※この作品は、東方キャラに作者の主観が入っている部分があります。
※なお、少々壊れ要素も交えられているためか、作中に頭の悪い部分が多少見受けられます。
以上をご了承の上、お楽しみを。
幻想郷の一角、深い霧の湖の畔に存在する紅色の洋館・紅魔館。
時たまやってくる紅い満月の夜、彼の館からは禍々しい妖気が溢れだし、その規模は幻想郷をも包むと言われているが。
その間逆、新月の今宵は、この洋館から目立った異常は一切発せられず、ただただ静かな時が流れている。
それもこれも、月の光が一筋も輝かない夜は、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの妖気が、最も縮小される日と言われるからだろうか。
幻想郷では屈指の妖力を誇る紅い悪魔にも、やはり不調な日は存在する。
今夜は、静かに過ごせそうだ。
月に一度、新月である日を迎えた時、紅魔館に住む人々の誰もがそう思う。
別に、騒がしいことが嫌いというわけではない。
我が主の無尽蔵なる好奇心、驚異的な行動力からなる騒動、押し付けられる無理難題は、彼女らにとっては日常の一部であるので、その日常が迎えられないことは、むしろ物寂しさすら感じるという。
ただ……たまには、こういう静かな日があってもいい。
それが、皆の共通認識である。
――しかし。
「むー……」
暗がりの一室で、紅い眼の少女は目を覚ます。
カーテン付きの窓から垣間見える外は、月の光が存在しない暗闇の景色だ。既に、夜は迎えられている。
薄赤色の寝間着に包まれた小柄な体躯を起こし、小さく欠伸と伸びを一つ。
そして、わずかな時間、寝惚けているかのように締まりの無い顔で、ボーっと暗がりの前方を見つめた後。
少女――レミリア・スカーレットは小さく呟いた。
「……なんだか、人肌恋しくなってきた」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
今日一日が終わろうとしていても、紅魔館のメイド長である十六夜咲夜には、休暇といったものが存在しない。
基本、紅魔館勤めの妖精メイドはそれといって役に立っていないのだ。指示通りに動いてはくれるが、それ以上のことは期待できない。
館内の掃除、無駄に豪華な料理の準備、大量の衣類の洗濯、人里への買い出し等、紅魔館での生活に必要である殆どの仕事を、メイド長である咲夜がこなしている。
これだけ働き通しならば、普通の者ならば過労で倒れてしまいそうなものなのだが。
咲夜自身、時間を操る程度の能力を有しているため、折をみて時を止めてこっそり休憩しているので、厳密に言えば働き通しというわけでもない。
今もそうであり、止まった時間の中で、十六夜咲夜は紅魔館の食堂でゆったりとくつろいでいた。
大人びた顔立ちの、長身の少女である。髪の毛は外ハネのセミロングにヘッドトレスを着用、揃いのメイド服姿は一分の隙もなく、だからといって雰囲気に硬質な印象もなく、むしろフランクな空気を醸し出す、完璧で瀟洒な従者だった。
「さて、そろそろお嬢様を起こしに行かなくては」
咲夜の休憩終了と共に、止まった時間は正常な流れを取り戻す。
食堂を出て長い廊下を歩きつつ窓の外を見ると、外はどっぷりと暗い。月明かりが見られない紺色の空は、今宵が新月であることを教えてくれた。
お嬢様が最も力を発揮できない夜であり、なおかつ普段の我儘や行動力が鳴りを潜める夜でもある。
でも、どんな夜であっても定刻通りに起こしに行くのは、咲夜とお嬢様にとっての暗黙の了解であり、咲夜の仕事の一つであり、一種の喜びでもある。
そんな喜びのままに、知らず知らず軽快な足取りでお嬢様の部屋へ向かっていたところ、
「あら……?」
廊下の向こう、正面から、小さな人影が歩いてくるのが見えた。
一瞬誰かわからなかったが、数秒もしないうちにきちんと認識できた。
手足の伸び切っていない小柄な体躯に、薄紅色のワンピースドレス。クセのある髪の毛と帽子、人形のように愛らしい顔立ちは、間違いない。
「お嬢様」
そう、紅魔館の主である、レミリア・スカーレットだ。
どうやら咲夜が起こしに行くまでもなく、お嬢様は自分で起きてしまわれたようである。少し驚いた。
時間的に、いつもの時間よりはまだ早いようなのだが……。
「むー……」
ともあれ、今のレミリアはどうも締まりのない顔をしている。
その気になれば幻想郷のあらゆるものを威圧させられる紅色の眼も、どこかとろんとしていて、焦点が合っていないようにも見える。
起きぬけだから、寝惚けているのだろうか?
「お嬢様、どうなされたのですか?」
「う? ……うー」
咲夜が歩み寄って呼びかけると、レミリアは自分に気付いたかのようにこちらを見て、
「さ~く~や~」
などと間延びした声と共に、おもむろにこちらに抱きついてきた。
「きゃっ……お、お嬢様?」
ぎゅーっと強くではなく、きゅっと優しく、甘えるかのように、レミリアはスリスリと咲夜の胸に頬をすり寄せる。
いきなりのことだったのでビックリしたし、心臓の鼓動が一気に跳ね上がりもする。自然と顔も赤くなってくるし、ドキドキもする。
完璧で瀟洒な紅魔館のメイド長は、ただこれだけのことで完璧も瀟洒もなくパニックに陥った。
「お、お嬢様、あの、その……」
「むー」
しどろもどろになっている咲夜に構わず、レミリアは子猫のようにスリスリと頬擦りを繰り返す。
これまたいろんな感じに轟くほど可愛らしくて、咲夜はすっかり骨抜きになりそうだったが。
――お嬢様はどうしてしまわれたのか?
頭の冷静な部分は、素直に思考に入っていた。
今宵が新月の夜だから、お嬢様はこんな風になっていると考えられるが、その線は考えられない。今までも新月の夜は幾度もあったし、お嬢様が調子を落とすようなことになっても、こんな風に甘えることは一度もなかったことだし……。
「むふぅ……」
「…………」
あの、お嬢様、今考え中ですのでそんな情緒溢れる声を出さないでください。
咲夜は頭を抱えたくなる。自分の中での考察とかお嬢様の可愛さとか、いろんな意味で。
というか、この状況はどうすればいいのだろうか?
これはなんというか、非常においしい……ではなく、他者に見られたらどういう状況に見られるだろうか?
いやはや、これは……。
「はふぅ……」
「――――」
ゴトリ
胸の中に居るレミリアの吐息を直に感じることで、咲夜の中で大きく何かが動く音がした。
すごく熱い何かが、咲夜の身体を存分に駆け巡る。
もはや、思考は上手く働かない。
……あれこれ考えるよりもここは一つ、お嬢様に応えることを先にしよう。うん、そうしよう。
こうやって、大きく両手を広げて、
「お嬢様、し、失礼致しま――」
「んー……なんかイマイチ」
と、レミリアが小さく呟いたのに、ハグで返そうとしていた咲夜はピシッと凍りついた。
なんかイマイチ。
――イマイチ。
――イチ。
耳の奥で、不服そうな……というか間違いなく不服とも言えたお嬢様の呟きがエコーする。
何がイマイチ? 私の包容力が? 私の胸が? それとも私全体が……?
