Coolier - 新生・東方創想話

慧音先生の出張教育・前編

2007/06/20 08:09:11
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一応、「紫の思いつき」シリーズの続きですが、あまりあちらとは絡んでません。
細やかな所でそれらしき物は出てますが、気にならない程度にしたつもりです。































とある日の夜

「着いたな。ここが紅魔館か」
慧音は紅魔館の前に立っていた。
人の里から余り動く事のない彼女が何故ここに居るか?
話は料理対決の翌日に遡る。


10日前

「夜分遅く、失礼するわ」
慧音の家の玄関から聞き覚えのある声が響いてきた。
「ん?この声は・・・・・・・・・」
その声に慧音は反応し、玄関へと出向く。
そこに居たのは紅魔館のメイド、十六夜咲夜だった。
「誰かと思えば、随分と珍しい顔が来たものだ」
咲夜は人の里に来る事はあるが、あくまで買い物程度だ。
誰かの家を訪ねる事など無かった。
「そうね。今日はちょっとお願いがあってきたのよ」
腕を組んだポーズのまま咲夜は言う。
お世辞にもお願いを言う立場の姿勢ではない。
「ふむ。まぁ、上がれ」
が、慧音は気にする事もせず咲夜を家に上げる。
紅魔館は余り良い噂は聞かないが、咲夜自身は分別を弁えていると言う事は慧音も知っているからだ。

「まぁ、飲め。粗茶だがな」
慧音は居間に通し、咲夜に茶を出してそう言う。
「あら?粗茶なんてとんでもないわ。良いお茶じゃない」
一口飲んで咲夜はそう言う。
「そうか?客人用のは切れていたから、私が普段飲むのを出したんだがな」
「博麗の巫女が知ったら強奪に来るわよ」
「本当に有り得そうで怖いな」
苦笑いをしながら慧音は返す。
「で、お願いと言うのは何だ?わざわざお前が出向くほどだ。重要な用件なのだろう?」
「それは少し違うわね。私と美鈴以外じゃ殆どまともにお使いをこなせないのよ」
なんせ能天気な妖精メイドだ。
道草食いまくって、その内本懐を忘れる事すら有り得る。
「そ、そうか・・・大変だな」
「ええ、それはもう」
咲夜は、はぁ、と溜息を吐く
「ああ、話が逸れたわね。それで、お願いの事なんだけど・・・・・・・・・」
咲夜は一旦言葉を切り、そして続ける。
「貴女にとある方の教育をお願いしたいのよ。」
「とある方の教育?」
「ええ、それも出来れば夜の間に。時間は1、2時間程度で構わないわ。」
慧音は考え込む。
可、不可以前にその対象の事を。
(とあるお方の教育?レミリア・・・・・・は有り得んな。あいつが教育を受けるとか言う奴じゃない・・・・・・あのパチュリーとか言う魔女?論外だ。教育が必要なほど教養が少ない奴じゃない)
教養だけなら桁外れに多いが、一般的な常識面に関すれば疑いは多々有りそうである。
(妖精メイド?いや、妖精という種族が聞いてどうなる奴らじゃない事くらいこいつらだって解かってるだろう。と、なると・・・・・・・・・)
「噂にしか聞いた事は無いが、レミリアの妹か?その相手とは」
「あら?知っていたの?」
慧音の読みはズバリだった。
「ああ・・・・・・悪いが、あまり良い噂を聞いては居ないがな」
狂気の妹、禁忌の月。
まともな精神を保持しておらず、あたり構わず破壊行動を行うと慧音は伝え聞いている。
「でしょうね。でも、だからこそ貴女に教育をお願いしたいのよ」
「何故私なんだ?教育だけなら姉のレミリアでも、教養の多いあの魔女でも良いだろうに」
慧音は当然の質問をする。
「そうしたいのは山々よ。でも、妹様はあの二人からじゃまともに教育出来ない位になってるのよ」
「あの二人がか?」
正直、力ずくで押さえ込めそうな二人であるが、それでも無理というのが慧音を驚かせた。
慧音自身は妹様の能力を良く知らない為だ。
「それで貴女に白羽の矢が立ったという訳よ」
「何故私なんだ?」
「解かっているでしょうけど、お嬢様の妹様という事は、吸血鬼だという事」
つまり、恐ろしく戦闘能力が高い。
「なるほど。それなりに戦闘能力がないと厳しいという事か」
「ええ。高い戦闘能力に教師という立場。それらが貴女が選ばれた理由よ」
加えて、料理対決の際に霊夢に見せた配慮が決め手となっていた。
「しかし、私も平時は教師をしている立場。その上夜までとなると、流石に日常生活がな・・・・・・・・・」
慧音は生粋の妖怪でなく半分は人間。
普通の人間よりは疲れにくいと言っても、それでも疲れるものは疲れる。
しかも、教育という精神的に疲れる仕事だ。
「別に毎日とは言わないわ。週に1、2回程度でいいのよ」
「そんなもので良いのか?」
「貴女も妹様も寿命は長いから、ゆっくりでも良いみたいね」
それがレミリアの意向。
「ふぅむ・・・・・・・・・まぁ、その程度なら構わんだろう」
「それは良かったわ。それで、いつから来てもらえるかしら?」
「そうだな・・・ここの所少し立て込んでて、暇になるのが4日後なんだが・・・・・・・・・」
「4日後?それはまずいわね」
「だろうな。私もその日はまずい」
4日後、それは満月の日。
吸血鬼が最も力を増す日だ。
暴れられたら到底手に負えない。
そして、半獣である慧音も満月の日は気分が高揚し、落ち着かなくなる。
普段開いている寺小屋を休みにするくらいに。
「そうなると・・・・・・10日後になるな。その後、時間が空きそうなのが」
「10日後ね。解かったわ、お嬢様にはそう伝えておくわ」
「解かった。では、10日後にそちらに顔を出そう。何か持って行く物は?」
「必要な物はこちらで揃えるから何も持って来なくても良いわ」
「そうか」
「じゃあ、10日後にお願いね」
「ああ」
用件を伝え終えると咲夜は慧音の家を去って行った。
「さて・・・・・・吸血鬼の問題児か・・・・・・・・・手を焼きそうだな」
そう呟いて、慧音は就寝の準備に入った。


