本作品は作品集その42
十六夜咲夜の門番考察 前 後
Very very sweet Cookie
の流れを組んだお話の前編となります。
人によっては不快に感じる描写があるかもしれません。ご注意ください。それでも宜しければ是非ともご一読くださいませ。
※べりーべりーすうぃーとくっきーず
肉体を構成する物質が恐怖であるならば、流れる血は嫌悪であろう。瞳に移るのは見知った顔ばかり。しかし誰一人
として現実世界とは合致しない性格と関係。鼻腔から吸われる臭いは、所謂魚介類の腐ったような悪臭。耳朶に響き渡
る声は、吸血鬼を怖れる叫びと、蔑む笑い声。触覚に伝わる感触は、ドブ河に手を突っ込むが如きものあるように感じ
られる。
総じていえば、気持ちが悪い。
死にたいのに死ねない。霊夢に、咲夜に、魔理沙に、パチェに、フランに哀れまれ、何度も何度も殺されるが死なな
い。殺された次の瞬間、また朝がやってきて、一時の夢を見させるのだ。
例えば……、妹が甘いクッキーを持って、夢から覚めた自分に駆け寄る、なんてご都合主義の夢。
幾千幾万幾億と重ねられる罰の波。私は、未だ五百年の波紋の中に彷徨う。
民衆に恐怖を齎した王は罰せられ、その栄華に終止符を打たれるが、吸血鬼のような死なない存在は違う。罰は積み
重なり、やがて清算しなければならない。罪は幾ら見過ごせど、蓄積し続ける罰からは逃げられない。
私はそれを全て、フランに任せていた。当然、わざとなどではない。父も母も、妹にそれを強いた故に、自分も当然
の如くそうしていただけ。
だが、言い訳になどはならない。事実は存在し、罪は消えれど罰はフランが常に背負っていた。
それを、五百年分の罰を一身に受け入れたのだ。ただで済む筈など無い。
腐れた夢の中で思うのは、今妹は何をしているのか、咲夜は老衰していないだろうか、いきとしいける者達に対して
の念ばかり。
「……咲夜、紅茶が飲みたいわ……」
待てど、泣けど、笑えど、狂えど、自分が目覚めるべき月は未だ昇りなどしなかった。
1 新当主
当然、私は望んだりはしなかった。お姉様は目を覚まさないだけで生きているのだし、自分でも力不足であるとも感
じているし。けれど咲夜やパチュリーが言うには、紅魔館の主の座を空白にしておく訳にはいかない、のだとか。
正直に気は進まないと提言したけれど即座に却下されてしまった。主候補では権限が少ないみたい。
だったら主になって即座に解散総選挙だと脅してはみたものの、あろう事か咲夜に頭まで下げられてしまうし。仕方
がないので、当主代理と言う立場で納得して貰った。
姉が居た地位に今私がいる。
お姉様が罰を受け取ってくれたお陰で、私は完全に自由な身となっていた。破壊衝動は湧き上がらないし、日増しに
精神的に安定して行くのが自分でも解る。一番驚いたのは、たぶんだけれど抑圧していた知性の類が活発になった所為
で、物覚えも良くなった。
それがたった二週間での事。流石のパチュリーも驚いていたし、咲夜も動揺して瀟洒じゃなくなっていた。
これも全部お姉様のお陰だけれど、「代わりに罰を受けた」では語弊があると思う。正しくは「忘れていた罰を取り
戻した」だ。
……お姉様は、まだ寝ている。正確にいえば目を開けない。寝てはいないのだと言う。五百年分の罰を受けている最
中で、いつ目を開けるかも定かじゃない。
私は五百年の罰をお姉様に返したあの日以来、ずっと傍にいる。今も天蓋のある大きなベッドの下で、お姉様は”寝
息”をたてて”眠って”いる。
私は確かに、自由になったと思う。衝動ではなくて任意で能力を使えるし、知恵も急激について来たし、感情も自制
出来るようになった。けれど、これでは、これでは何の意味も無い。
お姉様と一緒に語らえないのならば、幽閉されていた頃と何の違いもない。
「ねぇお姉様。今度はお姉様の番だって言うの? 返事をして、お姉様……」
私はずっと、傍にいる。己が溜め込んだ罰に苦しむ姉妹の顔を眺めている。お姉様は、時折狂ったようにその紅い眼
を見開いて絶叫する。気が違えたように絶叫したかと思うと、今度は隣に居る私に縋り、咽び泣く。
その戦慄を催す程の咆哮は、暗室に篭っていた私が読みふけった、御伽噺の幻獣そのものだった。
そんな姉を見るたびに、つくづく私達という存在は人に近い身なりをしただけのバケモノであると実感させられてし
まう。
「レミリア……辛い? 辛いよね……ごめんなさい……」
私が、強ければ。
私が姉の罰をも簡単に許容出来るほどの精神力と力を兼ね備えていたならば、きっとこんな事にはならなかった。
外の世界が気になるとか、面白い事がしたいとか、そんなワガママを言わなければ、お姉様はきっと今まで通りだっ
たのだと思う。私と違って、お姉様には友人が居るし、気心の知れた親友も居るし、一番信用している咲夜が居る。
私なんかより全然人から愛を受けていた人を、こんな事にしてしまったのは、確実に私だ。
姉を憎く思っていた頃もある。けれどやっぱり、血の繋がった唯一の肉親。自分が幽閉されて姉の罰を代わりに受け
ているんだって気が付いた時だって、何も言わなかった。
私が陰ならお姉様は陽。吸血鬼だから可笑しな話だとは思うけれど、そう例えるのがしっくり来る。
「お姉様……」
火も灯らない、夕暮れ近くの薄暗い部屋。この部屋には、私が引き起こす背徳の空気と、姉が引き起こす悲壮の空気
が入り混じり、漂っていた。
お姉様。まるで人形みたいだわ。大人しく眼を瞑る貴女は、少し私と顔立ちが似ているけれど、やはり違う存在。見
ていれば見ているほどに、美しく思える。
「お姉様……お姉様……」
ベッドに横たわるお姉様……レミリアの毛布をはだけて隣に寄り添う。眼下に広がるのは幼さに妖艶さを湛えた矛盾
の美と、白くきめ細やかな肌色の首筋。思わず息が上がる。喉を嚥下する。
その引き裂いてしまいたくなるほど愛くるしいレミリアの肌に私は指を滑らせて、何度も撫でつける。レミリアはま
ったく反応を示さない。
貴女のお陰で自由になれたのに、本人が不自由になってしまっては意味が無い。意味が無いの。
私はレミリアの首筋に舌を這わせ、何度もキスする。難しい事なんて無くて、これは、いわば忠誠心を示しているよ
うなもの……だと思う。私はレミリアの妹で良い。当主になどならなくて良い。アイツ呼ばわりした事だってある。憎
たらしく思った事もある。自由にさせてくれない貴女に殺意だって抱いた事がある。
けれど、こうなってしまっては……。ねぇ、レミリア。貴女が救われるなら、私はもう一度全ての罰を引き受けたい。
レミリアがまた笑顔を取り戻してくれるなら、こんな勝手でワガママな命なんて幾らでも差し出す。
「レミリアの香り……」
首筋に顔を埋めたまま、その芳しい香りを楽しむ。悲しいけれど、五感の何処かを満たしてくれるものがあるならば、
このまま待ち続ける事も苦にならないような気がしたから。勿論、寝たきりなんて嫌だけれど、最悪の可能性の方が現
実的すぎる。
押し寄せてくる悲しみ。私は最近芽生えたばかりの真新しい自制心をかなぐり捨てて、その柔肌に歯を突き立てた。
歯が肉に沈み込む快感。押し寄せる背徳。盛り上がる感情。口の中に”レミリア”が入ってくる。むせるほどの血の
濃い味が一杯に広がり、それを溢すまいとして滴る血液の雫を下品にも舌を出して必死に舐め取る。
自分が吸血鬼なのだなと、実感したのが、”お姉様”が目を覚まさなくなったその日だった。
「お姉様は、私が狂っているって、思っていたわよね……私もそう思うわ」
口の端から垂れた血をなめずり、唇をきゅっと縛る。お姉様の傷口は直ぐに消えてなくなった。それと共に、私は涙
する。お姉様は生きている。生きているからこそ、直ぐに傷が修復される。
けれど目を覚まさない。フラン、と呼びかけてくれたりはしない。
「……フランお嬢様。おいたはいけませんわ」
「――咲夜」
そんな感傷に浸っていると、何時の間にか背後には”私の従者”が居た。その目には……私と似たような感情が漂っ
ているように思える。
「勝手に入ってきちゃ、ダメでしょう。ねぇ咲夜」
「失礼しましたわ。でも、フランお嬢様があまりに楽しそうだったものでつい」
「今なら元ご主人様にやりたい放題よ。咲夜もどう?」
「そのうちひっそりやりますわ」
冗談を言える余裕は、互いにあるらしい。何となしに、安堵する。
「御夕食の準備が整いましたのでお声をかけようと参上したのですけれど、お腹いっぱい、です?」
「お姉様が枯れるほど口をつけてなんていないわ。ここに居るのは、お腹でなくて心をいっぱいにする為」
「でも、その度に泣いておられますわ。虚しいでしょうに」
「……そう、咲夜ったら覗きが趣味だったのね。毎度見ていた訳?」
「不謹慎ながら、見ているとドキドキしましたわ。紅魔館で働けて嬉しいのなんのってアナタ」
「くっ、ぷぷ。あははっ」
「ここに居ても、得るものはありません。御夕食でもお食べになって、落ち着かれたら如何です?」
「そうよね。私がずっとここにいたら、咲夜がお姉様に手出し出来ないものね」
「まぁ。心を覗く程度の能力までお持ちなんですの? お見逸れしますわ」
「貴女は良いメイドね、咲夜」
「完璧で瀟洒ですの。伊達に紅魔館のメイド長じゃあありませんわ」
「……夕食、頂くわ。お腹すいちゃった」
「はい」
私は咲夜に連れられてお姉様の部屋を後にする。最近は慣れたけれど、やっぱり部屋を出ると普通の廊下があるって
言うのは新鮮だと思う。何より、勝手に出歩いても誰も文句は言わない。メイド達にはまだ警戒心があるのか、頭を下
げるとソソクサ退散してしまうけれど。
私は、今は主。代理だけれど主。この紅魔館の秩序根幹。威厳の中心。せめてお姉様が目を瞑っている間位は、当主
らしく振舞わないといけない。そんな義務感が生まれた。姉は何時かちゃんと目を開けるんだから、別に振舞わなくて
もいいもんぷりぷり、なんて言ってられないと思えるほど、私もちゃんと心の形が出来てきたらしい。
「あら、パチュリー」
「妹様、遅いわ」
長い長いテーブルに長い長いテーブルクロスの敷かれた食卓。その上座の直ぐ近くには、もうパチュリーが本を読み
ながら控えていた。普段ずっと睡眠から食事まで図書館に引きこもっているパチュリーを考えると、非常に珍しいと感
じられる。
「今日はちゃんと食堂で食事するのね」
「……呼称、変えましょうか。パチェでいいわ」
「まるで初対面みたいな言い方ねぇ……じゃあ、フランでいいと思うわ」
「えぇ。実はねフラン、今日は考えがあって、ここにいるの」
「?」
パチェは本をパタンと閉じて、私に真剣な顔を向ける。間違いなく、お姉様の事であろうとは予測出来た。
「私なりに色々調べたわ。一応吸血鬼に関する書物は棚一つ分あったし。読むのと思い出すので随分時間を食ってし
まったけれど」
「そ、それは。何か解ったって事かしら?」
流石パチェッ! と手を叩こうとしたところで、頭を横に振られてしまった。世の中そう上手くはいかないらしい。
「これは色々な知識を統合して、私なりに出した答えだけれど、やはり、書物にかかれるような範囲では解決策は見
当たらない」
「そう、よね。そもそも吸血鬼は個体数が少ないし、大抵罪と罰は自分で処理しているもの。恐らく」
「いえ、その通り。畏怖の象徴たる吸血鬼は罪を被り罰を受ける。それを好まない吸血鬼は人間と共存の道を選んだ
り、山奥でひっそり暮らしたりする。そのどちらでもない貴女達姉妹は、やはり特殊だわ。けれど、知っているかしら、
フラン」
「何?」
「……レミィは言っていたわ。幻想郷は、妹すら許容出来るほどの幻想で編まれた理想郷であると信じているって」
「それは、いつ?」