と、咲夜の頭の中で思考の堂々巡りが始まろうとしたのだが、そこで、
「どうしたの、咲夜?」
「……?」
かけられた声に、ハッと咲夜が現実回帰した視界の先、小柄な少女が怪訝顔で佇んでいた。
二つに分けて結わえている薄紫色の長い髪に、薄桃色の帽子。帽子と同色のパジャマにも似たフリル付きの長袖ワンピース。幼い顔立ちと眠たげな視線。
紅魔館の地下図書室の管理人である少女、パチュリー・ノーレッジだ。
「あ……こ、これは、パチュリー様」
「間抜けなポーズしてるわね、咲夜。うずしおキングのマネ?」
「え……いや、これはどう説明したら良いのか……」
未だに両手を広げたポーズで凍り付いていた咲夜は、なんとなく顔を赤くしつつ佇まいを整える。
うずしおキングって何だろうか、と思ったのだが、詮索はやめておいた。多分、自分にはわからないネタなのだろう。
そんなことよりも、
「って、あら? お嬢様は何処に?」
ついさっき、咲夜に強烈(?)な一言を浴びせたレミリアがこの場に居ないことに、咲夜は軽く焦燥した。
まだそんなに時間は経っていないのに、一体、どこに行ってしまわれたのか……。
「レミィならあそこにいるわよ」
「え……」
と、パチュリーがのほほんと咲夜の後ろを指差す。
その指差しのままに振り返ると、向こうの廊下で、レミリアは通りがかった妖精メイド――言ってみれば咲夜の部下に、先程の咲夜と同じ要領で抱きついていた。
抱きつかれた妖精メイドは一瞬何が起こったのかわからず例外なく硬直し、それにも構わずレミリアは彼女のことを抱き続けるのだが……一分かそこらで、困惑する彼女の元を離れ、ふらふらとした足取りで廊下の角の向こうへと消えていく。
この様子に、咲夜は頭に『?』を浮かべた。
「……これは一体?」
「成程。時期的に言えば、そろそろかしら」
と、パチュリーがなにやら肩を竦めている。
思い当たる節があるらしい。
「何か知ってらっしゃるのですか、パチュリー様」
「ええ。そういえば咲夜はあの状態のレミィをまだ知らなかったわね」
「あの状態……とは一体、どういうことなのでしょうか」
咲夜自身、紅魔館に来て数年は経ってはいるけども、その時を持ってしてもなお、お嬢様の全てを知っているとは言えないらしい。
まあ、何十年も前からの旧知であると言われているパチュリーの方が、咲夜の何倍もお嬢様について詳しいのだろうけども。
やはり、今この時に於いても、知っておきたいと咲夜は思った。お嬢様のために、そして自分のために。
「そうね、教えてあげるわ。あのレミィはね……」
と、咲夜の問いに頷いたパチュリー・ノーレッジは、そのような切り出しから軽く説明を始めた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
紅美鈴は、紅魔館の門番という役職を預かっている。
その仕事といえば、門番であるからにはやはり侵入者の撃退であるのだが、
「はぁ……」
門前で立ち尽くしながら、美鈴は深々と溜め息をついていた。
緑と白が基調の中国衣装を纏った長身。赤色の長髪に、衣装と同じ緑の帽子。普段から鍛えられているのか細くしなやかな手足をしているが、局所では女性としてのふくよかなものを併せ持っている、そんな少女である。
ただ、今の美鈴は、さっきのため息の通り表情がどうにも冴えていない。ヘタレが入っているとも言う。
「ああ、もう! ホントに私もたまにはこんな門の前じゃなくて、どこかでノンビリと過ごしたいですよ、まったく……」
館内へと聞こえない程度の声量で、独りごちる。
何も24時間体制で門番をやっているわけでもないのだが、こうやって門番をしている時間の殆どが退屈というのも困り者である。攻め込まれるのも困るのだが。
といっても、幻想郷を包んだ紅い霧の事件にて、紅白の巫女や白黒の魔法使いが紅魔館に襲来し、中でお嬢様との弾幕ごっこが繰り広げられてからというものの、どうにも部外者に対して紅魔館はオープンになったような気がする。襲来した紅白の巫女、白黒の魔法使いを中心に。
要は、撃退していい者としなくてもいい者とが飽和状態になっているのだ。
これでは、殆ど門番としての機能は果たしていないのだろうか? などと、最近美鈴は思うようになった。
何より今宵は新月であることからお嬢様が大きな騒ぎを起こすわけでもなし、今夜は館内の皆も静かに過ごしていることだろう。
「……今日はもうサボっちゃおうかなぁ」
積もりに積もったストレスで一通り愚痴って発散した後、美鈴がポツリと呟いた、その矢先。
ギギギ、と。
紅魔館の門が内側から開いたのに、美鈴はわずかに目を見張り――
「あ……お、お嬢様!?」
門の向こうから出てきた小さな影に、美鈴は全身を強張らせた。
そう、出てきたのは、紅魔館の主ことレミリア・スカーレットである。
「……ん?」
いつもの好奇心とか悪戯心とかそういう活気は感じられず、今はどこかとろんとした視線でこちらを見てくるが、美鈴にとってはそれどころではない。
さっきのアレが聴こえてしまっていたとしたら、あの、圧倒的妖気による折檻は確実である。下手すると死ぬ。
「えーと、あ、いや、その、サボってないですよ?」
「…………」
「いつもお嬢様のために、精一杯門番をやらせてもらってます、サー!」
「…………」
「う、嘘じゃありません! 例え24時間でも全然平気ヘーキヘーキ、腐ってな~い、腐ってないッスよ。私の心を折らせたら相当なもんッス――」
きゅっ……
「……って、え?」
ほとんど意味不明になりつつあった美鈴の言を遮って、レミリア・スカーレットは、いきなり自分の身体にすがり付いていた。
無論、美鈴は何が起こっているのかを理解できず、その場で凍りつく。
一瞬、ベアバッグでもされるものかと思ったのだが、そうというわけでもなく、ただ、優しさも甘さも感じられる抱擁だ。美鈴はレミリアよりも頭一つ以上の長身であることから、ちょうど、美鈴の胸にレミリアの顔が埋まっているといった形だが……そんなことはどうでもいい。
「あ、あのー……お嬢様?」
「ふぅ……あっ……」
どこか情緒溢れるような声を出しつつ、しかし、レミリアはさらに自分を抱く腕の力を強めている。
あれ? これは一体どうなっているのかな? かな?
未だに困惑する美鈴を他所に、レミリアは胸に顔を埋めたままこちらのことを見てきた。
潤んだ紅の瞳、少し上気した頬、幼少の外見相応の愛らしいかんばせに、美鈴の目は釘付けにされる。
……その、何だ、これはものすごくヤバイ。
何がヤバイのかってわからないけど、とにかくヤバイ。
自分自身がどうにかなっちゃいそうでヤバイ。
「めいりん……」
「は、はい?」
あのー、なんか、名前なんて呼ばれちゃってますよ。普段は『中国』とか『門番』とかでしか呼んでこないのに、これは一体……!