時間は戻る

「失礼、十六夜咲夜に呼ばれて来た上白沢慧音と言う者だが」
慧音は門番の美鈴に声を掛ける。
「ああ、貴女が。話は聞いています。どうぞお入りください」
そう言って門を通され、その後、案内役の妖精メイドに咲夜の所まで通される。

「よく来てくれたわね」
「約束をしたからな」
「ありがとう。お嬢様もお待ちだわ」
「そうか」
そう言って咲夜は慧音をレミリアが居る部屋まで案内する。

「よく来てくれたわね。ワーハクタク、いえ、上白沢慧音」
優雅に椅子に座りながらレミリアはやって来た慧音に言う。
「正直、まだ正式に請け負った訳じゃない。相手の状況を見て決めさせて貰う為に来た」
慧音は特にレミリアの態度は気にしない。
高位の妖怪やら悪魔はこう言う態度なのが普通だからだ。
「そう。まぁ、それが正しい判断かもしれないわね」
「だろうな。噂を聞く限りではな」
「へぇ?どんな噂かしら?」
解かっているであろうに、レミリアは慧音に尋ねる。
「曰く狂気の妹。曰く禁忌の月。まともな精神を保持しておらず、辺り構わず破壊行動を行うと聞いている」
慧音は聞いた噂をそのまんま告げた。
「当たってるだけに、何も言えないわね」
「噂は本当・・・・・・か。悪いが、手に負えないと思ったら辞めさせて貰うぞ」
流石に吸血鬼相手に決死の教育などご免被りたい。
命がいくつあっても足りやしない。
「ええ、それは構わないわ。寧ろ来てくれただけで感謝したいくらいよ」
(それほどなのか・・・・・・・・・)
慧音は少し後悔していた。
「さて、あまり長く話していても時間が勿体無いし・・・・・・咲夜、案内してあげて」
「はい」
レミリアがそう言い、咲夜が慧音を目的の場所まで案内する。
用意されていた教材は、その時咲夜より渡された。