「貴女を外に出したいと思い立った頃からだと思うわ。つい最近よ。それでね、ここは幻想郷なの」
「当然ね……でも、出た事はないけれど」
「レミィにつきっきりだったものね。それで、ココは幻想郷で、外の世界ではもはや夢物語でしかないような力を持
った人間や妖怪が沢山いる。私達が持ち得ない知識を持った人もいるかもしれない。当然、可能性は薄いけれども、何
もせず姉が目を覚ますのを悶々と見つめて待っているよりは、その人達に協力を仰ぐよう奔走した方が、良いんじゃな
いかしら」
「見てたの?」
「不謹慎だけれど、ドキドキしたわ、フラン」
「紅魔館恐いわ」
「恐怖の中枢が何を。どう? 貴女に出来る、唯一の努力だと思うのだけれど」
私に出来る唯一の努力。パチェの言う通り、お姉様に引っ付いているのは非常に非生産的だと思う。ここは幻想郷で、
外の世界なんかより不確定で不可思議で不理解なものが満ち溢れた場所。
成る程、と思う。何もしないより、全然良い。
力や知恵を持った人に頼ってみたら、どうだろう? パチェの話通り当然可能性は薄いけれど……このまま寝たきり
のお姉様を見守るのは、やはり苦痛でしかないし、可能性は薄くとも探ってみた方が絶対良い。
「そうね、私が居たらお姉様に色々出来ないものね、パチェ」
「……」
黙さないでよ。というか本で顔隠さないでよ。
「兎も角よ。このまま引きこもっていても以前となんら解らないわ。折角レミィが腹を切ってくれたのだもの、自由
に空でも飛んでみたらいいんじゃないかしら。あまり期待しすぎると、ショックも大きいから……」
「やっぱり、パチェも早く目を覚ましてもらった方がいいわよね」
「当然よ。私や貴女は寿命が長いからいいかもしれない。けれど咲夜はどう? 知り合った人間の友人はどうかしら。
時は流れ全ては劣化する。私達が目を瞑っている間に、彼女達は死んでしまう。それは悲しい事よ。個人的にも、レミ
ィの居ない紅魔館はやっぱり、違和感があるもの」
親友としての本心なのだと思う。ちょっと俯いて、そのように語ってくれた。やっぱり、お姉様は愛されている。
……運ばれてきた料理をぱくつきながら、控えめに食べるパチェを見る。お姉様と親友になった理由が、そこから伺
えた。引きこもりだの紫もやしだのと言われているけれど、パチェはいい子で可愛いもの。
「な、何? どうしたのフラン」
「ふふ。もうお目付け役なんかじゃないんだものね、パチェは。だから呼称を変えようなんて言ったのね?」
「代理でも当主様だもの。それに、フランは普通に生活出来る。なら、普通に扱わなきゃ」
「パチェ?」
「……うん?」
「私とも親友になってくれるかしら?」
その言葉に、サラダを食べていたパチェが停止して、赤面した。なんだか本当に可愛い。調度品やら本棚を壊したオ
シオキだーなんて言っていたのは、つい最近だった筈なのに。ここに居るパチェはなんだか別人に見える。
「そ、そんな事宣言せずとも、昔から同じ屋根の下よ」
「そうよね。これからも宜しく」
「う……えぇ」
これもまた、お姉様が与えてくれた自由のひとかけら。お姉様は誠意を見せて、そして覚悟してくれた。
今度は、私が頑張らなきゃいけない。
鴨肉のレモンソース掛けに興味をそそられつつ、そんな決意を新たにする。
※※※
お姉様が目を開けなくなってから、私は毎日同じベッドで寝る事にしている。お姉様の部屋の隣に新しい私の部屋を
用意してもらったのだけれど、そちらはまだ使用した事が無い。
朝起きて目を覚ましたら、まずお姉様が目を開けていないか確かめる。
柔らかいホッペを突付いたり、引っ張ってみたり。そして今日もまだダメか、と絶望してからベッドを出る頃には既
に咲夜が着替えを持って部屋に居る。私はお姉様より目覚めが良いらしくて評判はいい。
何故吸血鬼なのに朝起きているかといえば、実はお見舞いを期待していたりする。特に霊夢や魔理沙は人間だから夜
出歩かない。案の定、一週間ほど前にはなんと手土産まで持って来ていた。
安いお茶菓子だったけれど。
手土産は良いとして、二人の様子はどうだったかと言えば、此方が思っていたより全然深刻だったと思う。巫女は人
間にも妖怪にも平等だと聞いたけれど、私にはそうは見えなかった。魔理沙は魔理沙で『不思議な事もあるもんだぜ』
なんて言っていたけれど、張り合いが無くなったと嘆いていた。
「お姉様は今日も目を開けない……か」
隣で”寝息”を立てるお姉様に、抱き枕みたいに抱きついてみる。胸に耳を当てれば小さく鼓動が聞こえるし、血色
も、吸血鬼にしては良いと思う。そんなお姉様の頬にキスをしてから、私はベッドから降りて背伸びをする。
窓が少ない紅魔館だけれど、一応小さく備え付けてはある。
窓から漏れる光は、今が朝だと教えてくれた。
「私って、こんなにお姉様の事……」
好きだったかしら、と考えようとして止めた。
今そんな問いに全然意味はない。たった二週間ちょっと前ならば相当疑問にも思ったかもしれないけれど、身体を張
って私を自由にしてくれたのだもの。いいじゃない、姉妹愛が強くなったって。
因果応報といえば、因果応報なのだけれど……元はお姉様が悪い訳ではないし。そう、顔も覚えていない両親が悪い。
たった一度きり、私が能力を暴走させたばかりに、盛大な勘違いをしたのだから。少女の私ならば責任はあったかも
知れないけれど、乳児じゃあ問えないわよね。
そんな事さえなければ……。
「おはよう御座いますフランお嬢様。今日も天気は最悪ですわ」
「まぁ、晴天なの? ちょっと楽しみね」
「……あの、本当に、ですか? 本当に外を回られるんですか?」
昨日、食後に私はパチェから聞いた話を、そのまま咲夜にした。当然、今日のスケジュールはその第一日目となって
いる。やっぱり何か新しい事をしようとすると、咲夜は保守的なのよね。
「咲夜は保守派」
「ある意味で現在は革命政権樹立後と言えるでしょう。推奨したのは私ですけれど」
「継続的な革命が大事だって、どこかの本に書いてあったわ」
「難しいですわ」
「何でもいい。着替えるわ」
「はい」
そう言って一秒もしない間に、私は普段の服装になっていた。髪までしっかり髪を解かされているし。別に珍しい事
じゃあないのだけれど、考えれば考えるほど不思議な能力よね。
「ねぇ咲夜」
「はい?」
私は髪の毛をいじりながら咲夜に問い掛ける。リボン、この色じゃない方がいいなぁ……。
「時間を止めるって、どんな感覚かしら」
「大げさに言えば世界の支配。謙虚に言えば老化が早く進みますわ」
「難儀ねぇ」
「時間でも止めないと、紅魔館の仕事なんて終りませんよ……」
「咲夜、それ愚痴、愚痴よ」
「これはこれは。愚痴は門番にでしたわね」
「そうね。朝食は?」
「準備出来ていますわ」
「血液の冷性スープ?」
「はい。他はパンとサラダです」
「あっさりめがいいわね」
「そうでしょうとも」
こうして朝が始まる。けれど今日は何時もと違って、お姉様につきっきりなんかじゃない。
初めて、昼の外に出る日だ。
朝食を早々に切り上げて、咲夜に準備するように指示、しようと思ったらもう既に出来ていたりする。便利ね。
玄関に行くと、妖精メイド達が表口にずらっと整列して私を出迎えてくれた。何人くらいいるのだろう。考えもしな
かったけれど、相当な数だと思う。
「フランお嬢様、日のある時間帯に外出する場合の諸注意が幾つかありますわ」
「うん、説明して」
「はい。ご存知かとは思われますが、川を渡る事は出来ません。空は飛びますが、日傘からあまりはみ出ないように
ご注意ください。基督教圏ではありませんし、十字架も弱点ではないでしょうが、人里の民家などにはたまにニンニク
を陰干しにしている所がありますので、不用意に近づいてはいけません。それと、フランお嬢様の場合紅魔館敷地から
出るのは初めてとなりますから、かなり警戒されると思われますわ。人里の場合上白沢慧音と言う半獣がいます。
あまり突っかからず、けれど傲慢で居丈高に振舞ってくださいまし。舐められます。そして紅魔館周辺、及び各地に
妖精や妖怪がいます。最近は人里にも頻繁に現れますから、珍しがって近づいてくるとも限りません。傲慢で居丈高な
振る舞いをお願いします。舐められます。それと、これは一番大事な事なのですが」
「えーと、弱点には近寄らずに舐められずに、えと、何?」
「フランお嬢様が否定されても、現在の当主はフランお嬢様ですわ。紅魔館秩序の要。威厳の塊。カリスマだだもれ
でお願いいたしますわ」
「すごい注文ね……」
「舐められますわ」
メンツがそんなに大事なんだろうかー、そうなのかーと、取り敢えず納得してみる。否定しても得はないと思うし。
紅魔館一つ背負うのもなかなか大変なのね。
はて、だとすると、お姉様ったらずっとこんな振る舞いを強いられてきたのかしら。だったらもしかして、本当のお
姉様って私が驚愕して腰が立たなくなるほど本当はおしとやかな清純派幼女だったりして……。
「違いますわ」
「心を読まないで頂戴……」
咲夜は恐かった。やっぱり、実質的な紅魔館の支配者は十六夜咲夜その人だと、思う……。
「ま、まぁいいわ。頑張る。それじゃあ、いきましょう」
「はい」
咲夜のメンツに対する拘りは別に置いて、私は硬く閉じられた扉へと足を進める。波のようにメイド達が、私が通る
タイミングにあわせて頭を下げている。凄く壮観。
やがて辿り付いた扉を、メイドが二人がかりで引き開く。
私の視界に飛び込んできたのは、目を閉じたくなるほどの太陽光だった。
一歩外に出る。咲夜がそれにあわせて日傘を差し出す。けれど……私はそれを少し退けて、青空を仰いだ。
「咲夜、外ね」
「えぇ」
「窓枠から見える、絵画みたいな空じゃなくて、本物の、宇宙に通じている空」
「はい」
「綺麗ね」
「吸血鬼ですのに?」
「だって私、昼に外へ出た事がないもの。青空だろうとなんだろうと、綺麗なモノは綺麗だと思うわ」
「……はい」
雲ひとつない晴天。これがお姉様が見ていた世界。視界を地上に戻すと、大きな塀と、門と、警備隊一同が並んでい
た。美鈴は……此方へ向かって手を振っている。
あまり接点の無い子だけれど、夜の外へ連れて行ってもらった事もあるし、一緒にお茶をした事もある。なんだか凄
くイジメたくなる、とても可愛い子。身体は大人なのに私の方がきっと年上なのよね……。
「フランお嬢様、その、どういったら良いのか解りませんけれど……」
「おめでとうでいいわ」
「えへへ……はい。おめでとう御座います。お外に出れるんですもんね」
「……みんなのお陰よ。貴女や霊夢や魔理沙や、アリスやパチェ、咲夜に、そしてお姉様」
「お役に立てたかどうかは解りませんけれど、そういっていただくと嬉しいかもです」
「貴女とはお友達だもの。ね、めーりん」
「フランちゃん……」
そう呼ばれると、なんだかちょっとくすぐったいわ。
「じゃあ、いってきます」
「美鈴、今日は一段と頑張って頂戴ね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
私と咲夜は、重力を無視して空へと浮かび上がる。蒼い蒼い空は、全然不快なんかじゃなかった。こうしていると、
まるで自分が吸血鬼だなんて思えなくなってしまう。
私は今、夢にまで見た青空を、飛んでいる。箱庭の外。更に大きな箱庭に出たんだ。
「フランお嬢様、最初の目的地は、どこに致しましょうね」
「最初はやっぱり、幻想郷自体の守護者の所かしら」
「はい。不躾な輩ですけれど、やはり紅魔館の主としては挨拶すべき相手ですわ」
「連れて行って」
「仰せのままに”お嬢様”」
咲夜は……そう言ってから、口を覆い隠した。何よ、完璧で瀟洒っていうのは、お飾りなのかしら?