などと目を回しながらも、美鈴はごくり、と唾を呑んで、お嬢様が次に何を言ってくるのかを待つ。
正直、今の状態がとことんまでに異常なので、ここまで来たら何を言われても驚かないかもしれないが。
「もうすこしだけ、このままで居させて……」
「――――!?」
結果として、驚いてしまった。というか、戦慄した。
なんと、あの我儘お嬢様が、この紅魔館に於いてはほとんど下っ端とも言える門番の自分に向かって、ハートフルな言葉で迫ってきている。
この事実、一体如何なるものか――!?
困惑を更に深くする美鈴を他所に、レミリアはそのまま美鈴の胸に顔を埋め続けている。
普段から、大いにふくよかと言われている自分の胸に。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「人肌恋しくなる?」
紅魔館の廊下を歩きつつ、先程の状態のレミリアについてパチュリーが提示した情報に、咲夜は小首を傾げた。
パチュリーは、いつもの眠そうな視線を窓の外へと向けつつも、『ええ、そうよ』と確信を持った返答をよこしてくる。
「五年、もしくは六年……それくらいの周期で、レミィは新月の夜にあんな感じで、紅魔館のメイド達に抱きつきまわっているの」
「はあ。なにか、原因とか原理とか、そういうものはあるのでしょうか」
「未だに不明よ。新月の夜はレミィの力が一番弱まる時といっても、あのような幼児退行現象はどうにも説明し辛いわ。まあ、あの子は外見がああだし性格も性格だから、お嬢様を良く知らない人にとっては、新月は新月でもテンションの様々があるとしか思われないでしょうけどね」
「…………」
「ただ、あの状態のレミィにも、いくつか行動パターンが定まっているみたいよ」
「行動パターン。……あの、メイド達に抱きつくということの他にも、まだ何かあるのですか?」
「ええ」
神妙な様子で頷くパチュリー。
微妙に悔しそうにも感じられるし、それでいてホッとしているようにも感じられる。比率で言えば前者が三割、後者が七割といったところか。複雑なバランスだ。
「ほぼ無作為に抱きついているレミィだけどね。抱きつく対象の人が、ある一定の条件を満たしていると、レミィはその人にずっと抱きついたままになるの」
「ずっと抱きついたまま……」
な、なんという美味しい役目――ではない。
真面目にやらなければ。
「では、その条件とは?」
「……胸よ」
「はい?」
「抱きついた人の胸が大きかったら、その柔らかさと包容力が功を成して、レミィを和ませることができるの」
「……………………」
ゑ~~~~~~~~……
あまりにも理不尽な答えに、咲夜は呆けてしまった。
……そういえば、自分に抱きついてきたとき、お嬢様は『イマイチ』という感想を漏らしておられた。
つまるところ、『イマイチ』の意味は、その、なんだ、そういうことなのだろう。
確かに、自分はイマイチである。形はともかく、大きさは。
だが、自覚しているとはいえ、これはあんまりなのではなかろうか。
イマイチだからって、イマイチだからって、そんな……。
「落ち込まないで咲夜。例えイマイチでも悪いことばっかりじゃないでしょ」
「……パチュリー様はもっとイマイチじゃないですか」
「わたしのことは別に良いのよ、わたしのことは」
とか何とか言いつつも、やはり、パチュリーも微妙に悔しそうである。
声が少し怒っているのがその証拠だった。
……突っ込むのはやめておこう。惨めになるだけだ。
「兎に角、胸の大きい人に抱きつけば、お嬢様は元の状態に?」
「抱きついてすぐってわけでもないけどね。翌朝には、普段のレミィに戻ってるはずよ」
「そうですか……」
まあ、五、六年に一度のスパンであることだし、珍しいことと片付けてしまえば悔しくは……ないというのも微妙だが、ない。うん、ない。それに五、六年もすれば、メイド長の年季と貫禄というやつで自分のも大きくなっていることだろう。希望的観測だが、そう信じたい。
思考にできるだけポジティブを取り戻しつつ、咲夜は感慨深く呟く。
「……今頃、お嬢様は誰をお抱きになっているのでしょうか」
「なんか誤解受けるような言い回しは無視しておいて……妥当に行くと、今回の被害者は美鈴でしょうね。あの子もあの状態のレミィは知らないことだし、今頃大いに困惑しているんじゃないかしら」
オーソドックスといえばオーソドックスだが、仕方のない話だろう。
あの子の大きさは幻想郷はともかくとして、この紅魔館では間違いなく一、二を争うほどだ。適任としか言いようがない。
普段から扱いがぞんざいであるわけだし、あの子にも、これくらいの役得があっても良いだろう……などと完結しかけたところで、ふと、咲夜は気付いた。
今、パチュリー様はなんと仰った?
確か――
「パチュリー様」
「なに?」
「何故、美鈴が『被害者』なのでしょうか?」
そう。
確かに言った。
美鈴が、被害者であると。
お嬢様に抱きつかれ、しかもお嬢様が自分の胸で安らぎ状態になられるということは、あの時の一分よりも更なる可愛さ愛らしさをお見せになるだろう。想像するだけで鼻血が出て……ではない。
言ってみれば、そういう状況は役得以外の何者でもないのだ。咲夜だけに限らず、他の妖精メイド達もそう思うことであろう。
それなのに、何故?