地下への階段

カツン・・・カツン・・・カツン・・・・・・
二人の靴の音が静かな空間に響き渡る。
「まさか、地下に幽閉されていたとはな・・・・・・・・・」
慧音が咲夜に声を掛ける。
「そうしなければならないほど危険な方なのよ」
「やれやれ・・・・・・まさか命がけの教育をする日が来るとはな」
「そうそう、お嬢様からの伝言だけど。言う事聞かない時は何しても良いそうよ」
「本気か?」
「それくらいなのよ、妹様は」
「やれやれ・・・・・・・・・」
慧音は本気で後悔し始めていた。
「着いたわ」
そして、目的の場所まで着いた。
そこには厳重に結界を張られた扉があった。
「・・・・・・・・・帰りたくなったのだが」
それを見て慧音は呟いた。
「見ない内から決めるのは良くないわね」
「いや、十分目の前に判断できる物が見えるのだが?」
明らかに過剰といえるまでの結界。
普通の者なら絶対に出てくる事など出来ないだろう。
だが、この奥に居るモノはこうしなければ封ぜられぬほどの者なのだ。
「さ、開けるわ」
「無視か」
慧音を無視して咲夜は扉を開けた。

「妹様?いらっしゃいますか?」
咲夜が声を掛ける。
「咲夜~?」
部屋から声が返ってきた。
「はい、咲夜に御座います。先日お話した家庭教師をお連れいたしました」
(家庭教師・・・・・・まぁ、間違ってはいないか)
慧音はそんな事を考えていた。
奥から何かがゆっくり飛んでくる
「かてーきょーし?」
姿を現したのは幼い金髪の少女。
背中についている七色の宝石のついた翼(?)が特徴的だ。
「はい。こちらがその上白沢慧音先生です」
咲夜は慧音を紹介する。
「上白沢慧音だ。よろしく」
慧音はそう挨拶する。
「けーね?私はフランドール。フランで良いよ!よろしくね、けーね!」
「フラン、私は一応教師だから先生を付けなさい。」
「ふーん・・・・・・うん、解かった!けーね先生!」
「よろしい」
(狂ってると聞いたが・・・・・・普通に見えるな。精神的には相当幼い様だが)
慧音は頷きながらそう思った。
「さて、それじゃ任せたわね。慧音「先生」」
咲夜は先生を強調してそう言い、そして扉を閉めて去って行った。
「よし、ではフラン。まずは何をしようか?え~っとこの教材からは・・・・・・」





「弾幕ごっこ」




「は?」
見当違いな返答に慧音は呆ける。
「弾幕ごっこ!ねぇ・・・・・・アソボ?」
慧音はゾクリとした。
今の今まで普通の少女かと思っていたその瞳に狂気が宿ったのだから。
(っっ!!噂は本当か!!!)
そう思うのも束の間


ドガガガガガッ!!!


「うわっ!!」
弾幕が放たれた。
「アソボ!アソボ!!」
狂ったように弾幕を放つフラン。
いや、本当に狂っているのかもしれない。
「く!!コラ!!私はお前を教育しに・・・・・・!!」

ドガンッ!!

「っく!!」
話しかけても弾幕は止まない。
(えぇい!!行き成りこれか!!まるで話にならないじゃないか!!!)
慧音は、咲夜とレミリアに後で頭突きをかましてやると固く心に誓った。
目の前に弾幕が迫る。
「くそっ!!」
何とか回避したが

ドガァンッ!!

ガッ!!

「っ痛!!」
被弾して壊れた壁の破片が慧音の頭に当たった。
少し血が出ている。
それを見て慧音は大きく息を吸い込む。
「あはははは!!これでゲームオーバーだよ!!」
フランがレヴァンテインを出して突進してくる。
そして剣を振りかぶり








