土産あげましょうか?」
「あんたの家から勝手に貰ってくわ」
「どっちが悪者なんだか………」
「もちろん、あんた達よ」
「そこまでキッパリ言われると反論する気も失せるわ」
「ついでにそのまま戦意も喪失してくれない?」
「それはお断りするわ」
「じゃあ、しょうがないわ………力ずくで通して貰うわよ!!主にお土産の為に!!」
(何しに来たのかしら?この娘は)
永琳は軽い頭痛に襲われた。
「余所見なんて余裕じゃない!!」
霊夢は額を押さえて下を向いた永琳に容赦なく弾幕を打ち込む。
「しょうがないわね……人の庭で戦うとどうなるか、教えてあげるわ」
そう言って永琳は弾を避け、弾幕を展開し始める。
「………何、それ?」
それは霊夢が見た事の無い弾幕だった。
「普段の実体の無い、力を打ち出した弾と違い、これらは実体のある弾よ」
永琳が展開しているのは野球ボール程の大きさの球体だった。
そして、それらを霊夢めがけて飛ばす。
弾の大きさが小さいだけあって、速度は結構速い。


「遊んでるの?」

そんな物は百戦錬磨の霊夢には止まって見えていた。
無論、難なく回避される。
「遊ぶ?そうね、遊んでいるわ」
永琳は霊夢にそう返す。
「薬の作りすぎでついに頭変になっちゃったの?まぁいいわ。さっさと終わらせてもらうわよ!!」
そう言って霊夢が永琳との間合いを詰めようとする。



ゴゥンッ!!

「きゃっ!!」

が、その霊夢の眼前を何かが横切った。
永琳は余裕の笑みを浮かべている。
「い、今のは……っ!?」
呆けている間に更に斜め前方から高速物体が飛来する。
「い、一体!!………こ、これは…!!」
霊夢は漸く気づいた。
それらが、先程、永琳が打ち出した弾である事に。
「ま、まさか……これは…!!」
「ご名答よ。態々実体の弾を使ったのはこう言う理由よ」
永琳が打ち出し、霊夢に避けられた弾は、竹に当たった。
竹は硬く、そして良く「しなる」
竹に当たった弾は、そのしなりの反動で球速を少し増して跳ね返る。
跳ね返る方向は、流石に滅茶苦茶だが、竹に当たれば当たるほど威力がドンドン増していく。
「っく!!な、なんで、あんたの所に行かないのよ!!」
霊夢はこれなら永琳にも被害が行くはずと思っていたが、永琳に弾が飛んでくる事は無かった。
「あら?お忘れかしら、霊夢。私は「天才」なのよ?」
「ま、まさか…………!!」
そのまさか、なのだ。
永琳は既に竹の反射角などを計算し終え、ほぼ確実に弾が飛んでこない位置に佇んでいたのだった。
「踊りなさい、霊夢。出来れば優雅に、ね」
「こ、この…!!こんな物で私が……!!!」
霊夢は永琳に近づく事も出来ずに必死に避けていた。


そして、場面は冒頭に戻る。


「どうした!?もうバテたのか!?輝夜!!」
「冗談でしょ?息上がってるのは貴女の方じゃない?妹紅」
強がるものの、輝夜は少し息が上がり始めていた。
「さて、何時までも貴女一人にかまけても居られないのよ」
輝夜が攻撃の手を止めて語りかける。
「はっ!だったら私を倒してみるんだな!!」
妹紅が言うと同時に攻撃を仕掛ける。
輝夜はそれを最低限の動きで避け、

「言われなくてもそのつもりよ」

そう言って力を高め始めた。
「っと……どうやら本気みたいだな」
その力に妹紅も警戒する。
「行くわよ、妹紅」
妹紅を睨みながら輝夜はそう言う。
「来い、輝夜!!」
妹紅のその言葉に呼応するように輝夜は力を解き放つ。



「ラストスペル!!!」











「え~りん!え~りん!たすけてえ~りん!!」





戦場に出ていた者全員がずっこけた。
正確には永琳と未だ悩み続けているチルノ、そして必死に弾を避けてる霊夢を除いて、だ。
「こ、この期に及んで他力本願か!!!」
そう怒鳴りつつも妹紅は永琳の方を見る。
流石に永琳が来るとなっては状況が大分変わる。
慧音の手助けも必要になるだろう。
そして、永琳は