そんな風に頭に『?』を浮かべている咲夜に、パチュリーはふいっと明後日の方向に遠い目しながら、ただ一つ答えた。
「今にわかるわよ」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
こ、困りましたね~……。
かれこれ、十分も経過したとなると、さすがに困惑状態から抜け出ている美鈴である。
ただ、お嬢様は未だに自分を解放してくれない。
ぎゅーっと抱きついてくるならともかく、こういう甘抱き(美鈴称)状態では、引き剥がすのも躊躇われる。何より、時折見せてくるお嬢様のラブリーモードなんて見ていると、一生このままでも良いのではなかろうかとさえ思える。
咲夜さんに見つかったら殺されるだけじゃ済まなさそうですけど……。
兎に角、この状況をどうにかしないといけないことは確かだ。
「あのー、お嬢様?」
「んぅ?」
声をかけたら、顔を向けてきて、この無垢なる視線が自分の心を激しく突き刺す。
たまらん。正直言ってたまらん。咲夜さんが直視していると間違いなく鼻から紅茶が出ただろう。お嬢様用の。
だが、美鈴は門番としての忍耐力でここはぐっと堪えて、
「そろそろ、離れていただけると助かるのですが……門番のお仕事とかも残っていることですし……」
「…………」
反応ナシ。
視線は固定されたまま。
つまるところ、拒否反応といったところか。
自分から離れたくないというその心意気は、それはそれで嬉しいのだが、だがやっぱり、状況がよろしくない。
美鈴はレミリアへの説得を続ける。
「お嬢様が私を想うそのお気持ちは充分に理解できました」
「…………」
「ここまで思われたのであらば、お嬢様のために、私はどこまでも付いていく所存です」
「…………」
「門番の仕事だって、これからも愚痴一つなくやっちゃいます。お嬢様がお望みならば、アリの子一匹たりとも通させやしません」
「…………」
「だから、私は――……って、お嬢様?」
さっきから、何一つ反応が返ってきてないのが気になって、ふと、美鈴はこちらを見上げるレミリアの顔を見返した。
さすがに疑問に思ってよくよく見てみると、その純粋無垢な瞳が……何かを、欲しがっているかのように見える。
欲しいものを言いたそうで、でも言えだせないという、もどかしさ。
正直、好奇心満載で、欲しいものは何でも手に入れようとするあのお嬢様からは全く想像できない話ではあるのだが、お嬢様に何らかの変調が見られている今となっては、その常識は捨ててしまった方が良いのだろう。
ここまで頭の中を落ちつけられているからこそ、一つ、美鈴は胸の中で、とある感情が湧いているのがわかった。
「…………」
お嬢様が変だ、というわけでもなく。
お嬢様がとても可愛い、というものでもなく。
ただただ、小さな子供を優しく抱き締めたくなるような、衝動。
言わば――母性本能というやつだろうか。
「お嬢様。もしかして……おっぱいが欲しいとか?」
「……!」
その湧き出た本能のままに言ってやると、レミリアはさっと顔を紅くして、ふいっと視線をはずした。
図星だったらしい。
でも、それも仕方がないかと思うと共に、どこか嬉しいという感情も生まれてくる。
母親というものは、こんな気持ちなのだろう。
美鈴自身、それなりに長く生きているためか、母に抱かれていた頃の思い出なんてもうほとんど憶えていないのだが……その頃の母が、どういう気持ちで自分のことを愛し、抱きしめてくれていたのかについては、何となく理解できたような気がした。
とても、心地よく、温かな気持ちだった。
「良いですよ。ちょっと待っててくださいね」
正直、母乳が出るかどうかわからないし、恥ずかくもあったが、お嬢様を望むものならば喜んで差し上げようと思う。
美鈴は衣服のボタンを外し、自分の胸元を片方だけ露にした。
レミリアは未だに躊躇いの表情を見せていたが、美鈴がもう一つ微笑んでやると、その迷いをなくしたようだ。子供のように自分の胸に飛びこんできて、そして、大きく口を開けた。
――って、大きく口を開けた?
がぶ
その行動に疑問が浮かんだ矢先、そんな、鈍く小さい音が聞こえてきた。
何だろう、と思って更に『?』が浮かびかけたのだが、ややあってそれはキャンセル。
「あだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!?」
自分の胸に襲って来る激痛に、美鈴は悲鳴を上げた。
何が起こったのかについては、もう既に把握している。
「いたたたたたたっ! お嬢様っ、全体的に噛んでる噛んでるって噛むトコ違いますっ!」
「ん~」
「いや、そんなゆるゆるな顔でも噛まれても、こっちかなり痛いんですけどっ!?」
「む~」
「あのーっ、聴いてます? お嬢様!?」
「ずずずずずず」
「わーっ、なんか吸ってる吸ってる!? もしかして血のほう吸ってるーっ!?」
「ずるずるずるずるずるずる」
「ヴァーーーーーーーーーーッ!?」
新月の夜、紅魔館の門前。
哀れな門番の悲鳴と、景気良く血を吸い上げる音が十数分ほど響いたのだが。
生憎、新月ということで静かに過ごしている紅魔館の人々に、それは聴こえていないようだった。
ただ一人、地下図書室の主は、
「これは暗に『巨乳死すべし』ってことなのかも知れないわね。何せ、レミィは五百年もあのまんまなことだし……」
と、本を読みながら、のほほんと呟いていたのは余談。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
翌日の夜。
暗がりの一室にて、レミリア・スカーレットはいつものように目を覚ました。
今は満月に最も遠い時期であるためか、起き抜けはどうにも力が入ってくれない。
ベッドの上でのろのろと身を起こして、グッと背伸びをすると、
「おはようございます、お嬢様」
これまたいつものように紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が傍らに控えていた。
「ああ、咲夜……おはよう」
レミリアは咲夜に軽く応え、寝惚け眼でベッドから下り、今宵の衣服を自分で選ぶべく、クロゼットに向かってふらふらと歩く。
力が全然入らないというわけでもないが、調子が悪いのは確かだ。起き抜けというのもあって、どうにも足取りがおぼつかない。
ぼふっ
と、何かに頭からぶつかると共に、ボーっとする視界がいきなり真っ暗になった。
はて、自分の前に障害物なんてものは何もなかったような気がするが……。
「大丈夫ですか、お嬢様」
「ん……なんだ、咲夜か」
どうやら、自分は咲夜の胸に頭から突っ込んでいるらしい。
今の今まで咲夜は目の前に居なかったことから、咲夜が自分の行く手に先回りしたというところか。
「どうしたの? いきなり」
「失礼ですが、まだ、お嬢様はお寝惚けになられていると思い、支えさせていただきました」
「確かに失礼ね。寝惚け半分だったって言うのは、咲夜だから認めてあげるけど。でも、もう大丈夫だから離して頂戴」
「…………」
と。
答えが返ってこないのと、自分の言うとおりにするべき動作がないのに、レミリアは怪訝に思う。
「咲夜?」
「……失礼いたします」
それどころか、いきなり、抱き締められた。
ぎゅっと強くではなく、きゅっと、優しく。
苦しいというわけでもなかったが、らしくない行動をしてきたのに、驚いたのは事実である。
「どうしたのよ、咲夜」
「すみません。昨夜、あのようなことがありましたので、何となく……」
「?」
昨夜……といえば、新月の一日目辺りか。言われてみると、何かあったような気がする。
どうにも記憶が曖昧かつブツ切りで、何となく憶えていることといえば……パチェが溜息交じりで、『しくしくしくしく……』とすすり泣く門番に何らかの治療をしていたことだろうか。
その場に、咲夜は居なかったようだが……。
「あー、何かあったといっても、私自身何があったか良く憶えてないし、とりあえずチャラにしておいて」