「好い加減にせんかぁぁぁぁ!!!!!!」




物凄い怒号によりビクリと動きを止める。
部屋全体がビリビリと震えるほどの大声だった。
そして、慧音はフランの動きが止まっている間に、接近してきたフランの頭を両手で掴む。
「まったく・・・・・・・・・私は教育をしに来たと言っているのに・・・・・・・・・・・・」
「痛っいたた・・・・・・!!」
頭を掴む手に力が篭る。
「お前の姉から、言う事聞かない時は何をしても良いと言われているのでな。」
フランは慧音の目を見てビクンッとなった。
目が完全に据わっていたからだ。
そして、その目が今まで自分に向けられていたどの視線の種類よりも違ったから。
その種類は「怒り」。
それも今までのような相手に危害を加えた事で生じる「憤怒」や「憎悪」とは違った種類の怒り。
教育者としての道を誤ったものに対する教育の「怒り」だ。

慧音は思いっきり体を仰け反らせて頭を振りかぶる。
(む・・・胸で首が・・・・・・!!)
思いっきり仰け反ってるため、フランからは胸で慧音の首が見えない。
誤解なきように言っておくが、決して慧音の胸筋で見えなくなっているのでなく、慧音の胸が普通の女性よりも豊かである為そう見えるだけだ。
そして


「ふんっ!!!」


ゴガッ!!!

フランの額に慧音の渾身の頭突きが炸裂した。
常人の頭なら砕き割れん位の威力だ。
「~~~~~~~~~っっっっっっ!!!!!」
さしもの吸血鬼でさえ声も出せずに悶絶する威力。
「こんな物で済むと思うな!!」
怒れる慧音は続いてフランの体を持ち上げ、立て膝のような姿勢になり、その腿の上にフランの腹を置く。
そして、フランが痛がっている間にスカートを捲り上げて、勢いよくドロワーズをずり下げる。
「な・・・なにするの・・・・・・!?」
痛みを耐えながら何とか尋ねるフラン。
「こうするんだ!!」
慧音は手にハァーッと息を吐きかけ、そしてその手を思いっきり振りかぶり


パァンッ!!!


「きゃうっ!!」
お尻を叩いた。
俗に言うお尻ペンペンという奴だ。


パァンッ!パァンッ!!パァンッ!!パァンッ!!!


「痛っ!痛い!痛い!!」
「当たり前だ!!痛くしてるんだ!!!」


パァンッ!パァンッ!!パァンッ!!パァンッ!!!


「痛い!痛い!痛いよぉぉぉ!!!」
段々お尻が赤くなっていく。
「何でこうされてるのか解かってるのか!?」


パァンッ!パァンッ!!パァンッ!!パァンッ!!!


「痛い!!解かんないよぉ!!痛いぃぃぃ!!!」
「人が物を教えに来たというのに、さっきの態度は何だ!!!」


パァンッ!パァンッ!!パァンッ!!パァンッ!!!


「うああぁぁん!!痛いよぉぉ!!咲夜!助けてぇぇぇぇ!!!」
ついにフランも泣き出した。
「助けてじゃない!!何か他に言う事はないのか!!!」


パァンッ!パァンッ!!パァンッ!!パァンッ!!!


「うああぁぁぁん!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」
フランが謝ったので、ひとまず慧音も手を止めた。
「何でごめんなさいを言わなきゃいけないか解かるか?」
格好を変えぬまま慧音は尋ねる。
「ぐずっ・・・・・・」
「解かってないならまた叩くぞ?」
慧音はハァーッと手に息を吐きかける。
「やだやだ!!」
「なら、何故フランはごめんなさいを言わなければならなかったんだ?」
「・・・私が弾幕ごっこしたから?」
「何で弾幕ごっこしたら怒られたか解かるか?」
「・・・・・・けーね先生がかてーきょーしに来たから?」
「そうだ。私はフランに勉強を教えに来たんだ。それなにお前の態度は何だ!」
慧音に怒鳴られ、再びフランはビクッとなる。
「ごめんなさいごめんなさい・・・・・・」
フランは泣きながら謝る。
「フラン。謝るだけなら誰にでも出来る。大切なのは、なんで謝らなければいけないのかを理解する事だ。」
慧音はフランのドロワーズを元通り履かせる。
「今回お前は私が勉強を教えに来たのに、教わるどころか弾幕を仕掛けてきた。だから私は怒った。」
「ぐずっ・・・・・・弾幕ごっこはしちゃダメなの?」
漸く解放されたフランが涙目で慧音を見る。
「ダメとは言わない。だが、今は勉強をする時間だ。それ以外の事をすれば私は怒る。」
「勉強の時は弾幕ごっこしちゃダメなの?」
「そうだ。」
「解かった・・・・・・勉強の時はもう弾幕ごっこしない・・・・・・」
「そうか・・・・・・解かってくれれば良いんだ。」
慧音は微笑みながら頭を撫でる。
「フラン。私はフランが間違った事をしなければ決して怒らない。だが、お前が間違った事をすれば遠慮なく怒る。お尻だって叩く」
「お尻叩かれるのは、もうイヤ・・・・・・・・・」
「だったら、私の言う事をきちんと守るんだ。そうすれば私はフランに何もしない」
「うん・・・・・・けーね先生の言う事きちんと守る。もうお尻叩かれるのイヤだもん・・・・・・」
「よし。それじゃ勉強をしようか。」
優しく微笑みながらフランの頭を撫でてそう言い、漸く慧音はフランの教育に入った。




