米を切らした。
大和人にとって米はとても重要な穀物である。日本の歴史は米から始まった。
この国の神話において真っ先に登場すべき神は、顕れた次の文には何処かに隠れてしまった身元不明でどこの馬の骨とも知れぬ輩などではなく、米神様であるべきだと魔理沙は主張したい。
カオスの海の真ん中に生える稲穂。素晴らしい。
妄想で腹は膨れない。膨れる妖怪もいるかもしれないが、魔理沙は一応人間を辞めていない。減るものは減る。
斯様にして人類の歴史は腹を膨らますために始まった。
狩猟民族として始まった人類が農耕民族としての進化を遂げ、米を崇拝するようになった経緯を考えると、今正に米を求め入手手段を考慮せんとする魔理沙は人類の新たな進化の枝分かれにいるのかもしれない。
ともあれそんなはるか先のことはどうでもよく、とっとと具体的な米入手経路を考えねばなるまい。
飢え死にしてもあの死神が握り飯一つくらい寄越してくれるとは限らないのだ。
以下、霧雨魔理沙が一秒間の妄想の果て三秒で出した米入手経路候補。
壱、 人里にまで買い求める。
弐、 香霖に分けてもらう。
参、 霊夢からかっぱらう。
よし参だ。
壱は論外だ。正統な手段だが論外だ。人里には実家がある。なので論外だ。
弐はそれなりにいい手段なのだが、米と交換できる調度いい品が手元にない。却下。
結果、消去法で参が一番マシな手段となる。
目指すは弾幕合戦で負かし米をまき上げた挙句に炊事までさせて今宵の夕餉を全て霊夢に任せることだ。
そうと決まれば話は早い。スペルカードとミニ八卦炉を携え、箒に乗っていざ発進。
米は博麗神社に有り!
「あ? 米? 弾幕? ああ、やりゃいいのね。やりゃ」
縁側で蛇のように伸び、なめくじのようにでろでろになっていた霊夢は、人の形を思い出したかのように起き上がった。
へろへろという擬音を横につけてやりたいほど、頼りない調子で宙に浮く。
「じゃあお互いカード一枚限りの一発勝負で」
「早く済むのはいいが、今の調子を見る限り、霊夢が点火した頃には私が勝ってるぜ」
「それならそれでいいわ。じゃ、始めましょ」
霊夢は袖中から一枚の札を取り出し、宣言する。
「夢想天生」
「ちょ」
魔力全開フルスロットルのマスタースパークで、博麗神社のボロ屋根ごと弾幕と霊夢を吹き飛ばせるほどの気力に満ちていた魔理沙は、出鼻を挫かれた。
めいいっぱいレーザーをぶちこんでやるつもりだった霊夢の姿が半透明になる。
《博麗霊夢》という存在を世界から宙ぶらりんにさせ、あらゆる攻撃を無効化する状態。そこから陰陽玉を八つ配置し、霊夢の攻撃準備は完了する。
陰陽玉から、一斉にお札が発射された。
お札は発射も含めて三回軌道を変えながら動く。発射後の動きは全て魔理沙自身を狙ったものだ。
霊夢お得意の誘導お札によってのみ構成されたこの攻撃は、しかし、誘導できるからこそ抜け道が発生する。
攻撃一辺倒だった頭から避けに専念する頭に切り替えた魔理沙は、箒に全神経を傾けた。
一射目。微動。再斉射。真っ直ぐ突破。回避成功。
二射目。微動。再斉射。大きく旋回。回避成功。
三射目。微動。再斉射。大きく旋回。回避成功。
霊夢の顔を横目に見る。一手先読みするつもりだったが、この手は毎回霊夢に通じない。
彼女は表情豊かだが、だからと言って感情と弾幕が一致するとは限らない。それでも見てしまうのは、弾幕ごっこに慣れてしまったせいだ。
今日も霊夢の動きは読みにくい。というか、珍しく表情がない。うつむいて、やる気なさそうにぷかぷか浮いているだけだ。
そういえばよくよく考えれば、夢想天生というスペルは陰陽玉に攻撃を全部任せ、霊夢は回避にも防御にも専念することなく、ぼーっと浮いているだけの攻撃だ。割と手抜き技である。
四射目。微動。再斉射。回避。
五射目。微動。再斉射。回避。
六射目。微動。再斉射。回避。
バカにされているようでさすがに腹が立つ。
ミサイルの一発でも腋にねじり込んでやりたいが、森羅万象から浮いている霊夢に攻撃は通じない。なおさら腹が立つ。
七射目。微動。再斉射。回避。
八射目。微動。再斉射。回避。
九射目。微動。再斉射。回避。
いい加減ここまで避けてくると、発射感覚が短くなり弾幕の密度が狭まる。
余計なことを考えている暇はない。
五感は周囲を覆うお札の動きを把握することだけにのみ使用され、頭は次に箒をねじり込ませる隙間の探索にのみ働き、度胸は肉体が得た回避ルートを信じて突撃することにのみ動く。
十射目。微動。再斉射。回避。
十一射目。微動。再――
「ん?」
お札が動かない。
ブラフかと思ったが、どうも霊夢の様子がおかしい。
霊力で複製されていたお札は実体を失って空に溶け消え、陰陽玉は地面に落ちて消滅。
半透明だったはずの霊夢はいつのまにかすっかり現世に戻ってきており、前後不覚と言わんばかりに上半身をフラつかせ――
「もう、だめ」
霊夢は墜落した。
「おいぃぃぃっ!」
あともう少しで勝負が付くところだったのに!
苛立ちながらも、箒の軌道を変更させることは忘れない。霊夢も一応人間だ。
石畳に覆われた境内へとまともに突っ込んで、怪我一つないということはないだろう。
地面すれすれの所で霊夢の首根っこを引っ掴み、そのまま縁側まで持って行く。
板張りに転がしてみると、なめくじを通り越してもうスライムと言っていいくらい、どろどろにヘタっていた。
「おい、いつからお前は水分に転じる程度の能力を会得したんだ」
「…………」
「……おーい? 塩かけるぞー?」
「…………お塩」
「お?」
「いらない……」
「じゃあ何が欲しいんだ」
掠れた声で、死人より死人らしく、霊夢は呟いた。
「お茶が……切れた」
切らしたものは無いということで、当然すぐさま出せることなどできないわけで、とりあえず水でも飲ませて布団に放り込むという応急処置をやっておいた。
この世の終わりが来たって、空を眺めてお茶を啜っているような霊夢だが、当のお茶がなくなればそれこそこの世の終わりみたいな表情をする。
巫女を殺すのに刃物も弾幕もいらん。お茶を奪えばそれでいい。
「しかしお前、お茶だけは切らさないようにしていただろ。たとえ米と賽銭は切らしたとしても」
「うるさいわねぇ……。そう思うなら賽銭入れてよ」
「なくっても生活できてるだろ」
例えば霊夢がどうやって米を入手しているかと言うと、主なところでは香霖との物々交換ではあるが、それ以外の理由が頻繁にあったりする。
米俵が道ばたに落ちていたとか、米粒弾が点アイテムに変わったら中身は米だったとか、自然法則や常識を嘲笑うようなやり方で、霊夢という生命体は栄養摂取を行っている。
まあそもそもあらゆる概念をぼーっと無視する霊夢にとって、栄養摂取しないと生きていけないという法はないのかもしれない。
霞のかわりにお茶だけ飲んでいれば生きていける。そういう仙術と同じような技を生まれながらにして得ているのかもしれない。ホントにこいつ人間か。
「霊夢、お前人間か?」
「巫女が妖怪やっててどうすんのよ。魔法使いは妖怪でもできるでしょうけど」
「できないのか? 妖怪に巫女」
「どうなのよ」
「どうなんだろうなぁ。って、それも気になるがそれは後だ。なんでお茶切らしたんだ」
「鬼のせい」
いわく。
昨夜、霊夢は萃香と酒盛りをしたらしい。
二人だけの酒盛りは面白くないと、萃香が近所の妖怪どもを萃め始めたのが悪かった。
いつのまにやら宴会騒ぎになり、酔いの回った者どもが集まれば奇行に走るのは世の常で、熱燗でお茶を淹れてみようとバカを言ったのは誰が最初だったか――
マズイこれはダメでしょういや案外いけるって大丈夫大丈夫貴方舌おかしいんじゃないあらあなたは味蕾に異常があるみたいね全くもうこれだから妖怪は人間はなんで式まで混ざってんだよ巣に帰れ!
