Coolier - 新生・東方創想話

蓬莱の探し物

2007/06/23 04:42:05
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霧雨魔理沙は人間である。
アリス・マーガトロイドは魔法使いである。
博麗霊夢は人間である
八雲紫は妖怪である。
十六夜咲夜は人間である。
レミリア・スカーレットは吸血鬼である。
魂魄妖夢は半霊である。
西行寺幽々子は亡霊である―――


じゃあ私は何なのだろうか。
人間と名乗れるはずも無く。
不老不死であるが故に何にもなる事は出来ない――

いや、なれるとすればただ一つ。
老いることも死ぬことも無い、蓬莱の人の形。
それは人間ではない、そして認めたくも無い。
そうだ。
私はまだどこかで認めたくなかったのだろう。
自分が蓬莱の人の形であることを。
だからまた私は考えるのだ。
自分とは一体どういう存在なのか、と。

輝夜も永琳も、すでに狂っているのだろうか。
私は、私は嫌だ。
「……紅。妹紅?」
「……あぁ、慧音……。」
「どうした? 最近ずっとうなされてばかりじゃないか。」
「少しね。慧音を起こしちゃったならごめん。」
「私の事はいいんだ。だがそこまでうなされるなら一度永琳に見てもらったほうがいいぞ?」
不本意だけどな、と慧音が苦笑しながら漏らす。
流石に私が憎んでいる対象の一人に頭を下げるのは慧音にとっても不本意なんだろう。
「永琳、か。」
「妹紅?」
永琳のことを一度頭から締め出して、私を心配してくれる彼女の顔を見る。
上白沢慧音―――
ワーハクタクとして自己を持つ。
半分人間で半分ハクタク。
でも、私のように何とも言えない存在ではない。
「慧音。」
「なんだ?」
「ごめん。少しこの家を空けるよ。
 色々と考えたいんだ。」
「わかった。留守は任せておけ。」
そうだね、とは言えなかった。
何故か、言えなかった。
だから私は微笑えんでそれに答えておくことにした。
慧音も同じように微笑んで返してくれた。


あの禁薬に呪われ、すでに千年以上を生きてきた。
その半分以上を輝夜や永琳と殺しあうことで生きてきた。
殺しあいは楽だった。
殺しあっている間は疑問を浮かべなくて済んだから。
だけど不毛だった。
お互いに不死だから。
痛みは感じるし、意識は闇に堕ちるけど、だけどすぐに目は覚める。
どんな怪我をしても必ず治る。
弱点らしい弱点なんてどこにも無い。
純粋な不老不死。
呪われた不老不死――――

そんなことを考えているうちに、神社に来ていた。
無意識ってある意味怖いな。
「あら、珍しいわね。」
「ん? 霊夢か。」
「霊夢か、じゃないわよ。ここは神社の境内だもの。
 私がいて当たり前でしょうが。」
「それもそうだ。」
クスッ、と笑ってしまった。
あぁ、こうしていると私はまだ笑えるんだと思える。
それがどこか嬉しい。
輝夜と違う狂気の笑みじゃないのが、嬉しい。
「何を不景気そうな顔してるのよ。
 ま、あんたが竹林から出てくる時点で異常だけど。」
境内に下りた途端にこれだ。
でも霊夢なりに多分心配してるんだろう。
「少し考え事をしながら幻想郷巡りをね。」
「意外ね。」
そっけなく返された。
当たり前だけど。
「相談には乗らないわよ?聞くぐらいならいいけど。」
「聞くだけなんて、博霊神社の神様は随分とケチなんだね。」
「どうせ信じてないでしょ。」
「ばれたか。」
「ま、珍しい客人だしお茶ぐらいは出してあげるわよ。」
「ありがたいね。」
神社の中はもう夏も近いというのに、涼しかった。


それから暫く二人で他愛の無い話をした。
元々私も霊夢も自分から話す方ではないから、そこまで会話が弾んだわけじゃないけど。
会話が止まれば暫くお茶をすする音だけが神社に響き渡った。
それでも今まで感じれなかった何かを感じることが出来て新鮮ではあったけど。
「ここはいいね。」
「何よ急に。」
「どこか懐かしいよ。そうだね……、私が藤原家の娘として生きてきた時期に感じていた何かと同じ感じがする。」
「へえ。あんたでもそう思うときがあるんだ。」
「たまには思うさ。ううん、たまにじゃないかもね。」
「そう。」
そうして会話は途切れてまたお互いに茶をすする。
「おかわりいる?」
「もらおうかな。」
霊夢が客人としてもてなしてくれることは珍しい。
そう慧音から聞いてた。
博麗の巫女は常に中立でなければならないって。
私は彼女に――――
「はい。」
そう考えてるうちにおかわりが差し出された。
一緒に茶菓子も持ってきてくれたようだ。
「ありがと。」
茶菓子として出された饅頭を1個ほおばってまたお茶をすする。
少しだけ熱いお茶と、甘い漉し餡がゆっくりと喉を通っていった。
少しだけ、胸の奥があったかくなった気がした。
決してお茶のせいじゃない。