「いいわよ、咲夜」
「……申し訳ありません」
「謝るのは、こっちよ……」
そこまで気を使う必要なんてないわ。これから、私が何とかしてみせるんだから。お姉様は絶対に目を開ける。咲夜
が、霊夢が、魔理沙が生きている間に、きっと目を開けるわ。
「大丈夫よ。咲夜、大丈夫」
完璧で瀟洒なメイドは……ただ目を瞑って、はいとだけ頷いた。
2 幻想郷知識人
死について、良く考えた事がある。勿論、つい最近。
死とはつまり、己という概念の完全消失。肉体は魂魄と分離して、肉体と魄は滅びて土に輪廻し、魂は裁かれ霊とし
て輪廻を待つ。たぶん人間でも実感のないお話だと思うけれど、閻魔だって近くにいるし、冥界だってすぐそこにある
らしいし、幻想郷はそういった概念が元から薄い場所なのかもしれない。
けれど、現実問題として、肉体が滅びたら魂は肉体から離れる。つまり居なくなる。
私のような吸血鬼は、人間の定義に当てはまるかどうかは知らないけれど、ヒトガタなのだからきっと同じだろう。
居なくなった人は、やがて周りの人からも忘れられる。肉体が滅びて、魂は他界して、魄も土に還り、忘れられて記
憶からも消え去って、生物は死滅する。
壮大なシステムの上に、生物は存在しているのだなと、パチェから借りた本を読みながら考えたりした。
そう、特に人間。
幻想郷は妖精や妖怪の数の方が上位らしいけれど、それだけ弱い生物が集落を形成して生きているって言うのだから
驚いてしまう。
システムには更にシステムがあって、イキモノ全部に個別のシステムがある。
殊人間のシステムは単純で矮小だ。しかもその壮大な動きの中で尚矮小。
怪我をすれば治るのに時間がかかるし、ひょんな事があれば即死する。肉体的にも精神的にも弱くて、寿命も短い。
何か真新しい答えが見つかったかといえば、当然何もない。ただ、なんとなくそう考えた。
「レミリアが眠り姫になったと思ったら、今度は貴女が来るのね」
「きちゃ、ダメ?」
「う……べ、別に悪かないけど……いや悪い筈なんだけど……そ、その目止めてよ」
矮小で弱小で非力で生命力の乏しい、群れないと何も出来ない生物、人間。
その中でこの博麗霊夢という子は、人間とは同じ次元には居ない存在だと思う。確かに、食べて行くには人の恩恵を
受けなければいけない事もあるだろうし、頼っている部分も多いとは思う。
けれどそれは私も同じで、その規準から言えば、博麗霊夢はあまり人に頼らない人間だ。生命力云々をすっとばして
強力な力を有していて、誰にも頼る節を見せず、日々を淡々と生きている。
良く、個体で完璧な生物は虫だと言うけれど、ある意味博麗霊夢はそれに近いのじゃないだろうか。
単体として魅力的なら……成る程、もしかしたらお姉様は、霊夢をスレイブにしたかったのかもしれないわね。
「お姉様が目を覚ましたら、今度は姉妹二人で来るわ」
「もう博麗神社に参拝客なんて来ないわね……そうなると」
「元からだって、咲夜が言ってたわ。ねぇ咲夜」
「私は真実しか申し上げませんわ」
「……はぁ。それで、今日は初めて外に出るから挨拶に来た、と」
「曲りなりにも博麗大結界の守護者でしょう。幻想郷を幻想郷たらしめる巫女。私みたいな要注意人物が出歩くって
言うのだから、知らせた方がいいでしょう」
ずずず、と。母屋の縁側でお茶を啜りながら今日の目的を話す。それと、実は目的がもうひとつあったりする。
「案外、誰も恐がらないわよ。ひまわりだって九尾だって鬼だって、人里までちょこちょこ行くもの。今更吸血鬼が
一匹増えた所で、なんとも思わないわよ。それに、吸血鬼は契約で縛られているし」
「えぇ、まったくね。その通り。でもそれって変よね」
「……へ?」
「だって、誰も恐くないのなら、なんで参拝客が来ないのかしら」
霊夢は……意表を突かれたかのように、ポカン、と止まってしまう。本当に気がついてなかったのかしら……。
「い、意味が解らないわ」
「解るわよ。お姉様だって、博麗神社に参拝客が来ないのは自分達の所為じゃないって解ってて訪れてたんだわ。人
里まで強力な妖怪が降りてるのに、同じような環境の博麗神社には来ない。これってやっぱり、妖怪の所為じゃなくて、
宣伝不足と、神社への距離、それに伴う人の信仰心の欠如、つまり貴女の所為ね」
私の頭の働く範囲で、常識的な意見を述べる。普通だと思うのだけれど、霊夢は冷凍ミカンみたいにカチンコチンに
なってしまっていた。……努力嫌いもここまで来ると本物ね。思考する努力すら忘れていたのかしら……。
「か、解決策の提示を求めるわ」
「うーん」
「……お賽銭あっぷ、無理?」
「さくや、咲夜。たしか、幻想郷には天狗のブン屋が居るわよね」
「はい」
「記事にしてもらわなくてもいいわ。風の噂にでもしてもらって。買収で」
「ちょ、ちょっと。怪しい真似しないでよ……」
「どのくらい出しましょうか」
「新聞百部取るとでも言っておけば良いわ」
「文ちゃん大喜びですわね。風の噂なら真実でなくとも良い訳ですし。嘘を記事にする訳でもないですし」
「咲夜、今探してきて。……本当は霊夢が努力すればいいのだけれど。これは、お礼」
「お礼って、何の?」
別に恩を売りたい訳じゃない。それに、お賽銭が無くても何故か生きていけるのがこの博麗霊夢ですもの。お賽銭は
アイデンティティみたいなものよね。でもそれって貧乏巫女って言う肩書き奪う事にならないかしら。
腋さえあればいっか。
「モノで伝えるのは、誠意を形にしたってだけの話。心から、感謝しているの」
「え。あ。うん?」
「射命丸文、『私、真実しか伝えません』と言いながら泣いて喜んでましたわ」
「ご苦労様」
「はい」
咲夜に手を引かれて立ち上がる。丁度逆光が後光のように私を射していて、凄くカリスマな感じ。ここは一つ良いセ
リフでも言っておけば、今後も紅魔館は安泰っぽそうだわ。
「――お姉様とお友達になってくれて有難う。私とお友達になってくれて有難う。魔理沙にも伝えてあげて」
「フラン……貴女」
「それじゃ、行きましょうか咲夜」
「仰せのままに」
「これからも宜しく、人間。それじゃあね」
私と咲夜は空に浮き上がり、地上に立ち尽くす霊夢に、小さく手を振った。
……打算もあるのだけれど、今の気持ちは本当。捕食対象である筈なのに、そうじゃない人間。強くて陽気で他人に
無関心だって言われるけれど、本当はそれだけじゃないのだと思う。
誰にでもある意味平等に接するなんて、本当に優しい人にしか出来ないわ。広義の意味での平等だけれど。
人間は弱いシステムの上に立っている。当然霊夢だってそれからはみ出る事はあっても抜け出す事はないと思う。
死は身近で、何時迫り来るとも解らない。お姉様がいつ目を覚ますかも見当がつかない今、お姉様と交流を持った人
間と言うのは、やっぱり貴重だ。
ちょっと前なら無理やり下僕にでもして、お姉様が目を覚ますまで一緒にいようなんて事も考えたかもしれないけれ
ど……やっぱり、人間は人間で天寿をまっとうすべきだと思う。
「咲夜」
「……如何なさいました?」
次の目的地を目指してふよふよと空気の中を漂いながら、私は咲夜の顔も見ずに問い掛ける。
「もし、お姉様の目が覚めないとして。お姉様の目覚めをずっと待ち続けたいと思ったなら、言って頂戴ね」
「……」
「立派なスレイブにしてあげるから」
私の発言は間違っていただろうか。ある意味では、現実的な発想だと思う。霊夢はお姉様のお友達かもしれないけれ
ど……咲夜は、お姉様を慕う従者ですもの。
「まだ、お断りしておきますわね」
「賢明ね」
でも、咲夜が望まないなら、やっぱり強制するべきではない。死ぬ自由を奪う事は、私からしても、重い『罪』だと
思うから。『罪』はそうそう背負うものじゃない。折角幻想郷はその罪を作らなくても良い環境にあるのだから。
「さて……次は」
……次は上白沢慧音。八意永琳。そして駄目元の八雲一家。
半獣は幻想郷の歴史について把握しているし、妖怪に対する知識も豊富に持っているに違いない。八意永琳は、咲夜
の話を聞いた限りだと人間では持ち得ない知識を持っているらしい。八雲藍、八雲紫については、あまり気が進まない
けれど助力願うしかないと思う。嫌だからと避けていては駄目。
私は未だ変わらない青を湛える空を見上げて、ただ、お姉様が目を開けることを願う。
※ べりーべりーすうぃーとくっきーず
「咲夜、今日の罰は何かしら」
「はい。午前六時に起床しまして晴天の中を日光浴。その後はパチュリー様が降らせる雨で身を清めまして、午後か
らは民衆による貼り付けです。一通りこなしましたら私めが直々に銀ナイフの的にして差し上げます」
「今日も素敵ね」
「はい」
焼けて爛れる肌を呆然と見守りながら憎たらしい太陽を恨む。角質が剥がれ落ち、肉を焼き始めるのに数時間ともか
からなかった。震える手足を抱え、限界が近づこうとしている所に風呂場をひっくり返したような大雨が降り注ぐ。
肌が剥き出しになった場所からブスブスと音を出して煙が上がり、私は堪え切れずに絶叫した。
