手に降りた雪を愛しいと思った。
だけど、大事に握りしめれば握りしめるほど、雪は淡く消えていく。
それぐらいは知っていた。
知っていたけど、納得はできない。
そんなどうすることもできない少女を見ていたから、彼女は言ったのだ。
優しく、儚く、春に降る雪のように。
ただでさえ視界の悪い霧の湖が、今日はことさら真っ白い。
季節は冬。折しも一月を過ぎ、年に一度の鬼退治の日が近くなっていた。
関係ないわよ、と他人事のように紅魔館の鬼は言っている。だが、神社の巫女は今年こそはと意気込みながら、本物の鬼に豆をぶつけていた。予行演習のつもりらしい。今年は紅魔館から湖を裂くような悲鳴が聞こえてくることだろう。
暇があったら様子でも見に行こう、とチルノは語っていた。
もっとも、遊ぶのに忙しくて、そんな暇などありはしないだろうが。
「ルールは簡単! たくさん雪玉をぶつけて、最初に倒れた方の負け!」
雪の勢いは強く、叫ばないと相手まで声が届かない。チルノはまな板のような胸を張りながら、吹雪にも負けない大声を張り上げた。
気温が何度なのかは知らないが、少なくとも湖を凍らせるほど低いことだけは確かだ。普通の人間ならしっかりと防寒対策をしないと、凍傷になりかねない。ただのスカートなど以ての外、二の腕を見せるなど言語道断だ。
しかし、そこは氷の妖精。寒ければ寒いほど調子が良くなる。
種族こそ違えども、それは自分も同じことだった。
「ハンデは無くてもいいの? 普通にやったらチルノに勝ち目があるわけないじゃない」
さも当然と言わんばかりにレティは言った。
不服を訴えるように、チルノは頬を膨らませる。極寒の中にありながら、その頬には僅かに朱が散っていた。
「馬鹿にすんな! あたいは最強なんだから、逆にレティにハンデをあげるわよ!」
「そう? じゃあ、私の雪は石入りで」
必殺とも言える手段に出たレティだったが、チルノはそれを小馬鹿にするような笑みを浮かべる。
てっきり文句を言うかと思っていたのに。レティは小首を傾げた。
「レティ敗れたり!」
どこかで聞いたような言い回しだった。大方、啓蒙なワーハクタクから聞いたのだろう。彼女はことある事にチルノの元へ訪れ、人に危害を加えないよう教育を施しては、手応えもなく人里へと戻っていく。
それにしても、敗れたとは何のことか。雪玉に石が入るなら、それはむしろチルノの方ではないかと、レティは思った。
「雪に石を詰めれば、重くて途中で雪玉は落ちる。攻撃が出来ないのなら、レティに勝ち目はない!」
「珍しく論理的な説明かと思ったら、そもそもの前提が間違ってるわよ。雪玉に入る程度の石、チルノの所へなら難なく投げられるわよ。ほら」
試しに放った雪玉(小石入り)は、吹雪の風に流されながらチルノの額に直撃する。石と石がぶつかるような、鈍い音がレティの元まで届いてきた。
悶絶の叫び声をあげながら、チルノは額を押さえて雪原の上をゴロゴロと転がり回る。
ちょっと可愛い。
「おのれレティ! 計ったな!」
「石を入れても良いって言ったのはチルノでしょ」
「ええい、問答無用! てりゃ!」
事実を拒絶しながら投げられたチルノの雪玉は、レティに届く前に風の勢いに押され、逆にチルノの顔面へと戻ってきた。
「魔法だ!?」
「風でしょ」
もしゃもしゃと雪を頬張って、チルノは再び雪玉を投げる。どうやら、チルノだけ経験値の稼ぎ方が異なるらしい。
風向きは依然として変わっていない。当然、雪玉はチルノの顔へと帰宅する。
「スペルカードだ!」
「だから風だって言ってるでしょ」
「……風のスペルカード?」
「ただの風だって……」
頭を押さえる。寒さにやられたのではない。チルノの思考にやられたのだ。
突飛な発想というか、チルノは時折かき氷を一気食いした時のような頭痛を相手に与える。かき氷を食べたことがないので、それがどんな痛みかは知らないが、ひょっとするとチルノの方が痛みでは上かもしれない。
こう、脳の奥がツーンと鋭く痛むのだ。チルノに話してみたこともあるが共感どころか理解すらできず、夏場にチルノとよく遊ぶ八雲家の式の式は、元気いっぱいに頷いてくれた。それもどうかと思うが。