「霊夢ー。」
誰かが来た。
霊夢は魔理沙だろうといっていたから、多分そうだろう。
霧雨魔理沙とは、満月の竹林で一回対峙してから幾度となく顔は合わせたし、話もした。
魔理沙ほど人間らしい人間もいないと思ったほど、私は彼女をうらやましく思っている。
彼女ほど、人間としての生を謳歌している人間もそういないだろう。
「お? 珍しい客がいるじゃないか。」
「少し考え事ついでにね。」
そうかそうか、と頷かれながら彼女は霊夢をはさむ形で腰をおちつけた。
「霊夢ー、お茶ー。」
「少しは遠慮ぐらいしなさいよあんたは……。」
悪態をつきながらも、霊夢はゆっくりとお茶を持ってきた。
そういうところを見ると、二人は仲がいいんだなぁ、と思う。
でもなんだろう、少しだけ胸にちくりと何かが刺さった気がする。
千年以上生きていく中で忘れおいてしまった何かが刺さったのか、それは分からないけど。
輝夜や永琳と殺しあう時には感じれない、心地のいい痛みだった。


「で、なんで妹紅はここにいるんだ?」
魔理沙が霊夢が持ってきた茶をすすって一息ついてから、質問してきた。
「本当は相談しに来たんだけどね。
 先手を打たれて一緒にお茶飲んで雑談してるだけだよ。」
「妹紅が相談? ものすごく意外だぜ。」
「結果的に相談はしてないって……。」
「相談じゃなかったら茶飲み仲間か。
 慧音が泣くぞ?」
きしし、と魔理沙が意地悪く笑った。
「あんまりふざけてるとパゼストバイフェニックスで中から焼くよ?」
「私の肝は焼くと固くなるんだぜ?」
「それはさぞかし歯ごたえがありそうね。」
竹林で交わしたような会話だが、あの時とは違い、お互いに笑顔だ。
「物騒な話をしないの。」
すぱーん! と魔理沙と一緒に叩かれた。


「そろそろ夜も暮れてきたし、お暇するよ。」
「止まっていけばいいのに。霊夢の部屋なら―――」
それ以降は魔理沙の声にならない悲鳴で聞こえなかった。
思いっきり霊夢が魔理沙の足を踏んでいるのが見える。
あぁ、あれは痛そうだ。
私はやられないように気をつけよう……。
「それじゃまたね。」
それだけ言うと私は急いで空へ飛び立った。


霊夢や魔理沙と話して少しだけ分かったことはある。
霊夢や魔理沙と同じように笑えたのだ。
決して人形みたいな存在じゃないことは確かだった。
いや、答えはとっくに見えていたのかもしれないけれど。
あいつの力を借りるのは癪だけど……。

「妹紅じゃない。楽しそうね?」

その声は今は聞きたくなかったのに……。
「何の用だ。輝夜!」
蓬莱山輝夜。
1000年以上前に私の両親を小馬鹿にして辱めた憎んでも足りないほど憎らしい女。
その横には珍しく付き人の永琳がいた。
この二人が作り出した禁薬『蓬莱の薬』を飲んで、私は不死鳥を宿し、不老不死と成り果てた。
「……永遠亭の首領格が二人も出揃って何の用だい。」
ああ、やっぱりこの二人はだめだ。
見ているだけで憎悪に縛られてしまう。
そのへらへらとした胡散臭い笑い顔を焦がし潰してやりたくなる。
「別に? ただ妹紅が面白いことをしてるみたいだから。」
「私は姫の付き添いですわ。」
「相変わらず反吐が出そうな面だね。」
どす黒い感情をそのまま弾幕に乗せて輝夜に向けてやった。
それを皮切りに、私と輝夜はいつものように殺しあいを始めた。
そして意識を手放した。


何か懐かしい香りがする。
うっすらと目をあけると、見慣れたようで見慣れない天井が見えた。
徐々に感覚が戻ってくるにつれて、薬品のようなにおいがする。
怪我をしたとき、お父様はいつもこんなにおいのする薬をつけてくれたな。
そんなことを考えるぐらいには、頭がしっかりしていないようだ。