「……そうですか。ですがお嬢様、一つだけお聞かせください」
「なに?」
「今、こうされていることで、お嬢様はどのように感じられていますでしょうか」
こうされていること……といえば、今の状況のことを指すのだろうか。
咲夜に優しく抱き締められること。
普段なら、有り得ないことなのだろうが……そういう疑問とか抜きにして、ただ率直に、感想を言うならば。
「そうね。なんか、暖かな感じだわ」
「……お嬢様」
自分を抱く咲夜の腕に、力がわずかに篭った。
嬉しい、と感じただろうことが、レミリアにはすぐにわかった。
しょうがないな、と思いつつ、こちらも優しく抱き返してやった。常日頃から頑張る従者へのご褒美として、そしていろいろと尽くしてくれる咲夜への感謝として。
「これで咲夜が満足するって言うなら、しばらくこうしていなさい。でも、後の仕事はちゃんと頑張ってよね」
「はい、お嬢様。仰せのままにさせていただきます」
満月に最も遠い日であるだけに。
まだ、紅魔館には静かな夜が続きそうである。
― 了 ―
※なお、少々壊れ要素も交えられているためか、作中に頭の悪い部分が多少見受けられます。
以上をご了承の上、お楽しみを。
幻想郷の一角、深い霧の湖の畔に存在する紅色の洋館・紅魔館。
時たまやってくる紅い満月の夜、彼の館からは禍々しい妖気が溢れだし、その規模は幻想郷をも包むと言われているが。
その間逆、新月の今宵は、この洋館から目立った異常は一切発せられず、ただただ静かな時が流れている。
それもこれも、月の光が一筋も輝かない夜は、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの妖気が、最も縮小される日と言われるからだろうか。
幻想郷では屈指の妖力を誇る紅い悪魔にも、やはり不調な日は存在する。
今夜は、静かに過ごせそうだ。
月に一度、新月である日を迎えた時、紅魔館に住む人々の誰もがそう思う。
別に、騒がしいことが嫌いというわけではない。
我が主の無尽蔵なる好奇心、驚異的な行動力からなる騒動、押し付けられる無理難題は、彼女らにとっては日常の一部であるので、その日常が迎えられないことは、むしろ物寂しさすら感じるという。
ただ……たまには、こういう静かな日があってもいい。
それが、皆の共通認識である。
――しかし。
「むー……」
暗がりの一室で、紅い眼の少女は目を覚ます。
カーテン付きの窓から垣間見える外は、月の光が存在しない暗闇の景色だ。既に、夜は迎えられている。
薄赤色の寝間着に包まれた小柄な体躯を起こし、小さく欠伸と伸びを一つ。
そして、わずかな時間、寝惚けているかのように締まりの無い顔で、ボーっと暗がりの前方を見つめた後。
少女――レミリア・スカーレットは小さく呟いた。
「……なんだか、人肌恋しくなってきた」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
今日一日が終わろうとしていても、紅魔館のメイド長である十六夜咲夜には、休暇といったものが存在しない。
基本、紅魔館勤めの妖精メイドはそれといって役に立っていないのだ。指示通りに動いてはくれるが、それ以上のことは期待できない。
館内の掃除、無駄に豪華な料理の準備、大量の衣類の洗濯、人里への買い出し等、紅魔館での生活に必要である殆どの仕事を、メイド長である咲夜がこなしている。
これだけ働き通しならば、普通の者ならば過労で倒れてしまいそうなものなのだが。
咲夜自身、時間を操る程度の能力を有しているため、折をみて時を止めてこっそり休憩しているので、厳密に言えば働き通しというわけでもない。
今もそうであり、止まった時間の中で、十六夜咲夜は紅魔館の食堂でゆったりとくつろいでいた。
大人びた顔立ちの、長身の少女である。髪の毛は外ハネのセミロングにヘッドトレスを着用、揃いのメイド服姿は一分の隙もなく、だからといって雰囲気に硬質な印象もなく、むしろフランクな空気を醸し出す、完璧で瀟洒な従者だった。
「さて、そろそろお嬢様を起こしに行かなくては」
咲夜の休憩終了と共に、止まった時間は正常な流れを取り戻す。
食堂を出て長い廊下を歩きつつ窓の外を見ると、外はどっぷりと暗い。月明かりが見られない紺色の空は、今宵が新月であることを教えてくれた。
お嬢様が最も力を発揮できない夜であり、なおかつ普段の我儘や行動力が鳴りを潜める夜でもある。
でも、どんな夜であっても定刻通りに起こしに行くのは、咲夜とお嬢様にとっての暗黙の了解であり、咲夜の仕事の一つであり、一種の喜びでもある。
そんな喜びのままに、知らず知らず軽快な足取りでお嬢様の部屋へ向かっていたところ、
「あら……?」
廊下の向こう、正面から、小さな人影が歩いてくるのが見えた。
一瞬誰かわからなかったが、数秒もしないうちにきちんと認識できた。
手足の伸び切っていない小柄な体躯に、薄紅色のワンピースドレス。クセのある髪の毛と帽子、人形のように愛らしい顔立ちは、間違いない。
「お嬢様」
そう、紅魔館の主である、レミリア・スカーレットだ。
どうやら咲夜が起こしに行くまでもなく、お嬢様は自分で起きてしまわれたようである。少し驚いた。
時間的に、いつもの時間よりはまだ早いようなのだが……。
「むー……」
ともあれ、今のレミリアはどうも締まりのない顔をしている。
その気になれば幻想郷のあらゆるものを威圧させられる紅色の眼も、どこかとろんとしていて、焦点が合っていないようにも見える。
起きぬけだから、寝惚けているのだろうか?
「お嬢様、どうなされたのですか?」
「う? ……うー」
咲夜が歩み寄って呼びかけると、レミリアは自分に気付いたかのようにこちらを見て、
「さ~く~や~」
などと間延びした声と共に、おもむろにこちらに抱きついてきた。
「きゃっ……お、お嬢様?」
ぎゅーっと強くではなく、きゅっと優しく、甘えるかのように、レミリアはスリスリと咲夜の胸に頬をすり寄せる。
いきなりのことだったのでビックリしたし、心臓の鼓動が一気に跳ね上がりもする。自然と顔も赤くなってくるし、ドキドキもする。
完璧で瀟洒な紅魔館のメイド長は、ただこれだけのことで完璧も瀟洒もなくパニックに陥った。
「お、お嬢様、あの、その……」
「むー」
しどろもどろになっている咲夜に構わず、レミリアは子猫のようにスリスリと頬擦りを繰り返す。
これまたいろんな感じに轟くほど可愛らしくて、咲夜はすっかり骨抜きになりそうだったが。
――お嬢様はどうしてしまわれたのか?
頭の冷静な部分は、素直に思考に入っていた。
今宵が新月の夜だから、お嬢様はこんな風になっていると考えられるが、その線は考えられない。今までも新月の夜は幾度もあったし、お嬢様が調子を落とすようなことになっても、こんな風に甘えることは一度もなかったことだし……。
「むふぅ……」
「…………」
あの、お嬢様、今考え中ですのでそんな情緒溢れる声を出さないでください。
咲夜は頭を抱えたくなる。自分の中での考察とかお嬢様の可愛さとか、いろんな意味で。
というか、この状況はどうすればいいのだろうか?
これはなんというか、非常においしい……ではなく、他者に見られたらどういう状況に見られるだろうか?
いやはや、これは……。
「はふぅ……」
「――――」
ゴトリ
胸の中に居るレミリアの吐息を直に感じることで、咲夜の中で大きく何かが動く音がした。
すごく熱い何かが、咲夜の身体を存分に駆け巡る。
もはや、思考は上手く働かない。
……あれこれ考えるよりもここは一つ、お嬢様に応えることを先にしよう。うん、そうしよう。
こうやって、大きく両手を広げて、
「お嬢様、し、失礼致しま――」
「んー……なんかイマイチ」
と、レミリアが小さく呟いたのに、ハグで返そうとしていた咲夜はピシッと凍りついた。
なんかイマイチ。
――イマイチ。
――イチ。
耳の奥で、不服そうな……というか間違いなく不服とも言えたお嬢様の呟きがエコーする。
何がイマイチ? 私の包容力が? 私の胸が? それとも私全体が……?