「ヤですよ」



拒否った。

「えーりん!?」
「私だって今、博麗の巫女と戦闘中なんですよ?」
が、実際は霊夢の相手は乱雑に飛び回る球体で、永琳は手が空きまくっている。
「思いっきり暇そうじゃない!」
「いえ、万一博麗の巫女が突破して来た時の為に待機せねばなりません」
その言い分は最もだ。
「良い?えーりん」
「何ですか?」
「私、姫。貴女、従者。OK?」
「ノゥ」
永琳はノータイムで返答した。
「ノゥ!?」
「普段から引き篭もってるからそう言う事になるんですよ、自分で何とかして下さい。ぶっちゃけメンドイので」
「ちょっ!?それが本音!?」
「はい」
「しかも即答!!」
もはや漫才と化していた。
「おい、輝夜」
見かねた妹紅が話しかける。
「何よ、妹紅。今取り込み中よ?」
「いや、もう良いから、お前死ね」
妹紅の背後に不死鳥が現れる。

その時

「姫!!」
今度は真面目な永琳の声が響いた。
その言葉に輝夜の表情がニヤッとなる。
「なんだ?ついに頭もイカれたか?輝夜」
「いえ、態々律儀に待っててくれてありがとう、妹紅」
「何?」
「お陰で時間稼ぎは成功よ」
「な、何だと?」
「てゐ!!!」
永琳は今度はてゐに呼び掛ける。
てゐはその言葉で何かを察し
「じゃあ、防戦はここでお終いね」
そう言ってイナバ部隊を後退させた。
突如後退したイナバ部隊に、これ幸いと妖怪達が突撃を掛ける。
只一人、てゐだけが前線に残って、立ちはだかっていた。
「こうなったらねぇ……」
突如、てゐの背後に後光が差し、そして










「グレート山田アターーーーック!!!」




「誰が山田ですか!!私を山田という者は皆有罪!!ついでに巨乳は全員、死・刑!!!」



閻魔の裁きの光が妖怪達をなぎ払う。
というか、それで良いのか?東方裁判。
因みに、山田と言った張本人のてゐはちゃっかり攻撃範囲から逃げていた。
「あたいの出番、無かったねぇ」
後から現れた死神が呟く。
「これにて閉廷!!」
ビシッ!と悔悟の棒を突きつけて、閻魔こと四季・映姫・ヤマザナドゥが締める。


「ヘヴィだぜ………」
その光景を見ていた魔理沙はそう呟いた。
「って、何でこんな所に閻魔が居るのよ!!」
アリスが当然の突込みをする。
「閻魔様だけではないぞ」
その言葉に反応して二人は振り向く。
そこには



「だから、何でメイド服なのよ」


メイド服を着た妖夢が居た。
「いや、これは、その………」
妖夢は幽々子の命令で3日に1回、メイド服を着る事になっていた。
「え~?可愛いじゃない。ねぇ、妖夢ぅ」
そして、幽々子も居た。
「わっ!抱きつかないで下さいよ!幽々子様!!」
「良いじゃないのぉ、減る物じゃないし~」
「そう言う問題じゃありません!!」
真っ赤になりながら必死に抗議する妖夢。
「妖夢?それに西行寺のお嬢様?」
予想外の乱入者に鈴仙が驚く。
「お久しぶりです、鈴仙さん。援護に来ました」
「援護?え?え??」
鈴仙は依然混乱している。
「聞いてませんか?」
妖夢が尋ねる。
「あ~、そう言えば、あの薬師が、「うどんげは人を騙すの下手そうだから教えないで置くわ」って言ってたわよぉ」
てゐが映姫の援軍を知っていたのは、永琳から聞いていたからだった。
詐欺兎と呼ばれるだけあって、その程度の「振り」なら余裕だろう。
「師匠、ひどいです………」
鈴仙はちょっと泣きそうだった。
「さて、もしかして状況悪化したかしら?」
アリスが魔理沙に問いかける。
「ああ、かなりな」
魔理沙はやれやれといった風に首を振る。
「あの二人のコンビネーションは抜群の上、幽々子まで来やがった……はっきり言って最悪だ」
「はぁ……貴女に付き合うと、いつもこうよね?」
「それは言いっこ無しだぜ」
「後で何か見返りよこしなさいよ?」
「解ってる」
「さて、どうしましょうかねぇ」
「向こうの出方を見たほうが良いな」
鈴仙達も無闇に手を出そうとはせず、結局睨み合いが続いていた。