そして朝。
すっかり荒れ果てた神社を掃除し、さて一服しようとした霊夢は、気づいた。
昨夜のどんちゃん騒ぎのうちに、お茶缶いっぱいの茶葉が使われたこと。
博麗のお茶が気に入った妖怪が、予備のお茶まで持っていったこと。
押入れ天袋天井裏に納戸や納屋や倉まで探したがお茶はなかったこと。
そこで力尽きて昼寝をしていたら、魔理沙がやってきた。
で、現状に至る。
「……後で萃香に近所の妖怪萃め直させて、一人一人指折り数えながら退治してやる……。あと萃香からはひょうたん取り上げてやる……」
「カテ中がアル中目の敵にするなよ。目くそ鼻くそだぜ」
というか目がヤバい。今の精神状態の霊夢に妖怪退治などさせたら、五体満足でいられることはないだろう。
まあ妖怪の中には多く翼を持つ者もいるので、五体満足にされてしまうこともあるかもしれないが。
「で、鬼は?」
「逃げた」
「逃げたか」
「逃げたのよ」
「逃げるよなぁ」
怖いもんなぁ。怒った霊夢。
しかし今の霊夢は怒る気力すらないらしく、ぶるぶると震える腕を伸ばし(アル中でもないのになぜ腕が震えるんだ?)、落ち窪んだ目で懇願した。
「そういうわけで魔理沙……一生のお願い。お茶を調達してきて」
「霊夢。正気に戻れ。人間はお茶がなくても生きていける。人はお茶だけにして生くるに非ずとけーねが言っていた」
「人類は十二進法を贔屓したわ。お茶。寄越せ」
「じゃあ米寄越せ」
「それじゃあそういう方向でお願い」
取引成立の瞬間であった。
もし魔理沙がこの取引を反故にすれば、死後罪状を読み上げる閻魔の説教時間がさらに増加されることであろう。
そう考えればあの閻魔は実にいい仕事をしている。怖くておちおち悪さもしてらんねぇ。もういいから仕事するな。
「じゃあ行ってくるぜ。夕食の準備はしっかししていてくれよ」
「無理」
さて、勢いよく飛び出したはいいが、よくよく考えればどこでお茶を入手したらいいだろうか。
そも、魔理沙は米入手の旅に出たのだ。米とお茶の入手経路は近い。よって、魔理沙が手に入れられるルートはスタート地点から既に限られている。なんてこったい。
「あー面倒くさいなー。もうそこらの妖怪手当たり次第に撃ち落とすか」
そのうち一匹くらいは、昨夜博麗神社に集った妖怪にぶち当たるだろう。
そういうわけで高度を上げて上空から妖怪を探すが、どうも時間が中途半端らしい。
陽が沈むにはまだ一歩早く、昼間からは少し遠のいたこの時間は夜行性の妖怪が現れるには少し早すぎる。妖怪が見当たらない。
昨夜というくらいなのだから、犯人は夜行性の妖怪たちだろう。
なれば維持になって妖怪を撃ち落としたところで人違いならぬ妖怪違いだ。
別にそれは良いのだが、時間が無駄になる。魔理沙は腹が減る。霊夢はどんどん廃人に近づく。何も良いことはない。
色々考えると、もうここはアレしかないだろう。
丁寧に言うと拝借。普通に言うと窃盗。乱暴に言うと強奪。
知り合いの家に突撃し、お茶を奪い取る。これしかない。
幸いスペルカードは一揃い持っているじゃあないか。
「よっしゃ行くぜ! まずは永遠亭!」
「え、お茶? 分けたげるよ」
鈴仙は、はいと言ってお茶缶を差し出した。
何事もなく受け取るしかない。
こんな簡単に手に入るものすら他人に頼まねば動けない霊夢に、なんだか悲しくなってくる。
「張り合いがないぜ。まあここは永遠亭で永遠っていうのはのれんに腕押しみたいなもんだから、張り合いがないのかもしれないが。
じゃ、世話になったぜ」
「あっ、待って」
鈴仙の耳が片方、ぴくりと動いた。
そのまま何事か、一人で呟きだす。
「お師匠様? はぁ。姫が。……え~っ。
でもだって、今とりあえず渡すもの渡して追い返そうとしたんですよ。それをわざわざ。
いや、まあ。……はぁ。了解しました。では」
ぴくぴく動いていた耳が収まり、鈴仙が魔理沙に向き直る。
「姫があんたに会いたがってるみたい」
「私は急ぎだぜ。まるで風のようなんだぜ」
「風は位相をズラせば拡散するのよ。ほーら貴方は姫に会いたくな――ぎゃ」
鈴仙の目が赤くなりだしたので、とりあえず目潰しをかましておいた。
耳を立てて悶絶する鈴仙を放っておいて、永遠亭の長い廊下を魔理沙は行く。
いや、だって、別にこれといって断る理由はない。
しばらく歩くと、廊下の向こうから輝夜自身が出迎えに来た。
滑るように近付いて、魔理沙の手を取る。
「よく来たわね。歓迎するわ」
「前から思っていたんだが、お前、そんなに髪長くて、歩きにくくないのか?」
ちなみに妹紅にも同じ感想を抱いている。
蓬莱人二匹が人間として生きていた平安の貴族の娘はそれが標準だったかもしれないが、千年後の現在まで伸ばす必要はなかろうに。
しかしまあ本気で千年伸ばしていたらこの程度では済まないだろう。たまには切っているのかもしれない。
千年伸ばし続けた女の髪というのも、マジックアイテムとして興味があるのだが。
「知ってる? 天の河は乳の河と貴方たち地上人は解釈しているようだけれど、あれは女の髪なのよ」
「へぇ。しかしそれにしちゃあきらきらしてやがるぜ」
「一年かけて女を磨いているもの。男は女の髪を泳いで逢瀬に来るのよ。素敵」
「そうかー。ありゃあやっぱり弾幕だったんだなぁ」
無駄話をしつつ、客間に移動する。
二人して向かいあい、座布団の上であぐらをかいた。
その機会を見計らっていたように、永琳が襖を開いて現れた。お茶と水羊羹を出してくれる。
「ああ、それと魔理沙」
「んあ?」
「貴方、森に生えているキノコに詳しいらしいわね。色々と教えてくれると助かるんだけど」
「タダじゃあ、教えられないな」
「そうねぇ」
口元に指を当てて思案する永琳の背後に盆が浮き上がった。
何事かと思うと、そのまま永琳の後頭部をはたき倒す。
「痛いなぁ。なんです姫様」
「今魔理沙と話してたのは私よ。永琳は用事済んだんだからあっち行け」
しっしっ
「わーかーりーまーしーた。ではごゆっくり」
一礼して去る。
しかしその下げた後頭部からどくどく血が出ていたり、下げた盆が真っ二つに割れていたりするのだが。
輝夜は輝夜で、盆を持っていた右腕を振ってみて、ため息をついている。
「困ったものねぇ。長く生きてると筋肉の抑制機能も勢いで外しちゃうのよ。骨に罅入ってるかもコレ」
「カルシウムが足りないぜ」
「牛乳なんかいくら飲んでもおっぱいは膨らまないのよ。蓬莱人だから」
「そいつぁ困ったもんだな」
茶を啜る。
蓬莱人という連中はどこかしら人間らしくないものだが、輝夜の人間離れは度を越している。
まあ宇宙人なのだから仕方ないが、永琳や鈴仙を見る限り、月の住民はどいつもこいつも頭のネジが二、三十本抜けているわけでもないらしい。