と、咲夜の頭の中で思考の堂々巡りが始まろうとしたのだが、そこで、
「どうしたの、咲夜?」
「……?」
かけられた声に、ハッと咲夜が現実回帰した視界の先、小柄な少女が怪訝顔で佇んでいた。
二つに分けて結わえている薄紫色の長い髪に、薄桃色の帽子。帽子と同色のパジャマにも似たフリル付きの長袖ワンピース。幼い顔立ちと眠たげな視線。
紅魔館の地下図書室の管理人である少女、パチュリー・ノーレッジだ。
「あ……こ、これは、パチュリー様」
「間抜けなポーズしてるわね、咲夜。うずしおキングのマネ?」
「え……いや、これはどう説明したら良いのか……」
未だに両手を広げたポーズで凍り付いていた咲夜は、なんとなく顔を赤くしつつ佇まいを整える。
うずしおキングって何だろうか、と思ったのだが、詮索はやめておいた。多分、自分にはわからないネタなのだろう。
そんなことよりも、
「って、あら? お嬢様は何処に?」
ついさっき、咲夜に強烈(?)な一言を浴びせたレミリアがこの場に居ないことに、咲夜は軽く焦燥した。
まだそんなに時間は経っていないのに、一体、どこに行ってしまわれたのか……。
「レミィならあそこにいるわよ」
「え……」
と、パチュリーがのほほんと咲夜の後ろを指差す。
その指差しのままに振り返ると、向こうの廊下で、レミリアは通りがかった妖精メイド――言ってみれば咲夜の部下に、先程の咲夜と同じ要領で抱きついていた。
抱きつかれた妖精メイドは一瞬何が起こったのかわからず例外なく硬直し、それにも構わずレミリアは彼女のことを抱き続けるのだが……一分かそこらで、困惑する彼女の元を離れ、ふらふらとした足取りで廊下の角の向こうへと消えていく。
この様子に、咲夜は頭に『?』を浮かべた。
「……これは一体?」
「成程。時期的に言えば、そろそろかしら」
と、パチュリーがなにやら肩を竦めている。
思い当たる節があるらしい。
「何か知ってらっしゃるのですか、パチュリー様」
「ええ。そういえば咲夜はあの状態のレミィをまだ知らなかったわね」
「あの状態……とは一体、どういうことなのでしょうか」
咲夜自身、紅魔館に来て数年は経ってはいるけども、その時を持ってしてもなお、お嬢様の全てを知っているとは言えないらしい。
まあ、何十年も前からの旧知であると言われているパチュリーの方が、咲夜の何倍もお嬢様について詳しいのだろうけども。
やはり、今この時に於いても、知っておきたいと咲夜は思った。お嬢様のために、そして自分のために。
「そうね、教えてあげるわ。あのレミィはね……」
と、咲夜の問いに頷いたパチュリー・ノーレッジは、そのような切り出しから軽く説明を始めた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
紅美鈴は、紅魔館の門番という役職を預かっている。
その仕事といえば、門番であるからにはやはり侵入者の撃退であるのだが、
「はぁ……」
門前で立ち尽くしながら、美鈴は深々と溜め息をついていた。
緑と白が基調の中国衣装を纏った長身。赤色の長髪に、衣装と同じ緑の帽子。普段から鍛えられているのか細くしなやかな手足をしているが、局所では女性としてのふくよかなものを併せ持っている、そんな少女である。
ただ、今の美鈴は、さっきのため息の通り表情がどうにも冴えていない。ヘタレが入っているとも言う。
「ああ、もう! ホントに私もたまにはこんな門の前じゃなくて、どこかでノンビリと過ごしたいですよ、まったく……」
館内へと聞こえない程度の声量で、独りごちる。
何も24時間体制で門番をやっているわけでもないのだが、こうやって門番をしている時間の殆どが退屈というのも困り者である。攻め込まれるのも困るのだが。
といっても、幻想郷を包んだ紅い霧の事件にて、紅白の巫女や白黒の魔法使いが紅魔館に襲来し、中でお嬢様との弾幕ごっこが繰り広げられてからというものの、どうにも部外者に対して紅魔館はオープンになったような気がする。襲来した紅白の巫女、白黒の魔法使いを中心に。
要は、撃退していい者としなくてもいい者とが飽和状態になっているのだ。
これでは、殆ど門番としての機能は果たしていないのだろうか? などと、最近美鈴は思うようになった。
何より今宵は新月であることからお嬢様が大きな騒ぎを起こすわけでもなし、今夜は館内の皆も静かに過ごしていることだろう。
「……今日はもうサボっちゃおうかなぁ」
積もりに積もったストレスで一通り愚痴って発散した後、美鈴がポツリと呟いた、その矢先。
ギギギ、と。
紅魔館の門が内側から開いたのに、美鈴はわずかに目を見張り――
「あ……お、お嬢様!?」
門の向こうから出てきた小さな影に、美鈴は全身を強張らせた。
そう、出てきたのは、紅魔館の主ことレミリア・スカーレットである。
「……ん?」
いつもの好奇心とか悪戯心とかそういう活気は感じられず、今はどこかとろんとした視線でこちらを見てくるが、美鈴にとってはそれどころではない。
さっきのアレが聴こえてしまっていたとしたら、あの、圧倒的妖気による折檻は確実である。下手すると死ぬ。
「えーと、あ、いや、その、サボってないですよ?」
「…………」
「いつもお嬢様のために、精一杯門番をやらせてもらってます、サー!」
「…………」
「う、嘘じゃありません! 例え24時間でも全然平気ヘーキヘーキ、腐ってな~い、腐ってないッスよ。私の心を折らせたら相当なもんッス――」
きゅっ……
「……って、え?」
ほとんど意味不明になりつつあった美鈴の言を遮って、レミリア・スカーレットは、いきなり自分の身体にすがり付いていた。
無論、美鈴は何が起こっているのかを理解できず、その場で凍りつく。
一瞬、ベアバッグでもされるものかと思ったのだが、そうというわけでもなく、ただ、優しさも甘さも感じられる抱擁だ。美鈴はレミリアよりも頭一つ以上の長身であることから、ちょうど、美鈴の胸にレミリアの顔が埋まっているといった形だが……そんなことはどうでもいい。
「あ、あのー……お嬢様?」
「ふぅ……あっ……」
どこか情緒溢れるような声を出しつつ、しかし、レミリアはさらに自分を抱く腕の力を強めている。
あれ? これは一体どうなっているのかな? かな?
未だに困惑する美鈴を他所に、レミリアは胸に顔を埋めたままこちらのことを見てきた。
潤んだ紅の瞳、少し上気した頬、幼少の外見相応の愛らしいかんばせに、美鈴の目は釘付けにされる。
……その、何だ、これはものすごくヤバイ。
何がヤバイのかってわからないけど、とにかくヤバイ。
自分自身がどうにかなっちゃいそうでヤバイ。
「めいりん……」
「は、はい?」
あのー、なんか、名前なんて呼ばれちゃってますよ。普段は『中国』とか『門番』とかでしか呼んでこないのに、これは一体……!