「どうしたレティ、臆したか!」
効果音が付きそうな勢いで指をさされる。臆すという言葉の意味もわかってないだろうに。どこからこれほどの自信がわき上がるのか。謎である。
風で飛ばされそうになった帽子を押さえ、仕方ないなと言うように肩をすくめた。
雪合戦を続けるとしよう。
こうして凄く寒い日にしか、自分は出てこられない。何かと突っかかってくるチルノにしてみれば、この時間はかけがえのないモノなのだから。
ちょっとくらい頭が痛くても、我慢はできた。
三日ほど経ち、再び雪の日がやってきた。
昨日はレティに文字通りボコボコにされ、半べそをかきながら逃げ帰ったチルノだったが、今日は必勝の秘策を用意していたのだ。
「ソリで勝負だ! 最初にこの坂を降りきった奴の勝ち」
レティは虚をつかれた顔をする。
「別にいいけど、肝心のソリは?」
その言葉を待ってましたと、チルノはあらかじめ用意しておいたソリを雪で埋もれた木陰から引っ張り出した。
「どうせ、言うだけ言って用意してなかったとでも思ってたんでしょうけど、そうはいかない。ちゃんと用意してあるから」
「……確かに、片方はれっきとしたソリよ。でも、そっちのは何?」
レティの指先は、真っ赤なソリと対をなすように無骨な一輪車に向けられている。
「ふふふ、昨日はレティにハンデをあげたんだから、今日はあたいがハンデを貰う番よ。悪いけど、あたいはこっちのソリで勝負させてもらう」
紅魔館に鬼退治の見学に行ったおり、やたらと手入れの行き届いた庭でソリと一緒に発見したのだ。門番という妖怪が、これをすいすいと動かしているのも見た。雪の上で滑らせたのなら、さぞや軽快に走ることだろう。
このハンデには不服があるのか、レティは頭を抱えていた。
「どうする? どうしてもってんなら、あたいも同じソリを捜してレースをしてあげてもいいけど?」
「いえ、別に今のままでもいいわ」
「そう? 負けてから文句言っても駄目だからね」
何故かレティは泣きそうだった。やはり、この条件に納得がいかないのか。
しかし、一度は了承してしまったのだ。今更になって取り消すことなんて、レティもしないだろう。
勝負は非情なのだ。
ニヒルに口元を歪め、チルノは颯爽と一輪車に乗り込んだ。
対するレティも、ゆっくりとソリに腰を下ろす。
「それじゃ行くよ! よーい……どん!!」
チルノの合図と共に、レティは両手で地面を押し上げる。ゆるかな坂の上を、赤いソリが雪を削りながら華麗に降りていった。わだちが、くっきりと雪の上に残っている。
チルノはそれを呆然と眺めていた。
「あれ?」
一輪車はうんともすんとも言わなかった。
当然だ。押す人がいないのだから。
次の日は晴天だった。
だが、それから一週間後に再び雪が幻想郷に舞い降りる。
結局、微動だにしない一輪車に乗り続けたチルノは、紅魔館のメイドに見つかり痛い目に遭わされた。門番の方ならちょっと怒られるだけで済むのに、メイドの方は容赦ないから怖い。
器だけじゃなくて胸も小さいんですよね、とは門番の談。その後、彼女がどういう運命を辿ったのかは当人達意外知るよしはない。
閑話休題。
「リベンジだ!」
「ちなみに、リベンジの意味ってわかる?」
「野菜の名前。それより、あたいと勝負しろ!」
レティは今日も頭を抱えていた。
「……それで、今日は何で勝負をするのかしら?」
「今日はかまくら作り対決だ!」
「へぇ、珍しいものを知ってるのね」
「当然!」
文字通り冷やかしに慧音のところへ行った時に見つけた単語である。冬と言えば、かまくら、というほどメジャーなものらしい。チルノは全く知らなかった。
ついでに暇つぶしで人間の持ち物を凍らせてやったら、慧音から思い切り良いのを額にいただいた。
「先にかまくらを作った方の勝ち。言っておくけど、今日はハンデ無しだからね」
「いいわよ。なんだか、今日はようやくマトモな勝負ができそうだし。本気でいくわよ」
「望むところだ!」
そして、チルノが開始の合図を出した。