「閻魔に死神に幽々子?一体何なの?」
霊夢は夢想封印をぶっ放して窮地を脱した。
さっさとやれば良かったと思うのだが、ギリギリまで使わないのは、ある種プライドのような物だった。
「ったく、この調子だと紫まで出て来そうじゃない」
霊夢がそう呟いた時

「呼ばれて」

「ん?」
何処からともなく声がした。
そして

「飛び出て♪」

ドスッ!

「あぐっ!?」
霊夢は腋を傘の先で突かれた。
「ほら、出てきました♪」
出てきたのは霊夢の呟きに応じたかのような、八雲紫だった。
「って、あら?どうかしたの?霊夢」
腋下を抑えて蹲っている霊夢に紫が尋ねる。
「あ、あんたねぇ………」
涙目で霊夢は紫を睨む。
「お呼びだと思ったから出てきたんだけど」
「呼んでないわよ!!」
叫ぶと同時に弾幕を放つ霊夢。
だが

「いってきま~す♪」

そう言って紫は隙間の中へと逃げた。
「そのまま帰ってくるな!」
閉じていく隙間に霊夢は叫ぶ。

「ただいま♪」

ドスッ!!

「うぐっ!?」

再び、今度は逆の腋を傘の先で突かれる霊夢。
「あら?また蹲っちゃって……お腹でも痛いの?」
痛いのは恐らく腋下だ。
「八雲紫」
永琳が背後から紫に呼び掛ける。
「あら、薬師」
「援軍感謝するわ」
「気にしなくて良いわよ。それよりお姫様の所に行ってきたら?」
「そうさせて貰うわ」
永琳はそう言って輝夜の方へと向かっていった。
「ゆぅかぁぁりぃぃぃ!!!」
振り向くと、そこには怒りに満ちた霊夢が居た。
「そんなに怒ったら可愛い顔が台無しよ?」
「五月蝿い!!!」
霊夢は再び弾幕を放つ。
そして、再び隙間に消える紫。
今度は霊夢も辺りを警戒する。
そして、自分の背後で何かを感じ取り、振り向く。
予想通り、隙間が開こうとしていた。
「そこぉ!!」
そして、隙間の中に弾幕を放り込む。



「居ない!?」

隙間の先に紫は居なかった。
そして

「ハッズレ~♪」

霊夢の背後の足元から紫が飛び出し



ズンッ!!



「ひぎぃっ!!!」


お尻を傘の先でぶっ刺した。
思わず、お尻を押さえて前のめりになる霊夢。
「う…ぐ……ああぁぁぁぁぁ………!!!」
霊夢は悶絶している。
「あら?ちょっと外れちゃったわね」
紫の傘は「穴」には入らず、尾骶骨を直撃していた。
それはそれで凄く痛いのだが。
「ぐ…後ろとは言え、傘なんかで純潔散らされて溜まるか!!!」
霊夢が何とか立ち上がりながら叫ぶ。
が、まだ痛いのか、片手でお尻を押さえている。
「じゃあ、前ならオッケー?」
「もっとダメに決まってるでしょうが!!!」
当たり前だ。
「もう許さない……っ!!」
霊夢は今にも夢想天生をぶっ放しそうだ。
「まぁ、待ちなさい、霊夢」
「何を今更!!」
「何で態々私があの連中の為に動いたと思ってるの?」
言われて、はた、と動きが止まる霊夢。
「言われてみれば……なんで、あんたまで出張ってきてる訳?」
「それを説明するわ。あの娘を説得してね」
「あの娘?」


「姫」
「向こうは良いの?永琳」
「はい、八雲紫が来ましたから」
「そう、なら問題ないわね」
「慧音、悪いけど手伝ってくれる?」
永琳が援軍に来たとあって、妹紅は慧音に援護を頼む。
「ああ、流石に2対1じゃ分が悪いしな」
そして、慧音も戦線に立つ。