などと目を回しながらも、美鈴はごくり、と唾を呑んで、お嬢様が次に何を言ってくるのかを待つ。
正直、今の状態がとことんまでに異常なので、ここまで来たら何を言われても驚かないかもしれないが。
「もうすこしだけ、このままで居させて……」
「――――!?」
結果として、驚いてしまった。というか、戦慄した。
なんと、あの我儘お嬢様が、この紅魔館に於いてはほとんど下っ端とも言える門番の自分に向かって、ハートフルな言葉で迫ってきている。
この事実、一体如何なるものか――!?
困惑を更に深くする美鈴を他所に、レミリアはそのまま美鈴の胸に顔を埋め続けている。
普段から、大いにふくよかと言われている自分の胸に。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「人肌恋しくなる?」
紅魔館の廊下を歩きつつ、先程の状態のレミリアについてパチュリーが提示した情報に、咲夜は小首を傾げた。
パチュリーは、いつもの眠そうな視線を窓の外へと向けつつも、『ええ、そうよ』と確信を持った返答をよこしてくる。
「五年、もしくは六年……それくらいの周期で、レミィは新月の夜にあんな感じで、紅魔館のメイド達に抱きつきまわっているの」
「はあ。なにか、原因とか原理とか、そういうものはあるのでしょうか」
「未だに不明よ。新月の夜はレミィの力が一番弱まる時といっても、あのような幼児退行現象はどうにも説明し辛いわ。まあ、あの子は外見がああだし性格も性格だから、お嬢様を良く知らない人にとっては、新月は新月でもテンションの様々があるとしか思われないでしょうけどね」
「…………」
「ただ、あの状態のレミィにも、いくつか行動パターンが定まっているみたいよ」
「行動パターン。……あの、メイド達に抱きつくということの他にも、まだ何かあるのですか?」
「ええ」
神妙な様子で頷くパチュリー。
微妙に悔しそうにも感じられるし、それでいてホッとしているようにも感じられる。比率で言えば前者が三割、後者が七割といったところか。複雑なバランスだ。
「ほぼ無作為に抱きついているレミィだけどね。抱きつく対象の人が、ある一定の条件を満たしていると、レミィはその人にずっと抱きついたままになるの」
「ずっと抱きついたまま……」
な、なんという美味しい役目――ではない。
真面目にやらなければ。
「では、その条件とは?」
「……胸よ」
「はい?」
「抱きついた人の胸が大きかったら、その柔らかさと包容力が功を成して、レミィを和ませることができるの」
「……………………」
ゑ~~~~~~~~……
あまりにも理不尽な答えに、咲夜は呆けてしまった。
……そういえば、自分に抱きついてきたとき、お嬢様は『イマイチ』という感想を漏らしておられた。
つまるところ、『イマイチ』の意味は、その、なんだ、そういうことなのだろう。
確かに、自分はイマイチである。形はともかく、大きさは。
だが、自覚しているとはいえ、これはあんまりなのではなかろうか。
イマイチだからって、イマイチだからって、そんな……。
「落ち込まないで咲夜。例えイマイチでも悪いことばっかりじゃないでしょ」
「……パチュリー様はもっとイマイチじゃないですか」
「わたしのことは別に良いのよ、わたしのことは」
とか何とか言いつつも、やはり、パチュリーも微妙に悔しそうである。
声が少し怒っているのがその証拠だった。
……突っ込むのはやめておこう。惨めになるだけだ。
「兎に角、胸の大きい人に抱きつけば、お嬢様は元の状態に?」
「抱きついてすぐってわけでもないけどね。翌朝には、普段のレミィに戻ってるはずよ」
「そうですか……」
まあ、五、六年に一度のスパンであることだし、珍しいことと片付けてしまえば悔しくは……ないというのも微妙だが、ない。うん、ない。それに五、六年もすれば、メイド長の年季と貫禄というやつで自分のも大きくなっていることだろう。希望的観測だが、そう信じたい。
思考にできるだけポジティブを取り戻しつつ、咲夜は感慨深く呟く。
「……今頃、お嬢様は誰をお抱きになっているのでしょうか」
「なんか誤解受けるような言い回しは無視しておいて……妥当に行くと、今回の被害者は美鈴でしょうね。あの子もあの状態のレミィは知らないことだし、今頃大いに困惑しているんじゃないかしら」
オーソドックスといえばオーソドックスだが、仕方のない話だろう。
あの子の大きさは幻想郷はともかくとして、この紅魔館では間違いなく一、二を争うほどだ。適任としか言いようがない。
普段から扱いがぞんざいであるわけだし、あの子にも、これくらいの役得があっても良いだろう……などと完結しかけたところで、ふと、咲夜は気付いた。
今、パチュリー様はなんと仰った?
確か――
「パチュリー様」
「なに?」
「何故、美鈴が『被害者』なのでしょうか?」
そう。
確かに言った。
美鈴が、被害者であると。
お嬢様に抱きつかれ、しかもお嬢様が自分の胸で安らぎ状態になられるということは、あの時の一分よりも更なる可愛さ愛らしさをお見せになるだろう。想像するだけで鼻血が出て……ではない。
言ってみれば、そういう状況は役得以外の何者でもないのだ。咲夜だけに限らず、他の妖精メイド達もそう思うことであろう。
それなのに、何故?