「よーい、どん!!」
レティはまず、雪を一カ所に集め始めた。辺りから雪を運び、まるで巨大な雪だるまの胴体を作るように積み重ねていく。やがてそれを固めていき、いつしか地面に半球型の小さなドームみたいなものが出来上がっていた。
僅か十数分しか経っていないというのに、見事な手つきだ。
そして、一方のチルノは……
「…………………………」
しんしんと降りつもる雪を無言で凝視している。見かねて、レティが作業の手を止めた。
「どうしたの?」
凍ったように固まったチルノの口だけが、解凍されたように動く。
「ところで、かまくらって何?」
覚えていたのは単語の響きだけだった。
それから二週間、晴れが続いた。
特に代わり映えのない二週間だった。
ある日、冬が戻ってきたように寒い日が訪れた。
チルノはいつものように霧の湖へと向かう。案の定、いつのもの遊び場所にはレティの姿があった。大きく出っ張った岩の上に腰掛け、ぼーっと霧に包まれた湖を見ている。
はてさて、今日は何をしたものか。雪はもう降らなくなったし、雪関係の遊びは連敗続きだから不吉だ。別のことをしたほうが勝てるかもしれない。
そんなことを考えながら、レティに声をかける。
「おーい!」
ゆっくりとレティが振り返った。
それだけの動作。なのに、チルノは嫌な予感に襲われた。
これと同じような感覚を、前にも味わったことがあるような。
「相変わらず元気がいいのね。お久しぶり」
「う、うん……久しぶり」
「あら、急にどうしたの?」
岩から飛び降り、怪訝そうな顔でレティが下から顔をのぞきこむ。
こんな顔をしては、レティだってきっと悲しむ。チルノは咄嗟に、いつも以上の笑顔を浮かべた。
「ううん、なんでもない!」
「……そう」
まるでそのやり取りを忘れたいかのように、チルノとレティはその後、大いに遊びに遊んだ。それこそ、一日中という言葉が相応しいくらいに。
大蝦蟇を探しに行くも冬眠していたり、紅魔館に侵入して門番に怒られみたり、人間にちょっかいを出しに行って慧音に見つかり二人して頭突きをされたり。
実に楽しく、そしてどこか寂しい一日だった。
「ああ、楽しかった。ねぇ、レティ。次は何をする?」
「もう充分に楽しんだわ。今日はもう終わりにしましょう」
「でも! まだ行ってない所もやってないこともあるし……」
「チルノ」
チルノの言葉をやんわりと遮るように、レティが言葉を紡いだ。びくっ、とチルノの身体が震える。
この時間を避ける為に必死になって一日を楽しんだというのに、時間は無情にもただ流れていく。どんなに努力しようとも、いつかはこの瞬間が訪れるのだ。
「あなただって、もう気づいているんでしょう?」
両の拳を血が出そうなほど握りしめる。唇を強く噛みしめ、顔を俯かせた。
気づいてなどいない。気づいてなど、たまるものか。
チルノは聞こえない振りをした。にも関わらず、レティは話を続ける。
「だから、改めて説明するまでもないわよね」
いつもなら、レティは「また明日」と言って別れる。本当に明日会える保証はないのだが、それが二人の決まり事のようになっていた。
だから、今日だってその台詞を言ってくれるはず。チルノの絶望的な願いは、あっさりと氷のようにうち砕かれた。
「それじゃあ、また次の冬に」
理解するまでもなく、その言葉の意味がわかる。
レティは冬の妖怪。冬が終われば、いつのまにかいなくなってしまう。
どこかに隠れているらしいのだが、どれだけしつこく頼んでもその場所は教えてくれない。なんでも、その場所が他人に知られれば、レティという存在が消えてしまう恐れがあるのだという。
難しくてよくわからなかったが、とにかくここで別れれば次に会えるのは来年の冬だということだ。
我慢できない日数ではない。でも、寂しい。それに……
「もう、泣かないで。ちゃんと次の冬にやってくるから、今生の別れってわけじゃないのよ。また会える」
今生という言葉の意味はわからないが、なんとなく理解はできる。でも納得はできない。
チルノの頬を伝う涙が、一瞬にして凍ってしまった。レティがそれを取り除いてくれる。