だからといって輝夜は妖怪らしくもない。
妖怪のルールも人間の規律も無視し、死人などとは果てなく遠くにある存在が、蓬莱山輝夜だ。
人間とも妖怪とも違うという意味では、どことなく霊夢に似ていると魔理沙は思っている。
霊夢は生物学的には人間なのだろうが、問題はそういうことじゃない。そういう意味では輝夜もまた生物学的には人間なのだろうから。
博麗の巫女たる霊夢は幻想郷ルールの体現とも言える。
人間でも妖怪でもない輝夜は本来幻想郷からも追い出されるべき存在のはずだが、まあなんとなく馴染んでいる。
霊夢もある意味博麗の巫女じゃなかったら、存在が許されないだろう。
幻想郷に住むその他大勢の一員として、魔理沙は輝夜をそう分析している。
「しかし貴方が泥棒以外の用件で来るなんて、今日は槍でも降りそうね」
「なぁに。槍が落ちてきたなら全部撃ち落としてやるぜ。今日は霊夢の命を救うためにやってきたんだ」
「あら、のんびりしていていいの?」
「メロンだかロメスだかなんだかいうやつも一晩ぐっすり寝たんだぜ」
「そうねぇ。じゃあ神社の境内近くにイナバを数匹置いといてあげるわ。雰囲気ばっちり」
「私は霊夢と殴り合うのは別に構わないが、その後お前に『一緒に仲間に入れてもらえないだろうか』とか言われるのは、正直、気色悪い」
「その役柄は嫌ねぇ。じゃあ今から結婚式するわ。魔理沙、貴方は準備お願い」
「いや待て。それじゃあ誰が暴君役するんだ。というか、私は終盤半裸になるのは嫌だぞ」
「じゃあ吸血鬼に」
「あいつ霊夢だけ噛みそうだぜ」
「じゃあ亡霊に」
「二人一緒に取り殺されそうだ」
「やっぱり私が一番暴君似合うのねぇ」
「カリスマだぜ」
茶を啜る。
魔理沙はたずねた。
「ところで私に何か用でもあるのか?」
「いえ、別に。なんで?」
「あー別にそれならいいや。じゃ、少し気早だがお暇させてもらうぜ」
「本気で早いわね。私の退屈はどうなるの」
「暴君ごっこでも続けたらどうだ? ウサギは走るもんだし」
「カメがいないー」
よっこらせと立ち上がる。
襖に手をかけると、後ろから声をかけられた。
「やっぱり巫女は大事?」
「霊夢が大事なんだよ」
もうとっぷり日も暮れ、太陽は地平線の向こうで残光を僅かに漏らすだけだった。
空は藍と紫のまだらに染まり、世界は昼と夜の境界に在る。
別に奴らは物理の成績が悪いわけでもないが、妖怪どもが空中を歩き回る時刻の直前だ。
古の時代、外の世界ではこの時刻は人間と妖怪の活動時刻の境界でもあったという。
そんな宵闇に沈もうかというはずの幻想郷で、博麗神社は禍々しいほどの光を放つ弾幕に覆われていた。
「……なんだアレ」
紅白のお札が四方八方にばら撒かれ、陰陽玉が弾け飛び、針が空を穿ち、結界が炸裂する。
「ひえええええっ」
蛍がものすごい勢いでこちらにまで飛んできた。
とりあえず撃ち落としておくかと思った瞬間、リグルの後頭部にお札が張り付いた。
「あうっ」
動きが止まったところに針が四肢を突き刺し、地面に縫い止める。
「おおっ、標本。はらわた取って防腐処理しなきゃな」
「やめてえええええぇっ」
「うるさい黙れ。別に命までは取りゃしないわよ」
血色抜群お肌もつるつる背筋もしゃきんと楽園の素敵な巫女、博麗霊夢がリグルの頭をぶん殴り、お札をひっぺがした。
「元気そうで何よりだぜ霊夢」
「魔理沙もいつも通りみたいで」
「ところで晩メシは?」
「ああ、忘れてた。こいつらぶっ飛ばして回ってたから」
霊夢は神社に戻る。
その背中を追ってみると、まあ確かに凄い有様だ。
「やられたのかー……」
「ちん……ちん」
「藍さまー……」
と、まあ顔見知りの夜行性妖怪がことごとく瀕死状態である。
極め着け、鳥居には、鬼がお札をべったべたに張りつけられた挙句逆さ吊りにされていた。
「ま……り……さ……おろ……して……」
訊いてみる。
「霊夢、どうするんだ?」
「反省してお茶を持ってきたからこのへんで許してやるわ。ただしひょうたんは今晩いっぱい没収」
「鬼」
言いながら、魔理沙は萃香の足を縛っていた縄をレーザーで焼き切ってやる。
そのまま重力に従い、自由落下を開始した萃香は二本の角を石畳に突き刺し、変な逆立ち状態のまま動かなかった。
まっ、いっか。ちゃんと降ろしたことは降ろしたんだし。
「さあ飯作ろうぜ飯。私がいるからには火力はばっちりだぜ」
「そうねぇ。材料もたくさん転がってるし」
「よーし宴会だな。いっぱい作るぞー」
「がんばって。私朝からお茶しかお腹に入れてないのよ。それでもうイライラして」
「カルシウム摂ろうぜ」
「おっぱいおっきくなったらこの服いやらしくなるからねぇ」
無駄話をしつつ、厨房に向かう。
なぜか竈に火が入っており、すきま妖怪が割烹着を着て包丁を握っていた。
「紫さま、白玉楼に話つけてきました。半霊があとでお酒を持ってきてくれるそうです。けど大喰らいもくるそうです」
「ありがと。まあ賑やかな方がいいわ。あ、霊夢、魔理沙。そんなところでぼっとしてないで手伝ってよ。もう」
すきまから這い出てきた式を労いつつ、紫は人間二人に文句を言う。
「勝手に人ん家の台所占領しないでよ! あんたもぶっ飛ばされてみる?」
「ひどいわ。私はみんなで楽しく宴会しようと思って、色々準備しているのに」
「なんか企んでいるってことね」
「そりゃあ企んでいるし画策してるわよ」
「おい紫。お前、包丁握ってるくせにすきまで菜っ葉切ってないか」
「素材の風味が良く生きるのよ。包丁なんて鈍器で切ったら細胞潰れるでしょ」
まぁいい。表で転がっている連中を全員もてなすためには、これくらいの作業人数がいるだろう。
魔理沙は帽子を脱いで髪を結い、霊夢は袖を外す。
作業を始めようとした矢先、魔理沙は気づいた。藍がいない。
「ところでお前んところの狐は?」
「今買出しに行かせたところよ」
「ちょっと待て。と、なると表に……」
「ちぇえええぇぇええぇぇええんっ!!」
さて。
酒を呑んで呑まれつつ、鍋をつっつき奪い合い、またもや熱燗に茶葉を入れようとした鬼をぶん殴り、ふと気がつけば丑の刻。
何人かの妖怪は既に帰り、酔い潰れた者も幾人か畳に這い、残った者だけがちびちび飲っている。
そんな時だった。
「そういえば」
すっかり赤くなった霊夢がお猪口を手にしたまま、魔理沙に視線をやる。
「あんたとの勝負、尻切れトンボのままだったわね」
「ああ。永遠亭まで行ってトンボ返りしたのに萃香が茶ぁ持ってきたんだ。私はとんだ無駄足だったさ」
「じゃあ決着つけましょうか」
「今か」
「今」
「よしやるか」