フランを椅子に座らせ、慧音はその横に立つ。
そして、机の上にノートと鉛筆を広げる。
「さてと・・・・・・それじゃあ、まずは算数でもしようか」
「さんすう?」
「そう、算数だ。数を数える事は出来るな?」
「うん、出来るよ」
「じゃあ、計算は出来るか?」
「けーさん?」
フランは首を傾げる。
「数を足したり引いたりする事だ。」
「あ、出来るよ!増えたり減ったりだよね!?」
「そうだ」
「で、0になったらゲームオーバーなんだよね!?」
「う・・・ん・・・・・・そう言う覚え方か・・・・・・・・・」
どうやら、何でもかんでも弾幕ごっこに直結してしまうらしい。
「違うの?」
再びフランは首を傾げる。
「間違ってないとも言えないが・・・・・・そうだな。その辺りからちゃんと学んでいくとしようか」
慧音は咲夜に渡された教材から算数の本を取り出す。
「まずは、基本の1+1から行って見ようか。1+1=は何か解かるか?」
「???+って何?」
フランは+の記号を指差して尋ねる。
「ああ、それは足すと言う意味を持つ記号だ。その場合は1と1を足したら幾つになるか?と言う質問だ」
「1と1?2だよね?」
「そうだ。だからこの場合は1+1=2と書くんだ」
慧音は1+1=の後に2と書く。
「これは?」
今度は=を指差す。
「それは わ と言うな。正確な意味は少し違うのだが、この場合は1+1の答えは何ですか?と聞いている記号だ」
「へ~」
興味深そうにフランは文字を眺めている。
「じゃあ、今度は・・・・・・・・・」
そうやって慧音はフランに足し算と引き算を教えていった。

1時間後

ギギギィィィ・・・・・・・・・
扉が開いて誰かが入ってくる。
「ん?誰だ?」
慧音が扉の方を振り返る。
「お茶とお菓子を持ってきたわ」
入って来たのは、紅茶とケーキを持った咲夜だった。
「わーい!ケーキケーキ!!」
フランは文字通り子供のように喜ぶ。
「ふむ・・・・・・そろそろ休憩を入れても良いか」
最初に弾幕合戦があった事もあり、慧音も一息入れる事にした。
咲夜は机の上にケーキと紅茶を置いた。
「すまない。一応聞くが、これらは・・・・・・・・・」
「大丈夫よ、「入ってない」わ」
慧音が尋ね、咲夜が入っていないと言った物。
それは人の肉と血。
ここは吸血鬼の住まう館。
毎日とは言わないが、時折人間の肉を食材に使った料理が出る。
解からぬ様に加工されているとは言え、それでも人及び人に組する者にとっては口に入れ難いものだ。
「けど・・・・・・まさか普通に勉強してるなんて」
「随分な言い草だな?」
ジト目で慧音は咲夜を見る。
「仕方ないでしょう?部屋を見る限り何かあったのは解かるし、理由はそっちにも解かる事じゃない?」
「解かってて一人だけに任せようとは、随分と冷たいものだな?」
「あら?私が居たら邪魔になると思ったから退散したのよ」
しれっと咲夜は言う。
一方、フランは二人の会話など気にもせずにケーキを頬張っている。
「ああ、フラン。ほっぺにケーキが付いてるぞ」
慧音はフランの頬を咲夜が持って来ていたナプキンで拭う。
「んう・・・けーね先生、くすぐったいよ」
「だったらきちんと綺麗に食べるんだ」
「は~い」
そう返事をして再びケーキを頬張り始める。
「ああ、もう。言ってる側から・・・・・・・・・」
再びフランの頬を拭う慧音。
「ふふふ・・・・・・」
その様子を見て咲夜が笑う。
「何だ?」
「いえ・・・そうして見るとまるで親子のようだと思って・・・・・・ね」
「待て待て・・・・・・親子は無いだろう?せめて姉妹と言ってくれ」
「そうかしら?年齢云々でなく、仕草がそう感じたのよ」
「う~ん・・・・・・」
慧音は複雑そうだ。
「けーね先生、これ何?」
すると、フランが教科書の一部を指差して尋ねてきた。
「ん?ああ、それか。それは×と書いて、掛けると読むんだ。足し算の応用だな」
「かける?」
「ああ。掛け算のやり方はだな・・・・・・・・・」
(まさか、本当に教育出来るなんてね・・・・・・・・・)
咲夜は食べ終わった食器類を片付けながら二人を見てそう思い
(ひょっとしたら・・・・・・ひょっとするのかもしれないわね)
そして、地下室を後にした。