「はい、そこまで」

突如、隙間からニュッと現れた紫に制止される。
因みに霊夢も一緒だ。
「邪魔をするな!隙間妖怪!!」
かまわず妹紅は怒鳴り散らす。
「落ち着きなさい。この月のお姫様達が何も企んでないって解ればいいんでしょう?」
「ふん、証明できるとでも言うのか?」
「出来るから来たんじゃない」
「だったら何で最初から輝夜達はそれをしなかったんだ!?」
「色々と事情があるのよ。勿論、それも後で説明するわ。どう?このまま戦っても何も解らず終わるだけよ?」
「…………」
妹紅は考え込む。
「ここは八雲紫の提案を受けたらどうだ?妹紅」
慧音が妹紅にそう提案する。
「慧音?」
「戦力的にも西行寺のお嬢様も来ている事を考えると分が悪い。それに何より閻魔様がこいつらに味方してるんだ。何か事情があるはずだろう?」
「う……それは、確かに………」
「何も解らずに終わるより、事情を知った方が良いと思わないか?」
「解ったよ。その代わり、納得行かなかったらまた暴れるからな」
紫を睨んでそう言う妹紅。
「その時は好きになさい」
紫もそう返す。
睨み合いを続けていた魔理沙とアリスも説得して、一同は永遠亭へと入っていった。
因みに、てゐ達イナバ部隊は引き続き妖怪が入ってこないか警戒をしていた。


永遠亭・永琳の研究室

「うわ、凄い薬の量だな………」
部屋に入って妹紅がそう漏らす。
「どれが何の薬だかサッパリだねぇ」
小町もそう呟く。
「迂闊に触らないでね。劇薬もあるから」
永琳そう言われて、瓶に伸ばした手を引っ込める魔理沙。
「で、なんなのさ、その事情。そして「悪魔の薬」って奴は」
妹紅が切り出す。
「勿体ぶっても仕方ないわね。これよ」
永琳がそう言って出した瓶。
そこには、こう書かれていた。



「太り薬」


「そ、それが「悪魔の薬」?」
アリスが少し呆れ気味に尋ねる。
「そうよ」
永琳はキッパリと言い切った。
「何かと思えば……そんな物か………」
慧音が呆れて言う。
「そんな物?言っておくけど、今の所、これに対抗する薬はないわよ?」
「え?」
永琳の言葉に霊夢がポカンとする。
「解らない?これは1粒で1Kg増える薬。100粒入りよ。それを知らずに食べ物に混ぜられたら?」
見る見る間にぶくぶくと膨れ上がってしまう。
自分たちが膨れ上がる姿を想像してだろう、その場に居た者の大半が身を振るわせる。
「すぐに知らせる事が出来なかったのは、あまり多くの者に知らせたくなかったからよ」
「どうしてですか?」
妖夢が尋ねる。
「いたずら好きの妖精の手に、万一渡ったらどうなると思ってるの?そうじゃなくても、悪意のある者にも、よ」
その言葉に一同納得する。
「でも、そう簡単にここまで侵入できないんじゃないのか?」
「三月精って言ったかしら?あの音とか姿とかを消せる三人組の妖精」
魔理沙の質問に永琳はそう返す。
「あ~…あいつらなら確かに盗み出す可能性が無くもないね」
妹紅も幻想郷縁起で知っていたのだろう、思い出すように視線を上に向ける。
「まだこれの拮抗剤が完成してないのよ。だから、盗み出されるような事は勿論、知られもしたくなかったのよ」
「なんだ、大袈裟な名前付けるから驚いたじゃないの」
霊夢が迷惑な、と言った表情で言う。
「言っておくけど、私も姫もそれを比喩した言い方をしただけで、危険な薬とは明言してないわよ?」
「全ては盗み聞きした天狗の早とちりね。解ったかしら?そこの鴉天狗」
輝夜は扉の方に向けて言い放つ。
「あ、バレてました?」
そう言って顔を出したのは、件の鴉天狗、射命丸文だった。
「なんだよ、今回のはお前の早とちりじゃないか」
早速魔理沙が責める。
「う……最近ネタに困っていたもので、つい………申し訳ありませんでした」
文は素直に謝った。
「本当はさっさと拮抗剤作って封印しようかと思ったんだけど、まぁ、皆まで言う必要は無いわよね?」
永琳が含みを込めて文に言う。
「うぅ……すみません………」
「まぁ、良いじゃない。済んだ事は」
紫が仲裁に入る。
「まぁ、良いわ。さて、これで納得していただけたかしら?」
妹紅を始めに、全員の顔を見渡しながら尋ねる永琳。
「そうだね。今回は何も企んでないようだし、私は帰るとするよ」
妹紅がそういったのを皮切りに、霊夢、魔理沙、アリス、慧音も納得して帰ろうとしていた。
「ああ、そう言えば霊夢にお土産渡すって言ってたわね。こっちの所為じゃないとは言え、迷惑掛けてみたいだからお詫びの品を用意させてもらったわ」
「本当!?」
その言葉に霊夢が目を輝かす。
「ええ。鈴仙、居間に用意してあるから皆に上げて頂戴」
「はい、解りました」
そう言って鈴仙を先頭に5人は付いて行った。
「あ、妖夢。私達の分も貰って先に白玉楼に戻っておいてくれる?」
幽々子は妖夢にそう告げる。
「え?幽々子様は?」
「私は少し話してから帰るわ~」
「解りました。では、先に戻っております」
そう言って、妖夢も6人の後を追っていった。
因みに、文は一足先に逃げるように飛び去っていた。