「お目覚めかしら?」

急に現実に引き戻された気分を味わった。
虚偽の笑顔を浮かべながら、永琳が覗き込んでくる。
「最悪の気分だよ。」
「敵に捕まった気分かしら?」
「まったくだね。」
悪態をついてやる。
でも、これはチャンスかもしれない。
ムカつくけど、こいつの頭脳は確かに人里の人間の悩みすらも解決している。
こいつなら、私の疑問を少しは解消してくれるのかもしれない。
でもやっぱりムカつくから、一発だけフジヤマヴォルケイノしておいた。
歪んでるけど、すっきりしたと思う。
少しだけだけど。


「で、相談って?」
永琳の髪が一部焦げている。
フジヤマヴォルケイノが掠めた後だ。
ちょっと笑いながら、永琳に問いただすことにした。
「……、輝夜には口外しないでくれよ。」
「プライバシーは守るわ。それが敵であってもね。」
永琳のこういうところはありがたいと思う。
「……。永琳、お前は自分をどう思っているんだ?
 どういう存在だと思っているんだ?」
……すごく目を丸くされたのが分かる。
もう一発ヴォルケイノしてやろうかなこいつ。
「……そうねえ。」
永琳は深く考え込むそぶりをしてる。
こういった表情を見るのは初めてだ。
「んー、そこまで深く考えたことはないけれど。
 強いて言うなら、私は私、と言う事かしらね?」
「私は私?」
「そう。私は八意永琳。蓬莱人であり、罪人であるけれど。
 そこは変え様が無い事実だから。
 いつとは言えないけれど、遠い未来には蓬莱の薬を打破できる薬ができるかもしれないじゃない?
 だから私は私、それ以上のものは私を修飾する言葉でしかないわ。」
「……自分は自分、か。」
「そうね。まぁ、蓬莱の薬を打破する薬なんて作るつもりも無いけれど。
 呪われた身なりには楽しむようにしてるわよ。」
そうしないとやっていけないしね、と永琳が苦笑した。
やっぱり、同じだ。
私も、こいつも、おそらく輝夜も。
蓬莱の薬に呪われ、永遠を生きるからこそ。
「人間として、生きれるように。」
「そうね。」
永琳が頷いてくれた。
どうやら思うところがあったらしい。
「でも、お前たちを許すほど理解したつもりも無い。
 特に、輝夜はな。」
思いっきり敵意をこめたつもりだけど、笑われてしまった。
「姫は貴女との殺し合いが一番の暇つぶしだと仰ってたわよ。
 蓬莱人らしい暇つぶしだけれども、それが不毛だと感じてるからこんな相談を持ちかけたんでしょう?」
頷くことで返答とした。
霊夢や魔理沙、慧音を見てて思ったから。
人間らしい生き方をしたいと、久しぶりに思えたから。


結局、結論らしい結論は導けなかったけど。
霊夢や魔理沙、そして同じ境遇の永琳と話して少しはわだかまりが無くなった気分だ。
永琳を頼ったのが癪ではあるけど。
あの時、霊夢と話してて、魔理沙と霊夢が話してるのを見て感じた痛みも、今なら判る気がする。
あれはきっと羨望だったんだろう。
自分は蓬莱人だから、普通の人間らしくは生きれないんじゃないかって。
でも、それは間違いだと思った。
永琳の奴のおかげで、それはなんとなくだけどつかめたと思う。
私は私で、誰にもなれないんだから、私らしく生きていけばいいと思った。
流石に殺し合いはしたくないけど。
狂気に縛られるのもご免だしね。


「ふぅ~。」
何日気絶してたかわからないけど、久しぶりに自分の母屋に戻ってこれた。
すでに当たりは真っ暗だったから、慧音がいる可能性は大きそうだ。
「おや、お帰り妹紅。」
奥から久しぶりに感じる慧音の声がした。
いい匂いがする。
今日はおいしくご飯が食べれそうだ。

すでにちゃぶ台には料理が並んでいて、慧音が急いで私の分も作ってくれたのが伺える。
「いただきます。」
何年ぶりだろう。
手を合わせていただきますなんて言ったの。
数日食べてなかったけど、こうして食べるご飯はおいしいと感じれる。
それが何より幸せに感じれた。
ふと前を見ると、対面の慧音が呆気にとられた顔をしてる。
やっぱり珍しいかな。
面白い顔だし、これからもたまにすることにしよう。
「妹紅……。よければどんなことがあったのか聞かせてくれないか?」
「うん、いいよ。」
何から話そうかな?
霊夢との話からかな?

「あ、一つ言い忘れてた。」
「ん?」

これは完璧な笑顔で言いたいな。

「ただいま。」
「おかえり。」
お久しぶりです。初めての方は初めまして。
瞑夜と申します。

今回は妹紅の一人称視点でのお話です。
彼女が感じた小さな幸せに共感していただければ幸いです。

あとがきを多く書くことは苦手ですので、今回はこれにて失礼します。
それではまた次の作品でお会いできることをお祈りしています。
瞑夜
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