数時間後

コンコン・・・・・・
レミリアの部屋が誰かにノックされる。
「咲夜、開けて来なさい」
「はい」
咲夜はレミリアに言われた通り、ドアを開ける。
「あら?上白沢慧音。フランの勉強は終わったのかしら?」
そこに居たのは慧音だった。
「ああ、中々キリが良い所に行かなくてな。少し時間が掛かってしまった。」
部屋に入り、レミリアに近づきながら慧音は言う。
「そう。それで、どう?また来てくれるのかしら?」
レミリアは慧音に問う。
「思ったよりも聞き分けは良い子みたいだし、今回だけでは全然教育としては物足らんだろう?」
慧音はそう返す
「そう?なら、今後も時折あの子に色々教えてくれると嬉しいわ」
「そのつもりだ。しかし、こちらからも聞いて良いか?」
「何かしら?」
「何故あの子を今まで放って置いた?悪いが、人から聞くほど狂っている子ではなかったぞ?」
フランは慧音との勉強中にいきなり暴れたりするような事は無かった。
それどころか、何かを注意すればちゃんと聞き入れていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
レミリアは質問には答えず、黙り込む。
「狂っているとは言われていたが、実際は、単に本来常識として知っておくべき事を知らなかっただけだ。常識を常識として認識出来ていない者は狂って居ると称される事がある。あの子はまさにそれだ」
人の来ない地下室への幽閉。
それがフランから常識と言う物を大きく隔離してしまっていた。
加えてあの戦闘能力。
常識を教えようにも、力で暴れられると抑える事が出来ない。
結果、ほったらかしになってしまい、現在に至る。
「何故、姉のお前がそれらを教えてやれて居ない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私には関係無いとは言わせないぞ?本来お前がやるべき事を私にやらせようとしているのだからな」
沈黙するレミリアに慧音は責めるように尋ねる。
「・・・・・・だからよ」
「何?」
小さい声なので慧音は聞き取れなかった。
「幽閉したのが私だからよ・・・・・・」
今度は聞き取れた。
「495年もの間幽閉しておいて、どの面下げて「私が姉だから言う事聞きなさい」なんて言えば良いの?」
レミリアにはレミリアなりにフランを幽閉する理由はあった。
だからと言って495年もの間幽閉してきた事を許されるとは思っても居ない。
「散々閉じ込めておいて、また私の言う事を聞け?私にそんな事を言う資格はないわ」
「なんとなく・・・な、お前がフランを幽閉していた理由は解かる」
「恐らく貴女の考えている通りよ。でも、だから何?495年・・・・・・・・・495年もあの子を薄暗い地下室に閉じ込め続けた。あの子だって私の事を姉だ何て思ってない筈よ。言葉では「お姉様」と言うけどね」
レミリアの今の姿は、普段目にしているのとはまるで違った。
あの圧倒的な威圧感も、不遜な態度もまるでない。
見た目相応のか弱い少女に見えた。
「私には・・・・・・・・・・・・・・・・・・上白沢慧音、あの子の事を・・・・・・フランの事をよろしく頼むわ」
「・・・・・・言われなくてもそのつもりだがな」
「そう・・・・・・貴女が受けてくれて本当に良かったわ」
「礼を言われる程の事はまだしていない」
「そう」
「取り敢えず、今日の所はこれで帰らせて貰う。次は3日後になると思うが、良いか?」
「ええ、そちらの都合で構わないわ。満月でさえなければ」
「それは大丈夫だ。満月は私も人に物を教えられるような状況じゃない」
「それもそうね」
そう言ったレミリアは、少しだけ何時もの様子を取り戻していた。
「帰る前に、レミリア」
「何かしら?」
「これは最終的にお前達の問題だ。私に出来る事をあくまでその手助けだと思っていろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私にはお前が羨ましいよ」
寂しそうに笑いながら慧音はそう言った。
「それ、皮肉かしら?」
「私にはもう家族は居ない・・・・・・・・・まだ、やり直しの効く可能性がある分、お前の方が遥かに良い。私には・・・・・・・・・やり直すも何も、もう・・・・・誰も居ないのだからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さて、それでは失礼する」
「ええ・・・また来て頂戴」
「ああ」
そう言って慧音は出て行った。
「私の方が遥かに良い・・・・・・・・・か・・・咲夜、貴女はどう思う?」
レミリアは慧音に言われた事を咲夜に尋ねた
「私には答えかねます。ただ・・・・・・・・・」
「ただ?」
「お嬢様の後悔なさらない選択をすれば良いかと思います」
「卑怯な言い方ね」
「申し訳御座いません。しかし、それ以上申し上げられません」
「そう・・・・・・・・・」
「そう言えば、紅茶が冷めてしまいましたね。代わりを淹れて参ります」
「ええ、お願いね」
咲夜は部屋を出て行った
「後悔しない選択・・・・・・か・・・・・・・・・」
誰にとも無くレミリアは呟いた。