畳に膝をつけた。
二人して井戸まで行き、冷水を頭から被って酔いを醒ます。
魔理沙は箒を取り、霊夢はあくびをかまして、境内の真ん中で対峙した。
幾人かの妖怪が気がついたらしく、見物しにやって来る。
すっかり暗がりになった空の下、月に見守られながら魔理沙は霊夢に確認を取った。
「お互いスペルカードは一枚限りの一発勝負だったな」
「ええ」
「昼間は霊夢が攻めに回ったから、今度は私の番だぜ」
「そうしましょうか。じゃ、ルールは以上、ということで」
「おう。始めようぜ」
二人同時に石畳を蹴りつけ、宙を舞う。
魔理沙はカードを取り出し、月に向かって投げつけた。
ミニ八卦炉へと身体中に漲る全ての魔力をぶち込み、箒に流す。
「行っくぜぇぇぇ! ブレイジグ! スタアアアァァアァッ!!」
わずかにバックした後、ありったけの魔力を纏い、後方に噴出させながら霊夢へと吶喊。
まだ酔いの気が残っていたらしい霊夢は、圧倒的な光量と熱量を放出させて突っ込んでくる魔理沙に、少々驚いたらしい。目を丸くして慌てた調子で避ける。
暗闇に慣れていた目が光にやられたのか、霊夢は短い間隔で瞬きを繰り返した。
その隙を逃さず、収縮した魔力で一瞬にして再び霊夢の眼前に高速移動。
二度目の吶喊!
「あんた元気ねぇ……」
「米がかかっているからな!」
軽口の応酬を交わした後は、最早両者に余裕はない。
ただひたすらに魔理沙は突っ込み、霊夢は避け続ける。
大気を震わせ、自らが射出した星屑弾すら吹き飛ばし、何度でも魔理沙は突撃する。
その一撃を避ける霊夢の口元には微笑み。
当たり前のことだが、魔理沙は楽しいから弾幕ごっこをやっている。
だが霊夢とこうして戦っている時、時折胸に穴が開くような無為を感じることは、否定できない。
博麗霊夢は誰と弾幕を交わそうと、楽しみを覚えている。
妖怪退治が仕事だと言ってはいるものの、実際のところ相手が人間だろうが妖怪だろうがそれ以外だろうが別に構わない。楽しいものは楽しいのだから。
その気持ちは魔理沙も一緒だが、決定的に違うところがあるとすれば、ただ一つ。
霊夢は誰であろうと平等に弾幕ごっこを楽しくやるが、魔理沙は霊夢と弾幕をかわす時だけ、必死になるということ。
こいつに勝ちたいと思って、魔法の腕をもっと磨いた。
勘当されようとも、もっと強くなるために魔法の研究を怠らなかった。
修行の一つもしていない霊夢が、どうして血の滲むような努力を重ねる自分に五分五分の確率で勝つことができるのか。
それに悔しさを覚えていた時期に、魔理沙は気づいた。
博麗霊夢は幻想郷ルールの体現だと。
だから彼女が楽しむ戦いをする以上、どれほどがんばっても力量は互角になるということ。
博麗の巫女に挑むということは、幻想郷に挑むということだ。
故に、彼女が用意したルール内で勝ったところで、それは本質的な勝利にならない。
幻想郷に生きるただの人間、普通の魔法使いである以上、霧雨魔理沙は博麗霊夢に勝てない。
振り向かせられない。
霊夢の数多い友人たちの中、特別な存在にはなりえない。
だが――
「負けるか!」
魂の芯まで削る勢いでミニ八卦炉にさらなる魔力を充填。星屑弾の数を上乗せし、弾幕密度を濃くする。
霊夢は今や暴風に撒き散らされる木の葉のようだ。
それゆえに、嵐が吹き飛ばす屑には被弾しない。それが道理というものだ。
わかっている。
そんなことは百も承知だ。
博麗霊夢の傍にいるのは霧雨魔理沙なのだから。
今代の博麗の巫女を一番良く知るのは魔理沙なのだから。
だから、やり方は変えない。
あらゆる大妖怪や人外の存在が様々な異変を起こし、その気になれば幻想郷を簡単に潰せる能力を持っているくせに、霊夢に負けた。そして巫女を慕った。
彼女らのやり方と力でもだめなのだ。
ならば、どうすればいい。
答えは一つ。
霧雨魔理沙は女の子で人間で普通の魔法使いだ。
だから、そのやり方で霊夢をぶっ飛ばす。
世界の一つや二つに挑まずして、何が人間か。何が魔法使いか。
ミニ八卦炉が軋み声を上げる。
もう欠片しか残っていない魔力と体力に、身体が限界を訴える。
箒を握る指は痺れ、目の前は白い。
これが最後だ。
ただ、どこまでも――
目覚めると、ほのかに世界は明るかった。
縁側から暁が見える。どうやらやりすぎて気を失ってしまったらしい。
起き上がろうとすると、魔力の使いすぎか体力の消耗しすぎか単なる二日酔いか、頭痛に見舞われてまともに動けない。
しばらく頭を抱えてじっとしていると、箒を担いだ霊夢が境内の方からやって来た。
「勝ったわよ」
「ああ」
「あんたが」
「おう」
「じゃあ米一俵持ってきなさいね。自分で」
「こういう時、人形任せに出来るあいつが羨ましくなるな……」
勝者がヘタっているのはあまりにも情けないので、魔理沙はなんとか起き上がって霊夢を見上げた。
彼女は苦笑いだかため息だか知れないものを見せる。
「朝ごはん、食べてく?」
「食ってく」
「じゃあお茶漬けで」
「まあ宴の締めにはそれがぴったりだな」
大和人にとって米はとても重要な穀物である。日本の歴史は米から始まった。
この国の神話において真っ先に登場すべき神は、顕れた次の文には何処かに隠れてしまった身元不明でどこの馬の骨とも知れぬ輩などではなく、米神様であるべきだと魔理沙は主張したい。
カオスの海の真ん中に生える稲穂。素晴らしい。
妄想で腹は膨れない。膨れる妖怪もいるかもしれないが、魔理沙は一応人間を辞めていない。減るものは減る。
斯様にして人類の歴史は腹を膨らますために始まった。
狩猟民族として始まった人類が農耕民族としての進化を遂げ、米を崇拝するようになった経緯を考えると、今正に米を求め入手手段を考慮せんとする魔理沙は人類の新たな進化の枝分かれにいるのかもしれない。
ともあれそんなはるか先のことはどうでもよく、とっとと具体的な米入手経路を考えねばなるまい。
飢え死にしてもあの死神が握り飯一つくらい寄越してくれるとは限らないのだ。
以下、霧雨魔理沙が一秒間の妄想の果て三秒で出した米入手経路候補。
壱、 人里にまで買い求める。
弐、 香霖に分けてもらう。
参、 霊夢からかっぱらう。
よし参だ。
壱は論外だ。正統な手段だが論外だ。人里には実家がある。なので論外だ。
弐はそれなりにいい手段なのだが、米と交換できる調度いい品が手元にない。却下。
結果、消去法で参が一番マシな手段となる。
目指すは弾幕合戦で負かし米をまき上げた挙句に炊事までさせて今宵の夕餉を全て霊夢に任せることだ。
そうと決まれば話は早い。スペルカードとミニ八卦炉を携え、箒に乗っていざ発進。
米は博麗神社に有り!