研究室には永琳、輝夜、紫、幽々子、映姫、小町が残っている。
「四季様。あたい達も戻らないんですか?」
小町が映姫に尋ねる。
「勿論、戻りますよ…………本当の「悪魔の薬」を見せてもらってから、ですがね」
永琳を見ながら映姫は言う。
「え?そ、それはどう言う………」
小町が尋ね終えるより先に
「こういう事よ」
永琳が新たに瓶を取り出した。
「それは?」
幽々子が尋ねる。
「これこそが、私と姫が「悪魔の薬」と呼称した物、その名も………」
永琳が瓶をクルッと回転させ、ラベルを見せる。
そのラベルに書かれていた名前は









「ボインダーZ」




とても解り易い名前だった。

同時に、6人の頭に妙な歌が流れ始める。



む~ねに~そびえる~
マ~シュマロの~城~
スーパーバスト~
ボインダーZ~


振り払うように6人は頭を振った。

「ど、何処が悪魔の薬なんだい?」
小町が永琳に尋ねる。
「勿論、これだけじゃ悪魔の薬には成り得ないわ。そうでしょう?薬師」
「ええ、勿論よ」
そう言って永琳はまた、新たに瓶を取り出し、ラベルを見せた。
そのラベルには









「マナイタンD」



これまた解り易い名前が書かれていた。
再び6人の脳裏に映像が映る。


そこには、崖の上で腕組をしている小町と美鈴が居た。

「動くのにー!!」
「邪魔だー!!!」
たゆんなバストに「マナイタンD」!!
月のマークの八意製薬が目印です。


バシバシバシバシバシバシバシバシッ!!!

「きゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃん!!!」

現実に戻ると、映姫が無言で小町の頭をしばいていた。
「な、何するんですか!?四季様!」
「いえ、なんとなく無性に叩きたい気分に………」
理由になってない理由だった。
「け、けど、これが何で「悪魔の薬」なんだい?女性の理想をかなえる薬じゃあ………」
「貴女、解ってないわね」
紫が厳しい目つきで小町を睨む。
「な、何が?」
「解らないかしら?白が在るから黒が目立ち、闇が在るから光が目立つ。善があるから悪が目立ち、自由があるから秩序が目立つのよ」
「さ、さっぱり解らないんだけど……?」
小町は首を捻る。
「良いかしら?確かに、この薬は女性の胸の悩みを解決するわ。でも、それは本当にいい事かしら?」
「良いんじゃないのかい?」
「貴女、本当に解ってないわ。貧しい者がいるから豊かな者が目立つ。逆も然り。でも、これはその全てを平等にしてしまう」
「平等に?」
「無い者は無い者の、有る者は有る者の悩みを抱えているわ。でも、そのどちらの悩みも理解したら、人はどうすると思う?」
「……中間を選ぶって、ああ、だから平等?」
「そうよ。そして肝心な事は、胸とは女性の魅力の一つよ!存在価値といって良いわ!」
それはどうだろう?
「皆全て同じになると言う事は、逆を返せば、その魅力がなくなるという事よ?皆同じなら、全ては等価値なのだから」
「女の魅力を殺す薬って事かい?」
「そうよ。そして、更に恐ろしい事に、この薬は強制的に体型を変えてしまえるわ」
「それが?」
「解らない?例えば、貴女並みに巨乳になった妖夢を想像して御覧なさい」
紫に言われて皆想像する
「イ、イヤアァァァァァァァ!!!」
そして幽々子が悲鳴を上げた。
「そんなの…そんなの妖夢じゃないわ!!私の可愛い妖夢じゃないわ!!!」
「そう…あまりに不自然な者を作り上げてしまうのよ、これは」
「お、大袈裟じゃないかい?」
「まぁ、貴女には難しい話でしょうね、小町」
映姫が小町に言う。
「そ、そうなんですか?」
小町はまだ色々と理解しきれていなかった。
「それより、永琳」
「何ですか?姫」
「それ、試用したの?」
「いえ、何分ごたごたしましたので、成分分析だけで終わっています」
「それは良くないわね」
「姫様~、皆さんお帰りになられました~」
そこへ都合よく鈴仙が戻ってきた。
「良いタイミングね、うどんげ」
「失礼しました~」
嫌な予感を感じた鈴仙は、すぐさま踵を返す。

「貴女にこれを飲んで貰いたいのよ」
何故か目の前に永琳が居た。
否、鈴仙が方向転換して歩いた瞬間、目の前に隙間を開けられ、永琳の前に強制移動させられたのだ。
「拒否権は?」
「有ると思う?」
「いいえ」
「話が早くて助かるわ。それじゃあ、これを5粒飲んで頂戴」
もはや鈴仙に逃げ道は無かった。
「戻れなかったら二階級特進ですかね?」
戻れない、とは、無論あっちの世界からの事である。
「大丈夫よ、今回は命に関わらないから」
今回は、という所に恐怖を感じずには居られない。
「では」
意を決するというより、諦めて薬、ボインダーZを飲み込む鈴仙。
すると



パンッ!!


「わわっ!?」
鈴仙のメイド服のボタンが弾けとんだ。
当然、胸部の。
「こ、これは………」
「本物ね……」
映姫と紫が食い入るように鈴仙の胸を見る。
ついで、紫はツンツンと指で突付いている。
「ちょっ!止めて下さいよ!!」
鈴仙の胸は小町ばりに、いやそれ以上に大きくなっていた。
「じゃあ、うどんげ。今度はこれを10粒お願いね」
「あ、はい」
言われて今度はマナイタンDを飲み込む鈴仙。