「ああああっ……アアアアアアアアアッッ!!!」
それを堪える為に歯を食いしばりすぎて、奥歯が何本か欠ける。降り注ぐ雨のお陰でリジェネーションが全く追いつ
かない。膝から崩れ落ちる私は、そのまま全身を地面に投げ出した。
糞っ垂れだわ。
「お嬢様、お疲れですか」
「べつに……疲れてなんて……ないわよ」
「お姉様、立ち上がって、お姉様」
フランが耳元で囁く。愛しい愛しい妹の声で、喚くんじゃないわよこの悪魔。
……元から悪魔だったかしら。畜生。
「んぐっ……グギゥ……」
嫌な音を立てて、右腕が吹っ飛んだ。妹は、それはそれは恋しそうに、吹っ飛んだ腕を愛でている。
ギチギチと軋む三肢を働かせ、立ち上がる。立ち上がったところで、突然場面はとんだ。
「悪魔め」
「悪魔め」
「悪魔め」
古い衣装を身に纏った人々が、聖者の如く貼り付けにされた私に石を投げつける。何時の間にかまた腕がついていて、
お話の整合性はない。これが夢なのだと確信出来るけれど、やはり、痛いものは痛い。
「罰を受けろ!! 人食い!!」
「罰を受けろ!! 監禁魔!!」
「罰を受けろ!! 背信の権化!!」
民衆は幾重にも重なって、数百数千の石を投げる。その内、矢まで放たれるようになった。
「ぐっ……」
鏃が銀だと言うのが、そのイヤラシサを感じさせる。
やがて一瞬にして民衆は消え去り、鉄メットと鎖帷子を纏い、槍で武装した一段が私を囲む。
「くたばれ悪魔!!」
「ギギ……ぐっぅぅ……うっくぅ……」
解ったから、喚くんじゃないわよ……くそっ。
何もかもが競り上がり、口から噴出する。腕肩肘膝腹部下腹部胸に喉。首に頭に、埋め尽くすような槍が突き立てら
れた。血で濡れて霞む視線の先には、霊夢がいる。もうめちゃくちゃだ。
「可哀想ね、レミリア」
「そう思うかしら。ならば殺してくれる?」
「いいわ、可哀想なレミリア」
いつもだ。いつも誰か、ギリギリになると私を殺しに来る。必ず霊夢か、魔理沙か、咲夜か、パチェか、美鈴か、フ
ランだ。けれどそれでいい。一時でも殺害されて解放されるならば、それでいい。
「霊夢、まだ。私が終ってないわ」
「そう、じゃあ仕方ないわ」
咲夜が割り込んできた。畜生、こんな時ぐらいスケジュールは適当でいいのに……無駄に瀟洒ね。
「痛いですか」
十字架から何時の間にか降ろされた私の眼球に、銀のナイフがめり込む。痛いなんてもんじゃない。脳髄が焼ける。
……お願いだから、かき回さないで……。
「ひぎいぃぁああぁ……あ、ひ、ぐ……あが、は、は、は、はひ……」
「痛がるお嬢様は、とても美しいですわ」
「そ、そう……ぐぎ……はっ……はっ……いやぁぁぁっ……ああぁぁ……」
銀のナイフが目を抉り出す。まるで素人が魚を捌くように、そんな酷い手つきで私の目を抉り、穿る。
「……は……はは……は……」
「霊夢、後は好きにしていいわ。お嬢様、死にたがっているの」
「いいわ。レミリア、またね」
はいはい……くそっ……またね。
私の心の臓目掛けて、大量の針が打ち込まれる。三十発、四十発と回を重ねては消え重ねては消え、最後の一発で私
はとうとう絶命した。
その瞬間だけ、まるで幽体離脱したように、私自身を客観的に見る事が出来る。
脳天が穿たれ、目にはナイフが刺さったまま。猟奇殺人事件だってここまでは滅多刺しにしないだろうと言うほど、
身体中が穴だらけ。特に胸は、私を通り越して下の地面が見えている。
私を殺害した二人は……私の骸を眺めて泣いていた。なんともイヤラシイ。泣くわけないだろうが。泣きたいのは、
こっちだっていうの。畜生。畜生。
「お姉様……お姉様……」
「フラン……」
「私……私頑張ったの……分量を間違えてしまったのだけれど……」
「そう、クッキーを焼いたのね……」
「食べて、お姉様。私……頑張ったの……」
毎度毎度、毎度毎度毎度毎度。殺されて、次の瞬間はこれ。可愛らしい笑顔を湛えた妹が、クッキーを片手に現れて
食べる事を強制しやがる。
幻想であると解っている。これがエゲツナイ夢だと知っている。
――けれど、私は一切、手出しは出来ない。見知った顔を引き裂いてやる事など、まして愛しい妹をこの手で殺害す
るなど、夢の中でも、出来ない。それにきっと意味はない。
「甘いわ……フラン」
「愛してる……愛してるわ、お姉様……」
「私も……私もよ……フラン」
そんな台本通りの発言も……今となっては、これだけが救いになっていた。
※
理不尽な所業に対して、一個体とは果てしなく無力なのだと実感する。もしコレが戦事であったなら、一個体でも完
遂せしめられるのだけれど。
お姉様の隣の部屋。新しい私の部屋のベッドで横になり、妄想する。
今お姉様が受けている罰が、もし悪魔の大群であったのなら。恐らく何の苦もなくそれを排除してかかれる。遠くに
見える親玉の司令塔を能力で細切れの木端微塵に吹っ飛ばして、迫り来る敵をレーヴァンティンで薙ぎ払うだけ。
ほら簡単。お姉様はあっと言うまに目を開けて、私に微笑んでくれる筈。
有難うフラン、よくやってくれたわ。そんな風にいって、頭を撫でてくれるかもしれない。自由になった私とお姉様
は、紅魔館でゆっくりひっそり平和に暮らす。何者にも邪魔されず、友達を呼んでお茶会をして、咲夜や美鈴をネタに
盛り上がったり、お姉様にイジワルしたり。パチェも小悪魔も交えて、みんなで笑う。
「ふふ……♪」
お姉様が、私にぎゅっと抱きついてくる。私は止めてって言うのだけれど、お姉様はそれを聞かないで、もっときつ
く抱きしめてくる。私も嫌じゃないから、お返しにぎゅってする。
額と額を合わせてクスクス笑いあって……今までごめんなさい、って、お姉様が言う。私はそんな事気にしないから、
今が幸せだから、そんな風に許して……お姉様の……お姉様の……くち、唇に……。
「……うわぁ……私……へんな子……」
抱き枕にキスした所で、ふと我に帰って自己嫌悪する。
枕相手に何してるんだろ、私。……けれど、何と言うか、辛い現実を目の当たりにすると、逃げずにはいられなくな
るし、多少飛躍した妄想でもしないと、やっていけない気がする。
レミリアお姉様……私の記憶の大半は、無感動で出来ていた。けれどいざお姉様の気持ちに気が付いた時、そして行
動に移った時、本当に衝撃を受けた。
そんなに愛されているなんて知らなかったから。もし罰を受けたお姉様がなんともなかったのなら、こんな妄想もせ
ずに済んだかもしれないけれど……気がついて、けれど一方通行になってしまったこの気持ちのやり場を、一体どこへ
向けたら良いと言うのだろう。
このままじゃ本当に一人上手になっちゃうわ。
私はベッドから跳ね起きて、お姉様の部屋へ向かう。まだお姉様が隣にいる方が、噛み付く程度で済みそうだもの。
もしお姉様がこんな風にあんな風にしてくれたらと考えると、唇は乾くし心臓はバクバク言うし、変な気持ちになるし。
まだ実物が目の前に居る方が抑えられそう。
「おねえ……ん?」
ドアに手を掛けたところで……中から音がした。今は夜中の一時。皆私の時間に合わせているのだから、寝静まって
いる筈。紅魔館に不届きモノが現れるとも思えない(魔理沙なんかは除いて)し、間違いなく内部の者だと思う。
気になる。もしかしたら本当に咲夜やパチェだったりして。
私は身体を霧にして、ドアの隙間から侵入する。あまり意識した事はなかったけれど、吸血鬼ってやっぱり便利。
「レミリア」
……案の定、そこにいたのは咲夜だ。普段から、お姉様が寝たきりで床ずれを起さないように寝返りを打たせたりマ
ッサージをしたりする為にお姉様の部屋には来るけれど……当然こんな時間にはこない。
咲夜はお姉様が横になるベッドに腰掛けて、一人語りかけている。
「最初は、あまり思い出さないようにしていたけれど。けれど、最近ね、なんでここでメイドをしているのか、とか、
元の名前はなんだったか、何てことを、断片的に思い出すのよ。この意味解るかしら、レミリア」
咲夜の……そうか。幾ら可笑しい力を持っていたとしても、やっぱり悪魔の館で人間が働くなんて、不思議だとは思
っていた。
「今の私なら、貴女を殺せるわ。運命を握る貴女がそんなだからイケナイのよ。例えば、この銀のナイフで貼り付け
にする必要もない。今から木を削りだして杭を作って、大鎚で貴女を突き殺す事だって簡単。動かない貴女はそのまま
私に担がれて火葬されて、その灰を十字路に撒き散らされる。するとお終い。永遠に幼き紅い月は、永遠でもなんでも
なくなって、たんなる”そんな奴がいた”という存在になる。己を失って、皆の記憶だけになる」
咲夜は、何を言っているのだろう。お姉様を、殺す?
「そして、その記憶を持っている奴等も鏖殺にする。フランドールスカーレットも、パチュリーノーレッジも、紅美
鈴も、その他多数も、みんな殺す。そしてそれを覚えている私も自決、幕引き。生物に対しての完全な殺害。記憶にす
ら残らない」
ちょっと、ちょっと、ちょっと……!!