「あ? 米? 弾幕? ああ、やりゃいいのね。やりゃ」
縁側で蛇のように伸び、なめくじのようにでろでろになっていた霊夢は、人の形を思い出したかのように起き上がった。
へろへろという擬音を横につけてやりたいほど、頼りない調子で宙に浮く。
「じゃあお互いカード一枚限りの一発勝負で」
「早く済むのはいいが、今の調子を見る限り、霊夢が点火した頃には私が勝ってるぜ」
「それならそれでいいわ。じゃ、始めましょ」
霊夢は袖中から一枚の札を取り出し、宣言する。
「夢想天生」
「ちょ」
魔力全開フルスロットルのマスタースパークで、博麗神社のボロ屋根ごと弾幕と霊夢を吹き飛ばせるほどの気力に満ちていた魔理沙は、出鼻を挫かれた。
めいいっぱいレーザーをぶちこんでやるつもりだった霊夢の姿が半透明になる。
《博麗霊夢》という存在を世界から宙ぶらりんにさせ、あらゆる攻撃を無効化する状態。そこから陰陽玉を八つ配置し、霊夢の攻撃準備は完了する。
陰陽玉から、一斉にお札が発射された。
お札は発射も含めて三回軌道を変えながら動く。発射後の動きは全て魔理沙自身を狙ったものだ。
霊夢お得意の誘導お札によってのみ構成されたこの攻撃は、しかし、誘導できるからこそ抜け道が発生する。
攻撃一辺倒だった頭から避けに専念する頭に切り替えた魔理沙は、箒に全神経を傾けた。
一射目。微動。再斉射。真っ直ぐ突破。回避成功。
二射目。微動。再斉射。大きく旋回。回避成功。
三射目。微動。再斉射。大きく旋回。回避成功。
霊夢の顔を横目に見る。一手先読みするつもりだったが、この手は毎回霊夢に通じない。
彼女は表情豊かだが、だからと言って感情と弾幕が一致するとは限らない。それでも見てしまうのは、弾幕ごっこに慣れてしまったせいだ。
今日も霊夢の動きは読みにくい。というか、珍しく表情がない。うつむいて、やる気なさそうにぷかぷか浮いているだけだ。
そういえばよくよく考えれば、夢想天生というスペルは陰陽玉に攻撃を全部任せ、霊夢は回避にも防御にも専念することなく、ぼーっと浮いているだけの攻撃だ。割と手抜き技である。
四射目。微動。再斉射。回避。
五射目。微動。再斉射。回避。
六射目。微動。再斉射。回避。
バカにされているようでさすがに腹が立つ。
ミサイルの一発でも腋にねじり込んでやりたいが、森羅万象から浮いている霊夢に攻撃は通じない。なおさら腹が立つ。
七射目。微動。再斉射。回避。
八射目。微動。再斉射。回避。
九射目。微動。再斉射。回避。
いい加減ここまで避けてくると、発射感覚が短くなり弾幕の密度が狭まる。
余計なことを考えている暇はない。
五感は周囲を覆うお札の動きを把握することだけにのみ使用され、頭は次に箒をねじり込ませる隙間の探索にのみ働き、度胸は肉体が得た回避ルートを信じて突撃することにのみ動く。
十射目。微動。再斉射。回避。
十一射目。微動。再――
「ん?」
お札が動かない。
ブラフかと思ったが、どうも霊夢の様子がおかしい。
霊力で複製されていたお札は実体を失って空に溶け消え、陰陽玉は地面に落ちて消滅。
半透明だったはずの霊夢はいつのまにかすっかり現世に戻ってきており、前後不覚と言わんばかりに上半身をフラつかせ――
「もう、だめ」
霊夢は墜落した。
「おいぃぃぃっ!」
あともう少しで勝負が付くところだったのに!
苛立ちながらも、箒の軌道を変更させることは忘れない。霊夢も一応人間だ。
石畳に覆われた境内へとまともに突っ込んで、怪我一つないということはないだろう。
地面すれすれの所で霊夢の首根っこを引っ掴み、そのまま縁側まで持って行く。
板張りに転がしてみると、なめくじを通り越してもうスライムと言っていいくらい、どろどろにヘタっていた。
「おい、いつからお前は水分に転じる程度の能力を会得したんだ」
「…………」
「……おーい? 塩かけるぞー?」
「…………お塩」
「お?」
「いらない……」
「じゃあ何が欲しいんだ」
掠れた声で、死人より死人らしく、霊夢は呟いた。
「お茶が……切れた」
切らしたものは無いということで、当然すぐさま出せることなどできないわけで、とりあえず水でも飲ませて布団に放り込むという応急処置をやっておいた。
この世の終わりが来たって、空を眺めてお茶を啜っているような霊夢だが、当のお茶がなくなればそれこそこの世の終わりみたいな表情をする。
巫女を殺すのに刃物も弾幕もいらん。お茶を奪えばそれでいい。
「しかしお前、お茶だけは切らさないようにしていただろ。たとえ米と賽銭は切らしたとしても」
「うるさいわねぇ……。そう思うなら賽銭入れてよ」
「なくっても生活できてるだろ」
例えば霊夢がどうやって米を入手しているかと言うと、主なところでは香霖との物々交換ではあるが、それ以外の理由が頻繁にあったりする。
米俵が道ばたに落ちていたとか、米粒弾が点アイテムに変わったら中身は米だったとか、自然法則や常識を嘲笑うようなやり方で、霊夢という生命体は栄養摂取を行っている。
まあそもそもあらゆる概念をぼーっと無視する霊夢にとって、栄養摂取しないと生きていけないという法はないのかもしれない。
霞のかわりにお茶だけ飲んでいれば生きていける。そういう仙術と同じような技を生まれながらにして得ているのかもしれない。ホントにこいつ人間か。
「霊夢、お前人間か?」
「巫女が妖怪やっててどうすんのよ。魔法使いは妖怪でもできるでしょうけど」
「できないのか? 妖怪に巫女」
「どうなのよ」
「どうなんだろうなぁ。って、それも気になるがそれは後だ。なんでお茶切らしたんだ」
「鬼のせい」
いわく。
昨夜、霊夢は萃香と酒盛りをしたらしい。
二人だけの酒盛りは面白くないと、萃香が近所の妖怪どもを萃め始めたのが悪かった。
いつのまにやら宴会騒ぎになり、酔いの回った者どもが集まれば奇行に走るのは世の常で、熱燗でお茶を淹れてみようとバカを言ったのは誰が最初だったか――
マズイこれはダメでしょういや案外いけるって大丈夫大丈夫貴方舌おかしいんじゃないあらあなたは味蕾に異常があるみたいね全くもうこれだから妖怪は人間はなんで式まで混ざってんだよ巣に帰れ!