-続く-
慧音先生紅魔館に行く。
まぁ、予想されてた通りフランの家庭教師です。
が、フランってこんな感じで良いのですかね?
どうも紅魔郷以降台詞有りでは出てきてないので、今一キャラが固まらず・・・・・・幼くなっちゃいました。
色々言葉は知っているので、まったく教養が無い訳では無さそうですが、計算などは簡単なのしかできなそうなイメージがあるので・・・・・・あと、命の尊重さに思いっきり鈍感。

ともあれ、好評不評問わず待ってます。
華月
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コメント



0.3130簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
強いよ慧音先生!ちゃんと「教育者」ですね。
9.70名前が無い程度の能力削除
フランはハァーッと手に息を吐きかける。

慧音はハァーッと手に息を吐きかける。じゃないかな?
10.90名前が無い程度の能力削除
慧音先生カコイイ
11.100ルエ削除
先生と母は似るという説があるけど、けーね先生はそうなのかな
12.無評価華月削除
>慧音はハァーッと手に息を吐きかける。じゃないかな?
ご指摘ありがとうございます。訂正いたしました。
15.80幻想と空想の混ぜ人削除
やられた、フランにお尻ぺんぺんを先にやられたorz
26.100名前が無い程度の能力削除
慧音先生に教わりたいですw
28.90名前が無い程度の能力削除
いま怒鳴ってくれる人ってどれだけいるんだろう、とか思った。
34.100時空や空間を翔る程度の能力削除
怒る時はしっかりと怒り
褒める時は心から褒める。
素晴しい先生ですよ。

では、続き見てきます~。
48.100名前が無い程度の能力削除
怒鳴りながら叱る慧音先生は,真剣に生徒に向き合って教育しているんですね。
こんな素敵な先生に出会えたフランが羨ましいです。
59.80名前が無い程度の能力削除
>フランがレヴァンテインを~
レーヴァテインだった気がする。

それはともかく面白かったです。だから続きへGO!!
77.90名前が無い程度の能力削除
頭突きのくだりで某アンチェインさんを思い出したのは内緒の話