「でも……ね。そんな考えが、昔はあったからこそ、力が弱まった今思い出されるのだと思う。そう、思い出される
だけで、実行しようなんて思わない。大体、そんな事して何が面白いのよ。紅魔館は、こんなにいい場所なのに」
はぁ、と、無い口を作って溜息を付く。当然よね……咲夜が、お姉様に手を掛けるわけが無い。
「レミリア……フランお嬢様がね、貴女の為に頑張るって決めたわ。けれど初日は不発。上白沢慧音は申し訳ないと
頭を振って、永琳は事例がないと頭を下げた。そうよね、歴史を知ろうと、人外の知恵を持とうと、吸血鬼に詳しくな
いんじゃあ意味がないわ。でも、フランお嬢様は頭を下げてお願いしたわ。舐められると注意した筈なのに……」
今日のお昼は……結局散々なものだった。収穫なんてない。だからこそ、あんな妄想をしたのかも……。
「フランお嬢様は頑張ってくれると思う。けれど、可能性は薄い。もし……もし、本当に駄目で、罰を受け続ける事
が苦痛ならば……何でもいい、何でもいいから知らせて。苦しまないよう、一発で殺してあげるから……レミリア……
貴女は良い主人だったわ。傲慢で居丈高でワガママだったけれど、私はその命令をこなす事に、何の苦痛も感じなかっ
た。春の異変だって、夜の異変だって、花の異変だって、その分回ってきた大量の仕事だって、むしろ良く思えた。ね
ぇレミリア……目を……くっ……目を開けてよ……命令して頂戴……ワガママ言って頂戴……咲夜に、咲夜に指示を…
…指示を下さい……う、うあっ……うあぁぁっ……」
あまり、信じられるものじゃなかった。あのメイド長が、お姉様に泣き縋るなんて……。
でも、それだけ現実は辛い。咲夜に泣かれようと、お姉様は依然として反応なんて示さない。
私は実体化して、泣き崩れた咲夜を、後ろから抱きしめる。
「はっ、う、フ、フランお嬢様……?」
「ねぇ咲夜……」
「……はい」
「傷の舐めあいは、嫌いかしら……」
「……いいえ」
私が一方的にしてあげられる事も無いし、私が一方的にしてもらう事も無いと思う。
出来る事といえば、互いに傷ついた者同士で、傷を癒す事ぐらいだ。出来れば……咲夜には人間でいて欲しい。お姉
様には、咲夜が人間でいる間に目覚めて貰いたい。
でも、あえて「下僕にする」と言う背徳的な手段を取る事を拒むのならば、その傷口の舐めあう事くらい『罪』には
ならないと思う。
今の私なら、丁寧に咲夜の傷を舐めてあげられる。同じ痛みを持つ同士、それが逆に快感になってしまうほどに、私
は咲夜のぱっくり開いた傷口を、綺麗に甘美に舐めてあげられる。
嗚呼願わくば私達愚か者共に幸あれ。
嗚呼願わくば愛しき姉に覚醒を齎したまえ。
今は、心の中で祈りを捧げ、互いに深い傷を忘れる程舐めあうのが……限界だ。
続く。
十六夜咲夜の門番考察 前 後
Very very sweet Cookie
の流れを組んだお話の前編となります。
人によっては不快に感じる描写があるかもしれません。ご注意ください。それでも宜しければ是非ともご一読くださいませ。
※べりーべりーすうぃーとくっきーず
肉体を構成する物質が恐怖であるならば、流れる血は嫌悪であろう。瞳に移るのは見知った顔ばかり。しかし誰一人
として現実世界とは合致しない性格と関係。鼻腔から吸われる臭いは、所謂魚介類の腐ったような悪臭。耳朶に響き渡
る声は、吸血鬼を怖れる叫びと、蔑む笑い声。触覚に伝わる感触は、ドブ河に手を突っ込むが如きものあるように感じ
られる。
総じていえば、気持ちが悪い。
死にたいのに死ねない。霊夢に、咲夜に、魔理沙に、パチェに、フランに哀れまれ、何度も何度も殺されるが死なな
い。殺された次の瞬間、また朝がやってきて、一時の夢を見させるのだ。
例えば……、妹が甘いクッキーを持って、夢から覚めた自分に駆け寄る、なんてご都合主義の夢。
幾千幾万幾億と重ねられる罰の波。私は、未だ五百年の波紋の中に彷徨う。
民衆に恐怖を齎した王は罰せられ、その栄華に終止符を打たれるが、吸血鬼のような死なない存在は違う。罰は積み
重なり、やがて清算しなければならない。罪は幾ら見過ごせど、蓄積し続ける罰からは逃げられない。
私はそれを全て、フランに任せていた。当然、わざとなどではない。父も母も、妹にそれを強いた故に、自分も当然
の如くそうしていただけ。
だが、言い訳になどはならない。事実は存在し、罪は消えれど罰はフランが常に背負っていた。
それを、五百年分の罰を一身に受け入れたのだ。ただで済む筈など無い。
腐れた夢の中で思うのは、今妹は何をしているのか、咲夜は老衰していないだろうか、いきとしいける者達に対して
の念ばかり。
「……咲夜、紅茶が飲みたいわ……」
待てど、泣けど、笑えど、狂えど、自分が目覚めるべき月は未だ昇りなどしなかった。
1 新当主
当然、私は望んだりはしなかった。お姉様は目を覚まさないだけで生きているのだし、自分でも力不足であるとも感
じているし。けれど咲夜やパチュリーが言うには、紅魔館の主の座を空白にしておく訳にはいかない、のだとか。
正直に気は進まないと提言したけれど即座に却下されてしまった。主候補では権限が少ないみたい。
だったら主になって即座に解散総選挙だと脅してはみたものの、あろう事か咲夜に頭まで下げられてしまうし。仕方
がないので、当主代理と言う立場で納得して貰った。
姉が居た地位に今私がいる。
お姉様が罰を受け取ってくれたお陰で、私は完全に自由な身となっていた。破壊衝動は湧き上がらないし、日増しに
精神的に安定して行くのが自分でも解る。一番驚いたのは、たぶんだけれど抑圧していた知性の類が活発になった所為
で、物覚えも良くなった。
それがたった二週間での事。流石のパチュリーも驚いていたし、咲夜も動揺して瀟洒じゃなくなっていた。
これも全部お姉様のお陰だけれど、「代わりに罰を受けた」では語弊があると思う。正しくは「忘れていた罰を取り
戻した」だ。
……お姉様は、まだ寝ている。正確にいえば目を開けない。寝てはいないのだと言う。五百年分の罰を受けている最
中で、いつ目を開けるかも定かじゃない。
私は五百年の罰をお姉様に返したあの日以来、ずっと傍にいる。今も天蓋のある大きなベッドの下で、お姉様は”寝
息”をたてて”眠って”いる。
私は確かに、自由になったと思う。衝動ではなくて任意で能力を使えるし、知恵も急激について来たし、感情も自制
出来るようになった。けれど、これでは、これでは何の意味も無い。
お姉様と一緒に語らえないのならば、幽閉されていた頃と何の違いもない。
「ねぇお姉様。今度はお姉様の番だって言うの? 返事をして、お姉様……」
私はずっと、傍にいる。己が溜め込んだ罰に苦しむ姉妹の顔を眺めている。お姉様は、時折狂ったようにその紅い眼
を見開いて絶叫する。気が違えたように絶叫したかと思うと、今度は隣に居る私に縋り、咽び泣く。
その戦慄を催す程の咆哮は、暗室に篭っていた私が読みふけった、御伽噺の幻獣そのものだった。
そんな姉を見るたびに、つくづく私達という存在は人に近い身なりをしただけのバケモノであると実感させられてし
まう。
「レミリア……辛い? 辛いよね……ごめんなさい……」
私が、強ければ。
私が姉の罰をも簡単に許容出来るほどの精神力と力を兼ね備えていたならば、きっとこんな事にはならなかった。
外の世界が気になるとか、面白い事がしたいとか、そんなワガママを言わなければ、お姉様はきっと今まで通りだっ
たのだと思う。私と違って、お姉様には友人が居るし、気心の知れた親友も居るし、一番信用している咲夜が居る。
私なんかより全然人から愛を受けていた人を、こんな事にしてしまったのは、確実に私だ。
姉を憎く思っていた頃もある。けれどやっぱり、血の繋がった唯一の肉親。自分が幽閉されて姉の罰を代わりに受け
ているんだって気が付いた時だって、何も言わなかった。
私が陰ならお姉様は陽。吸血鬼だから可笑しな話だとは思うけれど、そう例えるのがしっくり来る。
「お姉様……」
火も灯らない、夕暮れ近くの薄暗い部屋。この部屋には、私が引き起こす背徳の空気と、姉が引き起こす悲壮の空気
が入り混じり、漂っていた。
お姉様。まるで人形みたいだわ。大人しく眼を瞑る貴女は、少し私と顔立ちが似ているけれど、やはり違う存在。見
ていれば見ているほどに、美しく思える。
「お姉様……お姉様……」
ベッドに横たわるお姉様……レミリアの毛布をはだけて隣に寄り添う。眼下に広がるのは幼さに妖艶さを湛えた矛盾
の美と、白くきめ細やかな肌色の首筋。思わず息が上がる。喉を嚥下する。
その引き裂いてしまいたくなるほど愛くるしいレミリアの肌に私は指を滑らせて、何度も撫でつける。レミリアはま
ったく反応を示さない。
貴女のお陰で自由になれたのに、本人が不自由になってしまっては意味が無い。意味が無いの。
私はレミリアの首筋に舌を這わせ、何度もキスする。難しい事なんて無くて、これは、いわば忠誠心を示しているよ
うなもの……だと思う。私はレミリアの妹で良い。当主になどならなくて良い。アイツ呼ばわりした事だってある。憎
たらしく思った事もある。自由にさせてくれない貴女に殺意だって抱いた事がある。
けれど、こうなってしまっては……。ねぇ、レミリア。貴女が救われるなら、私はもう一度全ての罰を引き受けたい。
レミリアがまた笑顔を取り戻してくれるなら、こんな勝手でワガママな命なんて幾らでも差し出す。
「レミリアの香り……」
首筋に顔を埋めたまま、その芳しい香りを楽しむ。悲しいけれど、五感の何処かを満たしてくれるものがあるならば、
このまま待ち続ける事も苦にならないような気がしたから。勿論、寝たきりなんて嫌だけれど、最悪の可能性の方が現
実的すぎる。
押し寄せてくる悲しみ。私は最近芽生えたばかりの真新しい自制心をかなぐり捨てて、その柔肌に歯を突き立てた。
歯が肉に沈み込む快感。押し寄せる背徳。盛り上がる感情。口の中に”レミリア”が入ってくる。むせるほどの血の
濃い味が一杯に広がり、それを溢すまいとして滴る血液の雫を下品にも舌を出して必死に舐め取る。
自分が吸血鬼なのだなと、実感したのが、”お姉様”が目を覚まさなくなったその日だった。
「お姉様は、私が狂っているって、思っていたわよね……私もそう思うわ」
口の端から垂れた血をなめずり、唇をきゅっと縛る。お姉様の傷口は直ぐに消えてなくなった。それと共に、私は涙
する。お姉様は生きている。生きているからこそ、直ぐに傷が修復される。
けれど目を覚まさない。フラン、と呼びかけてくれたりはしない。
「……フランお嬢様。おいたはいけませんわ」
「――咲夜」
そんな感傷に浸っていると、何時の間にか背後には”私の従者”が居た。その目には……私と似たような感情が漂っ
ているように思える。
「勝手に入ってきちゃ、ダメでしょう。ねぇ咲夜」
「失礼しましたわ。でも、フランお嬢様があまりに楽しそうだったものでつい」
「今なら元ご主人様にやりたい放題よ。咲夜もどう?」
「そのうちひっそりやりますわ」
冗談を言える余裕は、互いにあるらしい。何となしに、安堵する。
「御夕食の準備が整いましたのでお声をかけようと参上したのですけれど、お腹いっぱい、です?」
「お姉様が枯れるほど口をつけてなんていないわ。ここに居るのは、お腹でなくて心をいっぱいにする為」
「でも、その度に泣いておられますわ。虚しいでしょうに」
「……そう、咲夜ったら覗きが趣味だったのね。毎度見ていた訳?」
「不謹慎ながら、見ているとドキドキしましたわ。紅魔館で働けて嬉しいのなんのってアナタ」
「くっ、ぷぷ。あははっ」
「ここに居ても、得るものはありません。御夕食でもお食べになって、落ち着かれたら如何です?」
「そうよね。私がずっとここにいたら、咲夜がお姉様に手出し出来ないものね」
「まぁ。心を覗く程度の能力までお持ちなんですの? お見逸れしますわ」
「貴女は良いメイドね、咲夜」
「完璧で瀟洒ですの。伊達に紅魔館のメイド長じゃあありませんわ」
「……夕食、頂くわ。お腹すいちゃった」
「はい」
私は咲夜に連れられてお姉様の部屋を後にする。最近は慣れたけれど、やっぱり部屋を出ると普通の廊下があるって
言うのは新鮮だと思う。何より、勝手に出歩いても誰も文句は言わない。メイド達にはまだ警戒心があるのか、頭を下
げるとソソクサ退散してしまうけれど。
私は、今は主。代理だけれど主。この紅魔館の秩序根幹。威厳の中心。せめてお姉様が目を瞑っている間位は、当主
らしく振舞わないといけない。そんな義務感が生まれた。姉は何時かちゃんと目を開けるんだから、別に振舞わなくて
もいいもんぷりぷり、なんて言ってられないと思えるほど、私もちゃんと心の形が出来てきたらしい。
「あら、パチュリー」
「妹様、遅いわ」
長い長いテーブルに長い長いテーブルクロスの敷かれた食卓。その上座の直ぐ近くには、もうパチュリーが本を読み
ながら控えていた。普段ずっと睡眠から食事まで図書館に引きこもっているパチュリーを考えると、非常に珍しいと感
じられる。
「今日はちゃんと食堂で食事するのね」