そして朝。
すっかり荒れ果てた神社を掃除し、さて一服しようとした霊夢は、気づいた。
昨夜のどんちゃん騒ぎのうちに、お茶缶いっぱいの茶葉が使われたこと。
博麗のお茶が気に入った妖怪が、予備のお茶まで持っていったこと。
押入れ天袋天井裏に納戸や納屋や倉まで探したがお茶はなかったこと。
そこで力尽きて昼寝をしていたら、魔理沙がやってきた。
で、現状に至る。
「……後で萃香に近所の妖怪萃め直させて、一人一人指折り数えながら退治してやる……。あと萃香からはひょうたん取り上げてやる……」
「カテ中がアル中目の敵にするなよ。目くそ鼻くそだぜ」
というか目がヤバい。今の精神状態の霊夢に妖怪退治などさせたら、五体満足でいられることはないだろう。
まあ妖怪の中には多く翼を持つ者もいるので、五体満足にされてしまうこともあるかもしれないが。
「で、鬼は?」
「逃げた」
「逃げたか」
「逃げたのよ」
「逃げるよなぁ」
怖いもんなぁ。怒った霊夢。
しかし今の霊夢は怒る気力すらないらしく、ぶるぶると震える腕を伸ばし(アル中でもないのになぜ腕が震えるんだ?)、落ち窪んだ目で懇願した。
「そういうわけで魔理沙……一生のお願い。お茶を調達してきて」
「霊夢。正気に戻れ。人間はお茶がなくても生きていける。人はお茶だけにして生くるに非ずとけーねが言っていた」
「人類は十二進法を贔屓したわ。お茶。寄越せ」
「じゃあ米寄越せ」
「それじゃあそういう方向でお願い」
取引成立の瞬間であった。
もし魔理沙がこの取引を反故にすれば、死後罪状を読み上げる閻魔の説教時間がさらに増加されることであろう。
そう考えればあの閻魔は実にいい仕事をしている。怖くておちおち悪さもしてらんねぇ。もういいから仕事するな。
「じゃあ行ってくるぜ。夕食の準備はしっかししていてくれよ」
「無理」
さて、勢いよく飛び出したはいいが、よくよく考えればどこでお茶を入手したらいいだろうか。
そも、魔理沙は米入手の旅に出たのだ。米とお茶の入手経路は近い。よって、魔理沙が手に入れられるルートはスタート地点から既に限られている。なんてこったい。
「あー面倒くさいなー。もうそこらの妖怪手当たり次第に撃ち落とすか」
そのうち一匹くらいは、昨夜博麗神社に集った妖怪にぶち当たるだろう。
そういうわけで高度を上げて上空から妖怪を探すが、どうも時間が中途半端らしい。
陽が沈むにはまだ一歩早く、昼間からは少し遠のいたこの時間は夜行性の妖怪が現れるには少し早すぎる。妖怪が見当たらない。
昨夜というくらいなのだから、犯人は夜行性の妖怪たちだろう。
なれば維持になって妖怪を撃ち落としたところで人違いならぬ妖怪違いだ。
別にそれは良いのだが、時間が無駄になる。魔理沙は腹が減る。霊夢はどんどん廃人に近づく。何も良いことはない。
色々考えると、もうここはアレしかないだろう。
丁寧に言うと拝借。普通に言うと窃盗。乱暴に言うと強奪。
知り合いの家に突撃し、お茶を奪い取る。これしかない。
幸いスペルカードは一揃い持っているじゃあないか。
「よっしゃ行くぜ! まずは永遠亭!」
「え、お茶? 分けたげるよ」
鈴仙は、はいと言ってお茶缶を差し出した。
何事もなく受け取るしかない。
こんな簡単に手に入るものすら他人に頼まねば動けない霊夢に、なんだか悲しくなってくる。
「張り合いがないぜ。まあここは永遠亭で永遠っていうのはのれんに腕押しみたいなもんだから、張り合いがないのかもしれないが。
じゃ、世話になったぜ」
「あっ、待って」
鈴仙の耳が片方、ぴくりと動いた。
そのまま何事か、一人で呟きだす。
「お師匠様? はぁ。姫が。……え~っ。
でもだって、今とりあえず渡すもの渡して追い返そうとしたんですよ。それをわざわざ。
いや、まあ。……はぁ。了解しました。では」
ぴくぴく動いていた耳が収まり、鈴仙が魔理沙に向き直る。
「姫があんたに会いたがってるみたい」
「私は急ぎだぜ。まるで風のようなんだぜ」
「風は位相をズラせば拡散するのよ。ほーら貴方は姫に会いたくな――ぎゃ」
鈴仙の目が赤くなりだしたので、とりあえず目潰しをかましておいた。
耳を立てて悶絶する鈴仙を放っておいて、永遠亭の長い廊下を魔理沙は行く。
いや、だって、別にこれといって断る理由はない。
しばらく歩くと、廊下の向こうから輝夜自身が出迎えに来た。
滑るように近付いて、魔理沙の手を取る。
「よく来たわね。歓迎するわ」
「前から思っていたんだが、お前、そんなに髪長くて、歩きにくくないのか?」
ちなみに妹紅にも同じ感想を抱いている。
蓬莱人二匹が人間として生きていた平安の貴族の娘はそれが標準だったかもしれないが、千年後の現在まで伸ばす必要はなかろうに。
しかしまあ本気で千年伸ばしていたらこの程度では済まないだろう。たまには切っているのかもしれない。
千年伸ばし続けた女の髪というのも、マジックアイテムとして興味があるのだが。
「知ってる? 天の河は乳の河と貴方たち地上人は解釈しているようだけれど、あれは女の髪なのよ」
「へぇ。しかしそれにしちゃあきらきらしてやがるぜ」
「一年かけて女を磨いているもの。男は女の髪を泳いで逢瀬に来るのよ。素敵」
「そうかー。ありゃあやっぱり弾幕だったんだなぁ」
無駄話をしつつ、客間に移動する。
二人して向かいあい、座布団の上であぐらをかいた。
その機会を見計らっていたように、永琳が襖を開いて現れた。お茶と水羊羹を出してくれる。
「ああ、それと魔理沙」
「んあ?」
「貴方、森に生えているキノコに詳しいらしいわね。色々と教えてくれると助かるんだけど」
「タダじゃあ、教えられないな」
「そうねぇ」
口元に指を当てて思案する永琳の背後に盆が浮き上がった。
何事かと思うと、そのまま永琳の後頭部をはたき倒す。
「痛いなぁ。なんです姫様」
「今魔理沙と話してたのは私よ。永琳は用事済んだんだからあっち行け」
しっしっ
「わーかーりーまーしーた。ではごゆっくり」
一礼して去る。
しかしその下げた後頭部からどくどく血が出ていたり、下げた盆が真っ二つに割れていたりするのだが。
輝夜は輝夜で、盆を持っていた右腕を振ってみて、ため息をついている。
「困ったものねぇ。長く生きてると筋肉の抑制機能も勢いで外しちゃうのよ。骨に罅入ってるかもコレ」
「カルシウムが足りないぜ」
「牛乳なんかいくら飲んでもおっぱいは膨らまないのよ。蓬莱人だから」
「そいつぁ困ったもんだな」
茶を啜る。
蓬莱人という連中はどこかしら人間らしくないものだが、輝夜の人間離れは度を越している。
まあ宇宙人なのだから仕方ないが、永琳や鈴仙を見る限り、月の住民はどいつもこいつも頭のネジが二、三十本抜けているわけでもないらしい。
だからといって輝夜は妖怪らしくもない。
妖怪のルールも人間の規律も無視し、死人などとは果てなく遠くにある存在が、蓬莱山輝夜だ。
人間とも妖怪とも違うという意味では、どことなく霊夢に似ていると魔理沙は思っている。
霊夢は生物学的には人間なのだろうが、問題はそういうことじゃない。そういう意味では輝夜もまた生物学的には人間なのだろうから。
博麗の巫女たる霊夢は幻想郷ルールの体現とも言える。
人間でも妖怪でもない輝夜は本来幻想郷からも追い出されるべき存在のはずだが、まあなんとなく馴染んでいる。