「お願いよ。次に会うときは、笑顔で私を出迎えてね」
チルノの涙が止まったのを確認してから、レティはどこかへ飛んでいった。
後を追っていこうとしたが、身体は動かず、再び目から涙がこぼれる。
涙はまた氷になるが、それを取り除いてくれる少女はもうどこにもいなかった。
どれだけ時間が経っただろうか。幻想郷全体が、徐々に温かさを取り戻しつつあった。
枯れていた草木は緑を生い茂らせ、白い地面は茶色に変わり、あちらこちらで芽が萌え出ている。蛙も、近頃はよく見かけるようになった。
春が近づいてきたのだ。
チルノはいつもの岩に腰を降ろしながら、膝を抱えてうずくまっていた。困った顔をしながら、その周りを一匹の妖精がうろうろしている。
「チ、チルノちゃん、大丈夫?」
心配そうに声をかけてくる。冬は気を遣って現れないけど、春や夏はこの妖精とよく遊ぶのだ。細かいことまで気がつくし、ちょっと口うるさいところもある。レティとは違ったタイプの遊び仲間だった。
ふいに、レティという単語を思い浮かべ、更に深く落ち込んでしまう。
「うぅ~」
「どうしたの? おなか痛いの?」
答える気力すらない。いつもなら、元気いっぱいに蛙を捜したりしているのに、今日はその元気すらない。
いや、正しくはレティと別れてからの数日か。
また会えるからとレティは言っていたものの、まだまだチルノは納得していなかった。なのに、そこで別れてしまうなんて。消化不良もいいところだ。
「ねぇ、チルノちゃん」
その声に混じり、ふいに弾幕が飛び散る音が頭上が聞こえてきた。誰か、弾幕ごっこでもやっているのか。
ちょっと気になり、頭をあげる。そこには、喜色満面で弾幕をまき散らせる春の妖精の姿があった。
リリーホワイト。春を告げる妖精であり、そして最もチルノが嫌いな妖精でもあった。
「あいつが……」
リリーは単に春を教えるだけの妖精。別に、彼女が来るから春がやってくるわけではない。リリーがいなかろうと、春は勝手にやってくる。
だが、そんな理屈などチルノの前では意味を成さない。
「あいつがっ!」
「チルノちゃん!」
岩を蹴飛ばす。その勢いで、リリーの元へと弾丸のように飛んでいく
慧音は言っていた。リリーホワイトは春になると動きが活発になり、無差別に攻撃してくる。そのうえ、春を告げている時は最も力があるのだと。それが彼女の役目であり、その役目を邪魔することは難しい。人も妖怪もある種の目的があるから力を出せるのであり、それを発揮できるからこそ、全力を発揮することができるのだ。
半分も理解できたなかったが、今のリリーに立ち向かうことがどれだけ愚かかと言うことはわかる。
それでも、今のチルノを止めることはできなかった。
「お前がいるからレティがいなくなったんだ!」
八つ当たりじみた怒りを携え、リリーに突進しようとする。だが、彼女の弾幕は予想以上に厚く、殴られたようにはじき飛ばされた。チルノは飛ぶ力を失い、湖へと落下する。幸いにもそれほどの高さはなかったので、凄く痛いだけで済んだ。
湖から飛び出し、チルノは再びリリーに立ち向かう。しかし、その実力差はいかんともしがたかった。
何度もぶつかっては、何度もはじき飛ばされる。
ただの一度も彼女に触れることすらできず、ことごとく湖の水を飲まされた。顔中は水浸しで、もはや涙なのか水なのかさえ判別がつかない。凍る暇さえありはしなかったのだ。
「お前が……いるから……」
はじき飛ばされた衝撃は、着実にチルノの身体をむしばんでいく。最初は張り上げられた声も、今では呻くようにしか出てこない。突っ込む速度も、蝶のように遅くなっている。誰の目からみても、限界なのは一目瞭然だった。
にも関わらず、まだチルノはリリーに挑もうとする。
もう一度、駄目もとで突進だとリリーを睨みつけたところで、地上からチルノを止める声が届く。
「やめなさい!」
妖精かと思った。だが、その声はとても懐かしい響きを含んでいた。
地上を見る。そこに、いてはならないはずの妖怪がいた。
「レティ!」