「……呼称、変えましょうか。パチェでいいわ」
「まるで初対面みたいな言い方ねぇ……じゃあ、フランでいいと思うわ」
「えぇ。実はねフラン、今日は考えがあって、ここにいるの」
「?」
パチェは本をパタンと閉じて、私に真剣な顔を向ける。間違いなく、お姉様の事であろうとは予測出来た。
「私なりに色々調べたわ。一応吸血鬼に関する書物は棚一つ分あったし。読むのと思い出すので随分時間を食ってし
まったけれど」
「そ、それは。何か解ったって事かしら?」
流石パチェッ! と手を叩こうとしたところで、頭を横に振られてしまった。世の中そう上手くはいかないらしい。
「これは色々な知識を統合して、私なりに出した答えだけれど、やはり、書物にかかれるような範囲では解決策は見
当たらない」
「そう、よね。そもそも吸血鬼は個体数が少ないし、大抵罪と罰は自分で処理しているもの。恐らく」
「いえ、その通り。畏怖の象徴たる吸血鬼は罪を被り罰を受ける。それを好まない吸血鬼は人間と共存の道を選んだ
り、山奥でひっそり暮らしたりする。そのどちらでもない貴女達姉妹は、やはり特殊だわ。けれど、知っているかしら、
フラン」
「何?」
「……レミィは言っていたわ。幻想郷は、妹すら許容出来るほどの幻想で編まれた理想郷であると信じているって」
「それは、いつ?」
「貴女を外に出したいと思い立った頃からだと思うわ。つい最近よ。それでね、ここは幻想郷なの」
「当然ね……でも、出た事はないけれど」
「レミィにつきっきりだったものね。それで、ココは幻想郷で、外の世界ではもはや夢物語でしかないような力を持
った人間や妖怪が沢山いる。私達が持ち得ない知識を持った人もいるかもしれない。当然、可能性は薄いけれども、何
もせず姉が目を覚ますのを悶々と見つめて待っているよりは、その人達に協力を仰ぐよう奔走した方が、良いんじゃな
いかしら」
「見てたの?」
「不謹慎だけれど、ドキドキしたわ、フラン」
「紅魔館恐いわ」
「恐怖の中枢が何を。どう? 貴女に出来る、唯一の努力だと思うのだけれど」
私に出来る唯一の努力。パチェの言う通り、お姉様に引っ付いているのは非常に非生産的だと思う。ここは幻想郷で、
外の世界なんかより不確定で不可思議で不理解なものが満ち溢れた場所。
成る程、と思う。何もしないより、全然良い。
力や知恵を持った人に頼ってみたら、どうだろう? パチェの話通り当然可能性は薄いけれど……このまま寝たきり
のお姉様を見守るのは、やはり苦痛でしかないし、可能性は薄くとも探ってみた方が絶対良い。
「そうね、私が居たらお姉様に色々出来ないものね、パチェ」
「……」
黙さないでよ。というか本で顔隠さないでよ。
「兎も角よ。このまま引きこもっていても以前となんら解らないわ。折角レミィが腹を切ってくれたのだもの、自由
に空でも飛んでみたらいいんじゃないかしら。あまり期待しすぎると、ショックも大きいから……」
「やっぱり、パチェも早く目を覚ましてもらった方がいいわよね」
「当然よ。私や貴女は寿命が長いからいいかもしれない。けれど咲夜はどう? 知り合った人間の友人はどうかしら。
時は流れ全ては劣化する。私達が目を瞑っている間に、彼女達は死んでしまう。それは悲しい事よ。個人的にも、レミ
ィの居ない紅魔館はやっぱり、違和感があるもの」
親友としての本心なのだと思う。ちょっと俯いて、そのように語ってくれた。やっぱり、お姉様は愛されている。
……運ばれてきた料理をぱくつきながら、控えめに食べるパチェを見る。お姉様と親友になった理由が、そこから伺
えた。引きこもりだの紫もやしだのと言われているけれど、パチェはいい子で可愛いもの。
「な、何? どうしたのフラン」
「ふふ。もうお目付け役なんかじゃないんだものね、パチェは。だから呼称を変えようなんて言ったのね?」
「代理でも当主様だもの。それに、フランは普通に生活出来る。なら、普通に扱わなきゃ」
「パチェ?」
「……うん?」
「私とも親友になってくれるかしら?」
その言葉に、サラダを食べていたパチェが停止して、赤面した。なんだか本当に可愛い。調度品やら本棚を壊したオ
シオキだーなんて言っていたのは、つい最近だった筈なのに。ここに居るパチェはなんだか別人に見える。
「そ、そんな事宣言せずとも、昔から同じ屋根の下よ」
「そうよね。これからも宜しく」
「う……えぇ」
これもまた、お姉様が与えてくれた自由のひとかけら。お姉様は誠意を見せて、そして覚悟してくれた。
今度は、私が頑張らなきゃいけない。
鴨肉のレモンソース掛けに興味をそそられつつ、そんな決意を新たにする。
※※※
お姉様が目を開けなくなってから、私は毎日同じベッドで寝る事にしている。お姉様の部屋の隣に新しい私の部屋を
用意してもらったのだけれど、そちらはまだ使用した事が無い。
朝起きて目を覚ましたら、まずお姉様が目を開けていないか確かめる。
柔らかいホッペを突付いたり、引っ張ってみたり。そして今日もまだダメか、と絶望してからベッドを出る頃には既
に咲夜が着替えを持って部屋に居る。私はお姉様より目覚めが良いらしくて評判はいい。
何故吸血鬼なのに朝起きているかといえば、実はお見舞いを期待していたりする。特に霊夢や魔理沙は人間だから夜
出歩かない。案の定、一週間ほど前にはなんと手土産まで持って来ていた。
安いお茶菓子だったけれど。
手土産は良いとして、二人の様子はどうだったかと言えば、此方が思っていたより全然深刻だったと思う。巫女は人
間にも妖怪にも平等だと聞いたけれど、私にはそうは見えなかった。魔理沙は魔理沙で『不思議な事もあるもんだぜ』
なんて言っていたけれど、張り合いが無くなったと嘆いていた。
「お姉様は今日も目を開けない……か」
隣で”寝息”を立てるお姉様に、抱き枕みたいに抱きついてみる。胸に耳を当てれば小さく鼓動が聞こえるし、血色
も、吸血鬼にしては良いと思う。そんなお姉様の頬にキスをしてから、私はベッドから降りて背伸びをする。
窓が少ない紅魔館だけれど、一応小さく備え付けてはある。
窓から漏れる光は、今が朝だと教えてくれた。
「私って、こんなにお姉様の事……」
好きだったかしら、と考えようとして止めた。
今そんな問いに全然意味はない。たった二週間ちょっと前ならば相当疑問にも思ったかもしれないけれど、身体を張
って私を自由にしてくれたのだもの。いいじゃない、姉妹愛が強くなったって。
因果応報といえば、因果応報なのだけれど……元はお姉様が悪い訳ではないし。そう、顔も覚えていない両親が悪い。
たった一度きり、私が能力を暴走させたばかりに、盛大な勘違いをしたのだから。少女の私ならば責任はあったかも
知れないけれど、乳児じゃあ問えないわよね。
そんな事さえなければ……。
「おはよう御座いますフランお嬢様。今日も天気は最悪ですわ」
「まぁ、晴天なの? ちょっと楽しみね」
「……あの、本当に、ですか? 本当に外を回られるんですか?」
昨日、食後に私はパチェから聞いた話を、そのまま咲夜にした。当然、今日のスケジュールはその第一日目となって
いる。やっぱり何か新しい事をしようとすると、咲夜は保守的なのよね。
「咲夜は保守派」
「ある意味で現在は革命政権樹立後と言えるでしょう。推奨したのは私ですけれど」
「継続的な革命が大事だって、どこかの本に書いてあったわ」
「難しいですわ」
「何でもいい。着替えるわ」
「はい」
そう言って一秒もしない間に、私は普段の服装になっていた。髪までしっかり髪を解かされているし。別に珍しい事
じゃあないのだけれど、考えれば考えるほど不思議な能力よね。
「ねぇ咲夜」
「はい?」
私は髪の毛をいじりながら咲夜に問い掛ける。リボン、この色じゃない方がいいなぁ……。
「時間を止めるって、どんな感覚かしら」
「大げさに言えば世界の支配。謙虚に言えば老化が早く進みますわ」
「難儀ねぇ」
「時間でも止めないと、紅魔館の仕事なんて終りませんよ……」
「咲夜、それ愚痴、愚痴よ」
「これはこれは。愚痴は門番にでしたわね」
「そうね。朝食は?」
「準備出来ていますわ」
「血液の冷性スープ?」
「はい。他はパンとサラダです」
「あっさりめがいいわね」
「そうでしょうとも」
こうして朝が始まる。けれど今日は何時もと違って、お姉様につきっきりなんかじゃない。
初めて、昼の外に出る日だ。
朝食を早々に切り上げて、咲夜に準備するように指示、しようと思ったらもう既に出来ていたりする。便利ね。
玄関に行くと、妖精メイド達が表口にずらっと整列して私を出迎えてくれた。何人くらいいるのだろう。考えもしな
かったけれど、相当な数だと思う。
「フランお嬢様、日のある時間帯に外出する場合の諸注意が幾つかありますわ」
「うん、説明して」
「はい。ご存知かとは思われますが、川を渡る事は出来ません。空は飛びますが、日傘からあまりはみ出ないように
ご注意ください。基督教圏ではありませんし、十字架も弱点ではないでしょうが、人里の民家などにはたまにニンニク
を陰干しにしている所がありますので、不用意に近づいてはいけません。それと、フランお嬢様の場合紅魔館敷地から
出るのは初めてとなりますから、かなり警戒されると思われますわ。人里の場合上白沢慧音と言う半獣がいます。
あまり突っかからず、けれど傲慢で居丈高に振舞ってくださいまし。舐められます。そして紅魔館周辺、及び各地に
妖精や妖怪がいます。最近は人里にも頻繁に現れますから、珍しがって近づいてくるとも限りません。傲慢で居丈高な
振る舞いをお願いします。舐められます。それと、これは一番大事な事なのですが」
「えーと、弱点には近寄らずに舐められずに、えと、何?」
「フランお嬢様が否定されても、現在の当主はフランお嬢様ですわ。紅魔館秩序の要。威厳の塊。カリスマだだもれ
でお願いいたしますわ」
「すごい注文ね……」
「舐められますわ」
メンツがそんなに大事なんだろうかー、そうなのかーと、取り敢えず納得してみる。否定しても得はないと思うし。
紅魔館一つ背負うのもなかなか大変なのね。
はて、だとすると、お姉様ったらずっとこんな振る舞いを強いられてきたのかしら。だったらもしかして、本当のお
姉様って私が驚愕して腰が立たなくなるほど本当はおしとやかな清純派幼女だったりして……。
「違いますわ」
「心を読まないで頂戴……」
咲夜は恐かった。やっぱり、実質的な紅魔館の支配者は十六夜咲夜その人だと、思う……。
「ま、まぁいいわ。頑張る。それじゃあ、いきましょう」
「はい」
咲夜のメンツに対する拘りは別に置いて、私は硬く閉じられた扉へと足を進める。波のようにメイド達が、私が通る
タイミングにあわせて頭を下げている。凄く壮観。
やがて辿り付いた扉を、メイドが二人がかりで引き開く。
私の視界に飛び込んできたのは、目を閉じたくなるほどの太陽光だった。
一歩外に出る。咲夜がそれにあわせて日傘を差し出す。けれど……私はそれを少し退けて、青空を仰いだ。
「咲夜、外ね」
「えぇ」
「窓枠から見える、絵画みたいな空じゃなくて、本物の、宇宙に通じている空」
「はい」
「綺麗ね」
「吸血鬼ですのに?」
「だって私、昼に外へ出た事がないもの。青空だろうとなんだろうと、綺麗なモノは綺麗だと思うわ」
「……はい」
雲ひとつない晴天。これがお姉様が見ていた世界。視界を地上に戻すと、大きな塀と、門と、警備隊一同が並んでい
た。美鈴は……此方へ向かって手を振っている。
あまり接点の無い子だけれど、夜の外へ連れて行ってもらった事もあるし、一緒にお茶をした事もある。なんだか凄
くイジメたくなる、とても可愛い子。身体は大人なのに私の方がきっと年上なのよね……。
「フランお嬢様、その、どういったら良いのか解りませんけれど……」
「おめでとうでいいわ」
「えへへ……はい。おめでとう御座います。お外に出れるんですもんね」
「……みんなのお陰よ。貴女や霊夢や魔理沙や、アリスやパチェ、咲夜に、そしてお姉様」
「お役に立てたかどうかは解りませんけれど、そういっていただくと嬉しいかもです」
「貴女とはお友達だもの。ね、めーりん」
「フランちゃん……」
そう呼ばれると、なんだかちょっとくすぐったいわ。
「じゃあ、いってきます」
「美鈴、今日は一段と頑張って頂戴ね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
私と咲夜は、重力を無視して空へと浮かび上がる。蒼い蒼い空は、全然不快なんかじゃなかった。こうしていると、
まるで自分が吸血鬼だなんて思えなくなってしまう。
私は今、夢にまで見た青空を、飛んでいる。箱庭の外。更に大きな箱庭に出たんだ。
「フランお嬢様、最初の目的地は、どこに致しましょうね」
「最初はやっぱり、幻想郷自体の守護者の所かしら」
「はい。不躾な輩ですけれど、やはり紅魔館の主としては挨拶すべき相手ですわ」
「連れて行って」
「仰せのままに”お嬢様”」
咲夜は……そう言ってから、口を覆い隠した。何よ、完璧で瀟洒っていうのは、お飾りなのかしら?