霊夢もある意味博麗の巫女じゃなかったら、存在が許されないだろう。
幻想郷に住むその他大勢の一員として、魔理沙は輝夜をそう分析している。
「しかし貴方が泥棒以外の用件で来るなんて、今日は槍でも降りそうね」
「なぁに。槍が落ちてきたなら全部撃ち落としてやるぜ。今日は霊夢の命を救うためにやってきたんだ」
「あら、のんびりしていていいの?」
「メロンだかロメスだかなんだかいうやつも一晩ぐっすり寝たんだぜ」
「そうねぇ。じゃあ神社の境内近くにイナバを数匹置いといてあげるわ。雰囲気ばっちり」
「私は霊夢と殴り合うのは別に構わないが、その後お前に『一緒に仲間に入れてもらえないだろうか』とか言われるのは、正直、気色悪い」
「その役柄は嫌ねぇ。じゃあ今から結婚式するわ。魔理沙、貴方は準備お願い」
「いや待て。それじゃあ誰が暴君役するんだ。というか、私は終盤半裸になるのは嫌だぞ」
「じゃあ吸血鬼に」
「あいつ霊夢だけ噛みそうだぜ」
「じゃあ亡霊に」
「二人一緒に取り殺されそうだ」
「やっぱり私が一番暴君似合うのねぇ」
「カリスマだぜ」
茶を啜る。
魔理沙はたずねた。
「ところで私に何か用でもあるのか?」
「いえ、別に。なんで?」
「あー別にそれならいいや。じゃ、少し気早だがお暇させてもらうぜ」
「本気で早いわね。私の退屈はどうなるの」
「暴君ごっこでも続けたらどうだ? ウサギは走るもんだし」
「カメがいないー」
よっこらせと立ち上がる。
襖に手をかけると、後ろから声をかけられた。
「やっぱり巫女は大事?」
「霊夢が大事なんだよ」
もうとっぷり日も暮れ、太陽は地平線の向こうで残光を僅かに漏らすだけだった。
空は藍と紫のまだらに染まり、世界は昼と夜の境界に在る。
別に奴らは物理の成績が悪いわけでもないが、妖怪どもが空中を歩き回る時刻の直前だ。
古の時代、外の世界ではこの時刻は人間と妖怪の活動時刻の境界でもあったという。
そんな宵闇に沈もうかというはずの幻想郷で、博麗神社は禍々しいほどの光を放つ弾幕に覆われていた。
「……なんだアレ」
紅白のお札が四方八方にばら撒かれ、陰陽玉が弾け飛び、針が空を穿ち、結界が炸裂する。
「ひえええええっ」
蛍がものすごい勢いでこちらにまで飛んできた。
とりあえず撃ち落としておくかと思った瞬間、リグルの後頭部にお札が張り付いた。
「あうっ」
動きが止まったところに針が四肢を突き刺し、地面に縫い止める。
「おおっ、標本。はらわた取って防腐処理しなきゃな」
「やめてえええええぇっ」
「うるさい黙れ。別に命までは取りゃしないわよ」
血色抜群お肌もつるつる背筋もしゃきんと楽園の素敵な巫女、博麗霊夢がリグルの頭をぶん殴り、お札をひっぺがした。
「元気そうで何よりだぜ霊夢」
「魔理沙もいつも通りみたいで」
「ところで晩メシは?」
「ああ、忘れてた。こいつらぶっ飛ばして回ってたから」
霊夢は神社に戻る。
その背中を追ってみると、まあ確かに凄い有様だ。
「やられたのかー……」
「ちん……ちん」
「藍さまー……」
と、まあ顔見知りの夜行性妖怪がことごとく瀕死状態である。
極め着け、鳥居には、鬼がお札をべったべたに張りつけられた挙句逆さ吊りにされていた。
「ま……り……さ……おろ……して……」
訊いてみる。
「霊夢、どうするんだ?」
「反省してお茶を持ってきたからこのへんで許してやるわ。ただしひょうたんは今晩いっぱい没収」
「鬼」
言いながら、魔理沙は萃香の足を縛っていた縄をレーザーで焼き切ってやる。
そのまま重力に従い、自由落下を開始した萃香は二本の角を石畳に突き刺し、変な逆立ち状態のまま動かなかった。
まっ、いっか。ちゃんと降ろしたことは降ろしたんだし。
「さあ飯作ろうぜ飯。私がいるからには火力はばっちりだぜ」
「そうねぇ。材料もたくさん転がってるし」
「よーし宴会だな。いっぱい作るぞー」
「がんばって。私朝からお茶しかお腹に入れてないのよ。それでもうイライラして」
「カルシウム摂ろうぜ」
「おっぱいおっきくなったらこの服いやらしくなるからねぇ」
無駄話をしつつ、厨房に向かう。
なぜか竈に火が入っており、すきま妖怪が割烹着を着て包丁を握っていた。
「紫さま、白玉楼に話つけてきました。半霊があとでお酒を持ってきてくれるそうです。けど大喰らいもくるそうです」
「ありがと。まあ賑やかな方がいいわ。あ、霊夢、魔理沙。そんなところでぼっとしてないで手伝ってよ。もう」
すきまから這い出てきた式を労いつつ、紫は人間二人に文句を言う。
「勝手に人ん家の台所占領しないでよ! あんたもぶっ飛ばされてみる?」
「ひどいわ。私はみんなで楽しく宴会しようと思って、色々準備しているのに」
「なんか企んでいるってことね」
「そりゃあ企んでいるし画策してるわよ」
「おい紫。お前、包丁握ってるくせにすきまで菜っ葉切ってないか」
「素材の風味が良く生きるのよ。包丁なんて鈍器で切ったら細胞潰れるでしょ」
まぁいい。表で転がっている連中を全員もてなすためには、これくらいの作業人数がいるだろう。
魔理沙は帽子を脱いで髪を結い、霊夢は袖を外す。
作業を始めようとした矢先、魔理沙は気づいた。藍がいない。
「ところでお前んところの狐は?」
「今買出しに行かせたところよ」
「ちょっと待て。と、なると表に……」
「ちぇえええぇぇええぇぇええんっ!!」
さて。
酒を呑んで呑まれつつ、鍋をつっつき奪い合い、またもや熱燗に茶葉を入れようとした鬼をぶん殴り、ふと気がつけば丑の刻。
何人かの妖怪は既に帰り、酔い潰れた者も幾人か畳に這い、残った者だけがちびちび飲っている。
そんな時だった。
「そういえば」
すっかり赤くなった霊夢がお猪口を手にしたまま、魔理沙に視線をやる。
「あんたとの勝負、尻切れトンボのままだったわね」
「ああ。永遠亭まで行ってトンボ返りしたのに萃香が茶ぁ持ってきたんだ。私はとんだ無駄足だったさ」
「じゃあ決着つけましょうか」
「今か」
「今」
「よしやるか」
畳に膝をつけた。
二人して井戸まで行き、冷水を頭から被って酔いを醒ます。
魔理沙は箒を取り、霊夢はあくびをかまして、境内の真ん中で対峙した。
幾人かの妖怪が気がついたらしく、見物しにやって来る。
すっかり暗がりになった空の下、月に見守られながら魔理沙は霊夢に確認を取った。
「お互いスペルカードは一枚限りの一発勝負だったな」
「ええ」
「昼間は霊夢が攻めに回ったから、今度は私の番だぜ」
「そうしましょうか。じゃ、ルールは以上、ということで」
「おう。始めようぜ」
二人同時に石畳を蹴りつけ、宙を舞う。
魔理沙はカードを取り出し、月に向かって投げつけた。
ミニ八卦炉へと身体中に漲る全ての魔力をぶち込み、箒に流す。
「行っくぜぇぇぇ! ブレイジグ! スタアアアァァアァッ!!」
わずかにバックした後、ありったけの魔力を纏い、後方に噴出させながら霊夢へと吶喊。
まだ酔いの気が残っていたらしい霊夢は、圧倒的な光量と熱量を放出させて突っ込んでくる魔理沙に、少々驚いたらしい。目を丸くして慌てた調子で避ける。
暗闇に慣れていた目が光にやられたのか、霊夢は短い間隔で瞬きを繰り返した。
その隙を逃さず、収縮した魔力で一瞬にして再び霊夢の眼前に高速移動。
二度目の吶喊!