そんな風に頭に『?』を浮かべている咲夜に、パチュリーはふいっと明後日の方向に遠い目しながら、ただ一つ答えた。
「今にわかるわよ」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
こ、困りましたね~……。
かれこれ、十分も経過したとなると、さすがに困惑状態から抜け出ている美鈴である。
ただ、お嬢様は未だに自分を解放してくれない。
ぎゅーっと抱きついてくるならともかく、こういう甘抱き(美鈴称)状態では、引き剥がすのも躊躇われる。何より、時折見せてくるお嬢様のラブリーモードなんて見ていると、一生このままでも良いのではなかろうかとさえ思える。
咲夜さんに見つかったら殺されるだけじゃ済まなさそうですけど……。
兎に角、この状況をどうにかしないといけないことは確かだ。
「あのー、お嬢様?」
「んぅ?」
声をかけたら、顔を向けてきて、この無垢なる視線が自分の心を激しく突き刺す。
たまらん。正直言ってたまらん。咲夜さんが直視していると間違いなく鼻から紅茶が出ただろう。お嬢様用の。
だが、美鈴は門番としての忍耐力でここはぐっと堪えて、
「そろそろ、離れていただけると助かるのですが……門番のお仕事とかも残っていることですし……」
「…………」
反応ナシ。
視線は固定されたまま。
つまるところ、拒否反応といったところか。
自分から離れたくないというその心意気は、それはそれで嬉しいのだが、だがやっぱり、状況がよろしくない。
美鈴はレミリアへの説得を続ける。
「お嬢様が私を想うそのお気持ちは充分に理解できました」
「…………」
「ここまで思われたのであらば、お嬢様のために、私はどこまでも付いていく所存です」
「…………」
「門番の仕事だって、これからも愚痴一つなくやっちゃいます。お嬢様がお望みならば、アリの子一匹たりとも通させやしません」
「…………」
「だから、私は――……って、お嬢様?」
さっきから、何一つ反応が返ってきてないのが気になって、ふと、美鈴はこちらを見上げるレミリアの顔を見返した。
さすがに疑問に思ってよくよく見てみると、その純粋無垢な瞳が……何かを、欲しがっているかのように見える。
欲しいものを言いたそうで、でも言えだせないという、もどかしさ。
正直、好奇心満載で、欲しいものは何でも手に入れようとするあのお嬢様からは全く想像できない話ではあるのだが、お嬢様に何らかの変調が見られている今となっては、その常識は捨ててしまった方が良いのだろう。
ここまで頭の中を落ちつけられているからこそ、一つ、美鈴は胸の中で、とある感情が湧いているのがわかった。
「…………」
お嬢様が変だ、というわけでもなく。
お嬢様がとても可愛い、というものでもなく。
ただただ、小さな子供を優しく抱き締めたくなるような、衝動。
言わば――母性本能というやつだろうか。
「お嬢様。もしかして……おっぱいが欲しいとか?」
「……!」
その湧き出た本能のままに言ってやると、レミリアはさっと顔を紅くして、ふいっと視線をはずした。
図星だったらしい。
でも、それも仕方がないかと思うと共に、どこか嬉しいという感情も生まれてくる。
母親というものは、こんな気持ちなのだろう。
美鈴自身、それなりに長く生きているためか、母に抱かれていた頃の思い出なんてもうほとんど憶えていないのだが……その頃の母が、どういう気持ちで自分のことを愛し、抱きしめてくれていたのかについては、何となく理解できたような気がした。
とても、心地よく、温かな気持ちだった。
「良いですよ。ちょっと待っててくださいね」
正直、母乳が出るかどうかわからないし、恥ずかくもあったが、お嬢様を望むものならば喜んで差し上げようと思う。
美鈴は衣服のボタンを外し、自分の胸元を片方だけ露にした。
レミリアは未だに躊躇いの表情を見せていたが、美鈴がもう一つ微笑んでやると、その迷いをなくしたようだ。子供のように自分の胸に飛びこんできて、そして、大きく口を開けた。
――って、大きく口を開けた?
がぶ
その行動に疑問が浮かんだ矢先、そんな、鈍く小さい音が聞こえてきた。
何だろう、と思って更に『?』が浮かびかけたのだが、ややあってそれはキャンセル。
「あだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!?」
自分の胸に襲って来る激痛に、美鈴は悲鳴を上げた。
何が起こったのかについては、もう既に把握している。
「いたたたたたたっ! お嬢様っ、全体的に噛んでる噛んでるって噛むトコ違いますっ!」
「ん~」
「いや、そんなゆるゆるな顔でも噛まれても、こっちかなり痛いんですけどっ!?」
「む~」
「あのーっ、聴いてます? お嬢様!?」
「ずずずずずず」
「わーっ、なんか吸ってる吸ってる!? もしかして血のほう吸ってるーっ!?」
「ずるずるずるずるずるずる」
「ヴァーーーーーーーーーーッ!?」
新月の夜、紅魔館の門前。
哀れな門番の悲鳴と、景気良く血を吸い上げる音が十数分ほど響いたのだが。
生憎、新月ということで静かに過ごしている紅魔館の人々に、それは聴こえていないようだった。
ただ一人、地下図書室の主は、
「これは暗に『巨乳死すべし』ってことなのかも知れないわね。何せ、レミィは五百年もあのまんまなことだし……」
と、本を読みながら、のほほんと呟いていたのは余談。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
翌日の夜。
暗がりの一室にて、レミリア・スカーレットはいつものように目を覚ました。
今は満月に最も遠い時期であるためか、起き抜けはどうにも力が入ってくれない。
ベッドの上でのろのろと身を起こして、グッと背伸びをすると、
「おはようございます、お嬢様」
これまたいつものように紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が傍らに控えていた。
「ああ、咲夜……おはよう」
レミリアは咲夜に軽く応え、寝惚け眼でベッドから下り、今宵の衣服を自分で選ぶべく、クロゼットに向かってふらふらと歩く。
力が全然入らないというわけでもないが、調子が悪いのは確かだ。起き抜けというのもあって、どうにも足取りがおぼつかない。
ぼふっ
と、何かに頭からぶつかると共に、ボーっとする視界がいきなり真っ暗になった。
はて、自分の前に障害物なんてものは何もなかったような気がするが……。
「大丈夫ですか、お嬢様」
「ん……なんだ、咲夜か」
どうやら、自分は咲夜の胸に頭から突っ込んでいるらしい。
今の今まで咲夜は目の前に居なかったことから、咲夜が自分の行く手に先回りしたというところか。
「どうしたの? いきなり」
「失礼ですが、まだ、お嬢様はお寝惚けになられていると思い、支えさせていただきました」
「確かに失礼ね。寝惚け半分だったって言うのは、咲夜だから認めてあげるけど。でも、もう大丈夫だから離して頂戴」
「…………」
と。
答えが返ってこないのと、自分の言うとおりにするべき動作がないのに、レミリアは怪訝に思う。
「咲夜?」
「……失礼いたします」
それどころか、いきなり、抱き締められた。
ぎゅっと強くではなく、きゅっと、優しく。
苦しいというわけでもなかったが、らしくない行動をしてきたのに、驚いたのは事実である。
「どうしたのよ、咲夜」
「すみません。昨夜、あのようなことがありましたので、何となく……」
「?」
昨夜……といえば、新月の一日目辺りか。言われてみると、何かあったような気がする。
どうにも記憶が曖昧かつブツ切りで、何となく憶えていることといえば……パチェが溜息交じりで、『しくしくしくしく……』とすすり泣く門番に何らかの治療をしていたことだろうか。
その場に、咲夜は居なかったようだが……。
「あー、何かあったといっても、私自身何があったか良く憶えてないし、とりあえずチャラにしておいて」
「……そうですか。ですがお嬢様、一つだけお聞かせください」
「なに?」
「今、こうされていることで、お嬢様はどのように感じられていますでしょうか」
こうされていること……といえば、今の状況のことを指すのだろうか。
咲夜に優しく抱き締められること。
普段なら、有り得ないことなのだろうが……そういう疑問とか抜きにして、ただ率直に、感想を言うならば。
「そうね。なんか、暖かな感じだわ」
「……お嬢様」
自分を抱く咲夜の腕に、力がわずかに篭った。
嬉しい、と感じただろうことが、レミリアにはすぐにわかった。
しょうがないな、と思いつつ、こちらも優しく抱き返してやった。常日頃から頑張る従者へのご褒美として、そしていろいろと尽くしてくれる咲夜への感謝として。
「これで咲夜が満足するって言うなら、しばらくこうしていなさい。でも、後の仕事はちゃんと頑張ってよね」
「はい、お嬢様。仰せのままにさせていただきます」
満月に最も遠い日であるだけに。
まだ、紅魔館には静かな夜が続きそうである。
― 了 ―
吹いたw
お嬢様の愛らしさには鼻血もぶっとぶ勢いでございました。
全体的にテンポ良く読めました