「うわ、ぺったんこ」
紫がズバリと言う。
「うわ~、ぺったんこになっちゃいましたね~」
が、鈴仙はさして気にしてなかった。
「貴女、何で普通にしていられるんですか?」
映姫が鈴仙に問いかける。
「え?何がですか?」
「………貴女、私のシフトの時に来たら問答無用で有罪にします」
「え、えぇ!?」
とんでもない閻魔様だ。
「さ、もう一度これを飲みなさい。恐らく、それで元の大きさに戻るはずよ」
そう言って永琳は再びボインダーZを渡し、鈴仙はそれを飲む。
すると、永琳の言うとおり、鈴仙の胸は元の大きさに戻った。
「ありがとう、鈴仙。お陰で良いデータが取れたわ」
「あ、はい」
「それから、この薬の事は他言無用ね。言ったら……解ってるわね?」
「も、勿論です!師匠!!」
鈴仙は震え上がって敬礼する。
一度経験した事があるのだろうか?
「なら良いわ。もう行って良いわよ」
「あ、はい」
役目の済んだ鈴仙は研究室を出て行った。
「1粒30mmって所ね」
永琳が呟く。
「3cm?」
幽々子が単位を変えて尋ねる。
「ええ、そうよ」
「1粒じゃ、結構曖昧な効果ねぇ」
紫が呟く。
「曖昧3cm」
輝夜がそう言い
「そりゃプニって事かい?」
小町がそう繋げ
「ハイ、ストップ」
紫に止められた。
「因みに、最大で恐らく95cm前後。個人差はあると思うけどね。最小は脂肪がなくなればお終い。えぐれる事は無いわ」
永琳が冷静に分析をする。
しかし、えぐれたらかなり問題だろう。
「さて、それじゃそろそろお開きでいいかしら?ダミー用に作ったとは言え、ちゃんと拮抗剤作っておきたいのよ」
先程の太り薬の事だろう。
「そうね。そろそろお暇しようかしら。その前に………」
紫は意味ありげな笑みを浮かべる。
「それ、結構作ったんでしょ?」
例の二つの薬を指差して紫は永琳に尋ねる。
「欲しいの?」
「ええ」
「はい、でも代えはあげないわよ?」
永琳はあっさりと紫に渡した。
「ちょ、ちょっと!それはあんたらにとって「悪魔の薬」じゃなかったのかい!?」
小町が突っ込む。
「八雲紫はこの薬の危険度を良く知ってるわ。それに、限られた者に持たせる程度なら別に問題はないし」
「そう。問題はこれが巷に広がる事なのよ。それさえ起きなければ限られた者になら渡せるわ。まぁ、今回の迷惑料って所かしら?」
そう言って輝夜も例の二つの瓶を手に持つ。
輝夜の台詞をもう少し加えるなら、ここに居る者は皆、誰かにその薬の存在を知られてしまった時に「口封じ」を容易に出来る者達だからだ。
「要らない?」
輝夜は小町と映姫に尋ねる。
「あたいは別に………」
「では、私が貰っておきましょう」
映姫は即答だった。
「はい、どうぞ」
「言って置きますが、危険物のサンプルを手元に置いておくと言う理由ですからね?」
取り繕うように映姫は言う。
「四季様、欲しいなら素直に欲しいって……」
「黙りなさい、小町。貴女の胸、ペタンコにしますよ?」
「あぁ、そうなったら肩こりに悩まされなくて良いですね~」
小町は本気でそう思っていた。
「キィィィィィィィィィィィッ!!!!!」

バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!!!!

「きゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃん!!!」

物凄い猛連打で小町の頭をしばく映姫。
あまりの連打で小町は気絶してしまった。
「はぁはぁはぁはぁっ……!!!」
肩で息をする映姫。
「ふぅ…さて、それでは私達も帰る事にしましょう」
一転して涼しい顔になり、そう言う。
「そうね。それじゃ、私達も帰りましょうか、幽々子」
「そうねぇ」
因みに幽々子も薬は受け取っていた。

余所者が居なくなった研究室で

「しかし、姫。本当に受ける気ですか?」
「仕方ないじゃない。それとも反古にしてあの隙間とやり合う気?」
「それは嫌ですね」
「私だって嫌よ」
「しかし……」
「それにね、永琳」
「はい?」
嫌な予感、いや、確信をして永琳は次の言葉を待つ。
「結構楽しそうじゃない♪」
やっぱりな、と思いながら溜息を吐く永琳。
なんのかのと言っても、今回は永琳達の不始末。
本来なら紫は手を貸す事は無かった。
確かに、以前、藍の事で多少借りは有るが、今回のはそれの見返りとするには少々事が大きすぎた。
が、ある条件を突きつける事で援軍も連れて行くという大盤振る舞いを行ってくれた。
その条件とは、紫のある計画に協力する事。
そしてその計画とは

「折角だから楽しみましょう、永琳」
「そうですね、関係者は被害無いようですし、良い方向に考えましょうか」
永琳の机に裏返して置かれていたその計画書。
その名は





「幻想郷女子メイド化計画」



どうやら、水面下でしっかりで準備は進められているようである。







おまけ



「解ったわ!!!」
竹林に響く叫び声。
「あれ?まだ居たの?」
叫び声をあげたチルノを見て、てゐは呆れたように言う。
「あったり前じゃないの!そして、ついに解けたわよ!!」
「あ、そうなんだ」
思いっきり興味が無いてゐ。
「答えは…………10ね!?」
因みにてゐの出した問題は「9-1」
増えてる。
「違うわよ」
呆れながらてゐは返す。
「え!?」
「答えは8(パー)よ」
そして、笑顔でチルノにそう言った。
「パー?」
「そう、パー。貴女の事を指すのよ」
にこやかにそう言うてゐ。
「それって凄いって事?」
「ええ、(意味に気づかないなんて)凄い(馬鹿って)事よ」
あくまでにこやかに言うてゐ。
「ふふん!そうでしょう!?私はパーなのよ!!やっぱりあたいったら最強ね!!!」
そう言って満足気に帰るチルノを見て、てゐは
「馬鹿と天才は紙一重………でも、あれと永琳様の間には厚さ100M位の鉄板がありそうね」
そう呟くのだった。