「あんた元気ねぇ……」
「米がかかっているからな!」
軽口の応酬を交わした後は、最早両者に余裕はない。
ただひたすらに魔理沙は突っ込み、霊夢は避け続ける。
大気を震わせ、自らが射出した星屑弾すら吹き飛ばし、何度でも魔理沙は突撃する。
その一撃を避ける霊夢の口元には微笑み。
当たり前のことだが、魔理沙は楽しいから弾幕ごっこをやっている。
だが霊夢とこうして戦っている時、時折胸に穴が開くような無為を感じることは、否定できない。
博麗霊夢は誰と弾幕を交わそうと、楽しみを覚えている。
妖怪退治が仕事だと言ってはいるものの、実際のところ相手が人間だろうが妖怪だろうがそれ以外だろうが別に構わない。楽しいものは楽しいのだから。
その気持ちは魔理沙も一緒だが、決定的に違うところがあるとすれば、ただ一つ。
霊夢は誰であろうと平等に弾幕ごっこを楽しくやるが、魔理沙は霊夢と弾幕をかわす時だけ、必死になるということ。
こいつに勝ちたいと思って、魔法の腕をもっと磨いた。
勘当されようとも、もっと強くなるために魔法の研究を怠らなかった。
修行の一つもしていない霊夢が、どうして血の滲むような努力を重ねる自分に五分五分の確率で勝つことができるのか。
それに悔しさを覚えていた時期に、魔理沙は気づいた。
博麗霊夢は幻想郷ルールの体現だと。
だから彼女が楽しむ戦いをする以上、どれほどがんばっても力量は互角になるということ。
博麗の巫女に挑むということは、幻想郷に挑むということだ。
故に、彼女が用意したルール内で勝ったところで、それは本質的な勝利にならない。
幻想郷に生きるただの人間、普通の魔法使いである以上、霧雨魔理沙は博麗霊夢に勝てない。
振り向かせられない。
霊夢の数多い友人たちの中、特別な存在にはなりえない。
だが――
「負けるか!」
魂の芯まで削る勢いでミニ八卦炉にさらなる魔力を充填。星屑弾の数を上乗せし、弾幕密度を濃くする。
霊夢は今や暴風に撒き散らされる木の葉のようだ。
それゆえに、嵐が吹き飛ばす屑には被弾しない。それが道理というものだ。
わかっている。
そんなことは百も承知だ。
博麗霊夢の傍にいるのは霧雨魔理沙なのだから。
今代の博麗の巫女を一番良く知るのは魔理沙なのだから。
だから、やり方は変えない。
あらゆる大妖怪や人外の存在が様々な異変を起こし、その気になれば幻想郷を簡単に潰せる能力を持っているくせに、霊夢に負けた。そして巫女を慕った。
彼女らのやり方と力でもだめなのだ。
ならば、どうすればいい。
答えは一つ。
霧雨魔理沙は女の子で人間で普通の魔法使いだ。
だから、そのやり方で霊夢をぶっ飛ばす。
世界の一つや二つに挑まずして、何が人間か。何が魔法使いか。
ミニ八卦炉が軋み声を上げる。
もう欠片しか残っていない魔力と体力に、身体が限界を訴える。
箒を握る指は痺れ、目の前は白い。
これが最後だ。
ただ、どこまでも――
目覚めると、ほのかに世界は明るかった。
縁側から暁が見える。どうやらやりすぎて気を失ってしまったらしい。
起き上がろうとすると、魔力の使いすぎか体力の消耗しすぎか単なる二日酔いか、頭痛に見舞われてまともに動けない。
しばらく頭を抱えてじっとしていると、箒を担いだ霊夢が境内の方からやって来た。
「勝ったわよ」
「ああ」
「あんたが」
「おう」
「じゃあ米一俵持ってきなさいね。自分で」
「こういう時、人形任せに出来るあいつが羨ましくなるな……」
勝者がヘタっているのはあまりにも情けないので、魔理沙はなんとか起き上がって霊夢を見上げた。
彼女は苦笑いだかため息だか知れないものを見せる。
「朝ごはん、食べてく?」
「食ってく」
「じゃあお茶漬けで」
「まあ宴の締めにはそれがぴったりだな」
なんか会話のテンポが面白かったです。
百合っていうとちょっと好みではありますが
熱血友情系で百合とはほど遠いような。
個人的に百合というのは、読者がユリリアントキュントクルナニカに被弾した際、発生するものだと思っています。だから百合だと思った瞬間百合ですし、そうでなければ百合じゃありません。
そういう意味では作者コメントでは失敗したなぁとちょっと後悔してます。
>>翼さん
輝夜は好きなキャラなのに今まで書いたことなかったので書いてみました。
お師匠よりそれっぽく書けるけどお師匠より動かしにくいです。
>>電車かもしれないですかw の人
東方やったあとに近藤氏作のアニメを見るとフォーオブアカインドに見えてくる不思議。気づいてくれた人がいて嬉しいです。
会話は一番気合入れてます。普通、会話はキャッチボールですが東方キャラの場合、暴言弾幕の撃ち込み合いというイメージでw
>>とりとめのない会話とかに~ の人
百合については最初の名無しさんに対するレスが答えなので、どうにもあしからず。
だって普通にすっと会話が成り立つわけないだろ、幻想郷で。と思っていたら風神録のバックストーリーでちゃんとした会話してますね、霊夢と魔理沙。
テンポいいし、面白かったです。会話が最高。
これはいい友情ですね。
私はレイマリを推奨しました。
百合かどうかは個々人の受け止め方次第ですけれどもね。
>>ちょ、天の御中主の命の扱いヒドスwww の人
正に名前だけの神さま。「光あれ」とほぼ同義語。日本人はなんでもかんでも神さまにするが神さまの解釈広すぎるでしょう。中学生で神さまとかどんだけ。
霊夢と魔理沙っていわば幼なじみですよね。その路線で続き書くかもとかは思ってます。