ふらふらと風船のように飛びながら、必死の思いでレティのところへと着地する。膝は役目を果たしてくれず、不様に地面に膝をついた。
「どうしてここに……っ!」
言葉を遮るように、頭に強い衝撃があった。拳が頭に乗っていることを確かめ、ようやくチルノは自分がレティに殴られたのだと気が付く。
目を雪玉のように丸くするチルノ。レティは眉間にしわを寄せながら、少し強めの口調で言った。
「馬鹿な真似は止めなさい! こんなことをしたって、私は冬まで現れない」
「でも、今は……」
「今日は特別。無理をして来たんだから、すぐに戻らないといけない」
また、レティがいなくなってしまう。
咄嗟に、チルノは離すまいとレティの身体を抱きしめた。
「嫌!」
怒気が抜け、今度は困ったように頬をかくレティ。やがて、諦めたような顔でチルノの頭を優しく撫でた。
「冬ってのはね、熱に弱いから、抱きしめれば抱きしめるほど消えるのが早くなってしまうのよ。雪みたいにね」
慌てて、チルノはレティから離れた。
「だけどね、離したところで冬はやがて過ぎ去ってしまう。春が来るから、しょうがないのよね」
「じゃあ、あたいはどうすればいいのさっ!」
抱きしめることもできず、離すこともできず。何をどうすればいいのか、考えても答えは出てこない。
レティはそんなチルノを見て、呆れたように溜息をついた。
「何もしなくていいのよ。あなたはただ、また冬を待っていればいい」
「そんなの、あたいにはできない! 寂しすぎる!」
「それぐらいが丁度いいのよ。毎日会ってたら、鬱陶しくなるでしょ。それに、私がいなくたって遊んでくれる仲間はいるでしょ」
レティの後ろに、安堵した顔の妖精の姿が見える。チルノが突進を止めてくれて、心から安堵しているのだろう。
確かに、自分には遊んでくれる仲間がいる。春も夏も秋も、寂しくない。
「でもレティは?」
隠れている間、彼女はきっと一人なのだ。
レティともっと遊びたいという欲求もある。だが、そうやってレティが寂しい思いをするのが嫌だという理由もあった。
涙と水が凍らないように拭いながら、チルノは問いかける。
「レティは、また冬が来るまで寂しくないの?」
にっこりと笑いながら、レティは答えた。
「寂しくならないように、目一杯遊んだんじゃない。あなたと過ごしたこの冬は、春と夏と秋を合わせても、お釣りが来るぐらい楽しかったわ」
本当に、楽しそうにレティは語る。
「まったく、これと同じようなことを去年もしたっていうのに。やっぱりあなたは繰り返すのね。ちょっとした年中行事みたいになってきるわよ」
妖精の方を見ると、彼女も苦笑いしていた。記憶にはないが、どうやらレティの言葉は真実らしい。
嫌な予感がした理由もわかった。毎年似たようなことをやっていれば、頭は覚えていなくとも身体は覚えているのだろう。ひょっとすれば、今年は同じ事を繰り返さないようにと、身体から送られた警告のサインだったのかもしれない。
「まあ、いいわ。同じことをやっていようと、レティが寂しくないなら不満はあるけどないわ」
「どっちよ、それ」
困ったような口調のくせに、レティの顔には相変わらずの笑顔が浮かんでいた。
「まったく、自分の事だけを考えていればいいのに、こんなになってまで私の事を思ってくれるなんて……」
多分、次の言葉がレティと交わすこの冬最後のモノになるのだろう。なんとなく、そんな風に思った。去年も、同じ事を言われたに違いない。
「本当にあなたって――」
そして、レティは別れの言葉を口にした。
優しく、儚く、春に降る雪のような言葉を。
「――バカねぇ」
そして命を粗末にしすぎる美鈴に敬礼
このチルノは間違いなく前者。
最後のレティのセリフにちょっとホロリときた。
>三日ほど経ち、
>昨日はレティに
三日後の話なのに昨日のことになってるのはおかしいかと
テンポもいいなぁ。
馬鹿な、漢だ。
もちろん設定に拘るつもりはない。けど、散々既出の展開だったので、読んでてちょっと物足りなく感じた。
こういうギャグ(コメディ)調→シリアス
の流れは読みやすくていいです。