おしまい
色んなネタ使っちゃってます。
解らない人居たらごめんなさい。

おまけついでに、没になった替え歌でエンディング行きたいと思います

例の種ガンより

あんなに一緒だったのに~
大きさはもう違うムネ~

ありふれたやり方は君を~ 遠ざけるだけ~
冷たく切り捨てた夢は~ 悔やんでるばかり~
そんな不平等が~ 生きると言うことなら~
雨空の下 目を閉じて泣こう

あんなに一緒だったのに~
サイズまるで届かない~
加速していく大差に今は~

あんなに一緒だったのに~
大きさはもう違うムネ~
せめてこの布団の中で~ 儚い夢を~

はい、なんかオパーイネタばかりですみませんm(__)m
ともあれ、好評不評問わず、待ってます。

華月
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コメント



0.1400簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
博麗
2.無評価華月削除
>博麗
ご指摘ありがとうございます。
違うPCで作った為、変換ミスしてました。
今度から良く確認します。
6.90名前が無い程度の能力削除
何度も吹いたw 「マナイタンD」より「太り薬」のが怖いかな。
9.90一君削除
「幻想郷女子メイド化計画」は、いつ発動するんですか
12.100SETH削除
バカだなあw

当然すごくいい意味でw
14.90名前が無い程度の能力削除
映姫様、理不尽すぎ
太り薬こわっ
17.80乳脂固形分削除
いろとりどりで楽しめました。とりあえず僕はDのほうをもらっていきますね。
>月は出ているかしら
ちょっと、ちょっと、ちょっとちょっと、何キャノンを撃つつもりなんだ?
18.100名前が無い程度の能力削除
今回のはキャラの範囲が広くて面白いですねぇ
グレート山田アタックって岸和田博士ネタ?
19.無評価華月削除
>「幻想郷女子メイド化計画」は、いつ発動するんですか
当分先になりますかねぇ?
色々伏線やら敷いて行きたいので^^;

>バカだなあw
ええ、自覚してますw

>何キャノンを撃つつもりなんだ?
ツインでサテライトなキャノn
まぁ、実際使ったら幻想郷の場所バレるので、紫あたりに止められそうですが^^;

>グレート山田アタック
これはギルティギアX以降のメイの技ですね。
鯨の山田さんを召喚するのが本来の技です。

>ALL
頭の程度が知れてしまうような作品ですが、笑っていただければ幸いです^^




23.60名前が無い程度の能力削除
映姫様は当然後で気付くんですよね?貰ったのがボインダーZじゃなくてマナイタンDだったことに

>解かったなら帰って
>解かったわ!!!
原則として「解る」の「か」は送りません

>三組の妖精
三月精は三匹いますが一組です

>映姫様。あたい達も
>な、何するんですか!?映姫様!
>映姫様、欲しいなら
小町は四季様と呼びます
24.無評価華月削除
>原則として「解る」の「か」は送りません
>三組の妖精
>小町は四季様と呼びます

全て修正いたしました。
調査不足及び語学力の欠如が理由でした。申し訳ございません。

尚、映姫様はちゃんと二本とも貰ってますよ^^
27.100時空や空間を翔る程度の能力削除
あれ・・・・
咲夜さんが居ない・・・・・・
おかしいな~~??
30.50名前が無い程度の能力削除
ネタ多いなぁ。だが、それがいい。

そして魔理沙と紫を見て、著者様がギルティ好きなことはよくわかった。
31.100削除
紫自粛してくれwww
まんまファウストだったしw
あー、笑いに笑いましたb
32.90名前が無い程度の能力削除
>「曖昧3cm」
>「そりゃプニって事かい?」
ちょwww

ツマラン駄洒落ですいません、でもすっきりしましたw