「いいわよ、咲夜」
「……申し訳ありません」
「謝るのは、こっちよ……」
そこまで気を使う必要なんてないわ。これから、私が何とかしてみせるんだから。お姉様は絶対に目を開ける。咲夜
が、霊夢が、魔理沙が生きている間に、きっと目を開けるわ。
「大丈夫よ。咲夜、大丈夫」
完璧で瀟洒なメイドは……ただ目を瞑って、はいとだけ頷いた。
2 幻想郷知識人
死について、良く考えた事がある。勿論、つい最近。
死とはつまり、己という概念の完全消失。肉体は魂魄と分離して、肉体と魄は滅びて土に輪廻し、魂は裁かれ霊とし
て輪廻を待つ。たぶん人間でも実感のないお話だと思うけれど、閻魔だって近くにいるし、冥界だってすぐそこにある
らしいし、幻想郷はそういった概念が元から薄い場所なのかもしれない。
けれど、現実問題として、肉体が滅びたら魂は肉体から離れる。つまり居なくなる。
私のような吸血鬼は、人間の定義に当てはまるかどうかは知らないけれど、ヒトガタなのだからきっと同じだろう。
居なくなった人は、やがて周りの人からも忘れられる。肉体が滅びて、魂は他界して、魄も土に還り、忘れられて記
憶からも消え去って、生物は死滅する。
壮大なシステムの上に、生物は存在しているのだなと、パチェから借りた本を読みながら考えたりした。
そう、特に人間。
幻想郷は妖精や妖怪の数の方が上位らしいけれど、それだけ弱い生物が集落を形成して生きているって言うのだから
驚いてしまう。
システムには更にシステムがあって、イキモノ全部に個別のシステムがある。
殊人間のシステムは単純で矮小だ。しかもその壮大な動きの中で尚矮小。
怪我をすれば治るのに時間がかかるし、ひょんな事があれば即死する。肉体的にも精神的にも弱くて、寿命も短い。
何か真新しい答えが見つかったかといえば、当然何もない。ただ、なんとなくそう考えた。
「レミリアが眠り姫になったと思ったら、今度は貴女が来るのね」
「きちゃ、ダメ?」
「う……べ、別に悪かないけど……いや悪い筈なんだけど……そ、その目止めてよ」
矮小で弱小で非力で生命力の乏しい、群れないと何も出来ない生物、人間。
その中でこの博麗霊夢という子は、人間とは同じ次元には居ない存在だと思う。確かに、食べて行くには人の恩恵を
受けなければいけない事もあるだろうし、頼っている部分も多いとは思う。
けれどそれは私も同じで、その規準から言えば、博麗霊夢はあまり人に頼らない人間だ。生命力云々をすっとばして
強力な力を有していて、誰にも頼る節を見せず、日々を淡々と生きている。
良く、個体で完璧な生物は虫だと言うけれど、ある意味博麗霊夢はそれに近いのじゃないだろうか。
単体として魅力的なら……成る程、もしかしたらお姉様は、霊夢をスレイブにしたかったのかもしれないわね。
「お姉様が目を覚ましたら、今度は姉妹二人で来るわ」
「もう博麗神社に参拝客なんて来ないわね……そうなると」
「元からだって、咲夜が言ってたわ。ねぇ咲夜」
「私は真実しか申し上げませんわ」
「……はぁ。それで、今日は初めて外に出るから挨拶に来た、と」
「曲りなりにも博麗大結界の守護者でしょう。幻想郷を幻想郷たらしめる巫女。私みたいな要注意人物が出歩くって
言うのだから、知らせた方がいいでしょう」
ずずず、と。母屋の縁側でお茶を啜りながら今日の目的を話す。それと、実は目的がもうひとつあったりする。
「案外、誰も恐がらないわよ。ひまわりだって九尾だって鬼だって、人里までちょこちょこ行くもの。今更吸血鬼が
一匹増えた所で、なんとも思わないわよ。それに、吸血鬼は契約で縛られているし」
「えぇ、まったくね。その通り。でもそれって変よね」
「……へ?」
「だって、誰も恐くないのなら、なんで参拝客が来ないのかしら」
霊夢は……意表を突かれたかのように、ポカン、と止まってしまう。本当に気がついてなかったのかしら……。
「い、意味が解らないわ」
「解るわよ。お姉様だって、博麗神社に参拝客が来ないのは自分達の所為じゃないって解ってて訪れてたんだわ。人
里まで強力な妖怪が降りてるのに、同じような環境の博麗神社には来ない。これってやっぱり、妖怪の所為じゃなくて、
宣伝不足と、神社への距離、それに伴う人の信仰心の欠如、つまり貴女の所為ね」
私の頭の働く範囲で、常識的な意見を述べる。普通だと思うのだけれど、霊夢は冷凍ミカンみたいにカチンコチンに
なってしまっていた。……努力嫌いもここまで来ると本物ね。思考する努力すら忘れていたのかしら……。
「か、解決策の提示を求めるわ」
「うーん」
「……お賽銭あっぷ、無理?」
「さくや、咲夜。たしか、幻想郷には天狗のブン屋が居るわよね」
「はい」
「記事にしてもらわなくてもいいわ。風の噂にでもしてもらって。買収で」
「ちょ、ちょっと。怪しい真似しないでよ……」
「どのくらい出しましょうか」
「新聞百部取るとでも言っておけば良いわ」
「文ちゃん大喜びですわね。風の噂なら真実でなくとも良い訳ですし。嘘を記事にする訳でもないですし」
「咲夜、今探してきて。……本当は霊夢が努力すればいいのだけれど。これは、お礼」
「お礼って、何の?」
別に恩を売りたい訳じゃない。それに、お賽銭が無くても何故か生きていけるのがこの博麗霊夢ですもの。お賽銭は
アイデンティティみたいなものよね。でもそれって貧乏巫女って言う肩書き奪う事にならないかしら。
腋さえあればいっか。
「モノで伝えるのは、誠意を形にしたってだけの話。心から、感謝しているの」
「え。あ。うん?」
「射命丸文、『私、真実しか伝えません』と言いながら泣いて喜んでましたわ」
「ご苦労様」
「はい」
咲夜に手を引かれて立ち上がる。丁度逆光が後光のように私を射していて、凄くカリスマな感じ。ここは一つ良いセ
リフでも言っておけば、今後も紅魔館は安泰っぽそうだわ。
「――お姉様とお友達になってくれて有難う。私とお友達になってくれて有難う。魔理沙にも伝えてあげて」
「フラン……貴女」
「それじゃ、行きましょうか咲夜」
「仰せのままに」
「これからも宜しく、人間。それじゃあね」
私と咲夜は空に浮き上がり、地上に立ち尽くす霊夢に、小さく手を振った。
……打算もあるのだけれど、今の気持ちは本当。捕食対象である筈なのに、そうじゃない人間。強くて陽気で他人に
無関心だって言われるけれど、本当はそれだけじゃないのだと思う。
誰にでもある意味平等に接するなんて、本当に優しい人にしか出来ないわ。広義の意味での平等だけれど。
人間は弱いシステムの上に立っている。当然霊夢だってそれからはみ出る事はあっても抜け出す事はないと思う。
死は身近で、何時迫り来るとも解らない。お姉様がいつ目を覚ますかも見当がつかない今、お姉様と交流を持った人
間と言うのは、やっぱり貴重だ。
ちょっと前なら無理やり下僕にでもして、お姉様が目を覚ますまで一緒にいようなんて事も考えたかもしれないけれ
ど……やっぱり、人間は人間で天寿をまっとうすべきだと思う。
「咲夜」
「……如何なさいました?」
次の目的地を目指してふよふよと空気の中を漂いながら、私は咲夜の顔も見ずに問い掛ける。
「もし、お姉様の目が覚めないとして。お姉様の目覚めをずっと待ち続けたいと思ったなら、言って頂戴ね」
「……」
「立派なスレイブにしてあげるから」
私の発言は間違っていただろうか。ある意味では、現実的な発想だと思う。霊夢はお姉様のお友達かもしれないけれ
ど……咲夜は、お姉様を慕う従者ですもの。
「まだ、お断りしておきますわね」
「賢明ね」
でも、咲夜が望まないなら、やっぱり強制するべきではない。死ぬ自由を奪う事は、私からしても、重い『罪』だと
思うから。『罪』はそうそう背負うものじゃない。折角幻想郷はその罪を作らなくても良い環境にあるのだから。
「さて……次は」
……次は上白沢慧音。八意永琳。そして駄目元の八雲一家。
半獣は幻想郷の歴史について把握しているし、妖怪に対する知識も豊富に持っているに違いない。八意永琳は、咲夜
の話を聞いた限りだと人間では持ち得ない知識を持っているらしい。八雲藍、八雲紫については、あまり気が進まない
けれど助力願うしかないと思う。嫌だからと避けていては駄目。
私は未だ変わらない青を湛える空を見上げて、ただ、お姉様が目を開けることを願う。
※ べりーべりーすうぃーとくっきーず
「咲夜、今日の罰は何かしら」
「はい。午前六時に起床しまして晴天の中を日光浴。その後はパチュリー様が降らせる雨で身を清めまして、午後か
らは民衆による貼り付けです。一通りこなしましたら私めが直々に銀ナイフの的にして差し上げます」
「今日も素敵ね」
「はい」
焼けて爛れる肌を呆然と見守りながら憎たらしい太陽を恨む。角質が剥がれ落ち、肉を焼き始めるのに数時間ともか
からなかった。震える手足を抱え、限界が近づこうとしている所に風呂場をひっくり返したような大雨が降り注ぐ。
肌が剥き出しになった場所からブスブスと音を出して煙が上がり、私は堪え切れずに絶叫した。
「ああああっ……アアアアアアアアアッッ!!!」
それを堪える為に歯を食いしばりすぎて、奥歯が何本か欠ける。降り注ぐ雨のお陰でリジェネーションが全く追いつ
かない。膝から崩れ落ちる私は、そのまま全身を地面に投げ出した。
糞っ垂れだわ。
「お嬢様、お疲れですか」
「べつに……疲れてなんて……ないわよ」
「お姉様、立ち上がって、お姉様」
フランが耳元で囁く。愛しい愛しい妹の声で、喚くんじゃないわよこの悪魔。
……元から悪魔だったかしら。畜生。
「んぐっ……グギゥ……」
嫌な音を立てて、右腕が吹っ飛んだ。妹は、それはそれは恋しそうに、吹っ飛んだ腕を愛でている。
ギチギチと軋む三肢を働かせ、立ち上がる。立ち上がったところで、突然場面はとんだ。
「悪魔め」
「悪魔め」
「悪魔め」
古い衣装を身に纏った人々が、聖者の如く貼り付けにされた私に石を投げつける。何時の間にかまた腕がついていて、
お話の整合性はない。これが夢なのだと確信出来るけれど、やはり、痛いものは痛い。
「罰を受けろ!! 人食い!!」
「罰を受けろ!! 監禁魔!!」
「罰を受けろ!! 背信の権化!!」
民衆は幾重にも重なって、数百数千の石を投げる。その内、矢まで放たれるようになった。
「ぐっ……」
鏃が銀だと言うのが、そのイヤラシサを感じさせる。
やがて一瞬にして民衆は消え去り、鉄メットと鎖帷子を纏い、槍で武装した一段が私を囲む。
「くたばれ悪魔!!」
「ギギ……ぐっぅぅ……うっくぅ……」
解ったから、喚くんじゃないわよ……くそっ。
何もかもが競り上がり、口から噴出する。腕肩肘膝腹部下腹部胸に喉。首に頭に、埋め尽くすような槍が突き立てら
れた。血で濡れて霞む視線の先には、霊夢がいる。もうめちゃくちゃだ。
「可哀想ね、レミリア」
「そう思うかしら。ならば殺してくれる?」
「いいわ、可哀想なレミリア」
いつもだ。いつも誰か、ギリギリになると私を殺しに来る。必ず霊夢か、魔理沙か、咲夜か、パチェか、美鈴か、フ
ランだ。けれどそれでいい。一時でも殺害されて解放されるならば、それでいい。
「霊夢、まだ。私が終ってないわ」
「そう、じゃあ仕方ないわ」
咲夜が割り込んできた。畜生、こんな時ぐらいスケジュールは適当でいいのに……無駄に瀟洒ね。
「痛いですか」
十字架から何時の間にか降ろされた私の眼球に、銀のナイフがめり込む。痛いなんてもんじゃない。脳髄が焼ける。
……お願いだから、かき回さないで……。
「ひぎいぃぁああぁ……あ、ひ、ぐ……あが、は、は、は、はひ……」
「痛がるお嬢様は、とても美しいですわ」
「そ、そう……ぐぎ……はっ……はっ……いやぁぁぁっ……ああぁぁ……」
銀のナイフが目を抉り出す。まるで素人が魚を捌くように、そんな酷い手つきで私の目を抉り、穿る。
「……は……はは……は……」
「霊夢、後は好きにしていいわ。お嬢様、死にたがっているの」
「いいわ。レミリア、またね」
はいはい……くそっ……またね。
私の心の臓目掛けて、大量の針が打ち込まれる。三十発、四十発と回を重ねては消え重ねては消え、最後の一発で私
はとうとう絶命した。
その瞬間だけ、まるで幽体離脱したように、私自身を客観的に見る事が出来る。
脳天が穿たれ、目にはナイフが刺さったまま。猟奇殺人事件だってここまでは滅多刺しにしないだろうと言うほど、
身体中が穴だらけ。特に胸は、私を通り越して下の地面が見えている。
私を殺害した二人は……私の骸を眺めて泣いていた。なんともイヤラシイ。泣くわけないだろうが。泣きたいのは、
こっちだっていうの。畜生。畜生。
「お姉様……お姉様……」
「フラン……」
「私……私頑張ったの……分量を間違えてしまったのだけれど……」
「そう、クッキーを焼いたのね……」
「食べて、お姉様。私……頑張ったの……」
毎度毎度、毎度毎度毎度毎度。殺されて、次の瞬間はこれ。可愛らしい笑顔を湛えた妹が、クッキーを片手に現れて
食べる事を強制しやがる。
幻想であると解っている。これがエゲツナイ夢だと知っている。
――けれど、私は一切、手出しは出来ない。見知った顔を引き裂いてやる事など、まして愛しい妹をこの手で殺害す
るなど、夢の中でも、出来ない。それにきっと意味はない。
「甘いわ……フラン」
「愛してる……愛してるわ、お姉様……」
「私も……私もよ……フラン」
そんな台本通りの発言も……今となっては、これだけが救いになっていた。
※
理不尽な所業に対して、一個体とは果てしなく無力なのだと実感する。もしコレが戦事であったなら、一個体でも完
遂せしめられるのだけれど。
お姉様の隣の部屋。新しい私の部屋のベッドで横になり、妄想する。
今お姉様が受けている罰が、もし悪魔の大群であったのなら。恐らく何の苦もなくそれを排除してかかれる。遠くに
見える親玉の司令塔を能力で細切れの木端微塵に吹っ飛ばして、迫り来る敵をレーヴァンティンで薙ぎ払うだけ。
ほら簡単。お姉様はあっと言うまに目を開けて、私に微笑んでくれる筈。
有難うフラン、よくやってくれたわ。そんな風にいって、頭を撫でてくれるかもしれない。自由になった私とお姉様
は、紅魔館でゆっくりひっそり平和に暮らす。何者にも邪魔されず、友達を呼んでお茶会をして、咲夜や美鈴をネタに
盛り上がったり、お姉様にイジワルしたり。パチェも小悪魔も交えて、みんなで笑う。
「ふふ……♪」
お姉様が、私にぎゅっと抱きついてくる。私は止めてって言うのだけれど、お姉様はそれを聞かないで、もっときつ
く抱きしめてくる。私も嫌じゃないから、お返しにぎゅってする。
額と額を合わせてクスクス笑いあって……今までごめんなさい、って、お姉様が言う。私はそんな事気にしないから、
今が幸せだから、そんな風に許して……お姉様の……お姉様の……くち、唇に……。
「……うわぁ……私……へんな子……」
抱き枕にキスした所で、ふと我に帰って自己嫌悪する。
枕相手に何してるんだろ、私。……けれど、何と言うか、辛い現実を目の当たりにすると、逃げずにはいられなくな
るし、多少飛躍した妄想でもしないと、やっていけない気がする。
レミリアお姉様……私の記憶の大半は、無感動で出来ていた。けれどいざお姉様の気持ちに気が付いた時、そして行
動に移った時、本当に衝撃を受けた。
そんなに愛されているなんて知らなかったから。もし罰を受けたお姉様がなんともなかったのなら、こんな妄想もせ
ずに済んだかもしれないけれど……気がついて、けれど一方通行になってしまったこの気持ちのやり場を、一体どこへ
向けたら良いと言うのだろう。
このままじゃ本当に一人上手になっちゃうわ。
私はベッドから跳ね起きて、お姉様の部屋へ向かう。まだお姉様が隣にいる方が、噛み付く程度で済みそうだもの。
もしお姉様がこんな風にあんな風にしてくれたらと考えると、唇は乾くし心臓はバクバク言うし、変な気持ちになるし。
まだ実物が目の前に居る方が抑えられそう。
「おねえ……ん?」
ドアに手を掛けたところで……中から音がした。今は夜中の一時。皆私の時間に合わせているのだから、寝静まって
いる筈。紅魔館に不届きモノが現れるとも思えない(魔理沙なんかは除いて)し、間違いなく内部の者だと思う。
気になる。もしかしたら本当に咲夜やパチェだったりして。
私は身体を霧にして、ドアの隙間から侵入する。あまり意識した事はなかったけれど、吸血鬼ってやっぱり便利。
「レミリア」
……案の定、そこにいたのは咲夜だ。普段から、お姉様が寝たきりで床ずれを起さないように寝返りを打たせたりマ
ッサージをしたりする為にお姉様の部屋には来るけれど……当然こんな時間にはこない。
咲夜はお姉様が横になるベッドに腰掛けて、一人語りかけている。
「最初は、あまり思い出さないようにしていたけれど。けれど、最近ね、なんでここでメイドをしているのか、とか、
元の名前はなんだったか、何てことを、断片的に思い出すのよ。この意味解るかしら、レミリア」
咲夜の……そうか。幾ら可笑しい力を持っていたとしても、やっぱり悪魔の館で人間が働くなんて、不思議だとは思
っていた。
「今の私なら、貴女を殺せるわ。運命を握る貴女がそんなだからイケナイのよ。例えば、この銀のナイフで貼り付け
にする必要もない。今から木を削りだして杭を作って、大鎚で貴女を突き殺す事だって簡単。動かない貴女はそのまま
私に担がれて火葬されて、その灰を十字路に撒き散らされる。するとお終い。永遠に幼き紅い月は、永遠でもなんでも
なくなって、たんなる”そんな奴がいた”という存在になる。己を失って、皆の記憶だけになる」
咲夜は、何を言っているのだろう。お姉様を、殺す?
「そして、その記憶を持っている奴等も鏖殺にする。フランドールスカーレットも、パチュリーノーレッジも、紅美
鈴も、その他多数も、みんな殺す。そしてそれを覚えている私も自決、幕引き。生物に対しての完全な殺害。記憶にす
ら残らない」
ちょっと、ちょっと、ちょっと……!!
「でも……ね。そんな考えが、昔はあったからこそ、力が弱まった今思い出されるのだと思う。そう、思い出される
だけで、実行しようなんて思わない。大体、そんな事して何が面白いのよ。紅魔館は、こんなにいい場所なのに」
はぁ、と、無い口を作って溜息を付く。当然よね……咲夜が、お姉様に手を掛けるわけが無い。
「レミリア……フランお嬢様がね、貴女の為に頑張るって決めたわ。けれど初日は不発。上白沢慧音は申し訳ないと
頭を振って、永琳は事例がないと頭を下げた。そうよね、歴史を知ろうと、人外の知恵を持とうと、吸血鬼に詳しくな
いんじゃあ意味がないわ。でも、フランお嬢様は頭を下げてお願いしたわ。舐められると注意した筈なのに……」
今日のお昼は……結局散々なものだった。収穫なんてない。だからこそ、あんな妄想をしたのかも……。
「フランお嬢様は頑張ってくれると思う。けれど、可能性は薄い。もし……もし、本当に駄目で、罰を受け続ける事
が苦痛ならば……何でもいい、何でもいいから知らせて。苦しまないよう、一発で殺してあげるから……レミリア……
貴女は良い主人だったわ。傲慢で居丈高でワガママだったけれど、私はその命令をこなす事に、何の苦痛も感じなかっ
た。春の異変だって、夜の異変だって、花の異変だって、その分回ってきた大量の仕事だって、むしろ良く思えた。ね
ぇレミリア……目を……くっ……目を開けてよ……命令して頂戴……ワガママ言って頂戴……咲夜に、咲夜に指示を…
…指示を下さい……う、うあっ……うあぁぁっ……」
あまり、信じられるものじゃなかった。あのメイド長が、お姉様に泣き縋るなんて……。
でも、それだけ現実は辛い。咲夜に泣かれようと、お姉様は依然として反応なんて示さない。
私は実体化して、泣き崩れた咲夜を、後ろから抱きしめる。
「はっ、う、フ、フランお嬢様……?」
「ねぇ咲夜……」
「……はい」
「傷の舐めあいは、嫌いかしら……」
「……いいえ」
私が一方的にしてあげられる事も無いし、私が一方的にしてもらう事も無いと思う。
出来る事といえば、互いに傷ついた者同士で、傷を癒す事ぐらいだ。出来れば……咲夜には人間でいて欲しい。お姉
様には、咲夜が人間でいる間に目覚めて貰いたい。
でも、あえて「下僕にする」と言う背徳的な手段を取る事を拒むのならば、その傷口の舐めあう事くらい『罪』には
ならないと思う。
今の私なら、丁寧に咲夜の傷を舐めてあげられる。同じ痛みを持つ同士、それが逆に快感になってしまうほどに、私
は咲夜のぱっくり開いた傷口を、綺麗に甘美に舐めてあげられる。
嗚呼願わくば私達愚か者共に幸あれ。
嗚呼願わくば愛しき姉に覚醒を齎したまえ。
今は、心の中で祈りを捧げ、互いに深い傷を忘れる程舐めあうのが……限界だ。
続く。
わざとではない、と語るレミリア嬢には大変不快感を覚えたけれど、
物語はとても面白かったです。後編に期待してます。
あなたの文章が好きです
幾千幾万幾億と重ねられる罰の波。私は、「今だ」五百年の波紋の中に彷徨う。
↓
幾千幾万幾億と重ねられる罰の波。私は、「未だ」五百年の波紋の中に彷徨う。
フランちゃんウフフな後半に期待しています。
ただ一点だけ、『貼り付け』の部分を『磔刑』に変えた方が良いかもです、最初に見たときにどういう意味か判りませんでしたので…
ケーキ恐い
紅茶恐い
紅魔館恐い